い~な あまみ 中 央 さくら しらさぎ 大阪+知的障害+地域+おもろい=創造 知の知の知の知 社会福祉法人大阪手をつなぐ育成会 社会政策研究所情報誌通算 467 号 2011.7.24 発行 ============================================================================== 胎児の染色体異常などを調べる「出生前診断」で、胎児の異常を診断された後、人工妊 娠中絶したと推定されるケースが前の10年間に比べ倍増していることがわかった。これ と関連した読売新聞の連載記事とをあわせてお届けします。【kobi】 出生前診断で異常発見し中絶、10年間に倍増 読売新聞 2011 年 7 月 22 日 胎児の染色体異常などを調べる「出生前診断」で、2 009年までの10年間、胎児の異常を診断された後、 人工妊娠中絶したと推定されるケースが前の10年間に 比べ倍増していることが、日本産婦人科医会の調査でわ かった。 妊婦健診の際に行われるエコー(超音波)検査で近年、 中絶が可能な妊娠初期でも異常がわかるためとみられる。 技術の進歩で妊婦が重大な選択を迫られている実態が浮 き彫りになった。 調査によると、染色体異常の一つであるダウン症や、 胎児のおなかや胸に水がたまる胎児水腫などを理由に中絶したと推定されるのは、200 0~09年に1万1706件。1990~99年(5381件)と比べると2・2倍に増 えた。 調査は横浜市大国際先天異常モニタリングセンター(センター長=平原史樹・同大教授) がまとめた。 出生前診断(1)エコー検査に振り回され 読売新聞 2011 年 7 月 6 日 「どうも少し、気になることがありましてね」 妊婦健診で超音波(エコー)検査を受けた千葉県の河野真由子さん(33)が医師にそ う告げられたのは2009年5月のことだ。次男の充希ちゃん(1)をおなかに宿してか ら13週が過ぎていた。 超音波検査は、胎児の発育などを確かめる目的で広く行われている。河野さんは「赤ち ゃんの顔がみられるサービス」と思い、毎回楽しみにしていた。 検査の結果は、 「NT」と呼ばれる胎児の首の後ろのむくみが通常より厚いというものだ った。一定以上の厚さだと、染色体異常の可能性が高まるとされる。近年の画像技術の進 歩で妊娠初期からわかるようになった。 確実な診断には、腹部に針を刺し羊水を採取して調べる検査が必要だ。検査には流産や 死産の危険も約0・5%伴う。医師は言った。 「まだ堕胎できる。よく家族で話し合ってください」 人工妊娠中絶について定めた母体保護法は、中絶が可能な条件に「胎児の異常」は認め ていない。だが「母体の健康を害する恐れがある」との中絶を認める条件に当たると拡大 解釈されているのが実情という。 いきなり「堕胎」という言葉を突きつけられたショックで、家では毎晩、泣いてばかり いた。別の大きな病院にも相談したが、病気や羊水検査の説明があるだけで、悩みの解決 にはならなかった。ノイローゼになり、とてもお産ができる状態ではなかった。 超音波検査から2週間後。医師に中絶を申し出た。手術日と、お葬式の日も決めた。一 人で逝くのは寂しかろうと、ひつぎに入れる家族の写真を集めた。 「もう一度だけ、我が子の顔の画像を見たい」 夫の壮臣さん(35)が切り出したのは手術の3日前。元の病院では主治医が不在で、 検査した別の医師が首をかしげた。「手術は待った方がいい」。むくみは小さくなっている というのだ。 NTは小さくなることもある。検査で厚いむくみが見つかっても結果的に異常はないこ とも多い。診断も医師によって差がある。 約1週間後、別の医療機関での検査でも、むくみは目立たなくなっていた。11月、充 希ちゃんを出産。指摘された異常は何もなかった。笑顔をみるたびに河野さんは思う。「最 初の医師がもっと丁寧に説明してくれれば、こんな苦しい思いをしないですんだのに」と。 技術の進歩で、多くの妊婦が胎児の染色体異常や病気を知らされる可能性のある時代。 超音波や羊水検査などで胎児の異常を調べる出生前診断について考える。 出生前診断(2)2人目 羊水検査に葛藤 読売新聞 2011 年 7 月 7 日 2人目を妊娠したら羊水検査を受けるかどうか――。兵庫県赤穂市の室井知世さん(2 6)は、夫の優作さん(27)と何度も話し合った。 室井さんは2009年6月、第一子の長女の心歌ちゃん(2)を出産した。心歌ちゃん はダウン症だ。 超音波(エコー)検査で染色体異常のひとつであるダウン症の疑いを指摘されていたが、 迷いはなかった。 「授かったかけがえのない命。夫婦共々、すべて受け入れる覚悟だった」 大好きなテレビの音楽番組のリズムに乗って手や体を動かす心歌ちゃんをみると、室井 さんは「かけがえのない存在だ」とつくづく思う。最近は、つかまり立ちで少し歩けるよ うになった。 「歩みは遅いけれど、元気に育っている。とてもかわいい」と室井さん。 歯の生えそろうのが遅いため食べ物を軟らかくしてあげたり、早く歩けるようにと体操 教室に通わせたりもしている。でも、もし2人目にも障害があると、これまで通りの愛情 と時間を注げるのか。自分たち親が死んだら、2人ともどうやって生きていくのか――心 配は尽きない。 しかし、 「羊水検査を受けることは、心歌の存在を否定することになりはしないか」とい う思いも強い。 心の葛藤の中、第2子を妊娠中の今年5月、腹部に針を刺し、羊水を採取して調べる羊 水検査を受けた。「とても難しく、苦しい選択」だったが、「心歌を愛するがゆえの決断で した」と室井さんは言う。結果は「染色体の異常なし」 。11月に出産を予定している。 長男(9)がダウン症の奈良県の女性(38)は第三子を妊娠中の今年1月、子宮の内 側の絨毛と呼ばれる突起を採取して調べる検査を受けた。「もし第三子もダウン症で、これ まで通りに長男に愛情を注げなくなってしまったらどうなるのかと考えた」と話す。 日本ダウン症協会(東京)によると、ダウン症の子を持つ親が2人目を妊娠した際に「羊 水検査を受けるべきか」という相談は多く寄せられる。 羊水検査を受けることは、上の子を否定するようでつらいが、社会に障害者を支援する 仕組みが十分ではない現実のなかでは、2人を育てるのは経済的な面も含め大変なのが実 情という。 同協会理事長の玉井邦夫さんは「受ける方がよいとも悪いとも言えない」としたうえで、 「検査を受けることを選んだ親がいたとしても、そのことは批判できない」と話している。 出生前診断(3)母親の心に寄り添う 読売新聞 2011 年 7 月 8 日 自宅の居間に飾っている長男の手形と足形。女性は「長 男がこの世に生きた証しを残したかった」と話す(神奈 川県立こども医療センターで) 「胎児の心臓にトラブルのある可能性がある」 横浜市の女性(38)は2008年12月に受 けた超音波(エコー)検査で、医師にそう告げら れた。妊娠20週。初産だった。 翌月、神奈川県立こども医療センター(横浜市) を受診した。精密検査で、「エプスタイン病」と 呼ばれる心臓の弁の病気と判明。症状が重く、 「出 産直後に亡くなる可能性もある」と医師は言った。 その夜。止めどなく涙があふれた。 短大を卒業後、舞台の衣装を作る仕事を続けた。 舞台監督の夫(35)とは仕事を通じて知り合 った。徹夜が続くなど生活は不規則だが、やりが いはあった。 「赤ちゃんの病気はそんな生活のせいではないか」 病気について、何かと理由をつけて自分を責めた。 パンパンに膨らんだおなかが突然、破裂する――。悪夢で夜中にハッと目覚めることも あった。 精神的に弱った女性を支えたのは、看護師や「保健福祉相談室」の保健師、ケースワー カーらだった。 「お母さんが元気ないと赤ちゃんも元気なくなっちゃうよ」「赤ちゃんも頑張っている。 できることからやっていきましょう」 保健師の日極有紀子さん(現・鎌倉保健福祉事務所)は、告知に大泣きした女性に寄り 添い、励ました。 出産は翌年4月。妊娠38週の自然分娩だった。 「よくがんばったね。生まれてくれてありがとう」 分娩台で、女性は、産声を上げられない長男の頭をそっとなでた。胸がいっぱいになり、 涙があふれた。 新生児集中治療室(NICU)での延命治療はしないことを医師と確認していた。貴重 な時間は、できるだけ赤ちゃんと一緒に過ごしたいと思ったからだ。 医師が手動で酸素を送り続ける長男を、夫と交互に抱きしめた。肌にはぬくもりがあっ た。分娩室や、病室で写真も撮った。 出生から3時間。長男は短すぎる人生を終えた。 母乳を搾り、小さなくちびるにふくませる。天国で着られるようにと、黄色のニット帽 や青いベビー服を着せてあげる――。さよならの儀式も日極さんらが気遣ってくれた。 女性は当初、出生前に病気のことなんてわからなければよかったと思っていた。でも今 は、 「短い命だとわかったからこそ、かけがえのない時間を一緒に過ごすことができた」と 感謝する。 女性は5月、次男を出産した。分娩台の上で、右手に長男の写真をぎゅっと握りしめて いた。 「長男は確かにこの世に生を受けた。4人で家族なんです」 出生前診断(4)心臓病発見が救った命 読売新聞 2011 年 7 月 12 日 横浜市の金子孝枝さん(36)は、自宅近くの公園で全速力で駆け寄ってくる長男の えいだい 英 大 ちゃん(3)をぎゅっと抱きしめた。この上なく幸せを感じる瞬間だ。そして思 った。 「おなかにいる時に病気がわからなかったら、一体どうなっていたのだろう」と。 金子さんは英大ちゃんを妊娠中の2007年9月、外出先で腹痛に襲われた。妊娠32 週目。超音波(エコー)検査を受けたところ、心配された胎盤剥離などはなかったが、胎 児の「血液の流れが気になる」という。まだ見ぬ我が子が心配で、涙が止まらなかった。 神奈川県立こども医療センター(横浜市)新生児科の川滝元良さんを紹介され、胎児の 心臓の詳しい超音波検査を受けた。診断は、完全大血管転位症。心臓から肺に血液を送る 肺動脈と全身に送る大動脈が入れ替わっている病気だ。近年の超音波画像の進歩で、出生 前にわかるようになった。 全身から心臓に戻った血液が肺に送られず再び全身に回るため、そのままでは全身に酸 素が行き渡らず、生きられない。出産後にはすみやかな手術が必要だ。 「出生前の診断は、ご家族の心構えと出生後の準備のためです。共にがんばりましょう」 と、川滝さん。 この日、金子さんと夫の竜一さん(40)夫婦は誓い合った。 「親が泣いている場合では ない。心を強くして乗り越えよう」 約1か月後に帝王切開で出産。分娩室には川滝さんら3人の医師が待ちかまえ、英大ち ゃんはすぐに新生児集中治療室(NICU)へと運ばれた。 肺動脈と大動脈を本来の位置に戻す手術は産後1週間をめどに予定されていたが、3日 目の夜、英大ちゃんは自力呼吸ができなくなるなど容体が急変。翌日、緊急手術となった。 手術は7時間に及んだ。 「経過は順調」と告げられた金子さん夫妻は、手を取り合って喜 んだ。涙を流したのはあの時以来だった。 手術を終えた医師から「英大ちゃんの心臓は何もしなければ10分間もたないものでし た」と、聞いた。もし、出生前に病気がわからなかったらすぐに亡くなるか、助かっても 重度の脳障害を負っていた可能性が高いという。 あの日、なぜ急におなかが痛くなったのか。川滝さんは首をかしげる。腹痛とは直接、 関係ないためだ。金子さんは今、こう思う。 「生きたいと願う英大のサインだったんだ」と。 出生前診断(5)カウンセリングで安心感 読売新聞 2011 年 7 月 13 日 東京都の女性(37)は2010年6月、おなかの長女(生後7か月)が妊娠15週の 時、遺伝カウンセリングを受けた。 前年の夏、妊娠9週で赤ちゃんを流産した経験があった。 「高齢出産に問題があるのでは。 赤ちゃんの健康状態を確かめたい」と、妊婦健診の際に羊水検査を申し出たところ、まず、 遺伝の専門医から話を聞くよう勧められたためだ。 夫(37)と一緒に、紹介された医療機関の臨床遺伝専門医を受診。カウンセリングは 約1時間、静かな個室で行われた。 この女性は、妊婦が35歳を超えると、赤ちゃんがダウン症になる確率が急に高まると 思っていた。 遺伝の仕組みなどについてスライドを用いて 説明する福嶋さん(信州大で) カウンセラーの専門医はまず、 「すべての胎児 には先天異常の可能性があります」と指摘。ダ ウン症など染色体異常は、30歳以降徐々に高 まるとはいえ、若い妊婦でも発症し、年齢だけ が原因ではないことを丁寧に話した。 おなかに針を刺し羊水を採取する羊水検査は、 染色体の異常は確認できるが、知的障害などは わからないこと、検査には流産の危険もあるこ とも説明した。 カウンセラーとのやりとりのおかげで、女性 は胸のつかえがとれた気がした。漠然と捉えて いた胎児の異常について、正しい知識を得たと いう安心感が生まれたからだ。 夫と相談。流産の危険性も考え合わせ、羊水検査は受けないことにした。 「たとえ生まれ た子どもに病気があっても育てる覚悟ができた。夫婦にとって大切な時間でした」と話す。 女性は10年12月、長女を出産。心配した異常はなかった。 遺伝カウンセリングは主 に、日本人類遺伝学会などが認定する臨床遺伝専門医や、看護師らの認定遺伝カウンセラ ーなどが担っている。臨床遺伝専門医は全国に623人いるが、東京都の141人に対し、 和歌山県は1人など地域差も大きい。認定遺伝カウンセラーも全国に102人にとどまる。 増えつつあるが、十分とはいえない。 遺伝カウンセリングは特定の遺伝子検査に伴う場合を除き、保険はきかない。費用は施 設で異なり、この女性の場合、1時間8400円だった。 日本遺伝カウンセリング学会理事長(信州大医学部長)の福嶋義光さんは、「遺伝に関す る問題は、すべての人が当事者となりうる。遺伝カウンセリングが大切なのは言うまでも ないが、小中学校の教育から、遺伝についてきちんとした教育が行われるべきだ」と話し ている。 日本遺伝カウンセリング学会などが認定する臨床遺伝専門医の一覧 http://jbmg.org/about/text/senmon_shidou.pdf 都道府県別に臨床遺伝専門医のいる病院がわかる。 出生前診断(6)Q&A 事前の十分な説明必要 読売新聞 2011 年 7 月 14 日 国立成育医療センター周産期センター長・左合治彦(さごう・はるひこ)さん 1982年、慈恵医大卒。同大准教授などを経て現職。 専門は出生前診断、胎児治療など。 出生前診断について、国立成育医療研究センター(東京・世田谷区) 周産期センター長の左合治彦さんに聞きました。 ――出生前診断とは、どんなものですか 代表的なのは、腹部に針を刺し、羊水を採取して調べる羊水検査です。 赤ちゃんの染色体異常の有無や種類を確認できます。検査に伴う破水や 出血、感染による流産や死産の危険が約0・5%あります。母親の血液 を調べる母体血清マーカーは、異常のある確率がわかりますが、1999年に国が慎重実 施を促す通知を出し、いったん減りました。妊婦の2~3%がこれらの検査を受けていま す。 これに加え、日本産科婦人科学会は6月、胎児の異常を見つけようとする超音波(エコ ー)検査を出生前診断にあたると位置づけ、遺伝カウンセリングを行った上で、事前に十 分な説明と同意が必要だとする指針を打ち出しました。 ――なぜですか 近年の超音波検査画像の進歩で、妊娠初期でも胎児の異常がわかるようになったためで す。胎児の首の後ろにみられるむくみ(NT)が一定以上の厚さだと、胎児に染色体異常 や心臓の病気が高い頻度でみられることがわかってきました。 ただし、むくみが厚くても赤ちゃんは正常であることも多いです。妊婦が正しい知識や 心構えのないまま、突然、告知を受けている問題も指摘されています。 ――染色体異常はどれぐらいの確率であるのですか 赤ちゃんの約0・4%にみられ、最も頻度が高いのがダウン症(約0・1%)です。母 親の年齢が高齢になるほど、確率は上昇します。出産時の年齢が30歳以降、次第に増加 し、33歳で約0・3%、35歳では約0・5%、40歳だと約1・5%になります。 ――遺伝カウンセリングは、どんなものですか 赤ちゃんは誰でも先天的な病気などの障害を持って生まれてくる可能性があります。す べての妊婦の2~3%に起き、染色体異常はその一部にすぎません。遺伝カウンセリング は、妊婦や家族にこういった情報を提供して理解してもらい、意思決定に役立ててもらう ようにすることです。 出生前診断に遺伝カウンセリングは欠かせませんが、診断を行うからカウンセリングが 必要なのではありません。十分なカウンセリングを受けた結果、母親が選択できる道のひ とつとして、出生前診断があるのです。 (加納昭彦) 月刊情報誌「太陽の子」、隔月本人新聞「青空新聞」、社内誌「つなぐちゃんベクトル」、ネット情報「たまにブログ」も 大阪市天王寺区生玉前町 5-33 社会福祉法人大阪手をつなぐ育成会 社会政策研究所発行
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