中古住宅取得者への アドバイスのポイント

住宅ローンアドバイザー会報 11 月号
●今月の話題●
中古住宅取得者への
アドバイスのポイント
中古住宅の市場が、拡大の兆しを見せている。新築住宅の量産より中古住宅の有効活
用に経営の軸足を置く住宅事業者が増え、また金融機関も中古住宅取得とリフォーム一
体型のローン商品を提供するなど、消費者に便宜を図るようになった。目先の負担が少
ない中古住宅取得に際し、アドバイスを行う上で、どのような点に留意すればよいか。
一般社団法人 金融検定協会 試験部
佐藤
潤実
築浅の中古物件や社宅転用物件を有効活用
中古住宅の需要に幅が広がっている。企業の社宅を分譲マンションに再生させたり、
築浅のマンションや戸建てを改修し販売するなど、中古物件の市場が活性化しつつある。
全国の事業主別供給戸数ランキングでトップ(各社事業開始から 11 年までの累計戸
数:不動産経済研究所調べ)を誇る大京は、社宅や賃貸マンションを取得し、改修・再
生したうえで販売する事業をグループ会社で開始したことが先日新聞で報道された。同
社以外にも、三菱地所グループや三井不動産グループなど、リフォームに力を入れる事
業者は現在、続々と増えている。京王電鉄グループの住宅事業者リビタでは、築 20 年
の元企業社宅を1棟まるごと再生
1.5%
し分譲マンションとして販売。
新築住宅
35.6%
中古住宅
57.5%
特にこだわらない
無回答
3,600~3,800 万円台に分譲価格を
設定し今年9月から販売を開始し
たところ、若い家族が続々とモデ
ルルームを見学に訪れている。同
5.3%
社では、管理物件の購入を検討す
る顧客に対し、提携金融機関より
住まいにおける「理想」の「新築」と「中古」の別
新築購入時と同等の条件の住宅ロ
出典:国土交通省 国土交通行政インターネットアン
ーン商品を中心に紹介している。
ケート調査(10 年 6 月)
「消費者は、新築より中古の方が
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目先の負担が少ないというだけでなく、間取りや周辺の環境も踏まえたうえで、長期的
な視野に立って中古住宅を選択している」と話す同社では、中古マンションの一室だけ
を改修し販売する案件も増えている。国土交通省
国土交通行政アンケートの結果(前
頁下図参照)を見ても、「新築と中古、どちらを理想の住まいとするか」という問いに
対し 57.5%が新築住宅を選択したものの、新築・中古の別にこだわらないとする回答
も 35%を超えており、実態としても中古住宅の需要の高さがうかがえる。
背景にあるのは、少子高齢化に伴い新築住宅の伸びが見込めず空家率が年々上昇して
いる現状と、これを踏まえた国土交通省の政策にある。総務省統計局「平成 20 年 住
宅・土地統計調査」によれば、1960 年代から空家は年々増え続けており、08 年には総
住宅数に占める空家の割合は 13.1%と7~8戸に1戸にまで達した。そのため、
「多く
の住宅事業者は、10 年、20 年と長期に亘った経営戦略を考え、新築住宅の提供よりも
中古住宅の流通などに軸足を移している。今後は、中古物件の有効活用や価値向上策に
拍車がかかり、リノベーションや建替えといったビジネスが積極的に行われていく」
(東
京カンテイ
市場調査部
上席主任研究員
中山登志朗氏)という傾向が見られる。国
土交通省が中古住宅・リフォームプランを発表し、20 年までに中古住宅流通・リフォ
ーム市場を 10 兆円と現状の約2倍に引き上げる目標を掲げたことも、これに追い風と
なっている。
中古住宅取得とリフォーム資金一体型の商品が登場
こうした市場拡大の流れに金融機関側も対応、中古住宅取得資金とリフォーム資金を
一体型で提案するローン商品を提案し始めた。今年から、大手金融機関では提供されて
借入期間
特徴
みずほ銀行
<みずほ>の住宅ローン
中古住宅購入資金とリフォーム資金をあわ
せて1億円以内で対応。支払い時期が異な
る場合でも、分割実行で対応する。中古住
宅の築年数による借入期間の制限なし
りそな銀行
りそな借りかえローン
<リフォーム資金セット型>
500万円以内
千葉銀行
選べる住宅ローンベストチョイス21
借り換えコース
35年以内
借換えを検討中の人が対象。リフォーム資
金も上乗せして借入できる。
住宅購入資金とあわせて担保評価額の
120%まで借入可能。中古住宅取得、リ
フォームの契約関係書類を一本化できる。
ローン仮申込の段階で、リフォーム工事の
見積書を提出する必要がある。
三井住友信託銀行
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いる主な商品は、以下の通り。
従来、中古住宅取得とリフォームを目的とした資金を借り入れる場合、リフォーム部
分は無担保のリフォームローンとして別途借入れしなければならず、金利も住宅ローン
よりやや高めに設定され、融資限度額は限られ返済期間も比較的短期に設定されていた。
これに対し一体型ローンのリフォーム部分は、金利も1%を切る低さで提案、借入期間
も 35 年までと長期に設定されるなど、利用者に便宜を図った形となっている。
一例として三井住友信託銀行では、今年8月末から中古住宅取得とリフォームの一体
型ローンの提供を開始。9月時点の変動金利は、最低 0.775%に設定いている。中古住
宅購入部分とリフォーム部分については、住宅事業者とリフォーム事業者が異なる場合
においても一体審査を行う。融資申込に際し購入する中古住宅の修繕履歴といった資料
は求められないが、仲介業者 35 社のほか、センチュリー21・ジャパンが今年9月から
始めた中古住宅取得とリフォーム提案サービス「リボーン 21」に対象を限っている。
同行では、「同商品は、取扱いを始めてから取引先の仲介業者様を中心に多くのご相談
をいただいている。今後も、中古住宅市場活性化に対応した資金対応を検討していく必
要だろう」としている。なお、住宅金融支援機構でも「フラット 35」リフォームパッ
クといった一体型商品が提案されており、また一体型商品が提案されていない民間金融
機関でも、新築住宅と中古住宅とで条件にあまり差をつけないよう提供する動きが見ら
れる。
しかし、中古住宅を取得するための資金を調達する際に、建物の担保評価の問題は避
けて通れない。
「近年、建材の質は非常に向上しており、築 30 年以上の物件でも、物件
診断や修繕などをきちんと行えば、良質が保たれる。先日、築 40 年以上のRC造の物
件を視察したが、ひび割れなどが見られなかった」(東京エステートバンク社長
岡本
公夫氏)とはいうものの、中古住宅の評価の見直しについてはまだ過渡期にあるのが現
状といえよう。住生活基本法が 06 年に施行され、同法にて住宅政策の量から質への転
換が示されたのを受け、08 年に住宅の新築、改修、修繕、点検時等すべての履歴を保
存する住宅履歴書制度が創設されたが、修繕履歴の保存等にかかるコスト負担や住宅市
況の低迷による収益減等を理由に、積極的に履歴書の作成に取組む住宅事業者はまだ半
分にも満たないといわれている。「金融庁の立ち入り検査後、減価償却資産の法定耐用
年数を厳守するよう指導を受けた」「中古物件を審査するにも、現状では物件の状態や
業者の良し悪しを詳細に判断材料に入れるのが難しい」「戸建ならまだしも、マンショ
ンになるとさらに評価が難しい。賃貸と分譲が混在している分にはさほど問題ないが、
所有面積が一定基準を満たさなければ、基本的には融資できない」(金融機関担当者)
との声も聞かれ、中古住宅取得を促すさらなる諸制度の整備が待たれるところだ。
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加えて、「金融機関の現場では、リフォームの見積りが適正・妥当か、資金使途を厳
しくチェックする。場合によっては実際に現場を訪れ、適切なリフォームが行われてい
るのか確認することもある」(三友システムアプレイザル
取締役専務執行委員
野口
咲也氏)との話も聞かれるように、リフォーム部分の料金見積りにも厳しい目が向けら
れる。公的機関としては、国土交通省が住宅リフォーム・紛争処理支援センターを通じ、
消費者が最寄りの弁護士会で弁護士や建築士との対面相談を無料で利用できるサービ
スを展開しているが、
「見積りを見ても、専門用語が多くて、よく分からない」
「悪質リ
フォームの請求ではないか」といった問い合わせが日々寄せられる。
実際に、中古住宅取得とリフォーム資金の借入申込み時に金融機関から住宅修繕履歴
等の資料提出を求められることはまだ少ないが、必要な資金を調達するために、住宅の
状態がひと目で分かる資料を確保しておく必要はあるだろう。
消費者が納得できるアドバイスのポイントは
こうした市場や実務上の動きを踏まえ、中古住宅を取得したい消費者に対しては、以
下の2点に留意した提案が求められよう。
①中古住宅のメリットとデメリットを提示する
中古住宅を取得するメリットは、新築住宅より安い価格で、また周囲の住環境を把握
したうえで購入できる点にある。しかし、税制優遇やより一層の質の向上を求めるので
あれば、新築住宅を取得した方がよい。消費者がどのような家で暮らしたいのか、また
無理なくローンを返済できるのか、長期的な視野に立ってヒアリングを行う必要がある。
②リフォームの目的、見積りを可視化する
リフォームを行う場合には、リフォーム工事の目的や費用を客観的に判断する必要が
ある。バリアフリーや環境に配慮したリフォームであれば、税制優遇や補助金の有無を
確認し、実際に住んでから本当に必要かどうか、事前に十分な計画を練っておきたい。
目先の負担やトレンドに気をとられ、あれこれと工事を追加しても「過剰なリフォーム
ではないか」と金融機関の厳しい目が注がれ、審査が通らないこともある。悪質リフォ
ームローンの見積りは言うまでもないが、金融機関に審査を申し込む前に、工事の箇所
や価格が適切であるか十分に検討しておきたい。
中古住宅は新築と比べておしなべて価格が安く取得しやすいが、目先の利便性に捉わ
れ事前検討を怠ると、後に思わぬ出費が発生し「安物買いの銭失い」という事態にもな
りかねない。アドバイザーとしては、借入者にとって無理のない持家プランを提案でき
るよう、さらなる変化が予測される中古住宅市場や行政の動向には、今後注視しておく
必要がある。
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