メンブレンフィルターの種類が 農薬の測定に与える影響

メンブレンフィルターの種類が
農薬の測定に与える影響
沖縄県衛生環境研究所
井上 豪
H23年度 廃棄物資源循環学会発表会での発表内容より
比較試験を行ったメンブレンフィルター
材質
孔径(µm)
膜厚(µm)
透水量(mL/min/cm 2 ) ※ 3
A社
F
セルロース混合エステル
0.45
145
45
C社
G
PVDF
0.45
125
29
H
PTFE
0.45
65
15
※3 Fは25℃、-0.069MPaの条件下、G、Hは20℃68.94kPaの条件で透水試験を行っている
有機リン系農薬等を含む水試料をろ過した際の回収率(メンブレンフィルター)
F
G
H
(n=3)
(n =3)
(n=3)
メチルジメトン
123%
94 %
94%
シマジン
111%
10 2%
102%
メチルパラチオン
57%
97 %
95%
チオベンカルブ
41%
93 %
87%
パラチオン
33%
98 %
94%
EPN
12%
64 %
80%
セルロース混合エステルメンブレンフィルター
F
F
エタノール抽出液
ろ液
メチルジメトン
7%
123%
シマジン
2%
111%
メチルパラチオン
92%
57%
チオベンカルブ
85%
41%
パラチオン
103%
33%
EPN
108%
12%
合計
130%
113%
149%
126%
136%
120%
2社からサンプルの提供を受け、それぞれ農薬の吸着に関するテストを行った
Advantec東洋 A Type
C Type
E Type
H Type
材質
セルロース混
合エステル
セルロースア
セテート
ポリエーテル
スルホン
PTFE
孔径(µm)
1.0
1.0
1.0
1.0
メルクミリポア
JAWP
JHWP
HVLP
HPWP
材質
PTFE
PTFE
PVDF
ポリエーテル
スルホン
孔径(µm)
1.0
0.45
0.45
0.45
※孔径がまちまちだが、素材の影響を見るためなので、今回の試験では特に問題は無いと考える
チウラムは1µg/Lの水溶液を作成、ろ過後に固相で500倍濃縮し、HPLC(PDA)で測定
その他の農薬は10µg/Lの水溶液を作成、ろ過後に固相で100倍濃縮し、GC/MSで測定
120.0%
100.0%
80.0%
TypeA
TypeC
TypeE
TypeH
60.0%
40.0%
20.0%
0.0%
チウラム
メチルジメトン
シマジン
メチルパラチオン
ベンチオカーブ
パラチオン
EPN
PTFE製のもの以外は
EPNの吸着量が多い
140.0%
120.0%
100.0%
JAWP
JHWP
HVLP
HPWP
80.0%
60.0%
40.0%
20.0%
0.0%
チウラム
メチルジメトン
シマジン
メチルパラチオン
ベンチオカーブ
パラチオン
EPN
有機リン系農薬の測定ではPTFE製のメンブレンフィルター以外は吸着があるが
PTFE製のメンブレンフィルターはろ過速度に難がある
解決策 案
その1
ガラス繊維濾紙でろ過を行った後に、PTFE製のメンブレンフィルターでろ過を行う
もしくは一晩冷蔵庫で静置して上澄みのみをろ過する
長所 手間が増えるが、すぐに対応可能
短所 検液の性状によってはほとんど意味がないことがある、一晩冷蔵庫におく事
で性状に変化があるおそれがあるため、検証する必要がある
その2
有機リン系農薬、特にEPNについては回収率が悪くなるため、重水素置換体など
サロゲートを用いて、測定後に補正を行う
長所 ろ過速度が速いPES製のフィルターを用いることができる
短所 重水素置換体などのサロゲートは非常に高価、測定法もGC/MSに限られる
その3
ろ過せずに、遠心分離のみを行い、その上澄み液がHS-SPME法などの測定で測定
可能かどうか検証し、問題が無いようであれば、公定法にその方法を追加する
長所 ろ過自体が必要ないので、ろ過による影響を排除できる
短所 新たな分析法なので、多くの検証が必要。新たな機器の整備も必要。
また、遠心分離で除去できなかった懸濁物質に吸着している農薬がある場合、
加熱によって脱離し、測定する可能性がある。
イオンクロマトグラフを用いる
有機塩素化合物測定法の改良
沖縄県衛生環境研究所
○井上豪、塩川敦司、玉城不二美
有機塩素化合物測定法
「産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法(昭和48年環境庁告示第13号)」
別表第五に定められる方法、有機塩素系農薬や塩素系溶剤の汚染度合いを示す
今年2月に行われた改正の中で底質調査方法で規定される
イオンクロマトグラフを用いる方法の採用は見送られた
操作の中で用いる硝酸によって、大幅な希釈が必要
定量下限値が基準値を上回る可能性があるため不採用
現行の別表第五で示す有機塩素化合物測定法は水銀含有試薬を用いるほか、
高濃度域で回収率があまり良くないと言う報告がある
汚泥
設定値
(mg/kg)
別表第五
測定結果(mg/kg)
イオンクロマトグラフ
測定結果(mg/kg)
条件3 4
4.2
4.9 (定量範囲外参考値)
条件5 20
18.9
23.8 (定量範囲外参考値)
条件7 80
67.2 (84.0%)
79.5 (99.4%)
条件9 400
335.0 (83.8%)
401.3 (100.3%)
平成22年度産業廃棄物の検定方法等検討事業報告書
(一般社団法人廃棄物資源循環学会)より抜粋
底質調査方法・告示
号 共通操作
13
共栓付
三角フラスコ
試料 25g
ヘキサン 50 mL
振とう
遠心分離
分液ロート
200 mL
ヘキサン層
残渣
ヘキサン 50 mL
振とう
遠心分離
ヘキサン層
水 10 mL
振とう洗浄
共栓付
三角フラスコ
ヘキサン層
全量フラスコ
100 mL
脱水・定溶
ヘキサン抽出液
残渣
底質調査方法・告示
分液ロート
100 mL
ヘキサン抽出液 10~50 mL
ソジウムビフェニル 10 mL
放置 室温5分
水 20 mL
振り混ぜ
号 共通操作
13
振り混ぜ
5 mol/L 硝酸 (底質調査方法では硝酸(5+8))
10 mL
水層
ヘキサン層
分液ロート
100 mL
ヘキサン 20 mL
振り混ぜ
静置
振り混ぜ
ヘキサン層
静置
振り混ぜ
水層
水層
全量フラスコ
50 mL
定溶(水抽出液)
静置
ヘキサン層
ヘキサン層
底質調査方法
基準値が無いので、
どれだけ希釈しても特に問題は無い
→水銀試薬を用いない
イオンクロマトグラフ法を採用
水抽出液
10 mL
告示13号
基準値があり、大量の希釈ができないため
イオンクロマトグラフ法の採用が見送られた
水抽出液
分取
20 mL
硫酸アンモニウム鉄(III)溶液 2 mL
分取
振り混ぜ
110~140 ℃
加熱
チオシアン酸第二水銀エタノール溶液 2 mL
放冷
定溶
10 mL
25 mL
定溶
振り混ぜ
中和・希釈
イオンクロマトグラフ測定
放置
10分
吸光度測定
460 nm
このほか発色試薬無しの吸光度
ブランク試験の吸光度(試薬有・無)
計4つの吸光度を測定し、計算で
正味の吸光度を求める
底質調査方法と告示第13号との比較
底質調査方法
有機塩素化合物測定法
告示第13号
有機塩素化合物測定法
基準値
無し
有り
測定方法
イオンクロマトグラフ
吸光光度法
長所
水銀含有廃液が発生しない
検出・定量下限値が低い
短所
検出・定量下限値が高い
水銀含有廃液が発生
イオンクロマトグラフ法を改良することで
定量下限値を低くできないか
イオンクロマトグラフを用いる場合における問題点
サンプルのpHが低い・塩濃度が高い
カラム耐用pH範囲はpH 3~12、2~11、0~14など様々なものがあるが
強酸・強アルカリはサプレッサや検出器にダメージを与えるおそれ
5 mol/L 硝酸10 mL → 50 mLに定容
仮に半分量が中和で消費されたとしても 0.5 mol/L程度の硝酸が残留
0.5 mol/L 硝酸のpHは約0.3
純水による500倍希釈でようやくpH3
アルカリ性の緩衝液で希釈し、希釈倍率を抑えたとしても大量の陰イオンが存在
大量の陰イオンが存在すると、カラムの保持能力を超える可能性がある
→結局は大幅な希釈が必要
リン酸や硫酸など他の酸で中和しても硝酸と同様、陰イオンの除去は難しい
炭酸は過剰量を用いても絶対に強酸にはならない
&CO2サプレッサで除去可能
↓
炭酸を用いて中和することとした
炭酸による中和
炭酸ボンベでも可能だが、検体数が多い場合、中和が律速となってしまう
↓
ドライアイスであれば並行処理が可能となる・クロスコンタミのおそれも少ない
ドライアイスを用いた中和を検討
スキーブ形分液漏斗
pH 13.5 NaOH水溶液 (1 mol/L NaOH 10mL + 水 20mL)
約5 gのドライアイスでは pH 9.4 ~ 9.5 まで低下させることが可能
約10 gのドライアイスでは pH 7.2 ~ 7.4 まで低下させることが可能
10gのドライアイスを用いて中和を行うこととした
分液ロート
100 mL
PCP溶液 40 mg/L ヘキサン溶液 50 mL
ソジウムビフェニル 10 mL
放置 室温5分
水 20 mL
振り混ぜ
炭酸による中和
ペンタクロロフェノール(PCP)
(塩素の占める重量%は約66.6%)
振り混ぜ
水層
ヘキサン層
ヘキサン 20 mL
振り混ぜ
静置
分液ロート
100 mL
水10 mL
振り混ぜ
ヘキサン層
静置
振り混ぜ
水層
水層
ヘキサン層
静置
(公定法による測定の結果は13.7 mg/L)
PCP 20 mg/L相当量
(Cl- 13.3 mg/L)
100 mLに定溶 (水抽出液)
溶媒除去後
イオンクロマトグラフにて測定
分液ロート
100 mL
エンドリン溶液 4 mg/L ヘキサン溶液 50mL
ソジウムビフェニル 10 mL
放置 室温5分
水 20 mL
振り混ぜ
炭酸による中和
エンドリン
(塩素の占める重量%は約55.8%)
振り混ぜ
水層
ヘキサン層
ヘキサン 20 mL
振り混ぜ
静置
分液ロート
100 mL
水10 mL
振り混ぜ
ヘキサン層
静置
振り混ぜ
水層
水層
ヘキサン層
静置
(公定法による測定の結果は1.18 mg/L)
エンドリン 2 mg/L相当量
(Cl- 1.12 mg/L)
100 mLに定溶 (水抽出液)
溶媒除去後
イオンクロマトグラフにて測定
イオンクロマトグラフによる測定
測定条件
装置
サプレッサ
CO2サプレッサ
溶離液
流量
注入量
カラム
CL 56.652
メトローム Compact IC-861
有り
有り
1.8 mM Na2CO3 1.7 mM NaHCO3
1.0 mL/Min
20 µL
SHODEX SI-50 4E 250 ×4 mm 40℃
uS /cm
70
Cl
65
60
55
50
45
40
35
30
NO3
25
SO4
5
20
7
15
10
0 Con d
0
2
NO2
F
1
5
4
6
3
8
10
PO4
Br
4
12
6
14
16
18
20
22
24
26
28
30
32
34
36
m in
C L 1.303
uS /c m
2.3
2.2
10倍希釈したPCP処理液
(PCP 2 mg/L相当=1.33 mg-Cl/L)
2.1
2.0
1.9
1.8
1.7
塩化物イオン 1.30 mg/L (回収率 97.9%)
1.6
1.5
1.4
4
1.3
1
1.2
23
7
6
9
8
10
1.1 Con d
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
22
24
26
28
30
32
34
36
m in
C L 6.098
0
uS /c m
4.0
3.8
2倍希釈したPCP処理液
(PCP 10 mg/L相当=6.65 mg-Cl/L)
3.6
3.4
3.2
3.0
2.8
2.6
塩化物イオン 6.09 mg/L (回収率 91.6%)
2.4
2.2
2.0
3
1.8
1.6
1
6
2
1.4
5
1.2
Con d
0
2
4
6
8
10
12
7
14
16
18
20
8
22
24
26
28
30
9
10
32
34
11
36
m in
10倍希釈したエンドリン処理液
(エンドリン0.2 mg/L相当=0.112 mg-Cl/L)
uS/cm
1.38
1.36
4
1.34
1.32
1.30
1
1.28
塩化物イオン 0.110 mg/L (回収率 98.2%)
1.26
1.24
CL 0.110
2
1.22
3
1.20
1.18
8
1.16
5
1.14
9
12
11
10
7
Cond
1.12
1.10
1.08
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
22
24
26
28
30
32
34
36
min
実際のサンプルへの適用
クロルデン類を含むサンプル(約10.8 mg/kg-wet)を使用し
以下のとおりの操作を行った
試料
はかり取り
振り混ぜ
25 g 共栓付三角フラスコ 200 mL
炭酸による中和
ヘキサン 50 mL
振とう
軽く振り混ぜ
5分間
3000×g
10分間
遠心分離
水層
ヘキサン層
分液ロート 100 mL
残渣
振り混ぜ
振とう
5分間
静置
静置
3000×g
10分間
遠心分離
合わせる
ヘキサン層
水層
ヘキサン層
水層
ヘキサン層
残渣
廃棄
廃棄
水 10 mL
振とう洗浄
合わせる
水層
ヘキサン層
廃棄
共栓付三角フラスコ 100 mL
水層
ヘキサン層
廃棄
定溶
脱水
硫酸ナトリウム(無水)
定溶
全量フラスコ 100 mL n-hexane
全量フラスコ 50 mL 水
水抽出液
ヘキサン抽出液
分取
10 mL ビーカー 100 mL
分取
加熱
ホットプレート100 ℃~140 ℃
10~50 mL 分液ロート 100 mL
ソジウムビフェニル有機溶媒溶液
※
放冷
室温
炭酸による中和
放置
水 20 mL
(公定法による測定の結果は1.63 mg/L)
振り混ぜ
3~5回
静置
移し替え
10.8 mg/kg-wet
サンプル処理液は
クロルデン類 2.7 mg/L相当
=1.86 mg-Cl/L
分液ロート 100 mL
水 10 mL
振り混ぜ
ヘキサン 50 mL
ヘキサン層
ヘキサン 20 mL
定溶
全量フラスコ 10 mL
希釈
5~10 倍 水
振り混ぜ
イオンクロマトグラフ測定
※
ソジウムビフェニル溶液10mLは
あまりに過剰量
↓
この試験の際には
10 mLのバイアル瓶から
パスツールピペットで4つに分取
約2.5 mLずつを加えている
uS/cm
3.0
10倍希釈したクロルデン含有サンプル処理液
(クロルデン 0.27 mg/L相当=0.186 mg-Cl/L)
4
2.8
2.6
2.4
2.2
2.0
塩化物イオン 0.182 mg/L (回収率 97.8%)
1.8
1.6
F 0.062
1.2
3
1
1.0
CL 0.182
1.4
7
6
8
10
9
Co nd
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
22
24
26
28
30
32
34
36
m in
uS/cm
4
5.0
5倍希釈したクロルデン含有サンプル処理液
(クロルデン 0.54 mg/L相当=0.372 mg-Cl/L)
4.5
4.0
3.5
3.0
塩化物イオン 0.358 mg/L (回収率 96.2%)
2.5
F 0.100
1.5
3
1
1.0
CL 0.358
2.0
8
7
5
9
10
12
11
Co nd
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
22
24
26
28
30
32
34
36
m in
まとめ
炭酸による中和を行うことで、大幅な希釈を行うことなく、イオンクロマトグラフを用
いた測定が可能となった
海洋投入処分に係る有害物質等についての判定基準は元の廃棄物の濃度に換算
して 4 mg-Cl/kg(汚泥の場合)、 4 mg-Cl/L(廃酸・廃アルカリの場合)
→ 水溶液として 1 mg/Lまで測定が必要
8年前に導入したイオンクロマトグラフでも0.02 mg/L以下まで定量可能
炭酸による中和であれば、5倍希釈でも測定可能であり、
基準値の10分の1程度の濃度までは定量可能
告示13号における有機塩素化合物の測定法に
イオンクロマトグラフ法を採用できる
埋設農薬等に係る環境残留実態調査や
クロルデン類、DDT類、ドリン類などPOPs類の調査で
スクリーニング法として用いることも可能だと思われる
課題
実サンプルへの適用と、現在の公定法との比較数を増やす必要がある。
室内精度・室間精度などの検証が必要。
メトローム社製のシステムでは適用可能なことはわかったが、ダイオネク
ス等の他メーカーで適用可能か不明。
所感
有機酸と見られる夾雑物が早い時間に溶離してくるため、塩素イオンの
ピークとかぶるおそれがあるので、高分解能のカラムを用いた方が良い。
市販の10mLソジウムビフェニルからの分取が難しいが、10mLすべて入
れると、分析時に高濃度のナトリウムイオンの影響を受けてしまうので、
2.5mL程度に抑えた方がよい。なお、分取にはディスポーザブルのパス
ツールピペットを短くカットして用いるとよい。
中和時に用いる分液漏斗はスキーブ形がよい。(丸形だと中和に要する
ドライアイス量が増えてしまい、水が凍る可能性有り)
GC/MSを用いる有機塩素系農薬の測定には多大な時間とコストがかか
るが、この方法では比較的迅速に測定まで可能なので、スクリーニング
法として使用することができると思われる。
ご清聴ありがとうございました