21委ー7 - 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター

総括研究報告
課題番号
: 21委-7
研究課題名 : 精神・神経疾患の画像リファレンスの構築に関する研究
主任研究者 : 佐
藤 典 子
分担研究者 : 青木茂樹、伊藤公輝、小川雅文、川口淳、斎藤裕子、千田道雄、中田安浩、
本田学、松田博史、湯浅哲也
1.研究目的
被験者情報並びに画像データは、施設間の格差が少
日本は、多施設共同研究が欧米に比べて大きく立ち
なく、読影者間の一致率も良く、特にアミロイド画
遅れている。それは日本において中核となるべき臨
像の判定の一致率が非常に高いことを確認した。
床研究実施拠点がなかったためでもあり、現在問題
(2)解析のための前処理:脳 MRI 画像の SPM 解析の
にもなっている治験の遅れへとも繋がっている。そ
前処理としての脳画像の初期位置補正方法を考案
のために近年多施設脳画像臨床研究や臨床試験の
した。Yaw,rall,pitch 軸の3回転を用い、yaw お
ニーズが高まっており、それらを支援するために、
よび rall 軸回転を求めるために、眼球を球とある
オンラインで画像を匿名化して簡便に収集する仕
いは回転楕円体と近似して中心を検出する方法を
組みを構築し、結果をデータベースで管理・整備す
確立させた。また MRI 画像は機種ごとに磁場による
る必要がある。本研究はこれらのシステムを構築す
ゆがみが発生するために、脳容積測定をするために
るための準備として、実際の撮影法から収集、解析
は、幾何学的歪み補正、信号値不均一性のファント
に至るまでの多角的検討を行うと同時に、画像研究
ムによる歪み補正を行う必要があるが、それらの臨
を行うことをのが目的である。
床的妥当性を検証した。
(3)画像統計解析:脳画像解析の前処理の一つであ
2.研究方法
る歪み補正法に対し統計学的評価法を与え,客観的
本研究は精神・神経疾患の画像リファレンスの構築に
に方法の選択をできるようにした。既存の方法の一
関する研究ということで、精神・神経疾患の MR を中
つである Thin-plate spline(TPS)法の検討を行い,
心とした画像研究、及びデーターベース構築やそのた
従来法を改善する方法を提案した。また多施設試験
めのシステム作りの準備のために、分担研究者、研究
における 2 群比較(例えば健常者と罹患者)を行う
協力者は MRI や核医学の放射線臨床医から研究専門医、 ためのマンホイットニー推定量を用いたノンパラ
医用工学や統計解析、画像収集のプログラム作成の専
メトリック検定法を開発した。
門家など、様々な分野の研究者からバランス良く構成
(4)脳画像の標準化:認知症において、MRI による
されており、主任研究者がそれらの研究を纏める形式
絶対値および相対値による脳容積測定および MRI
を採用した。以下に各テーマ毎の研究成果を記載する。 を用いた造影剤を用いない脳血流測定法である
Arterial Spin Labeling (ASL)の標準化を行った。
3.研究結果及び考察
ASL による非侵襲的脳血流測定法は、撮像範囲をほ
(1)画像の収集とデータの品質チェック:全国の参
ぼ全脳領域に設定することにより、画像統計解析シ
加研究機関にて収集される脳 PET 画像データが普
ステムに応用すべく正常データベースを構築する
遍的価値を持つように、データ収集方法を標準化し、
ことを可能とした。また、ASL においては高齢者で
得られたデータは品質チェックと種々の補正後に
の最適のパラメータを設定し認知症診療に有益な
データベースとして保存管理し、解析研究に活用で
検査法として方法論を提示することができた。
きるようにすることを目標とした。それらを全国
皮質脊髄路の拡散テンソルによる描出に関しては、
24 か所の PET 施設にて 300 名の被験者にて検討し
マニュアルの仕様により、確立密度分布は 53%の増
た J-ADNI プロジェクトの PET 部門において検証し
加がみられた。また 100 人の皮質脊髄路の拡散テン
た。施設差の解消をめざして、予め PET 検査方法を
ソルを標準化し、筋萎縮性側索硬化症の診断の補助
標準化して詳細なマニュアルを作成し、各施設の認
とした。
定を行った。中央読影の結果、および解析に必要な
(5)画像解析・研究:脳 MRI における局所脳容積の
相対値測定のために、SPM8 と DARTEL 手法を用いた
的変化の評価を可能とし、臨床診断へのフィードバ
全自動容積測定システムを開発し、その有用性を確
ックを行うシステムを作成し、より多元的なデータ
認した。新たにリリースされたソフトウェア(eZIS、
構築を目指していく所存である。
VSRAD、vbSEE)を用い萎縮部位と血流の関係を検討
したところ、レビー小体認知症における後頭葉の血
5.研究発表
流低下の他、大脳(特に前頭葉底部)での萎縮の程
1.
Hattori T, Yuasa T, Aoki S, Sato R, Sawaura
度について検討を行い、病態の評価に有用性がある
H,
可能性が示唆された。
microstructure in corticospinal tract in
MRI や核医学的画像法と電気生理学的手法や非侵襲
idiopathic normal pressure hydrocephalus:
脳刺激法とを組み合わせた新しい鑑別診断法なら
comparison
with
びに機能評価法の構築をめざし、脳波の精神・神経
Parkinson
disease
疾患の鑑別における有用性について検討し、部位ご
American journal of neuroradiology. 32(9):
とに課題成績に対して及ぼされる影響が異なるこ
1681-7, 2011.
とを明らかにした。
2.
Mori
T,
Mizusawa
H:
Alzheimer
with
Altered
disease
dementia.
and
AJNR
Oshio R, Tanaka S, Sadato N, Sokabe M,
(6)データベース構築: Integrative Brain Imaging
Hanakawa T, Honda M: Differential effect of
Support System: IBISS というオンラインで画像を
double-pulse TMS applied to dorsal premotor
収集するシステムを作成した。これは WEB 技術を使
cortex
用して、遠隔に居る多くの医療研究者がネットワー
operation
ク上で同時に簡易操作で医用画像情報や疾患情報
NeuroImage. 49: 1108-1115, 2010.
などを相互に投稿・閲覧・調査・議論し合ことがで
3.
and
precuneus
of
during
visuospatial
internal
information.
Kato Y, Araki N, Matsuda H, Ito Y, Suzki C:
き、効率的に研究及びプロジェクト管理を進める事
Arterial spin-labeled MRI study of migraine
が可能な次世代モデルである。
attacks treated with rizatriptan. J
また病理においては生前同意ブレインバンクや、他
Headache Pain. 11: 255-8, 2010.
院からの依頼剖検も含めて剖検例の臨床病理情報
4.
Adachi T, Saito Y, Hatsuta H, Funabe S,
を連結可能匿名化のうえ蓄積するデータベースが
Tokumaru AM, Ishii K, Arai T, Sawabe M,
今年度で完成する。病理情報は個々の画像データと
Kanemaru K, Miyashita A, Kusano R, Nakashima
リンクさせる。外科手術材料についても病理のデー
K, Murayama S: Neuropathological asymmetry
タベースを構築している。
in argyrophilic grain disease. J Neuropath
Exp Neurol. 69: 737-744, 2010.
なお臨床データを取り扱う場合は、所属機関の倫理
5.
Sen S., Kawaguchi A., Truong K. Y., Lewis M.
委員会の承認を受けて研究を実施した。研究全体は、
M.,
and
Huang
X:
Dynamic
臨床研究に関する倫理指針を遵守して実施し、研究
cerebello-thalamo-cortical motor circuitry
対象者の人権擁護、不利益の排除については上記倫
during progression of Parkinson's disease.
理指針に従って十分に配慮した。
Neuroscience. 166(2): 712-719, 2010.
4.結論
6.知的所有権の出願・取得状況
各専門家によって画像を収集、集積するための様々
なし
changes
in
な研究に取り組み、一定の結果が得られた。また同
時に IBISS というオンラインで画像を収集するシ
7.自己評価
ステムを作成し、多施設共同研究を行う準備を整え、
ほぼ 8 割方目標は達成された。臨床研究実施拠点を
3 つの研究課題が走り始めた。この研究班により得
整えることは、日本における臨床研究や治験の促進
られた成果をさらに改善し、画像研究や画像リファ
に大いに貢献するものと思われる。
レンスの構築を行っていく予定である。また神経病
理所見と画像データをリンクさせることで、病理組
織検討時の横断的な評価のみならず、縦断的な経時