In Situ 法による羊水細胞培養

07a in situ 法による羊水細胞培養
In Situ 法による羊水細胞培養
図1.カバーガラスを用いる in situ 培養法.
培養法.
1 フラスコ法、◯
2 in situ 法、が
羊水の培養法は ◯
フラスコ法、◯
などのための時間的余裕を考えると、16 週が最適で
あります。フラスコ法は培養後に細胞を浮遊させス
あります。フラスコ法は培養後に細胞を浮遊させス
す。週数が多くなれば細胞も増えるが死滅した細胞
ライド上に拡げて染色体標本を作るので良い標本
ライド上に拡げて染色体標本を作るので 良い標本
も多くなるので、33 週以上では培養の成功率が低く
を作り易いのですが、コロニーごとに核型を分析で
なります。羊水採取時に胎児が死亡していると培養
なります。羊水採取時に胎児が死亡していると培養
きず、遠心沈殿して細胞を集めるため細胞のロスが
しても生えないことが多いので、流産では羊水細胞
多く培養期間が長いなどの欠点があります。In
多く培養期間が長いなどの欠点があります。In situ
ではなく胎盤絨毛を採取し培養するのが賢明です。
法(図1)はカバーガラス上に羊水細胞を培養し、
母体組織(母体腹壁・子宮壁・胎盤組織)
・血液の
そのまま標本を作るのでコロニーごとに核型を分
そのまま標本を作るの でコロニーごとに核型を分
混入を防ぐために、最初の 1~2 ml を捨てます。血
析でき、培養時間も短くモザイクの分析に有効です
液は少量混入しても差し支えありませんが、羊水 10
が、良い標本を作るのに工夫と熟練が要ります。
ml に対して血球層が 0.1 ml 以上混じると羊水細胞
の底面への付着が妨げられ、培養の成功率が落ちま
1.羊水の採取時期と採取量(表1)
1.羊水の採取時期と採取量(表1)
す。血液細胞は培養液を換えるときに洗い流され、
出生前診断には妊娠 15 週~16
週~16 週が最適です。≦
分裂細胞として残ることはありません。羊水の採取
14 週は羊水量・細胞濃度共に低いので好ましくあり
時期が適当で量も充分で血液の混入もなければ、培
ません。
培養期間だけを考えると 18 週が最短です。
養の成功率は 99%以上です。
99%以上です。
しかし羊水の再採取・両親のリンパ球の染色体分析
表1.妊娠週数と羊水の採取量
妊娠
採取量 (ml)
羊水の量 (ml)b
細胞の濃度 b
範囲
平均
( /μ l)
捨てる
採取 a
15
1
16
64~
64~245 136.8
134,845
16
2
20
27~
27~285 191.2
184,324
17
2
20
140~
140~573 252.6
18~
18~32
2
20
週数
a 目安と考えること。 b
Elejalde BR et al.
al. (1990
(1990)
1990)
1
07a in situ 法による羊水細胞培養
2.In
2.In situ 培養法
羊水細胞の染色体分析、殊に高齢妊婦の分析の主
羊水を遠心沈殿して得た細胞に培養液を加えて細胞
目的はトリソミー21
目的はトリソミー21 です。しかし、羊水細胞の染色
浮遊液を作り、Petri
浮遊液を作り、Petri 皿中に置いたカバーガラス上
体異常に占めるトリソミー21
体異常に占めるトリソミー21 の割合は 30%に過ぎ
30%に過ぎ
に載せて培養します。複数 (羊水の量と週数に応じ
(羊水の量と週数に応じ
ません。残りの 70%はトリソミー
70%はトリソミー18
%はトリソミー 18,
18, XXX,
XXX, XXY,
XXY,
て増減)
て増減) の Petri 皿を作り、二系統に分けて別々の
45,X,
45,X, 均 衡 型 ・ 不 均 衡 型 構 造 異 常 ( 相 互 転 座 ・
インキュベーターで培養し、別々に処理します。カ
Robertson 型転座・逆位・欠失・重複・過剰マーカ
バーガラス上に生じたコロニーをそのままの形で処
バーガラス上に生じたコロニーをそのままの形で処
ー)、モザイクなどです。その他に表現型に影響しな
理し、染色体標本を作り、トリプシン G-分染します。
い種々の正常変異、偽性モザイク、母体細胞の混入
カバーガラス 1 枚のコロニー数は 1~20 で、その大
なども見分ける必要があります。
部分は単一の細胞から出発したと考えてよいでしょ
4.偽性モザイク(pseudomosaicism
4.偽性モザイク(pseudomosaicism)と真性モザ
pseudomosaicism)と真性モザ
う。
複数の培養から合計 15 コロニーを選び、各コロ
イク(mosaicism
イク(mosaicism)
mosaicism)
ニーについて 1 細胞をカウント分析します。80
細胞をカウント分析します。80%以
80%以
正常核型/
正常核型/異常核型のモザイクで、異常核型の出現
上の検体で 15 コロニーを分析するのが基準です。
の仕方によってレベルⅠ~
の仕方によってレベルⅠ~Ⅲに分けます(表2)
Ⅲに分けます(表2)。異
常核型の 70%が均衡型・不均衡型構造異常、
70%が均衡型・不均衡型構造異常、30
%が均衡型・不均衡型構造異常、30%が
30%が
3.羊水細胞の染色体異常
数の異常です。
表2.真性モザイクの確率
レベル
核型異常の細胞
Ⅰ
1 細胞
検体の頻度 a (%) 偽性モザイク
2.5~
2.5
~7
100
Ⅱ
1 コロニー
0.7~
0.7~1.1
99.5
0.5
Ⅲ
2 コロニー以上
0.2
60
40
a 文献の頻度。自験例ではこれより多い。
1) レベルⅠモザイク
1 コロニーの 1 細胞だけが異常核型で他の細胞は
細胞だけが異常核型で他の細胞は
正常核型。
偽性モザイク。
2) レベルⅡモザイク
1 コロニーの細胞が全部異常核型。
99.5%は偽性モザイク。
99.5%は偽性モザイク。
3)
確率 (%
(% )
モザイクを持つ
レベルⅢモザイク
複数のコロニーが異常核型。偽性モザイクの確率
が 60%、真正モザイクが
60%、真正モザイクが 40%。核型異常のコロ
40%。核型異常のコロ
ニーがひとつのカバーガラスに限定しているとき
は偽性モザイクの確率が高く、複数のカバーガラ
スにあるときは真性モザイク。
正常/構造異常モザイク:偽性モザイクの確率が高い。
正常/トリソミー8
正常/トリソミー8, 9, 13,
13, 18,
18, 21 モザイク:真性モザ
モザイク:真性モザ
イクの可能性が多い。
2
真性モザイク
0
07a in situ 法による羊水細胞培養
レベルⅡの正常/構造異常モザイク:偽性モザイクと考えます。
5.羊水培養で細胞が急速に増殖するとき
胎児血で検出できないものがあることに注意すべき
です。+iso12p
+iso12p モザイク;
モザイク; モザイク・トリソミー5
トリソミー5, 7,
羊水細胞を培養して染色体標本を作るまでには
少なくとも 5 日~8
日~8 日はかかりますが、急速に羊水
16,
16, 20 などがその例です。
細胞とは違う形の細胞が底面に付着して増殖し、2
細胞とは違う形の細胞が底面に付着して増殖し、2
4)超音波検査
日~3
日~3 日で容器の底面がいっぱいになることがあり
胎児の染色体異常を疑うときに詳細な超音波検査
胎児の染色体異常を疑うときに詳細な超音波検査
ます。このようなときは、次の可能性があります。
で胎児の異常の有無をチェックすることは
で胎児の異常の有無をチェックすることはカウンセ
の異常の有無をチェックすることはカウンセ
① 開放型脊椎披
開放型脊椎披裂・無脳症などで神経系の膠(glia
(glia)
glia)
リングにも役立ち、
リングにも役立ち、有用です。胎児染色体異常のほ
有用です。胎児染色体異常のほ
細胞または星状細胞が羊水中に遊出し、増殖した。
ぼ半数に超音波所見の異常を認めます。
膠細胞は免疫染色で同定可能です(Cre
膠細胞は免疫染色で同定可能です(Cremer
Cremer et al.,
5)新生児臍帯血の染色体分析
1981)
1981)。② 臍帯ヘルニア・腹壁披
臍帯ヘルニア・腹壁披裂などで腹膜から
羊水培養で染色体異常・レベルⅢ以上のモザイク
マクロファージが遊出した(Gosden
マクロファージが遊出した( Gosden and Brock,
を発見したが妊娠を継続したとき、新生児の臍帯血
1977)
1977)。③ 羊水穿刺で胎盤から細胞が押し出された。
を使って染色体分析して確認しておくのが賢明です。
④ 高度の IUGR(
IUGR(Gosden and Brock, 1978)
1978)。
偽性モザイクであれば臍帯血の核型は正常で
偽性モザイクであれば臍帯血の核型は正常で、真性
モザイクでも 10%
10%~50%は正常です。羊水細胞と臍
50%は正常です。羊水細胞と臍
帯血で核型が違うのは、細胞の起源が違うからだと
6.染色体異常を疑うときの追加検査
思われます。
次の手段を場合に応じて使い分けます。
1)両親の血液リンパ球の染色体分析
6)羊水細胞の再採取
羊水細胞が正常変異・均衡型構造異常 (相互転
( 相互転
時間的余裕があれば、羊水を再採取して分析する
時間的余裕があれば、羊水を再採取して分析する
座・逆位)
座・逆位)・過剰マーカー染色体などを持ち、両親の
・過剰マーカー染色体などを持ち、両親の
方法は有効です。偽性モザイクであれば、同じ異常
染色体を分析して同じ異常を発見したら、胎児の染
染色体を分析して同じ異常を発見したら、胎児の染
が繰り返し出現することはありません。
色体異常は親から遺伝したもので、表現型は正常だ
注1.羊水の保存
と推定できます。羊水細胞が均衡型構造異常で両親
が染色体正常なら胎児の染色体異常は de novo(新
羊水を採取後にすぐに輸送できないときは遠沈管
生)で、胎児が表現型異常の確率は
生)で、胎児が表現型異常の確率は 6%~10%です。
10%です。
2 本に無菌的に分注して蓋を締めた後に直射日光・
[03d de novo 均衡型構造異常と表現型異常]
均衡型構造異常と表現型異常] をご参
紫外線を避け、垂直に立てて 4℃に保存します。凍
照ください。
らせないことが保存のコツです。この方法で 1~2 日
羊水細胞で不均衡型相互転座・不均衡型
保存しても、培養の成功率は落ちません。報告まで
Robert
Robertson 転座などを発見したら、両親の染色体分
転座などを発見したら、両親の染色体分
に要する日数は保存期間のぶんだけ長くなります。
析をします。親が均衡型構造異常を持つ割合はほぼ
析をします。親が均衡型構造異常を持つ割合はほぼ
注2. 再播種
50%です。
50%です。
15 コロニーを分析することを目標にしますが、6
コロニーを分析することを目標にしますが、6
2)特殊分染法の追加による分析
コロニー以上を分析できれば通常の分析には充分で
羊水細胞染色体は G-バンド分析しますが、他のバ
す。6コロニー以下のときはピペットの先で掻爬し
す。6コロニー以下のときはピペットの先で掻爬し
ンド分析・
ンド分析・FISH
析・FISH 分析を追加することによって情報
て、同じカバーガラス上に再播種して培養を続け、
が得られることがあります。20 番染色体の q11 領域
染色体標本を作ります。コロニーごとに分析できな
に G-バンド分析で濃染する過剰領域を認め、C-バン
いので、20
いので、20 細胞を分析します。
ド分析して陽性だったら、正常変異です。
ド分析して陽性だったら、正常変異です。
3)臍帯血の染色体分析
文献
偽性モザイク・真性モザイクの鑑別に役立つこと
Cremer M, Treiss T, Cremer T, Hager D, Franke
があります。ただし、染色体異常の種類によっては
WW: Characterization of cells of amniotic
3
07a in situ 法による羊水細胞培養
fluid
by
im
immunological
of
Gosden C, Brock DJ:
DJ: Morphology of rapidly
intermediate sized filaments: Presence of cells
adhering amniotic fluid cells
cells in the aid to the
of
diagnosis of neural tube defects.
defects. Lancet
different
different
tissue
identification
origin.
Hum
Genet
59:373−
59:373−379, 1981.
1:919−
1:919−922, 1977.
Elejalde BR,
BR, Elejalde MM, Acuñ
Acuña JM, Thelen D,
Gosden
C,
Brock
DJ:
DJ:
Amniotic
fluid
cell
Trujillo C, Karrmann M: Prospective study of
mor
morphology in early antenatal prediction of
amniocentesis between weeks 9 and 16 of
abor
abortion and low birth weight. Brit Med J
gestation:
gestation: Its feasibility, risks, complications
2:1186−
2:1186−1189, 1978.
and use in early genetic prenatal diagnosis.
梶井 [2007
2007 年 11 月 9 日:改訂]
改訂]
Am J Med Genet 35:188−
35:188−196, 1990.
4