コンブは秋季に成熟した胞子体(葉状体)から放出される遊走子(胞子)

事業の目的
一般に、コンブは秋季に成熟した胞子体(葉状体)から放出される遊走子(胞子)が
発芽し、微小な糸状の雌雄配偶体世代を経て翌年には次世代の胞子体を生じる。こ
れまで、北海道沿岸の豊かなコンブ資源は毎年海中に多くの胞子を供給し、それに
よって持続的に“コンブの森”が形成されてきた。しかし、近年、各地においてコンブの
資源量の減少が深刻化しており、場所によっては胞子の供給源となる成熟胞子体
(母藻)の不足が叫ばれている。今後、北海道に生育するコンブにとって一層海洋環
境が悪化することが懸念されているなかで、将来に備えて人為的にコンブの胞子を散
布する効率的技術の確立が求められる。
本事業はこの目的を果たすため、散布用胞子混合海水の比重を高める担体として
ポリマー(セルロース)を用い、雑海藻駆除を施した海底表面への胞子散布の有効性
を確かめるものである。なお、平成 25 年度は次年度から本格的に試験を行う際に有
益な基礎的知見を得ることを大きな目的としている。
実施場所
厚岸町
様似町
母藻の採取・前処理、胞子散布液の作成、胞子散布
・北海道様似町(平宇地区)
・北海道厚岸町(小島地区)
胞子散布液の作成
・北海道根室市(落石地区)
*
詳細な施工場所は次ページ
様似町平宇地区(黄色の□は施工場所)
厚岸町小島地区(赤色の□は施工場所)
実施内容(様似町平宇地区・厚岸町小島地区)
1. 雑海藻の駆除(両地区とも地域組合による計画事業)
作業の実施前後に対象海域の海中をビデオ撮影
岩盤清掃(1)(様似町平宇地区)
岩盤清掃(2)(厚岸町小島地区)
2. 母藻の採取・前処理
母藻として、様似ではミツイシコンブ成熟胞子体を、厚岸ではアツバコンブ成熟胞
子体を用いた。母藻の採集はそれぞれ地域漁業者、および組合職員によって行っ
た。
採取された胞子体を組合の屋内施設に運び、“胞子嚢”を形成している部分を切り
出した後(葉の先端部、基部、縁辺部を切り落とした後)、スポンジを用いて葉面の汚
れを海水で洗浄した。
洗浄した葉片は陰干しした後、1枚ずつ新聞紙に包んで屋内施設内で冷暗保存し
た。
母藻の前処理(1)(様似町平宇地区)
母藻の前処理(2)(様似町平宇地区)
3. ポリマー溶液(セルロース原液)の作成
胞子散布予定海域から清浄な海水を採水し、水槽内または釜内で 900 リッターを撹
拌しながら加温した。水温が 70℃~80℃になった段階でセルロース粉末 12kg を徐々
に加え、撹拌しながら溶解させた。
セルロースの溶解後、溶液をゆっくりと冷却させて液温が 35℃~40℃になった時点
で全量を大型保存容器に移し、以後、-5℃以上の条件で屋内保管した。
セルロース粉末
セルロース溶液の作成(2)(厚岸町小島地区)
セルロース溶液の作成(1)(様似町平宇地区)
セルロース溶液の作成(3)(根室市落石地区)
4. 散布胞子の採取・散布用胞子液(胞子入りセルロース溶液)の調整
散布に用いる作業船上に角型 1 トン水槽を設置した。母藻から胞子を採取するため
に用いる清浄海水を胞子散布予定海域から採水し、必要数の 1 トン角型水槽に注ぎ
込んだ。なお、採水量は、
セルロース濃度 0%液用(様似1槽、厚岸 1 槽):1,000 リッター
セルロース濃度 0.2%液用(様似1槽、厚岸 2 槽):850 リッター
セルロース濃度 0.4%液用(様似1槽、厚岸 2 槽):700 リッター
とした。
各水槽について、散布予定時刻の 30 分~60 分前に前処理済み母藻を槽内に投入
し、頻繁に藻体からの遊走子(胞子)放出の程度を確認した。母藻を水槽内から取り
上げた後、それぞれの水槽に上述のセルロース原液を撹拌しながら注ぎ込んだ。な
お、注入量は、
セルロース濃度 0%液用(様似1槽、厚岸 1 槽):0 リッター
セルロース濃度 0.2%液用(様似1槽、厚岸 2 槽):150 リッター
セルロース濃度 0.4%液用(様似1槽、厚岸 2 槽):300 リッター
とした。
母藻の水槽内への投入(様似町平宇地区)
放出胞子の観察(様似町平宇地区)
胞子の採取(厚岸町小島地区)
セルロース原液の混和(厚岸町小島地区)
5. 胞子液の海中散布
胞子入りセルロース溶液の作成後、直ちに散布予定海域で溶液の海中散布を行っ
た。散布には口径 20mm、40L/min の電動ポンプを用い、散布用ホースの先端部は水
中カメラを納めたプラスチックパイプで固定した。散布の際は、水中カメラの画像を確
認しながら、海底面の直上にホースの先端がくるように作業員の手でパイプを支え
た。
散布位置は作業船に取り付けられた GPS の画面上で作業区画にラインを引き、
GPS で航跡を記録しながら散布した。
胞子散布用ホースの先端部分(様似町平宇地区)
散布時のホース先端部分のカメラ画像(様似町平宇地区)
胞子の海中散布(厚岸町小島地区)
GPS による航跡(厚岸町小島地区)
6. コンブの生育状況調査
各地において、作業実施の約 6 カ月後、および約 12 カ月後に、
・実施海域の海中ビデオ撮影
・水質計を用いた水質測定(水温や pH など)
・枠取り調査(方形枠を用いた枠取りによるコンブと雑海藻の資源量測定)
を行う予定である。
協力組合 (順不同)
えりも漁業協同組合
厚岸漁業協同組合
落石漁業協同組合