P-086 体位変換が制限された外減圧術後の患者に対する用手的呼吸介助手技の効果 *背戸 佑介 1), 菅沼 江里加 1), 向井 庸 1), 四十宮 公平 1), 杉山 育子 2) 1)聖隷浜松病院リハビリテーション部 2)聖隷浜松病院リハビリテーション科 キーワード:外減圧術後, 体位変換制限, 用手的呼吸介助手技 【目的】 急性期の呼吸理学療法は急性無気肺の改善には有効な治療法 であるとされているが,その方法の多くは体位変換や Positioning を中心とするものであり,胸壁圧迫等の用手的呼吸 介助手技単独での介入は有効なエビデンスとして報告されてい ない. 脳出血後に開頭血腫除去術・外減圧術が施行され急性期の体 位変換が制限された症例に対して,胸壁圧迫等の用手的呼吸介 助手技を施行することで急性無気肺に一定の治療効果が認めら れたので報告する. 【方法】 対象は 2010 年 4 月~2011 年 4 月の間に脳出血により当院に 入院され,開頭血腫除去術・外減圧術が施行された 8 症例のう ち呼吸理学療法が処方された 2 例とした.ともに体位変換に制 限があり体位ドレナージによる有効な排痰管理が困難であった ため,理学療法介入時は用手的呼吸介助手技のみを施行した. 症例 1:20 歳代男性.脳動静脈奇形,急性硬膜下血腫により 入院.左側頭部の開頭血腫除去術・外減圧術が施行され左側臥 位禁止の管理となった.3 病日目,右中下肺野に肺炎と広範な 無気肺が認められ,4病日より排痰目的の呼吸理学療法が処方 された.意識レベルは GCS で E1VTM4.経口挿管人工呼吸器 管理であった.胸部 X 線写真では右横隔膜・右 1 弓のシルエッ トサイン陽性であった.自発呼吸,咳嗽反射は良好であった. 血 液 ガ ス 分 析 は pH7.38 , PaO2 132mmHg , A-aDO2 59.8mmHg であった. 症例 2:60 歳代男性.右側頭後頭葉皮質下出血により入院. 右側頭部の開頭血腫除去術・外減圧術が施行され右側臥位禁止 の管理となった.3 病日目に左下肺野の広範な無気肺が認めら れ,長期間改善が得られなかったために 10 病日より排痰を目 的とした呼吸理学療法が処方された.意識レベルは GCS で G1VTM1.経口挿管高流量式酸素ネブライザー管理であった. 胸部 X 線写真では左横隔膜・左 4 弓・下行大動脈のシルエット サイン陽性,また CT 画像で縦隔の左側偏位を伴う広範な無気 肺が認められた.肥満体型で弛緩性の左片麻痺を認め胸郭の動 きは乏しく深呼吸やため息は見られなかった.咳嗽反射は認め られた.聴診上,左背側の呼吸音は完全に消失していた.動脈 血液ガス分析では pH7.46 ,PaO2 72.5mmHg ,A-aDO2 119.1mmHg であった. 尚,対象の家族には本研究の趣旨を説明し了承を得ている. また,胸部 X 線写真・動脈血液ガス分析については診療業務の 中で医師が行ったものである. 【結果】 症例 1:介入中は人工呼吸器モニター上の 1 回換気量の増大 と呼気相後半の呼気流速増大が認められ,分泌物の喀出を伴う 咳嗽反射が見られた.翌日の動脈血液ガス分析では pH 7.42, PaO2 164mmHg,A-aDO2 26.7mmHg と酸素化の改善を認め た.また 1 週間後の胸部 X 線写真において右横隔膜・右 1 弓の シルエットサインに改善が見られた.その後,意識レベルが改 善し歩行が獲得されるまでの期間に肺合併症の再発はなかった. 症例 2:介入中は分泌物の喀出が得られるような効果的な反 応は得られなかったが,用手的呼吸介助手技を施行している最 中は左背側の呼吸音が聴取できた.翌日の胸部 X 線写真で不鮮 明ではあるが左横隔膜のシルエットが確認できるようになった. CT 画像では無気肺が残存していたが縦隔の左側偏位は改善し ていた.また動脈血液ガス分析において pH 7.46,PaO2 108.4mmHg,A-aDO2 82.7mmHg と酸素化の改善が見られた. 介入 3 日目以降には分泌物の喀出を伴う効果的な咳嗽が確認で きるようになった. 【考察】 今回の報告は開頭血腫除去術・外減圧術により有効な体位変 換や Positioning が制限された 2 症例を対象に行なったもので あるが,画像所見,血液ガス分析所見での改善が確認された事 から体位変換を制限された環境においても用手的呼吸介助手技 の効果はある事が示唆された.宮川らの報告によると Squeezing は区域気管支より末梢の気管支からの痰の移動に有 効な手技であると述べており,山口らが行なった F-V 曲線から みた排痰手技の特徴についての報告でも Squeezing は末梢気道 の分泌物を移動させる事が可能であると述べている.症例 1 に おいても人工呼吸器のモニター上の変化やその後の反応などか ら同様の効果が得られていたと考えられた.また,健常者を対 象に行なった梅田らの報告によると,仰臥位の状態であっても 用手的呼吸介助手技により横隔膜の移動距離が増大する事が確 認されている.症例 2 においても用手的呼吸介助手技施行中の 呼吸音の変化や翌日の画像所見の改善から,これと同様の効果 が得られていたと推察された. 【まとめ】 本報告では体位変換に制限を強いられた症例を対象に用手的 呼吸介助手技の効果を検討した.体位変換や Positioning の管 理が制限された症例においては用手的呼吸介助手技単独の介入 であっても急性無気肺の改善に効果的であった事が示唆された.
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