酪農場における動的マネジメント

酪農場における動的マネジメント
HACCP 概念に基づいた大規模および小規模農家における実践的マネジメント方策
カリフォルニア大学 デイビス校 教授
ジェームス・カラー
酪農場は食品製造施設であり、液状・固形の栄養素を生態系に提供するだけでなく、販売用の
生乳や乳用牛肉を日々産出している。それゆえ、この生産過程は動物衛生、動物福祉、公衆衛
生、生態系の健全性、食品の安全性、食品防御そして利益を上げるために、日常的に管理されな
ければならない。例えば酪農場では管理者が抗生物質のみを用いることができるだけでは、決し
て利益を最大化することはできない。農業における動的マネジメント(ADM)の手法を用いて、問題
解決方法を「マネジメント」することで利益を最大化することが出来る。並進的なマネジメントの取り
組みは大規模および小規模農家ともに大変有用な手法であるといえる。
ADM の過程は既存のまたは新規の問題点が発生する前に特定するためにデザインされており、
継続的な成功に必要な改善を施すために人的資産を効率的に訓練するだけでなく、問題の発生
を未然に防ぐために必要なプロトコル、手順そして訓練法が導入されている。ADM は農耕・畜産
の世界に HACCP 概念を適応するために、実践的なアプローチ法であることが証明されており、
HACCP は以下の手順で達成される。
・チームの編成
・事前の意見交換
・問題解決
・DDM 工程のマネジメント
演者紹介 ----------------------------------------------------------------------ジェームス・カラー 先生 (Prof. Dr. James S. Cullor)
(米国カリフォルニア大学デイビス校獣医学部 教授)
1979 年米国カンサス州立大学獣医学部卒、臨床を経て、カリフォルニア大学デイ
ビス校へ。 1985 年獣医学博士号を取得後、同校教員。 副学部長。
現在、ポピュレーションヘルスと繁殖学を担当する教授であり、且つ、酪農場における
オン・ファームでの食品の安全・安心に関し、生産資材・機器・工程や従事する人をどの
ようにマネージするかを、動物の健康と福祉、公衆衛生、エコシステムなど多岐にわたる
観点から研究教育活動を実施している。
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ADM の対象を酪農場としたとき、そのプログラムを酪農場における動的マネジメント(DDM)と呼
んでいる。この手法はこれまでにアメリカや中国の農場において、乳質の向上、抗生物質残留の
廃絶、乳量の増加に成功している。現在抱えている問題から脱却し、利益を最大化させるよう管
理する、この新たな手法はとてもエキサイティングである。
この動的管理システムにおいては酪農場をいくつかのモジュールに分け(例えばパーラー、牛床、
残留防止対策、乾乳牛、移行期乳牛、フレッシュカウ、疾病牛、分娩房、育成など)、モジュールご
とにチームを招集しマネジメントの基礎となる書類の作成を実施する。
各モジュールにおける DDM チームは農場経営者、DDM 専門家そして各モジュールに関連の労
働者より構成される。例えば、パーラーのモジュールの場合は農場経営者、DDM 専門家、パーラ
ーコンサルタント、獣医師そして各搾乳作業時間における搾乳責任者から構成されるであろう。各
モジュールにおいて DDM チームは下記のような書類を作成する。
1.綱領
2.標準作業手順書(SOP:Standard Operating Procedure)
3.訓練用フォーム
4.評価用フォーム
5.モニタリング用フォーム
綱領―作業員、消費者に対し各モジュールの目標を説明するもの
標準作業手順書(SOP) ―各モジュールにおいて完遂しなければならない事項を段階的に説明
したもの(各段階において何をすべきか記載されたもの)
訓練用フォーム―各段階においてどのように作業すればいいか、またその理由が記載されてい
るもの
評価用フォーム―各段階が実施されているかを確認でき、またそれが的確に遂行されているか
否かを第三者が判断できるようにするもの
モニタリング用フォーム―チームの最終目的や成功の基準を決定し、かつ日常的に進捗状況の
モニタリングができるようにするもの
消費者信頼感:ADM は人的資産を訓練または創造するため、そして農耕および畜産のあらゆ
る面で必要な変化をもたらすためには効果的なアプローチ法である。この手法は生産業、
運輸業、加工業そして小売業において、製品の質、生産性、食品衛生の向上や収益の
増大のために適応できる。
「DDM 専門家」は常に ADM 過程の進捗を維持するための鍵である。DDM 専門家は以下の項
目について責任を負っている。
・打ち合わせの企画
・DDM のための書類がきちんと作成されているか確認する
・チームが定められた課題に集中するよう仕向ける
・話し合いの内容がそれないよう維持する
・チームの全ての参加者が議論に貢献していることを確認する
・議事録を要約し作業が進捗したことを確認する
畜産において ADM は乳用牛(DDM)、肉用牛(BDM)、ブタ(SDM)、ニワトリ(PDM)、ラクダ、ヤギ
などを対象とすることが出来る。獣医療、加工場、農作業、生態系管理戦略、輸送業そして小
売店においても、上記と同様に柔軟な命名と訓練が実施可能である。さらに ADM は大学、監察
機関、専門学校、高校レベルのカリキュラムにも適応可能であろう。ひとたびこのマネジメント手
法が導入されれば、個々の小規模または大規模農家が「認証」を得ることが予見され、それは
すなわち食品供給において消費者からの信頼性が増すということとなる。このことは地域市場
を健全に保つことに繋がり、さらに高品質で安全な製品を求める国際市場の開拓にもつなが
る。