はじめに - 奈良大学リポジトリ

襖 形 文 字 学 習 講 座
楽 しみ一 そ れ は ビー ル
い や な こ と一 そ れ は 遠 征
(あ る粘 土 版 よ り)
井
立目
巨
酒
は じめ に
わ が 奈 良 大 学 文 化 財 学 科 に も 、 メ ソ ポ タ ミ ア の 懊 形 文 字(Rev.A.H.Sayce1907『The
ArchaeologyoftheCuneiformInscriptionsAresPubulishersInc.,C.B.F.Walker1987
『Cuneiform‐ReadingthePast』BritishMuseum、
社 、 そ の 他)に
杉 勇1968年
関 心 を も っ 学 生 諸 君 を 散 見(2∼3人)す
『懊 形 文 字 入 門 』 中 央 公 論
る。 当 学 科 に と っ て は望 外 だ が 、
結 構 な こ と で あ る。 本 稿 の 目 的 は 、 そ の 独 習 の 指 針 と な る文 献 や 作 業 を 提 示 し、 諸 君 の 初 歩
的 な学 習 を促 進 させ る こ とに あ る。
ス ト リ ン ドベ リの 提 言
特 異 な る諸 君 に対 し、 事 前 に、 次 の言 葉 を謹 呈 す る義 務 が私 に はあ る。 理 由 は、 粘 土版 文
書 に直 面 した途 端 、 各 自 で実 感 す る だ ろ う。 ち な み に、 懊 形 文 字 は 「悪 魔 の記 号 」 との 噂 が
あ る。
「若 者 た ち よ 、 ア ッ シ リア 語 を 勉 強 し よ う な ど と は 、 決 し て 思 っ て は い け な い 。 ア ッ
シ リア 語 は 言 語 で は な い 。 た ち の 悪 い 冗 談 だ 。A.ス
(ジ ャ ン ・ボ ッ テ ロ/ジ
ョ セ ブ ・ス テ ー ヴ1994年
ト リ ン ドベ リ」
『メ ソ ポ タ ミア 文 明 』 高 野 優 訳
創 元 社)。
わが 文 化 財 学 科 で は、 この悪 魔 の記 号 を除 く、 あ らゆ る学 習 しや す い課 題 を諸 君 に推 薦 す
る のが 通 例 で あ る。 だが 、 ス ト リン ドベ リな ど の適 切 な提 言 を無 視 し、 懊 形 文 字 に敢 え て挑
戦 す る若 人 が い る な らば、 そ の勇 気 は讃 え られ る べ きで あ る。 夢 多 き諸 君 に、 女 神 イ ナ ンナ
の思 し召 しを!
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女 神 イ ナ ンナ を調 べ るに は
粘 十 版 文 書 な ど に は様 々 な神 が登 場 す る。 悪 魔 の記 号 の学 習 に は神 々 の救 済 が不 可 欠 で あ
り、 か っ て メ ソ ポ タ ミア を 統 治 し た 諸 王 に も神 々 の 加 護 が 必 要 で あ っ た 。 女 神 イ ナ ン ナ は 、
シ ュ メ ー ル の 「金 星 神 ・愛 と戦 闘 の 神 」(前 田 徹)で
あ る。 と こ ろで 、 当 時 の 神 様 を調 べ る
方 法 に は、 しか る べ き解 説 書 な ど を 参 照 す る方 法(簡
ど を 読 む 方 法(挑
戦 主 義)が
便 主 義)と
、 しか る べ き粘 土 版 文 書 な
あ る。
例 え ば 、MarthaAnnandDorothyMeyersImel『GoddessesintheWorld』(1993
0xfordUniversityPress)に
は 、 女 神 イ ナ ンナ を 含 め 、 世 界 の 神 々 が 紹 介 さ れ て い る 。 同
書 を 読 め ば 簡 単 に 女 神 イ ナ ン ナ の 概 要 は わ か る。 対 して 、 懊 形 文 字 資 料 を 苦 労 して 読 め ば 、
女 神 イ ナ ンナ は 、 当 初 、 「PrincelyInana」
(from)Kur」
・「MorningInana」
・「EveningInana」
・「lnana
な ど と呼 ば れ て い た 事 実 が 判 明 す る(KrystynaSzarzynska「Offeringfor
theGoddessInanainArchaicUruk」
『Revued'Assyriologie1』1993)。
両 主義 の い ず れ を
選 択 す るの も自 由 だが 、 苦 労 の字 は若 き学 徒 の た め に あ る と い うのが 学 問 上 の常 識 で あ る。
粘 土 版 に刻 ま れ た神 話 や文 学 作 品
粘 土 版 に 刻 ま れ た オ リ エ ン トの 神 話 や 文 学 な ど を 、 懊 形 文 字 の 学 習 を 実 践 す る前 に 読 み た
い諸 君 に は、 杉 勇 代 表 訳
『筑 摩 世 界 文 学 大 系1』(1978年
筑 摩 書 房)を
推 薦 し て お こ う。
同 書 に よ っ て 、 シ ュ メ ー ル ・ア ッ カ ド ・ウ ガ リ ッ ト ・ ヒ ッ タ イ ト ・古 代 ペ ル シ ャ語 な ど の 主
た る神 話 や 文 学 を 、 実 際 の 粘 土 版 文 書 と一 句 た り と も異 な る こ と な く、 諸 君 の な じ み 深 い 日
本 語 に よ っ て 読 む こ と が で き る 。、 も ち ろ ん 、 女 神 イ ナ ンナ の 素 性 も知 る こ と が 可 能 で あ る 。
冒 頭 で 紹 介 し た 「楽 し み 一 そ れ は ビ ー ル 。 い や な こ と 一 そ れ は 遠 征 」 を 記 し た シ ュ メ ー ル
の 粘 土 版 の 存 在 も、 同 書 が 紹 介 し て い る。 粘 土 版 文 書 に は 度 々 ビ ー ル も登 場 。 な れ ば 、 懊 形
文 字 学 習 の 前 途 も何 と な く魅 力 的 で は あ る。
懊形文字を使 う言語
い わ ゆ る 懊 形 文 字 を 使 う 言 語 は 、 シ ュ メ ー ル 語 ・ ア ッ カ ド語(古
期 ア ッ カ ド語 ・バ ビ ロ ニ
ア 語 ・ア ッ シ リ ア 語)・ エ ブ ラ語 ・ ヒ ッ タ イ ト語 ・パ ラ ー 語 ・ル ウ ィ語 ・ フ ル リ語 ・ハ テ ィ
語 ・ウ ラ ル ト ゥ語 ・エ ラ ム 語(太
古 エ ラ ム 語 ・ エ ラ ム 語)・ 古 代 ペ ル シ ャ 語 ・ ウ ガ リ ト語 な
どで あ る。
学 習 を 開 始 す る 時 点 で 、 各 自 は 希 望 に 応 じて 、 一 つ か 少 数 の 言 語 を 選 択 す る 必 要 が あ る 。
仮 に、 将 来 に は全 言 語 の 習 得 を 夢 見 る よ うな 楽 観 者 で あ って も、 当 初 は一 っ か 少 数 に限 定 す
る べ き で あ ろ う 。 本 稿 で は 、 そ れ らの 言 語 の う ち 、 諸 君 の 関 心 が 最 も高 い シ ュ メ ー ル語 と ア ッ
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カ ド語 を 主 に題 材 と して 解 説 して い く。
各言語の概要
学 習 対 象 の 選 択 に 際 して、 各言 語 の概 要 を 知 る必 要 が あ る。 つ いて は、亀井 孝 ・河野 六郎 ・
千 野 栄 一 監 修 に よ る 『言 語 学 辞 典1∼6巻
」(1988∼96三
省 堂)を 参 照 す れ ば よ い。 だ が
高 価 な 本 な の で 各 自で買 うの は無 理 。 な れ ば、 図書 館 に 行 くべ しで あ る。
幸 い に も、 わ が 奈良 大 学 図書 館 も保 持 して お り、 諸 君 の 閲 覧 を 心 待 ち に して い る。 や や 高
め の 学 費 は、有 益 な こ とに も使 わ れ て い る。 同書 は 、 地 球 上 の 各 地 ・各 時 代 の あ らゆ る言 語
を 、 アイ ウエ オ順 に網 羅 し、 言 語 系 統 ・分 布 ・解 読 史 ・基 礎 資料 ・変 遷 ・文字 ・音 韻 ・文法 ・
語 彙 ・辞 書 ・研 究 者 ・主 要 論 文 な ど を適 切 に解 説 して い る。 以 下 、 各 言 語 の 周 辺 を 簡 単 に紹
介 して お く。
シ ュ メー ル語
シ ュ メ ー ル 語 は 、 メ ソ ポ タ ミア 南 部 に 世 界 最 古 の 文 明 と 懊 形 文 字 を 創 出 し た シ ュ メ ー ル 人
の 言 語 で 、 そ の 系 統 は 不 明 で あ る 。 前3000年
頃 か ら紀 元 直 前 ま で の 刻 文 資 料 が あ る 。 前1900
年 頃 に は ア ッ カ ド語 に 主 要 言 語 の 座 を 譲 っ た と い う。
諸 君 は 、 『HistoryBiginsofSumer(歴
Hudson)と
い う ク レ ー マ ー の 有 名 な 言 葉 を ご存 知 だ ろ う か 。 シ ュ メ ー ル 語 の 解 読 に 生 涯 を
捧 げ たS.N.ク
波 書 店)は
史 は シ ュ メ ー ル に 始 ま る)」(1956Thamesand
レー マ ー の 自叙 伝
『シ ュ メ ー ル の 世 界 に 生 き て 』(久 我 行 子 訳1989年
岩
、 い か な る 襖 形 文 字 言 語 を 選 択 し て も、 最 初 の 必 読 の 書 で あ る 。 同 書 か ら、 一 人
の若 人 が ど の よ うに して シュ メ ー ル語 の世 界 的権 威 に な った の か 、 そ の 学 究 の 生 き様 を 大 い
に 学 び 取 る べ き で あ る 。1960年
に来 日 した ク レー マ ー氏 の 様 子 は、 加 藤 一 郎
授 の 印 象 」 『西 南 ア ジ ア 研 究8』(1961年)に
「ク レ ー マ ー 教
詳 しい。
と こ ろ で 、 日本 の シ ュ メ ー ル 語 研 究 は 世 界 水 準 に あ る と い う。 そ の 象 徴 が 、 本 格 的 な 論 文
集
『ActaSumerologica』(財
扱 っ て い る)で
団法人
中 近 東 文 化 セ ン タ ー)の
毎 年 の 刊 行(丸
善 で も取 り
あ る。 同書 を手 に した時 、 学 習 意 欲 が促 進 させ られ るか 、 は た ま た直 ち に挫
折 感 を 味 わ う か 。 そ れ は 、 諸 君 の 意 気 込 み の 程 度 で 左 右 さ れ る。
ア ッ カ ド語
ア ッ カ ド語 は 、 メ ソ ポ タ ミア ー 帯 で シ ュ メ ー ル 人 と共 存 した ア ッ カ ド人 の 言 語 で 、 東 セ ム
語 系 統 に 属 す る 。 体 系 的 に は 、 後 の シ ナ イ 系 の ア ル フ ァ ベ ッ ト文 字 を 使 う フ ェ ニ キ ア 語 ・ア
ラ ム 語 ・ヘ ブ ラ イ 語 な ど へ と 系 譜 す る 。 ア ッ カ ド語 の 表 記 に は 、 シ ュ メ ー ル 語 の 懊 形 文 字 が
そ の ま ま 借 用 さ れ た 。 従 っ て 、 ア ッ カ ド語 は シ ュ メ ー ル 語 と 言 語 系 統 は 異 な る が 、 両 方 の 学
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習 を 平 行 して 進 め る の が 当 然 と さ れ る(あ
く ま で の 話)。 上 記 の 論 文 集
『ActaSumerologica」
で も、 両 語 を 共 に 対 象 と し て い る 。
ア ッ カ ド語 は 、 サ ル ゴ ン王 の 時 代(前2334∼2279年)頃
か ら盛 衰 し な が ら、 前1900年
は 国 際 語 と し て 機 能 し始 あ た 。 時 代 的 に は 、 古 ア ッ カ ド語(前2500∼1900年
ロ ニ ア語(前1950∼600年
頃)と
ア ッ シ リ ア 語(前1950∼600年
頃)の
頃)と
頃に
後 のバ ビ
両 方 言 に 区 分 さ れ る。
シ ュ メ ー ル 語 と ア ッ カ ド語 の 社 会 背 景 な ど は、 例 え ば 、 ク リ ト フ ァ ー ・ウ ォ ー カ ー 『懊 形
文 字 』(大 城 光 正 訳1995年
1996年
学 芸 書 林)、 ジ ャ ン ・ ボ ッ テ ロ 『バ ビ ロ ニ ア 』(松
創 元 社)、 ジ ャ ン ・ボ ッ テ ロ/マ
島 文 夫 監 修1994年
リ=ジ
本健 監修
ョ ゼ フ ・ス テ ー ヴ 『メ ソ ポ タ ミア 文 明 』(矢
創 元 社)、 あ る い は 前 田 徹
『都 市 国 家 の 誕 生 』(1996年
山 川 出 版 社)
な ど が 、 ビ ジ ュ ァ ル か っ コ ンパ ク ト に 解 説 して い る。 な を 、 飯 島 紀 氏 が 、 シ ュ メ ー ル 語 に 関
して5冊
の 日 本 語 文 献(各
冊9000∼10000円)を
出 さ れ て い るが 、 本 書 で は あ ま り触 れ な い
で お く。
エ ブ ラ語
シ リア 北 部 の 古 代 都 市 エ ブ ラ(テ
ル ・マ ル デ ッ ク)で
、1975年
に イ タ リア 隊 が 驚 く べ き宮
殿 文 書 庫 を 発 見 し た 。 エ ブ ラ語 は 、 そ こ の 大 量 の 粘 土 版 文 書(前2500∼2400頃)に
記 され た
セ ム語 系 統 の 言 語 で あ る 。 『旧 約 聖 書 』 の 古 代 ヘ ブ ラ イ と の 関 係 を 認 め て 、 北 西 セ ム 語 系 統
中 の カ ナ ン語(古
代 ヘ ブ ラ イ 語)に
近 い と み る 見 解 も あ る。
そ の 発 見 と解 読 に っ い て は 、 マ イ ケ ル ・ ウ ァ イ ッ マ ン と ハ イ ム ・バ ー マ ン ト 『エ ブ ラ の 発
掘 』(矢 島 文 夫 監 訳1983年
山 本 書 店)を
参 照 す れ ば よ い 。1964年
に開始 され大発 見 に至
る 感 動 的 な 発 掘 物 語 も記 さ れ て い る。 同 時 に 、 調 査 団 長 パ オ ロ ・マ ッテ ィエ と 碑 文 研 究 者 ジ ョ
ヴ ァ ンニ ・ペ ッ テ ィ ナ ー ト と の 葛 藤 の 物 語 で も あ る。 別 に 、 そ の 文 書 の 概 要 を 紹 介 し た 、
AfifBahnassied.『EblaArchieves』(1993Tlass)も
参 照 さ れ た し。 あ ま り関 係 な い話 だ
が 、 エ ブ ラ遺 跡 は シ リ ア北 部 の 都 市 ア レ ッ ポ の 近 く に 所 在 す る が 、 ア レ ッ ポ 博 物 館 の す ぐ横
に は 、 ア ラ ビ ア の ロ レ ン ス で 有 名 な バ ロ ン ホ テ ル が あ る よ。
ヒ ッ タ イ ト語
小 ア ジ ア の ヒ ッ タ イ ト王 国 で 使 用 さ れ た 印 欧 ア ナ ト リ ア 語 系 統 の 言 語 で あ る 。 独 自 の 絵 文
字 と ア ッ カ ド語 の 懊 形 文 字 の 両 者 を 使 用 し た 。 関 して は 、 そ の 首 都 ・ハ ッ ト ゥ シ ャ(ボ ガ ズ ・
キ ョ イ)出
土 の 粘 土 版 文 書(前1500年
前 後)が
有 名 で あ る 。 前1200年
頃 まで 使 用 さ れ た ら し
いo
っ い て は 、 「ハ ッ テ ィ国 の 懊 と絵 一 懊 形 文 字 ヒ ッ タ イ ト語 の 解 読 、 ヒ ッ タ イ ト聖 刻 文 字 の
解 読 」 『失 わ れ た 文 字 の 解 読II』(矢
島 文 夫 ・佐 藤 牧 夫 訳1963年
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山 本 書 店)・ 高 津 春 繁 ・
関根正雄
「ヒ ッ タ イ ト文 書 の 解 読 」 『古 代 文 字 の 解 読 」(1964年
ラ ム 『狭 い 谷 、 黒 い 山 」 辻 理 訳1959年
語(ヒ
み す ず 書 房)の
ッ タ イ ト語 ・パ ラ ー 語 ・ル ウ ィ語)に
ア 諸 語 概 説 」(1990年
大 学 書 林)を
岩 波 書 店)・C・W・
ッ ェー
参 照 が 望 まれ る。 印 欧 ア ナ トリア
関 して は 、 大 城 光 正 ・吉 田 和 彦 『印 欧 ア ナ ト リ
参 照 さ れ た し。 最 近 の 新 聞 広 告 を 見 て い る と、 な ぜ か 、
や た ら に トル コ旅 行 の 宣 伝 が 目 に 付 く。
パ ラー語
・ル ウ ィ 語
・ハ ッ テ ィ 語
パ ラ ー 語 は 、 上 記 の ボ ガ ズ ・キ ョ イ 出 土 の 資 料(前1500年
前 後)に
記 され た 印 欧 ア ナ ト リ
ア 系 統 の 言 語 で あ る 。 ル ウ ィ語 は 、 同 じ く ボ ガ ズ ・ キ ョ イ 出 土 の ヒ ッ タ イ ト語 文 書 中(前
1500年 前 後)に
引 用 さ れ て い た 印 欧 ア ナ ト リア 語 系 統 の 言 語 で あ る 。 そ し て 、 ハ ッ テ ィ語 は 、
小 ア ジ ア の ヒ ッ タ イ ト王 国 の 先 住 者 ・ハ ッ テ ィ人 の 言 語 で 、 ボ ガ ズ ・キ ョ イ 出 土 の ヒ ッ タ イ
ト語 文 書 中 に 見 られ る 。 ヒ ッ タ イ ト王 国 が 繁 栄 し た 前14世 紀 頃 に は 既 に 死 語 だ っ た と い う。
小 ア ジ ア の 古 代 文 明 に 興 味 の あ る 諸 君 は 、 ヒ ッ タ イ ト語 に 加 え 、 可 能 な ら、 こ れ ら諸 言 語
も対 象 に す る 必 要 も あ ろ う 。 パ ラ ー 語 と ル ウ ィ語 に 関 して は 、 大 城 光 正 ・吉 田 和 彦
ナ ト リ ア 諸 語 概 説 』(1990年
大 学 書 林)を
『印 欧 ア
参 照 の こ と。
フ ル リ語 ・ ウ ラ ル ト ゥ 語
北 シ リ ア の ユ ー フ ラ テ ィ ス 河 上 流 で ミ タ ンニ 王 国 を 起 こ し た フ ル リ人 の 言 語 で 、 エ ジ プ ト
の エ ル ・ア マ ル ナ で 発 見 さ れ た 外 交 文 書(前1400年
頃)な
ど が 有 名 。 ウ ラ ル ト ゥ語 と の 関 係
が 深 い が 、 言 語 系 統 は 不 明 と さ れ る。 ま た 、 ウ ラ ル ト ゥ語 は 、 チ グ リ ス 河 上 流 の ヴ ァ ン湖 付
近 で 王 国(前700年
(財)中
前 後)を
建 て た ウ ラ ル ト ゥ人 の 言 語 で あ る 。 初 心 者 用 の 手 引 書 は 不 明 で 、
近 東 文 化 セ ンタ ー な どで 検 索 を願 い た い。
エ ラ ム語
イ ラ ン西南 部 の王 国 を建 て た エ ラム人 の言 語 で、 そ の系 統 は 不 明。 大 き くは、 原 エ ラ ム語
(前3000年
前 後)と
中 期 エ ラ ム 語(前1300年
前 後)に
区 分 で き る。 初 源 は ピ ク トグ ラ ム に よ
る原 エ ラ ム 語 で 、 シ ュ メ ー ル 語 の ピ ク ト グ ラ ム に 遅 れ て 出 現 し た ら し い 。 初 心 者 の 手 が か り
と な る 手 近 な 文 献 は 知 ら な い 。(財)中
近 東 文 化 セ ンタ ーな どで 各 自で 検 索 して い だ き た い。
エ ラム語 の研 究 者 は少 な いが 、 例 え ば川 瀬 豊 子 氏 が お られ る。
古 代 ペ ル シ ャ語
イ ラ ン の ア ケ メ ネ ス 朝 ペ ル シ ャ の 宮 廷 言 語 で 、 イ ン ド ・イ ラ ン系 統 に 属 す る。 同 王 朝 の 国
王 ・ ダ リウ ス1世(在
位 前522∼486年)の
命 令 で 文 字 が 創 作 さ れ た と い う。G.H.グ
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ロー テ
フ ェ ン トやH.ロ
ー リ ン ソ ンな ど の 努 力 に よ り 、 イ ラ ン南 西 部 に あ る ベ ヒ ス ト ゥ ン の ダ リ ウ
ス 王 の 三 ケ 国 語(エ
ラ ム 語 ・バ ビ ロ ニ ア 語 ・古 代 ペ ル シ ャ語)碑
文 中 、 先 ず 古 代 ペ ル シ ャ語
の 懊 形 文 字 の 解 読 が 実 現 し た 話 は 周 知 で あ る。
興 味 あ ふ れ る 解 読 史 は 、E.ド
ー ブ ル ホ ー フ ァ ー 「ア フ ラ マ ズ ダ が 余 を 援 助 せ り 一 古 代 ペ
ル シ ャ 文 字 の 解 読 」 『失 わ れ た 文 字 の 解 読1』(矢
島 文 夫 ・佐 藤 牧 夫 訳1963年
や 、 高 津 春 繁 ・関 根 正 雄 「懊 形 文 字 の 解 読 」 『古 代 文 字 の 解 読 』(前 出)を
山 本 書 店)
参 照 さ れ た し。
ウ ガ リ ト語
シ リ ア 北 部 の 地 中 海 沿 岸 に 位 置 す る 古 代 都 市 ・ウ ガ リ ト(ラ
粘 土 版(前1300年
前 後)に
ス ・ シ ャ ム ラ)か
ら出土 した
記 さ れ た 言 語 で あ る 。 懊 形 文 字 を 使 い っ っ も、 フ ェ ニ キ ュ ア 語 や
古 代 ヘ ブ ラ イ 語 と 似 て 、30(32)字
の ア ル フ ァ ベ ッ ト体 系 を と る。 実 際 に懊 形 文 字 の ア ル フ ァ
ベ ッ トー 覧 表 が 出 土 し た こ と で も有 名 で あ る 。
っ い て は 、 ド ブ ル ホ ー フ ァ ー 「白 い 港 のq香
の 解 読 」 『失 わ れ た 文 字 の 解 読II』(前
『古 代 文 字 の 解 読 』(前 出)、R.シ
岬 と紙 の 町 グ ブ ラー ウ ガ リ ッ ト語 と グ ブ ラ語
出)、 高 津 春 繁 ・関 根 正 雄
「ウ ガ リ ッ ト文 書 の 解 読 」
ル ヴ ァ バ ー グ 「ウ ガ リ ッ トー 懊 形 文 字 」 『埋 も れ た 古 代 文
明 』(三 浦 一・
郎 ・清 水 昭 次 訳1974年
法 政 大 学 出 版 会)を
参 照 さ れ た し。
諸 君 も 、 こ の 言 語 を 選 択 して 、 か つ て 世 界 征 服 を 夢 見 た で あ ろ う ウ ガ リ ッ ト人 が した よ う
に 、 白 い 港 の 薗 香 岬 に 立 っ て 、 あ の 大 地 中 海 の 光 輝 く銀 鱗 …
を望 も うで は な いか 。
各 語 の懊 形 文 字 一 覧
学 習 対 象 の 言 語 決 定 前 に 、 各 言 語 の 懊 形 文 字 一 覧(サ
イ ン リ ス ト)を 見 た い 諸 君 も い る だ
ろ う。 しか し な が ら、 各 言 語 す べ て の サ イ ン リ ス トを 一 冊 に 集 合 さ せ た よ う な 便 利 な 本 は な
い 。 各 自 で 候 補 と す る 言 語 の サ イ ン リ ス トを 発 見 して ほ し い 。 上 記 の 『言 語 学 辞 典1∼6巻
』
に は 各 語 の 解 説 は あ る が 、 全 言 語 の サ イ ン リ ス トは 掲 載 さ れ て は い な い 。
そ こで、 世 界 の文 字 研 究 会 編
『世 界 の 文 字 の 図 典 』(1993年)な
どを 参 照 して 、 手 が か り
を 掴 ん で い た だ こ う。 ち な み に 、 シ ュ メ ー ル 語 と ア ッ カ ド語 の 正 式 な サ イ ン リス トの 一 つ は 、
ReneRabat『Manueld'EpigraphieAkkadienne』(1988Geuthner)で
あ る 。 ヒ ッ タ イ ト語
の 主 な 文 字 は 『印 欧 ア ナ ト リア 諸 語 概 説 』 に 、 字 数 の 少 な い 古 代 ペ ル シ ャ語 と ウ ガ リ ト語 の
文 字 一 覧 は 『世 界 の 文 字 の 図 典 』 に も み ら れ る。
襖 形 文 字一 般 に 関 す る参 考書
懊 形 文 字 と 言 語 一 般 に 関 し、 次 の 文 献 な ど か ら も 各 種 情 報 を 入 手 す る こ と が 望 ま れ る 。
PeterT.DanielsandWilliamBrighyeds.1996『TheWorld'WritingSystems』
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Oxford
FlorianCoulmas1996EncyclopediaofWritingSystemsBlackwell
HansJensen1970Sign,SymbolandScriptsGeorgeAllen&Unwin
AndrewRobinson1995TheStoryofWritingsThamesandHudson
DavidDiringer1982TheBookbeforePrintingsDover
BeatriceAndreLeicknamandChristianeZiegler1998『Naissancedel'ecriture」
ReuniondesMuseesNationaux
カ ー ロ イ ・ フ ェ ル デ シ=パ
矢 島 文 夫 監 修1995年
ップ
『文 字 の 起 源 』 矢 島 文 夫
・佐 藤 牧 夫 訳1988年
岩 波 書 店
『文 字 と 人 間 』 平 凡 社
メ ソ ポ タ ミア 文 明 に 関 す る 基 本 図 書
様 々 な言 語 学 的 な情 報 に加 え て 、 そ の 文 化
遺 跡
・社 会
・政 治 ・宗 教
・神 話
・人 名 ・地 名
・神 名 ・
・都 市 国 家 な ど 、 様 々 な 文 化 的 情 報 の 収 集 も 不 可 欠 と な る 。 そ う し た 場 合 、 例 え ば 、
JackM.Sassonchiefed.『CivilizationsoftheAncientNearEast」(1995Charles
Scribner'sSons全4巻)やAmelieKuhrt『TheAncientNearEastc.3000-330BCI・
II』1997Routledge)が
基 本 文 献 と な る 。 前 者 の 言 語 美 術 編 た る 第IV巻
者 を 紹 介 し て お く。
aRecordKeepingBeforeWritings(pp.2097‐2106)DeniseSchmandt-Besserat
bfTheSumerianLanguage)(pp.2107‐2116)D.O.Edzard
c「SemiticLanguages」(pp.2117-2134)JohnHuehnergard
d「lndo-EuropeanLanguagesofAnatolia」(pp.2151-2159)H.CraigMelchert
eLess-UnderstoodLanguagesofAncientWesternAsian(pp.2161‐2179)GeneB.
Gragg
fArchivesandLibrariesintheAncientNearEast(pp.2197‐2209)J.A.Blackand
W.J.Tait
9「TheScribesandScholarsofAncientMesopotamia」(pp.2265-2278)Laurie
E.Pearce
hSumerianLiterature:AnOverviews(pp.2279‐2291)PiotrMichalowski
i「AkkadianLiterature:AnOverview」(pp.2293-2303)JeanBottero
j「AncientMesopotamianLexicography」(pp.2305-2314)MiguelCivil
kTheDeedsofAncientMesopotamianKings(pp.2353‐2366)MarioLiverani
lHittiteandHurrianLiteratures:AnOverviews(pp.2367-2377)AlfonsoArchi
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か ら、 主 な 論 文 と 著
aは 、 前8000∼3500年
の 「token(ト
ー ク ン)粘
土製 の 数 量 表 示 品 」 を と り あ げ 、 そ れ が
シ ュ メ ー ル 語 の ピ ク ト グ ラ フ と懊 形 文 字 の 出 現 に 果 し た 重 要 性 を 概 説 し た も の 。bは
文 字 を 創 出 した シ ュ メ ー ル 語 を 概 説 した も の 。cは
、懊形
、 シ ュ メ ー ル語 の懊 形 文 字 を借 用 した セ
ム 語 系 統 の ア ッ カ ド語 を 、 シ ナ イ 系 ア ル フ ァベ ッ ト文 字 を用 い る フ ェ ニ キ ュ ア語 ・ア ラ ム語 ・
ヘ ブ ラ イ 語 な ど 、 セ ム 諸 語 と 共 に 概 説 し た もの 。dは
、 ア ナ ト リ ア(小
ア ジ ア)に
おけるイ
ン ド ・ ヨ ー ロ ッパ 語 族 で か っ 懊 形 文 字 を 用 い た ヒ ッ タ イ ト語 ・パ ラ ー 語 ・ル ー ウ イ 語 を 概 説
し た も の 。eは
、 フ ー ゼ ス タ ン(イ
ラ ン)の
エ ラ ム 語 、 チ グ リ ス.L流 の フ ル リ語 、 ユ ー フ ラ
テ ェ ス 河 上 流 の ウ ラ ル ト ゥ語 、 小 ア ジ ア の ハ ッ テ ィ語 等 の 概 要 を 記 し た も の で あ る。
fは 、 「懊 形 文 書(粘
土 版)」 と そ れ が 保 管 さ れ て い た 「書 庫(文
あ げ 、 懊 形 文 字 世 界(メ
も の 。9は
ソ ポ タ ミア)と
ヒ エ ロ グ リ フ世 界(エ
書 館 ・図 書 館)」
ジ プ ト)と
を と り
の 実状 を概 説 した
、 懊 形 文 字 を 実 際 に 刻 み 込 ん だ 「書 記 」 を と り あ げ 、 そ の 実 状 を 概 説 し た も の 。
h・i・1は
、 そ れ ぞ れ シ ュ メ ー ル 語 ・ア ッ カ ド語 ・ ヒ ッ タ イ ト語 に よ る 文 書 内 容 を 「文 芸 」
と い う観 点 で 概 説 し た も の で あ る 。
jは 、 当 時 の 書 記 達 が 他 の 言 語 を 学 習 す る た め の 各 種
「辞 書 類 」 に ま っ わ る 実 状 を 概 説 し
た も の 。 実 際 に 、 異 言 語 間 の 橋 渡 し を す る 「文 字 集(サ
イ ン リ ス ト)」・「字 音 表(シ
リ ス ト)」 ・「同 意 語 集(シ
ォ キ ャ ビ ュ ラ リ ー リ ス ト)」 ・「単 語
集(ワ
ノ ニ ム リ ス ト)」・「語 彙 集(ヴ
ラバ リー
ー ド リ ス ト)」 等 の 存 在 に よ って 、 各 語 の 解 読 が 可 能 と な っ た 経 過 が あ る。 っ い て は 、
杉 勇1991年
(筑 摩 書 房)な
「懊 形 文 字 の 「字 音 表 」 と 「語 彙 」 『古 代 オ リ エ ン ト学 論 集
ど も参 照 さ れ た し。 そ し てkは
中 洋 の 歴 史 と文 化 』
、 メ ソ ポ タ ミア に お け る 「王 」 に 焦 点 を あ て
概 説 した も の で あ る。 懊 形 文 字 を 学 習 す る 場 合 、 そ こ に 度 々 登 場 す る 様 々 な 王 の 実 状 も理 解
して お く必 要 が あ る 。
初歩学習の道具類
学 習 対 象 の 言 語 が 決 定 す れ ば 、 い よ い よ当 該 言 語 の 懊 形 文 字(Cuneiform)の
習字 を開始
す る こと に な る。 襖 形 文 字 の 第 一 字 目を 覚 え て 、 学 習 の第 一 歩 を踏 み 出す ので あ る。 そ こで、
シ ュメ ー ル語 や ア ッカ ド語 を例 に しなが ら、 文 字 の筆 記 練 習(作 業1)・
練 習(作 業2)・
文字 帳 の作 成(作
業3)・ 単 語 帳 の作 成(作 業4)な
簡 単 な文 書 の 筆 写
ど を簡 単 に解 説 を して
お く。 当初 は、 本 格 的 な文 法 書 や 論 文 や 辞 書 は不 要 で あ る。
そ の代 わ りに、 ペ ンや鉛 筆 ・ノ ー トと カ ー ド ・油 粘 十 ・割 り箸 と、 サ イ ン リス トと簡 単 な
テ キ ス トを用 意 して い た だ きた い。 わが 文 化 財 学 科 は、 小 難 しい勉 強 を極 力 避 け て 、 「楽 し
い考 古 学 」 を 目指 して い る のが 特 徴 で あ る。
30
筆 記 練 習 ・筆 写 練 習
筆 記 練 習(作 業1)と
筆 写 練 習(作 業2)は
、 眼 前 の サ イ ン リス トや簡 単 な テ キ ス トを み
なが ら、 文 字 個 々 の習 字 と文 書 の 筆 写 を試 み る もので あ る。 当初 は、 単 語 や 文 章 の意 味 は不
明 で も、 と にか く文 字 の 筆 写 練 習 を 重 ね よ う。 順 序 は、 先 ず 作 業1(文
中 し、 次 第 に作 業2(文
字 個 々 の習 字)に 集
書 の 筆 写)に 重 点 を移 して い く。
両 作 業 と も、 鉛 筆 や ペ ンを使 って ノ ー トや カ ー ドな ど に文 字 や テ キ ス トを筆 記 ・筆 写 す る
練 習(A練
習(B練
習)と 、 自作 の 粘土 版 に 自作 クサ ビを使 って 実 際 に文 字 や テ キ ス トを刻 書 す る練
習)が あ る。 実 際 に は、 両 者 を 平 行 して 進 め る必 要 が あ る。 わ が 文 化 財 学 科 で は、
イベ ン ト的 な雰 囲気 の 強 いB練 習 も大 い に重 視 して い る。
白字 と黒 字
懊 形 文 字 を 筆 写 す る 場 合 に は 、 「白 字hollowsigns」
原 則 的 に は、 懊 の 輪 郭 を な ぞ っ て 書 く 白 字(白
と 「黒 字solidsigns」
抜 き 文 字)は
の 区 別 が あ る。
、 粘 土 版 に刻 まれ た文字 の場 合、
対 す る懊 を 塗 り っ ぶ し て 書 く黒 字 は 、 石 碑 な ど に 刻 ま れ た 文 字 の 場 合 で あ る。 従 っ て 、 論 文
な ど に 掲 載 さ れ て い る筆 写 テ キ ス トが 、 本 来 、 粘 土 版 に 刻 さ れ た 文 書 か 、 石 碑 な ど に 刻 さ れ
た 文 書 か を 、 一 見 し て 識 別 で き る よ う に な っ て い る。 例 え ば 、 有 名 な べ ヒ ス ト ゥ ンの 岩 壁 に
刻 ま れ た 古 代 ペ ル シ ャ語 に よ る ダ ウ リス 王 の 碑 文 は、 原 則 的 に は、 黒 字 で 筆 写 す る こ と に な
る。
テ キ ス トの 種 類
筆 記 ・筆 写 練 習 に は、 サ イ ン リス トや テ キ ス トが必 要 とな る。 テ キ ス トの種 類 に は、 粘 土
版 文 書 な ど の実 物(A種)・
実物 の 複 製 品(B種)・
専 門 家 が 筆 写 した文 献(D種)あ
実 物 の写 真(C種)・
粘土 版文 書 な どを
る。 各 自 の学 習 環 境 に よ って は、 粘 土 版 資 料 が皆 無 の場 合
もあ る。 わが 奈 良 大 学 は そ の実 例 で あ る。 初 心 者 は 当面 、 概 説 書 に 印刷 され た サ イ ン リス ト
や テ キ ス トで 十 分 と いえ る。
初 心 者 は、 サ イ ン リス トや テ キ ス トを眼 前 に して、 そ れ を丁 寧 に筆 記 ・筆 写 す る作 業 か ら
始 あ る。 粘 土 版 な ど の写 真 テ キ ス トは、 懊 形 文 字 個 々 の細 部 が不 鮮 明 な場 合 が多 く、 正 確 な
文 字 判 別 に は熟 練 を要 す る。 習 字 が 大 い に進 行 す れ ば、 鮮 明 な写 真 テ キ ス トを選 ん で筆 記 ・
筆 写 練 習 と な る。 そ して 、 いず れ 条 件 が 許 せ ば、 あ こが れ の粘 土 版 な ど実 物 資 料 を眼 前 に し
な が ら筆 写 練 習 に挑 戦 す れ ば よ い。
31
国内の粘土版文書
国 内 で は 、 京 都 大 学 ・広 島 大 学 ・東 京 大 学 ・国 立 民 族 学 博 物 館 ・大 阪 市 立 美 術 館 ・(財)
中 近 東 文 化 セ ン タ ー ・(財)オ
リ エ ン ト博 物 館 ・岡 山 市 立 オ リ エ ン ト美 術 館 ・天 理 大 学 ・そ
の 他 に 、 実 物 資 料 が 保 管 が さ れ て い る(吉
川守
「日 本 の 懊 形 文 字 資 料 に つ い て(1)」)。
以
下 に 、 そ の 紹 介 文 を い くっ か 掲 げ て お く。 そ れ 以 外 に も 多 数 の 実 物 資 料 が 国 内 に 保 管 さ れ て
い る が 、 各 自 、 対 象 言 語 に 応 じて 捜 査 を して い た だ く。 ち な み に 、 広 島 大 学 に は500個
以 上
の 粘 土 版 文 書 が 保 管 ・公 開 さ れ て い る 。
吉川守
「大 阪 市 立 美 術 館 陳 列 の シ ュ メ ー ル 語 銘 辞 に 就 い て 」 『古 代 文 化3-1」(1959年)、
吉 川 守 ・松 島 英 子
「東 京 大 学 東 洋 文 化 研 究 所 所 蔵 のBilingualLexicalTablet」
『オ リ エ ン ト
23-2』(1981年)、MamoruYoshikawa「AFaraTabletinaJapaneseCollection」
TohruGomi「TenCuneiformTextsfromsomeJapaneseCollections」[註
、
欠 落 して い
る年 号 や 文 献 名 は 、 私 が メ モ し忘 れ た 故]。
筆記練習の教本
筆 記 練 習 に 有 効 な 教 本 を 推 薦 す る。 例 え ば 、DanielC.Snell『AWorkbookofCuneiform
Signs』(1979Undena)で
あ る 。 初 心 者 に は 最 適 の 教 本 で あ る 。 私 が 知 る 限 り、 日 本 語 に よ
る 懊 形 文 字 の 練 習 教 本 は な い 。 同 書 は 、 ア ッ カ ド語 中 の 新 ア ッ シ リ ア語 で 使 用 頻 度 が 高 い 約
110の 襖 形 文 字 を 練 習 し、 体 得 す る こ と を 目 的 に 作 成 さ れ た 自 習 用 の 習 字 帳 で あ る 。
面 白 い こ と に 、 著 者 は 、 日 本 語 の 「か な 文 字 」 の 習 字 帳 か ら ヒ ン トを 得 て 懊 形 文 字 の 習 字
帳 の 作 成 す る こ と を 思 い っ い た 。 全 体 を8っ
の セ ク シ ョ ン に 分 け 、 各 セ ク シ ョ ン毎 で15の 文
字 を 徹 底 的 に 練 習 し、 完 全 に 覚 え 込 ん だ 後 に、 次 の セ ク シ ョ ン に 進 む よ う に 構 成 さ れ て い る。
他 言 語 の 場 合 も、 独 自 で 工 夫 して 習 字 を 実 施 す べ き で あ る。
襖 個 々 の筆 順
「懊 形 文 字 」 の名 称 が 示 す よ う に、 各 文 字 を 構 成 す る基 本 要 素 は、 三 角 形 の頭 部 と直 線 の
体 部 か らな る懊 形 の彫 り込 み(wedge懊)で
あ る。 そ の 多 様 な組 み 合 わ せ で 各 文 字 が な り
た っ。 シュ メ ー ル文 字 や 古 式 の ア ッカ ド文 字 は、 絵 文 字 的 な様 相 が 強 い の で、 懊 数(画 数)
も多 く、 複 雑 な形 状 を して い る。 時 代 が 新 し くな る と、 次 第 に懊 数 も少 な く、 水 平 の懊 ・斜
め の懊 ・垂 直 の懊 を基 本 とす る整 然 と した字 形 と な る。 上 記 の ス ネ ー ル に よ れ ば、 各 懊 の輪
郭 を、 筆 記 具 で ノ ー トな ど に書 写 す る場 合 の筆 順 は、 頭 の二 辺 か ら書 き始 め て、 次 い で頭 の
残 り一 辺 と直線 の体 部 へ と進 む と説 明 され て い る。
32
粘土版 と筆記道具
懊 形 文 字 を創 出 した シ ュ メ ー ル人 た ち は、 以 前 か ら絵 文 字 を粘 土 版 に書 き込 ん で い た。 前
2900年 頃 に な る と、 葦 の 茎 の 先 端 を 三 角 ・尖 ・線(細
記 道 具(stylUS「
い三 角)・ 丸 の形 に 削 って 、 各 種 の 筆
刻 み ペ ン」 と仮 称)を 作 り、 三 角 ペ ンは懊 の 頭 部 、 尖 ペ ンや 線 ペ ン は懊 の
直 線 部 や 線 、 そ して 丸 ペ ン は数 字 を 、 そ れ ぞ れ 打 ち込 む 時 に主 に使 用 した ら しい。 刻 み ペ ン
の実 物 は出 土 して いな い よ うだ が 、練 習 用 に は、 油 粘 土 で粘土 版 を、 また割 り箸 を適切 に削 っ
て 各 種 の 刻 み ペ ンを製 作 し、 そ れ ぞ れ 代 用 す れ ば よ い。 た だ し、 油 粘 土 の 取 り扱 い に は苦 慮
(永 ら く放 って お くと油 が 滲 み で て くる)す るが 、 割 り箸 は学 内 で も自 由 に調 達 で き る(新
品 は無 用 で あ る)。
文字帳の作成
習 字 の 進 行 に 応 じ て 、 各 自 の ノ ー ト ・ カ ー ドを 用 い て 文 字 帳 を 作 成 して い く必 要 が あ る。
と こ ろ で 、 各 語 に よ っ て 文 字 数 は 多 様 で あ る。 最 も 多 い の が 、 シ ュ メ ー ル 語 の 約2000。
は ウ ガ リ ッ ト語 の30(32)で
は約800、
あ る。 下 記 の 文 献 で は 、 シ ュ メ ー ル 語 は 約2000、
バ ビ ロ ニ ア ー ア ッ シ リ ア 語 は 約700、
て ウ ガ リ ッ ト語 は30(32)と
エ ラ ム 語 は約113、
最少
古 ア ッ カ ド語
古 ペ ル シ ャ語 は41、
そ し
紹 介 し て い る(FlorianCoulmas『EncyclopediaofWriting
Systems1996Blackwall)o
従 っ て 、 シ ュ メ ー ル 語 を 選 択 す れ ば 大 い に 手 間 が か か り、 ウ ガ リ ッ ト語 を 選 択 す れ ば 一 瞬
と い う実 状 と な る。 各 自 が 何 語 を 選 択 す る か で 苦 楽 の 差 が 生 じ る。 す べ て 神 の 思 し召 しの 差
で あ る。 更 に 、 シ ュ メ ー ル 語 や ア ッ カ ド語 の 字 形 は 、 時 代 に よ っ て 大 き く 変 化 す る。
シ ュ メ ー ル 語 と ア ッ カ ド語 の 文 字 辞 典
ウ ガ リ ッ ト語 や 古 代 ペ ル シ ャ語 に 比 べ 、 シ ュ メ ー ル 語 や ア ッ カ ド語 は字 数 が 極 あ て 多 い 。
上 記 の ス ネ ー ル に よ る 練 習 帳 は 、 冒 頭 で 、Rene.Labat『Manueld'EpigraphieAkkadienne』
(1995Geuthner)を
利 用 せ よ と の 指 示 が あ る。 同 書 は 「シ ュ メ ー ル ・ ア ッ カ ド文 字 辞 典 」
と も称 す べ き346頁 の 大 著 で 、 各 文 字 の 時 代 的 な 変 異 形 を 華 麗 な 「手 書 き 文 字 」 で 表 記 し て
い る。 懊 形 文 字 の 研 究 者 は か く あ る べ し、 と の 模 範 演 技 が 開 陳 さ れ て い る。
文 書 を正 確 に書 写 す る作 業 は、 土 器 研 究 者 が土 器 を実 測 す るの と同様 、 解 読 専 門家 の最 大
の 責 務 と な る 。 日 頃 か ら筆 写 能 力 を 養 う訓 練 が 不 可 欠 で あ る。 な を 、 サ イ ン リス トの順 番 は 、
水 平 方 向 の 懊 数 の 少 な い も の か ら多 い も の へ 、 次 に 斜 あ 方 向 の 懊 数 の 少 な い も の か ら 多 い も
の へ 、 そ し て 縦 方 向 の 懊 数 の 少 な い も の か ら多 い も の へ と、 そ れ ぞ れ 文 字 が 配 列 され て い る。
33
部首分類
約2000の
社)は
シ ュ メ ー ル 文 字 を 、 飯 島 紀(『 シ ュ メ ー ル 人 の 言 語 ・文 化 ・生 活 』1996年
他
泰流
、 漢 字 の 「部 首 」 と い う概 念 で 大 き く分 類 し、 検 索 を 合 理 的 に 行 う 方 法 を 提 示 して い
る 。 字 形 か ら、 「四 角 型 ・段 差 型 ・葦 型 ・筏 型 ・女 陰 型 ・長 靴 型 ・テ ン ト型 ・菱 型 ・壷 型 ・
袋 型 ・動 物 型 ・二 本 足 型 ・魚 鳥 型 ・簡 易 型 」 に 分 類 ・命 名 して い る。 初 心 者 に と っ て 、 こ の
分 類 法 は 極 め て 便 利 で あ る 。 も ち ろ ん 、 ア ッ カ ド語 に 使 用 さ れ る 文 字 に 対 して も適 応 可 能 で
あ る。
複 写 ・翻 字 ・転 写 と は
文 書 を ノ ー トな ど に 表 記 す る 場 合 、 い くっ か の 方 法 が あ る(ThomasA.Caldwell,S.J.
他
『AkkadianGrammar』1974MarquettUniversityPress)。
ン ド コ ピ ー)・ 翻 字(transliteration)・
す な わ ち 、 手 書 き 複 写(ハ
転 写(transcription)あ
tion)・ 単 語 訳(wordtranslation)と
る い は 規 格 化(normaliza
文 章 訳(literaltranslation)で
あ る。
ハ ン ドコ ピ ー は、 文 書 を 懊 形 文 字 の ま ま 手 書 き す る こ と。 別 に 、 コ ン ピ ュ ー タ ー で 懊 形 文
字 を 読 み と り 、 懊 形 文 字 で 表 記 す る実 例 は、HansJ.Nissen・PeterDamerow・RobertK.
Englund『ArchaicBookkeeping』(1993Chicago)に
紹 介 さ れ て い る。 懊 形 文 字 を ワ ー プ ロ ・
パ ソ コ ンで 打 ち 出 す 方 法 は 、 か な り 以 前 の こ と に な る が 、 小 林 義 尚 が 「ワ ー プ ロ に よ る シ ュ
メ ロ ・ア ッ カ ド懊 形 文 字 作 成 お よ び そ の 運 用 の 成 果 と 問 題 点 」 『オ リエ ン ト30-1』1987
年)で
紹 介 して い る。
翻 字 と は 、 懊 形 文 字 個 々 に 対 応 す る ア ル フ ァベ ッ ト(abc・
・)に 変 換 し表 記 す る こ と。
一 っ の 単 語 を 構 成 す る 文 字 群 は ハ イ フ ンで 結 ぶ(wa-ar-du-um)。
で な ければ空
間 を あ け る。 転 写 ・規 格 化 と は 、 一 つ の 単 語 を 構 成 す る 翻 字 群 を 、 発 音 に 沿 っ て 一 つ の 単 語
と し て 表 記(重
複 す る 文 字 を 整 理 し て 一 字 と す るwardum)す
ar-du-um→wardum)を
dum≒
る こ と。 こ れ(wa-
翻 字 群 の 単 語 化 で あ る 。 単 語 訳 は 各 単 語 の 訳(war
「召 使 い 」)、文 章 訳 は 単 語 群 全 体 を 文 章 と し た も の で あ る。
シ ュ メ ー ル語 の練 習 帳
練 習 帳 と し て 、John.L.Hayes『AManualofSumerianGrammarandTexts』(1990
Undena)が
あ る 。 同 書 は 、 一 週3回
ウ ル ナ ン ム(Ur-Namma)に
ス ト等 を 使 い な が ら 、 文 字
(transcription)・
の 授 業 で23回
分(1セ
メ ス タ ー)で
終 了 す る。 有 名 な
関 す る 、 ウ ル 第 皿 王 朝 時 代(前2100∼2004年)の
リ ス ト ・単 語 リ ス ト ・ 複 写 文
翻 訳(translation)を
・ 翻 字(transliteration)・
提 示 し、 そ れ ぞ れ 詳 細 な 解 説 が あ る 。
34
簡 単 な テ キ
転 写
初 心 者 は、 先 ず
「テ キ ス ト1」 を 習 字 し な が ら ノ ー トに 書 き写 し、 解 説 を読 み と りな が ら、
自 らの 文 字 カ ー ドや 単 語 帳 に 書 き 込 み 、 改 め て 次 の 「テ キ ス ト2」 ・「テ キ ス ト3」
と進 ん で
い く。 同 書 に は 、 シ ュ メ ー ル 語 自 体 の 言 語 学 的 な 概 要 や 歴 史 的 な 変 遷 等 も詳 細 に 紹 介 さ れ て
い る 。 な を 、 シ ュ メ ー ル 語 全 体 は 、 こ こ で は 、 「ArchaicTexts(3100BC)」
Sumerian(3100-2600BC)」
(2300-2000BC)」
・「ClassicalSumerian(2600-2300BC)」
・「Post-Sumerian(2000BC-100AD)」
・「Archaic
・「Neo-Sumerian
に区 分 さ れ て い る。
シ ュ メ ー ル語 の 文 法書
本 格 的 な 文 法 書 と し て 、Marie-LouiseThomsen『TheSumerianLanguage」(1984
AcademicPress)が
あ る。 「歴 史 と 文 法 構 造 入 門 」 の 副 題 を 付 け て 、 コ ペ ン ハ ー ゲ ン で 刊 行
さ れ た も の 。 内 容 は 極 め て 専 門 的 で あ る。 複 雑 な 動 詞 組 織 に 関 して は 、 日 本 語 で 解 説 さ れ て
も 、 初 心 者 に は 著 し く難 し い 。 ま た 、 テ キ ス ト は 懊 形 文 字 で な く、 翻 字 化 さ れ て い る 。 実 際
の シ ュ メ ー ル 文 字 を 検 索 す る は 、 上 記 のReneLabat「Manueld'EpigraphieAkkadienne」
を 携 帯 の こ と。
な を 、 シ ュ メ ー ル 語 の 文 字 を ロ ー マ 字 の ア ル フ ァ ベ ッ トで 翻 字 化 す る 場 合 、 直 立 字 体(読
み 方 が 決 定 し て い な い 場 合 は ロ ー マ ン大 文 字 ・読 み 方 が 決 定 して い る 場 合 は 小 文 字 体)を
ア ッ カ ド語 の 文 字 の 翻 字 化 は イ タ リ ッ ク小 文 字 体(斜
め 字 体)を
、
用 い る習 慣 が あ る。
シ ュ メ ー ル 語 と ア ッ カ ド語 の 関 係
本 来 は 、 シ ュ メ ー ル 語(言
え て 可 能 と い う(吉
1961・1962年)。
川守
語 系 統 不 明)の
解 読 は ア ッ カ ド語(セ
ム 語 系 統)の
「バ ビ ロ ニ ア 人 の シ ュ メ ー ル 語 研 究 に つ い て 一 そ の1・
解 読 を踏 ま
そ の2-」
初 心 者 に は雲 の 上 の 雲 の 上 の よ う な 話 で あ る 。 ア ッ カ ド語 を 使 う バ ビ ロ ニ
ア 人 達 は 、 「語 彙 表 」 や 「字 音 表 」 な ど を 作 っ て シ ュ メ ー ル 語 の 理 解 に 努 め た と い う 。 こ う
した 問題 に関 して は、 杉 勇
洋 の 歴 史 と文 化 』1991年)も
「懊 形 文 字 の 「字 音 表 」 と 「語 彙 」」 『古 代 オ リエ ン ト学 論 集
中
合 わ せ て 参 照 さ れ た し。
そ れ ら の 実 例 に 関 心 あ れ ば 、 例 え ば 、P.E.VanDerMeer『SyllabariesA,BandBwith
MiscellaneousLexicographicalTextsfromtheHerbertWeldCollections(19380xford
UniversityPress)で
も見 て い た だ こ う。 キ ッ シ ュ 出 土 の 諸 資 料 で あ る。
当時 の文 法 テ キ ス ト
初 心 者 な が ら、 シ ュ メ ー ル 語 文 法 を 、 当 時 の 原 書(粘
土 版 文 書)レ
ベ ルで内容 を所 望 さ
れ る 方 に は 、 解 読 史 の 初 期 のArnoPoebel『GrammaticalTests」(1914Universityof
Pennsylvania)を
一 見 す れ ば よ い 。 だ が 極 め て 難 し い 。 本 書 の 序 文 を 書 い たG.B.ゴ
35
ー ド
ン に よ れ ば 、A.ペ
ー ベ ル は 、1913∼14年
にか けて 、 ペ ンシ ルバ ニ ア大 学 に 保 管 さ れ て い る
粘 土 版 文 書 か ら専 ら文 法 に 関 す る文 書 を 書 写 す る作 業 に 従 事 し、 そ れ を 翻 訳 しっ っ 作 成 した
の が 同 書 と い う。 戦 争 が 原 因 で 未 完 成 と な っ た が 、 後 日 、 出 版 さ れ た 。 以 下 、 そ の 目 次 を 掲
げ て お く。 そ の 後 半 が 続 い て 刊 行 さ れ た 可 能 性 が あ る が 、 未 見 で あ る 。
1.TheNoun-GovernedComplexinSumerian
MorphologicalChange
TheSequencoftheModifyingElements
II.ThePersonalPronouninSumerian
TranscriptionsandTranslations
TheFormsofthePersonalPronoun
AnalysisofthePersonalPronouns
III.TheSumerianVerb
TranscriptionsandTranslations
ParadigmsofSumerian
VerbalForms
AnalysisoftheSumerianVerbalSystem
数 量 表記 体 系 の学i
本 格 的 な 懊 形 文 字 が 、 そ も そ も トー ク ン(粘
土 製 の 数 量 表 記 物)に
記 され た ピク トグ ラ ム
的 な 数 字 や 粘 ⊥ 版 に 記 さ れ た 物 品 の 簡 単 な 簿 記 か ら生 成 ・発 展 ・確 立 した と い う 歴 史 的 事 情
か ら、 シ ュ メ ー ル 語 や ア ッ カ ド語 文 書 の 数 量 表 記 体 系 を 学 習 す る 必 要 が あ る 。 い わ ゆ る 算 数
の 学 習 で あ る。 初 期 の トー ク ン に 関 し て は 、 例 え ば 、 「EarlyTokensandTabletsinMesop
otamia:NewInformationfromTellAbadaandTel!Brak」
(1986)な
『WorldArchaeology17-3』
ど を参 照 の こと。
数 量 表 記 体 系 に 関 して は 、HansJ.Nissen・PeterDamerow・RobertK.Englund『ArchaicBookkeeping』(1993Chicago)が
基 本 文 献 と な る。 同 書 は、 ウ ル クか ら 出土 した 前
3000年 以 来 の 各 種 の 簿 記 文 書 の 解 読 を 通 して 、 各 数 字 と 基 本 的 に は60進 法 の 数 量 表 記 体 系 を
詳 細 か っ ビジ ュ ア ル に説 明 。 巻 末 に は、 コ ンピ ュー タ ーを 用 い た懊 形 文 字 の書 取 りシ ス テ ム
の 実 例 を 紹 介 して い る 。 分 銅 重 量 に 関 して は 、 岩 田 重 雄 「古 代 メ ソ ポ タ ミア に お け る 質 量 標
準 の 変 化 」 『オ リエ ン ト25-1』(1982年)で
解 説 され て い る。
36
簿記文書の学習
上 記 の 文 献 を 参 考 に して 、 例 え ば 、MarcelSigrist『01dBabylonianAccountTextsin
theHornArchaeologyMuseum』(1990AndrewsUniversity)の
よ うな簡 単 な 簿 記 文 書 を
用 い て 解 読 練 習 す る こ と も可 能 で あ る。 同 書 は 、 ア ン ド リ ュ ー ス 大 学 の ホ ー ン考 古 学 博 物 館
が 保 管 す る102個 の 古 代 バ ビ ロ ニ ア 語 の 簿 記 文 書 を 、M.シ
グ リ ス トが 翻 字 と 英 訳 を か か げ た
も の 。 初 心 者 は 、 本 格 的 な 文 書 で な く、 先 ず 物 品 を 示 す 単 語 と 数 字 に よ る 簡 単 な 文 書 の 解 読
練 習 を 積 み 重 ね て 、 習 字 ・文 字 帳 ・単 語 帳 を 充 実 さ せ て い く こ と が 望 ま しい 。
懊形文字の算数
文 化 財 学 科 は 文 学 部 に 所 属 して い る 。 こ こ に 所 属 す る 私 は 、 懊 形 文 字 に も算 数 に も決 定 的
に 弱 い 。 だ が 、 仮 に 諸 君 が 懊 形 文 字 に も算 数 に も挑 戦 し よ う と す る 勇 者 な ら ば 、 例 え ば 、 こ
こ に 紹 介 す る 粘 土 版 と そ の 報 告 書 を 学 習 す べ き で あ る 。 す な わ ち 、E.M.BruinsandM.
Rutten『TextesMathematiquesdeSuse」(1961LibrairieOrientalistePaulGeuthner)
で あ る。
懊 形 文 字 を 使 っ て 、 足 し算 ・引 き算 ・か け 算 ・わ り 算 ・面 積 計 算 な ど が で き れ ば 、 何 と 幸
せ で は な い か 。 も ち ろ ん 、 友 達 に も特 異 な る技 を 自慢 で き よ う 。 そ れ らを 組 み 合 わ せ た 複 雑
な 計 算 も、 当 時 の 彼 ら は 実 施 し て い た 。 こ こ に 紹 介 さ れ た 文 献 を 学 習 す る こ と に よ っ て 、 ま
す ま す 懊 形 文 字 と算 数 に 磨 き を か け て い た だ き た い も の だ 。
ア ッ カ ド語 の ハ ン ド ブ ッ ク
ア ッ カ ド語 の ハ ン ド ブ ッ ク と し て 、 例 え ば 、DouglasB.MillerandR.MarkShipp『An
AkkadianHandbook」(1996MillerandShipp)が
あ る。 内 容 は 、 基 本 的 な 文 法 に 加 え て 、
598以 上 の 基 本 的 な 文 字 リス ト と そ の 読 み 方 一 覧 、650以
含 む)な
上 の 基 本 単 語 集(地
名 や人 名 な ど を
ど を 掲 載 し、 初 心 者 必 携 の 文 献 と して 推 薦 で き る 。 な を 、 本 書 の 文 字 リ ス トに は い
わ ゆ る 新 ア ッ シ リ ア(前1000∼600年)の
文 字 で 、 簡 略 化 が 進 行 して い る。 初 心 者 は 、 古 式
の 複 雑 な 文 字 よ り 、 簡 略 化 が 進 ん だ 文 字 の 方 が 覚 え や す い 。 シ ュ メ ー ル 語 の 文 字 を 借 用 した
当 初 か らの 、 各 時 代 の 文 字 形 は、 先 述 のRene.Labat『Manueld'EpigraphieAkkadienne』
(1995)を
参 照 す れ ば よ い。
ア ッ カ ド語 の 練 習 帳
ア ッ カ ド語 の 学 習 を 進 め る 上 で 指 針 と な る 、 初 心 者 用 の 練 習 帳 を 紹 介 す る 。 例 え ば 、
DavidMarcus『AManualofAkkadian』(1978UniversityPressofAmerica)で
37
あ る。
同書 は、 事 前 に ア ッカ ド語 の概 要 と基 本 的 な文 法 な どを紹 介 した上 で、 有 名 な 「ハ ム ラ ビ法
典 」・「イ シ ュ タル の冥 界 下 り」・「セ ンナ ケ リブの 年 代 記」 か ら抜 粋 した 懊形 文字 テキ ス トを、
19回 に分 け て詳 細 に解 説 した もの で あ る。
この練 習 帳 を利 用 す る場 合 、 先 ず各 自、 冒 頭 の 懊 形 文 字 テキ ス トを 繰 り返 して 筆 写 練 習 す
れ ば効 果 的 で あ る。 懊 形 文 字 文 を テ キ ス トと した練 習 帳 や 教科 書 は意 外 に少 な い(翻 字 テキ
ス トが 多 い)。 各 単 語 個 々 に対 し、 文 法 的 に も詳 細 に解 説 が 加 え られ て お り、 ノ ー トを 取 り
な が ら 「文 字 帳 」 や 「単 語 帳 」 を次 第 に充 実 させ て い け る。 懊 形 文 ・翻 字 文 ・単 語 化 文 ・翻
訳 文 の 四種 が掲 げ られ て い る こ と も、 学 習 に は便利 で あ る。
ア ッシ リア語 の古 典 的 な練 習 帳
一 冊 の 興 味 あ る練 習 帳 を 推 薦 して お く
。J.D.PrinceandE.A.W.Budge『Assyrian
PrimerandAssirianTexs』(1909・1880AreaPublishers)で
あ る 。 同 書 は 、 今 か ら100年
前 後 前 の 出 版 物 の 復 刻 版 で 、 実 際 に は 二 冊 の 本 が 合 冊 さ れ て い る。 こ の 練 習 帳 を 使 っ て 、 百
年 前 に 立 ち 戻 っ て 懊 形 文 字 の 学 習 を 楽 し ん で い た だ こ う。
一 冊 目 の 『ア ッ シ リア 語 入 門 一懊 形 文 字 学 習 の 帰 納 法 的 方 法 」 は
、 題 目 が 明 示 す る よ う に、
懊 形 文 字 の 読 み 書 き練 習 を 目 的 と し た も の 。 初 期 の 入 門 書 だ け に 、 い か に も 丁 寧 に 解 説 が さ
れ て い る。 前 半 は、 音 価 の 単 純 な 文 字 に よ る単 語 を 、 後 半 は 音 価 の 特 定 が や や 難 し い 文 字 に
よ る 単 語 を 学 習 す る よ う工 夫 さ れ て い る。 い ず れ に して も 、 基 本 的 な 単 語 の 学 習 に は 極 め て
有 効 で あ る。 な お 、 ア ッ シ リ ア語 は セ ム語 系 統 の 言 語 で あ り、 巻 末 の 単 語 集 は ヘ ブ ラ イ 文 字
に 翻 字 して 表 記 さ れ て い る。
二 冊 目 は懊 形 文 字 文 書 集 で 、 掲 載 さ れ た 文 書 抜 粋 の 英 文 題 目 は 次 の と お り で あ る 。 「ArabianWarofAssur-bani-pall,AnnalsofSennacheribmissionofGyges,KingofLydia,
toAssur-bani-pal」
、 「Sennacherib'sExpeditiontothePersianGulf」
、 「Expeditionof
ShalmaneserII.againstHazael,KingoftheHittites,(FirstEgyptianWarofAssurbani-pal」 。 巻 末 に 各 文 書 の 単 語 解 説 が あ る 。
ア ッ カ ド語 の 文 法 書
練 習 帳 を 用 い た 初 歩 的 な 学 習 が 進 行 す る と、 基 本 的 な 文 法 を 学 習 した い と い う 諸 君 が 現 れ
る だ ろ う。 な れ ば 、 『AnAkkadianGrammar』(1990MarquettteUniversityPress)が
薦 で き る(Riemschneider『LehrbuchdesAkkadischen』
の 英 訳 版)。
の 基 本 的 な 文 法 が 概 説 さ れ 、 そ れ を 踏 ま え て 、27レ
推
最 初 に 、 ア ッ カ ド語
ッ ス ン に 分 け て 解 説 が あ る。 す べ て 翻 字
文 で あ る。 情 熱 あ る諸 君 は挑 戦 さ れ る が よ か ろ う。
各 レ ッ ス ン毎 に、 学 習 す べ き 文 法 の 主 題 が あ る。 そ れ ぞ れ 詳 細 な 解 説 が な さ れ 、 最 後 に 長
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文 の テ キ ス トと単 語 集 が 示 され る。 例 え ば 、 「名 詞 の複 数 形 」 が主 題 とな る 「レ ッ ス ン3」
で は、 「男 性 名 詞 の複 数 形 」・「女 性 名 詞 の複 数 形 」・ ・「動 詞 に お け る複 数 形 」・ ・「所 有 格 接
頭Ya,my」
な ど ど、 実例 とな る単 語 を例 示 しな が ら、 複 数 に関 す る様 々 な解 説 が 進 め
られ る。 だ が 、 内 容 はあ くまで 本格 的 な 文 法書 で あ り、 全 レ ッス ンの 学 習 を 貫 徹 す る に は根
性 が 不 可 欠 とな る。 決 意 す れ ば 頁 を 開 き、 挫 折 を す れ ば 閉 じ、 再 び気 を 取 り直 して 頁 を 開 く
と い う、 気 楽 な 戦 法 で結 構 で あ る。
ウ ガ リ ト語 の 文 法書
話 題 を 変 え よ う。 と こ ろ で 、 『旧 約 聖 書 』 の 好 き な 諸 君 も い る だ ろ う。 同 書 は 古 代 ヘ ブ ラ
イ語(一
部 は ア ラ ム語)で
書 か れ て い るが、 最 も関係 深 い懊 形 文字 言 語 とな れ ば、 ウ ガ リ ト
語 で あ る。 シ ュ メ ー ル 語 の 約2000字
ウ ガ リ ッ ト語 は30字(32字)で
を 筆 頭 に 、 各 言 語 と も諸 君 が 覚 え る べ き 文 字 数 が 多 い が 、
あ る。 多 数 の 文 字 を 覚 え た くな い 、 覚 え ら れ な い 、 あ る い は
覚 え る気 が な い よ う な 諸 君 に は 、 こ の ウ ガ リ ッ ト語 を 推 薦 す る。
初 心 者 に は 、 文 法 書 が 一 冊 、 す な わ ちStanislavSegret『ABasicGrammarofthe
UgariticLanguage』(1984UniversityofCaliforniaPress)が
あれ ば、 当 分 は楽 しめ る。
内 容 の 大 半 は 、 ウ ガ リ ッ ト語 の 基 本 文 法 の き め 細 か な 解 説 だ が 、 後 半 は、 青 銅 製 斧 に 刻 さ れ
て い た 単 語2語
の 解 読 練 習 か ら始 ま り、 次 第 に 長 文 の 解 読 練 習 へ と進 行 す る よ う に な っ て い
る。 巻 末 に は 、 諸 テ キ ス トの 単 語 集 が 付 く。 従 っ て 、 前 半 の 文 法 解 説 お よ び 後 半 の 諸 テ キ ス
ト と単 語 集 を 用 い て 、 各 自 で ウ ガ リ ッ ト語 の 独 習 が 可 能 で あ る。 な を 、 ウ ガ リ ッ ト語 の 学 習
に は 、 ヘ ブ ラ イ 語 の 学 習 が 有 効 で あ る こ と を 申 し添 え て お く。
マ リ文 書
私 事 で 恐 縮 だ が 、 私 の 末 娘 の 名 前 は 「麻 里 」 と い う。 先 日、 奈 良 大 学 の 泉 拓 良 教 授 や 西 山
要 一 教 授 ら と共 に ル ー ブ ル 美 術 館 に 行 っ た 妻 が 、 偶 然 に も、 『MARIAnnalesdeRecherches
Interdisciplinaires」(1997MinisteredesAffairesEtranges)と
い う800ペ ー ジ 余 の 大 著 を
土 産 に 買 っ て き て く れ た の に は 驚 い た 。 そ こ に は 、 有 名 な マ リ遺 跡 出 土 の 粘 土 板 の 最 新 の 解
読 成 果 が報 告 され て い た。 そ れ だ け の話 で あ る。
お わ りに
突 然 だ が、 こ こで 「懊 形 文 字 学 習 講 座 」 を終 了 す る。 襖 形 文 字 に 強 い 関心 を もっ特 異 な る
諸 君 が、 本 書 で紹 介 した文 献 や作 業 な ど を参 考 に、 そ の学 習 を決 心 ・開始 して くれ れ ば幸 い
で あ る。
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【謝 辞 】
懊 形 文 字 に全 くの門 外 漢 の私 は、 学 生1名
と共 に、1997年12月19・20日
に京 大 会 館 で 開 か
れ た、 「シ ュ ー メ ル研 究 会 」 に参 加 す る とい う貴 重 な 初 体 験 を させ て い た だ き ま した。 っ き
ま して は、 私 達 の厚 か ま しい お願 い を受 け入 れ て下 さ った小 野 山節 先 生 ・前 川 和 也 先 生 ・前
田 徹 先 生 を 初 め、 主 催 あ るい は参 加 の諸 先 生 方 に は、 心 か ら感 謝 の意 を表 しま す。 あ りが と
う ご ざ い ま した。 ま た 同会 で は、 既 に懊 形 文 字 の研 究 に遭 進 され て い る2名 の溌 刺 た る若 人
の姿 も実 見 す る こ とが で き ま した。 前 途 洋 々 の彼 ・彼 女 に も、 同 席 させ て い た だ い た御 礼 と
共 に、 将 来 にお け る御研 究 の 発 展 を心 か らお祈 りい た し ます。
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