物理学実験用ビデオ教材の開発

物理学実験用ビデオ教材の開発
所 属:教育支援室
氏 名:川崎 博之
e-mail : [email protected]
1. はじめに
低学年向け物理学実験では、黒板や OHP を用いて実験の説明を行ってきた。しかし、最
近の学生は手作業や実験を経験してない者が数多く見受けられ、従来の説明方法だけでは
学生が実験内容を十分に理解しているとは言いがたくなっている。このことに対応して、
我々は実験内容が分かり易くなるように、また学生がより理解できるようにビデオ教材を
用いて実験の説明を行うことにした。
2. 従来の説明方法
低学年向け物理学実験には 10 テーマの実験があり、そのなかに光学と呼んでいる実験が
ある。光学はプリズムによって分散した線スペクトルの屈折率と振動数の関係を調べる実
験で、分光計(図 1)の望遠鏡部を覗き込んで測定を行う。そのため、この実験は望遠鏡の
内部の様子を学生に説明する必要があり、従来は黒板や OHP を用いて説明を行っていた。
例えば、望遠鏡のピント調整においては、図 2 のような静止画を用いて「背景とクロスワ
イヤーの両方にピントを合わせる」ことを説明し、線スペクトルの測定方法においては、
図 3 を用いて「分光計の台を一方向に回転させているにも関わらず線スペクトルの移動方
向が逆転する」ことを説明してきた。しかし、このような静止画のみによる説明では、学
生に望遠鏡の中の様子をすばやく、また正確に連想させることが困難なため、学生にうま
く説明しているとは言いがたい状況であった。
そこで、望遠鏡内の様子を学生が容易に想像できるように、ビデオ教材を用いて実験の
説明を行うことにした。これにより望遠鏡の中の様子が一目瞭然になるため、学生の実験
に対する理解度があがり、
学生は正確な実験データをより早く測定することが可能となる。
3. ビデオ教材の作成
ビデオ教材の作成は、制作方針、シナリオ、撮影場所、スケジュール等を決めてから撮
影を行い、その後、映像編集、ナレーション、効果音、アニメーション・テロップの編集
を行う手順が標準的な作成方法である(図 4)。しかし、光学のビデオ教材はすべて自作で
あるため、制作の方針、シナリオ、撮影場所が既定事項となり、ビデオ教材の作成手順は
図 5 になる。
3.1 撮影
市販されているデジタルビデオカメラを用いて、実験中の様子、望遠鏡の内部、測定器
具等の撮影を行った。望遠鏡の内部を撮影する場合、映像がぶれないようにカメラと望遠
鏡を固定した状態で撮影を行うようにした。そのため、望遠鏡を動かした時の中の映像を
撮るには、対象物を動かして撮影を行っている。例えば「台を一方向に回転させているに
も関わらず、線スペクトルの移動方向が逆転する位置にクロスワイヤーを合わせる映像(図
3) 」を撮影する場合、本来はプリズム台を固定し、望遠鏡を移動させて調整を行うが、撮
影では望遠鏡を固定し、分光計の台を動かすことで線スペクトルが移動している様子を撮
り(図 6)、編集であたかも望遠鏡が移動しているようにみせる工夫をおこなった(図 7)。
3.2 編集
撮影した映像と録音した音声は Apple 社から市販されているソフト Final Cut Pro 3 で
編集を行った。編集においては、画像とナレーションの時間調整、区切りごとに入れるタ
イトルの作成、映像切り替わり時のフェードインフェードアウト、効果音とテロップの挿
入を行っている。望遠鏡のピント調整を編集例にすると、撮影した望遠鏡の中の映像(図
8)を縮小・位置調整を行い、実験を行っている映像(図 9)に重ね合わせ、その映像に調整
用つまみを示す矢印と説明用のテロップを挿入する(図 10)。この時、望遠鏡の中の映像、
実験を行っている映像、テロップ、矢印の動作タイミングに配慮しながら編集を行う。そ
の後、編集した映像に、ナレーションや効果音等の挿入を行う。
3.3 校正
作成した実験説明用ビデオは、実際の実験の説明で使用し、学生の反応をみながら、説
明不足や映像の追加、映像の切りかわり時間の調整、不鮮明な画像の差し替え、不適切な
ナレーションの取り直しを行っている(図 5)。また将来的に、実験の環境が変更した場合
でも、大幅な改定でない限り、自作ビデオでは映像の差し替えやナレーションの部分変更
で対応することが可能である。
4. メディアの作成
作成したビデオ教材をビデオテープの方式で利用すると、巻き戻しや早や送りをする必
要がある。これは教員の実験説明・学生の再視聴として利用するには、非常に使い勝手が
悪い。そこで利便性を良くするために、テープ方式でなく DVD を用いることにした。これ
により、教員や学生が見たい映像を瞬時に視聴することが可能となる。また DVD はテープ
方式よりも画像の劣化が非常に少なく、鮮明な画像を長期間保持することが利点である。
4.1 DVD
DVD を作成するには、編集前にチャプター画面を用意する必要がある。チャプター画面
は Illustrator で背景を作成し、その画像をもとに「ビデオの頭だし選択画像」・
「非選択
画像」
・「決定画像」を Photo Shop で作成する(図 11)。次に DVD Studio Pro(Apple 社)を
用いて、ビデオの頭だし時間の選定、コンピュータに取り込んだビデオの映像と作成した
チャプター画面のリンク、チャプター画面におけるボタンの動作、タイトル等について編
集する。その後、Toast(Apple 社)を用いてメディアに書き込めば DVD を作成することが出
来る。
4.2 利用状況
DVD は教員説明用に 1 枚、学生視聴用に 2 枚作成した。教員は作成した DVD を用いて実
験の説明を行い、学生は教員の説明の後、テレビのモニターで視聴することが出来る(図
12)。
5. 学生による評価
作成した教員用 DVD・学生用 DVD は、
ともに平成 15 年度から実際の実験で使用している。
また、学生のアンケートでは「DVD は役に立つ」という意見が数多く見受けられ、中には
「昨年度も物理学実験を受講したが、今年はビデオがあったために数倍わかりやすい授業
に感じた」という学生もおり、おおむね良好な回答を得ることができた。
図 1 分光計
図 3 線スペクトルの移動
図 5 光学のビデオ作成の手順
図 2 望遠鏡の中
図 4 標準的なビデオ作成の手順
図 6 望遠鏡の中の線スペクトル
図 7 線スペクトルの測定
図 9 実験風景
図 11 チャプター画面(選択画像)
図 8 望遠鏡の中
図 10 編集後の映像
図 12 学生視聴用ビデオ教材