(06) - 1 - 異常胸部エックス線像総論 1. シルエット・サイン silhouette

異常胸部エックス線像総論
1. シルエット・サイン si lhouette sign
水濃度と水濃度の陰影が相接して存在すると,その境界のコントラストが失われて不鮮明
になることをシルエット・サインという。
正常ではX線束と平行に配列した辺縁をもつ心臓,胸部大動脈,横隔膜の辺縁は鮮明に描
出されている。何らかの病態で,(1) 肺胞ガスが漏出液,浸出液,血液,細胞成分など X 線
的に水濃度を示す物質で置換されるか,(2) 肺胞が虚脱して肺胞内の空気が失われるか,(3)
胸水や腫瘍などがあって肺内ガスが心臓や胸部大動脈などに接することができないと,それ
らの臓器の鮮明な辺縁の一部や全部がコントラストを失って不鮮明となる。
すなわち,水濃度を示す臓器と,水濃度を示す病変部が相接すると,接した部分の境界,
辺縁が不鮮明となる。
そして,上記の理由で不鮮明になったときシルエット・サイン陽性という。
シルエット・サインを評価するときの注意点
1. 評価する部位は十分な露出で撮影されていなくてはならない。
露出不足の写真では評価を間違える。
2. 水濃度と水濃度の陰影であることが必要である。金属濃度や骨濃度などと水濃度の
コントラストについてはシルエット・サインは成立しない。
3. 心臓右縁や下行大動脈の辺縁は椎骨影から突出している症例でなくてはならない。
4. 漏斗胸では,通常,右心房の右縁は不鮮明である。
5. 高齢者や肥満者では心臓横隔膜角部に脂肪が沈着しやすく,その心膜外脂肪塊によって,
心臓横隔膜角部の心臓の辺縁が不鮮明になる。
2. シルエット・サインの応用
1) 頸胸部徴候 cervicothoracic sign
正面像で上縦隔の病変の位置が,気管を境に前方のものか後方のものかを推定するのに用
いる。前上縦隔は鎖骨レベルで終り軟部組織に移行するのに対して,後縦隔は鎖骨のさらに
頭側まで延び肺尖部の空気に接している。気管より前方に位置する腫瘤性病変では,鎖骨よ
り上方で頸部の軟部組織に移行するため,その辺縁が不鮮明になる(頸胸部徴候陽性)。気管
より後方の腫瘤では肺尖部の肺と接するため,その辺縁は鮮明で,鎖骨上方まで追える。
2) 肺門重畳徴候 hilum overlay sign
縦隔の拡大または縦隔に腫瘤陰影がある場合,これに重なって肺門の血管影が透見され
れば,肺血管由来ではなく前縦隔か後縦隔腫瘍あるいは下行大動脈の蛇行や動脈瘤などが考
えられる。これを肺門重畳徴候陽性という。心拡大や心由来の腫瘤では,その辺縁より外側
に肺血管影を認め,内側1cm 以内にはこれを認めない。
3) 肺門連続徴候 hilum convergence sign
肺門部の腫瘤影が肺血管由来ならば,肺野の血管影が連続性に,これに向って集中する
所見をいう。肺門・縦隔の腫瘤ではこのような所見は呈さない。
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3.
コンソリデーション
ai r space consolidation
コンソリデーション consolidation は元来,含気腔 air space が,液体,細胞成分,組織
などで置換された状態を指す病理組織学的用語で,通常,容積の減少を伴わない。X線学的
にも同様な状態の陰影に対してよく使われる。しかし,X線学的には気道の閉塞や狭窄で二
次的に含気腔が無気肺になっている状態と,液体や細胞成分で置換されて空気がない状態と
を区別することはできない。従って,厳密には病理学的コンソリデーションと多少異なるも
のも含まれるが,X 線学的に air space consolidation という場合には,肺胞性陰影を指すこ
とが多い。また,スリガラス状陰影 ground glass opacity(淡い陰影)と対比させ,濃い(非
常に暗い)陰影に対して使用することもある。CT では内部の肺血管が認識可能な,比較的均
一な淡い高吸収の場合に ground glass opacity,内部の肺血管が全く認識不可能な,均一な
濃い高吸収の場合に consolidation と称することが一般的である。
4.
エア・ブロンコグラム
エア・アルベオログラム
a ir bronch ogram
air alveologram
気管支含気像
肺胞含気像
通常,気管支の壁は薄く,これらの中の空気は肺胞内の空気と黒化度が等しく,コントラ
ストされない(気管支内のガスと肺胞内のガスを区別できない)ので,肺門以外の肺野では
気管支はX線写真上認識されない。しかし,air space consolidation がある場合,肺胞内に
充 満し た水 濃度 に よっ て気管 支内 の ガスが コ ン トラスト さ れて よ くみ える こ とを air
bronchogram という。同様の機序で,空気の入っている細気管支や,とり残された空気の入っ
ている肺胞が周囲のコンソリデーションによってコントラストされ微小透亮像としてみられ
ることを air alveologram もしくは air bronchiologram という。単純写真よりも CT の方が
わかりやすい。
本来は肺内病変であることを示す sign として提唱されたが,現在では前述の成立ちから肺
胞性病変(肺炎,肺水腫,IRDS など)をより考える sign として解釈されている。線維性変化
(間質性病変)が著しい場合にもみられることがあるので注意が必要。
5.
細葉陰影
acinar shadow
単純 X 線写真上,認識できる最小単位が細葉の大きさで,これ以下の病巣は X 線像に異常
影を示さない。細葉単位の気腔 air space が出血,液体成分,炎症物質,細胞成分などで置
換されると X 線透過性が減弱し,X 線写真上境界不鮮明な小斑点状陰影を形成する。これを
acinar shadow,acinar nodule という。このような形態の陰影を呈することを acinar pattern
という。また,細気管支肺炎の際に末梢気道を中心に含む辺縁不整な粒状影を認めるが,こ
れを peribronchiolar inflammatory nodule という。これは,acinar nodule と X 線像では区
別されないので,両者を含めて alveolar nodule や air-space nodule と呼ぶ。
実際の読影では,陰影の大きさから細葉大(1 cm 以下)の陰影とか小葉大(1∼2 cm)の陰
影といった使い方の方が適切と思われる。
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6.
肺の実質 pulmonar y parenchyma と間質 pulmonary intestitium
肺の実質の厳密な定義は困難。肺実質とは,肺胞腔,すなわち空気という実体のないもの
と考えられる。その他,肺胞上皮そのものや肺胞上皮を含んだ肺胞腔を指したり,細葉と同
義に用いられることもある。X線学的には,肺胞腔を指す。
間質とは肺の骨組みであり,これによって肺血管系,気道系が支持されている。Weibel に
よって 1. peripheral connective tissue(胸膜,小葉間隔壁),2. axial connective tissue
(肺血管,気管支周囲),3. 肺胞隔壁(肺胞中隔)の 3 つに分けられている。
7.
肺胞性陰影と間質性陰影のパ ターン 認識
必ずしも病理所見と一致しないので,問題があり正しい方法論とはいえないが,正しく使
えば有用な場合も少なくない。肺胞性パターン,間質性パターンのそれぞれのX線像がきわ
めて明瞭な場合に用いるとよい。
高分解能 CT の読み方
肺野末梢構造と高分解能 CT の読影の基礎
びまん性肺疾患の画像診断の手順を理解する。
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