付録1 最適構造設計の定式化と応用例 3.1 FEM(finite element method)と感度解析(sensitivity analysis) 図3.1に示すはりの静的問題を例に、有限要素法(FEM)をベースにした感度解析 の手法を考えてみよう。いま、はりの断面積を設計変数として、i 番目の断面積をxi とす る。FEM の基礎式は次式で与えられる。 P xi 図3.1 はりの静的問題 K ( x )u ( x ) = P (3-1) ここで、K : 剛性行列(剛体成分を除去して対称正則な行列とする),u : 節点変位ベク トル, P : 外力ベクトル,x : 設計変数ベクトルである。設計変数であるはりの断面積が 変化すると,剛性行列および変位が変化することになる。 (3-1)式の両辺をxi で微分すると, ∂K ∂u u+K =0 ∂x i ∂x i より ∂u ∂K = − K −1 u ∂x i ∂x i (3-2) ある設計変数ベクトルに対し,(3-1)式より変位が求まり,(3-2)式より設計変数に対す る変位の導関数(感度)を計算することができる。(3-2)式の計算では(3-1)式で求めた K −1 の情報(ガウスの消去法等)を用いることにより,小さな計算で済ますことができ る。また, ∂K ∂xi の計算は,直接に計算してもよいし,あるいは差分で近似すること もできる。 次に,応力の感度を求める。変位が計算できたとき,応力は次式より求まる。 σ ( x ) = D ( x ) B ( x )u ( x ) (3-3) ここで,D : 応力∼ひずみ行列,B : ひずみ∼節点変位行列である。(3-3)式の両辺をxi で微分すると, ∂B ∂u ∂σ ∂D Bu + D u + DB = ∂xi ∂xi ∂x i ∂xi (3-4) となり,容易に計算することができる。このようにして,図3.1のはりの例では,変 位感度は(3-2)式で,応力感度は(3-4)式で与えられる。 次に固有値問題の感度解析を示す。自由振動あるいは座屈等の固有値問題の基礎式は 次式で示される。 K ( x)φi ( x) = λi ( x) M ( x)φi ( x) (3-5) ここで,M : 質量行列(振動の場合),幾何剛性行列(座屈の場合), λ i : i 番目の固有 値(振動では固有角振動数の二乗,座屈では i=1 が荷重荷重を表す),φi : 対応する固 有ベクトル(固有モード)である。いま,K,M は正値対称で固有値は重複していない ものとする。 (3-5)式において相異なる固有ベクトルは,次式のように M に関して直交する。 φ j T Mφ i = 0 ( i ≠ j ) (3-6) Q K φi = λ i Mφ iの両辺に左からφ j を掛けると φ j T Kφi = λ iφ j T Mφi ( a) T T Kφ j = λ j Mφ j の両辺に左からφ iを掛けると φi Kφ j = λ j φi Mφ j T T 両辺の転置を取りK , Mの対称性を用いると φ j Kφ i = λ j φ j Mφ i (b ) T T ( a ) ( b ) より (λ i − λ j )φ j Mφi = 0, λ i ≠ λ jより φ M φ 0 − = j i また,固有ベクトルは次のように正規化しておくことにする。 φ i T Mφ i = 1 (3-7) φ j T Kφi = λ i φ j T Mφ i = λi δ ij (3-8) このとき, 固有値の感度は次式で与えられる。 ∂λ j ∂K ∂M = φ jT −λj φ j x x ∂xi ∂ ∂ i i (3-9) ∂λ j ∂φ j ∂ ∂K ∂M Q Mφ j + ( K − λ j M ) ( Kφ j − λ j Mφ j ) = 0より ( )φ j − −λj =0 ∂xi ∂x i ∂xi ∂x i ∂x i T T T 左からφ j を掛けて,φ j Mφ j = 1, φ j ( K − λ j M ) = 0を用いると(3 − 9)式が得ら れる 以上に示すように,(3-5)式の固有値問題を計算したとき,極めて小さな計算により (3-9)式の固有値感度を求めることができる。また,固有ベクトルの感度を求める方法と して,いくつかの方法が提案されており,効率的な解法として Nelson の方法(AIAA J., 14, 1976, p.1201-1205)がある。また,動的応答に対する感度解析としては,山川著「最 適化デザイン」第4章を参照されたい。 3.2 寸法最適化問題 図 3.1 のはりの最適化問題は次のように定式化できる。 n [目的関数] F ( x ) = ∑ ρ i l i xi i =1 [制約条件] g 2 j −1 = σj σ al − 1 ≤ 0, g 2 j = − σj σ al − 1 ≤ 0 ( j = 1,2, L n) (3-10) g 2 n+1 = δ δ − 1 ≤ 0 al [設計変数] x = ( x1 , x 2 , L xn ) T ここで, ρ i , li , xi は i 番目要素の密度,長さ,断面積で目的関数ははりの重量,設計 変数は各要素の断面積を示す。また,制約条件は,各要素における最大および最小応力 が許容範囲内にある条件,および,荷重点下のたわみが許容値内にある条件を示す。 解析方法として FEM,最適化手法として1階の導関数まで用いる傾斜法を用いる場 合を取り上げる。このとき,次式で示す目的関数と制約条件の感度が必要となる。 ∂F = ρ i li , ∂xi ∂g 2 j −1 ∂xi = 1 ∂σ j ∂g 2n +1 1 ∂δ = , ∂xi σ al ∂xi δ al ∂x i 応力や変位の感度は3.1節で示す方法により計算できる。最適化のアルゴリズムは, 次のようになる。 (1) x = x0 での初期FEMを実行, F ( x0 ), g j ( x0 ) の計算を行う。 (2) 感度解析の実行, ∇F ( x), ∇g j ( x ) の計算を行う。 (3) 一次元探索の実行 (一次元探索の各x点で F ( x ), g j ( x) が必要となるが,各点で FEM を実行すると 計算量が非常に大きくなる。そこで, F ( x ), g j ( x) を F ( x0 ), g j ( x0 ) および ∇F ( x0 ), ∇g j ( x0 ) の情報を用いて近似する方法が用いられることが多い。) (4) FEM計算を行い収束判定。収束条件を満たせば終了,満たさなければ,(2)へ戻 る。 上記のアルゴリズムを用いて,はりの最小重量設計問題は容易に最適解を得ること ができる。より複雑で大きな FEM を伴う構造最適化問題では,計算効率の向上を図 るため,種々の効率的アルゴリズムが用いられる(たとえば近似法等,詳細について は3.4節を参照)。 3.3 形状・トポロジー最適化問題 現在活発に研究が行われている分野であり,次の文献を参照されたい。 形状最適化:J. A. Bennette and M. E. Botkin (ed.): The Optimum Shape, Automated Structural Design, Plenum Press, London (1986) Y. Ding, Computer and Structures, 24 (1986), 985-1004. トポロジー最適化:B. Hassani and E. Hinton: Homogenization and Structural Topology Optimization, Theory, Practice and Software, Springer, London (1999) 3.4 最適構造設計の現状と将来展望 別紙,解説を参照されたい。
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