大阪大学 人間科学研究科 先端人間科学講座

大阪大学 人間科学研究科
先端人間科学講座
人間科学の先端を多角的な視野から解き明かす
先端人間科学講座は、人間科学に関連する諸問題のうち、緊急性が高く、高度な創造性を
必要とする課題について、教育・研究を推進するプロジェクト中心の講座である。この大講
座は、現在のところ、以下の研究分野に分けられている。
1.
2.
3.
4.
5.
コミュニケーションメディア研究分野 (教授 前迫孝憲)
心と脳の科学・減災人間科学研究分野 (教授 苧阪満里子、教授 渥美公秀)
生命と社会システム研究分野(教授 檜垣立哉)
教育の国際化研究分野(教授 山本べバリー・アン)
紛争復興と開発 研究分野(准教授 石井正子)
第1のコミュニケーションメディア研究分野では、コミュニケーションに関するメディアやイン
ターフェースについて、その社会的、技術的意義を検討し、学校教育への具体的導入法を
開発する。
第2の心と脳の科学・減災人間科学研究分野では、ワーキングメモリとその脳内機構につ
いての認知心理学的研究を行っており、記憶、学習、言語、思考などの高次 の認知過程も
対象としている。また、「良い理論ほど実践的なものはない」をモットーとするグループ・ダイ
ナミックスを基礎としながら、災害などで地域に生 きる人びとの生活に何らかの障害が認め
られる場面に注目し、リスクとその回避を検討すると同時に目の前の人びととの対話を重視
して、地域社会とそこに生き る人びとのベターメントを目指したアクションリサーチを展開し
ている。
第3の生命と社会システム研究分野では、生命的な身体と、そこからたちあがる人間的自
然のあり方について、現代フランスの思考に依拠しながら、生命システムとしての社会の議
論を見据えて研究を進めている。
第4の教育の国際化研究分野では、批判的・多文化的観点から日本や日本文化、日本と
世界との関係を考える力を養う国際化拠点整備事業(G30)に関連する研究や、近現代日本
におけるジェンダー構造とセクシュアリティーに関する研究を進めている。
第5の紛争復興と開発研究分野では、紛争の影響がおよぶ社会に対して、国際社会はど
のような支援ができるのか、という課題に取り組む。地域研究のアプローチにもとづいて紛
争地の事例を具体的に検証することを通じて、実証的に紛争復興と開発の現状を学ぶ。
コミュニケーションメディア
心と脳の科学
減災人間科学
生命と社会システム
教育の国際化研究
紛争復興と開発
コミュニケーションメディア
テクノロジーから教育の未来を構想する
【研究課題】
■ 教育と情報システムおよびヒューマン・インターフェー
スに関する研究
コミュニケーションメディア研究分野は、平成12 年から
設定された部門であり、コミュニケーションに関わる各種
のメディアやインターフェースについて、その理論や方法の検討を行うことを目的としてい
る。 その中でも、衛星通信やインタネットなど情報化社会を構成する基盤については、その
沿革や社会的意義、技術的側面などについて多面的に検討している。さらに、映像伝送や
センサネットワークなどについては、システム構築を進める中で実践的な 研究を行っていき
たいと考えている。これには、並行して研究を進めている遠隔教育や遠隔学習の知見を活
用する予定である。
人間のコミュニケーションを補佐するヒューマンインターフェースについても、利用時の生
理データの分析から新たなインターフェースの開発までさまざまな 研究を通して可能性を拡
げることをめざしたい。これには、近年研究が進みつつある脳表層活性部位の測定装置な
ども活用する計画である。
本研究分野は、臨床教育学講座教育工学研究部門と密接な連携を図りながら研究を進
めており、教育や学習に関する知見を基礎として幅広い研究を志向する学生も歓迎する。
教授:
前迫孝憲
助教:
奥林泰一郎
心と脳の科学
人間のワーキングメモリ
【研究課題】
■ ワーキングメモリとその脳内機構についての認知心理学
的研究
「心と脳の科学」研究分野では,人間の認知過程に注目し
て,認知心理学,認知科学,脳科学の研究アプローチから解
明することを,教育・研究の目標としている。特に,人間の認
知の基盤をなす記憶システムであるワーキングメモリ
(working memory)について検討している。ワーキングメモリ
は目標を達成するために情報を短期的に活性化して行動を
みちびく機能を持ち,私たちの行動を最適に制御する高次認知脳の基礎をささえている。な
かでも,中央実行系(Central Executive) は,注意の制御系であり,行動をみちびく統御シス
テムである。本研究分野では,中央実行系の評価テストであるリーディングスパンテスト
(reading span test: RST) を用いて,個人差の問題を捉えている。
心と脳の科学のホームページ… http://osaka.hus.osaka-u.ac.jp/
教授:
苧阪満里子
減災人間科学
減災のグループ・ダイナミックス
【研究課題】
■ 災害ボランティアを視野に入れた減災に関するグルー
プ・ダイナミックス
「良い理論ほど実践的なものはない」をモットーとするグ
ループ・ダイナミックスを基礎としながら、災害ボランティ
アを視野に入れ、減災について、理論的かつ実践的に研
究する。減災とは、災害時の救急救命から復旧、復興、
そして防災にいたるまでのいわゆる災害サイクルの全般について、地域社会の崩壊を回避
する活動や、地域に生きる人びとの生活に何らかの障害が認められる場面を改善する活動
を指す。減災人間科学では、地域社会とそこに生きる人びとのベターメ ントをめざしたアク
ション・リサーチを展開する。具体的には、災害ボランティア・災害NPO に注目し、災害から
復興する集落での長期的な現場研究などを中心として、地域防災、地域教育、地域医療な
ど、幅広く様々な問題に取り組む。
災害NPOと連携し、農山村、漁村、都市、途上国、先進国など、あらゆる現場に出かけてい
く。また、コミュニケーションデザイン・センターと協働し、研究成果をその分野に関心をもた
ない人びとにいかにして伝えていくかということを検討し、デザインしていく。
減災人間科学のホームページ… http://cdv.hus.osaka-u.ac.jp/
教授:
渥美公秀
生命と社会システム
生命と社会の交点に
【研究課題】
■ 生態系・環境・自然のシステムと社会・言語システムと
の関連についての研究
生命と社会システム研究分野は、生命科学や生態的に
関する知見、バイオテクノロジーや環境的ネットワークの
進展において、それらが人間の社会的価値的生に多大
な関連をもってきたことを前提として、原理的に生態シス
テムと社会システムとの関連について検討を行うことを目的としている。こうした研究領域に
ついては、かつてより生命倫理や環境倫理あるいは技術論というかたちでの研究蓄積、さら
にはアフォーダンス(生態心理学)や生態言語学的な探究があるが、この分野はそうした議
論を包括しながらも、むしろより根源的に生態テクノロジーの中に存在する人間、生命と言
語を身体において有する人間の存在そのものに、シ ステム論的な方向から光を当てて検討
することにしたい。
具体的には、現在はフーコーの生政治学を継承したさまざまな環境型の権力システムの
解明や、その背景にある構造主義的な自然/文化のシステム論に集中しているが、さらに
はバイオ社会/ネットワーク社会論、建築や都市論、食とタブー美学芸術論的な方向にま
で議論の枠組みを広げることを企てたい。
教授:
檜垣立哉
教育の国際化研究
教育を通じて多文化共生社会を考える
【研究課題】
■ 高等教育の国際化、多文化共生社会論、ジェンダー
論、セクシュアリティー論
本研究分野は、日本の高等教育環境をより国際的で質
の高い教育・研究の場にすることを目指す文部科学省
「国際拠点整備事業( 大学の国際化のためのネットワー
ク形成推進事業) の一つとして人間科学部に設置される新たな「英語による人間科学コー
ス」と深く関わっている。上記の目的実現のためには様々な実践的な課題が出てくるが、特
に教育の国際化は新しく先端的な研究課題である。具体的には、国際的かつ多文化的な環
境の中のカリキュラム開発、教育の品質保証(TQA)、学生中心の教育(SCL)による満足感
などである。教育制度だけではなく、日本と日本文化、日本と世界の関係も課題になる。教
育の国際化研究分野は、批判的・多文化的観点から日本の高等教育制度と改革、アイデン
ティティー、多文化的な存在、国際結婚、国際的な交流、あるいはコンフリクトなどの問題に
焦点を当てる。またさらなる教育・研究課題として、これまで取り組んできた近現代日本にお
けるジェンダー構造とセクシュアリティーに関する研究も進めている。特に日英の若者のセ
クシュアリティとその性教育(性と人間関係の教育)の比較研究を行っている。
教授:
山本ベバリー・アン
准教授:
BYSOUTH Don
特任准教授(常勤)【兼任】:
常田夕美子
紛争復興と開発
被災社会によりそう人道支援を考える
【研究課題】
■ 紛争地研究、国際人道支援
紛争の影響がおよぶ社会に対して、国際社会はどのよ
うな人道支援ができるのか、という課題に取り組みます。
地域研究のアプローチにもとづいて紛争地の事例を具体
的に検証することを通じて、実証的に紛争復興開発の現
状と課題を学びます。国際人道支援を地域社会の視点
から考察することの重要性を理解すること を目的とします。
このような考察にもとづき、支援をする側と受ける側が双方向な関係を取り結びながら共
生を可能にする人道支援のあり方を模索します。被災社会と良好な関 係を取り結ぶ人道支
援を実施するためには、紛争の発生に関する根本的要因を分析し、支援を住民の生活世
界にもとづかせることが大切です。人道支援におい て、被災社会とどのような協働が行わ
れたのかを検証し、被災社会との共生を可能にする人道支援のあり方について、具体的な
社会提言を行っていきたいと考え ています。
准教授:
石井正子
人間行動学講座
人間行動の法則性を心理学的に解き明かす
人間行動学講座では、多様な学問領域における研究成果・手法を総合的に活用すること
で、さまざまな心理的・社会的状況下での人間行動の背後にある法則を解明するとともに、
現実場面で生じている人間の行動に関連した諸問題の解決を目指すことを目標としてい
る。
人間行動学講座には、基礎心理学、応用認知心理学、社会心理学、臨床死生学・老年
行動学、認知脳心理学・環境心理学、安全行動学、ボランティア行動学の研究分野があ
る。
研究テーマとしては、「人間の視覚情報処理や動機づけ」、「日常場面での知覚・認知過
程に関する基礎的・応用的研究」、「対人相互作用や社会的場面における人間行動の研
究」、「人間の認知とその脳内機構に関する研究」、「環境と人間行動の関係に関する基礎
的・応用的研究」、「加齢に伴う人の心と行動に関する研究」、「老いと死に対する精神的援
助と悲嘆に関する研究」、「事故防止やヒューマンエラーに関する研究」、「災害ボランティア
の心理と社会に関する実践的研究」などがある。
各研究分野の研究は主として心理学の諸領域に基づくものであるが、実際に展開される
研究と教育はその基礎となっている領域の枠組みにとどまるものではない。隣接する研究
領域の知見を積極的に取り入れつつ、これまでにない新たな知見・視座を提起し、それに基
づいて現代社会の諸問題に関与していく姿勢、これこそが本講座の特徴である、また、この
幅広い研究活動に裏打ちされた本講座の教育体制によって、研究者としての高い能力が養
成されると同時に、社会のあら ゆる場面において幅広い視野を持ち、既成概念にとらわれ
ることなく柔軟に問題解決に取り組む姿勢と能力が養成される。
なお、人間行動学講座は、行動生態学講座と共に、行動学系として協力しながら教育・研
究にあたっている。
基礎心理学
応用認知心理学
社会心理学
臨床死生学・老年行動学
認知脳心理学・環境心理学
安全行動学
ボランティア行動学
基礎心理学
心理の根幹を実験で解明しよう!
【研究課題】
■ 視知覚の心理物理学的研究と認知の実験心理学的
研究
■ 人間の動機づけ(特に内発的動機づけ)の実験心理
学的研究
基礎心理学研究分野では、人間の情報処理と行動を実験で分析し、その機構と一般法則
を解明・実証することを目標とする。科学的客観性・厳密性・再現可能性を備え洗練された
方法論は本研究分野の特色である。
具体的には、錯視、顔の知覚、運動知覚、両眼立体視、物体認識、視覚芸術の心理学、
心的イメージなどの視覚情報処理の研究に加え、記憶、学習、思考、判断などの高次の認
知過程も研究対象としている。この分野はまたコンピュータ科学や人工知能とも関連し、理
科系と文科系の架け橋となりうる。
さらに、心理学の諸領域を横断する基礎的テーマである動機づけに関する研究も行って
いる。特に、自発的に楽しく行う行動(遊びや趣味等)を支える内発的動機づけを研究の対
象とし、コンピュータ・ゲームなどを刺激とする実験心理学的手法を用いることによって、知
覚、認知レベルからの内発的動機づけ理論を展開 しつつある。
大学院生は興味のある研究テーマを追求しつつ、プロの研究者となるために必要な技能
(様々な研究手法、問題設定の方法、論理構成力、プレゼンテーションの作成技術、英語論
文の執筆能力、日本語・英語での口頭発表の技術)を習得する。
基礎心理学のホームページ… http://kiso.hus.osaka-u.ac.jp/
教授:
森川和則
教授:
赤井誠生
助教:
松下戦具
応用認知心理学
日常的場面での人間の行動と認知を研究する
【研究分野】
■ 認知心理学的手法による「使いやすさ」「安全」等の実
際的問題への接近
■ 実際場面での行動の背後にある認知過程の解明
現代社会に生きる私たちは、高度に発展した科学技術
を基盤とする社会的・技術的システムのメリットを享受し
ている。この社会的・技術的システムと人間の適合性を
高めることで、我々の生活はより豊かなものとなるだろう。そのためには工学的観点だけで
はなく人間科学的観点での研究・開発が必須である。応用認知心理学研究分野では認知
心理学の方法論によりこの課題に取り組んでいる。具体的には、自動車運転者の注意プロ
セスの分析、作業に伴って感じる精神的負担感の測定と評価、指差呼称などの情報確認方
法の研究、技能獲得に伴う行動的・心理的変化の分析といったテーマを取り扱っている。ま
た、実際場面での行動の背後にある人間の基礎的な認知過程に焦点を当て、人間の行動
特性そのものの解明に寄与する認知心理学的知見を得ることを目指している。本研究分野
での教育研究目標は、現代的課題に対して認知心理学的観点から接近する視点を持ち、
問題解決のための研究を展開できる能力を兼ね備えた、社会のあらゆる場所で活躍できる
研究者・実践家を育成することである。
応用認知心理学のホームページ… http://acpsy.hus.osaka-u.ac.jp/
教授:
篠原一光
助教:
紀ノ定保礼
社会心理学
対人関係や集団行動の実証的研究を行う
【研究課題】
■ 集団行動や群集行動のダイナミックス 本研究分野
では主に集団や群集のダイナミックスについての研究を
行っている。集団に関しては集団パフォーマンス(社会的
手抜きや集団による怠け、スポーツにおける観衆効果や
ホームアドバンテージ)、集団意思決定(集団による愚か
な決定である集団浅慮や危険で極端な決定を行うリスキ
ーシフト)、などに ついて分析している。それから集合・群
集行動に関しては、テロリズムやスケープゴート現象(事
件や災害が起きた時のマスコミによる非難対象の変遷)の分 析、反社会的行為(殺人や犯
罪)に関するマスコミ報道の影響の分析なども行っている。
またリスク認知(自分や他者が自殺、事故、病気のどれで死ぬのかを考えた場合の認知
の歪み)に関する調査も行った。その他にもパニックに関連した研究もある。例えば群集衝
突や群集の同調に関する野外実験、危機事態からの避難行動の実験室実験を行った。こ
のように本研究分野で扱っているのは主に集団や群集の ネガティブな側面である。「疾風
に勁草を知る」という言葉がある。人間の本性は危機事態や逆境において露になることが考
えられる。また人のポジティブな側 面を理解するためにもネガティブな側面を知ることは大
切だと考えられる。
社会心理学のホームページ… http://syasin.hus.osaka-u.ac.jp/index-j.html
教授:
釘原直樹
助教:
阿形亜子
臨床死生学・老年行動学
老いと死の問題に科学の目で挑む
【研究課題】
■ 老年行動学:高齢期の社会参加と適応、認知の加齢
変化と異常、超高齢者・百寿者、介護、地域コミュニティと
ソーシャルサポート
■ 臨床死生学:終末期の医療とケア、終の看取り
臨床死生学・老年行動学研究分野は、人生において避
けることができない重要な問題である「老い(aging)」およ
び「死(death)」の過程における人間の心理的な発達や成長に注目した研究を行っている。
特に「生活の質(Quality of Life)」の向上という観点を重視し、基礎研究としては、心理的発
達や成長のメカニズムの解明や評価方法の開発、応用研究としては介入的な手法を用い
た研究を行っている。なお、これらのテーマはさまざまな方法論、学問領域からアプローチで
きるが、本研究分野で は、主に心理学・行動学で用いられる、科学的な方法論に基づいた
研究を行っている。また、これらの研究手法を基に、医学、歯学、看護学、社会福祉学など
関連諸領域の研究者や実践家とも積極的に連携し、学際的な研究アプローチをとっている
ことも本研究分野の特徴ともいえる。
これまでおよび現在進行中の研究のキーワードをあげると、「サクセスフル・エイジング」・
「高齢者の社会 箱庭療法の一場面的欲求」・「高齢者の精神的健康」・「高齢期の心理的発
達」・「高齢者の認知機能」・「加齢に対する生活文脈の影響」・「高齢者のケア」・「地域コミュ
ニティと高齢者支援」・「高齢者の孤立と孤独」・ 「超高齢者と百寿者」・「テクノロジーの応
用」・「死生観」・「終末期の心理的適応」・「終末期のQOL」・「死別」・「悲嘆」などである。
臨床死生学・老年行動学のホームページ… http://rinro.hus.osaka-u.ac.jp/
教授:
佐藤眞一
准教授:
権藤恭之
助教:
中川 威
認知脳心理学・環境心理学
人間のワーキングメモリ
【研究課題】
■ ワーキングメモリとその脳内機構についての認知心理
学的研究「心と脳の科学」
人間の認知過程に注目して、認知心理学、認知科学、脳科学の研究アプローチから解明
することを、教育・研究の目標としている。特に、人間の認知の基礎をなす記憶システムで
あるワーキングメモリ(working memory)について検討している。
ワーキングメモリは目標を達成するために情報を短期的に活性化して行動をみちびく機能
を持ち、私たちの行動を最適に制御する高次認知脳の基礎をささえている。なかでも、中央
実行系(Central Executive)は注意の制御系であり、行動をみちびく統御システムである。本
研究分野では、中央実行系の評価テストであるリーディングスパンテスト(reading span
test:RST)を用いて、個人差の問題を捉えている。
認知脳心理学のホームページ… http://osaka.hus.osaka-u.ac.jp/
環境をデザインする
【研究課題】
■ 人間行動に及ぼす環境要因についての心理学的研究及びそれに基づく環境デザイン
環境とは、人間の周囲にあって意識や行動の面でそれらと相互作用を及ぼしあうものと
定義されます。ここでいう「環境」には、自然環境や物理的な環境に加 え、社会的、文化的
な環境なども含まれています。人間活動によってさまざまな環境要素に変化が生じると、そ
こに生活する私たちにも影響が及びます。そこ で、人間側の立場に重点を置いた心理学的
観点から、さまざまな環境の評価や環境の変化に応じた人間の行動特性に関する研究を行
っています。例えば、感覚公 害としての騒音の評価に関する研究、物の購入から消費・廃
棄に至る過程での意識と行動の関係、生活環境の印象評価における視覚・聴覚の相互作
用に関する研 究などがあります。そのアプローチとして、現実の環境に近似した実験室空
間において、環境条件を精密に制御した実験を行っています。さらに、必要に応じて 社会調
査などを実施し、実際の現場での反応との比較検討も行っています。以上のような研究を重
ね、将来的には、得られた知見が環境問題の解決の一助となる ことを目標としています。
環境心理学のホームページ… http://eco.hus.osaka-u.ac.jp/
教授(兼任):
苧阪満里子
准教授:
青野正二
安全行動学
実社会の安全性向上を目指した研究をする
【研究課題】
■ 日常生活や産業場面の安全性向上を目指した心理・
行動学的研究
現代社会には、事故・災害や環境・健康に係る問題な
ど、様々なリスクが存在するが、その抑制と効果的な管
理手法の確立は今日の重要な課題となっている。
安全行動学研究分野では、日常生活や産業・交通場面
における人間行動の安全性、快適性,操作性向上に関わる諸問題を、実験、調査を通して
心理学的に解明し、得られた結果を広く社会に還元する研究を行っている。
特に安全に係る研究では、人間はミスをおかす存在であるとの前提のもとに、その発生要
因を個人の心理レベルにとどまらず、個人間レベル、集団組織レベル、生活環境レベル、社
会文化レベルなど幅広い視点から捉え、多角的に対策を講じようとすることに特徴がある。
近年の具体的研究テーマとしては、ヒューマンエラー・違反の発生メカニズム、ドライバー
のリスク知覚とリスクテイキング、子どもの事故防止、看護業務のリスクマネジメント、機器
類のユーザビリティ向上、空間認知エラーのメカニズムなどがある。本研究分野では現代社
会の様々な問題を扱うため、研究は常に現場 との連携を求めるとともに、現場を見る眼の
養成を重視する。
安全行動学のホームページ… http://app.hus.osaka-u.ac.jp/
教授:
臼井伸之介
助教:
中井 宏
ボランティア行動学
災害ボランティアのグループ・ダイナミックス
【研究課題】
■ 減災を視野に入れた災害ボランティアに関するグルー
プ・ダイナミックス
「良い理論ほど実践的なものはない」をモットーとするグ
ループ・ダイナミックスを基礎としながら、減災を視野に入
れ、災害ボランティアについて、理論的かつ実践的に研
究する。災害ボランティアは、災害時の救急救命から復
旧、復興、そして防災にいたるまでのいわゆる災害サイクルの全般について、地域社会の
崩壊を回避する活動や、地域に生きる人々の生活に何らかの障害が認められる場面を改
善する活動など減災に結びつく活動を行う。ボランティア行動学では、災害前後の地域社会
とそこに生きる人々のベターメントを目指したアクションリサーチを展開する。具体的には、
災害ボランティア・災害NPOに関する研究、災害から復興する集落での長期的な現場研究
などを中心として、幅広く様々な問題に取り組む。災害NPOと連携して、農山漁村や大都市
など、様々な現場に出かけていく。また、コミュニケーションデザイン・センターと協働し、研
究成果をその分野に関心を持たな い人々にいかに伝えていくかということを検討し、デザイ
ンしていく。
ボランティア行動学のホームページ… http://cdv.hus.osaka-u.ac.jp/
教授(兼任):
渥美公秀
教授【兼任】:
近藤佐知彦
行動生態学講座
文理融合のマインドでヒトと動物の行動を探究し、人を知る
人間は長い進化の中で獲得してきた生物としての適応能力と誕生後の成長・発達の中で
発現する学習能力とを併せ持っている。両者は相互に深く関連 しあっており、分離すること
はできない。行動生態学講座では、このような人間の持つ生物としての特性を重視しなが
ら、人間行動の特性と行動発現のメカニズムの解明を目指している。
行動生態学講座には、5つの多様な研究分野がある。
比較発達心理学研究分野では、人間の乳幼児期から思春期・青年期までの種々の発達段
階での心理・行動を分析し、発達加速現象や心身相関、対人関係やコミュニケーションの発
達と障がいについて、行動の生物学的基盤を視野に入れた理解をめざしている。
行動生理学研究分野では、人間や動物の「食べる」行動を出発点にして、神経科学的研究
を進め、高次脳機能の解明をめざしている。
行動統計科学研究分野では、行動データに内在する潜在構造を統計学的に探るために、
統計解析法の基礎となる数理モデルと統計解析を実現するための演算アルゴリズムの研
究開発をしている。
生物人類学研究分野では、形態と行動の関連を解明することからヒト特異的な適応のあり
方を探求することをねらって、ヒトと霊長類の運動機構と運動制御機構に関する機能形態学
的研究を行っている。
比較行動学研究分野では、野生ニホンザルや動物園の野生動物の行動観察を通じて、そ
れぞれの動物の生き様を描きながら、ヒトにいたる行動の進化を明らかにすることを目的と
している。
行動生態学講座の5つの研究分野では、人と動物を対象にして、実験室における顕微鏡
下での微細な研究手法から野生動物や人の行動観察、古人類の化石発掘、さらにはコンピ
ュータを用いてのシミュレーションなどの多様な方法を用いて、行動の研究を進めている。
行動生態学講座では、生物全体を見渡す広い視点を保ちながら、基礎的な研究テーマか
ら最新の研究テーマまでを題材にして、教員と学生が実験や調査・観察、そして得られたデ
ータの解析を行い、新たな知を発信するための共同作業を続けている。この知的ワールド
から最新の成果を世界に向けて発信している。
なお、行動生態学講座は、人間行動学講座と共に、行動学系として協力しながら教育・研
究にあたっている。
比較発達心理学
行動生理学
行動統計科学
生物人類学
比較行動学
比較発達心理学
心のしくみの発達と起源を探る
【研究課題】
■ 乳幼児期・思春期・青年期の発達心理学的研究
■ 母子関係・仲間関係・コミュニケーションの発達と障がい(自閉
症など)
人間の行動を真に理解するためには、胎生期から大人に至る行
動発達のプロセス(個体発生)だけでなく、原生動物から人間に至
る行動進化のプロセス(系統発生)を視野に入れる必要がありま
す。比較発達心理学研究分野は、発達心理学や比較行動学にそ
の方法論を求め、人間の心理、行動および身体、またそれらの相
互関連性を追求する分野です。研究対象は、人間の乳幼児期から思春期・青年期にまでわ
たっています。
研究テーマとしては、母子のアタッチメントとこどもの発達、遊び・ケンカ・思いやりと仲間関
係、共同注意や心の理論、非言語的・言語的コミュニケーションの発達、自閉症や注意欠陥
多動性障がいといった発達障がいの心理、などがあります。
研究フィールドは、保育園、母子医療センター、発達障がい児通園施設、などであり、時に
は家庭を訪問して、乳幼児の行動観察を行います。また、思春期・青年期の性的発達を中
心とした質問紙調査も行われています。このように当分野は、研究対象が広範多岐にわた
り、幅広い興味関心を持った教員、学生が集まっています。毎週定期的に開かれるゼミ・研
究会では、論文執筆や学会発表に備えて、活発なディスカッションが行われています。
比較発達心理学のホームページ… http://hiko.hus.osaka-u.ac.jp/
教授:
日野林俊彦
教授:
金澤忠博
助教:
清水(加藤)真由子
行動生理学
心と体のはたらきを脳からみる行動生理学
【研究課題】
■ 動機づけ行動の認知神経科学的研究
■ 学習・記憶・情動・行動選択の脳基盤についての行動神経
科学的研究
人間や動物の行動がどのような脳の働きに基づいて生じる
のかを解明することを、研究目的としている。そのために、個
体の維持にかかわる食行動や種族の保存を目的とした生殖
行動など、もっとも基本的な動機づけ行動の神経機構につい
て、多彩な方法論を駆使して実験的研究を進めている。とく
に、食行動の発現には味覚が重要な役割を果たしているので、脳内の味覚情報処理機構
を中心に検討を行っている。神経生理学的研究としては、自由行動中あるいは麻酔下のラ
ットから神経細胞の活動電位を記録し、感覚入力から運動出力に至る動的な情報処理様式
を解析している。免疫組織化学的研究においては、食行動の発現にかかわる 脳部位を特
定し、関連情報の流れを空間的にマッピングしている。行動学的研究においては、脳の局所
的な機能剥奪や薬物投与が味覚関連行動に及ぼす効果を検 討している。さらに、食行動
や味覚情報処理にどのような脳内物質が関与するのかを明らかにするため、神経生化学
的・分子生物学的研究も進めている。このような基本的行動にかかわる神経機構の解明を
糸口として、認知、情動体験、学習、記憶などのより高次な脳機能の理解を目指している。
行動生理学のホームページ… http://kosei4.hus.osaka-u.ac.jp/index.html
教授:
志村 剛
准教授:
八十島安伸
助教:
乾 賢
行動統計科学
行動を数式で表して統計解析する
【研究課題】
■ サイコメトリックス,多変量解析法,行動統計学,数理心
理学
心理・行動データを分析するための統計解析法の研究開
発を行う分野を、サイコメトリックス(Psychometrics)などと呼
びます。この分野から は、多変量解析法と総称される分析
法の幾つかが生まれ育ちました。代表例は、因子分析、構造
方程式モデリング、多次元尺度構成法や各種の主成分分析
法です。こうした解析法の改良や、新たな分析法の開発、す
なわち、統計数理モデルを考案し、それを解くためのアルゴリズムを開発することなどがテ
ーマとなりま す。数式に基づくものは「既に確立されたもの」という印象を与えますが、実は
そうではなく、既成の統計法にも改善の余地は多く、また、「こんな分析法が あったらいいの
に」と感じられる未開発の方法も数多い点で、研究テーマは豊富です。また、知覚、記憶、思
考、感情といった心のメカニズムを数式で表そうと する、いわば「物理学」につく「物」を「心」
に変えたような学問、数理心理学も研究分野の対象です。以上の分野の研究には、線形代
数や確率論などの数学を 要しますが、数学力よりむしろ「自由なイマジネーション」や「斬新
な発想力」が大切といえましょう。
行動統計科学のホームページ… http://koko15.hus.osaka-u.ac.jp/
教授:
足立浩平
教授【兼任】:
狩野 裕
助教【兼任】:
宮本友介
生物人類学
ヒトの行動の起源を探る
【研究課題】
■ ロコモーションを中心とした行動をめぐる機能的人類
学
■ 運動と形態の系統発達から見た人類進化に関する研
究
行動形態学研究分野は、生物としてのヒトの適応に関
する研究を行っています。ヒトの特徴としては、直立二足
歩行を行うこと、精細な手指を用いて環境に働 きかけること、脳の発達により文化・技術な
どの非生物学的適応を実現していることなどがあげられますが、こうしたヒトの特徴の由来
を分析することで、進化史的なヒトの起原を追求しています。基本的な研究手法である機能
形態学は、解剖学的構造を機能と関連づける手法で、3次元形態計測器、実態顕微鏡、光
学顕微鏡などの形態学的計測機器だけではなく、3次元運動解析システム、筋電図、床反
力計、各種圧力センサーなどの生機構学的実験機器をフルに活用して研究を 行っていま
す。ヒトの特徴を解釈するためにはヒトと近縁な霊長類のデータをあつめることが重要であ
ると考えていますので、多様な霊長類を材料として、脳、 感覚器、筋、骨などの適応に関す
る比較機能形態学的研究を実施してきました。こうして得られた知見は、ヒトに先行する化
石種の生活復元に資するものである と考えており、アフリカにおける化石発掘プロジェクト
にも積極的に参加してきました。こうした古典的研究とともに、現代人の機構適応について
の実証研究も行っています。
生物人類学のホームページ… http://morph.hus.osaka-u.ac.jp/
教授:
熊倉博雄
准教授:
中野良彦
助教:
日暮泰男
比較行動学
サルの中にヒトを見る
【研究課題】
■ 霊長類の行動発達と社会的認知に関する比較行動
学的研究
■ 霊長類の行動に個体差を生じさせる要因とその個体
差が社会構造に与える影響の検討
■ 動物園行動学-動物園の展示動物の行動、来園者
の行動や興味・関心、動物とヒトの関わり
比較行動学は、さまざまな環境で生きている動物の行動を詳細に記録し、それぞれの行
動が動物の生存にどのような役割を担っているのか、その行動がどのように進化してきたの
かなどを考える研究分野です。生きものの姿や行動、考えを、ゆがみなく記録し、得られた
データを客観的に分析することで、「行動の不思議さ」を明らかにすることに取り組んでいま
す。
行動観察の主な対象は「集団で暮らしている野生ニホンザル」と「動物園で暮らす野生動
物たち」です。子育て、子どもの成長・発達、母子関係、遊び友達、血縁、順位、ケンカ、仲
直り、老化などに注目して行動観察を行い、時には遺伝子やホルモンといった生物学的指
標を分析に用いながら、彼らの生きざまを明らかにすることを目指しています。
進化の枠組みの中では、ヒトを含めた霊長類はお互いにお隣同士の生きものです。進化
の隣人である霊長類、ヒトからはもう少し離れた霊長類以外の哺乳類の生きざまを知ること
は、ヒトの理解にも貢献できるはずです。最近では、動物園での来園者と展示動物の関わり
などのように、動物とヒトの関わりについても探究しています。
比較行動学のホームページ… http://ethology.hus.osaka-u.ac.jp/
教授:
中道正之
講師(兼任):
山田一憲
社会環境学講座
人間が社会をつくり、社会が人間をつくる
現代社会においては、人間が生活するために必要な様々な資源やルールをますます社会
が提供するようになっています。伝統的な束縛から自由になるにしたがって、われわれの生
活はいっそう社会に依存するようになります。
本講座では、現代社会において社会環境が個人に及ぼすこうした影響を重視し、社会の
ありかたについての理論的で本質的な理解や、社会を理解し説明するための方法を開発す
るとともに、現代の社会環境が生み出す様々な問題について、一定の社会的な解決や対応
策を模索することを行っています。このために、講座は以下7つの相互に補完しあう研究分
野によって構成されています。
1. 様々なレベルの社会理論や社会学学説史を扱う社会学理論
2. 現代社会の諸問題を労働やグローバル化の視点から解明する現代社会学
3. アンケート調査・インタビュー調査などの社会調査方法論の研究・教育に携わる経験
社会学
4. 統計データや社会調査データを用いて社会現象を理解しようとする社会データ科学
5. 家族・ジェンダー・若者などにおける種々の社会的コミュニケーションを扱うコミュニケ
ーション社会学
6. 医療・科学・労働などの社会的側面と異文化比較を扱う文化社会学
7. 社会保障や高齢者・障害者福祉と市民活動に関する研究を行う福祉社会論
以上の各研究分野は、相互に密接に連携しており、一つの問題について複数の視点や方
法によるアプローチを可能にしています。教員や学生も、所属する 研究分野にしばられるこ
となく、自由に意見を交換し、多様な研究教育環境を維持することにつとめています。
社会環境学講座ホームページ… http://socio.hus.osaka-u.ac.jp/
社会学理論
現代社会学
経験社会学
社会データ科学
コミュニケーション社会学
文化社会学
福祉社会論
社会学理論
理論を通して人間と社会を見る
【研究課題】
■ 社会変動論、社会秩序と公共性に関する研究、近代
性の社会学
社会学は、他の社会科学と同様、母なる西欧近代の胎
内で誕生した。社会学が近代の自己認識の学であるとい
われる所以はここにある。
社会学理論研究分野では、社会学理論の歴史をふま
えながら、人間と社会のあり方を読み解いていく。近代社会の構造を解剖し、その構造がど
のように変化していくのかを、過去・現在・未来にわた り分析することも重要な課題である。
学問に輝きを与える直観や洞察が、社会学においても必要であることはいうまでもないが、
社会学に生命力を吹きこむのは、実証主義という指針である。社会事象をリアリティ豊かに
再構成し、社会の謎を解明する社会学理論の構築こそ、我が研究分野の最大の使 命であ
る。
このような理論社会学を具体的に実践する方法はさまざまであるが、とくに21世紀を迎え
た日本社会の変化として、「個人化」と「保守化」の趨勢に注目している。このような現代日
本社会の変動を、単なる印象論や統計資料の表面的な理解だけで、本当に理解することは
できない。学説に関 する深い造詣、理論的思考能力、そしてデータを正しく処理する力が要
求される。このように理論的知識を総動員して現代社会の変動を解明することも、社会学理
論研究分野の使命の1つである。
社会学理論のホームページ… http://risya.hus.osaka-u.ac.jp/
教授:
友枝敏雄
現代社会学
現代社会における市民と社会のあり方を考える
【研究課題】
■ 現代社会と宗教、利他主義・市民社会論、ソーシャル・キ
ャピタルとしての宗教、宗教施設を地域資源とした地域防災
に関する研究
グローバル化が進む今、現代社会と宗教は重要なテーマと
なっている。一方、交通手段の発達と雇用形態・ライフスタイ
ルの多様化による移動性の高い社会への移行と並行して、
都市化・核家族化が進み、枠組みとしての共同体は危機に
瀕している。そして、現代人は、ソーシャル・キャピタルの乏し
い関係性を生きている。そのような現代社会にとって、支え合う市民社会の構築はアクチュ
アルな問題である。
本研究分野では、現代社会と宗教、格差社会、環境問題、グローバル化、災害への対応
といった現代社会の諸問題に真摯に向き合い、現代社会学の理論をベースに、支え合う市
民社会の構築に資する学際的な研究を構想する。
現代社会学のホームページ… http://altruism.blog56.fc2.com/blog-entry-287.html
准教授:
稲場圭信
経験社会学
データを通して人間を見る
【研究課題】
■ 社会調査法、宗教社会学、質的データ(テキストデー
タ)の計量的分析法
社会調査によって収集されるデータとその分析は、社
会学の理論の発展の基礎となるものです。本研究分野で
は、社会データ科学研究分野と密接に連携して計量分析
を主たる方法とするとともに、質的データの分析にも力を
入れています。扱うテーマは、ひろく家族や生活、仕事な
どに関わる社会意識全般です。とくに宗教社会学の視点から、宗教と人々の意識や行動と
の関連について、また新宗教教団の海外での布教についての調査研究を行っています。
社会調査データの分析方法も時代によってどんどん新しい方法が取り入れられるようにな
っています。インタビューや参与観察などによって集められたデータもコンピュータで分析す
る時代になりつつあります。MaxQDAやNVivo、Atlas/tiというQDA(Qualitative Data
Analysis)ソフトやKHCoderというテキストマイニングを用いたソフトが利用されており、これら
のQDAソフトとテキストマイニングは、質的データ分析の欠かせないツールとなっています。
また本研究分野の開講科目を中心に履修していくことにより、一般社団法人社会調査協
会が認定する社会調査士資格、専門社会調査士資格が取得できます。
経験社会学のホームページ… http://keisya.hus.osaka-u.ac.jp
教授:
川端 亮
助教:
三谷はるよ
社会データ科学
現代社会をデータから見る
【研究課題】
■ 社会調査データの計量分析に基づいた現代日本社会
論
現代社会から得られたさまざまな規模とかたちのデータ
を科学の対象とする研究分野です。この研究分野におい
ては、大規模な社会調査プロジェクトが常時実 施されて
いますので、社会調査の実践的力を身につけ、同時に最
新の解析技法を学ぼうとする人に最も適しています。同時に、質的・量的両面で最先端の研
究方法を習得することができます。
研究トピックの中心的なものとなっているのは計量社会意識論と学歴社会論ですが、研究
トピックを狭く限定することなく、それぞれの関心を伸ばす方向で指導 がなされています。そ
のため在籍する大学院生の研究内容は、職業や階層、教育や学歴、家族、ジェンダー、地
域、福祉、政治、宗教、文化などたいへん多岐に わたっています。十分な解析能力をもって
いることも大切ですが、オリジナリティのある研究の目標を持ち、社会学的な洞察力がある
ことが強く望まれます。
また本研究分野の開講科目を中心に履修していくことで、社会調査士、専門社会調査士
の資格を取得することができます。
社会データ科学のホームページ… http://keisya.hus.osaka-u.ac.jp
教授:
吉川 徹
コミュニケーション社会学
コミュニケーションを通して人間を見る
【研究課題】
■ ジェンダー論、家族社会学、歴史社会学
■ コミュニケーション論、メディア研究
本研究分野では、ジェンダー研究・メディア研究の視点
から、近現代社会における多様な文化・社会現象をめぐ
る研究を行っている。具体的には以下のようなテーマを
対象に研究が進められている。
(牟田)権力とセクシュアリティ・ジェンダーをめぐる諸問題について、フェミニズムと歴史社会
学的観点から研究を行う。近年の重点的な研究テーマは次のようなものである。
セクシュアル・ハラスメントと性暴力
ケアをめぐる正義と新しい「家族」の可能性
トランスジェンダー・トランスセクシュアル、ゲイ・レズビアンなど性的マイノリティの視点から
みる社会
近代国家の成立とジェンダーポリティクス
(辻)現代社会における種々のコミュニケーション現象とその変容について、いくつかの視座
を組み合わせながら、多角的なアプローチをおこなう ことを研究課題とする。理論面では、
語用論、言語哲学の社会学的展開・応用を試み、実証面では、主に計量的調査手法により
ながら、コミュニケーションの現在形を探る、とりわけ、意味やメッセージ以上に、関係性(つ
ながり)そのものの媒介が前景化されるコミュニケーション、メディア利用の分析・考察が、近
年の重点的研究課題である。
コミュニケーション社会学のホームページ… http://comiron.hus.osaka-u.ac.jp/
教授:
牟田和恵
准教授:
辻 大介
文化社会学
文化と社会を通して人間を知る
【研究課題】
■ 医療社会史、技術・メディアの社会研究、労働問題・
分業論・生活者の社会学
技術と社会・文化の関係を、社会史と社会学の観点か
らアプローチする。教員の専門分野は医療であるが、大
学院生の分野は、メディア・観光・医療の多岐に わたる。
調査方法は、資料文献調査、インタビュー調査、フィール
ドワークなど質的調査を中心とするが、テキストマイニングやアンケート調査などを用いた量
的な分析も試みる(山中)。
質的方法論で家庭と職場の両立問題、労働時間問題、職業病、夫婦間の家事・育児の分
担などが主な研究テーマである。院生の研究は、日本伝統音楽の世界、 中国における庶
民問題、日米の女子高生のスポーツ参加と健康の比較研究、少子化問題、障害者の人権
など、社会行動を組織する文化力の研究が中心になってい る(ノース)。
食や教育のグローバル化や森林産物の商品連鎖など、身近になる様々な社会的な事象
の分析をとおして、ミクロな視点からマクロなレベルの権力関係と競合について考察する(石
川)。
文化社会学のホームページ… http://bunka.hus.osaka-u.ac.jp/
教授:
山中浩司
教授:
NORTH Scott
教授【兼任】:
石川真由美
福祉社会論
福祉を通して人間を見る
【研究課題】
■ 社会保障政策、比較福祉研究、地域福祉研究
[社会保障政策]
日本の社会保障政策は、少子高齢化・雇用の流動化
や不安定化・デフレの進行・国家財政の窮迫といった状
況のなかで、今、その質と持続可能性が問われている。従来の枠組みで対応できるのか、
新しい発想に基づく改革が必要ではないか・・・・といった様々な議論があるなか、社会保障
を市民自身による「より良い生」の実現に向けた共同の企てであると捉える立場から、その
あり方を考えていく。
[比較福祉研究]
福祉制度の中で、国家、市場、家族や地域の役割を踏まえ、要介護高齢者や障害のある
人たちが地域で自立した生活を送ることができる社会のあり方を研究する。日本国内の福
祉現場の声に耳を傾 け、同時に国際比較の視点で、福祉政策やその動向を把握し分析す
る。(スウェーデンやノルウェー等、北欧社会研究に力を入れている。)
[地域福祉研究]
福祉サービスの多くはかつて、慈善事業としてボランティアで担われ ていた。福祉分野で
の住民活動と行政のパートナーシップの形は、時代とともに変わっていくが、サービス供給、
アドボカシーに関わる活動等、福祉社会における住民参画のあり方を研究する。
教授:
斉藤弥生
基礎人間科学講座
人間科学とは何か ―人間と社会―
基礎人間科学講座では、「現代人間学」(科学哲学、現代思想、比較文明学)と「人類学」
(人類学、人間と文化)の2つの研究グループがある。理論性の強い「現代人間学」、経験
主義的度合いの強い「人類学」という違いはあるが、いずれも「人間とは何か」という問いを
追いかけている。
20世紀の歴史は、広く丸い地球の上に中心点がないことを教えてくれた。 つまり支配的・
主導的な文化や地域を特定化できないのである。ヨーロッパ世界が歴史の中心であった時
代が終了したが、ヨーロッパにとって代わろうとする試みも成功していない。これから世界
は、それぞれの地域や文化や民族が同じ時代の中で交流し、せめぎあい差異化しながら、
複雑で流動的な構造化を遂げていくだろう。このような状況で抗争の武力化を阻止し、21世
紀の文明を作っていくためには、人類学的なフィールド研究による現実的な共同体との関わ
りを実践することが重要になる。「人類学」は、こうした課題に直面しつつ、 同時に人間の社
会を構成する理論を根底から探ることをおこなっている。
また、20世紀におけるこうした状況は、人間と科学、人間とその精神や身体、人間と文明
や歴史との関係についても多くの問いを投げかけている。科学はその技術の力とともに、わ
れわれの生活する状況をおおきく変貌させてきた。科学とは何かという問いは、20世紀を
超えた時代を生きるためにも不可欠である。また、人間の精神的な生、身体的な生は、人間
に対する多くの知ととも にとらえ方が変貌している。現代的な精神や身体は、精神分析や
生命科学もふ くめた現在における多様な知を踏まえることからしか考察しえない。さらに、
人間と文明や歴史との関係も、グローバリゼーションが進行した現在において、過去のモデ
ルでは把握しきれない事態を提示している。「現代人間学」は、このような主題を、実践を見
据えた理論の方向から研究する。
科学哲学
現代思想
比較文明学
人類学
人間と文化
科学哲学
哲学を通して人間を見る
【研究課題】
■ 科学哲学、現代形而上学、時間の哲学、心の哲学、社会存在論
■ 分析哲学、言語哲学、ヴィトゲンシュタイン研究
科学哲学分野では、現代論理学や自然科学や認知科学や社会
科学などの成果を基盤にして哲学の諸問題を現代の視点から探究
することを目指している。 中山が行っている研究には、集団的認
識論の観点からの科学哲学、唯名論的存在論の理論形成とその応
用、動的意味論を中心とした言語的意味論の探究、多元的言語論
の理論構築とその科学哲学や歴史の哲学などへの応用などがあ
る。また、規範の哲学、テクノロジーと人間の共進化に関する研究なども最近の研究テーマ
には含まれている。基本的な研究・教育の姿勢は、論理学や諸科学の最新のアプローチを
足場にして、そこから哲学の諸問題を明らかにしていくことにある。また近年では、「ゲー ム
体系」という概念を基盤にして、人間の発達と社会の成り立ちに関する研究も始めている。
科学哲学のホームページ… http://kisoron.hus.osaka-u.ac.jp/
教授:
中山康雄
現代思想
哲学を通して人間を見る
【研究課題】
■ 生命論・権力論・精神分析など人間科学を横断するテ
ーマの研究
■ 西田幾多郎以来の近代日本思想の再考
■ 現象学の拡張(精神病理学・医療現場の分析、など)
現代思想研究分野は、20世紀以降の現代哲学を出発
点として、さまざまな主題を探求します。自然・生命から、
言語・政治、科学技術の哲学、精神病理や医 療の事例研究に至る広範な領域を横断して
います。理論的なものと経験的なものを、現実を無視するものでもなく、しかし単なる実践を
目指すものでもない、両 者を架橋する緊張の中で探究します。
檜垣がこれまで行ってきた研究は、現代フランス哲学のなかでの、生の哲学・構造主義以
降の思想などです。檜垣は、とりわけ生命的な身体と、そこからたちあがる人間的自然のあ
り方について、現代フランスの思考に依拠しながら、生命システム論に関わる社会の議論を
を見据えて研究を進めます。
村上はレヴィナス研究を出発点として現象学研究を行っています。病院での自閉症研究、
心理臨床の構造分析を経て、現在は看護研究と連携しております。具体的な事象の背後に
隠れる、人間の経験の構造を探し出すことが研究のライトモチーフです。
現代思想のホームページ… http://ningen.hus.osaka-u.ac.jp/
教授(兼任):
檜垣立哉
准教授:
村上靖彦
比較文明学
思想史を通して人間と文化を見る
【研究課題】
■ 比較思想史、文化論、歴史思想、都市論、文化と記憶
比較文明学研究分野においては、厳密な意味での伝統文化が
存在しなくなった現在において、近代化の多様な実態と問題性を
歴史的・地域的な比較研究を通じて明らかにし、近代化の学説史
的反省、理論的分析を通じて、経済的先進地域(西欧、一部は日
本など)における現代文明の問題を問う。近代的理性の自己批
判、ナショナリズムとの批判的解決、共同性の基礎づけ、ナショナ
ル・アイデンティティと自己意識などが当面の問 題点である。日本
研究に関しては、何よりも近代日本の知識人を悩ませてきた西欧
的合理性対日本的(もしくは東洋的)感性といった対立図式の破壊が当面の課題である。
研究・授業の具体的なテーマは以下のとおりである。
1.
2.
3.
4.
グローバル化の過程における巨大都市
グローバル・コンフリクトと知識人の役割
近代化の「光と影」
マックス・ウェーバーとその同時代人たち、フランクフルト学派、丸山真男、H . アーレ
ントなど代表的な社会思想家の著作の研究
5. 記憶の媒体(映画、写真、博物館、記念碑など)の分析。
比較文明学のホームページ… http://bunmei.hus.osaka-u.ac.jp/
教授:
SCHWENTKER Wolfgang
人類学
文化を通して人間を見る
【研究課題】
■ アフリカ民族誌学、紛争の人類学的研究
■ 呪術と科学の関係に関する人類学的研究、国際協力
活動の人類学的研究、アジア・オセアニア研究
■ 科学技術の人類学、タイ地域研究、実践理論
人類学とは、フィールドワークをとおして人間の社会・
文化的なあり方を総体的に理解しようとする学問である。3人の教員は、それぞれ中南米・
東南アジア・アフ リカで長期にわたって現地調査を行ってきた。また、分野に属する大学院
生は世界中で調査を行っている。
人類学研究分野に属する教員は、それぞれ次のような研究を行っている。
1. 主にスーダンとエチオピアをフィールドに、国家行政の浸透、人道・開発援助と平和構
築といった変容と ローカルな問題の関係を考察している(栗本)。
2. ヴァヌツ、ミャンマー、ラオスなどをフィールドに、呪術と科学をめぐる人々の認識や実
践、国際協力活動と人類学の関わり合いなどについての理解を深めようとしている
(白川)。
3. タイをフィールドに科学技術のグローバルな展開をそこに巻き込まれた人々の視点か
ら明らかにしようと している(森田)。
なお、人類学研究分野は、「人間と文化」研究分野と共同で研究と教育を行っている。ま
た、平成19年度から23年度まで実施されたグローバルCOEプログラム 「コンクリフトの人
文学国際研究教育拠点」では中心と して活動し、その成果を今後の研究教育に生かしてい
る。
人類学のホームページ… http://anthropology.hus.osaka-u.ac.jp/
教授:
栗本英世
教授【兼任】:
池田光穂
准教授:
森田敦郎
准教授:
白川千尋
准教授【兼任】:
大村敬一
人間と文化
人間と文化の関わりを見る
【研究課題】
■ 文化と経済に関する比較研究
グローバル化が進行する現代において、文化システムと政治・
経済システムの間のダイナミックな関わりを、文化人類学的な視
点から研究する。 とりわけ、民族問題の深刻化やナショナリズム
の 高揚、またジェンダー・年齢・階層などの「文化」 としての問題
化に焦点を当てながら、システム間の関係を解明することを目指
す。文化の差異や同一性は、ミクロ・マクロの両レベルで具体的
にどのように高まり、どういうかたちで意識されていくのか。国民
国家の形成と発展は、この文化の動態に対していかなる作用を及ぼしているか。そして国
家間システムと世界経済システムは、どのような影響力を有するのか。さらに異文化の共存
は、 いかなる政治・経済システムにおいて可能となり また持続しうるか。こうした問題につ
いて、人類学を中心に蓄積されてきた多様な資料と研究方法にもとづき、接近をこころみ
る。
人間と文化のホームページ… http://anthropology.hus.osaka-u.ac.jp/
教授:
中川 敏
臨床教育学講座
人間形成と教育を科学的に探究する
教育学系の教育・研究が目指しているのは、さまざまな社会的場を通して行われている人
間の教育=学習活動を、生涯にわたる人間の成長発達と多様な生活関連を基本的な視軸
として解明し、合理的でかつ人間的な教育=学習組織のあり方を考究することです。現代の
ように社会の仕組みが複雑となり、日常生活が変化に富むものになってくると、伝統的な制
度の枠組みあるいは固定的な人間観によってこの課題に応えていくことはできず、人間の
多様な側面を視野に収めた学際的なアプローチが必要になってきます。現代の教育学研究
には、そうした諸々の学問分野と積極的に交流し、そこから生み出される多様な知見を総合
し、体系化して、新しい人間の生き方あるいは新しい社会のあり方とい う観点から提示する
ことが求められています。
臨床教育学講座は、「教育環境学講座」とともに教育学系を構成し、主として個人一人ひと
りの成長発達に焦点を合わせた、理論的、実験的、臨床的、実践 的研究を行っています。
本講座には、教育人間学、教育工学、教育コミュニケーション学、教育心理学、臨床心理
学の5つの研究分野があり、教育知の歴史的人間学的解明、学習環境のデザインや先端
的情報技術を利用した教育・学習システムの開発、思考・コミュニケーションの基礎的及び
開発的研究、個人の情緒的・社会的発達のつまづきと回復に関する実践的研究、さまざま
な心理的問題の発生と克服過程に関する実証的研究ならびに臨床実践など、それぞれに
ユニークでかつ互いに関連性を含んだ研究テーマの下に、型にとらわれない教育・研究活
動を行っています。
現在の日本では、本格的な少子高齢化社会が到来し、生活の国際化や、情報化も急速に
進んでいます。人間の成長発達に関わる教育=学習の課題は、これまでにない問題の広
がりを見せています。本講座では、そうした現代的な課題に対して、人間科学の観点から理
論的かつ実践的に関わることのできる人材の育成を目指しています。
教育人間学
教育工学
教育コミュニケーション学
教育心理学
臨床心理学
教育人間学
わたしたちはそもそもどのような行動を「教育」と呼んで
いるのだろう?
【研究課題】
■ 歴史的教育人間学の基礎理論とその応用
教育と人間に関する知は、単に科学的知識のみによって構成されるものではなく、それぞ
れに特殊な機能と構造、起源と歴史をもち、また相互に複雑に絡み合う哲学的、美的、実践
的な象徴・記号体系によって構成される。いかなる教育科学者であれ、いかなる教育者であ
れ、こうした教育と人間に関する知をすでにもっており、この知がなければ、教育科学者は
研究を行うことができないし、教育者は実践を行うことはできない。しかし、この教育と人間
に関する知は、必ずしも日常的に明瞭に意識されているとは限らず、しばしば潜在的なもの
にとどまっている。そうである限り、教育問題の解明や解決は困難である。それゆえ、教育
科学者にとっても、教育者にとっても、自らの仕事を導くこの知を明瞭に意識化することが必
要である。教育人間学は、この教育と人間に関する知を構成する個々 の要素および諸要
素間の複雑な絡み合いを歴史的人間学的観点から解明することを課題としている。 なお、
現在、本研究分野では、学生の個人研究と並行して、「教育と福祉のドラマトゥルギー(演出
論)」 というテーマで共同研究を行っている(図)。
教育人間学のホームページ… http://kyonin.hus.osaka-u.ac.jp
教授:
藤川信夫
准教授:
岡部美香
教育工学
テクノロジーから教育の未来を構想する
【研究課題】
■ 学習環境のデザイン
■ 教育・学習分野のヒューマンインターフェースに関する
研究
教育工学は、最適な教育方法を探求することを目標と
し、教育学、心理学、工学の学際的な分野として1960年
代に誕生したが、近年の人間諸科学における教育や学習や発達に関する研究の変化に連
動して、社会や文化といった視点も取り入れ、よりよい学習環境のデザインをめぐる理論の
創造、システムの開発、教育方法に関わる知の蓄積や批評などに取り組んでいる。特に近
年は、創造や協働などのより高度な能力を形成や、インターネットや携帯情報端末などの情
報通信技術の普及による社会の変化に対応した次代の教育システムの探求が課題となっ
ている。
中心的な研究課題としては、初中高等教育や生涯学習での情報通信技術の活用(システ
ム開発や活用手法の提案、効果の測定など)、先進的なコミュニケーションシステムを活用
した遠隔協働学習、ネット上で行われる教育実践であるe ラーニングのシステムや教材の
設計や評価、環境や生体反応を測定するセンサー情報処理技術の活用などである。テクノ
ロジーに関連する研究もあるが、焦点はあくまで人間の学習やコミュニケーションにある。こ
れからの時代の教育方法のあり方を研究してみようという学生を歓迎する。
教授(兼任):
前迫孝憲
准教授:
西森年寿
准教授【兼任】:
齊藤貴浩
教育コミュニケーション学
人間のコミュニケーションと思考を探求する
【研究課題】
■ 思考支援のコミュニケーションに関する研究
教育コミュニケーション学研究分野では、人間の認知特
性、とりわけ思考特性およびコミュニケー ション特性につ
いて把握した上で、合理的・創造的な思考を支援するた
めに効果的なコミュニケーショ ンのあり方を科学的に追
究しています。人間一般や他者、自分自身の思考特性およびコミュニケーション特性を理解
するためには、人間の認知活動をより高次の観点からとらえる「メタ認知」が不可欠で す。
そこで、当分野では、メタ認知を重視しています。
研究の進め方としては、主として認知心理学や教育心理学、教育工学などの知見・方法
論を用います。当分野では、思考・コミュニケーションに関する基礎的な実証研究(実験研
究、および調査を含めた観察研究) から学習・教育に関わる開発研究までの広い範囲をカ
バーしています。人間の心理メカニズムについて実証的にとらえたいという意欲を持ち、加
えて、思考やコミュニケーションの改善・教育に強い関心を持つ学生を歓迎します。
教育コミュニケーション学のホームページ… http://edcom.hus.osaka-u.ac.jp/
教授:
三宮真智子
助教:
大谷和大
教育心理学
学びの場を作ろう、活かそう
【研究課題】
■ 非行・犯罪の心理学と行動変化のための働きかけに
関する研究
■ 被害体験による影響とその回復に関する研究
教育心理学研究分野では、社会の中における個人の
情緒的・社会的発達とそのつまずき、そこからの回復の
道筋と方法について実践的研究を進めている。とくに非
行・犯罪・暴力行為がどのように生起し、それが個人と社会にどのような影響を及ぼすの
か、それに対して私たちはどのように対処することができるのかをテーマとしている。情緒
性・社会性の発達に即した行動変化のための教育心理学的働きかけと、子どもたちの成長
を支えるための環境や体制をどのように作っていくのかが課題である。
非行・犯罪・暴力の被害と加害からの回復の手段としては特に、再犯率低下の効果が実
証されている認知行動療法や治療共同体を中心に、グループワーク、被害者加害者対話な
どの、言葉にすることと人とつながることによる内的・外的コ ントロールの習得を重視してい
る。学生たちは、質問紙調査等の量的研究およびインタビュー等の質的研究方法について
学ぶとともに、フィールドに出て、実際に非行少年や犯罪者たちと関わり、実践力を身につ
けることが推奨されている。 主なフィールドは、子ども家庭センター、児童自立支援施設、刑
務所などである。
教育心理学のホームページ… http://kyoshin.hus.osaka-u.ac.jp/
教授:
藤岡淳子
准教授:
野坂祐子
特任講師(常勤)【兼任】:
上原秀子
臨床心理学
多様な観点から臨床実践と研究に触れる
【研究課題】
■ 不登校、自閉症、脳性まひなどへの臨床動作法や統
合失調症の他者認知の研究
■ 心理療法における宗教性、心身相関、自己愛の傷つ
き、発達障害傾向、イメージの変容に関する研究
■ 社会的場面における不安や恐怖への認知行動療法と
実証的研究
■ 心理療法、生涯発達における語り(ナラティヴ)と記憶想起の機能の研究
■ 非行・犯罪の心理学と行動変化のための働きかけに関する研究
■ 生涯発達の段階、病態水準、心理療法の行われる場の違いによる心理療法のプロセス
および治癒因子の研究
臨床心理学研究分野では、さまざまな心理的問題の発生過程と克服過程についてあるい
はその本質や関連領域との接点について多様な観点から実践的研究を進めている。大学
院生も各自の関心を活かし、非常に幅広い領域で研究を進めている。
井村は、主として臨床動作法を用い、障害を持つ子どもたちの心身の活性化や、コミュニ
ケーションスキルの発達促進的援助などを実践している。また統合失調症における他者信
念の理解や対人感情認知の実験的研究も行っている。
老松は、ユング心理学と精神医学の立場から臨床と研究をしており、心理療法における宗
教性やスピリチュアリティ、心と身体の関係、自己愛の傷つきと癒し、発達障害傾向の深
層、イメージを介した治療のプロセス、アクティヴ・イマジネーションの洗練などをテーマとす
る。
野村は、語り(ナラティヴ)の観点から、心理療法の諸理論に通底する有効要因やプロセ
スを研究している。また、日常的な語りや記憶想起が生涯発達に果たす機能にも関心をも
ち、高齢者の口述生活史を研究している。
佐々木は、学生相談所や精神科において青年期のクライアントを対象に臨床実践を行っ
てきた。社会的場面でも生じる認知や感情に特に関心があり、自我漏洩感をはじめとした
様々な臨床心理学的テーマに関して、基礎心理学の理論や方法論を援用しながら実証研
究を進めている。
藤岡は、攻撃行動や反社会的行動が主たる問題となる人々を対象に、そのアセスメントと
トリートメントを実践している。特に、包括システムによるロールシャッハテスト、性暴力加害
者の加害行動変化のための個別およびグループ療法、被害者と加害者の直接対話が専門
である。
石金は、学生相談を主として、精神科やカウンセリング専門機関での臨床実践を行ってい
る。対象者や臨床の場の特性により、治療者がいかにプロセスに参与するのか、または治
療因子となりうるのか、臨床経験をもとにして研究課題として探究している。
また、当分野は(財)日本臨床心理士資格認定協会から第1種指定大学院として指定され
ており、本分野で大学院の博士前期課程を修了し、所定の単位を取得すれば、臨床心理士
の受験資格が得られる。
[心理教育相談室]
当分野の人間科学研究科附属「心理教育相談室」は、一般市民を対象にカウンセリング
やプレイセラピーなどの臨床実践を行っており、大学院生は当相談室でケースを担当し、心
理療法や心理アセスメントの技能についての訓練を受ける。
教授:
老松克博
教授:
井村 修
教授(兼任):
藤岡淳子
准教授:
佐々木淳
准教授:
野村晴夫
准教授【兼任】:
石金直美
助教:
管生聖子
助教:
藤野陽生
教育環境学講座
人間形成と教育を科学的に探究する
環境教育は分かるけれど「教育環境」という言葉はやや聞き慣れない、と思われるかもし
れません。人の誕生から幼児期、児童期、青年期、成人期、そして老年期に至るまで、私た
ちを取り巻いている「環境」は、人間の成長・発達 にとても大きな影響を与えています。環境
には「人的」なもの、「空間的」なもの、 「時間的」なものあるいは「動的」なものなど、多様な
側面があります。現代のように複雑化・高度化した社会では、個人の環境そのものの多様
化も急速に進んでいます。それらの環境が正しく理解され、教育・学習の機会が適切に保障
されなければ、人間のよりよい成長・発達あるいは学びが阻害されてしまう可能性がありま
す。すべての人間にとって、教育環境が重要なことは言うまでもありません。
教育環境学講座は、教育社会学,教育制度学、生涯教育学、教育文化学の4つの研究
分野から構成されています。教育の場は、家庭や学校だけではありません。図書館や公民
館などの地域の施設、働く場所や、住んでいる地域、イン ターネットによる情報空間など、
多種多様なものが存在します。近年では、教育の国際化や、情報化も急速に進んでいま
す。本講座では、このような学びの場所や機会が、今どのような状態にあるのか、これまで
どのような変化をたどっ てきたのか、そして今後はどのような形態や組織構造になっていく
と予想されるのかなどについて、人間科学の学際的な視点で、また量的・質的なデータ分析
あるいはフィールドワークなどを通して、現代社会の教育環境に関する問題解明に取り組
み、それらの成果に基づいた中・長期的な計画の策定をめざして います。
個人の状態や内面に焦点をあてる「臨床教育学講座」とともに、人間を取り巻く環境条件
をどのように「最適化するか」を考えることはきわめて重要なことです。本講座は、臨床教育
学講座とともに教育学系を構成し、人間科学の観 点から教育学の新たな分野の開拓に挑
戦しています。
教育社会学
教育制度学
生涯教育学
教育文化学
教育社会学
社会調査データや統計資料などから実証的にアプロー
チ
【研究課題】
■ 教育機会、教育と社会移動に関する計量的研究
■ 教育と階層・労働市場に関する実証的研究
教育社会学は、教育学と社会学の境界に生まれた経
験科学であり、教育事象を社会学の概念や方法を用い
て研究する学際的な学問として発展してきた。さらに最近
では、学校制度が社会生活のなかに遍く浸透することに
よって<教育社会>という固有の関心領域が生まれ、そ
の実態解明のためにこれまで以上に学際的な取り組みがなされるようになっている。本研
究分野では、そうした教育と社会の現実的な関連、変化のダイナミズムなどに焦点をあてて
理論的および実証的な研究を進めている。
図は、過去1世紀の日本社会における教育達成の様子を、ホワイト カラー層出身者とブ
ルーカラー・農業層出身者とに分けて整理したものである。 各時代背景のもと、出身階層と
教育の関連が安定的に推移してきた様子が描かれ ている。このような客観的資料により示
される教育の現実を対象に、「なぜこのような関係が成り立つのか」「日本の現実は諸外国
の場合とどう異なるのか」「問題を改善するにはどんな取り組みが有効か」といった問いが
探求されることにな る。そうした探求を通して現代日本の教育と社会の現実に迫ることが、
教育社会 学の大きな課題となる。
教授:
近藤博之
准教授:
中澤 渉
教育制度学
学校現場に元気と自信を
【研究課題】
■ 生徒・保護者・地域住民と学校・教職員の関係構造と
参加制度に関する研究
■ フランス・EU教育政策に関する比較研究、移民の学
業達成に関する研究
本研究室では、国内外の教育制度や教育政策に関心
のある学生をお待ちしています。具体的には、日本社会
の国際化は教育界においても喫緊の課題となり、戦後の教育体制の見直しを迫られていま
す。外国人だけではなく、国籍に関係なく異文化に育つ子どもにとって開かれた教育制度・
教育政策とは何か。こうした問題により早くから取り組んでいる先進地域との比較から研究
に取り組みたいと考える学生を歓迎します。
小野田は、特に公教育経営をめぐる諸問題を、学校という組織を中心に分析し、行政権力
-学校、学校-家庭・保護者・地域、教師-生徒、といった諸関係の内実を明らかにしよう
とします。
園山は、多民族国家として社会統合に腐心するフランスの教育政策や、EU各国との比較
教育制度研究に取り組んでいます。
教育制度学のホームページ… http://educational-policy.hus.osaka-u.ac.jp/
教授:
小野田正利
准教授:
園山大祐
生涯教育学
一人ひとりが充実した人生を送るための生涯教育
【研究課題】
■ 多文化教育と人権教育に関する研究
■ ジェンダーと教育に関する研究
■ 教育の国際化研究、多文化共生社会論、ジェンダー
研究、セクシュアリティー研究
本研究分野では、学校教育や社会教育など、生涯教育
についてさまざまな角度からアプローチするが、特に不
平等の是正や社会的公正の実現という観点から研究を行っている。人種、民族、国籍、性
別、社会階層、社会的・地理的出身、年齢、障害の有無等の多様な差異に着目し、公正と
民主主義を実現する立場から、公教育の理念・制度・カリキュラム・教材を再構築する必要
性が強調されている。また、グローバル化の進展とともに、教育の国際化に関わる新たな課
題が登場し、国際的・多文化的な環境におけるカリキュラム開発や教育の質保障など、多
様な観点から研究をすすめることが近年強く求められている。
一人ひとりが充実した人生を送るためにも、より民主的で公正な社会を実現することは生
涯教育の基本的課題である。さまざまな場における教育・学習を通じて、学習者は自らが
抱える問題を解決する道や問題解決を可能とする社会のあり方を模索するのであり、公正
な社会を実現するためには、あらゆる集団や個人のエンパワメントを支援する教育のあり
方が重要になってくる。
したがって本研究分野では、社会的公正や民主主義を実現するための生涯教育について
調査研究や理論分析を行い、政策提言や具体的な教育実践に資する研究の推進に取り組
む。
生涯教育学のホームページ… http://lifelong.hus.osaka-u.ac.jp/
教授:
平沢安政
教授:
木村涼子
教授(兼任):
山本ベバリー・アン
教授【兼任】:
有川友子
教育文化学
文化としての教育を考える
【研究課題】
■ 教育システム・学校文化に関する社会学的研究
■ 地域の教育力、学校と地域の連携・協働に関する研
究
「不登校」「いじめ」「低学力」「教師のバーンアウト」等、
学校を舞台として、今日さまざまな問題が生じている。そ
れらの問題は、個々の子どもや教師、個別の教室や学
校の問題であるとともに、学校の文化や組織・制度総体が生み出している問題でもある。な
ぜそのような現象が社会的に生み出さ れているのかを社会科学的な視点から明らかにし
たうえで、個々の問題を診断し、介入の手立てを探求する。さらに、よりよい教育文化・学校
文化の構築のために何ができるのかを、理論的・実践的に追究する。
現在のスタッフが扱っている具体的な研究テーマには、以下のようなものがある。
1.
2.
3.
4.
5.
6.
学校文化と教育改革に関する国際比較研究
学力格差是正と学校改善についての理論的・実践的研究
マイノリティ集団の学校経験に関するフィールド研究
教員文化の特性と現代的変化に関する実証的研究
家族の教育文化の変容に関する質的研究
教育コミュニティの構築にかかわる理論的・応用的研究など。
教育文化学のホームページ… http://kyokei.hus.osaka-u.ac.jp/
教授:
志水宏吉
准教授:
高田一宏
助教:
伊佐夏実
人間開発学講座
グローバルな視点とローカルな知を融合する研究と実践
現代世界はグローバル化の進展により、政治構造、経済格差、社会生活などの面で大き
な変革期の渦中にある。また、貧困の深刻化、紛争の頻発、人口・ 食糧問題、資源・環境
問題、教育機会の欠如、感染症の拡大など地球規模での種々の課題が山積し、人びとの
平和で安心できる生活を確保することが、きわめて困難な時代を迎えている。このような世
界情勢において、一人ひとりの人間が輝きを保ちながら生活し、自らの生きる社会を創造的
に築き上げていけるかど うかという課題への取り組みが、強く求められるようになってきた。
人間開発学講座は、人間の生活基盤の保障を追求するために、生活改善、教育、 保健
医療、環境、紛争と人間の安全保障、飢餓、ジェンダーなど人間開発学の視点に立脚し、国
内・国外で活躍する人材の育成と社会実践に資する研究の推進をその使命としている。ま
た、こうした諸問題を対象として、国際機関、政府開発援助(ODA)機関、海外・国内の政
府・大学・研究機関、国内・国外のNPO・NGO、ボランティア団体などと幅広い連携を保ち
つつ、学際的なアプローチを通じて教育・研究を行っている。このように本講座では、フィー
ルドにおける実践とアカデミックな学際的理論を有機的に結合し、人びとの暮らしに直結し
た生き生きとした学問の創造を目指すことをその理念として掲げ ている。
人間開発学講座は、「国際協力学」、「紛争復興開発論」、「国際社会開発論」、「多文化
共生社会論」、「人間環境論」の5つの研究分野から構成されており、多文化社会としての
日本の現状も視野に入れつつ、地球規模の諸問題に対する基礎的研究ならびに問題解決
を目指した実践的研究を連動して行っている。またこれら研究分野および同専攻内の地域
研究講座と相互の緊密な連携を図るとともに、学内における多元的な学問分野との共同に
よる横断的・学際的アプローチも積極的に推進している。
本講座の教員は、国内・国外における多様な研究フィールドを持ち、実践的研究を含む活
発な研究成果の蓄積を有している。また、教育面においてもフィールドワークを積極的に取
り込み、学生・院生も様々なフィールドでの調査研究を遂行している。さらに本講座として、
学外および国際的な種々の支援活動にも携わっている。
国際協力学
紛争復興開発論
国際社会開発論
多文化共生社会論
人間環境論
国際協力学
実践と理論を統合する学びの場
【研究課題】
■ 国際保健(特に途上国の母子保健や地域保健など)
■ 国際教育開発(特にアフリカ地域を対象)
発展途上国の人びとの健康や教育、貧困問題など、幅
広い分野にわたり学際的な研究を行っています。国際協
力機構などの政府開発援助(ODA)、国際ボランティア団
体(NGO)、国連機関、途上国の大学や研究所などと幅
広い連携を保ちつつ、フィールド活動を重視し人びとの生活に密着した研究をめざしていま
す。
とくに、途上国の子どもたちや地域の人びとのニーズを大切にし、人びとの暮らしに寄り添
った保健や教育のあり方を研究し、その実践を試みることが必要です。フィールドにおける
実践とアカデミックな理論を有機的に統合することにより、生活に直結した生き生きとした学
問の場にしたいと考えています。
教員や学生のフィールドとしては、インドネシア、ラオス、モンゴル、ケニア、モロッコ、メキ
シコなど広く世界各地域にわたり、アジア、アフリカ、中南米などから多くの留学生が学んで
います。また、多文化 共生社会の視点から、日本国内における研究活動も重視し、在住外
国人に対する教育や保健医療問題にも取 り組んでいます。
国内外でのフィールドの経験を持ち帰り、科学の言葉で語り合う「知のワンダーランド」を
志向する皆さんの参加を望んでいます。
教授:
中村安秀
教授:
澤村信英
紛争復興開発論
人びとによりそう人道支援を考える
【研究課題】
■ 国際人道支援とその評価
■ 人間の安全保障
■ 平和構築論
■ 紛争地研究
近年、大規模な自然災害や武力紛争が多発し、世界各
地で難民や国内避難民となる人びとが増えています。そ
れに伴い国際機関、政府機関、NGOなどが、大規模な人道支援を行うようになりました。紛
争復興開発論では、人間の安全保障の考え方をふくむ、平和構築にかんする理論や概念
を学びます。そのうえで、紛争や自然災害 によって破壊された社会に対して国際社会はど
のよう な人道支援ができるのか、という課題に取り組みます。
被災社会と良好な関係を取り結び、共生を可能にす る人道支援を実施するためには、紛
争や災害の要因を考慮し、支援を住民の生活世界にもとづかせることが大切です。そこで、
地域研究のアプローチと「人間の安全保障」の概念を取り入れ、支援内容が支援する側の
価値観に偏ることのないよう、地域社会の視点を重視します。そのうえで、住民主体の復興
開発を実現する人道支援に対する社会提言をおこないたいと考えています。海外の人道支
援だけでなく、東日本大震災に対する人道支援の考察もすすめています。
教授(兼任):
中村安秀
准教授(兼任):
石井正子
国際社会開発論
地域に根差した持続的発展を探る
【研究課題】
■ 集団型農業・農村開発、マレーシア先住民社会研究
■ 地域開発活動、スポーツを通じた開発に関する研究
国際社会開発論は、人々の暮らしそのものを重視する
人間開発の視点に立脚し、さまざまな地球規模の課題の
解決を目指す単位としての「社会(Community)」に焦点を
当てる。国際社会、特に開発途上国を対象にしたフィー
ルドワークを通じて、多様な価値観を汲み入れた参加型開発や内発的活動のあり方と、そ
れに関わるアウトサイダー(開発実践に携わる者と研究者を含む)と住民の関係のあり方を
実践的に探る。
神前は、農村地域の生活基盤となる天然資源の持続可能な参加型管理を基礎にした食
料安全保障の達成と収入創出をめざすための、持続型農業や住民参加型森林管理などの
手法を用いたローカルレベ ルでの自立的な資源循環型社会の構築をめざすための実践的
方法を地域に即して考えていく。
岡田は、「集まる」というキーワードを糸口にコミュニティの内発性に着目し、社会運動や小
規模な開発実践の事例を検証する。分野的には、青少年教育、ノンフォーマル教育、 スポ
ーツを通じた開発に該当し、各々のプログラムを通じて、地域が有する失業、非行、 麻薬、
軽犯罪などの一見、日常的で固有性の高い問題へのアプローチ方法と援助の可能性 を探
る。
准教授:
神前進一
准教授:
岡田千あき
多文化共生社会論
多様性に基づいた豊かさを考える
【研究課題】
■ 日本近現代史、アジア女性史、ジェンダー論
■ ラテンアメリカの民衆文化とその実践的応用に関する研究
この分野では、地球上の各地でグローバル化が進展する現代
社会の中で、国内外の異なる社会カテゴリーや文化、民族に属す
る複数の集団や個人が、対立を回避して尊重し合い、豊かに共
存してゆく方法に関する研究を行っている。
藤目の専門は、現代史とジェンダー論であり、冷戦と軍事主義、
女性の地位や役割を規定してきた国際環境、 国家の家族・性政
策、平和・平等・開発を志向する国際女性運動、グローバル化の女性に対するインパクトな
どをテーマとしている。最近は「占領軍被害の研究」と「冷戦時代の国際女性運動」の研究プ
ロジェクトに取り組ん でいる。
千葉の専門は、ラテンアメリカの民衆文化とその実践的応用であり、音楽や現地語(スペ
イン語、先住民語) を用いたフィールド調査の方法、多文化の融合を通じたラテンアメリカ民
衆文化の形成プロセス、現在の先住民族復権運動(主にチリ)、教育や開発における「自分
らしさ」の活用、音楽を通じた自己表現の方法などを主な研究テーマとしている。
多文化共生社会論のホームページ… http://tabunkakyosei.hus.osaka-u.ac.jp/
教授:
藤目ゆき
教授:
千葉 泉
人間環境論
環境のあり方をともに考える
【研究課題】
■ 「迷惑施設」の立地をめぐる紛争と合意形成に関する
研究、環境問題と公共性
■ 文理融合を基軸とする環境問題の学際研究、環境修
復・リサイクル技術開発、食と環境
人間環境論では、世界各地で発現している様々な環境
問題を環境の価値の損失ととらえ、それを人間にとって
価値のあるものとして実現していく方向性を論じてゆく。この価値ある環境とは、「安全」で、
「資源の豊かさ」、を保ち、「文化的価値」を備えたものを意味している。
しかし、人間にとって価値を持つとはいえ、無制限な追求が許されるわけではなく、有限性
な資源や生態系の価値を、この地球上に生きるすべての人々さらには未来世代と共有しな
ければならない。また人間社会における文化の多様性に応じて、自然の価値の具体的なあ
りようも多様な形をとるため、その多様性を前提にした上での環境の価値の共有が求めら
れており、そのプロセスはコミュニ ケーションを重視することになるであろう。
コミュニケーションの重要性は、異文化間交流にとどまるものではなく、環境問題の多様
な側面に鑑みて、市民と専門家が、あるいは自然科学系の研究者と社会科学系の研究者
が、問題の発見や解決に向けて知識や情報を交換することが必要である。すなわち人間環
境論は、世界的な共通課題である環境問題を人間の生活の次元でとらえ、その解決の営
みを、様々なレベルのコミュニケーションを通じた環境の価値あるいは価値の損失の発見
と、価値の共有のプロセスとして考察してゆく。
人間環境論のホームページ… http://env.hus.osaka-u.ac.jp/
准教授:
小林清治
准教授:
三好恵真子
地域研究講座
グローバルな視点とローカルな知を融合する地域研究
急速に進む経済や情報のグローバル化、世界規模での人々の移動と交流は、 人間と空
間との関係を重層的で複雑なものとしている。本講座ではこのような 状況に対応すべく、地
域の固有性を探求する従来型の地域研究を基礎としながらも、複雑化する世界の諸領域に
ついての学際的で複眼的な、新たなる地域研 究をめざす。そこでは地域の言語を駆使し、
地域の知を理解すること、新たな地域区分の発見による固有の地域研究の構築が求めら
れよう。
本講座は、平面的かつ固定的な地域区分にはよらずに、
1.
2.
3.
4.
地域の動態に関する研究分野:動態地域論
空間からの人の離脱や回帰に関する研究分野:超域地域論
地域内および地域間の構造・権力・秩序に関する研究分野:地域秩序論
人と空間との関わりあいのなかでの知識に関する研究分野:地域知識論
を設定する。
これらの研究分野を探求する上で、本講座では研究対象地域との相互関係を重視し、対
話のチャンネルを確保しながら教育研究をデザインする。地域固有の特性を深く理解し、地
域の視点に根差しながら地球規模で思考する人、つまりスペシャリストでありゼネラリストで
ある人、こうした人材を育成することが本講座の教育目標である。
グローバルな課題に直面している国や地域においては、その固有の文化や社会経済構造
に目を向ける必要がある一方で、複数のディシプリンの境界に目が 向けられ、新たな知識
体系を生み出すための学際的なアプローチが必要となってくる。さらにアカデミズムの領域
にとどまらず、理念の実現に向けたあらゆる社会諸勢力との協働といった実践的活動も重
要な課題となってくる。本講座では、こうしたフィールドとアカデミックな理論の有機的統合と
いう理念のもとに、さまざまな研究の機会を提供していく。
動態地域論
超域地域論
地域秩序論
地域知識論
動態地域論
社会や歴史などから地域を考える
【研究課題】
■ 東南アジア地域現代社会動態論
■ 東中欧地域歴史動態論
本研究分野は、グローバル化が進行する現代社会に
おいて、それぞれの地域が直面している政治・ 経済・社
会・文化の諸問題を長期的な歴史射程の中で動態的に
捉え直すことを目的としている。すなわち、それぞれの地
域の固有性と多様性の再発見・再構成を足がかりにしつつ、現代世界が抱えるグ ローバル
な問題と地域社会とのかかわりを動態的に解明するための学際的な研究を行う。
ローカルな視点から地域社会を把握したり、研究対象地域が抱えている諸問題をよりよく
理解するためには、それぞれの地域が持っている歴史的背景や特性についての深い知識、
それらを比較の文脈のなかに位置づけていく洞察力、そして優れた言語運用能力が求めら
れる。
地域研究はディシプリンが曖昧な学問領域と言われて久しいが、本研究分野では、歴史
学、社会学などの既存の方法論に依拠しながらも、異文化理解や国際協力に資するような
新しい地域研究の理論構築に向けての研究を目指している。
教授:
河森正人
准教授:
鈴木広和
超域地域論
接触面から
【研究課題】
■ 文化の変容と創造、人口移動、ハイブリディティ、トラ
ンスナショナリティ
文化が生み出される場所とはどういった場所なのであ
ろうか。超域地域論は、この問いに対する答えを、主とし
て東アジア、東南アジアにおいて、文化が接触するように
見える個々の局面に働く社会的力学の解明を通して探求します。こうした力学には、ある地
域からの人の移動を生み出す力や人を 土地に結びつける力、ある地域に一体性をもたら
す力、逆に、それを解体し、変化させる力などが含 まれます。これらの諸力が最も顕著に現
れる局面として、人の移動と定着、とりわけ東アジアや東南 アジアにおける中国系移民の
人口移動は、超域地域論の主要な関心領域ということになります。加えて、文化が接触する
局面での身体的、社会的、政治的な変化も、超域地域論の視点から議論することのできる
研究対象になります。
超域地域論における研究手法は、地域や事例の個性を重視する地域研究のアプローチ
にしたがい、 主にフィールドワークが中心になります。超域地域論であつかう研究課題に
は、つぎのようなものが あります。
1. 人の移動や接触の量的、質的変化が生ずる局面において、クレオールの身体、衣
服、 都市などを題材として、人と土地との間の社会的力学を解読する。
2. 近代国民国家、および東アジア的近代の歴史的発展過程を地域の個別性に配慮して
解明する。
3. 異なる文化システムが接触する局面でどのように文化の革新や創造が見られるかを
明らかにする。
准教授【兼任】:
宮原 暁
講師【兼任】:
島薗洋介
地域秩序論
地域研究と人間開発を結ぶ
【研究課題】
■ 中国・中央アジア諸国など現代シルクロード地域の社
会開発、国際保健・人口学
グローバル化する現代社会では、大国中国の変容は
東アジアや周辺諸国との地域秩序のみならず国際秩序
にも 多大な影響を及ぼす。世界最大の高齢化人口を抱
えなが ら、高度経済発展を遂げる中国は、被援助国であ
りなが ら、資源獲得の目的も背景にアラブ・アフリカ諸国への援助国でもあり、世界動向に
少なからず影響を与える国連常任理事国である。また、ソビエト崩壊に伴う中央ア ジア諸国
の独立を契機にシルクロード地域における中国との人と物の交流が再開し、新しいダイナミ
ズムが起きている。中国では国の威信をかけて開催した北京オリン ピックを前に世界の注
目を浴びる事件が次々と起きた- SARS など感染症流行、少数民族、環境、食の安全、情
報公開と規則、国内格差、四川大地震。その間、国際社会への中国の関わり方や国際機
関や世界各国との関係も大きく変容している。これらの切り口を含め、国際協力・ 社会開発
学、国際保健・人口学、社会政策学、社会学、ジェ ンダーなどの多角的視点から、変容する
現代社会における地域秩序とは何かを模索する。方法論の確立はもとよ り、中国語をはじ
め研究対象地域の言語の習得も重視し、現地調査を伴うアプローチが奨励される。
准教授:
大谷順子
地域知識論
ローカルな知から人間を考える
【研究課題】
■ 北アジアの民族学に関する研究、東南アジア諸民族
の歴史人類学
■ 東南アジアにおける上演芸術研究(音楽・舞踊・物語・
ジェンダー)
■ ベトナムにおけるフード・セキュリティ/セーフティ、植
物利用、記憶
■ 文字からみるアラブ世界-文化・歴史の複合的研究
地域知識論は、人と地理的空間との関わり合いの中に生ずる知識のあり方について考え
る学問分野である。ここであつかう知識は、学校などの教育機関で想定されるような体系化
されたものには限定 されない。たとえば、自然との共存のしかた、神あるいは目に見えない
存在との関係のとり方、民間医療の技法、工芸や上演芸術の技芸の伝承、社会における人
間関係のとり方や適切な行動様式の体得、言葉の意味や文字の習熟など、様々なものを
含んでいる。これらの知識は、地域によって独自のやり方で培われ、伝えられてきた。
地域知識論は、こうした豊かな知のあり方を研究対象としている。この研究分野では、物
質文化、文学、芸術、芸能、言語、遊び、儀礼と世界観、文化政策などのテーマを設定し
て、それぞれの研究スタッフが調査している地域における事例を検討する。
そして対象社会における知識のあり方の独自性を理解し、われわれの社会における知識
との共有の可能性についても考えていきたい。授業の中では、フィールドワークの方法論、
研究テーマに関連する学問分野の理論的研究、対象地域の言語習得をはじめとする地域
研究ゼネラリストとしてのスキルの習得などに取り組むことを重視する。
教授:
ZGUSTA Richard
教授【兼任】:
近藤久美子
准教授:
福岡まどか
准教授【兼任】:
住村欣範
国際交流室
国際交流室は、本研究科/学部において留学と国際交流
を奨励・促進するために設置されました。近年受け入れ
人数が増加しつつある海外からの留学生に対して、生
活、教育・研究に関する様々なサポートを行う一方、海外
への留学を希望する在学生に対する情報提供などの支
援にも力をいれています。また、海外の大学や研究機関
との協定など、学術的な国際交流をさらに深めるための
活動にも従事しています。国際交流室の発行するニュー
スレター”OIE Bulletin” には、留学生の活動や海外研修生の受け入れ、在学生の海外留学
や海外研修についての記事に加え、各種奨学金や交流プログラムに関する情報が掲載さ
れています。人間科学研究科・人間科学部ホームページからアクセスできますので、海外留
学や国際交流活動に関心のある皆さんは、是非参考にしてください。
国際交流室のホームページ… http://oie.hus.osaka-u.ac.jp/
室長/教授(兼任):
NORTH Scott
講師:
上田 博司
学生支援室
学生支援室では、専任教員が学生の就職・進路支援や、
インターンシップの実施、学生の生活上の諸問題(ハラス
メント問題を含みます)の相談に応じ、問題解決の援助を
行います。また、卒業生との連携の促進や入学希望者へ
の広報なども行い、豊かで充実した学生生活を支援しま
す。
学生支援室のホームページ… http://sso.hus.osaka-u.ac.jp/
室長/教授(兼任):
佐藤眞一
講師:
前馬 優策
附属比較行動実験施設
霊長類、特にニホンザルを対象として、子ザルの発達
や、母子関係、仲間関係などの行動を研究しています。
野生ニホンザルの行動を観察するための野外観察施設
が岡山県真庭市に設けられています。
約160頭のサルには、すべて名前がついており、生年、
血縁関係もわかっています。動物園などで、ニホンザル
以外の哺乳類の行動研究も行っています。
附属比較行動実験施設のホームページ… http://esl.hus.osaka-u.ac.jp/
施設長/教授(兼任):
志村 剛
教授(兼任):
中道正之
教授(兼任):
熊倉博雄
准教授(兼任):
八十島安伸
講師:
山田一憲