第 10 分科会 多文化サービス 図書館の多文化サービスは,いま 基調報告 多文化サービスの動向,この一年:多文化サービス実態調査結果を中心に 平田泰子(日本図書館協会多文化サービス委員会委員長) 報 告 国際交流基金関西国際センター図書館における多文化サービス 浜口美由紀(国際交流基金関西国際センター図書館司書) 報 告 韓国・朝鮮と日本をむすぶ図書館:文化センターアリランの活動について 宋富子(文化センターアリラン副理事長) 分科会概要 昨年から今年にかけて,各地で頻発するテロ,それに関連した難民・移民の排斥運動が,世界中で報道 されない日がないくらいです。移民・難民受け入れで知られた国でも,彼らを制限する方向に向かいつつ あります。イギリスの国民投票による EU 脱退の例にも見られるような,右か左か,イエスかノーかとい う極端な2極に分断される状況は,ある種の危険な兆候を感じざるを得ません。 日本に住む外国人は今や 200 万人を超えました。日本でもヘイトスピーチに見られるような特定の民族 を対象にした排斥の動きがみられます。地域に住む人々が人種・国籍・文化・言語・民族の違いを認め合 い,互いを尊重する社会の実現を目指す図書館の多文化サービスは,そのような状況でますますその意義 を深めていると思います。 多文化サービス委員会では昨年 17 年ぶりに「多文化サービス実態調査」を実施しました。調査結果か ら,日本における多文化サービスの実情・問題点・今後の方向とともに,実際に取り組んでいる図書館の 事例を紹介します。 (日本図書館協会多文化サービス委員会) 1 / 第 10 分科会 多文化サービス 基調報告 多文化サービスの動向,この一年:多文化サービス実態調査結果を中心に 平田泰子(日本図書館協会多文化サービス委員会委員長) はじめに 日本に在住する外国人の数は,法務省入国管理局の統計によると,2008 年末の約 221 万 7 千人をピー クに一時減少したが,2013 年末の統計から増加に転じ,2015 年末には約 223 万 2 千人と過去最高になっ た。また,ブラジル人の減少に代わってここ数年ベトナム人とネパール人の増加率が顕著である。さらに, 国籍による統計上の数字では現れてこない外国に繋がりのある子どもや日本人の配偶者などを含めれば, その数字はもっと多いというということも忘れてはならない。 ヘイトスピーチに見られるような排外主義を無くし,地域に住む人々が,人種・国籍・文化・言語・民 族の違いを認め合い,違いを尊重する社会の実現を目指すことが,世界の平和や文化の創造に不可欠であ る。 図書館は,多言語による情報提供,日本語が母語でない児童・生徒への学習支援,住民の交流の場な ど,行政や他の機関と連携して地域社会のために活動することが求められている。 1. 日本図書館協会多文化サービス委員会 1 年間の活動 1-1. 図書館大会 多文化サービス委員会は,昨年度の第 101 回全国図書館大会東京大会において, 「多文化共生と図書館 の役割」をテーマに掲げ,半日の分科会を単独開催した。 まず,多文化サービス委員会の 1 年間の活動報告,とくに実態調査の実施と「留学生等への図書館サー ビスに関する調査」の集計結果概要を委員長が紹介した。続いて自治体の多文化共生政策と図書館の役割, および図書館の地域に向けたサービスの取り組みと課題について 2 件の発表を行った。 最初に個別の事例として,鳥取県立図書館の国際交流ライブラリー・環日本海交流室の取り組みを安藤 理恵氏が報告した。次に,平成 26 年度国立国会図書館で開催された「アジア情報関係機関懇談会」 (テー マ:「多文化共生施策と図書館の多文化サービス」)の内容紹介とともに,懇談会で提示された課題に対す る関西館アジア情報課の取組みについて水流添真紀氏が発表した。分科会の締めくくりとして,全体討議 を設定し,会場からの質問や意見交換を行った。 1-2.IFLA 1986 年以降,継続して IFLA 多文化社会図書館サービス分科会に常任委員を送ってきた。JLA 多文化 サービス委員会では,IFLA 分科会の出版物等の翻訳・出版を行うほか,全国図書館大会における多文化 サービス分科会の記事などを,IFLA 分科会のニュースレターに投稿する情報発信活動も併せて行ってい る。今後も「IFLA/UNESCO 多文化図書館宣言」の普及に向けた同分科会の取り組みと連携した活動を進 めていく。 今年の IFLA 大会は,アメリカ・オハイオ州のコロンバス(8 月 13 日~19 日)で行われ,大会のポスタ ーセッションで,昨年実施した「多文化サービス実態調査」について発表した。1986 年の IFLA 東京大会 から 20 年後の 2006 年ソウル大会では,ポスターセッションで「日本の多文化サービス」について発表し, それから 10 年後の 2016 年にこのポスターセッションに参加できたことは非常に意義深い。 昨年度 IFLA 先住民問題(Indigenous Matters)SIG が,分科会に昇格した。国際交流事業委員会と共 同で日本図書館協会に分科会へのメンバー登録を働きかけたこともあり,新しい分科会との関係を維持し 2 / 第 10 分科会 多文化サービス 他国の実情を学ぶために日本からも委員を送ることができればと考えている。 2.多文化サービス実態調査(公共図書館)結果概要 多文化サービス委員会では,2013 年度より実態調査の実施に向けて検討を進め,1988 年・1998 年に続 く第 3 回目の「多文化サービス実態調査」昨年度行うことができた。 昨年の図書館大会では,調査を終了したばかりの「留学生等への図書館サービスに関する調査」の集計 結果概要を報告し,また今年の『図書館雑誌』9 月号に公共図書館調査も含めた中間報告を投稿した。今 回は中間報告とは別の切り口で公共図書館調査集計結果の一部を紹介する。 2-1.調査方法・回収結果 調査は,2015 年 10 月 9 日から 11 月 30 日(但し入力期限を 12 月 20 日まで延長した)にかけて実施 した。各自治体の中心館にアンケート用紙を郵送し,Web 入力,メール,Fax,郵送の形で回答を受け付 けた。自治体内の多文化サービスを実施している地区館には中心館から回答を手配してもらえるよう依頼 した。調査内容は,できるだけ回答する図書館の負担を減らすために,第 1 部(基本的質問)第 2 部(詳 細質問)に分けて実施し,回収結果は以下のとおりである。 ・回答館数:第 1 部の回答館数 1182 第 2 部の回答館数 1128 ・設置主体別の回答館数 自治体数 回答館数 都道府県 特別区 政令市 45 19 19 50 53 85 市 町村 合計 579 343 1005 645 349 1182 *アンケートの発送件数は 1,366 であるため,発送件数に対する回答率は約 73.6%になる。 2-2.多文化サービスの課題等 在住外国人への図書館サービスについては,地域の状況も様々であり,また,直面する課題も多い。 「該 当する点(複数回答可) 」 (第 1 部問 7-6)の回答結果を多い順に並べると次のとおりである。 ①地域の外国人ニーズが不明:847 館 少ない:541 館 ②職員の外国語対応能力が不足:800 館 ④外国語図書の選書発注が困難:520 館 の整理が困難:366 館 ⑤図書館の PR 不足:513 館 ⑦電算入力できない文字がある:357 館 館 ⑨外国人は図書館に来ない:158 館 ③資料費がない・ ⑥外国語図書 ⑧資料購入ルートの確保が困難: 305 ⑩日本語の資料で満足しているようだ:84 館 ⑪地域に外国人 が住んでいない:19 館 2-2-1.地域の外国人ニーズが不明 『多文化コミュニティ:図書館サービスのガイドライン』第 3 版(IFLA 多文化社会図書館サービス分 科会刊)では,在住外国人コミュニティの分析とニーズ評価を推奨している。しかし, 「在住外国人の図書 館ニーズを把握するために,当事者との懇談会や要望調査等を行ったことがありますか(複数回答可)」 (第 1 部問 6-6)に対する回答は, 「自治体・外郭団体主催の懇談会に参加」 (17 館), 「図書館で主催したこと がある」 (9 館), 「民間団体主催の懇談会・調査等に参加」 (5 館)に比べて, 「事例がない」が,1,019 館 3 / 第 10 分科会 多文化サービス (86.2%)と突出しており,在住外国人のニーズを把握する調査が不可欠であるにも関わらず,実際には ほとんど行われていないことがわかる。前回調査でも,回答数 329 件に対して「事例がない」と答えてい るのは,93.9%に上っている。 2-2-2.職員の外国語対応能力が不足 「外国語で簡単なカウンター対応ができる職員の有無」 (第 1 部問 2-3)では, 「いない」 (690 館) , 「い る」 (479 館) ,であった。全体の約 40%の図書館が外国語での対応ができると答えているが, 「実際に対応 できる言語(複数回答可) 」としては,圧倒的に英語(457 館)であり,次に中国語(55 館)韓国・朝鮮語 (38 館)と続く。 文化的・言語的マイノリティーにサービスするためには,その文化や言語に精通した人を採用すること が望ましいとされている。その理由として,1)当該言語・文化に関する知識・技能,2)母国とのつな がり,3)マイノリティ・コミュニティとの連携,4)マイノリティ・コミュニティへの PR などの点で, 多文化サービスを推進するにあたっての一番の近道だと考えられるからである。( 『多文化サービス入門』 p.76) 「日本国籍を持たない方や日本語が母語でない方が図書館にいますか」 (第 1 部問 2-2)という質問に対 して, 「いる」と答えた館は,正規・非正規・委託・ボランティアを含め全体で 31 館,回答館全体の 2.6% と非常に少なく,前回調査と比較しても,ほとんど変化はない。 2-2-3.図書館の PR 不足 「貴自治体では,在住外国人のための『母語による生活情報ガイド』を発行していますか」 (第 1 部問 75)に対して, 「発行していない」 (551 館) , 「発行している」 (406 館) , 「わからない」 (197 館) ,という回 答結果を得た。また, 「発行している言語についての質問(複数回答可) 」 (第 2 部問 7-5-2)に関しては多 い順に,①英語:384 館 イン語:135 館 ②中国語:351 館 ③韓国・朝鮮語:271 館 ④ポルトガル語:195 館 ⑤スペ ⑥やさしい日本語:121 館,となった。 しかし, 「発行している『生活情報ガイド』の中に図書館についての記述・紹介はありますか」 (第 2 部 問 7-5-3)という問いには, 「ある」 (213 館), 「ない」 (170 館) , 「わからない」 (50 館) ,となり,せっか くの PR 手段であるにも関わらず,自治体の「生活情報ガイド」がすべての図書館で活用されているわけ ではないことがわかる。 (*この『生活情報ガイド』には冊子・Web なども含む。 ) 2-2-4.外国語図書の整理が困難;電算入力できない文字がある 情報通信技術の発達により,多言語を扱えるシステムが導入されるようになってきたが,公共図書館で は今なおそうではない状況がある。 「貴館の図書館システムは外国語資料の目録作成に対応していますか」 (第 2 部問 4-1)に対する回答で は, 「表記通りに入力できる」と答えた 336 館に対して, 「表記通りに入力できない言語がある」と答えた のは 641 館と約倍近い。表記通りに入力できない言語としては,①韓国・朝鮮語資料 体字)③中国語資料(簡体字)④ロシア語などのキリル文字の資料 ②中国語資料(繁 の順になるが,どれも 500 館以上が 入力できないと回答している。 「表記通り入力できない言語資料についてはどのように処理していますか(複数回答可) 」 (第 2 部問 4- 4 / 第 10 分科会 多文化サービス 3)に対する回答は以下のとおりである。 まず「コンピュータに入力」するばあいは,①日本語に翻訳して入力(原音読みのカナ表記も含む) :421 館 ②翻字して入力(ピンインもここに含む) :224 館 ③「○○語図書△番」などの形で入力:46 館 ④ その他:108 館,となった。 次に「コンピュータ以外の方法で処理する」場合は,①受入れリストで管理:18 館 理:7 館 ③カード目録で管理:4 館 ②表紙コピーで管 ④その他:16 館,となったが,殆どの場合,何らかの形でコンピ ュータ処理されるようになっていることがわかる。 また, 「外国語資料の目録作成にあたり,外部データを,参照・利用していますか」 (第 2 部問 4-4)への 回答では, 「利用・参照している図書館」は 763 館で,その「参照・利用している外部データに関する質問 (複数回答可) 」で,もっとも多いのが, 「市販 MARC 等」 (624 館)であり,次いで, 「国立国会図書館の 目録データ」 (401 館), 「国立情報学研究所の目録データ」 (123 館) , 「業者・書店作成の目録記述(カー ド等)を利用」 (106 館)となっている。 2-2-5.その他 その他の課題である資料購入ルートの確保については,『多文化サービス入門』に書店リスト(言語別) の情報があるが,今後も継続的に情報の更新が必要である。また,多文化サービスを図書館単独で行うの は難しいため,様々な協力や連携例も含めすぐれた実践例などを紹介していくことがこれからの課題と言 える。 3.実態調査結果報告書に向けて 現段階では,単純集計の域を出ていないが,報告書作成に向けてさらに分析を深める必要がある。次は 地域の在住外国人数の状況や各自治体の政策などともクロスした分析を進め,地域の実情と図書館サービ スがどのように呼応しているのかについても検証を進めていきたい。また複数回答可とした質問,特に, 複数言語でサービスを提供している図書館はどのくらいあるのかなど,単純集計だけでは見えない実態を 反映させたものにしなければならないと考えている。 5 / 第 10 分科会 多文化サービス 報 告 国際交流基金関西国際センター図書館における多文化サービス 浜口美由紀(国際交流基金関西国際センター図書館司書) 国際交流基金関西国際センター図書館について 国際交流基金の日本語研修施設として,1997 年 5 月大阪府泉南郡田尻町に日本語研修施設「関西国際セ ンター」が設立された。センターでは,海外の様々な国の外交官,公務員,司書や日本研究を行う研究者 などを日本に招へいし,それぞれの職務や研究に役立つ専門日本語の研修を行なっているほか,海外の日 本語学習者を奨励する日本語学習者訪日研修を実施している。当館は同施設の 2 階に位置し,研修参加者 に対して図書館サービスを行っている。主に外国人である研修生を対象としており,多文化サービスは日 常の業務の柱となっている。 年間約 20 以上の研修実施,参加者数は約 500 人。蔵書約 51,000 冊(日本語 68%,外国語 32%) ,雑誌 295 タイトル(日本語 155,外国語 140) 。2016.3 末現在 収集資料 1. 「日本」や「日本人」を紹介する資料(多言語) 2.参考図書の充実(各国語の語学辞典) 3.各分野の基本図書の充実 4.研修参加者の出身地を紹介した日本語資料 5.日本人作家の翻訳版の小説・エッセイ 6.文化プロブラムに応じた資料 1.多文化サービスの実践 1.1.館内外サイン表示 図書館で使用するサインは,漢字にふりがなをつけた日本語と英語を基本としている。カタカナ標記の 国名の場合はひらがなを併記している。書架見出しには,項目名の日本語・ふりがな,英語,分類を記載。 館外の展示のお知らせも全て日本語・ふりがな,英語併記。 1.2.カウンター周辺 カウンターは図書館入口に面しており,入館者には声をかけている。カウンター前に椅子を2脚設置。 利用者にとって外国語である日本語での会話は,緊張を伴うため落ち着いて話せるように椅子を設置して いる。予約や資料貸借依頼などの申込用紙は,漢字にふりがな,英語併記している。 「借りる」 「返す」 「延 長する」の基本的なカウンターでの用語を間違える人が多いために,カウンター上でこの用語の使い方を 提示している。 1.3.図書館オリエンターション オリエンテーションは全ての研修参加者に実施。外交官・公務員研修は英語で,その他は日本語で行っ ている。配布資料は,日本語・英語併記で図書館利用が分かりやすいようにイラストを多用している。10 数人単位の短いライブラリーツアーを行っている。 6 / 第 10 分科会 多文化サービス 1.4.分類 NDC9 版を使用。図書館オリエンテーション時に日本の図書館では主に NDC が使われていることを説 明。多くの参加者は DDC,CLC(中国) ,KDC(韓国),BBK(ロシア)に慣れており,NDC が理解しや すいように館内に NDC の大型パネルを設置し,当館 OPAC 上にも日本語と英語を表記している。 1.5.読書相談からレファレンスへ 日本に関連する研究テーマを持つ大学生・院生・研究者は積極的にカウンターに来て多様な質問を行う 人もいる。その一方,カウンター職員は資料の出納だけを担当している国もあり,質問する場所ではない と認識している人も多い。カウンターにいる私達司書は,何か探す様子の利用者には声をかけている。そ こから読書相談が始まり,レファレンスにつながっていく。 日本語と英語以外の本の背のラベルの下に,その本の言語シールを貼付している。レファレンスの時, 利用者が求めるテーマの書架に案内し対象となる本の言語シールを見て即座に提示できるように活用して いる。 1.6.日本を紹介する多言語資料 主な収集対象は日本に関する多言語資料であり,可能な限り多言語資料の入手を行っている。入手方法 は, 1.専門言語資料を取り扱う代理店を利用 2.国際交流基金・翻訳出版助成の成果物の収集 年間約 30 タイトル 約 30 言語 3.国内出版物の中の外国語図書を選書 国内の出版社による日本語と外国語併記の本の出版件数が増えている。ガイドブック以外にも日本の伝 統や現代日本が分かるビジュアルな内容の本が多い。外国人観光客の増加や東京オリンピック開催の影響 とも思える。 1.7.自治体発行の観光パンフレット 自治体発行の観光パンフレットは多言語版が作られている。外国人観光客へ向けて地域の名所,美しい 景観,歴史などの地域情報が写真と共に満載である。国内情報発信の重要なツールになる。当館では,県 単位で情報ボックスを作成している。英語・中国語・韓国語以外にもタイ語,インドネシア語,フランス 語,ドイツ語,スペイン語などの言語が増えている。 1.8情報検索ガイド 研究活動に役に立つ日本の Website ガイドを PC ルームで実施している。当館 OPAC, CiNii Books, CiNii Articles,大阪府立図書館 OPAC, NDL-OPAC, researchmap と当館契約の新聞 DB,ポプラディア ネットなどを紹介後,参加者は実際に検索を行う。配布資料も日本語・英語併記で,掲載する文字を少な くしている。各 Website の English Version の有無も同時に紹介。 7 / 第 10 分科会 多文化サービス 1.9.日本語多読図書 利用者からは,日本語学習のレベルに対応した日本語の読み物の要望が多い反面提供できる本が少なか った。 入門・初級レベルの日本語多読用図書を職場の日本語教師と司書が,大阪や当センターでの研修生活に 関連する話題を中心に 1 冊約 10 ページの本を作成した。 やさしい日本語で書かれており,1 冊読み終わった達成感もあって,非常に利用が多い本となっている。 現在も引き続き制作中である。作成した本をダウンロードして使用できるように Website 上で公開してい る。http://www.jfkc.jp/clip/yomyom/index.html 2.情報シェア 2.1.図書館 Website 上で情報提供 カーリルを利用して当館の図書館活動で得た情報を必要な人に共有できるようにテーマ別のブックリス トを作成している。 1.おすすめテーマ別資料リスト ・・・公共図書館向け。国内で入手できる外国語の本も数多くリストアップ。 2.おすすめ日本語テキストリスト ・・・公共図書館向け。日本語教科書のリスト。 3.日本研究のための情報検索リンク集 ・・・外国人研究者・院生・大学生向け。 4.海外図書館のみなさまへ ・・・海外の図書館で選書・目録・分類の担当の外国人司書向け。 2.2.図書『図書館のしごと : よりよい利用をサポートするために』出版 平成 19 年度まで海外の図書館に勤務する外国人司書の日本語研修が実施されており,外国人司書が関 心を持つ日本の図書館業務などを含めた司書向けの研修教材が作成されていた。研修教材をもとにしたテ キストを出版した。日本の図書館に関する基礎的な内容から実務に関する情報まで幅広く取り上げている。 3.図書館の中の日本語 当館は日本語教育機関内の図書館という特殊な環境であるため,できるだけ日本語で対応している。司 書が話す日本語はゆっくりと分かりやすい言葉に変換して話すように心がけている。利用者は,会話中に 理解できない日本語に直面すると顔の表情が変化するので,即座に日本語の言い換えを行っている。特に 敬語や丁寧語は日本語学習者には難易の高い日本語であり,極力使用しない。「お名前」 「ご記入下さい」 「ご覧になられますか」等。 NDC 分類は,本表の第3次区分までは英語が併記されている。しかし,多くの図書館の OPAC の分類 項目には英語併記を見ることが少ない。また,項目の日本語もふりがながないので,理解しにくいところ がある。 8 / 第 10 分科会 多文化サービス 4.参加者の図書館経験を知る 図書館オリエンテーションで貸出冊数や貸出期間,貸出対象資料,相互貸借など日本の図書館サービス の基本を説明すると,参加者は図書館利用経験が異なるためか,驚かれることが多い。学部生が母国で大 学図書館を利用する時は貸出 2~3 冊が主流,延滞は罰則金の支払い義務がある国が多い。出納係の職員 がカウンターに座り,質問できない図書館も多いようである。身近に公共図書館がない地域から来た参加 者もいて,図書館利用に不慣れな様子である。 一方,アメリカを中心とした大学図書館の先進的なサービスを駆使している院生や研究者もいて,図書 館利用経験の格差を垣間見る。 5.さいごに 図書館の多文化サービスは特別なサービスではない。 今回の報告は,日本に長期間在住する外国人を 対象としていないため必要な情報提供をカバーできていない部分もあると思う。しかし,少しの工夫で日 本の図書館を誰でも使いやすく変えることができるかもしれない。事例報告を通して当館が行っている多 文化サービスの中で,参考になる箇所があったらぜひ実践してもらいたいと期待している。 9 / 第 10 分科会 多文化サービス 報 告 韓国・朝鮮と日本をむすぶ図書館:文化センターアリランの活動について ソン プ ジ ャ 宋富子(文化センターアリラン副理事長) アリラン図書館とは 文化センター・アリラン(以下「アリラン図書館」 )は,1992 年 11 月に在日朝鮮人2世の朴戴(パクチ ェ)日(イル)が借金をしながら3億円をかけて埼玉県川口市の自宅を改造し創設しました。友人の姜(カン) 徳相(トクサン)(現在,滋賀県立大学名誉教授)が協力し,多くの研究者や同胞,市民に呼びかけました。 周りの期待は大きく,韓国朝鮮に関する近現代史の書籍・資料が2万5千冊寄贈されました。これらの蔵 書はこの分野では質量ともに国内最高との評価を受けています。 韓国朝鮮についての研究,日本と韓国朝鮮との関係を研究する場として研究者や一般市民,地域の方々 に広く開かれた活動を行い,研究者も多く輩出しました。しかし,創設者の朴が亡くなり,2010 年に活動 拠点を新宿区大久保のビルの8階に移しました。ここは狭いので5千冊を開架し,残りは埼玉県三郷市の 倉庫でボランティアの司書の協力で目録作成が進んでいます。 書籍は,日本と韓国朝鮮関係の近現代史が中心ですが, ハングルの書籍もあります。研究者として実績のある梶村秀樹運動史資料,田川孝三文庫,姜在彦(カンジ ェオン)文庫,斎藤孝文庫等 10 名を超える寄贈者,寄託者の貴重な書籍を所蔵しています。梶村秀樹運動 史資料は,韓国の国家記録院でも価値が認められてデジタル化され,現在一般公開しています。 アリラン図書館の目的は,来館者が本を読んで知識を得るだけでなく,在日朝鮮人と市民が出会い,共に 学び,交流する中で信頼関係を築き, 「民族差別のない平和な未来を創る」ことにあります。 そのためには何よりも正しい歴史認識が共有されなければなりません。アリラン図書館は日本の歴史教 10 / 第 10 分科会 多文化サービス 育に欠けているところを補充する場であり,日本の中学,高校,大学のゼミなどの学習の場でもあります。 特に近年,厳しい状況にある日韓,日朝関係を和解に導き,自由な交流を実現するためにもアリランはな くてはならないセンターだと思います。 理事長,館長,専従職員が在日で,理事に2名日本人を交えて共同で運営する図書館は日本で初めてで す。私たちの祖国は現在,大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国の二つに分断され,在日として行きる私た ちもさまざまな考えに別れていますが,アリランはどの組織にも属さず,自由な“中立”の立場です。 アリラン図書館の活動 館の主な活動は,図書館〈月・火休館〉のほか,専門の研究者による月1回の「歴史連続講座」 ,大学の 教員と院生による「差別と暴力を考える会」,姜徳相館長による週1回の「近現代韓日関係史勉強会」(姜 ゼミ)やハングルで絵本を読む会などです。また年に数回,歴史ビデオ上映会を行っています。来館者が 自由に話し合える談話室もあり,貸しスペースとして会議室・閲覧室を開放しています。また,一般書店 では入手しにくい歴史書なども販売しています。 毎週水曜日の閉館後や日曜日には学習教室が開かれています。新宿大久保は外国人居住者が多く多文化 の街です。近年,仕事の関係で韓国からのニューカマーが増え,その子どもたちが地域の公立小中学校に 入学しています。しかし,言葉の問題もあり学力がついていけず,授業中に徘徊してしまう子どももいま す。そこで小学校の先生の呼びかけで,在日の人もボランティアで参加し, 「チャッチョ(雑草)教室」が 開かれ,10 数名の子どもたちがマンツーマンで学んでいます。 子どもたちの中には不登校の子もいますが,チャッチョ教室には笑顔で参加し,私に「アンニョン(こ んにちは) 」と元気な声で挨拶します。3年目を迎えますが,子どもの成長はめざましく,高校・大学受験 にも挑戦しています。 また機関誌「アリラン通信」は年2回,5月と11月に発行し,その他,事務局の「活動報告」も年2 回発送しています。 「アリラン通信」は創刊以来56号を数え,48号から装丁や内容も一新しました。内 容は,歴史認識や人権問題を中心に据えた講座の講演記録,会員のメッセージ,本の紹介,韓流ファンも 楽しめる韓国朝鮮のミニ知識,エッセーなど読者や会員に楽しんでいただける編集を心がけており,館の 姿を伝えると共に,会員増員への大切な働きをしています。 在日の気持ち 在日朝鮮人が中心となって日本の市民と共に運営するアリラン図書館の意味を皆さまにもっと深く知っ ていただくためにも,創設者や館長のこと,また私の率直な気持ちを書かせてください。 創設者の朴戴日は,弁護士を志し大学の法科をでましたが国籍条項のため断念し,土木建設会社に就職し, その後独立して社長になりました。43才まで劣等感をもち,日本名で生きていましたが,姜徳相との出 会いで初めて祖国と日本の真実の歴史を知りました。それからは自己を回復し民族名を名のり,同胞子弟 と日本の平和を考えて莫大な借金をしてアリラン図書館を開館しました。 館長の姜徳相も日本名を名のり出自を隠していましたが,大学で中国史を専攻すると,担当の教授から 「君は朝鮮人だから朝鮮の歴史を勉強したら」の一言で目覚め,朝鮮史を学ぶ中で自己を回復しました。 大学の友人の前で「自分は在日朝鮮人で今日から民族名を名のって生きる」と宣言しました。その言葉を 聞いた日本人の宮田節子(元早稲田大学教授)は,朝鮮人がなぜ日本名を名のっているのか疑問を持ち朝 11 / 第 10 分科会 多文化サービス 鮮史を研究することになったということです。 私の両親は,90年前の 1926 年に仕事を求めて渡日しました。私は奈良県の飛鳥地方で在日朝鮮人2 世として生まれ育ちました。6女1男の7人兄妹の5女ですが,私が2才,妹が生後6ヶ月の時,父は4 6才で病死。長女は結婚していて,13才の次女を頭に6人の子どもを抱えた36才の母は,地下足袋を はき重いリヤカーを引いて屑買いをして私たちを育ててくれました。私は,背が高くチマチョゴリが良く 似合う母が大好きでした。 小学校に入学するや,周りから「汚い」 「朝鮮人臭い」といじめられ心が萎縮しました。小学3年から線 路に寝たり,池に入ったり,死ぬことばかり考えました。中学校で学ぶ“朝鮮”は,豊臣秀吉に征伐され た弱くだらしない国でした。卒業するまで,社会科の授業に“朝鮮”が出るのが怖くて早退するか保健室 にいました。私を朝鮮人に生んだ母を恨みました。14才で持った「外国人登録証明証」の申請では,犯 罪者のように真っ黒いスミを人差し指につけ指紋を捺印させられました。惨めでした。 私は中学校を卒業してもかけ算や割り算もできず,新聞も読めませんでした。20才で同胞と結婚し, 同胞の多住地域である川崎市に住みました。26才までに4人の子どもを授かりました。当時の私の夢は, 一日も早く日本に帰化することでした。 私の転機は31才の時,子どもの通う保育園の園長でもある牧師先生から, 「自分を愛する意味で,親子 で民族名を名のって下さい」と言われ衝撃を受けました。それから初めて日本の加害と被害の真実の歴史 を知り涙が止まりませんでした。私の人としての使命は,歴史を勉強して市民と同胞に伝え, 「民族差別の ない平和な社会」を創ることと決心しました。 以後15年間は民族差別撤廃運動,その後20年間は「一人芝居」という方法で,在日と市民が初めて 作った歴史館「高麗博物館」の設立に奔走し,6年間初代館長を務めました。アリラン図書館は8年前か ら関わっています。在日朝鮮人は理不尽な差別と偏見のため,現在も85パーセントが日本名で出自を隠 して生きています。日本の近代史は朝鮮を抜きに語れないと言われています。私はこの機会に皆さまに在 日を深く知っていただきたいと願い書きました。 第 102 回全国図書館大会ホームページ 掲載原稿 URL:http://jla-rally.info/tokyo102th/ 2016 年 9 月 21 日 作成 12 / 第 10 分科会 多文化サービス
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