プロ意識を養うスタッフの モチベーションアップ法

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プロ意識を養うスタッフの
モチベーションアップ法
介護事業所を立ち上げてから8年目に入るが、利用者に満足していただける事業所を運営する
ために、最も大切なことの一つが今回のテーマである「スタッフのモチベーションと笑顔あふれ
る職場づくり」である。では、スタッフが笑顔で仕事をするためには、何が大切なのだろうか?
本稿では、低離職率を維持するプライマリーグループの取り組みから、プロ意識を養いながら
スタッフのモチベーションを高く保つ方法を紹介する。
プライマリーグループ 代表取締役
梅澤 伸嘉
1.スタッフの笑顔があふれる職場づくり
現在、当社ではデイサービス3ヶ所、小規模多機
多く聞かれる。
能型居宅介護事業所1ヶ所、
訪問介護事業所1ヶ所、
当社の特徴は、多くの介護事業所にとって悩みの
居宅介護支援事業所1ヶ所を経営している。おかげ
種である「人材の定着」が安定していることである。
さまで、起業してから、毎年黒字経営を継続してい
各施設とも結婚、出産、病気、家族の転勤などで、
る。その実績から多くの方のご相談を受けるように
年間数名の退職者が出るものの、幸いなことに「人
なり、株式会社プライマリーコンサルティングを設
材不足」で悩んだことはない(全従業員 70 名程度、
立するに至った。
パート職員含む)
。
これは何も、私の自慢をしたいわけではない。私
(1)笑顔があふれる職場
私は、スタッフ一人ひとりが自分自身のやりたい
は 24 歳で介護の世界に飛びこんだが、何のバック
ボーンもなく独立し、経営の経験もなかった。身内
に経営者がいるわけでもなく、知識も、人脈も、お
ことを実現できたとき、自然に笑顔がこぼれ、次第
金もなかった。本稿では、そうした経歴を持つ私が、
にスタッフ全員の笑顔があふれる職場になると思っ
こうして順調に経営しているポイントをお伝えでき
ている。そして、そのスタッフの笑顔が利用者の笑
ればと思っている。その中で、
「スタッフが笑顔で楽
顔につながるものであるという信念で、これまで経
しく仕事をしている」ことが非常に重要な鍵だと実
営してきた。今後もこのスタンスは変えず、結果を
感している。
出していくつもりである。
(2)当社スタッフの特徴
(3)スタッフのモチベーションは
利用者の幸せに直結する
当社には、全国各地からさまざまな方が事業所見
利用者の「幸せで、安心した生活」を支えるため
学にお越しになる。その中で、
「スタッフの皆さんが
には、「ケアするスタッフが楽しく、モチベーショ
元気で明るいですね!」
「本当に楽しそうに仕事をし
ンを高く保って仕事ができている」ことが重要なポ
ていますね!」というスタッフに関する感想が最も
イントになる。しかし、この課題について具体的な
30 デイの経営と運営 Vol.7 特集 職員の意識改革 〜 プロ意識を育てるための具体策 〜
策を持たない事業所が多く見受けられる。さらに、
それを解決できないまま、スタッフのやる気のなさ
や、離職率の高さで悩んでいるように見える。
では、どうすればスタッフの意識変革を促し、モチ
なる。
会社が何を目指し、何を大切にしているかが分か
らない状態では、いくらスタッフに「やる気を出
せ!」「プロ意識を持て!」と言っても無理な話で
ベーションを高く保ちながら笑顔で仕事をしてもらえ
ある。しかし、そういった法人は思った以上に多い。
るようになるのだろうか? ここでは、当社が大切に
「会社としてのあり方」が明確になっていることで、
している具体的な取り組みを1つ紹介しておく。
スタッフの目指す方向性も決まり、個々のプロ意識
につながることを経営者・管理者の方には理解して
(4)スタッフのあり方を示して
プロ意識・モチベーションを保つ
いただきたい。
当社では、図1の中にある「あり方」を非常に大
切にしている。介護職として、専門的な知識や技術
図1 あり方を共有して土台を固める
の習得も大切だが、その前に、土台となるものを共
有していく必要があるからだ。
具体的には、
「仕事に対する肯定的な考え方」
「会
やり方
知識
社や事業所ごとの理念(=スタッフみんなで共有し
技術
たい目指すべきもの)
」
「クレド(=スタッフみんな
で大切にしたい行動指針)
」
(写真1・2)という3
つの土台をすべてのスタッフで考え、文書化し、常
時クレドカードを携帯する。まずは、このあり方を
あり方
仕事・利用者に対する心構え・
考え方「何を目指すのか?」
「どんなことを大切にするの
か?」
決めることが重要である。これらをスタッフみんな
で共有しているか否かは、各個人のプロ意識や、笑
顔あふれる職場づくりのためには重要なポイントに
専門的な知識や技術の習得も大切だが、会社や事業所が目指す
土台となるものを共有しよう
8つの約束
写真1 クレドカード
写真2 スタッフは常時クレドカードを携帯している
Vol.7 デイの経営と運営 31
2.スタッフのプロ意識を養う仕掛け
(1)自分の価値を見いだせない日本人
多くの経営者・管理者から、「うちのスタッフは
(2)経営者・リーダー層とスタッフの
ギャップの本質
言われたことしかしない」
「
『何かアイデアはない
多くの事業所で見られる経営者・管理者とスタッ
か?』と聞いても意見が出てこない」
「スタッフに
フとの温度差やギャップは、この「自分に対する見
元気がない」など、スタッフに対する悩み・不満を
方」の違いから生まれてきているように思う。そう
非常に多く聞く。読者の皆さんの中にも、そう思わ
した経営者・管理者の方々は、「自分もできたのだ
れている方が多いだろう。そのような方に、あるア
から、あなたにもできる」と、スタッフが自分と同
ンケート結果をご紹介したい。
じようなタイプだと思って接する。さらに、スタッ
しっ た
以下の図2を見てほしい。これは「あなたは、自
フを叱咤激励することでお互いの溝がどんどん生ま
分のことを価値ある人間だと思いますか?」という
れていく。このような状態では、最悪の場合、
「自
質問に対し、
「はい」と回答した結果を国別にまと
分には無理だ」と感じたスタッフが離職するケース
めたものである。介護現場のスタッフをマネジメン
もある。
トする経営者・管理者の皆さんには、
この結果を知っ
ておいていただきたい。
この図を見て分かることは、
「自分にはあまり価
(3)スタッフとの接し方
値がない」と思っている日本人が 90%以上もいる
このようなタイプのスタッフとかかわる上で、私
ということである。特に、介護現場で働いている
が大切にしていることは、まず彼ら自身に「自分に
方々の多くは、この 90%に属する方が多いように
価値がある」と感じてもらうことである。感情的な
感じる。対照的に、経営者・管理者の方々は残りの
指摘や批判をすると、スタッフはますます自信をな
10 %に属し、積極的な方が多いと感じる。仕事で
くしてしまう。その結果、よい仕事、すなわち理念
の達成経験も多く、
「自分には価値がある」と思っ
に沿った仕事をするスタッフに成長しにくい。
ている方々である。
時間はかかるものの、経営者・管理者がスタッフ
と本気でかかわることが重要だ。一人ひとりのス
図2 「自分の価値」に関する国別アンケート結果
「あなたは自分のことを価値ある人間だと思います
か?」という質問に対し、「はい」と答えた回答者
の割合
(%)
100
タッフに対して「励まし」と「承認」の姿勢を持っ
て接し、
「あなたはできる」と信じることが、経営者・
管理者として最も大事なあり方である。
このように経営者・管理者がスタッフとかかわる
ことで、スタッフ一人ひとりが自分自身、そして自
分の仕事に誇りを持つことができるようになる。そ
うするうちに「こんなことがやってみたい」と、自
分の夢や目標を持つことができるようになる。
これが、プロ意識を持つスタッフ育成のために当
51.8%
50
42.5%
社が大切にしていることである。スタッフが夢や希
望を持ち、一人ひとりがそれを叶えたとき、または、
叶えようと努力するときこそ、笑顔があふれる職場
8.8%
0
日本
32 デイの経営と運営 Vol.7 につながるのである。
アメリカ
韓国
特集 職員の意識改革 〜 プロ意識を育てるための具体策 〜
3.日常業務で経営者・管理者が気を付けるべきポイント
スタッフのモチベーションを上げ、プロ意識を養
うための仕掛けについて、実際に当社で実践してい
る。それを見て、目標をクリアしていたら承認する。
そして、次の目標を設定する。
る取り組みをご紹介しよう。
(2)プロ意識を養う仕掛け
(1)モチベーションを上げる仕掛け
①スタッフとの良い関係づくり
①理念・目標をスタッフ「みんなで」考える
当社では「自分たちの使命や目指すものは何なの
スタッフ一人ひとりに「自分自身に価値がある」
か?」をスタッフ全員で話し合い、楽しくてワクワ
と思ってもらえるように、
経営者・管理者は
「励まし」
クする理念・目標を決定した。みんなで考えること
と「承認」という姿勢でかかわる。スタッフが、経
で「自分も加わった」という責任感を養い、やる気
営者や管理者に恐れを抱きすぎないように配慮する
につながっている。
ことが大切である(批判や感情的な指摘はしない)。
②理念・目標を共有
②スタッフの望みを聞き、目標を一緒に設定する
当社では、企業理念やスタッフが守るべき「8つ
スタッフに「どんな人になりたいのか?(なりた
の約束」が書かれたクレドカード(写真1)を全員
い自分)
「どんなことを会社でやってみたいのか?」
」
に配布している。これを基に、朝礼やミーティング
を聞き、具体的な目標を共に考える。
例えば、当社の管理者は、原則として「やりたい」
「やってみたい」という意向を示したスタッフが任
命される。経営者は、
「やりたい」
「やってみたい」
(写真3)などで事業所の理念・クレドを浸透させ
ている。さらに、各スタッフの「なりたい自分」を
発表してお互いに分かち合い、会社としての「想い」
や「あり方」の共有を図る。
と言った人に具体的なテーマを与え、それをクリア
できた人が実際の管理者になっていく。
③クレドを使った表彰制度
当社では、クレドの「8つの約束」にふさわしい
③目標を達成するために支援する
スタッフ一人ひとりが目標を達成できるようサ
ポートするために、まずは、小さな目標から設定す
社員を全スタッフで投票し、部門ごとにNo.1を決
める。これは1年に一度開催され、選ばれたスタッ
フを表彰する。
写真3 ミーティングの様子
Vol.7 デイの経営と運営 33
④個性・得意分野を生かせる役割を与え、
チャレンジさせる
スタッフの個性・得意分野を見いだし、それに合
致した役割を与える。良い結果が出たときは承認す
る。うまくいかなかったときは励まし、できるよう
になるまでサポートする。
⑤社内研修の充実
介護技術の研修だけでなく、
「会社のあり方」や
「チームワークの重要性」を体験できる体感型社内
研修を開催する(写真4)
。目的・目標が明確で、
写真4 体感型社内研修の様子
かつ人間関係の良好な組織づくりを管理者中心に学
ぶ。
(興味のある方はお問い合わせください)
介護業界の人材不足は、いつも課題として挙げら
れている。原因はいろいろなことが考えられるが、
私たちとしては、周りの環境のせいにせず、これか
らも全力で自分たちで取り組めることを行っていき
たい。
今回の記事だけでは書ききれない点も多数あるので、
さらに詳しく知りたい方は、弊社までご連絡ください。
株式会社 プライマリーコンサルティング
TEL 0277-70-65
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34 デイの経営と運営 Vol.7