6 Territories 2006.7.18 (担当:大里) 6.1 Introduction 今までの章では、個体は比較的自由にパッチ間を移動できると仮定していた。しかしながら、多くの種にとって、こ れは明らかに真実ではない。一部の個体は、他個体を排除する縄張りを守るからだ。 この章では、縄張り防衛が個体の分布にどう影響するか・密度依存がもたらす結果について考える。 縄張り行動は、通常繁殖期に最も顕著にあらわれる。(←この章でおもに扱う) しかし、繁殖期以外の時期にも縄張り行動は見られる。 (例)亜熱帯性の、渡りをするスズメ・・・越冬する地に縄張りを持ち、それは強い地域固着性を持つ。(Fischer 1981 ; Rappole and Warner 1980) アカアシシギ・・・冬は縄張りを持つ(Selman ane Goss-Custard 1988)が、繁殖なわばりではない(Hale 1980) マダラヒタキなど・・・渡りの際も縄張りを保持する(Bibby and Green 1980) アオサギとシロビタイハチクイ…コロニーで繁殖するが、摂餌縄張りを持っている(Henger and Emlen 1987 ; Marion 1989) この章の目的は、縄張りの選択とサイズが、「分布・密度依存・協力的な繁殖・成熟の遅滞」という結果にどのように 結びつくかを述べることである。 6.2 Ideal despotic distribution 理想専制分布 理想専制分布:”パッチの一部に、初めて到着した個体がその場所に独占的にアクセスすることができる時に期待 される分布”のこと。(Fretwell and Lucas (1970) 各パッチは、質の違いでランク付けされる縄張りの連なりで成り立っていると考えられる。(Fig1.3 参照) そして、最初にそこに到達した個体は、最も質のいい縄張りを占有する。 したがって、各移住個体にとって重要なのは、各パッチ内に残された最もよい縄張りとの適合である。 理想的には、個体は最も良質の縄張りを含むベストなパッチから占有を始め、他のパッチは、そのパッチ内の最も 良質な縄張りが、ベストなパッチの中に残っている最も良質な縄張りと同じ質のときにのみ占有されるだろう。 →したがって、縄張りの質の平均はパッチ間で異なるけれども、占有されてないベストな縄張りは理論的にはすべ てのパッチ間で同じなのである(Pulliam and Danielson 1991)。 6.3 Settlement patterns 定住パターン 繁殖成功に関わってくる縄張りは、春に占有されることが多い(Bensch and Hasselquist 1991 ; Brooke 1979 ; Lanyon and Thompson 1986)。 1 最も生産的な縄張りはより頻繁に占有されることを、様々な研究が示している(Andren 1990; Baeyens 1981; Moller 1982)。 <シロアシネズミの話> 巣箱に住む縄張り性のシロアシネズミでは、端っこや囲いにある巣箱を占有するメスに比べて、森にある巣箱を占 有するメスに顕著な適応的利益がある。ハビタットを選択する際の制限となる(Morris 1989)。 しかしながら、彼らがあるネズミが高い繁殖成功度をもった箱を好んで使っているという証拠はない(Morris 1991)。 資源の豊富さというのは、縄張りの適合性を決定する際のたくさんの要因のうちのたった一つである。 <7 種の鳥の話> Moller(1991)は、0.01∼3.61 ha 間で変化するたくさんの小さな森(木々)にいる7種の鳥について研究した。 そのうちの5種(シジュウカラ・クロウタドリ・キアオジ・ズアオドリ・カササギ)は、より大きい木のほうが孵化雛数 brood size(ここでは巣立った雛の数) が多かった(Fig6.1) Brood size の違いは clutch size または資源の量の違いによるものではなく(Moller 1988)、より小さい木における捕 食リスクの高さのせいである(Andren and Angelstam 1988; Wilcove 1985)(Fig6.2)。 (Moller(1988)は古い巣に粘土でできた卵を配置し、それがつつかれた跡を見ることで、小さい木のほうが攻撃さ れる確率が高いことを確かめた。) 3種(シジュウカラ・イエスズメ・ツバメ)は守られている場所に営巣したため、捕食の影響を受けにくく、ツバメとイエ スズメの brood size は木の大きさ間で違わなかった。 しかしながら、捕食だけで、大きい木に住むほうが高い brood size を持つことの説明はできない。 というのは、シジュウカラも同様に守られた場所に営巣したが、木の大きさに伴ってその brood size は増加したし、 特に守られていない場所に営巣した4種については、捕食された clutch を解析から除いてもなお、木の大きさにとも なって brood size は増加したから。 個体にとって、縄張りの質の見積もりはしばしば困難なようである。 捕食者の数と行動は繁殖成功の可能性を決める際に大きな役割を果たす。 しかしその見積もりは困難。 <シロチドリの話> ハンガリーのシロチドリは繁殖期の間、アルカリ性の草地と養魚池を行ったり来たりする(Szekely 1992)。 養魚池では捕食リスクが高いので、養魚地での繁殖成功率は、草原の 1/2。 Szekely は、チドリは養魚池がよい餌場であることに惹かれているが、捕食リスクが関連していることを見積もれない のだと示唆している。 縄張りの質の見積もりに関するもう一つの問題は、繁殖縄張りはしばしば餌の豊富さを見積もる前に選ばれてしまう ことだ。 <キガラシムクドリモドキの話> オスのキガシラムクドリモドキの分布は、その若鳥の主要な餌となるトンボ類の量と関連していない(Orians and Wittenberger 1991)。 繁殖の際、メスがオスの縄張りを選択するとき、その資源の量は関係ない。(メスは普段、最もたくさんのトンボがい 2 る沼地に定住している) この理由として考えられるのは、①メスは通常オスの縄張り外で摂餌をするから②または単純にメスがオスの縄張 りをサンプリングするのが困難だから。 オオヨシキリが普通同じ沼に帰ってくる理由は、この鳥が(前年に得た)他の縄張りの質に関する知識をもっている からだということも示唆されている(Bensch and Hasselquist 1991)。 他の要因も同様に定住パターンに影響するだろう。 多くの肉食者の縄張りのような、いくつかの縄張りシステムでは、親からの縄張りの継承が定住パターンよりも重要 かもしれない(Lindstrom 1986)。 これは、縄張りの形(例えば、草地や沼地・小高い丘や平原など)は摂餌しやすさよりも、防衛しやすさによって決定 されるのかもしれないことを示唆する。(Eason 1992) 以下、縄張り占有のパターンについて考えるために、二つのアプローチをする。 ①縄張りはロケーションとサイズに固定されると仮定する→Sections 6.4∼6.7 ②縄張りのサイズは(防衛するエリアのサイズの)コストとベネフィットによって変動すると仮定する→Section6.8 6.4 Theory of fixed territories Sections6.4∼6.7 で述べられているモデルでは、縄張りはポジションとサイズで比較的固定されていると仮定する。 縄張りの質(平均繁殖成功率として表される)は、資源の利用可能性・巣の場所の適合性・捕食者の量が原因で 変わると仮定する。 したがって、個体群内の mate(配偶者といっていいかな?)の数や質の変異・成体の生残率といったような要因は 無視する。 Fig6.3・・・密度依存の繁殖アウトプット と 縄張りの質の変異 の関係 Case1:すべての縄張りが理想的で、それぞれが同じだけの繁殖アウトプットをもっている(SD=0) Case2:縄張り間で繁殖アウトプットに変異がある(SD=1) Case3:縄張り間で繁殖アウトプットに変異がある(SD=2) もし理想専制分布が厳密に従事されたなら、縄張りは適合性がある順番に占有されていく。 したがって、ベストな縄張りだけが密度が低く、平均繁殖アウトプットが高くなる。 一方、密度が高くなるに伴い、縄張りは poor になって、平均繁殖アウトプットは減少する。 結果として生じた平均繁殖アウトプットと密度の関係は、Fig6.3(b)をみて。 縄張りの質にかなりの変異があるとき、密度依存は明らかに強い。 縄張りの質が違うときに結果として生じる密度依存は、個体がそれぞれの縄張りの質に関する完璧な知識を持って いて、それにしたがって定住すると仮定している。 完璧な知識というのは、明らかに怪しい。 前述のキガシラムクドリやシロチドリで示されたように、資源の量または捕食リスクと定住パターンの関係は弱いの 3 だ。 縄張りについての不完全な知識→密度依存は弱くなり、 縄張りの質の完全な無視→密度依存は明らかになくなるのだ(Pulliam and Danielson 1991)。 6.5 Floaters Floater:繁殖地に存在し、縄張りを持たない個体(Smith and Arcese 1989)。 理想専制分布が起こるとすると、個体群密度が増加するにつれて、より質の悪い縄張りが使われるようになるとい うことが期待される。 もし使用されていない縄張りの質がすべてわるかったら、個体はそこでぜんぜん繁殖できないだろう。 しかし、他の占有個体が死ぬことによってよりよい縄張りが利用可能になるのを待っていることはできる。 Ens et al.(1992)はこの仮説を強調し、それを queue 列(北アメリカでは line)とするモデルを提唱した。 フローターは順番待ちする queuing 個体の例、ということである。 (注:queue 「順番待ちの列」) “利用されてない中でベストな縄張りを占有する時に得られる生涯の繁殖成功” と フローターとして振る舞い、利用できる縄張りを占有するのを待つ時に得られる生涯の繁殖成功” の比較を考 慮することで、queueing は現在のモデルに組み込むことができる。 繁殖のために利用可能でベストな縄張りを選択する個体にとって、 生涯の繁殖成功(LRS)=そのシーズンの fecundity + 翌年以降のすべての繁殖シーズンの fecundity。 (注:fecundity 「生産力」・・・一回の繁殖でどれだけの子を産むか) したがって、生存率 S と、毎年の fecundity 率 F(S,F 共に年齢に依存しない)は、以下の式で表される。 ∞ LRS = F + ∑ S n F (6.1) n =1 Queueing 個体にとって、生涯繁殖成功は、その個体が将来数年に亘って繁殖できるかどうかだけでなく、その前に 現在の縄張り占有者が死ぬかどうかにも依存する。 そうすると、生涯繁殖成功は以下の式のように表される。 ∞ LRS = ∑ ( S n − S 2 n ) F (6.2) n =1 n ( S ・・・n 年目に quwuwing 個体が生きている確率、 S 2 n ・・・n 年目に queueing 個体も縄張り占有者も生きている確率、 S n − S 2 n ・・・n 年目に queueing 個体が生きていて縄張り占有者が死んでいる確率) Fig6.4・・・あいている縄張りを占有して繁殖している個体と、すでに占有されている縄張り内の queueing 個体の平 均的な生殖生活史。(繁殖が行えるシーズンの長さ) 4 もし毎年の生残率が低かったら、待機している個体は生き残って繁殖できないだろう。 もし生残率が高ければ、戦略の相対的な違いは小さくなるだろう。 もちろん、もしその縄張り占有個体が不死であるならば、Queueing 個体の利益はない! 個体が高い生涯繁殖成功に帰着する戦略に適応するとき、生残率・密度・縄張りの質の違いの組み合わせから、 あいている(質の悪い)縄張りで繁殖する戦略をとるか・フローターとなる戦略をとるかを決定することになるだろう。 Fig6.5(a)・・・密度の増加→潜在的繁殖者のうちの queueing 個体の割合が増える Fig6.5(b)・・・生残率増加→queueing 個体の割合増加(ただし、不死の場合は×) Fig6.5(c)・・・ハビタットの質の変異増加→queueing 個体の割合増加 ⇒「queueing は、縄張りの質が大きく違う時・個体群密度が高い時・生存率が高い時に好まれる」 6.6 An example of queueing 個体が、縄張りはるか・フローターになるかどっちの戦略にするか決定することの最もクリアな実証は、Ens たちによ る、Schiermonnikoog の Fresian 島におけるミヤコドリの研究である。 <ミヤコドリの話> Fig6.6・・・二つの異なるタイプの縄張りを占有する鳥を図示 Ens et al.(1992,1995) ①residents:海際の塩湖の端 と 隣り合う干潟をオーバーラップする縄張りを守る戦略をとる。 塩湖に巣をつくり、やがて幼鳥と共に干潟へ移動する。 ②Leap-frogs;内陸の塩湖の巣を作る縄張り(繁殖縄張り)と干潟の摂餌縄張りを守る戦略をとる。 residents の縄張りに入ってしまったら攻撃されるため、幼鳥たちを干潟に連れて行くことができない。 なので、幼鳥に餌を運ぶために、彼らは 200-1000m 飛ばなければいけない。 平均的には、residents は Leap-frogs の 2~6 倍の雛を育て、子孫を残す。 Ens et al.(1992)は、十分な食糧を供給するために、Leap-frogs は干潮のたびに一時間以上飛ばなければならない が、どの成鳥もこのレベルに達することはできない。したがって、ほとんどの Leap-frogs の幼鳥は餓死してしまう。 ただし、Ens et al.(1995)は次の四つの仮説を無視した。 ① 加入する鳥は他と区別される ② Leap-frogs は質が悪い ③ Leap-frogs の低い報酬は、死亡率の低さでバランスがとられている ④ Leap-frogs の今の縄張りはよりよい縄張りへの踏み石である(=いずれよい縄張りへ移動する) データは、「Residents の高められた繁殖成功は、residents になることの遅滞(成熟の遅滞)によってバランスがとら れている」という仮説を支持している。 もしすべての個体が resident になることを目指しているなら、だれかが Leap-frog になるのは必然 ということを示し ているモデルが構築された。(Ens et al. ,in press) このモデルから、二つの戦略の利益が等しい進化的に安定な解を決定することができる。 Fig6.5 で示されているように、個体群密度が高い時、個体は質の悪い縄張りで繁殖するよりは、待機していたほう 5 がよい。 Ens et al.(in press)は、これが多くの種に見られる成熟の遅滞の主な理由だと示唆している。 たとえば、ミヤコドリは 3 歳で繁殖能力を持つが、多くの個体が数年後まで繁殖を行わない。 6.7 Co-operative breeding ミヤコドリで示された、成熟遅滞と縄張りの質の関係。←協力して繁殖を行うセイシェルウグイス Seychelles warbler においても非常に類似した関係が示されている。(Komdeur 1992,1993) <セイシャルウグイスの話> Queueing 個体は彼らの親の縄張りにいて、若鳥の育成を手伝う(co-operative breeding) よりよい質の縄張り(しっかり葉に覆われていて、昆虫の密度が高い)にいる個体は、高い繁殖成功を収める。 質の悪い縄張りで育った若い鳥は、分散する。 一方、よい質の縄張りで育った若い鳥は、親と共にいてそのヘルパーとして振舞う傾向にある。(縄張りの占有者が 死んだ時、繁殖しはじめる。) Komdeur は、「良質または並の質の縄張りの鳥は、平均的に、質の悪い縄張りに移動してすぐさま繁殖を始めるよ りも、helping と queueing をすることで高い生涯繁殖成功を収める」と計算した。 保護計画の一環で、セイシェルウグイスは、彼らの唯一の生息地 Cousin 島から、近隣の島である Aride 島と Cousine 島へ移された。 なにがおこったか・・・ Cousin 島→繁殖している鳥を移動させたことでできた 38 の空きの縄張りは、ヘルパーor1 歳の鳥によって直ちにい っぱいになった。 Aride 島と Cousine 島→導入された鳥たちは、直ちに繁殖した。 そもそも個体群が少なく良質の縄張りが空いていたことで、そこでは co-operating breeding は成り立たなかった。 Cousin とは違い、すべてのペアの子孫は、まだ占有されていない良質の場所に新しい縄張りを作るべく、移動し た。 個体群が増え、すべてのよいハビタットが占有されると、状況は Cousinに類似し始め、よい縄張りにいる個体はそ のまま居座り、手助けをするようになった。 ミヤコドリとセイシェルウグイスであらわされたように、若鳥が行う繁殖や queueing には、種間で違いがあるようだ。 ミヤコドリとセイシェルウグイスでは、質の悪い縄張りを占有している個体は、決して(空いている)よりよい縄張りに移 動しなかった。 しかし、シジュウカラは移動した(Krebs(1971)の実験より)。 なんでか? フローターは、質の悪い縄張りを占有している個体よりも、空いている縄張りを探索するのが速く、上手なのだろう。 →個体群内のフローターの存在は、他の個体が 質の悪い縄張りにおいて繁殖しつつ、よりよい縄張りが使えるよう になった時に移動する可能性 の両方を排除していることになるだろう。 6 というわけで、もし 生残率・縄張りの質の変異・密度の値の組み合わせにより、(Fig6.5 のように)個体群のうち数個 体がフローターになったならば、 他の個体から 繁殖するかよりよい縄張りを探索するか の選択の自由を排除す ることになるだろう。 そして、フローターの数は増える。 (=個体群内にフローターが少しでも存在すると、一気にフローターが増える。) 6.8 Cost-benefit analysis 縄張りサイズを考えるにあたって、コストとベネフィットの分析は古くからなされてきた(Brown 1964)。 広い縄張りを保持するベネフィット(利益) 例)食糧供給の増加(Jarman 1974; Snow and Snow 1984) 隣人による卵(Black 1971)や若齢個体(Ewald et al.1980; Sherman 1981)の捕食の減少 繁殖期の早いうちからメスをひきつけられる(Davis and O’Dnald 197) たくさんのメスをひきつける(Verner 1964)・捕食の減少(Dunn 1977; Krebs 1970) コストは縄張りへ侵入者に対する防衛。 この section では、このコスト-ベネフィットのアプローチから、質の違うパッチからなる場所における、競争能力の違う 個体の分布を考える。 これはゲーム理論モデルなので、行動は他の個体の行動に依存する。 仮定:あるテリトリーで得られる利得は、縄張り面積×パッチの質((例)餌の量)に比例する。 しかし、コストは縄張り面積と共に指数関数的に増加する。 最適縄張りサイズは、ベネフィット−コストが最も大きくなる面積。 これは、コストを微分して、その傾きがベネフィットの傾きと等しくなるところで決定する。(Parker and Knowlton 1980) つまり・・・ 最適縄張りサイズは、左図で、 が一番大きくなるところ。 cost の接線の傾き=bebefit の接線の傾きになるところ。 個体間には競争能力の差があり、それは彼らの縄張り行動に影響する。 →仮定:縄張り防衛のコストはその個体がよい競争者であるか否かに依存する Cost=ke-RA (6.3) (k:定数、A:縄張り面積、R:相対的競争能力 (↑その個体の競争能力/そのエリア内のすべての消費者の競争能力の平均)) 高密度下・・・縄張りの総面積は利用できる面積を超える。 →空間をめぐる競争の増加が縄張り防衛のコストの増加を導き、双方の縄張りが圧迫されるか、そのう 7 ちの数個体がどっかへ行くか縄張り防衛をやめてしまうか…そんな事態にむすびつくまでkは徐々に 増加する。 この説明だと、防衛コストは、 良質の個体 < 質の悪い個体 そのパッチにいる他の個体の質が悪い < そのパッチにいる他の個体の質がよい 仮定:フローティングをしている個体には、一定のわずかな利益を与える。 例)死亡率を減らす・他のペアとの交尾可能性・あいた縄張りを即座に占有できる能力。 したがって、ある状況下では、フローターであるほうが縄張りを守るよりもよい。 上記のような条件で、競争者の分布を考える。 個体のそれぞれの競争能力についての進化的安定戦略モデルを考える =個体のそれぞれの表現型(その個体が得る net ベネフィットにつながる)について述べる これが進化的に安定していれば、各表現型のすべてのメンバーが、最も高い net ベネフィットを得るような分布にな る。 このとき、同じ表現型または違う表現型のすべてのメンバーの行動を考慮に入れる。 最適縄張りサイズは、net ベネフィットが最大になる面積。 よい競争者のコストがより少ないとき、彼らは広い縄張りを持っている ようなことが、想像できる。 これは実際、すべてのパッチが等価であるとした時のモデルより、結果として得られている(Fig6.7)。 広い縄張りとより良質の個体 という組み合わせからは、高い繁殖成功が期待される。 この section では、これらの期待値は、パッチの質に差があるときにも言えるということを議論する。 質の違いという点でパッチの振れ幅を組み込むことは、結果をより複雑にする。 Fig6.8 は、質の違うパッチにおける、個体群サイズに伴う縄張りサイズの変化を表している。 小さい個体群では、最適縄張りは、良質のパッチの中で最も広い。 個体群サイズが増加するにつれて、良質のパッチ内で競争も増加 →最も広い縄張りは中級のパッチ内に。 さらに、高密度では、縄張りサイズはその質と共に減少する。 ⇒野外において、縄張りサイズ と 繁殖成功 の間に単純な関係は期待できない。 より良質の個体がより良質なパッチを占有し、高い繁殖成功を収めるけれども、 高密度のとき、縄張りサイズと個体の質の間にクリアな関係はない。(Fig6.9)。 ⇒野外において、縄張りサイズ と 個体の質 は関係ない。 例)bluegill sunfish は縄張りサイズと体サイズが明らかに負の相関を持つ(Fish and Savits 1983)。 このことがイミするのは、より大きくより成功している魚が、より小さくより利益も大きい縄張りを占有しているということ だ。 (「縄張りは広ければいいというもんじゃない」 ということが、その縄張りでの繁殖成功・その縄張りにいる個体の質 に現れている) Schoener(1983b)は、縄張りサイズの予測は、使われているモデルの仮定によって変化すると指摘した。 ワタシのここでの目的は、実際にどのように縄張りが機能しているのかの正確なモデルを作ることではなく、競争と理 8 想専制分布が縄張りサイズに影響している一般的な様式を考え、 等しくない(競争能力に差のある)個体が、振 れ幅のある(質の違う)パッチに分布する時の、標準的な予測(個体やパッチの質の違いを考慮しなかった時に得 られるであろう予測)はなりたたないを示すことである。 6.9 Buffer effect 緩衝効果(Brown 1969a,b):「低密度下で個体はよいパッチを占有する傾向にあり、一方高密度下では大部分の 個体が悪いパッチを占有する傾向にある」こと(Section1.5 参照)。 例)ゴジュウカラ個体群の平均的な縄張りの質は、個体群密度の増加に伴い低下する(Nilsson 1987)。 キタリスのメスは、質の悪い縄張りを占めている個体ほど育てる子の数は少なく、この質の悪い縄張りは個体群 密度が低い時には空きになっている(Wauters and Dhondt 1990)。 緩衝効果は、上述のコスト・ベネフィットモデルの結果によるもの。 個体群サイズの増加に伴い、より質の悪い個体はますます質の悪いパッチに移動する。(Fig6.10) だから、よりよいパッチにいる個体の割合は、密度の増加と共に減少する(Fig6.11)。 さらにいえば、繁殖個体より queue 個体が増える。 <the British Trust for Ornithology’s Common Bird Census の話> O’Connor(1986)は、農地に生息する鳥類の、総密度の変化に対応する分布の変化を調べるため、the British Trust for Ornithology’s Common Bird Census を利用した。 多くの種の個体群が 1962-1963 の寒い冬に減少 → その後の何年かで以前のレベルまで回復 ↑分布が密度に関連してどのように変わるのかを見るよい機会 ・ヤドリギツグミ 個体群が 4 倍に増加すると、鳥たちが占めたハビタットの質の幅はひろくなった。 あまり頻繁に利用されないハビタットでは、産卵は遅く、雛は生き残りにくかった。 ・ミソサザイ 密度が低い年:ミソサザイの個体数は、農場に低木が広がっている程度と関係(低木=好ましいハビタット) 密度が高い年:この関係はなくなり、彼らは低木の少ない農地に落ち着いた。 O’Connor(1986)は同様に、あまり好ましくない縄張りの利用は、好ましい縄張りの利用よりも変動しやすいだろうと 考えた。(Fig6.12) ・ヨーロッパカヤクグリ 最も高密度なところは、7∼9mの低木/ha であった。=好ましい縄張り ←低木が、より多いところ・より少ないところよりも個体数の変異は少なかった。 他の五種の分析は、 ・クロウタドリ・・・同様の最適条件を持っている ・カササギ・・・低木の密度がもっと高いところで安定 ・ヤドリギツグミ・・・2%森林地帯よりも農場のほうが安定した。 ・ミソサザイとズアオドリ・・・クリアな分布パターンなし 9 ここで示されたモデルでは、より質の悪い競争者がより質の悪いパッチを占有し、よりフローターになりやすい。 野外の研究では、一般的に、フローター・ヘルパー・質の悪い縄張りを占有している個体 は若齢個体である。 Moller(1991)に研究された7種のうち 4 種(section6.3)は、一歳の鳥の大部分がより小さい木に存在した (Fig6.13)。 しかしこのパターンはイエツバメやツバメでは見られなかった。 Krebs(1970)は、より質の悪い低木の縄張りを占めているのはシジュウカラの最も若い個体で、それらは森林地帯の 縄張りが空いたら移動した ことを示した。 年齢の以外にも、他の違いも存在するだろう。 例えば、落葉樹の森(=好ましい縄張り)にいるマダラヒタキのオスは、針葉樹の森(=好ましくない縄張り)にいる 個体より、体サイズが大きく、体重も重かった。(Alatalo et al. 1985) 6.10 Density dependent 個体群サイズの増加は、 ①縄張りサイズの縮小 ②suboptimal な(次に最適な)縄張りの多用 ③多くの繁殖しないフローター のうちのどれか一つに帰結する。→繁殖アウトプットにつながる 密度依存の繁殖アウトプットにリンクする行動様式は、Ens et al.(1992)のミヤコドリの研究(section6.6 参照)によっ て説明される。 Resident の縄張り(繁殖エリアと摂餌エリアが隣り合っている) ・・・若齢個体は親と共に泥の湿地を歩いて摂餌可能・1ペアあたりの生産力=平均 0.64 若鳥 leep-flogs の縄張り(繁殖エリアと摂餌エリアが離れている) ・・・成鳥は若鳥のためにすべての食糧を飛んで運ぶ・1ペアあたりの生産力=平均 0.17 若鳥 <↑これを導くために行った分析> Resident、leap-frogs それぞれに、25 ずつ縄張りがあると仮定。 ペアあたりの繁殖率は、半分にして、成鳥一羽あたりの若鳥の数に。 オスメス各最初の25個体は即座に縄張りを得て、彼らの生涯繁殖成功(LRS)は ∞ LRS = F + ∑ S n F n =1 (6,4) S は生存率、F は各繁殖成鳥が産一年で産む平均若鳥数(resident の縄張りの F のほうが leap-frogs の縄張りより もだいぶ大きい)。 さらにまた、個体は B 年より繁殖を待たなければならないとき、彼らの生涯繁殖成功は、 ∞ LRS = S B ∑ S n F n= B (6.5) Queue を行う個体(resident の縄張り&leap-frogs の縄張り)の生涯繁殖成功を算出。 10 繁殖への参加の遅れ(B)は、queue のポジション(順番待ちの順番)と死亡率に依存する。(←Fig6,4 あたり) 平均繁殖成功と密度の関係は、各個体が①縄張りを張る②もっとも高い LRS が得られる queue ポジジョンに加わ ると仮定して決定する。 平均繁殖アウトプット=(すべての繁殖を行う個体の繁殖成功の合計)÷(鳥の数) ただし、この(鳥の数)には、queueing 個体、つまり繁殖を行っていない個体も含まれる。 個体群密度が低い時、resident の縄張りだけが占有され、その結果、平均繁殖アウトプットは高くなる。 個体群密度が高い時は、2 つのプロセスにより平均繁殖アウトプットは低くなる。 →①leap-frogs になるもの②queueing 個体になるもの 理論上ではこの関係は生存率に依存するが、実際の効果は小さいようだ。 密度依存の繁殖アウトプットの関係から、個体群サイズの平衡を考慮する。 (巣立ちしたばかりの雛の数)×(雛が成鳥になるまでの生残率)=(繁殖場にもどってくる成鳥の数) ↑Fig6.14 の下のほうの曲線 1 章で述べたように、個体群サイズは死亡率と繁殖アウトプットそれぞれの密度依存の性質の相互作用として考え ることができる。 死亡率=繁殖アウトプット(ここでは、成鳥が繁殖場に戻ってくる率)のとき、個体群は平衡状態。 Fig6.14 で表されているように、死亡率が 0.05→0.1 に増加することによって、個体群サイズにかなりの影響を及ぼ す。 ⇒狩猟や汚染によるハビタットのロスによる生存率の変化の結果 このモデルの目的は、ミヤコドリについて、行動を理解すること が繁殖アウトプットと密度の関係を導くこと に どのよ うにどのように使われるか を示すこと。 そして、このモデルは、個体群サイズに影響している要素について考えることにも使われうる。 このモデルでは行動について考えたけれども、他の要素も同じように大事である可能性がある。 たとえば、このモデルはすべての縄張りが2タイプに分けられると仮定しているが、実際にはその縄張りの質には振 れ幅があるだろう。 われわれは、習慣的に、ハビタットが飽和状態であると考える。 =縄張りの数には明らかな上限があり、ある条件下では飽和状態になっているだろうと考える。 しかしながら、この章のモデルは ハビタットが飽和しているかどうかは簡単にはわからないと しめしている。 高密度環境下では、ある個体は質の悪い縄張りを占有するよりもフローターになるだろう。生態学者はフローターを 実際に観察している。 ←これをみると、「このハビタットは飽和状態なんだな。」と思う。 さらに同様に、生態学者は、縄張り占有者が死んだ時、その縄張りはまた占有され、それがすべてのハビタットの飽 和へとつながることも観察している。 ところが、この状況下でも、個体群がさらに増加すれば、個体はより質の悪い縄張りに落ち着くだろう。 →このことは、そのエリアが本当に飽和状態であったわけではないことを示している。 したがって、このような観点から、かたくなな上限はないのだろう。 11 Sinclair(1989)は、脊椎動物の繁殖に関する様々な要素は、ほとんど密度依存でないことを算出した。 個体が繁殖しているかいないかということは、繁殖力や卵生産の減少よりも、たぶんより重要だろう。 しかし、フローターが繁殖していないということをモニターし、探知するのは、困難だろう。 測るのは難しいけれども、繁殖の失敗は繁殖アウトプットの密度依存によるロスに大きく貢献するものの中の一つだ ろう。 ウタスズメでは、フローター個体の割合と縄張り占有者が配偶者をみつけるのに失敗する可能性の両方が密度依 存である。(Smith and Arcese 1989) Newton(1992)は、縄張りを持つ鳥の実験的操作をレビューし(56 種の研究例)たが、そのうち 45 種に、個体が他個 体の縄張り行動によって繁殖から排除された実証があった。 A.Dobson(pers.comun.)は Southern(1970)の England の Wytham Wood のモリフクロウのデータを分析しなおした。 個体群が増えるにつれて、平均繁殖力は低下した。 これはすべて繁殖成功の低い縄張りの占有のせいである。各縄張りの繁殖力は、密度と伴って変わらなかったか ら。 アオガラとシジュウカラの平均クラッチサイズの密度依存の減少は、同様に質の悪い縄張りを使用したことによる。 (Dhondt et al. 1992) 高密度下ではある個体は縄張りの獲得を失敗し、他の個体は質の悪い縄張りを占有する。 そこから繁殖アウトプットの低下が予想されるが、その低下は思ったよりも小さい。 なぜなら、縄張りを占有している個体が最も有能な繁殖者で、一方フローターは、どうせ繁殖成功が低くなりがちな 若齢個体や subdominants であることが多い といえるから。 このような繁殖能力の違いは、期待される密度依存の効果を弱める。 ここで述べられているモデルでは、縄張り占有の利益を繁殖成功のためだけに考えた。 しかし縄張りは、生残のためにも重要だろう。 <ブラウントラウトの話> たとえば、ブラウントラウトの若齢魚の段階の生残は、密度依存により大きく制限される(Elliot 1989,1990,1994)。 縄張りサイズは魚の体サイズに依存するが、密度には依存しない。 より大きい縄張りは侵入者からの防衛により大きな努力を必要し、縄張り防衛に費やされる努力は、縄張り外にい るマスがたくさんいるとき、顕著に増加する。 縄張りを占有していないマスの密度が高い時、縄張り個体は一日のほとんどを縄張り防衛に費やす。 大きい若齢個体にとって、このコストは大きすぎて広い縄張りを守れない。 このことは、なぜ中くらいのサイズの若齢個体がもっとも生き残りやすいかということの説明になるかもしれない。 したがって、縄張り防衛はつよい密度依存の死亡率に帰結するといえる。 個体が縄張りを得るのに失敗する場合も、他個体の排除の努力の結果個体が死ぬ場合もある。 つまり・・・ 大型個体の cost & benefit 中型個体の cost & benefit 太線で死亡 高密度環境下では中型個体のほうが生き 12 残りがよい。 同様に、Grant and Kramer(1990)は published データを使って、7 種のサケ科魚類の若齢個体の体長と彼らの縄張 りサイズとの関係を決定した。 これは、各種のあるハビタット中の最大縄張り数を予測するのに使われた。 また、密度依存のパターンを決定するのにも使うことができるだろう。 6.11 Summary 理想専制分布は縄張りの定着パターンを説明するのに使えるだろう。 一つのアプローチは、縄張りとロケーションとサイズが固定していると考える。 もう一つのアプローチでは縄張りサイズはその防衛のコストとベネフィットにより変わると仮定する。 縄張りの質の幅を組み込んだモデルは、パッチの質が単一であるとしたモデルとは違う結果を与えた。 個体群密度が増えると共に、個体はより質の悪い・より小さな縄張りを占有するようになり、繁殖に失敗する。 これらはすべて繁殖アウトプットの密度依存のロスに貢献する。 すると、縄張り行動と個体群サイズのリンクを探索することが可能だ。 高密度下では、質の悪い縄張りでの繁殖を控え、占有者が死に、よりよい縄張りが空くのを待つことで、個体はより 高い生涯繁殖成功を得るだろう。 13
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