第1章 進化するイーサネット 1-1 1-2

第1章
進化するイーサネット
1-1
イーサネットとは何か
LAN(Local Area Network) とは、元来、建物や敷地内などの限定され
た範囲のネットワークを意味しています。これを接続するための規格がイー
サ ネ ッ ト (Ethernet) で す。 イ ー サ ネ ッ ト と は、Xerox 社、DEC 社 ( 現 在
Hewlett Packard 社の部門 )、Intel 社により提案された LAN の規格であり、
IEEE 802.3 と呼ばれます。この規格は IEEE 802.3 委員会によって標準
IEEE
アイ・トリプル・イー
と読む。電気・電子分野
における世界最大の学会
で、技術標準を策定して
いる。
化されています。
イーサネットは、LAN の規格として、現在ネットワークの主流をなして
います。これまで LAN の規格はいくつか存在していますが、現在は特殊な
用途以外には、ほとんどの LAN でイーサネットが採用されています。こう
したことから、しばしば LAN とイーサネットという言葉は、ほとんど同義
のように混同して使用されることがあります。
インターネットが広く普及した背景は、イーサネットという規格と機器の
進化を抜きには語れないでしょう。イーサネットの進化とともに LAN その
ものの性能、物理的な形態も飛躍的に進化しています。現在のように光ファ
イバーによる通信が一般化してきている時代においても、その基礎はイーサ
ネットになっています。
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LAN の接続形態
LAN の接続形態は、バス型、スター型、リング型の 3 種類に代表されます。
これらは、配線の形状を表す物理的トポロジによって分類されます。また、
最大伝送距離や通信速度などによってもいくつかの種類に分けられます。
■ バス型
バス型は、ケーブルに複数のコンピュータを、一列の状態で接続する方式
です。初期のイーサネットである 10BASE-5、10BASE-2 の接続形態で
CSMA/CD
Carrier Sense Multiple
Access With Collision
Detection の 略。 詳 細は
1-5を参照。
す。アクセス制御には CSMA/CD 方式が採用されていました。バス型の特
徴は次の通りです。
・ バスに接続しているすべての機器は、バスに通信データを送出(ブロード
キャスト)することで、バスに接続しているほかのすべての機器との通信
を可能にする。
・ 複数のコンピュータから同時にデータを送信すると、データが衝突(コリ
ジョン)を起こす。
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第 1章
進化するイーサネット
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■ スター型
スター型は、集線装置であるスイッチやハブ(HUB)などのネットワー
キングデバイスを中心にコンピュータを接続する方式です。イーサネットで
の 10BASE-T や 100BASE-TX などの接続形態です。スター型の特徴は次
の通りです。
・ 2 つのノードの接続を基本とする。
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・ 中心となるネットワーキングデバイスに障害が発生すると、これに接続さ
れた各クライアントに影響する。
・ リピータハブ(後述の「物理層で動作する LAN の周辺機器」で解説します。)
を用いた場合、10BASE-T の段数制限は最大 4 台まで。100BASE-TX
の段数制限は最大 2 台まで。
■ リング型
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ネットワークを構成する各装置を順にケーブル(伝送路)でつなぎ、リン
グ状にした方式です。トークンリング型 LAN で利用される形態です。リン
グ型の特徴は次の通りです。
・ 各端末から送信されたデータは、リング状のケーブルを一方向に回る。
・ トークンという情報を巡回させ、自分宛のデータが回ってきた場合と送信
したい場合に取得する。
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・ 相手の受信が確認できるまでトークンを所有する。
・ 各端末からの同時データ発信による衝突は起こらない。
・ 光ファイバーケーブルを媒体とする LAN や WAN に用いられる。
基本的な物理トポロジは 3 種類ですが、実際に規模の大きなネットワーク
になると、これらを複合した形態が多く見られることに留意しておきます。
3 種類のネットワークの接続形態
バス型
スター型
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リング型
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3
第 1章
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進化するイーサネット
イーサネットと OSI 参照モデル
LAN による通信は、データのやり取りをする通信プロトコルに基づいて
行われます。一般的なネットワークのプロトコルの階層を表す OSI 参照モデ
ルは、7 階層に分割されています。OSI(Open Systems Interconnection:開放型システム間相互接続)の設計方針は、機種に依存せずに、どの
ようなコンピュータ間やネットワーク機器間でも通信できることを規定して
いるものです。
イーサネットは、この中のレイヤ 2( データリンク層 ) およびレイヤ 1
( 物理層 ) の部分を規定しています。アメリカの学会組織である IEEE の
IEEE802.3 委員会が、これらの仕様の国際標準を制定しており、イーサ
ネットは IEEE802.3 といわれます。IEEE 802.3 は頻繁に改定が加えられ、
100Mbps(1995 年 )
、1Gbps(1998 年 )、10Gbps(2002 年 ) の
ように物理層の仕様が追加されています。
IP
(Internet Protocol)
RFC791で定義されて
いる、TCP/IPプロトコル
におけるネットワーク層
のプロトコル。ネットワー
ク上の各ノードに割り当
て ら れ た IP アドレ ス を
ベースにして、2 つのノー
ド間で、ベストエフォー
ト型のデータグラム指向
の通信を行う。
なお、レイヤ 3 に相当するネットワーク層では、IP が機能して各 PC やルー
タなどの機器に IP アドレスを含むヘッダ情報が設定され、データはパケッ
トの単位で転送の制御がなされます。パケットは目的の IP アドレスを持つ
機器に対して送られることになります。
OSI 参照モデル
階層
OSI 参照モデル
LAN 機器
TCP/IP
アプリケーション層
7
アプリケーション層
ゲートウェイ/
ファイアウォール
6
プレゼンテーション層
5
セッション層
4
トランスポート層
ファイル転送
・FTP
・TFTP
・NFS
リモート
・Telnet
・Rlogin
E-Mail
・SMTP
ネットワーク管理
・SNMP
トランスポート層、TCP
3
ネットワーク層
ルータ、
L3 スイッチ
2
データリンク層
スイッチングハブ、
ブリッジ、
ネットワーク・インターフェイス層
L2スイッチ
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物理層
リピータハブ
ネットワーク層、IP
OSI 参照モデルと米国国防総省 DOD の TCP/IP 規格による階層構造
(第2章で解説)
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第 1章
進化するイーサネット
1
■ データリンク層と物理層の役割
ここで、少し詳しくデータリンク層と物理層に対応したイーサネットの規
格を見てみます。
MAC (Media
Access Control)
IEEE 標準 802.3 では、
正式には Medium Access
Control となっているが、
一 般 的 に は Media Access
Controlが使用されている。
IEEE 標 準 802.3 で は、 デ ー タ リ ン ク 層 を 媒 体 ア ク セ ス 制 御 (MAC:
Media Access Control) と、論理リンク制御 (LLC:Logical Link Control)
に分けています。また、物理層を次のように 3 つの副層に分けて定義してい
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ます。
OSI 参照モデルとイーサネットの対応
OSI 参照モデル
データ
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リンク層
IEEE802.3
LLC 層
MAC 層
IEEE802.2 LLC
Ethernet
2.0
IEEE802.1D
( 旧規格 ) IEEE
1
物理層
IEEE
IEEE
IEEE
IEEE
802.11
802.15
802.16
802.17
CSMA/CD WLAN
WPAN
BWA
RPR
802.3
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イーサネットの物理層と 3 つの副層
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物理層
PCS
データの符号化、復号化
PMA
パラレル・シリアル変換
PMD
伝送媒体の信号へ変換
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上位層から引き渡されたデータは、データリンク層の上側の論理リンク制
御層 (LLC) でヘッダが付加され、さらにアクセス制御副層 (MAC) に渡され、
ここでフレームヘッダが付加されます。
PCS(Physical Coding Sublayer:物理符号化副層)では、送信するデー
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タをネットワーク伝送に適した符号に変換し、パラレルインターフェース(並
列)を通じて下位層(ここでは PMA)に渡します。
PMA(Physical Media Attachment:物理媒体接続部)では、受け
取った符号をシリアル信号(直列)へ変換して物理媒体依存部(ここでは
PMD)に渡します。
PMD(Physical Media Dependent:物理媒体依存部)では、受け取っ
た信号をツイストペアケーブルや光ファイバーケーブルなどの伝送媒体に応
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じ、電気信号や、電波や光などの信号に変換して送出します。
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