新型オールインワン部分放電測定器 B010 の開発

三菱電線工業時報
第 109 号
2012 年 9 月
新型オールインワン部分放電測定器 B010 の開発
Development of A New Type of All-in-one Partial Discharge Detector B010
ケーブル事業本部
技術部
ケーブル事業本部
技術部
浅木 竜也
■ R. Asagi
富澤 拓也
■ T. Tomizawa
ケーブル事業本部
技術部
常陰 照嗣
■ T. Tsunekage
ケーブル事業本部
技術部
井上 修和
■ N. Inoue
従来,電気機器や電力ケーブルなど高電圧機器において,絶縁性能の評価の手段として部分放電測定が行われてきた。それ
に加え,近年では,パワーモジュール IC,プリント基板,低圧モータ,太陽電池バックシートの絶縁フィルムなどの低圧製品
にも高い絶縁性能が要求されるようになってきており,部分放電測定の必要性が高まっている。これらさまざまな低圧製品の
試験を行うためには,速度も含めて自由に試験電圧の昇降圧制御ができるコンパクトな部分放電測定装置が適している。
本報では,従来,モータによって試験電圧の昇降を行っていたものを電子制御方式に変更して昇降圧パターンの自由
度を高くし,PC からの簡単な操作で低圧製品の絶縁性能評価ができる,低周波法の新型オールインワン部分放電測定
器を開発したので紹介する。
部分放電,絶縁体
〔キーワード〕
電線・ケーブル
Conventionally, a partial discharge measurement has been carried out for high voltage devices such as electric devices or power cables
to evaluate the insulation performance. In addition, recently, high insulation performance is required also for low voltage products such
as power module ICs, printed-circuit boards, low-voltage motors, and insulated films of back sheets of the solar battery, and there is a
growing need for the partial discharge measurement. To test these low voltage products, a compact partial discharge detector which can
flexibly control the voltage is best suited.
We have developed and will introduce a new type of all-in-one partial discharge detector using a low-frequency method, which
controls the test voltage pattern by electronic control which enables more flexible test voltage control instead of control by a motor, and
we can evaluate the insulation performance by simple operations with a PC.
〔Key words〕
Partial Discharge, Insulator
これらのノウハウを生かして,低圧電気製品用途に最
1 はじめに
適な,AC 5 kV までの試験用電源を内蔵し,パーソナル
絶縁体中に小さな空隙(ボイド)やクラック,傷など
コンピュータ(以下,PC)を使って簡単に部分放電測
の欠陥が存在すると高電圧の印加によって,微弱な放電
定ができる,オールインワンタイプの部分放電測定器
すなわち部分放電が発生し,長期的に絶縁体を劣化させ
B010 を開発したので紹介する。
ることが知られている
a 。部分放電測定は,これら絶縁
体中の欠陥を非破壊で定量的に測定することができる有
2 部分放電の測定原理
用な測定法である b 。
部分放電とは,電極間を橋絡して発生するものではな
この部分放電測定は,従来は,電気機器や電力ケーブ
ルといった,大型の高電圧製品を対象としたものが主流
く,部分的にのみ放電する現象を言う。図 1 に部分放電
であり,当社でもそれに応じた部分放電測定器を開発し
の等価回路を示す a 。
てきた。それに加えて最近は,パワーモジュール IC ,プ
供試体をはさむ電極間に電圧 V を印加したときにボイ
リント基板,低圧モータ,太陽電池バックシートの絶縁
ド内部で部分放電が発生したとすると,Ca の両端には
フィルムなどの低圧製品にも部分放電測定の需要が高
D V なる電圧変化が発生する。この D V を検出するために
まっている。
図 2 に示すように,Ck なる結合コンデンサを通して検出
当社では 40 年以上,日本国内で最も長く部分放電測
インピーダンス Z を接続し,Z の両端の電圧変化より放
定器の製造に携わっており,部分放電測定器のみならず,
電電荷量 Q を測定する。ただし,放電電荷量 Q は供試体
校正用パルス発生器や結合コンデンサ,ブロッキングコ
の静電容量 Ca により変化するため,部分放電試験前に供
イル,コロナフリー試験電源など,測定システム一式を
試体と並列に校正用パルス発生器を接続し,校正パルス
取り扱っている。
を印加して校正を行う。
部分放電,絶縁体
Partial Discharge, Insulator
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新型オールインワン部分放電測定器 B010 の開発
Cb
放電検出回路へ進む。ブロッキングコイルは名前の通り,
ボイドCc
電源からの雑音を抑制するとともに供試体で発生した
Cb
電極
放電パルスが電源側に侵入するのを防止するために接続
Ca
∆V
絶縁体
Cc
されている。部分放電検出回路に入力された信号は設定
Vc
した発生頻度に応じて自動的にゲインをコントロールさ
電極
れ,最大放電電荷量 0 ∼ 5000 pC を指示計にワンレンジ
Ca>>Cb
Ca>>Cc
Ca
で表示する。印加電圧は変圧器の三次巻線からの信号を
ここで,Caは供試体の静電容量
Cbはボイドに直列な静電容量
Ccはボイドの静電容量
図1
整流回路で整流した後,指示計に表示される。
部分放電等価回路
放電電荷量と印加電圧は,内蔵の A/D 変換回路を通じ
Equivalent circuit of partial discharge
て PC へデータとして出力され,専用の測定ソフトウェ
アを使って記録媒体への保存や,印刷ができる。
Cb
Ck
3 .2 高圧発生回路
従来の自動型部分放電測定器では,モータと摺動変圧
Ca
∆V
器を組み合わせて電圧を昇降していたが,モータの回転
Cc
測定器
Z
Vc
数が固定であるがゆえに昇降圧速度も固定という制限が
あった。速度可変型のモータもあるが,速度制御に用い
図2
部分放電の検出方法
るパルス自体がノイズになってしまい,部分放電測定用
Detection method of partial discharge
の電源として不適当であった。そこで今回,小型でノイ
ズの少ない電子制御による昇降圧回路を開発し,B010
の高圧発生器として組み込むこととした。
3 新型部分放電測定装置の構成
図 4 に高圧発生回路のブロック図を示す。まず PC か
ら,ソフトウェアにより送られた 12 ビットの値が 0 ∼
3 .1 回路ブロック図
今回,新規に開発したオールインワン部分放電測定器
B010 の回路ブロック図を図 3 に示す。
調発振回路で生成された正弦波電圧と乗算され,アンプ
トランス
電源部
電圧となる。
供試体
正弦波回路
校正用パルス
発生回路
DIO
部分放電測定器
B010
USB
と RC フィルタを通して,0 ∼ 12.5 Vrms の可変正弦波
出力
AC0∼5kV
50/60Hz
コロナフリー式 ブロッキング
高圧トランス
コイル
D級
アンプ
5 V の直流電圧に D/A 変換される。この電圧が,抵抗同
A/D
(正弦波回路)
結合
コンデンサ
DIO
PC
部分放電
検出回路
D/A回路
12bit
RC
フィルタ
抵抗同調
発振回路
トランス
AC100V
50/60Hz
ノイズカット用
D710 絶縁変圧器
乗算
回路
D級
アンプ
高圧
トランス
プリンタ
パーソナル
コンピュータ
OUT
図4
高圧発生回路 ブロック図
Block diagram of high voltage generation circuit
図3
B010 回路ブロック図
Block diagram of B010 B circuit
この正弦波電圧をデジタルアンプ(D 級アンプ)で増
B010 では部分放電検出回路のみならず,結合コンデ
幅を行って最大 24 Vrms とし,それをトランスで 100
ンサや試験用電源など,部分放電試験に必要な機器はす
Vrms へ 昇 圧。そ し て,高 圧 ト ラ ン ス を 用 い て 最 大 5
べて内部に収まっている。まず,供試体からの部分放電
kVrms の正弦波へと昇圧し,供試体へ課電する。
信号は測定器に入力され,結合コンデンサを通して部分
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電圧の昇降を電子制御にすることにより,モータの回
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転数に因らない,任意の電圧制御が可能となり,これま
4 .4 .2 接続例
供試体との接続例を図 6 に示す。図 6 は,シート状の
でできなかった昇降圧パターンでの試験ができるように
サンプルを接続した写真である。B010 からの測定用ケ
なった。
ーブルを電極に接続し,サンプルを電極と接地板とで挟
み込んでいる。
4 B010 の特長
今回開発した B010 は,15 kHz ∼ 150 kHz の帯域の低
周波法を用いた部分放電測定器で,部分放電の発生位置
による感度の変化が少ないため,幅広い用途に用いるこ
とができる。また,低圧電気製品を対象としているため,
出力電圧は最大 5 kV ,供試体の静電容量は 0.01 m F 以下
と設定した。ここで,B010 の特長を以下に示す。
4 .1 簡単な部分放電測定
コロナフリー試験用電源,校正用パルス発生器,ブロッ
キングコイル,結合コンデンサなど部分放電測定に必要
機器がすべて一つの筐体内に収めてあり,簡単な配線の
図6
みで部分放電試験を行うことができる。
供試体接続例
An example of connection to a sample
4 .4 .3 B010 の仕様
4 .2 小型・可搬
軽量のトランスを使用するなど部品重量の削減を図
B010 の仕様を表 1 に示す。
り,また摺動変圧器が不要になったことにより,コンパ
クトで軽量な可搬構造とした。質量は約 25 kg であり,
従来製品(B009)と比較し,約 30%減となっている。
表1
B010 の仕様
Specifications of B010
方 式
低周波部分放電測定 パルス数制御方式
通過帯域幅
4 .3 PC での制御・データ取込
主要な操作は専用の測定ソフトウェアを用いて,PC
測定器部
によって行い,データを取り込んで保存・印刷を容易に
0 ~ 5000 pC
減衰器
1 /1 ,1 /10 ,1 /100 3 レンジ
累積発生頻度 10 ,20 ,50 ,100 ,200 ,500 pps
できるようになっている。そのため,本体の操作部は電
パルス
源スイッチと緊急停止ボタン,ゲイン調整ツマミのみの
校正部
非常にシンプルな構成となっている。
方式
水銀リレーパルス発生方式
標準発生電荷 20 ,50 ,100 ,200 ,500 ,1000 pC
方式
検出部
静電容量
セラミックコンデンサパルス検出
2000 pF
最高発生電圧 AC 5 kV
4 .4 B010 の外観・接続例および仕様
出力方式
4 .4 .1 B010 の外観
B010 の外観を図 5 に示す。なお,図は PC との接続イ
出力容量
高電圧
発生部
メージである。
指示計
コロナ特性
保護回路
外部制御部
インタ
フェース
電 源
寸法・質量
図5
15 kHz ~ 150 kHz -3 dB
指示計
B010 外観
Appearance of B010
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A/D・DIO による連続可変・任意設定
80 VA
(供試体静電容量 0 .01 m F ,50 Hz 時)
5 kV F.S. 2 .5%
AC 5 kV 出力時に 5 pC 以下(無負荷時)
過電流保護回路,過電圧保護回路,
インタロック回路
USB 2 .0 × 2
AC 100 V ,50 /60 Hz
480 W × 299 H × 399 D
(取っ手・突起部含まず)
,約 25 kg
新型オールインワン部分放電測定器 B010 の開発
5 B010 を使った部分放電測定
B010 本体と PC は USB ケーブルで接続され,付属の
測定ソフトウェアによって本体の操作およびデータの
取り込みが簡単にできるようになっている。
測定では,最大放電電荷および放電開始電圧・放電消
滅電圧を算出し,製品の評価として用いる。試験中は,
画面上に印加電圧および放電電荷をリアルタイムに表
示することができる。
5 .1 V-Q(電圧 - 放電電荷)特性試験
部分放電試験では一般的なものであり,設定された電
図8
圧まで昇圧→保持→降圧のプロセスを行い,そのときの
V-Q-t 特性測定画面
A window of V-Q-t characteristics measurement
電圧と電荷の関係を,電圧を横軸,電荷を縦軸としてグ
5 .3 EN50178 準拠試験
ラフをプロットする。測定画面の一例を図 7 に示す。
欧州統一規格 EN50178 に準拠した試験である。設定
した放電電荷が発生した時,自動的に設定した比率を乗
じた電圧まで試験電圧が昇圧される。このとき V-Q-t 特
性試験と同様に,試験時間の経過に対する電圧と電荷の
関係がプロットされる。電圧をかけ過ぎないように,昇
圧する電圧の上限を決めておくこともできる。
6 まとめ
本報では,PC 制御により,簡単に部分放電試験が行
える,低周波法の新型オールインワン部分放電測定器
図7
B010 について紹介した。本装置を適用することで,パワ
V-Q 特性測定画面
ーモジュール IC ,プリント基板,低圧モータ,太陽電池
A window of V-Q characteristics measurement
バックシートの絶縁フィルムなどの低圧製品の絶縁性能
図 7 より,徐々に電圧を上げていくと約 2 kV で部分
を高精度かつ容易な操作で評価することが可能である。
放電が開始し,降圧していくと約 1.3 kV で消滅してい
参考文献
ることが分かる。
a 下口進ほか.部分放電法による絶縁診断のテクニッ
5 .2 V-Q-t(電圧 - 放電電荷 - 時間)特性試験
ク.電気計算臨時増刊号.電気書院.46( 16), 1978,
予め任意に設定された電圧パターンにより電圧を昇
降させ,試験時間の経過に対する電圧と電荷の関係をプ
ロットする。電圧パターンの設定次第で,複雑な電圧の
p.1.
b 浅木竜也ほか.新型部分放電測定器A006の開発.三
昇降を繰り返すことができる。測定画面の一例を図 8 に
示す。
図 8 は測定中の画面である。図 8 より,電圧パターン
に沿って徐々に電圧を上げていて 3 kV で保持中であり,
そして約 2 kV で部分放電が開始し,放電中であること
が分かる。
- 18 -
菱電線工業時報.
(106)
, 2009, p.17-20.