動 世界の臨床検査室の動きがわかる In Vitro Diagnostics Global News 別刷 グローバルニュース リーン&シックスシグマ入門 はじめに 近年、効率化を求められている臨床検査室において、 これまでおもに製造 業で用いられてきた「リーン」 「シックスシグマ」 という概念を取り入れるこ とが実際の業務改善に結びつくのだろうか? この課題を考えるヒントとすべく、 『CAP TODAY』掲載記事から全4回の連 載を企画し、本誌2010年夏号∼2011年春号に掲載しました。 今回、臨床検査に携わる読者の皆様に、 リーンおよびシックスシグマの概 念の理解を深めていただくため、全4回の記事をまとめた別刷を作成いた しました。 臨床検査室グローバルニュース 別刷 Contents 連載:リーン&シックスシグマ入門 第1回 無駄のない効率的な検査室の構築に向けて・・・・・3 第2回 リーン&シックスシグマを 検査室でどう活用していくか・・・・・7 第3回 業務改善活動は一日にして成らず・・・・・11 第4回 広がるリーンの波・・・・・15 臨床検査室グローバルニュース リーン&シックスシグマ入門 『CAP TODAY』は米国病理学会(CAP)が月1回発行している臨床検査医学の専門誌で、70 ヵ国以上において約 40,000 人の臨床検査にかかわる専門家に愛読されています。ここでは『CAP TODAY』に掲載された記事の中か ら厳選した記事を要約・翻訳して提供していきます。 ◆一部、日本国内の薬剤・試薬・機器等の承認状況と異なる内容もありますことをご了承ください。 ◆本文中に掲載されている写真・イラストはイメージです。 ●連載:リーン&シックスシグマ入門 第1回 無駄のない効率的な 検査室の構築に向けて 1 2 3 4 5 6 Staff Writer [CAP TODAY August 2007] キーワード リーン、 シックスシグマ、バリューストリームマップ、 プロセスマップ、 スパゲッティ・ダイアグラム、先入れ先出し方式 2007 年ラボインフォテク・サミットで、スチーブン・マンデル医師(ミシガン大学病理学教授でミシガ ン大学メディカルセンター MLabs の責任者)は、ミシガン大学の臨床検査室におけるリーン&シックス シグマ(Lean and Six Sigma)の実施経験を発表した。以下はその内容を編集したものである。 リーン&シックスシグマの波 003 しい道であり、そのための投資は十分に見合う ものであることを、病院の経営陣に納得させな ミシガン南東部の医療機関は、自動車業界 ければならない。さてどうすればよいのか? での事例を通して「製造業ではリーン&シック まず、劇的な変化の必要性を経営陣に納得さ スシグマにより、品質、サービス、効率におい せなければならない。われわれの大学では、心 て大きな利益がもたらされることが知られてい 臓血管疾患専門病院の開設を数ヶ月後に控えて るが、これは医療業界にも応用できる」として、 いた。しかし臨床検査室はすでにスペースが一 業務の見直しを始めることとなった。臨床検査 杯で、増員の予定もなかった。そこでわれわれ のリーダーとして、われわれも無駄のない臨床 は、スタッフの増員やスペースの拡充の代わり 検査室を目指すべきだと考えている。そのため に、臨床検査室における中心的業務の効率化の にリーン&シックスシグマを採用することが正 ために資源の活用の仕方を検討することにした。 臨床検査室 This article is funded by unrestricted educational grant from Ortho-Clinical Diagnostics K.K. リーン&シックスシグマとは? 対してプロセスに無駄はないか、あるとすれば それはどこかを特定するのがリーンのツールで 「リーン」とはスタッフの数を削減することで ある。この重要なツールの一つがバリュースト はなく、プロセス内の無駄をなくすことである。 リーム・マップ(価値の流れ図)である。このマッ これに対して「シックスシグマ」は、ばらつき プを作成するためには、プロセスに関係してい を小さくしプロセス内のエラーやミスをなくす るすべての人が参加する必要がある。臨床検査 ことであるという違いはあるが、いずれも顧客 室の場合には、検査を依頼し結果を受け取る医 (患者)にとって重要な結果をもたらすものであ 師、採血するスタッフ、検体を受け取るスタッフ、 る。そしてリーンおよびシックスシグマは 「意見」 検査技師、そして検査にかかわるコンピューター よりも「事実」や「データ」をもとに意思決定 システムを管理する人たちである。 をするものであり、また難しい問題をコントロー 具体的に、病理検査についてのプロセス・マッ ル可能な事象に変えてくれるものである。いず プを例に、バリューストリーム・マップを考え れも多くの点でスタッフの満足度を高め、彼ら てみる。 の能力を向上させるものでもある。 例:特殊染色の検査結果が遅れており、タイミ リーンは、仕事をするスタッフ自身のもので ングよく届かない。 あり、無駄を見つけ、節約をし、また人員不足 このプロセス・マップを作成するために、ま 解消や残業をなくすチャンスへと導く規律であ ず顧客(病理医)と顧客の要求を特定する。こ る。これが後に、現在よりもはるかに快適な労 こでは病理医が特殊染色をオーダーし、同日の 働環境を作り出すことになる。 受け取りを希望している。次に原料を提供する 無駄をなくすには、リーンのツールを導入す 者を特定するが、この場合も提供者は顧客と同 るだけではなく、成功させるための共通の価値 じ病理医である。 観が必要である。リーンのツールはプロセスを 各ポイントでの一般的工程(作業と、作業し 変革するのに役立つだけでなく、無駄を見つけ ている者)を確認したら、病理検査固有の課題 改善し、継続的に実施していくなかで人間を変 を考慮に入れる。これがバリューストリーム・ 革させていくのにも役立つ。実は変革において マップとプロセス・マップの違いで、プロセス 人的側面をマネジメントすることが、リーンを で見えなかったものが見えてくる。つまり、わ 実践していくうえで最も困難な課題である。 れわれが見ているのは実際のプロセスだけでな リーン実施のためのツール く、各プロセスの間にあるものも見ていること になる。 リーンを実施するうえで最も一般的な考え方 次に、各プロセスに、追加データである処理 は、水が半分入ったコップで例えられる。これ 時間と待ち時間、あるいは% C&A(percent com- は「もう半分しかない」と考えることも「まだ plete and accurate)と呼ばれる 100 回の業務のう 半分ある」と考えることもできるが、プロセス ち問題やエラーが全くなく何回完了できたかと 工学ではどちらも間違いで、このコップは必要 いう数値を加える。 とされる量の水を入れるのに適切な大きさの2 病理検査の例で考えると、オーダーから染色 倍あると考える。つまり「無駄がある」と考え が完了するまでのプロセスは、エラー等の問題 るのである。 がなく行えば約 43 分で済む。しかしこの例では、 これを検査室に置き換えると、必要な業務に 4 ∼ 69 時間の待ち時間の可能性がある。全プロ 004 セスの正確度を計算すると約 75%で、さらに顧 ①作業は実際のデータに基づいて標準化され 客の要求はどの程度満たされているか調べると、 ているか 80%しか満たされておらず、これでは落第点と ②検査プロセスで無駄な行動はないか 言わざるを得ないだろう。 ③作業者の余分な動きはないか 最後に、プロセスの付加価値と非付加価値を ④余分な在庫はないか。もしあるなら、その 定量化する。付加価値とは、材料の形、様式、 在庫とスペースを維持するためのコストは 機能、もしくは情報を製品に変えることであり、 いくらか 顧客はこれに対して対価を支払う。非付加価値 この4点を評価した後、コンサルタントは「こ とは、資源を消費するが製品の生産に直接寄与 こはすばらしい検査室だが、改善の余地がある」 しないことである。 と言った。 一つはスパゲッティ・ダイアグラム (図) バリューストリーム・マップができ上がった である。われわれの組織病理検査室の一人のス ら、次に業務にかかわるスタッフに工程内およ タッフを追跡調査すると、狭いスペースでわず び工程間の無駄を排除した新しいプロセスを作 か 40 分の間に約 160 メートルも動いており、 成させる。そして、トヨタ生産方式で使用され しかもその途中には、椅子、カウンター、人な ている以下の分類に無駄を分解する。 ど様々な妨害物があった。 ①不良を修正するための再作業 もう一つはバッチ(一括)処理の問題である。 ②顧客が要求する以上のつくりすぎ われわれの検査室には、仕分けステーション、 ③人の過度の不要な動き 受け入れステーション、遠心分離ステーション、 ④物および/または情報の不要な移動 輸送ステーションがあり、検体は各所にバッチ ⑤人や物の待ち時間の無駄 で届けられる。各検体の個別処理は約1分で済 ⑥重複作業または過度の加工 むが、一つのバッチが終わるまでは次のステー 実際にわれわれは、採血後の検体の流れ ションに移せないため、ここで約 20 分かかっ を示すバリューストリーム・マップを作成 てしまう。したがって検体のバッチ処理は個々 し、リーンの考え方を応用して、総処理時間 の検体の待ち時間を増やすボトルネックとなり、 を 57%削減できることがわかった。同時に、 その間の検体の保管スペースが必要になる。 これまでと同じ作業を行うための人や検体の そこで、バッチ処理をシングルピースフロー 待ち時間や移動距離を減少させることができ 処理に変更することにより、各検体は各ステー た。 ションでの処理に 1 分かかるが、その処理が済 コンサルタントによる指摘 005 めば次のプロセスを行うスタッフに渡すことが できる。つまり次のプロセスを行うスタッフは リーン&シックスシグマの実施には通常 3 ∼ 一つのバッチの全検体の処理が終わるまで待つ 5 年が必要であると考えられたが、われわれには 必要がない。こうして、 バッチ処理で 20 分かかっ 数ヶ月しかなかった。そこでコンサルタントに ていたものが、シングルピースフロー処理では 助けを求め、改善の可能性、限定された時間内 8分で済むことになる。 で投資に見合う効果が得られるかなどの評価を もう一つの問題は、過剰で整頓されていない 依頼した。 在庫と備品である。多くの備品が2年も3年も われわれの検査室の評価にあたって、コンサ 引き出しやキャビネットに眠っており、在庫管 ルタントは次の4点に着目した。 理においては先入れ先出し方式を取っていな 臨床検査室 り検査処理時間が 30 ∼ 40% 減少し、生産性が 30 ∼ 40% 上昇する。検査に必要なス ペースが 20%以上減少し、 備品在庫が 40 ∼ 50%減少す るというものであった。さら 図 スパゲッティ・ダイアグラム にコア施設(生化学、血液学、 作業サイクルの軌跡を描いてみると、無駄な動作と余分な移動が見えてくる。 中央処理、採血部門)のみで、 残業代を約 40 万ドルも削減 かったものがあったのである。 することができると推定される。当センターの この問題への解決策は、在庫管理へのリーン 検査室は、比較的よくマネジメントされた施設 の応用である。整理はリーンの概念の一つで、 であったが、リーンを使用することによりまだ 在庫を管理・整理するうえで先入れ先出し方式 改善の余地があることがわかった。 を採用したものにカンバン方式がある。これは われわれはこれを実施すべきであると判断し シグナルカードのようなものを使用して在庫管 て、その費用予測をコンサルタントに尋ねたと 理する方法で、たとえば試験管補給ラックの途 ころ、返ってきた答は「数 10 万ドル」であった。 中にシグナルカードを置いておき、試験管が減っ 半分は、邪魔になっているベンチなどのレイア てラック内のシグナルカードのところまで来た ウト変更に、一部はコンサルタントに、そして ら、このカードを取り出して、部屋を出る時マ 残りは正規スタッフの補充に使用される。コン ネジャーのカードホルダー上に置く。するとマ サルタントによれば、 「この検査室から6人を ネジャーは補充すべきものがあることを理解し ピックアップして数ヶ月間トレーニングしリー て、発注するという仕組みである。 ンの専門家にする。その間、彼らの代わりの正 またコンサルタントによれば、われわれのワー 規スタッフを雇う必要がある。11 ヶ月後にこの クステーションは散らかっておりミスを引き起 プロジェクトが完了した時点での投資に対する こす危険があるということだった。この問題に 利益で、新規雇用は可能である」という。 対するリーンの解決策は「 、きれいな職場」と「5 プロセスの改善により6人の正規スタッフを S」である。5Sは日本語の整理・整頓・清掃・ 採用でき、しかも「誰も解雇されない」という 清潔・躾の頭文字から来ている。これを機能さ ことがリーンを始めた大きな理由である。これ せるには「今日の仕事には何が必要か?」と自 までスペースや人員の制約でできなかったこと 問するのである。そして、必要なものだけ、必 がたくさんある。この改善によりスペースを生 要な順序で、必要な場所に用意するのである。 みだし、この計画に正規スタッフを充当するこ 改善の見通し われわれの実施前の効果予測は、リーンによ とにより、メディカルセンターの医療と研究の リーダーとしての役割を維持するのに必要な行 動を開始することができる。 006 『CAP TODAY』は米国病理学会(CAP)が月1回発行している臨床検査医学の専門誌で、70 ヵ国以上において約 40,000 人の臨床検査にかかわる専門家に愛読されています。ここでは『CAP TODAY』に掲載された記事の中か ら厳選した記事を要約・翻訳して提供していきます。 ◆一部、日本国内の薬剤・試薬・機器等の承認状況と異なる内容もありますことをご了承ください。 ◆本文中に掲載されている写真・イラストはイメージです。 ●連載:リーン&シックスシグマ入門 第2回 リーン&シックスシグマを 検査室でどう活用していくか Staff Writer [CAP TODAY August 2004] キーワード パフォーマンス・エクセレンス・プログラム、デザイン・エクセレンス、 アイドルタイム、ボトルネック、バッチ処理、 シングルピースフロー処理 テネシー州ジャクソンにあるウエストテネシー・ヘルスケア (WTH)社の検査室は、検査プロセスに おけるボトルネック (効率化を妨げるような制約要素) を見つけて排除するために、検体採取から結果 報告までの流れを追跡調査した。その結果を業務改善に結びつけ、WTH社の検査室では「検体採取 から結果報告までの平均所要時間(TAT) を71分から33分にまで縮小させた」 とレオ・セラノ氏(当時 の同検査室幹部) は語る。 リーン&シックスシグマ導入まで 007 概念であるワークフロー解析を数年前に試し てみたことがあった。 「しかし当時われわれは、 2003年から、 ジャクソンマジソンカウンティ メーカーのコンサルタントが何をしようとして 総合病院を中心とする6つの病院からなる医 いるのか理解できていなかった」 と、セラノ氏 療システムを運営するWTH社は、検査室にお は「罪人の告白:私は検査室の不完全なプロセ いてバッチ処理ではなくできるだけシングル スを自動化してしまった」 と題された講演の中 ピースフロー処理を行い、時間、 スペース、資源 で語った。1996年にWTH社の検査室にオート のムダをなくすことに集中するリーンの考え方 メーションラインが設置されたとき、自動化の の導入に取り組み始めた。 必要から分析装置のレイアウトとワークフロー WTH社の検査室では、日本で生まれた生産 の変更を行ったが、その後セラノ氏は「不完全 臨床検査室 グローバルニュース This article is funded by unrestricted educational grant from Ortho-Clinical Diagnostics K.K. なプロセスをそのまま自動化しても事態をいっ そう悪くするだけである」 という教訓を得たそう 第一段階:リーンの実施 だ。WTH社が新しい検査室を建設する (2004 パフォーマンス・エクセレンス・プログラムに 年開設) と決めた当時、セラノ氏は以前のよう よって、WTH社の検査室のスタッフは、検査前 な過ちは絶対に避けようと思ったという。 手順の検体採取から処理、検査、結果報告まで そこでWTH社は効率的で生産的な検査室 の業務プロセスのすべての「リーン化(ムダの を設計するため、 オーソ・クリニカル・ダイアグノ 排除) 」 を開始することを求められた。 スティックス(OCD)社と契約し、OCD社のパ 最初に、専任のリーンチームは、検体と技師 フォーマンス・エクセレンス・プログラム(リー のすべての動きをビデオに記録して分析し、迅 ン、 シックスシグマ、 デザイン・エクセレンスを組 速で正確な検査結果報告に貢献していない部 合せたもの) を導入した。 分の発見を試みた。 これによりリーンチームは、 この検査室は、当初WTH社が建設を予定し リーンで言うところの「アイドルタイム」を見つ ていた床面積60,000平方フィートを40,000平 け出した。 方フィートに減らすことができるように「リーン このアイドルタイムの発見から改善に至った &シックスシグマ検査室」 として設計された。 業務について、採血を例にとってみてみよう。 ま 「建設費と分析装置のコストを1平方フィート ず採血者が、検査室が入っている病院の各フ 当たり約200ドルと考えると、面積を減らすこと ロアの所定の場所で検査依頼票を取り上げる。 とセラノ氏は で400万ドル節約したことになる」 その際、採血者は1回に1枚の依頼票を取り 話す。 上げ、患者を確認し、検体を採取し試験管に入 キーワード解説 トヨタの生産方式を元に、米国マサチューセッツ工 ●デザイン・エクセレンス (design excellence) 科大学で体系化された「lean manufacturing」ある オペレーショナル・エクセレンスとも言われる。業務 いは「lean production system」 という生産管理手 改善プロセスが現場に定着し、その業務遂行能力が 法。 「 lean」は「脂肪・ぜい肉のない」の意に由来す 企業の長期的な競争優位の源泉となるという考え る。生産工程においてムダを排除することを目的と 方における 「優位性」を表す。 ●リーン (lean) した考え方である。 ●シックスシグマ(six sigma) ●パフォーマンス・エクセレンス・プログラム (performance excellence program) おもに製造業での品質管理手法の一つで、各生産 OCD社が米国で提供していた検査室向けコンサル 工程の分析を行い品質のバラツキの原因を分析し、 ティングサービスで、現在はValuMetrix®(日本では 原因を特定して対応策を考えていく手法。1980年代 未導入) として受け継がれている。 に米国モトローラ社で開発され、1990年代後半に日 本企業にも導入されるようになった。 ●アイドルタイム(idle time) 品質のバラツキを標準偏差で測定し、正規分布の中 システム内の各工程の間で部品などが次の処理を 心から±6σを上限・下限管理限界として品質を維 待っている時間をさす。 これは非生産的な時間であ 持しようとするもの。具体的には、100万個の製品を り、生産工程全体を遅らせる原因となる。 生産した場合に不良品の発生を3.4個以下に抑える 検査室では、検体が次の処理を待っている時間をさ という考え方になる。 す。 008 れる。次に採血者は、2枚目の依頼票を取り上 げ、同じ操作を行い、 これを繰り返す。検査室で 第三段階:ワークフローの改善 は検体が入ってきた順に処理し、 こうして検体 WTH社の検査室では、 リーンチームにより作 の採取、検査、結果の報告に先入れ先出し方式 業ユニットを組み替えて、いくつかの部門で使 を用いてシングルピースフローの工程を作り上 用されていた同様の機能をもつ自動分析装置 げた。 を一箇所に集めた。 「この作業ユニット内で、一 般の臨床検査技師は生化学、免疫血清、血液、 第二段階:シックスシグマの実施 凝固といった検査室に入るオーダーの大半を 処理することになります」 とフォスター女史は話 このような中で、 シックスシグマをどのように す。 そして、その他の作業を専門の技師が行うこ 取り入れるのか? 「リーンによっていったんム とになるが、 フロー全体が遅くなるのを防ぐた ダを排除した後に、シックスシグマでは根本原 めに、それらの作業は別ユニットで行っている 因分析(root cause analysis) を用いて、バラツ という。 キまたは欠陥のある部分を特定する」 と、OCD リーンチームはまた、各作業ユニット内で標 社でValuMetrix®サービスの米国内担当部長 準ワークフローパターンを作り上げた。たとえ をしているマリア・フォスター女史は説明する。 ば作業ユニットに1∼3台の分析装置があっ そして 「リーン(ムダの排除) を行う前にシックス て、検体を受け取って検査が完了するまでのサ シグマ (バラツキの排除) を実施しようとすると、 イクルを5分とした場合、技師はこの作業ユ 堂々巡りをすることになる」 と付け加える。 Staff W たとえばリーンを実施した後に、採血者が新 ニット内で5分ごとに同じ作業を繰り返すこと しいシングルピースフローをルーチン化できる 化し、バラツキなく平準化する。 「リーン環境下 ようになったら、次にシックスシグマにより業務 のスタッフは、落ち着いて静かでよどみない スピードの速い採血者の所要時間と平均的採 ペースで作業を行います」 とセラノ氏は話す。 血者の所要時間の平均から求めた「標準時間」 次にリーンチームは、施設周辺27の郡の より短時間で作業を行うことのできている採血 1,100以上の顧客から毎日運ばれてくる 「大量 者を見つける。 この優れた採血者の作業の進め のバッチ検体」 というボトルネックの解消策を 方を解析することで、 「標準に満たない採血者 見つける必要があった。そこで検査室は、検査 に教えるべき最良の作業方法を見つけた」 とセ 室の検体運搬担当者が回収途中の配送業者か ラノ氏は語る。上司は標準時間を超えることの ら検体の一部を受け取ってくることでバッチを 多い採血者を見つけると、彼らに改善のアドバ 分解することにした。 「まだ一部の検体はバッチ イスをする。 で届くが、われわれは検査室の検体運搬担当 2004年5月現在、 「シックスシグマの実施に 者が持ってきた検体を先入れ先出し方式でシ より検体が検査室に届くまでの時間は平均5.2 ングルピースフローに乗せ、十分な人員で処理 分短縮されている。以前は20分以上かかって することにより検体が絶えず分析装置にかけら いたことから考えると非常に大きな進歩であ れているようにしている」 とセラノ氏は話してい る」 と彼は話す。 る。 になる。 このアプローチは作業をムダなく標準 またこの検査室では、検体運搬担当者に検体 を自動分析装置に載せてもらうようにした (しか 009 臨床検査室 グローバルニュース しテネシー州の法律で禁じられているため、彼 過去2年間で検査室の検査数は約100万件 らは分析装置のボタンを押すことはできない)。 増加したが、 リーン&シックスシグマ実施前より これにより検体の運搬と検査開始のタイミング 4人少ない昼間勤務の臨床検査技師ですべて が早くなるとともに、臨床検査技師が検体測定 の検体を処理できている。検査室は「おかげで という本来の業務に集中することができるよう この4人の技師を臨床指導や継続的業務改善 になった。 「たとえるなら臨床検査技師は、食材 といった他の業務に配置することができた」 と や調理器具の準備に煩わされることなく調理に 検査室長のデビー・ロビンソン氏は話す。 集中できるシェフのような位置づけなのです」 さらにこの人員配置の効率化により、技師を とフォスター女史は話す。 追加で採用することなく、解剖病理学検査室で 乳癌検査のための新たな専門的検査を開始す 得られた成果 WTH社ではリーン&シックスシグマプロジェ ることができた。 これらの改善によるTATの短縮が患者ケアに どのような影響を与えるかを示すデータはまだ クトにより、 これまでどのような目に見える成果 が得られているのだろうか? 「このプロジェク 果を求めてERの検査室に駆け込んでくることは トによって、緊急検査室において看護師やメ なくなった」 とセラノ氏は言う。 まだWTH社で調 ディカルスタッフによる転記ミスが見つかって 査中のデータではあるが、TATの短縮によりICU いるのでエラーがゼロになったとは言えない での入院期間が3分の1日短くなったこともわ が、 この検査室では少なくとも11ヶ月間スタッ かっている。 これはセラノ氏の予想より小さな フによる患者認識エラーはゼロであった」 とセ 効果だったが、ちりも積もれば山となるはずで ラノ氏は言う。 ある。 キーワード解説 ●先入れ先出し (first in, first out) 在庫管理の手法の一つで、先に入ってきたものから ●シングルピースフロー処理 (single piece flow, 1 piece flow) 出庫する方法。生産工程においては、入ってきたも バッチ処理とは逆に、1個ずつ処理を行う方法。ア のから順に処理をしていく方法として使用されるよ イドルタイムを減少させることによりシステム全体 うになった。 の流れをスムーズにし、全体の所要時間(リードタイ ムとも表現される)を短縮させようという考え方。 ●バッチ処理(batch processing) システム内のある工程において、一定の時間や量で ●ボトルネック (bottleneck) 区切り、その区切りごとにまとめて処理を行う方法。 直訳すると 「瓶の首」の意。システムのスループット 一括処理により運搬コストや処理コストの削減が望 (処理能力)を制約する概念。物事がスムーズに進 める一方で、区切り方によってはアイドルタイムや 行しない場合、その原因は全体からみれば「小さな 仕掛り在庫、全体の所要時間の増加につながってし 部分」であることが多く、そこ以外の部分を改善して まうマイナス面もある。 も全体の状況改善が認められない。 このような「小 さな部分」をボトルネックという。 010 『CAP TODAY』は米国病理学会(CAP)が月1回発行している臨床検査医学の専門誌で、70 ヵ国以上において約 40,000 人の臨床検査にかかわる専門家に愛読されています。ここでは『CAP TODAY』に掲載された記事の中か ら厳選した記事を要約・翻訳して提供していきます。 ◆一部、日本国内の薬剤・試薬・機器等の承認状況と異なる内容もありますことをご了承ください。 ◆本文中に掲載されている写真・イラストはイメージです。 ●連載:リーン&シックスシグマ入門 第3回 業務改善活動は一日にして成らず Staff Writer [CAP TODAY July 2009] キーワード トヨタ生産方式、 デミング、根本原因分析、費用対効果、かんばん方式 出だしはつまづいたが 研修会で自戒の念を語り 「真のリーン検査室と ミシガン州デトロイトにあるヘンリー・フォー は、 スタッフ全員の努力と創造性が実を結んだ ド・ヘルスケア・システム(HFHS)の検査室のな もののことを言う」 とまとめた。 かで最も優れたリーン品質管理システムを作り ザルボ博士は最初の失敗にくじけることな 上げたリチャード・ザルボ博士(医師であり、病 く、品質管理の専門家であるリタ・ダンジェロ女 理学と検査部門の責任者)であるが、 リーンを 史を雇い、専任のリーンチームをピッツバーグ 取り入れるための業務改善活動の最初の試み 地域医療促進協議会が主催する1週間の研修 では失敗を犯していた。 に参加させた。 「彼らの協力が得られることに 2004年に、 リーンとトヨタ生産方式について なった時点から本当の意味でのリーン活動が の研修を受けて感動したザルボ博士は、早速 始まった」 とザルボ博士は語る。 病理検査室のスタッフに、ムダやバラツキを排 その後の成功は一般の知るところであるが、 除するためには作業の標準化が必要であるこ ザルボ博士らは毎年品質改善を続けて、今で となど、主要な理論について指導した。次に彼 は「ヘンリー・フォード・システム」 と呼ばれる業 は病理検査室のスタッフの作業を観察し、彼ら 務プロセスを作り上げた。 これは、いわばW・エ が遵守すべき標準作業を書き上げて検査室の ドワーズ・デミングのコンサルティングを受けた 壁に貼り出した。 しかし1週間後、 この標準作 フォード・モーターの生産方式とトヨタ生産方 業を行っているものは一人もいなかったとい 式の融合である。 う。 「トップダウンで行ったことが間違いだった」 011 とザルボ博士は、彼らが年5回主催するリーン 臨床検査室 グローバルニュース This article is funded by unrestricted educational grant from Ortho-Clinical Diagnostics K.K. 教訓−リーン活動は全員参加で はデータ収集のために問題点記録ポスターを 作って、問題やムダを見つけるたびに壁に貼ら ザルボ博士が苦い経験から最初に学んだ教 れたポスターに書くようにさせた。 これらのデー 訓は、 リーン運動の推進には品質改善および タを整理することにより、 「何がうまくいってい マネジメントプロセスに、全レベルのスタッフ ないのか」 という情報が得られ、次に 「何がそう を関与させる必要があるということである。 させているのか」を探るための根本原因分析 2005年ザルボ博士は、 リーンの検証場所と (root cause analysis) を行った。 して再び病理検査室を選んだ。 この検査室から またデータ収集過程において、 リーンチーム 作業ユニットごとに7人のリーダーを選び、彼ら は検査室スタッフと共同でプロセス内のムダを をピッツバーグでのリーン研修に参加させた。 判定するための基準点を決定し、 プロセス改善 以前の失敗にもかかわらず、ザルボ博士が の進展度を定量化することにした。ザルボ博士 病理検査室からリーン運動をスタートしたの に言わせれば「量ることができないものは改善 は、長い間リーダーを務めてきてこの検査室を することなどできない」 ということだ。 熟知していることが第一の理由である。加えて、 こうしてピッツバーグでのリーン研修に参加 病理検査室の作業には自動化されたプロセス しなかったスタッフも実際の活動を通して内部 よりリーン運動を実施しやすいマニュアル作業 トレーニングを受ける形になり、全スタッフを が多いことや、病理医が現状に不満を抱いて 巻き込んだプロセス改善が本格的に始まった。 いたことなどもあったという。当時の検査室は 終業ベルとともに従業員が退社していたかつ プロセス改善に向けた第一歩 ての自動車工場のように「面白くない場所」で 最初にザルボ博士とリーンチームは、スタッ あったそうだ。 フの不安を取り去るために、 リーン活動の実施 そのおもな原因の一つは、普段からスタッフ が解雇につながることはないことを約束して、 同士の会話が少なく、互いの問題に無関心で 全員が安心して参加できるようにした。 あることであった。そこで、ザルボ博士とダン そして「全員を同じ部屋に集めて、人に対す ジェロ女史は、病理検査室のスタッフが日常感 る感情はいったん忘れて、 プロセスに集中して じている問題点を明らかにするための調査を 問題に対する改善策を見つけるよう話し合い 実施したところ100個もの問題点が浮かび上 をさせた」 とダンジェロ女史は話す。 しかし議論 がったという。 この調査の際に、ザルボ博士ら がエスカレートして、問題の解決法や優先順位 キーワード解説 ●W・エドワーズ・デミング William Edwards Deming(1900-1993) 米国の統計学者、コンサルタント。米国農務省およ び国勢調査部門に従事したのち、ニューヨーク大学 などで教授を務めた。その間、第二次世界大戦後の 日本での国勢調査実施にかかわる一方で、分散分 析や仮説検定といった統計学的手法を応用したプ ロセス管理手法を日本の企業経営者に説いた。米 国ではフォード・モーター社がいち早くその考え方 を導入し、同社の継続的な品質改善およびコスト削 減・業績改善に影響を与えた。PDCAサイクル概念 の生みの親でもある。 ●トヨタ生産方式 トヨタ自動車創業者である豊田喜一郎らが提唱した 生産方式で、 「7つのムダ削減」 「ジャストインタイム」 「自働 化」といった 考え方 が 柱となる。 「 To y o t a production system;TPS」あるいは「Kaizen」 という 呼び方で海外の企業にも導入されている。 012 で意見が食い違い、ザルボ博士が仲裁に入ら とにした。購入に10万ドルかかったが、5∼7 なければならないこともしばしばであった。 「会 日かかっていた結果報告時間を1.5日へと大幅 議への参加を拒む人もおり、彼らを捜して強引 に短縮することができ、十分な投資成果が得ら に会議に連れて来なければならず、つらい時期 れている。 だった」 と彼女は振り返る。 リーン活動の成果と今後の展望 そのようななかで、検査室内の問題点を見つ けても 「非難しあうことがない」環境にするため 病理検査室でのパイロット試験の開始後、1 に、 リーンチームは、問題点を見つけ、その原因 日に50個あった問題点が1年以内に30個まで を探り、 これを改善する機会をもたらしたスタッ 削減され、2年以内に1日5個(90%の削減) フを表彰することにした。 まで減少した。 ここまで減少すれば、残りの問題 いったん改善が見られ各自が貢献しているこ は、発生する都度その場で対応することができ とが実感でき始めると、事態は良い方向に進み る。 出した。最初の1ヶ月で42もの改善がなされ、 また年間50,000例の病理検査報告書のう 以後毎月の会議は、各チームが今月の改善点 ち、修正が必要なものはリーン活動開始前には を報告する場となっていった。 約25例あったが、1年後には9例まで減少し 病理検査室における 業務プロセス改善 た。 ザルボ博士によれば、HFHSの検査室のリー ン活動の目標は問題点をゼロにすることで、 病理検査室でリーン活動を始めたときに最大 「リーン活動以前は漠然と平均値や中央値の達 の問題となったのは、カセットに検体採取部位 Staff W の名称が正確に記載されていないことだった。 成を目指していたことを考えると、大きく進歩し たと感じる」そうだ。 これを改善するために、検体受付担当者は、想 HFHSでは、つい最近クライスラー社から転 定される部位の名称を徹底的に調べ、病理医 職してきた数人のエンジニアが、新しい在庫管 や臨床医の協力を仰いで「誰にでもわかる部位 理モデルと 「かんばん方式」の導入を検討して 名称辞典」 を作った。全員がこれを使用するよう いる。 あるエンジニアは、 「新しいシステムでは、 に指導され、施設内で使用される検体採取部位 在庫を最大70%減らすことができる。個々の資 の名称が統一された。 材について、 コストを最小にする最適発注時期 病理検査室にはまた、多くの「やり直し作業」 を見つけるための細かい検討が必要であるが、 が発生しており、根本原因分析を用いて、標本 これがわかればかんばん方式を実施する予定 作製のプロセスを徹底的に追跡した。これに である」 と言う。HFHSの検査室では、現在は半 よって処理法の規格変更が必要だという結論 年∼1年分の在庫をもっているが、スタッフの に達し、その結果やり直しの頻度を1年以内に 労働時間と分析器の稼働時間の両方のバラン 97パーセント低下させることができた。 スを考慮した結果、大体3ヶ月∼半年が最適で かつて病理学研修医や病理検査アシスタン あることを発見している。 トは、乳癌の標本を採取するためにマンモグラ フィーセンターで、 まるで患者のように並んで順 013 リーンを実施するうえでのコツ 番を待つ必要があった。そこでリーンチームは すべてのリーン活動が確実に成功するとは 費用対効果を分析した結果、病理検査室独自 言い切れず、 コンセンサスが得られる解決策も でデジタルマンモグラフィー装置を購入するこ 1つだけではないかもしれない。いまだに議論 臨床検査室 グローバルニュース が白熱することも少なくなく、問題解決策をめ らを背景に現場のスタッフは毎週20分のミー ぐって多数決をとることもある。そして、選ばれ ティングで、問題の大きさや根本原因の分析を た解決策によっても問題が解決されないケース 行い、改善策が有効であるかどうかを検討して や結果が不十分な場合もあるだろう。 いる。 しかしHFHSの検査室では、細かいことには チームのあるメンバーが作業の方法に疑問 あまりこだわらないことにしている。 「すべての をもった場合には文字通りの「見学」を行う。た 物品の保管場所について厳格に規定する方法 とえばある技師は、病理診断医の作業を見て、 もあるが、通常の業務プロセスに差し支えがな 自分たちの作製するスライドの品質がいかに重 ければ、 たとえばホッチキスがどこに置いてあっ 要であるかを知り、その品質向上の必要性を再 ても構わない」 とザルボ博士は言う。 リーン活動 認識したという。微生物検査室では、同様の方 は最終的には人が行うことを対象にしているの 法で、検体の到着から培養までの複雑な作業を で、必要性と環境に応じて柔軟に対応すればよ シンプルでわかりやすいプロセス流れ図にし いと彼は考えている。 て、作業の進行具合を視覚化したという。 またチームワークと専門能力の向上を重視し ているHFHSの検査室では、 スタッフへのリーン HFHSでの今後の方向性 研修を通してスタッフ同士の融合度合いを高 最初にザルボ博士が壁に貼り出した標準作 めることを目指している。実際、研修中には、 業が無視されてからかなりの時間を要したが、 リーンの考え方を理解してもらうためにフォード 現在ではその壁にはスタッフの改善活動の功 のトラック工場を見学させたり、チームの和を 績が展示されている。 高めるために食事やバーに連れて行ったりもす ザルボ博士は、今後病院のシステム全体に るのだという。 ダンジェロ女史によれば「これら リーン運動を導入することを考えているが、 「こ により、彼らに日々の業務をいつもとは違った れは、財布の紐を握っている人間との話し合い 視点から振り返って改善へとつなげてほしい」 が必要になるだろう」 と苦笑する。それでも、 こ ということだ。 の方向に沿ってザルボ博士がHFHS内部での HFHSの検査室ではザルボ博士がスタッフ全 リーン研修の構成を組み直した結果、最近の研 員に大きなビジョンを示し、ダンジェロ女史は 修には心臓外科や皮膚科、 さらには調理室のス リーンの理論とツールを提供する。そして、それ タッフまでも参加するようになっているという。 キーワード解説 ●根本原因分析(root cause analysis) ●かんばん方式 問題や事象の根本的な原因を明らかにし、分類・整 トヨタ生産方式における柱の一つである「ジャスト 理することにより、その根本原因を修正あるいは排 インタイム」 と同義で、極力余分な在庫をもたない 除するための解決策を見出す方法のことで、継続的 ようにし、必要なものを、必要なだけ、必要な時に生 改善のためのツールとして用いられる。根本原因を 産する方式。使用した部品の補充を知らせる 「帳票」 明らかにする際の手法として 「なぜなぜ分析(5 why analysis)」や「特性要因図(fishbone chart)」などが ある。 の ことを「 か ん ば ん 」と 呼 ぶ こと に 由 来 する 。 「Kaizen」 と同様に、海外では「Kanban」 という用語 が用いられる。 014 『CAP TODAY』は米国病理学会(CAP)が月1回発行している臨床検査医学の専門誌で、70 ヵ国以上において約 40,000 人の臨床検査にかかわる専門家に愛読されています。ここでは『CAP TODAY』に掲載された記事の中か ら厳選した記事を要約・翻訳して提供していきます。 ◆一部、日本国内の薬剤・試薬・機器等の承認状況と異なる内容もありますことをご了承ください。 ◆本文中に掲載されている写真・イラストはイメージです。 ●連載:リーン&シックスシグマ入門 第4回 広がるリーンの波 Staff Writer [CAP TODAY August 2005] キーワード 015 ターン・アラウンド・タイム、リードタイムの短縮、非付加価値的活動、 在庫管理のムダ、バッチ処理、標準化作業手順書 デビッド・ストウ氏によると、 「最終目標に達す どこから始めたらいいの? るまでの小さな成功を表彰したりすることで、 近年、検査室の業務効率化のためにリーン 変化させたい という組織の意志がスタッフに の考え方に注目する検査室が増加しているが、 浸透していき、成功が新たな成功を生むことに 多くの施設はどこからどのように手をつけたら つながる」のだという。 よいか戸惑っているようだ。 「検体数、収益、 コ このような考えを取り入れ実践している施設 ストなどが全体の80%を占める部門から始め は年々増加している。 マイアミにあるジャクソン るべきだ」 と、オーソ・クリニカル・ダイアグノス 記念病院では1年前のリーン活動開始以来、 ティックス (OCD)社のValuMetrix®サービスを 主要な検査の報告時間(ターン・アラウンド・タ 統括するリック・マリク氏は言う。 「すぐ成果が イム) を50%以上短縮した。 出ることから取り組めば、その成功経験がより またネブラスカ州のアレジェント・ヘルス社 困難な課題への挑戦をスムーズにする」 と話す は、過去2年間で微生物検査や組織検査を除 のは、 メドトックス・サイエンティフィック社のケ く一般検査の80%について報告時間を64% ビン・ウィエルスマ氏である。同グループのメド 短縮した。それだけでなく、検査室全体でエ トックス・ラボラトリーズ社は、2年前にリーン ラー率を3%から1.2%に低下させ、さらに試 プロジェクトを立ち上げた。同社のリーン活動 薬・消耗品等の在庫を35,000ドル削減し、一般 をサポートした、シカゴにあるストラテジック・ 検査室と備品保管スペースを50%削減するこ マニュファクチャリング・コンサルティング社の とに成功したという。 臨床検査室 グローバルニュース This article is funded by unrestricted educational grant from Ortho-Clinical Diagnostics K.K. ミネソタ州にあるフェアビュー・ヘルス・サー が届いているにもかかわらず30∼45分も確認 ビス社は、主要な検査の報告時間を50%短縮 に行かないことがあることがわかったという。 こ し、生産性を40%向上させ、 コストを30%削減 れを改善するために、 まずリーンチームが行っ した。 このように 「リーン活動が生産性や利益率 たのは「これまでは紙のムダ遣いを助長すると を劇的に改善することを示すデータが明らか して切っていた プリンタの電源を入れておく にされ、病院検査室、検査センターを問わず関 という単純なことだった」 とガラガン医師は話 心が高まってきている」 と、 ストウ氏は話してい す。そして同時に、検査結果が出ていることを る。 医師に知らせるための合図の仕組みも作成し Case 1:バージニア・メーソン・ メディカルセンター た。 同施設はまた、付属クリニックの窓口での患 者の受付から退院までの時間を短縮すること シアトルにあるバージニア・メーソン・メディ に成功した。 リーンチームは、たとえば日常業 カルセンターでは、2002年からリーンプロジェ 務に関することであれば、目視確認できる合図 クトに取り組んでいる。同施設でのリーン活動 を用いることで、不必要な会話をせずにスタッ の成果の1つは、 「 救急患者が救急処置室に フ間のコミュニケーションがとれるようにした。 入ってから検査結果が担当医師に届くまでの そして、医師が直接スタッフに声をかけて検査 リードタイムを50%短縮したことである」 とキャ に関する指示を出さなくてもいいように、中央 サリン・ガラガン医師は言う。 リーン活動以前 のデスクにファイルを置いて、 「生検キットを用 は、看護師による採血がうまくいかず専任の採 意しておいてほしい」 というような要望を書き 血担当者を呼び出すことがあった。看護師がう 込み、 このファイルを通りかかった看護師など まく採血できた時の所要時間は70分であった が回収して見ることにより対応できるようにし が、専任の採血担当者を呼び出した場合は95 た。 分まで延びていたという。 また備品在庫を管理するために、 トヨタ生産 そこでリーンチームは、専任の採血担当者を 方式で有名なかんばん方式を採用した。医師 救急部に常駐させて看護師による採血の成功 や看護師の手元にある備品の在庫が残り数個 率を上げた。 さらに、検体が採血後すぐに検査 になるところに赤いカードを入れておき、そこ 室に運ばれ、検査結果報告までシング ルピースフロー処理が行われることに なり、 リードタイムの短縮につながった そうだ。 リーンチームが非付加価値的活動 とムダを見つけるために業務プロセス を検証したところ、検査結果が出てい るかどうかを確認するために、救急部 のスタッフがコンピュータ端末へ行っ たり来たりすることで多くの時間をム ダにしていたり、逆に端末に検査結果 016 に達したら赤いカードをドアの外側に提示して くりとしてすべての処置室を標準化して利用で おく。すると、赤いカードの提示に気づいたス きるようにし、必要に応じて縫合カート、婦人科 タッフは備品補充が必要であることを知ること カートといった標準化されたカートを準備して ができる。 「このような 言葉のいらないシステ いる。 さらにリーンチームは、救急部の処置室が ム により在庫管理のムダを排除することがで 満室で新たに患者を受け入れられない状況が きた」 とカラガン医師は胸を張る。 あることを改善点として見出した。 そこで清掃係 や看護師らの協力を得て、医師が退院の指示 Case 2:アベラ・マケナン・ ヘルスセンター を出してから病室が空くまでの時間の調査を開 始した。 その一方で、 「ある部門で何か行動を起 サウスダコタ州にあるアベラ・マケナン・ヘル こすと、その先の部門に重大な影響を与えるこ スセンターでは、すでに検査室のほとんどの業 とがあるため、改善も段階を踏んで実施する必 務にリーン活動を取り入れており、現在は救急 要がある」 とセラノ氏は慎重な姿勢だ。 部や手術室にもリーンが浸透しつつある。同施 急部では患者の受付から帰宅または入院の決 Case 3:メドトックス・ サイエンティフィック社 定までの時間を、現在の2時間12分から1時間 2003年にメドトックス・サイエンティフィック に短縮することを目標としている。診療科の割 社が「ムダがなければ不自由はしないものだ」 り振りを速めるため、救急部を訪れる患者はす というリーン哲学の実践を決定した時、会社は ぐトリアージにより障害の重篤性を決定され、 Staff W その時点で仮受付されID識別バンドが発行さ 経営的に危機的な状態にあった。同社の収入 設の検査部長であるレオ・セラノ氏によると、救 の60%以上を占めていた乱用薬物検査室は、 れる。 そして患者の正式な登録は治療開始後に 「2001年9月11日の同時多発テロ事件後の不 行われる。セラノ氏によれば、この方式によっ 景気で大きな影響を受けた」 と同社のウィエル て、患者が病院到着後20分以内に適切な診療 スマ氏は話す。 科の医師に診てもらうようにすることを目指して 同検査室の業務は、大きく分けて、検体受付、 いる。 薬物スクリーニングを含む検体測定、そしてス 同施設では、救急部は特定の治療を行うため クリーニング結果陽性検体の確認検査の3つの の場所ではないと位置づけ、そのための環境づ 工程からなる。同検査室は、 まずシングルピース フローを導入してムダな時間や資源を排除す ることに努めた。 また、徹底的見直しの一貫とし 緊急処置室 て標準化作業手順書を作成し、 スタッフ全員が 同じ方法、同じ考えで作業ができるようにした。 最終的に、 リーン活動の実施により 「スタッフ1 人当たりの生産性は22%上昇し、確認検査の 結果報告までの時間も大きく改善され、処理量 は79%増加した」 とウィエルスマ氏は話す。 リーンチームは、最初に検体が長時間停滞し 縫合カート 婦人科カート 017 臨床検査室 グローバルニュース ている部分に注目して検体の流れと作業を分 析し、仮設ワークステーションを用いてシミュ レーションを行い、使いやすく、品質や生産性 1. リーンは応急処置のツールではない が管理できる作業スペースの開発を始めた。そ リーンを応用して修正を行う前に、まずどの してワークステーションを改良し、次にライン、 ような問題点があるのかを見定める必要があ 次に作業スペース全体というように「段階的に る。 たとえばバージニア・メーソン・メディカルセ 進めることで、 より大きな目標を達成できた」 と ンターでは、業務の流れを正確に把握するため ストウ氏は語る。 に、 ビデオやストップウォッチを使用して検体の 新しいリーン環境では、業務がスムーズに流 待ち時間や作業工程にかかる時間、 スタッフの れるようになった。 「 検体はローラーコンベー 移動距離、検体の移動距離などを正確に測定 ヤーラインで次のステーションに移るため、持 した。 こうした地道な作業から、時間のムダや動 ち運ぶ時間が不要になり、 また設計し直した作 きのムダを見出し、根本的な改善策を考えるの 業ベンチにより、技師の不要な移動がなくなっ である。 た。 さらに作業ベンチ上に何がなければならな 2. 「軽い」 リーンでは、効率を悪化させることが いか、その数量と置き場所を指示するメモを作 ある 成したことで、勤務シフトについたばかりの技 「事前に詳細な分析をせずに、単に整理整頓 師がすぐ検査にとりかかれるようになった」 と をしたり、やみくもに分析機のレイアウトを変更 ウィエルスマ氏は話す。 するだけでは、 どの分析機をどこに置くべきな また同社では、 リーン活動の開始前は毎朝5 のか、あるいはシングルピースフローの導入や 時30分からの数時間に集中して到着する検体 全体の作業バランスをとるためにはどうしたら の数に処理速度が追いついていなかった。 そこ よいのか、 といった根本的な問いに対する答え で「勤務シフトの調整を行い、検体受付の作業 が見出せない」 と、OCD社のマリク氏は言う。 開始時間を早めることで検体の停滞を少なく バージニア・メーソン・メディカルセンターの し、最終工程である確認検査のスタッフは検体 リー・ダロー氏は「リーンの実施は、核心にある 受付後約2時間以内に作業を開始できるよう 根本原因を見出すために、問題点といういくつ になった」 とコンサルタントのストウ氏は振り返 もの層を1枚ずつ剥がしていくような作業であ る。 る」 と話している。 同社ではさらに、情報の流れを一元化し、営 3.シングルピースフローはリーンの必須条件 業のプロセスと業績の評価を標準化することに ではない よりムダを排除するために、 リーン活動を営業 「プロセス中のシングルピースフローは、 ワー 部門にも広げている。 「その目的は、見込み客の クフローや効率を維持するために効果的である 発見から売上回収までの時間を短縮することに が、 リーン環境においてバッチ処理が必要な場 ある」 とウィエルスマ氏は言う。 合もある」 とストラテジック・マニュファクチャリ ング・コンサルティング社のジャムログ社長は話 リーンを始める前に す。 シングルピースフローの目的は、 プロセスの リードタイムを短縮することであるが、逆にシン リーン活動を実施した検査室の経験から、 グルピースフローであるために延長してしまう リーン活動に取り組むうえで可能な限り誤解や 場合もあるため、状況に応じて使い分ける必要 失敗を避けるためには、以下の3点が重要であ があるという。 ると考えられる。 018
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