不確実下の意思決定のためのリスク分析手法

日立TO技報 第8号
不確実下の意思決定のためのリスク分析手法
Risk Analysis for Decision Making under Uncertainty
経営環境がますます複雑,かつ不確実なものになる中で,意思決定時には
澤田美樹子
Sawada Mikiko
リスクとリターンの両方を評価する必要がある。リスクを定量化して様々な
佐藤 夕子
Satou Yuko
角度から分析するリスク分析手法の中で,モンテカルロシミュレーション
(不確実性を確率と幅で定義)とディシジョンツリー分析(起こり得るオプ
ションとイベントを論理的かつ時系列に繋げて定義)は代表的な手法であり,
Palisade社のリスク分析システム@RISKシリーズは,このようなリスク分
析をMicrosoft Excelのアドイン機能で可能にしている。
ビジネスの様々な場面で不確実性を管理し,リスクを考慮した上で意思決
定を行うために,本報告で述べるリスク分析手法は有効である。
q はじめに
企業を取り巻くビジネス環境は,ますます複雑,かつ
不確実なものになっている。例えば将来の研究開発費,
新製品の初年度の販売量,競合他社の参入数などは,す
べて不確実なものである。ビジネスの意思決定は,この
ような不確実要素について,十分な知識を持たない状態
で下されることが多い。
現実に企業で行われている事業計画に目を向けると,
r 主なリスク分析手法
今日ではリスクを分析するための様々な手法が開発さ
れている。主なリスク分析手法は(1)∼(4)のとお
りである。
(1)What-if分析
What-if分析は,「もし∼なら」と仮定を変えて結果を
評価するアプローチである。不確実要素の数値を幾つか
のパターンに分け,複数の不確実要素のパターンを組み
楽観的な一点読みや,目標を低く設定する堅めの予測が
合わせる。そして,組み合わせ毎に,ターゲットとなる
行われていることが多い。または,平均的ケース,ベス
項目の数値を計算する。その結果から,ターゲット項目
トケース,ワーストケースというような3パターンほど
の振れ幅(最小値,最大値)や,最大・最小値になる場
の計画を準備し,プロジェクトの是非を判断することも
合の不確実要素の構成を把握する。
考えられる。
ビジネスの結果が必ずしも計画通りにいかない限り,
(2)感度分析
感度分析は,一つの不確実要素がワーストケースから
意思決定時には期待通りのシナリオに加えて,リスクサ
ベストケースへ変化した場合,ターゲットとなる項目が
イドも評価する必要がある。
その変化によってどの程度影響を受けるかを調べる分析
日立東北ソフトウェアñは,産業系ソリューションの
法であり,影響度の高い不確実要素を明らかにする。感
中で,需要予測,リスクの評価・分析による不確実性管
度分析によって,非常に影響度の大きい項目と小さい項
理を提案している。その一環として,米国Palisade社の
目が判別できるため,影響度の大きい項目に焦点を絞っ
リスク分析システムである@RISKシリーズを使用して
て情報収集や分析の精度を高めることが可能になる。
リスクの定量化と分析を支援している。
(3)モンテカルロシミュレーション
本報告では,不確実下の意思決定に必要な幾つかのリ
モンテカルロシミュレーションは,起こりうるすべて
スク分析手法を紹介するとともに,リスク分析システム
の組み合わせを検討する手法である。不確実要素に確率
@RISKシリーズを使用したリスク分析の実践について
分布を定義し,コンピュータ上で乱数を発生させて確率
述べる。
分布からランダムに値を抽出する。この実験を繰り返し,
その結果得られた測定値から分布を推定する。
58
日立TO技報 第8号
結果が確率分布で表示されるため,起こりうる値の範
囲や,その発生率を分析することができる。
(4)ディシジョンツリー分析
ディシジョンツリー分析は,人間が意思決定する項目
単価,研究開発費などの要素を使って,スプレッドシー
ト上で計算するモデルである。
(2)不確実要素の選択と定義
モデルの中で,不確実要素と考えている項目について,
と不確実要素を,論理的かつ時系列的に繋げていく分析
スプレッドシートのセル上に確率分布を定義する。例え
法である。起こりうる幾つかの選択肢に分類し,各選択
ば販売量,製造原価,研究開発費が不確実要素と考える
肢の末端での価値を算出する。
場合は,各セルに,それぞれ確率分布を定義する。
「今後どのような意思決定が発生するか」や「意思決
定項目の間に,不確実要素が存在しないか」を整理し,
時系列的に繋げることで,将来発生するシナリオの全体
像を理解し,その全体像をベースに意思決定を行うこと
ができる1)。
(3)結果指標の設定
意思決定に必要な,最も興味のある項目(例えば,損
益やコストなど)をシミュレーションの結果指標として
設定する。
(4)シミュレーションの実行
シミュレーション回数(数千∼数万回)を設定し,シ
以上のようなリスク分析手法の中で,What-if分析と
ミュレーションを実行する。確率分布が設定されたセル
感度分析は,ターゲットとなる項目の値がどのような確
は,分布関数にしたがってランダムな値を発生させるの
率で発生するかを把握することは困難である。また,感
で,不確実要素の組み合わせ(シナリオ)がシミュレー
度分析については,一度に一つの不確実要素しか変化さ
ション回数分だけ発生し,それぞれについて結果が算出
せることはできない。
される。また,結果は確率分布やサマリーグラフで表示
一方,モンテカルロシミュレーションは,すべての不
確実要素の組み合わせをチェックすることで,起こり得
るすべてのリスクを評価することができ,What-if分析
と感度分析よりも有用である。
また,ディシジョンツリー分析については,将来起こ
される。
(5)結果分析
シミュレーションの結果から,主に以下のような分析
が可能である。
A確率分布による分析
り得る事象とイベントに対する対応を特定するという点
損益やコストといった結果指標が,最良値や最悪値
で,モンテカルロシミュレーションにはない有効性があ
ばかりでなく確率分布で表示されるので,一定値以上
る。
のリターンを得られる(成功)確率や,一定値(例え
以上のことから,意思決定の場面に応じてモンテカル
ロシミュレーションとディシジョンツリー分析を使い分
ばゼロ)を下回る(失敗)確率を把握できる。
B回帰係数による分析
けたり,組み合わせて使用することが,効果的な意思決
シミュレーション結果を使用して,不確実要素と結
定に繋がると考える。次章では,この二つの手法につい
果指標との間の回帰係数を計算する。これにより,各
て,分析手順や適用例を説明する。
不確実要素の結果指標への影響度を分析する。
s モンテカルロシミュレーションと@RISK
3.1
分析手順
@RISK(リスク分析システム@RISKシリーズのシミ
結果指標の変動に対して最も影響を与える要因は何
か,影響度の高い順にグラフで表示することで,リス
ク要因の所在を一目で確認でき,目標達成を加速した
り,あるいは目標達成を阻害する要因を的確に把握す
ュレーション機能)はモンテカルロシミュレーションを
ることが可能になる。
Microsoft Excelのアドインソフトウェアとして実装し
Cシナリオ分析
ている。以下,モンテカルロシミュレーションの分析手
順を,@RISKを使用した場合を例に,説明する。
(1)モデル定義
Excelのスプレッドシート上にモデルを定義する。こ
こでいうモデルとは,例えば新製品による今後10年間の
シナリオ分析では,結果指標の目標値を導きだすよ
うな不確実要素の組み合わせを明らかにする。例えば
「損益が高くなるような不確実要素の組み合わせは,
前半3年間の低い営業コスト,非常に高い販売価格,
高い売上高である」といったような分析である。
事業化計画について,年度別損益を,販売量,製造原価,
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日立TO技報 第8号
・平均は約449,702
(6)意思決定
@RISKを使用したシミュレーションにより,損益や
コストといった結果指標の起こりうる範囲を定量的・視
・数値の範囲は43,200∼988,600の間(90%信頼区間)
・NPVがマイナスになる確率は少ない(5%未満)
覚的に捉えることができるため,受け入れられるリスク
に応じたリターンが立体的に把握できる。また,将来実
次にNPVの回帰係数による分析結果は,図2のとお
現するリターンの増大や,リスク軽減のためのバランス
りである。図2では,NPVに対してインパクトがある
のとれた意思決定が可能になる。
主な不確実要素が,影響度の高い順に表示されている。
(このようなグラフをトルネードグラフという。)この例
3.2
適用例
ではNPVに対して影響の高い項目は,初期の参入企業
数,初期の販売量,後期の参入企業数,初期投資の順で
以下,@RISKの適用例について示す。
(1)新事業計画における事業価値算出への適用
ある。
A課題
Regression Sensitivity for NPV(10%)/C10
10年計画の新事業に関して,リスクを考慮した上で
- .46
NPV(Net Present Value, 正味現在価値)やキャッシ
ュフローを評価し,プロジェクトの是非を判断したい。
Number of Competitors/F25
- .387
Number of Competitors/G25
- .381
Number of Competitors/H25
- .362
Number of Competitors/I25
- .315
同時に,NPVの値の変化に影響を与える不確実要素
Number of Competitors/J25
- .201
Number of Competitors/K25
Sales Volume/K32
を特定し,必要な手段を講じていきたい。
.162
Sales Volume/J32
B不確実要素
.143
Sales Volume/L32
.115
Sales Volume/I32
.114
研究開発費,製造原価,販売量,市場の状態(競合
- .114
Number of Competitors/L25
- .068
他社参入数)
Capital Expenses/C36
Sales Volume/E32
.056
Sales Volume/H32
.053
C結果指標
- .048
Capital Expenses/D36
Sales Volume/G32
年度別損益,NPV
-1
D結果分析
-0.75
.043
-0.5
-0.25
0
0.25
0.5
0.75
-1
Std b Coefficients
図1はNPVのシミュレーション結果を分布で表示
したものである。(横軸はNPVの値,縦軸はNPVの各
図2 回帰係数による分析
最後に図3はNPVのシナリオ分析結果である。(図中
の%とは,パーセンタイルを表す。
)
階級が発生する確率を表す。
)
図1から,NPVについて主に以下の内容が分析で
きる。
Distribution for NPV(10%)/C10
▼
0.140
▼
Mean=449702.2
0.120
0.100
0.080
0.060
0.040
0.020
0.000
-0.2
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
Values in Millions
5%
.0432
5%
90%
.9886
1.4
図3 シナリオ分析
NPVがベストケース(10%の確率で起こる良いケース)
になる場合の不確実要素の組み合わせ(シナリオ)は,
図1 NPVの確率分布
60
以下のように分析できる。
日立TO技報 第8号
・ 発売2∼4年目, 6年目の参入企業数が低い
・ 発売6,7年目の販売量が高い
t ディシジョンツリー分析とPrecisionTree —
4.1
(2)設備保全ポリシーへの適用2)
分析手順
PrecisionTree(リスク分析システム@RISKシリーズ
A課題
のディシジョンツリー分析機能)は,Excelのスプレッ
設備の故障間隔や修復コストの不確実性を考慮しな
ドシート上に,意思決定のオプションと確率的に起こる
がら,機器の交換間隔を決定し,コストの見積もりを
イベントからなる,ディシジョンツリー(意思決定木)
行いたい
を作成する。以下,ディリジョンツリー分析の手順を,
B不確実要素
PrecisionTreeを使用した場合を例に説明する。
(1)モデル(ディシジョンツリー)の構築
・機器故障間隔
C結果指標
Excelのシート上に,図5のように意思決定のオプシ
ョン(ディシジョンノード)とイベント(チャンスノー
・一定期間内のトータルコスト
Dその他の定義項目
ド)を定義し,論理的かつ時系列的に繋げていく。各ノ
・機器交換コスト/回
ード(節)から発生するブランチ(枝)は,選択肢や,
・機器停止によるコスト/時間
イベントの種類を表す。
ディシジョンノードとは,人間が意思決定する内容で
・交換所要時間(定期メンテ時)
・交換所要時間(トラブル時)
あり,下記のような例である。
・交換間隔を20,40,60,80,100とし,それぞれ
・ 研究開発の継続か中止か
の場合でシミュレーションを行ってトータルコス
・ 製品のライセンス販売か独自展開か
一方チャンスノードとは人間の意思に関係なく発生す
トの比較を行う。
E結果分析
る内容であり,例えば下記のような場合である。
図4は,交換間隔が20,40,60,80,100の場合の,
トータルコストのシミュレーション結果(分布)を示
している。この分布から判断すると,大きなリスクを
抱えることなくコストを最小にするのは,交換間隔60
・ 特許取得の可能性
・ 製品販売後の市場での評価
ディシジョンノード
(意思決定)
チャンスノード
(イベント)
の場合である。
Distribution for Totals / Total
Cost/H10 (Sim#1)
4.000
▼
Values in 10^ -5
▼
Mean=123372
3.500
交換間隔
20
40
60
80
100
Mean=248364
3.000
Mean=135468
2.500
Mean=119034
2.000
Mean=123480
1.500
1.000
0.500
0.000
74
124.5
175
225.5
276
Values in Thousands
100%
80
270
図4 トータルコストの確率分布
図5 ディシジョンツリーの作成
次に各ブランチで発生するコストやリターン(収益)
の数値を定義し,チャンスノードのブランチについては,
各イベントの起こりうる確率を定義する。
(2)意思決定オプションの価値算出
PrecisionTreeは,構築されたツリーについて,起こ
りうる各オプション(ツリーの末端)の価値を算出する。
61
日立TO技報 第8号
需要大
本格展開
TRUE
開発継続
TRUE
-3
40.0%
本格展開
-0.5
4.4
-2
6.5
30.0%
0.12
4.4
5
-0.5
テストマーケティング
1.16
需要大
本格展開
TRUE
市場性小
60.0%
30.0%
8
0.18
2.5
需要
-2
-1
需要小
70.0%
3
0.42
-2.5
本格展開
-0.5
-1
展開中止
FALSE
0
新事業
0.28
12
需要
需要小
市場性大
70.0%
0
-3.5
研究開発
1.16
開発中止
FALSE
0
0
0
図6 ディシジョンツリー
(3)分析
PrecisionTreeの分析機能では,構築されたツリーに
ついて,期待値が最大(または最小)になるような意思
決定オプションのパスを自動的に判断する(ポリシー提
・本格展開後の需要
C意思決定(ディシジョンノード)
・研究開発の継続か中止か
・テストマーケティング後の本格展開の是非
案機能)。また,そのパスを前提にした場合の価値のば
D価値(コストとリターン)
らつきと起こり得る確率をグラフで表示する(リスクプ
・開発費用(単位:億円)
ロファイル)。そして,特定の項目(例えば特許取得の
・テストマーケティング費用
確率や,ライセンス販売価格)の数値が一定の範囲で変
・全国への本格展開にかかる追加費用
化した場合,それが事業価値にどのような変化を与える
・本格展開後の収益
かを分析する(感度分析)。
Eツリーの作成
B∼Dの内容をもとに,ディシジョンとイベントを
(4)評価
「将来,どのような意思決定オプションやイベントが
時系列に繋げて作成したディシジョンツリーは図6の
存在するか」を整理し,ディシジョンツリーを作成する
とおりである。各ノードのブランチでは,上段には発
ことは,意思決定の議論を建設的に進める土台にもなり,
生する確率を,下段にはそのブランチで発生するコス
戦略についてメンバ間の理解と共有を図ることができ
トやリターンの数値を設定している。
る。また,将来に渡っての戦略の全体像を理解し,それ
F
をベースに意思決定することが可能になる。
結果分析
図6のツリーでは,ツリーの末端(これをエンドノ
ードという)の価値と発生確率が青色で表示される。
4.2
適用例
以下,新製品の研究開発から製品化,市場投入への展
開を例に,PrecisionTreeの適用例を示す。
A課題
現在開発中の新製品について,製品化後の販売見込
期待値は,それぞれ緑と赤の数値で表示される。期待
値の内容の解説は省略するが,結論として,このツリ
ー全体の期待値が最大になるようなオプションは,研
究開発の継続,かつ,テストマーケティングの結果に
を考慮し,開発続行か中止か意思決定したい。
関わらず本格展開を実施することである。(ポリシー
B不確実要素(チャンスノード)
提案。図7参照。)
・全国への本格展開前のテストマーケティングの結果
62
また,ディシジョンノードとチャンスノードにおける
日立TO技報 第8号
需要大
TRUE
3−3.5
-0.5
テストマーケティング
1.16
30.0%
需要大
TRUE
本格展開
60.0%
2.5
2−2.5
1.5−2
-3
需要
-2
-1
70.0%
需要小
市場性小
0.18
8
2.5−3
8
-3
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
-5
1−1.5
研究開発費
0.5−1
収益
0.42
3
14
4.4
0.12
5
17
TRUE
本格展開
-0.5
30.0%
4.4
事業価値
開発継続
40.0%
6.5
需要
-2
需要小
市場性大
0.28
12
11
本格展開
70.0%
0−0.5
-2.5
本格展開
-0.5
-1
図9 感度分析結果
研究開発
1.16
図7 ポリシー提案
また,変化要因と,プロジェクトの期待値を最大化す
また,リターンを最大にするオプションを選択した場
る意思決定のオプション(研究開発続行か中止か)の関
合の確率とリターンのプロファイルは,図8のとおりで
係は,図10のとおりである。図10はX軸に収益を,Y軸
ある。X軸に起こり得る価値(リターン)を,Y軸にそ
に研究開発費を示しており,それぞれの値の組み合わせ
の発生確率を示しており,例えば,新事業のリターンが
によって,開発の継続/中止のどちらのオプションを選
2.5億円になる確率は18%である。一方,2.5億円の
択すべきかを表している。例えば,研究開発費が3億円
損失になる確率も42%存在している。
以下の場合は,収益に関係なく,開発継続を推奨してい
このようにリターンの範囲とその発生確率を把握する
る。一方,研究開発費が3.25億円以上で,かつ収益が8
ことで,「このプロジェクトがどの程度の確率でどの位
∼14億円の場合は,開発継続/中止の意思決定が図のよ
の損失を発生させるのか」や,反対に「どの程度までリ
うに変化する。
ターンを伸ばすことが可能なのか」を把握できる。
-2.5
0.5
研究開発費
-3
0.42
Probability
0.4
0.28
0.3
0.2
0.18
0.12
-3.5
1:開発継続
-4
2:販売中止
-4.5
-5
8
0.1
10
12
14
16
18
収益
0
-4
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
5
6
7
8
図10
Value
図8 リスクプロファイル
最後に,幾つかの要因が一定の範囲内で変化する場合
の意思決定への影響を分析する。
u
継続/中止の意思決定
今後の課題
本報告で述べたリスク分析手法は仕組みとしては比較
的シンプルであり,導入が容易にも感じられる。しかし
仮に研究開発費と,本格展開後の収益(テストマーケ
企業の現状に目を向けると,不確実性の定量化や,意思
ティングの結果,市場性大の場合)が下記のように変化
決定のための価値判断基準,リスクとリターンの明確化
すると,このプロジェクトの期待値(事業価値)は図9
は必ずしも十分でない。起こり得るシナリオや戦略のオ
のように変動する。
プションを抽出・整理することは,不確実性が増大する
・変化要因1:研究開発費が2.5∼5億円
中,企業にとって重要と考える。
・変化要因2:需要大の時の収益が8∼18億円
図9ではX軸に収益,Y軸に研究開発費,Z軸に事業
様々なビジネスの場面で不確実性を管理し,効果的な
意思決定が可能になるよう,日立東北ソフトウェア(株)
価値を示しており,収益と研究開発費の組み合わせによ
は,今後も顧客に対して意思決定の質の改善を提案して
り,事業価値は0∼3.5億円の間で変化する。
いく。
63
日立TO技報 第8号
v
澤田 美樹子 1991年入社
おわりに
@RISKシリーズを使用して意思決定を行うユーザと
は,大規模事業計画に携わる計画立案者や経営者ばかり
グローバル事業推進部
リスク分析に関する提案・コンサルティング
E-mail:[email protected]
ではない。米国のある企業では,マネージャークラス全
員がこのようなリスク分析システムを使用し,期毎の予
算を幅と確率で立案し,管理している。
日本企業も,事業所毎の販売計画,システム開発の工
佐藤 夕子 1998年入社
e-ストラテジー営業グループ
程計画,課の受注売上計画など,事業の規模に関わらず,
自社製品・ソリューションサービス拡販
不確実下の計画立案や管理の場面でリスク分析は不可欠
E-mail:[email protected]
であると考える。今後も顧客にリスク分析の教育や適用
事例の紹介を行ないながら,適切な意思決定と経営の安
定化を支援していく。
参考文献
1)籠屋邦夫:意思決定の理論と技法,ダイヤモンド社,
1997
2)Wayne L. Winston, Simulation Modeling using @RISK,
Duxbury,2001
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