海外市場開拓に挑む化粧品業界 ~資生堂とコーセー~ 国際地域学科 3 年 1810080090 小林 智美 1、はじめに 私が化粧品業界を選んだ理由は、私にとって化粧をすることは食事をとることと同じぐ らい当たり前のことであることと、単純に化粧品が好きだからである。女性がほぼ毎日使 う化粧品は不景気によって売上高は左右されるのだろうか。業界1位である資生堂と 3 位 であるコーセーを比較する。 <業界について> 化粧品業界1位は資生堂(化粧品事業)で売上高は約 6341 億円である。2 位は花王(ビ ューティーケア事業)で約 5479 億円である。3 位はコーセーで 1725 億円である。06 年 1 月花王はカネボウ化粧品の買収により化粧品業界 2 位となった。平成 18 年度の経済産業省 の化粧品出荷統計(暦年)によると、出荷額はほぼ横ばいにあり成熟したトレンドを示してい るが、一方海外においては、中国の旺盛な投資で高成長を続けているとされる。尐子高齢 化の影響等で国内での成長を見込めないメーカー各社は、海外市場に力を注いでいる。資 生堂は中国へ積極展開。中国の富裕層、中産階級層をターゲットとした販売チャネルの構 築に力を注いでいます。コーセーも中国で専門店チャネルの拡大に取り組んでいる。平成 20 年度の経済産業省の化粧品出荷統計(暦年)によると、販売個数、販売金額ともに減尐し たとされ、化粧品業界も世界的な景気減退の影響をうけた。 <両社の概要> 資生堂は、 1872 年東京・銀座に「資生堂薬局」として創業。海外進出国・地域は 74 カ国にも及ぶ。 「一瞬も一生も美しく」がお客様との約束としている。現在グローバルブラ ンド「SHISEIDO」の育成強化、中国事業の拡大を軸にしている。グローバル人材の育成 に積極的である。また、資生堂グループは 2010 年現在、子会社 99 社、関連会社 17 社か ら構成され、化粧品、化粧用具、トイレタリー製品、理・美容製品、美容食品、医薬品の 製造・販売を主な事業内容とし、更に各事業に関連する研究及びその他のサービス等の事 業活動を展開している。 コーセーは、1946 年創業。メッセージは「美しい知恵 人へ 地球へ」国内・海外を拠 点とする。近年独自のブランドマーケティングを進化させ中核となるブランドの育成を図 っている。導入から 5 年目を迎えた「ジルスチュアート」が好調である。またコーセーグ ループは子会社 28 社から展開されている。2010 年新たにメンズケアシリーズ「アディダ ス スキンプロテクション」を導入し、男性用化粧品市場に本格参入した。 1 ~注意事項~ 使用するデータは、2006 年度から 2010 年度までの 5 年分の資生堂とコーセーの有価 証券報告書を利用している。また、会計期間は 4 月 1 日から 3 月 31 日である。なお、指 摘のない限り連結データを用いている。 2、ステップ1:収益性 <図表 1>総資本事業利益(ROI)の推移 総資本事業利益率(ROI) 14.0% 12.0% 10.0% 8.0% 6.0% 4.0% 2.0% 0.0% 資生堂 コーセー 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 まず、企業の総合的収益性を測定する代表的指標の一つである、使用総資本事業利益率 (ROI)を用いて分析していく。資本総資本事業利益(ROI)は事業利益を総資本で割ったも のである。資生堂とコーセーを比べると、2008 年に資生堂がコーセーを逆転している。コ ーセーが下降傾向にあるのに対して資生堂は、2007 年まではコーセーより低い値となって いたが、2008 年大きく上昇し逆転している。2008 年以降下降しているがわずかにコーセー を上回っている。近年資生堂のほうが企業の総合的収益性は優れている。2006 年の時点で 5%以上あった両社の差はなくなった。 <図表 2-1>資生堂の総資本事業利益率(ROI) (単位:百万円) 2006年 売上高 総資本 事業利益 ROI 2007年 670,957 671,841 40,098 6.0% 2008年 694,594 739,832 52,237 7.1% <図表 2-2>コーセーの総資本事業利益率(ROI) 2006年 売上高 総資本 事業利益 ROI 2007年 177,810 171,975 19,861 11.5% 2009年 723,484 675,864 66,589 9.9% 2 644,201 775,445 51,926 6.7% (単位:百万円) 2008年 176,390 171,638 13,993 8.2% 2010年 690,256 606,568 52,791 8.7% 2009年 180,222 172,128 15,632 9.1% 2010年 178,121 166,920 12,776 7.7% 172,564 167,395 10,676 6.4% 図表 2 は資生堂とコーセーの売上高と使用総資本事業利益率の構成要素の推移を表して いる。まず資生堂が 2007 年から 2008 年に ROI が大きく上昇した理由は総資本が減尐し、 事業利益が大きく上昇したからである。またコーセーが下降傾向にあるのは、事業利益の 低下であると判断できる。この差が使用総資本事業利益率に反映されているものと考えら れる。なぜ事業利益の推移に、このような違いが生まれてくるのか。その背景を探るた めに、事業利益の構成を分析していく。なお事業利益とは営業利益+受取利息+配当金 +持分法による投資損益のことである。 <図表 3-1>資生堂事業利益の構成 年度 売上高 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 売上原価 26.4% 27% 25.8% 24.9% 24.9% 売上総利益 73.6% 73.3% 74.2% 75.1% 75.1% 販売費及び一般管理費 67.8% 66% 65.5% 67.9% 67.3% 広告費 7.5% 7.3% 7.7% 7.7% 6.8% 売出費 17.6% 16% 15.2% 16.0% 15.9% 給与・賞与 17.2% 18.2% 18.0% 18.1% 18.1% 退職給付費用 1.1% ND ND 1.1% 1.8% 営業利益 5.8% 7.2% 8.8% 7.2% 7.8% 0.2% 0.3% 0.4% 0.4% 0.2% 6.0% 7.5% 9.2% 7.6% 8.1% 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 売上原価 24.2% 25.3% 25.1% 25.4% 25.8% 売上総利益 75.8% 74.7% 74.9% 74.6% 74.2% 販売費及び一般管理費 64.8% 66.9% 66.4% 67.7% 68.4% 広告宣伝費 5.5% 5.1% 5.0% 4.9% 4.8% 販売促進費 20.5% 21.1% 21.1% 21.2% 20.7% 給料及び手当 19.9% 21.4% 21.3% 21.2% 21.9% 退職給付費用 0.7% 0.6% 0.5% 0.6% 1.0% 福利厚生費 3.4% 3.7% 3.6% 2.8% 2.9% 旅費交通費 2.5% 2.5% ND 受取利息・受取配当金・持分法 投資利益 事業利益 ※2007 年.2008 年の退職給付費用は該当するデータなし。 <図表 3-2>コーセー事業利益の構成 年度 売上高 3 ND ND 減価償却費 営業利益 受取利息・受取配当金 事業利益 1.3% 1.5% 1.5% 1.5% 1.6% 11.0% 7.8% 8.4% 6.9% 5.9% 0.2% 0.1% 0.2% 0.3% 0.3% 11.2% 7.9% 8.7% 7.2% 6.2% 図表3は、事業利益の算出過程を百分比で示したものである。2006 年から 2008 年を見 ると、売上高に対する販売費及び一般管理費の推移に違いがあり、資生堂は減尐傾向、コ ーセーは増加傾向にあることが分かる。コーセーは積極的な事業展開を推進したため販売 費・人件費(給料及び手当て)が増加した。2008 年は本社移転関連費用も発生した。一方、 資生堂は原価低減活動に加え販売費及び一般管理費の効率化が進んだことにより事業利益 が増加した。 <図表 4>自己資本利益率(ROE)の推移 <図表 5>株主資本の推移 <図表 6>当期純利益の推移 次に、自己資本利益率(当期純利益/自 己資本×100)について分析する。自己資 本利益率(ROE)は、株主が出資した資 本をもとに、どの程度の利益をあげたかを 測定する指標である。図表 4 と 5・6 を照 らし合わせると、両社の違いは当期純利益 の変化に起因することが読み取れる。資生 堂の当期純利益が 2008 年から 2009 年に かけて大幅に減尐したのは、売上減に伴う差益減が大きく影響したことや年金費用の増加 また構造改革費用や海外子会社の減額損失等を特別損失に計上によるものである。2010 年 資生堂が大幅に上昇しているのは、販売費及び一般管理費の効率化でカバーしたことと特 別損失の改善と税金費用が前年に比べて低減したことで当期純利益が上昇したことによる。 ROE は、売上高当期純利益率(当期純利益/売上高×100)、総資本回転率(売上高/総 4 資本×100) 、財務レバレッジ(総資産/株主資本×100)の 3 要素に分解することができる。 それぞれの要素について検討し、ROE の動きを細かく分析していく。 <図表 8>総資本回転率の推移 <図表 7>売上高当期純利益率の推移 <図表 9>財務レバレッジの推移 売上高当期純利益率は図表 4・6 と同じ ような推移をしていることが読み取れる。 現在は、資生堂がコーセーより水準が高い。 総資本回転率は売上による総資本の回 収のスピードを表す指標である。コーセー は、ほぼ横ばいなのに対し資生堂は 2009 年まで上昇傾向だったが 2010 年大幅に下 降した。2010 年に大幅に下降した理由は、 総資本の増加に対し売上高が減尐したためである。 (図表 2 より)なお、総資本回転率につ いてはステップ 3 の効率性・生産性で更に詳しく分析する。 財務レバレッジは、負債の利用度、負債への依存度を表す指標である。したがって、そ の負債を利用して利益が出ていないといけないわけである。資生堂の財務レバレッジは 2010 年上昇している。負債の利用により利益が出たかどうかは今後注目する必要がある。 両社の収益性を分析した結果、総合的にみると資生堂の方が優れていることが分かった。 3、ステップ2:安全性分析 次に、安全性の分析をしていく。まずは、連結キャッシュ・フロー計算書から両社の資 金調達活動と投資活動の状況をみてみる。図表 10 は、両社の連結キャッシュ・フロー計算 書における主要項目を抜粋したものである。 5 <図表 10>キャッシュ・フロー計算書 (単位:百万円) 資生堂 コーセー 2009 年 2010 年 Ⅰ営業活動によるキャッシュ・フロー 2009 年 2010 年 42767 69431 8927 10328 定期預金の預入による支出 -31,737 -33,151 -2,200 -6,000 定期預金の払戻による収入 27,667 28,668 1,800 5,000 有形固定資産の取得による支出 -16,133 -15,544 -5,771 -3,858 有形固定資産の売却による収入 757 818 15 51 無形固定資産の取得による支出 -5,670 -4,684 -1,120 -2,321 投資有価証券の取得による支出 -3,815 -157,574 -1,640 -4,580 投資有価証券の売却及び償還による収入 3,926 317 5,817 1,419 長期前払費用の取得による支出 -6,419 -5,286 1,865 -12,622 Ⅱ投資活動によるキャッシュ・フロー 長期貸付金の貸付けによる支出 -20,840 投資活動によるキャッシュ・フロー合計 -28,157 -204,884 -260 102,177 28,668 20,879 -27,250 -800 Ⅲ財務活動によるキャッシュ・フロー 短期借入金の純増減額 長期借入れによる収入 長期借入金の返済による支出 社債発行による収入 -317 -200 50,000 社債償還による支出 -6,206 -20,000 -16,972 -19,955 -2,341 -2,321 -2,065 -1,904 -72 -65 財務活動によるキャッシュ・フロー合計 -32,283 120,359 -5,183 -2,661 Ⅳ現金及び現金同等物に係る換算差額 -10,752 393 -637 -324 Ⅴ現金及び現金同等物の増減額 -28,425 -14,700 4,972 -5,279 Ⅵ現金及び現金同等物の期首残高 120,393 91,857 34,093 39,066 77,157 39,066 33,787 配当金の支払額 少数株主への配当金の支払額 連結の範囲変更に伴う現金及び現金同等物の増 減額 Ⅶ現金及び現金同等物の期末残高 -110 91,857 はじめに営業活動におけるキャッシュ・フローは、両社とも増加している。投資活動に おけるキャッシュ・フローを見ると、両社とも支出が増加していることが分かる。両社投 資有価証券の取得による支出が増加している。資生堂の大幅な増加は、ベアエッセンシャ 6 ル社買収に伴う投資及びベトナムでの新工場建設のための設備投資を行ったことによる。 次に財務活動におけるキャッシュ・フローを見ると、資生堂は大幅に増加している。これ もベアエッセンシャル社買収に伴う資金調達や社債発行によるもので短期借入金による収 入が増加していることによる。資生堂は新規市場への事業拡大を進めているのが分かる。 次に、安全性に関する各指標をみていく。ここでは、流動比率、当座比率、自己資本比 率、固定長期適合率、インタレスト・ガバレッジ・レシオの各指標を取り上げる。 <図表 11>流動比率の推移 <図表 12>当座比率の推移 短期支払い能力を判断する指標として流動比率と当座比率を分析していく。流動比率(流 動資産/流動負債×100)は、短期に支払期限が到来する流動負債に充てることが可能な流 動資産をどの程度持っているかを示す指標で、200%以上が好ましい比率であるとされてい る。また、当座資産とは、流動資産から換金性の低い棚卸資産を引いたもので、当座比率 (当座資産/流動負債×100)は 100%以上が理想とされている。図表 11・12 を見てみると、 流動比率、当座比率ともにコーセーは理想的な水準を超えている。資生堂はどちらも理想 的水準に届いておらず 2010 年どちらも大きく下降している。短期支払い能力は、コーセー が優れている。 <図表 13>自己資本比率の推移 <図表 14>固定長期適合率の推移 続いて、長期の支払い能力を表す指標として、自己資本比率と固定長期適合率を分析し ていく。自己資本比率(自己資本/総資本×100)が高いことは、利子を支払う負債がそれだけ 尐ないことを意味する。図表 13 を見ると、コーセーは上昇傾向にある。資生堂は 2009 年 まで上昇傾向だったが 2010 年下降した。また、固定長期適合率(固定資産/[自己資本+固定 負債]×100)は 100%以下の水準にあることが理想的であるとされている。図表 14 を見てみ 7 ると、コーセーはほぼ一定なのに対し資生堂は 2010 年大きく上昇した。どちらも 100%以 下の水準を保っており、長期的な安全性は高いと言える。 <図表 15>インタレスト・ガバレッジ・レシオの推移 <図表 16>コーセーのインタレスト・カバレッジ・レシオ (単位:百万円) 2006年 営業利益 受取利息・受取配当金 支払利息 インタ・カバ・レシオ 2007年 19,561 300 45 441.4 2008年 13,730 263 65 215.3 2009年 15,187 445 77 203.0 2010年 12,303 473 82 155.8 10,132 544 56 190.6 有利子負債金利の支払い能力を測定するインタレスト・カバレッジ・レシオ(営業利益+ 受取利息・配当金/支払利息)を分析する。これは、支払利息をカバーする利益をどの程度あ げているかを表す指標である。コーセーは以前非常に高い水準であったがその後大きく低 下している。図表 16 によると、これは支払利息の上昇だけでなく営業利益の低下も影響し ていることが分かる。ここまで両社の安全性をみてきたが、全体的にみてコーセーが資生 堂よりも安全性の高い企業であることが分かった。 最後に、格付け機関からの評価についてだが、両者を比較することが出来なかった。理 由は両社の評価を同時に行っている機関が存在しなかった為である。資生堂についてはス タンダード・アンド・プアーズによって A、安定的という評価がされている。コーセーにつ いては、情報を見つけることが出来なかった。 4、ステップ3:効率性・生産性分析 次に効率性・生産性をみていく。ステップ 1 で総資本回転率について触れた際は、コー セーは、ほぼ横ばいなのに対し資生堂は 2009 年度まで上昇傾向だったが 2010 年度大幅に 下降していた。ここでは、その資本回転率を4つの資産ごとの回転率に分けて分析してい 8 く。 <図表 17>棚卸資産回転率の推移 <図表 18>有形固定資産回転率の推移 棚卸資産回転率(売上高/棚卸資産)と有形固定資産回転率(売上高/有形固定資産)は、 それぞれの資産が効率的に活用されているかどうかを測定する指標である。図表 17 をみる と、資生堂の方が高い水準にあることが分かる。資生堂が 2008 年より下降傾向にあるのは 棚卸資産が増えたのではなく売上高の減尐によるものである。また、有形固定資産回転率 図表 18 を見ると 2008 年度に資生堂がコーセーを逆転していることがわかる。資生堂が 2008 年に上昇した理由は、物流改革に伴い資生堂保有の物流・商品センターの設備等を売 却したことによる。両社回転率はあまり変わらないが若干資生堂の方が高い水準である。 <図表 19>売上債権回転率の推移 <図表 20>投資その他の資産回転率の推移 続いて、売上債権回転率(売上高/売掛金及び受取手形※割引手形記載なし)と投資そ の他の資産回転率(売上高/投資その他の資産)をみていく。図表 19 から判断すると、コー セーのほうが資生堂を上回っていることがわかる。コーセーの 2008 年度の上昇は、売上債 権の減尐に起こったものである。また、投資その他の資産回転率に関しては、コーセーが 資生堂を大きく上回っている。資生堂の 2009 年まで上昇傾向にあったものの 2010 年大き く下降した。これはベアエッセンシャル社買収に伴う投資及びベトナムでの新工場建設の ための設備投資である。 以上の結果から棚卸資産回転率と有形固定資産回転率では資生堂が優勢であるが、売上 債権回転率と投資その他の資産回転率ではコーセーが優勢であった。 9 また、資生堂の総資本回転率の推移は売上債権回転率と投資その他の資産回転率が主に 影響を及ぼしていると考えられる。コーセーは有形固定資産回転率が主に影響を与えてい るものと思われる。 5、ステップ 4:成長性分析 2006 年を基準年(100%)として、売上高・営業利益・株主資本・総資本に関して趨勢 分析を用いて成長性をみていく。 <図表 21-1>資生堂の成長性の推移 資生堂 <図表 21-2>コーセーの成長性の推移 2006 年と 2010 年を比べると営業利益が上昇しているのが分かる。売上高・総資 本は減尐しているものの 2006 年からあまり変化がない。株主資本の割に総資本が上昇して いることから負債が増えたのが分かる。 コーセー 営業利益の落ち込みが大きいことがよく分かる。理由は、収益性分析で挙げた とおり、一般管理費の増加である。株主資本は上昇傾向である。 6、ステップ5:グループ経営分析 資生堂とコーセーのグループ連結経営を分析するにあたり、まずは両社のグループ経営 に対する姿勢をみていくことにしよう。有価証券報告書の「第 2 事業の概況」の項目の要 約で両社の経営に対する姿勢を見る。 資生堂 資生堂グループは、 「成長性の拡大と収益性の向上」を目指した 3 ヶ年計画(2005 ~2007 年度) 「国内マーケティング改革」、「中国事業の拡大・加速」、 「抜本的な構造改革」 の重点戦略課題を推進するとともに、コーポレート・ガバナンス改革や人事改革に取り組 むことに決めた。また 2008 年度より、 「日本をオリジンとしアジアを代表するグローバル プレイヤー」 となることをめざしすべての活動の質を高める 3 ヶ年年計画を推進している。 この 3 ヶ年計画では「グローバルブランドの育成強化」 、 「中国事業のさらなる展開」 、 「日 本における重点ブランドの育成」を軸としている。 コーセー コーセーグループは、国内シェアの拡大はもとより、成長市場への展開を加速 10 させ、事業全体を拡大させるとともに、新たな企業間競争に勝ち抜くことができる強い経 営体質をつくることを考えた。経営の柱は「ブランドマーケティングの強化」「経営効率の 向上と収益力の強化」「成長市場への展開」「優秀な人材の育成」の4つを掲げている。ブ ランドマーケティングを進化させ、中核となるブランドの育成を図るとともに、流通チャ ネルや販売形態に柔軟に対応した取り組みを推進させるとする。 両社ともグループ経営・企業体質の強化を言及している。 次に、両社のグループ経営について、連単倍率分析とセグメント分析を用いてみていく ことにする。連単倍率とは、連単数値を単体数値で割ったもので、親会社に対してグルー プ全体は何倍の規模であるかを表す指標である。1 を超えるほど、親会社以外のグループ 会社の貢献が大きいことを表す。 <図表 22-1>資生堂の連単倍率の推移 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 売上高 2.66 2.46 2.65 2.61 2.64 営業利益 5.50 3.20 3.90 5.82 3.39 総資本 1.25 1.32 1.38 1.26 1.27 当期純利益 1.76 1.51 1.49 1.19 1.60 <図表 22-2>コーセーの連単倍率の推移 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 売上高 1.93 2.01 2.02 2.03 1.94 営業利益 3.54 4.11 5.01 20.89 3.90 総資本 1.40 1.42 1.45 1.47 1.46 当期純利益 1.98 1.94 2.33 3.43 1.99 資生堂とコーセーは好対照をなしていることが分かる。全体的にみて、コーセーは連単 倍率が上昇してきているのに対して、資生堂は連帯倍率が低下してきている。それがとり わけ顕著にみられるのが営業利益である。2006 年度では資生堂の営業利益の連帯倍率が 5.50 倍、コーセーが 3.54 倍と大きく差があった。それが 2010 年には資生堂は 3.39 倍、コ ーセーは 3.90 倍とコーセーの方が高くなったのである。 2009 年コーセーの営業利益が 2008 年の 4 倍以上に上昇した理由は、本社移転関連費用が発生し単体の営業利益が下がったこ とが考えられる。 この表から判断する限りコーセーはグループ全体で収益を生み出していく体制にシフト してきているといえる。 11 続いて 2010 年における、セグメント分析を行う。 <図表 23-1>資生堂セグメント別売上高 <図表 23-2>コーセーセグメント別売上高 コーセーのセグメント別 売上高 資生堂のセグメント別売 上高 国内化粧品事業 その他の事業 3% 化粧品事業 海外化粧品事業 コスメタリー事業 その他の事業 2% 26% 36% 61% 72% 〈図表 24-1〉資生堂セグメント別営業利益〈図表 24-2〉コーセーセグメント別営業利益 資生堂のセグメント別 営業利益 国内化粧品事業 その他の事業 コーセーのセグメント別 営業利益 化粧品事業 海外化粧品事業 コスメタリー事業 その他の事業 4% 5% 4% 18% 78% 資生堂 91% 海外化粧品事業の売上高においては 36%だが、営業利益は 18%である。これは、 為替レートが円高に推移したことによるものである。 コーセー コスメタリー事業の売上高においては 26%だが、営業利益においては 5%である。 これは主力となるブランドのリニューアルや積極的な広告宣伝・販売促進活動を実施した ことにより売上高が大きくなったが、一般管理費も大きくなったため営業利益が減尐した と考えられる。海外事業は、化粧品事業に含まれる。化粧品事業に含まれる商品は、化粧 品専門店と百貨店を中心にカウンセリングによる販売をしている。コスメタリー事業に含 まれる商品は、量販店やドラッグストアなどを通じて、多くの方に優れた品質の製品を提 12 供している。 両社 海外事業を強化するために商品戦略をアジア一体型に転換し始めた。これまで化粧 品は気候や人種の肌条件によって嗜好が変わる上、薬事規制が国によって異なるため、日 本での発売から半年~1 年程度遅れて、アジア市場へ新商品を投入していた。日本の化粧品 は品質面などでアジアの消費者にも信頼度が高いが、流行に左右されやすい商品のため、 発売時期が遅いと顧客を取り逃す恐れがあり、インターネットなどで情報を得た現地消費 者からも発売の早期化を求める声があったのだ。現在はこうした条件をあらかじめクリア できるように商品を共通化、海外での投入時期を早めた。発売時期や商品内容に関する現 地のニーズに応えることで、海外市場の開拓を急いでいる。 次に 2006 年を基準年(100%)としてセグメント別の売上高と営業利益の推移をみてい く。 <図表 25-1>資生堂のセグメント別売上高の推移 資生堂 2007年 国内化粧品事業 海外化粧品事業 その他の事業 連結 100 100 100 100 2008年 2009年 2010年 98 92 88 118 116 106 88 62 35 104 99 93 ※2007 年より「海外化粧品事業」ができたため 2007 年を基準年(100%)とした。 <図表 25-2>コーセーのセグメント別売上高の推移 コーセー 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 化粧品事業 100 100 101 100 95 コスメタリー事業 100 98 104 105 107 その他の事業 100 96 89 76 70 連結 100 99 101 100 97 <図表 26-1>資生堂セグメント別営業利益の推移 資生堂 2007年 国内化粧品事業 海外化粧品事業 その他の事業 連結 100 100 100 100 2008年 2009年 2010年 117 90 107 176 148 90 89 66 76 127 100 101 <図表 26-2>コーセーセグメント別営業利益の推移 コーセー 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 化粧品事業 100 83 91 81 66 コスメタリー事業 100 31 41 4 18 その他の事業 100 75 85 94 111 連結 100 70 78 63 52 資生堂 国内化粧品事業の売上高が低下しているに対し営業利益が上昇している。理由は、 13 マーケティング費用をはじめとする販売費及び一般管理費の効率化によるものである。 2009 年から 2010 年にかけては、その他の事業の売上高の減尐にくらべて営業利益が上昇 しているのは、ザ・ギンザのブティック事業からの撤退により売上高は減尐したものの収 益性は向上したことによる。 コーセー コスメタリー事業の売上高の上昇に対し、営業利益が極端に減尐しているのが 分かる。これは取扱店舗数を拡大し、積極的な広告宣伝・販売施策を展開した結果売上高 が拡大し、新ブランド導入費用、営業費用の増加により営業利益が低下しことによる。 <図表 27-1>資生堂地域別売上高 2006 <図表 27-2>資生堂地域別売上高 2010 地域別セグメント売上高 2010 地域別セグメント売上高 2006 日本 日本 9% 16% 13% アメリカ アメリカ 13% 8% 70% 欧州 8% 63% アジア・オ セアニア アジア・オ セアニア コーセー 欧州 日本での売上高が 90%を超えるため所在地別セグメント情報を省略する。海 外市場においてはアジア市場が中心である。日本の消費者調査だけを基に製品を開発して いた体制を改め、2010 年の新製品は中国や東南アジアでも調査を実施した。日本で展開す る「コーセー」ブランドの商品群を 3 分の 1 に絞る一方、国内線用の「インフィニティ」 を 2010 年秋、アジアに初めて導入する。 資生堂 図表 27 は本社及び連結子会社の、所在地別に区分した外部顧客に対する売上高 をグラフにしたものである。資生堂は 2005 年から 2007 年にかけて実施した 3 カ年計画、 2008 年から 2010 年にかけて実施した 3 ヶ年計画「グローバルブランドの育成強化」、 「中 国事業のさらなる展開」を実現させる課題に対応させたのが分かる。為替の影響もあり海 外売上高比率の向上は滞り気味である。2010 年 4 月、ベトナム工場を稼動した。将来は同 拠点を活用して東南アジア地域の中間層を開拓していく方針である。 7、総合評価について 14 締めくくりとして、株価純資産倍率(PBR)と株価収益率(PER) 、株価を分析していく。 <図表 28>資生堂とコーセーの PBR・PER・株価(単位:倍、円) 株価純資産倍率(PBR) 資生堂 コーセー 株価収益率(PER) 株価(取引値) 2.1 21.69 1.835 1.14 22.4 1.989 (2010 年 8 月 25 日現在) <図表 29>資生堂とコーセーの株価収益率の推移 PER は現在の株価が一株あた りの利益の何倍かを知ることが 出来るもので、コーセーが資生堂 を上回っている。2010 年はコー セーの方が資生堂を上回ってお り、資生堂は下降傾向にある。株 価はコーセーが上回っている。 また PBR は、現在の株価が一株 あたりの株主資本の何倍かを知 ることが出来るもので、資生堂が コーセーを上回っている。 最後に、これまでの分析についてまとめをする。まず収益性に関しては、総合的にみる と資生堂の方が優れていることが分かった。安全性に関しては、短期・長期の支払い能力 共にコーセーの方が優れているのが分かった。続いて、効率性・生産性においては、棚卸 資産回転率と有形固定資産回転率では資生堂が優勢であるが、売上債権回転率と投資その 他の資産回転率ではコーセーが優勢であったためどちらが高いとは言えない。成長性では、 総合的にみると資生堂がコーセーを上回っていることが分かった。また、グループ経営分 析では、コーセーはグループ全体で収益を生み出していく体制にシフトしてきているとい える。 以上の財務分析結果からは、資生堂がコーセーよりも優れていると判断することが出来 る。2010 年ベアエッセンシャル社買収投資、ベトナムでの新工場建設が今後どう結果を出 せるか期待が集まっている。しかし、安全性分析はコーセーが資生堂を上回り、効率性・ 生産性・グループ経営分析は両社あまり変わらないので必ずしも資生堂が優れているので はなく両社にあまり大きな差がないのが分かる。 <今後の動向> 化粧品業界はグローバル規模で競争が激しくなっている。成熟した国内市場での限られ 15 たシェアをめぐって同業者との競争激化をはじめ他業界からの新規参入など競争環境がま すます激しくなることが予想されている。現在両社ともにアジア市場に力を入れているが 中低価格帯では豊富なブランド群を持つ仏ロレアル、米プロクター・アンド・ギャンブル のシェアが高い。高価格地帯に強みを持つ資生堂は台湾やタイなどでは欧米大手を上回る 存在感を見せているが、コーセーの売上高は数 10 億~100 億円の規模にとどまっている。 2010 年コーセーは日本より先に台湾や韓国など 9 カ国・地域で中価格帯ブランドを発売し た。顧客を取り逃さない狙いである。資生堂は、日本向けと海外向けの商品を開発する部 門間の人事交流を活性化させ、アジア地域での流行調査も強化している。現地の消費者ニ ーズを商品の設計段階から取り込む試みである。2010 年 4 月ベトナム工場を稼動した。資 生堂の投資は成功するのか、コーセーは海外売上高を伸ばせるのか、今後に注目が必要で ある。 参考文献 伊藤邦雄「ゼミナール現代会計入門(第 8 版)」 Yahoo! ファイナンス http://gyokai-search.com/ 業界 SEARCH.com http://gyokai-search.com/ 資生堂ホームページ http://www.shiseido.co.jp/ コーセーホームページ http://www.kose.co.jp/jp/ja/index.html スタンダード&プアーズホームページ http://www.standardandpoors.com/home/en/us 16
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