マンションが被災した場合の法的な手続きについて

平成 28 年(2016 年)熊本地震により被害を受けられた皆様へ
この度の熊本地震で亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたしますとともに、
被災されました方々に心よりお見舞い申し上げます。
被災地の一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。
マンションが被災した場合の法的な手続きについて
2016.6.3 第一版
旭化成不動産レジデンス(株)
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被災マンション法の解説
本資料は、被災マンションの再生に必要な手続きについての解説資料です。被災マンションの再生については、マンショ
被災時のマンションに関する判定など
ンの被害の状況に応じて、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」)を適用する場合と、被災区分所有建物の再
■応急危険度判定
検討に関する特別措置法(以下「被災マンション法」)を適用する場合があります。2つの法律と複数の選択肢で、区分所有
二次的災害を防止するため、できる限り早く、短時間で建築物の被
者のみなさんは、混乱されることもあると思います。そこで、本サイトでこの資料を公開配布することといたしました。な
災状況を調査し、当面の使用の可否について判定するもの
お、法律の内容は多岐にわたりますが、ご理解いいただきやすいように、単棟マンションについてのみ解説いたします。
■り災証明の判定
※今回の震災は、6月3日時点では被災マンション法の政令指定を受けておりません。当解説は政令指定を受けることが
家屋の被害程度を市町村長が証明する。
前提となります。
証明を受けた被災者が被災者生活再建支援法等による各種の支援
施策や税の減免等を申請する
地震発生からマンション再生までの流れ
被災者
地震発生
避難所
仮設住宅
みなし
自宅
仮設住宅
住まいの修繕など
行政等支援
応急危険度
新たな
判定
り災証明
資金
被災マンション法
支援など
政令指定
生活へ
※ポイント
●被害状況の記録
り災証明、復旧費用算定な
どに必要です。外壁、エン
トランス、バルコニーなど
の共用部、専有部ともに撮
マンション管理組合
影して記録しましょう。
現状確認
情報収集
被災部撮影(共用部、専有部)
国・県・市
区分所有者所在確認
専門家
●組合員の連絡先確認
再生への
合意活動
復旧・売却・建替え
避難先、連絡先(携帯電話、
メールアドレスなど)を確
認しておきましょう。
P01
法律の体系はどうなっているか ?
マンションは構造体や敷地利用権等の共有物です。共有物の変更や処分は民法の定めにより全員合意が原則です。
ただし、数多くの区分所有者が存在するマンションでは、全員合意が現実的でないこともあり、区分所有法の定めにより、区分所有者集会で再生や建替えを決議
できます。
ところで、被災して区分所有建物が全部滅失した場合は、区分所有建物ではなくなり、単なる土地の共有関係となります。区分所有法の適用がなくなるため、共
有物の変更をする場合は、民法の規程に戻り全員合意が必要になってしまいます。しかし、政令で定められた災害による全部滅失の場合は、被災マンション法に
よって多数決による売却や再建が可能です。
また、政令で定められた災害により、大規模一部滅失したマンションについては、区分所有法による復旧と、被災マンション法による復旧の 2 つの選択肢があります。
※全部滅失であるか否かについては、法律の専門家である弁護士の判断が必要となりますし、一部滅失した場合には、それが大規模一部滅失であるか否かは、不
動産鑑定士の評価によることになります。
被災マンション法が適用される範囲
建物の損傷
建物の滅失
区分所有法の手続きで修復
一部滅失
小規模一部滅失
区分所有法による復旧・建替え
大規模一部滅失
区分所有法による復旧・建替え
P03へ
政令で定める災害による大規模一部滅失
被災マンション法の建物敷地売却決議
被災マンション法の建物取り壊し敷地売却決議
P04へ
被災マンション法の建物取り壊し決議
全部滅失
政令で定める災害による全部滅失
被災マンション法による建替え
被災マンション法による土地の売却
上記以外の場合
P05へ
民法による全員同意
※大規模滅失:建物の価格の 2 分の 1 を超える部分が滅失
小規模滅失:建物の価格の 2 分の 1 以下の部分が滅失
P02
法
有
所
区分
建物が一部滅失した場合
小規模一部滅失の場合
建物の価格の2分の1以下の部分が滅失
区分所有法による復旧・建替え
■集会による普通決議で、滅失した共用部分の復旧を決議できる。
■区分所有者による復旧
①上記1)の決議もしくは、建替え決議がされるまでの間は、区分所有者は単独で滅失した共用部分
を復旧することができる
②自らの費用で復旧をした区分所有者は、他の区分所有者に対して、区分所有法第14条の割合で費
用の償還を請求することができる。
大規模一部滅失の場合
建物の価格の2分の1を超える部分が滅失
区分所有法による復旧・建替え
■集会による決議の要件は、区分所有者及び議決権の各3/4以上の特別決議
■買取請求権
①決議非賛成者は、決議から2週間を経過すれば、決議賛成者に対して、その権利を時価で買い取る
ことを求める買取請求権を行使することができる
②この請求権は、賛成者の誰に対しても、また全員に対しても行使できる。
③決議賛成者は、決議から2週間以内に賛成者全員の同意で、買取指定者を定めることができ、この
場合は買取請求権は、買取指定者に対して行使しなけれ ばならない
買取請求権を行使された者は、請求の日から2 ヶ月以内に、決議に賛成した他の
区分所有者に対して応分の費用の請求をすることができる。
■買取請求権行使期間の指定
①区分所有法では、買取請求権の行使期限は特に設けていない
②そのため、集会招集者は、非賛成者に対して、4 ヶ月以上の期間を定めて、買取請求権を行使する
か否かについての催告をすることができる。
③上記②の場合、期間内に回答をしない非賛成者は、買取請求権を行使することはできない。
■大規模一部滅失から6 ヶ月以内に復旧決議もしくは建替え決議がない場合
①各区分所有者は、他の区分所有者に対して、買取請求権を行使できる。
P03
法
ン
ョ
ンシ
建物が一部滅失した場合(大規模一部滅失の場合)
大規模一部滅失の場合
建物の価格の2分の1を超える部分が滅失
■区分所有者集会の特例
建物の大規模一部滅失・・・区分所有建物はあるため、区分所有法が適用る。しかしながら・・・
区分所有者が避難して居所が不明な場合も考えられる 被災マンション法第8条では、以下のように規定
している。
被災マンション法による
復旧・建替え
①区分所有者が災害発生後に管理者に招集通知の発送先を伝えたときは その
場所に宛てて通知すればよいとしている
②集会の招集者が区分所有者の所在を過失なくして知らない場合には、建 物
若しくは敷地の見やすい場所に掲示することで発送に代えることができる
ただし、集会後の催告や売渡請求権の行使の際は、上記は適用されず、相手方への到
達が要件となるため、区分所有者の居所を探す努力は必要となる。
「買取請求権」についての区分
所有法と被災マンション法の
違い
■区分所有法の規定
■建物敷地売却決議
政令で定める災害により区分所有建物が大規模一部滅失をした場合
区分所有者、議決権及び敷地利用権の持ち分価格の各4/5で建物と敷地を売却す
る旨の決議をすることができる。
①敷地売却決議において定めるべき事項
滅失から6 ヶ月以内に建物の
1)売却の相手方となるべき者の氏名または名称
場合は、各区分所有者が他の
3)売却によって各区分所有者が取得することができる金銭の額の算定方法
復旧決議か建替え決議がない
区分所有者に対して買取請求
権を行使できることとなって
2)売却による代金の見込み額
に関する事項
②通知事項
いる。
1)売却を必要とする理由
■被災マンション法の規程
3)復旧に要する費用の概算額
政令の施行の日から起算して
2)復旧又は建替えをしない理由
③決議後の手続き
1年以内に、復旧決議、建替え
1)非賛成者に対する催告、売渡し請求権の行使等は、区分所有法における建
物取り壊し敷地売却決議、取
2)その後の手続きについては特段の定めはないため、売却の相手方と区分
決議、建物敷地売却決議、建
り壊し決議等がないと、買取
請求権の行使が可能となる
旨の規定となっている。
替え決議の場合の制度が準用されている。
所有者全員とで 敷地の売却契約をすることとなる(通常は、共有者等全員
被災マ
■建物取り壊し敷地売却決議
①決議要件 建物敷地売却決議と同様
②建物取壊し敷地売却決議において定めるべき事項
1)区分所有建物の取壊しに要する費用の概算額
2)取り壊しに要する費用の分担に関する事項
3)建物の敷地の売却の相手方となるべき者の氏名または名称
4)建物の敷地の売却による代金の見込み額
③通知事項
1)区分所有建物の取壊し及びこれにかかる建物の敷地の売却を必要とす
る理由
2)復旧又は建替えをしない理由
3)復旧に要する費用の概算額
■取り壊し決議
①決議要件 区分所有者及び議決権の各4/5以上
②取り壊し決議において定めるべき事項
1)区分所有建物の取壊しに要する費用の概算額
2)取り壊しに要する費用の分担に関する事項
③通知事項
1)取壊しを必要とする理由
2)復旧又は建替えをしない理由
3)復旧に要する費用の概算額
これらの決議をする場合でも、賃借人や抵当権者等の合意が必要が
必要な点は同じで ある。
現実には、建物を解体しても単なる共有地が残るだけとなることか
ら、取り壊し決議だけをする場面は考えにくい。
との契約が終了することを停止条件とした契約になるものと思われる)。
④その他の注意点
1)建物敷地売却決議は土地共有者間の合意事項に過ぎない。
2)そのため、賃借人や抵当権者等とは、別途合意が必要になる。
P04
法
ン
ョ
ンシ
建物が全部滅失した場合
全部滅失の場合
被災マ
■敷地共有者等集会制度(決議要件:敷地共有者等の議決権の4/5以上)
①敷地共有者等は、被災マンション法の定めにより、集会を開き、管理者を お
被災マンション法による
建替え・売却など
①集会の2月以上前の招集、1月以上前の説明会等は再建決議と同様
1)建物が全部滅失していると区分所有法が適用されないため、既存の管理
②再建決議非賛成者に対する、催告や売渡請求権の行使等は、区分所有法の規
2)この規定の適用がない場合は、民法の規定(全員合意)で対応しなければ
いけないことになる。
区分所有法の規定に準じて管理をすることが出来る。
②集会の招集に際して、敷地共有者等集会を招集する者が敷地共有者等 の所
在を知ることが出来ない場合は、招集者は、滅失した区分所有建物 の見やす
1)ただし、集会招集者が、敷地共有者の所在を知らないことについて過失が
あったときはこの限りではない
定められる政令
通知事項
1)敷地の売却を必要とする理由
こ とができない。また、抵当権が設定されている場合には、抵当権者
われる。
■再建決議制度
建物の区分所有権はなくなり
集会の招集
ヶ月以上前
ヶ月以上前
法定説明会
下に留意
1.再建建物の設計の概要
2.再建建物の建築に要する費用の概算額
3.再建建物の建築に要する費用の分担に関する事項
4.再建建物の区分所有権の帰属に関する事項
再建決議集会
民法256条第1項
えない期間内は分割をしない旨の契約 をすることを妨げない。
招集者は、原則は「管理者」。なお、招集に際しては、以
●議案の要領
1
■共有物の分割の制限
各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができ る。ただし、5年を超
手続きは、基本的には区分所有法の建替え決議手続きに準じる
2
決議後の手続きについて、マンション建替え法による手続は利用する
過ぎないため、団体としての規約等を定めることを想定していない。
※区分所有建物が存在しないため、区分所有者ではなく「敷地共有者」
の適用がなくなってしまう。
2)売却による代金の見込み額
との間の合意に より抵当権を抹消すること等も必要になるものと思
区分所有法によることとなる。
単なる共有地 → 区分所有法
1)売却の相手方となるべき者の氏名または名称
被災マンション法での手続きは、再建決議等までの暫定的なものに
そのため、手続きは全て、被災マンション法とそれにより準用される
残る
③敷地売却決議の議案の要領や通知事項は次の通り
い場所に掲示することで通知を行うこととすることができる。
被災マンション法第2条2項に
土地共有の 権利関係のみが
定に準じる
議案の要領
3)再建決議や敷地売却決議(3年以内に行う必要がある)をするまでの間は、
■区分所有建物が全部滅失
滅失した区分所有建物にかかる敷地の売却を決議する制度
くことができる。
組合はその役割を担うことは出来ない。
政令の施行の日から
3年間に限って適用
■敷地売却決議制度(決議要件:敷地共有者等の議決権の4/5以上)
●通知事項
1.再建を必要とする理由
しかしながら、再建決議や敷地売却決議の準備を進める中で、一部の共有者から
共有物の分割請求がされてしまうと、それらの手続きを進めることが出来なく
なる。
政令の施行の日から1月を経過する日の翌日以後、政令の施行の日から起算して
3 年を経過するまでの間は、敷地共有者による共有物分割が制限される。
売渡請求権等、決議以降の手続きも区分所有法に準じる。なお、再
建を決定した場合においても、マンション建替え法(マンションの
建替え等の円滑化に関する法律)の適用はないことに注意が必要。
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