共同声明 ムスリムと日本の宗教者との対話プログラム

共同声明
ムスリムと日本の宗教者との対話プログラム
――平和のための共通のヴィジョンを求めて――
2015 年4月 9-10 日
ヒジュラ歴 1436 年 Jumada/Alakhira 20-21 日
2015 年 4 月 9~10 日、イスラーム暦 1436 年 6 月 20~21 日、日
本の首都東京において、サウジアラビアおよび日本を含む数多くの
アジア諸国のムスリムの学者および有識者と日本の仏教、神道、教
派神道およびキリスト教などの指導者が参集した。ここにおいて、
「ムスリムと日本の宗教者との対話プログラム――平和のための共
通のヴィジョンを求めて」をテーマとする本大会に一堂に会した参
加者は、平和のための共通のヴィジョンを探求した。本大会は、世
界イスラーム連盟と世界宗教者平和会議日本委員会が日本ムスリム
協会の協力を得てこれを共催した。
本大会の参加者は、人類の共存の発展と向上の道を求めて議論し、
世界の平和と公正の実現に向けて協働することの願いを共にした。
また、崇高な人間的諸価値を強化し、かつこれを広く教化するため
に共に協力し合うことを誓った。さらにまた、文明、宗教、文化お
よび宗派を異にする人々の間の敵意と憎悪の文化を拒否することに
ついても意見の一致をみた。さらにまた、本大会の開催は、テロリ
ズムの諸現象が増大し、世界の関心がこれに向けられている中、イ
スラームが平和の宗教であるとのメッセージについて相互の理解を
深めるために行われた。
本大会は、以下のとおり宣言する。
イスラームと平和
1. 世界には種々様々な相違があるが、それは紛争や分裂を惹き起こ
すものではない。文明が数多く存在するのも、文明や人種や文化
が多様であるのも、人間の思想や生活の豊穣さを促すものとすべ
きである。対話によってこそ、紛争から理解と協力と融和の道が
可能となろう。豊かな人間的な文明の構築は、健全かつ強力な協
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力の上に築かれねばならない。それ故、こうした努力を積み重ね
ることによって公正の実現と相互の平和の維持に力を尽くさなけ
ればならない。
2. 本大会は、イスラーム国(ダーイシュ)やアルカイダ、イエメン
のフーシ等の過激派の諸組織が犯している暴力行為や殺戮行為が
イスラームの平和と慈悲の教えに反するものであるとして、これ
を非難する。イスラームは慈悲と平和を呼びかけ、人間の尊厳を
擁護するものである。イスラームは、精神、名誉および資財の神
聖性を守るものである。聖クルアーンにおいて、アッラーは次の
ように言われている。
「人を殺した者、地上で悪を働いたという理由もなく人を殺す者
は、全人類を殺すのと同じである。人の生命を救う者は、全人類
の生命を救ったのと同じである。」
(食卓章 32)
「本当にアッラーは公正と善行、そして近親に対する贈与を命じ、
またすべての醜い行いと邪悪、そして違反を禁じられる。かれは
勧告している。必ずあなたがたは訓戒を心に留めるだろう。」
(蜜
蜂章 90)
イスラームとテロリズム
3. テロリズムとの戦いは、イスラームを名目として戦うことでも、
イスラーム嫌いを広めるものであってもならない。それは、先ず
何よりもイスラーム諸国、学者・有識者および諸組織との協力を
得て行われるべきものである。さらにまた、テロリズムと戦う最
善の道は、テロリズムの諸原因を除去することである。そのため
には、ムスリムがテロリズムの諸原因を偏見にとらわれることな
く公正に取り組むうえで受けている彼らの苦しみを緩和すること
から始めなければならない。世界が飢餓、包囲攻撃、破壊および
ムスリムを標的とする殺害行為を進める諸政策について、これを
座視することは許されるべきではない。そしてまた、公正を実現
し、罪なき弱き人々に対する不公正を排除する行為についても、
いささかの遅延も許されるべきではない。
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4. 我々は暴力的な急進主義者の組織が出現した背景にある要因につ
いて、また人間の狂気が生み出される原因について知らなければ
ならない。同時に、狂気の原因について深い洞察力を持ち、この
問題が他人のことではないことを内省しなければならない。
5. 本大会は、2015 年 2 月 22~25 日、イスラーム暦 1436 年 5 月 3
~6 日、世界イスラーム連盟が開催した「イスラームとテロリズ
ムとの戦い」会議で出された最終声明を支持するものである。
6. 本大会は、サウジアラビア王国、湾岸諸国およびその同盟国がイ
エメン国民の受け入れ可能な政治的解決を求め、イエメンのフー
シテロリストに対してとった一連の措置について、これを認識す
る。
宗教と平和
7. 宗教は人間の精神性を高め、言動を整え、人間生活を真理に適う
よう導き、諸々の価値を堅固に守り、崇高な社会的行動を助長さ
せることを求める。それ故、本大会の参加者は、宗教が平和な社
会と世界の実現に向け強力な推進力となるものと確信し、平和の
実現に努力することを決意した。
8. 宗教は、政治的野望や利己的な私益に煽られた紛争やテロリズム
の原因となってはならない。宗教指導者は、偏愛や差別を排し、
世界的な公正の必要性を強調してきた。軍備の競争や核兵器・生
物兵器の兵器庫の世界は終わりを告げなければならない。これは
人類に対する深刻な脅威である。こうしたことは、統一された国
際基準に従って履行されねばならない。
9. 本大会の参加者は、諸宗教の諸々の組織に対し、人権を擁護し、
安全、自由、公正および福祉に関わる人々の権利に対する尊重を
強化するよう呼びかける。そのためには、宗教的・人種的少数者
を保護するさらなる努力が払われなければならない。特に宗教
的・人種的少数者の保護については、それぞれの国において、そ
のための発展・向上計画が策定されねばならない。その場合、そ
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の宗教的・文化的・社会的アイデンティティーの保全を可能とす
るよう配慮が払われなければならない。
人間の尊厳と表現の自由
10.
人類は、人種や出自や文化のいかんを問わず、等しく人間と
しての尊厳と人権を有している。それ故、本大会の参加者はあら
ゆる形態の人種差別や文化的優越性の主張を拒否するものである。
11.
我々は、すべての宗教が全人類のための平和と慈悲の宗教で
あることを確信する。宗教は人類が協力して文明を創造し、さら
に発展させてより良き成果が得られるように求めている。環境と
自然は汚染や諸々の危険から保護されねばならない。資源は、将
来の世代の権利を守るためにこれを適正に活用しなければならな
い。
12.
表現の自由の尊重は、最も重要な権利の一つであるが、表現
の自由は宗教および宗教的象徴を冒瀆することを許すものではな
い。
「表現の自由」を名目に、暴力によって自己の目的を表現する
行為は、国際社会たると国内社会たるとを問わず、決して受け入
れられるものではない。本大会は、こうした行為を非難し、これ
が暴力、憎悪および平和に対する脅威を呼び起こすものと考える。
それ故、これらの行為はまた敵意と報復の大波の原因となり、宗
教共同体の緊張という妖怪を呼び覚ますものになる。
教育とメディア
13.
国際社会たると国内社会たるとを問わず、人々の間で対話の
扉を開けることは、今や人間として、また社会としても必要なこ
とである。宗教や文明や文化に従事する人々がメディアや教育の
分野で共存の問題を広く世に伝えるために対話を活用しなければ
ならない。
14.
宗教教育については、学校や家庭や社会において、それにふ
さわしい関心が払われなければならない。宗教教育は、人格を陶
冶し、崇高な価値を促進するものであり、その役割は維持されね
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ばならない。さらに、人々の間に建設的な対話を推進するために
も、その役割は重視されなければならない。
15.
メディアは、平和と相互理解の文化を広めることに関心を払
うべきである。メディアが研究調査を必要とするテーマを取り扱
う場合には、正確かつ客観的でなければならない。メディアが人
類社会に重要な影響を与える問題を取り扱うときは、適正な証拠
に基づいてこれを行なわなければならない。マルチメディアは、
テロリズムと、それを犯した犯行者の宗教を結びつけることは厳
に避けなければならない。
今後の行動に向けて
16.
人間社会の相互の関係を強化することは、これを助長してい
かなければならない。我々は過去の歴史的経験から学び、世界平
和の推進にこれを役立てなければならない。また徳の倫理は、深
くこれを社会に根付かせねばならない。
17.
我々は、災害とそれがもたらす不幸な結果に対処し、さらに
貧しい人々が貧困、疾病、疫病から脱することができるよう、世
界に向けて連帯の絆を強めるよう呼びかける。我々は、難民や避
難民に思いをはせ、国連諸機関をはじめ諸慈善団体等と共に、人
道的支援をさらに一層継続することを確認する。こうした諸々の
問題に対し公正な解決策を見出すよう、真摯な努力が払われなけ
ればならない。
18.
本大会の参加者は、世界イスラーム連盟と世界宗教者平和会
議日本委員会に対して、真の聖なるメッセージとは何か明らかに
する会議を開催するよう協力することを求めた。さらに、人類の
文化と文明は、人間の尊厳に対して深い関心と注意を払っている。
こうしたメッセージは社会の安全と安定を促進し、急進主義やテ
ロリズムから社会を守るものである。
19.
本大会の参加者は世界イスラーム連盟に対して、セクト主義
に立ち向かい、セクト主義が世界平和に与える影響を解明する国
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際会議の開催を要請した。
本大会の参加者は、サウジアラビア王国がイエメンの安全と安定、
およびイエメンの国民の一致に対し望む真摯な願いに対して謝意を
表した。さらにまた、本大会の開催に際し、日本国政府と同国外務
省のお力添えを頂いたことに対し謝意を表した。
本大会の参加者は、世界イスラーム連盟および世界宗教者平和会
議日本委員会並びに日本ムスリム協会が本大会の開催に対し深甚の
協力を惜しまなかったことに対し、感謝と評価を表明した。
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