海や船に関わる雑学集 - 国土交通省 中国地方整備局 港湾空港部

5.海や船に関わる雑学集
◇「みなと」に関する雑学集
(社)日本船主協会ホームページより
1.1マイルは何メートル?
海上の距離を表す単位として「マイル」が用いられるが、陸上でも「マイル」が使われているの
はご存じのとおり。しかし、海上と陸上で「マイル」の長さが違うのはご存じだろうか。
「マイル」という言葉は、もともと歩く距離からきているといわれ、「何歩、歩いたか」の意味
で昔から長さの単位として使われてきた。日本人の平均的な大人の歩幅は、約 70 センチくらいだ
が、この歩幅の二つ分を「複歩」という。古代ローマ人は、この一複歩を1パッスス(Passus)と
いって、これは 147.9cm に相当していた。このパッススの千倍がラテン語のミリアリウム
(miliarium)で、このミリアリウムからマイルが生まれたといわれている。
1マイルは、1パッススの千倍だから、そのまま換算すると1マイルは 1,479m になるが、どこ
で変わったのか現在は陸上の1マイルは 1,609m になっている。一方、海のマイルは航海技術の発
達とともに海を渡る航海者が多くなった 17 世紀に天体を観測する航法がやりやすいように定めら
れたもので、海の1マイルはその地の緯度1′の距離であり、1,852 メートルに決められている。
現在、船や飛行機では距離を表すのに海マイルを使っているが、この海マイルを移動する速度を
ノットで表し、1時間に1マイル進む速度を1ノットといっている。ノットの 1.85 倍すれば、お
およその時速(㎞)が分かることになるわけである。
2.海の距離を表す単位「海里」と「マイル」の関係
海上の距離を表す場合、距離の単位は「マイル」の他にも「海里」が用いられるが、これら2つ
の単位はどういう関係にあるのかご存じだろうか。実は、これら2つの単位は同じ距離を表してい
る。しかし、マイルには「海マイル(1マイル=1,609m)
」と「陸マイル(1マイル=1,852m)」が
ある。「海里」は、海の距離を表す単位である「海マイル」と同じなのである。
ちなみに「海里」と言葉が似た単位で「里」という単位がある。これも同じく距離を表す単位で
あるが、1 里=3,927m であり、こちらは「陸マイル」とは全く関係がない。
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3.
「トン」の由来は酒樽を叩いた音
船の大きさを現すとき、重量トン、総トンなどの表現が用いられるが、このトンという単位、じ
つは酒樽を叩いたときの“トン”という音に由来するというのは、嘘のようで本当の話。15 世紀頃、
フランスからイギリスへボルドー産のワインを運ぶ船の大きさを表すのに使われ始めたものだと
いう。ワインの樽をいくつ積めるかで、船の載荷能力を示したわけだ。
当時の酒樽 1 個の容積は約 40 立方フィート。これにワインをいっぱいに詰めると 2,240 ポンド
になり、これをメートル法で表すと 1,016 キログラムになる。このため、以前のイギリスの単位で
は、1 トンは 1,016 キログラムだった。しかし現在ではメートル法が適用され、1,000 キログラム
が 1 重量トンになっている。容積も、かつては酒樽 1 個を単位としていたが、こちらも現在では、
100 立方フィートが 1 総トンとなっている。
ちなみに、和船の大きさを示す何石という単位も、積荷である米の石高からきている。洋の東西
を問わず、その時代時代の代表的な貨物が、船の大きさを表す単位になっているわけで、船がいか
に人間の暮らしに密着した輸送機関だったかが、こうした点からもよくわかる。
4.トラックに積んで並べると函館から鹿児島まで
10 トン積みトラックで約 20 万台分。これは何を表す数字かご存じだろうか。日本を中心とする
海上貿易量は年間 7 億 3,137 万トン(1998 年)で、これはちょうどその 1 日分。このトラックをす
べて縦に並べると、なんと函館から鹿児島までの距離に匹敵する。
その輸送の中心となって約 3 分の 2 を運んでいるのが日本の外航商船隊だが、その年間総航行距
離は、約 2 億 8,000 万キロメートルで、これは地球を
7,000 周するのに相当する。
函館
天然資源に乏しい島国である日本は、さまざまな資源
を外国から輸入し、それを製品にして輸出する加工貿易
立国として発展してきたわけだが、その舞台裏で、長距
離大量輸送機関としての海運が果たしている役割はじ
つに大きい。それを示すさまざまな数字が、海運関係の
統計などにはたくさん示されているが、ただ数字の羅列
だけでは、どうもいまひとつピンとこない。しかし、こ
んなふうに、何か具体的な例に置き換えてみると、意外
にイメージがつかみやすくなる。
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鹿児島
5.24 時間ノンストップ航海の秘密
一度港を出た貨物船は、なにか致命的な故障でも起きない限り、目的地に着くまで止まらない。
では、その船を動かす船員も、毎日 24 時間、不眠不休で働いているのだろうか。そんなことはも
ちろん不可能だ。船内の就労体制も、陸上と同じように 8 時間勤務が原則になっている。ただし勤
務形態は、陸上とはだいぶ違っている。その辺の事情を、現在 11 名という世界でも最小の人員で
運航されているパイオニアシップを例にみてみよう。
まず船の運航で最も重要なブリッジでの航海当直。これは運航士(航海士と機関士を兼ねる職員)
と船舶技師各 1 名からなる 3 つのチームが 4 時間づつ交代で勤務する。つまり各チームは 4 時間働
いて 8 時間休むというサイクルを 1 日 2 回繰り返すことになる。
次にエンジンルーム。かつてはこちらも専任の当直があったが、近年の技術進歩でそれをブリッ
ジで行うようになり、運航士の資格を持った 1 等機関士が朝 8 時から 12 時、13 時から 17 時の 8 時
間で、エンジンの点検・整備などを行っている。 通信長の勤務は朝8時から 12 時、15 時から 17
時、19 時から 21 時、の都合 8 時間とやや変則的。司厨長の場合は、クルーの食事時間にあわせ朝
6 時半から 9 時、10 時半から 13 時、15 時から 18 時となっている。
残るは船長と機関長だが、こちらは当直は無いが、24 時間執務体制である。
こうした船員の生活は、陸上で働くサラリーマンと比べればかなり変則的だが、突発事件がなけ
れば、交代のサイクルが正確に繰り返されるため残業がない。この点では、サラリーマンの生活よ
りも健康的だといえるかもしれない。
6.ロープの結び目から生まれた、船の速力の単位「ノット」
船の速力を表すのに使われる単位としておなじみの「ノット」。もともとの意味は、ひもやロー
プの結び目のことだ。それが船の速力を表す単位として使われるようになったのは 16 世紀頃のこ
と。ロープに 5 ファゾム(1 ファゾムは 6 フィート、つまり 1.82 メートル)ごとに結び目をつくっ
ておき、先端にブイをつけてロープを海に流し、30 秒間に繰り出す結び目の数で船の速さを計算し
たというのがその由来だという。
しかし現在では、時速 1 ノットの速力は 1 時間に 1 海里進む速さを意味するようになっている。
1 海里というのは地球の中心角 1 分に相当する地球表面上の平均距離で、メートル法でいうと 1852
メートルになる。
さて、船が自動車などのように時速何キロという単位を使わずに、わざわざノットを用いるのに
は理由がある。海図の上で距離を調べる場合、図法上の問題で、地図上の距離に縮尺率の分母を掛
けても実際の距離は正確につかめない。しかし地球の中心角なら海図上の緯度と経度の線を用いて、
A 地点から B 地点までの中心角を容易に割り出せ、そこから海里単位での直線距離が簡単に計算で
きる。海里と密接な関係にあるノットを用いる方が、船にとっては便利というわけである。
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7.タービンの出現ではじまった蒸気船スピード狂時代
英国人ジェームス・ワットが蒸気機関の実用化に成功したのは 1765 年のこと。しかしこれが船
の動力として利用されたのは、それから 42 年後の 1807 年、米人フルトンが実用的汽船クラーモン
ト号を建造したのに始まる。機関車の登場は、それより 7 年後。交通機関への応用では船が一歩先
んじたというわけである。
初期の汽船はほとんどが外輪船だったが、やがてスクリュー・プロペラによる船が出現する。1845
年に英国海軍が行った同馬力の外輪船とプロペラ船に綱引きさせるという、やや乱暴な実験ではス
クリュー船が勝ち、これを契機に外輪船の時代は終わりを告げた。
蒸気エンジン自体も、20 世紀に入って、初期のレシプロ(ピストンによる往復機関)から、ター
ビンの全盛時代を迎える。蒸気を金属製の翼に吹きつけて、翼の中心軸を回転させるこの方式の出
現で、これまで 12∼13 ノットがせいぜいだった商船の速力は、一気に 20 ノット台にまで達した。
1907 年以来 20 年間自己の記録を更新し続けたモレタニア、30 ノットを出したクイーン・メリーな
ど、ブルーリボンのトロフィーを賭けて大西洋横断のスピード記録に挑戦する高速客船が次々出現
したのもこの頃だ。
最後のブルーリボンの記録ホルダーとなったのは、1952 年に竣工した米船ユナイテッドステーツ。
3 日と 10 時間 40 分で大西洋を横断したその記録は今も破られていない。世はすでにジェット旅客
機の時代を迎え、旅客のスピード記録への挑戦者はもう現われなくなってしまったからである。
8.船が運んでくる日本の衣・食・住
味噌、醤油、豆腐、納豆といえば日本の食卓になくてはならない伝統食品。ところが、その原料
である大豆の 90%以上が、アメリカ、中国などから輸入されているということをご存知だろうか。
ほかにもそば、こんにゃく、えび、たこ、いかなど日本人の食文化とは切っても切れない関係に
ある食品の数々が、いまやその多くを輸入に依存している。
うどんやパンの原料の小麦粉も 90%以上が外国産。比較的自給率の高い肉や卵、乳製品にしても、
それを生産するための飼育用とうもろこしは、やはり輸入依存だ。さらにオレンジやグレープフル
ーツ、コーヒー、紅茶と並べれば、私達の食卓がいかに国際化しているかがよくわかる。
食べ物だけではない。衣料品の原料である綿花、羊毛、科学繊維をつくる石油、日本の住宅に欠
かせない木材や紙の原料のチップまで、暮らしにかかわる大部分の物資を、わが国は海外に依存し
ている。そしてそのほとんどすべてを運んでいるのが船である。時には食卓をながめながら、世界
の国々から膨大な物資を運び続けるさまざまな貨物船の姿を思い浮かべ、国際化時代の日本の生き
るべき道に想いをはせるのもいいかもしれない。
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9.水面下に隠された秘密の突起物―バルバスバウ
貨物を満載している時は気づかないが、空荷で浮き上がった状態の貨物船の船首をみると先端に
球状をした突起物をつけているのに気づく。
これはバルバスバウといわれ、米国の造船学者 D. W. テ
ーラーが 1911 年に発明したものだ。
こうした球状物を船首水面下につけることにより、航走中に船の前面の水圧が上がり、水面が盛
り上がる。一方、通常は最もうねりの起こりやすいのすぐ後部の水圧は低くなり、うねりの発生が
押さえられる。これにより航走中の造波抵抗が少なくなり、通常の船首の場合よりも、同じ燃料消
費量でよりスピードが出せることになるわけだ。
より経済的に、より速くというニーズに応えて、貨物船をはじめとする船の船体の形状には常に
新しいアイデアが加えられ、改良されてきたが、現代の船舶のほとんどに採用されているこのバル
バスバウは、そうしたアイデアのなかでも最大のヒットといってよいものだろう。
ちなみに、第一次大戦当時の軍艦にもこれに似た突起物がつけられたことがあったが、これはラ
ム(衝角)といって戦闘時の敵艦への体当たり用につけられたもので、船の速力とはまったく関係
がない。
10.フルコンテナ船の速力は、市街地だったらスピード違反
船の速力は、通常何ノットというかたちで表現される。しかし時速何キロという表現を使い慣れ
ていると、何ノットといわれても実際にどのくらい速いかは想像しにくい。そこで現代の代表的な
貨物船のスピードをキロメートル換算でくらべてみよう。
貨物船でいちばん速いのがフルコンテナ船だ。定期航路はスピードが勝負、航海速力は 24 ノッ
ト前後のものが多い。1 ノットは 1.852 キロメートル/時だから、メートル法では時速 44.4 キロ。
市街地を車で走っていたらスピード違反になる速さだ。
同じ定期航路に就航する在来型貨物船もこれに次いで速く、時速 20 ノット(37.04 キロ)程度の
ものが多い。時速 37 キロといえば市街地を安全運転している速さといったところ。
一方、タンカーに代表される不定期船はこれよりずっと遅く、時速 15 ノット前後、つまり時速
27.78 キロクラスのものがほとんど。不定期船ではスピードよりむしろ積める貨物の量がより重要
だからだが、高速を誇るフルコンテナ船は 3 万重量トンクラス(全長 210m、幅 32m、深さ 21m)が
中心であるのに対し、こちらは 24 万重量トンを超す VLCC(全長 320m、幅 54m、深さ 27m)でもこ
の速度。その巨体からすれば決して遅いとはいえない。
ところで船の速力は、船体の大きさよりも、むしろエ
ンジンの馬力に左右される。このため例えば 3 万重量ト
ンクラスの高速フルコンテナ船は、その 8 倍の 24 万重
量トンクラスの VLCC よりずっと大きいエンジンを必要
とし、燃料消費量も多い。船のスピード競争は、大きさ
の競争よりも高くつというわけだ。
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11.LNG 運搬船 1 隻でまかなえる、100 万戸の家庭のガス 1 カ月分
電力や都市ガスなどの分野でクリーンエネルギーとして脚光を浴びる LNG(液化天然ガス)
。わが
国は、1 次エネルギー供給の約 10%をこれに依存しており、しかも世界の輸入量の 7 割強を占める
最大の輸入国だ。
1969 年アラスカからの輸入を皮切りに、現在はブルネイ、インドネシア、マレーシア、アブダビ、
オーストラリアから輸入されている。
この LNG を運ぶ専用船が LNG 運搬船。低温でも強度が低下しない金属素材と厚い断熱材でつくら
れたいくつものタンクが並ぶ、まさに海に浮かぶ巨大な魔法瓶だ。
メタンを主成分とする天然ガスはマイナス 162℃で液化し、体積は常温の 600 分の 1 になる。こ
れはサッカーボール 4 個分をゴルフボール 1 個分に圧縮したのとほぼ同じ。LNG 運搬船はこの原理
を応用して大量の天然ガスを運ぶ。
この LNG 運搬船 1 隻が一度に運ぶ天然ガスの量は、約 100 万戸の家庭が使用するガスの 1 カ月分
という膨大なもの。熱帯の国々からはるばる運ばれてくるマイナス 162℃の魔法の液体は、都市ガ
スや電気など、私たちの暮らしにもっとも身近なエネルギーの原料として、これからもますます重
要ような役割を果たしていくことだろう。
12.カラフルで巨大な煙突は、いわば船の「名刺」
船には必ず巨大な煙突(ファンネル)がある。これは子供でも知っている常識だ。では何のため
についているのか? もちろん燃料を燃やした煙を外へだすために…。
ところがさにあらず。エンジンの技術が進んだ現代の船では、船外へ排出される煙りや排気ガス
はごく少量。とくにディーゼル船では、ごく細い排気管さえあれば事足りてしまう。実際には、あ
の大きな煙突は機能的には意味のないダミーの場合がほとんどで、客船などでは内部が展望台にな
っていることもある。
必要もないのにわざわざつけている理由のひとつは、煙突がないと外見上何となくバランスが悪
いからだが、もうひとつ別の役割もある。それは、ファンネル・マークと呼ばれる煙突につけられ
たマーク。どこの船会社も、煙突に自社の独自の色やマークをつけており、それをみればどこの会
社に所属する船か一目で分かるようになっている。よく目立つ巨大な煙突は、いわば船の「名刺」
というわけだ。
遠くからこちらに向ってくる船の個性ゆたかなファンネル・マークをみて、その船の所属する会
社名を当てるのは、船好きにとっては楽しみのひとつ。急速に技術革新が進む船の世界だが、こう
した楽しい「ムダ」は、これからも無くさないで欲しいものだ。
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13.全長 150 メートル以上の船は、どんな大波でも揺れない?
フェリーや近海航路の船で船酔いに苦しんだ経験をもつ人は多い。海に波はつきもの。その波の
上を走れば、当然船は揺れるはず。ところがほとんど揺れない船もある。
船の揺れ方は、左右への揺れ(ローリング)と船首、船尾が上下する縦揺れ(ピッチング)の 2
種類に大別されるが、全長 150 メートルを越す船では、どんなにうねりの大きい時でもピッチング
は起こらない。なぜかというと大洋でのうねりの最大波長が 150 メートルを越す大型船なら、その
全長のなかにうねりを吸収してしまえるからだ。
一方ローリングは、いくら大型の船といえども避けられないが、こちらはフィン・スタビライザ
ーという海面下で横に張り出した翼をコンピュータ制御で揺れに応じて動かす装置を用いること
で、かなりの程度まで押えられる。このフィン・スタビライザーは、日本人によって発明されたも
ので、最新の旅客船やフェリーにはほとんど装備されている。
全長 150 メートル以上、フィン・スタビライザー付きの船に乗る限り、船酔いに悩まされること
はまずないというわけである。
14.パナマックス型ばら積み船が運ぶ大豆で、豆腐が 7 億 2000 万丁
豆腐、納豆、味噌、醤油といえば、日本の食卓に欠かせない基本食品。ところがその原料の大豆
のほとんどをわが国は海外に依存しており、その最大の輸入国がアメリカで、全体の 80%以上を占
めている。
ニューオーリンズなどメキシコ湾岸の集積港から積み出された大豆は、パナマ運河を通って日本
に運ばれるが、そのパナマ運河を通航できる船の最大のものがパナマックス型と呼ばれる約 6 万重
量トン級の船だ。
つまりこの船 1 隻で 6 万トンの大豆が 1 度に運べるわけだが、ではこの大豆で豆腐が何丁つくれ
るだろうか?
豆腐 1 丁は平均 300 グラム。通常 1 キログラムの大豆からこのサイズの豆腐が 12 丁できる。つ
まり 83.3 グラムの大豆で 1 丁の豆腐ができるわけだ。すると 6 万トンの大豆からは、何と 7 億 2000
万丁の豆腐ができることになる。
日本の大豆の年間輸入量は 435 万トン(1989 年)。つまりパナマックス型のばら積み船 73 隻分の
大豆を、私たちは海外から輸入していることになる。日本の食糧事情の安定に果たす船の役割の重
要性が、こんな数字からもよく分かる。
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15.コンテナ船だからできたゾウたちの優雅な船旅
日本と北米や欧州をつなぐ外航定期航路の主役として活躍しているのがコンテナ船。このコンテ
ナ船が運ぶ海上コンテナの大きさは 40 フィートコンテナと 20 フィートコンテナに大別され、さら
に貨物に応じてドライコンテナ、バルクコンテナ、冷凍コンテナ、タンクコンテナなどさまざまな
種類がある。
ところでコンテナの規格サイズより大きい貨物はコンテナ船では運べないのだろうか。じつは運
べるのである。こんな時に使われるのが両側壁と天井のないフラットラックコンテナや屋根が開閉
できるオープントップコンテナと呼ばれるもの。特に四方に柱が立っているだけのフラットラック
コンテナは、積荷のいちばん上の層に複数を並べて使用することで小型航空機のような横幅の大き
い貨物も積み取ることができる。
まれにゾウなどの動物を運ぶ時もこうしたコンテナが用いられる。積荷の最上層に動物の住み家
となるオープントップコンテナや餌を入れておくドライコンテナ
などを配置し、さらに周囲にフラットラックコンテナを並べて動物
場がつくられ、飼育係が乗船して世話をするというわけだ。まるで
人間が豪華客船のサンデッキで日光浴を楽しみながらクルージン
グするようなもの。動物にとってはなかなか贅沢な旅ではある。
16.現代に復活した帆走貨物船の省エネ効果は?
省エネという点だけで考えれば、燃料いらずの帆船が何といってもナンバーワンだ。しかし複雑
な帆の操作にたくさんの人手がかかり、破損しやすい帆やロープの維持費もばかにならない。ただ
しその点さえクリアできれば、帆船は現代に通用する優れた省エネ輸送機関となるはず。そんな考
えで出現したのが、コンピュータ制御の帆をもつ「現代の帆船」。世界に先がけてこれを開発した
のは日本だ。
帆船といっても推進力の中心はあくまでもエンジンで、帆から得た推進力の分だけ自動的にエン
ジン出力を落し燃料消費を少なくするシステム。コンピュータで風向、風速を計算し、最も経済的
に走れるように帆を開いたり、向きを変えたりすることができる。
実際に運航された結果およそ 40∼50%の燃料が節約でき、さらに帆を張ることによって従来の船
と比べ横揺れや蛇行が少なくなる効果も生まれた。現在 2,000 重量トン級を中心として、おもに内
航で使われているが、なかには 2 万重量トンの外航船もある。
経済性は、大きさ、速力と並んで貨物船の性能を考える重要
な要素。燃料油の価格が安定している現代では、こうした帆走
貨物船の注目度は今ひとつだが、かつてのオイルショックのよ
うな事態が発生すれば再びクローズアップされそうな技術と
いえる。
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17.VLCC 約 4.5 隻分の原油で東京ドームがいっぱいに
日本はアメリカ、ソ連、中国に次いで世界で 4 番目のエネルギー消費大国。ところが日本で使わ
れるエネルギーのほぼ 100%は、その原料を海外に依存している。なかでも、エネルギー供給全体
の 60%近くを占める原油の輸入量はおよそ 2 億キロリットルに達し、その多くを中東地域に依存し
ている。この膨大な原油を中心となって運んでいるのが VLCC と呼ばれる巨大タンカーだ。
代表的な 24 万重量トンクラスの VLCC の場合、長さは 300 メートル以上で東京タワーや 12 両編
成の東海道新幹線に匹敵し、甲板の面積は後楽園球場の 1.5 倍もある。また一度に運ぶ原油の量は
約 27 万キロリットルで、日本の 1 日の消費量の半分にあたり、VLCC 約 4.5 隻分の原油で東京ドー
ムがいっぱいになる。
この VLCC に換算して、およそ 740 隻の原油が年間を通じて中東地域を中心とする世界の産油国
から日本へ向かって運ばれてきているわけで、その安全・確
実な輸送が、日本の経済や暮らしにとって死活を制するほど
重要なものであることはいうまでもない。
政治的に不安定なペルシャ湾から水深の浅いマラッカ海
峡を抜けて日本に至る地球約 4 分の 1 周の海の道を、原油を
満載した巨大な VLCC たちが今日も休むことなく走り続けて
いる。
18.前進、後進自由自在―コントローラブル・ピッチプロペラの秘密
自動車の運転でバックや減速をしたいときは、クラッチを踏みその目的にあったギアに切り替え
る。ところが船には、クラッチやギアに相当するものがない。このためタンカーなど大型の貨物船
は、接岸・離岸時などのデリケートな操船では、自らのエンジンの発停を繰りかえすとともにタグ
ボートの力に頼らざるを得ない。ところが 10 万重量トン以下の中型船には、前進、後進、減速な
どが簡単にできるものもある。ではどのように行うのだろうか。その秘密は推進装置であるスクリ
ュー・プロペラそれ自体にある。
そうした船に採用されているスクリュー・プロペラは、コントローラブル・ピッチプロペラ(CPP)
と呼ばれるもので、回転中にプロペラの羽の角度(ピッチ)が自由に変えられるようになっている。
このためエンジンの回転は一定のままで、羽の向きを反転させれば前進、後進を切り替えることが
でき、また垂直にすれば推進力をゼロの状態にすることもできるわけだ。
羽の角度はブリッジのレバーひとつで微妙に替えることができ、これにより微速で前進、停止、
後進を繰り返すというようなデリケートな操船も可能になる。現代の技術が可能にしたより安全な
航行のためのユニークな知恵のひとつといえよう。
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19.トンはトンでも中身はさまざま
船の大きさは通常「トン」で表される。しかし同じトンといっても使う目的によって何種類かあ
り、その意味もさまざまだ。
まず「重量トン」
(デット・ウェイト)
。これは文字通りこれ以上積んだら危険ですよという積荷
重量の上限を示すもので、満載喫水線の限度まで貨物を積んだときの全重量から船自体の重量を差
引いた数値。積荷の重量が重要な要素になる貨物船では一般にこの重量トンが用いられる。
「総トン」(グロス・トン)は、客船のように積荷の重量よりも容積が重視される船の大きさを
示すのに用いられる数値で、100 立方フィートを 1 総トンとして船体内部の総容積を表す。そこか
らさらに機関室、船員室、バラストタンクなどを除き、純粋に客船や貨物の輸送に供される容積を
示したものが「純トン」(ネット・トン)で、こちらは主に税金徴収の基準として用いられ、一般
にあまり使われない。
また「排水トン」は主に軍用艦船に用いられる単位で、船の水中部分の容積をその排除した分の
水の重さで示すもの。実質的には船の重量そのものを表す。ほかに運河の通航料算定に使われるス
エズ・トン、パナマ・トンといった単位もある。
したがって重量トンで示された貨物船と総トンで示された客船の大きさを単純にトン数で比較
してもまったく無意味なわけで、このへんが船の世界のややこしいところ。船のトン数が話題にな
ったとき、それがどのトン数なのかお互いわかっていないと、トンだ話の行き違いになることもあ
るから要注意。
20.これはびっくり。天ぷらそばの輸入依存度
ここ数年来、欧米各国で日本食がちょっとしたブームになっている。魚や大豆製品を中心にした
伝統的な日本食は、肉を中心とする欧米の料理に比べ低カロリーで、しかも栄養のバランスのよい
健康食だというのがその理由らしい。食文化の輸出なら貿易摩擦にもならないし、日本文化全体へ
の理解にもつながるわけで、大いにけっこうなこと。しかし、私たち日本人自身は、じつはこうし
た日本の伝統食の原料をほとんど海外からの輸入に依存している。その実情を一杯の天ぷらそばを
例にみてみよう。
まずはそば。原料のそばは国内消費量の 80%以上が輸入によってまかなわれている。天ぷらの中
身のえびも大部分が外国産。ころもの原料の小麦、しょうゆや天ぷら油の原料の大豆もほとんどを
輸入に頼っている。割り箸をつくる木材ももちろん輸入依存だ。つまり天ぷらそば一杯のうち純国
産部分は水と薬味のねぎくらいになってしまう。
天ぷらそばだけではない。9 割近くを輸入に頼るえびを筆頭に、
60%以上のたこ、50%以上のひらめ、かれいなど、すしネタに欠かせ
ない魚介類の多くも最近は輸入依存度を高めている。そしてその輸入
を中心になって支えているのが海運だ。「食」の文化を輸出し、その
原料を輸入する。まさに加工貿易立国日本の面目躍如といったところ
だが、ちょっと皮肉な話ではある。
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21.自動車輸送を支える、秒単位、センチ刻みの「車庫入れテクニック」
製品を運ぶ船のなかでもユニークな存在のひとつが自動車専用船(PCC)だ。外観は巨大な鋼鉄
のビル。大きいもので 12∼13 層の甲板をもつ船体の内部は、まさに高層駐車場そのものだ。しか
し最も特徴的なのは、1 台ずつ専門のドライバーが運転して行うその荷役。通常、ドライバー10 名
に車を固定するラッシャー8 名などを加えた「ギャング」と呼ばれるチームを 1 単位として行われ、
1 ギャングで 1 日 600∼700 台を積み込む。
船腹の開口部から滑り込んだ車は、狭い傾斜路を駆け抜け、前後 30 センチ、左右 10 センチ間隔
の積付け位置に、正確に、しかも秒単位の早技で次々に停車する。そのテクニックと集中力はまさ
にプロならではのものだ。
バックでの位置決めとハンドル側からの乗り降りも積み付けの鉄則である。これは、日本ほど熟
練していない外地の作業員が、陸揚げ時に、積み込まれた順にハンドル側から乗り込み、前進動作
だけで作業できるように考えたもの。このため日本の PCC で運ばれた車のダメージ率は世界でもま
れにみる低水準にある。
日本人の国民性ともいえる細やかな心配りと優秀な技術によって、世界の信頼を獲得した日本車。
その輸送面でのこうしたきめ細かな配慮もまた、その信頼性の維持にひと役かっているといえよう。
22.船の進水式は「あたま」から? それとも「おしり」から?
華麗なマーチが演奏され、シャンパンが割られ、巨大なくす玉がはじける勇壮な推進式。さて推
進式のとき、船は「あたま」から水上に滑り込むのだろうか、それとも「おしり」からだろうか。
答えは「おしり」からである。なぜかというと船は一般的に船首が船尾よりも細くなっている。
このため船首は船尾と比べ浮力がつきにくく、しかも造波抵抗も少ない。したがってもし船首を前
にして船台の斜面を滑らせると、船体はまず水中に深く突っ込み、そのまま勢いで沖合いまで流れ
て行ってしまう。ちょうど水泳のスタートの飛び込みのようなかっこうだ。それに船首から進水し
た場合、舵やスクリュー・プロペラなどが船台を下りる瞬間に、船台の末端に触れて損傷すること
もある。こうした理由で船の進水は船尾からと決まっている。
また進水の時点では、できるだけ船体を軽くするため、通常エンジンなどの重い部分はまだ積み
込まれていない。それからいったん水に浮かんだのち艤装岸壁から積み込まれる。つまり本当の意
味での船の完成は、進水式のさらに後になるというわけだ。
129
23.VLCC1 隻分のガソリンで乗用車なら地球を 1 万周
タンカーで日本に運ばれた原油は、国内で精製され、ガソリンや灯油、軽油などの石油製品とし
て市場に供給される。ではタンカー1 隻分の原油からこれらの製品がどれだけできるのだろうか。
ガソリンを例にとってみよう。日本に輸入される原油全体でのガソリンの得率(一定の原油から
蒸留される各留分の比率)は 20.2%(1989 年度、以下同じ)
。これを 27 万キロリットルの原油を
積む VLCC(24 万重量トンクラス)に当てはめると、1 積分から 5 万 4,540 キロリットルのガソリン
が精製される。このガソリンで燃費がリッター当たり 8 キロメートルの車を走らせると 4 億 3,632
万キロメートル走れ、何と地球を 1 万周以上してしまう。またジェット燃料では、得率は、2.3%
だから 27 万キロリットルの原油から精製される量は 6,210 キロ
リットル。ジャンボジェットの東京・大阪間の往復の燃料消費量
は 23 キロリットルだから、東京・大阪間を 270 往復できること
になる。
このほか同量の原油からナフサ、灯油、軽油、重油などが精製
されるが、年間を通じて、この VLCC およそ 740 隻分もの原油を
日本は消費しているわけで、そのほとんどを輸入に頼る日本にと
って、タンカーの果たす役割の大きさは計りしれない。
24.世界最大のネットワークに発展したコーヒーショップの口コミニュケーション
17 世紀末のロンドン。エドワード・ロイド氏が経営する小さなコーヒーショップには、船乗りや
海運業者、保険業者がいつもたむろしていた。
オーナーのロイド氏が熱心に海運に関する情報を集め彼らに提供していたおかげで、彼らはこの
店をひいきにし店は繁盛、業者たちもまた一種の情報センターとしてこの店を活用していた。
ロイド氏の死後もその伝統は引き継がれる。1734 年には当時の経営者であるトーマス・ジェムソ
ン氏によって英国の主要港の貿易船の活動状況を報道する週刊誌、Lloyd's List が発行され、1760
年には世界の船級協会の草分けであるロイズ船級協会が発足した。以後ロイズは英国の海運業のめ
ざましい発展とともに保険引受業者組合としての独自に形態を確立
し、現在の巨大な組織へと発展していく。
一杯のコーヒーで結ばれた船乗りや貿易業者の口コミ・ネットワー
クが、やがてコンピューターや通信衛星を駆使した海運と保険の世界
最大の情報センターとして君臨するようになることを当時の誰が予
測しただろうか。天国のロイド氏が、今、どんな顔でこれをながめて
いるか想像してみるのも面白い。
130
25.ちょっと待て!
船はすぐには止まれない
アッ、目の前に急に人が! とっさの急ブレーキで間一髪セーフ。車ならこれでいいが船の場合
はそうはいかない。20 万重量トン以上の大型タンカー(VLCC)が、原油を満載し 16 ノットのフル
スピードで走っている状態で急にエンジンを停止しても、船がほぼ静止するまでには約 30 分かか
り、この間に船は 8 キロメートルも進んでいる。
フルスピードから全速後進をかけても停止までに 15 分、距離にして 3 キロメートルほど進んで
しまう。しかもエンジンを止めたり逆転した場合、船は舵の効果をほとんど失い、右に曲がるか左
に曲がるかまったくわからない状態になる。
こうした理由から船が緊急事態を回避するためには、ブレーキをかけるよりもエンジンはそのま
まで舵を左右いずれかに切る方が有効ということになる。しかし船は車のように急ブレーキが切れ
るわけではない。満船状態の VLCC が舵をいっぱいに取っても、その回転弧は直径 1 キロメートル。
しかも舵が効きはじめるまでにある程度のタイムラグがある。車のように衝突直前、一瞬のハンド
ルさばきで事故を回避というわけにはいかない。
VLCC に限らず大型船の操縦にはこの動きののろさを計算に入れ常に先を読んで行動する必要が
ある。車や飛行機の操縦とは別の、巨大さゆえの難しさがあるというわけだ。
26.VLCC1 隻が運ぶ原油の 5%からパンティストッキングが 5,535 万枚
原油は、日本のエネルギー供給量の約 60%を占め、私たちの暮らしに欠かせないエネルギー原料
として大きな役割を担っているが、その一方で化学繊維やプラスチック製品など石油化学製品の原
料としても重要な役割を果たしている。
その石油化学製品の原料となるのがナフサ。粗製ガソリンとも呼ばれ、原油から蒸留される代表
的な留分のひとつ。日本に輸入される原油全体の 5%(1989 年)がナフサとして抽出され、それを
原料にさまざまな石油製品が生まれる。
そこでおもしろい数字をひとつ。VLCC(24 万重量トン)1 隻が運ぶ原油は約 27 万キロリットル。
その 5%がナフサになるとすると、ここから約 1 万 3,500 キロリットルのナフサが得られる。この
ナフサから身近な石油化学製品がどれだけつくれるだろうか。
まずナフサの成分のひとつであるエチレンを原料にポリエステル 65%混合のワイシャツが 405 万
枚と灯油のポリ缶が 189 万個。同じくプロピレンからはアクリル 100%のセーターが 540 万枚。さ
らにブタン・ブチレンからは自動車用タイヤが 13 万 5,000 本。分解油からはナイロンのパンティ
ストッキングが何と 5,535 万枚……。
こんな数字をみても、わたしたちの暮らしがいかに石油に依存しているかがよくわかる。そして
その輸送に携わるタンカーの役割の重要性もより身近かに理解できるはずだ。
131
27.
「ノアの箱船」は、新さくら丸に匹敵する大きさだった!
北欧の海を荒らし回ったバイキング船、コロンブスが乗ったサンタマリア号、ウィスキーの名前
で有名なカティーサーク……。世界史の舞台に登場するスターたちは、いったいどのくらいの大き
さだったのだろう。
まず 9 世紀頃に活躍したバイキング船。全長は 25 メートル、幅が 5 メートル程度で、現代の漁
業船程度の大きさだった。簡単な 1 枚帆と手漕ぎの併用で 10 ノットの速力を出したという。時代
は移って 15 世紀末、
コロンブスが乗ったサンタマリア号は、
全長 26.1
メートル、全幅 7.9 メートル、約 80 総トンの 3 本マストの帆船。航
海技術もさほど発達していない時代に、こんな小型船で大西洋を乗り
切ったのだからまさに大冒険といえる。同時代のキャプテン・ドレイ
クが乗ったゴールデンハインド号もほぼ同型の船だった。19 世紀後
半、帆船時代の最後を飾ったクリッパー型の代表選手、カティーサー
クは長さ 64 メートル、963 総トンのスマートな高速帆船だった。し
かしじつは紀元前にも大きな船があった。地中海貿易に活躍したローマの商船やピラミッド建設に
用いられたとされるエジプトの「太陽の船」がそれで、いずれも全長は 40 メートル以上、100 トン
程度の貨物を積むことができたという。ところで有名な「ノアの箱船」はどのくらいの大きさだっ
ただろうか。聖書の記述によれば、長さ 150 メートル、幅 25 メートル、深さ 15 メートル。日本を
代表する外航客船のひとつ、新さくら丸(175.8 メートル、24.6 メートル、深さ 14.8 メートル、1
万 7,389 総トン)にほぼ匹敵する大きさだ。紀元前 3000 年という時代に、こんな巨船を建造する
技術が本当にあったのか、今では知るすべもないが、なかなか想像力をかきたてられる話ではある。
28.コンピュータの指令で瞬時に並ぶ 4,000 匹のメダカの群れ
右ハンドル車は時計回り、左ハンドル車は反時計周り。左右わずか 10 センチの車間で車を積付
ける PCC(自動車専用船)の荷役では、ドライバーの出入りをすべてハンドルサイドから行う。こ
れが積付けの基本ルールだ。さらに 1 隻で 400∼500 種にのぼることもある車種ごとのサイズの違
い、複数の積地・揚地での荷役をスムースにするために配慮されなければならない各港での積み降
ろしの順番。PCC 荷役では、こうした厄介な制約をすべてクリアした上で、さらに空きをなくし 1
台でも多く積むことが要求される。こうした複雑な条件をすべて充たした各航海ごとの積付け手順
を、車の向きを示す矢印で図示した図面がメダカプラン。メダカの群れが泳いでいる様子に似てい
ることからこう呼ばれる。これを作成するのがストウェージプランナーの仕事で、従来は、船の図
面の上に各車種を図面と同縮尺に縮小した紙片を一つ一つ並べ、実際に目で確認しながら行うまさ
に職人芸の世界。コンピュータ化はまず不可能とみられていた。しかし最近のソフトウェア技術の
進歩はそれを可能にし、かつて 4,000 台積みの PCC で優に 3 日はかかっていたこの作業を、プラン
ナーの簡単な指示だけで、わずか 3 時間程度で行うシステムが出現した。熟練の「カンピュータ」
によってのみ可能だった 4,000 匹のメダカの調教も、今やすべてコンピュータにとって代わられよ
うとしている。
132
29.
「海に浮かぶ経済大国」を支える地球 7,000 周のシーロード
日本に出入りする年間 7 億 5,000 万トンもの海上貿易物資。その輸送を中心的に支えているのが
日本の外航商船隊だ。
日本が所有する船腹量は、1989 年央で、2,803 万総トン。世界の船腹量の約 7%を占め、リベリ
ア、パナマに次いで世界第 3 位の地位を占めている。リベリア、パナマは、いわゆる便宜置籍国。
純粋な自国船腹量でみれば、日本は世界最大の船腹保有国ということができる。これらの日本船に
外国から用船した船を加え、わが国の海運会社によって運航されているのが日本の外航商船隊で、
その船腹量は 5,517 万総トンに達する。
さて、この日本の外航商船隊が 1 年間に走る総航行距離はどのくらいだろう。コンピュータでは
じき出すと、なんと約 2 億 8,000 万キロ。地球 7,000 周分、月までの往復だったら 364 往復、太陽
と地球の間でもほぼ 1 往復する膨大な距離に達する。
世界の国々を結び、縦横にはりめぐらされた地球 7,000 周のシーロード。
「海に浮かぶ経済大国」
日本にとって、海運がいかに大きな役割を果たす存在であるかを、じつによく示している数字だと
いえよう。
30.船の速力を 2 倍にすると燃料消費量は 8 倍に
船の速力は一般にエンジンの馬力の 3 乗に比例する。つまり 10 ノットで走っていた船を 20 ノッ
トで走らせるためには 8 倍の馬力が必要ということになる。馬力が 8 倍ということは燃料消費量も
ほぼ 8 倍。つまり船を高速で走らせるには、燃料コストの極端な増大を覚悟しなければならないわ
けである。
しかし逆にいうとこれは、航海速力を必要最小限にまで落とせば燃料コストの大幅な削減が可能
であることをも意味する。オイルショック当時、盛んに行われた減速航海はこうした理由によるも
ので、速力 25 ノットのコンテナ船を 20 ノット運航すれば、1 日あたりの燃料消費量は約 2 分の 1
に減る計算になる。
意外に思われるかもしれないが、VLCC と呼ばれる 25 万重量トンクラスの巨大タンカーは 3 万重
量トンクラスの、コンテナ船の 2 分の 1 程度の馬力のエンジンしか積んでいない。これも同様の理
由によるもので、最近のコンテナ船は 22 ノット前後の航海速力が要求される。これに対しタンカ
ーは 15 ノット程度の速力を出せばいい。船体がいかに巨大でも、速力が遅い分だけ馬力は少なく
てすむわけで、当然燃料消費量も少ない。長距離大輸送のチャンピオンである VLCC は、経済性の
面でもきわめて優れた輸送機関であるということができる。
133
31.日本の船名につく「丸」の由来
日本の船名にはなぜか「丸」のつくものが多い。日本人はさほど不思議とは感じないのだが、外
国人にその理由を問われて、「はて?」と答えに窮した経験を持つ人も多いはず。歴史的にみると
10 世紀ころからすでに「丸」のつく船名はひんぱんに使われており、その起源は相当古いもののよ
うだ。
語源の説明としていちばん代表的なものが「麿(まろ)」の転化だとする説。もともと自分のこ
とを「麿」といっていたのが、のちに、「柿本人麿」のように敬愛の意味で人につけられるように
なり、それがさらに愛犬や刀など広く愛するものにも転用された。その「麿」がやがて「丸」に転
じ、船にもつけられるようになったというものだ。
もうひとつは、本丸、一の丸などといった城の構造物を呼ぶときの「丸」からとられたという説。
つまり船を城に見立てたというわけだ。
このほかにも諸説があり、いずれも決定的とはいいがたい。ところで明治期に制定された船舶法
取扱手続きに、「船舶ノ名称ニハ成ルベク其ノ末尾ニ丸ノ字ヲ附セシムベシ」という項がある。語
源の説明とはいいがたいが、これが明治以降の日本商船の船名に「丸」がつく大きな理由になった
ということはできよう。
しかし最近は片仮名や平仮名の「丸」無しの商船も多くなった。考えてみれば「丸」をつけなく
ても特に不自由はない。人名や犬の名前に「丸」をつける習慣はとうに無くなっているえわけで、
同様に船名から丸の字が消えてゆくのも時代の流れなのかもしれない。
32.船も運べば列車も運ぶ、海の重量挙げチャンピオン
日本の代表的な輸出商品としてまずあげられるのが自動車やエレクトロニクス製品。だが石油精
製用の蒸留塔や発電機、小型船舶、鉄道車両などの重機械工業製品やエンジニアリング製品も日本
の重要な輸出製品のひとつ。単体あたり数百トンに達するこれらの巨大貨物を専門に運ぶ船が重量
物専用船だ。
在来型貨物船の荷役装置の能力はせいぜい 50 トン程度。これに対し重量物専用船は 300 トン前
後から最大で 600 トンという能力のヘビーデリック(重量物専用揚荷装置)を備えており、数百ト
ンの貨物を自力で荷役できる。
船倉に入り切れない長尺貨物を甲板上に積むため甲板は特に頑丈に作られており、船倉内も柱な
どの構造物をできるだけ少なくして大型貨物の積み込みを容易にしている。また荷役時の重心の崩
れを適切に調整する必要から、バラストスペースも在来型貨物船より大きくとられている。見かけ
は在来貨物船とさほど違わないが、パワーも強度も機能も運ぶ貨物に合わせ一段高いレベルにつく
られているというわけだ。
「親亀の背中に子亀を…」といった格好で、甲板に漁船など小型船舶や列車を乗せて運ぶ重量物
専用船の姿は、まさに貨物船の重量挙げチャンピオンといったところ。
発電所や工業プラント部品、列車、船舶など、途上国の発展に不可欠な重機械・エンジニアリン
グ製品の輸出に不可欠な役割を果たす重量貨物輸送のエキスパートは、今日も豊かな暮らしの夢を
世界の国々へと運び続けている。
134
33.LNG 船の燃料は気化した積荷の LNG
最近、電力用や都市ガス用などの分野でクリーンエネルギーとして注目されているのが LNG(液
化天然ガス)
。LNG タンカーはこの LNG を専門に輸送する船だ。優れた断熱構造をもつ巨大なタンク
を 4∼5 個持ち、
その中にマイナス 162℃という超低温で液化されて天然ガスを積み、
インドネシア、
マレーシア、オーストラリア、ブルネイなどの遠い産地からはるばる海を越えて運んでくる。
しかしその断熱構造がいかに優れているとはいえ、長い航海中の温度上昇によって貨物の一部が
気化してしまうのは防げない。こうした気化したガスのことをボイルオフガスというが、可燃性の
このガスを大気中に放出するのはもったいないし、再液化はコスト的に合わない。
そこで考えられたのが、これを燃料として使う方法だ。このため LNG タンカーのエンジンはター
ビンエンジンとなっており、ボイルオフガスと燃料油の両方をボイラーで混焼できるよう設計され
ている。
LNG は、いまや原油に次ぐ重要なエネルギー資
源の一つ。それを一滴のムダなく活用しながら運
ぶ LNG タンカーは、まさに資源の有効利用のお手
本のような存在といえよう。
34.両舷にともる赤と緑のランプで夜間航行の安全確認
飛行機は、夜になると翼の左右の端に赤と緑のランプを点灯させて飛ぶ。夜空を飛ぶ飛行機を見
上げたことのある人ならご存じのはずだ。
飛行機の交通ルールは、交通機関としての先輩である船からとられており、どちらも右側通行が
原則だ。したがって船も夜間の航行では同じように、左舷に赤ランプ、右舷に緑ランプを点灯する。
これらのランプを舷灯といい、前方と斜め後方(正横後 22 度 30 分)の間しかみえないようにな
っている。だから夜間に船がすれ違うとき、相手の船体がまったく見えなくても、赤のランプだけ
が見えれば、お互い右側通行のルールを守っていることが確認できるというわけだ。
もし赤と緑の両方がみえれば、お互いがほぼ真向かいに航行していることになり、衝突の危険が
ある。こういう場合は、お互いが右に進路を変えて衝突を避けるのがルールだ。
このほか前部と後部のマストや船尾に船の大きさや、前後方向を示す白灯をつけることも夜間の安
全航行には不可欠なルールだ。
レーダーや自動航法装置など最近の船に満載されたさまざまなハイテク設備と比べれば原始的
ともいえる方式だが、最終的に安全を守るのはやはり人間。こうしたシンプルな昔ながらの方法が
安全航海に果たす役割は計りしれない。
135
35.日本列島の物流を支える海の大動脈、内航海運
国内輸送といえばまず思い浮かぶのがトラックや鉄道。しかし本州を中心とする列島で構成され
た日本では、国内輸送の分野でも船が果たす役割は大きい。大量の貨物を一度に、遠くまで、経済
的に運ぶ能力で、いちばん優れている輸送機関が船。その特長を生かして工業原料や製品の国内輸
送になくてはならない役割を果たしているのが内航海運だ。
わが国の国内輸送状況を、輸送量に距離をかけたトンキロ・ベースでみれば、全体の 40%以上が
内航海運によって運ばれており、これを石油製品や鉄鋼、セメント、石炭、非鉄金属鉱物といった
産業用基礎物質に限ってみると、その比率はさらに 90%近くにまで高まる。とくに最近では、内需
拡大の影響で輸送量も大きく伸びており、その重要性がいっそうクローズアップされてきている。
一般貨物船をはじめタンカー、自動車専用船、LPG 船、セメント専用船など外航商船隊に劣らな
い豊富な船種をもつ点も、日本の内航海運の大きな特徴だ。産業の基盤を支え、今日も膨大な物資
を運び続ける内航海運は、まさに日本列島を結ぶ海の大動脈である。自動車や鉄道と比べ静かで公
害が少なく、そのうえ線路や道路を必要としない長距離大量輸送機関として、内航海運の果たす役
割は今後さらに重要なものになっていくはずだ。
36.スターボード(右舷)とポート(左舷)の由来
船の右舷を英語では「スターボード(star-board)」と呼ぶ。現在の船は、船尾に舵がついてい
るが、昔の船、特にバイキング船では、舵は必ず右側の舷についていた。そこで右舷のことを「操
舵する舷−スティアボード(steer-board)
」と呼んでいたのが、次第になまってスターボードにな
ったというのがその定説。操舵の最高責任者である船長の居室が伝統的に右舷に設けられているの
もこのためだといわれている。
これに対し左舷は「ポート」と呼ばれる。舵が右舷にあれば、当然港への接岸は舵のない左舷か
ら行われるわけで、つまり港(port)側の舷だからポートというわけである。
ただしこのポートという呼び方が一般的になったのは 19 世紀半ばになってからのこと。それ以
前は「ラーボート(lar-board)
」と呼ばれていた。これは「積荷をする舷−ラドボード(lad-board)」
がなまったものとされているが、これをポートに変えたのは英国と米国の海軍。理由は、スターボ
ードとラーボードが発音上まぎらわしく、取り違えてしばしば事故の原因になったためだ。
左舷=港側というこの伝統的な考え方は、そのまま現代の航空機にも引き継がれ、旅客機などの
出入口は、現代も機体の左側に付けられている。
136
37.
「木片」から始まった船のスピードメーター
船の速力や船程を計測する装置のことを「ログ(測程儀)
」という。ログとは「木片」の意味で、
昔、海面に木片を投入し、それが船側を通過する時間を計って速力や航程を計算したときの名残り
だ。
ログにはさまざまな種類があり、原始的なものでは、上記の方法そのものであるダッチマンズロ
グや木片に紐をつけて海面に流し、一定時間に流れ出た紐の長さで計測するハンドログがある。
時代を追って現れたより洗練された方式には、水流で回わる回転子を曳航し、その回転数で速力
を知るパテントログ、船底から突き出した管の開口部に加わる水圧で速力を計るサルログ、電磁石
で磁界を作り、そこを通る水流の速さに比例して起こる誘起電圧から速力を知る電磁ログがある。
しかしいずれも計測するのは対水速力。相手が海流のある海では「時速いくらで何時間走ったか
ら今どのあたり」といった計算には当然狂いが生じる。最新式のドップラーログは、海底に向けて
発射した強音波の反射波の周波数変化から速力を割り出すため正確な対地速力が計れるが、こちら
も水深百数十メートルまでが限界。となると船は大洋上では速力をもとに厳密な航行距離や現在位
置を知ることは不可能。通常はロランやデッカなどの地上局や人工衛星から電波をもとに位置や航
行距離を計算している。
とはいえエレクトロニクスを使った最新式の測程儀まで、いまだに「ログ」と呼ぶあたり、いか
にも伝統を重んじる海運らしいところだ。
38.膨大なノウハウに裏付けられたケミカルタンカーの多品種・少量輸送
タンカーといえば、一般には巨大な船体に大量の原油を一挙に飲み込んで、遠い原油国と日本の
間を行き来する長距離大量輸送の代表選手というイメージがある。しかしケミカルタンカーは、同
じタンカーでも、まさに原油タンカーとは好対照といえるデリケートな存在だ。多いもので数十に
およぶコーティングされたタンクをもち、それぞれが独立した荷役用のパイプラインやポンプを備
え、付加価値の高い液状化学製品の多品種・少量輸送に本領を発揮する。
ケミカルタンカーによって輸送される貨物は、数百種類にのぼる石油化学製品を中心に、動植物
油、魚油、糖蜜、無機酸からコールタールなどの炭化水素誘導体まできわめて広範囲。しかもその
多くが可燃性、毒性、反応性等をもつ危険物質だ。その安全輸送には、化学品のそれぞれの特性に
関する膨大なノウハウが必要となる。
例えば貨物とタンクのコーティング材の不適合は貨物の汚染やコーティング自体の腐食の原因
になる。混ざり合ったとき激しい反応を引き起こす貨物同士を隣り合わせに積むことも危険だ。前
回の貨物と新しく積む貨物との相性も、万一の貨物の汚染を考えれば重要なチェックポイントとな
る。
繊維製品やプラスチック、塗料、洗剤、接着剤など、現代の暮らしに今やなくてはならないもの
となった化学製品。ケミカルタンカーはその中間原料から最終製品までを、細心の心配りで安全に
確実に運びながら、私たちの快適な暮らしを今日も支え続けている。
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39.だいぶ訛っているけれど船の上では標準語
海事用語の多くは英語から来ている。しかし実際に船員や海事関係者の会話を聞いていると、英
和辞典ではみつからないような不思議な単語がよく飛び交う。
例えば「チョッサー」
。これは一等航海士のことで、チーフオフィサー(chief officer)が訛った
ものだ。
このほかにも「ボースン(boatswain=甲板長)
」
、
「ナンバン(No.1 Oiler=操機長)」
、
「ホコ(hook=
釣り金具)、「テークル(tackle=索具)」、「チェン(chain=鎖)」、「ヒーボイ(heave away=クレー
ンのワイヤを締める、貨物を吊りあげる)」、「ストライキ(slack a way クレーンのワイヤーを緩
める、貨物を吊り下げる)
」など数多い。
どれも長い伝統の中で使われる自然に訛って使われるようになったもの。一般にも「スタンバイ」
も、やはり海事用語の「stand by!=用意!」が訛ったものだ。
こうした現象は、日本に限らず英語圏を始めとする世界の海運界に広くみられ、訛ったまま世界
共通語として通用している言葉も多い。「ボースン」や「テークル」、「スタンバイ」などはその例
だ。
なぜこうした訛りが生じるのか定説はない。しかし海に生きる男達の匂いを漂わす海運独自の
「方言」に、いい知れぬ魅力を感じる船好きも多いはずだ。
40.1 日が 24 時間にならない船内標準時のマジック
日本が朝のときニューヨークは夕方、ロンドンやパリは夜中だ。これを同一の時刻であらわして
は不都合なので、それぞれの国や地域ごとに、太陽が南中する時刻が正午となる標準時が用いられ
るのはご存知のとおり。では世界の海を航行する船の上ではどのような時刻を使うのだろうか。
まず港に停泊しているときや沿岸を航行しているとき。この場合は、その主権国の標準時を用い
る。しかし公海上を航行しているときはそうはいかない。そこで一般の商船では、世界各地で標準
時を定める方法と同様、現在地で、その日の正午に太陽が真上にくるような標準時を採用する。
ただし、丸い地球の上をつねに移動している船では、この標準時を毎日進めたり遅らせたりしな
ければならない。船内では、1 日 1 回ないし 2 回、こうした時刻の整合が行われるが、これによっ
て実質的な 1 日は、西に向かうか東に向かうかで長くなったり短くなったりする。
そこで、例えばクルーズ客船の乗客にとっては、西に向かうコースを選んだ方が 1 日を 24 時間
以上楽しめ、得をする計算になる。逆に船で働く船員にとっては勤務時間が長くなり損ということ
になる。ただし、こちらはほとんどの場合、往路と復路で相殺されるので問題はないというわけで
ある。
138
41.1 週間を 1 泊 2 日に短縮したコンテナ船のスピード荷役
スマートな船体に色とりどりのコンテナを整然と積み上げて、高速で北米や欧州、オーストラリ
アなどと日本の間を行き来するコンテナ船。いまや国際定期航路の主役となったこのコンテナ船の
出現は、近代の海運史における最大の革命の一つといえよう。
海上コンテナ輸送の最大のメリットは、港湾での荷役効率の飛躍的な向上にある。さまざまな雑
貨を本船のデリックのみで荷役する在来型定期船では、荷役装置 1 基の扱い量は 1 時間に約 50 ト
ン、20 フィートコンテナ換算で約 2.5 個にすぎないが、陸側に設けられたガントリークレーンと呼
ばれる水平移動型クレーンによるフルコンテナ船の荷役では、1 基が毎時 20∼30 個を扱う。
このため、在来船の最終港での標準的な在港時間は天候の影響等もあり、約 1 週間といわれるの
に対し、コンテナ船では、通常 1 泊 2 日程度である。
精密機器や電子製品、肉類、果物、ワインなど多様な荷姿の貨物をコンテナという規格化された
箱に収めることで達成されたこの効率化には、さらにもうひとつの効果も加わる。トラックや鉄道
など陸上輸送機関との連係による海を越えたドア・ツー・ドア輸送の実現である。
こうした特徴を生かし、近年は北米大陸を横断するダブルスタックトレイン(コンテナ 2 段積み
大陸横断鉄道)の日本船社による直接運航やシベリアランドブリッジなどの大規模な海陸複合一貫
輸送が実現。北米や欧州の内陸部への輸送も一段と効率化され、まさにに地球を一つの都市にした
ようなきめ細やかな物流ネットワーックが生まれている。
42.帆船を飾った華麗なファッション―船首像
帆船から汽船の時代に移って消滅してしまったものの一つに船首像がある。航海の安全を願って
舳(へさき)に取り付けた彫刻で、蛇の頭など信仰の対象や魔力をもつものの姿をかたどったもの
だ。その歴史は古く、古代ギリシャ・ローマの商船やバイキング船にまで遡ることができる。しか
し迷信から出発した船首像も、16 世紀に入ると、富や威信のシンボルへとその意味も変わり、次第
に豪華で手の込んだものになり、18 世紀の中頃には、女優や皇太子、政治家など実在の人物まで登
場するようになる。
やがて 19 世紀半ば、大型で快速のクリッパー型帆船の全盛期になると、こうした“船首像芸術”
は最も華麗で洗練された時代を迎える。スマートなクリッパー型帆船には、船首像がじつによく似
合った。そこで各船主は、船首像の豪華さや美しさを競い合い、著名な彫刻家による作品も登場す
る。題材も、カティ・サークに代表される女神像から、男神、騎士、鷲などと幅広い。しかしその
後汽船の時代を迎え、舳に突起部をもたない直立型船首が一世を風靡するようになると、船首像は
急速に歴史の舞台から消えてゆく。
スピードや大量輸送能力、経済性を最重視する現代の船には、船首像のような“ファッション”を
楽しむ余裕はもはやない。しかし伝統を重んじる練習帆船などには、今も船首像を見ることができ
る。例えば運輸省航海訓練所の練習帆船・日本丸の船首には、「藍青」と題された西田由・東京芸
大教授制作の女神像が取り付けられている。時代は変わっても、流麗な帆船の姿と船首像は、切っ
ても切れない関係にあるようだ。
139
43.VLCC のエンジンの馬力は、10 トントラック約 100 台分
現代の船の推進機関は、タービン機関、ディーゼル機関、電気推進の 3 種類に大別される。ター
ビン機関は、ボイラーで燃料を燃やして高温高圧の蒸気を発生させ、これを金属製の羽根に吹きつ
けて回転させる方式。高速が出せ、振動が少ないのが特徴だが、一方で燃料消費量が多いという難
点がある。ディーゼル機関はバスやトラックに使われるものと同じで、タービン機関より歴史は新
しい。馬力の点でタービン機関にやや劣り、振動、騒音が大きいという弱点もあるが、燃料効率が
高く、経済性に優れている。第2次大戦後、高馬力のディーゼル機関が開発されてからは、タービ
ンに代わり船舶用エンジンの主力の位置を占めるようになった。電気推進は、ディーゼル機関やタ
ービン機関で発電機を回し、その電力でモーターを回す方式。タービン同様高速船に向くが、燃料
効率はやはりディーゼルに劣る。ところで、こうした船のエンジンの馬力はどのくらいだろうか。
例えば 25 万重量トンの VLCC なら 3∼4 万馬力。相当大きな数字に聞こえるが、これは 10 トントラ
ックで比較すると約 100 台分にすぎない。つまりトラックならトン当たり約 35 馬力必要なところ
を、VLCC は、わずか 0.14 馬力で済んでしまう。全長 300
メートルを優に越え、日本の原油消費量の約半日分を一度
に運んでしまう巨大な VLCC が、時速 26 キロメートル程度
とスピードこそ違うが、この程度の馬力で走ることを考え
れば、輸送機関としての船の経済性の高さが納得させられ
る。
44.モジュール船の荷役を支える、コンピューター制御のスーパームカデ
海面からわずか 3 メートルほどの広く平坦な上甲板に、ブリッジの数倍もの高さでそそりたつ巨
大な積載物。ほとんど工場そのものにみえるこの貨物は、
「モジュール」と呼ばれる発電プラントや
海水淡水化プラントの分割された一部。モジュール船は、このモジュールを運ぶための専用船だ。
自前の荷役装置を持たない RO/RO(ロールオン・ロールオフ)方式のため、荷役はユニットドー
リーと呼ばれる自走式の荷役装置で行われる。自走可能な台車を、貨物の大きさや重量、重心位置
に合わせて縦横に複数連結して用いるもので、連結と同時に全車両が連動し、何十両連結しても運
転手は一人で済む。まるでコンピュータ制御のムカデといったところ。まず陸上で、モジュールの
下にこのユニットドーリーが滑り込み、ジャッキアップして貨物を支えながら甲板上に自走し、所
定の位置で貨物を降ろして、陸上に戻るという方法で行われる。
このスーパー・ムカデの苦手は傾斜だ。このためモジュール船は船底から喫水線まで 4∼6 メー
トルの高さしかない超浅喫水幅広型(USDV)という特殊な形状をもち、荷役時には、バラストを注
入して岸壁と上甲板が同じ高さになるまで船体を沈め、ユニットドーリーの水平移動を可能にして
いる。外地でのプラント建設は、天候等の条件によって工程が左右されやすい。しかしプラントを
国内で完成させ、あとは据え付けるだけにすれば、確実な工程と、プラントの精度が保証される。
こうしてモジュール船によって運ばれたさまざまなプラントは、開発途上地域の人々に水や電力を
供給し、暮らしや経済の発展を支える原動力として、今日も世界のさまざまな国で活躍している。
140
45.
「デリック」の由来は死刑執行人の名前から
貨物船の荷役装置の代表的なものにデリックがある。ポスト(支柱)とブーム(ポストの下部に支
点を持ち、自由に動かせる腕状の部分)によって構成され、本体自体はクレーンのように動力装置
を持たず、ブームの上下や旋回、貨物のつり上げは、甲板上のウインチと結ばれたロープの伸縮に
よって行われるのが特徴で、その発明は 17 世紀ごろまでにさかのぼる。
そのシンプルな構造による応用の柔軟性がデリックの持ち味で、ブーム先端から左右に伸びたロ
ープ(ガイ)を交互に伸縮させてブームを旋回させるガイ巻き、2基のデリックを用いて、固定し
た2本のブームの間で貨物を移動するケンカ巻き、やはり2基のデリックを用い、固定した一方の
ブームに分銅を取り付け、その重さでもう一方のブームを旋回させる分銅巻きなど、デリック荷役
ならではの数々の妙技がある。
ところで縁起の悪い話で申しわけないが、この「デリック」という呼び名、じつは17世紀の英
国の死刑執行人、ゴドフリー・デリック(Godfrey Derrick)氏の名前からきているといわれる。
エセックス伯をはじめ数々の大物の死刑を執行した彼の名はきわめて著名で、当時の人々は絞首台
のことまでデリックと呼ぶようになった。そして、彼の死後まもなく発明された新型の揚貨装置の
形が当時の絞首台にそっくりだったので、それもそのままデリックと呼ばれるようになったという
わけだ。
46.船底部に塗られた赤い塗料の秘密
鋼鉄でできた船を、そのまま海水中に浮かべておけば、海水の塩分でわずか 2、3 日のうちに表面
に赤錆が生じてしまう。このため船の主要部分はすべて錆止め塗料を下地に塗り、その上に仕上げ
の色彩塗料という二重塗装によって、ガードされている。
しかし船体が海水に直接接触する喫水線付近から下の船底部分に関しては、これだけではまだ不
十分。この部分は、船が港などに停泊している間に、カキやフジツボなどの貝類や海藻類が付着し
やすく、こうした付着物は、船体の水中抵抗を増加させ、スピードや燃料効率を低下させる船の天
敵となっている。
そこで、これを防ぐために 1930 年代に開発されたのが、AF(Anti-Fouling)塗料と呼ばれる貝類
や海藻の付着を防ぐ特殊な有機化合物を混ぜた塗料。貨物船などの喫水線付近から下の部分に塗ら
れている赤い塗料がそれで、現在では世界中のすべての鋼船に使われている。
船体の上と下を塗り分けたあのハデなボディ−・ペインティングは、別におシャレのためではな
く、親しげに近づいてくるカキやフジツボたちにわざと嫌われるための苦肉の策だったわけである。
141
47.海運会社が運行する大陸横断鉄道
1 両が約 85 メートルという超ロングサイズの車両に 40 フィートコンテナを縦に 5 個ずつ上下 2
段積みし、それをさらに 15 両から 25 両連結、1 列車の総延長は 1.5 キロから 2.5 キロにおよぶと
いう長大な大陸横断列車が、ダブルスタックトレインだ。
一度コンテナに貨物を詰め込んでしまえば、あとは船、自動車、鉄道、飛行機と、さまざまな輸
送手段の間を自在に接続できる点が、コンテナ輸送の最大の特色。これを生かし、従来個別に提供
されていた海、陸、空の輸送手段を、船会社が一貫して提供することを可能にした「国際複合一貫
輸送」の実現は、コンテナリゼーションの最大の成果だ。
その花形選手の一つがこのダブルスタックトレイン。コンテナ船によって日本からシアトルやロ
サンゼルスなど米国西海岸の都市まで運ばれたコンテナを、1 列車に 150∼250 個積み込んで、シカ
ゴ、ニューヨークなど内陸部や大西洋岸の都市まで、運転手の交替以外は、ほぼノンストップ。約
6 日間で運んでしまう。
現在、日本の定期船会社が、米国内で、このダブルスタックトレインの直接運行を手掛けており、
従来のパナマ運河経由のルートと比べ、輸送時間を大幅に短縮。さらに専用ダイヤによる直接運行
のため、運行スケジュールもきわめて正確なものとなり、国際化時代の物流の合理化に大きく貢献
している。
「ポート・ツー・ポート」から「ドア・ツー・ドア」へ。より効率的で、きめ細かな、21 世紀の
物流への夢を乗せ、ダブルスタックトレインは、今日も北米大陸の原野を、全速で駆け抜けて行く。
48.離着岸時の操船をサポートする水面下の「カニの横ばい」装置
船首に近い船側の水面に白い気泡を湧き立たせながら、徐々に船体を横移動させ、接岸・離岸す
る船を見たことがないだろうか。これは最近の大型客船やフェリーなどにほとんど装備されている
サイドスラスターと呼ばれる装置の働きによるもの。
船首または船尾近くの水中部分に、進行方向と直角に船体を貫通しているトンネルがあり、その
なかにスクリュープロペラが収められ、離着岸の際、これを回転させることで、船はちょうど「カ
ニの横ばい」のように横方向に移動することができ、タグボートを必要としないか、または数をよ
り少なくして操船することができる。船首近くにあるものをバウスラスター、船尾近くにあるもの
をスターンスラスターとも呼んでいる。
普通は、水面下のために見えないが、この装置を持つ船の船腹には、丸の中に三角形の四つの羽
根を配したマークがついており、その直下にサイドスラスターがあることがわかるようになってい
る。
このほかにも、船の水面下の部分には、船の横揺れを少なくするフィンスタビライザー(横揺れ
防止装置)や、造波抵抗を少なくするバルバスバウ(球状船首)など、さまざまな工夫が施されてい
る。離着岸時のデリケートな操船を、より安全に行うことを可能にしたこのサイドスラスターもま
た、そんな縁の下の力持ちの一つといえよう。
142
49.便宜置籍の本当の狙いは節税よりも船員費対策
船にも人間と同じように国籍があり、登録した国の法律によって制約と保護を受ける。しかし、
その内容は国によってまちまち。そこで、より有利な条件を持つ国に便宜的に船籍を移す動きが、
戦後、世界の海運国で活発になった。これが便宜置籍で、このような登録ができる国を便宜置籍国
といい、リベリア、パナマなどはその代表的な例である。
便宜置籍の狙いは、当初主に税金対策だった。これらの国々がもともと便宜置籍船に対してさま
ざまな優遇税制を実施していたためで、こうした事情は今も変わらないが、最近では、便宜置籍の
狙いはむしろ船員費コストの削減へと大きく変化している。
日本を含め、ほとんどの先進海運国では、自国の船には、原則的に自国が承認する海技免状等を
持った船員の乗船を義務づけている。しかし先進諸国の船員は賃金も高く、より低賃金の発展途上
国海運との価格競争では不利。一方、便宜置籍国では船員の雇用等に関する規制が緩やかで、賃金
の安い外国人船員を乗せることができるわけだ。
1970年代に入って、こうした狙いによる便宜置籍が活発になり、現在ではわが国をはじめ多
くの先進海運国が、自国籍船と便宜置籍船を組み合わせて自国商船隊を構成するようになっている。
海運会社にしてみれば、自社船は自国籍で運航したいのはやまやまだが、国際市場の中で厳しい競
争を強いられている現状では、便宜置籍はサバイバルのための苦肉の策でもあるわけである。
50.KD貨物は凝縮された自動車の缶詰
海外に輸出される日本車は、かつてはすべてが国内で生産されていた。しかし近年の貿易をめぐ
る国際環境の変化の中で、日本メーカーによる海外生産が拡大し、それにともなってノックダウン
生産のための未完成車輸出が大きな比重を占めるようになってきた。
ノックダウン用の部品パッケージにはKD(Knocked Down)車両とKDセットの2種類がある。現
地での部品調達率の違いによる分類で、KD車両とは出荷される1台分の部品の総額が、完成車1
台分の構成部品の総額の 60%以上のものをいう。KD車両は、さらにSKD(Semi Knocked Down)
とCKD(Complete Knocked Down)の2種類に分けられる。SKDはドライバーやスパナで組立が
可能なもの、CKDは溶接が必要なものだ。
一方KDセットは、パッケージに含まれる部品の総額が、完成車1台分の構成部品の総額の 60%
に満たないものを指し、最近では現地での部品調達率を向上させる必要からKDセットの比率が増
え続けている。いずれも一台分を1パッケージとし、木枠梱包か、折りたたみ式で再使用可能な金
属ケース、もしくはコンテナで運ばれる、高度に凝縮された自動車の缶詰である。輸出時には、完
成車と一緒に PCC(自動車専用船)で運ばれるケースが多いが、完成車両と比較し体積あたりの重量
が大きいため、これを運ぶ PCC には、ランプやデッキの強度を高めるなどの対応がなされている。
さらに最近ではコンテナで運ばれるケースも多く、デッキ上にコンテナを積めるようにした新しい
タイプの PCC も現れた。また完成車の輸送とは切り離し、コンテナ貨物として定期貨物航路で運ぶ
ことも多くなっている。こうした生産拠点の国際化の波は今後ますます大きくなるものとみられ、
急激に変化する物流環境の中で、日本海運は国際化時代の自動車輸送の新しいニーズに、さらに柔
軟に応えていこうとしている。
143
51.
「プリムソルマーク」が示す季節、水域ごとの満載喫水線
船舶には、これ以上貨物を積むと復原性が悪くなり、航海する上で危険な状態になるという限界
がある。それを誰の目にも分かるように表示したのが「満載喫水線表示」。別名「プリムソルマー
ク」と呼ばれるもので、貨物船の船体中央部の舷側に描かれた中心を 1 本の線が横切る輪と、その
横に刻まれた目盛状のマークがそれだ。輪の部分の左右に記されたアルファベット 2 文字は、日本
海事協会(NK)など検査を行った機関のイニシャル。さらに目盛の部分に付されたアルファベット
記号は、上から順に TF=熱帯淡水、F=夏期淡水、T=熱帯、S=夏期、W=冬期、WNA=冬期北大
西洋を意味する。それぞれが、海域や季節ごとの気象・海象によって区分された船舶満載喫水線用
帯域図という世界地図上の各ゾーンに対応しており、たとえば波の穏やかな熱帯域を航海する場合
は、荒れやすい冬期帯域や冬期北大西洋帯域を航海するよりも上の喫水線が用いられ、よりたくさ
んの貨物が積めることになる。つまり船舶の満載喫水線は、季節や水域によって異なるわけだ。こ
のマークが生まれたのは 19 世紀後半の英国。当時は、船舶の積載量に関する安全基準がなく、貨
物の積み過ぎによる海難がたびたび発生した。当時の海運先進国英国の議会は、これを重くみて、
1876 年国際航路に就航するすべての船に、貨物積載の限界を示す標識を表示することを義務づけた。
この法案の起草者が、英国の政治家サミュエル・プリムソル(Samuel Plimsoll)で、その名前を
冠してこの表示マークをプリムソルマークと呼ぶようになった。やがてこのマークの意義は、世界
の国々にも認められるようになり、現在では、全世界共通の標識としてあらゆる船舶に用いられて
いる。
52.時速93キロの超高速貨物船、テクノスーパーライナー
1,000 トンの貨物を積み、現在のコンテナ船の約 2 倍に当たる 50 ノット(時速 93 キロ)で航行す
る夢の超高速貨物船「テクノスーパーライナー」の開発が、いま日本で進められている。ジェット
機よりも安く、コンテナ船よりも速い新しい輸送機関として位置づけられるもので、21 世紀には、
日本国内や近隣アジア諸国との海上輸送の大動脈となることが期待されている。
開発上の最大の壁は、大気中の 800 倍という海水の抵抗。これを小さくするために考えられる方
法は、水中翼方式とホーバークラフト方式だが、現在実用化されている両方式の船の積載重量は数
十トンから百トン程度。貨物輸送に使うには船体を持ち上げる力も推進力も小さすぎる。
そこで、いま注目されているのが、流線形をした空洞の「浮体」を水中翼の両側にとりつけ、揚
力と浮力の併用で船体を持ち上げる方法。推進にはジェット旅客機と同じガスタービンエンジンを
用い、浮体の先端から吸い込んだ海水を高速で後方に噴射し
て航行するというものだ。
このほか、ホーバークラフトに近い船型も候補にあがって
いるが、どちらにしてもコンピュータ技術を応用した高波時
の姿勢制御、新素材による船体の軽量化など、さまざまな先
端技術を駆使したまったく新しいコンセプトの船になるこ
とは間違いない。
144
53.生きたまま太平洋を越えてやって来たニュージーランド産のタイ
エビ、カニ、マグロ、タコ、イカ、ヒラメ、カレイ…。おすし屋さんのメニューではない。9割
近くを輸入に頼るエビを筆頭に、いずれも私たち日本人が、今その多くを輸入に依存している水産
物の一例である。日本人は世界でも有数の魚好き。しかし、その胃袋を満たす食用魚介類の約3割
は外国産というのが現状だ。
こうした魚介類の輸入は、もちろん冷凍輸送技術の発達で実現したもの。しかし「やはり魚はと
れたてじゃなくちゃ」という魚好き国民ならではの欲求はうち消しがたい。そんな日本人のグルメ
志向に応えて、外国で獲れた魚を生きたままコンテナで運ぶ技術が、わが国海運会社の手によって
実現した。
海水を張り、水温の調節や酸素の供給、海水の浄化を自動制御しながら魚を仮眠状態等にして輸
送する特殊コンテナは、まさに海上を走る「いけす」。現在、ニュージーランド産のタイなどで成
功しており、カニやエビなど運べる魚介類の種類もこれ
からどんどん増えていくはず。
「江戸前」ならぬ「ニュージーランド前」や「ハワイ
前」のタイの活き造りに舌鼓を打つ……。グルメにはこ
たえられないそんな時代が、海運の活躍で、もうすぐや
ってきそうだ。
54.タンカーの安全を守る船内ボイラーの排気ガス
タンカーのカーゴタンクの内部では、積荷である原油などに含まれる揮発度の高い成分が絶えず
ガスとなって蒸発している。こうして生じたガスは極めて可燃性が高く、静電気による火花などで
容易に着火し、大規模な爆発に結びつく危険性がある。
ところがタンク内の酸素濃度が一定以下の場合、そこに可燃性ガスが含まれていても着火や爆発
の起こる可能性は極めて低い。そこで、こうした事故を防ぐため考えられたのが、人工的に作られ
た不燃性ガスをタンクに注入して、内部の酸素濃度をつねに低いレベルに保つという方法だ。
このガスはイナートガス(不活性ガス)と呼ばれ、窒素 78%、二酸化炭素 14%、酸素 2∼4%と
いう組成。タンカーでは、バラスト航海中や荷役時を含むほとんどの期間、タンク内部の空きスペ
ースにこれを注入し、内部の酸素濃度を国際的に安全と認められている 8%以下に保っている。
イナートガスは、一般にタンカーの船内ボイラーの排気ガスを洗浄、冷却してつくられる。これ
をつくるための装置が、イナートガス装置(IGS)で、原油タンカーはもとより、液化ガスタンカ
ーからプロダクトタンカーまで、現代のほとんどのタンカーに不可欠の装備となっている。
陸上では大気汚染の元凶として評判の悪い排気ガス。しかし海の上では、エネルギーの安全輸送
になくてはならない頼もしい味方というわけだ。
145
55.
「アルキメデスの原理」で計るばら積み船の積荷の重さ
「液体中に浮かぶ物体は、その物体が排除した液体の重さ分の浮力を受ける」。ご存じアルキメ
デスの原理だ。これを海上に浮かんでいる船に当てはめれば、船体の海中に没している部分の容積
に相当する海水の重さは、船自体の重さと等しいということになる。鉱石船などばら積船の積荷量
は、この原理を応用した「ドラフトサーベイ」という方法で計測される。ドラフトとは喫水のこと。
つまり空荷の状態と積荷の状態の喫水の差を調べることで、貨物の重さによって排除された海水の
容積を割りだし、運賃算定や商取引の基準となる積荷の重量を計算するわけだ。
20 万重量トン前後にも達する巨大な貨物船の積荷量を、喫水の変化だけで計るというと、いかに
も「どんぶり勘定」といった印象を受ける。しかしこのドラフトサーベイ、単純なようでじつは複
雑な要素が絡み合っており、通常、荷主側、船主側の立ち会いのもとに専門的な技術を持つサーベ
イヤーが行う。例えば喫水の読み取り。波やうねりのある場所では、水面の上下動による一定時間
の平均値を取る必要がある。潮流の激しい場所では、停泊中に船首の水位が上昇することも考慮に
入れなければならない。
海水の比重も港によって異なる。とくに河口にバースがあるような港では、船首と船尾、水深の
深さ等により複雑に比重が変化する場合もあり、やはり決められた数ヶ所の平均値を取る。さらに
バラストや清水、燃料、船用品、食料などの重量もできるだけ正確に計る。
こうした計測が、積荷前と揚荷前の2度にわたり行われ、そのデータをもとに、海水比重の差を
考慮しながら排水量の変化を計算。さらにバラストや燃料など貨物以外の積載物の変動分を差し引
くという複雑な手順を経て、最後に正確な積荷量が割りだされる。
小中学生の理科の実験にも登場するアルキメデスの原理。しかし現実の応用となると、裸で浴槽
に浸かったアルキメデスのようには簡単にいかないようだ。
56.砂漠で燃えていたガスを低温液化輸送で有効活用
家庭用プロパンガスなどの原料としておなじみの LPG(液化石油ガス)には、精油所での石油精製
の過程で発生するガスと、原油の随伴ガスから NGL(天然ガソリン)を分離する際に発生するプラ
ントガスの2種類がある。
現在わが国に輸入されている LPG のほとんどはプラントガス。つまり、かつては適切な輸送手段
がなく、そのほとんどを油田で燃やしてしまっていた随伴ガスから生産されるものだ。
この随伴ガスが新しいエネルギー資源として注目を集めるようになったのは、1960 年代に入って
から。日本が世界に先駆けて当時の最新技術による大型の低温液化型 LPG タンカーを就航させ、同
時にサウジアラビアやクウェートで随伴ガスによる LPG プロジェクトがスタート、日本がその輸入
を開始してからのことだ。これを皮切りに、アブダビ、アルジェリアなど他の産油国が、相次いで
日本や西欧への輸出用 LPG プロジェクトをスタートさせ、LPG は一気に世界規模のマーケットを形
成するに至った。
かつて中東の油田で、大きな炎をあげて燃えていた石油随伴ガスを、貴重なエネルギー資源とし
て利用することを可能にした低温液化式 LPG タンカー。地球規模のエネルギー物流を支え、その活
躍は今日も続いている。
146
57.時代によって変わってきたタンカーのニックネーム
あらゆる貨物船の中でも、いちばん巨大化が進んだのがオイルタンカーだ。現在、主流となって
いる VLCC と呼ばれるタイプでも中心は 25 万重量トンクラス。世界最大クラスとなると 50 万重量
トンを超えるものも出現した。その他の船種も同様に大型化が進んだが、オイルタンカーに次いで
大きい鉱石専用船でも、
中心的な船型は 12∼15 万重量トン。
最大クラスでも 25 万重量トン前後で、
タンカーに比べれば一回り小さい。こうしたタンカーの巨大化は、もちろん一挙に進んだわけでは
ない。戦後間もない時期のタンカーは 1 万 6,000 重量トンクラスが主力だった。1940 年代後半から
大型化が始まり、そのころ登場したのが「スーパータンカー」と呼ばれた 3 万重量トン以上のタン
カー。それがやがて 6 万重量トンを超えるようになると、ニックネームは「マンモスタンカー」に
変わる。タンカーの大型化はその後も続き、1960 年代後半には、20 万重量トンを超えるものも現
れる。しかし「マンモス」をはるかに超える超巨大船となるとニックネームの考案も難しい。そこ
で 20 万重量トンを超えるタンカー新しい呼び名として登場したのが「VLCC(Very Large Crude
Carrier)」(20 万重量トン以上、30 万重量トン未満)と「ULCC(Ultra Large Crude Carrier)」(30
万重量トン以上)だった。タンカーの巨大化の歩み
は、ULCC の登場で終止符を打つ。造船技術的にはも
っと大きいものが可能でも、採算や運航効率の面で
は不利となるためだ。とはいえ、人間が生んだ海の
王者、オイルタンカーの巨大化の進展には、かつて
の陸の王者マンモスも、まったく歯が立たなかった
というわけである。
58.潜水艦は、水上よりも水中の方が速い
船の前進を妨げる最大の抵抗が、自らがつくる波による造波抵抗。したがって船首形状を工夫し
て波が起きにくいようにすれば、同じ馬力でよりスピードを上げることができるはず。そんな考え
から現代のほとんどの船に採用されているのがバルバスバウ(球状船首、7.参照)だ。
しかし、波をつくらなければいいという考えをさらに押し進めれば、船全体を海中に没してしま
うのが理想ということになる。そうなれば、海中では波は起こらないから造波抵抗はもちろんゼロ。
つまりもっとも有利なのは潜水艦ということになる。
事実、長時間の連続潜航が可能になった現代の軍用潜水艦は、潜航時の性能をより重視するよう
になったため、水上よりも水中の方が、はるかにスピードが出るようになっている。しかも水上の
ように波浪やうねりへの対応も考えなくてよいため、もっとも摩擦抵抗の少ない涙滴(テアドロッ
プ)型の船型にすることができ、この点もスピードアップの大きな要因となる。
こう考えると、未来の貨物船の一つのタイプとして、潜水型貨物船というアイデアも浮かんでく
る。大きな船体にかかってくる巨大な水圧に耐えるための船殻材料や構造、長時間の潜航を可能に
する新しい推進システムなど克服すべき課題は多いが、造波抵抗ゼロによって実現する低コストの
効率輸送というメリットを考えれば、あながち荒唐無稽な夢ともいえないかもしれない。
147
59.東京湾上の鋼鉄の島が飲み込む年間 2,500 万キロリットルの原油
毎日絶え間なくわが国に運び続けられている年間 1 億 9,000 万キロリットルという膨大な原油。
しかし陸上からその荷役の姿を目にする機会はあまりない。それはタンカー荷役が、ほとんどの場
合沖合はるかにつくられた、シーバースという専用の施設で行われているからだ。
こうした沖合での荷役方式がとられるようになった最大の理由はタンカーの大型化にある。陸地
につくられた港は水深が浅く、VLCC などの巨大タンカーは入港が不可能。必然的に沖合にバースを
建設せざるを得なくなったわけだ。その代表例の一つが、千葉県袖ヶ浦の沖合約七キロメートルに
浮かぶ京葉シーバース。全長 470 メートル、幅 54 メートルの巨大な人工島だ。
水深 20.5 メートルの海底に直径 0.6 メートルから 1.5 メートルの大小 255 本の鋼管杭を海底下
30∼40 メートルまで打ち込み、その上部に荷役設備や監視室、作業用のプラットフォームなどが建
設されている。直径 48 インチ(約 1.2 メートル)、最長 14 キロメートルのパイプラインで、京葉工
業地帯の4ヵ所の製油所と結ばれており、バルブの切り替え一つでどの精油所にも原油が送れるよ
うになっている。
年間原油取扱量は約 2,500 万キロリットル、着桟するタンカーは年間 100 隻以上。無数の鋼のパ
イプで組み上げられた人工の島は、今日も経済大国日本の膨大なエネルギー需要を支えるインター
フェイスとして活躍している。
60.船のスクリュープロペラが必ず後につくのはなぜ?
飛行機(プロペラ機)では、プロペラは機体の前につけるのが常識。しかし船の場合、外輪船の
時代を除けば、プロペラは船体の後につくのが常識だ。なぜ前につけてはいけないのか。
船の推進を妨げる抵抗でいちばん大きいのが造波抵抗。ところがプロペラを前につけると、そ
の回転で船の周囲にたくさんの乱流ができ、船全体が波に囲まれたような状態になる。この波のせ
いでスピードが大きくダウンしてしまうわけだ。
さらにもう一つの理由が、事故などの際の安全への配慮だ。もし暗礁に乗り上げたり、他船と
衝突したりした場合、前についていると最初にプロペラが壊れ、操船不能になる。これは船にとっ
て致命的だ。
潜水艦や海底調査船などでは、船体の前部に特殊なプロペラをつけたものもあるが、これはご
くまれなケース。技術革新はしばしば常識への挑戦から生まれるが、船の長い歴史の中で、この常
識に挑戦した例がほとんどないことをみれば、やはり後部プロペラの方式が理にかなっているとい
うことなのだろう。
148
61.古着から鋼材まで、何でも計る検量業者は積荷の公式記録員
在来貨物船の場合、運賃は個々の貨物の重量と容積のどちらかによって決まる。例えば綿のよう
に軽くかさばるものは容積を、鋼材など容積の割に重い貨物は重量を運賃の基準にする。検量はそ
のための正確なデータを測定する、いわば積み込み前の貨物の身体検査だ。
検量を行うのは、国土交通省の許可を受けた公益法人である検量業者で、作業に携わる検量員も、
国土交通省が発行する検量人手帳の所有者に限られる。つまり検量制度は、船主からも荷主からも
独立した第三者が貨物の測定と証明を行うことにより、運賃算定上の公平を期するための制度なの
である。
さてその方法だが、まず重量に関しては、小型の貨物なら普通のはかりで計れる。しかし数十ト
ンを超すものになると専用の大型はかりが使用され、さらに、100 トン近くなれば、クレーンで吊
り上げて計る特殊な重量物用はかりが用いられる。
容積の判定はさらにデリケートだ。古着の梱包などサイズが不定な貨物は、抽出されたいくつか
の貨物を計測しその平均をとる。また裸積みのトラクターなど突出部の多い貨物では、寸法の取り
かた一つで容積の算定が大きく変わるため、突出部が取り外しや折りたたみ可能か、他の貨物の積
載にどの程度影響するかなどの微妙な判断が要求される。こうした作業用の計測用具も「曲がり尺」
「はさみ尺」
「メジャーポール」など用途に合わせ多彩だ。
ところでこの検量制度、香港、韓国などで一部行われている以外は、世界にも例を見ない日本独
自のもの。こんなユニークな制度の存在もまた、日本海運の高い信頼性を支える秘密の一つといえ
よう。
62.ミシシッピ川をバージで 1 カ月、北米産穀物の米国縦断川下り
日本は、小麦、大豆、とうもろこしなど、食生活を支える重要な基礎物資のほとんどを海外に依
存しており、その最大の輸入先が米国だ。
これらの穀物が生産されるのはミシシッピ川上流からロッキー山脈の東麓に至る北米中央平原。
この世界有数の大穀倉地帯で収穫された穀物は、まず陸路、ミシシッピ川やその支流のイリノイ川
沿いのグレーンエレベーター(日本ではサイロと呼ばれる穀物専用倉庫)に約 1 カ月かかって集荷さ
れる。
そこからバージの船隊にばら積みされ、広大な米国の国土を北から南へ縦断するようにミシシッ
ピ川を下り、約1カ月をかけてニューオリンズに程近いバトンルージュまで運ばれる。
ミシシッピ川下流にあるバトンルージュは、3 万 D/W クラスからパナマックス型(6 万 D/W)まで
の貨物船が入港できる北米有数の穀物積出港。ここで穀物を船積みし、パナマ運河を通過し、広大
な太平洋を越えて日本に着くまでが約1カ月。陸から川、そして海へと結ばれた約3カ月のこの長
大な旅が、北米から日本への穀物輸送のメインルートだ。
朝食のパンにバターを塗りながら、ときには、こうしたドラマチックな穀物の大旅行と、それを
支える海運の活躍に思いを馳せてみたいものだ。
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◇船のいろいろ
(社)日本船主協会ホームページより
1.暮らしを運ぶ
①貨物をコンテナにいれて運ぶ船
コンテナ船
NYK ANDROMEDA
75,637 総トン
81,819 重量トン
全長 299.90m
さまざまな貨物を国際規格のコンテナに収納して運ぶ専用船。貨物船の中では最速を誇
り、荷役の迅速化とあいまって国際定期航路での雑貨輸送を飛躍的に効率化した。コンテ
ナ化された貨物はトラックや鉄道など陸上の輸送機関への積み替えが容易なことから、海
陸一貫輸送による「ドア・ツー・ドア」の輸送も実現し、国際定期輸送の分野に革命的な
変化をもたらした。
②貨物を運ぶ船
一般貨物船
ぱなま丸
17,139 総トン
22,597 重量トン
全長 171m
貨物船の基本型ともいえる最もオーソドックスなタイプの貨物船で、船倉内に雑貨を混
載し、ハッチカバーの上にはコンテナも積めるようになっている。コンテナ船の出現で国
際定期航路での活躍の場は減ったが、クレーンを装備し、荷役設備のない港でも積み卸し
ができるため、アフリカや南米などへの定期航路では、現在も重要な役割を果たしている。
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③穀物や石炭などを運ぶ船
ばら積み船
SALVIA
26,612 総トン
48,265 重量トン
全長 189.33m
穀物や石炭などのばら積み貨物を運ぶ船で、航海中の貨物の流動を防ぐために船倉上部
に傾斜がつけられ、その部分にトップサイドタンクという三角形のバラストタンクが設け
られている。本船自体に荷役装置を持つものと持たないものとがあるが、穀物の揚げ荷役
には、通常、陸上に設けられたニューマチックアンローダーというバキューム方式の荷役
装置が用いられる。
④木材を運ぶ船
木材専用船
ダイアナアイランド
8,753 総トン
16,312 重量トン
全長 167m
木材を専門に運ぶ船で、貨物は船倉内だけでなく甲板上にも積まれる。甲板積みの木材
は、両舷に立てられたスタンションと呼ばれる支柱で左右を押さえられ、丈夫なワイヤー
でしっかりと固定される。荷役施設の不備な積み地が多いことから、ほとんどの船がクレ
ーンを装備しており、積み荷役では、一般に筏に組んで運ばれた木材を、沖合いで積み取
る方法がとられている。
151
⑤チップを運ぶ船
チップ専用船
SKY PACIFIC
39,145 総トン
46,968 重量トン
全長 199.9m
製紙原料として用いられるチップ(木材を砕いた小片)を専門に運ぶ。チップはきわめ
て比重の小さな貨物のため、大量に積めるよう船倉容積は最大限大きく取られ、バラスト
スペースは船底部だけに設けられている。積み荷役は、陸上のニューマー(空気圧送式荷
役装置)で行われ、揚げ荷役には、本船装備のベルトコンベヤーとバケットクレーンが用
いられる。
2.エネルギーを運ぶ
①原油を運ぶ船
原油タンカー
高砂丸
149,407 総トン
281,050 重量トン
全長 330m
原油を運ぶ専用船で、複数の区画に仕切られたタンク状の船倉を持つ。また舷側と船底が
二重構造化され、事故時の原油流出を最小限にするよう工夫されている。荷役用のパイプ
ラインとポンプを持ち、積み荷役には陸側のポンプを使い、揚げ荷役には、本船装備のポ
ンプを使う。貨物船の中では最も大型化した船種で、50 万重量トンを超す大型の船も出現
したが、現在は 28 万重量トン級の VLCC が主力。
152
②LPGを運ぶ船
LPG 船
FOUNTAIN RIVER
44,673 総トン
49,996 重量トン
全長 203m
プロパンやブタンなど石油ガスを液化した LPG(液化石油ガス)を運ぶ専用船。常温で
加圧して液化する「加圧式」と常圧で冷却して液化する「冷却式」、その折衷方式の「加圧
低温式」の 3 つの種類がある。外航の大型船はほとんどが冷却式だが内航の小型船には加
圧式が多く見られる。どちらの方式でも、輸送中に気化したガスを液化するための再液化
装置を備えている。
③LNGを運ぶ船
LNG 船
AL WAJBAH
111,161 総トン
72,348 重量トン
全長 297.5m
天然ガスをマイナス 162℃の超低温で液化した LNG(液化天然ガス)を運ぶ専用船。超低
温輸送のための特殊なタンク材質や、荷役時の事故を防ぐ緊急遮断装置、輸送中に気化し
た天然ガスを燃料として使う特殊なタービンエンジンなど、多くの先端技術を駆使したハ
イテク船で、船価も高いため、一般に特定の天然ガス輸入プロジェクトの専用船として建
造されている。
153
④電力用の石炭を運ぶ船
石炭専用船
翔鵬丸
48,950 総トン
87,996 重量トン
全長 235m
電力用の石炭を専門に運ぶ船。国内の石炭専焼発電所の専用バースのサイズに合わせた
船型や喫水、バースに備え付けられている揚炭機の可動範囲に合わせたハッチ構成など、
日本の発電所向けの電力炭輸送に最適な船として設計されている。
日本とオーストラリア等を結び、石油代替エネルギーとして近年比重が高まる電力炭の
効率輸送に活躍する。
3.原料を運ぶ
①鉄鉱石を運ぶ船
鉱石専用船
尾上丸
116,427 総トン
233,016 重量トン
全長 315m
鉄鉱石を専門に運ぶ船。比重が極端に大きい貨物である鉄鉱石を運ぶために、積荷スペ
ースが非常に狭くつくられており、積荷の鉄鉱石を船体中央部に高く積み上げられるよう
になっている。戦後の日本の製鉄業の発展にともなって登場し、スケールメリットの追求
から、タンカーに次いで大型化した船種で、最大のものでは 20 万重量トンを超すものもあ
る。
154
②製鉄原料の石炭と鉄鉱石を運ぶ船
鉱炭兼用船
筑前丸
75,300 総トン
150,842 重量トン
全長 270.05m
製鉄原料の石炭と鉄鉱石を運ぶ船で、鉄鉱石と比べはるかに比重の小さい石炭を運ぶた
めに船倉スペースは鉄鉱石専用船より広くとられている。石炭の場合は全船倉に満載する
が、比重の大きい鉄鉱石の場合はジャンピングロードという方法がとられ、船倉1つおき
に貨物が積み込まれる場合もある。鉱石専用船同様に大型化が進んだ船種で、最近は製鉄
原料輸送の主力となっている。
③化学品を運ぶ船
ケミカルタンカー
CHEMSTAR VENUS
11,951 総トン
19,445 重量トン
全長 147.83m
プラスチックや化学繊維の原料の石油化学品や燐酸、硫酸など液状の化学品を運ぶタン
カー。多種類の製品を積み合わせるために、数多くのタンクを持ち、各タンクごとに独立
したポンプとカーゴラインを備えている。また腐蝕や貨物同士の汚染を防ぐために、タン
ク自体にも特殊なコーティングを施したりステンレスを用いたりといった工夫がなされて
いる。
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④製品を運ぶ船
自動車を運ぶ船
自動車専用船
NIPPON HIGHWAY
49,212 総トン
16,827 重量トン
全長 179.15m
自動車を専門に運ぶ船で、貨物である自動車を専門のドライバーが運転して、舷側のラ
ンプウェイから船内に積み込む。船内は何層ものデッキに分かれた屋内駐車場のような構
造で、バスなど大型車両を積むためのデッキは車高にあわせて上下する。大きなものでは
13 層のデッキをもつ 6,500 台積みの船もある。
⑤重い貨物を運ぶ船
重量物船
あとらす丸
15,118 総トン
20,763 重量トン
全長 161m
プラント部品や大型建設機械などの重量物を専門に運ぶ船で、構造は一般貨物船に似て
いるが、重い貨物を自力で積み降ろせるように、強力な荷役装置を備えている。寸法が大
きく船倉内に入らない貨物を甲板上に積んで運ぶため、甲板はとくに頑丈につくられてお
り、重量物の荷役中に船体が大きく傾斜するのを防ぐ大容量のバラストタンクが両舷に設
けられている。
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4.国内貨物を運ぶ
①国内の雑貨などを運ぶ船
RORO 船
ほくれん丸
7,096 総トン
5,517 重量トン
全長 154m
荷役をスピードアップするため、船の前後のランプウェイからトラックやトレーラー、
フォークリフトによって直接貨物を積み降ろしする RORO(ロールオン/ロールオフ)方式
の貨物船。これに対しクレーンで荷役する方式は LOLO(リフトオン/リフトオフ)方式と
呼ばれる。主に内航の定期航路に就航し、国内の雑貨輸送に活躍。モーダルシフトの受け
皿として代表的な船種の一つとなっている。
②石灰石を運ぶ船
石灰石専用船
名友丸
4,734 総トン
7,400 重量トン
全長 103m
鉄鋼やセメント業界向けの石灰石を専門に運ぶ船。ばら積み船のようなタイプの船もあ
るが、最近多いのはセルフアンローダー型と呼ばれるタイプ。ベルトコンベヤー方式の揚
げ荷役装置を船底部に持ち、ホッパー状の船倉から落とされた石灰石を、そのまま陸上に
運び出す方式の船で、荷役にほとんど人手がかからないという特長を持っている。
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③セメントを運ぶ船
セメント専用船
第八すみせ丸
3,601 総トン
6,138 重量トン
全長 96m
工場でつくられたセメントを、ばら荷の状態で全国の流通基地まで運ぶ専用船。積み卸
しには、軽い粉体であるセメントの特徴を利用し、空気圧で貨物を搬送する方式が用いら
れ、そのための荷役装置を装備している。流通基地で荷揚げされたセメントはセメントサ
イロに格納され、その後袋詰めされ(またはばら荷のままタンクローリーに積まれて)需
要者のもとに運ばれる。
④エンジンがない船
プッシャーバージ
土佐丸(プッシャー)
495 総トン
B-NK 土佐
4,998 総トン
9,043 重量トン
ミシシッピ川で発達したバージ(はしけ)ラインを参考に日本で開発されたもので、エ
ンジンを持つ押し船(プッシャー)によって、バージを後方から押して前進する。この方
式が開発される前は、わが国では曳航方式が主流で、ほとんど港湾内での利用に限られて
いたが、プッシャー・バージは外海での利用も可能なため、現在では内航海運の重要な一
分野を形成するようになっている。
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5.レジャーを楽しむ
①客船
外航客船
ふじ丸
23,340 総トン
全長 167m
レジャークルーズのための客船。5∼6 層に分れたデッキには、客室やレストラン、ラウ
ンジ、シアターなど贅沢な船客設備が整えられ、航海中は、連日、ショーやイベントが開
催される。単なる移動手段としてではなく、船旅自体を楽しむための設備とサービスが特
色。新しいレジャーとして人気が高まっている。
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