サミットの政治経済学

サミットの政治経済学
大阪市立大学 経済学研究科
熊倉正修
2008年5月10日
本日の講座の内容
1. G7/8サミットの概要
2. G7/8サミットの歴史とその背景
3. サミット関連会議
4. サミットの意義・成果・問題点
5. グローバル・ガバナンスとG7/8サミット
6. 日本にとってのG7/8サミット
1
G7/8サミットとは?
z
「サミット(summit)」=「山の頂上」=「各国のトップ」
z
「G7/8」=「Group of 7 or 8 major countries」
z
「G7/8サミット」=「主要国首脳会議」
z
1975年に開始、以後毎年開催
z
米・英・独・仏・伊・日・加(1976-)・露(1997/2002-)
z
「国際会議」であって「国際機関」ではないが、グローバ
ル・ガバナンスのための重要な「institutions」の一つ
z
日本にとっては創設時から参加している主要な国際会
議の一つ
サミットの光景(第33回、於独)
(資料) 独G8サミット2007ホームページ (http://www.g-8.de/Webs/G8/EN/Homepage/home.html)
2
サミットの光景(第33回、於独)
(資料) 独G8サミット2007ホームページ (http://www.g-8.de/Webs/G8/EN/Homepage/home.html)
サミット主催国の広報活動
(北海道洞爺湖サミット
ホームページ)
3
サミット後の
メディア報道
日本経済新聞
(2007年6月7日朝刊、1面)
サミットの議題 (洞爺湖サミット、予定)
環境
地球温暖化
開発・
アフリカ
ミレニアム開発目標達成に向けた取り組み強化
第4回アフリカ開発会議
持続的成長
経済
投資・貿易・知的財産権
資源問題
政治
核不拡散体制強化
テロ・地域情勢
(資料) 北海道洞爺湖サミットホームページ。
4
サミットのスケジュールの例(第33回、於独)
6月6日
18:00
19:10
到着
レセプション・夕食
6月7日
9:30
10:00
12:00
12:15
13:15
14:30
16:00
19:30
21:30
開会
全体会議 (マクロ経済動向)
家族写真
若者代表 (J8) との意見交換
昼食兼全体会議 (外交)
二国間会談
全体会議 (環境・エネルギー)
夕食兼全体会議 (貿易)
二国間会談
6月8日
9:00
10:45
13:00
15:00
全体会議 (アフリカ諸国・国連代表と意見交換)
全体会議 (Outreach 5と意見交換)
全体会議 (国際機関代表と意見交換)
記者会見
(資料) 独政府G8サミット2007ホームページ。
サミット創設の背景
問題・環境変化
対策・目標
1
国民経済の相互依存関係の深ま
経済外交と内政の調和
りによる国際的問題の頻出
2
米国の覇権のかげり
民主・資本主義陣営代表国の
リーダーシップと協調体制の確立
※ 直接的にはジスカールデスタン(仏)とシュミット(西独)のイニシアティ
ブ。1970年代初頭の国際通貨交渉時の「ライブラリー・グループ」がモデ
ルになったと言われている。
※ 18世紀から第一次大戦期にかけてのConcert of Europeや1933年の
ロンドン会議がヒントになったとの見方もあり。米キッシンジャー前国務長
官も同様の外交チャンネルの必要性を主張していた。
5
これまでのサミットの開催地と主催国
回
開催年
主催国
開催地
回
開催年
主催国
開催地
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
1975
1976
1977
1978
1979
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
France
USA
UK
Germany
Japan
Italy
Canada
France
USA
UK
Germany
Japan
Italy
Canada
France
USA
UK
Rambouillet
San Juan
London
Bonn
Tokyo
Venice
Ottawa
Versailles
Williamsburg
London
Bonn
Tokyo
Venice
Toronto
Paris
Houston
London
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
Germany
Japan
Italy
Canada
France
USA
UK
Germany
Japan
Italy
Canada
France
USA
UK
Russia
Germany
Japan
Munich
Tokyo
Naples
Halifax
Lyon
Denver
Birmingham
Cologne
Okinawa
Genoa
Kananaskis
Evian
Sea Island
Gleneagles
St. Petersburg
Heiligendamm
Hokkaido
「サミット・システム」: さまざまなサミット関連会議
会議名
開始年 開催方法
サミット開催まで年3-5回。日本のシェルパは
外務審議官。
シェルパ会議
蔵相会議
1975
G5として1973年から。1986年より別途蔵相・
中央銀行総裁会議(年数回)。
外相会議
1975
1984年から国連総会開会に合わせて別途会
議。
エネルギー担当相会議
1979 2000年代に入って頻繁に開催。
四極通商会議
1984 首脳会議とは別に年数回(日・米・加・EU)。
環境担当相会議
1992 1994年から定例化。
雇用担当相会議
1994 1996年からほぼ毎年。
テロ対策担当相会議
1995 ほぼ毎年。
開発担当相会議
2002 ほぼ毎年。
6
「サミット・システム」: 関連会議開催数の推移
20
15
10
5
0
1976
1981
1986
1991
1996
2001
(注) 前後3年間の移動平均値。G7/8の名で文書が発表された会合のみを集計。 (資料) G8 Information Centre
2008年のサミット関連会議
(資料) 北海道洞爺湖サミットホームページ (http://www.g8summit.go.jp/info/map.html)
7
国際政治経済環境の変化とG7/8サミット [1]
第Ⅰサイクル
第Ⅱサイクル
1975 1976 1977 1978 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989
1970年代後半
経済的混乱収拾
ブレトンウッズ体制の崩壊
第一次石油ショック
1980年代前半
新保守主義
1980年代後半
新デタントと経済回帰
ソ連のアフガニスタン侵攻
第二次石油ショック
サッチャー・レーガン・中曽根
などタカ派政治家の台頭
日米独機関車論
四極通商相会議開始
カナダ参加開始
会談初日を政治問題に充当
EC代表参加開始
東京R妥結へのイニシアティブ
新デタント
ゴルバチョフ大統領就任
天安門
プラザ合意
事件
モントリオール議定書
蔵相・中銀総裁会議開始
多角的経済監視
環境問題への
取り組み開始
国際政治経済環境の変化とG7/8サミット [2]
第Ⅲサイクル
第Ⅳサイクル
第Ⅴサイクル
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006
1990年代前半
冷戦後の世界の模索
1990年代後半
グローバル化の認識の広がり
2000年代後半
2000年代前半
問題の多様化・国際パワーの分散化
冷戦終結・民族主義紛争頻発化
ソ連解体
ボスニア紛争
国連環境開発会議
グローバルパートナーシップ
金融通貨危機
核保有国拡散
コソボ危機
テロ頻発化 国連環境開発特別総会
国連発足50年 京都議定書
9/11
米国のユニラテラリズム
ロンドンでテロ
ロシア支援
HIPCイニシアティブ ロシア政治議論に参加開始
ロシア正式メンバー化
他の国々・機関との関係強化
最貧国
ウルグアイR妥結へのイニアティブ コソボ和平イニシアティブ
中国を招聘 債務削減
テロ・麻薬・金融
金融危機対策
民間抗議集会が暴徒化
犯罪への取り組み
外相・蔵相会議の分離開催
国際機関改革
8
サミットのコミットメントとコンプライアンス
250
100
200
50
150
0
100
コミットメント (左軸)
コンプライアンス (右軸)
-50
50
0
-100
1975
1980
1985
1990
1995
2000
2005
(注) コミットメントは実数。コンプライアンスは-100から100の間に分布する評点。(資料) Kirton (2007)
G7/8サミットと国際機関・会議の関係
OECD
BIS
IMF
国連
世界銀行
G7/8
WEF(+)
FSF(*)
G20
WTO
(*) Financial Stability Forum; (+) World Economic Forum (ダボス会議)
9
グローバル・ガバナンスの主体
各国政府・
政府関係者の
ネットワーク
国際機関
市民団体
多国籍
企業
マスコミ
専門家の
ネットワーク
世界経済に占める主要国のシェアの変化 (%)
0
5
10
15
20
25
アメリカ
日本
ドイツ
ロシア
フランス
イタリア
イギリス
ブラジル
メキシコ
スペイン
インド
カナダ
1980年
2007年
中国
25
20
15
10
5
0
(注) 購買力平価による実質GDPベース。(資料) 世界銀行。
10
近年のサミット招待国・機関
他の国々の元首
他国グループ代表 国際機関の代表
2004
中東6カ国
アフリカ6カ国
2005
Outreach 5
アフリカ6カ国
AU
IEA, IMF, UN, World Bank,
WTO
2006
Outreach 5
AU, CIS
UN, IAEA, IEA, WTO,
UNESCO, WHO, World Bank
2007
Outreach 5
アフリカ7カ国
AU
UN, IMF, World Bank, OECD,
IEA, WTO
※ 1977年よりEC(EU)代表はメンバー扱い。Outreach 5 = Brazil, China, India,
Mexico, South Africa
サミット首脳会談参加者の連続性
1975
1980
1985
1990
1995
2000
2005
人数
フランス
4
ドイツ
4
イタリア
日本
13
中曽根
小泉
15
英国
5
米国
6
カナダ
7
ロシア
2
※ 連続出席回数が多かったのは、コール(独、16回)、ミッテラン(仏、14回)、シラク(仏、12回)、
サッチャー(英、11回)、ブレア(英、11回)など。日本の最多参加者は小泉純一郎の6回。
11
結論
1. 過去30年間の世界経済運営と安全保障に一定の役割
を果たした。今後もソフトな「institutions」がグローバ
ル・ガバナンスの重要な主体となる可能性が高い。
2. その間、国際的な政治経済環境の変化に適応する努
力が行われた。ただしメンバーシップと影響力や正当性
のトレード・オフなどの問題は無視できなくなっており、
今後さらなる対応が必要。
3. 日本にとって国際的な影響力行使のための重要なチャ
ンネルであると同時に多国間政治経済外交の「練習
場」。より有効なサミットの活用には国内で政治の威信
と安定を確保することと柔軟・幅広いローバル・ガバナ
ンスへの視点を醸成することが不可欠。
参考資料
• 嶌信彦 [2000] 『首脳外交-先進国サミットの裏面史-』
• 高瀬淳一 [2000] 『サミット-主要国首脳会議-』芦書房
• Hugo Dobson [2007] The Group of 7/8. Routledge.
• Glenn D. Hook and Hugo Dobson [2007] Global Governance
and Japan. Routledge.
• John Kirton [2007] “The Bottom Line: Has the G8 Achieved Its
Goals?” Paper prepared for a workshop on The Future of the
G8, Berlin, Germany, June 6, 2007.
• University of Toronto G8 Information Center
(http://www.g7.utoronto.ca/)
• 外務省北海道洞爺湖サミットホームページ
(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/summit/toyako08/index.html)
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