● シンポジウム 2 MR 画像の進歩―どこまでできるか― 1.Arterial Spin Labeling(ASL)による脳血流計測: スピン到達時間の補正についての試み 木村 *) 浩彦 ,新井 良和 **) ,岡沢 秀彦 ***) (脳循環代謝 20:52∼56,2009) 報告している,2 コンパートメントモデルに,スピン はじめに の到達時間(δ)を追加し,ラベル法を単一パルスか ら持続ラベルに変更し Bloch の式をたて,解を求め Arterial spin labeling(ASL)は,MR による血流 た. を計測する一手法である.当初は実験用 MRI 装置で Intra Vascurar : 提案された手法であるが臨床機にも導入されてい る1).造影剤を用いなくても潅流画像を得ることがで %"* "* "),.-"&"' !$$ #! "* !)(+! & % !!"$ % ' %#!*" き,完全に非侵襲的手法であり,MRI の本来の特徴 Extra vascular : をいかした手法である.MR の領域選択的 RF の特性 %"* "* !),.-"& #!"* ")(+! %#!& を利用し,組織に流入する動脈内のスピンを反転さ せ,血管内血液の磁化状態を内因性の tracer(造影剤 kin : PS! CBV kout : PS! (l-CBV) 代わり)として利用する. しかし,正確な血流の測定には,脳の近位の血管で ここで, 反転したスピンが関心領域の組織に到達する時間 (Ar- f:Blood flow(ml! min! 100 g)fitting parameter : terial transit time : ATT) が重要となる.本報告では, λ:Brain blood partition coefficient ASL を利用した血流測定の際に,このスピン到達時 間の補正を同時に行う方法を提案する.実際に慢性閉 0.9 ml water tissue! ml water blood Labeling time 1.6 s 塞性脳血管障害のため,一側の内頸動脈が閉塞してい T1a:T1 constant of Arterial blood 1.7 s る患者について,ASL による脳血流画像と PET によ PS:Permeability surface product 1.5 ml! g る脳血流画像とを比較し,臨床での実行可能性につい CBV:blood water volume fraction 0.035 て報告する. (rCBV : 3.5 ml! 100 g) 定量化の方法 T1e : T1 of Brain tissue T1 map Transit time(δ) fitting parameter ASL 法によると,比較的簡単なモデルを用い血流 2) kin:PS! CBV の定量化が可能である.Alsop らの報告 によれば, kout:PS! (l-CBV) MR 信号を簡単な微分方程式で表すことができ,解析 である. 的に解くことが可能である.スピンの到達時間を加味 この解の詳細は前の報告にある3).ラベル終了後, した,より正確な血流値を求めるために,Zouh らが 画像の収集開始までの時間(post label wait : PW)を 福井大学医学部・放射線医学*),脳神経外科**),高エネル ギー医学研究センタ***) 〒910―1193 福井県吉田郡永平寺町松岡下会月 23 変更し,ASL 信号の変化をモデルにフィットするこ とで,スピン到達時間と CBF の値と同時に求めた (Fig. 1) . ― 52 ― 1.Arterial Spin Labeling(ASL)による脳血流計測:スピン到達時間の補正についての試み Fi g.1. スピン到達時間の補正を伴う ASL血流計測.Fi gur eの下段左は,灰白質の信号変化,下 段右は,白質の信号変化を f i t t i ngしている.ROI の CBF値と同時にスピン到達時間がもとまる. Fi g.2. 3 TMRIでの ASL血流画像.ラベル時間 1 . 6秒,ラベル後待ち時間 1 . 5秒,5 mm スライス 厚,約 3 0断面で全脳をカバーする.小脳も含め評価可能である. 用いた MR 装置は,3TMR(Signa 3T-HD,GE) で, は 3D spiral SE CASL シーケンスで,主なパラメタ 8 channel head array coil を利用した.画像の収集に は,FOV 24 cm,ス ラ イ ス 厚 5 mm,30∼36 ス ラ イ ― 53 ― 脳循環代謝 第 20 巻 第2号 Fi g.3. 左内頸動脈閉塞症例の MRA Fi g.4. 左内頚動脈閉塞症例(Fi g. 3 )の ASL血流画像と PET血流画像との比較.上段より,ス ピン到達時間マップ(ATT) (ms e c ),ASLr CBF画像, PETr CBF画像である.ATTマップ でスピン到達時間が後頭葉と左頭頂葉皮質,皮質下で延長している. ス,Matrix(spiral points×arms)512×8×36,NEX 結 3 であった.持続ラベルの時間は 1.6 sec で,SAR の 果 低減のため Alsop らの方法(pCASL)を利用した4). ラベル後の時間は,PW=1.0,1.5,2.0,2.5,3.0 秒の 正常例:最近臨床に急速に広がっている 3T の高磁 条件とした.それぞれの収集時間は,約 5 分ですべて 場 MRI では,T1 時間の延長と MR 信号そのものの の条件を収集すると 20∼25 分を要する. 増強から,ASL 法の欠点が改善することが期待され ている.現在,従来の EPI を基本シーケンスとした ものから,3DFSE 収集を基本シーケンスとして全脳 を対象として ASL 灌流画像が得られるようになって ― 54 ― 1.Arterial Spin Labeling(ASL)による脳血流計測:スピン到達時間の補正についての試み 質の低潅流領域で過小評価される傾向がある5).今回 の手法を用いるとかなり詳細なスピン到達時間のマッ ピングが可能であり,より正確な血流計測が可能とな ると期待された.その妥当性を確認する必要がある が,単純なモデルでは血流の低下となる還流域につい ても補正が可能と推察された.しかし,本法では収集 時間が長く臨床応用には,まだ困難が伴う.PW 時間 の最適化や収集時間の軽減などが次の課題として考え られる.実際,そうした工夫についての報告も見られ る7). ASL 法による血流画像の簡単な原理と慢性閉塞性 脳血管障害患者についての臨床応用例を提示した.こ の手法は,現在も MR 関連の国際学会でもセッショ ンが組まれており,あらたな工夫や開発がすすんでい るところである.臨床応用は 3TMRI の普及とともに Fi g.5. ASLr CBFと PETr CBFの相関.側脳室体部レベ ルの断面での ASL法と PETによるピクセル毎の血流値 の相関.直線は両者の l i ne a rr e gr e s s i o na na l ys i sである. 今後すすんでゆくものと考えられる. 文 献 1)Alsop DC, Detre JA : Multisection cerebral blood flow いる.Fig. 2 は,この手法による全脳の定量的脳血流 MR imaging with continuous arterial spin labeling. Radiology 208 : 410―416, 1998 画像であり約 5 分の MR 信号収集のものである. 慢性閉塞性脳血管患者への応用例:この病態では, 内頚動脈など主幹動脈の閉塞や狭搾のため,ラベル面 から撮像断面までのスピンの到達時間が極端に延長す 2)Alsop DC, Detre JA : Reduced transit-time sensitivity in noninvasive magnetic resonance imaging of human cerebral blood flow. J Cereb Blood Flow Metab 16 : 1236―1249, 1996 る状況が生じる.こうした場合は,単純なモデルでの 3)Kimura H, Kabasawa H, Yonekura Y, Itoh H : Cere- 血流定量値は低値に評価されてしまう5).ラベルされ bral perfusion measurements using continuous arte- たスピンの到達時間の延長により灌流の低下域に描出 rial spin labeling : accuracy and limits of a quantita- されてしまうことがあることに注意が必要である.ラ tive approach. International Congress Series 1265 : ベル停止後の待ち時間を変化させることで,スピンの 238―247, 2004 到達時間と血流の絶対値の両者を求めることが可能と 4)Dai W, Garcia D, de Bazelaire C, Alsop DC : Continuous flow-driven inversion for arterial spin labeling us- 3) なる . Fig. 3 は,左内頚動脈閉塞状態の症例で,ASL に よる血流計測を行った症例である.CASL 法による血 ing pulsed radio frequency and gradient fields. Magn Reson Med 60(6): 1488―1497, 2008 5)Kimura H, Kado H, Koshimoto Y, Tsuchida T, Yo- 流画像と PET による,脳血流画像を比較したものが nekura Y, Itoh H : Multislice continuous arterial spin- Fig. 5 である.側脳室体部レベルの断面全体について labeled perfusion MRI in patients with chronic occlu- Pixel 毎の比較を行っている,かなり良い相関を呈し sive cerebrovascular disease : A correlative study ており,到達時間の補正が正確に行われていることが with CO(2)PET validation. J Magn Reson Imaging 22 : 189―198, 2005 理解できる. 6)Ye FQ, Berman KF, Ellmore T, et al. : H(2) (15)O PET validation of steady-state arterial spin tagging 最後に cerebral blood flow measurements in humans. Magn ASL による CBF 計測の妥当性については,ASLCBF と PET-rCBF との比較が報告されている6).慢 Reson Med 44 : 450―456, 2000 7)Dai W Robson PM, Shankaranarayanan A and AlsopDC, ASL Perfusion Measurement Using a Rapid, 性閉塞性脳血管障害症例にても CASL 法と PET によ Low Resolution Arterial Transit Time Prescan. The る血流値の比較で有意な相関が得られるが,ラベルの proceedings of ISMRM in Honolulu Hawaii, 624(2009) 到達時間の問題により CASL 法の血流値は患側灰白 ― 55 ― 脳循環代謝 第 20 巻 第2号 Abstract Measurements of Cerebral Blood Flow using Arterial Spin Labeling on 3T-MR : Feasibility of arterial transit time compensation in a case with occlusive cerebral vascular disease Hirohiko Kimura, MD PhD*), Yoshikazu Arai, MD PhD**) and Hidehiko Okazawa, MD PhD***) Department of Radiology, University of Fukui*) Department of Neurosurgery, University of Fukui**) Biomedical Imaging Research Center, University of Fukui, Eiheiji-cho, matsuoka, Fukui, Japan***) Arterial spin labeling(ASL)provides a quantitative measurement of cerebral blood flow(CBF) . The most concerned parameter of ASL technique for quantification is arterial transit time. The nature of low signal to noise ratio(SNR)of the method makes transit time measurements difficult and time consuming. The continuous ASL(CASL)can be recently implemented on 3T MR system, which can produce the better SNR of perfusion signal due to both higher Lamor frequency and prolonged T1 times. In the present study, we provide the theoretical framework for measuring arterial transit time using two-compartment model, followed by the application of the model to CASL perfusion data obtained from a patient with chronic occlusive cerebrovascular disease. Both CBF and arterial transit time maps were successfully created using two-parameter fitting procedure. The result of transit time map was consistent to the vascular configuration on MRA of the same patient. Key words : arterial spin labeling, cerebral blood flow, two-compartment model, arterial transit time, MRI ― 56 ―
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