1 科学的根拠に基づいた赤血球製剤の使用ガイドライン 日本輸血・細胞

科 学 的 根 拠 に 基 づ い た 赤 血 球 製 剤 の 使 用 ガ イ ド ラ イ ン 日 本 輸 血 ・ 細 胞 治 療 学 会 目 次 1. は じ め に 2. 赤 血 球 製 剤 の 種 類 と 投 与 の 評 価 3. 1)病 態 別 の 赤 血 球 製 剤 使 用 の ト リ ガ ー 値 と 推 奨 ① 再 生 不 良 性 貧 血 、骨 髄 異 形 成 症 候 群 などによる貧 血 ② 固 形 癌 化 学 療 法 などによる貧 血 ③ 造 血 器 腫 瘍 化 学 療 法 、造 血 幹 細 胞 移 植 治 療 な ど に よ る 貧 血 ④ 鉄 欠 乏 性 、 ビ タ ミ ン B12 欠 乏 性 な ど に よ る 貧 血 ⑤ 自 己 免 疫 性 溶 血 性 貧 血 ⑥ 消 化 管 出 血 における急 性 期 貧 血 ⑦ 周 術 期 貧 血 ⑧ 妊 婦 の貧 血 ⑨ 心 疾 患 、特 に虚 血 性 心 疾 患 を伴 う、非 心 臓 手 術 における貧 血 ⑩ 腎 不 全 に よ る 貧 血 ⑪ 人 工 心 肺 使 用 手 術 による貧 血 ⑫ 重 症 または敗 血 症 患 者 の貧 血 2)疾 患 別 の 自 己 血 貯 血 の 適 応 と 推 奨 ① 整 形 外 科 (人 工 膝 関 節 置 換 術 、人 工 股 関 節 置 換 術 、
脊 椎 側 弯 症 手 術 など)手 術 ② 婦 人 科 (子 宮 筋 腫 、子 宮 癌 の手 術 など)手 術 1
③ 産 科 手 術
④ 心 臓 血 管 外 科 (開 心 術 など)手 術
⑤ 大 腸 切 除 や肝 切 除 などの出 血 を伴 う外 科 手 術
1. は じ め に 1) ガ イ ド ラ イ ン 作 成 の 目 的 輸 血 は 周 術 期 医 療 及 び 血 液 疾 患 の マ ネ ー ジ メ ン ト に 欠 く
ことのできない支持療法であり、患者のリスクとべネフィ
ットを考慮した適切な輸血が必要である。輸血に使用され
る 血 液 は す べ て 献 血 で 賄 わ れ て い て 、 100%安 全 で は な く 、
リスクがある。そこで、我々医療従事者は、献血者の善意
に答えて無駄のない適切な輸血を行う義務がある。そのた
めに臨床医は不必要な使用を避けてエビデンスに基づいた
安全で適正な輸血を推進していく必要がある。また一方、
自己血輸血は同種血輸血の副作用を回避しうる最も安全な
輸血療法である。そこで、待機的手術患者において、自己
血と同種血選択のリスクとベネフィットをよく考慮して適
応を考える必要がある。
厚 生 労 働 省 は 「 血 液 製 剤 の 使 用 指 針 」 及 び 「 輸 血 療 法 の
実 施 に 関 す る 指 針 」を 1999 年 に 策 定 し 、そ の 後 数 回 改 定 し 、
最 近 で は 2016 年 に 一 部 改 正 し た 。今 ま で エ ビ デ ン ス に 基 づ
いた推奨レベルの設定は行っていなかった。最近、非制限
的 (liberal) 輸 血 が 、制 限 的 (restrictive) 輸 血 を 上 回 る ベ ネ
フィットを患者にはもたらさないことを支持する論文が多
2
く報告されている。今回、輸血・細胞治療学会が中心とな
って赤血球製剤ガイドラインを作成した。本ガイドライン
は、医療従事者が赤血球製剤使用において適切な判断を行
う た め の 支 援 を 目 的 と し 、赤 血 球 製 剤 の 適 正 使 用 を 推 進 し 、
治療の向上を図るものである。本ガイドラインは科学的根
拠に基づいて作成されたが、臨床試験の成績のエビデンス
を示したものにすぎず、普遍的にその使用を行うことを保
証するものではない。慢性的貧血の場合、患者の自覚症状
が強い場合には、示されたトリガー値より高めに設定する
ことも許容される。臨床の場では、赤血球製剤の使用は医
療従事者の総合的な判断のもとで行われる必要があり、そ
の使用を拘束するものではない。また、本診療ガイドライ
ンに記載された赤血球製剤使用の遵守の有無により、法的
な責任が医療担当者や本ガイドラインに及ぶものではない。
2) 作 成 の 経 緯 本 事 業 は 2013 年 か ら 日 本 輸 血・細 胞 治 療 学 会 の「 ガ イ ド
ライン委員会」の分科会である「赤血球製剤の使用指針策
定 に 関 す る タ ス ク フ ォ ー ス 」か ら 始 ま り 、2014 年 3 月 に は
厚生労働科学研究費補助金事業「科学的根拠に基づく輸血
ガイドラインの策定等に関する研究」に継続された。赤血
球製剤の使用指針策定に関するタスクフォースの委員はそ
の 専 門 性 を 鑑 み 、2013 年 5 月 に 理 事 会 に お い て 選 出 さ れ た 。 作 成 委 員 l
厚 生 労 働 科 学 研 究 費 補 助 金 事 業 3
「科学的根拠に基づく輸血ガイドラインの策定等に関する研
究 」 代 表 研 究 者 松 下 正 名 古 屋 大 学 COI 開 示 ; 奨 学 寄 付 金 ( 日 本 血 液 製 剤 機 構 ( 一 社 )、 化 学 及 血 清 療 法 研 究 所( 一 財 )、CSL ベ ー リ ン グ( 株 )、 日 本 製 薬( 株 ))講 演 料 等( 化 学 及 血 清 療 法 研 究 所 ( 一 財 ) 、 日 本 製 薬 (株 )、 バ ク ス タ ー (株 )) l
日 本 輸 血 ・ 細 胞 治 療 学 会 ガ イ ド ラ イ ン 委 員 会 担 当 理 事 米 村 雄 士 熊 本 大 学 COI 開 示;受 託 研 究 費( ア レ ク シ オ ン フ ァ ー マ )寄 付 金( 日
本 血 液 製 剤 機 構 ( 株 )、 中 外 製 薬 ( 株 ))、 講 演 料
( 日 本 赤 十 字 社 ) 委 員 長 松 本 雅 則 奈 良 県 立 医 科 大 学 COI 開 示 ; 寄 付 金 ( CSL ベ ー リ ン グ ( 株 )、 日 本 血 液 製 剤 機 構( 株 ))、講 演 料 (日 本 血 液 製 剤 機 構( 一 社 )、
化 学 及 血 清 療 法 研 究 所( 一 財 )、日 本 赤 十 字 社 、 ア ス テ ラ ス 製 薬 ( 株 ) ) 赤 血 球 製 剤 の 使 用 指 針 策 定 に 関 す る タ ス ク フ ォ ー ス 委 員 長 米 村 雄 士 熊 本 大 学 COI 開 示 ; 上 述 の と お り 委 員 稲 田 英 一 順 天 堂 大 学 COI 開 示 ; 無 し 委 員 上 田 恭 典 倉 敷 中 央 病 院 4
COI 開 示 ; 無 し 委 員 大 石 晃 嗣 三 重 大 学 COI 開 示 ; 無 し 委 員 紀 野 修 一 ( 旧 ) 旭 川 医 科 大 学 ( 2 0 1 3 . 5 - 2 0 1 4 . 3 ) ( 現 ) 日 本 赤 十 字 社 北 海 道 ブ ロ ッ ク
血 液 セ ン タ ー ( 2 0 1 4 . 4 ~ ) COI 開 示 ; 無 し 委 員 久 保 隆 彦 ( 旧 ) 国 立 成 育 医 療 研 究 セ ン タ ー ( 2 0 1 3 . 5 - 2 0 1 5 . 3 ) ( 現 ) シ ロ タ 産 婦 人 科 ( 2 0 1 5 . 4 ~ ) COI 開 示 ; 無 し 委 員 熊 川 み ど り 福 岡 大 学 COI 開 示 ; 無 し 委 員 末 岡 榮 三 朗 佐 賀 大 学 COI 開 示 ; 無 し 委 員 園 木 孝 志 和 歌 山 県 立 医 科 大 学 COI 開 示 ; 奨 学 寄 附 金 ( 中 外 製 薬 ( 株 )、 協 和 発 酵 キ リ ン ( 株 )、 ア ス テ ラ ス 製 薬 (株 )、 持 田 製 薬 ( 株 )) 委 員 長 井 一 浩 長 崎 大 学 COI 開 示 ; そ の 他 の 報 酬( レ セ プ ト 審 査 業 務 )
(長崎県国民
健 康 保 険 連 合 会 ) 委 員 藤 島 直 仁 秋 田 大 学 COI 開 示 ; 無 し 委 員 脇 本 信 博 帝 京 大 学 COI 開 示 ; 無 し 5
3) 作 成 方 法 「血液製剤の使用指針」第 2 章「赤血球濃厚液の適正使用」にあ
る 適 応 疾 患 に 含 ま れ る 12 個 の 病 態 と 、「 輸 血 療 法 の 実 施 に 関 す る 指
針 」第 11 章「 自 己 血 輸 血 」に あ る 適 応 に つ い て は 、具 体 的 な 疾 患 は
記されてなかったため、現在多く自己血輸血が行われていると思わ
れ る 5 つ の 疾 患 に つ い て 、Clinical Q uestion(CQ)を 設 定 し た 。下 に
示 す よ う に 1995~ 2014 年 に お け る 赤 血 球 輸 血 に 関 す る 国 内 外 の 論
文 9,345 件 よ り 検 索 し 、 978 件 が 1 次 選 択 さ れ た 。 そ れ 以 外 の 重 要
文献やステートメントの作成に必要な論文はハンドサーチ文献とし
て 追 加 し 、そ れ ぞ れ の CQ に 対 す る エ ビ デ ン ス レ ベ ル と 推 奨 グ レ ー ド
を「 Minds 診 療 ガ イ ド ラ イ ン 作 成 の 手 引 き 2014」に 準 じ て 決 定 し た 。
本 ガ イ ド ラ イ ン で は 、CQ ご と に 作 成 委 員 を 任 命 し 、全 体 を 統 括 す る
委 員 長 を 設 置 し た 。 l
文 献 収 集 状 況 検索開
検索による文献ヒッ
一次選択による採択文
ソ ー ス 始 年 ト 件 数 献 数 PubMed 1995 3,008 647 Cochrane 1995 3,431 219 医 中 誌 1995 2.906 112 文 献 は 各 CQ に お い て 検 索 し た 文 献 の う ち 重 要 な も の を 掲 載 し た 。
作 成 し た 試 案 は 、 タ ス ク フ ォ ー ス 内 で 査 読 を 行 い 修 正 し た 。 6
エ ビ デ ン ス レ ベ ル ・ 推 奨 度 は 「 Minds 診 療 ガ イ ド ラ イ ン 作 成 の 手
引 き 2014」 1 ) に 準 じ て 、 推 奨 の 強 さ は 、「 1」: 強 く 推 奨 す る 、「 2」:
弱 く 推 奨 す る( 提 案 す る )の 2 通 り で 提 示 し た 。上 記 推 奨 の 強 さ に
ア ウ ト カ ム 全 般 の エ ビ デ ン ス の 強 さ ( A、 B、 C、 D) を 併 記 さ れ て い
る 。 A( 強 ) : 効 果 の 推 定 値 に 強 く 確 信 が あ る B( 中 ) : 効 果 の 推 定 値 に 中 程 度 の 確 信 が あ る C( 弱 ) : 効 果 の 推 定 値 に 対 す る 確 信 は 限 定 的 で あ る D( と て も 弱 い ): 効 果 の 推 定 値 が ほ と ん ど 確 信 で き な い 4) 公 開 と 改 訂 本ガイドラインは、日本輸血細胞治療学会誌と学会のホームペー
ジで公開する。また科学的エビデンスの蓄積に従って改訂を行う予
定 で あ る 。 5) 資 金 と 利 害 相 反 本ガイドラインの作成のための資金は厚生労働科学研究費補助金
「科学的根拠に基づく輸血ガイドラインの策定等に関する研究」よ
り得られた。本ガイドラインの内容は特定の営利・非営利団体、医
薬品、医療機器企業などとの利害関係はなく、作成委員は利益相反
の 状 況 を 日 本 輸 血 ・ 細 胞 治 療 学 会 に 申 告 し て い る 。 2. 赤 血 球 製 剤 の 種 類 と 投 与 の 評 価 日 本 赤 十 字 社 は 、 2007年 1月 よ り 保 存 前 に 白 血 球 を 除 去 し 、 2014年
8月 よ り 赤 血 球 濃 厚 液 (赤 血 球 液 -LR「 日 赤 」及 び 照 射 赤 血 球 液 -LR「 日
7
赤 」)と し て 供 給 し て い る 。赤 血 球 液 -LR「 日 赤 」は ,血 液 保 存 液 (CPD
液 ) を 28ml又 は 56ml混 合 し た ヒ ト 血 液 200ml又 は 400mlか ら 、 当 該 血
液バッグに組み込まれた白血球除去フィルターを用いたろ過により
白血球を除去した後に血漿の大部分を除去した赤血球層に、血球保
存 用 添 加 液 (MAP液 ) を そ れ ぞ れ 約 46ml、約 92ml混 和 し た も の で 、CPD
液 を 少 量 含 有 す る 。照 射 赤 血 球 液 -LR「 日 赤 」は 、こ れ に 放 射 線 を 照
射 し た も の で あ る 。 赤 血 球 液 -LR「 日 赤 」及 び 照 射 赤 血 球 液 -LR「 日
赤 」 の 容 量 は 、 200ml全 血 由 来 (RBC-LR-1)の 約 140mlと 400ml 全 血
由 来 (RBC-LR-2) の 約 280mlの 2種 類 が あ る 。 製 剤 中 の 白 血 球 数 は 1
バ ッ グ 当 た り 1×10 6 個 以 下 で あ り 、 400ml 全 血 由 来 の 製 剤 で は 、
Ht値 は 50〜 55%程 度 で 、ヘ モ グ ロ ビ ン (Hb) 含 有 量 は 20g/dl程 度 で あ
る 。赤 血 球 液 -LR「 日 赤 」及 び 照 射 赤 血 球 液 -LR「 日 赤 」は 、2〜 6°C
で 保 存 す る 。日 本 赤 十 字 社 で は 、MAP加 赤 血 球 濃 厚 液 (赤 血 球 M・ A・
P「 日 赤 」 ) の 製 造 承 認 取 得 時 に は 有 効 期 間 を 42日 間 と し て い た が 、
エ ル シ ニ ア 菌 混 入 の 可 能 性 が あ る た め , 現 在 は 有 効 期 間 を 21日 間 と
し て い る 。 赤 血 球 液 の 投 与 に よ っ て 改 善 さ れ る Hb 値 は ,以 下 の 計 算 式 か ら 求 め
る こ と が で き る 。 予 測 上 昇 Hb 値 ( g/dl) = 投 与 Hb 量 ( g) /循 環 血 液 量 ( dl) 循 環 血 液 量 : 70ml/kg{ 循 環 血 液 量 ( dl) = 体 重 (kg)×70ml/kg/100} 例えば、体 重 50kg の 成 人 (循 環 血 液 量 35dl)に Hb 値 19g/dl の 血
液 を 2 単 位 (400ml 由 来 の 赤 血 球 液 -LR「 日 赤 」の 容 量 は 約 280ml で
ある。したがって、 1 バッグ中 の 含 有 Hb 量 は 約 20g/dl×280/100dl=
8
約 56g と な る ) 輸 血 す る こ と に よ り ,Hb 値 は 約 1.6g/dl 上 昇 す る こ
と に な る 。 3. 1)病 態 別 の 赤 血 球 製 剤 使 用 の ト リ ガ ー 値 と 推 奨 CQ1-1 再 生 不 良 性 貧 血 、 骨 髄 異 形 成 症 候 群 な ど に よ る 貧 血 に お い て 赤
血 球 輸 血 トリガー値 はどのくらいか
⚫推 奨
再 生 不 良 性 貧 血 、骨 髄 異 形 成 症 候 群 などによる貧 血 患 者 において、Hb
8g/dl以 上 では、特 殊 な場 合 を除 いて輸 血 が必 要 となることはほとんどない。
赤 血 球 輸 血 トリガー値 としては、患 者 の状 態 に合 わせてHb 6〜7g/dl以 下
に設 定 することを推 奨 する (2D)。患 者 の 自 覚 症 状 が 強 い 場 合 に は 、示 さ
れ た ト リ ガ ー 値 よ り 高 め に 設 定 す る こ と も 許 容 さ れ る ( 2D) 。 ⚫解 説
造 血 障 害 患 者 で赤 血 球 輸 血 のHbトリガー値 を低 くすることで、輸 血 量 を
減 少 させるという論 文 はない。輸 血 量 を減 らすことで生 存 率 を上 昇 させる
可 能 性 は高 い。ほとんどの輸 血 が、貧 血 症 状 が出 現 する前 のHb 6〜7g/dl
以 上 で行 われ、また多 くのガイドラインでもそのように推 奨 されているため
2)-4)
、赤 血 球 輸 血 トリガー値 の有 益 性 が判 定 できず、また有 害 事 象 を報 告
した論 文 もない。しかし、赤 血 球 輸 血 による鉄 過 剰 に伴 う臓 器 障 害 のマネ
ージメントは重 要 で、鉄 キレート剤 が有 用 である 5 ) 。また、低 リスクの骨 髄 異
形 成 症 候 群 で 、 血 中 エ リ ス ロ ポ エ チ ン 濃 度 が 500mIU 以 下 の 患 者 に 対 し て 、
ESA(Erythropoiesis-stimulating a gents)製 剤 の効 果 がある 6 ) ことが
示 され、輸 血 が 検 討 さ れ る よ う に な っ た 時 点 で ESA製 剤 を 使 用 す れ ば 、
輸 血 量 を減 少 させることができるかもしれない。
9
CQ1-2 固 形 癌 化 学 療 法 などによる貧 血 において赤 血 球 輸 血 のトリガー
値 はどのくらいか
⚫推 奨
固 形 癌 化 学 療 法 などによる貧 血 において赤 血 球 輸 血 トリガー値 としては、
Hb 7〜8g/dl を推 奨 する (2D)。
⚫解 説
固 形 癌 に 対 す る 化 学 療 法 に お け る 赤 血 球 輸 血 の 適 応 に つ い て 比 較
した論文は少ない。これはそもそも固形癌に対して赤血球輸血が必
要なほどの骨髄抑制を生じる化学療法を避ける傾向があることが影
響していると考えられる。周術期に輸血を施行した群は生存率が低
いことが肺癌
管癌患者
7)
、大腸癌
8)
の メ タ ア ナ リ シ ス 、 及 び 、 220 例 の 膵 腺
9)
、 235 例 の 食 道 癌 患 者
10)
、 520 例 の 頭 頚 部 癌 患 者
11)
の観
察 研 究 よ っ て 示 さ れ て い る 。 一 方 、 587 例 の 卵 巣 癌 患 者 に お け る 観
察研究
12)
では赤血球輸血が再発、死亡に関係なかったという報告
が あ る 。本 CQ で は 、造 血 器 腫 瘍 に 対 す る 化 学 療 法 に お け る 赤 血 球 輸
血 を 参 考 に し て 作 成 し た 。 CQ1-3 造 血 器 腫 瘍 化 学 療 法 、造 血 幹 細 胞 移 植 治 療 な ど に よ る 貧 血 に
おいて赤血球輸血トリガー値はどのくらいか
⚫推 奨
造 血 器 腫 瘍 化 学 療 法 、 造 血 幹 細 胞 移 植 治 療 な ど に よ る 貧 血 に お い
て 赤 血 球 輸 血 ト リ ガ ー 値 と し て は 、 H b 7 〜 8 g / d l を 推 奨 す る ( 2 C ) 。 ⚫解 説
成 人 例 で 直 接 推 奨 の Hb ト リ ガ ー 値 を 示 す 報 告 は な い 。小 児 移 植 で
ト リ ガ ー 値 を Hb 7g/dl と Hb 9g/dl で 比 較 し た 場 合 、 治 療 成 績 に 差
10
は な く 、 輸 血 量 と コ ス ト が Hb 7g/dl で 削 減 さ れ た と の 報 告 が あ る
13)
。 同 じ く 小 児 移 植 に お い て 、 ト リ ガ ー 値 を Hb 7g/dl と Hb 12g/dl
で 比 較 し た 前 向 き 試 験 に お い て 、後 者 で 肝 中 心 静 脈 閉 塞 症( VOD)が
多 発 し 、試 験 が 中 止 さ れ た と い う 報 告 が あ る
14)
。強 い エ ビ デ ン ス で
はないが、造血器腫瘍化学療法、造血幹細胞移植治療における赤血
球輸血のトリガーを特に他疾患と区別する必要はなく、造血幹細胞
移 植 に お い て は 、極 端 に 高 い ト リ ガ ー 値 は 有 害 で あ る 可 能 性 が あ る 。 CQ1-4 鉄 欠 乏 性 、ビ タ ミ ン B12 欠 乏 性 な ど に よ る 貧 血 に お い て 赤 血
球 輸 血 ト リ ガ ー 値 は ど の く ら い か ⚫推 奨
鉄 欠 乏 性 、 ビ タ ミ ン B12 欠 乏 性 な ど の 貧 血 患 者 に お い て 、 生 命 の
維持に支障をきたす恐れがある場合以外は、赤血球輸血は推奨しな
い (2C)。 ⚫解 説
直 接 関 連 し た 報 告 は な く エ ビ デ ン ス レ ベ ル と し て は 弱 い が 、 鉄 欠
乏 性 、 ビ タ ミ ン B12 欠 乏 性 な ど に よ る 貧 血 は 短 時 間 の 間 に 著 し く 進
行することはないため、通常貧血が高度であっても、必要な程度に
安静を保って欠乏した成分を補充し貧血の回復を待つ。生命の維持
に支障をきたす恐れがある場合以外は、赤血球輸血は推奨しない。
このことは治療可能な貧血に対する赤血球製剤の基本的な輸血の適
応 か ら 推 測 で き る 。 CQ1-5 自 己 免 疫 性 溶 血 性 貧 血 の 赤 血 球 輸 血 ト リ ガ ー 値 は ど の く ら
いか
11
⚫推 奨
自 己 免 疫 性 溶 血 性 貧 血 の 貧 血 患 者 に お い て 、 生 命 の 維 持 に 支 障 を
き た す 恐 れ が あ る 場 合 は 、 赤 血 球 輸 血 を 推 奨 す る (2C)。
⚫解 説
直 接 関 連 し た 臨 床 試 験 は な く エ ビ デ ン ス レ ベ ル と し て は 弱 い が 、
急速に進行する可能性のある自己免疫性溶血性貧血においては、生
命の維持に支障をきたす恐れがある場合は注意を払いながら躊躇な
く実施してよい。使用する血液については、同種抗体の有無、自己
抗 体 の 特 異 性 を 勘 案 し て 決 定 す る 。輸 血 検 査 に 関 し て は 、日 本 輸 血・
細胞治療学会からガイドラインが示されている
1 5 ) 。酸 素 化 の 障 害 の
観 点 か ら 、 Hb 4〜 6g/dl を 提 案 し て い る 報 告 が あ り
16)、 し ば し ば 引
用 さ れ て い る 。我 が 国 か ら 、8 人 の 温 式 抗 体 陽 性 例 の 24 回 の 輸 血 で 、
1 例の遅延型溶血反応が疑われたのみであったという報告がある
17)。
CQ1-6 消 化 管 出 血 に お け る 急 性 期 貧 血 の 赤 血 球 輸 血 ト リ ガ ー 値 と 目 標
値 はどのくらいか
⚫推 奨
消 化 管 出 血 に お け る 急 性 期 貧 血 の 赤 血 球 輸 血 ト リ ガ ー 値 と し て は 、 Hb 7g/dl を 推 奨 す る 。Hb 9g/dl 以 上 で、特 殊 な場 合 を除 いて輸 血 が必 要 と
なることはほとんどない (1A)。
⚫解 説
急 性 上 部 消 化 管 出 血 に お い て 、制 限 輸 血( Hb< 7.0g/dl)と 非 制 限
輸 血( Hb< 9.0g/dl)に よ る 、予 後 や 輸 血 後 副 反 応 の 解 析 で は 、複 数
の ラ ン ダ ム 化 比 較 臨 床 試 験 (RCT; randomized controlled trials)、
シ ス テ マ テ ィ ッ ク レ ビ ュ ー (systematic review)に お い て 輸 血 の
12
ト リ ガ ー 値 が 7g/dl で 、 在 院 期 間 中 の 死 亡 率 、 再 出 血 率 、 急 性 冠 動
脈疾患の発生、肺水腫、感染症の発症等において制限輸血の有意性
が 示 さ れ 、輸 血 量 の 減 少 が も た ら さ れ る こ と が 明 ら か で あ っ た
18)-20)
。 CQ1-7 周 術 期 貧 血 の 赤 血 球 輸 血 の ト リ ガ ー 値 は ど の く ら い か ⚫推 奨 周 術 期 貧 血 の 赤 血 球 輸 血 の ト リ ガ ー 値 と し て 、 Hb 7〜 8g/dl を 推
奨 す る (1A)。 ⚫解 説 周術期貧血に対する赤血球輸血は、組織酸素供給能の補充によっ
て 術 中 出 血 や 術 後 貧 血 か ら の 患 者 の 全 身 状 態 回 復 に 寄 与 す る 。一 方 、
数々の観察研究やシステマティックレビューから、術後症例や重症
患者における赤血球輸血と死亡率や術後合併症との相関が指摘され
て い る (CQ1-2 の 解 説 を 参 照 )。 正 量 性 循 環 動 態 の 周 術 期 患 者 や 集 中 治 療 室 に お け る 重 症 患 者 を 対
象として、制限輸血あるいは非制限輸血のトリガー値群間で比較検
討がなされてきた。その結果、多くの患者において制限輸血のトリ
ガ ー 値 と し て Hb 7〜 8g/dl と し た 場 合 に 、 よ り 高 い ト リ ガ ー 値 設 定
の非制限輸血群と比較して、有意に輸血量を減らし得ることが示さ
れた
17),19)
。 一 方 、 制 限 輸 血 群 に お い て 、 在 院 30 日 時 点 の 死 亡 率 で
両 群 間 に 有 意 差 を 認 め ず 、入 院 中 死 亡 率 は 有 意 に 低 か っ た
22)23)
。ま
た、在院期間の延長、心血管イベント、肺水腫、脳血管障害、肺炎
等 の 重 症 感 染 症 と い っ た リ ス ク の 有 意 な 増 大 を 認 め な か っ た 。 し た が っ て 、 赤 血 球 輸 血 に お け る 制 限 的 な ト リ ガ ー 値 設 定 は 、 循
環動態制御下にある周術期症例において輸血のリスク軽減に有用で
13
あると考えられる。ただし、臨床試験の被験者とは異なり、多彩な
臨床状態を有する個々の患者においてはその適用に慎重さを要する
場合がある。貧血状態の代償機転における心機能の重要性に鑑みた
場合、心疾患とりわけ急性冠動脈疾患患者に関する周術期の赤血球
輸 血 ト リ ガ ー 値 に 関 し て は 、 更 な る 研 究 と 評 価 が 必 要 で あ る 。 CQ1-8 妊 婦 の貧 血 の赤 血 球 輸 血 トリガー値 と目 標 値 はどのくらいか
⚫推 奨
妊 婦 の貧 血 の赤 血 球 輸 血 トリガー値 としては、 Hb 4〜6g/dl で、輸 血 を
考 慮 する。しかし、通 常 貧 血 の原 因 を精 査 し、鉄 欠 乏 性 貧 血 であれば、
鉄 剤 の投 与 を優 先 する。Hb 7g/dl 以 上 なら、特 殊 な場 合 を除 いて輸 血 は
推 奨 しない (2D)。
⚫解 説
妊 婦 の貧 血 の原 因 を精 査 することが重 要 である。貧 血 の原 因 に対 する
治 療 を早 期 から介 入 する。患 者 により、症 状 発 現 はばらつきがあるが、輸
血 のトリガー値 は、基 本 的 には非 妊 婦 の場 合 と同 じと考 えて良 い
3)。
CQ1-9 心 疾 患 、特 に虚 血 性 心 疾 患 の非 心 臓 手 術 における貧 血 に対 する
赤 血 球 輸 血 トリガー値 は ど の く ら い か ⚫推 奨
心 疾 患 、特 に虚 血 性 心 疾 患 を伴 う、非 心 臓 手 術 における貧 血 に対 する
赤 血 球 輸 血 のトリガー値 としては、8〜10g/dl を推 奨 する (2C)。 ⚫解 説
心疾患、特に虚血性心疾患を有する患者への赤血球輸血に関して
数々の観察研究がなされている。輸血と死亡リスクとの相関につい
14
ては、研究デザインの相違やバイアスの存在によって影響され報告
に よ っ て 見 解 が 異 な っ て い る 。 非 心 臓 手 術 症 例 を 対 象 と し た RCT と し て は 、Hebert ら に よ る TRICC
試験のサブグループ解析が代表的なものである
22,24)
。そ の 結 果 、制
限 的 と 非 制 限 的 輸 血 の 群 間 で 、 血 中 Hb 濃 度 の ト リ ガ ー 値 、 死 亡 率 、
在院期間、多臓器不全スコア等において差を認めなかった。その一
方で、虚血性心疾患の重症度が高い場合死亡率が上昇する傾向が指
摘された。しかし、サンプルサイズが十分とは云えず更なる検討を
要 す る 。 一 方 、 股 関 節 手 術 症 例 を 対 象 と す る FOCUS 試 験 で は 63%の 心 疾 患
合併患者を含んでおり、その結果、制限的なトリガー値設定の有用
性を認めなかった
23)
。ま た 、不 安 定 冠 動 脈 疾 患 や 心 筋 梗 塞 症 例 を 対
象とした検討では非制限的トリガー値群で心血管イベントや死亡率
が低い傾向が示された
25)
。 病態が安定している場合であれば制限的なトリガー値設定でリス
クの増大は認められないという報告もある。心疾患とりわけ急性冠
動脈疾患患者に関する周術期の赤血球輸血トリガー値に関しては、
更なる研究と評価が必要である。
大 規 模 RCT におけるサブグループ解 析 として報 告 されている場 合 が多 い
ため、症 例 数 のサイズが必 ずしも大 きくない場 合 がある。本 CQ の対 象 患
者 の条 件 に特 化 した RCT を実 施 する必 要 があると思 われる。また、報 告 毎
にトリガー値 の設 定 やアウトカム評 価 ポイントの差 異 が認 められ、エビデン
スとして不 十 分 な報 告 となっている場 合 もある。
CQ1-10 腎 不 全 に よ る 貧 血 の 赤 血 球 輸 血 ト リ ガ ー 値 は ど の く ら い か 15
⚫推 奨
腎 不 全 に よ る 貧 血 の 場 合 は 、 ESA 製 剤 と 鉄 剤 治 療 な ど を 優 先 し 、
Hb 7g/dl 以 上 では特 殊 な場 合 を除 いて輸 血 はせず、必 要 最 小 限 の輸 血 を
推 奨 する (2C)。 ⚫解 説
直 接 関 連 し た 報 告 は な く エ ビ デ ン ス レ ベ ル と し て は 非 常 に 弱 い が 、
腎 不 全 患 者 で 効 果 が 期 待 さ れ る ESA 製 剤 や 鉄 剤 に 不 応 の 場 合 に は そ
の原因検索が必要であり、治療が困難な場合には、他疾患に準じて
Hb 7 g/dl を ト リ ガ ー と す る こ と を 推 奨 す る
26)
。大 量 輸 血 ま た は 小 児
に対する輸血の場合は、高カリウム血症を回避するための対策が必
要 な 場 合 が あ る 。 CQ1-11 人 工 心 肺 使 用 手 術 による貧 血 の赤 血 球 輸 血 トリガー値 はどのく
らいか
⚫推 奨
弁 置 換 術 や CABG 術 後 急 性 期 の 貧 血 の赤 血 球 輸 血 トリガー値 としては、
Hb 9〜 10g/dl を推 奨 する (1B)。 ⚫解 説
心 臓 血 管 外 科 的 手 術 に お い て は 、 制 限 輸 血 ( Hb 7~ 8g/dl 以 下 )
と 非 制 限 輸 血 ( Hb 9 ~ 10g/dl 以 下 ) を 比 較 し た 場 合 の 制 限 輸 血 の 明
らかな臨床的優位性は示されていない
18)19)27)
。最 近 の 多 施 設 RCT の
結果では非制限輸血群において死亡率が有意に減少したと報告され
ている
28)
。一 方 、同 種 血 の 輸 血 量 が 予 後 の 悪 化 と 相 関 す る と の 結 果
からは、過剰な同種血輸血は避けることが望ましい。その他、感染
症や輸血後副反応の発生率に関して有意差は認められていない。小
16
児 に お け る 心 臓 血 管 外 科 的 手 術 に お い て は ト リ ガ ー レ ベ ル を Hb 8g/dl で も 可 能 と の 少 数 例 の 報 告 が あ る
29)
。 CQ1-12 重 症 または敗 血 症 患 者 の貧 血 に対 して、赤 血 球 輸 血 のトリガー
値 はどのくらいか
⚫推 奨
重 症 または敗 血 症 患 者 の貧 血 に対 して、赤 血 球 輸 血 トリガー値 としては、
Hb 7g/dl を推 奨 する (1A)。
⚫解 説
ICU などの重 症 患 者 や敗 血 症 患 者 に対 する赤 血 球 輸 血 のトリガー値 を、
制 限 輸 血 群 (Hb 7~ 8g/dl で輸 血 )と非 制 限 輸 血 群 (Hb 9~ 10g/dl で輸 血 )
に分 けて、死 亡 率 や有 害 事 象 を比 較 した論 文
28)
がある。制 限 輸 血 群 の死
亡 率 が低 いか、同 等 であった。また制 限 輸 血 群 は輸 血 量 が少 ないため、感
染 症 や輸 血 副 反 応 の発 生 率 も少 なかった。
2)疾 患 別 の 自 己 血 貯 血 の 適 応 と 推 奨 CQ2-1 整 形 外 科 (人 工 膝 関 節 置 換 術 、人 工 股 関 節 置 換 術 、脊 椎 側 弯
症 手 術 など)手 術 における自 己 血 輸 血 の適 応 はあるか
⚫推 奨
人 工 関 節 置 換 術 に お い て 、 本 邦 で は 貯 血 式 自 己 血 輸 血 (2D)、 欧 米
で は 術 後 回 収 式 自 己 血 輸 血 が 推 奨 さ れ て き た (1B)。 ただし今後は止血対策の進歩により、有効とならない症例が増加す
る 可 能 性 が あ る (1B)。
⚫解 説
術 後 に ド レ ー ン か ら 回 収 す る 血 液 の 自 己 血 輸 血 は 、 ラ ン ダ ム 化 比
17
較 試 験 (RCT)の メ タ 解 析
31)32)
においては同種血輸血回避効果ありと
報 告 さ れ て き た 。 し か し 2013 年 以 降 の RCT3 編
33)-35)
において回避
効果なしとの結果が出されている。これは近年の術式において、出
血量が減少してきていることが論文中
33)34)
で 考 察 さ れ て い る 。 欧米からは、術前自己血貯血が有効であるとする論文の報告は見ら
れない。本邦では術前自己血貯血が、多くの整形外科手術において
行われているが、今後術式の工夫により輸血が不要となる症例が増
加 し 、術 前 自 己 血 貯 血 の 適 応 を 再 考 す る 必 要 性 が 生 じ る と 思 わ れ る 。 CQ2-2 婦 人 科 (子 宮 筋 腫 、子 宮 癌 の手 術 など)手 術 において、自 己 血 輸
血 の適 応 はあるか
⚫推 奨
出 血 量 が多 い子 宮 筋 腫 手 術 において、術 中 回 収 式 自 己 血 輸 血 を推 奨
する (2C)。本 邦 では、術 前 の自 己 血 貯 血 も 多 く 行 わ れ て い る が 、 エ ビ
デンスを示す論文に乏しい。
⚫解 説
婦 人 科 手 術 領 域 に お い て 自 己 血 輸 血 を 検 討 し た 文 献 は 少 な い が 、
子宮筋腫手術において術中回収式自己血輸血が有用であるとした論
文
36)
は 、 日 本 の 単 一 施 設 で の 前 向 き 試 験 結 果 か ら 出 さ れ た 37 例 の
観察研究である。その中で術中回収式自己血輸血が有用であったと
考 え ら れ る 500mL 以 上 の 出 血 を 認 め た 症 例 数 は 13 例 で あ り 、そ れ ら
の 平 均 出 血 量 は 842ml で あ っ た 。 CQ2-3 産 科 手 術 における自 己 血 輸 血 の適 応 と準 備 量 はどのくらいか
⚫推 奨
18
前 置 胎 盤 などの出 血 量 の多 い産 科 手 術 において、自 己 血 輸 血 (貯 血 法 、
希 釈 法 、回 収 法 を含 む)を推 奨 する。貯 血 式 の場 合 は妊 婦 の体 重 にもよ
るが、1回 の貯 血 量 を 200〜400ml を推 奨 する (1B)。
⚫解 説
自 己 血 貯 血 しても廃 棄 になる例 も多 いが、疾 患 を選 択 することにより廃
棄 率 が改 善 する可 能 性 がある。前 置 胎 盤 の症 例 が自 己 血 輸 血 の実 施 率
は高 い
37)-39)
。自 己 血 輸 血 により、出 血 量 が多 くても同 種 血 輸 血 を回 避 す
る こ とが 可 能 とな った 。 自 己 血 貯 血 時 の 妊 婦 の 迷 走 神 経 反 射 の 発 生 率 は
高 いので、1回 の貯 血 量 は体 重 に応 じて貯 血 量 を決 定 するのが良 いと思
われる。
CQ2-4 心 臓 血 管 外 科 (開 心 術 など)手 術 において、自 己 血 輸 血 は勧 めら
れるか
⚫推 奨
心 臓 血 管 外 科 (開 心 術 など)手 術 において、自 己 血 輸 血 (回 収 法 あるい
は回 収 法 と貯 血 法 や希 釈 法 との併 用 )を推 奨 する (1A)。
⚫解 説
心 臓 血 管 外 科 (開 心 術 など)手 術 の自 己 血 輸 血 による同 種 血 輸 血 の減
少 効 果 は、自 己 血 回 収 装 置 を用 いた回 収 法 、あるいは回 収 法 と貯 血 法 や
希 釈 法 との組 み合 わせでみられている
40)-43)
。これらの自 己 血 輸 血 と同 種
血 輸 血 の間 で、輸 血 後 の臓 器 障 害 や炎 症 などの有 害 事 象 の頻 度 に差 は
認 められない。同 種 血 輸 血 の削 減 や回 避 は、頻 度 は少 ないものの輸 血 後
感 染 症 や不 規 則 抗 体 の発 症 リスクの減 少 あるいは回 避 に繋 がる。
19
CQ2-5 大 腸 切 除 や肝 切 除 など出 血 を伴 う外 科 手 術 において、自 己 血 輸
血 は勧 められるか
⚫推 奨
大 腸 切 除 や肝 切 除 などある程 度 の出 血 を伴 う外 科 手 術 において、自 己
血 輸 血 (貯 血 法 、回 収 法 、希 釈 法 を含 む)は同 種 血 輸 血 の減 量 や回 避 に
寄 与 する (2C)。
⚫解 説
大 腸 がん
44)
、食 道 がん
45)
、肝 臓 がん
44)46)
、頭 頚 部 がん
44)47)
などの手 術
において、自 己 血 輸 血 (貯 血 法 、回 収 法 、希 釈 法 を含 む)と同 種 血 輸 血 の
間 で有 害 事 象 の頻 度 に差 は認 められない。しかし、同 種 血 輸 血 の削 減 や
回 避 は、頻 度 は少 ないが認 められ、さらに輸 血 後 感 染 症 や不 規 則 抗 体 の
発 症 のリスクの減 少 にも繋 がる。
20
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