このPDFをダウンロード

ゲームの手法を用いた情報リテラシー教育の可能性:
海外の事例を中心に
西
森
哲
也
抄録:海外,特にアメリカの大学図書館では情報リテラシー教育にゲームの手法を用いる事例が数多く見ら
れる。その背景として,図書館におけるゲームの普及と,教育とゲームを結び付ける研究と実践の蓄積が挙
げられる。加えて,従来の講義形式にとどまらない,能動的な教育手法が求められていることが大きく影響
している。ゲームの手法は作成に一定の技術を要するなどの問題点があるが,日本の大学図書館における情
報リテラシー教育にも応用できる可能性がある。
キーワード:ゲーム,ゲーミフィケーション,ゲーム型学習,シリアスゲーム,情報リテラシー教育,アク
ティブラーニング,Web チュートリアル
はじめに
日本の大学図書館界において情報リテラシー教育
とゲームという組み合わせはあまり馴染みがないよ
うに思われる。しかし,海外,特にアメリカの大学
図書館では,情報リテラシー教育にゲームを活用す
る試みが行われている。これは,二,三の図書館に
よる特殊な事例ではない。規模の大小を問わず,い
くつもの図書館でゲームを活用した手法が試みられ
ている。
こうした動きの背景には,ゲームそのものが図書
館に普及しはじめたことと,教育とゲームを結び付
ける研究が活発に行われるようになったことがあ
る。加えて,大学図書館の情報リテラシー教育にお
いて,従来の講義形式にとどまらない,能動的な教
育手法が求められていることが大きく影響してい
る。このような状況の中,新たな手法の一つとし
て,ゲームを活用した教育に注目が集まった。
本稿では,はじめに,アメリカの図書館界におけ
るゲームの普及状況と,教育分野におけるゲーム研
究の状況について概要を示す。その上で,大学図書
館を取り巻く状況と,ゲームを用いた教育手法の関
係を整理する。さらに,ゲームを活用した教育手法
の事例と問題点を紹介し,日本における応用可能性
を検討する。
なお,本稿におけるゲームとは,デジタル,非デ
ジタルの別を問わず,プレイヤーによって行われる
一定のルールに基づく能動的な目標達成のための作
業であり,その中でも何らかの遊びの要素を含むも
のを指す。
1.アメリカの図書館におけるゲームの普及
まず,アメリカの図書館界においてゲームがどの
ように位置づけられてきたか,その概要を紹介する。
ア メ リ カ の 図 書 館 界 に お い て,2006 年 頃 か ら
ゲームに関する文献や報告事例が増加しはじめてい
る。図書館専門誌で特集が組まれたほか,シンポジ
ウムが開催され,ゲームの活用に関する振興事業が
行われるなど,ある種のゲーム・ムーブメントとで
も呼ぶべき状況が続いた。特に ALA(アメリカ図
書館協会)はゲームを図書館の活動に益するものと
して,様々な普及活動を行っている。以下にその詳
細を紹介する。
1.1 ALA TechSource による活動
ALA の下部組織である ALA TechSource の機関
誌î Library Technology Reports úは,2006 年 に
îGaming and Libraries: Intersection of Servicesúと
いう特集を行っている。この特集は当時まだ広く認
知されていなかった図書館とゲームの関係を取り上
げ,公共図書館,学校図書館,大学図書館における
1)
様々な事例を紹介している 。全体を通して,リテ
ラシー教育や若い世代へのアピールにゲームが役立
つものであり,活用するべきだという主張がうかが
2)
える 。
そ の 他 に も,ALA TechSource は,2007,2008
年に GLLS(Gaming, Learning, and Libraries Symposium)というシンポジウムを開催するなど,図
書館におけるゲームの活用を積極的に推進してい
3)
る 。
これらの雑誌やシンポジウムで紹介されている事
例には,ゲームトーナメントといったイベント型の
サービスが多く含まれる。例えば「マリオカート」
や「ダンスダンスレボリューション」のようなゲー
ムのトーナメントイベントを館内で行うというもの
である。主に公共図書館がこれらのイベントを行っ
ているが,一部の大学図書館でも同様のイベントを
1
ゲームの手法を用いた情報リテラシー教育の可能性:海外の事例を中心に
4)
行っている 。
1.2 図書館におけるゲームの普及に関する調査
また,図書館界におけるゲームへの関心の高まり
にともなって,ゲームの普及に関する統計調査が行
われた。
2007 年,Scott は図書館におけるゲームおよび
ゲームを利用したサービスの普及に関する調査を
行った。これは,ランダムにピックアップした 400
のアメリカの公共図書館を対象とする質問調査であ
る。この報告によると,少なくとも 70%の図書館
が何らかの形でゲームをサポートしており,また,
約 40%の図書館が図書館でゲームを行うプログラ
5)
ムを公式に提供している 。これらの数値を見て
も,公共図書館におけるゲームを用いたサービスの
普及がうかがえる。
なお,大学図書館に関して具体的な統計数値は見
当たらないが,いくつかの図書館がゲームの利用に
関する事例報告を行っている。
1.3 ゲームの年
その後,
îLibrary Technology Reportsú誌は二
度にわたってゲームの特集を行っている。2008 年
のîGaming and Libraries Update: Broadening the
Intersectionsúという特集では,2008 年は図書館
6)
界にとってゲームの年であったと宣言している 。
2009 年 に もî Gaming & Libraries: Learning Lessons from the Intersectionsúという特集を組んで
おり,同様に 2008 年はゲームが図書館における他
のサービスと同列のものとして扱われるようになっ
7)
た年であるとしている 。
2008 年が特にピックアップされる理由の一つと
して,ALA のゲームに関する調査・推進事業が挙
げられる。2008 年,ALA はヴェライゾン財団より
100 万 ド ル の 助 成 金 を 得,図 書 館 と リ テ ラ シ ー,
8)
ゲームの関係性の調査を開始した 。この調査は最
終的にîThe Librariane
s Guide to Gamingúという
9)
ツールキットとしてまとめられた 。これは図書館
がゲームを活用するにあたって必要な情報をまとめ
たものである。
また,2009 年には ALA とヴェライゾン財団が
10)
協同でより小規模な助成事業を行った 。これはリ
テラシーとゲームの関わりに関する調査を目的とし
たものである。複数の図書館がこの助成を受け,実
際にツールキットを活用して,様々なプロジェクト
を行った。
1.4 National Gaming Day
他 に 2008 年 の 注 目 す べ き 出 来 事 と し て,
îNational Gaming Dayúというイベントの開催があ
る。これは ALA が主催するゲーム普及のためのイ
ベントである。全米図書館週間の一日をîNational
Gaming Dayúとして定め,様々な種類の図書館が
何 ら か の 形 で ゲ ー ム の イベ ン ト を 行 う も のであ
11)
る 。なお,日本からは山中湖情報創造館が参加し
12)
ている 。
このイベントは毎年継続して行われている。2012
年 にî International Games Day úと 名 前 を 変 え,
13)
より広く世界に向けてアピールする形になった 。
この年に行われたイベントでは世界中で約 2,000 の
14)
図書館が参加している 。
以上のように特に 2006 年から 2009 年にかけて,
ALA を中心に図書館とゲームに関する活動が行わ
れた。また,ゲームやゲームを利用したイベントは
アメリカの公共図書館を中心に広く普及している。
これらの活動は図書館の情報リテラシー教育にも影
響し,大学図書館を中心に様々な事例が見られるこ
とになる。
2.教育とゲーム
そもそも,図書館界においてゲームへの関心が高
まった背景には,ゲームが教育に役立つものである
という考えが世の中に広まってきたことがある。
教育分野におけるゲームの利用は,かなり以前か
ら行われている。例えば,1980 から 90 年代にかけ
てエデュテイメントと呼ばれる教育手法や,マルチ
15)
メディアを利用した学習が流行している 。
近年では,2000 年代に入ったあたりから,シリ
アスゲームやゲーミフィケーションといった新たな
コンセプトが誕生し,社会的に広く注目を集めてい
る。
これらの動きに呼応する形で,世界の主要な教育
研究機関がゲームに関する調査を行っている。例え
ば,米国の New Media Consortium と EDUCAUSE
に よ るî Horizon Report úが そ の 一 つ で あ る。
îHorizon Reportúは,新しいテクノロジーが教育
に及ぼす影響を分析したもので,毎年最新版が発行
されている。2014 年版のîHorizon Reportúは高
等教育において今後二,三年で最も重要なものにな
るテクノロジー分野として,ゲームおよびゲーミ
16)
フィケーションを挙げている 。また,イギリス政
府が資金を投資し,新しい学習環境の構築を目的と
する NESTA Futurelab も同様にゲームに注目し,
17)
報告書を発行している 。
2
大学図書館研究 CII(2015.4)
2.1 教育とゲームの研究
こうした動きの背景には,ゲームと教育に関する
様々な研究や事例が存在している。
ゲームと教育に関する論考には,主に二つの方向
性が見られる。一つは,ゲームそのものが教育的な
効果を持っており,ゲームをすることによって何ら
かの能力等を高めることができるというもの。もう
一つは,ゲームがもっている特性を活用することで
様々な活動の効果を増すことができるというもので
ある。前者は主に図書館におけるゲームやゲームイ
ベントの普及の論拠として用いられ,後者は図書館
における情報リテラシー教育等の教育活動へのゲー
ムの活用の論拠として用いられることが多い。
以下,図書館学の論文等で頻繁に言及されている
代表的なものを紹介する。
2.2 ゲームの教育的な効果
ゲームが持つ教育的な効果,特にリテラシーに関
連する研究については,James Paul Gee の著書,
î What Video Games Have to Teach Us about
18)
Learning and Literacyúが有名である 。
まず,Gee はリテラシーの対象を文字媒体に限定
せず,画像,記号,グラフのような視覚的な情報,
もしくは文字と画像の複合的な情報を含んだものと
する。その上で,これらの情報がもつ意味は一定で
はなく,それが属する領域によって決定されると主
張 す る。そ の 領 域 を セ ミ オ テ イ ッ ク・ド メ イ ン
(semiotic domain)と呼ぶ。リテラシーは,情報そ
のものの意味だけでなく,それが属するセミオテ
イック・ドメインを含めて理解し,活用する能力で
19)
あるとしている 。
究の基本的な態度に親しむことができると主張す
る。
他に図書館員がゲームの教育的効果について言及
する際にしばしば引用するものとして,ジョンソン
の著書「ダメなものは,タメになる:テレビやゲー
22)
ムは頭を良くしている」がある 。ジョンソンは
ゲームや映画,テレビ番組等のポップカルチャーに
代表されるメディア全般を取り上げる。それらがも
つ複雑な物語性や相互関連構造に慣れ親しむこと
が,認知能力の向上につながっていると分析してい
23)
る 。ゲームについては,「テレスコーピング」と
いう概念を用いて,様々なタスクを複合的に達成し
24)
ていく能力を促進させるものだと主張している 。
2.3 教育におけるゲームの活用
一方,ゲームやゲーム的な要素の活用について
は,本章の冒頭で触れたシリアスゲームやゲーミ
フィケーションといったコンセプトに基づいて語ら
れることが多い。
シリアスゲームとは,教育等の社会的な目的のた
めに活用されるゲーム全般を指す。
例 え ば,シ リ ア ス ゲ ー ム と し て 有 名 な も の に
「バーチャル U」(Virtual U)がある。これは,大
学経営のシュミレーションゲームであり,経営に関
連する技術を身につけることを目的としたものであ
25)
る 。その他にも,社会問題に関する啓蒙活動や,
職業訓練を目的としたゲームが数多く製作されてい
る。日本においても一定の普及を見せており,例え
ば日本機械工業連合会とデジタルコンテンツ協会に
よる「平成 19 年度シリアスゲームの現状調査報告
26)
書」で様々な事例が紹介されている 。
Gee は,ゲームは上記のリテラシーと関連深いも
のであると主張する。例えば,ゲーム上の目的を果
たすためには,単にゲームの画面から情報を読み取
るだけでなく,ゲームのデザイン文法(セミオテ
イック・ドメイン)を理解する必要があるとしてい
20)
る 。この文法はゲームのルールというよりは,そ
のルールに基づいてどのような情報の解釈と応用が
藤本はその著書「シリアスゲーム」の中で,ゲー
ムを教育活動に活用するメリットとして,以下の五
点を挙げている。
・モチベーションの喚起・維持
・全体像の把握や活動プロセスの理解
可能であるかという内的な設計を意味する。これは
最初から開示されておらず,ゲームを進行していく
・行為・失敗を通した学習
この中でも「モチベーションの喚起・維持」に特
化した典型的な手法の一つがゲーミフィケーション
中で判明することが多い。
また,この文法を理解して,ゲームをクリアする
ためには,情報を集め,仮説を立て,実験し,その
結果を分析する必要がある。これは研究の過程に類
21)
似している 。
ゲームをプレイすることは,こういった作業を繰
り返すことを意味する。Gee はこれによって,セミ
オテイック・ドメインを含んだ情報の活用能力や研
・安全な環境での学習体験
・重要な学習項目を強調した学習体験
27)
である。
シリアスゲームがゲームそのものの制作や活用を
指すのに対して,ゲーミフィケーションとは,ゲー
ムの要素,メカニズム,枠組みをゲーム以外の分野
の状況に利用する手法を意味する。例えば,順位の
可視化やポイント制,報酬の要素等を特定の作業に
導入することによって,対象者のモチベーションを
3
ゲームの手法を用いた情報リテラシー教育の可能性:海外の事例を中心に
向上させることなどが挙げられる。なお,ゲーミ
フィケーションは教育に限らず,企業による購買行
28)
動促進の手法としても広く活用されている 。
また,
「全体像の把握や活動プロセスの理解」に
ついては,シミュレーションとしてのゲームの性質
が関係している。Shaffer 等は,実践共同体(community of practice)に基づいた行動型学習を提案
リアルを利用してきた。しかし近年では,上記の世
代がサービス対象の中心となったことなどから,受
動的な学習や詰め込み型の学習に対する批判が高
まっている。
このような批判を受け,アクティブラーニングに
代表されるような教育手法が取り入れられるように
なった。一般的にアクティブラーニングとは,能動
的な学習参加を前提とした,グループ活動や議論を
している。実践共同体とは,例えば法学や医学等,
それぞれの専門分野における思考や行動の特徴を反
映するための学習向けの環境を指す。Shaffer は,
習は主に能動的,問題解決型という点でアクティブ
ゲームは実践共同体を手軽に再現でき,仮想空間を
通して専門分野の特徴を学ぶことができると主張し
29)
ている 。
ラーニングと類似しており,その手法の一つとして
扱われることが多い。
例えば Smith は,講義に対する学生の能動的な
3.図書館の教育活動とゲーム
以上のような教育におけるゲームへの関心の高ま
りを受けて,図書館においてもゲームの活用が試み
られている。特に大学図書館において情報リテラ
シー教育をはじめとする利用者教育にゲームが活用
されている。この背景には,大学図書館を取り巻く
様々な状況が影響している。
3.1 教育対象者の世代的特長
まず,主要な教育対象である大学生の世代的な特
徴が挙げられる。
様々な調査によって,これらの世代のほとんどが
ゲームの経験があり,多数が日常的に行っているこ
とが明らかにされている。例えば,Pew Internet &
30)
American Life project の調査報告 は十代の若者
の半数が日常的にゲームを行っていると報告してい
31)
る 。
これらの世代の若者は,しばしばデジタルネイ
ティブやミレニアルなどと呼ばれ,生まれたときか
らゲームやパソコン等のデジタル機器,インター
ネットに囲まれて成長してきた世代として考えられ
ている。
Smith は,これらの世代の学生は短期間しか集中
せず,すぐ退屈する傾向にあるとして,教育デザイ
ンに相互作用やグループ活動,また,ある種のユー
32)
モアを反映させることが望ましいと主張する 。ま
た,Prensky はこの世代の特徴として,マルチタス
クを好む,文字よりグラフィックを好む,すぐに成
果が出ることを好むなどの特徴をあげ,ゲームを用
33)
いた学習法が効果的であると主張している 。
3.2 アクティブラーニングとの関連
大学図書館は情報リテラシー教育や図書館オリエ
ンテーションの手法として,講義や Web チュート
4
通した発見学習,問題解決学習を指す。ゲーム型学
参加を促すため,クロスワードパズルやボードゲー
ムを利用する例を挙げている。また,ユーモラスな
アイデアや漫画を利用して特定の事項を強調した
り,ある種の報酬を用意することによって学生のモ
34)
チベーションを向上させることを提案している 。
また,Web チュートリアルについては,単純な
文章表示形式だけでなく,様々なイラストや動画を
利用したり章末にクイズを用意するなど,変化をつ
ける工夫が用いられるようになっているが,そこに
ゲーム的な要素を加える試みが行われている。例え
ば,VanLeer は従来の文章中心の内容では学生に
受け入れられないとして,ゲームの手法を導入した
35)
チュートリアルを紹介している 。
また,Broussard は Web チュートリアルの発展
系として,形成的な評価(formative assessments)
の手法を導入したゲームを提案している。形成的な
評価とは,教育の過程において,テストとフィード
バックの仕組みを随時反映させることである。これ
によって学習者側は必要な情報を必要なタイミング
で得ることができる。また,教育者側は学習者が必
要としている情報を把握し,それをリアルタイムで
提 供 す る こ と が で き る。Broussard は,従 来 の
Web チュートリアルは,クイズの時間を除いて情
報の流れが一方通行であると批判している。また,
クイズも解答と解説を提示するに留まり,フィード
バックを充分実現していないと主張する。一方,
ゲームはその内容全てが問題を解くための活動とそ
れへの回答の繰り返しであり,より効果的に形成的
36)
な評価を導入することができるとしている 。
3.3
情報リテラシー教育との親和性
また,教育の手法に限らず,その内容についても
情報リテラシー教育とゲームの親和性が指摘されて
いる。
従 来,情 報 リ テ ラ シ ー 教 育 に つ い て は ACRL
大学図書館研究 CII(2015.4)
(大学・研究図書館協会)の「高等教育のための情
報リテラシー能力基準」
(
î Information Literacy
37)
Competency Standards for Higher Education ú)
や SCONUL( 英 国 国 立・大 学 図 書 館 協 会 )の
î The SCONUL Seven Pillars of Information
38)
Literacyú 等によって,達成目標の基準が規定さ
れてきている。
一方,様々な図書館員によってゲームによる学習
内容はこれらの基準に適合しているという指摘がな
されている。
Waelchli は「ファイナルファンタジー」シリー
ズ な ど 三 つ の ゲ ー ム を 挙 げ,そ れ ら が い か に
ACRL の基準に適合しているかを解説している。
例えば,第一の基準である「情報リテラシーを身に
つけた学生は,必要な情報の性質と範囲を見定め
る」について,ゲームプレイヤーはいつどのような
情報や道具が必要であるかを考え,それらを手に入
れるために行動をおこす必要があるかどうかを絶え
間なく判断している,といった具合である。その上
で,これらのゲームが情報リテラシー教育の例示と
なり,かつ実際的な教育の道具になりうると主張し
39)
ている 。
また,Mcdevitt の著書,
îLet the game begin ! :
engaging students with field-tested interactive
information literacy instructionúは様々なゲームを
利用した図書館の活動を紹介した事例集であるが,
すべての事例について,それがどの ACRL の基準
40)
に適合するかを表形式で紹介している 。
他 に も Gumulak は 若 者 を 対 象 と し た イ ン タ
ビュー調査を行い,ゲームを通して学習したことが
あるか,また,ある場合どのような事項を学習した
かを集計し,その結果をîSeven Pillarsúにあては
41)
めている 。
上記の例は,図書館員にとってなじみのある情報
リテラシーの基準とゲームを結び付けることによっ
て,ゲームの効果を強調するとともに,その活用方
ゲームである。これらのゲームは,Web チュート
リアルのように独立したコンテンツとして存在して
いるが,実際には従来の講義やオリエンテーション
の場面で活用されることも多い。
4.1
ゲームの要素を利用した活動
小道具のような形でゲーム的な要素を講義やオリ
エンテーションの場に持ち込むことについては,既
に多くの事例が紹介されている。これらは,先述し
たîLibrary Technology ReportsúやîThe Librariane
s Guide to Gamingú,îLet the game begin ! :
engaging students with field-tested interactive
information literacy instructionúによって,実践的
な導入方法を含めて詳細に解説されている。
これらの事例の多くは,従来,課題やテストとし
て行われていた学習者のアウトプットの部分を,ク
イズのような気軽に行うことができる形式に変更し
たものである。学習者のモチベーションを高めるた
め,これらのクイズには遊びや競争,報酬の要素が
導入される。例えば,îJeopardy ! úのような人気
番組の形式を模し,小規模な賞品を用意して,好評
42)
を得た事例が紹介されている 。また,グループ
ワークや投票の仕組みを利用して,積極的な参加を
43)
促す事例も多い 。
また,以上の要素を総合的に含んだ試みとして,
îQuality Countsúというゲームがある。これは図
書館講習会などで行われるもので,以下のルールに
基づいている。
まず,受講者を複数のグループに分割し,受講者
の所属に関連のある学術的なトピックを提示する。
グループはそのトピックに関連する情報を捜索す
る。最終的に適切と思われる情報を二点選択し,代
表者がそれについて報告を行う。情報には基準に
従ってポイントが与えられる。その基準は,例えば
著者が誰か,どこに掲載されているか,いつ発表さ
れたか,などの情報の信頼性に関するものである。
法をわかりやすく提示している。
これらは,ただ明示されていればよいというもので
はなく,そのトピックに関する学術的な専門性を備
4.情報リテラシーゲーム
以上を踏まえた上で,図書館の利用者教育,特に
情報リテラシー教育におけるゲームの活用例を紹介
する。
えていなくてはならない。図書館員は,代表者の報
告に応じて,様々な指摘を行い,その情報がポイン
トに値するものかどうかを議論する。最終的に最も
多くのポイントを得たグループに,賞品が与えられ
44)
る 。
その他に,ゲームの要素を導入した個性的な事例
としてゲーム型の図書館オリエンテーションがあ
る。これは何らかのストーリーを用意して,図書館
これらのゲームは大きく二種類に分けることがで
きる。一つは,先述のゲーミフィケーションに近い
ものである。つまり,従来の講義やオリエンテー
ションにゲームの要素を導入するものであり,デジ
タル,非デジタルを問わない。もう一つは,図書館
によって製作された,オンライン上で実行できる
内で脱出や宝探しのようなイベント(Scavenger
Hunt)を行うものである。例えば,夜中にゾンビ
5
ゲームの手法を用いた情報リテラシー教育の可能性:海外の事例を中心に
に占拠された図書館から脱出するという設定に基づ
いた図書館オリエンテーションなどがある。ゲーム
をクリアするためには,図書館のフロア構造を理解
するとともに,情報探索の技術が求められる。これ
らのゲームは,図書館に親しみをもってもらうと同
時に,図書館の仕組みについて理解してもらうこと
45)
を目的としている 。
また,利用者教育に限らず,図書館のサービス全
体にゲームの要素を導入する事例も存在する。University of Huddersfield では,îLemmon Treeúと
いうバッジシステムを導入している。バッジシステ
ムとは,ある領域での活動にポイントを付与し,そ
のポイントの量によってバッジと呼ばれるある種の
ランク付けを行うものである。University of Huddersfield の 図 書 館 で は,入 館 や 貸 出 返 却,Web
サービスの利用などに応じて利用者データにポイン
トを加算する。そのポイントに応じてカードの色が
変わったり,ログイン時のアイコンが変わったりす
るほか,ランキング表示やリコメンド機能に反映さ
46)
れる 。
4.2 コンテンツとしてのゲーム
独立したコンテンツとしてゲームについても,幾
つかのレビュー文献が存在するほか,Web サイト
47)
上でもリンク集などが作成されている 。ここでは
特徴的なものや,有名なものをいくつか紹介する。
48)
・The Information Literacy Game
The University of North Carolina at Greensboro,
Walter Clinton Jackson Library の Scott Rice と
Amy Harris によって作成されたゲーム。2006 年に
プロジェクトが開始し,2007 年に公開された。デ
ジタルネイティブ世代の学生たちが効率的に学ぶこ
とができるツールの製作を目的としている。
ボードゲーム形式であり,サイコロを動かして出
た数だけ升目を進む。それぞれの升目にはジャンル
別に分類されたクイズが用意されている。一定数の
クイズに正解し,かつ特定の升目にたどりつくこと
で,最終問題が表示される。これに正解するとゲー
ム ク リ ア と な る。ク イ ズ の 内 容 大 半 は ACRL の
「高等教育のための情報リテラシー能力基準」に
拠っている。
特徴として,ゲームのプログラムのソースが公開
されていることが挙げられる。JavaScript を中心と
した AJAX の技術によって作成されたものであり,
クイズの内容等を変更するだけで他大学でも流用す
ることができる。実際に,複数の大学においてこの
ゲームが利用されている。
6
また多人数で同時にプレイできる点も特徴的であ
49)
る 。
・Ie
ll Get it !
50)
・Within Range
Carnegie Mellon Univeristy の図書館によって作
成されたゲーム。Carnegie Mellon Univeristy は情
報科学分野で世界的に有名な大学であり,図書館に
おいても情報リテラシー教育の新しい手法を研究す
る こ と に 積 極 的 な 姿 勢 を と っ て い た。2006 年 に
ブール財団から 5 万ドルの助成を受け,情報リテラ
シー教育にゲームを活用するというプロジェクトを
開始した。その結果作成されたのがこれらのゲーム
である。
îIe
ll Get it ! úは,ディナーダッシュと呼ばれる
古典的なゲームの形式を応用している。ディナー
ダッシュとは,プレイヤーが飲食店の給仕役となっ
て,客をさばいていくゲームである。客をテーブル
に案内し,注文を受け,料理を運び,支払いを受
け,食器をかたづける。以上の作業を複数のテーブ
ルで平行して実行することが要求される。客を待た
せるとストレスがたまり,一定量を超えると怒って
帰ってしまう。
îIe
ll Get it ! úは飲食店を図書館に,
給仕をレファレンスライブラリアンに,客を利用者
に変更して,次々に図書館にやってくる利用者の情
報欲求を満たしていく。プレイヤーは利用者が求め
る情報が掲載されているであろう情報源を利用者に
提示する。利用者がその情報に満足するとポイント
がたまっていく仕組みである。
一方,îWithin Rangeúは,画面上の書棚に並ん
だ本を背ラベルの請求記号順(LC 分類)に並べな
おすというシンプルなゲームである。
これらのゲームは Flash によって製作されてい
る。製作にあたって,図書館内にゲームのデザイン
に精通している者がいなかったため,学内部署であ
る ETC(Entertainment Technology Center)と協
同で製作する形をとった。具体的には ETC に属す
る五名の学生が製作チームに加わっている。当初は
三つのゲームを作成する予定であり,また,作成後
も内容を改定していく予定であったが,時間の都合
上 二 つ の ゲ ー ム を 作 成 し た と ころで ス ト ップし
51)
た 。
52)
・Quarantined
Arizona State University の Fletcher Library に
よって作成されたゲーム。2004 年に計画が立ち上
がり,最初はボードゲームの形で作成されたが,後
にオンライン版が作成された。先述の Gee や Pre-
大学図書館研究 CII(2015.4)
nsky の学説を実践し,学生が効果的に学ぶことが
できるツールの作成を目的としている。
このゲームはウィルスに汚染されたキャンパスを
救うために,治療薬を製作することを目的としてい
る。図書館等の建物が並んだキャンパスマップが基
本画面となり,プレイヤーは自分のキャラクターを
方向キーで操作しながら,制限時間内に必要な情報
を収集する。参考文献の記述を読み取り,図書館で
蔵書検索を行い,文献データベースを検索するなど
して,情報をそろえ,研究者に届ける。マップ上に
は多数の検疫官がうろついており,自分のキャラク
ターがぶつかってしまうと制限時間が減ってしま
う。
している。ゲストとしてプレイできるほか,ログイ
ン認証にも対応しており,進行結果を保存すること
ができる。また,ゲームをクリアした者には抽選で
55)
賞品が与えられている 。
・Secret agents in the library
・Ite
s Alive !
56)
・Goblin Threat Plagiarism Game
Lycoming College の Snowden Library の Mary
Broussard によって作成されたゲーム。新入生を対
象としたもので,講義中に用いることを想定して製
作された。情報リテラシー教育を楽しいものにし,
学生を引きつけることを目的としている。
このゲームは,ストーリーと学習内容が一致して
おり,情報探索のシミュレーションとしての要素を
含んでいる。また,純粋にゲームとしても楽しめる
何れも Flash によって製作されたもので,チュー
トリアルの形式に近い。ストーリーが用意され,目
的を達成するために様々なクイズに回答するという
完成度の高いものとなっている。製作委員は,プロ
グラムコーディネーターをはじめ,図書館学の修士
コースに在籍している図書館職員二名,テクニカル
ライブラリアン一名,レファレンス等のセクション
の新規採用図書館員一名,といったように図書館内
の様々な部署から集められている。その他にもプロ
グラマーを雇用するなど,大規模なプロジェクトと
53)
して進められている 。
構成になっている。
îSecret agents in the libraryúは 2009 年に作成
された。新人スパイの役になって図書館内の侵入者
を追跡するというストーリーに基づく。実際の内容
は「高等教育のための情報リテラシー能力基準」の
第二の基準である,「必要な情報に効果的かつ効率
的にアクセスする」能力に関係するクイズから構成
57)
s Alive ! úは 2008 年に作成され,生
される 。îIte
物学の初級のクラスで行われる図書館による情報活
用の講義で用いられた。マッドサイエンティストに
なって,モンスターを作り出すための部品を集める
というストーリーに基づき,初歩的な情報探索や論
58)
文執筆に関係するクイズに回答する 。2009 年に
作成されたîGoblin Threat Plagiarism Gameúは
キャンパスを占拠した「剽窃ゴブリン」を退治する
ために,これらのモンスターが出す剽窃に関するク
59)
イズに答えるというものである 。
どのゲームもストーリーとクイズ要素の関連性が
薄いという欠点はあるものの,細かい演出を含め
て,単純なクイズ集にならないような工夫が施され
54)
・Head Hunt
Ohio State University の図書館によって作成され
たゲーム。従来の図書館オリエンテーションや新入
生向け配布物に代わるものとして作成された。新入
生向けにキャンパス上の図書館の配置を知ってもら
うとともに,図書館の威圧的な雰囲気を和らげるこ
とを目的としている。2006 年に計画がスタートし,
2007 年にリリースされた。
「ブルータス」という名前のオハイオ州立大学の
マスコットキャラクターの頭部が何者かに隠された
という設定のもと,キャンパス内を捜索するという
ストーリーになっている。ゲームを開始するとキャ
ンパスのマップが表示される。図書館の位置にはピ
ンでマークがつけられており,それをクリックする
と簡単な紹介文や動画が表示され,クイズがスター
ている。また,特徴としてプログラミングの経験を
もたない図書館員によって,数ヵ月の短期間で作成
されているという点が挙げられる。
60)
トする。クイズの内容は図書館で提供している基本
的なサービスの内容と利用方法に関するものであ
る。クイズに正解することで隠し場所を示す一文字
が与えられる。最終的に隠し場所を回答して,正解
・BiblioBouts
University of Michigan の図書館を中心に作成さ
であればクリアとなる。
このゲームは三人のインストラクション・ライブ
ラリアンと二人の学生アルバイトによって作成され
ラインボードゲームを作成している。
îDefense of Hidgeonúは,従来の図書館の情報
リテラシー教育が有効に機能していないという認識
から,新しい手法を模索して作成したものである。
た。Google Map API や JavaScript,PHP 等を利用
れ た ゲ ー ム。University of Michigan はî BiblioBoutsúより前にîDefense of Hidgeonúというオン
7
ゲームの手法を用いた情報リテラシー教育の可能性:海外の事例を中心に
実際に,このゲームを授業中に利用して,学生にア
ンケートやインタビューを行った。その結果,ゲー
ム形式には一定の効果はあったものの,学生のモチ
ベーションをあげるためには,専攻の授業と直接関
係のある内容であったり,宿題や単位の取得に役立
性の設定にかかわるものである。本来,ゲームデザ
インは専門的な技術を要する。これに教育的な要素
が加わると,さらに複雑な技術が要求される。藤本
は教育目的で作成されたゲームが失敗する要素とし
て,説明部分が冗長,学習要素とゲームが分離して
つ 要 素 を も り こ む必 要 が あ る と い う 結論 に達 し
61)
た 。
その後,米国博物館・図書館情報サービス機構か
いる,学習内容に関係のない設定等が多い,などを
ら 4 年 間 の 助 成 を 受 け,六 大 学 協 同 でî BiblioB62)
outsúプロジェクトを立ち上げた 。
îBiblioBoutsúは FireFox と Zotero を利用した,
lon Univeristy で はî Entertainment Technology
Centerúと協同で作成することで経験不足を補っ
ている。また,Branston は失敗しない方法として,
文献リスト作成ゲームである。このゲームはいくつ
かの過程を通じて得点を競う。まず,提示された
テーマに関連する文献情報を共有リストの中に追加
開発段階からテストプレイヤーとして利用者を参加
させ,常にフィードバックを得られるようにしてお
66)
くべきだと主張している 。
また,ゲームで用いられる競争や報酬の原理は,
していく。一定期間が経過するとエントリーが締め
切られる。次に,共有リスト中の文献にポイントと
タグを付与する。ポイント付与にあたっては,フル
テキストや参考文献リストの有無,情報源や情報作
成者の性質,テーマとの関連性等に基づいて判断
し,さらになぜそのポイントを付与したのかという
コメントを加える。その後,参加者はそれぞれの研
究テーマを決定し,その参考文献にふさわしい文献
を選択する。その選択に応じてボーナスポイントが
63)
与えられる 。
学生はこのゲームを通して,情報源の信頼性につ
いて学ぶとともに,文献データベースや文献管理ソ
フトに親しむことができる。また,自分の専攻分野
に関する高品質な文献リストを作成できる。
4.3 ゲームの問題点
上記の例は何れも情報リテラシー教育にゲームを
活用した事例である。ゲームの実施に際しては,し
ばしばアンケート等の調査が行われている。学生等
の回答はおおむねゲームに対して好意的であるが,
否定的な意見も少数ではあるが存在する。例えば
îQuarantinedúに対して,肯定的な意見が寄せら
れる一方で,複雑すぎる,苛立たしいといった意見
64)
も寄せられている 。
こういった意見には様々な原因が考えられる。例
えば,学習に対して既に充分なモチベーションを
もっている学生や,ゲームに慣れ親しんでいない学
生にとっては,不必要でまわりくどい手法である可
能性がある。ゲームの手法は誰に対しても万能とい
うわけではなく,学習者の特性に応じて使い分けな
くてはならない。
また,ゲームの成否にかかわる重要な要素とし
て,ゲームデザインが挙げられる。ゲームデザイン
とは,例えば,画面の構成や操作性,難易度や戦略
8
65)
挙げている 。通常,図書館員はゲームデザインの
分野に親しんでいないため,例えば Carnegie Mel-
使い方を誤るとそれ自体が目的化してしまう可能性
がある。競争で上位につくことや,報酬を得ること
は本来の目的ではないため,あくまでモチベーショ
ンを向上させるための手段にとどめる必要がある。
そのようなゲームの設計には程よいバランス感覚が
必要になるだろう。
デザインに限らず,ゲームの作成はいくつかの困
難を伴う。例えば,オンライン上で実行できるゲー
ムを作成するには,プログラミングの技術が必要で
ある。予算を獲得して,外部の技術者に作成を依頼
する方法もあるが,その場合継続的にコンテンツを
維持,発展させていくことは難しい。図書館員自身
が作成したとしても,担当者が変わることでコンテ
ンツの維持が困難になることも起こりうる。実際
に,過去に作成され,すでに利用できなくなってい
67)
るゲームが存在している 。
その他の問題点として,作成に時間がかかること
が挙げられる。先述のゲームのほとんどが作成期間
に一年以上を費やしている。Carnegie Mellon Univeristy や Arizona State University の場合は,大
規模なプロジェクトとして進められていることが一
因である。一方,The University of North Carolina
at Greensboro の例については,図書館員が日常業
務を行いながら作成しているため,作成期間が長く
なっているという側面もある。
継続的に利用されるゲームを作成するコツとし
て,Rice や Broussard はシンプルな設計を心がけ
68)
ることだと主張している 。Smale もまた,ゲーム
の作成にプログラムの技術や多くの時間が必要であ
ることを受けて,必ずしも複雑なゲームを作る必要
はないと主張している。デジタルか非デジタルかを
問わず,小規模でシンプルなものを作ることを勧め
69)
ている 。
大学図書館研究 CII(2015.4)
以上のようにゲームの作成には様々な問題点はあ
るものの,先述のゲーム以外にも既に多くのゲーム
て取りあげる価値はあるだろう。
が作成されており,それらの事例から学べる点は多
い。また,
îLet the game begin!: engaging students
with field-tested interactive information literacy
注および参考文献
instructionúのように,既存の事例をまとめて,手
軽に実行できるように解説しているハンドブックも
70)
出版されている 。
5.日本における状況
最後に,日本における情報リテラシー教育におけ
るゲームの手法の活用について少し触れておく。
日本において,図書館とゲームという組み合わせ
はそれ程なじみのあるものではないが,いくつかの
事例が専門サイトや専門誌で紹介されている。例え
ばカレントアウェアネス・ポータルでは,ALA の
ゲームの普及に関する取り組みが取り上げられてい
る。また,
「情報の科学と技術」の 2012 年 12 月号
では,
「サービスとしてのゲーム」と題した特集が
71)
行われている 。
しかしながら情報リテラシー教育にゲームの手法
を活用した事例報告は少数に限られる。愛知医科大
72)
学のゲーム方式を導入した情報リテラシー教育
や,レファレンスの技術を身につけることを目的と
73)
した国立国会図書館の「RefMaster」 ,筑波大学
の電子教材とタブレット端末を用いた文献探索ゲー
74)
ム ,江戸川区立東部図書館の「ミステリークエス
75)
ト」 などが数少ない事例として挙げられる。
とはいえ,特にゲームという意識はなく,ゲーム
の手法として分類できるような活動を行っている図
書館が多数存在している可能性は高い。近年,日本
においてもアクティブラーニング等の能動的な教育
手法の需要が高まっていることは周知の事実であ
る。グループワークやプレゼンテーション実習の中
で,競争や報酬の要素,遊びの要素が組み込まれて
いても特に不思議ではないだろう。
アメリカの大学図書館においてゲームの手法が普
及した理由に,教育対象の世代的な特徴や能動的学
習の需要の高まりがあることは先述の通りである。
これは日本の大学図書館についてもほぼ同様にあて
はまる。また,日本はアメリカと同じく広くゲーム
が普及した環境にあり,ゲームの手法を用いた教育
手法が受け入れられる余地は十分あるものと思われ
る。現にゲームの手法は日本において,教育,医
療,行政分野で幅広く活用されつつある状況にあ
76)
る 。ゲームの手法は万能ではなく,様々な問題点
があることは先述の通りであるが,情報リテラシー
教育の将来像を考えるにあたって一つの可能性とし
1)Levine, Jenny.îGaming and Libraries: Intersection
of Services ú. Library Technology Reports. 2006,
Vol.42, No.5.
2)前掲 1)
複数の学説を紹介してゲームがもつ教育的効果を
強調し(p. 10-17),若い世代に対してゲームを用
いたサービスが有効であると主張している(p. 1823)
。
3)GLLS についてはカレントアウェアネスポータルで
も紹介されている。
E693 - テレビゲームを図書館サービスの 1 つに. カ
レントアウェアネス-E. 2007. No.113.(オンライン)
http://current.ndl.go.jp/e693,(参照 2014-4-20)
ALA,第 2 回ゲーム・学習・図書館シンポジウム
を開催. カレントアウェアネス・ポータル. 2008.
(オンライン)http://current.ndl.go.jp/node/9277,
(参照 2014-4-20)
4)前掲 1)p. 38-55.
5)Nicholson, Scott.îThe Role of Gaming in Libraries:
Taking the Pulseú.(online)http://scottnicholson.
com/pubs/pulse2007.pdf,(accessed 2014-4-20)
6)Levine, Jenny.îGaming and Libraries Update: Broadening the Intersections ú. Library Technology
Reports. 2008, Vol.44, No.3. p. 35-37
7)Levine, Jenny.îGaming & Libraries: Learning Lessons from the Intersectionsú. Library Technology
Reports. 2009, Vol.45, No.5. p. 5-6
8)ALA,1 億円の助成を受けてリテラシー能力と
ゲームの関係の調査を開始. カレントアウェアネ
ス・ポータル. 2008.(オンライン)http://current.
ndl.go.jp/node/8148,(参照 2014-4-20)
9)ALA. The Librariane
s Guide to Gaming: An Online
Toolkit for Building Gaming @your library.( online )http: //librarygamingtoolkit. org/,( accessed
2014-4-20)
なお,ツールキットのリリースはカレントアウェ
アネスポータルでも紹介されている。
図書館でのゲームを企画するために−ライブラリ
アンのためのゲーミング・ガイド(米国)
. カレン
トアウェアネス・ポータル. 2009.(オンライン)
http://current.ndl.go.jp/node/11994,(参照 2014-420)
10)助成を受けた図書館とその内容については下記
Web サイトに詳しい。
ALA. Libraries, Literacy and Gaming Grant.(online)http://www.ala.org/awardsgrants/ librariesliteracy-and-gaming-grant,(accessed 2014-4-20)
11)International Games Day @ your library.(online)
http://igd.ala.org/,(accessed 2014-4-20)
9
ゲームの手法を用いた情報リテラシー教育の可能性:海外の事例を中心に
12)全米「図書館でゲームをする日」が終了−日本で
も山中湖情報創造館が実施. カレントアウェアネ
ス・ポータル. 2008.(オンライン)http://current.
ndl.go.jp/en/node/9426,(参照 2014-4-20)
13)International Games Day @ your library FAQ.(online)http://igd.ala.org/faq/,(accessed 2014-4-20)
14)
îInternational Games Day in Its Fifth Yearú
. American Libraries Magazine. 2012, Vol.43 No.11/12. p.
13.
15)藤本徹. シリアスゲーム:教育・社会に役立つデジ
タルゲーム. 東京電機大学出版局. 2007, p. 27-29.
16)Johnson, Larry.[et al.]
. Horizon Report. 2014 Higher
Education ed. New Media Consortium. 2014.(オン
ラ イ ン )http: //www. nmc. org/pdf/2014-nmchorizon-report-he-EN.pdf,(参照 2014-4-20)
17)Kirriemuir, John.; McFarlane, Ceangal Angela.îLiterature review in games and learning úFuturelab Series, Report 8. 2006.( online )http: //hal.
archives-ouvertes.fr/docs/00/19/04/53/ PDF/kirri
emuir-j-2004-r8.pdf,(accessed 2014-4-20)
18)Gee, James Paul. What Video Games Have to Teach
Us About Learning and Literacy. Revised and
updated ed. Palgrave Macmillan, 2007.
19)前掲 18)p. 17-23.
20)前掲 18)p. 28-31.
21)前掲 18)p. 87-92.
22)ジョンソン, スティーブン. ダメなものは,タメに
なる:テレビやゲームは頭を良くしている. 山形浩
生, 守岡桜訳. 翔泳社. 2006.
23)前掲 22)p. 156-215.
24)前掲 22)p. 24-72.
25)前掲 15)p. 32-34.
26)日本機械工業連合会, デジタルコンテンツ協会. 平
成 19 年度シリアスゲームの現状調査報告書. 2008.
(online)http://www.jmf.or.jp/japanese/houkoku
sho/kensaku/pdf/2008/19sentan_13. pdf,( accessed 2014-4-20)
27)前掲 15)p. 6-7.
28)例えば下記文献に事例が紹介されている。
村田輝行. ゲーミフィケーションの活用事例と課題.
NRI 情報技術レポート. 2012.(オンライン)http:
//www.nri.com/jp/opinion/g_souhatsu/pdf/2012/
gs201210.pdf,(参照 2014-4-20)
29)Shaffer, David Williamson.îVideo Games and the
Future of Learningú
. The Phi Delta Kappan. 2005.
Vol.87, No.2. p. 104-111.
30)Lenhart, Amanda.[et al.]
. Teens, Video Games and
Civics. Pew Internet & American Life project. 2008.
(online)http://www.pewinternet.org/~/media//
Files/Reports/2008/PIP_Teens_Games_and_Civics_
Report_FINAL.pdf.pdf,(accessed 2014-4-20)
31)前掲 30)p. 8-9.
10
32)Smith, Felicia A.îGames for Teaching Information
Literacy Skillsú
. Library Philosophy and Practice.
2007.(online)http://www.webpages.uidaho.edu/
~mbolin/f-smith.htm,(accessed 2014-4-20)
33)Prensky, Marc. Digital Natives, Digital Immigrants.
2001.( online )http: //www. marcprensky. com/
writing/Prensky%20-%20Digital%20Natives, %20Di
gital%20Immigrants%20-%20Part1. pdf,( accessed
2014-4-20)
34)前掲 32)
35)VanLeer, Lynn.îInteractive gaming vs. library tutorials for information literacy: A resource guideú
.
2006. Indiana Libraries. Vol.25, No.4. p. 52-55.
36)Broussard, Mary J. Snyder.îUsing Games to Make
Formative Assessment Fun in the Academic
Libraryú
. The Journal of Academic Librarianship.
2012. Vol.40 No.1. p. 35-42.
37)ACRL. Information Literacy Competency Standards
for Higher Education.(online)http://www.ala.org
/acrl/standards/informationliteracycompetency,
(accessed 2014-4-20)
ACRL. 高等教育のための情報リテラシー能力基準.
野末俊比古[ほか]訳. 2000.(オンライン)http:
//www. ala. org/acrl/sites/ala. org. acrl/files/
content/standards/InfoLiteracy-Japanese. pdf,( 参
照 2014-4-20)
38)SCONUL.îThe SCONUL Seven Pillars of Information Literacy: Core Model, For Higher Educationú
2011.( online )http: //www. sconul. ac. uk/sites/
default/files/documents/coremodel.pdf,(accessed
2014-4-20)
39)Waelchli, Paul.îLeveling up: Increasing information
literacy through videogame strategies ú
. Harris,
Amy; Rice, Scott E. Gaming in academic libraries:
Collections, marketing and information literacy.
ALA. 2008. p. 212-228.
40)Mcdevitt, Theresa R. ed. Let the Games Begin ! :
Engaging Students With Field-Tested Interactive
Information Literacy Instruction. Neal Schuman.
2011.
41)Gumulak , Sabina.; Webber, Sheila.îPlaying video
games: learning and information literacy ú
. Aslib
Proceedings. 2011. Vol.63, No.2/3. p. 241-255.
42)Walker, Billie E.îThis is jeopardy! An exciting approach to learning in library instructionú
. Reference
Services Review. 2008. Vol.36, No.4. p. 381-388.
43)Spiegelman, Marsha.; Glass, Richard.îGaming and
learning: Winning information literacy collaboration ú
. College & Research Libraries News. 2008.
Vol.69, No.9. p. 522-547.
44)Smale, Maura A.îGet in the Game: Developing an
Information Literacy Classroom Gameú. Journal of
大学図書館研究 CII(2015.4)
Library Innovation. 2012. Vol.3, No.1. p. 126-147.
45)Johnson, Margeaux.[et al.].îThe Library is Undead: Information Seeking During the Zombie
Apocalypseú
. Journal of Library Innovation. 2012.
Vol.1, No.2. p. 29-43.
46)Lemon Tree.( online )https: //library. hud. ac. uk/
lemontree/leaderboards.php,(accessed 2014-4-20)
47)例えば下記文献,Web サイト等。
Broussarda, Mary J. Snyder.î Digital games in
academic libraries: a review of games and suggested best practicesú
. Reference Services Review.
2012. p. 75-89. wiki for the Game Making Interest
Group of the Library and Information Technology
Association.( online )http: //gamemakinginterest
group.wikispaces.com/,(accessed 2014-4-20)
48)The University of North Carolina at Greensboro,
Walter Clinton Jackson Library. The Information
Literacy Game.(online)http://library.uncg.edu/
game/,(accessed 2014-4-20)
49)Rice, Scot.îEducation on a shoestring : creating an
online information literacy game ú
. Harris, Amy;
Rice, Scott E. Gaming in academic libraries:
Collections, marketing and information literacy.
ALA. 2008. p. 175-188.
50)Ie
ll Get it!, Within Range.(online)https://libwebspace. library. cmu. edu: 4430/libraries-and-collec
tions/Libraries/etc/,(accessed 2014-4-20)
51)Beck, Donn.[et al.]
.îYour library instruction is in
another castle: Developing information literacy
based videogames at Carnegie Mellon Universityú.
Harris, Amy; Rice, Scott E. Gaming in academic
libraries: Collections, marketing and information
literacy. ALA. 2008. p. 135-148.
52)Arizona State University, Arizona Board of Regents. Quarantined: Axl Wise and the Information
Outbreak(online)http://www.asu.edu/lib/game/,
(accessed 2014-4-20)
53)Gallegos, Bee.[et al.].îQuarantined: The Fletcher
Library Game Project ú
. LOEX Conference Proceedings 2007. 2009.( online )http: //commons.
emich.edu/loexconf2007/13/,(accessed 2014-4-20)
54)The Ohio State University Libraries. Head Hunt:
The Game.( online )http: //library. osu. edu/head
hunt/,(accessed 2014-4-20)
55 )O e
Hanlon, Nancy,î A Game-Based Multimedia
Approach to Library Orientationú
. 2007.(online)
http: //commons. emich. edu/cgi/viewcontent. cgi?
article = 1020&context = loexconf2007,( accessed
2014-4-20)
56)Lycoming College. Snowden Online Tutorials.(online )http: //www. lycoming. edu/library/instruc
tion/tutorials/,(accessed 2014-4-20)
57)Broussarda, Mary J. Snyder.îSecret Agents in the
Library: Integrating Virtual and Physical Games in
a Small Academic Library ú
. 2010. College &
Undergraduate Libraries. Vol.17, No,1 p. 20-30.
58)Broussarda, Mary J. Snyder.îIte
s Alive!ú
. Mcdevitt, Theresa R. ed. Let the Games Begin!: Engaging
Students With Field-Tested Interactive Information Literacy Instruction. Neal Schuman. 2011. p.
25-27.
59)Broussarda, Mary J. Snyder.îGoblin Threatú
. Mcdevitt, Theresa R. ed. Let the Games Begin!:
Engaging Students With Field-Tested Interactive
Information Literacy Instruction. Neal Schuman.
2011. p. 132-133.
60)BiblioBouts Project.(online)http://bibliobouts.si.
umich.edu/,(accessed 2014-4-20)
61)Markey, Karen.[et al.]
.îThe Benefits of Integrating an Information Literacy Skills Game into
Academic Coursework: A Preliminary Evaluationú
.
2010. D-Lib Magazine. Vol. 16, No. 7/8.( online )
http: //www. dlib. org/dlib/july10/markey/07markey.html,(accessed 2014-4-20)
62)Markey, K.[et al.]
.îStudentseBehaviour Playing
an Online Information Literacy Game ú
. 2011.
Journal of Information Literacy. Vol.5 No.2. p. 46-65
63)BiblioBouts Game Play.(online)http://bibliobouts.
si. umich. edu/BiblioBoutsGamePlay. html,( accessed 2014-4-20)
64)前掲 53)p. 136.
65)前掲 15)p. 86-88.
66)Branston, Christy.îFrom Game Studies to Bibliographic Gaming: Libraries Tap into the Video Game
Cultureú
. The Bulletin of the Association for Information Science and Technology. 2006.( online )
http: //www. asis. org/Bulletin/Apr-06/ branston.
htm,(accessed 2014-4-20)l
67)Smale, Maura A.îLearning Through Quests and
Contests: Games in Information Literacy Instructionú
. Journal of Library Innovation. 2011. Vol.2, No.
2. p. 36-55.
68)前掲 49)p. 185-184, 57)p. 27-28.
69)前掲 67 p. 48-49.
70)前掲 40)
71)特集:サービスとしてのゲーム. 情報の科学と技術.
2012. Vol.62, No.12. p. 501-532.
72)小林晴子[ほか]. 教員との連携によるゲーム方式
を導入した情報リテラシー教育:愛知医科大学医
学 情 報 セ ン タ ー( 図 書 館 )の 事 例. 医 学 図 書 館.
2013. Vol. 60, No.4. p. 435-440.
73)三津石智巳[ほか]
. RefMaster:レファレンススキ
ル向上を目的とした E ラーニング・ゲーム. 情報の
科学と技術. 2012. Vol.62, No.12. p. 508-513.
11
ゲームの手法を用いた情報リテラシー教育の可能性:海外の事例を中心に
74)堀智彰他[ほか]
. 図書館の探検的学習を目的とし
た電子教材の開発. 第 21 回情報知識学会年次大会
予稿. 2013.(オンライン)https://www.tulips.tsukuba. ac. jp/dspace/handle/2241/119361,( 参 照
2014-4-20)
75)E1510 - 図書館探索型行事「ミステリークエスト」
活動報告. カレントアウェアネス-E. 2013. No.250.
( オ ン ラ イ ン )http: //current. iss. ndl. go. jp/en/
e1510,(参照 2014-4-20)
76)最新の事例については,下記文献の他,日本デジ
タルゲーム学会の年次総会や DiGRA Japan,シリ
ア ス ゲ ー ム ジ ャ パ ン の Web サ イ ト( http: //
seriousgames.jp/)等で報告されている。
日本デジタルゲーム学会 2012 年次大会予稿集. 日
本デジタルゲーム学会. 2013.
< 2014.4.20
図書館>
受理 にしもり てつや 大阪大学附属
Tetsuya NISHIMORI
The possibilities of using gamification in information literacy education: examples from overseas
libraries
Abstract:There are numerous examples of university libraries, particularly in the United States,
incorporating gamification techniques into their information literacy instruction. The author provides the
background information on how games in libraries spread and the research that connects education and
games both in theory and practice. The move from traditional lecture-based instruction new techniques
using active learning has also had a significant impact. There are a number of challenges in developing the
technology to utilize gamification, but the author believes that there is significant potential in information
literacy instruction in Japanese university libraries.
Keywords:games / gamification / learning games / serious games / information literacy education / active
learning / web-based tutorials
12