シンガポール事務所 【宮崎県立日向高等学校が修学旅行で来星】シンガポール 2010 年 12 月 1 日(水)から 12 月 5 日(日)まで、宮崎県立日向高等学校の外国語科の生徒 33 名が修学旅行でシンガポールを訪れた。当地の様々な施策について学ぶとともに、ホームス ティを通してシンガポールの家庭生活を体験することが主な目的として据えられた修学旅行で あった。 12 月 3 日(金)、当事務所において、シンガポールの 歴史や文化、緑化・水政策をはじめとする様々な施策等 について説明を行った。今回の修学旅行において、生徒 達は当地の緑化政策に最も関心を示していたため、シン ガポールが独立当初から掲げている「Clean and Green Policy」(注)について特に時間をかけて説明を行った。 シンガポールと同様、宮崎県内の各自治体も地域の特性 を生かした景観づくりに取り組んでおり、美しい景観づ シンガポールの概要について説明 くりの必要性を住民に知ってもらうべく、シンポジウム やフォーラムを頻繁に開催し、住民参加型の町づくりに力を入れている。シンガポール政府の 緑化政策の取り組みを学習し、緑豊かな街並みを実際に目にした彼らの経験や思いが、帰国後、 貴重な「声」として自治体の町づくりに活かされることを期待したい。 当事務所訪問後に訪れた「NEWater Visitor Centre」では、シンガポールの水政策について、 センター職員より説明を受けた。NEWater は、水基盤が脆弱なシンガポールにおいて、安定し た水資源の確保のための取組の一環として造られた、下水再生処理水である。基本的に、右肩 上がりの経済成長を続け、先進国の仲間入りを果たしているシンガポールにおいて、原水の一 部を隣国マレーシアから輸入しているという事実に、学生達は非常に驚いており、NEWater で 製造された下水再生水のペットボトルをまじまじと見つめる姿が印象的であった。 今回の修学旅行において、生徒達が住む宮崎県日向市の 2 倍強ほどの大きさしかないシンガ ポールが、いかに所与の脆弱性を克服して国際的な競争力を高めてきたのか、その一端を学び、 益々成長を続けていくであろうシンガポールに今後も関心を持ち続けてほしいと願うところで ある。 今日、多民族国家で国際都市であるシンガポールを、修学旅行先として選択する日本の学校 が次第に増えているように感じる。アジアでも数少ない英語圏であり、英語教育の実践の場と しての期待はもちろん、中華系、マレー系、インド系など様々な民族が共生・共存している社 会に身を置くことで、人種や宗教、生活習慣などの違いを乗り越え、お互いを尊重する重要性 を認識することができる。また、シンガポールが国を挙げて取り組む様々な先進的な施策を直 に見聞きすることは、将来を担う若い世代にとっては、貴重な経験となるであろう。 当事務所としては、今後も、自治体からの要請を受け、シンガポールに関するブリーフィン グや、学校交流、公的機関への訪問などについての事前調整・情報提供などの支援を行ってい きたいと考えている。 1 (注)「Clean and Green Policy」 汚職やゴミがない街を目指す意味での”Clean”と、ガーデンシティを目指す”Green”。シ ンガポール政府が 1967 年から掲げている政策。 (12/3 宮崎県活動支援等) (中村所長補佐 宮崎県派遣) 【シンガポール・アニメレポート】シンガポール ■アニメのビッグイベント「アニメフェスティバル・アジア」開催 会場となったシンガポールサンテック国際会議場に足を踏み入れ ると、金髪やピンク、水色、黄緑といった、色とりどりの髪をした コスプレイヤー達があちらこちらでポーズを決め、本格的な一眼レ フデジタルカメラを構えた若者がシャッターを切っていた。 これは、2010 年 11 月 13 日(土)・14 日(日)に開催された、今 コスプレはクオリティ高し 年で 3 回目となる「アニメフェスティバル・アジア(AFAX)」 (電通・ SOZO 主催)の様子である。AFAX はポップカルチャーとして人気の高 い日本のアニメを中心としたイベントで、有料(入場料1日券 8~ 15 シ ンガポールドル)であったにも関わらず、シンポール内外から多く のファンが押し寄せた。関係者の話によると、12 日(金)に行われ 若者で賑う AFAX の会場 た前夜イベントを含めた 3 日間で、延べ 7 万人が来場したとのこと。 会場内の出展ブースでは、いわゆるアキバ系アニメのフィギュア やキャラクターグッズ、ドルフィー 1、ガンプラ 2 等の展示や販売の ほか、 イラスト等の作成者がブースを構えるアーティスト・アレイ、 最新アーケードゲームの紹介、トレーディングカードの対戦などが 精巧なフィギュアは来場者を魅了 行われており、会場は熱気に包まれていた。 会場の一画には、「Cool Japan Experience」というゾーンも設置 され、日本の最先端のテクノロジーを用いた電化製品や日用品が体 感できた。また、制服を着た女子高校生が店員の「女子高校生版メ イドカフェ」や美男揃いの「執事カフェ」も設けられ、来場者が行 列を作る光景も見られた。 最新アニメの上映コーナーも このイベントでは、日本の有名コスプレイヤーも参加したコスプ レイベントや日本の最新アニメの上映会も併せて行われ、来場した ファンを湧かせ、日本のアニメの人気の高さを改めて感じさせた。 年中暑いシンガポールをさらにヒートアップさせたイベントであっ た。 シンガポールの若者の作品を展示 1 2 ボークス社製造の人形で、ヘアウィッグやパーツをカスタマイズすることができる。 超大作アニメ「ガンダム」シリーズのプラモデル 2 ■シンガポールのアニメ放映状況 シンガポールの地上波テレビでは、 「Okto」というテレビチャンネルがあり、日中は主に幼児 向けのアニメ等を放映しているが、夜の時間帯には日本のアニメも放映している。 また、シンガポールのケーブルテレビのアニメチャンネル「Animax(アニマックス)」では、 「犬夜叉」、「けいおん!!」、「ちびまるこちゃん」、「スラムダンク」、「幽遊白書」など、日本で も馴染み深いアニメが放映されている。それらは英語で吹替えされ、更に中国語の字幕が付さ れている。日本で慣れ親しんだキャラクター達が全く違う声で英語を話しているのを見ると多 少の違和感を覚えるが、概ね配役のイメージに合った声があてがわれている。また、ほとんど の家庭でインターネットが普及しているシンガポールでは、インターネット上の動画配信サイ トにて、オンデマンドで好きなアニメを楽しむ人もいる。これらのチャンネルから日常的に日 本のアニメを目にする人々も増え、日本のアニメはかなり身近な存在になっていると言えよう。 ■メディア産業振興に乗り出したシンガポール政府 ポップな若者に人気があるアニメといえば日本のアニメが主流だが、近年、シンガポール政 府も質のよい国産アニメを生み出そうと力を注いでいる。 シンガポール情報通信芸術省(MICA)は、2003 年に「Media 21」政策を発表し、担当庁とし てメディア開発庁(MDA3)を設置、ゲームやアニメ、デジタル・コンテンツ等の情報産業分野 における次世代の人材育成や、海外からのコンテンツ会社の誘致を進めるなど、産業振興に本 腰を入れ始めた。2005 年には、ルーカスフィルム・アニメーションが、シンガポールに海外初 となるスタジオをオープンしており、さらに 2013 年には自社ビルへ移転し、事業拡大を目指す 方向とのことである。そして 2009 年には、新しいメディア産業振興計画「シンガポール・メデ ィア・フュージョン・プラン(SMFP)」を策定。企業活動環境の整備、新ビジネスチャンス開拓 の支援、コンテンツ製作を行う大学や専門学校への助成金等、従来の支援を拡充し、シンガポ ールをアジアにおけるメディア産業のハブとするための土台作りを着実に進めている。 シンガポールの人口は外国人を含めて約 500 万人ほどであり、国内の市場規模は小さい。しかし、 今後は作品の質を向上させ、英語が公用語という利点も活かし、アジアのみならず欧米へ広く発信し ようとしている。2012 年には、国内 4 つ目の大学となる「シンガポール工科デザイン大学(SUTD) 」 (米 マサチューセッツ工科大学(MIT)と提携)の開校が予定され、従来「実利主義」として数学や理科な どに力を入れてきた同国の教育において、徐々に芸術やスポーツ科目も重視されてきた中、今後シン ガポール政府がどのようにコンテンツ製作を担う人材育成に取組んでいくのかという点も、注目した いところである。 ■アニメ普及の効果 日本のアニメの普及は、日本のプレゼンス向上に寄与している。 外国人が日本語を学習しようとするきっかけのひとつとして、日本のアニメやマンガへの愛 好があるという4。また、作品を通して日本の生活や文化を知ることで、日本への理解が促進さ れるというのもひとつの効果と考えられる。 3 4 シンガポールの法定機関。コンテンツ産業が集積するフュージョノポリスに設置され、主にメディア産業の育成と規制、 メディアリテラシー教育の啓蒙活動に関する事業を行っている。 アニメやマンガでは、キャラクター達が、日常では使われない一人称( 「拙者」 「おいら」など)を使う場合もあることか ら、国際交流基金では HP「アニメ・マンガの日本語」http://www.anime-manga.jp/を作成している。 3 また、観光客誘致への効果という側面もある。日本では、アニメやマンガに登場した実際の 舞台を訪れることを「聖地巡礼」と呼ぶが、日本国内においてマンガやアニメをまちおこしの 一手段とする地域があるように、観光客誘致にも一役買っている。先述の AFAX でも、シンガポ ールの現地旅行会社がブースを設け、日本のアニメをテーマにしたツアーを販売していた。ま た、タイでは、タイ国内で行われたコスプレコンテストの優勝者をタイ国政府観光庁コスプレ 大使として任命し日本に派遣、日本の若者にタイへの観光旅行を PR した。香港では、香港政府 観光局とアニマックスアジアが「香港ハロウィーントリーツ」を開催。ハロウィーンとコスプ レを絡ませた大規模なこのイベントには、香港内外から多くのコスプレファンが訪れたという。 勢いを増す日本のアニメ人気が、交流人口の拡大や日本経済に今後も繋がっていってほしい と、AFAX で盛り上がるファンを見ながら、ふと思った。 (小島所長補佐 仙台市派遣) 【タイ・シーラチャ市で日本祭り開催、東京都瑞穂町が訪問】タイ 2010 年 12 月 18 日(土)、タイ・シーラチャ市において、 「シーラチャ日本祭り 2010」が開催 された。これは、シーラチャ市とチョンブリ・ラヨーン日本人会の共催により 2009 年より開催 され、タイ・日本両国の文化交流を通じて相互理解を深め、快適で安全な街づくりを目指すも のである。今年は、在タイ日本国大使館も後援した。 シーラチャ市は首都バンコクから車で南東に約2時間のところに位置する、チョンブリ県の 都市である。1990 年代以降、日系企業の同地域周辺の工業地帯への進出により日本人居住者が 増え、日系企業連絡会から発展する形で 2003 年にチョンブリ・ラヨーン日本人会が発足した。 日本人学校、幼稚園、日本食レストラン、日系の旅行代理店、書店など、同市にはタイでも有 数の日本人街が形成されている。 日本祭りのイベント当日、会場のシーラチャ・スカパープ公園には、東京都台東区浅草の浅 草寺参道入口の「雷門」や昔ながらの縁日の様子が再現された。日本食やタイ料理の屋台が並 び、同地区在住の日本人のほか、地元タイ人など約 10,000 人の来場者で賑わった。 夕刻より始まったステージの部では、日本でも活躍中の双子歌手「Neko Jump」を始め、日本・ タイの混成音楽ユニット「Sweet Vacation」、北海道の YOSAKOI ソーランチーム「結海衆(ゆか いしゅう)」、沖縄音楽「下地健作バンド」などのパフォーマンスのほか、 「泰日協会学校シーラ チャ校」の全校児童・生徒による演舞、シーラチャ在住の日本人チームによるタイダンス、フ ラダンス、ハワイアンの演奏などがそれぞれ披露され、会場を大いに盛り上げた。 また、今回の日本祭りに併せて、東京都瑞穂町より石塚幸右衛門町長、上野瑞穂町議会議長、 町職員の3名が 12 月 17 日(金)から 20 日(月)までの日程で同市を訪れた。 4 同町はアジアの都市との交流を模索する中で、平成 20 年度からタイ王国所在自治体に住民派遣団が訪問 し、新たな交流の可能性を町民との協働により探求し てきた。このような中、平成 21 年度に住民派遣団が訪 問したシーラチャ市との友好関係構築を、現在、進め ているところである。このたび、シーラチャ市のチャ チャイ市長より今回の日本祭りへの招待を受け、多文 化共生を学ぶ機会として、また、今後の交流推進の観 石塚・瑞穂町長とチャチャイ・シーラチャ市長 点から、同町長の訪問に至ったものである。シーラチ ャ市役所における石塚町長とチャチャイ市長との会談では、教育・文化面での交流など今後の 友好関係の継続について確認が行われ、また、日本祭りへの参加等を通じて、相互理解が深め られた。 最後に、当事務所では、今回の瑞穂町のシーラチャ市訪問に向けた各種連絡調整や現地情報 の提供等の支援を行った。今後も、アジアの地域間における各種交流の促進・支援に積極的に 取り組んで参りたいと考えている。 (チョンブリ・ラヨーン日本人会ウェブサイト、瑞穂町提供資料等より構成) (大塚所長補佐 長崎市派遣) 【日印地域間交流促進プログラム実施報告】インド 当協会は、全国市町村国際文化研修所、地域国際化協会連絡協議会と共催で、2010 年 11 月 24 日(水)から 2010 年 12 月 4 日(土)まで、インド視察ミッション「日印地域間交流促進プ ログラム」を実施したので、その概要を報告する。 はじめに 本事業は、1990 年代以降、飛躍的な経済成長を背景に国際的なプレゼンスを急速に高めてい るインドに、地方自治体職員や地域国際化協会の職員等を派遣し、政府機関、企業等の訪問や 市民との交流などを通じて、日印間の政治経済・文化交流等における現状と課題を多方面から 理解し、今後の日印の地域間交流の契機とするとともに、国際感覚の涵養を図ることを目的と して実施した。日本からは 7 団体 9 名、ASEAN 地域を所管する海外駐在員からは 3 団体 3 名が 参加した(表 1 参照)。 表 1:参加者内訳 日本からの参加自治体 など 海外駐在員事務所等から の参加自治体 香川県丸亀市、沖縄県那覇市、大阪府堺市、福岡県北九 州市(3 名)、岩手県、(財)名古屋国際センター、 (財)長崎県国際交流協会 静岡県(シンガポール)、愛知県(上海) 長野県(香港) 5 表2:日程表 月日 11/28 (日) 都市名 ニューデリー等 時間 日程 終日 国立博物館等視察 夜 午前 11/29 (月) ニューデリー 午後 夜 11/30 (火) 12/1 ニューデリー ニューデリー発 12/2 ムンバイ発 終日 現地関係者との交流会 センター インフォシステクノロジーズの様子 バンガロール着 午前 移動 午後 現地経済シンクタンク 夜 現地関係者との交流会 午前 午後 午前 (金) JICAインド事務所 デリーメトロ視察 現地市民との文化交流事業 ムンバイ着 12/3 在インド日本国大使館 国際交流基金ニューデリー文化 (水) (木) 海外オリエンテーション バンガロール発 午後 夜 ボンベイ証券取引所 ムンバイ市役所 小売施設視察 移動 インフォシステクノロジーズ 現地工科大学院視察 現地進出日系企業視察 文化交流事業の様子 解団式 移動 ※11 月 24 日(水)~11 月 26 日(金)は、全国市町村国際文化研 修所で、インドの基礎知識の習得を目的とした国内研修を実施。 ※11 月 27 日(土)、12 月 4 日(土)は移動日。 実施概要 今回は、政治の中心地首都ニューデリー、インド最大の人口を誇るムンバイ、世界のIT企 業の一大集積地であるバンガロールの 3 都市を訪問して、政治、経済、教育、日本の国際協力 など、インドの現状を幅広く見聞できる内容とした(表 2 参照)。 ニューデリーでは、日本の政府機関によるインドの概要説明や、日本の政府開発援助(OD A)等により建設され、市民の交通手段として定着している“デリーメトロ”を訪れ、説明を 受けるとともに、地下鉄に実際に乗り、日本の国際協力の取り組みについて理解を深めた。ま た、インド日本商工会を中心とした現地関係者との交流会を開催し、現地の最新の情報等をお 話しいただいた(ムンバイでも同様の交流会を開催)。11 月 30 日(火)に国際交流基金との 共催で開催した現地市民との文化交流事業では、インドで日本語を学ぶ学生たちを招き、日印 両国の参加者が、それぞれ自国の文化や習慣、日常生活などをテーマに、プレゼンテーション や意見交換を行い、相互理解の促進を図った。 ムンバイでは、現地の経済シンクタンクによるインド経済の概要説明や、アジア最古の歴史 を誇るボンベイ証券取引所を訪問し、インド経済の現状及び今後の展望等を伺った。また、横 浜市との姉妹都市交流など、日本との交流に長い歴史をもつムンバイ市役所を訪問して、今後 の自治体間の交流の可能性等について意見を交わした。 バンガロールでは、インドでも有数のIT企業である「インフォシステクノロジーズ」を訪 問し、インドのIT企業のダイナミズムを体感するとともに、このようなIT企業に優秀な人 6 材を輩出する工科大学院を訪問した。最後に、現地企業との合弁で精紡機や自動車部品を製造 する「KIRLOSKAR TOYODA TEXTILE MACHINERY PVT.LTD.」を訪問し、人材育成やパートナー企業 の重要性など、インドへの企業進出に関する様々なポイントを伺った。 おわりに 当プログラム終了後に参加者を対象に行ったアンケート調査では、「現地を視察することに より、経済成長を肌で感じる一方、スラムなどの問題を抱え、裕福と貧困が隣り合うインドの 一面を見ることができた」、「企業視察や現地関係者との意見交換を通じて、地元中小企業の 現地進出における課題等が理解できた」などの評価をいただき、インドの現状を理解し、今後 の交流の契機とするという所期の目的は概ね達成されたものと考える。なお、プログラムの詳 細は、今後、当協会シンガポール事務所ホームページ(http://www.clair.org.sg/j/index.html) などにてお知らせする予定である。 (日印地域間交流促進プログラム実施時聞き取り等) (矢島所長補佐 東京都大田区派遣) 7
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