骨系統疾患の原因遺伝子の単離と解析

●医とゲノム――第1セッション ヒトゲノム解析の最前線(1)
骨系統疾患遺伝子のポジショナル
クローニング(位置的単離)
長崎大学医学部原爆後障害医療研究施設分子医療部門
新 川 詔 夫*
ヒトゲノムのドラフトシーケンスが完成した現状でも,大部分の疾病遺
伝子は未知であり,疾患座の位置情報から遺伝子を単離・同定する位置的
単離法の重要性は変わらない。一方,ミレニアムプロジェクトの標的であ
る生活習慣病の遺伝学的解析が進展しているが,数千種におよぶ単一遺伝
子病の解析の重要性も忘れてはならない。本稿では,2つの骨系統疾患遺
伝子について,連鎖領域および染色体転座切断点などの位置情報を基にし
た単離・同定を概説する。
位置的候補遺伝子探索法による
Camurati-Engelmann 病(CED)
遺伝子の同定
が,デキサメサゾン(DEX)投与で症状改
善がみられることがある。CED 遺伝子を同
定するため,日本人2家系(図1)1)を対象
とした連鎖解析,および別の9家系を含む計
CED は過剰な骨膜性骨形成による骨皮質
11家系(白人2家系と日本人9家系)におけ
の肥厚と長管骨の紡錘形肥大を特徴とする常
る位置的候補遺伝子解析を行った。罹患者は
染色体性優性遺伝性の稀な骨系統疾患であ
すべて骨レ線により診断した。
る。病変は進行性で下肢痛,筋力低下,あひ
インフォームドコンセントを得た後に,被
る様歩行,低栄養と痩身,時に骨折などの症
検者 DNA を調整し,450種のマイクロサテ
状が呈する。これらの病変・症状は遅くとも
ライト多型と疾患との連鎖を検討した。その
30歳までに発症する。根本的な治療法はない
結果,2点最大ロッド得点は D19S918 座で
………………………………………………………………………………………
Positional cloning of genes responsible for systemic bone diseases
Norio Niikawa (Department of Human Genetics, Nagasaki University School of Medicine)
………………………………………………………………………………………
*にいかわ・のりお:昭和42年3月 北海道大
学医学部卒業。昭和47年5月 スイスジュネ
ーブ州立大学助手(産婦人科・胎生学細胞遺
伝学)。昭和51年4月 文部教官助手(北海
道大学医学部・小児科学)。昭和59年10月
長崎大学医学部原爆後障害医療研究施設分子
医療部門教授(現職)。平成12年4月 長崎
大学遺伝子実験施設長(併任)
Key words
¡位置的遺伝子単離
¡位置的候補遺伝子アプローチ
¡Camurati-Engelmann 病
¡鏡像多指趾症
テーマ/「医とゲノム」 27
7.41(p=1.00 ; θ=0.00)であり(表1),さ
子となりうる。特に TGFB1 は,骨芽細胞の
らにハプロタイプ解析により,罹患者共通ハ
分化・増殖に深い関係があることから,
プロタイプは 19q13.1-q13.3 の D19S881 と
CED の最も有力な候補遺伝子と考えた。
D19S606 間にみられた(図1)
。このことか
ら,CED 座は両マーカー間の15.1cM に局在
データべース上の TGFB1 塩基配列から,
7つのエクソン,イントロン境界領域および
することが判明した 。同様な結果がベルギ
5’-/3’-UTR を増幅するプライマーを設計し,
ー,アメリカのグループから報告され,筆者
PCR 増幅産物の直接シークエンシングによ
2)
3,4)
らの連鎖解析の結果が支持された 。
同連鎖領域には,いくつかの骨格組織由来
る変異解析を行った。11家族からの各患者は
全て,エクソン4内の cDNA 位 +673のT→
の EST や,CALM3,ZFP36,TGFB1 など
C置換(C225R)
,+653のG→A 置換(R218H)
,
の既知遺伝子があり,各々 CED の候補遺伝
+652のC→T置換(R218C)
,+667のT→C置
図1 CED2家系とハプロタイプ
28 第3回日本医学会特別シンポジウム
換(C223R)の4種のいずれかを有すること
vitro での効果は培養細胞を用いて解析した。
が判明した(図2)
。これらのミスセンス変
CED 患 者 の LAP-TGF-b1 複 合 体 ( 潜 在 型
異は罹患者のみにみられ,家系の非罹患者お
TGF-b1)では,TGF-b1 と LAP の複合体形
よび正常日本人200名と白人100名にはないこ
成が不安定であり,TGF-b1 がLAPから早期
5)
とから,疾患特異的であると結論した 。既
6)
に遊離し常に活性化状態にある(図3)
。変
知の TGFB1 内外の SNP を用いたハプロタ
異 TGFB1 全長を導入した線維芽細胞では増
イプ解析と孤発例の解析結果から,少なくと
殖抑制が起こり,この導入線維芽細胞と骨芽
も4個の独立した突然変異が生じていたの
細胞を共培養すると,骨芽細胞の増殖が促進
で,多くは新生変異によると考えられる。
された。一方, DEX を変異 TGFB1 導入線維
TGFB1 遺 伝 子 産 物 は , 分 泌 シ グ ナ ル ,
芽細胞培養系に添加すると,線維芽細胞の増
TGF-b1 蛋白,およびその活性を抑制・潜在
殖抑制が緩和された。このことは,DEX に
化させる潜在型結合蛋白(LAP)の3つのド
よる患者の症状改善が線維芽細胞と骨芽細胞
メインからなる。CED 患者で同定した変異
の機能の正常化によることを示す。
これら一連
はすべて LAP をコードする第4エクソンに
の実験結果から,変異 TGF-b1 による CED
存在している(図2)
。LAP は TGF の潜在
の発症を図4に示すようにモデル化した。
化だけでなく,LTBP と結合して骨に TGF-
本 研 究 で 同 定 し た CED 変 異 は す べ て
TGFB1 のエクソン4限局性なので,大多数
b1 を蓄積させる役割をもつ。
変異 TGFB1 による TGF-b1 蛋白の病的変
の CED 患者の遺伝子診断は同エクソンのみ
化は pulse chase 解析と ELISA 法,および in
を増幅するプライマーを利用すれば容易であ
表1 CED 家系連鎖解析における2点ロッド得点
Locus
D19S422
D19S223
D19S211
D19S913
D19S408
D19S217
D19S918
D19S219
D19S902
D19S606
p
1.0
0.8
1.0
0.8
1.0
0.8
1.0
0.8
1.0
0.8
1.0
0.8
1.0
0.8
1.0
0.8
1.0
0.8
1.0
0.8
Recombination fraction(u)
0.00
-∞
-7.13
3.60
3.13
5.44
5.03
4.92
4.37
4.22
4.09
5.84
5.18
7.41
6.55
4.25
3.94
2.54
2.28
-∞
-2.34
0.001
-3.38
-3.52
3.59
3.12
5.44
5.03
4.91
4.36
4.22
4.09
5.84
5.18
7.39
6.54
4.24
3.93
2.54
2.27
0.23
-0.02
0.05
0.01
-0.17
3.25
2.81
5.14
4.65
4.65
3.95
4.08
3.80
5.36
4.70
6.77
5.96
3.90
3.59
2.32
2.06
1.68
1.43
0.1
0.50
0.31
2.88
2.48
4.73
4.22
3.99
3.50
3.81
3.46
4.82
4.19
6.10
5.35
3.52
3.23
2.07
1.82
1.71
1.47
0.15
0.68
0.49
2.50
2.13
4.27
3.77
3.49
3.05
3.45
3.08
4.24
3.65
5.44
4.72
3.12
2.83
1.80
1.58
1.60
1.37
0.2
0.71
0.54
2.11
1.79
3.75
3.28
2.97
2.58
3.03
2.67
3.62
3.08
4.67
4.06
2.68
2.41
1.52
1.33
1.41
1.21
テーマ/「医とゲノム」 29
る。本研究結果の報告後,ベルギーのグルー
TGFB1 変異がない CED Ⅱ型(?)が存在
プが上記とは異なる2種類の変異(LLL12-
する。現在,ヒトと同一の変異 Tgfb1 をも
13insとY81H)を報告した 。変異はともに
つノックインマウスの作成とその骨変化の解
第1エクソン内(LAP内)に存在する。しか
析,発症機構を利用した治療法の開発,およ
し筆者らがスクリーニングした11名の患者で
びその骨粗鬆症治療への応用などに研究が進
は,日本人,白人を問わずこれらの変異は検
展している。
7)
出されていない。また,19番染色体に連鎖し
ない家系中に, CEDと類似の症状をもつが
図2 TGF-b1 蛋白構造(a)、TGFB1 遺伝子構造(b)、およびCED患者におけるTGFB1 変異(c)。
30 第3回日本医学会特別シンポジウム
染色体転座切断点解析による
鏡像多指趾症(MPD)候補
遺伝子の単離
がない。転座 t(2;14)(p23.3;q13)をもつ
MPD患者 8) の 14q13 の切断点クローニング
を開始した。
FISH 解 析 に よ り , AFM200ZH4 と
MPD は,後軸指趾が第1∼3指あるいは
D14S306 間の YAC クローンが同切断点をカ
第1∼4趾の鏡像を示し,結果として後軸性
バーしたので,D14S75 と D14S728 間(36-
多指趾となる非常に稀な先天異常症である。
39cM)の16個の BAC と6個の PAC(9種
筆者らの知るかぎり,世界中で8例しか報告
の EST と総計34個の新しい STS)からなる
図3 A, CED患者(R218H)の線維芽細胞の pulse chase 解析(変異 TGF-b1 はsmall latent form の早期
dissociation を示す)
。
B, TGFB1 の northern 解析(患者と正常間に発現差はない)
。
C, 培養液中の TGF-b1 分泌量(変異 TGFB1 では発現が増加する)
。
D, 変異 TGFB1 による骨芽細胞系(MG-63)の増殖増加とデキサメサゾンによる増加抑制。
テーマ/「医とゲノム」 31
約1.2 Mb のコンティグを構築した(図5)
。
PstI/SacI, PstI/BssHII, PstI/EagI などを
2つのクローン(B368とP29)は2つの派生
用いた2重消化産物のサブクローニング,ラ
染色体[der(2)と der(14)
]双方に FISH
ンダムクローニング,およびエクソントラッ
シグナルを表出した。9個の EST のうち
ピングなどにより,これらの切断点クローン
T99065(胎児肝脾由来の3’-cDNA)は BAC
から CpG island-rich な配列を単離し,塩基
クローン(B102とB319)内にあることを確
配列を決定した。その結果,500 kbのこの領
認したが,ホメオティック遺伝子 FKHL1 は
域には既知の遺伝子 HNF3A と未知の新規
本コンティグ中には存在しなかった。
遺伝子様配列の2種類しか存在しないことが
図4 変異 TGF-b1 の変化モデル
図5 ヒト MIT1 領域 1.2Mb の PAC/BAC コンティング (a) と MIP1 遺伝子構造 (b)。
32 第3回日本医学会特別シンポジウム
判明し,単離した新規遺伝子を MIP1 と命
鏡像多指趾症転座症例は,埼玉小児医療セン
名した(図5)
。MIP1 はエクソン5内の最
ターの大橋博文先生のご協力を得て患者試料
初の ATG 配列からエクソン15の終止コドン
を解析した。
ここに諸先生に深く感謝します。
まで 1,329-bp の ORF を含み,C末側に2つ
の coiled-coil ドメインをもつ443個のアミノ
酸から成る蛋白をコードしている。ノザン解
析の結果,ヒト MIP1 は心,肝,骨格筋,
腎,膵,および胎児腎で軽度に発現するが,
脳,胎盤,肺では発現がみられない。心では
少なくとも3種の転写物がみられ,骨格筋に
みられる2 kbの転写物は筆者らが同定した
cDNA と一致した。 E10.5 - E13.5齢の全マウ
ス胎児標本上における in situ hybridization
の結果は,マウス Mip1 は胎児全体で発現
し,肢芽には限局していなかった。現在,
MIP1 の変異解析を行っている。
14q13 切断点クローンを用いて他方の切断
点 (2p23.3) をクローニングし,2p23.3 領域
の解析を行ったが,遺伝子配列は確認できな
かった。この結果,14q13 切断点から単離し
た MIP1 が MPD の最大の疾患候補遺伝子で
ある。
謝 辞
本研究は文部省科研費「ゲノムサイエンス
(代表榊佳之教授)により行われた。連鎖・
変異解析に用いた家族は,蒔田芳男(旭川医
大)
,福嶋義光,吉田邦広(信州大)
,比佐健
二(国療中信松本病院)
,中込直(岡山旭川
療育園)
,斉藤晴樹(秋田大)
,杉本健郎(関
西医大男山病院)
,亀ヶ谷真琴(千葉こども
病院)
,林裕美(札幌医大)の諸先生の御協
力を得て行われ,また Cy5- プライマーは東
大中村祐輔教授より供与された。変異
TGFB1 の生化学的解析は,阪大の斉藤貴志
[文献]
1) Makita Y, Nishimura G, Ishii T, Ito Y, Okuno A.
Intrafamilial Phenotypic Variability in Engelmann
Disease (ED): Are the Disease and Ribing Disease the
Same Entity? Am J Med Genet 91:153-156, 2000.
2)Ghadami M, Makita Y, Yoshida K, Fukushima Y,
Wakui K, Ikegawa S, Yamada K, Kondo S, Niikawa N,
Tomita H: Genetic mapping of the CamuratiEngelmann disease locus to chromosome 19q13.2q13.3. Am J Hum Genet 66: 143-147, 2000.
3) Janssens K, Gershoni-Baruch R, Van Hul E, Brik R,
Guanabens N, Migone N, Verbruggen LA, Ralston SH,
Bonduelle M, Van Maldergem L, Vanhoenacker F, Van
Hul W: Localisation of the gene causing diaphyseal
dysplasia Camurati-Engelmann to chromosome 19q13.
J Med Genet 37: 245-249, 2000.
4)Vaughn SP, Broussard S, Hall CR, Scott A, Blanton SH,
Milunsky JM Hecht JT: Confirmation of the mapping of
the Camurati-Englemann locus to 19q13.2 and
refinement to a 3.2-cM region. Genomics 66: 119-121,
2000.
5)Kinoshita A, Saito T, Tomita H-A, Makita Y, Yoshida K,
Ghadami M, Yamada K, Kondo S, Ikegawa S,
Nishimura G, Fukushima Y, Nakagomi T, Saito H,
Sugimoto T, Kamegaya M, Hisa K, Murray JC,
Taniguchi N, Niikawa N, Yoshiura K: Domain specific
mutations in the human transforming growth factor
beta 1 gene (TGFB1) result in Camurati-Engelmann
disease. Nat Genet 26(1): 19-20, 2000.
6)Saito T, Kinoshita A, Yoshiura K, Makita Y, Wakui K,
Honke K, Niikawa N, Taniguchi N: Domain-specific
mutations of a Transforming growth factor (TGF)-b1
latency-associated peptide cause Camurati-Engelmann
disease because of the formation of a constitutively
active form of TGF-b1. J Biol Chem 276: -11469-11472,
2001.
7)Janssens K, Gershoni-Baruch R, Guanabens N, Migone
N, Ralston S, Bonduelle M, Lissens W, Van Maldergem
L, Vanhoenacker F, Verbruggen L, Van Hul W:
Mutations in the gene encoding the latency-associated
peptide of TGF-b1 cause Camurati-Engelmann disease.
Nat Genet 26: 273-275, 2000.
8) Ohashi H, Kim Y, Iwasaki M, Ohno T, Sato M,
Imaizumi S, Aihara T, Yamagishi A, Wakui K,
Fukushima Y: Tetramelic mirror-image like polydactyly
and de novo balanced autosomal translocation [46, XY,
t(2;14)(p23.3;q139)]. Am J Hum Genet 57: A98. 1995.
氏と谷口直之教授との共同研究で行われた。
テーマ/「医とゲノム」 33
●討 論
司会:新川先生本当にどうもありがとうござ
a山:違う形になってたんぱく質としての機
いました。時間も少しございますので,会場
能を果たすのでしょうか?
の方からご質問をお受けしたいと思います。
新川:ええそうだと考えられます。TGF-b1
質問の前に所属とお名前をおっしゃってマイ
が本来の機能を果たす蛋白で,LAP は TGF-
クロフォンの前でご質問をお願いします。ど
b1 を骨のマトリックスにホールドし,不活
なたかいらっしゃいますでしょうか。質問が
化しているのだろうと考えられます。
ないと私がしなきゃならないので…。
どうぞ。
a山:LAP には生理的な働きはないと?
a山:北大のa山です。先生,素敵なお話を
新川:ええ。TGF-b1 の活性を制御している
ありがとうございました。最初の骨の病気の
と思います。
患者さんのことですが,これは TGF-b1 遺伝
司会:どうもありがとうございました。ほか
子の異常で起きている病気と考えてよろしい
にもございますでしょうか? 今の質問にち
のでしょうか?
ょっと関係しているのですが,新川さんもち
新川:はい,TGFB1 遺伝子の変異による最
ょっとおっしゃったと思いますが,TGF-b1
初の遺伝病です。
のような,
非常に影響の大きい蛋白ですとね,
a山:TGF-b1 遺伝子の発現というのは,一
恐らくその機能がおかしくなった場合には
般的に主として骨に起こるわけですね?
lethal になると考えられますので,エンゲル
新川:そうです。
マン病では非常に微妙な形の変異だろうと思
a山:TGF-b1 は,多分身体の中ではもっと
うのですね。私はこの分野はよくは知らない
広く発現している遺伝子ですよね。それがど
のですけれど,実際に,例えば,ノックアウ
うして骨の変化が中心の病気になるのかとい
トマウスなどでやはり似たような症候がでる
うことを説明できるのでしょうか?どういう
かどうかということと,もう1つは,遺伝子
ふうに考えたらよいのでしょうか?
の特別な部分に deletion を入れると致死が多
新川:まず,TGF-b1 という蛋白は,骨のマ
くなるとか,そういう evidence はございま
トリックスに最も多いのです。ですから,そ
すか?
こにメインの症状が集中すると考えられま
新川:最初のご質問ですが,今そのマウスを
す。私は免疫学は素人なものですから,深く
作成しています。患者さんと同じ mutation
言及しなかったのですが,エンゲルマン病の
をもつノックインマウスを作成して解析して
患者さんには軽度な免疫異常や骨膜に炎症反
みないと同じ症候がでるかどうかわからない
応らしき症状が起きます。ですから,これら
ですね。先程申しました骨粗鬆症との関係も
の症状も TGF-b1 の作用で説明されると考え
みたいと思います。遺伝子に deletion を起こ
られます。でもメインは骨の変化です。
したり,active form の TGF-b1 に相当する部
a山:骨なんですか。
もう1つ。
ホモダイマー
分に色々な変異を入れたりしたノックアウト
の TGF-b1 と LAP は遺伝子から最終的に1つ
マウスや変異マウスの仕事は過去たくさんご
のたんぱく質として作られてくるわけですか?
ざいますが,しかし,患者さんでみられた領
新川:ええそうです。1つの TGFB1 遺伝子
域の変異マウスはありません。これらのマウ
から一連のポリペプチドが作られて,最終的
スの表現型は,変異の領域によって,CED
には LAP 蛋白と TGF-b1 蛋白ができ,それ
に類似する症状や,逆に骨粗鬆症様の症状を
ぞれがホモダイマーを形成します。
示したり,また致死になったりしています。
36 第3回日本医学会特別シンポジウム
つまり,結果に若干の conflict があります。
こないという問題はあります。検査会社にお
一方,TGF-b1 が osteoblast でその機能が主
いて発見されても,
倫理問題がありますから,
として発揮されるのか,osteoclast で発現す
研究者に貴重なその情報がすぐには渡ること
るのかは問題の1つです。私どもの in vitro
はありません。
の実験ではヒトにおいて osteoclast が利用で
司会:最後に,新川先生のご意見をお伺いし
きませんので,osteoblast 由来の細胞で行い
たいのですけれど,いわゆるモノジェニック
ました。最終的には,現在作成中のモデルマ
な病気というのは,一応方法論は確立したと
ウスで確かめる必要があると思います。
は申しませんが,色々な成功例は多いのです
司会:もう1つ,もしフロアからどなたかご
が,ポリジェニックな病気となりますと,次
質問がございますか? どうぞ。
の門脇先生のお話しになりますが,なかなか
亘理:北海道大学歯学部の亘理と申します。
尋常ではいかないと思われますが,先生の今
歯科材料を扱っております。先生が講演の後
までのご経験から,ポリジェニックな病気の
半部で提示された鏡像多指趾症の原因は転座
遺伝子同定に関して何かサジェスチョン,ま
による遺伝子異常であろうという理解をした
たは意見がございますでしょうか?
のですが,その転座ができた原因としては原
新川:ポリジェニックな疾患は私も研究をス
爆は関係があるのでしょうか? 全く関係が
タートしたばかりでございますので,サジェ
ないのでしょうか?
スチョンすることはできませんが,真の意味
新川:あの患者さんは原爆とはまったく無関
で理論基盤がまだ確立されていないと考えら
係の家族の方です。
れ,解析手段もあと3段階位のアップが必要
司会:ほかにございますでしょうか? で
かなと思っております。モノジェニックな疾
は,私からもう1つ。新川先生,日本人には
患は,確かにテクニックは利用可能だし,材
染色体転座,もちろん異常のひとつなのです
料がそろえば遺伝子単離・同定は可能です。
が,それが多いというようなことをちょっと
しかし,私が強調したいのは,モノジェニッ
おっしゃったのですが?
クな疾患をリサーチの場から捨ててしまうの
新川:染色体転座自体の頻度は世界中で差が
はまだ危険かなと思います。その中にまだ宝
なかろうと思います。発見率が日本では高い
が埋まっているのではないか,そこからまだ
のだろうと思います。諸外国では,染色体検
出てくるのではないかと思っています。ポリ
査は一般的に自費であり,高いのです。検査
ジェニックな疾患は,大多数の国民が生活習
をするお医者さんにモチベーションがあると
慣病にかかりますから,大きな発展が予想さ
検査しますが,そうでないとなかなか検査を
れ重要ですが,理論的基盤も解析手段も構築
しないのです。日本では健康保険に組み込ま
していかなくてはならない。しかし一方,モ
れているので,容易に検査できますので,あ
ノジェニックな疾患もまだ重要であるという
る検査会社などでは年間数万検体の検査が行
風に考えております。
われています。そのために転座がよく発見さ
司会:どうもありがとうございました。これ
れると考えられます。したがって,遺伝子疾
で第一セッションの2人の先生方のご講演を
患と染色体転座という稀な組み合わせも見つ
終わらせていただきます。清水先生,新川先
かってくるのだと思います。但し,そのよう
生ありがとうございました。
な試料がリサーチの場になかなか集積されて
テーマ/「医とゲノム」 37