効果的なプレゼンテーション能力 ビデオ会議での効果的な プレゼンテーション技法 ―ビデオ会議の常識はプレゼンテーションの非常識― な お ま さ 佐々木 真 理 抄 録 ビデオ会議による遠隔学習や遠隔共同授業がうまくで きるかどうかは,プレゼンテーション技法にかかっている。 2 ビデオ会議とプレゼンテーション技法 不動産や相場の投資等,勧誘の電話がかかってくるが, また,技法とともに,教室や会場の設定,カメラ等各種機 電話の説明を聞いただけですぐに契約してしまう人はほ 器の設置や利用,プレゼンターの態度や服装等,運営面の とんどいない。ところが営業社員に会ってしまうと説得さ 工夫が必要である。しかも,映像画面という広さの制限や れて契約する人もいる。電話という音声だけに制限された 音量の制限等がある中で,一般のプレゼンテーション技法 メディアで相手を説得することは容易ではない。ビデオ会 を適用すると失敗してしまう。本編では,ビデオ会議に必 議も同様で,メディアを介した場合「説得プレゼンテーシ 要なプレゼンテーション技法と諸注意を解説する。 ョン」を試みても相手の心になかなか届かないのである。 <キーワード> ビデオ会議,プレゼンテーション,遠隔学習 「納得プレゼンテーション」を行うには,イソップ寓話 「北風と太陽」の太陽のように暖かく相手の立場や気持ち を考えた,綿密で総合的な準備・設営と丁寧な演示・説明 プレゼンテーションが効果的である 1 ということ が必要である。ビデオ会議を使った授業は,普通一人では (1) 効果的なプレゼンテーションとは スタッフと学習者のチームワークであるといえる。 人のまんなかに心があるとすれば,そこへストンと落ち 実施しないので,そこでの納得プレゼンテーションは教員 それに加えて,ビデオ会議特有の制約や悪条件がある。 てきて,いつのまにか自分の心の中におさまってしまうよ 例えば,画像・音声の遅延の問題。ビデオ会議システムは, うな,腑に落ちるプレゼンテーションが理想である。 生の動画と音声という莫大な連続情報を細い通信線に乗 プレゼンテーションを聞いた後,なにかキツネにつまま せて相手方に伝送するため,高度なディジタル圧縮技術を れたような気持ちになったり,押し押しのスピーチで印象 用いているが,圧縮の際にかかる処理時間が画像・音声の ばかり強くて内容が残っていないプレゼンテーションで 遅延を招き,しかも画像と音声のタイミングがずれてしま は「効果」があったとはいえない。 う。音声には適当な大きさの範囲が決まっていて,大きす 最近はキツネのつまみ方やパワー・スピーチを指南する ぎると音が割れ,小さすぎるとマイクロフォンが拾わない。 プレゼンテーション技法書もあるので要注意である。 (2) 説得プレゼンテーションと納得プレゼンテーション 大きな動作に大きな声を出して,こけおどしで相手を説 3 納得プレゼンテーションの技法 ビデオ会議を成功させる納得プレゼンテーションの技 き伏せる「説得プレゼンテーション」は,恥ずかしくてま 法を,技術的な根拠を付け加えつつ.教室や会場の設営, ねできない人も多いし,嫌悪感を聴衆に感じさせる。 カメラ撮影,話し方と見せ方の3つの観点から解説する。 プレゼンテーションは必ずしも印象的でなくていい。プ ビデオ会議システムに付属したリモコンカメラやシス レゼンテーションの基本は以心伝心である。そのために補 テムに接続するビデオカメラ(以下「カメラ」と略す)に 助的に言葉やメディアを用いて腑に落ちるようにもって は,画像を鮮明に撮影するいろいろな機能が備わっている。 いく「納得プレゼンテーション」を心がけたい。 また,音声は目に見えないのでさらに厄介である。では, 映像・音声を正しく撮影・収録することから始めよう。 SASAKI Naomasa:京都教育大学(京都市伏見区深草藤森町1) - 39 佐々木真理:ビデオ会議での効果的なプレゼンテーション技法 (1) 教室や会場の設営 ド機能を利用する。天井灯等の照明を画面に入れてしまう ① と,白くぼやけたり,照明と重なった人物が半透明になっ 教室内の明度差に注意 教室内への直射日光の差込みを避けて,室内の明度差を できるだけなくす。明度差があると,明るいところが白く たりするので注意が必要である。映像があまり鮮明でない 場合は,多人数の撮影は短い時間で行う。 抜けたようになる。暗幕やカーテンをうまく利用する。 ② プレゼンターの背景には カメラに写るプレゼンター(発表者や発言者)の背景は, 白のような明度の高い色でなく,明度が70%程度の色にす る。カメラには白色の度合いを自動的に調節するホワイト バランス機能があり,背景が白いとハレーションが発生し て対象物が暗く写ってしまう。背景には白以外の色を選び, N.Sasaki プレゼンターの映像を鮮明に相手に届けよう。 逆光はプレゼンターの顔や姿が暗くなる また,なるべく伝送速度を落とさないよう,背景には大 きな動きのものは避ける。風に揺れているカーテンがあっ たり,窓から動いている自動車が頻繁に見えたりするのは ③ ゆっくり動きしばらく止まる 適さない。カメラは自動焦点(オートフォーカス)機能が ビデオ会議では,データ圧縮にかかる処理時間が画像・ 働くので,背景でカーテン等が風でなびくと焦点が定まら 音声の遅延や乱れを招く。プレゼンターやカメラ操作の速 ないので窓を閉める。背景となるところは,外の景色や直 くて大きな動作は,映像がコマ送りやモザイク状態になり, 射日光の入る窓がなく,白でない単色の壁が理想である。 音声にも影響して適さない。ゆっくり動き-しばらく静止 し-それから話すと,鮮明な映像と音声が相手に届く。 ④ 服装も大切なポイント 一般のプレゼンテーションでは,清潔感を強調するため, 白やストライプ柄のシャツの着用等を推奨している。しか し,ビデオ会議のプレゼンテーションでは,白色の服装は ハレーションが発生し画像がぼやけてしまうので,カラフ ルな服装が望ましい。また,細かいチェックやストライプ N.Sasaki 背景は真っ白でないほうがいい 柄は,カメラの中で干渉縞(モアレ)が発生してしまい, 適さない。服装が白の場合は,背景の色を濃い色にする。 (2) カメラ撮影 ① カメラ操作はゆっくりと カメラの横振りや望遠の操作は,ゆっくりと最小限にと どめ,いろいろな角度から撮影したい場合は2~3台用意 して切替える。カメラの切替えにはビデオ切替器を利用す る。カメラをリモコン操作できて位置を数か所記憶できる 機能があれば,複数のカメラを使うのと同じような撮影を することができて便利である。カメラをプレゼンター自身 N.Sasaki でリモコン操作するときは,カメラを自分に向けたときに 細かいチェック・ストライプ柄の服は干渉縞が発生する 左右が逆になるので,リモコン操作に慣れるまで練習する。 ⑤ ② 光や照明を考えた撮影を プレゼンターの表情を鮮明に相手に届けるために逆光 を避ける。どうしても逆光になる場合はカメラの逆光モー - 40 学習情報研究 2005.11 アイコンタクトはカメラ目線に 目線はカメラ目線になるようにする。画面に映った相手 や自分の映像が気になるが,カメラ目線で見られると画面 の向こうでも親近感がわいてくるものである。 (3) 話し方と見せ方 ① 話し方 - スピーチはゆっくりと同じ調子で 緩急のあるしゃべり方や声量の急激な大小は,一般のプ レゼンテーションでは変化のある話し方として推奨され ているが,これはビデオ会議では全く適さない。自動音量 調節機能が働いているため,これが災いして音声が途切れ てしまいうまく伝わらない。ゆっくりと同じ調子で話をす N.Sasaki 目立つものを動かして子どもをカメラ目線にする るようにする。また,マイクロフォンとの距離を常に一定 にするよう心がける。エコーキャンセラ機能が働いている 場合は,相手が話をしているとき,こちらからはいはいと 人は自然に相手の映像を注視するものである。そのため, 声を出して相づちを打ったり,かぶせて話をしてしまうと カメラをなるべく相手の映像を映す画面の近くに配置し 相手の声が聞こえなくなるので注意する。 てカメラ目線になるように努力する。一般のプレゼンテー ションとは違い,プレゼンターはカメラとのアイコンタク トを心がけることが大切である。 ② 見せ方 -教材・資料を提示するには ビデオ会議で互いのコミュニケーションを深めるには, 会話だけでなく資料を提示することが効果的である。言葉 ⑥ カメラと大型テレビ・スクリーンの設定位置は大切 プレゼンターを撮影するカメラは,相手の映像が映る大 では表現しにくいことは文字や絵・映像等提示物があると 簡単に伝えられる。 型テレビやスクリーンにできるだけ近づけて設置する。カ 一般のプレゼンテーションでは,模造紙に描いた大きな メラが離れていると相手に対してプレゼンターの目線が 資料の提示等でインパクトある提示を推奨している。しか かけ離れた映像が送信されてしまう。また,三脚にカメラ し,ビデオ会議のプレゼンテーションでは資料全体の大き を取付けてカメラの高さをプレゼンターの目線の高さに さをA4ならA4に決めておく等,事前に統一しておくほ 設置する。目線の移動を最小限にすることから考えて,学 うがカメラのズーム調整にかかる時間も短くできる。フェ 習者はフロアにじかに座るよりも椅子に座ったほうがいい。 ルトペンで字を書くフリップもA4に揃えるといい。 また,大型テレビや液晶プロジェクターのためのスクリ 資料を提示する方法には,書画カメラ(OHC)等で資 ーンの位置は,直射日光の差込みや天井灯等照明の位置を 料の画像を写して相手に届けたり,プレゼンターがフリッ 考えて,光線の反射や景色の映込みがないようにする。 プ等を持って撮影する等の直接的な方法と,書画カメラや 液晶プロジェクターを通してスクリーンに映し出された ⑦ 人数は何人ぐらいまで? 資料を撮影する等の間接的な方法がある。 人数が多いと,映っていても顔が小さくなってしまうの で,人数は多くても1クラスぐらいまでである。それ以上 になるときは,内容を分けて交代にするとか,教室の中で 複数の場所に分かれて複数のカメラで切替えをするといい。 多人数の場合,雑然と広がって座るのではなく,カメラ に収まるように,扇形の複数列になり固まって座る。普段 の授業や集会で整列している座り方と異なるが.相手に届 N.Sasaki ける映像のバランスを最優先する。 発言用マイクロフォンを使用する場合は,前・中央に設 資料の映像の中にプレゼンターの映像を子画面として入れる 置してプレゼンターが中央に出てきて話すようにし,カメ ラの映像をその位置に固定して,複数人で会話に参加でき 直接的な方法の場合,フリップ等は机の天板やイーゼル るようにする。プレゼンター間でマイクロフォンを回す方 等を使い固定して提示するようにする。手で持つとカメラ 法は,カメラ撮影が追従できず時間がかかってしまう。 の操作者とプレゼンターが両方で画面にフリップを合わ 学習者全体やプレゼンターの位置は,事前にリハーサル せて入れようとして時間がかかる。書画カメラで写した資 をして映像を見ながら調整し,決まったら床にテープ等で 料の映像とプレゼンターの映像との切替えをスピーチに 目印をつけておくといい。 合わせて行おうとすると,切替え操作に時間がかかりスピ - 41 佐々木真理:ビデオ会議での効果的なプレゼンテーション技法 ーチと資料の提示がずれてしまうので,ビデオミキサーを や教室内での位置,プレゼンターの声の大きさ等を双方で 使って資料の映像の中にプレゼンターの映像を子画面と 確認する。本番では,プレゼンターが緊張して大声・早口 して入れる方法もある。 で話す等ハプニングがつきものである。本番の途中でも早 間接的な方法の場合,液晶プロジェクターで前方からス めに指摘するほうがいい。映像・音声の状態を,青・黄・ クリーンに映写すると,プレゼンターの影がスクリーンに 赤で画面上に示したり,相手のプレゼンターの問いかけに 映るので映像の邪魔にならない場所に立ち,資料を指し示 は早く反応し,沈黙であっても「今考え中」という状況を すときは指示棒やレーザーポインタを使う。透過式スクリ 相手に知らせる工夫等が,音声に関する不安を解消する。 ーンを使えば背面から映写するので影ができず,スクリー 機器の調整も大切だが,それ以上に相手の話を注意深く 聞くという聞き手としての基本姿勢や,聞き手の身になっ ンに接近して提示・説明することができる。 資料提示の技法の手本はニュース等のテレビ番組であ て話す納得プレゼンターとしての基本姿勢も大切である。 る。ビデオ会議に役立つ技法が見つかるかもしれない。 ④ パソコン画面を相手に届けるには 納得プレゼンテーションでは電子スライド等を活用す るが,パソコン画面の信号はビデオ会議で扱うビデオ信号 に変換する必要が生じる。信号変換器(ダウンコンバータ) を使ってパソコン画面をテレビやビデオに映す。 液晶プロジェクターでスクリーンに映写したパソコン 画面をカメラ撮影する方法もあるが,液晶プロジェクター N.Sasaki 間接的な資料の提示では影が映らないよう 具体的な教材や資料等をカメラで撮影するときは,その ものの本来の大きさが相手に伝わるよう,大きさがイメー ジできる対照物も一緒に写すようにする。小さい物ならい を鮮明に写すには部屋を暗くする必要があるし,部屋を暗 くすればプレゼンターが顔黒になるという二律背反がある。 書画カメラの台にノートパソコンを置いて,その画面を カメラで写すと鮮明に写る。この方法は,パソコン画面を 直接に指さして説明したりできるのでとても便利である。 ろいろな角度から撮影すると立体的に伝えられる。 また,全員にリアルタイムで賛否の数をとるような場合 は,カードに[はい][いいえ]と書くよりも,色分けし たカードを示すと数量が視覚的に相手によく伝わる。 ③ 音声をうまく相手に届けるには ビデオ会議では相手とコミュニケーションをとるため に音声はとても大切である。映像が凍ってしまっても音声 が通じているとコミュニケーションをとることができる。 天井灯の映込みを防ぐためノートパソコンの画面は斜めにする そのため,エコーやハウリング等の音声のトラブルは大き な障害である。これらを防ぐには機器の工夫もあるが,ま ず設置する部屋の大きさが適切であるかを検討する。スピ 4 ビデオ会議の常識はプレゼンテーションの非常識 ーカとマイクロフォンの位置や方向,壁の状態,エアコン 大きなスペースで,対面で行う一般のプレゼンテーショ 等に問題がないか事前にチェックし,機器の調整で解決で ンと違って,遠隔地間で行うビデオ会議の納得プレゼンテ きなければ別の部屋に変更する。ビデオ会議システムに接 ーションは映像のサイズや音声のダイナミクス等に厳し 続したマイクで音声を直接に集音するのではなく,他のマ く制限された環境で行うプレゼンテーションである。その イクロフォン・アンプ・スピーカを経由させた音を集音さ ため,一般のプレゼンテーション技法はビデオ会議ではほ せるのも1つの方法である。また,話していないときには とんど通用しない。ビデオ会議を使った遠隔学習や遠隔共 音声をミュートしておくことも大切である。音声に関して 同授業の経験を積み重ねることによって納得プレゼンテ 難しい点は,音声が相手にどのように届いているかを知る ーション技法を磨いていきたいものである。 ことができない。闇夜に向かって叫ぶような感じである。 参考HP: http://cert.kyokyo-u.ac.jp/sasaki/SSK-ICTGuideBook.pdf 事前の接続試験では,マイクロフォン・スピーカの音量 - 42 学習情報研究 2005.11 先生のためのICT ガイドブック,佐々木真理,竹下琢哉,寺川裕一郎, 平成15年度京都教育大学教育研究改革・改善プロジェクト経費研究成果物
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