科学技術振興調整費 第Ⅱ期成果報告書

科学技術振興調整費
第Ⅱ期成果報告書
知的基盤整備
物理標準の高度化に関する研究
研究期間:平成12年度~13年度
平成 14 年 6 月
文部科学省
物理標準の高度化に関する研究
研究計画の概要
p.1
研究成果の概要
p.9
研究成果の詳細報告
1. 長さ関連標準の高度化に関する研究
1.1. 高精度実用長さ標準の開発の研究
1.1.1. 高精度長さ標準の開発の研究
p.22
1.1.2. GPS 測量網と長さ標準の整合性確立の研究
p.28
1.2. 三次元幾何計測標準の確立技術に関する研究
1.2.1. 三次元幾何計測標準の研究
p.34
1.2.2. パラレル三次元測定機の研究
p.51
1.2.3. 段差標準片の創製技術の開発
p.60
1.3. 角度の高精度校正技術の研究
1.3.1. 高精度角度校正技術の研究
p.71
1.3.2. ロータリーエンコーダの校正技術の研究
p.78
1.3.3. X 線測角技術の高精度化の研究
p.90
2. 力学関連標準の高度化に関する研究
2.1. トルク関連標準の高度化に関する研究
p.103
2.2. 圧力標準の高度設定技術に関する研究
2.2.1. 低圧力及び高圧力の標準の研究
p.117
2.2.2. 真空標準計測技術の研究
p.126
2.2.3. 気体と金属壁との相互作用の研究
p.135
2.2.4. 超高圧力計測標準の研究
p.143
2.3. 重力加速度計測技術に関する研究
2.3.1. 重力加速度標準の研究
p.151
2.3.2. 絶対重力加速度計の開発
p.162
3. 音響及び振動加速度標準の高度化の研究
3.1. 音圧レベル標準のトレーサビリティ確立に関する研究
3.1.1. 標準マイクロホン絶対校正技術の高度化に関する研究
p.171
3.1.2. マイクロホン比較校正技術の高度化に関する研究
p.185
3.1.3. 標準マイクロホンの高安定化に関する研究
p.194
3.2. 振動加速度標準の高度化の研究
p.201
4. 測光・放射標準の高度化に関する研究
p.209
5. 放射能標準の高度化に関する研究
5.1. 放射能標準の高度化に関する研究
p.218
5.2. 純α・β核放射能標準の高度化に関する研究
p.228
5.3. 環境放射能標準の高度化に関する研究
p.233
物理標準の高度化に関する研究
研究計画の概要
1.研究の趣旨
「科学技術基本計画」
(平成8年7月2日閣議決定)の第1章、Ⅲ.(望ましい研究開発基盤の実現)にお
いて、計測試験方法の改良・標準化、計量標準の安定な供給及び安全性・信頼性の確保などの必要性がう
たわれた。また、同第2章、Ⅱ. (3)(知的基盤の整備)においては計量標準の整備拡充が急務であるこ
とが指摘された。特に計量標準の整備は、米国に比較して十数倍の遅れがある、とまで指摘された。
一方、諮問第 21 号「先端的基盤科学技術に関する研究開発基本計画について」の第2章1−3(2)の「⑦
計測標準高度化技術」において、
『周波数・時間・長さ標準、電圧・抵抗・電流の標準を高精度化する技術
の開発を行う』こと、さらに(3)の「①極限環境創出・計測評価技術」において、
『超高圧環境、超高真
空環境の発生・計測・評価技術の開発を行う』こと、がうたわれている。
そして、
「科学技術基本計画」
(平成13年3月30日閣議決定)の第2章、Ⅱ.7. (3)(知的基盤の整
備)において、計量標準の戦略的・体系的な整備の促進が急務であることが指摘されている。
これらの状況に鑑み、広く基礎科学分野への寄与と共に、科学・産業・社会に波及する技術基盤としての
計量標準の整備及び国際化への対応のため、長さ、幾何学量、力学量、電気量などの基本的な物理標準に
関する技術の高度化を図り、知的基盤の整備を行うことが必要となっている。
そのため後期の研究においては、
1.メートルの定義を実現する長さ標準器(光源)の実用化、これを基準光源とするレーザ干渉測長標準、
実用的な三次元幾何計測標準、角度標準の校正技術の確立などの重点的な技術開発、
2.力学量標準として整備の遅れているまたは高度化が望まれている分野として、重力加速度計測、トル
ク標準の確立、超高圧力及び低真空圧力標準の設定などの重点的な技術開発、
3.音響・振動、紫外光、放射能、環境放射能に係わる標準設定技術及び標準の 高度化に関する技術開
発、を行う。
2.研究概要
(1)長さ関連標準の高度化に関する研究
我が国における長さ標準(光の波長)と、これと密接な関係にある幾何学量の標準体系の整備に資するた
め、高精度実用長さ標準の開発、三次元幾何計測標準の確立技術、角度の高精度校正技術などの研究を行
う。
① 高精度実用長さ標準の開発の研究(産業技術総合研究所、国土交通省国土地理院)
実用長さ標準の確立の高度化に資するため、高精度波長標準用レーザ光源の小型・可搬型に向けた
技術開発を行う。特に、波及効果が大きいと期待できる操作性に優れた高出力・高安定なよう素安定化
レーザ光源の実用器の実現に重点を置き、その性能評価と信頼性向上を中心に研究を進める。また、1
mの長尺端度器の精度向上、光波距離計の野外実験を実施し、その実用技術を開発する。
② 三次元幾何計測標準の確立技術の研究(産業技術総合研究所、文部科学省東京大学、文部科学省東京
工業大学)
1
物理標準の高度化に関する研究
長さ標準と密接な関係にある三次元幾何計測標準の確立に向け、三次元測定機の校正技術の向上を
図ると共に、加工現場で座標校正のニーズの高いステップゲージの校正技術の開発を重点的に行う。ま
た、三次元パラレル機構装置の特性と直交座標系三次元測定機の特性を比較検討し、相互に得失を評価
する。直径300 mmのフィゾー型絶対平面度校正装置の性能評価と測定データの解析を中心に研究を進め
る。段差については標準片となり得る試料の評価技術を高める。
③ 角度の高精度校正技術の研究(産業技術総合研究所、理化学研究所、静岡理工科大学)
生産や研究の分野で広く使われている角度の高精度校正技術の確立に向け、需要の多いロータリー
エンコーダの高精度校正技術の開発を静岡理工科大学と連携して重点的に行う。ポリゴン鏡の校正につ
いては国際比較に対応する体制を整える。また、オートコリメータの校正技術を確立するために、ナノ
ラジアン(10−9)以下の微小角をレーザ干渉計で測る技術を実現する。
(2)力学関連標準の高度化に関する研究
産業・社会の基盤としての力学系の計量標準として早急に整備と高度化が求められているトルク標準、
圧力標準、加速度計測の充実を図るため、重点的に以下の技術開発を行う。
① トルク標準の確立の研究(産業技術総合研究所)
各種機械の安全性、信頼性を確保するための基礎技術として需要の高いトルク標準の確立に資する
ため、トルク標準の一次設定技術の開発と測定範囲の拡大が急務であり、容量20 kN・m、精度200 ppm
のトルク標準機を開発し、標準供給体制を整える。
② 圧力標準の高度設定技術の研究(産業技術総合研究所、物質・材料研究機構)
圧力・真空標準の高度設定技術の向上に資するため、整備の遅れている数百 メガパスカル以上の高
圧力及び千パスカル以下の低圧力の標準確立に焦点を絞って技術開発を行う。超高圧力領域において定
点物質による技術開発を進め、実用的な圧力定点を提案し、圧力スケールとの整合を図る。真空標準で
はオリフィス法と膨張法と合わせて(10ー7∼1) Paの真空標準技術を開発する。低圧力標準は、(1∼
1000) Paの低圧力標準技術を開発する。また、真空容器壁面の表面改質を行い、より安定な真空標準を
試みる。
③ 重力加速度計測技術の研究(産業技術総合研究所、文部科学省国立天文台)
力学量標準の基礎としての重力加速度の信頼性確保に資するため、重力加速 度計測の一次標準技術
を開発する。国内外における標準重力点での比較測定を実施し、信頼性の確保と整合を図る。また、μ
galオーダーの不確かさを目指すオリジナルの絶対重力計の開発を継続し、相互比較実験を通して測定
値の信頼性向上を図る。
(3)音響及び振動加速度標準の高度化に関する研究(産業技術総合研究所、日本品質保証機構、静岡理工
科大学)
音響及び振動加速度標準に関係する計測技術の高度化に向けて,標準マイクロホンの音場感度と振動加速
度の絶対校正技術を実用化する。標準マイクロホンの校正周波数範囲を拡大し、上限 20 kHz までの可聴周
波数全域で 1%以下の不確かさを目標に研究を進める。また、音圧レベル標準の高精度トランスファー技術
2
物理標準の高度化に関する研究
を開発する。振動加速度標準の研究では、0.1 Hz∼10 Hz までの低周波領域の標準と 40 Hz∼5 kHz の測定
技術の高度化を図る。
(4)測光・放射標準の高度化に関する研究(産業技術総合研究所)
波長 90 nm∼250 nm での測光・放射標準の高度化に資するため、前期で導入した超高真空対応の紫外分
光器や極低温型放射計などの機器システムの性能評価を加速させ、計画されている国際比較に対処する。
(5)放射能標準の高度化に関する研究(産業技術総合研究所、日本アイソトープ協会)
産業・社会への影響が大きい放射能標準の高度化に資するため、放射能測定システムの超感度化を図り、
環境レベル以下の極微量放射能領域及び放射能面密度標準の確立とその供給体制の整備を試みる。さらに、
標準供給可能な範囲を純α、β核種を含む放射性核種全般に拡張するために必要な研究を行う。
3
物理標準の高度化に関する研究
3.研究年次計画
研
究
項
目
12年度
13年度
1.長さ関連標準の高度化に関する研究
小型・可搬型実
用レーザ光源
評価・まとめ
の開発
(1) 高精度実用長さ標準の開発の研究
ステップゲージの
校正技術の開
評価・まとめ
発
(2) 三次元幾何計測標準の確立技術の研究
ロータリーエンコーダの
校正技術の開
評価・まとめ
発
(3) 角度の高精度校正技術の研究
2.力学関連標準の高度化に関する研究
20kN/mのトルク標
評価・まとめ
準機の開発
(1) トルク標準の確立の研究
数百メガパスカル
千パスカル以下の
圧 力 標 準 の 開 評価・まとめ
発、1Pa以下の
真空標準の開
発
(2) 圧力標準の高度設定技術の研究
重力加速度計
測の一次標準
評価・まとめ
技術の開発
(3) 重力加速度計測技術の研究
3.音響及び振動加速度標準の高度化に関する研究
音場校正の実
用化音場標準ト 総合評価・まと
ランスファー高度化 め
(1) 音響標準の高度化
装置の高度化
と 測 定 範 囲 の 総合評価・まと
め
拡大
(2) 振動加速度標準の高度化
4
物理標準の高度化に関する研究
研
究
項
目
12年度
4.測光・放射標準の高度化に関する研究
13年度
極 低 温 放 射 計 総合評価・まと
め
の高度化
放射能測定システ
ムの超高感度化
と 供 給 体 制 の 総合評価・まと
め
整備
5.放射能標準の高度化に関する研究
所
要
経
費(合計)
469百万円
5
398百万円
物理標準の高度化に関する研究
4.研究実施体制(機関名等に変更がある場合は平成13年度のものを用いた)
研
究
項
目
(1)長さ関連標準の高度化に関す
る研究
①高精度実用長さ標準の開発の
研究
担 当 機 関 等
研究担当者
経済産業省独立行政法人産 石川 純
業技術総合研究所(委託) (主任研究員)
経済産業省独立行政法人産 藤間 一郎
業技術総合研究所(委託)
(室長)
国土交通省 国土地理院
今給黎哲朗
(測地技術調整
官)
②三次元幾何計測標準の確立技
術の研究
経済産業省独立行政法人産 黒澤 富蔵
業技術総合研究所(委託)
(室長)
東京大学 大学院 工学系
高増 潔
(助教授)
東京工業大学 精密工学
研究所
③角度の高精度校正技術の研究
初澤 毅
(助教授)
経済産業省独立行政法人産 中山 貫
業技術総合研究所(委託) (総括研究員)
理化学研究所 (再委託)
石川 哲也
(主任研究員)
静岡理工科大学(再委託)
益田 正
(教授)
(2)力学関連標準の高度化に関す
る研究
①トルク標準の確立の研究
経済産業省独立行政法人産 上田 和永
業技術総合研究所(委託)
(室長)
②圧力標準の高度設定技術の研
究
経済産業省独立行政法人産 平田 正紘
業技術総合研究所(委託)
(室長)
文部科学省独立行政法人物 竹村 謙一
質・材料研究機構 (委託)(主任研究員)
6
物理標準の高度化に関する研究
文部科学省独立行政法人物 土佐 正弘
質・材料研究機構(委託) (サブグループ
リーダー)
③重力加速度計測技術の研究
経済産業省独立行政法人産 大岩 彰
業技術総合研究所(委託)
(科長)
文部科学省 国立天文台
坪川 恒也
(助教授)
(3)音響及び振動加速度標準の高
度化に関する研究
経済産業省独立行政法人産 佐藤
業技術総合研究所(委託)
(財)日本品質保証機構
(再委託)
静岡理工科大学(再委託)
宗純
(科長)
高橋 多助
(参与)
三浦 甫
(教授)
経済産業省独立行政法人産 臼田 孝
業技術総合研究所(委託) (主任研究員)
(4)測光・放射標準の高度化に関
する研究
経済産業省独立行政法人産 斉藤 輝文
業技術総合研究所(委託) (主任研究員)
(5)放射能標準の高度化に関する
研究
経済産業省独立行政法人産 桧野 良穂
業技術総合研究所(委託) (主任研究員)
(社)日本アイソトープ協
会
(再委託)
(財)日本分析センター
(6)研究運営
木村 俊夫
(技術課長)
樋口 英雄
(分析部長)
経済産業省独立行政法人産 田中 充
業技術総合研究所(委託)
(副部門長)
7
物理標準の高度化に関する研究
5.研究運営委員会
氏
名
○*田中 充
*藤間一郎
所
属
経済産業省 独立行政法人産業技術総合研究所 副部門長
経済産業省 独立行政法人産業技術総合研究所 室長
*黒澤富蔵
経済産業省 独立行政法人産業技術総合研究所 室長
*大岩 彰
経済産業省 独立行政法人産業技術総合研究所 科長
*鈴木 功
経済産業省 独立行政法人産業技術総合研究所 科長
赤荻 登
経済産業省 独立行政法人産業技術総合研究所 主査
高辻利之
経済産業省 独立行政法人産業技術総合研究所 企画主幹
石川 純
経済産業省 独立行政法人産業技術総合研究所 主任研究員
中山 貫
経済産業省 独立行政法人産業技術総合研究所 総括研究員
上田和永
経済産業省 独立行政法人産業技術総合研究所 室長
平田正紘
経済産業省 独立行政法人産業技術総合研究所 室長
佐藤宗純
経済産業省 独立行政法人産業技術総合研究所 科長
斉藤輝文
経済産業省 独立行政法人産業技術総合研究所 主任研究員
桧野良穂
経済産業省 独立行政法人産業技術総合研究所 主任研究員
松坂 茂
国土交通省 国土地理院 宇宙測地研究室 室長
竹村謙一
文部科学省 物質・材料研究機構 超高圧ステーション主任研究員
坪川恒也
文部科学省 国立天文台 水沢観測センター 助教授
高増 潔
東京大学 大学院工学系研究科 助教授
初澤 毅
東京工業大学 精密工学研究所 助教授
石川哲也
理化学研究所 X線干渉光学研究室 主任研究員
植田憲一
電気通信大学
レーザー新世代研究センター長
大園成夫
東京電機大学
工学部精密機械工学科
丸山一男
工学院大学
機械工学科
井口哲夫
名古屋大学
大学院工学研究科
教授
教授
(注:○は委員長を示す。*は研究代表者を示す。)
8
教授
物理標準の高度化に関する研究
研究成果の概要
1.総括
計測標準、物質標準などの整備や供給は科学や産業にとって不可欠な知的基盤である。本プロジェクト
では、長さ関連量、力学関連量、音響・振動、測光・放射、放射能の各物理標準の高度化・測定範囲拡大
のための技術開発及び校正技術の研究を、産業技術総合研究所(平成12年12月までは計量研究所)を
中核機関として実施してきた。第Ⅱ期においては研究課題を「標準」を軸に再編成し、技術分野内の相互
の連携を促進させ技術や標準の質を相乗的に高めるため、研究の重点強化の改善を行った。
本研究での成果は、研究論文・口頭発表、特許だけでなく、標準機の開発、国内標準供給、国際比較へ
の参加・協力など幅広いものが含まれる点が、他の研究課題と異なる。代表的な成果は以下の通りである。
1)光通信帯で重要な波長 1.5μm帯の半導体レーザの安定化、及びその光周波数測定に成功し、CCL
(国際度量衡委員会 長さ諮問委員会)に報告し、国際的な波長標準として認知された。
2)長さ・幾何学量分野では、距離計、ステップゲージ、ボールバー、ボールプレート、微小段差、角度
(ロータリーエンコーダ、オートコリメータ)の標準供給が可能になった。
3)力学量分野では、トルクメータ、重力加速度、マイクロホンの音場感度、振動加速度の標準供給が可
能になった。
4)測光放射・放射能分野では、分光応答度(10-90nm および 250-1150nm)
、γ線核種放射能の標準供給が
可能になった。
5)標準の整備に伴い、ステップゲージやボールプレートのゲージ類、放射能等の分野においてメートル
条約基幹比較に参加し、国際相互承認や国際貢献が可能な体制整備を推進した。
このように、本プロジェクトがカバーしていた物理標準の各量の測定技術の高度化は順調に推移し、国
内の標準供給の確立や国際比較への参加という形で産業界や国際社会への波及を始めている。また、プロ
ジェクトの成果普及を目的として、平成12年12月に工業技術院において「物理標準の高度化への基盤
技術」シンポジウム、平成13年9月に幕張メッセにおいて 2001 分析展同時開催行事「産総研セミナー 分
析・計測を支える知的基盤技術 −物理標準と標準物質」
、平成14年4月には東京ビッグサイトにおいて
第 20 回国際計量計測展併催事業「物理標準セミナー」をそれぞれ開催した。これにより、本プロジェクト
で開発された基盤技術が、メーカ、校正事業者、ユーザなど産業界の方々を初め、広く多くの方々に役立
てられるものと考える。
2.サブテーマ毎、個別項目毎の概要
2.1. 長さ関連標準の高度化に関する研究
2.1.1. 高精度実用長さ標準の開発の研究
2.1.1.1 高精度長さ標準の開発の研究
分子吸収線周波数安定化レーザの実用性を高め、機械的長さ標準器の高度化の研究を行った。波長 1.5
μmのアセチレン安定化レーザの光周波数を、ルビジウム安定化レーザを用いて決定し、その結果を 2001
年 9 月のメートル条約長さ諮問委員会において報告した。
長尺端度器校正装置用に新たに2台の安定化固体レーザ(波長 532 nmNd:YAG レーザ、波長 780 nm ルビ
9
物理標準の高度化に関する研究
ジウム安定化半導体レーザ)を開発し、世界で初めて実用化した。これを用いて国際基幹比較(CCL-K2 及
び APMP.L-K2)に参加し、世界最高水準の良好な結果を得た。
光波干渉計を用いた距離計の校正システムを産総研光学トンネル内に構築し、依頼試験制度による標準
供給を開始した。また、大気中での測長精度に大きな影響を及ぼす空気屈折率の補正機能を有する2波長
ヘテロダイン干渉計型測長器を開発し、測定の揺らぎを評価した。
2.1.1.2. GPS 測量網と長さ標準の整合性確立の研究
GPS測量機と光波測距儀(EDM)で測定される「長さ」は、異なった原理に基づいて決定されている。
この2種類の測定結果が、通常の測量にとっての典型的距離である 1km の基線において整合するかどうか
を、誤差要因を可能な限り排除した高精度の測定で比較した。また、EDMとGPSに国家計量標準から
のトレーサビリティを持たせることができるかどうか検討した。さらに、測量によって構築された日本の
測地網における長さ精度について検討した。
2.1.2 三次元幾何計測標準の確立技術に関する研究
2.1.2.1 三次元幾何計測標準の研究
幾何学量の測定の基礎となる三次元形状,平面度,段差の各測定機の整備を進めた.三次元測定機とレ
ーザ干渉計を組み合わせた計測システムを開発し,各種ゲージ(ステップゲージ,ボールバー,ボールプ
レート)測定の高精度化を実現した.小型・軽量・高精度なレーザ追尾干渉計を開発し,次世代座標標準
の可能性を実証した.口径 300 mm の大型平面度測定機の改造と重力たわみの影響を考慮した平面基準板を
開発し,平面度を数 nm の不確かさで測定できることを確認した.波長標準にトレーサブルな光学的微小段
差測定器を高度化し,不確かさ要因の整理と見積もりを行った.測定校正能力を確認するために,基幹国
際比較や二国間比較に参加した.各種ゲージ,任意形状測定,光学段差の依頼試験を開始した.
2.1.2.2 パラレル三次元測定機の研究
現行の三次元座標測定機は,機械部品の三次元的な寸法および幾何形状を測定する測定機として不可欠
な存在となっている.このため,三次元座標測定機は広範囲に普及しているが,測定精度,測定の自由度,
測定時間など対して限界が生じつつある.この限界を超えるため,小型軽量かつ高速動作を特長とするパ
ラレルリンク機構を有する三次元座標測定機「パラレル三次元測定機」のプロトタイプを設計,試作しその
実用性を確認できた.特に,この研究で開発した球面磁気軸受は非常に高精度で,複雑なパラレルメカニ
ズムでも高精度な動作を可能にした.また,簡単な制御システムと測定システムを整備し,基本性能が評
価できた.このことで,当初の目標はほぼ達成できた.
2.1.2.3 段差標準片の創製技術の研究
微小形状測定機の校正に用いる標準参照試料として,シリコン単結晶の結晶面を基準とした基準片を創
生する技術を開発するともとに,その測定方法について検討してきた.微小段差の創製技術して,シリコ
ンの異方性エッチングによる段差創製技術を提案し,実験的な検証により確立した.製作した試料を傷つ
けずに測定する手法として,タッピングスタイラスによる表面形状計測系を提案し,実用レベルの計測系
を完成した.また,異方性エッチング以外にエッチング形状を改善する手法として,基板加振式プラズマ
エッチング装置を開発し,エッチングレートや異方性度の向上ができることを示した.
2.1.3 角度の高精度校正技術の研究
2.1.3.1 高精度角度校正技術の研究
生産や研究の分野で広く使われている角度を高精度で校正する技術を確立する目的で研究を行った.産
業界からの需要の多いロータリーエンコーダの高精度校正技術については静岡理工科大学と連携して研究
10
物理標準の高度化に関する研究
を進めた.相互比較、誤差解析などを行い校正技術を評価し依頼試験による標準供給を開始した
またオ
ートコリメータの校正技術を確立するために、ナノラジアン(10-9rad, 0.0002″)以下の微小角をレーザ干
渉計で測る技術を実現した。さらにポリゴン鏡の校正についてはポリゴン鏡自動回転装置による国際比較
を行った. 標準不確かさは 0.018″と見積もられた。
2.1.3.2 ロータリーエンコーダの校正技術に関する研究
ロータリーエンコーダの角度標準とトレーサビリティ体系を確立し、エンコーダメーカやユーザの校正
技術の向上に資することを目的に、エンコーダ校正の高精度化の研究を行った。校正装置の誤差測定回路
の LSL 化、Windows 上での測定ソフト開発を行い、完全自動測定を可能にした。また、高精度エンコーダ
を2台使った校正装置を試作し、その校正精度±0.006″程度を確認した。また、国内持ちまわり測定を実
施した結果、本校正方式を採用した校正装置が国内の従来方式の校正装置と比べて、一桁以上の高精度を
実現していることが確認された。
2.1.3.3 X線測角技術の高精度化の研究
第 II 期では、第 I 期に開発された高分解能回転装置にエラスティックトーションバーを利用した超高分
解能角度設定機構を組み合わせ、ピコラジアン領域での角度設定を可能とした。第 I 期に開発された標準
波長選択分光器の波長選択精度を向上させ、得られた単色 X 線を半導体単結晶の格子定数精密測定に応用
した。X 線画像解析装置の試作を行い、同時反射X線透過ビーム画像計測により、二方向の角度をサブナ
ノラジアン領域の精度で設定可能であることを示した。第 I 期、第 II 期を通じて開発された機器を、超高
分解能 X 線分光器の構成と、完全独立光学素子 X 線干渉計の構成に利用し、現時点では世界最高分解能の
X 線分光器(ΔE/E=8×10-9)を実現するとともに、世界初の完全独立光学素子 X 線干渉計での X 線干渉計
測に成功した。
2.2 力学関連標準の高度化に関する研究
2.2.1 トルク関連標準の高度化に関する研究
産業界を含めた社会基盤としての力学系計量標準のうち、トルク標準に関して技術基盤を整備し、社会
的に有効なトレーサビリティ体制の構築に資することを目標として、第Ⅱ期は 1 kN∙m -DWTSM の設計・試
作と最高測定能力の評価、校正方法の確立を経て標準供給を開始した。また国際比較を実施した。次に定
格容量 20 kN・m の実荷重式トルク標準機(20 kN∙m-DWTSM)を設計・試作し、ハードウェアの完成に至った。
2.2.2 圧力標準の高度設定技術に関する研究
2.2.2.1 低圧力及び高圧力の標準の研究
低圧力標準は、レーザ干渉式油マノメータの液位差測定システムを改良できた。遠心式微差圧発生装置
の発生圧力の安定性と再現性の評価を行い、実用可能なレベルに達していることを確認した。高圧力標準
は、隙間制御方式の 1GPa 高圧力標準装置の整備と試験を進めると共に、NIST と共同で隙間制御の方法の
技術を確立した。増圧式超高圧力発生装置の加圧試験を実施し、その成果を基に装置整備を進めた。二台
の圧力天秤間の平衡圧力を高精度に決定する方法を確立した。日本、米国とエジプトの3ヵ国で 200MPa の
国際比較を行い、圧力標準の国際整合性を確認した。
2.2.2.2 真空標準計測技術の研究
オリフィス法の校正用真空チャンバとその超高真空排気系、及び、微少気体流量計を試作して、3x10-6
∼6x10-3Pa の圧力範囲で真空計の校正実験ができた。校正圧力の下限を 10-7Pa 以下にするために真空計校
正チャンバの到達圧力を 3x10-9Pa 以下に改善し、標準供給へ結びつけるための技術的見通しが得られた。
11
物理標準の高度化に関する研究
膨張法による 10-4∼1Pa の中・高真空標準装置を完成した。2次標準に想定されるスピニングローター真空
計や熱陰極電離真空計の特性を評価し基礎データを取得した。
2.2.2.3 気体と金属壁との相互作用の研究
標準真空計校正のために不可欠な安定した雰囲気真空圧力場を提供できる真空容器を作製する表面改質
システムの開発に成功した。これは、気体分子の低吸着性・低透過性を有する層を被覆できる表面偏析現
象を応用し、高周波コ・スパッタ表面改質プロセス技術を制御して小型回転直線導入式スパッタ電極シス
テムとして高度化することにより実機サイズの真空容器内壁に応用したものである。この技術は、表面偏
析現象の制御パラメーターとなる成膜時の強制固溶組成ならびに組織構造を制御して改質層を被覆する非
平衡性プロセス制御技術であり、この技術を小型スパッタ電極に応用することにより、固溶量や組成調整
によりガス吸着性が小さく水素透過に対して障壁となる六方晶窒化ホウ素偏析複合銅層で被覆した表面を
実機サイズの真空容器内壁面に作製することができ、水素透過に対して高い抑止効果を有し圧力変動の小
さい表面改質複合層の真空容器への実用化技術が確立されたといえる。
2.2.2.4 超高圧力計測標準の研究
ダイヤモンドアンビル型超高圧力発生装置を用いて超高圧 X 線回折実験を行い、圧力誘起相転移の探査
と相転移圧力の決定および体積弾性率の決定等を行い、200 GPa 領域までの圧力標準に供した。70 GPa で
出現する Cs 高圧相 VI の結晶構造を決定した。ゲルマニウムの 100 GPa 以上にあらわれる高圧相の結晶構
造を決定した。ヘリウム圧力媒体の静水圧性を評価するために CeO2, ZnO, Au を標準試料として高圧粉末 X
線回折実験を行い、ヘリウムが室温 50 GPa まで良い静水圧性を保つことを見いだした。ヘリウム圧力媒体
による Zn の低温高圧 X 線回折実験を行い、軸比の圧力変化には異常がないことを見いだした。Nb の高圧
粉末 X 線回折実験を行い、格子歪みと状態方程式に対する非静水圧性の影響を考察した。
2.2.3.重力加速度計測技術に関する研究
2.2.3.1.重力加速度標準の研究
重力加速度計測の不確かさを評価するための技術基盤の整備を図ることを目的として、第2期では、重
力加速度計測の不確かさ要因を解明すること、及び国内外での重力加速度計測の整合性を確保することに
重点を置いた。人工的振動の小さい国立天文台・江刺重力観測室において、一落下あたりの標準偏差 7.4
µGal の高精度での絶対重力測定を実施し、絶対重力計の不確かさ要因を解明した。また、2001 年 7 月に国
際度量衡局が主催し、12 カ国の研究機関が集合する絶対重力計の国際比較に参加し、10 µGal より小さい
偏差で国際的に整合する結果を得て、国際整合性を確認することができた。これらの活動により当初の目
的をほぼ達成することができ、国内で高精度な重力計測を必要とする機関等に対して重力加速度の標準供
給を開始することができた。
2.2.3.2 絶対重力加速度計の開発
高精度の重力絶対測定に必要な技術的問題点を明らかにし、それを解決するための関連技術開発を行い、
最終的に絶対重力計を開発することを目的として、具体的には、絶対重力計の構成要素を詳細に検討して、
それぞれにおいて測定精度の向上を計った。測定方式として、精度向上が期待できる単純自由落下方式を
採用した。この結果、FG5 型など異なる測定方式の絶対重力計との相互比較測定が可能となった。
2.3 音響及び振動加速度標準の高度化に関する研究
2.3.1 音圧レベル標準のトレーサビリティ確立に関する研究
2.3.1.1 標準マイクロホン絶対校正技術の高度化に関する研究
12
物理標準の高度化に関する研究
標準マイクロホン音場感度の絶対校正技術を実用化して音場補正量の標準値を決定するとともに、主要
周波数範囲では1%程度の不確かさで音場感度校正を可能とした。また、実環境騒音の大半を占める複合
音に対する騒音評価に関し、聴覚の基本特性を調べて可聴周波数上限などを明らかにした。
2.3.1.2 マイクロホン比較校正技術の高度化に関する研究
種々の仕様の計測用マイクロホンや音響計測器について,標準マイクロホンを基準とした比較校正シス
テムを開発し,校正精度の評価を行った。また,標準マイクロホンや計測用マイクロホンの靜圧特性及び
温度特性を評価する測定システムを開発した。
2.3.1.3 標準マイクロホンの高安定化に関する研究
マイクロホンの動作原理を見直し、構造,材料について検討し,安定性が高く,可聴周波数全範囲で使
用可能なⅡ形マイクロホンを開発した。
2.3.2 振動加速度標準の高度化の研究
わが国の振動加速度校正の国家標準に必要となる正弦波近似法を採用した校正装置及び周辺技術を開発
し,測定の不確かさなどを評価することによって,国家標準の技術的基盤を確立した.また,市販の振動
加速度計の環境特性、位相特性等を評価可能とした。これらの成果は国際比較や海外国立研の基準器校正
などを通じて、その性能が世界的レベルであることが裏付けられている。
2.4 測光・放射標準の高度化に関する研究
アンジュレータ放射を放射源とする 90∼250nm 域の分光応答度校正用ビームラインならびに放電管等を
放射源とする検出器評価装置を完成させ、トランスファ標準検出器の評価に関する技術を開発した。懸案
となっていた約 130nm 以下の波長域での分光光学系での低反射率によるビームパワーの低下の問題につい
ては、これまでの Al ミラーを SiC ミラーに交換することにより、使用波長下限 90nm の目標値を達成する
ことができた。極低温放射計の動作に必要な He 回収管を整備するとともに、不具合個所等の改良を行なっ
て動作試験を行ない、0.35K の温度到達動作を確認した。NIJI-II 電子蓄積リングの電子軌道を鉛直方向に
振動させることでアンジュレータ放射強度が変調でき、ボロメータによる測定にきわめて有用であること
を確認した。
校正時不確かさ要因に関して、これまで重要視されていなかった入射するビームの角度拡がりがシリコ
ン・フォトダイオードの応答に及ぼす影響ならびに光電子放出電流の寄与がいずれも大きな誤差要因にな
ることを初めて定量的に明らかにした。また、シリコン・フォトダイオードの感度むらの測定を行ない、
同一の検出器でも吸収の強い短波長ほど感度むらが大きくなりその分布形状も異なることが明らかとなっ
た。
その他、関連する測光・放射測定技術(光度(照度)
、光束、分光応答度(250-1150 nm)
、分光応答度(10-90
nm)
、分光放射照度、分光拡散反射率の各量)の高度化と整備を行い、基幹国際比較(CCPR-K2.b(300-1000
nm 域分光応答度)
、CCPR-K2.c(200-400 nm 域分光応答度、CCPR-K1.a(分光放射照度)
、CCPR-K5(分光拡
散反射率)
)に積極的に参加予定ないし参加した。
研究期間全体を通じての研究目標については、電子加速器の故障による運休、極低温放射計の 2 度にわ
たる不具合修理等、予測できない事情等により、新たな分光応答度標準の確立までには至っていない。一
方、当該平成 12 年度および 13 年度の目標を始めとする主要な技術開発は十分達成できた。
2.5. 放射能標準の高度化に関する研究
13
物理標準の高度化に関する研究
2.5.1 放射能標準の高度化に関する研究
放射能標準の高度化と供給範囲の拡大を目指し、環境レベルの極微量放射能の体積線源を作成し、その
一様性をイメージングプレートシステムで確認した。この体積線源により産総研と日本アイソトープ協会、
及び日本分析センターの環境放射能測定用の Ge 検出器の校正を行った。また低エネルギーβ線放射能絶対
測定用TDCR型液体シンチレーションカウンタを設計・製作し、低エネルギーβ線核種の一次標準を確
立し、高精度の校正を実施した。さらに、産総研の一次標準の国際的整合性を確認するため、Co-58、Y-88
の放射性溶液、そして Cl-36 放射能面線源についての国際比較を、産総研がパイロットラボとなり、実施
した。
2.5.2 純α・β核放射能標準の高度化に関する研究
放射能標準の供給範囲拡大のため、純α/β核種の放射能測定に用いられる液体シンチレーションカウ
ンタの解析ソフトの共通化、X線放出率測定用チェンバーの設計・製作を実施し、産総研により値付けら
れた一次標準線源を用いて、加圧型電離箱、Ge 検出器、I-125 用 NaI(Tl)検出器、液体シンチレーション
カウンタ、マルチワイヤーチェンバーについて特定二次標準器としての校正が実施された。これらの結果
を基に、日本アイソトープ協会は放射能標準についての認定事業者資格を申請し、13年度末に正式に認
可された。
2.5.3 環境放射能標準の高度化に関する研究
放射能標準の供給範囲拡大のため、産総研と日本アイソトープ協会と日本分析センターの3機関が協力
して、トレーサビリティの保証された環境レベル放射能標準用の体積線源を作成し、これを用いて産総研、
日本アイソトープ協会、日本分析センターのそれぞれの Ge 検出器を校正し、γ線スペクトロメトリーによ
る測定結果にトレーサビリティを持たせることを目指し、研究を実施した。
3.波及効果、発展報告、改善点等
本プロジェクトで開発した技術は広範な科学技術分野の基盤技術として貢献できる。その範囲は、機械
産業、半導体デバイス製造装置の高性能化、材料評価、動力試験、機械・航空機の保守・安全管理、地球
科学、資源探査、加速器や宇宙機器、通信・原子力先端産業、医療、放射能安全など非常に広い波及分野
である。これらの波及が適切に行われるためには、開発された技術が、波及できる体制に近いレベルに達
していることが必要である。本プロジェクトの第Ⅱ期を終えるに当たり、プロジェクトがターゲットとし
ていた物理標準の各量の測定技術の高度化は順調に推移し、国内の標準供給の確立や国際比較への参加と
いう形で産業界や国際社会への波及を始めていることは、プロジェクトの成果が着実に基盤技術として浸
透してきていると言い換えることができる。プロジェクト終了後には、開発された物理標準について、よ
り一層国際比較への参加を推進し国際相互承認に繋げるとともに、これらの成果を国際標準化していくこ
とが必要である。各研究項目に関しての波及効果等については以下の通りである。
3.1 長さ関連標準の高度化に関する研究
3.1.1 高精度実用長さ標準の開発の研究
3.1.1.1 高精度長さ標準の開発の研究
本研究(Ⅰ期)を開始した時点から現在にかけて、周波数安定化レーザを取り巻く環境に大きな二つの
変化があった。第一は、ヘリウムネオンレーザ(633nm 領域)関連の部品を中心とした、相次ぐ製品の製造
中止である。本研究のキーパーツであった 635nm 高出力LD、633nm 偏波面保存光ファイバー、アイソレ
14
物理標準の高度化に関する研究
ータ、音響光学素子等が相次いで入手不能となり、成果の普及の妨げとなった。一方、第二の変化として、
モードロックレーザとフォトニッククリスタルファイバー技術の進展である。こちらは明るい変化であり、
種々の周波数安定化レーザを長さ標準として用いることを可能にした。ここで浮上してきたのが 1.5μm 帯
の周波数安定化レーザである。1.5μm 帯は、もともと光通信用として発達したため、コンポーネント供給
の安定性の点から優位に立っている。
Ⅱ期において、
1.5μm 帯の周波数安定化レーザを光源の中心に据え、
その成果が国際的な長さ標準として認められたことの意義は大きい。
3.1.1.2. GPS 測量網と長さ標準の整合性確立の研究
光波測距儀(EDM)とGPS測量機の比較結果については、観測期間における電離層の影響による基
線短縮はほぼ数 ppm のオーダーと考えられること、位相中心位置の個体差は 1mm 程度であったことから、
GPS測定値の誤差は 10ppm 程度と見積もられるが、レイドームかさ上げ枠による位相の乱れの影響がど
の程度でているかが不明なため、今後このファクターの評価を行った上で判断する必要がある。
3.1.2 三次元幾何計測標準の確立技術に関する研究
3.1.2.1 三次元幾何計測標準の研究
次世代三次元座標標準を目指して開発した小型・軽量で高精度レーザ追尾干渉計の性能は,現在最高性
能を有する三次元測定機と比較しても遜色ない.座標標準の確立にとどまらず,自動車産業における車体
の形状測定,航空機産業におけるタービンブレードの形状測定,ロボットアームの運動特性評価,大型構
造物の形状測定などへの応用分野が広がる.
平面度測定は微小角度の測定からも求めることができるので、測定手法の違いによる同等性を確認する
ための国際比較の意義は大きい.また,試作器に組み込んだ,波長走査光源を利用して,今後,稼働部が
なく,より高精度な測定が期待できる波長走査による縞走査法も行っていきたい.
3.1.2.2 パラレル三次元測定機の研究
パラレルメカニズムを利用した三次元測定機の実用化に向けて,高精度な測定を行うためには,機構の
校正が非常に重要である.現在,校正方法の基礎的な検討が行い,三次元測定機を用いた校正実験では,
実用的に充分な校正精度(3.3 μm)が達成できた.しかし,パラレル三次元測定機のコスト,大型化など
を考えると,アーティファクトを用いた校正などの新しい,手軽な校正方法を確立する必要がある.
3.1.2.3 段差標準片の創製技術の研究
異方性エッチング以外にエッチング形状を改善する手法として,基板加振式プラズマエッチング装置を
開発し,エッチングレートや異方性度の向上ができることを示した.加振式プラズマエッチングについて
は,高真空中での実験に課題を残しているが,プロジェクトが今年で終了し,研究資金の裏付けがなくな
ったのが残念である。
3.1.3 角度の高精度校正技術の研究
3.1.3.1 高精度角度校正技術の研究
ロータリーエンコーダ校正の不確かさは約 0.1″であり、ロータリーエンコーダ校正の国家標準器とし
て十分適合した装置開発が行えた。
角度設定の不確かさは、±15°の範囲で±0.1”以下を達成し、オートコリメータについても自己校正型
角度干渉計内蔵の角校正装置により±1000″の角度範囲で不確かさ 0.1”で依頼試験を開始することがで
きた。X線回折による角度校正、レ−ザ波長の安定化等、さらなる角度校正不確かさ向上のための基礎技
術も開発することができた。
3.1.3.2 ロータリーエンコーダの校正技術に関する研究
15
物理標準の高度化に関する研究
今後の研究の方向として、(1)測定分解能の向上、カップリングの排除、内挿誤差の測定、等速回転性能の
向上、温度管理、割出機構の改善、時間変換法の高精度・高安定化などを行い、より実用性と高精度化を
目指すこと、(2)PTB、ハイデンハイン社、産総研との間での国際持ち回り測定に参加するとともに、測
定方法のISO化の検討を行うことが挙げられる。
3.1.3.3 X線測角技術の高精度化の研究
本研究開発の結果、X線回折、分光、干渉を利用したX線測角技術の高精度化の限界を決めるのは、レ
ファレンスとして用いられるシリコン単結晶のわずかな不完全性になってきた。その意味では、X線を用
いた普通の意味での角度の高精度化としてはもはや極限に近づいており、さらに一層の高精度化のために
は別の原理に頼る必要があるように思われる。
3.2 力学関連標準の高度化に関する研究
3.2.1 トルク関連標準の高度化に関する研究
1 kN∙m ‐DWTSM を用いた国際比較については、100 ppm 未満レベルでは初の国際比較としては良好な結果
が得られたものと考えられる。しかしながら En 値が 1 を上回る測定点がいくつかあった。この点について
はメタルバンドの変位とアーム長さの変化に基づくトルク出力変化を計測することで補正が可能で、将来
計画される多国間の基幹比較等で、更に高精度な一致が期待される。
これまで我が国で未整備であったトルク標準の一部(5 N∙m∼1 kN∙m)に関して、1 kN∙m ‐DWTSM の総合
的性能評価を実施し、標準供給を開始できたことは大きな成果の一つである。この成果を産業界に普及さ
せるための技術基準作成が当面の課題である。
大容量の範囲(200 N∙m∼20 kN∙m)をカバーできるトルク標準機(20 kN∙m ‐DWTSM)の開発において、
第Ⅱ期の目標を達成することができた。今後は各諸機能の性能評価、不確かさの見積もりを早期に実施し、
200 N・m∼20 kN・m の範囲の供給体制を整備することが大きな課題である。
3.2.2 圧力標準の高度設定技術に関する研究
3.2.2.1 低圧力及び高圧力の標準の研究
遠心式微差圧発生装置 は 900 Pa までの安定な微差圧の発生装置としてだけでなく標準器としての可能
性も高い。レーザ干渉式油マノメータの液位差測定システムの改良ができたので、実用機としての整備を
進めたい。
隙間制御型圧力標準器の特性評価手法は確立された。この手法を、現在開発中の高圧力標準実験装置に
適用することにより、液体圧力標準の高度化、1 GPa までの圧力標準の設定が期待される。
増圧式超高圧力発生装置は 2 GPa(2万気圧)以上の超高圧力まで超高圧力標準を整備する目的で設置
される。超高圧力標準の供給方法としては、マンガニンゲージを仲介器として用いる方法が考えられてい
る。
国際比較試験から、わが国の高圧力標準の国際整合成が確認された。この成果を元に、APMP (THE
ASIA-PACIFIC METROLOGY PROGRAMME) における高圧力国際比較の基幹研究所としての役割が期待される。
3.2.2.2 真空標準計測技術の研究
マンパワ−不足により全体に遅れ気味であるが、膨張法は平成 14 年度前半には最終的な精度評価を行っ
てスピニングロ−タ−真空計の校正サービスを開始したい。オリフィス法は、試験・誤差解析を継続実施し、
平成 14 年度中に超高真空標準を確立したい。APMP(アジア太平洋計量計画)の 0.001-1Pa の国際比較の幹
事国を頼まれており、この面からも研究を促進したい。
16
物理標準の高度化に関する研究
3.2.2.3 気体と金属壁との相互作用の研究
本研究により、h-BN が表面偏析した銅膜で真空容器壁面を被覆することとができたために、真空容器壁
面に残留して容器内雰囲気に放出したり壁内から透過して容器内に脱離・放出される水素がほとんど除去
されるために、物理標準となる真空計を校正するための真空容器内圧力が 10-5Pa 台で3%以下と正確に
制御された標準圧力場が真空容器内に創製されたものと考えられる。
3.2.2.4 超高圧力計測標準の研究
超高圧力発生技術は現在 200 GPa に達しているが、その信頼性を向上させるためになおアンビルのデザ
イン等の開発要素が残されている。ヘリウムを圧力媒体とすることにより静水圧性の飛躍的な向上がはか
られ、超高圧力計測の信頼性が確保された。
3.2.3.重力加速度計測技術に関する研究
3.2.3.1.重力加速度標準の研究
国内測定の実施、国際比較への参加によって、国際的整合性を確立することができ、重力加速度計測の
不確かさを評価するための技術基盤の整備を図るという、当初の目的をほぼ達成することができた。今後、
国際比較結果の分析、国内比較測定の実施を進めることによって、重力加速度計測の信頼性をさらに高め
ていく。ただし、非常に高精度な国内比較測定を実施するためには、絶対重力計用除振台の除振能力を更
に改善してゆくことが必要となる。
3.2.3.2 絶対重力加速度計の開発
今回の開発研究で、現在、標準的に使用されているドラッグフリーチャンバー方式の FG5 型絶対重力計
と比較し得る、単純自由落下方式による絶対重力計の開発に、一定の成果を上げることができた。今後、
さらに使い易い様に各種改良を加え、原理的に優れている単純自由落下方式による絶対重力計の普及を図
っていきたい。
3.3 音響及び振動加速度標準の高度化に関する研究
3.3.1 音圧レベル標準のトレーサビリティ確立に関する研究
3.3.1.1 標準マイクロホン絶対校正技術の高度化に関する研究
主要周波数範囲内では 0.1 dB 程度の不確かさで音場感度校正が可能であることが確認され,音場感度レ
ベルの標準供給を開始できた。今後のさらなる高精度化のためには、カプラ補正量についての研究も含め
て、補正量についての理論的な詳細研究が必要である。
3.3.1.2 マイクロホン比較校正技術の高度化に関する研究
計測用マイクロホンの音圧比較校正装置と音場比較校正装置を試作し,認定事業者レベルの標準供給を
可能とした。今後,参照用マイクロホンの環境特性の評価、サウンドレベルメータの環境特性の検査にお
いても本成果を活用する。
3.3.1.3 標準マイクロホンの高安定化に関する研究
コンデンサマイクロホンの開発に関する幾つかのノウハウの解明ができた。今後,多数のマイクロホン
を製作し、主要各国の標準研究機関での、特に長期安定性に関する評価を得る必要がある。
3.3.2 振動加速度標準の高度化の研究
一連の研究開発は、国際基幹比較で質的にも認められたと考える。また、論文発表を積極的に行った結
果、海外からの利用問い合わせがあり、シンガポールの国立研究機関の基準器を校正した。一方、特定振
動数での共振は、問題点を明らかにしたものの補正方法などを見いだすまでには至っておらず,今後の課
17
物理標準の高度化に関する研究
題として残されている。
3.4 測光・放射標準の高度化に関する研究
本研究で初めて定量的に見出した紫外・真空紫外域で顕著な以下の 2 つの知見は、いずれも近年利用が
高まっている半導体フォトダイオードの使用に関わるもので、極めて広範な分野でより高精度な測定を実
現する上で重要な知見である。
・検出器応答の入射ビーム広がりに対する依存性が紫外・真空紫外域で特に顕著となる。
・検出器表面からの光電子放出によって、接地極性の違いでフォトダイオードの光電流出力に無視できな
い差異を生じる。
前者については、紫外線放射照度計のような放射源に接近して測定する場合、ビーム広がりが大きくな
るのに対し、通常校正は平行ビームに近い条件で行われることが多いので、その間の差異がかなり大きく
なることが明らかとなった。因みに後者については、NIST, PTB とも校正検出器の校正ならびに使用に際
し、その極性を無視していた。筆者が PTB を訪問した際、それを指摘して、その場で実験を行い、その重
要性を認識させることができた。
今後、紫外線放射照度計メーカーならびにユーザー等に対しては、本研究で判明した上記項目を含む問
題点を広く、広報、啓蒙していく活動が必要と考えている。そのために今後もより積極的に学会発表、論
文等で周知していきたい。同時に未確立となっている 90∼250nm 域の分光応答度については、上記知見も
考慮しながら、早期の標準確立に向け注力していきたい。真空紫外域の測定に際しては、電子線型加速器、
電子蓄積リング等大型施設の安定した動作が不可欠であるが、老朽化(建設後 20 年余り経過)
、運転・保
守要員の不足が問題となってきており、体制の見直し・強化が望まれる。
3.5 放射能標準の高度化に関する研究
3.5.1 放射能標準の高度化に関する研究
γ核種、α・β核種と言った線質の違いと、放射能の強度レベルの違いにそれぞれ適した測定システム
の開発とその校正がなされ、放射能標準の高度化と供給範囲の拡大が図られた。また、産総研が一次標準
機関として国家標準を二次標準機関に供給し、日本アイソトープ協会が二次の認定事業者として実用標準
を一般ユーザーに供給するトレーサビリティ体系が完成した。一方、校正作業を通じて多くの国際比較を
実施し、アジア地区の標準機関からなる APMP 基幹比較のパイロットラボとして、58Co 、88Y、166mHo の
国際比較を行った。さらに、特定標準器校正に使用した線源をタイやインドネシアに供与するなど、アジ
ア地区全体の放射能標準高度化にも寄与することが出来、十分に満足の出来る結果が得られた。
3.5.2 純α・β核放射能標準の高度化に関する研究
純α/β核種放射能標準の確立のため、液体シンチレーションカウンタより出力されるパルス波高を用
いて、効率トレーサー法・積分バイアス法・内部標準法・外部標準法の演算機能を有する解析ソフトの開
発を産総研と協力して実施した。また、X線放出率標準確率のため、55Fe 線源からの X 線放出率の絶対測
定用の加圧型2πガスフローチェンバーを産総研と協力して試作し、低エネルギーX 線領域における放射
能標準の供給体系確立を試みた。これらの研究の結果、我が国におけるトレーサビリティ体系が整備され、
13年度末には日本アイソトープ協会が放射能標準の認定事業者として正式に認可されるに至った。この
結果、日本アイソトープ協会を通じて一般ユーザーに配布される線源は、全て国家標準へのトレーサビリ
ティが保証されたものとなった。
18
物理標準の高度化に関する研究
3.5.3 環境放射能標準の高度化に関する研究
日本分析センタ−は、これまで我が国の環境放射能測定の民間サービス機関として、文科省の委託によ
り原子力発電所や米軍の原子力艦船による環境放射能の変化を長年に亘り担当してきている。また、各県
からの試料を定期的に測定し、県レベルの測定結果の整合性を確認するための継続的な測定も実施してき
た。今回、産総研で値付けられた一次標準を希釈し、環境試料と同様の体積線源を作成して、日本分析セ
ンターの Ge 検出器の校正を実施したことにより、放射能標準のトレーサビリティとその供給範囲を環境レ
ベルにまで広げることが出来た。
4.研究成果の発表状況
(1)研究発表件数
原著論文による発表
国内
国際
合計
第 Ⅰ 期
53
左記以外の誌上発表
件 第Ⅰ期 30 件
口頭発表
合計
第Ⅰ期 154 件
第Ⅰ期 237 件
第Ⅱ期 34 件 (3 件)
第Ⅱ期 37 件 (0 件) 第Ⅱ期 143 件(4 件)
第Ⅰ期 57 件
第Ⅰ期
第Ⅱ期 47 件 (7 件)
第Ⅱ期 13 件 (3 件) 第Ⅱ期 57 件(5 件)
第Ⅱ期 117 件 (15 件)
第Ⅰ期 110 件
第Ⅰ期 35 件
第Ⅰ期 217 件
第Ⅰ期 362 件
第Ⅱ期 81 件(10 件)
第Ⅱ期 50 件(3 件)
第Ⅱ期 200 件(9 件)
第Ⅱ期 331 件 (22 件)
5件
第Ⅰ期 63 件
第Ⅱ期 214 件 (7 件)
第Ⅰ期 125 件
*論文件数は、既発表論文数を記載し、投稿中の論文数については括弧書きで併記。
*原著論文については、査読制度のある論文のみとし、その他の論文については、
「左記以外の誌上発表」
に含めて記載。
(2)特許等出願件数
第Ⅰ期
17 件(うち国内 16 件、国外 1 件)
第Ⅱ期
13 件(うち国内 9 件、国外 4 件)
合計
30 件(うち国内 25 件、国外 5 件)
(3)受賞等
第Ⅰ期
3 件(うち国内 2 件、国外 1 件)
電気科学技術奨励賞オーム技術賞(平成 11 年 11 月 9 日) 檜野良穂
精密工学会沼田記念論文賞(平成 12 年 3 月 23 日) 高橋 健、初澤 毅
Measurement Science and Technology High Commended Article 1999(2000.5.9) S.Yocoyama, J.Ohnishi, S.Iwasaki,
K.Seta, H.Matsumoto and H.Suzuki
19
物理標準の高度化に関する研究
第Ⅱ期
2 件(うち国内 1 件、国外 1 件)
精密工学会沼田記念論文賞(平成 14 年 3 月 29 日)
渡部 司、益田 正、梶谷 誠、藤本弘之、中山 貫
A Best Paper Award presented by the International Program Committee of the 5th Asia-Pacific Symposium
on Measurement of Mass, Force and Torque, (2000.11.8) K. Ohgushi
合計
5 件(うち国内 3 件、国外 2 件)
(4)主要雑誌への研究成果発表
Journal
第Ⅰ期
Physical Review Letters
Applied Physics Letters
Physical Review B
Advances Coll. and Int.
Sci.
Nanotechnology
Solid
State
Communications
Review of Sci. Instrum.
Applied Surface Sciences
Japan J. Applied Physics
Nuclear Instrum. Methods A
Optical Engineering
Metrologia
Meas. Sci. Technology
Appl.
Radiation
and
Isotopes
IEEE T. Instrum. Measure.
Vacuum
Precision Engineering
IF 値
長さ関連量
力学関連量
6.462
3.906
3.065
2.500
1.300
1.271
1.239
1.222
1.157
0.964
0.942
0.820
0.796
0.716
0.584
0.520
0.389
0
1
0
0
0
0
1
0
4
4
1
0
8
0
2
0
1
2
0
3
0
1
1
0
0
0
0
0
1
3
0
0
0
0
20
電気関連量(2期
は音響・振動、測
光・放射、放射能)
0
0
0
1
0
0
0
3
0
0
0
3
0
3
0
4
0
合計
2
1
3
1
1
1
1
3
4
4
1
4
11
3
2
4
1
物理標準の高度化に関する研究
第Ⅱ期
Physical Review Letters
Physical Review B
Journal of Applied Physics
Acta Crystallogr A
Review of Sci. Instrum.
Applied Surface Sciences
Optics Communications
Thin Solid Films
Japan J. Applied Physics
Nuclear Instrum. Methods A
Optical Engineering
J. Synchrotron Radiations
Metrologia
Meas. Sci. Technology
Appl.
Radiation
and
Isotopes
IEEE T. Instrum. Measure.
Vacuum
Optical Review
Precision Engineering
J. Testing and Evaluation
6.462
2.500
2.180
1.491
1.239
1.222
1.185
1.160
1.157
0.964
0.942
0.924
0.820
0.796
0.716
0.584
0.520
0.491
0. 389
0.243
2
0
0
1
1
0
1
0
3
2
1
1
0
1
0
1
0
1
2
0
0
3
2
0
1
5
0
1
0
0
0
0
1
0
0
0
2
0
0
1
0
0
1
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1
0
4
0
0
0
0
0
2
3
3
1
2
5
1
1
3
2
1
1
2
1
4
1
2
1
2
1
*査読制度のあるジャーナルに限る
補足説明:サブテーマの分類は、第2期を基準とした。集計時には第2期のサブテーマである3.音響・
振動、4.分光・放射、5.放射能を一括して集計した。第1期のサブテーマは3つであり、それぞれ概
ね第2期のサブテーマ1,2,3∼5と対応する。一部異なるのは、真空は第1期サブテーマ3から第2
期サブテーマ2となり、振動は第1期サブテーマ2から第2期サブテーマ3となった。
21
物理標準の高度化に関する研究
1. 長さ関連標準の高度化に関する研究
1.1. 高精度実用長さ標準の開発の研究
1.1.1. 高精度長さ標準の開発の研究
産業技術総合研究所計測標準研究部門
石川
要
純、大苗
敦、藤間 一郎、尾藤 洋一、寺田 聡一、岩崎 茂雄
約
現在長さの単位メートルは、光速度により定義されている。しかし、実際的な高精度長さ測定において基準と
なるのは、光の波長である。現在実質的な長さの標準となっているのは、周波数が測定され、メートルの定義か
らその波長が決定された分子吸収線周波数安定化レーザである。分子吸収線周波数安定化レーザの真空波長の不
確かさは、10-11 を越えるものもあるが、これは実用面で必要とされる長さ標準・計測の不確かさを大幅に上回る
ものである。実際に長さの測定、標準の設定を行う場合の不確かさを決定する要因は、例えば干渉計測の場合、
空気屈折率補正の不確かさであり、またブロックゲージ等被測定物の温度(熱膨張)の不確かさである。長さ測
定の実用面から考えた場合、分子吸収線周波数安定化レーザの不確かさを今以上に小さくすることはあまり重要
ではなく、むしろ現場とのより密接なつながり・標準供給の安定化・高度化を実現することが求められている。
本研究テーマでは、分子吸収線周波数安定化レーザの実用性を高め、この光源を用いた機械的長さ標準器の高度
化実現を目標とする。
研究目的
分子吸収線周波数安定化レーザを基準とする長さ標準体系の高度化を、光源およびその利用法の両面から実現
する。
研究方法
1)分子吸収線周波数安定化レーザの実用化・安定供給
高精度測長、あるいは標準といったきわめて精度の高い特殊な用途は、一般的な製品と比較して、その数量は
非常に少ない。この事実は、現在経済的情勢下において、標準関連のみに用いられる物品の安定要求に大きな陰
を落としている。たとえば、干渉光源として長く用いられてきた、633nm ヘリウムネオンレーザチューブ、633nm
用光ファイバー・アイソレーター等の製造中止の問題である。安定供給という点からは、標準単独ではなく、ほ
かに強力な用途のある波長領域の利用を考えなくてはならない。
その意味で、光通信に使われている 1.5μm 帯は、安定供給だけでなく、光ファイバーを介した標準波長供給の
実現も考えられる有望な波長帯である。本研究では 1.5μm 帯の波長標準を完成させ、標準供給を行うことを目標
とする。
2)メートルの定義に基づく分子吸収線周波数安定化レーザ波長の決定
22
物理標準の高度化に関する研究
現在、長さの単位メートルは光速度を用いて定義されている。光速度の定義から、実用的に重要な波長を導き出
すためには、光周波数の測定が必要である。新しい 1.5μm 帯の波長標準を実現するために、1.5μm 帯分子吸収線
周波数安定化レーザの周波数測定を行う。
3)長尺端度器干渉計の開発
Ⅰ期に試作した長尺端度器干渉計さらに改良し、国際比較および国内標準供給などの実務に、安定して用いる
ことができるようにする。
4)距離標準の為の空気屈折率補正型2波長干渉測長器の開発
大気中で測長を行う場合、屈折により波長が変化する。屈折率は、温度・気圧・大気の組成により変化するが、
特に長距離測定の場合、これらの正確な値を把握することは難しい。しかし、2色の光を用いると、その分散か
ら光路全体にわたる絶対屈折率を求めることができる。本研究の目的は、この新しい考えに基づき、途中光路の
状態を測定することなく、高度な屈折率補正を実現することである。
5)2面干渉計の開発
Ⅰ期に開発した、真空干渉計内蔵自立制御端度器は、真空波長を用いて機械的長さを一定に保持する機能を有す
るものである。しかしその両端面の間隔の絶対値は、別途測定する必要がある。被測定物の端度器は、構造的に
リンギングが行えないため、両面から直接干渉測定する必要がある。本研究の目的は、リンギングを行わずに、
両面からの干渉測定を実現する干渉計を開発することである。
研究成果
1)分子吸収線周波数安定化レーザの実用化・安定供給
Ⅰ期では、光通信帯の光周波数(波長)標準として、アセチレン分子の飽和吸収に安定化した半導体レーザの
システム(図1)を開発したが、Ⅱ期では、そのシステムについて、器差やレーザパワー依存性などを評価した。
また、その装置の小型化を視野に入れて、光源としてよりコンパクトなDFBレーザや固体レーザを用いたシス
テムの基礎的な実験を行った。
図1
アセチレン安定化レーザ
2)メートルの定義に基づく分子吸収線周波数安定化レーザ波長の決定
1)で述べた光通信帯での標準となるアセチレン安定化レーザの光周波数(波長)を決定するために、ルビジウ
ム原子の2光子吸収遷移に安定化された波長 778nm を基準とした光周波数計測システムを使い測定を行った。光
周波数測定システムの装置図を図2に示す。
図2
通信帯の光周波数測定システム
また、基準となるルビジウム安定化レーザの値を決定するために、フランスの国際度量衡局と時間周波数研究所
で開発された周波数の値付けされた可搬型のルビジウム安定化レーザを計量研に持ち込んでもらい国際比較を行
った。さらにごく最近当研究所で開発されたモード同期チタンサファイアレーザを用いた光周波数システムでも
ルビジウム安定化レーザの光周波数を測定することができた。これらの結果、基準となるルビジウム安定化レー
ザの値を10桁以上の精度で決定することができた。
これによりアセチレン安定化レーザの光周波数を決定することができた。これらの結果は、2001年9月の国
23
物理標準の高度化に関する研究
df crossover
際会議で発表され、その直後に開かれたメートル条約の長さ諮問委員会(CCL)において、
「1mを実現するた
めの安定化レーザのリスト」にアセチレン安定化レーザが加えられることが決められた模様である。これにより、
光通信帯という重要な波長領域で初めてSIにトレーサブルな光周波数(波長標準)が設定されたことになり、
今後、WDMなどの進展により需要が見込まれる市販の波長計(6桁)の精度を超えた標準供給について技術的
6
な目途がついた。
5
3)長尺端度器干渉計の開発
ⅰ.
第Ⅰ期で開発した長尺端度器校正装置用に、新たに2台の安定化固体レーザ、ヨウ素安定化 Nd:YAG レー
4
ザ(波長 532 nm)及び、ルビジウム安定化半導体レーザ(波長 780 nm、図 3)を開発した。
Frequency
3
図 3.ルビジウム D2 線における吸収信号の様子
L2
Tunable
ヨウ素安定化
Diode Laser
Reference
Mirror
Base
Plate
532
nm
Writein Fringe
L1 2
Nd:YAG
レーザは波長標準として開発されたものを改良し、外部変調器を用いない、よりコンパ
Pattern
780 nm
Gauge
クトなタイプのものを開発した。ルビジウム安定化半導体レーザは市販の波長走査型半導体レーザを光源とし、
Block
1
アセチレン安定化レーザにより波長の値付けを行った。2台のレーザはともに、5
mW 以上の高出力と 1×10-9 以
HM1
L4
Wavelength
下の波長不確かさが実現されており、世界で初めて長尺端度器校正装置用の安定化レーザ光源として実用化した。
ⅱ.
HM2
Counter
0
新たに開発した2台の安定化固体レーザと、既に用いているヨウ素安定化オフセットロック
He-Ne
Readout レーザ
Laser Light
0
200
400
600
800
1000
(633 nm)の計3台のレーザを長尺端度器校正装置の光源として用いることで、長さ 1m までの長尺ブロック
HM3
PAL-(mm)
SLM
Nominal
length of the gauge block
ゲージにおいて、合致ミスを起こすことなく長さの決定を行うことが可能となった(図
4)。
L
3
Aperture
First- order
L5
図 4.ヨウ素安定化 He-Ne レーザを基準としたときの測定の合致度
Diffraction
ⅲ.
Aperture
本装置を用いて国際度量衡委員会による基幹比較(CCL-K2)及び、アジア太平洋計量計画による基幹比較
PhotoComputer
CCD
detector
(APMP-K2)参加した。CCL-K2 においては世界最高水準の良好な結果が得られた。次世代の端度器校正装置
Counter
として、波長走査技術を用いたブロックゲージ干渉計を開発した(図
Controller
5)。
図5.波長走査型半導体レーザを用いたブロックゲージ干渉計
波長走査型半導体レーザ(780nm)のみを光源とし、液晶空間光変調素子をフリンジカウント素子として用いる
ことで、呼び寸法を必要としないブロックゲージ長さの測定を実現した。現在のところ、走査する波長の不確か
さが大きく、測定できる長さは 50mm 程度までであるが、ルビジユムの吸収線に波長を安定化するればより広範囲
のブロックゲージの測定が可能となる。
4)距離標準の為の空気屈折率補正型2波長干渉測長器の開発
距離とは 2 点間の空間的な離れの大きさであり、その大きさによって区別されるものではないが、距離標準とし
ては、大まかに1m以上の大きさのものを扱う。光波を用いることにより非常に高精度に距離測定が行えるが、
大気中でこれを行う場合、その空気屈折率の値の不確かさが、測定距離の不確かさの主な原因となる。例えば、
10-8 の不確かさで距離測定を行うためには、その光路の平均気温を 10mK の不確かさで測定しなければならず、測
定距離が長くなるにつれ、このような大気状態の測定は不可能となり、測定距離の不確かさが増大することにな
る。空気屈折率の値を決定するためには、気温の他に、気圧、湿度、二酸化炭素濃度を測定する必要があるが、
これらのうち湿度を除く要因を測定することなく光波を用いて距離測定する方法に2波長測距方がある。同じ大
気でも光の波長が異なれば空気屈折率の値も異なることを利用し、同一光路を 2 波長で距離測定することによっ
て、空気屈折率の大気状態依存性を打ち消すことが出来る。ただし、2波長測距の場合、それぞれの波長での測
定の分解能の数十倍から百倍程度悪化する事が知られている。そこで、2波長測距に特化した光学系を用い、干渉
位相を高分解能に計測できる2波長ヘテロダイン干渉計型測長器を開発した。図 6 にその概略図を示す。
24
A
phase shifter
n(λ )-n(λ )
2
1
物理標準の高度化に関する研究
+0000000000
カウンター
電圧計
図6
+0000000000
+0.00v
カウンター
2色ヘテロダイン干渉計のブロック図
図 7 はその写真である。
図7
製作した2色ヘテロダイン干渉計図
2波長測距では、各々の波長で測定した空気屈折率込みの距離(光学距離と呼ぶ)の差が重要であるため、2 波長
共通となる雑音をフィードバック制御で抑え、その差のみ高分解能に測定する方法を採ることにより、小さな不
0
100
200
300
400
500
確かさでの距離測定を実現した。測定揺らぎの実測例を図 8 に示す。
Time[sec]
図8
2波長測距の測定揺らぎ
5)2面干渉計の開発
Ⅰ期に、委託研究(委託先:株式会社ミツトヨ)により開発した、
「真空干渉計内蔵自立制御端度器」は、両端
面間の長さ変化および傾きを、内蔵された真空内3光路ヘテロダイン干渉計により検出し、帰還制御により一定
に保つ機能を有するものである。従来の端度器(ブロックゲージ等)と異なり、周囲温度・姿勢変化の影響を受
けずに、常に一定の端面間隔を保つことができる。しかし、内蔵干渉計は、間隔の変化を検出する機能しか有し
ないから、端面間隔の絶対値は別途測定する必要がある。構造的にリンギングが難しいこと、またリンギングに
よる不確かさが、自立制御端度器の不確かさを大幅に越えてしまうため、リンギングを行わずに端面間隔を測定
する干渉計が必要となった。
図 9 は開発した干渉計の概略図である。
図9
2面干渉計
2面干渉計は、2組のマイケルソン干渉計を組み合わせた構造となっていて、端度器の両端面の干渉縞を同時に
観測することができる。この2つの干渉縞の位相から、端度器の絶対長を算出することができる。干渉縞の解析
は、フリンジスキャン法により行われ、λ/100 以上の分解能が達成できる。図 10 にデータ解析装置の写真を示
す。
図 10
考
2面干渉計データ解析装置
察
本研究(Ⅰ期)を開始した時点から現在にかけて、特に光源(周波数安定化レーザ)を取り巻く環境に大きな
二つの変化があった。第一は、ヘリウムネオンレーザ関連の部品を中心とした、相次ぐ製品の製造中止である。
ヘリウムネオンレーザは、最初に実現された連続発振のレーザとして、長く使われてきたが、半導体レーザの発
展に伴い、長さ計測の分野以外での需要は大幅に落ち込んでいる。長さ計測に関しては、干渉計測は最も精度の
高い計測法の一つであり、利用される分野は限定される。現在の厳しい経済状況下においては、市場の小さい製
品は、それが非常に重要なものであっても継続して生産することは困難であり、多くの企業のが撤退を余儀なく
させられている。633nm の領域についていうと、本研究のキーパーツであった 635nm 高出力LD、633nm 偏波面保
存光ファイバー、アイソレータ、音響光学素子等が相次いで入手不能となり、成果の普及に暗い影を落とした。
一方、第二の変化として、モードロックレーザとフォトニッククリスタルファイバーを用いた光周波数直接測
定の実現がある。こちらは、前者と異なり、明るい変化である。かつて光周波数の直接測定は、非常に困難なこ
とであって、世界の標準研究所でもごく限られた研究所でしか実現できなかった。また、測定可能な周波数は限
られたものであった。しかし、新しい光周波数直接測定法は、広い領域での連続した測定を、遙かに容易に実現
し、種々の周波数安定化レーザを、長さ標準として用いることを可能とした。ここで浮上してきたのが 1.5μm 帯
の周波数安定化レーザである。1.5μm 帯は、もともと光通信用として著しい発達を遂げてきた。コンポーネント
25
物理標準の高度化に関する研究
の供給の安定性という点からは、周波数安定化光源の中で、際だって優位に立っている。Ⅱ期において、1.5μm
帯の周波数安定化レーザを光源の中心に据えたのは、以上の理由による。
引用文献
成果の発表
1)原著論文による発表
ア)国内誌
1.
1.尾藤洋一,平井亜紀子,吉森秀明,洪鋒雷,大苗敦,岩崎茂雄,瀬田勝男:3 本の安定化レーザを用いた長尺ブ
ロックゲージ干渉計の開発,精密工学会誌,68,4(2002)541.
イ)国外誌
1.
Y. Bitou and K. Seta, “Gauge Block Measurement Using a Wavelength Scanning Interferometer,” Jpn. J. Appl.
Phys. 39 (2000) pp. 6084-6088.
2.
Svelto, C. ; Galzerano, G. ;Onae, A. ; Bava, E. ; Nonlinear Spectroscopy of Isotopic Acetylene at λ=1.5
μm for Absolute Frequency Stabilization of Diode-Pumped Er-Yb:Glass Lasers、IEEE IM50 p.497-499 (2001)
3.
A. Onae, K. Okumura, K. Sugiyama, F. -L. Hong, H. Matsumoto, K. Nakagawa, R. Felder, O. Acef、 Optical frequency
standard at 1.5 μm based on Doppler-free acetylene absorption、Proceedings of 6th symposium on frequency
standards and metrology、St. Andrews, U. K. 、September, 9-14, 2001
4.
Y. Bitou and K. Seta、Wavelength Scanning gauge block interferometer using a spatial light modulator、Jpn.
J. Appl. Phys. Vol. 41, 384-388, 2002.
5.
Lijiang Zeng, Akiko Hirai,Ichiro Fujima, Hirokazu Matsumoto and Shigeo Iwasaki :A two-color heterodyne
interferometer for measuring the refractive index of air, Optics Communication (in press)
6.
Y. Bitou, A. Hirai, H. Yoshimori, F. L. Hong, Y. Zhang, A. Onae, K. Seta, "Gauge block interferometer using
three frequency-stabilized lasers, " Proc. SPIE, Vol. 4401-35 (2001)
2)原著論文以外による発表(レビュー等)
1.
尾藤洋一:
「ブロックゲージと国際比較」
、AIST Today, Vol.2, No.4, pp.30-31, 2002
3)口頭発表
イ)応募・主催講演等
1.
増田他、高精度気体屈折率測定装置の開発、2001 年度精密工学会春季大会
2.
A.Onae et.al.、A Frequency Measurement System for an Optical Frequency Standaed at 1.5μm ,CPEM20
00 2000年5月 シドニー
3.
Y. Bitou and K. Seta, “Gauge block measurement by using a wavelength scanning interferometer,” OSA Annual
Meeting (Providence, Rhode Island, 2000))
4.
Y. Bitou, A. Hirai, H. Yoshimori, L.-H. Hong, Y. Zhang, A. Onae, and K. Seta, “Gauge block interferometer
using three frequency-stabilized lasers,” Proc. SPIE, Vol. 4401, pp. 228-297, (2001).
5.
Optical Frequency Standard for Optical Fiber Communication Systems、K. Nakagawa, A. Onae、Proceedings of
2001 Asia-Pacific Radio Science Conference (AP-RASC'01)、A3-2-01、Tokyo、Japan、 August, 1-4, 2001.
26
物理標準の高度化に関する研究
6.
A. Onae, K. Sugiyama, F-L Hong, J. Ishikawa, H. Matsumoto, K. Nakagawa, Y. Tachikawa、Accurate Optical Frequency
Measurement System at Telecommunication Region using a Mode-locked Fiber Laser 、 Proceedings of 2001
Asia-Pacific Radio Science Conference (AP-RASC'01)、PA3-01、Tokyo、Japan、 August, 1-4, 2001.
7.
大苗 敦、奥村謙一郎、依田潤、中川賢一、興梠元伸、B. Widiyatomoko :
「光通信帯アセチレン安定化レーザの周
波数測定システム㈼」
、応用物理学会 2000年秋 3p-M-5.
8.
大苗 敦、奥村謙一郎、杉山和彦、洪鋒雷、松本弘一、中川賢一、レイモンド・フェルダー、オウアリ・アシェフ:
「アセチレン分子の飽和吸収を用いた波長1.5μm帯の光周波数標準」
、応用物理学会 2002年春 28p-ZG-2.
9.
A. Onae, K. Okumura, K. Sugiyama, F. -L. Hong, H. Matsumoto, K. Nakagawa, R. Felder, O. Acef、"Optical frequency
standard at 1.5 μm based on Doppler-free acetylene absorption" 6th symposium on frequency standards and
metrology、St. Andrews, U. K. 、September, 9-14, 2001
4)特許等出願等
2001 年 3 月 28 日
Air Refractometer
J.Ishikawa,M.Ueda
アメリカ、番号未定
2001 年 3 月 28 日
Air Refractometer
J.Ishikawa,M.Ueda
ドイツ、10115292.2
2001 年 10 月 8 日
測長装置
石川純、上田守正、他
特願 2001-390089
27
物理標準の高度化に関する研究
1. 長さ関連標準の高度化に関する研究
1.1. 高精度実用長さ標準の開発の研究
1.1.2. GPS 測量網と長さ標準の整合性確立の研究
国土交通省国土地理院地理地殻活動研究センター宇宙測地研究室
松坂
茂
測地部
今給黎 哲郎
測地観測センター
畑中
要
雄樹
約
GPS測量機と光波測距儀(EDM)で測定される「長さ」は、異なった原理に基づいて決定されている。この2
種類の測定結果が、通常の測量にとっての典型的距離である 1km の基線において整合するかどうかを、誤差要因
を可能な限り排除した高精度の測定で比較した。また、EDMとGPSに国家計量標準からのトレーサビリティ
を持たせることができるかどうか検討した。また、測量によって構築された日本の測地網における長さ精度につ
いて検討した。
目
的
本研究は、光の波長に基づく長さ標準によって決められた基線長と宇宙測地技術によって決められた基線長とを
精密に比較し、GPS等の宇宙測地技術によって再決定される日本の測地網・測地系に長さ標準からのトレーサ
ビリティを持たせることを目的とする。
研究方法
第1期の研究においては、日本の測地網と長さ標準についての調査を行った。日本の測地網のスケール精度は
100km を超える距離に対しては 5ppm 以上である(Nakane,1991)。また、GPSによる測定の誤差要因、特に電離層
補正とアンテナ位相特性について検討した。
第2期においては、1)GPSとEDMの精密な同時比較観測を行える基線の設定と連続試験観測の実施、2)比較
観測に用いたEDMの長さ標準への結合を行った。
1)精密比較基線の設置と連続観測
つくば市高岡にある比較基線場に、GPSとEDMの精密比較用の基線端点を併置した。設置した3点のうち
2点は測定する基線(約 1035m)を構成し、反射鏡とGPSアンテナの一体型素子を設置して測定を行った。残り
の1点はEDMを設置するための端点で、基線の延長約 22m で延長線からずれた位置(基線の両端点に視通を通
すため)に設置した(図2・端点の配置図)。
28
物理標準の高度化に関する研究
写真1
図2
図1 本研究の概念図
高岡基線西端点にEDM(geodimeter650)を設置したところ
奥に見えているピラーはGPSの端点
高岡基線における EDM・GPS 比較観測用観測点の配置
これにより、器械点から各ミラー点までの距離を測定し、偏心補正によってミラー点間の距離を求めることに
より、器械定数の影響を最小限に押さえた測定が可能となった。また、地盤の条件があまりよくないため、設置
に際してパイルによる補強を行ったが、工事の際に地下約 4m の深さに支持基盤となりうる轢層があることがわか
ったので、安定性は高いものと思われる。(写真1−3参照)
29
物理標準の高度化に関する研究
写真1
高岡基線西端点にEDM(geodimeter650)を設置したところ
奥に見えているピラーはGPSの端点
写真2 高岡基線GPS観測点 (ピラー内に受信機をセットしアンテナにはレドームをかけた。レドームの下の開口部は反射
鏡への視通窓)
30
物理標準の高度化に関する研究
写真3
反射鏡・アンテナ一体型ユニットの外見(地理院構内
上記の高岡基線端点においてGPS、EDM、および気象測器による同時連続観測を約2ヶ月間行った。GPS
観測値については24時間データにより基線解析計算を行って基線長を求めた。EDMは5分ごとの測定値を集
計し、気象補正を行って基線長を求めた。両者の基線長を比較するに当たっては、偏心補正計算を行って同一基
線上の距離として比較した。
2)長さ標準との結合
比較観測に用いたEDM(geodimeter650)を、産業技術総合研究所が長さ標準として整備するレーザー干渉計に
より校正した。器械定数決定のための7点法と、レーザー干渉計との比較のための観測を実施し、距離計の校正
証明に相当する精度で定数を確定した。
研究成果
1)GPS観測における誤差要因の調査を行い、そのうち影響が大きいと思われるアンテナ位相特性の影響を調べ
るための実験観測を行って、アンテナ個体差の影響を 0.2-0.3mm 以下にまでキャリブレーションが可能であるこ
とを示した。また、国土地理院のGPS観測点を用い、電離層遅延の影響によるスケール短縮が無視できないこ
と、また電離層モデルを使用することによってこれをキャリブレーションすることが可能であることを示した。
2)2ヶ月にわたり高岡比較基線場においてGPS・EDMの連続観測を行った。その結果、GPSによる基線長
(24時間データにより1測定値/1日)は約 2mm の範囲でばらつき、その標準偏差が 0.56mm 程度であった。一
方、EDMの連続観測では、5分ごとの値を取得した。通常の気象補正式を適用したEDMによる測定値は、24
時間平均値で見ると標準偏差は 0.85mm であったが、5 分毎の測定値の標準偏差は約 2mm であり、目的の精度を達
成するには長時間のデータを統計処理する必要があることがわかった。ただし、EDMの結果のばらつきは平均
値の周りに対称ではなく短い側に大きく広がるような偏りがあった。そのため、平均値と中央値には 0.5-0.6mm
程度の差が見られた。原因は特定されていないが、気象補正が完全に行われていないことが疑われる。
(図3、図
4)
31
物理標準の高度化に関する研究
図3 EDMとGPSによる同時観測結果
(GPSは 24 時間値、EDMは5分値)
図4
EDM測定値(5分値)の頻度分布図
GPSによる測距結果の平均値とEDMによる結果の中央値は 1mm 以内で一致しているが、GPSの誤差を補
正した上で改めて評価するべきである。GPSとの比較観測に使用したEDM(Geodimeter650)は、産業総合研究
所の光学トンネル内 200mの基線において試験校正(7点法による測定、および干渉計による位相差の測定)を行
った。決定された器械常数は、GPSとの比較を行った時点で採用した値と 0.3mm 差で一致した。
考
察
GPS解析結果の二重位相差の残差には、位相差によってうち消されない系統的なドリフトが明瞭に残ってい
32
物理標準の高度化に関する研究
る。これは、2つの端点の環境に何らかの違いがあることを意味している。今回の連続観測のためにミラー・G
PSアンテナの端点にはレイドームおよびその嵩上げ枠を設置しており、これが原因である可能性がある。比較
観測の際にはレイドームおよび嵩上げ枠をなるべく用いないように工夫をする必要があるが、夜間を含む連続観
測を無人で行うためには器械・アンテナの保護も必要なので現時点では解決していない。野外におけるEDM測
距の気象補正については、光路上の気象測定をさらに詳細に行うか、多波長の測距による補正を行うなどの工夫
が必要である。EDMとGPSの比較結果については、CODE から提供されている、IGS 観測データを元に推定さ
れた電離層マップから、観測期間における電離層の影響による基線短縮はほぼ数 ppm のオーダーと考えられるこ
と、三脚に設置した状態でチョークリング・アンテナの位相特性を評価した結果では、位相中心位置の個体差は
1mm 程度であったことから、GPS測定値の誤差は 10ppm 程度と見積もられるが、レイドームかさ上げ枠による位
相の乱れの影響がどの程度でているかが不明なため、今後このファクターの評価を行った上で判断する必要があ
る。
引用文献
[1]
K. Nakane, ”Scale Accuracy of Geodetic Network in Japan”,Bulletin of GSI,vol36,p1-19
成果の発表
1)原著論文による発表
1.
夏淑輝・畑中雄樹、
「超高精度 GPS 基線長解析手法の開発 −局地電離層モデルを用いた電離層遅延補正−」 ,測量調
査技術(APA), No. 75, 86-93, 2000.
2)原著論文以外による発表
なし
3)口頭発表等
1.
畑中雄樹・村上真幸・勝田啓介・藤間一郎・瀬田勝男、
「光干渉計の開発に関する研究(距離標準と GPS 測量網の整
合性確立)
」
、シンポジウム「物理標準の高度化への基盤技術」
、
(2000 年12月6日、工業技術院)
33
物理標準の高度化に関する研究
1. 長さ関連標準の高度化に関する研究
1.2. 三次元幾何計測標準の確立技術に関する研究
1.2.1. 三次元幾何計測標準の研究
計測標準研究部門長さ計測科幾何標準研究室
黒澤
要
富蔵、高辻
利之、土井
琢磨、大澤
尊光
約
幾何学量の測定の基礎となる三次元形状,平面度,段差の各測定機の整備を進めた.三次元測定機とレーザ干渉
計を組み合わせた計測システムを開発し,各種ゲージ(ステップゲージ,ボールバー,ボールプレート)測定の
高精度化を実現した.小型・軽量・高精度なレーザ追尾干渉計を開発し,次世代座標標準の可能性を実証した.
口径 300 mm の大型平面度測定機の改造と重力たわみの影響を考慮した平面基準板を開発し,平面度を数 nm の不
確かさで測定できることを確認した.波長標準にトレーサブルな光学的微小段差測定器を高度化し,不確かさ要
因の整理と見積もりを行った.測定校正能力を確認するために,基幹国際比較や二国間比較に参加した.各種ゲ
ージ,任意形状測定,光学段差の依頼試験を開始した.
研究目的
1)三次元形状標準
ステップゲージ,ボールプレートをはじめとした三次元測定機校正用ゲージの値付けを高精度に行える体制
を整える.さらに,国際比較に参加して精度を確認した後,依頼試験に対応する.また,大型三次元測定機や
工作機械などを校正するための小型・軽量なレーザ追尾干渉計を開発し,次世代座標標準の可能性を探る.
2)平面度標準の高度化
絶対平面度校正装置および基準平面板を完成させ後,2国間比較を実施し,装置の性能を確認する.大口径
(直径 300 mm)の平面度の標準供給準備を整える.
3)段差標準の高精度化
第1期で整備した絶対スケールをもつ顕微干渉計の測定の高速化と位相測定の高精度化を実施し,測定の不
確かさを見積もり後,段差標準の国際比較に参加する.また,0.08∼0.2 ・m の段差標準片の依頼試験に対応
する.
研究方法
1)三次元形状標準
ア)各種ゲージの校正技術の開発
三次元測定機(CMM)は任意の物体の寸法,形状,位置,姿勢を測定することができる万能測定機として国内
外の製造メーカー等で広く利用されている.この装置の精度評価にブロックゲージ,ステップゲージ,ボー
ルバー等の一次元ゲージ,及びボールプレート,ボアプレートなどの二次元ゲージが利用される.これら各
34
物理標準の高度化に関する研究
種ゲージ測定において,長さ標準に対してトレーサビリティを確保する方法を開発する.具体的には市販の
テーブル移動型の三次元測定機とレーザ干渉計を組み合わせることにより干渉式三次元測定機を開発し,測
定の不確かさを評価する.各種ゲージの校正技術をベースに国際比較に参加して測定校正能力を確認する.
イ)ステップゲージ専用校正装置の開発
ステップゲージ専用校正装置を設計・試作し,運動特性を評価する.高精度化を図るために,ステップゲ
ージ専用校正装置に最適な断熱ブースを製作し,装置の主要部に温度センサを張り付け,駆動系が静止して
いる場合と稼働している場合の熱伝達の挙動を測定する.
ウ)首振り式レーザトラッカの開発
将来の三次元測定機の絶対校正法の確立を目指し,首振り式半球ミラーを用いた新しいトラッキング機構
を考案し,トラッカの高精度化,小型化,軽量化を図り,本トラッカによる三次元座標測定値と高精度三次
元測定機との値を比較する.
2)平面度標準の高度化
第1期に製作した大口径絶対平面度測定機の基本性能を評価する.ほぼ同一形状の3枚のオプチカルフラット
(これらを A,B,C と呼ぶ)を用意し,三枚合わせ法で以下の手順で絶対形状を求める.
(1)図1の光学系において,基準板の位置に A を,被測定板の位置に C をセットする.三回測定し平均をとる.サ
ンプルステージを 5 度毎に 360 度回転する.
図1 平面度干渉計の光学系
(2)基準板の位置に B を,被測定板の位置に C をセットする.(1)の手順と同じ測定を行う.
(3)基準板の位置に B を,被測定板の位置に A をセットし,回転をしない.A は(1)の測定の際とは,座標が反転し
ていることに注意を要する.ここで,C の形状に高周波の成分が含まれていないと仮定する.(1)における 72
回の測定結果を平均すると,ARef+<C>Samp が得られる.<C>は全ての測定の平均を意味し,回転対称の仮想的
35
物理標準の高度化に関する研究
な形状である.添え字の Ref と Samp は,試料の方向を表しており,座標を反転することでお互い変換するこ
とが可能である.同様に(2)からは BRef + <C>Samp が得られ,(3) からは BRef + ASamp が得られる.
次に(1)の測定結果 ARef + <C>Samp の座標を計算機上で反転させる.その結果<C>Ref + ASamp が得られる.結果
的に次の測定値が得られる.
<C>Ref + ASamp ,
BRef + <C>Samp ,
BRef + ASamp
.
ここで<C>は回転対称なので,<C>Ref = <C>Samp と見なせる.この仮定により上の連立方程式を解くこと
ができる.A,B,<C>の絶対形状が分かる.C は(1)か(2)の測定のうち,どちら一つから計算できる.
実際に,直径 350 mm,厚さ 100 mm の平面基準板をオーストラリア国立計測研究所(NML)と当所の装置で測定し,
両方の測定の同等性を確認する.
また,地球重力によるたわみを考慮した基準板を試作し,それを評価する.
3)段差標準の高精度化
顕微干渉計を用いた光学的段差校正において,最も大きな不確かさは光の斜入射効果に起因して,測定の基本ス
ケールとなる干渉縞間隔が光源の半波長より大きくなることである.そこで,第1期で行った基礎実験や理論的
考察を基に開発した絶対スケールをもつ光学式段差測定用の顕微干渉計の改良を行う.段差測定は図2に示すよ
うな二つのステップを経て行われる.
図2 長さ標準にトレーサブルに段差校正を行うスキーム
具体的には,ステップ1では,PZT にマウントした試料を顕微干渉計の光軸方向に大きく走査し,長さ標準にト
レーサブルな波長安定化レーザを光源とした干渉計で走査距離を測定する.この走査距離と顕微干渉計で測定し
た位相を比較することによって干渉縞間隔を校正する.次にステップ2として,校正された干渉縞間隔を基本ス
ケールとし,縞走査法により段差試料の三次元形状を測定し,段差値を校正する.校正における不確かさ評価を
36
物理標準の高度化に関する研究
行った後,国際度量衡委員会で実施している段差の国際比較(CCL-NANO2)に参加し,測定校正能力を確認する.
研究成果
1)三次元形状標準
ア)各種ゲージの校正技術の開発
ブロックゲージは,光波干渉計を用いて合致法により高精度に校正される.ところが,ステップゲージの場合は
その構造上合致法を用いた干渉測定が不可能である.そこで,三次元測定機(CMM)を単なるプロービング機構をも
つ移動テーブルを見なし,その移動量をレーザ干渉計で測定する方法に基づく干渉式三次元測定機を開発した.
その原理図を図3,実際の測定している測定システムを図4に示す.
測定すべき長さ
ステップ
ゲージ
レーザ
干渉計
プローブ
移動テーブル
三次元測定機
図3 ステップゲージ校正用干渉式三次元測定機の概略図
CMM
probe head
step-gauge
interferometer
laser head
図4 干渉式三次元測定機によるステップゲージの校正
ステップゲージの校正において,接触式プローブが被測定面に接触した瞬間の長さを測定するためプロービング
の繰り返し性や接触判定法が非常に重要である.ステップゲージの寸法ピッチに合わせた 10 ないし 20 mm のブロ
ックゲージを用いて,プロービング力 7.5 N でプロービングした場合の特性を予め測定する.プロービング力と
三次元測定機のアナログ信号が線形関係なるところを求め,この線形部分の距離をレーザ干渉計で測定する.干
37
物理標準の高度化に関する研究
渉計の値とブロックゲージの校正値からプロービングの補正値を算出する.
レーザ測長には Single-path と Four-path の2通りの干渉計を組むことが可能である.ドイツ物理工学研究所で
採用した Single-path 干渉計[2]では,測定のばらつき,繰り返し性が悪いことから,当研究室では Four-path 干
渉計を採用した.その光学系を図 5 に示す.
cube corner
1/4λwave plate
Z direcition
PBS
X direction
PBS
laser head
mirror
図5 4-path のレーザ干渉計の光学系
三次元測定機のテーブル上に 2 つの偏光ビームスプリッタ,1/4λ板,コーナキューブを配置し,CMM の Z 軸に
固定されたプロービングシステムのすぐ横に 2 枚の平面鏡を取り付け,平面鏡とレーザ干渉計との間の距離を測
定する.この Four-path 干渉計は,ステップゲージ干渉測定において多く利用されている[2][3].この手法は,
プローブスタイラスのすぐ隣に平面鏡 2 枚を配置して 4 光路の中心位置にスタイラスの中心(測定点)がくるよ
うになっている.そのため,プローブにピッチングやヨーイングが生じても測定長は,常にスタイラス中心と干
渉計との間の距離となる.測定におけるばらつきは,0.1 µm 以下であった.本システムでは,プローブスタイラ
ス横にミラーを配置し,測定を行っている.そのため,スタイラス自身の運動誤差ならびに振動,ステージの温
度変化による影響を受けにくい.本システムは,Single-path システムと比べ測定ループが短くなり,安定した測
定が得られている.図4に示すように白金温度センサをステップゲージに片側4ヶ所,合計8個取り付け,被測
定物の熱膨張の補正を行っている.測定室内の温度,気圧,湿度を同時に測定し,エドレンの式[4]を用いてレー
ザ波長の屈折率補正を行っている.実際に KOBA 社製の 20 mm ピッチ,1020 mm までの測定面をもつステップゲー
ジを測定した結果,測定の繰り返し性と再現性が 0.1 µm 以下であった.ステップゲージ校正の拡張不確かさは[5],
2
U = k × 0.162 + (0.22L ) (µm; L:m)であった.k は包含係数で通常2である.
これらの校正技術を適用して,平成12年に基幹国際比較 CCL-K5(ステッゲージとボールバー)に参加した.
この結果はまだ公表されていない.ボールプレートに関してはオーストラリア国立計測研究所(NML),ドイツ物理
工学研究所(PTB),ポーランド標準研究所(GUM)などと個別に持ち回り測定を実施し,校正技術を向上させた.平
成14年4月に基幹国際比較 CCL-K6(ボールプレートとボアプレート)に参加した.
また,平成13年度にステッゲージ,ボールバー,ボールプレート,三次元測定機による任意形状の測定の標
準供給(依頼試験)を開始した.
イ)ステップゲージ専用校正装置の開発
ステップゲージは三次元測定機とレーザ干渉計を組み合わせたシステムでも校正できる.図6に示すように,こ
の干渉式三次元測定の性能を上まわる高精度ステップゲージ専用校正装置を開発した.
38
物理標準の高度化に関する研究
図6 ステップゲージ専用校正装置
測定機の各軸の運動性能を高く保持するために,測定領域の長いテーブル移動方向(Y 軸)に関しては,特に精
度を要求するので門固定型を採用した.ステップゲージの測定に使用する Y 軸は,スムーズな移動と停止時の剛
性を得るために,半浮上式のエアベアリングを使用した.測定用のプローブは,図7に示した
図7 (a)平行板ばね式プローブヘッド.(b)ツイン電気マイクロメータ
(a) 平行板バネ式プローブヘッドと(b)ツイン電気マイクロメータの 2 種類を製作した. (a)のプローブヘッド
は,平行板バネ式により可動できる一軸方向のみの測定に使用する,(b)はツインマイクロメータであり,測定方
向に応じて異なる電気マイクロを使用する,ゲージ測定に影響を与える要因を減らすため,以下の五つの点を改
良した.(1)ゲージ測定に合わせたプローブヘッドを装着する.(2)装置全体を断熱材で覆い,測定機の制御
に使用している空気の流出も抑えている.
(3)熱源となる Y 軸テーブル移動用のモーターは測定機の外部に設置
する.(4)各軸のガイドは空気軸受けを使用し,Y軸は半浮上した状態で移動する.(5)X軸,Z軸の空気軸
受けは,噴出し口をスカートで囲い空気の流出を抑え,空気ゆらぎがレーザ波長に及ぼす影響を抑制している.
この測定機を室内温度 22.14℃の環境下で,標準器に直定規(300mm)
,レーザ測長機,オートコリメータ,精密電
子水準器を用いて装置の運動特性を測定した結果を表1に示す.幾何精度の要求値を十分満たすものであった.
39
物理標準の高度化に関する研究
Y 軸運動の幾何精度
測定値
Y 軸運動のピッチング
0.2[秒]
Y 軸運動のヨーイング
0.2[秒]
Y 軸運動のローリング
0.3[秒]
X 軸運動の幾何精度
X 軸運動の Y 軸方向の真直度
0.544[㎛]
X 軸運動の Z 軸方向の真直度
0.372[㎛]
Z 軸運動の幾何精度
Z 軸運動の X 軸方向の真直度
0.455[㎛]
Z 軸運動の Y 軸方向の真直度
0.750[㎛]
各軸の直角度
X 軸運動と Y 軸運動との直角度
0.6[㎛]
Y 軸運動と Z 軸運動との直角度
0.7[㎛]
X 軸運動と Z 軸運動との直角度
0.5[㎛]
Z 軸方向の位置決め精度
0.018[㎛]
表1 ステッゲージ専用校正装置の運動特性
高精度な測定では熱対策と,空気の揺らぎを押さえることが特に重要となる.測定機を断熱ブースで覆った場
合の効果を測定した.図8に示すように,①測定テーブル上部の5個所,②Z軸のヘッド部に 1 個所,③装置側
部に白金温度センサ貼り付けた.
図8 温度センサの張り付け位置
さらに,④断熱ブース内部温度と,⑤外部温度の測定を行った.周辺温度が1時間あたり 0.1℃上昇したとき,
設備内とZ軸ヘッドの温度も同じ比率で上昇しているが,測定テーブルの温度変化は約 0.015[℃/h] となった.
周辺温度変化の約 1/10 に低減されている.測定機の長時間の動作により,発熱がどの程度か,測定テーブルの温
度上昇を調べた結果,設備内では-0.0058[℃/h],測定テーブルは-0.0045[℃/h]であった.つまり,テーブル
の繰移動を1時間続けた場合の発熱による,測定テーブルの温度上昇はこれら2つの差である 0.0013[℃/h]とい
える.図9に示すように,ステージ上にブロックゲージを設置し,外部の温度を変化したときの,ブロックゲー
ジの温度を測定した.ブロックゲージの温度変化は極めて小さく断熱ブースの効果がよいことが分かる.
40
物理標準の高度化に関する研究
温度 [℃]
20.8
⑤ブース外の空気
20.6
④ブース内の空気
20.4
BG設置台
ブロックゲージ(BG)
③装置側面
20.2
20.0
19.8
0
1
2
3
4
時間 [h]
5
図9 測定テーブル上のゲージの温度変化
ウ)首振り式レーザトラッカの開発
これまでいろいろなタイプのレーザトラッカが提案されてきたが[6],図 10 は新しいアイデアに基づいて開発
したトラッカの心臓部ともいえる首振り式半球ミラーを示している.
小型ミラー
半球
小球
シャンク
X-Y stage Y
X
図 10 首振り式半球ミラー
本ミラーは,半球に小型のミラーを半球の中心とミラー表面が一致するように取り付けたものである.この半
球ミラーを 3 個の小球上に乗せ,その半球にシャンクを取り付け,シャンク先端の小球を V 溝で挟み込み X,Y ス
テージにて駆動すると,半球ミラーは,その中心を常に一定に保ちながらレーザの振り角を自由に変化させるこ
とができる.この機構の採用によって,トラッカの機械的誤差を 1 µm より小さくすることができた.また,500 mm
立方あった大きさを 250 mm 立方に小さくでき,重さは 50 kg から 5 kg と 10 分の 1 に減少させることができた.
測長は,光ファイバを用いたレーザ干渉計(東京精密 DISTAX)を利用することによりレーザ光を容易にトラッ
カ本体に導いている.本体に導かれたレーザ光は,半球ミラーの中心に導かれ,反射し,ターゲットとなるレト
ロリフレクタへと進む.レトロリフレクタで反射した戻り光は,2 分割され,モータ制御のための 4 分割フォトダ
イオードと測長のための干渉計へと導かれる.
レーザトラッキングによる座標測定では,4 台のトラッカを用いて三次元座標を算出する.原理的には,3 台の
トラッカを使用し三辺測量の原理(長さのみを利用,角度は使用しない)から空間の座標値が決定されるが,ト
ラッカの配置位置等のパラメータをあらかじめ知っておく必要がある.そこで,4 台目のトラッカを用いて冗長性
を持たせ,これらパラメータならびに三次元座標値を算出する.
製作した 4 台のトラッカを三次元測定機 CMM(Brawn & Sharpe PMM866P)上に配置し,ターゲットとなるキャ
ッツアイを CMM の Z 軸ラムに取り付け,CMM の座標値とトラッカにより算出される座標値と比較した.CMM は,テ
41
物理標準の高度化に関する研究
ーブル移動方式であるためトラッカは,移動テーブル上に配置する必要がある.キャッツアイは,120 mm 立方内
を 30 mm ピッチで X,Y,Z 方向に移動し,合計 125 点の測定を行った.また,3 辺測量による測定では,トラッカ
の配置が測定精度に影響を及ぼすため,配置を 4 パターン変化させた.図 11 は,4 台のトラッカによる測定の様
子を示している.
図 11 4台のレーザトラッカによる空間座標測定
表2は,CMM 値とトラッカから算出された座標値との差を示している.
Arrangement
1
2
3
4
Max_X
3.05
2.21
3.25
3.14
−Max_X
-3.08
-1.79
-3.74
-2.62
Std Dev._X
1.31
0.86
1.52
1.23
Max_Y
3.31
2.60
3.63
3.80
−Max_Y
-3.28
-2.19
-3.24
-5.56
Std Dev_Y.
1.41
1.04
1.57
1.84
Max_Z
4.32
3.19
2.78
3.58
−Max_Z
-4.67
-3.28
-3.21
-3.53
2.06
1.38
1.20
1.51
Std Dev._Z
表2 三次元測定機とレーザトラッカの比較結果
ここで,Max_X,Y,Z および−Max_X,Y,Z は,それぞれの軸における最大差を示しており,Std Dev._X,Y,Z
は,それぞれの軸における標準偏差を示している.この表から,Arrangement 2 において最も良い結果が得られて
おり,ここでの CMM との差は,最大差で,3.2 µm,標準偏差で 1.4 µm である.もっとも悪い結果である Arrangement
1 の結果においては,最大差で 4.7 µm,標準偏差で 2 µm である.以上の結果から 4 台のトラッカから算出された
座標測定値の誤差は,CMM の幾何学的誤差とほぼ同等の値が得られていることが分かった.
2)平面度標準の高度化
本研究で開発した日本最高平面度干渉計(FUJI)を図 12 に示す.
42
物理標準の高度化に関する研究
図 12 日本最高平面度干渉計(FUJI)
この装置で測定したフラット A の直径に沿った形状を図 13(a)に示している.結果を実証するため,オーストラ
リア国立計測研究所(NML)による測定結果を図 13(b)に示す.図 12(b)のデータは LADI(大口径デジタル干渉計)
という名の平面度干渉計[7]を用いて測定されたものである.
4
3
2
1
0
-1
-2
-3
-4
0
60
120
180
240
図 13(a)平面基準板の二国間比較.産総研の FUJI による測定データ
4
3
2
1
0
-1
-2
-3
-4
0
60
120
180
240
図 13 (b)平面基準板の二国間比較.オーストラリア国立計測研究所の LADI の測定データ
LADI の測定サイズが 250 mm に制限されるので,われわれ測定データの中央部 240 mm 分と比較された.図 13(a)
と(b)のフラット A の平面度は非常によく,直径 240 nm にわたって数ナノメートルと小さいことを示している.
FUJI と LADI によって測定されたフラット B の平面度のプロフィルは peak to valley で 20 nm 程度ある滑らかな
二次曲面を示しているが,二つの測定結果は極めて同じで,測定差は 3 nm より小さい.この事実から二つの装置
による測定の不確かさはλ/100 以下である.
43
物理標準の高度化に関する研究
直径 350 mm,厚さ 100 mm の合成石英製オプティカルフラットの場合,合成石英のポアソン比,ヤング率,密度
のデータを用いて理論計算から中央部が約 30 nm たわむことが計算で求められる.そこで,オーストラリア NML
に対して,中央部で最大凹み 30 nm で周縁になるにつれ凹み量が小さくなるように研磨を依頼した.平面度干渉
計にこの基準板をセットする場合は凹形状を下側にするため,ちょうどたわみ量と重力がバランスし水平になる.
測定結果を図 14 に示す.軸対称で研磨されていることがわかる.図 14 の X 軸断面曲線(図 15)および Y 軸断面
曲線(図 16)から二次曲線に研磨されていることが確認できる.
図 14 重力たわみを考慮した凹平面基準板の平面度測定
図 15 X軸断面曲線
図 16 Y軸断面曲線
設計値と実際の測定値はλ/300 (2 nm)程度で一致することを示している.さらにオーストラリア NML の測定と
の同等性も認められた.
3)段差標準の高度化
44
物理標準の高度化に関する研究
従来,縞走査法を利用した光学的表面形状測定は,再現性は非常に良いとされてきたが,光の斜入射効果の問題
や干渉縞の状態等,測定の初期条件の問題により測定高さの絶対値は必ずしも小さな不確かさを保証されていな
かった.本装置の最大の特徴は,図2におけるステップ1の基本スケールの校正とステップ2の縞走査法による
三次元表面形状測定を一つの装置で実現することにより,測定高さの絶対値の不確かさを高精度としたものであ
る.具体的な優位点を挙げると,
①干渉縞間隔を 10 縞程度測定し平均することにより,干渉縞間隔決定の多くの不確かさ要因を 1/10 程度に低減
できた.
②カメラのビニング,インターフェログラムの一部利用(図2インターフェログラムの赤線部分のみ利用)等の
改良により測定を高速化し,干渉縞間隔の測定精度を上げた.
③懸垂型のステージ(図 17)を利用することにより縞走査法における大きな不確かさ要因である振動の影響を小
さくし,サブ nm 以下の繰り返し再現性を得た.
④縞走査法において,基本的な 5 バケットアルゴリズムを採用することによって縞走査法の位相計算における不
確かさ要因を実験的に明らかにした.本装置の核となる装置部分の写真を図 17 に示す.
図 17 懸垂型ステージ
称呼値 20 nm の段差測定例を図 18 に,そのX断面プロフィルを図 19 に示す.
図 18 段差の国際比較における称呼値 20 nm 段差標準片の三次元像
図 19 20 nm 段差標準片のX断面曲線.測定の不確かさは 0.13 nm
45
物理標準の高度化に関する研究
最終的な研究成果として,λ/4 以下の段差校正における干渉縞間隔の校正,焦点合わせ,段差計算アルゴリズ
ム,位相計算誤差等の不確かさを実験的,理論的に解析し,不確かさの budget 表を作成した.拡張不確かさ[5]
としてまとめると, U = k × 0.2242 + (0.00195SH ) (k は包含係数で通常2,SH in nm)である.また,この
2
値を検証するために段差の CCL 基幹予備国際比較 NANO2 に 2001 年 6 月に参加した.称呼値 20 nm の段差測定に関
して,当室の干渉計搭載型原子間力顕微鏡装置と比較した結果,図 20 に示すように不確かさの範囲で一致するこ
とを確認できた.
Step height (nm)
NANO2 (SH20)
22
21.8
21.6
21.4
21.2
21
20.8
20.6
20.4
20.2
20
20.75
AFM
20.57
IM
図 20 段差の国際比較で三軸干渉計搭載型原子間力顕微鏡(AFM)と顕微干渉計(IM)で測定した結果
なお,最終的な測定結果についてはまだ公表されていない.2002 年4月から微小段差の依頼試験を開始した.
考
察
1)三次元形状標準
三次元測定機と干渉計を組み合わせた各種ゲージの校正システムは,高精度化を実現できたので,その測定精
度は欧米先進国の標準研究所のそれに比べ同等もしくはそれ以上である.三次元測定機は基本的には接触式プロ
ーブを用いている.検出機構の改善,プロービング時の測定球の変形,シャンクのたわみ量の見積もりなど,測
定の不確かさ要因が多い.今後これらの研究をする必要がある.
次世代三次元座標標準を目指して開発した小型・軽量で高精度レーザ追尾干渉計の性能は,現在最高性能を有
する三次元測定機と比較しても遜色ない.座標標準の確立にとどまらず,自動車産業における車体の形状測定,
航空機産業におけるタービンブレードの形状測定,ロボットアームの運動特性評価,大型構造物の形状測定など
への応用分野が広がる.開発した装置のレーザ光源が He-Ne レーザで,干渉計にファイバーで光を導入している
が,この部分を LD レーザなど一体構造にすれば取り扱いが非常に容易である.さらに,空気の屈折率の補正を実
時間で実現するためには波長の異なる複数のレーザを備えることも将来の研究課題として残っている.
2)平面度標準の高度化
絶対平面を実現する方法として,液体の表面を用いる方法と三枚の同一形状のオプティカルフラットを相互比
較して数学的に絶対平面を算出する三枚合わせ法がある.それぞれ一長一短があるが,この装置では後者を採用
した.3枚製作したオプティカルフラットは合成石英製で,全て同一形状のものである.直径 350 mm であり,自
重によるたわみを小さくするため 100 mm と厚く,重さは約 25 kg である.この場合,重力によるたわみ量は 25 nm
程度あり,それゆえ保持方法は極めて重要である.基準板の直径よりわずかに大きいアルミニウムリングを製作
し,リングと基準板との間を36箇所スポット接着している.この接着法による変形は,有限要素法を利用して
解析し,その結果を用いて補正する必要がある.
46
物理標準の高度化に関する研究
平面度測定は微小角度の測定からも求めることができる.測定手法の違いによる同等性を確認するための国際
比較の意義は大きい.また,試作器に組み込んだ,波長走査光源を利用して,今後,稼働部がなく,より高精度
な測定が期待できる波長走査による縞走査法も行っていきたい.
3)段差標準の高度化
本研究のスキームにおける顕微干渉計による段差校正は,非接触で三次元表面形状から段差の値が求められる
ため,光学式,触針式,走査プローブ方式等,各種の表面形状測定器の校正用段差試料の校正装置として有望と
考えられる[8][9].特に古くからのデータの蓄積と使用実績のある触針方式と最近進歩のめざましい走査プロー
ブ方式では,走査範囲に大きな隔たりがあり,各種倍率で測定できる顕微干渉計はその間を埋めることができる.
その意味で顕微干渉計による狭い幅を持った段差パターンを測定する必要がある.20x のミラウ型対物レンズを使
用した測定では,30μm 程度の幅を持つ段差試料が正確に測定できることが確認されている.より狭い幅を持った
パターンの測定を目的として,50x の不確かさ要因を解析中である.その際問題となるのが,ステップ1(干渉縞
間隔決定)における焦点位置による干渉縞間隔の均一性である.λ/4 以下の段差を測定する場合,不確かさとし
ては大きくないことを,理論的・実験的に確認している.しかしながら,現在,より干渉縞間隔測定の精度を向
上させ,干渉縞間隔の不均一性の定量化を行っている.また,半導体製造の高集積化,微小光学素子,X線光学
素子の開発に伴い,10 nm 前後の極微小段差の校正も重要である.本装置で 10 nm 前後の極微小段差を測定する場
合,参照鏡の微小なうねりや粗さを無視することができない.顕微干渉計の仮想的なシステムエラー(主な要因
は参照鏡のうねりや粗さ)を取り除く試みを行っている.
引用文献
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Guideline for the DKD-calibration of test plates in the form of ball plate and bore plate,
PTB(1992)draft.
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精密工学会
産学共同研究協議会
究協力分科会,
超 LSI デバイス・プロセスの機械的プラナリゼーション加工に関する研
“超 LSI デバイス・プロセスの機械的プラナリゼーション加工に関する研究協力分科会
成
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[9]
J. M. Bennett ed., “Surface finish and measurement PART1”,
DC), pp. 169-295 (1992).
成果の発表
47
(Optical Society of America: Washington
物理標準の高度化に関する研究
1)原著論文による発表
ア)国内誌(国内英文誌を含む)
1.
1. S. Osawa, T. Takatsuji, T. Kurosawa and Anna Kapinska-Kiszko: Joint
experiments on the calibration
of the ball-plate by Poland and Japan,Bulletin of NRLM,Vol.49, No.4 (No.208), pp.609-612, 2000
2.
大澤尊光,高辻利之,黒澤富蔵:幾何学ゲージの持ち回り比較の問題ーボールプレート二国間比較を通してー,精密
工学会誌,Vol.67, No.2, pp.256-261, 2001
3. S. Yadav, J.Matsuda and L.P.L. Chitarage, Studies on Uncertainty Evaluation in Straightness Measurement,
J. Robotics and Mechatronics, Vol.13, No.6, pp.643-650, 2001
4.
大澤尊光,高辻利之,黒澤富蔵, ステップゲージ校正用干渉式三次元測定機の開発,精密工学会誌,Vol.68, No.5, 2002
イ)国外誌
1.
T. Takatsuji, M. Goto, A. Kirita, T. Kurosawa and Y. Tanimura: Relation-ship between measurement error and
the arrangement of laser trackers in laser trilateration, Measurement Science & Technology,Vol.11, No.5,
pp.477-483, 2000
2.
T. Takatsuji, S. Osawa and T. Kurosawa, Uncertainty analysis of calibration
of geometrical gauges, Precision
Engineering, Vol.26, No.1, pp.24-29, 2002
3.
K. Hibino and T. Takatsuji, Suppression of Multiple-Beam Interference Noise in Testing an Optical-Parallel
Plate by Wavelength-Scanning interferometry, Optical Review , Vol.9, No.2, pp.60-65, 2002
4. H. Jiang, S. Osawa, T. Takatsuji, H. Noguchi and T. Kurosawa, A High-Precision Laser Tracker Using an
Articulating Mirror for the Calibration of Coordinates Measuring Machine, Optical Engineering, Vol.41, No.3,
pp.632-637, 2002
5.
S. Osawa, T. Takatsuji, H. Noguchi and T. Kurosawa A New Artifact for Ball-plate Calibration, Precision
Engineering, Vol.26, No.2, 2002
2)原著論文以外による発表(レビュー等)
ア)国内誌(和文)
1.
高辻利之,大澤尊光:幾何学量の標準,O plus E, Vol.22, No.6, pp.700-704, 2000
2.
大澤尊光,高精度小型レーザ追尾干渉計 ― 次世代三次元標準の確立 ―,AIST Today, Vol.1, No.7, p.12, 2001
イ)国際誌(欧文)
1.
T. Kurosawa and Y. Tanimura: CURRENT ACTIVITIES OF DIMENSIONAL MEASUREMENTS IN NATIONAL METROLOGY INSTITUTE
OF JAPAN (NMIJ), Proc. of Vth International Science Conference Coordinate Measuring Technique, pp.185-196,
April 25-27, 2002, Bielko-Biala, Poland
3)口頭発表
ア)応募・主催講演等
1.
土井琢磨,光学的段差測定における開口数の影響,光計測シンポジウム 2000,パシフィコ横浜,2000 年 6 月
2. S. Osawa, T. Takatsuji and T. Kurosawa: Development of a New Artifact to Calibrate a Ball Plate, Proc. IMEKO
2000, pp.221-226, International Measurement Coffederation XVI IMEKO World Congress, 25-28 September 2000,
Hofburg, Wien, Vienna, Austria
3. 大澤尊光,高辻利之,黒澤富蔵:幾何ゲージ持ち回り比較の問題,2000 年度精密工学会秋季大会学術講演会
4. 高辻利之,植木伸明,日比野謙一,大澤尊光,黒澤富蔵:大口径平面度干渉計の製作て,2000 年度精密工学会秋季大
48
物理標準の高度化に関する研究
会学術講演会
5. 大澤尊光,高辻利之,黒澤富蔵:ボールバー校正法と不確かさ,2001 年度精密工学会春季大会学術講演会
6. 高辻利之,植木伸明,日比野謙一,大澤尊光,黒澤富蔵:大口径平面度干渉計を使った三枚合わせ法による測定,2001
年度精密工学会春季大会学術講演会
7. T. Doi, and T. Kurosawa: Accurate optical surface profilometer based on Mirau-type interferometric microscope,
Proc. of the euspen, pp.462-465, 2nd International Conference, european society for precision engineering
and nanotechnology, May 27th-31st, 2001 Turin, Italy
8.
T. Takatsuji, N. Ueki, K. Hibino, S. Osawa, T. Kurosawa: Japanese ultimate flatness interferometer (FUJI)
and its preliminary experiment, Proc. SPIE Vol.4401, pp.83-90, SPIE The International Symposium on Lasers
in Metrology and Art Conservation (Recent Developments in Traceable Dimensional Metrology), 18-22 June 2001,
Munich, Germany
9.
S. Osawa,T. Takatsuji, Jiang Hong. H. Noguchi, T. Kurosawa: Evaluation of performance of a novel laser tracker
used for coordinate measurements,Proc. SPIE Vol.4401, pp.127-135, SPIE The International Symposium on Lasers
in Metrology and Art Conservation (Recent Developments in Traceable Dimensional Metrology), 18-22 June 2001,
Munich, Germany
10. 日比野謙一,高辻利之,大澤尊光,黒澤富蔵,植木伸明:大口径絶対平面の干渉計測,日本光学会(応用物理学会)
,
第26回光学シンポジウム,2001.6.21-22
11. 黒澤富蔵:長さ関連量標準の高度化,2001 分析展同時開催行事産業技術総合研究所セミナー「分析・計測を支える知
的基盤技術 —物理標準と標準物質」
,2001 年 9 月 7 日,幕張メッセ国際会議場(千葉)
12. 大澤尊光,高辻利之,Jiang Hong,野口宏徳,黒澤富蔵:首振り式レーザとラッカによる座標測定,2001 年度精密工
学会秋季大会学術講演会
13. 今澤宣幸(浅沼技研)
,大澤尊光,高辻利之,野口宏徳,黒澤富蔵:高精度ステップゲージ測定機の開発,2001 年度
精密工学会秋季大会学術講演会
14. 高辻利之,植木伸明(富士写真光機)
,日比野謙一,大澤尊光,黒澤富蔵:大口径平面度干渉計の2国間比較,2001
年度精密工学会春季大会学術講演会
15. 土井琢磨,黒澤富蔵:長さ標準にトレーサブルな顕微干渉計の製作と性能,第 62 回応用物理学会秋季学術講演会,
2001
16. K. Hibino, T. Takatsuji, S. Osawa T. Kurosawa: Wavefront sensing of a rear surface reflection through a
transparent media suppressing multipl-beam interference effect, Advanced Photonic Sensors and Applications
Ⅱ, Arand K. Asundi, Wolfgang Osten, Vijay K. Varadam Editors, Proc. of SPIE, Vol.4596(2001)pp.150-157, 27-30
November 2001, Singapore
17. 今澤宣幸(浅沼技研)
,大澤尊光,野口宏徳,高辻利之,黒澤富蔵:高精度ステップゲージ 測定機のプロービングと
環境の評価,2002 年度精密工学会春季大会学術講演会
18. 大澤尊光,高辻利之,黒澤富蔵:2次元幾何ゲージの校正とその不確かさ,2002 年度精密工学会春季大会学術講演会
19. 土井琢磨,黒澤富蔵:顕微干渉計による微小段差校正における不確かさ要因,第 49 回応用物理学会春季学術講演会,
2002
20. 黒澤富蔵:長さ関連量の標準整備の動向,第 20 回国際計量計測展同時開催物理標準セミナー,2002 年 4 月 11 日,東
京ビックサイト会議棟6階
21. T. Doi, and T. Kurosawa: Accurate surface profilometer using interferometric microscope with high
magnification objective, Proc. of the euspen 3nd International Conference, european society for precision
engineering and nanotechnology, May 26th-30th, 2002, Einthoven, The Netherlands
49
物理標準の高度化に関する研究
4)特許出願等(出願年月日,出願の名称,出願者氏名等,特許等番号)
1.
平成12年5月26日,”光学素子の姿勢及び位置調整装置”,
(発明者)高辻利之,大澤尊光,野口宏徳,黒澤富蔵,
(出願者)工業技術院長,特許3069699号
2.
2000.12.29,“LASER TRACKING INTERFEROMETRIC LENGTH MEASURING INSTRUMENT AND METHOD OF MEASRING LENGTH AND
COORDINATES USING THE SAME”,(発明者) S. Osawa, T. Takatsuji, T. Kurosawa, H. Noguchi and Jiang Hong,(出
願者)工業技術院長,
(出願番号)09/749,950(アメリカ)
3.
2000.12.29, “BALL STEP GAUGE”, (発明者)T. Takatsuji, S. Osawa, T. Kurosawa and H. Noguchi,
(出願者)工
業技術院長,
(出願番号)10081572.3(ドイツ)
,
(出願番号)09/720,793(アメリカ)
50
物理標準の高度化に関する研究
1. 長さ関連標準の高度化に関する研究
1.2. 三次元幾何計測標準の確立技術に関する研究
1.2.2. パラレル三次元測定機の研究
東京大学工学系研究科
高増
要
潔
約
現行の三次元座標測定機は,機械部品の三次元的な寸法および幾何形状を測定する測定機として不可欠な存在と
なっている.このため,三次元座標測定機は広範囲に普及しているが,測定精度,測定の自由度,測定時間など
対して限界が生じつつある.この限界を超えるため,小型軽量かつ高速動作を特長とするパラレルリンク機構を
有する三次元座標測定機「パラレル三次元測定機」を考案した.このパラレル三次元測定機は,次世代の三次元測
定機として期待されているが,設計,要素技術,校正方法などの技術的な課題がある.本研究では,このような
技術課題を解決し,パラレル三次元測定機の実用化を可能とするための技術開発を行う.
研究目的
小型軽量かつ高速動作を特長とするパラレルリンク機構を有する三次元座標測定機(パラレル三次元測定機)を
試作し,その特性を明らかにすると同時に,パラレル三次元測定機の実用化に必用とされる基礎技術を確立する
ことを目的としている.
目的に添って,以下の開発を行った.各年度の目的は以下の通りである.
1)平成 12 年度
前年度までに,製作したパラレル三次元測定機の精度を評価するために,まず,制御系および測定系の評価を
行った.さらに,実用化および標準化に必要なパラレル三次元測定機の校正方法の理論的な検討を行うため 2 自
由度パラレル機構の校正実験を行った.その結果に基づき,パラレル三次元測定機の校正シミュレーションを行
い,実験によりその効果を確認した.
2)平成 13 年度
製作したパラレル三次元測定機の高精度化と校正方法の検討を行った.まず,高精度精度化のために,プロト
タイプのリニアアクチュエータなどを交換した.つぎに,パラレル三次元測定機の校正シミュレーションを行い,
実験によりその効果を確認した.
研究方法
上記の目的を達成するために,以下の 4 つの研究方法に沿って研究を実施した.
1)プロトタイプの評価
プロトタイプの評価を行うため,測定機として稼動できるように,制御系および測定系を製作し,動作および
51
物理標準の高度化に関する研究
繰り返し精度を評価する.
2)プロトタイプの高精度化
プロトタイプの精度向上のための問題点を検討し,高精度化した新しいプロトタイプを製作する.
3)校正方法の検討
まず,理論的な検討を行い,その実証のために 2 自由度パラレル機構の校正を行う.その結果に基づき,パラ
レル三次元測定機の校正方法を検討する.
4)校正実験の実施
パラレル三次元測定機に対して,理論に基づいた校正実験によりその効果を確認する.
研究成果
1)第 1 期の成果
ア)基本方式の決定
第1期において,パラレル三次元測定機の基本方式を決定した.表 1 は,パラレルメカニズムと一般的なシリ
アルメカニズムとの比較である.この表に示すように,位置誤差,出力,剛性,慣性力においてパラレルメカニ
ズムに長所がある.
比較項目
パラレルメカニズム
シリアルメカニズム
作業領域
小さい
大きい
順運動学
解析困難
解析容易
逆運動学
解析容易
解析困難
位置誤差
全アクチュエータの誤差の平均
各アクチュエータの誤差の累積
最大出力
全アクチュエータの出力が加算
最小力のアクチュエータに制限
剛性
高い
低い
慣性力
小さい
大きい
動力学
非常に複雑
複雑
表 1.パラレルメカニズムとシリアルメカニズムの比較
パラレル三次元測定機の方式として種々の機構構成を検討し,図 1 に示す 3 組のパラレルリンク機構を用いた 3
自由度のパラレル機構が適していると結論付けた.
図 1.パラレル三次元測定機の基本構成
52
物理標準の高度化に関する研究
イ)プロトタイプ 1 およびプロトタイプ 2 の設計と製作
プロトタイプを設計するために,この機構の順運動学を解析した.一般的なパラレルメカニズムの順運動学は
解析が難しいが,このシステムは 3 自由度にすることで順運動学解析を容易にしている.プロトタイプの設計お
よび運動学解析の結果,球面軸受の精度が測定の精度に大きく影響することが分かった.そこで,2 つのプロトタ
イプの製作を行うこととした.まず,プロトタイプ 1 のパラレル三次元測定機には,従来のボール軸受を組合せ
た 2 自由度回転軸受を用いた.
(図 2)つぎに,プロトタイプ 2 のパラレル三次元測定機(図 3)に対しては新し
いタイプの球面軸受を使用するため,その開発を行った.2 つのプロトタイプの寸法はほぼ同じで,各軸 2 本の腕
の長さが約 300 mm である.
図 2.プロトタイプ 1:2 つのボール軸受で 2 自由度回転軸受を構成している.
図 3.プロトタイプ 2:磁気球面軸受を使用している.
ウ)磁気球面軸受の開発
新しいタイプの球面軸受としては磁石を用いた軸受の開発を行った.図 4 に示す磁気球面軸受は,高精度な鉄
球(ベアリングボール)を運動学的に 3 ヶ所で位置決めする.
53
物理標準の高度化に関する研究
図 4.開発した球面磁気軸受の構成
さらに,軸受内部に強力な希土類磁石を置きその磁力で鉄球を支えるものである.これは,理論的には鉄球の
形状精度程度の精度が期待でき,ガタのないスムーズな軸受になることが期待される.
2)プロトタイプの評価
ア)制御系および測定系の製作
製作したプロトタイプの基本性能を評価するために,図 5 に示すように,DC モータの制御システムおよびレニ
ショー社のタッチトリガープローブ(TP200)による測定システムを製作した.このシステムでは,DC モータのエ
ンコーダにより位置決めを行っている.
図 5.プロトタイプ評価のための制御・測定システム
プローブが測定物に接触すると,TP200 からの信号を PI200 が受けてコンピュータに割り込みをかける.この割
り込みで DC モータの位置を読み取ることで測定位置を計算している.
イ)プロトタイプ 2 の評価
以上のシステムを利用して,プロトタイプ 2 のパラレル三次元測定機の制御を行い,基本的な制御が可能なこ
54
物理標準の高度化に関する研究
とを確認した.さらに,繰り返し精度の評価実験を行い,繰り返し精度がマイクロメータのオーダであることを
確認した.プロトタイプ 2 では,エンコーダの分解能が低いこと,リニアガイドの精度が悪いことからこれ以上
の精度向上が難しいことが分かった.
また,2 つのプロトタイプの比較では,動作スピード,繰り返し精度ともプロトタイプ 2 が優れていて,開発し
た磁気球面軸受の優秀性を実証することができた.
3)プロトタイプの高精度化
プロトタイプの評価で問題となった点を改良するため,プロトタイプ 3 を製作した.図 6 に示すプロトタイプ 3
は,エンコーダに絶対測長可能なリニアエンコーダを用い,リニアガイドに高精度タイプを用いた.このような
改造により,プロトタイプ 3 は,高精度の絶対位置決めが期待できる.
図 6.プロトタイプ 3:高精度化したパラレル三次元測定機
4)校正方法の検討
ア)2 次元パラレル機構の校正
図 7 は,2 次元パラレル機構である.パラレル機構の校正方法を理論的に検討し,その実証のために,2 次元パ
ラレル機構を用いた.図 8 はその機構モデルで,非常にシンプルなモデルとなっている.
図 7.2 次元パラレル機構(ヒーハイスト精工社製)
55
物理標準の高度化に関する研究
(xe, ye)
Y
P1
P2
L1(x1)
L2(x2)
X
図 8.2 次元パラレル機構の機構モデル
いくつかの理論的な検討の結果,誤差行列を考慮した最小二乗法による校正がうまく機能することが分かった.
また,このことを実験によって実証した.
イ)パラレル三次元測定機の校正方法
パラレル三次元測定機を校正するために,2 次元パラレル機構と同様の理論的な解析を行った.図 9 は,パラレ
ル三次元測定機の機構モデルである.非常に多くのパラメータが校正に必要となっているのが分かる.
図 9.パラレル三次元測定機の機構モデル
表 2 は,パラメータの数の機構モデルの関係を示している.
機構モデル
パラメータ数
仮想リンクモデル
9個
姿勢変化モデル(値付け・補正なし)
39 個
姿勢変化モデル(値付け・補正あり)
16 個
表2
パラレル三次元測定機のパラメータ数
機構モデルを単純にして,仮想的なリンクとして扱うことでパラメータの数を 9 個にできる.しかし,このモ
デルでは,各リンクの長さに違いがあったりすると,正しい校正が行えない.一方,姿勢変化モデルでは,実際
の機構をきちんとモデル化できるが,パラメータの数は 39 個となる.また,このように多くのパラメータを含む
モデルを最小二乗法で解くと,パラメータ間の相関が高くなり校正時の測定誤差が校正結果に大きく影響するよ
うになる.
そこで,磁気球面軸受の取り外し可能という特徴を生かして,取り外して測定可能なパラメータの多くを一般
56
物理標準の高度化に関する研究
的な高精度三次元測定機を用いて,直接測定した.この値をモデルに代入することで,モデルのパラメータ数を
減らすことができる.ここでは,23 のパラメータの値付けを行い,校正するパラメータを 16 個に減らすことがで
きた.
5)校正実験の実施
ア)三次元測定機による校正
理論的な校正方法の検討の結果から,一般的な高精度三次元測定機を利用して,パラレル三次元測定機の校正
を行った.図 10 は,校正の様子である.パラレル三次元測定機を一般的な三次元測定機に乗せ,パラレル三次元
測定機のテーブルに置いた球の中心座標を測定することで,校正を行っている.
図 10.三次元測定機を利用したパラレル三次元測定機の校正
図 11 は,校正前後での誤差の表示である.校正前には,平均して 490 µm の誤差があったが,校正後には,3.3
µm の誤差となり実用的に充分な精度で校正が行えた.
図 11.校正実験の結果
57
物理標準の高度化に関する研究
イ)アーティファクトによる校正
三次元測定機による校正で,実用的に充分な精度で校正が行えたが,高精度の三次元測定機がないと,校正で
きないのでは,コストなどの面で問題となる.図 12 は,校正されたアーティファクトを利用したパラレル三次元
測定機の校正方法である.この実験では,まだ充分な精度で校正できていないが,将来的には,このようなアー
ティファクトでの校正方法を確立する必要がある.
図 12.アーティファクトを利用したパラレル三次元測定機の校正
考
察
パラレルメカニズムを利用した三次元測定機のプロトタイプを設計,試作しその実用性を確認できた.特に,こ
の研究で開発した球面磁気軸受は非常に高精度で,複雑なパラレルメカニズムでも高精度な動作を可能にした.
また,簡単な制御システムと測定システムを整備し,基本性能が評価できた.このことで,当初の目標はほぼ達
成できた.
しかし,実用化に向けて,高精度な測定を行うためには,機構の校正が非常に重要である.現在,校正方法の基
礎的な検討が行い,三次元測定機を用いた校正実験では,実用的に充分な校正精度(3.3 µm)が達成できた.し
かし,パラレル三次元測定機のコスト,大型化などを考えると,アーティファクトを用いた校正などの新しい,
手軽な校正方法を確立する必要がある.
成果の発表
1)原著論文による発表
ア)国内誌
1.
阿部誠,高増潔,大園成夫,座標比較による CMM 校正システムの開発(第 1 報)−試作システムの構成とその基本的
な評価−,精密工学会誌,67(4),2001,638-643
2.
阿部誠,高増潔,大園成夫,座標比較による CMM 校正システムの開発(第 2 報)−校正の信頼性の統計的な評価−,
精密工学会誌,67(6)
,2001,976-981
58
物理標準の高度化に関する研究
イ)国外誌
3.
J.Lenarcic, G.Olea, K.Takamasu et al.,Advances in Robot Kinematics,Kluwer Academic Publishers,2000,
pp.403-410
2)原著論文以外による発表(レビュー等)
1.
高増潔,バーチャル三次元測定機,計測と制御,40(11)
,2001,801-804
2.
高増潔,三次元測定機の不確かさ推定方法とその国際規格化,機械と工具,45(3)
,2001,66-70
3)口頭発表
1.
G. Olea, M. Hiraki, K. Takamasu, S. Ozono,Kinematics Analysis, Simulation and Design of a Parallel Mechanism
with R-L Actuators,Proc. Parallel Kinematic Machines Int. Conf. 2000, 2000,pp.297-305
2.
石川博隆,佐藤理,平木雅彦,高増潔,大園成夫,パラレルメカニズムを用いた三次元測定機の校正―校正に用いる
測定点の配置―,2001 年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集,2001,p.I06
3.
佐藤理,平木雅彦,高増潔,パラレルメカニズムを用いた三次元測定機の開発(第 2 報)
,第 18 回日本ロボット学会
学術講演会予稿集 No.3,p.348
4.
G. Olea, M. Hiraki, K. Takamasu, S. Ozono,Kinematics Analysis of a Parallel Mechanism,第 18 回日本ロボ
ット学会学術講演会予稿集 No.3,p.350
5.
O. Sato, M. Hiraki, K. Takamasu and S. Ozono, Calibration of 2-DOF Parallel Mechanism, ICPE2001(横浜,7
月)
6.
Gheorghe Olea, Kiyoshi Takamasu, Shigeo Ozono, Spatial Parallel Mechanism with2DOF L-L Actuators, ISR2001
(ソウル,4 月)
7.
佐藤理,石川博隆,高増潔,平木雅彦,パラレルメカニズムを用いた三次元測定機の校正(第 3 報)−校正用非対称
リンクセット−, 2002 年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集(東工大)
8.
無類井格,高増潔,G. Olea,佐藤理,石川博隆,原田明達,パラレルメカニズムを用いたマイクロフライス盤の開
発,2002 年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集(東工大)
9.
下嶋賢,古谷涼秋,平木雅彦,大園成夫,高増潔,3 次元測定機の不確かさ推定に関する研究ーパラレル型,多関節
型,CMM の幾何学誤差の算出−. 2001 年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集(大阪大)
10. 佐藤理,石川博隆,平木雅彦,高増潔
,パラレルメカニズムを用いた三次元測定機の校正−設置パラメータ
の同定−, 2001 年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集(大阪大)
11. 梅津健太,古谷涼秋,大園成夫,高増潔,三次元測定機の幾何誤差推定とその不確かさ,2001 年度精密工学会秋季大
会学術講演会講演論文集(大阪大)
12. 石川博隆,佐藤理,平木雅彦,高増潔,大園成夫,パラレルメカニズムを用いた三次元測定機の校正―校正に用いる
測定点の配置―,2001 年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集(都立大)
59
物理標準の高度化に関する研究
1. 長さ関連標準の高度化に関する研究
1.2. 三次元幾何計測標準の確立技術に関する研究
1.2.3. 段差標準片の創製技術の研究
東京工業大学精密工学研究所
初澤
要
毅
約
微小形状測定機の校正に用いる標準参照試料として,シリコン単結晶の結晶面を基準とした基準片を創生する
技術を開発するともとに,その測定方法について検討してきた.製作方法についてはシリコンウェハを素材とし,
結晶面を参照試料の幾何基準とする異方性エッチングを用いた方法をⅠ期で開発した.Ⅱ期では引き続きこの技
術を完成させるとともに,基板を加振することにより高アスペクト比エッチングを行うことができるプラズマエ
ッチングの効果について実験的検討を行う.また,非破壊で微小形状を測定するためのセンサ技術して,表面を
周期的に叩きながら情報を取り込むことが出来るタッピングスタイラスによる計測系の完成を目指す.
研究目的
機械工業分野において表面加工の機能性評価のために用いられる高倍率触針式表面粗さ測定器や,表面科学技
術分野において原子レベルの微細形状を測定するための走査型プローブ顕微鏡などの,高さ方向の倍率校正およ
び走査の線形性を評価するための標準参照試料である段差標準片の創製技術,非破壊測定技術を開発する.
研究方法
1)異方性エッチングによる段差形成技術
シリコン単結晶の異方性エッチングにより段差基準を創製する技術の完成を目指す.Ⅱ期では,マイクロピラ
ミッドの形成を押さえるエッチング方法について検討する.
2)タッピングスタイラスによる表面形状の測定技術
触針式の表面計測装置と走査型プローブ顕微鏡の特性を併せ持つ表面計測用センサとして,周期的に表面をた
たくことにより引っかき力を大幅に低減させたタッピングスタイラスによる測定系を完成し,段差測定系を実現
する.
3)基板加振式プラズマエッチング装置の開発
基板をプラズマ中で加振することにより中性ラジカルへの相対運動を増加させ,エッチングに異方性を持たせ
ることが出来るプラズマエッチング装置を開発し,加振の有効性について実験的に検証を行い,段差試料の作製
法として応用可能性を探る.
60
物理標準の高度化に関する研究
研究成果
1)異方性エッチングによる段差形成技術
シリコンタン化粧の異方性エッチングにより段差基準片を創製する技術の完成を図った.Ⅰ期に開発した方法
により段差の創製法はほぼ確立したので,表面の平滑化手法を開発した.従来,マイクロピラミッド現象により
エッチング表面が荒れる傾向があったが,シリコンウェハ洗浄用の界面活性剤(WAKO:NCW-601A)をエッチング液
にごく少量(100ml の KOH に対してスポイトで 5 滴)添加することと,従来より低温の60℃でのエッチングによ
り,表面粗さが 1/10 以下(Ra=0.48μm→0.04μm)に改善されることが分かった.図1,2を比較すると,界面
活性剤無しでは段差底面の粗れが目立つが,界面活性剤の不可により滑らかな底面形状が得られていることがわ
かる.
図1.段差試料(界面活性剤無し)
図2.段差試料(界面活性剤有り)
これより段差片創製時に界面活性剤を添加すれば,際待て平滑な段差基準片を製作可能なことが示され,段差
片創製技術が確立した.
2) タッピングスタイラスによる表面形状の測定技術
表面に傷をつけにくい計測法としてマイクロフォークによるタッピングスタイラスをもちいた測定系の完成を
目指した.完成したシステムの外観を図3に示す.直流モータを用いた粗動ステージにより13×13×10
mm(分解能 1μm,速度5∼100μm/s),ピエゾ素子を用いた微動ステージにより60×60×15μmの移動が
可能である.
図3.完成したタッピングスタイラス系
本測定系の構成は,図4のようである.
61
物理標準の高度化に関する研究
図4.測定系の構成
マイクロフォークに取り付けられた圧電素子から得られた検出信号は,ロックインアンプに入力され,振幅を
表す直流電圧 V S に変換される.V S はアナログ PI コントローラに入力され,制御の目標電圧 V OB を元に制御
電圧 V C が z ステージ駆動用ピエゾアクチュエータのコントローラに出力され,マイクロフォークの高さ制御が
行われる.x ,y ステージは,パーソナルコンピュータの命令によって目的の領域をラスタ走査するように移動
する.x ,y ,z ステージはいずれも歪みゲージによって線形補償されたピエゾアクチュエータによって駆動し,
パーソナルコンピュータによってそれぞれの歪みゲージの出力電圧を取り込んで x ,y ,z 軸方向のデータを組
み合わせによって,試料表面形状を得ることができる.試料表面の形状計測を行う走査速度は,マイクロフォー
クの設定振幅が±1.0%以内に入るように設定した.
測定装置の性能を検証するため,タッピングスタイラスによる回折格子の計測結果(図5)と AFM による回折格
子の計測結果(図6)を用いて,本測定装置に対する評価を行った.
図5.タッピングスタイラスでの回折格子測定
図6.AFM での回折格子測定
図5と6の計測結果において,計測結果を立体表示すると,AFM では広い領域にわたって回折格子の形状を計
測可能である.計測結果の一部の断面を表した断面図では,表1 のようにブレーズ角(右側斜面)の大きさは,回
62
物理標準の高度化に関する研究
折格子の公称値である 28 ゜41 ’とほぼ等しい値で計測されている.
表1.AFM との比較測定データ
ところが,各谷間の距離(ピッチ)を列挙した表2では,タッピングスタイラスではどの谷間の距離もほぼ等
しい距離で計測されているのに対し,AFM では,計測において x が大きくなるに従って,その距離が小さくなっ
ていることがわかる.
表2.ピッチの比較
これは,AFM では微動ステージ駆動用のピエゾアクチュエータのヒステリシスを係数によって補正しているた
め,システム起動からの時間や環境によってピエゾへの供給電圧と移動量との間に線形関係が成立しないためで
あると考えられる.
計測された回折格子の高さでの比較を行うと,AFM で計測したデータが特に低く計測されることがわかる.AFM
での計測では,プローブの側面が試料に接触し,プローブがパターンの谷底まで達していないことが考えられ,
計測データがもっとも小さくなるためと考えられる.AFM のプローブは頂角が 90 ゜程度の 4 角錐であるため,
AFM を用いて機械加工面などステップ形状を持つ試料の形状計測では注意が必要である.タッピングスタイラス
での計測結果中の一転鎖線は,傾きが-0.614(ブレーズ角=31.5 ゜)となり,AFM で計測された 30.2 ゜とほぼ等し
い結果が得られた.回折格子を用いて,同じ位置を繰り返して計測し,各計測における誤差について考察を行った.
実験は,1 ラインの走査が終了した後,ステージを元の位置まで戻すことを 4 度繰り返し,得られたデータを比
較して行った(図7).
63
物理標準の高度化に関する研究
図7.オープループ系(左)とクローズドループ系(右)による測定の様子
これより,右上に示した枠内の図は,繰り返し計測されたデータの一部を拡大して示したものである.オープ
ン・ループによる加振では,同一ラインを複数回計測してもほぼ同じ形状で計測されているのに対し,クローズ
ド・ループによる加振では,回数を重ねるごとに,特に回折格子の頂上付近の形状が下がってくる傾向がある.
これは,前述の通り発振 IC がマイクロフォークの位相を乱す外乱に対して,フィードバックにより位相調整して
いるために,振幅の変化が位相の変化を伴わずに,強制的に振幅が押さえ込まれるような状態になるからである.
従って,クローズド・ループによる加振でのタッピングスタイラスでは,試料に対する測定力が大きくなり,応
力集中の起こりやすい回折格子の頂点付近の損傷が大きくなると考えられる.また,オープン・ループによる加
振でのタッピングスタイラスでは,繰り返し計測に対する標準偏差を求めると,0.0185 μm となった.
タッピングスタイラスの探針の強度,磨耗などを調べるため,研磨直後の探針と3時間測定を行ったあとの探針
の比較を行った.SEM 写真を図8に示す.これより,探針の強度は十分で,磨耗もほぼゼロであることが確認でき
た.
図8.研磨直後の探針(左)と3時間測定後の探針(右)
最後に,表3にタッピングスタイラスによる測定特性をまとめる.これより,工アスペクト比を持つ柔らかい
試料の測定に適した表面計測手法であることが示されている.垂直分解能は6nmが得られたが,これは電子回
路のノイズ制限によるものであり,回路の工夫次第で多少の改善が期待できる.
64
物理標準の高度化に関する研究
表3.タッピングスタイラス系の他手法との比較
以上より,表面形状の新しい測定手法として,タッピングスタイラスを用いる方法が確立できた.
3)基板加振式プラズマエッチング装置の開発
異方性エッチング以外にエッチング形状を改善する手法として,基板加振式プラズマエッチング装置を開発し,
エッチングレートや異方性度の向上について実験的に検討した.プラズマ中で基板を加振すると,図9に示すよ
うな効果があると考えられる.
図9.プラズマ粒子の衝突速度増大(右)と反応生成物の除去効果(左)
すなわち,基板がプラズマに近づくときは,プラズマ粒子の垂直速度成分に基板の速度が上乗せされるため衝
突速度が大きくなり,スパッタ的な反応が促進されて,エッチングレートと異方性度の増加が期待できる.また,
基板が遠ざかるときは,基板上に付着した反応生成物が慣性により引きちぎられる効果が生まれ,除去促進によ
る反応の迅速化が期待できる.
これらを検証するために,図10のような機構に基づきく,基板加振式プラズマエッチング装置を設計,製作
した.RIE プラズマエッチング装置を基礎とし,基板ホルダーに加振機構を付加し,プラズマ中でウェハを加振で
きるようにした.加振はランジバン振動子と振幅拡大ホーンを用いて行い,振動子の交換により28kHz と40
kHz の加振が可能な構成とした.
65
物理標準の高度化に関する研究
Gas inlet
20mm
Anode φ80
Specimen
Isolator
Specimen
holder φ15
Plasma
Cathode
φ95
Plasma
generator
φ18
170 mm
Step horn
φ45
Vibration
generator
Transducer
Vacuum
system
図10.加振式プラズマエッチング装置の基本構成
図11はサムコ社製のエッチング装置に加振機構を取り付けた,試作機の完成外観である.
図11.基板加振式プラズマエッチング装置の外観
Ⅰ期に用いたメカニカルブースタポンプに替わり,ターボ分子ポンプが備え付けられている.図12にランジ
バン振動子を用いて改良した加振電極と,振幅を機械的に拡大するためのステンレス製ホーンを示す.
66
物理標準の高度化に関する研究
図12.加振電極(左)とホーンを用いた振幅拡大機構(左)
先端部は電気的に絶縁して高周波電力を印加する必要があるので,マシナブルセラミクスの円板をねじ止めし
て,絶縁した.このような系を用いて,シリコンのエッチング実験を行い,加振効果についえ調べた.
図13はウェハの加振により,エッチピット形状がどのように変化するかを調べた SEM 写真である.
図13.加振無し(左)と加振あり(右)のエッチング
エッチングガスには SF6 を用い,反応圧力 15Pa,加振周波数は 28kHz を用いた.加振を行うとッ側壁の垂直性
が著しく向上している様子がわかる.定量的な壁面の異方性は図14に示す異方性度により適宜した.
Side etching
s
w
Mask
Etching depth
d
N(100)Si
図14.異方性度の定義
種々の条件下に実験を繰り返し,加振の効果をまとめたのが表4と5である.条件 A は SF6 ガスの圧力 15Pa,B
は同じく 50Pa,C は A に酸素を添加した場合である.
Experimental
Vibration Amplitude(μm)
67
物理標準の高度化に関する研究
Specific energyδz(J/kg)
Max.acceleration (km/s^2)
Condition
-
No vibration
0
0
6.22
1.00
11.00
1.00
2.34
1.00
0.675
1.00
0.450
1.00
0.738
1.00
A
Etch rate(μm/10min)
B
Improved ratio
C
A
Anisotoropy
B
Improved ratio
C
表4.28kHz の加振効果
68
5.67
8.49
13.1
0.25
177.1
6.42
1.03
11.80
1.07
2.94
1.26
0.679
1.01
0.467
1.04
0.786
1.07
0.56
265.2
6.97
1.12
3.43
1.47
0.699
1.04
0.809
1.10
1.32
406.4
7.48
1.20
15.00
1.36
3.75
1.60
0.710
1.05
0.547
1.22
0.811
1.10
物理標準の高度化に関する研究
Vibration Amplitude(μm)
Experimental
Condition
No vibration
4.2
6.3
Specific energyδz(J/kg)
Max.acceleration (km/s^2)
-
0
0
6.22
1.00
11.00
1.00
2.34
1.00
0.675
1.00
0.450
1.00
0.738
1.00
A
Etch rate(μm/10min)
B
Improved ratio
C
A
Anisotoropy
B
Improved ratio
C
0.25
238.1
6.60
1.06
13.10
1.19
3.09
1.32
0.677
1.00
0.493
1.10
0.788
1.07
0.56
357.3
7.03
1.13
3.80
1.62
0.696
1.03
0.798
1.08
9.24
1.21
524.0
7.72
1.24
15.50
1.41
4.17
1.78
0.709
1.05
0.541
1.20
0.809
1.10
表5.40kHz の加振効果
これより,加振により,エッチングレートが向上がみられたが,異方性度については思ったほどの改善が得ら
れなかった.本系により最大のエッチングレート向上は,加振周波数38kHZ の時,時要件 C における78%の向
上であり,既存のプラズマエッチング装置に付加することにより性能向上を図ることがなことが示された.
考
察
a)研究内容について:微小段差の創製技術して,シリコンの異方性エッチングによる段差創製技術を提案し,
実験的な検証により確立した.製作した試料を傷つけずに測定する手法として,タッピングスタイラスによる表
面形状計測系を提案し,実用レベルの計測系を完成した.また,異方性エッチング以外にエッチング形状を改善
する手法として,基板加振式プラズマエッチング装置を開発し,エッチングレートや異方性度の向上ができるこ
とを示した.
b)問題点:加振式プラズマエッチングについては,高真空中での実験に課題を残しているが,プロジェクトが
今年で終了し,研究資金の裏付けがなくなったのが残念である
c)予算執行について:平成 13 年度の予算は,省庁合併により文部科学省になったので,4 月 5 日頃にはやばや
と予算の示達があり,拍子抜けした.これ以前は,科技庁→工技院→文部省→大学学内委員会審査の順で予算移
し換えや承認手続きがあり,11∼12 月にならないと予算が使えず,えらく歯がゆい思いをしたが,省庁合併でお
役所仕事が改善されたのは,大いに歓迎すべことである.
引用文献
無し
成果の発表
1)原著論文による発表
69
物理標準の高度化に関する研究
ア)国内誌(国内英文誌を含む)
1.
初澤,井上,早瀬,小口,シリコン単結晶の異方性エッチングを用いた微小段差基準片,計測自動制御学会論文集,36(8),
645/649(2000)
2.
高橋,早瀬,初澤,タッピングスタイラスにおける計測力の一推定法,精密工学会誌,67(4),pp.665-670(2001)
3.
初澤,廣沢,早瀬,基板加振式プラズマエッチングの研究(第 2 報) - 加振性能の向上によるエッチレートの改善,
精密工学会誌,67(10),pp.1687-1692(2001)
イ)国外誌
無し
2)原著論文以外による発表(レビュー等)
1.
初澤,ナノメートルを測る-技術と陥穽-;精密工学会誌,68(3),pp.335-337(2002)
3)口頭発表
ア)招待講演
無し
イ)応募・主催講演等
1.
Surface topographic measurement system using a microfork; 高橋,初澤, Mechatronics
2000, (2000.9.22)
2.
基板加振式プラズマエッチング装置;廣沢,早瀬,初澤,平成 12 年度電気学会センサ・マイクロマシン準部門総合
研究会,MSS-00-11(2000.12.19)
3.
T.Hatsuzawa, M.Hirosawa, M.Hayase,T.Oguchi,A Mechanical Vibration Assisted Plasma Etcher for Etch Rate
Improvement, 10th International Conference on Precision Engneering, (2001.7.19)
4.
微細加工カンチレバーを用いた微小タッピング力の測定法;菊地,早瀬,小口,初澤,2002 年度精密工学会春季大会
学術講演会講演論文集,p.47(2002.3.30)
5.
高橋,タッピングスタイラスによる表面形状計測系の研究,東京工業大学博士論文発表会,2001.1.8
4)特許等出願等
無し
5)受賞等
無し(I 期で精密工学会沼田記念論文賞受賞)
70
物理標準の高度化に関する研究
1. 長さ関連標準の高度化に関する研究
1.3. 角度の高精度校正技術の研究
1.3.1. 高精度角度校正技術の研究
産業技術総合研究所計測標準研究部門
総括研究員・中山
貫
成果普及部門計測標準管理部標準供給保証室
豊田
幸司
計測標準研究部門幾何計測研究室
藤本
要
弘之、渡部
司
約
生産や研究の分野で広く使われている角度を高精度で校正する技術を確立する目的で研究を行った.産業界から
の需要の多いロータリー一エンコーダの高精度校正技術については静岡理工科大学と連携して研究を進めた.相
互比較、誤差解析などを行い校正技術を評価し依頼試験による標準供給を開始した.
またオートコリメータの
-9
校正技術を確立するために、ナノラジアン(10 rad)以下の微小角をレーザ干渉計で測る技術を実現した。さらに
ポリゴン鏡の校正についてはポリゴン鏡自動回転装置による国際比較を行った. 標準不確かさは 0.018” と見
積もられた。
研究目的
幾何学量の標準体系の整備に資するため、角度の高精度校正技術の研究を行う。基本的な幾何学量である角度
測定は機械工業、精密機械工業、電気機械工業,光学機器工業、分析機器工業などの広い範囲で使われている.
しかしながら角度の標準体系は未整備である.そこで,角度の標準体系の確立に向けて技術開発を行う.
1.
ロータリーエンコーダー
全周に渡る角度を電気的に測定できるロータリーエンコーダーは産業界で広く使われている.高精度のロータリ
ーエンコーダーの角度信号は全周で数十万にも及び,それらを逐一校正するには多大の労力と時間を要する.そ
こで静岡理工科大学と連携し,ロータリーエンコーダーの自動校正による標準供給技術を開発する.
2.
オートコリメータ
オートコリメータの校正は、高精度の鏡を角度設定装置で決まった角度だけ回転させオートコリメータの読み角
度と比べることにより行われる。そこで、角度設定の不確かさ、鏡の平面からのずれによる不確かさ、測定の統
計的不確かさ、装置の安定性などのデーターを集積し校正の不確かさを評価する.以上により、オートコリメー
タの校正不確かさを見積り、依頼試験を開始する.
3.
ポリゴン鏡
ポリゴン鏡については位相角を変えながら,ポリゴン鏡の角度と,ポリゴン鏡を載せた回転テーブルの回転角
との差を高精度なオートコリメータによって測定したデータを基に校正を行う.従来この操作は高度に熟練した
71
物理標準の高度化に関する研究
手作業によっていたが,自動角度設定による自動校正システムによりポリゴン鏡の国際比較を行う.
研究方法
1.
超微細角度スケール盤が内蔵されたロータリーエンコーダと被校正ロータリーエンコーダの取り付け微調整
架台からなるロータリーエンコーダー校正装置を設計試作し、自動測定プログラムを開発する。ロータリーエン
コーダー校正装置を用いたロータリーエンコーダ校正方法の評価を行う。
2.
高精度角度設定装置に用いられている角度干渉計の測定分解能、安定度を向上するためにレ−ザ−波長安定
化装置を試作し、温度安定性の高いマイケルソン干渉計と組み合わせて評価する。オートコリメータ高精度校正
を実現するために高精度角度設定装置の不確かさの評価、それを用いたオートコリメータ校正の不確かさ評価を
繰り返し測定、X 線回折等により行う。
研究成果
1.
高精度なロータリーエンコーダの校正は、2つの同等精度のロータリーエンコーダの目盛りを比較する自己
校正法により行う。
我々は自己校正法の一つである等分割平均法を用いてエンコーダの全周目盛を校正するこ
とが可能な高精度角度位置比較装置を開発した。
この装置は内部に2つのロータリーエンコーダが組み込まれ、等分割平均法の校正原理の検証が可能である。
この装置の測定と検証により、従来のロータリーエンコーダ目盛り盤が持つ目盛りずれの要因が、目盛盤作製方
法に由来することがわかった。つまり、ロータリーエンコーダはディスク円周上に刻まれた目盛を読むことによ
り角度を測定している。この目盛は目盛描画装置で XY 制御によるメッシュパターンを塗りつぶすように刻まれる。
そのメッシュサイズを小さくすることで、1本の目盛のギザギザが小さくなり、なめらかな目盛が製作できる。
今回用いた超微細角度スケールは従来の半分のサイズで製作された。図1に従来型と超微細型のロータリーエン
コーの校正曲線を示す。
図
1
図中、超微細型はデータ点が8倍の密度でプロットしてある。目盛位置ずれの大きさが約半分に減っているの
がわかる。
超微細角度スケールを高精度角度位置比較装置の標準ロータリーエンコーダとして用いることにより、被校正
ロータリーエンコーダの更に高精度な校正を可能にした。
72
物理標準の高度化に関する研究
次に、外部の被校正ロータリーエンコーダを高精度角度位置比較装置に取り付けるための、微調整可能な微調
整架台(図2)を開発した。
図
2.架台
3つのガイドポストを用い、台を平行に保ったままマイクロメータにより高精度で上下できる。これにより多
種類の被校正ロータリーエンコーダに適した高さ調整、軸調整が容易にできるようになり、校正測定の精度向上
ばかりでなく、作業効率のアップが成し遂げられた。これによって、全周角度の校正は、装置の主要要素(図3)
が整った。
しかし、装置制御プログラムと測定プログラムのリンクが行われていなかったため、測定には手作業の領域が
多く1回の校正測定に数時間かかっていた。今回プログラム同士のリンクを行い自動測定を可能にした。これに
より、測定時間を1回あたり1時間以内にすることが可能となった。
図3の右下挿入図にソフトメイン画面を示す。このソフト開発により装置の不確かさの要因を推定、評価する
ために必要な繰り返し測定が可能となった。
次に不確かさの評価について述べる。不確かさの要因は、大きく分けて2つが考えられる。
要因1:測定原理と装置の持つ不確かさ
要因2:外部被校正ロータリーエンコーダの装置への取り付けずれを要因とする不確かさ
要因1は繰り返し測定実験から約 0.01″以下であることがわかった。要因2は、取り付けずれを変えながら測
定し比較した結果、約 10・m の軸ずれで約 0.02″の不確かさが出ることがわかった。つまり要因1が要因2より
も小さいことは、測定原理を十分な精度で実現化したことを意味している。要因1、2を合成した合成標準不確
かさから求めた拡張不確かさ(k=2)も約 0.1″とロータリーエンコーダ校正標準器として完成に到達することが
出来た。
図4は産総研(NMIJ)と静岡理工科大学(SIST)益田正研究室との同一ロータリーエンコーダの校正値の比較であ
73
物理標準の高度化に関する研究
る。
0.2
目盛位置ずれ ″
校正誤差曲線
SIST
0.1
0.0
-0.1
NMIJ
-0.2
0
60
120
180
240
300
360
目盛り角度 ゜
図
4
SIST と NMIJ の測定値の比較
いずれの装置も等分割平均法による校正を行うものである。
二者のデータの差は最大で約 0.04″以下である。この差は要因2の取り付けずれで説明できる範囲であり十分
に一致していることがわかる。このように等分割平均法を用いた装置により短時間で高精度な校正を行うことが
可能である。
年間数百万台のロータリーエンコーダが製品化されているが、現時点では何ら精度保証がなされていない。本
研究で開発した技術を用いることにより今後、ロータリーエンコーダーのトレーサビリティ体系を確立すること
が可能である。ロータリーエンコーダーの校正システムとしてまず、2002年3月に標準供給の依頼試験を立
ち上げることが出来た。
2.高精度角度設定装置(図5)をX線回折により評価するため、2結晶平行配置で X 線回折実験を行い、安定な
X線回折プロファイルを観測する事が出来た(図6)。
74
物理標準の高度化に関する研究
図5
図6
高精度角度設定装置
X線回折プロファイル
回折プロファイルにはサブマイクロラジアンの微細構造があり、これにより今まで、角度干渉計などにより間
接的に示されていたナノラジアンオーダーの角度変位が実際に確かめられた。またX線回折プロファイルは、理
論的に計算されることから、ナノラジアン領域の角度校正に用いることが出来る。
またレ−ザ−波長の安定化性能は温度安定性の高いマイケルソン干渉計の出力、大気の気温、気圧を同時にモニ
ターし評価する事により、 0.05 ppm 以下が得られることが分かった。これを角度設定に使えば、30°が 0,005”
で設定できるようになる。
オートコリメータはその正面にほぼ垂直に置いた鏡の回転角度を測定する装置である。その校正は、高精度の
鏡を角度設定装置で決まった角度だけ回転させオートコリメータの読み角度と比べることにより行われる。従っ
て、校正不確かさは、角度設定の不確かさ、鏡の平面からのずれによる不確かさ、測定の統計的不確かさ、装置
の安定性で決定される。繰り返し測定などにより、角度設定の不確かさは、±15°で 0.2”以下、±1000”で 0.007”
以下、統計 0.05”以下、安定性 0.02”以下と見積もられた。安定性については X 線回折でも 0.1”程度を、振動
75
物理標準の高度化に関する研究
レベルも約±0.001”以下を得ている。また、鏡については、平面度 0.1 波長程度のものについて平面プロファイ
ルを測定し、オートコリメータとの相対位置を変えながらの面角度測定と組み合わせることにより、角度の鏡の
不完全性による不確かさ 0.05”以下と見積もられた。以上により、オートコリメータの校正不確かさを 0.1”以
下と導き、依頼試験を開始した。
3.
ポリゴン鏡の校正についてはポリゴン鏡自動回転装置(図7)による国際比較を行った.
図7
ポリゴン鏡の国際比較
ポリゴン鏡の上下を入れ替える、回転方向を逆にするなど測定条件を変えて角度ずれを測定した。それらを総
合してポリゴン鏡校正の不確かさは 0.018” と見積もられた。
測定結果を CIPM key comparison のポリゴン担
当のパイロットラボに送付した。
考
察
当初の目標どおり、高精度角度位置比較装置に微調整架台を取り付け外部の被校正ロータリーエンコーダの校
正を可能とした。また、高精度回転位置比較装置のロータリーエンコーダを超微細角度スケールにする事により
高精度校正技術を更に高めることができた。制御プログラムの高度化を行うことにより、自動測定が可能な利便
性の良い装置に仕上げる事が出来た。これによって、装置の不確かさ評価を行うことが出来た。不確かさは約 0.1″
であり、ロータリーエンコーダ校正の国家標準器として十分適合した装置開発が行えた。
角度設定の不確かさは、±15°の範囲で±0.1”以下を達成し、オートコリメータについても自己校正型角度干
渉計内蔵の角校正装置により±1000″の角度範囲で不確かさ 0.1”で依頼試験を開始することができた。X線回折
による角度校正、レ−ザ−波長の安定化等、さらなる角度校正不確かさ向上のための基礎技術も開発することが
できた。
成果の発表
1)原著論文による発表
ア)国内誌
1.
渡部 司、益田 正、梶谷 誠、藤本弘之、中山 貫:
「ロータリーエンコーダの高精度校正装置の開発(第1報)-
76
物理標準の高度化に関する研究
校正システムと基礎実験-」
、
[精密工学会誌、第67巻、第7号 (2001)]
イ)国外誌
1.
Tsukasa Watanabe, Hiroyuki Fujimoto, Kan Nakayama, Tadashi Masuda and Makoto Kajitani:「Automatic high
precision calibration system for angle encoder」, [Proceedings of SPIE Volume 4401, (2001)]
2)原著論文以外
イ)
1.
Kouji Toyoda: 「Report of CIPM key comparison-Angle Standards-12 sided polygon」
2.
Hiroyuki Fujimoto: 「Report of CIPM key comparison-Angle Standards-Angle Gauge」
3)口頭発表
ア)招待講演
1.
渡部 司:
「ロータリーエンコーダの高精度角度校正装置の開発」
、産業ニーズに応える計測の技術と標準−日本産業
技術振興協会,機会振興会館 2000 年 10 月 4 日
2.
渡部 司、中山 貫、藤本弘之、梶谷 誠、益田 正:
「ロータリーエンコーダの高精度角度校正装置の開発」
、[第
17 回センシングフォーラム<計測自動制御学会>、東京工業大学 2000 年 10 月 12∼13 日]
イ)応募・主催講演
1.
渡部 司、中山 貫、藤本弘之、梶谷 誠、益田 正:
「ロータリーエンコーダの高精度校正装置の開発(2)」
,
[第 61
回応用物理学会学術講演会、北海道工業大学 2000 年 9 月 3∼7 日]
2.
渡部 司、中山 貫、藤本弘之、梶谷 誠、益田 正:
「ロータリーエンコーダの高精度自動角度校正装置の開発」
、
[2000 年度精密工学会秋季大会、名古屋工業大学 2000 年 10 月 7∼9 日]
3.
Tsukasa Watanabe, Hiroyuki Fujimoto, Kan Nakayama, Tadashi Masuda and Makoto Kajitani: 「Automatic high
precision calibration system for angle encoder」, [ SPIE ミュンヘン 2001 年 6 月]
4.
渡部 司、中山 貫、藤本弘之、梶谷 誠、益田 正:「角度標準としてのロータリーエンコーダ校正装置」
、[2001
年度精密工学会春季大会、東京工業大学 2002 年 3 月 28∼30]
5.
Hiroyuki FUJIMOTO, Tsukasa WATANABE, Kan NAKAYAMA:「Accurate Angle Measurement System with Nano-radian
Resolution over Wide Angular Measurement Range」,[International Dimensional Metrology Workshop 2000 in
Knoxville USA, 2000.5]
6.
中山 貫、藤本 弘之:
「γ線波長の絶対測定」
、[核共鳴散乱ワークショップ、SPring-8、2000.8]
7.
藤本弘之、渡部司、中山貫:
「高分解能絶対角度発生装置の開発」
、[第 61 回応用物理学会学術講演会、2000年9
月]
8.
江見恵子、藤本弘之:
「高精度角度設定装置の光源用レーザーの波長安定化」
、
[第49回応用物理学関係連合講演会、
(2002年春)期東海大学湘南校舎]
5)受賞等
1. 渡部 司、益田 正、梶谷 誠、藤本弘之、中山 貫:「2001 年精密工学会沼田記念論文賞」,2002 年 3 月 29 日
77
物理標準の高度化に関する研究
1. 長さ関連標準の高度化に関する研究
1.3. 角度の高精度校正技術の研究
1.3.2. ロータリーエンコーダの校正技術の研究
静岡理工科大学益田研究室
益田 正
要 約
ロータリエンコーダの角度標準とトレーサビリティ体系を確立し、エンコーダメーカやユーザの校正技術の向上に資する
ことを目的に、エンコーダ校正の高精度化の研究を行った。その結果、校正装置の誤差測定回路の LSL 化、Windows 上での
測定ソフト開発を行い、完全自動測定を可能にした。そして、産総研設置の校正装置は2002年度から依頼試験の対応が
可能になった。また、高精度エンコーダを2つ使った校正装置を試作し、その校正精度±0.006″程度を確認した。また、国
内持ちまわり測定を実施した結果、本校正方式を採用した校正装置が国内の従来方式の校正装置と比べて、一桁以上の高精
度を実現していることが確認された。
研究目的
ロータリエンコーダの角度標準とトレーサビリティ体系を確立し、エンコーダメーカやユーザの校正技術の向上に資する
ことを目的に、エンコーダ校正の高精度化研究を行う。また、ISO 規格の検討を目的にエンコーダの校正法の評価研究を行
う。
研究方法
1) ロータリエンコーダ校正装置の信頼性、実用性の向上
エンコーダの誤差測定回路の LSI 化、Windows 上での誤差測定プログラム、演算処理プログラム、自動測定プログラムの
開発を行い、ロータリエンコーダの角度標準校正装置としての信頼性、実用性を向上する。
2)ロータリエンコーダの校正装置の評価
産総研に設置された校正装置の精度評価を行う。
3)ロータリエンコーダの校正装置の更なる高精度化
現状入手可能な最高精度のエンコーダを用いて校正装置を試作し、本校正方式がどこまで、高精度な校正を実現できるか
を調査する。
4)校正法の評価
ロータリエンコーダの角度標準とトレーサビリティ体系確立へ向けて、国内のロータリエンコーダメーカ、ユーザを対象
に持ちまわり測定を実施し、国内企業の校正の実力を把握し、また、採用している各種校正法の特質を見る。また、PTB や
ドイツ国家標準を製作しているハイデンハイン社が提唱しようとしている測定規格について検討する。
78
物理標準の高度化に関する研究
研究成果
1) ロータリエンコーダ校正装置の信頼性、実用性の向上
エンコーダ誤差測定回路を改良し、ワンチップ FPGA(Field Programmable Gate Array)回路を製作した。この FPGA 回路
は、回路情報を記憶した ROM と LSI(FPGA)本体からなり、電源 ON と同時に ROM 上の回路情報をもとに回路が構成される。
この特徴は、ROM の回路情報を変更することにより、回路変更が容易に可能であること、すなわち、仕様変更に柔軟に対応
できること、また、同時に LSI としての高い信頼性を持つことである。また、この FPGA 回路と 1.6MB のメモリを搭載した
PCI バス用のワンボードを製作した。そして、エンコーダ信号取り込みプログラムを Windows 上の VisualC++で開発。また、
測定演算処理プログラムを開発した。このことにより、以下の測定が可能になった。
Windows の画面上から、微小角の測定法として等速回転と基準クロックを利用した時間変換法、または、エンコーダの内
挿信号を用いたカウンタ法の選択、3つのエンコーダのパルス数の指定、分周比、測定分解能、回転速度の選択、基準エン
コーダの指定などを入力し、測定開始ボタンをクリックすると測定モードに入る。基準エンコーダの原点信号を取り込むと
測定は開始され、時間変換法の場合、角度信号の発生時刻を内蔵の基準クロック信号で計測し、順次ボード上のメモリに格
納する。測定終了後、PCI バスを通して、コンピュータメモリに転送され、演算により校正結果が求められる。測定はコン
ピュータの速度に無関係に、この誤差測定回路が独立に行う。図1,2に誤差測定ボード、測定条件入力画面を示す。
図1 誤差測定用 PCI ボードメモリと FPGA 回路搭載
79
物理標準の高度化に関する研究
図2 測定条件入力画面
これらにより、本学の既設の校正装置、産総研の校正装置など、3エンコーダ方式の校正装置の特徴を十分に生かすこと
ができるようになった。すなわち、225000 パルス/回転のエンコーダを3つ同時に測定できるようになった。また、225000
パルス/回転エンコーダ 2 個と 36000 パルス/回転エンコーダ 8 個を同時に測定することもできるようになった。また、そ
れぞれの分周比を選ぶことによって、任意のパルスの基準エンコーダをもつ校正装置にも対応できるようになった。また、
基準クロック周波数の分周により、低速回転から高速回転、さらには、任意のパルス数エンコーダでも適切な測定分解能が
選べるようになった。また、高速高分解能の時間変換法だけでなく、従来から広く用いられている内挿信号を用いた計測も
同じ校正装置上で実現でき、従来の方法との比較も可能になった。
また、自動割出機能を加えて、完全自動測定を実現した。この測定動作のフローチャートを図3に示す。
80
物理標準の高度化に関する研究
図3 割出を含めた自動測定フローチャート
Windows 画面上から、割出位置の指定、それぞれの割出位置で何回転測定するかを指定する。すると、指定した割出位置
で停止し、指定された回数だけ測定を繰り返し、終了したら、次の割出位置に移動し、測定を繰り返す。これにより、高次
誤差成分を持つエンコーダや高精度測定を行う場合に等分割平均校正法は多数の割出を必要とするが、これを容易に実施可
能になった。また、任意の割出を指定することにより効率よく、等分割平均法の組み合わせ法も容易に実施可能になった。
2) 校正装置の精度評価
校正法である等分割平均法、さらに厳密な校正値を求める組合せ法を使って、産総研の校正装置の精度評価を以下の測定
条件で行った。
測定と評価の条件は①測定速度 10rpm、分解能 0.005”、測定ポイント数 112500、温度 21.3℃∼21.9℃、②比較測定値の
標準偏差を抑えるため、10 回測定の平均値を校正値とする。③分割数 29 と 13 の組み合わせ法(377 分割数に相当)の結果
を真値と見なし、これとほかの分割数で校正した値の差を誤差とした。④基準エンコーダの1次、2 次などの低次成分が変
化するため、低次成分誤差を除いて評価した。112500 点の比較測定値のばらつきは標準偏差で平均 0.01″、最大で 0.02″
程度であった。
校正精度を表1に示す。
81
物理標準の高度化に関する研究
等分割平均法
分割数 精度
N=5 ±0.05”
N=11
±0.03”
N=13
±0.025”
組み合わせ法
分割数
N=5、M=7
N=9、M=7
N=11、M=7
N=11、M=5
N=13、M=7
N=13、M=5
精度
±0.02”
±0.02”
±0.01”
±0.01”
±0.01”
±0.01”
主な残りの成分次数
0.003”以下
0.002”以下
70、210、420
350,455,280
462
154,308
182,455
表1 校正条件と精度と残フーリエ成分
分割数 N=5,11,13の等分割平均法では、377 分割数の校正値との差がそれぞれ±0.05″、±0.03″、±0.025″であ
った。また、組み合わせ法を使った場合、たとえば、分割数5と7の組み合わせ法では、精度±0.02″が得られている。こ
の場合、0.003″以下程度の 70、210、420 次成分が、0.002″以下程度に 350、455、280 次成分が残っている。この原因はエ
ンコーダに 35 の倍数次成分誤差があるにもかかわらず、5と 7 の組み合わせ法では 35 の倍数次成分の誤差がとりきれない
ことからくる。また、分割数 7 と 13 の組み合わせ法でも 0.002″以下に 182、455 次成分が取りきれず、7×13 の 91 次の倍
数次成分が存在する。したがって、この基準エンコーダは 7 の倍数次成分を持つため、分割数として 7 を避ける必要があり、
表にあるように分割数 11 と 5 の組み合わせ法や分割数 13 と5の組み合わせ法を実施すると±0.01″の精度が確認される。
整理すると 13 分割の等分割平均法では精度±0.025″であるが、それに 5 分割の等分割平均法で求めた校正値から 13 の倍数
次成分を抽出し補うと±0.01″まで、校正精度が向上する。
ただし、測定期間 1.5 日間に温度変化も 0.6℃程度あったが、基準エンコーダ自身の誤差の 1 次成分が 0.01”、2 次成分
が 0.02”程度の変化を観測した。今後、更なる高精度化には基準エンコーダの安定化が重要である。
3) ロータリエンコーダの校正装置の高精度化
現在入手可能な最高精度のエンコーダを2つ使った校正装置を試作し、その精度評価を行う。
この装置の構成は図4に示すように、1)等速回転機構と2)割出機構からなる。
82
物理標準の高度化に関する研究
図4 試作装置
1)等速回転機構は、精密回転形空気軸受に高精度エンコーダ 36000 パルス/回転の RON905(カップリング内蔵、ハイデン
ハイン社製)が2つ同軸に取付けられ、また同軸にブラシレスモータ、速度フィードバック用の磁気歯車とタコジェネレー
タが取り付けられ、PLL 制御によって低速で等速回転する。2)割出機構は減速機構付ステッピングモータと平歯車減速機
構を用いて、任意の割出位置が選択できる。この機構に前述の誤差測定回路とソフトを使って、測定を行い、その精度評価
を行った。その結果、
①比較測定値のばらつきは標準偏差で平均 0.005”、最大でも 0.013”程度を確認した。
②エンコーダの校正値を図 5 に示す。
図5 エンコーダの校正値(メーカとの比較)
図の中段の太い線が本装置で測定した 36000 点の目盛の校正値で、中段の細い線がハイデンハイン社の添付している校正
値である。本装置の校正値とハイデンハイン社の校正値とでは測定の方向と校正値の符号が逆のため、グラフを 180 度回転
させて重ねてある。エンコーダ誤差は±0.06”程度であり、エンコーダは 4 の倍数次成分を多く持つが、これら成分を含め
て、ハイデンハイン社のデータと±0.02”程度まで一致している。上段と下段の細い線はハイデンハイン社で測定している
内挿誤差を示す。
83
物理標準の高度化に関する研究
③いくつかの分割数で等分割平均法を実施し、その校正値の差を比較した。図 6 に 11 分割と7分割測定校正値の差を示す。
図6 等分割平均法の校正値の差
±0.006”の 28 次成分が大半であり、これはエンコーダ自身が持つ 28 次成分を7分割平均法で見つけられていないことが
原因である。よって、7を避けた分割数を選べばより正確な校正値が得られると推定される。
4) 校正法の評価
4.1 国内持ち回り測定
ロータリエンコーダの角度標準とトレーサビリティ体系確立のため、国内エンコーダメーカやユーザの持つ校正装置の校
正能力と校正における問題点を調べる国内持ち回り測定を行った。2 つのエンコーダを持ちまわった。一方のエンコーダ A
は 36000 パルス/回転、カップリング内蔵型、精度約±0.1″で、外付けカップリングの影響がなく、高精度と再現性という
観点から、現在入手可能な最高のエンコーダである。ただし、回転摩擦トルクが大きいため、測定できない機関もあり、も
うひとつを選んだ。取付治具がエンコーダ A と共用できるタイプのエンコーダ B で、これは回転摩擦トルクが小さく、軸出
力型で高精度カップリングと併用し、精度約±0.3″程度のエンコーダである。パルス数は同様の 36000 パルス/回転。精度
±0.1″のエンコーダAの校正は5機関7装置、±0.3″のエンコーダBの校正は6機関7装置での参加があった。校正結果
は以下のようである。ただし、本学と産総研以外の参加機関の校正結果については、差し支えない程度の説明にとどめる。
1)エンコーダ A
本学で試作した前述の校正装置で13年3月と14年2月に校正した校正値とその差を図7に示す。
図7 経年変化
エンコーダの持つすべての目盛 36000 点の校正結果である。このエンコーダの校正値は±0.1″程度で4次の倍数次成分が
多く含まれ、このエンコーダが90度間隔に検出ヘッドを配置し、平均化により高精度化を図っている様子がわかる。2つ
84
物理標準の高度化に関する研究
の校正値の差は±0.02″の 2 次などの低次成分であった。この差はエンコーダの 1 年間における経年変化も考えられるが、
エンコーダの取付、取りはずし作業も行っているので、取付誤差による再現性もこの差の中に含まれる。
参加したいずれの機関の校正値も±0.2″程度内の高精度な校正を実現していることを確認した。更に、本学、産総研、一
参加企業を含めて、研究者が提案している校正方式(校正方法として等分割平均法、微小角測定法として時間変換法)を採
用した 3 機関の 5 校正装置に限ってみると、その校正値は図8に示すように±0.1″強を示し、その差は±0.05″程度内であ
った。
図8 2 機関4校正装置による校正値
さらに、この差の大半がエンコーダの取り付け誤差に起因する誤差と推定され、これを除けば相互の差は±0.03″程度と
なる。
更にこの±0.03″の原因は偶然誤差ではなく、
図9に示すように基準エンコーダの違いに起因する系統的誤差であり、
今後の原因の追求により更に高精度化が可能である。
図9 校正値の差
また、校正値のばらつきも 0.01″程度以下である。一方、参加機関のうちの一社は校正法として等分割平均法を採用して
いるが、微小角測定には 0.0012″の内挿パルスを基準に測定している。校正値の傾向は他とほぼ変わらない。しかし、測定
分解能が十分あるにもかかわらず、内挿信号の誤差が原因か±0.025″の高次の誤差が見られる。また、別な一社は校正法に
従来のロゼッタ法の改良型、微小角測定に内挿信号を使っている。やはり、校正値は他と同じような傾向にあるが、内挿信
号の内挿誤差が原因か±0.05″の高次の誤差が目立つ。
この持ち回り測定で等分割平均法と時間変換法を採用した 3 機関 5 装置が従来方式の 2 機関に対して一桁近い高精度を実
現していることが確認できた。また、この 3 機関はこの持ち回り測定エンコーダを提供したハイデンハイン社の添付データ
85
物理標準の高度化に関する研究
とも±0.03″程度内の差であり、同等の校正精度を実現していると見られる。ハイデンハイン社はドイツ物理学研究所(P
TB)にあるドイツ国家標準と同等な校正装置を設備しており、高精度エンコーダには詳細なデータを従来から添付してい
る。したがって、3 機関の持つ校正装置はロータリエンコーダの角度標準装置として、充分な性能を持つこといえる。
2)エンコーダ B
精度±0.3″のエンコーダBの持ち回り測定に参加した6機関の7校正装置による校正結果は一社を除けば非常に似た傾向
にある。各社の校正結果は±0.4″で、その相互の差は約±0.1″である。ただ、この差には校正装置の誤差だけでなく、取
り付け誤差によるカップリングの誤差も含まれている。エンコーダ A の校正結果と同様、内挿信号基準で測定している参加
機関の結果は内挿誤差の影響が現れている。図10に本学の校正装置 2 台と一企業の校正結果を示す。
図10 エンコーダ B の持ち回り測定結果
本学一台と一企業の結果は±0.04″と非常によく一致している。もうひとつの本学校正装置の結果が前者と±0.2″とずれ
が大きいが、一次成分誤差なので、取付誤差によるカップリング誤差が原因と思われる。
5) ドイツの測定規格について
PTBとハイデンハイン社は高精度エンコーダの校正値表示に図11のように、3 本のカーブで示す方法を十数年来実施
してきている。
86
物理標準の高度化に関する研究
図11 ドイツメーカの校正値
これはエンコーダ自身の目盛の校正値(中段の線)と内挿信号の校正値(上段下段の線)の両方を示すものである。校正
値の求め方はハイデンハイン社の場合、校正装置内蔵の基準エンコーダ(218=約 26 万パルス/回転)を基準に内挿信号
を使って、被校正エンコーダを測定する。たとえば 36000 パルスエンコーダを校正するには、5倍内挿器と 4 逓倍回路を用
いて、20 倍すなわち 720000 パルスを発生させ、基準エンコーダを基準に 720000 パルスのうちの 0,9,18,27、
.
.
.
.
.
.
.
.
.
のように 9 点ごとに測定する。内挿誤差は目盛間でほぼ同様な誤差を持つため、9 点ごとの測定値の上限包絡線、下限包絡
線をもって内挿誤差のプラス側とマイナス側校正値としている。また、連続した 20 個の測定値の平均を目盛の校正値として
表している。ドイツではまさにこの方式を今後の正式な規格にしようとしている。しかしながら、我々の持ち回り測定によ
り行った目盛の校正結果と比較すると、このドイツで言う目盛の校正値(中段の線)と明らかに±0.02″程度の系統的誤差
がある。ドイツの校正結果はエンコーダの目盛を直接測定するのではなく、内挿誤差の 20 点の平均から目盛の校正値を求め
ているためか、校正値が滑らかである。むしろ、内挿信号の校正値(上段下段の線)を上下にシフトすると我々の校正値に
近い。ドイツの目盛の校正値の測定方法には明らかに問題がある。
(参考)PTB やハイデンハイン社の基準エンコーダの校正法
両機関とも218(=約 26 万パルス)を持つ非接触式エンコーダを基準エンコーダとして内蔵しており、PTB はもうひとつ
の内蔵の非接触式 36000 パルスエンコーダERO725、ハイデンハイン社は外付けに 36000 パルスエンコーダRON90
5を用いる。この二つのエンコーダ間に 512×512 のロゼッタ法を適用して、基準エンコーダの 512 点の校正値を求める。②
求めた 512 点の校正値からほかの 26 万点の校正値を直線補間で決定する。
6) トレーサビリティ体系について
特定標準器を自己校正装置とし、特定二次標準器をエンコーダとする方式(A方式)と特定標準器、特定二次標準器を自
己校正装置とし、特定標準器からトランスファー標準で特定二次標準器に値付けする方式(B方式)を検討した。A方式は
認定事業者が個々に入手可能なエンコーダを特定二次標準として申請する。したがって、認定事業者の不確かさはまさにこ
の高精度かつ安定な二次標準エンコーダを入手できるかがポイントである。しかし、現状、国外メーカの独占状態にあるた
め、この方式を採用した場合、国内メーカは一段レベルの低い認定事業しか出来ない。B方式はトランスファー標準として
産総研が最適なエンコーダを選定できるため、認定事業者に平等に値付けできる。このため認定事業者が持つ自己校正装置
の性能が生かされる。しかし、このいずれの方式にしても、制度上、特定標準器の不確かさ、トランスファー標準あるいは
特定二次エンコーダの不確かさの累積は避けられない。自己校正装置は本来、精度的に独立しており、特定標準器やトラン
スファー標準機の不確かさを受け継ぐ必要はないものである。
持ち回り測定の結果、
自己校正装置は±0.02″の実力を持つ。
87
物理標準の高度化に関する研究
しかし、A方式、B方式では上位の不確かさを引き継ぐため、一桁低いレベルでの認定事業しか出来ない。自己校正装置の
本来の特徴を生かしたトレーサビリティ体系、これをC方式とすれば、このC方式が採用されることを願う。ちなみにドイ
ツではこの方式のトレーサビリティ体系が採用されている。
考 察
ロータリエンコーダの角度標準やトレーサビリティ体系に対し、十分な精度、信頼性、実用性を持ったロータリエンコー
ダ校正装置を目指し、開発を行ってきた。そして、精密工学会の産学協議会「ロータリエンコーダの角度標準とトレーサビ
リティに関する研究会」
(15 社、3 大学、産総研の委員 35 名)で高精度エンコーダを用いた国内持ち回り測定を実施した。
その結果、この方式が従来方式の校正装置に比べ一桁高い精度を実現していることがわかった。また、この方式を採用した
産総研の校正装置は、14 年 4 月からエンコーダの 225000 までの目盛に対して、不確かさ 0.06″をもって、値付けする依頼
試験体制が確立した。
一方、ドイツ国家標準が±0.01℃の完全な温度管理下で 512 目盛を精度±0.005″の校正を実現しているが、更なる高精度
化を目指して、今回試作した校正装置は 36000 目盛を精度±0.01″精度以下で校正することを確認した。本学装置が①温度
管理をしていないこと、②重要な等速回転に問題がある点、③試作であるため、エンコーダの割出回転軸が50μm程度不
完全であること、④ドイツが完全非接触エンコーダを内蔵しているのに比し、今回使ったエンコーダはカップリング内蔵で
その誤差の影響が無視できないこと、⑤エンコーダ測定条件にまだまだ改善の余地があることなど考えれば、この方式でま
だまだ高精度化が可能と思われる。
産総研校正装置の更なる高精度化には、①基準エンコーダの安定性が重要である。また、②最適な分割数を用いた等分割
平均法やその組み合わせ法を実現するために、基準エンコーダの誤差フーリエ成分の詳細な把握が必要である。③今回の持
ち回り測定の結果から、産総研装置と本学装置の間に±0.02″程度の系統的な誤差が確認された。この原因の追求と対策に
より、更なる高精度が実現できる可能性がある。
今後の研究の方向として、
1)高精度校正装置の開発
測定分解能の向上、カップリングの排除、内挿誤差の測定、等速回転性能の向上、温度管理、割出機構の改善、時間変換
法の高精度・高安定化などを行い、より実用性と高精度化を目指す。
2)国際持ち回り測定とISO
PTB、ハイデンハイン社、産総研との間での国際持ち回り測定に参加する。最初はカップリング内蔵型エンコーダを持
ち回る。また、将来的に非接触型エンコーダで一段高精度な持ち回り測定を実施する必要もあり、準備をする。ドイツ測定
規格の検討とISOの検討。
3)角度標準とトレーサビリティ体系
産総研の校正装置をロータリエンコーダの角度標準とし、特定二次標準の形態を決め、認定事業者を立ち上げるなど、一
刻も早いトレーサビリティ体系の確立に協力する。
引用文献
[1]
T.Masuda and M.Kajitani: High Accuracy Calibration System for Angular Encoders, Journal of Robotics and
Mechatronics,5-5,448-452(1993).
88
物理標準の高度化に関する研究
成果の発表
1)原著論文による発表
ア)国内誌
1.
渡部 司、益田 正、梶谷 誠、藤本弘之、中山 貫:
「ロータリーエンコーダの高精度校正装置の開発(第1報)-校正システ
ムと基礎実験-」
、
[精密工学会誌、第67巻、第7号 (2001)]
イ)国外誌
1.
Tsukasa Watanabe, Hiroyuki Fujimoto, Kan Nakayama, Tadashi Masuda and Makoto Kajitani:
「Automatic high precision
calibration system for angle encoder」, [Proceedings of SPIE Volume 4401, (2001)]
2)原著論文以外
1.
T.Masuda,:
「”For development of angle standard and establishment of traceability system for rotary encoders in Japan」,
Pro. of the Harmonic Drive International Sympo. 2001, Vol.3, pp.19-30 (2001)
5)受賞等
1.
渡部 司、益田 正、梶谷 誠、藤本弘之、中山 貫:
「2001 年精密工学会沼田記念論文賞」
,
89
物理標準の高度化に関する研究
1. 長さ関連標準の高度化に関する研究
1.3. 角度の高精度校正技術の研究
1.3.3. X線測角技術の高精度化の研究
理化学研究所X線干渉光学研究室
石川
要
哲也
約
第 II 期では、第 I 期に開発された高分解能回転装置にエラスティックトーションバーを利用した超高分
解能角度設定機構を組み合わせ、ピコラジアン領域での角度設定を可能とした。第 I 期に開発された標準
波長選択分光器の波長選択精度を向上させ、得られた単色 X 線を半導体単結晶の格子定数精密測定に応用
した。X 線画像解析装置の試作を行い、同時反射X線透過ビーム画像計測により、二方向の角度をサブナ
ノラジアン領域の精度で設定可能であることを示した。第 I 期、第 II 期を通じて開発された機器を、超高
分解能 X 線分光器の構成と、完全独立光学素子 X 線干渉計の構成に利用し、現時点では世界最高分解能の
X 線分光器(ΔE/E=8×10-9)を実現するとともに、世界初の完全独立光学素子 X 線干渉計での X 線干渉計
測に成功した。
研究目的
基本的な幾何学量である角度の高精度化の研究を行い、機械工業、精密機械工業、光学機器工業、分析
機器工業などの広い範囲で使われている角度測定の高精度化を目指す。このために、角度が測定の基礎と
なる重要な量であるX線回折・X線分光の手法を用い、またX線源として理論的に良くデファインされて
いるシンクロトロン放射X線を用いることによって、角度の高精度測定技術を開発する。
具体的には、X線回折・分光では結晶の格子定数、X線波長、結晶の方位角の内の2つの量を決定する
ことによりブラッグ条件から残る1つの量を導くことになる。格子定数の基準としては、それが精密に決
定されたシリコン単結晶を用いることが出来るので、角度の精密測定のためにはX線波長を正確に決める
必要があり、また逆にX線波長の精密測定のためには、角度を正確に決める必要がある。
上記の研究目的のために、平成9年度∼平成11年度の第 I 期で、ナノラジアン領域の角度測定のため
の装置試作を行った。平成12年度∼平成13年度の第 II 期では、第 I 期での到達点から一層の高精度化
を図り、ピコラジアン領域での角度計測の可能な角度調整機構を試作し、干渉画像データ処理による高精
度解析を行うためのX線画像解析装置を試作する。これらを用いて、X線回折・分光・干渉を用いた角度
の高精度測定技術を開発する。
研究方法
1)エラスティックトーションを用いた高角度分解能アタッチメントの試作
90
物理標準の高度化に関する研究
ピコラジアン領域での角度設定を可能とするために、円柱バネからバーを出したいわゆるエラスティッ
クトーションバーをコイルバネを介してピエゾアクチュエータで駆動する微小角回転機構がエンコーダー
付の粗回転機構に搭載された高分解能アタッチメントを試作する。
2)標準波長X線選択分光器の高精度化と、格子定数測定への応用
標準波長X線選択分光器によって単色化されたX線の絶対波長を同時反射回折プロファイルから高精度
に決定する方法を開発する。ここで得られる単色X線を入射波として、半導体単結晶のいくつかの回折面
での回折角を精密測定するボンド法によって、格子定数の精密測定を行う。
3)X線回折、分光、干渉を利用したX線測角技術の高精度化
これまでに試作した装置を用いて、多波同時回折を用いた 2 方向角度高精度設定、X線領域での世界最
高分解能分光器の製作、完全分離型光学素子でのX線干渉計構成の可能性の実証を行う。
4)X線画像解析装置による解析精度の向上
多波同時回折の 2 方向角度高精度設定をX線回折画像を用いて行うことにより、設定精度を向上させる。
研究成果
1)エラスティックトーションバーを利用した超高分解能角度設定機構の試作
円柱バネからバーを出したいわゆるエラスティックトーションバーをコイルバネを介してピエゾアクチ
ュエータで駆動する微小角回転機構がエンコーダー付の粗回転機構に搭載された高分解能アタッチメント
を試作した(図1)。
図 1.
エラスティックトーションバーを用いた超高分解能角度設定機構:
A; 円柱バネ、B; コイルバネ、C; ピエゾ素子
分解能の異なる 3 種類のエラスティックトーションバー機構により、光学的オートコリメータでの計測
結果として、標準で 0.2 nrad、2 nrad、20 nrad の角度分解能を達成した(図2)
。
91
物理標準の高度化に関する研究
Optical Calibration Data
80
5
60
50
3
type I
2
40
30
20
Angular Displacement (µrad)
Angular Displacement (µrad)
70
4
1
type III
0
図 2.
0
10
type II
0
500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000
PZT Control Step (au)
エラスティックトーションバー機構の角度分解能
2)標準波長選択X線分光器の高精度化と半導体格子定数精密計測への応用
同時反射を用いた標準波長選択分光器で、同時反射プロファイルの精密測定を行うことにより、高精度
での波長固定を行う技術を確立した。放射光アンジュレー光源では、同時反射光学素子の粗調整は蛍光板
を CCD カメラで観察することにより簡単に行うことが可能であり(図3)
、
図 3.
蛍光板上で観察される単色X線入射での同時反射。
また、同時反射回折プロファイルの精密測定により、10-6 の精度での波長固定が可能となった(図4)。
92
物理標準の高度化に関する研究
Simultaneous Reflection Profiles
5
ch_1
ch_2
ch_3
Intensity (arb. unit)
4
3
2
1
0
-4.0
図 4.
-2.0
0.0
2.0
∆ω (arcsec)
4.0
同時反射のプロファイル。ショルダーの位置から 10-6 の精度で波長が定まる。
ここで得られた標準波長X線を用いて、図5の光学配置で高純度ダイアモンド単結晶(Type IIa)のブラ
ッグ角の精密計測を行うことにより、格子定数 a = 356.7225±0.0024 pm を得た。
図 5.
X線回折角度の精密測定による格子定数測定を行うための実験配置
これは、文献値 356.683±0.001 pm[1]より大きく、むしろ不純物が多いとされる Type II の文献値
356.725±0.003 pm に近い。
3)X線画像解析装置装置の試作と、同時反射X線透過ビーム画像計測による角度設定の高度化
第 I 期に行われた、同時反射を用いた標準波長X線選択分光器の開発過程で、同時反射をゼロ次元的な
検出器でプロファイル測定を行うのみならず、二次元的な強度計測を画像として行うことで、より高精度
の角度測定が可能となる可能性が見いだされた。このような二次元強度計測のために、X線画像解析装置
が試作された。
本装置の原理は、図6に示されるように、X線を高分解能シンチレータで可視光に変換し、反射ミラー
で光路を曲げた後に、光学レンズ系を介して冷却 CCD カメラに導く。
93
物理標準の高度化に関する研究
図6
X線画像解析装置概念図
反射ミラーを用いることにより、光学レンズや CCD に直接X線が入射することを防ぎ、放射線損傷によ
る部品交換が必要な箇所を反射ミラーまでに留めている。冷却 CCD カメラは 1μm の分解能を持ち、1:1 の
光学レンズ系により 1μm 分解能での画像解析が可能である。CCD の画像データは、コントローラを介して
デジタル信号として PC に取り込まれる。図7に試作された装置の写真を示す。
図 7.
X線画像解析装置:左から CCD コントローラ、本体、解析用 PC、ディスプレイ
入射強度に対する線形性と、場所的な一様性を計測した結果、一般的な応用ではこれらに対する補正を
することなく正確なデータが得られることが確認された。
この画像解析装置を用いて、Si 800 反射のブラッグ角 90 度近傍での回折計測を、図8に示すX線光学
系を用いて実施した。
94
物理標準の高度化に関する研究
図 8.
Si
測定光学系模式図
800 で垂直入射のブラッグ反射が起きるエネルギーでは、(800)面と 45 度傾いた 4 回対称の{440}面
でブラッグ角 45 度の反射が生ずる(図9)
。
図 9.
Si (001)面に垂直に入射したX線は 4 つの等価な{110}面に照射角 45 度をなす。
これらの 4 つの反射は、入射X線の波数ベクトルと、反射面の法線のなす角が 4 つ全部の面に対して正
確に等しくなった場合にのみ、対称的な反射強度を与えるため、高精度角度計測に利用できる。
試料結晶を照射角 90 度の近傍で回転したときの透過X線強度と反射X線強度を図10に示す。
図 10.
照射角 90 度近傍での(a)透過X線強度、(b), (c)反射X線強度プロファイル
(a)は、試料後方に置かれたアバランシェフォトダイオード検出器で測定された透過X線強度であり、(b)
は試料前方のピンホール付き蛍光X線ターゲット(銅製)からの蛍光X線を PIN フォトダイオード検出器
で測定した反射X線強度、(c)はピンホール前方に置かれた入射強度モニター用透過型イオンチェンバー検
95
物理標準の高度化に関する研究
出器で測定された反射X線強度である。(a)はログスケールで、(b),(c)はリニアスケールで示してある。
(a), (b)で丁度照射角が 90 度の場合に鋭いピークがあり、これが同時反射によるものである。(b)で照射
角 90 度の周りに同時反射のピークを除いてほとんど強度が無いのは、反射ビームが入射ピンホールを貫通
して蛍光信号を出さないためであり、貫通した反射ビームは(c)に示されるようにその前のイオンチェンバ
ーで計測される。
同時反射による中央のピークの角度幅は、マイクロラジアン程度であり、強度プロファイルのみからで
もナノラジアン領域での角度計測が可能であるが、以下に示すように透過ビームでの画像計測を行うこと
によって更に高精度での角度計測が可能になる。
図11の右側は、照射角がほぼ 90 度での透過ビームイメージ(左上)、この条件から±300 ナノラジアン
照射角を変えた時のイメージ(右上、左下)および、10 マイクロラジアン照射角を変えた場合のイメージ
(右下)を示す。
図 11.
X線照射角 90 度近傍での、透過X線プロファイル
左側には、回転によって強度変化の大きいほうのイメージを数値化したグラフを示す。右下の小さいイ
メージが、ピンホールで準備された入射ビームの大きさに対応している。同時反射が生じると、透過ビー
ムが入射ビームの外側に 4 つの反射方向に沿って広がり、十字型のイメージを与える。注目するべきこと
は、角度による強度変化の非対称性であり、300 ナノラジアンの変化で強度比は非常に大きく変動する。
解析の結果、強度重心の移動量を用いれば、100 ピコラジアン領域での角度計測が可能であり、また高次
の反射面を高エネルギーX線で用いることにより、同時反射の角度幅を小さくすれば、数十ピコラジアン
領域での角度計測も可能となることが確認された。
4)超高分解能X線分光器への応用
超精密X線分光では、完全結晶によるX線回折を用いて、ブラッグ条件を基礎としてX線エネルギーを
決めるため、ブラッグ条件式中に入ってくる角度(ブラッグ角)を高精度測定、あるいは高精度設定する
ことが基本的に重要になる。昨年度まで本研究プログラムで、ピコラジアン領域での角度計測・角度設定
が可能な機器開発が行われているので、それらをX線分光器に適用することを試みた。
基本的な光学配置は図 12 に示す非対称(+,+,-,-)4 結晶配置分光器であり、高分解能分光の原理を示す
DuMond 図形を図 13 に示す。
96
物理標準の高度化に関する研究
図 12.
図 13.
非対称 4 結晶配置による超高分解能X線分光器
非対称 4 結晶超高分解能X線分光器の DuMond 図形
分解能計測を容易に行うために、メスバウアー共鳴散乱が利用可能な 14.41keV での超高分解能分光器を
ターゲットとし、Si 11 5 3 反射による非対称 4 結晶配置を製作した。
この配置の後ろに、57Fe メスバウアー共鳴核を含むステンレスフォイルを置き、14.14 keV の核共鳴散乱
に検出器をロックして分光器の第 3 結晶を精密回転させると、共鳴線が観測される角度幅からエネルギー
分解能を見積もることができる。このときに必要な角度精度は数十ナノラジアンである。完全な Si 単結
晶を仮定した場合の設計分解能は 90μeV であったが、実測値は入射スリット幅が 500×92.5μm
μeV、100×22.5μm
2
の時 114μeV となり、入射ビームサイズ依存性を示す(図 14)。
97
2
の時 140
物理標準の高度化に関する研究
図 14.
非対称 4 結晶超高分解能X線分光器のエネルギー分解能。●入射スリット幅 500×92.5μ m2、○入射スリット
幅 100×22.5μ m2
これは光学素子として用いられた Si 単結晶の不均一性を反映したものである。ここで得られたエネルギ
ー分解能ΔE/E= 8×10-9 はこれまでの世界最高分解能X線分光器の分解能の 1/4 となっている[2]。
5)X線干渉計での角度の高精度化
可視光領域で、干渉計は様々な物理量の超高精度計測に利用されている。X線干渉計も原理的には、可
視光干渉計と同一の計測対象をカバーできるし、X線ならではの新しい応用もある。しかしながら、波長
の短いX線により干渉を計測する場合、測定系の安定性は変位量としてピコメータ以下、角度としてナノ
ラジアン領域が要求される。このために、今までのX線干渉計は光学素子を一体繋がった単結晶ブロック
に作り込むモノリシック型が圧倒的に多く、干渉計として自由な光学配置を作ることは非常に困難である
とされていた。
我々は最近、安定性に欠けるX線干渉計でも、干渉ビームの光子を計測することによって、干渉縞のビ
ジビリティが求まることを示し[3]、この方法を分離型X線干渉計での干渉角度領域の決定に用いた[4]。
図 15 に示すように、放射光X線を Si220 反射の非対称コリメータで平行化し、一つの Si インゴットの隣
り合わせの場所から切り出された 2 つのブロック A, B で構成される完全分離型干渉計に入射する。
図 15.
分離型X線干渉計の光学配置模式図
干渉ビームに 2 台の半透過型 Si アバランシェフォトダイオード検出器を入れ、これらの出力信号の時間
98
物理標準の高度化に関する研究
相関をとると、干渉が生じた場合に相関信号が増大することが理論的に示される。実際の測定は、2 つの
干渉計ブロックをそれぞれのブラッグピークの周りの 0.05 秒(約 250 ナノラジアン)ステップのメッシュ
での二次元的な相関信号計測を行った。図 16 に、ブロック A をブラッグ角から-0.5 秒に固定してブロッ
ク B を回転した場合の、時間相関信号、透過側反射強度、反射側反射強度を示す。干渉が生じるのは、時
間相関のピーク内で、干渉が起こっていることは、2 光束の一方に楔型の位相板を挿入し、干渉ビームの
干渉縞を観察することによって確認できる。図 17 は、図 16 の測定と同じ条件で時間相関のピークの周り
で入射角を 0.05 秒ステップで変化させて観測された干渉縞であり、時間相関のピークで確かに干渉縞のビ
ジビリティが高いことを示している。
関信号のピーク内のみであり、角度的には 0.15 秒の幅内である。
図 16.
ブロック B を回転させた時の、時間相関信号(実線)
、透過側反射強度(点線)反射側反射強度(破線)
図 17.
図 16 の時間相関ピークの周りでの透過ビームの干渉縞
図 18 に示した 2 次元マップは 2 つのブロックが平行な位置から 0.15 秒以内で干渉が起きていることを
示している。
99
物理標準の高度化に関する研究
図 18.
考
時間相関信号の二次元マップ。インセットは透過強度。
察
ここでは、第 II 期に実施された研究項目に関しての問題点と今後の課題をまとめておく。エラスティ
ックトーションを用いた高角度分解能回転機構では、バネ定数を考慮することにより、原理的により微小
角の設定が可能であるが、現在のデザインでは分解能に比例して設定範囲も狭くなる。より広い角度範囲
を高分解能で設定するためには、別のデザインを考える必要がある。
標準波長X線選択分光器として 3 つの等価な{111}ピラミッドを用いるものと、4 つの等価な{1
10}を用いるものをテストしたが、{110}を用いるものでは、そのほかに 90°のブラッグ反射が起
きているために、透過波のエネルギー分解能が向上している可能性がある。現状ではこの分解能の正確な
評価はできていないが、近い将来評価方法を確立する必要がある。
ここで行われた研究開発の結果、X線回折、分光、干渉を利用したX線測角技術の高精度化の限界を決
めるのは、レファレンスとして用いられるシリコン単結晶のわずかな不完全性になってきた。その意味で
は、X線を用いた普通の意味での角度の高精度化としてはもはや極限に近づいており、さらに一層の高精
度化のためには別の原理に頼る必要があるように思われる。
引用文献
[1]
W.Kaiser and W. L. Bond, “Nitrogen, a major impurity in common type I diamond,” Phys. Rev.,
115, pp. 857-863 (1959).
[2]
T. Ishikawa and K. Kohra, “Perfect Crystal Methods”, in: Handbook on Synchrotron Radiation,
Vol. 3, eds. G. S. Brown and D. E. Moncton, North-Holland (Amsterdam) pp. 63-104 (1991).
[3]
M. Yabashi, K. Tamasaku, S. Kikuta and T. Ishikawa, “An x-ray monochromator with resolution
8x10-9,” Rev. Sci. Instrum. 72, pp. 4080-4084 (2001).
[4]
K. Tamasaku, M. Yabashi and T. Ishikawa, “X-ray interferometry of multicrystal components using
intensity correlation,” Phys. Rev. Lett., 88 , pp. 044801-1-4 (2002).
100
物理標準の高度化に関する研究
成果の発表
1)原著論文による発表
ア)国内誌(国内英文誌を含む)
1.
M. Yabashi, K. Tamasaku and T. Ishikawa, “Visibility measurement with an x-ray interferometer using
a coincidence technique,” Jpn. J. Appl. Phys., 40, pp. L646-L647 (2001).
イ)国外誌
1.
K. Tamasaku and T. Ishikawa, “Quantitative determination of the spatial coherence from the visibility
of equal-thickness fringes,” Acta Crystallogr. A57, pp. 197-200 (2001).
2.
M. Yabashi, K. Tamasaku and T. Ishikawa, “X-ray intensity interferometry for quantitative
characterization of the x-ray transverse coherence,” Phys. Rev. Lett., 87, pp. 140801-1-4 (2001).
3.
K. Tamasaku, Y. Tanaka, M. Yabashi, H. Yamazaki, N. Kawamura, M. Suzuki and T. Ishikawa, “SPring-8
RIKEN beamline III for coherent x-ray optics,” Nucl. Instrum. Methods, A467-468, pp. 686-689 (2001).
4.
M. Yabashi, K. Tamasaku, S. Kikuta and T. Ishikawa, “An x-ray monochromator with resolution 8x10-9,”
Rev. Sci. Instrum. 72, pp. 4080-4084 (2001).
5.
M. Yabashi, T. Mochizuki, H. Yamazaki, S. Goto, H. Ohashi, K. Takeshita, T. Ohata, T. Matsushita,
K. Tamasaku, Y. Tanaka and T. Ishikawa, “Design of a beamline for the SPring-8 long undulator source
I,” Nucl. Instrum. Methods, A467-468, pp. 678-681 (2001).
6.
A. Q. R. Baron, Y. Tanaka, D. Ishikawa, D. Miwa, M. Yabashi, A. I. Chumakov and T. Ishikawa, “A compact
optical design for Bragg reflection near backscattering,” J. Synchrotron Rad., 8, pp. 1127-1130 (2001).
7.
K. Tamasaku, M. Yabashi and T. Ishikawa, “X-ray interferometry of multicrystal components using
intensity correlation,” Phys. Rev. Lett., 88 , pp. 044801-1-4 (2002).
8.
K. Tamasaku and T. Ishikawa, “Goos-Hänchen effect at Bragg diffraction,” Acta Crystallogr. A58 (2002)
in press.
3)口頭発表
ア)招待講演
1.
T. Ishikawa, “Diffractive x-ray phase retarders,” Gordon Conference on X-Ray Physic, New London, CT,
USA, July 2001.
2.
石川哲也, “X線光学の極限への挑戦,” 大阪大学工学研究科附属超精密科学研究センター開設記念講演会, 吹
田、平成13年11月.
イ)応募・主催講演等
1.
M. Yabashi, K. Tamasaku, H. Yamazaki and T. Ishikawa, “Beam diognostic with correlation techniques
at SPring-8,” 46th Annual Meeting of SPIE, San Diego, CA, USA, August 2001.
2.
J. Hoszowska, A. K. Freund, J. P. Sellschop, C. Detlefs, R. C. Burns, M. Rebak, J. O. Hansen, D. L.
Welch, C. E. Hall, T. Ishikawa, “Characterization of high-quality synthetic diamond crystals by
µm-resolved x-ray diffractometry and topography,” 46th Annual Meeting of SPIE, San Diego, CA, USA,
August 2001.
3.
T. Ishikawa, “SPring-8 Optics,” APS-ESRF-SPring8 Tri-way Workshop, Grenoble, France, November 2001.
101
物理標準の高度化に関する研究
4.
石川哲也, “硬X線領域でのコヒーレンスの利用,” 東京大学物性研究所短期研究会, 柏, 平成13年11月.
102
物理標準の高度化に関する研究
2. 力学関連標準の高度化に関する研究
2.1. トルク関連標準の高度化に関する研究
独立行政法人産業技術総合研究所計測標準研究部門力学計測科質量力標準研究室
大串
要
浩司、上田
和永
約
産業界を含めた社会基盤としての力学系計量標準のうち、トルク標準に関して技術基盤を整備し、社会的に有
効なトレーサビリティ体制の構築に資することを目標に以下の研究を行った。第Ⅰ期は、トルク校正装置の比較
校正方法について検討するためにトルクレンチテスタの性能評価を行った。次に定格容量 1 kN・m の実荷重式トル
ク標準機(1 kN∙m-DWTSM)を開発し、各部諸機能の評価を行った。第Ⅱ期は 1 kN∙m -DWTSM の最高測定能力の評
価、校正方法の確立を経て標準供給を開始した。また国際比較を実施した。次に定格容量 20 kN・m の実荷重式ト
ルク標準機(20 kN∙m-DWTSM)を設計・試作し、ハードウェアの完成に至った。
目
的
輸送機器、工作機械など回転駆動系を有するものから、ボルト、ナット等の締結に至るまで、トルクは安全管
理・保証の観点から各種産業分野で広く扱われる力学量の一つである。トルクの大きさはトルクメータ、トルクレ
ンチ等のトルク計測機器を用いて検証・管理される。これらトルク計測機器の性能保証には、トルク標準の確立、
並びにトルク計測機器の校正方法の規格整備が不可欠である。我が国ではトルク標準が設定されていないので、
計測機器メーカがアームの長さと分銅の質量で自社製品の検証を独自に行っているのが現状であり、それが国際
取引で発生している様々なトラブルの原因となっている。また近年のハイテク機器の小型化、高性能化に伴い、
トルク計測値の高精度化、高信頼性化を必要とする分野が増えてきている。これらの背景から,トルク標準トレ
ーサビリティ体制の早期確立を目標に、第Ⅱ期では主として 1 kN∙m-DWTSM の総合的性能評価を実施し、標準供給
を開始する。また 20 kN∙m-DWTSM の開発を行う。さらに国際整合性確保の為、1 kN∙m レンジでの国際比較を実施
する。
研究方法
1)1 kN∙m トルク標準機の総合的性能評価
校正範囲 5 N∙m∼1 kN∙m の実荷重式トルク標準機(1 kN∙m-DWTSM)の外観を図 1 に示す。不確かさ要素として、
第Ⅰ期では下記の評価が終了している。
103
物理標準の高度化に関する研究
(2) Bearing parts for Fulcrum (Aerostatic bearing )
(7) Installation parts of
the torque transducer
T
L0
T = F L0 = m g L 0
(6) Torque transducer
F=mg
(3) Arm parts
•Mass: m [kg]
•Acceleration
of gravity: g [m/s2]
•Length: L0 [m]
•Force: F [N]
•Torque: T [N・
[N・m]
(5) Bearing parts
for counter torque
(1) Pedestal parts
図1
(4) Weight loading parts
1 kN∙m 実荷重式トルク標準機の外観
(1)
連鎖分銅の質量 Umass; ±5 ppm
(2)
20 ゚ C におけるモーメントアームの初期長さ Uini_lgt; ±10 ppm
(3)
校正環境中でのモーメントアーム長さの温度補正 Uact_lgt; ±12 ppm
(初期長さの測定の不確かさ Uini_lgt を含む)
(4)
支点感度の再現性 Ussv; ±2 ppm
(5)
支点感度限界 Usr; ±10 ppm
第Ⅱ期では、1 kN∙m-DWTSM の最高測定能力を推定するために、下記の項目について評価を行う。
(1)
モーメントアームのたわみによる長さ変化
(2)
トルクメータの出力感度に及ぼすカップリングの影響
2)トルク国家標準の国際比較
ドイツを幹事国とし、中国、日本の三ヶ国による国際比較を実施する。ドイツ→中国→日本→ドイツの順序で
トランスファ標準器(TTS)である超精密トルク変換器群及び指示計を各国に配送し、各標準研究所のトルク標準
機を用いて TTS 各 1 台につき下記のプロトコルに従って校正を実施する。
・トルク方向:右ねじり、左ねじり
・設置方向:0, 120, 240°
・トルクステップ:各定格容量の 10, 20, 30, 40, 50, 60, 80, 100 %の 8 ステップ。
・サイクル:0°は増加方向 2 サイクル、減少方向 1 サイクル。120, 240°は増減方向 1 サイクル。
使用した TTS は定格容量 100 N∙m、500 N∙m、1 kN∙m の計 3 台である。
3)20 kN∙m トルク標準機の開発
校正範囲 200 N・m∼20 kN・m で目標最高測定能力を±200 ppm とした実荷重式の大容量トルク標準機の設計・製作
を行い、基本機能の評価を行う。全範囲の分銅整備、調整を行い、また自動計測化を図り、ハードウェアを完成
させる。さらに当初計画から更に展開し、実校正環境中でのアーム長さの温度補正を行う。
104
物理標準の高度化に関する研究
研究成果
1)1 kN∙m トルク標準機の総合的性能評価
モーメントアームのたわみによる長さ変化:
図 2 にモーメントアームの外観を示す。
Moment-arm
Linear encorders
2R, 1R
Auxiliary-arm
Retro reflector
Laser
head
Linear encorders
2L, 1L
Bender
Interferometer
図2
Splitter
モーメントアームの外観(1 kN∙m-DWTSM)
1 kN∙m-DWTSM は、負荷のかからない補助アームに取り付けたリニアエンコーダ(1R、1L)でアーム先端の鉛直
方向の変位を監視しながら、分銅負荷により傾斜したアームを反動軸受側のサーボモータにより水平位置にフィ
ードバック制御する機構を持つ。まず、トルク標準機に定格 1 kN∙m のトルク変換器を設置し、右、左ねじりそれ
ぞれ 1 kN∙m まで 100 N∙m/step で負荷を行った。そのときのアームのたわみを力点にあるリニアエンコーダ(2R、
2L)で、また長さ変化を光波干渉計でそれぞれ測定した。単純繰り返しで 2 回、トルクメータの再取り付けを行
って 5 回、計 10 サイクルの測定を行った。リニアエンコーダ並びに光波干渉計の校正の不確かさはそれぞれ±1 µm
と±10-6/∆L(∆L は測定長)である。
図 3 及び図 4 にたわみ及び長さ変化の測定結果を示す。
25
Flexure, µ m
20
15
10
Right-hand
5
Left-hand
0
-1000
-500
図3
0
Torque, Nm
500
モーメントアームにおけるたわみの測定結果
105
1000
物理標準の高度化に関する研究
Variation of the length, µ m
5.0
4.0
Right-hand
3.0
Left-hand
2.0
1.0
0.0
-1.0
-2.0
-3.0
-4.0
-5.0
-1000
-500
図4
0
Torque, Nm
500
1000
モーメントアームにおける長さ変化の測定結果
10 サイクルの再現性は最大でも 1 µm 及び 0.05 µm である。たわみはほぼ線対称になっており、アームが理想
的に変形していることがわかる。長さ変化については、右ねじりの時は長くなるのに対して左ねじりの時は変化
がない。これは組立加工時の左右アンバランスと、力点に使用されているメタルバンドのばね効果が影響してい
るものと推定される(これについては後述する)。いずれにしても、±1 kN∙m の負荷の範囲で、長さ変化は±1 µm
以内であった。これは公称長さ 500 mm に対して±2 ppm である。
カップリングの影響:
トルク変換器をトルク校正装置に設置したときのミスアライメントに依存する出力感度
の変化は、Bruge ら[1]によって詳細に調べられている。ここでは、当所の 1 kN∙m-DWTSM 自身が持つミスアライメ
ントが、トルクメータの出力感度に及ぼす影響を調べる必要がある。1 kN∙m-DWTSM は、その測定軸のミスアライ
メントを±10 µm で調整してある。一方、支点には空気静圧軸受を使用しているが、そのクリアランスは 27 µm
であるため、トルクメータの設置によるミスアライメントが原因となってシャフトとハウジングの接触を引き起
こす危険性がある。そのためトルク標準機には図 5 下部のようにトルクメータとの間にダイヤフラム(シングル
カップリング)が設けられ、ミスアライメントを許容する構造になっている。
106
物理標準の高度化に関する研究
Rigid Connection (RC)
One side diaphragm (OD)
Both diaphragm (BD)
図5
カップリング条件
そこでトルク変換器の両側にダイヤフラムを設けた場合(BD)
、トルク変換器の反動側にのみダイヤフラムを設
けた場合(OD)、そしてダイヤフラムを使用せずに直接トルク変換器を設置する場合(DC)の、3 種類のカップリ
ングでトルクメータの出力変化を調べた。実験に供したトルク変換器 TB1S は、定格容量 1 kN∙m、ディスク形、非
回転式で、曲げモーメントの影響を小さくするために薄型となっている。電気指示計には高精度ひずみ計測器(分
解能 1,000,000 digits)を使用した。定格容量までの等負荷 10 ステップ、増減繰り返し 2 回、4 方向の設置変更
で、左右ねじりをそれぞれ負荷した。
設置未変更の繰り返し性誤差の計算結果を図 6 に示す。
100
80
Repeatability, ppm
60
40
20
0
-20
-40
RC
OD
BD
-60
-80
-100
-1000
-500
0
500
1000
Torque, Nm
図6
トルクメータの出力感度に及ぼすカップリングの影響(繰り返し性)
これよりトルクメータの持つ繰り返し特性は、標準機のカップリング条件に依存しないことがわかる。偏差の
値の違いはそれぞれの条件間で 3 ppm 未満である。次に校正結果(出力の平均値)の全平均値からの偏差を図 7
に示す。
107
物理標準の高度化に関する研究
100
Relative deviation, ppm
80
60
40
20
0
-20
-40
RC
OD
BD
-60
-80
-100
-1000
-500
0
500
1000
Torque, Nm
図7
トルクメータの出力感度に及ぼすカップリングの影響(校正結果)
標準機のカップリング条件による違いは最大でも 13 ppm 未満である。図 6 の結果と合わせて考えると、標準機
のダイアフラムカップリング自身はトルクメータの出力感度に影響を及ぼしていないと推定できる。また通常の
トルク校正時には、常に BD のカップリング条件で校正を行うので今回の実験結果以上の偏差が現れることはない。
従ってカップリングの影響は標準機の最高測定能力の見積から除外できる。
1 kN∙m-DWTSM の最高測定能力:
連鎖分銅の質量 Umass、校正環境中でのモーメントアーム長さの温度補正 Uact_lgt
(初期長さの測定の不確かさ Uini_lgt を含む)、支点感度の再現性 Ussv、支点感度限界 Usr およびモーメントアームの
たわみによる長さ変化 Uflx_lgt を考慮すると、校正範囲 5 N·m∼1 kN·m に対して 1 kN·m -DWTSM の最高測定能力は
次式で評価でき、
u 2 c _ tsm = ( U mass / 2 )2 + ( U act _ lg t / 2 )2 + ( U ssv / 2 )2 + ( U sr / 2 )2 + ( U flx _ lg t / 2 )2
U tsm = k ⋅ uc _ tsm
(k = 2)
(1)
(2)
結論として、最高測定能力 Utsm < ±25 ppm が得られる。現時点で特定できない他の影響を考慮に入れても、±50
ppm は超えないと推定される。
2)トルク国家標準の国際比較
比較結果の一例を図 8 に示す。
108
物理標準の高度化に関する研究
0.000
Rel. Dev., %
-0.005
-0.010
TT1/500 Dec.
TT1/500 Inc.
-0.015
-0.020
-500 -400 -300 -200 -100
0
100
Torque, N·m
図8
200
300
400
500
国際比較結果の一例(50∼500 N∙m)
図 8 は、産業技術総合研究所計量標準総合センター(NMIJ/AIST)の 1 kN∙m ‐DWTSM を用いて定格容量 500 N・m
の TTS を校正した結果を、ドイツ物理工学研究所(PTB)のトルク標準機を用いて校正した結果からの相対偏差で
表している。増加トルクに関しては 75 ppm 以内、減少トルクを含めても 100 ppm 以内で一致が見られた。
PTB、NMIJ のトルク標準機の相対拡張不確かさをそれぞれ±20 ppm、±50 ppm とすると、TTS の校正の不確かさ、
短期安定性、温度の影響、校正時のクリープの影響、及び指示計の安定性を考慮した En 値の計算結果は、今回の
比較範囲 10 N∙m∼1 kN∙m において、0.7∼2.0 となった。
3)20 kN∙m トルク標準機の開発
定格容量 20 kN・m の実荷重式トルク標準機(20 kN∙m -DWTSM)の外観を図 9 に示す。
109
物理標準の高度化に関する研究
支点軸受部(エアベアリング)
トルク変換器設置部
反動軸受部
トルク変換器
架台本体
アーム部
図9
分銅載荷部
20 kN∙m 実荷重式トルク標準機の外観
本機はモーメントアーム先端に精密分銅を載荷する方式で高精度なトルクを発生させる装置で、標準機内部に
発生するトルク負荷を支える高剛性の架台本体、スライダ式分銅切替機構及びエレベータ式分銅加除機構を備え
た分銅載荷部、左ねじり/右ねじり方向のトルクの発生が可能で、かつ精密にモーメントアームの傾斜及びたわ
みが測定できるアーム部、支点摩擦を消去するためのエアベアリングユニットを備えた支点軸受部、反動トルク
を受け、かつ傾斜したアームの水平制御機構を有する反動軸受部、トルク変換器を設置してトルクを伝達する各
種治具から成るトルク変換器設置部、及び計測∙制御∙操作部から構成される。特に図 10 に示す支点軸受部には、
アームを挟む形で世界最大級(シャフト直径 400 mm、長さ 420 mm)のエアベアリングを 2 基使用し、耐ラジアル
荷重と共に耐曲げモーメント負荷も向上させている。以下では各構成要素の評価結果を述べる。
Ì材質: オーステナイト系
ステンレス鋼 (SUS304)
ステータ
ノズル 2-(2x18)
420 mm
Ì軸受形式: 2列吸気溝式空気静圧軸受
Ìロータ/ステータ間
のクリアランス: 17 µm
Φ 400 mm
Ì供給空気圧力: 900 kPa ± 1 kPa
溝
Ìラジアル方向
の剛性: > 1.4 kN/µm
Ìラジアル方向
の最大許容負荷: > 22 kN
Ì2基間の同軸度: < 5 µm
圧縮空気
図 10
連鎖分銅の質量測定:
ロータ
アーム
圧縮空気
支点軸受部の構造(20 kN∙m-DWTSM)
質量測定は電子天びんをコンバータとして置換ひょう量法で行った。標準分銅(R)を 7
回、受験分銅(S)6 枚づつを各 1 回、すなわち RSRSRSRSRSRSR の測定を 5 回繰り返した。それぞれ 200 N、500 N、
110
物理標準の高度化に関する研究
1 kN 及び 2 kN の力を発生させるのに必要な協定質量値 mc は、トルク標準機の設置場所における重力加速度
glocal=9.7994848 m/s2 を考慮して計算し、200 N では 20.41230 kg、500 N では 51.03075 kg、1 kN では 102.0615 kg、
そして 2 kN では 204.1230 kg となった。測定の不確かさは OIML R111_1994 に従って計算した。不確かさ要素はひ
ょう量過程における標準不確かさ uw(∆mc)、参照分銅の不確かさ u(mr)、空気の浮力補正の不確かさ ub(∆m)、天び
んの不確かさ uba(∆m)、公称値 mc に対する測定値 mt の偏差 u(Dmc)である。これらの二乗和平方根より合成標準不
確かさ uc(mt)を計算し、包含係数 k=2 として拡張不確かさ U(mt)を算出した。
不確かさの解析結果の一例を表 1 に示す。表 1 は 200 N 系列の No.1 の結果を表している。これより支配的な要
素は参照分銅の質量の不確かさであることがわかる。相対拡張不確かさを算出した結果、いずれの分銅も±6 ppm
以内にあった。
Weight No.200N-01
mc
20.412298 kg
mt
20.412303 kg
Uncertainty
uw(∆mc)
6.3 mg
u(mr)
20.2 mg
ub(∆m)
0.8 mg
uba(∆m)
2.6 mg
U(Dmc)
4.8 mg
uc(mt)
21.3 mg
U(mt)
42.7 mg
U(mt)
表1
2.6 ppm
連鎖分銅の質量校正結果の一例
モーメントアームの初期長さ測定:
(20 kN·m-DWTSM)
三次元測定機(CMM)を用いて温度 23℃におけるモーメントアームの初期
長さを測定した。図 11 にモーメントアームの形状∙寸法を示す。
L0
L0
Lu
h2
tw
h1
h’
バンド固定板2
バンド固定板2
バンド固定板1
バンド固定板1
メタルバンド
図 11
モーメントアームの形状(20 kN∙m-DWTSM)
111
物理標準の高度化に関する研究
アーム端部の分銅載荷部には厚さ 400 µm のベリリウム銅製バンド(メタルバンド)を使用している。三次元測
定機ではアーム本体の長さ Lu とメタルバンド固定部の厚さを測定した。その際、メタルバンドを挟んだ場合とそ
うでない場合でバンド固定部の厚さ(h1+h2 及び h1+h2+tw)を測り、メタルバンドの厚さ tw を算出した。不確かさ
要素としては、参照標準の不確かさ uref, Lu 測定の不確かさ u(Lu)、tw 測定の不確かさ u(tw)が挙げられる。uref に
は、参照用ゲージブロックの不確かさに CMM の分解能、温度の影響等を考慮し、Lu 並びに tw については、温度補
正の不確かさ(温度計の不確かさ)u(∆t)、モーメントアームの線膨張係数の不確かさ u(α)、繰り返し性誤差 urg、
測定点位置の違いによる誤差 ump、組立∙分解の再現性誤差 urp、メタルバンドの締結トルクによる厚さ変化の誤差
utq をそれぞれ見積もった。
モーメントアーム初期長さの測定結果を表 2 に、
Lu
tw
L0
Left-hand(ACW) Right-hand(CW)
999.8109
999.8421
0.4053
0.4061
1000.0135
1000.0452
表2
モーメントアーム初期長さ測定結果
また不確かさ解析結果を表 3 に示す。
0.39
µm
0.08
K
0.68 10-6/K
u rg(L u)
0.72
µm
u rp(L u)
1.04
µm
u ll (L u)
1.27
µm
u (L u)
1.87
µm
0.05
K
u (∆t )
0.68 10-6/K
u (α )
u rg(t w)
0.24
µm
u mp(t w)
2.26
µm
u rp(t w)
1.06
µm
u tq(t w)
2.08
µm
u ll (t w)
3.26
µm
u (t w)
3.26
µm
u c(L 0)
3.78
µm
U (L 0) (k =2)
7.55
µm
* excluding E-error and Probing error of CMM because
of comparative calibration with reference GBs
u ref *
u (∆t )
u (α )
表3
初期長さ測定の不確かさ解析結果
公称長さ 1000 mm に対して、右ねじり側は L0=1000.0452 mm、左ねじり側は 1000.0135 mm であった。拡張不確
かさは U(L0)=±7.6 µm (k=2)であった。
実環境中におけるモーメントアームの長さ補正:
最高測定能力の評価に不可欠な実校正環境中におけるモー
メントアームの長さ補正を実施した。20 kN∙m トルク標準機が設置されている校正室内で、アーム及び周辺環境の
温度測定を行った。合成抵抗式サーミスタセンサ 12 本を製作し、測定に供した。これらのサーミスタセンサは測
定前後に校正を行っている。温度測定システムを図 12 に示す。
112
物理標準の高度化に関する研究
Aerostatic bearing
6ch
5ch
Moment arm
8ch 7ch
Thermistor
sensors
10ch
11ch
4ch
3ch
2ch
9ch
1000 mm
1000 mm
Windshield
Personal
computer
1ch
12ch
Digital Multi-meter
GP-IB
23.00ºC
図 12
温度計測システム
12 ch は標準機中央の空気環境中に、9、10 及び 11 ch は風防内のモーメントアーム近傍空気環境中にそれぞれ
設置し、1∼8 ch のセンサは周囲環境から断熱してモーメントアームに直接貼付した。トルク校正時の条件を再現
するために、実際に標準機の電源投入に始まり、エアベアリングへの圧縮空気の供給、モーメントアームの水平
姿勢制御、電源断まで、1 日約 12 時間の連続測定を行い、これを 6 日間反復した。ある 1 日の測定結果を図 13 に
示す。
23.6
Power on
23.4
Temparature, C
23.2
23.0
22.8
22.6
Power off
22.4
12ch
3ch
6ch
9ch
22.2
22.0
6:00
9:00
図 13
12:00
15:00
Time
1ch
4ch
7ch
10ch
18:00
温度測定結果の一例
113
2ch
5ch
8ch
11ch
21:00
0:00
物理標準の高度化に関する研究
これより、校正室環境内の温度(12 ch)はモーメントアームの温度を約 0.2 K 下回るが、風防内のアーム近傍
の空気(9 及び 11 ch)はモーメントアームのそれとほぼ一致していることがわかる。この結果は 6 日間の測定全
てにおいて同様であった。従って 9, 11 ch の温度測定によりモーメントアームの温度を推定することができる。
長さ補正の不確かさ Uact_lvr は 21∼25 ゚ C の範囲でかつ校正室の温度制御条件が変わらなければ±13 ppm である。
4)1 kN∙m トルク標準機による標準供給の開始
上記1)、2)で述べた成果に基づいて、1 kN∙m ‐DWTSM によるトルクメータの校正サービスを 2002 年 2 月より
開始した。
考
察
1 kN∙m ‐DWTSM を用いた国際比較については、100 ppm 未満レベルでは初の国際比較としては良好な結果が得ら
れたものと考えられる。しかしながら En 値が 1 を上回る測定点がいくつかあった。この偏差の原因には TTS の安
定性等に加え、各標準研究所におけるトルク標準機の不確かさの妥当性が考えられる。NMIJ 側で考慮すべき点は、
アーム長さを決定づける分銅力点となるメタルバンドの力点移動が挙げられる。メタルバンドの極めて微小なス
プリング効果が分銅負荷に依存した数µm 程度のアーム長さの変化を引き起こしている。この点についてはメタル
バンドの変位とアーム長さの変化に基づくトルク出力変化を計測することで補正が可能で、将来計画される多国
間の基幹比較等で、更に高精度な一致が期待される。
これまで我が国で未整備であったトルク標準の一部(5 N∙m∼1 kN∙m)に関して、1 kN∙m ‐DWTSM の総合的性能
評価を実施し、標準供給を開始できたことは大きな成果の一つである。この成果を産業界に普及させるための技
術基準作成が当面の課題である。
大容量の範囲(200 N∙m∼20 kN∙m)をカバーできるトルク標準機(20 kN∙m ‐DWTSM)の開発に至ったことも特
筆すべき事項である。当初の目標であった分銅質量の不確かさ±15 ppm とモーメントアームの初期長さの不確か
さ±35 ppm に対して、それぞれ±6 ppm、±8 ppm を達成することができた。自動計測による高度化も図り、ハー
ドウェアを完成させ、第Ⅱ期の目標を達成することができた。今後は各諸機能の性能評価、不確かさの見積もり
を早期に実施し、200 N・m∼20 kN・m の範囲の供給体制を整備することが大きな課題である。
引用文献
[1]
A. Brüge, D. Peschel and D. Röske, “The Influence of Misalignment on Torque Transducers,” Proceedings
of IMEKO-XVI World Congress, Vol.3, 13-17, 2000.
成果の発表
1)原著論文による発表
ア)国内誌(国内英文誌を含む)
1.
K.Ohgushi, K.Katase, T.Ota and T.Tojo, “Performance Examination of the Lever-Type Torque-Wrench Tester,”
Bulletin of NRLM, Vol.48, No.4, 427-431, 1999.
イ)国外誌
1.
K. Ohgushi, T. Tojo and A. Furuta, “Development of the 1 kN·m Torque Standard Machine,” Proceedings of
IMEKO-XVI World Congress, Vol.3, 217-223, 2000.
114
物理標準の高度化に関する研究
2.
T. Tojo, K. Katase and K. Ohgushi, “Performance of a 50 N Force Standard Machine,” Proceedings of IMEKO-XVI
World Congress, Vol.3, 275-280, 2000.
3.
K. Ohgushi, T. Ota, Y. Katase and T. Tojo, “Sensitivity Measurement in the 1 kN·m Torque Standard Machine
-An Aerostatic Bearing for the Fulcrum Unit-,” ACTA of the 5th Asia-Pacific Symposium on Measurement of Force,
Mass and Torque, 99-104, 2000.
4.
K. Ohgushi, T. Ota, Y. Katase and T. Tojo, “Estimation of the Best Measurement Capability in the 1 kN·m Deadweight
Torque Standard Machine,” Proceedings of the 17th IMEKO TC-3 International Conference, 326-332, 2001.
5.
K.Ohgushi, K. Ueda, T. Ota and Y. Katase, “Sensitivity Evaluation of a Disk-Type Transducer used as a Transfer
Device,” Journal of Testing and Evaluation, Vol.30, No.2, 160-164, 2002.
6.
K. Ohgushi, T. Ota, K. Ueda and E. Furuta, “Design and Development of The 20 kN·m Deadweight Torque Standard
Machine,” Proceedings of the 18th IMEKO TC-3 International Conference, submitted to the IPC, 2002.
2)原著論文以外による発表(レビュー等)
ア)国内誌(国内英文誌を含む)
1.
大串浩司, 「トルク標準と計測技術に関する調査研究」, 計量研究所報告, 47-2, 191-203, (1998).
2.
大串浩司, 「トルク標準機の開発 ―ねじる力の標準供給に向けて―」, AIST Today, 2-1, 18, 2002.
イ)国外誌
なし
3)口頭発表
ア)招待講演
なし
イ)応募・主催講演等
1.
大串浩司・片瀬勝久・太田孝・東城琢郎, 「トルクレンチテスタの性能評価試験」, 第 37 回計測自動制御学会学術
講演会, 千葉, 1998-7.
2.
大串浩司・大田孝・片瀬勝久・東城琢郎・古田英二, 「1 kN·m トルク標準機の開発」, 平成 11 年度 第 2 回計量研究
所成果発表会(力学部関連), つくば, 1999-7.
3.
K.Ohgushi, K.Katase, T.Ota and T.Tojo, “Performance Examination of the Lever-Type Torque-Wrench Tester,”
IMEKO-XV World Congress, Osaka, Japan, 1999-7.
4.
大串浩司・大田孝・片瀬勝久・東城琢郎, 「トルク標準機におけるモーメントアームの特性評価」, 平成 12 年度 第
2 回計量研究所成果発表会(力学部関連), つくば, 2000-8.
5.
大田孝・大串浩司・片瀬勝久・東城琢郎, 「トルク標準機における支点軸受の感度測定」, 平成 12 年度 第 2 回計量
研究所成果発表会(力学部関連), つくば, 2000-8.
6.
大串浩司・太田孝・片瀬勝久・東城琢郎, 「トルク標準機における支点軸受の感度測定(空気静圧軸受と転がり軸受
の摩擦特性比較結果)」, 第 40 回計測自動制御学会学術講演会, 名古屋, 2001-7.
7.
大串浩司・太田孝・上田和永, 「20 kN·m 実荷重式トルク標準機の開発」, 平成 13 年度 第 1 回 計測標準研究部門成
果発表会, つくば, 2002-1.
8.
K. Ohgushi, T. Tojo and A. Furuta, “Development of the 1 kN·m Torque Standard Machine,” IMEKO-XVI World
Congress, Vienna, Austria, 2000-9.
9.
K. Ohgushi, T. Ota, Y. Katase and T. Tojo, “Sensitivity Measurement in the 1 kN·m Torque Standard Machine
-An Aerostatic Bearing for the Fulcrum Unit-,” 5th Asia-Pacific Symposium on Measurement of Force, Mass and
Torque, Tsukuba, Japan, 2000-11.
10. K. Ohgushi, T. Ota, Y. Katase and T. Tojo, “Estimation of the Best Measurement Capability in the 1 kN·m Deadweight
115
物理標準の高度化に関する研究
Torque Standard Machine,” 17th IMEKO TC-3 International Conference, Istanbul, Turkey, 2001-9.
11. K.Ohgushi, “Uncertainty Evaluation of the 1 kN·m Deadweight Torque Standard Machine,” APMP TCM workshop,
Tsukuba, Japan, 2001-11.
12. K. Ohgushi, T. Ota, K. Ueda and E. Furuta, “Design and Development of The 20 kN·m Deadweight Torque Standard
Machine,” 18th IMEKO TC-3 International Conference, submitted to the IPC, 2002-9.
4)特許等出願等
なし
116
物理標準の高度化に関する研究
2. 力学関連標準の高度化に関する研究
2.2. 圧力標準の高度設定技術に関する研究
2.2.1. 低圧力及び高圧力の標準の研究
独立行政法人産業技術総合研究所力学計測科
大岩
彰
力学計測科圧力真空標準研究室
小畠
要
時彦、米永
暁彦、平田
正紘
約
低圧力標準は、レーザ干渉式油マノメータの液位差測定システムを改良できた。遠心式微差圧発生装置の発生
圧力の安定性と再現性の評価を行い、実用可能なレベルに達していることを確認した。高圧力標準は、隙間制御
方式の 1GPa 高圧力標準装置の整備と試験を進めると共に、NIST と共同で隙間制御の方法の技術を確立した。増圧
式超高圧力発生装置の加圧試験を実施し、その成果を基に装置整備を進めた。二台の圧力天秤間の平衡圧力を高
精度に決定する方法を確立した。日本、米国とエジプトの3ヵ国で 200MPa の国際比較を行い、圧力標準の国際整
合性を確認した。
研究目的
1 kPa 以下の低圧力から 500 MPa を越える高圧力の領域で一次標準を確立するとともに、当該領域における高精
度校正技術を開発し、圧力標準の供給に関わる技術的基盤を整備する。低圧力標準は、1Pa 以下の領域では元電
子技術総合研究所が、1kPa 以上の領域では元計量研究所が標準を保有してきたが、その中間の圧力範囲において
標準と呼べるものが現在まで存在していなかった。そのため従来から、半導体製造分野・空調関連分野等で、本
圧力範囲の低圧力、微差圧力標準に関する要望が強く、これらのニーズに応えるため本研究を行う。圧力標準と
真空標準の一貫性を確保し、相互に信頼性を高めるためにも、本研究が必要である。高圧力標準は、500MPa を越
える高圧力の領域で一次標準を確立するとともに、当該領域における高精度校正技術を開発し、圧力標準の供給
に関わる技術的基盤を整備することが目的である。圧力標準の国際的及び国内的な整合性の確保をはかる。
研究方法
低圧力標準に関しては、1 Pa ‐1 kPa の低圧力を絶対測定するために当所(元計量研究所)考案のレーザ干渉式
油マノメータ[1]の改良、この圧力の微差圧を安定に発生するために遠心式微差圧発生装置[2]の特性評価、この
圧力の2次標準季に使うダブルテーパ・シリンダによる無回転ピストン安定化機構を用いた差動微差圧計 VLPPS
( Very Low Pressure Primary Standard ) [3]の性能評価、トランスファー用の差圧センサの特性評価を行い技
術的基盤を整備する。
高圧標準に関して、1 GPa(一万気圧) までの液体高圧力標準を設定するために、高圧力標準実験装置を試作
し、その性能評価をおこなう。重錘自動交換装置、圧力調整装置を備えることにより、操作の簡便化と安全をは
117
物理標準の高度化に関する研究
かる。圧力によるピストンシリンダの変形の影響を出来るだけ少なくするため、隙間制御式ピストンシリンダ方
式を用いた装置とする。発生圧力の不確かさ低減のために、最適な隙間制御圧を決定する手法を開発する。推力
をピストンシリンダに作用させ、増圧機構によって超高圧力を安定に発生する増圧式超高圧力発生装置を用いて、
2.5 ∼2.7 GPa 付近にあるビスマスの圧力定点の確認試験をおこない、その圧力点を用いて、圧力ゲージの校正
をおこなう。我が国の高圧力標準の国際整合性を確認し、当該領域における圧力測定の信頼性を確保する。当該
領域における高精度校正技術を開発し、圧力標準の供給に関わる技術的基盤を整備する。
研究成果
低圧力標準では、レーザ干渉式油マノメータの液位差測定システムを改良した。液面の移動に対する追従性の
改善、単位時間あたりのサンプリング数増加に伴う計測の信頼性向上を目的に、横モードゼーマンレーザのビー
ト周波数を高周波化(約 710 kHz )と干渉ビート信号計測用位相差カウンタの内部クロックの高周波化(180 MHz )
を行い、高速サンプリングを可能とした。
当所が考案の遠心式微差圧発生装置 (900Pa フルスケール)の市販品が完成し、発生圧力の安定性と再現性を
評価した。図1に、原理図と試験中の装置の写真を示す。
図1.遠心式微差圧発生装置の内部構造と概観写真
円盤上のパイプ(実際には、放射状のスリット)を高速に回転すると円盤の中心部の圧力が外周部に比べ系内
の圧力に依存して高くなるというものである。安定な微差圧が発生でき、図2に示すロータ回転速度と発生差圧
との差の関係が得られた。図3に示すように、理論値と実測値との差も 0.6%以内であることがわかった。
118
物理標準の高度化に関する研究
ロータ回転速度−発生差圧
1000.0
発生差圧 ( Pa )
100.0
10.0
1.0
0.1
100
1000
10000
ロータ回転速度 ( rpm )
発生差圧(BARATRON)
理論値
図2.遠心式微差圧発生装置のローター回転速度と発生微差圧との関係
( 理論値−差圧センサで測定した発生圧力 )
0.6
0.4
0.2
圧力差 ( % )
0.0
-0.2
-0.4
-0.6
-0.8
-1.0
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
ロータ回転速度 ( rpm )
図3.遠心式微差圧発生装置の実際の発生圧力と理論値との差
高圧力標準では、隙間制御型圧力標準器の特性評価手法を開発するために、米国国立標準技術研究所(NIST)と
共同研究を行った。図4に重錘形圧力標準器のピストンシリンダの型式、図5に実験装置の概略を示す。
119
物理標準の高度化に関する研究
重錘
Mg
Mg
高圧力標準の開発
ピストン
(有効断面積 A)
シリンダ
隙間制御外圧
パッキン
高圧下における
ピストンシリンダ
形状の精密評価
が必要
ハウジング
圧力 (P)
(a)
圧力 (P)
(b) 隙間制御型
単純型
超高圧力下においては変形量が著しく、
ピストンシリンダ間の隙間が大きくなる。
超高圧力下においても、ピストンシリンダ間の
隙間を制御でき有効断面積の
不確かさを低減できる。
図4.重錘形圧力標準器のピストンシリンダの型式
Digital
voltmeter
Amplifier
Amplifier
Laser displacemen
Sensor
Amplifier
Float position
and temperature
indicator
Upper yoke
Thermometer
Housing of
Piston-cylinder
Assembly
Hand pump B
Transducers B
Transducers A
GPIB
Computer
Shut-off
valve
Hand pump A
Motor
Lower yoke
Hand pump C
Weights
Tare and/or
transfer gauge
Air-operated
constant volume valve
Jack
High pressure
control clearance gauge
図5.隙間制御型圧力標準器と実験装置
はじめに、ピストンシリンダ間の隙間を零にするための制御外圧、次に制御外圧変化による発生圧力の変化を
測定から評価した。これらの結果から、ピストンシリンダの有効断面積を発生圧力と制御外圧の関数として評価
することができる[4]。図6は、隙間制御圧力による有効断面積の補正量の計算結果である。
120
物理標準の高度化に関する研究
(a)
0.0
0.0
A [×10-2]
B [MPa]
(b)
12.3
15.4
(c)
25.0
10.0
(d)
40.0
7.2
Pj = (A/100)·Pn + B
600
(a)
(b)
(c)
(d)
-6
Cj [×10 ]
500
400
300
200
100
170 ppm at
Pj =0, Pn =0 MPa 0
0
↓
Clearance ≈0.36 µm
50
100
150
200
250
300
P n [N]
図6.隙間制御圧力による補正量の計算結果
制御外圧 Pj を調節することにより、補正量をほぼ一定に保つことができる。また、大気圧下でのピストンシリ
ンダ間の隙間の大きさを推定することも可能である。図7に測定から評価された有効断面積の拡張不確かさを示
す。
100
-6
U (Ae )/Ae [×10 ]
90
(a)
(b)
80
70
(c)
(d)
60
50
40
30
20
0
50
100
150
200
250
300
P [MPa]
図7.隙間制御圧力による有効断面積の拡張不確かさの変化
増圧式超高圧力発生装置に関しては、加圧試験を実施し、その成果を基にピストンシリンダ部、増圧装置によ
る発生力を正確に測定するためのロードセルの取得など、装置整備を進めた。
国際比較試験をおこない、我が国の高圧力標準の国際整合性を調べた。媒体は油、圧力範囲は 40 MPa ∼ 200 MPa
である。参加研究所は、NMIJ/AIST(Japan)、NIST(USA)、NIS(Egypt) の3研究所である。比較結果から、上記の
圧力レンジにおいて、各研究所が主張している値の整合性が確認された[5]。図8に測定に用いた装置の概略図、
図9に測定結果の一例を示す。日米エジプト間で 40 MPa ∼ 200 MPa の国際比較を行ない、値の整合性が拡張不
確かさの範囲で確認された。
121
物理標準の高度化に関する研究
Float position and
temperature indicator
Computer
GPIB
Shut-off
valve
Hand pump
Base B and mass set B Air-operated Base A and mass set A
for PCA_i
for PCA_ j constant volume valve
図8.国際比較試験に用いた装置の概略図
-6
D _ 2/1 [×10 ]
100
0
-100
0
50
100
150
200
p [MPa]
図9.国際比較試験結果の一例、NIST、NMIJ/AIST 間の偏差とその拡張不確かさ
二台の圧力天秤間の平衡圧力を高精度に決定する新しい方法を開発した。本方法では、一台の高分解能圧力計
と二台の空気作動式定容積圧力弁を用いる。空気作動式定容積圧力弁は二つの液体圧力を、管内の容積変化無し
に導通・切り離しするための装置である[6]。開閉動作は圧力弁に供給する空気圧力を変化させることにより制御
可能である。図10に測定に用いた装置の概略図を示す。
122
物理標準の高度化に関する研究
VV A
Pressure
balance
A
Pressure
transducer
CVV A
VV B
Pressure
balance
B
CVV B
図10.二台の圧力天秤間の高精度差圧測定のための装置概略図、
CVV:定容積バルブ、VV:ハンドポンプ
図11は測定結果の一例である。実験から、二台の圧力天秤間の差圧が高精度で評価できることが確認され、
本方法の有効性が示された。
199.9285
199.9280
Indication
199.9275
199.9270
A
B
199.9265
199.9260
199.9255
199.9250
0
200
400
600
800
1000
[sec.]
図11.トランスデューサによる圧力天秤発生圧力の測定例
考
察
遠心式微差圧発生装置 は 900 Pa までの安定な微差圧が発生でき、理論値と実測値との一致も良いことがわか
ったので、差圧の発生装置としてだけでなく標準器としての可能性も高い。レーザ干渉式油マノメータの液位差
測定システムの改良ができたので、実用機としての整備を進めたい。
隙間制御型圧力標準器の特性評価手法は確立された。この手法を、現在開発中の高圧力標準実験装置に適用す
ることにより、液体圧力標準の高度化、1 GPa までの圧力標準の設定が期待される。1 GPa 発生のためには、装置
の重要部であるピストンシリンダ・アセンブリの特別な設計が必要となる。
増圧式超高圧力発生装置は 2 GPa(2万気圧)以上の超高圧力まで超高圧力標準を整備する目的で設置される。
超高圧力標準の供給方法としては、マンガニンゲージを仲介器として用いる方法が考えられている。
国際比較試験から、わが国の高圧力標準の国際整合成が確認された。この成果を元に、APMP (THE ASIA-PACIFIC
123
物理標準の高度化に関する研究
METROLOGY PROGRAMME) における高圧力国際比較の基幹研究所としての役割が期待される。
新たに開発した二台の圧力天秤間の平衡圧力を高精度に決定する方法は、既に当研究所の校正業務に適用され
ている。今後、校正業務のさらなる効率化のために、自動化による改良が進められている。
引用文献
[1]
Masaaki Ueki and Akira Ooiwa, “A Heterodyne Laser Interferometric Oil Manometer”, Metrologia, Vol.30,
No.6, pp.579-583 (1993/94).
[2]
大岩
彰、”遠心力を利用した一定微小差圧発生装置“、計量研究所報告 vol. 45, Suppl. Pp.25-33, January
1996.
[3]
Akira Ooiwa, “Novel Nonrotational Piston Gauge with Weight Balance Mechanism for the Measurement of
Small differntial Pressures”, Metrologia, Vol.30, No.6, pp.607-610 (1993/94).
[4]
T. Kobata, J. W. Schmidt, and D. A. Olson, “Characterization of a Controlled-Clearance Piston Gauge
using the Heydemann-Welch model,” SICE2002, Osaka, 2002.
[5]
T. Kobata, D. A. Olson, A. A.E. El-Tawil and A. Yonenaga, “Comparison of working pressure standards
in the range up to 200 MPa”, Proc. of the 2nd Inter. Pres. Metrology Workshop & Inter. Conf. on High
Pres. Sci. and Tech., 83-88, 2001.
[6]
T. Kobata , “Advances in High Pressure Measurement Using Piston Gauges”, Process Measurements Division
Seminar, NIST, 2001.
成果の発表
1)原著論文による発表
ア)国内誌(国内英文誌を含む)
1.
米永暁彦,斉藤勝久,小畠時彦,平田正紘,大岩彰、”高精度デジタル圧力計の再現性”、真空 45-6(2002)(掲載予定).
イ)国外誌
1.
T. Kobata and A. Ooiwa, "Square-wave Pressure Generator using Novel Rotating Valve", Metrologia, 36 (1999)
637.
2.
T. Kobata and A. Ooiwa, "Method of evaluating frequency characteristics of pressure transducers using newly
developed dynamic pressure generator", Bulletin of NRLM 49-4 (2000) 477.
3.
T. Kobata, D. A. Olson, A. A.E. El-Tawil, A. Yonenaga, " Comparison of working pressure standards in the
range up to 200 MPa", Proc. of 2nd International Pressure Metrology Workshop & International Conference on
High Pressure Science and Technology, 83-88, 2001.
2)原著論文以外による発表(レビュー等)
1.
JCSS-T005-02(2000)「計量法校正事業者認定制度 技術的要求事項適用指針 事業の区分:圧力 事業の種類:デジタ
ル圧力計」ほか
2.
大岩 彰、小畠時彦、米永暁彦, "低圧力及び高圧力の標準に関する研究", 科学技術振興調整費、物理標準の高度化
に関する研究(第 I 期 平成 9 年度∼平成 11 年度)成果報告書、平成 12 年 9 月、科学技術庁研究開発局
3.
大岩 彰、"力学関連標準の高度化", 2001 分析機器展産総研セミナ−「分析・計測を支える知的基盤技術−物理標準と
標準物質−」講演要旨集、平成 13 年 9 月 7 日、幕張メッセ、千葉.
124
物理標準の高度化に関する研究
3)口頭発表
ア)招待講演
1.
A. Ooiwa, "Traceability System of Pressure Measurement in Japan", 1st APMP Pressure/Vacuum Workshop, Meeting
and Symposium(2001 年 3 月、つくば).
2.
米永暁彦,斉藤勝久,小畠時彦,平田正紘,大岩彰, "デジタル圧力計を用いた低真空領域の高精度測定",第 49 回応
用物理学関係連合講演会,平塚市,2002.
3.
T. Kobata, D. A. Olson, A. A.E. El-Tawil and A. Yonenaga, " Comparison of working pressure standards in the
range up to 200 MPa", 2nd International Pressure Metrology Workshop & International Conference on High
Pressure Science and Technology, 83-88, 2001.
4.
A. Ooiwa and M. Hirata, “Standard and Traceability of Pressure Measurement in Japan”, 2nd International
Pressure Metrology Workshop & International Conference on High Pressure Science and Technology, Dec 26-27,
2001, New Dehli, India.
イ)応募・主催講演等
1.
小畠時彦, "高圧力用トランスデユーサの校正システムの開発", 計測自動制御学会講演会 203A-2(2000 年 7 月、飯
塚).
2.
山川 透、小川重光、小畠時彦、米永暁彦、大岩 彰, "ダブル U 字管・ダブル干渉式油マノメータの実用化", 計測
自動制御学会講演会 203A-1(2000 年 7 月、飯塚).
3.
米永暁彦、小畠時彦、大岩 彰, "重錘型圧力天秤を用いたデジタル圧力計の特性評価(第2報)", 計測自動制御学
会講演会 203A-4(2000 年 7 月、飯塚).
4.
大岩 彰、小畠時彦、米永暁彦, "低圧力及び高圧力の標準に関する研究"、科学技術振興調整費『物理標準の高度化
への基盤技術』平成 9∼11 年度 研究成果発表会[平成 12 年 12 月]
5.
米永暁彦,斉藤勝久,小畠時彦,平田正紘,大岩彰, "高精度ディジタル圧力計の再現性", 第 42 回真空に関する連
合講演会,東京,2001.
6.
T. Kobata, " Advances in High Pressure Measurement Using Piston Gauges ", Process Measurements Division Seminar,
Process Measurement Division, National Institute of Standards and Technology, 2001.
7.
T. Kobata, J. W. Schmidt and D. A. Olson, " Characterization of a Controlled-Clearance Piston Gauge using
the Heydemann-Welch model"、SICE2002, Osaka, 2002.
8.
D. A. Olson and T. Kobata, " Automating the Calibration of two piston gage pressure balances "、2002 NCSL,
San Diego, 2002.
9.
山川 透、米永 暁彦、大岩 彰, "ダブルU字管・ダブル干渉計式マノメータの実用化"、計測自動制御学会中部支部
シンポジウム「信州・静岡地区合同研究講演会」
,上田市(長野県)
、2001/11/15.
3)特許出願等
1.
大岩 彰、米永暁彦、山川 透、"液面測定装置", 出願番号 2000-224383
125
物理標準の高度化に関する研究
2. 力学関連標準の高度化に関する研究
2.2. 圧力標準の高度設定技術に関する研究
2.2.2. 真空標準計測技術の研究
独立行政法人産業技術総合研究所力学計測科圧力真空標準研究室
平田
要
正紘、秋道
斉、杉沼
茂実、国分
清秀
約
オリフィス法の校正用真空チャンバとその超高真空排気系、及び、微少気体流量計を試作して、3x10-6∼6x10-3Pa
の圧力範囲で真空計の校正実験ができた。校正圧力の下限を 10-7Pa 以下にするために真空計校正チャンバの到達
圧力を 3x10-9Pa 以下に改善し、標準供給へ結びつけるための技術的見通しが得られた。膨張法による 10-4∼1Pa の
中・高真空標準装置を完成した。2次標準に想定されるスピニングローター真空計や熱陰極電離真空計の特性を
評価し基礎データを取得した。
研究目的
真空技術は、半導体素子製造プロセス、加速器、核融合、宇宙機器などに代表される先端科学・技術に不可欠
の基盤技術であるが、精密な真空計測技術が確立されておらず、研究現場等から真空計測の基準となる新しい真
空標準の確立が強く要請されている。本研究は、真空に関する知的基盤を整備するため、真空標準の最も基本と
なる圧力値が正確に調整された 10-7∼1Pa の標準圧力場の発生技術と、この標準圧力場を用いた高精度の真空計校
正技術の確立を目指す。
研究方法
真空標準の基本は真空計を校正する真空圧力を正確に絶対測定することであるが、真空圧力を力学的に直接精
密に測ることができるのは 1Pa 以上であるため、それ以下の圧力では、値が正確にわかった標準圧力環境を作成
し、この圧力値に対して真空計を校正する方法が最適である。そこで、図1に示すように、10-4∼1Pa の中・高真
空はボイルの法則により真空容器内の気体分子の量を精密に制御する膨張法、10-7∼10-4Pa の高・超高真空は分子
流における気体分子の流れの特性を利用するオリフィス法を組み合わせて 10-7∼1Pa の国家標準となる真空圧力標
準装置を開発する。
126
物理標準の高度化に関する研究
図1
真空標準の一次標準
さらに、膨張法とオリフィス法の基準圧力計を光波干渉式標準気圧計で校正することにより、圧力標準と一貫
した真空標準となる。また、真空計の精密校正技術の研究と真空標準の国際比較の研究を行う。
研究成果
オリフィス法による標準圧力場発生を中心に研究開発した。図2に、今回採用した標準圧力発生法の基本概念
を示す。
DG
SRG
BA
P
Q
gas
Q
C0
P0 =
V
C
Q = -V·
C0
dP
dt
Q = P· C
TMP
TMP
RP
RP
定容式流量計
図2
真空槽
オリフィス法による標準圧力発生法の基本概念
127
BA
物理標準の高度化に関する研究
気体流量計から流量 Q の微量気体をコンダクタンス Co のオリフィスを備えた真空槽に流すと、分子流条件下で
は Po=Q/Co の圧力が発生できるので、この圧力に対して真空計を校正する[1]。流量測定は定容式を採用し、流量
計の容積 V とガスを流出させた時の圧力変化 dP/dt から流量 Q=-V・dP/dt を求める。また、気体流量計と真空槽
との接続パイプのコンダクタンスを C とすると、流量 Q と流量計の圧力 P との間には、Q=P・C の関係がある。真
空槽だけでなく接続パイプ内も分子流条件が成立する時には C は一定になるので、流量計では直接精度よく測る
ことのできない極微量の流量は予め測定したコンダクタンスと流量計の圧力から求めることが可能となる。
図3に、実験装置を示す。
図3
オリフィス法による標準圧力場発生装置(実験装置)
真空計校正部の真空槽は、直径 300mm、高さ 450mm のステンレス製である。オリフィスの直径は 20mm で、窒素
に対するコンダクタンスは 38L/s である。このオリフィスを介して排気速度 1100L/s のターボ分子ポンプで排気
し、10-9Pa 台の到達圧力が得られている。流量計の真空槽の容積は 11L である。流量計部は膨張法の予備実験装置
[2]と同じ構成になっていて、流量測定に使用する真空計の校正も流量計自身で行うことが可能である。真空計校
正部の真空槽と流量計との接続パイプは内径 2mm、長さ 2m である。
図4に、流量計の真空槽の圧力 P、圧力の変化率から求めたガス流量 Q、及び、コンダクタンス C=Q/P の時間変
化を示す。
128
物理標準の高度化に関する研究
150
0.15
140
0.14
C (x10
-5 ・
m 3 /s)
0.13
130
120
0.12
P (Pa)
110
0.11
Q (x10
-3 Pa・
m 3 /s)
100
0
400
図4
800
1200
1600
2000
0.1
2400
圧力P,流量Q,コンダクタンスCの時間変化
この図で、圧力と流量だけでなくコンダクタンスも時間と共に指数関数的に低下しているのは、流量計内の圧
力(100Pa 以上)が高すぎるために接続パイプ部で分子流条件が成立していないためである。図5に示すように、
流量計内の圧力が 10Pa 以下の時には接続パイプ部のコンダクタンスは一定になった。
図5
コンダクタンスCの圧力依存性
図6は、流量計の真空槽の圧力を変えた時の流量 Q と真空計校正部の真空槽に取り付けられたヌード型 BA 真空
計のイオン電流 Ii を示す。
129
物理標準の高度化に関する研究
図6
AB真空計のイオン電流の圧力依存性
ほぼ 20Pa 以下の圧力で流量と流量計の圧力との間には直線関係があり、この圧力領域で分子流条件が成立して
いるのがわかる。イオン電流と流量は流量計の圧力に対して同じ傾向で変化している。真空計校正の真空槽の圧
力は流量に比例するので、試験した BA 真空計の感度係数は一定であることがわかる。
図7に、この実験で求めた BA 真空計の感度係数 S の圧力依存性を示した。
図7
BA真空計の感度計数
ここで黒丸●は流量計の真空槽の圧力変化から直接求めた流量値を用いて計算した値である。白三角△は、予
130
物理標準の高度化に関する研究
め測定した接続パイプのコンダクタンス値 0.00048L/s を用いて求めた流量値から算出した値である。予め測定し
たコンダクタンスを用いると流量計で直接測ることのできない領域の流量での標準圧力を発生できることがわか
る。流量計で直接流量を測った時の感度係数は 0.1914 1/Pa、予め測定したコンダクタンス値を用いて流量を求め
た時の感度係数は 0.1924 1/Pa であり、両者の差は 0.52%である。両者のばらつき(標準偏差)は、それぞれ 0.8%
と 1.0%である。感度係数の差とばらつきは流量測定に使用する真空計の精度を上げることで改善できる。また、
校正圧力の 10-7Pa 台への拡張も流量計内の圧力を 0.001Pa まで正確に測ることで可能となる。パイプのコンダク
タンスは温度に依存する。内径を細くすると接続パイプの分子流条件が成立する圧力を高くでき、コンダクタン
スを正確に求めやすくなる。そこで、長さ 2m、内径 2mm のパイプにコンダクタンス値がほぼ等価になる長さ 10mm、
内径 0.1mm の接続パイプに改造中である。
真空計校正部の真空槽の到達圧力の改善は別の真空装置で進めている。図8に、排気曲線の1例を示す。10-10Pa
台の到達圧力は再現性よく発生できている。
図8
超高真空装置の排気曲線
超高真空の圧力測定では、軟 X 線やイオンコレクタの残留電流による効果が問題となる[3]。図9は、この装置
を用いた BA 真空計、エキストラクタ真空計と AxTran ゲージの超高真空領域での特性評価を行った結果である。
AxTran ゲージが他の2者に比べて低い圧力まで測定できる可能性を示している。
131
物理標準の高度化に関する研究
図9
電離真空計の特性評価
低真空(0.1-100Pa)の圧力測定では、隔膜真空計が最適であるが、高精度化センサーは一般に 45。C の温度制
御が施されているため、真空槽との温度差による熱遷移現象が生じる。信頼性よく使うために、DSMC(直接モン
テカルロ法)で、この熱遷移現象を定量的に解析できた[4]。
考
察
オリフィス法装置を試作して、3x10-6∼6x10-3Pa の圧力範囲で真空計の校正実験ができるようになった。校正圧
力の下限を 10-7Pa 以下にするための真空計校正チャンバの到達圧力を 3x10-10Pa 以下に改善できる技術は確立して
いる。流量計部の圧力を 1x10-4Pa までは正確に測ることができるので、10-7Pa までの真空計校正の技術的見通し
を得ている。膨張法と組み合わせると圧力範囲は 10-7∼100Pa となり、目標は達成できる。
マンパワ−不足により全体に遅れ気味であるが、膨張法は平成 14 年度前半には最終的な精度評価を行ってスピ
ニングロ−タ−真空計の校正サービスを開始したい。オリフィス法は、試験・誤差解析を継続実施し、平成 14 年度
中に超高真空標準を確立したい。APMP(アジア太平洋計量計画)の 0.001-1Pa の国際比較の幹事国を頼まれてお
り、この面からも研究を促進したい。
引用文献
[1]
Total Pressure Measurements of Vacuum Technology, A. Berman (Academic Press, London, 1985).
[2]
Bilateral Comparison of High Vacuum Standards between KRISS and ETL, S. S. Hong,, K. H. Chung and
M. Hirata, Metrologia, 36 (1999) 643.
[3]
Formation of Negative Electromotive Force and Degradation of Insulation Resistance in Ionization
[4]
DSMC Analysis of Thermal Transpiration of Capacitance Diaphragm Gauges, S. Nishizawa and M. Hirata,
Vacuum Gauges, K. Kokubun and M. Hirata, Appl. Surface Sci., 169-170 (2001) 763.
Vacuum (to be published).
132
物理標準の高度化に関する研究
成果の発表
1)原著論文による発表
ア)国内誌(国内英文誌を含む)
1.
秋道 斉、前田千春、平田正紘、"中間流におけるスピニングローター真空計の特性(II)"、真空 44-3 (2001) 327.
2.
平田正紘、柳橋輝雄、大林哲郎、"容積移送式真空ポンプの性能試験用テストドームの大きさについて"、真空 44-3
(2001) 346.
3.
杉沼茂実、平田正紘、"ヌード型 B-A 真空計の比感度係数の検討"、真空 44-3 (2001) 347.
4.
国分清秀、平田正紘、"電離真空計における負コレクタ電流の研究 ベーキング条件の影響"、真空 44-3 (2001) 349.
5.
大迫真治、宮下 剛、日高健吾、田中 篤、丹下久裕、田中裕嗣、西村克己、小島 卓、高木 望、若井田達夫、保
坂武男、坂崎 輝、平田正紘、"スピニングロ−タ真空計の持ち回り実験"、真空 44-3 (2001) 383.
6.
平田正紘、秋道 斉、小川哲夫、"熱陰極電離真空計の高精度電源の試作"、真空 44-3 (2001) 348.
7.
西澤伸一、平田正紘、"隔膜真空計における熱遷移現象の数値解析"、真空 45-3 (2002) 119.
8.
杉沼茂実、平田正紘、"ヌード型 B-A 真空計の生成イオンの収集効率の検討"、真空(投稿中)
イ)国外誌
1.
K. Kokubun and Hirata, "Formation of negative electromotive force and degradation of insulation resistance
in ionization vacuum gauges.", Appl. Surface Sci., 169-170 (2001) 763.
2.
S. Nishizawa and M. Hirata, "DSMC Analysis of Thermal Transpiration of Capacitance Diaphragm Gauge", Vacuum
(to be published).
2)原著論文以外による発表(レビュー等)
ア)国内誌(国内英文誌を含む)
1.
1.平田正紘、国分清秀、一村信吾, "超高真空計測における電極絶縁性の問題及び補正方法", 標準情報 TR-Z0016.
3)口頭発表
ア)招待講演
1.
平田正紘, "信頼性の高い真空測定のために−国研、校正事業者、真空計メーカ、真空ユーザの役割−",第 42 回真空に
関する連合講演会 17Ap-7(平成 13 年 10 月 17-19 日、機械振興会館、東京).
2.
A. Ooiwa and M. Hirata, “Standard and Traceability of Pressure Measurement in Japan”, 2nd International
Pressure Metrology Workshop & International Conference on High Pressure Science and Technology, Dec 26-27,
2001, New Dehli, India.
イ)応募・主催講演等
1.
M. Hirata and S. Nishizawa, "Study of Thermal Transpiration of Capacitance Diaphragm Gauge by DSMC Method",
AVS 47th International Symposium, VT-ThA7 (Oct. 2-6, 2000, Boston, MA, USA).
2.
西澤伸一、平田正紘, "隔膜真空計における熱遷移", 第 61 回応用物理学会学術講演会 7p-S-1 (2000 年 9 月 3-5 日、
札幌).
3.
杉沼茂実、平田正紘, "ヌ−ド型 BA 真空計の電極位置と比感度係数の関係", 第 61 回応用物理学会学術講演会 7p-S-2
(2000 年 9 月 3-5 日、札幌).
4.
国分清秀、平田正紘, "電離真空計における負コレクタ電流の研究 4. コレクタ電極表面における変化", 第 61 回応
133
物理標準の高度化に関する研究
用物理学会学術講演会 7p-S-3(2000 年 9 月 3-5 日、札幌).
5.
秋道 斉、前田千春、平田正紘, "中間流におけるスピニングローター真空計の特性(II)", 第 41 回真空に関する
連合講演会 25Ap-6(2000 年 10 月 25-27 日、大阪).
6.
西澤伸一、平田正紘, "隔膜真空計における熱遷移現象の数値解析", 第 41 回真空に関する連合講演会 25Ap-7(2000
年 10 月 25-27 日、大阪).
7.
平田正紘、柳橋輝雄、大林哲郎, "容積移送式真空ポンプの性能試験用テストドームの大きさについて", 第 41 回真
空に関する連合講演会 26P-1(2000 年 10 月 25-27 日、大阪).
8.
杉沼茂実、平田正紘, "ヌード型 B-A 真空計の比感度係数の検討", 第 41 回真空に関する連合講演会 26P-3(2000 年
10 月 25-27 日、大阪).
9.
平田正紘、秋道 斉、小川哲夫, "熱陰極電離真空計の高精度電源の試作", 第 41 回真空に関する連合講演会 26P-6
(2000 年 10 月 25-27 日、大阪).
10. 国分清秀、平田正紘, "電離真空計における負コレクタ電流の研究 5. ベーキング条件の影響", 第 41 回真空に関す
る連合講演会 26P-9(2000 年 10 月 25-27 日、大阪).
11. 大迫真治、平田正紘ほか、"スピニングロ−タ真空計の持ち回り実験", 第 41 回真空に関する連合講演会 26P-91(2000
年 10 月 25-27 日、大阪).
12. 平田正紘, "真空ユーザ、真空計メーカ、校正事業者、国研の役割分担", 日本真空工業会/日本真空協会、真空圧力
計測に関する講演会. (平成 13 年 3 月 8 日、機械振興会館).
13. 秋道 斉、前田千春、平田正紘, "中間流領域におけるスピニングローター真空計の温度補正効果", 2001 年春季、第
48 回応用物理学関係連合講演会(2001.3.28-3.31、東京)29p-ZF1/II.
14. 西澤伸一、平田正紘, "DSMC 法による隔膜真空計における熱遷移効果の数値解析", 2001 年春季、第 48 回応用物理学
関係連合講演会(2001.3.28-3.31、東京)29p-ZF4/II.
15. S. Nishizawa and M. Hirata, "DSMC Analysis of Thermal Transpiration of Capacitance Diaphragm Gauge", 7th
European Vacuum Conference, EVC-7 and 3rd European Topical Conference on Hard Coatings, ETCHC-3, MO.M.A1.OR.02
(Sep. 17-20, 2001, Madrid, Spain).
16. 秋道 斉,平田 正紘, "定圧力式微量気体流量計の設計",第 62 回応用物理学会学術講演会 (2001 年 9 月 1-14 日、愛
知工業大学、豊田).
17. 杉沼茂実、平田正紘、 "ヌ−ド型 B-A 真空計の生成イオンの収集効率のシミュレーション"、第 62 回応用物理学会学
術講演会(2001 年 9 月 1-14 日、愛知工業大学、豊田).
18. 大迫信治、宮下 剛、日高健吾、高木 望 、田中 篤、丹下久裕、田中裕嗣、西村克巳、小島 卓、若井田達夫、秋
道 斉、平田正紘, "スピニングロ−タ−真空計を用いた電離真空計の校正の共同実験", 第 42 回真空に関する連合講演
会 17Ap-2(平成 13 年 10 月 17-19 日、機械振興会館、東京).
19. 杉沼茂実、
平田正紘, "ヌード型B-A 真空計の生成イオンの収集効率の検討", 第42 回真空に関する連合講演会 17Ap-5
(平成 13 年 10 月 17-19 日、機械振興会館、東京).
20. 西澤伸一、平田正紘, "隔膜真空計における熱遷移現象の数値解析(II)", 第 42 回真空に関する連合講演会 17Ap-3
(平成 13 年 10 月 17-19 日、機械振興会館、東京).
21. 秋道 斉,平田 正紘, "定圧力式微量気体流量計の試作", 第 42 回真空に関する連合講演会 18p-1(平成 13 年 10 月
17-19 日、機械振興会館、東京).
22. 国分清秀、秋道 斉、平田正紘, "超高真空領域における電離真空計の安定性", 第 42 回真空に関する連合講演会
18p-2(平成 13 年 10 月 17-19 日、機械振興会館、東京).
23. 杉沼茂実、平田正紘, "B-A 真空計の生成イオンの収集効率とグリッド形状との関係", 第 48 回応用物理学関係連合講
演会 30p-YM-7(平成 14 年 3 月 30 日、東海大学、神奈川).
134
物理標準の高度化に関する研究
2. 力学関連標準の高度化に関する研究
2.2. 圧力標準の高度設定技術に関する研究
2.2.3. 気体と金属壁との相互作用の研究
独立行政法人物質・材料研究機構ナノマテリアル研究所ナノデバイスG
土佐
要
正弘、小西
陽子、後藤
真宏、笠原
章、吉原
一紘
約
標準真空計校正のために不可欠な安定した雰囲気真空圧力場を提供できる真空容器を作製する表面改質システ
ムの開発に成功した。これは、気体分子の低吸着性・低透過性を有する層を被覆できる表面偏析現象を応用し、
高周波コ・スパッタ表面改質プロセス技術を制御して小型回転直線導入式スパッタ電極システムとして高度化す
ることにより実機サイズの真空容器内壁に応用したものである。この技術は、表面偏析現象の制御パラメーター
となる成膜時の強制固溶組成ならびに組織構造を制御して改質層を被覆する非平衡性プロセス制御技術であり、
この技術を小型スパッタ電極に応用することにより、固溶量や組成調整によりガス吸着性が小さく水素透過に対
して障壁となる六方晶窒化ホウ素偏析複合銅層で被覆した表面を実機サイズの真空容器内壁面に作製することが
でき、水素透過に対して高い抑止効果を有し圧力変動の小さい表面改質複合層の真空容器への実用化技術が確立
されたといえる。
研究目的
超高真空中の残留気体の主成分は、真空容器壁面に残留して容器内雰囲気に放出し、さらに壁内から透過して
容器内に脱離・放出される水素であり、物理標準となる真空計を校正できる真空容器内圧力が正確に制御された
標準圧力場を発生させるためには、この水素透過放出を大幅に低減できる表面改質技術、ならびに真空容器内壁
への応用技術の開発が不可欠となる。そこで、標準真空計校正のために雰囲気圧力が正確に安定制御された標準
圧力場を発生できる真空容器用材料の表面改質技術を開発し、標準圧力場を乱す水素気体分子の透過放出や残留
気体分子と真空容器壁との相互作用について明らかにするとともに、実機サイズの真空容器内に標準真空圧力場
を発生させることをめざした。
研究方法
気体との低相互作用が期待できる表面改質層の材料として銅と六方晶系窒化ホウ素の混合による表面偏析複合
材を検討した。銅(Cu)は、酸化されやすいが、熱伝導率が高いために真空圧力計フィラメントの電子源のヒー
トシンクとなり、特に、固溶水素量がステンレス鋼の約 1/8 と非常に小さいために真空容器材料の内部から透過
してくる水素が抑制されるものと考えられる。六方晶窒化ホウ素(BN)は、c結晶面で劈開しやすいが、耐酸化
性・耐食性に優れ、熱伝導性も高く、特に、ファンデルワールス力が非常に小さいc結晶格子面を有するために、
この面を真空雰囲気に面する表面として利用することにより、水素が表面に吸着滞留せずに容易に真空排気され
るものと考えられる。そこで、互いに両者の短所を補い、両者の長所を引き出すべく、表面偏析現象を利用して、
135
物理標準の高度化に関する研究
気体との相互作用が小さく密着性に優れた安定した内壁面が得られる真空容器材料の表面改質技術の開発を試み
た。
これまで、BN 偏析法の応用により低吸着水素表面層や水素遮蔽層を形成させることを試みきたところ、SUS304
鋼 10mm 角板上の銅複合層表面のほぼ全面に h-BN 層を偏析生成することに成功するとともに、さらにこの表面で
は超高真空中において、表面原子間力顕微鏡で1nN 以下と吸着力が非常に小さくなることが計測され、また、炭
化水素、酸素等の気体分子のガス吸着物が、μオージェ分析レベルではほとんど観察されなくなり、これにより
本改質技術で作製した層の気体分子との低相互作用の有効性が示された。そこで、これまでに得られた表面改質
技術1]∼3]を応用し、実機サイズの真空容器内壁の広い湾曲面表面に被覆できる超高真空対応型高周波マグネト
ロン式小型スパッタターゲット電極回転直線駆動被覆システムを開発することを試み、これを用いて標準圧評価
用真空容器を作製し、この被覆真空容器を用いて真空排気を全く行わない状況により圧力上昇を観察するビルド
アップ試験によりその真空圧力安定性を評価し、真空圧力標準環境の創製に資することを試みた。
研究成果
試作した超高真空対応型高周波マグネトロン式小型スパッタターゲット電極回転直線駆動被覆システムの写真
を図1に、また、機構の模式図を図2に示す。
136
物理標準の高度化に関する研究
図1.試作した回転導入小型スパッタ電極(a)とプラズマ放電(b)、および、真空容器取り付け外観(c)の各写真
図2.試作した小型スパッタ電極による真空容器内壁被覆の模式図
標準真空計の構成の対象クラスの大きさに近い真空容器の内壁面の処理が可能となる実用サイズ被覆面積につ
いて、蒸着操作中においても回転駆動、および前後直線駆動により走査式に表面改質できる駆動スパッタ電極を
装備したもので、電極には直径 1.5 インチ径のターゲットをクランプ固定で取り付けでき、203mm フランジ径を有
する真空容器なら最長 450mm まで内壁面を回転前後駆動により走査式に被覆可能である。真空排気は、ターボ分
子ポンプとロータリーポンプで行い、回転駆動部分は回転時に差動排気することで通常の到達真空度は 10-7 Pa 台
であった。スパッタリングガスとして約2Pa の超高純度アルゴンガス雰囲気で、銅ディスクターゲットに BN 焼結
体片を配置したものと BN 焼結体ディスクターゲットに純銅ワイヤを張ったものの2形式で、高周波コイルで発生
したプラズマをターゲット磁場による高周波電場で最適カップリング制御することにより、ターゲットを高密度
プラズマで同時スパッタリングして Cu と h-BN の混合膜を容器壁面に作成した。作成後そのまま容器にマントル
ヒーターをかぶせて超高真空中で加熱により 700K で 86.4k sec 熱処理を施した。作成した混合膜、および、その
表面偏析層の表面組成の同定については、サブミクロン径以下の領域を走査分析可能な走査型マイクロオージェ
電子エネルギー分光分析器(AES)を用い、膜厚の測定には表面段差計を用いた。
137
物理標準の高度化に関する研究
真空容器内壁面数カ所に取り付けた 10mm 角の鋼基板から、最高被覆速度は、純銅製ターゲットでは約 2nm/sec
であり、膜厚の均一性は図3に示すように BN 焼結体ディスクターゲットに純銅ワイヤを張った場合(b)では 50mm
径のエリア内では±10%以下に押さえることができた。
図3.真空容器内壁面の被覆膜厚分布図
また、作成した混合膜の真空加熱前後について AES 測定して得られたオージェス電子エネルギーペクトルを図
4に示す。
図4.真空容器内壁面被膜のオージェスペクトル
銅ディスクターゲットに BN 焼結体片を配置した場合にはほとんど BN の表面偏析が観測されないが、BN 焼結体
ディスクターゲットに純銅ワイヤを張った場合(b)では BN が表面偏析していることがわかる。
BN 焼結体ディスクターゲットに純銅ワイヤを張って被覆した真空容器についてビルドアップ試験により圧力上
138
物理標準の高度化に関する研究
昇を観測した。その結果を図5に示す。
○●
△▲
Pressure / Pa
10-4
□
◇
1st
2nd
3rd
4th
10-5
10-6
101
102
103
104
105
Time / sec
図5.ビルドアップ試験による圧力上昇結果(黒塗り:未被覆容器、白抜き:被覆容器)
真空容器の内壁面を被覆することで、未被覆真空容器の場合に比べかなり小さく(10-5Pa 台で3%以下)なり、
さらに、ガス放出速度の変化を求めると、図6に示すように3桁以上も小さくなることが示された。
放出速度 / Pa m s
-1
10-7
10-8
10-9
○●
◇
1st
4th
10-10
10-11
10-12
101
102
103
Time / sec
104
105
図6.ビルドアップ試験によるガス放出速度の変化(黒塗り:未被覆容器、白抜き:被覆容器)
139
物理標準の高度化に関する研究
考
察
高周波コ・スパッタプロセス技術を制御して表面偏析現象を応用するべく小型回転直線導入式スパッタ電極シ
ステムを試作し、実機サイズの真空容器内壁に応用でき、これにより安定した雰囲気真空圧力場を提供できる真
空容器を作製することができた。
表面偏析 h-BN の c 面で覆われた表面では、吸着力が低下し、また、酸化されにくくなる。混合膜蒸着直後でも
表面組成の約 15%程度しか汚染、酸化、あるいは吸着しておらず、h-BN 偏析効果は大きいといえる。さらに、真
空加熱することによりほぼ全表面が被覆可能になることは表面が常に気体分子との相互作用をほとんど持たなく
なることが期待される。さらに、h-BN の c 結晶面では拡散してきた水素イオン(H+)が束縛され、あるいは表面
方向の自由度が妨げられるものと考えられる。H2 への再結合が妨害され、BN 表面からの水素の放出が抑制される
ものと期待される。銅中での水素の固溶量も小さく、さらにこのように遮蔽効果のある h-BN で表面が覆われるこ
とにより、内部から透過してくる水素量はかなり少なくなるものと考えられる。
本研究により、h-BN が表面偏析した銅膜で真空容器壁面を被覆することとができたために、真空容器壁面に残
留して容器内雰囲気に放出したり壁内から透過して容器内に脱離・放出される水素がほとんど除去されるために、
物理標準となる真空計を校正するための真空容器内圧力が 10-5Pa 台で3%以下と正確に制御された標準圧力場が
真空容器内に創製されたものと考えられる。
引用文献
[1]
土佐正弘,吉原一紘, “表面析出現象を利用した低ガス吸着性 BN の低温被覆法”, 真空, 33 巻, 5 号, 520 頁
(1990).
[2]
土佐正弘,吉武道子,吉原一紘, “BN 処理をした小型真空容器からのガス放出”, 真空, 34 巻, 1 号, 62 頁
(1991).
[3]
土佐正弘,板倉明子,吉原一紘, “表面析出現象を利用したガス放出量の低減化”, 日本金属学会報, 32 巻, 11
号, 775 頁(1993).
成果の発表
1)原著論文による発表
ア)国内誌(国内英文誌を含む)
1.
後藤真宏、笠原章、土佐正弘、木村隆、吉原一紘:
「六方晶窒化ホウ素・銅混合薄膜の特性制御の試み」
、真空、p139、
第 44 巻、2001 年
2.
土佐 正弘、三石和貴、竹口雅樹、福田芳雄、後藤真宏、李京燮、笠原 章、古屋和夫、吉原 一紘:
「窒化ホウ素表面
偏析の塚電子顕微鏡による構造変化の観察」
、真空、第 44 巻、p378、2001 年
3. 笠原 章、後藤真宏、土佐 正弘、吉原 一紘:
「高真空摺動用ステンレス鋼の最適表面粗さ」
、真空、第 44 巻、p379、
2001 年
4. 笠原 章、後藤真宏、土佐 正弘、吉原 一紘:
「ステンレス鋼の摩擦特性に及ぼす表面粗さの影響」
、真空、第 45 巻、
p423、2002 年
イ)国外誌
1.
K. S. Lee, Y. S. Kim, M.Tosa, A.Kasahara and K.Yoshihara:「Hexagonal Boron Nitride Film Substrate for
140
物理標準の高度化に関する研究
Fabrication of Nanostructures」
、J. Applied Surface Science、415、p689、2001
2.
K. S. Lee, Y. S. Kim, M. Tosa, A. Kasahara and K.Yoshihar:
「Mechanical Properties of Hexagonal Boron Nitride
Synthesized from the Mixture of Cu/B/N Film by Surface Segregation Phenomena」
、J. Applied Surface Science、
169、p420、2001
3.
M.Tosa, K.S.Lee, Y. S. Kim, A.Kasahara and K.Yoshihara:
「Surface Cleanness of Substrates Transported by XHV
Integrated Process」
、J. Applied Surface Science、169、p689、2001
4.
M.Tosa, A.Kasahara and K.Yoshihara:
「Super clean Substrate Transport by Extreme High Vacuum Integrated Process
with Levitation Transport Systems」
、Vacuum、60、p167、2001
5.
M.Goto, A.Kasahara, M.Tosa T.Kimura and K.Yoshihara:
「Characteristics of Thin Films of Hexagonal Boron Nitride
Mixed with Copper Controlled by a Magnetron co-sputtering Deposition Technique」
、J. Applied Surface Science、
185、p172、2002
6.
M.Goto, A.Kasahara, M.Tosa and K.Yoshihara :「 Control of Frictional Force on Coating Films of Boron
Nitride-copper complex in ultra high Vacuum」
、Thin Solid Films、405、p300、2002
2)原著論文以外による発表(レビュー等)
ア)国内誌(国内英文誌を含む)
1.
M.Goto, A.Kasahara, M.Tosa and K.Yoshihara:
「Surface Segregation Enhanced Energy as Suprainteraction for
Nanoarchitechtonic」
、Proc. NASI 1、p100、2001
2.
A.Kasahara, M.Goto, M.Tosa and K.Yoshihara :「 Tribological Property of Hexagonal Boron Nitride Layer
Self-organized by Surface Segregation」
、Proc. NASI 1、p100、2001
3.
A.Kasahara, M.Goto, M.Tosa and K.Yoshihara:
「TiN Sputter Coating for Sliding Friction
in a Vacuum」
、Proc.MPND
2001、p47、2001
4.
M.Goto, A.Kasahara, M.Tosa and K.Yoshihara:
「Micro Friction Coating Films Prepared with co-sputter Deposition」
、
Proc.MPND 2001、p55、2001
5.
土佐正弘:
「超清浄空間としての真空中で動かすには」
、水曜会誌、p316、2001 年
6.
土佐正弘:
「窒化ホウ素で超低摩擦薄膜」
、日経先端技術、p2、2002 年
3)口頭発表
ア)招待講演
1.
土佐正弘、吉原一紘:
「真空容器被覆」
、日本鉄鋼協会セミナー、2002 年 5 月
イ)応募・主催講演等
1. 後藤真宏、笠原章、土佐正弘、木村隆、吉原一紘:
「六方晶窒化ホウ素・銅混合薄膜の特性制御の試み」
、第 41 回真
空に関する連合講演会、大阪、2000 年 10 月
2.
土佐 正弘、三石和貴、竹口雅樹、福田芳雄、後藤真宏、李京燮、笠原 章、古屋和夫、吉原 一紘:
「窒化ホウ素表面
偏析の塚電子顕微鏡による構造変化の観察」
、第 41 回真空に関する連合講演会、大阪、2000 年 10 月.
3.
笠原 章、後藤真宏、土佐 正弘、吉原 一紘:
「高真空摺動用ステンレス鋼の最適表面粗さ」
、第 41 回真空に関する連
合講演会、大阪、2000 年 10 月
4.
M.Tosa, A.Kasahara M.Goto and K.Yoshihara:
「Surface Cleanness of Substrates Transported with Levitation
Transfer System Inatalled in an Extreme High Vacuum Integrated System」
、47th AVS、Boston、USA、Oct.2000.
5.
Kasahara M.Goto, M.Tosa and K.Yoshihara:
「Friction Force Measurement of type 304 Stainless Steel in a High
Vacuum」
、47th Int. Sym. American Vacuum Society、Boston、USA、Oct.2000
141
物理標準の高度化に関する研究
6.
M.Goto, A.Kasahara, M.Tosa and K.Yoshihara:
「Surface Segregation Enhanced Energy as Suprainteraction for
Nanoarchitechtonic、1st Int. Sym. on Nanoarchitectonics Using Suprainteractons」
、Nov.2000
7.
A.Kasahara, M.Goto, M.Tosa and K.Yoshihara :「 Tribological Property of Hexagonal Boron Nitride Layer
Self-organized by Surface Segregation」
、1st Int. Sym. on Nanoarchitectonics Using Suprainteractons、Nov.2000
8.
後藤真宏、三石和貴、竹口雅樹、笠原章、福田芳雄、土佐正弘、古屋一夫、吉原一紘:
「スパッタ共蒸着膜における
h-BN 低温偏析機構」
、日本金属学会秋季大会、福岡市、2001 年 9 月
9.
小西陽子、後藤真宏、笠原章、土佐正弘、吉原一紘:
「真空容器内壁被覆用回転導入スパッタ電極」
、第 42 回 真空
に関する連合講演大会、東京、2001 年 10 月
10. 土佐正弘、後藤真宏、笠原章、三石和貴、福田芳雄、古屋一夫、吉原一紘:
「共蒸着 SUS304 鋼被膜表面への窒化ホウ
素の偏析機構」
、第 42 回真空に関する連合講演会、東京、2001 年 10 月
11. 後藤真宏、笠原章、土佐正弘、吉原一紘:
「宇宙用長寿命駆動材料実現に向けた耐紫外線・酸化真空低摩擦コーティ
ングの開発」
、第 42 回真空に関する連合講演会、東京、2001 年 10 月
12. 笠原章,後藤真宏,土佐正弘,吉原一紘:
「摩擦力測定による TiN 被覆表面の吸着力作用距離の推定」
、第 21 回表面科学
講演会、2001 年 11 月
13. M.Tosa, M.Goto, A.Kasahara and K.Yoshihara:
「Modification of Chamber Material for Standard Vacuum Pressure
Measurement」, AVS 48th International Symposium, San Francisco, U.S.A., October 2001.
14. A.Kasahara,M.Goto,M.Tosa,K.Yoshihara:
「Decrease in Friction Force of Type 304 Stainless Steel in a Vacuum
by Surface Roughness Modification」,AVS 48th International Symposium, San Francisco ,U.S.A.,October 2001.
15. M.Goto,A.Kasahara,M.Tosa,K.Yoshihara、
「Low Frictional Force Coating of Boron Nitride-Copper Complex for Ultra
High Vacuum by Magnetron Co-sputtering Technique」
、AVS 48th International Symposium, San Francisco, U.S.A.,
October 2001.
4)特許等出願等
1.
平成 13 年 8 月 28 日、
「表面エネルギー制御による低摩擦化コーティング法」
、後藤真宏、笠原章、土佐正弘、吉原一
紘、特願 2001-257193
142
物理標準の高度化に関する研究
2. 力学関連標準の高度化に関する研究
2.2. 圧力標準の高度設定技術に関する研究
2.2.4 超高圧力計測標準の研究
物質・材料研究機構
竹村
要
謙一
約
ダイヤモンドアンビル型超高圧力発生装置を用いて超高圧 X 線回折実験を行い、圧力誘起相転移の探査
と相転移圧力の決定および体積弾性率の決定等を行い、200 GPa 領域までの圧力標準に供した。70 GPa で
出現する Cs 高圧相 VI の結晶構造を決定した。ゲルマニウムの 100 GPa 以上にあらわれる高圧相の結晶構
造を決定した。ヘリウム圧力媒体の静水圧性を評価するために CeO2, ZnO, Au を標準試料として高圧粉末 X
線回折実験を行い、ヘリウムが室温 50 GPa まで良い静水圧性を保つことを見いだした。ヘリウム圧力媒体
による Zn の低温高圧 X 線回折実験を行い、軸比の圧力変化には異常がないことを見いだした。Nb の高圧
粉末 X 線回折実験を行い、格子歪みと状態方程式に対する非静水圧性の影響を考察した。
研究目的
力学系計量標準の基盤技術に関連して、超高圧力標準の確立を目的に超高圧力計測の信頼性技術に関す
る研究を行う。200 GPa におよぶ超高圧力の高精度発生技術およびその信頼性確保のための技術開発を行
うとともに、圧力誘起高密度相の発見とその相転移圧力を高い精度で決定し、200 GPa 領域までの圧力定
点に供する。
研究方法
ダイヤモンドアンビル型超高圧力発生装置を用いて 200 GPa におよぶ超高圧力発生技術および信頼性確
保のための技術開発を行う。図1にダイヤモンドアンビル型超高圧力発生装置の概略を示す。
143
物理標準の高度化に関する研究
平行度調整ネジ
ダイヤモンド
アンビル
上蓋
ガスケット
圧力媒体
試料
受け皿(上)
ダイヤモンド
アンビル
受け皿(下)
水平位置調整
ネジ
ピストン
ボールベアリング
ボディ
グランドナット
10mm
図1.ダイヤモンドアンビル型超高圧力発生装置.
試料は金属ガスケットの中央に空けられた直径数十ミクロンの小さな穴の中に圧力媒体とともに入れられ、ふ
たつのダイヤモンドアンビルによってガスケットごと加圧される。ガスケットの変形にともない試料室に
圧力が加えられるが、圧力は圧力媒体を介して試料に伝わるので、圧力媒体が液体状態にある間は試料に
静水圧力が働く。ダイヤモンドはX線の吸収が少ないので、ダイヤモンドを通して高圧下の試料にX線を
当てることができ、そこからの回折X線を反対側のダイヤモンドを通して測定する。これにより高圧力下
におかれた試料の結晶構造をその場で解析することが可能となる。結晶構造から試料の体積、原子間距離
等の情報が得られる。圧力は試料といっしょにガスケット内に封入したルビー小片の蛍光波長の圧力シフ
トを測定することにより決定される。この装置を用いて超高圧 X 線回折実験を行い、圧力誘起相転移の探
査と相転移圧力の決定および体積弾性率の決定等を行い、200GPa 領域までの圧力標準に供した。
研究成果
70 GPa 以上に存在するセシウムの高圧相(第 6 相)は、以前のわれわれの研究 [1] によって発見された
ものであるが、90 GPa での X 線回折パターンは hcp ないし dhcp のどちらでも解釈が可能であり、正確な
結晶構造は未決定であった。今回われわれはヨーロッパ放射光施設(ESRF)の放射光を用いてセシウム第
6相の回折パターンを 184 GPa まで測定し、その結晶構造が dhcp であることを確認した[2]
。図 2 に結晶
構造を示す。この構造は 12 配位の最密充填構造のひとつである。この実験をもとに 184 GPa までのセシ
ウムの状態方程式が決定された。
144
物理標準の高度化に関する研究
図2. 90 GPa における Cs 第 6 相の結晶構造(六方晶 dhcp 型).
ヘリウムは理想的な圧力媒体として低圧領域(2GPa 以下)で広く使用されてきた。これはヘリウムが化学
的に不活性であり、また良好な静水圧性を保つことによる。われわれは高圧ガスをダイヤモンドアンビル
セルに封入するためのガス充填装置を開発し、ダイヤモンドアンビルセルにもヘリウムを圧力媒体として
使用できるようにした [3]。ヘリウムも室温では約 12GPa で固化する。それ以上の超高圧力領域でヘリウ
ムが果たしてどれくらい静水圧性を保つのか,これまで系統的に調べた研究例はない。そこでいくつかの
標準試料を選び,高圧粉末X線回折実験を行うことによってヘリウム圧力媒体の静水圧性を評価した[4]。
図 3 に ZnO の NaCl 型高圧相について面間隔 d 値の圧力による相対変化を示す。
1.00
0.99
d / d0
0.98
0.97
0.96
He
ME41
0.95
ZnO (II)
0.94
0.93
0
10
20
30
40
50
60
P (GPa)
図3.ZnO 高圧相の格子面間隔 d 値の圧力による相対変化.
立方晶系である NaCl 型高圧相では面間隔 d 値の圧力変化はどの格子面でも同じであるべきである。しかし
圧力媒体に通常使われるアルコール混合液(ME41)を用いた場合には非静水圧性によって結晶格子が非等
方的にひずみ,面間隔の圧力変化は面指数によって分裂する。一方ヘリウム圧力媒体を使った場合には少
145
物理標準の高度化に関する研究
なくとも 50 GPa までこのような分裂は見られない。これは Au を標準試料とした場合にも同様であった。
すなわち,少なくとも室温約 50GPa までヘリウム圧力媒体は良い静水圧性を保つことが明らかにされた。
Ge は Si と並んで典型的な半導体であり,その高圧下での構造変化は比較的よく調べられてきた。しかし
100 GPa 以上の超高圧力領域での構造には不明な部分が多い [5]。そこでわれわれは高圧粉末X線回折実
験を行って結晶構造を調べた[6]。まず 100GPa で出現する第7相は、最近われわれが構造決定した Si 第
6相[7]および Cs 第 5 相[8]と同型の斜方晶 Cmca 型であることがわかった。図 4 に構造を示す。
図4.135 GPa における Ge 第 7 相の結晶構造(斜方晶 Cmca 型).
この構造は 10 配位(図中、緑色)と 11 配位(図中、赤色)が混ざったもので高密度構造のひとつである。
さらに Ge は約 160GPa で hcp 構造に相転移することが初めて明らかにされた。この相は少なくとも 190GPa
まで安定である。Ge の 160GPa での構造相転移は超高圧力領域での圧力定点として使われる可能性がある。
Zn は高圧下での電子構造の変化にともなって六方晶軸比 c/a の変化に異常があらわれることが理論計算で
予測されている[9]。この Zn の電子トポロジー転移は、多くの理論計算にもかかわらず未だに実験では確
認されていない[10]。そのひとつの理由は、これまでの高圧実験のほとんどが室温でなされてきたのに対
し、理論計算は低温を仮定して行われていることにある。このために室温実験では熱振動によって電子ト
ポロジー転移がぼやけ、異常がかき消されている可能性がある。そこで低温下で Zn の高圧粉末X線回折実
験を行い、低温における軸比の異常の有無を探った。これまでの実験で明らかになったように軸比のわず
かな異常を検知するためには静水圧性を保証することが重要なので、ヘリウムを圧力媒体とし圧力変化は
ヘリウムが流体状態となる室温付近で行った。図 5 に結果を示す。
146
物理標準の高度化に関する研究
1.90
1.85
c/a
1.80
1.75
experim.
Zn
1.70
T = 40 K
1.65
0.80
0.85
0.90
0.95
1.00
V / V0
図 5.低温高圧下における Zn の軸比の体積依存性.実験値(太い実線)をさまざな理論計算(その他)と比較する.
予想された軸比の異常は実験誤差内で検知されなかった。したがって電子トポロジー転移にともなう Zn の
軸比の異常は、あるとしてもきわめて小さいことが結論された[11]。
超高圧領域の圧力標準を確立するためには、圧力標準物質の正確な状態方程式を決定する必要がある。そ
してこの状態方程式にあらわれる圧力と体積を確度よく決定するうえで静水圧性の確保は欠かせない。一
例として Nb の結晶格子変形に対する非静水圧性の影響をいくつかの圧力媒体について調べた[12]。格子面
間隔の圧力変化を図 6 に示す。
1.00
MEW
0.99
d / d0
110
211
0.98
200
0.97
Nb
He
0.96
0
5
10
15
20
P (GPa)
図 6. Nb の格子面間隔 d 値の圧力による相対変化.
bcc 構造の Nb では前項の ZnO 高圧相の場合同様、圧力による面間隔の相対変化は本来ならば指数によらず
147
物理標準の高度化に関する研究
一定になる。しかし一般的に使われるアルコール-水混合液(MEW)を圧力媒体とした場合には、媒体の固
化によって格子歪みが発生し面間隔は指数により分裂する。一方ヘリウム媒体では静水圧性が保たれ、分
裂は見られない。アルコール-水混合液媒体を使ったデータにおける面間隔の指数による分裂を無視し、こ
れを単純平均して状態方程式を求めると誤った結果が得られるのは明らかである。ヘリウム圧力媒体を用
いた精密かつ正確な超高圧力実験が圧力標準を定める上で今後不可欠となるであろう。
考
察
超高圧力発生技術は現在 200 GPa に達しているが、その信頼性を向上させるためになおアンビルのデザイ
ン等の開発要素が残されている。ヘリウムを圧力媒体とすることにより静水圧性の飛躍的な向上がはから
れ、超高圧力計測の信頼性が確保された。
引用文献
[1]
K. Takemura, O. Shimomura, and H. Fujihisa, "Cs(VI): a new high-pressure polymorph of cesium
above 72 GPa", Phys. Rev. Lett. Vol.66, pp.2014-2017 (1991).
[2]
K. Takemura, N. E. Christensen, D. L. Novikov, K. Syassen, U. Schwarz, and M. Hanfland, "Phase
stability of highly compressed cesium", Phys. Rev. B Vol.61, pp.14399-14404 (2000).
[3]
K. Takemura, P. Ch. Sahu, Y. Kunii, and Y. Toma, "Versatile gas-loading system for diamond-anvil
cells", Rev. Sci. Instrum. Vol.72, pp. 3873-3876 (2001).
[4]
Takemura Kenichi, "Evaluation of the hydrostaticity of a helium-pressure medium with powder
x-ray diffraction techniques", J. Appl. Phys. Vol.89, pp. 662-668 (2001).
[5]
Y. K. Vohra, K. E. Brister, S. Desgreniers, A. L. Ruoff, K. J. Chang, and M. L. Cohen,
"Phase-transition studies of germanium to 1.25 Mbar", Phys. Rev. Lett. Vol.56, pp.1944-1947
(1986).
[6]
K. Takemura, U. Schwarz, K. Syassen, M. Hanfland, N. E. Christensen, D. L. Novikov, and I.
Loa, "High-pressure Cmca and hcp phases of germanium", Phys. Rev. B Vol.62, pp. R10603-R10606
(2000).
[7]
M. Hanfland, U. Schwarz, K. Syassen, and K. Takemura, "Crystal structure of the high-pressure
phase silicon VI", Phys. Rev. Lett. Vol.82, pp.1197-1200 (1999).
[8]
U. Schwarz, K. Takemura, M. Hanfland, and K. Syassen, "Crystal structure of Cesium-V", Phys.
Rev. Lett. Vol.81, pp.2711-2714 (1998).
[9]
D. L. Novikov, M. I. Katsnelson, A. V. Trefilov, A. J. Freeman, N. E. Christensen, A. Svane,
and C. O. Rodriguez, "Anisotropy of thermal expansion and electronic topological transitions
in Zn and Cd under pressure", Phys. Rev. B Vol.59, pp. 4557-4560 (1999); Zhiqiang Li and J.
S. Tse, "Phonon anomaly in high-pressure Zn", Phys. Rev. Lett. Vol.85, pp. 5130-5133 (2000).
[10] Takemura Kenichi, "Absence of the c/a anomaly in Zn under high pressure with a helium-pressure
medium", Phys. Rev. B Vol.60, pp.6171-6174 (1999).
[11] Takemura Kenichi, Yamawaki Hiroshi, Fujihisa Hiroshi, and Kikegawa Takumi, "Axial ratio of
Zn at high pressure and low temperature", Phys. Rev. B, Vol. 65, 132107 (2002).
[12] Anil K. Singh and Takemura Kenichi, "Measurement and analysis of nonhydrostatic lattice strain
148
物理標準の高度化に関する研究
component in niobium to 145 GPa under various fluid pressure-transmitting media", J. Appl.
Phys. Vol.90, pp. 3269-3275 (2001).
成果の発表
1)原著論文による発表
ア)国内誌(国内英文誌を含む)
1.
竹村謙一、“ヘリウム圧力媒体の静水圧性”, 放射光、14(2), 134-140 (2001).
イ)国外誌
1.
K. Takemura, N. E. Christensen, D. L. Novikov, K. Syassen, U. Schwarz, and M. Hanfland, "Phase stability
of highly compressed cesium", Phys. Rev. B Vol.61, pp.14399-14404 (2000).
2.
K. Takemura, U. Schwarz, K. Syassen, M. Hanfland, N. E. Christensen, D. L. Novikov, and I. Loa,
"High-pressure Cmca and hcp phases of germanium", Phys. Rev. B Vol.62, pp. R10603-R10606 (2000).
3.
Takemura Kenichi, “Evaluation of the hydrostaticity of a helium-pressure medium with powder x-ray
diffraction techniques”, J. Appl. Phys. Vol.89, pp. 662-668 (2001).
4.
K. Takemura, U. Schwarz, K. Syassen, N. E. Christensen, M. Hanfland, D. L. Novikov, and I. Loa,
"High-pressure structures of Ge above 100 GPa", Phys. Stat. Sol. (b) Vol.223, pp. 385-390 (2001).
5.
K. Takemura, P. Ch. Sahu, Y. Kunii, and Y. Toma, "Versatile gas-loading system for diamond-anvil cells",
Rev. Sci. Instrum. Vol.72, pp. 3873-3876 (2001).
6.
Anil K. Singh and Takemura Kenichi, "Measurement and analysis of nonhydrostatic lattice strain
component in niobium to 145 GPa under various fluid pressure-transmitting media", J. Appl. Phys. Vol.90,
pp. 3269-3275 (2001).
7.
Takemura Kenichi, Yamawaki Hiroshi, Fujihisa Hiroshi, and Kikegawa Takumi, "Axial ratio of Zn at high
pressure and low temperature", Phys. Rev. B, Vol. 65, 132107 (2002).
2)原著論文以外による発表(レビュー等)
ア)国内誌(国内英文誌を含む)
1.
1.竹村謙一, “圧力誘起相転移と電子構造変化”, 高圧力の科学と技術、11, 37-43 (2001).
イ)国外誌
なし。
3)口頭発表
ア)招待講演
1.
Takemura Kenichi, "Hydrostaticity of a helium-pressure medium", The 8th NIRIM International Symposium
on Advanced Materials ISAM 2001, Tsukuba, (2001).
2.
K. Takemura, H. Yamawaki, H. Fujihisa, and T. Kikegawa, "High-pressure powder x-ray diffraction
experiments on Zn at low temperature", AIRAPT-18 International Conference on High Pressure Science
and Technology, Beijing, China (2001).
149
物理標準の高度化に関する研究
イ)応募・主催講演等
1.
K. Takemura, U. Schwarz, K. Syassen, N. E. Christensen, M. Hanfland, D. L. Novikov, and I. Loa,
"High-pressure structures of Ge above 100 GPa", 9th International Conference on High Pressure
Semiconductor Physics, Sapporo, Japan (2000).
2.
K. Takemura, "Powder x-ray diffraction experiments with a He-pressure medium to 100 GPa", International
Workshop on Crystallography at High Pressures and High Temperatures using X-rays and Neutrons, Hyogo,
Japan (2000).
3.
竹村謙一、山脇浩、藤久裕司、亀卦川卓美, “He 圧力媒体による室温および低温での Zn の高圧粉末 X 線回折
実験”, 第 41 回高圧討論会、千葉, (2000).
4.
竹村謙一, U. Schwarz, K. Syassen, M. Hanfland, N. E. Christensen, D. L. Novikov, “超高圧力下におけ
る Ge の構造相転移”, 第 41 回高圧討論会、千葉, (2000).
5.
K. Takemura, H. Yamawaki, H. Fujihisa, and T. Kikegawa, "High-pressure x-ray studies of Zn at room
and low temperatures with a He-pressure medium", The 39th European High Pressure Research Group Meeting,
Santander, Spain (2001).
6.
竹村謙一、佐藤恭子、山脇 浩、藤久裕司、亀卦川卓美, “準静水圧力下における Zn の低温高圧粉末 X 線回折
実験”, 第 42 回高圧討論会、神戸, (2001).
7.
竹村謙一、佐藤恭子、山脇 浩、藤久裕司、亀卦川卓美, “低温高圧下における Zn の電子トポロジー転移の検
証”, 日本物理学会第 57 回年次大会、草津, (2002).
4)特許等出願等
なし。
150
物理標準の高度化に関する研究
2. 力学関連標準の高度化に関する研究
2.3. 重力加速度計測技術に関する研究
2.3.1. 重力加速度標準の研究
産業技術総合研究所質量力標準研究室
水島
要
茂喜、上田
和永、大岩
彰
約
本研究は重力加速度計測の不確かさを評価するための技術基盤の整備を図ることを目的とする。第2期では、
重力加速度計測の不確かさ要因を解明すること、及び国内外での重力加速度計測の整合性を確保すること、に重
点を置いた。人工的振動の小さい国立天文台・江刺重力観測室において、一落下あたりの標準偏差 7.4 µGal の高
精度での絶対重力測定を実施し、絶対重力計の不確かさ要因を解明した。また、2001 年 7 月に国際度量衡局が主
催し、12 カ国の研究機関が集合する絶対重力計の国際比較に参加し、10 µGal より小さい偏差で国際的に整合す
る結果を得て、国際整合性を確認することができた。これらの活動により当初の目的をほぼ達成することができ、
国内で高精度な重力計測を必要とする機関等に対して重力加速度の標準供給を開始することができた。
研究目的
本研究は、力・圧力等の力学系計量標準に不可欠な重力加速度計測の信頼性確保に資するため、ならびに重力
加速度計測の不確かさを評価するための技術基盤の整備を図ることを目的とする。
第2期では、絶対重力計の不確かさ要因を解明すること、重力加速度計測の国際的整合性を確立すること、国
内の整合性を確立するために必要な設備を整備すること、を主な目的とする。
研究方法
第1期では、絶対重力計を用いた絶対重力加速度測定(図 1, 図 2)
,
151
物理標準の高度化に関する研究
図 1.絶対重力計の写真
図 2.絶対重力計の概略
スプリング式相対重力計を用いた重力差測定(図 3, 図 4)の技術基盤が整備された。
152
物理標準の高度化に関する研究
図 3.スプリング式相対重力計の写真
図 4.スプリング式相対重力計の原理
また、真空天秤を用いた、重力勾配測定と重力質量計測の高度化が実現された(図 5, 図 6)[1]。
153
物理標準の高度化に関する研究
図 5.真空天秤の写真
図 6.真空天秤の概略
第2期では、第1期で整備された装置を利用した国内測定の実施と国際比較への参加に重点を置く。
国内測定としては、国立天文台・江刺重力観測室において絶対重力加速度測定を実施し、人工的振動の影響が
少ない環境でデータを収集する。そして、得られた測定値を過去の測定結果と比較する。
また、2001 年 7 月に国際度量衡局で実施される絶対重力計の国際比較に参加し、重力加速度計測の国際的整合
性を確保すると共に、不確かさ評価の方法を確立する。さらに、絶対重力計用除振台、レーザー波長測定装置、3
成分地震計を整備し、絶対重力計の比較測定が高精度で実施できるようにする。
154
物理標準の高度化に関する研究
研究成果
絶対重力計の不確かさ要因を解明するため、2000 年 10 月に人工的振動の小さい国立天文台・江刺重力観測室に
おいて、一落下あたりの標準偏差 7.4 µGal の絶対重力測定を実施した。図 7 は、江刺重力観測室で絶対重力加速
度測定を実施しているときの様子を写したものである。
図 7.江刺重力観測室での絶対重力加速度測定の写真
(左:FG5 絶対重力計、右:国立天文台が開発している重力計)
図 8 は, 江刺重力観測室で測定された重力加速度データである。観測された周期的変化は主として月と太陽か
らの引力による地球潮汐によるものである。図中に示された曲線は理論的に計算される地球潮汐であり、実測値
とよく一致することがわかる。
155
物理標準の高度化に関する研究
図 8.江刺重力観測室で測定された重力加速度
(観測される時間変化は主として地球潮汐による)
図 9 はこのような地球潮汐を補正した後のヒストグラムである。
図 9.地球潮汐補正後のヒストグラム
標準偏差の3倍を越えるデータは、不良のデータとして取り除かれている。2051 回の落下測定データから計算
される標準偏差は、7.4 µGal となった。こうして得られた測定結果に、大気引力補正、極運動補正、機械高補正
を加えた値は、g = 980 121 748 ± 4.5 µGal となった。表 1 は、1985 年からの江刺重力観測室における測定デー
タを示したものである。1991 年には、NGS と NAOM による比較測定が実施されている[2]。NGS の観測値との差は-11
µGal、NAOM の観測値とは+19 µGal の差があることが明らかとなった。
Observation Date
Gravity value
/ μGal
uA
/μGal
Instrument
156
Institution
Number of
drops
物理標準の高度化に関する研究
Oct-1985
Jul-1987
Mar-1991
Mar-1991
Nov-2000
980,121,697
980,121,799
980,121,759
980,121,729
980,121,748
2
3
1.4
7
1.04
ILOM-1
JAEGER/BIPM
JILAg-4
NAOM-2
FG5-208
NAOM, JPN
GSI, JPN
NGS, USA
NAOM, JPN
NMIJ/AIST, JPN
----6,000
43
4,200
表 1.江刺重力観測室におけるデータ
落下槽型重力計の一つの欠点として、測定中に重力計から振動が発生することが挙げられる。振動計を用いて、
この振動を測定すると、周波数 49 Hz および 146 Hz にピークをもつことが分かった。スーパースプリングを作動
させないで、落体の位置と時間を観測してみると、やはり振動の影響が観測された。しかし、スーパースプリン
グを作動させることで、こうした振動の影響をほとんど取り除くことができた。
重力加速度計測の国際的整合性を確立するために、2001 年 7 月に国際度量衡局が主催し、12カ国の研究機関
が集合する絶対重力計の国際比較に参加し、各国の絶対重力計との差を明らかにした。図 10 は,国際比較が行わ
れている様子である。
図 10.国際比較の様子
(手前に見える装置が産業技術総合研究所の絶対重力計)
手前に見える装置が産業技術総合研究所の重力計(FG5-213)で、奥に見えるのが国際度量衡局所有の絶対重力計
(FG5-108)である。国際度量衡局の重力点は、質量約 80 トンのコンクリート製ブロック上に作られている。この
重力点は人工的振動が小さく、一落下あたりの標準偏差 6.0 µGal での観測が可能であった。表 2 は、国際比較に
参加した国名、機関名、重力計名を示している。
番号
国名
1 Canada
機関
NRC
157
重力計
A10_003
物理標準の高度化に関する研究
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
Germany
UK
UK
----Belgium
USA
France
Switzerland
Spain
Japan
Germany
Italy
Canada
Finland
Austria
BKG
POL
NPL
BIPM
ORB
NIST
EOST
METAS
IGN
NMIJ/AIST
BKG
IMGC
NRC
FGI
BEV
FG5_101
FG5_103
FG5_105
FG5_108
FG5_202
FG5_204
FG5_206
FG5_209
FG5_211
FG5_213
FG5_301
IMGC_4
JILAg_2
JILAg_5
JILAg_6
表 2.絶対重力計の国際比較に参加した国名、機関名、重力計名
参加国のほとんどは欧州および北米であった。参加した研究機関としては、計測標準研究所と地球物理学・測
地学研究所が半々であった。装置の種類としては、FG5 型、JILA 型が大多数を占め、それ以外では IMGC 型が1台
参加するだけであった。国際比較の最終的な結果は、まだ公表段階にはないが、当所の結果は 10 µGal より小さ
い偏差で国際的に整合しているとの解析結果を得ており、重力加速度計測の国際的整合性の確保と計測不確かさ
の評価に寄与することができた[3]。
また、高精度な重力計測を可能にするために必要な設備も新たに整えられた。図 11 は、整備した3箇所の測定
点をもつ絶対重力計用除振台の写真である。
図 11.絶対重力計用除振台の写真
(質量 37 ton、固有振動数 16 Hz、3箇所の測定点がある)
除振台はコンクリート製で、質量 37 トン、固有振動数 16 Hz である。中高周波の振動は除去できたが、一部の
158
物理標準の高度化に関する研究
低周波における振動を減衰させることはでなかった。非常に高精度な重力観測のためには更なる改善の余地はあ
るが、定常的な重力計の校正サービスは実施できるようになった。図 12 はレーザー波長測定装置の写真である。
図 12.波長測定装置の写真
この装置は、絶対重力加速度測定において長さの標準となるレーザー光の波長を測定し、その値を確認するた
めに用いる。図 13 は、レーザー波長測定装置の概略を示したものである。反射鏡と半透鏡を使い、2つのレーザ
ーの光軸を一致させる。レンズによって受光器に集光し、そのビート周波数を観測する。
図 13.波長測定装置の概略
図 14(a), (b)は 3 成分地震計を用いて観測された重力点の振動である。
159
物理標準の高度化に関する研究
(a) 平日 (人工振動が多く、重力測定に不向き)
(b) 週末 (比較的静か, 一落下測定あたりの標準偏差
20 µGal 以下での測定が可能)
図 14.3成分地震計による重力点の観測データ
(FSC = 50 µm/s)
図 14(a)は平日の観測値で、人工的な振動が多く、重力観測には不向きであることがわかる。振動速度の大きさ
は 20 から 40 µm/s になる。図 14(b)は同一地点を週末に観測したものである。週末の夜間には、振動速度の大き
さは 7 µm/s 以下となり、スーパースプリングを用いた測定によって、一落下あたりの標準偏差を 20 µGal 以下に
することができる。
これらの整備により、国内で高精度な重力計測を必要とする機関等に対して、依頼試験による重力加速度の標
準供給を開始することができた。供給できる重力加速度値の拡張不確かさ(k=2)は 9.0 µGal である。
考
察
国内測定の実施、国際比較への参加によって、国際的整合性を確立することができ、重力加速度計測の不確か
さを評価するための技術基盤の整備を図るという、当初の目的をほぼ達成することができた。
今後、国際比較結果の分析、国内比較測定の実施を進めることによって、重力加速度計測の信頼性をさらに高
めていく。ただし、非常に高精度な国内比較測定を実施するためには、絶対重力計用除振台の除振能力を更に改
善してゆくことが必要となる。
160
物理標準の高度化に関する研究
引用文献
[1]
“重力加速度計測に関する研究, “ 科学技術振興調整費 平成 11 年度研究成果報告(1999).
[2]
Hanada H. et al.,"Simultaneous comparison of absolute gravimeters between Japan and U.S. at Esashi,"
Programme and Abstracts, The Seismological Society of Japan, 1991, 2, 63.
[3]
“The sixth international comparison of the absolute gravimeters,” (Metrologia に掲載予定).
成果の発表
1)原著論文による発表
イ)国外誌
1.
S. Mizushima: “Determination of vertical gravity gradient for mass calibration using a relative gravimeter,”
ACTA APMP2000, 43-48 (2000).
2)原著論文以外による発表
イ)国外誌
1.
The sixth international comparison of the absolute gravimeters (Metrologia に掲載予定、非筆頭)
3)口頭発表
イ)応募・主催講演等
1.
水島茂喜: “1 kg 電子天びんを用いた重力勾配測定,” 計量研究所成果発表会 (2000).
2.
S. Mizushima: "Determination of Vertical Gravity Gradient for Mass Calibration using a Relative Gravimeter",
APMF2000, (2000).
3.
水島茂喜: “重力加速度標準の現状と課題,” 標準研究連絡委員会 (2002).
161
物理標準の高度化に関する研究
2. 学関連標準の高度化に関する研究
2.3. 力加速度計測標準に関する研究
2.3.2. 絶対重力加速度計の開発
国立天文台水沢観測センター
坪川 恒也
要 約
重力加速度は力学量の基礎であり、その絶対値を求めることの重要性は、力学系計測標準の分野においても、近年、認識されて
きた。本研究の目的は、高精度の重力絶対測定に必要な技術的問題点を明らかにし、それを解決するための関連技術開発を行い、
最終的に絶対重力計を開発することである。具体的には、絶対重力計の構成要素を詳細に検討して、それぞれにおいて測定精度の
向上を計った。測定方式として、精度向上が期待できる単純自由落下方式を採用した。この結果、FG5 型など異なる測定方式の絶
対重力計との相互比較測定が可能となった。
研究目的
真空中で物体を自由落下させ、落下距離と落下時間を絶対値で求めることで、測定地点の重力加速度の絶対値を求める測定装置
を絶対重力計という。現在、市販されている絶対重力計は、世界的に見ても、米国マイクロgソリューション社の FG5 モデルのみ
であり、事実上のデファクトスタンダードとなっている[1]
。この絶対重力計では、物体の落下方法にドラッグフリーチャンバー
方式を採用している。この方式の利点は、自動および高頻度測定にある。欠点としては、物体の自由落下中にドラッグフリーチャ
ンバーが駆動しているため、機械振動が発生することである。
重力の絶対測定では、落下距離と落下時間の測定に長さと時間の標準を使用するので、本来なら測定された重力値は、標準量に
準拠した精度を持つはずであるが、主に落下方式の違いにより測定値に系統的に差が出る可能性がある。しかし、同一落下方式の
絶対重力計を使っている限りにおいては、何らかの原因でその機種固有に発生する、系統的な測定結果の偏りがあったとしても見
落とす恐れがある。このため世界的に FG5 型絶対重力計しか入手できないような状況においては、これとは異なる単純自由落下方
式の絶対重力計を開発し、相互に性能評価することは重要となる。FG5 型に比べて遜色のない国産の絶対重力計を開発し、絶対重
力測定の精度向上に大きく寄与することが本研究の目的である。
研究方法
1.絶対重力測定用長さ標準レーザの開発
絶対重力計では、自由落下距離の絶対値を求める長さ標準として、通常、沃素安定化 He-Ne レーザを使用している。これ以外の
レーザを使用するときには、測定時に沃素安定化 He-Ne レーザと検定する必要がある。しかし、沃素安定化 He-Ne レーザは、絶対
重力計の長さ標準として直接使用するには、かならずしも使い易い光源ではない。その理由を上げると、
・パワーが小さい(40μW 程度)こと。
・沃素の吸収線を基準にして共振器長を制御しているため、光のバックトークや振動等の擾乱により、いわゆるロックがはずれる
という制御不能の状態に陥り易いこと。
162
物理標準の高度化に関する研究
・波長安定化する際の必要悪として、出力光には常に 6MHz 程度の周波数変調が掛かっていること。
これらの問題点を解決するため、絶対重力測定に適したオフセットロック He-Ne レーザを開発した。このレーザの波長安定度は、
基準となる沃素安定化 He-Ne レーザに準拠している。実際に光源として使用するレーザ光は、この基準レーザから一定間隔(オフ
セット周波数分)だけ光周波数がシフトするように制御された、別のレーザ共振器(通常の He-Ne レーザの出力を持つ)から取り
出す。このレーザの特長は、高出力、高安定と光周波数無変調化を兼ね備えている点である。開発に当たっては、基本設計を計量
研究所の石川 純[2]
、レーザ共振器と光ビート検出部分をネオアーク(株)
、制御系を(株)エヌエフ回路設計ブロックがそれぞ
れ担当した。
図1に簡単な原理図を示す。
図1 オフセットロックレーザシステム
最終的に長さ標準となるオフセットロックレーザ(OLL)の出力の一部は、ビームサンプラー(BS)で 90°反射され、ハーフミラー
(HM)に入射する。一方、基準レーザとして使用する沃素安定化 He-Ne レーザ(ISL)からのビームは、ハーフミラー上でオフセット
ロックレーザからのサンプルビームと重ね合わされる。2つの光ビームから生じるビート信号は光ディテクター(アバランシフォ
トダイオード、APD)で検出される。APD で検出されたビート周波数は、両レーザの光周波数の差(オフセット周波数)となるため、
常にオフセット周波数を一定となるようにオフセットロックレーザ側の発振周波数を制御できれば、そのレーザからは基準となる
沃素安定化レーザの周波数安定度に準じた光が得られることになる。オフセットロックレーザ側では、設定したオフセット周波数
を基に、制御回路(CONT)で共振器長を制御する。実施の共振器長の制御は、白熱電球の輻射熱を利用して、内部鏡のレーザ管を
変形させることで行う。輻射熱で共振器長を制御するため、応答速度の違いから、沃素安定化レーザが周波数変調されている影響
は、オフセットックレーザ側では無視することができ、その変調幅の中心位置を基準光周波数と見なすことができる。このように
オフセットロックレーザの光周波数は、擬似的に無変調となる。沃素安定化レーザとオフセットロックレーザの周波数差は、200MHz
から 500MHz の範囲で設定可能であり、通常、300MHz 程度にセットする。オフセットロック側には 1mW 程度の He-Ne レーザを使用
するため、沃素安定化 He-Ne レーザに比べ1桁以上大きなパワーが得られることになる。図1の様に、出力ビームは平面鏡(M)で直
角に曲げられ、ファラデーアイソレータ(FI)を通過後、ファイバーカップリング機構(FC)に導入される。絶対重力計の干渉計には
シングルモードファイバーを介して供給する。このため、絶対重力計本体とレーザは物理的に切り離するため、レーザをより環境
の良い場所に設置でき、擾乱回避の点で有利である。
図2にアルミベース板上の部品配置を示す。
163
物理標準の高度化に関する研究
図2 アルミ板上での配置図
ベース板(270×700)上には2つのレーザとビート検出機構の全てが取り付いている。一人での持ち運びを容易にするため、左右
に取っ手を取り付けた。運搬の際は、全体をアルミ製の格納箱に入れる。このように絶対重力計用にアレンジしたオフセットロッ
クレーザシステムの写真を図3に示す。
図3 オフセットロックレーザシステム上面図
(下のレーザが沃素素安定化 He-Ne レーザ(マスター)
、上の小さいレーザがスレーブ用の最終出力レーザ)
沃素安定化レーザとオフセットロックレーザにはそれぞれコントローラがある。沃素安定化レーザのコントローラには GPIB イン
ターフェースが付いていて、計算機と接続することで発振線の選択や自動ロックが可能である。図4にスペクトラムアナライザー
で測定した、沃素安定化 He-Ne レーザ(マスター)光とオフセットロックレーザ(スレーブ)光間のビート信号の例を示す。この
場合、両レーザ間の周波数差は 300MHz に設定した。
164
物理標準の高度化に関する研究
図4 マスター/スレーブ両レーザ間のビート周波数
沃素安定化 He-Ne レーザの発振周波数の不確かさは、2.5×10−11 程度である。オフセットロックレーザの発信周波数の不確かさ
も、原理的に沃素安定化 He-Ne レーザに準拠し、絶対周波数はオフセット周波数分(例えば 300MHz)だけシフトするのみである。
例えば沃素安定化レーザの発信周波数をf線にロックし、オフセットロックレーザのシフト量をブルー側に 300MHz とすると、オフ
セットロックレーザの発信周波数は、473612353.595+300.000(MHz)となる。今回の装置では、オフセットロックレーザの出力が
1.08mW(f線+300MHz の時)
、オフセットロック時の周波数安定度(3σ)は 252Hz であった。
このようにオフセットロックレーザ方式は、周波数安定度とパワーの両方に満足できる長さ標準を得ることができるため、絶対
重力測定用として最適と思われる。
2. 干渉縞計数器の開発
自由落下中にレーザ干渉計から発生する干渉縞信号を処理する干渉縞計数器を開発した。干渉縞計数器は落下時間ごとに対応し
た干渉縞信号を処理することで、その時点での落下距離を正確に求めるために使用する。
図5に干渉縞計数器のブロック図を示す。
165
物理標準の高度化に関する研究
図5 干渉縞計数器ブロック図
この装置の時間標準は、外部から供給されるルビジウム原子時計からの 10MHz である。コーナキューブプリズムが真空中で 30 cm
程度落下する間に、干渉計から発生する信号の周波数(フリンジ周波数)は、DC から約8MHzまで直線的に上昇し、フリンジの総
数は約 100 万個となる。このフリンジ信号を受けて、本装置は次のような処理を行う。
(1)外部入力の落下スタート信号を基点として、時間基準となる 1ms ごとに、パルスに変換されたフリンジ数の積算値(整数)2
4ビットバイナリーカウンターで計測する。これは最大 512 回繰り返される。
(2)落下スタートから 1ms ごとに、光電変換素子(APD)で検出したフリンジ信号(正弦波)を8ビットの A/D 変換器でデジタイ
ズする。この際のサンプリング間隔は 5ns である。このサンプリング周波数(200MHz)は、ルビジウム原子時計の 10MHz から
20 逓倍したものを使用する。1ms ごとのサンプリング個数は 1000 個である。このため 1ms ごとに切り取るフリンジ波形時間
は 5μsとなる。
(3)一連の 1ms クロックパルスの立ち上がり点と、その直後に入力するフリンジ信号のゼロクロス点までの時間間隔を、時間分解
能 500ps のタイムインターバルカウンターで計測する。これも最大 512 回繰り返し計測される。ただし、このカウンターの測
定可能な最大時間間隔は 200ns であるため、落下直後でフリンジ周波数が低い場合は飽和してしまう。
(1)、(2)、(3)で得られるそれぞれのデータは、何番目の 1ms データであるか分かるように、先頭に識別番号を付けて、メモリーに
格納される。1回の自由落下終了後、本装置の測定データは、外部計算機のデジタル入出力インターフェースを介して、計算機側
のメモリーに転送される。
このようにフリンジ信号の処理は、基本的には1ms間隔の基準パルスをタイミング信号として、その時点での干渉縞の積算計
数値(整数部分)と1フリンジ未満(端数部分)に相当する落下時間を計数するタイムインターバルカウンターを組み合わせで、
落下距離と落下時間の一対の組データを最大512組まで取得している。一方、アナログ量のフリンジ信号は、同時に 1ms 間隔で、
高速 A/D コンバータで 5μs 間デジタイズしてメモリーに格納する。この一連のデータから、1ms ごとのフリンジの位相を求め、そ
の第1階差と第2階差を求めることで、1mmsごとの落下距離が計算できる[3]。この様に、この方式では、一定時間(1ms)ごとの落
下距離を、デジタル的とアナログ的の2つの方法で求めている。この方法では、従来のデジタルカウンターのみによる処理に比べ、
信頼性を高くすることができる。今回、組データの数を最大512組としたが、30cm 程度の落下距離では250組程度で問題ない
が、落体が落下装置から離脱する状態や落体受けて入る状態までも確認するには、自由落下前後までモニターする必要があるため、
測定時間に余裕を取っている。図6に干渉縞計数器の前面パネルと裏面パネルを示す。
図6 干渉縞計数器外観図(左:前面パネル 右:裏面パネル)
3. 振動評価装置の開発
干渉除振装置の特性を把握するための、振動評価装置を開発した。絶対重力測定において、測定精度に大きな影響を与えるのが、
測定点の地面振動である。地面振動(人工的な振動も含む)が干渉計に及ぼす影響を確認するには、あらかじめ校正された振動レ
ベルを出力できる加振機等を用いて、その特性を評価する必要がある。しかしながら、地面振動程度の低レベルの振動まで模擬す
るような加振機は市販されていないため、絶対重力計の特性試験用として最適な振動評価装置を試作した。
レーザ干渉計を用いた落下距離測定において、位置の原点を決める参照コーナキューブプリズムは、本装置では除振機構を用い
た仮の不動点に固定されている。この除振機構の性能を確認するために、振動評価装置を開発した。 振動評価装置は、加振機と
166
物理標準の高度化に関する研究
しての動作のみならず、地面の上下振動を補償するように駆動することで、除振装置としても動作させることが可能である。具体
的には、測定点床上に設置した地震計により地面振動を検出し、その信号出力を基に振動評価装置の石定盤を地面振動とは逆位相
で駆動することで、干渉計全体を除振することができる。この方法は、市街地のように振動環境の悪い観測点で重力の絶対測定を
する際に、特に有効となる。
図7に振動評価装置とその上に載せた干渉計システムを示す。
図7 振動評価装置(干渉計システムと組み合わせた状態)
構造的には石定盤(320×460、厚さ 40mm)をアルミ合金製のフレームに格納し、これをステンレス製のリブで吊り下げる様な形
で、3箇所をピエゾ素子で支持する方法を採用している。振動評価装置自体の最大外形寸法は、750×442×207 である。図の右側
にピエゾ駆動脚を2本、左側に1本の駆動脚がある。 図8に2本のピエゾ駆動脚側の側面を示す。
167
物理標準の高度化に関する研究
図8 振動評価装置側面(手前に見える2本の円筒内には、ピエゾ素子が格納されている)
使用したピエゾ素子は P-242.37(PI)である。ピエゾは図8の様なステンレス製の円筒ハウジングに格納している。ピエゾ素子
先端の微小変位部分には、20φの駆動シャフトをねじ込んでいる。この駆動シャフトをリニアブッシュベアリング内に挿入し、ガ
イド機構としている。このシャフトの先端は、12φの硬球を介してリブの受けと接している。このような構造を採用することで、
ピエゾ素子に直接、剪断力や回転力が加わらないようにた。使用したピエゾ素子の定格は、発生力 13,000N、-1000V の駆動電圧で
40μm 変位するものである。駆動は制御信号を高圧アンプに入力して行う。今回、高圧アンプは E-5 00.00、E-507.003台、E-509.X3
(いずれも PI)を使用した。
研究成果
絶対重力加速度測定装置を実現するために、以下の装置を開発した。
•
絶対重力測定の光源としてオフセットロック安定化 He-Ne レーザを開発した。このレーザは、沃素安定化レーザの波長安定度
と通常の He-Ne レーザの高出力とを備えているため、絶対重力計用として最適と言える。今回、次世代の絶対重力計の標準光
源が開発されたと言える。
•
干渉縞信号を処理する干渉縞計数器を開発した。落下時間と干渉縞信号との関係を、干渉縞積算個数、1フリンジに満たない
波形の位相に相当する時間間隔、高速 A/D 処理の、3つを組み合わせから求める方式を考案し、従来、FG5 等で採用されてい
るデジタルカウンターのみの信号処理方式に比べ、精度を高めることが可能となった。
•
干渉縞信号を処理する干渉縞計数器を開発した。落下時間と干渉縞信号との関係を、干渉縞積算個数、1フリンジに満たない
波形の位相に相当する時間間隔、高速 A/D 処理の、3つを組み合わせから求める方式を考案し、従来、FG5 等で採用されてい
るデジタルカウンターのみの信号処理方式に比べ、精度を高めることが可能となった。
•
地面振動が重力測定に及ぼす影響を定性的に把握するため、振動評価装置を開発した。
考 察
干渉縞計数器の開発において、アナログのフリンジ信号をデジタルに変換する際、200MHz のクロックを使用するが、クロック周
168
物理標準の高度化に関する研究
波数が高いため、当初、50MHz の4段に分解して時間的にずらしながら TTL メモリーに格納する方式で設計したが、動作が安定し
なかったため使用メモリーを ECL タイプのものに変更した。このため、電源とインターフェース回路の変更、調整などで多くの時
間を費やし、実際の干渉縞を入力した状態での動作確認は行なえなかった。ただし、模擬信号を入力させた状態で、正常動作を確
認できている。
今回の開発研究で、現在、標準的に使用されているドラッグフリーチャンバー方式の FG5 型絶対重力計と比較し得る、単純自由
落下方式による絶対重力計の開発に、一定の成果を上げることができた。図9に今回開発した絶対重力計の主要部分(超高真空対
応落下装置、干渉計など)を示す。
図9 今回開発した絶対重力計の主要部分
今後、さらに使い易い様に各種改良を加え、原理的に優れている単純自由落下方式による絶対重力計の普及を図っていきたい。
引用文献
[1]
T.M.Niebauer, G.S.Sasagawa, J.E.Faller, “A new generation of absolute gravimeters”, metrologia, 32, 3, 159-180 (1995).
[2]
Jun Ishikawa, “Accurate frequency control of an internal-mirror He-Ne laser by means of a radiation-heating system”,
Applied Optics, Vol. 34, No. 27, 6095-6098 (1995).
[3]
Tsuneya Tsubokawa, “A fringe signal processing method for an absolute gravimeter”, metrologia, 20 107-113, (1984).
169
物理標準の高度化に関する研究
成果の発表
2)原著論文以外による発表(レビュー等)
イ)国外誌
1.
T.Tsubokawa and S.Svitlov, “New method of digital fringe signal processing in an absolute gravimeter,” Conference on Precision
Electromagnetic Measurements, 98CH36254, 632-633 (1998).
3)口頭発表イ)
1.
坪川恒也、石川 純、波多野智、 絶対重力計用オフセットロックHe-Ne レーザの開発、日本測地学会96 回講演会(2001)、札幌
2.
坪川恒也、鹿熊英昭、 絶対重力測定用レーザ干渉計システムの開発、日本測地学会96 回講演会(2001)、札幌
170
物理標準の高度化に関する研究
3. 音響及び振動加速度標準の高度化の研究
3.1. 音圧レベル標準のトレ−サビリティ確立に関する研究
3.1.1. 標準マイクロホン絶対校正技術の高度化に関する研究
産業技術総合研究所計測標準研究部門音響振動科
佐藤
宗純、堀内
竜三、藤森
威
人間福祉医工学研究部門感覚知覚グル−プ
蘆原
要
郁
約
可聴周波数全帯域における高精度の音圧レベル標準供給を目的に、その基本である標準マイクロホン感度の絶
対校正技術について研究を行った。前期(第Ⅰ期)は標準マイクロホンの音圧感度校正における精度向上と周波
数範囲の拡大を行った。今期(第Ⅱ期)は実用上重要な音場感度校正の高度化を図り、無響室を用いる音場感度
の絶対校正技術を実用化して音場補正量の標準値を決定するとともに校正の不確かさを調べ、主要周波数範囲で
は1%程度の不確かさで音場感度校正が可能となった。
また、音圧レベル標準の大きな用途は騒音評価であるが、実環境騒音の大半を占める複合音に対する騒音評価
に関し、聴覚の基本特性を調べて可聴周波数上限などを明らかにした。
研究目的
1)
標準マイクロホン音場感度の絶対校正技術の開発
現在,可聴音の音響標準は標準マイクロホンの音圧感度として与えられている。これは,正確な音圧を発生さ
せる標準音源の実現が難しい一方,電気音響変換器の相反定理を利用すると,音響カプラを用いた相互校正法に
よって比較的容易にまた高精度に,マイクロホンの音圧感度を絶対校正することが可能であるからである 2)。標準
マイクロホンには,外形が約1インチで使用周波数範囲の上限が 10 数 kHz のⅠ形標準マイクロホンと,外形がほ
ぼ 1/2 インチで使用周波数範囲が可聴周波数の上限の 20kHz 以上にまで伸びているⅡ形標準マイクロホンがあり,
その形状寸法は IEC 規格および JIS により規定されている 1)。標準マイクロホンは十分な安定性をもつことが要件
であり,現在,国際的に認知されているのは,Ⅰ形が国産の MR103 とデンマーク B&K 社の 4160,Ⅱ形が国産 MR112
と B&K 社 4180 の4種類だけである。ただし,国産の2種は現在製造を中止しており,早急な対応を迫られてい
る。
音圧校正に関しては,前期の研究によって校正の再現性や電気的測定精度は十分なレベルに達しているが、実
際の音響計測では次元空間でマイクロホンを使用することが普通であり,この場合には,マイクロホンの音場感
度が必要である。図1−1はマイクロホンの自由音場感度と音圧感度の違いの説明である。
171
物理標準の高度化に関する研究
図1−1
音場感度と音圧感度
マイクロホンがない状態での音場音圧を pf とし,マイクロホンを音場に置いた場合のマイクロホン前面位置の
音圧を pp とする。マイクロホンによる反射や回折の影響が現れる高い周波数では,一般に pp は pf と異なるため,
pp に対するマイクロホン出力電圧の比として定義される音圧感度は,pf に対するマイクロホン出力電圧として定
義される自由音場感度とは異なったものとなり,pf の値を正確に測定するためには自由音場感度の値が必要であ
る。
標準マイクロホンの自由音場感度は、原理的には無響室を用いた相互校正法によって絶対校正が可能である 3)。
しかし,S/N が極端に悪いなどの理由から測定精度を得るのが非常に困難であり、通常は直接校正は行われていな
い。自由音場感度と音圧感度の感度レベルの差は自由音場補正量と呼ばれ,その値は,個々のマイクロホンには
殆どよらず,マイクロホン型式(形状)にほぼ依存すると考えられている。そこで,マイクロホン型式ごとに標
準値を決めておき,音圧感度の校正値をこの標準値で補正して音場感度を算出するのが現状の音場感度の校正方
法である。
この音場補正量の標準値は,マイクロホンの振動膜張力や共振周波数などのパラメータを用いて、各種の近似
をいれて数値計算した理論値を用いており,その正しさを実験的に検証する必要がある。Ⅰ形マイクロホンにつ
いては,その妥当性がほぼ確認されているが,Ⅱ形標準マイクロホンについては,まだ充分に信頼性のある結果
が得られていない。図1−2にⅠ形マイクロホン B&K4160 およびⅡ形マイクロホン B&K4180 の音場補正量の理
論値を示す。高域周波数では 10dB 近くにもなる。
theoretical value of
free-field correction (dB)
10
8
B&K4160
6
4
B&K4180
2
0
0.1
1
frequency (kHz)
図1−2
10
音場補正量理論値
今期の研究では、無響室を用いる標準マイクロホンの音場絶対校正技術の実用化を図り、絶対校正によって求
めた音場感度と、カプラ校正によって求めた音圧感度との差から音場補正量の真値を実測し、その不確かさを決
定するとともに現在用いている標準値(理論値)の正しさを検証する。標準マイクロホンの音場補正量値について
は IEC でも審議中であり、各国にデ−タの提出が求められている
172
4)
。
物理標準の高度化に関する研究
2)複合音の聴覚特性解明
日常生活場面で遭遇する音の大半は複合音である。また、複合音の聴取ではマスキングや非線形結合音といっ
た複合音特有の現象が発生する。にもかかわらず,聴覚の基本特性の多くは純音に対する測定データに基づいて
いる。純音の場合,可聴周波数の上限が 20 kHz に達することが知られているが 5,6,7,8,9)、実環境における複合音中
でもそのような高い周波数成分が聞き分けられているかどうかは不明である。一方で,音楽信号のような複合音
では,純音では聞こえないとされている 20 kHz 以上のいわゆる超音波成分の有無が音の主観的印象に影響を及ぼ
すという報告もある 10,11,12)。
同じように,各種音響機器(スピ−カ,ヘッドホン,補聴器)の特性評価も基本的には純音による測定に頼っ
ている。しかし,スピーカで複合音を再生すると,純音再生時には観測できない混変調歪が生じる。このため、
純音での測定だけでは,実用場面での特性評価,特に線形性の評価はできない。
本研究では,複合音を聴取する際に,その音に含まれる周波数成分のうち,どのくらい高い周波数成分までが
音の印象に影響を及ぼしているかを調べ、複合音に対する可聴周波数域と純音に対する可聴周波数域の関係を明
確にする。また、各種電気音響変換器の実用場面での線形性を評価する手法の開発を目指す。
近年、ディジタルオーディオをはじめとして聴覚の研究でも,殆どの音はディジタル信号として扱われている。
ディジタル信号を音に変換するには DA 変換が必要だが,DA 変換時に生じるわずかな時間ゆらぎは,音質を劣化さ
せることが指摘されており
13,14)
、聴覚実験においても、結果の信頼性を保証するには時間ゆらぎ量が充分に小さ
いことが必要である。この時間ゆらぎの検知閾に関する学術的な研究はきわめて少なく、その解明をめざす。
研究方法
1)標準マイクロホン音場感度の絶対校正技術の開発
図2−1および図2−2は,相互校正法を用いた標準マイクロホンの自由音場校正および音圧感度校正の原理
を示したものである。
Et
(1)
Er
E
ρe−(α+jκ)d StSr
2d
Z
= jf
t
St,Sr:音源、受音マイク音場感度
d :音響中心間の距離
δ1 ,δ2 :マイクと音響中心の距離
Z :音源マイク電気インピーダンス
f :周波数
ρ:空気密度
δ
1
r
音源マイク
d
受音マイク
δ
2
α:空気中の音波減衰率
k :波数
音響中心
Er
図2−1
音場相互校正法原理
173
物理標準の高度化に関する研究
受音マイク
er
(2) e
t
=
γP
2iπfV
st sr
z
er
st ,sr :音圧感度
z :音源マイクインピーダンス
キャピラリ
チューブ
音響カプラ
γ :比熱比
P :大気圧
V :カプラ容積 f :周波数
et
音源マイク
図2−2
音圧相互校正法原理
標準マイクロホンの電気音響変換器としての可逆性によって,音源として用いた場合の感度が本来のマイクロ
ホンとしての感度と原理的に等しい(相反定理)ことを利用しており、一方のマイクを音源として用い、他方の
マイクで受音して、音源マイク入力に対する受音マイク出力の伝達特性を測定すると、両マイクロホンの感度の
積が得られることが測定原理である。実際の校正では,3個のマイクロホンを用いて3組のペアの感度積を測定
し,これから,個々のマイクロホンの感度を算出する。これが相互校正法と呼ばれる所以である。自由音場校正
では,パラメータとして音響中心位置δ1+δ2 が必要であるが,これは予めマイクロホン間隔を数点変えて伝達特
性を測定し,図中の式に当てはめて最小2乗法により求める。
図3−1は音場絶対校正システムのブロック図である。
microphone positioning system
anechoic
chamber
M
transmitting
microphone
Acoustic path
Attenuator path
switch
attenuator
receiving
microphone
FFT
analyzer
(40∼119dB)
(control line)
preamp main amp
図3−1
Band pass
filter
音場校正システムブロック
マイクロホンは無響室の床および天井から鉛直に突き出した同径の棒の先端に取り付けられている(図4)。
174
物理標準の高度化に関する研究
図4
無響室とマイクロホン配置
上部のマイクロホンは音源マイクロホンであり,上下に移動させることができ,その間隔はデジタルスケール
で正確に測定される。通常,マイクロホン間隔 15cm∼30cm で測定を行う。受音マイクロホンの出力は-80dBV∼
-140dBV と非常に小さいため,約 80dB 増幅した後でFFTアナライザに入力され,周波数分析と長時間平均によ
って S/N が改良される。この場合,増幅器のゲインは,標準抵抗減衰器による既知電圧を受音マイクロホンに挿
入することで正確に求めることができる。また,フロート入力アンプと一点アースの採用により,クロストーク
は信号レベルの 10-4 以下に抑えられている。図3−2は受音マイク出力レベルとノイズレベルの例である。
Voltage (dB re 1V)
-60
-80
-120
S/N
-140
-160
図3−2
signal output
-100
noise (bandwidth: 1Hz)
1
2
5
frequency
信号レベルとノイズレベル
10
(kHz)
20
(入力電圧 1V,マイク間隔 15cm)
音源が感度の高いⅡ形計測マイクロホン B&K4165,受音がⅡ形標準マイクロホン B&K4180 である。周波数が低
くなると極端に S/N が悪く,周波数 2kHz で実効的に 60dB の S/N を得るためには 1000 秒以上の長時間平均が必要
である。
音場相互校正においては、高性能の無響室でも 1∼2%(0.1dB 相当)程度の反射波が必ず存在するため,音源に
純音を用いたのでは精密な音場校正は不可能である。反射波を除去するためには,パルス音源を用いて反射波と
直接波を時間的に分離する手法が考えられるが,音源マイクに直接パルス信号を加えても十分な放射パワーが得
ることはできない。そのために,測定周波数近傍の周波数伝達特性を正確に測定し、この伝達特性を用いて実際
のパルス応答を計算機上でシミュレートする仮想パルス法を開発して、すべての測定に適用した。図5はⅡ形標
175
物理標準の高度化に関する研究
準マイクロホン B&K4180 の音響中心位置の測定に仮想パルス法を適用した例である。
δ1+δ2 [mm]
8
conventional method
BW:100Hz, TW:10ms
BW:400Hz, TW:10ms
6
4
2
4.5
5.0
5.5
Frequency [Hz]
図5
音響中心の測定例
(B&K4180 と B&K4165 の組合せ)
細点線は音源に純音を用いた場合であり,反射波の影響で大きく暴れている。太点線は帯域幅 100Hz の,実線
は帯域幅 400Hz の仮想パルス音源を用いた例であり,帯域幅が広がる(パルス幅が狭くなる)につれて本来の素直
な周波数特性が得られている。
個々の標準マイクロホンの音場補正量理論値や音圧校正におけるカプラ補正量の値を正確に算出するには、マ
イクロホンの共振周波数や振動膜張力の値を実測する必要がある。そのために、マイクロホンの電気インピーダ
ンスから共振周波数を効率的に測定する手法を開発した。また、マイクロホン膜面に微差圧を加えた時の静電容
量変化から膜張力を測定する手法を開発した。これらマイクロホンパラメータの測定値から算出した補正量を用
い、音場相互校正法によって求めた自由音場感度の絶対校正値と、音響カプラを用いた音圧相互校正法によって
求めた音圧感度の絶対校正値の差から音場補正量の実測値を算出した。
2)複合音の聴覚特性解明
複合音の可聴周波数上限を調べるため、複数の純音を合成した調波複合音を刺激音として,高域成分の有無に
よる音質変化の弁別実験を行った。遮断周波数が適応的に変化する low-pass filter を用いることにより、可聴
周波数の上限を効率よく推定した。この際,スピーカの非線形歪の影響をあきらかにするため、すべての調波成
分を 1 本のスピーカから提示した場合と複数のスピーカに分割して提示した場合の弁別成績の比較を行った。
狭帯域の帯域除去フィルタを用いることにより,複合音に対するオーディオ機器の非線形歪計測が可能なこと
はすでに知られているが
15)
,可聴域全体の歪を観測するのにフィルタの設定を変えて何度も測定する必要がある
こと,暗騒音の影響でせいぜい-30 dB 程度の歪までしか計測できないことなど,実用面での問題が少なくなかっ
た。そこで,全帯域を1回の測定でカバーするために周波数掃引型の帯域除去フィルタを用い,さらに暗騒音の
影響を低減させるための同期加算法を導入した非線形歪計測法をあらたに考案した。本手法を用い,市販されて
いるオーディオ用スピーカの線形性を評価した。また,Head and Torso Simulator を用いてヘッドホンならびに
補聴器の線形性評価も実施した。
DA 変換時に生じる時間ゆらぎの検知閾を調べるには,時間ゆらぎの量を人為的に操作する必要があるが,音楽
信号のような不規則な複合音再生場面で時間ゆらぎを計測するのは極めて困難であり,まして定量的に操作する
のは不可能に近い。そこで,実際に時間ゆらぎを発生させるのではなく,ディジタル信号上で,サンプリング間
隔が変化したときに波形がどのように変化するのかをシミュレートする方法を考案した。本手法では,離散的な
ディジタル信号から,補完により,すべてのデータを通る m 次曲線を求め,この曲線を時間軸上で伸縮すること
176
物理標準の高度化に関する研究
により,任意の時間ゆらぎの影響をシミュレートする。伸縮後の曲線からあらためてサンプリングすることによ
り,元の信号と同じフォーマットのディジタル信号が得られる。このようにして求められた信号と,元の信号を
同じ DA 変換器を介して再生し,音の違いが弁別できるかどうかを調べた。
研究成果
1)標準マイクロホン音場感度の絶対校正技術の開発
ア)音場補正量の実測と現行標準値の検証
無響室を用いた音場相互校正法によって求めた自由音場感度の測定値と、音響カプラを用いた音圧相互校正法
によって求めた音圧感度の測定値の差をとって音場補正量の実測値を求めた。図6は、B&K4180 形Ⅱ形標準マイ
クロホンについての結果を示したものである。図6−1は,音場補正量実測平均値と現在用いている標準値(理
difference between reference
and measued value(dB)
論値,図1−2)との差を示したものである。
0.15
0.1
0.05
0
-0.05
4
5
6
7 8 9 10
frequency (kHz)
図6−1 音場補正量理論値と実測値の偏差
20
(4 組の B&K4180 の測定平均)
deviation from the average of
free-field corrections (dB)
また,図6−2はマイクロホンの違いによる音場補正量のバラツキを示したものである。
0.1
0.05
0
-0.05
-0.1
4
5
6
7 8 9 10
20
frequency (kHz)
図6−2 マイクによる音場補正量の違い
(平均値からの偏差)
理論値と実測値の差は最大でも 0.15dB であり,主要周波数範囲では 0.1dB 以内である。また,マイクロホンの
違いによる音場補正量のバラツキも 0.05dB 以内である。また、B&K4160 形Ⅰ形標準マイクロホンの音場補正量を
500Hz∼12.5kHz において実測し、現在用いている標準値との偏差は最大でも 0.1dB であることを確認した。
これらの結果は、音圧感度測定値を音場補正量標準値で補正して音場感度を算出する方式でも、主要周波数範
囲内では 0.1dB 以内の不確かさで音場感度の測定が可能であることを示しており、現行の音場感度校正法の妥当
177
物理標準の高度化に関する研究
性を示す大きな根拠と考えられる。
イ)音場比較校正技術の高度化
一般の計測マイクロホンの音場感度は標準マイクロホンとの置換による音場比較校正によって求められる。し
かし、無響室中には1∼2%の反射波が必ず存在し,その状態が僅かの温度変化によっても大幅に変わるため,安
定化な校正には測定時間の短縮が必要である。そのために,図7−1に示すような回転台を用いたマイクロホン
自動置換方式を開発した。
図7−1
回転式マイクロホン置換装置
基準マイクロホンと被校正マイクロホンは回転装置による180度の回転で空間上の同じ位置に正確に置き換
えられる。また,音源信号として測定周波数全てを含む複合音を用い,FFTアナライザを用いた周波数分離方
式を採用した。これにより,測定時間の大幅な短縮化が図られると共に,純音駆動に比べてスピーカの周波数切
り替えに伴う出力変動が避けられ測定の安定化が図られた。Ⅱ形標準マイクロホン B&K4180 を用いた場合,図7
−2に示すように,周波数 20kHz まで標準偏差 0.08dB 程度と良好な再現性が得られている。1回の測定時間は約
15 分である。
S ta n d a rd d e v ia tio n (d B )
0 .1
0 .0 5
0
100
1000
10
4
F re q u e n cy (k H z)
図 7−2
音場比較校正の再現性
2)複合音の聴覚特性解明
調波複合音を刺激音とした可聴周波数上限の測定では,すべての調波成分を1本のスピーカから提示したとき
には,可聴域内に生じるスピ−カの混変調歪の増加が手がかりとなり、22 kHz をこえる超音波成分の有無を弁別
できることが解かった
16,17)
。そこで、この混変調歪の影響を避けるため,各調波成分を複数のスピーカに分割し
て提示した。その結果,可聴周波数上限が 14 kHz に達しない被験者もいた反面,18 kHz 近くまで聞き分けること
のできる被験者もいることが示された。純音に対する可聴域の広い被験者ほど複合音に対する可聴周波数上限も
178
物理標準の高度化に関する研究
高かった 18)。
結果から,複合音の可聴周波数域は純音に対する最小可聴値からある程度予測できること,12 kHz をこえる超
高周波数帯域での聞こえには非常に大きな個人差が存在することが示された。また、超音波成分の有無が可聴域
内の混変調歪を増加させ、検知可能な音質変化を生じる場合のあることが判明した。
周波数掃引帯域除去フィルタと同期加算法を用いたスピーカの非線形歪計測法(図8)により,1000 回程度の
同期加算で,-70 dB 程度の歪も計測可能なことが示された。また,純音を用いて測定された全高調波歪率と本手
法で測定された全非線形歪率には相関があるものの,スピーカによってはかなりの隔たりもあり,高調波歪の測
定だけでは実用場面の歪量を正確に求められないことが改めて示された 15)。
帯 域 除 去 フ ィ ル タ と 同 期 加 算 法 に よ る 非 線 形 歪 測 定 法 ( 蘆 原 , 桐 生 , 2000)
①
広帯域スペクトルを
もつ周期信号①から特
定の周波数帯域(観測
帯域)成分を除去し②,
再生する。録音された
信号③に含まれる暗騒
音を低減させるため,
信号に同期した加算平
均を行う。得られた信
号④から帯域通過フィ
ルタにより観測帯域内
のひずみだけを抽出す
る⑤。
a ve r ag i ng
→f
④
b an d -e li m in a ti o n f il t er
②
→f
ba n d- p as s f i lt e r
⑤
→f
sy s te m t o b e t e st e d
③
→f
→f
図8
Head and Torso Simulator を用いることにより,ヘッドホン
された(図9)。
179
19)
や補聴器
20)
の非線形歪計測も可能なことが示
物理標準の高度化に関する研究
dBSPL
signal
107
83
59
35
distortion
11
-13
84 336 1344 5376 Hz
dBSPL
113
89
65
41
noise floor after averaging
17
-7
84 336 1344 5376 Hz
補聴器における非線形歪の特性例
RIONET HA-72P,60 dBSPLマイクロホン入力相当時(上図)および80 dBSPLマイクロホ
ン入力相当時(下図)の測定結果。利得調整器は中央位置,AGCはoffの状態にて測定。
1500回の加算平均後の暗騒音は,充分に小さかったことがわかる。
図9
重度難聴者用補聴器では,最大利得が 70 dB をこえる製品も多く,最大出力は 140 dB 近くに達するが,今回の
測定では,殆どの機種で出力音圧が 125 dBSPL 付近をこえるあたりから急激に線形性が失われ,130 dBSPL 付近で
は歪率が-10 dB をこえることが示された(図10)
。
180
物理標準の高度化に関する研究
140
0
A
distortion coefficient
135
-5
135
0
C
output level
130
-10
130
125
-15
125
-10
120
-15
120
-20
-5
115
115
-25
output level
110
-30
-20
distortion coefficient
110
-25
105
50
105
60
100
70
80
-30
100
90
input level(dBSPL)
-35
-40
50
60
70
80
90
input level(dBSPL)
135
0
135
-5
130
125
-10
125
-10
120
-15
120
-15
115
-20
115
-20
-25
110
-30
100
105
B
130
output level
distortion coefficient
110
0
D
output level
-5
-25
distortion coefficient
105
50
60
70
80
90
50
60
input level(dBSPL)
70
80
90
-30
100
input level(dBSPL)
補聴器の非線形歪測定結果
重度難聴者用補聴器4機種についての測定結果,横軸は補聴器への入力レベル。縦軸(左)は
補聴器の出力レベル,縦軸(右)は非線形歪率。Aは,Oticon 390PL,Bは,RIONET HA-72P,Cは,
SIEMENS 178PP AO,Dは,UNITRON US80-PPL の測定結果をそれぞれ示す。利得調整器は中央位置,
AGCはoffの状態にて測定。いずれの機種でも,出力レベルが125 dBSPLをこえるあたりから急激に
線形性が失われていることがわかる。
図10
ディジタル信号上で時間ゆらぎによる波形の変化を模擬する時間ゆらぎシミュレータを作製し,音楽信号上の
時間ゆらぎの影響について調べた。その結果,位相変調理論から予測されるとおり,周波数の高い信号ほど時間
ゆらぎの影響を強く受けることが確認できた
21)
。音楽信号上で時間ゆらぎによる音質変化の検知閾を測定した結
果,数百 ns 程度の時間ゆらぎが,音質変化として検知可能なことがわかった 22)。
考
察
1)標準マイクロホン音場感度の絶対校正技術の開発
前期の研究によって、音圧校正に関しては電気的な測定精度や校正の再現性は充分なレベルに達しおり、10kHz
までの周波数においてⅠ形標準マイクロホンでは精度 0.05dB の音圧校正が可能となっている。また、可聴周波数
の上限である 20kHz 迄の周波数についてもⅡ形標準マイクロホンを用いた高精度音圧校正の目処がたっており、
現在の精密音響計測に関する要求精度をクリアしている。また、実際の音響測定において必要とされる標準マイ
クロホンの音場感度に関しては、その直接測定が非常に困難であるため、現状では音圧感度に一定の音場補正量
を加えて音場感度を算出しているが、今期の研究により、この現状方式でも主要周波数範囲内では 0.1dB 程度の
不確かさで音場感度校正が可能であることが確認された。しかし、音場補正量の実測値と理論値の間には、微小
ではあるが有意の差があることが判明しており、従来あまり表面にでなかった音響的な誤差要因が校正の不確か
さを決定する要因となっている。今後のさらなる高精度化のためには、カプラ補正量についての研究も含めて、
補正量についての理論的な詳細研究が必要である。
181
物理標準の高度化に関する研究
2)複合音の聴覚特性解明
ヒトの可聴域は一般に 20 Hz から 20000 Hz と考えられている。
これは健聴者の純音に対する最小可聴値が 15 kHz
付近から急激に上昇し,20 kHz 付近では 80 dBSPL をこえるとする過去のデータ 5,6,7,8,9)に基づいている。しかし,
複合音(パルス,音楽,環境音)を用いた近年の研究では,超音波成分の有無が主観的な音の印象に影響を及ぼ
すことが報告されている
10,11,12)
。近年のオーディオ機器では最大 100 kHz 付近までの信号を記録・再生できるも
のもあるが,超音波領域には不要な信号が混入するケースも少なくない
23)
。また,高速回転のモータや電磁波を
利用した電子機器,家電機器でも高周波のノイズが出る可能性がある。複合音聴取場面での可聴周波数上限を明
確にすることは,高周波領域での騒音環境基準を整備する上で重要であるだけでなく,オーディオ機器の設計,
家電機器類の開発においても役立つものである。
本研究により,超音波の有無が音の印象に影響を及ぼすのは,スピーカの非線形性による歪が原因と考えられ
ること,超音波そのものを聞き分けるのは極めて困難であること,純音の最小可聴値から複合音の可聴域を概ね
予測できることなどが示された。また、12 kHz をこえる領域では音の聞こえに非常に大きな個人差があることが
示された。このことは、大半の人には聞こえない音が特定の人には不快に聞こえることもあり得、高周波騒音の
許容値を議論する上で非常に重要である。
また,広帯域複合音に対する電気音響変換器の歪を計測することは,より実用場面に近い音質評価を可能とす
るものである。小型,高出力化の進む補聴器では,ダイナミックレンジの広い電気音響変換器が求められる。優
れた電気音響変換器を開発する上で歪の評価は不可欠であり、本研究で示した非線形歪の測定法は極めて有効な
手段になり得るものである。
DA 変換時に生じる時間ゆらぎは,ディジタルオーディオの音質劣化要因として注目されているものの,計測が
困難なため,その影響を定量的に示す研究は少なかった。DA 変換時に生じるわずかな時間ゆらぎが音質変化とし
て検知できるなら,聴覚実験でディジタル信号を用いる際にも充分な注意が必要となる。時間ゆらぎの影響が高
周波成分で顕著になるため,不用意な周波数帯域の拡張が歪の増加につながることを示したこと,一般的な聴取
者が音楽信号を聴取する際の時間ゆらぎ検知閾を定量的に示したことは,非常に有意義である。
引用文献
[1]
IEC 61094-1:2000 Measurement microphones Part 1: Specifications for laboratory standard microphones
(標準マイクロホン仕様)
[2]
IEC 61094-2:1992 Part 2: Primary method for pressure calibration of laboratory standard microphones
by the reciprocity technique(音圧絶対校正)
[3]
IEC 61094-3:1995 Part 3: Primary method for free-field calibration of laboratory standard microphones
by the reciprocity technique(音場絶対校正)
[4]
IEC 61094-7(審議中) Part 7: Values for the difference between free-field and pressure
sensitivity
levels of laboratory standard microphone(自由音場補正量)
[5]
S.A. Fausti, R.H. Fray, D.A. Erickson, B.Z. Rappaport, E.J. Cleary, and R.E. Brummett:“System for
evaluating auditory function from 8,000-20,000 Hz”, J.Acoust.Soc.Am., 66, 1979
[6]
P.G. Stelmachowicz, K.A. Beauchain, A. Kalberer, and W. Jesteadt:“Normative thresholds in the 8to 20-kHz range as a function of age”, J.Acoust.Soc.Am., 86, 1989
[7]
H. Takeshima, Y. Suzuki, M. Kumagai, T. Sone, T. Fujimori, and H. Miura: “Threshold of hearing for
pure tone under free-field listening conditions”, J.Acoust.Soc.Jpn.(E), 15, 1994
[8]
T. Poulsen and L. A. Han: “The binaural free field hearing threshold for pure tones from 125 Hz to
16 kHz”, Acustica, 86, 2000
182
物理標準の高度化に関する研究
[9]
H. Takeshima, Y. Suzuki, H. Fujii, M. Kumagai, K. Ashihara, T. Fujimori, and T. Sone:“Equal-loudness
contours measured by the randomized maximum likelihood sequential procedure”, Acustica, 87, 2001
[10] H. Sato, H. Yoshida, and M. Yasushi: “Evaluation of sensitivity of the frequency range higher than
the audible frequency range”, Pioneer R&D, 7(2), 1997
[11] S. Yoshikawa, S. Noge, T. Yamamoto, and K. Saito: “Does high sampling frequency improve perceptual
time-axis resolution of digital audio signal?”, 103rd AES convention preprint, No.4562, 1997
[12] 伊藤一也,竹盛詩織,高澤嘉光:「ハイサンプリングによる自然界に存在する音の周波数分析」,音楽音響研
究会資料,MA98-22,1998
[13] 日置敏昭:「コンパクトディスク(CD)が持つ特有の音質劣化について−ディスク材料の影響を受ける再生
音質−」,信学技報,EA98-27,1998
[14] 西村
明,小泉宣夫:「AD/DA 変換器におけるサンプリング・ジッタ−の測定」,音講論集,659-660,2001
[15] 二階堂誠也:「非直線ひずみの検知限ならびに測定法に関する考察」,日本音響学会誌,28 巻,1972
[16] K. Ashihara:“Audibility of complex tones above 20 kHz”, Proceedings of the 29th international congress
and exhibition on noise control engineering, IN2000/477, 2000
[17] K. Ashihara and S. Kiryu:“Detection threshold for tones above 22 kHz”, Preprints of AES 110th
Convention, 2001
[18] 蘆原郁:「純音及び複合音聴取時の可聴域測定」,電気音響研究会資料 EA2000-31,2000
[19] 蘆原郁,桐生昭吾:「スピーカ及びヘッドホンの線形性評価」,日本音響学会誌,56 巻,2000
[20] 蘆原郁:「補聴器トランスデューサの線形性」,聴覚研究会資料 H-2002-29,2002
[21] S. Kiryu and K. Ashihara:“A jitter simulator on digital data”, Preprints of AES 110th Convention,
2001
[22] 蘆原郁,桐生昭吾:
「ディジタルオーディオの時間ゆらぎによる音質変化シミュレーション」 ,日本音響学
会誌,58 巻,2002
[23] 桐生昭吾,蘆原郁:「ハイサンプリングソフトの品質評価」,電気音響研究会資料 EA99-37,1999
成果の発表
1)原著論文による発表
ア)国内誌
1.
蘆原郁,桐生昭吾:「周波数帯域の拡張にともなうスピーカの非線形歪の増加」,日本音響学会誌,56 巻,549-555,
2000
2.
蘆原郁,桐生昭吾:「スピーカ及びヘッドホンの線形性評価」
,日本音響学会誌,56 巻,713-720,2000
3.
蘆原郁,桐生昭吾:「ディジタルオーディオの時間ゆらぎによる音質変化シミュレーション」
,日本音響学会誌,58
巻,232-238,2002
4.
藤森威, 堀内竜三, 佐藤宗純:「Ⅱ形標準マイクロホンの音響中心位置の測定」, 日本音響学会誌(掲載待ち)
2)原著論文以外による発表
ア)国内誌
1.
蘆原郁:「次世代オーディオ,谷口高士編著“音は心の中で音楽になる 音楽心理学への招待”」,北大路書房,p129-p130,
2000
2.
蘆原郁:「補聴器の現状,リハビリテーションエンジニアリング」,15 巻,10-14,2000
3.
蘆原郁:「トピックス 2 共変調マスキング解除,日本音響学会誌」,57 巻,57,2001
183
物理標準の高度化に関する研究
4.
桐生昭吾,蘆原郁,佐藤宗純,吉川昭吉郎:「次世代高品位オーディオと測定技術」
,日本音響学会誌,56 巻,653-657,
2000
5.
佐藤宗純, 藤森威:「トピックス 38 標準マイクロホン」, 日本音響学会誌、 57 巻 1 号, 84, 2001
3)口頭発表
ア)招待講演
1.
ASHIHARA Kaoru:“Audibility of complex tones above 20 kHz”, International Congress of Noise Control Engineering,
IN2000/477, 2000
2.
K. Ashihara as a panelist:“Issues on High-resolution Audio”, AES 110th Convention, 2001
イ)応募・主催講演等
1.
藤森威:「次世代オ−デイオとマイクロホン校正技術」,電子情報通信学会ハイデイフイニションオ−デイオ研究会,
2000.6
2.
藤森威, 堀内竜三, 佐藤宗純:「標準マイクロホン音場絶対校正における測定再現性について」,音響学会研究発表会,
2000.9
3.
蘆原郁:「純音及び複合音聴取時の可聴域測定」,電気音響研究会資料 EA2000-31,2000
4.
藤森威, 堀内竜三, 佐藤宗純:「Ⅱ形標準マイクロホンの音場補正量について」, 音響学会研究発表会, 2001.3
5.
藤森威, 堀内竜三, 佐藤宗純:「Ⅱ形標準マイクロホンの音場補正量について」, 音響学会研究発表会, 2001.10
6.
Ashihara Kaoru and Kiryu Shogo:“Detection threshold for tones above 22kHz”, Preprints of AES 110th Convention,
2001
7.
Kiryu Shogo and Ashihara Kaoru:“A jitter simulator on Digital data”, Preprints of AES 110th Convention, 2001
8.
蘆原郁:「補聴器トランスデュ−サの線形性」, 聴覚研究会資料 H-2002-29, 2002
9.
藤森威, 堀内竜三, 佐藤宗純:「Ⅰ形標準マイクロホンの音場補正量の実測」,音響学会研究発表会, 2002.3
184
物理標準の高度化に関する研究
3. 音響及び振動加速度標準の高度化の研究
3.1. 音圧レベル標準のトレーサビリティ確立に関する研究
3.1.2. マイクロホン比較校正技術の高度化に関する研究
財団法人日本品質保証機構計量計測センター
高橋
要
多助、野村
浩章
約
音響計測の基準として用いる標準マイクロホンは,可逆則を利用した相互校正法により絶対校正されるが,現
場で使用される計測用マイクロホンは,この絶対校正された標準マイクロホンを基準として比較校正を行うこと
が実用的であり,また校正システムの維持管理も容易になる。このため,現場での需用者の要求に広く対応でき
るよう,種々の仕様の計測用マイクロホンや音響計測器について,標準マイクロホンを基準とした比較校正法及
び校正システムの開発とその校正精度の評価について研究を行った。
また,環境の影響,特に気圧の変化の影響,すなわち標準マイクロホンや計測用マイクロホンの靜圧特性を評
価するための測定技術を確立し,測定システムの試作整備を行った。
研究目的
音圧レベル標準のトレーサビリティ体系確立のためには、標準マイクロホンに対する研究所レベルでの高度な
校正技術だけでなく、産業界の現場で実際に使用されている計測用マイクロホンに対する校正法を開発し、需要
者の要求に見合ったコストと精度での音圧レベル標準のトランスフアーが必要である。
音響計測の基準として用いる標準マイクロホン[1],[2]は、可逆則を利用した相互校正法[3]により校
正されるが、現場で使用される計測用マイクロホン[4]の校正は、標準マイクロホンを基準とした比較校正[5]
を行うことが実用的であり、また校正システムの維持管理も容易になる。このため、種々の仕様の計測用マイク
ロホンや音響計測器について、標準マイクロホンを基準とした比較校正法及び校正システムの開発とその校正精
度の評価を行い、現場での需用者の広い要求に対応できる校正技術を確立する。
また、マイクロホンや音響計測器では環境(気圧、温度、湿度)の影響を考慮する必要がある。従来から温度
や湿度に対しては環境条件変化に対する感度変化の評価が行われているが、気圧変化による影響(静圧特性)の
評価が行われることは少なかった。しかし気象状態や季節によって±20hPa 程度の気圧変動があり、標準マイクロ
ホンや作業現場で計測の基準として使用する計測器についてはこの影響を考慮する必要がある。本年度はこの気
圧の変化の影響、すなわち標準マイクロホンや計測用マイクロホンの靜圧特性を評価するための測定技術および
測定システムの整備を行う。
研究方法
標準マイクロホン及び計測用マイクロホンについての気圧変化の影響、すなわち靜圧特性の評価を行うための
測定システムの整備を行い,装置の性能を評価する。
185
物理標準の高度化に関する研究
(恒圧チャンバーの試作)
被校正マイクロホン及び校正のための主要回路を収納して媒質(空気)圧力を変化させるチャンバーおよび圧
力制御のためのシステムの試作を行う。
(マイクロホン特性測定機器の試作整備)
チャンバー内に被校正マイクロホンを設置して圧力変化に対するマイクロホン感度特性の変化の測定を行うた
めの回路機器で、仲介マイクロホンと組み合わせて相互校正法による校正が行える機器の試作を行う。
(試作装置の評価)
計測用マイクロホンの音圧校正及び自由音場校正を行うためのシステムの試作及び校正結果を従来の手法によ
る結果と比較して,本システムの評価を行う。また試作した環境試験装置を用いて計測用マイクロホンの気圧変
化および温度変化に対する安定性を調べる。
研究成果
a) 恒圧チャンバーの試作
図1に試作した恒圧チャンバーの外観,図2にシステム構成を示す。
図1
恒圧チャンバーの外観
チャンバー蓋
チャンバー
温度計
温度セン
サ
FFTアナライ
ザー
マイク特性
測定回路
減圧
測定回路
切替え制御器
加圧
マスフロー制御による
圧力調整器
コンピュータ
図2
恒圧チャンバーの構成
チャンバーは内径 45 cmφ×35 cm の円筒で材質は 1 cm 厚さのステンレス製である。蓋の部分に密封型のコネ
186
物理標準の高度化に関する研究
クタを取り付け信号ケーブルの接続に使用する。圧力設定はマスフロー制御による減圧加圧をコンピュータによ
って行う。恒圧チャンバー内の圧力は 600 hPa∼1100 hPa の範囲で任意に設定でき,設定した圧力を 1/100 hPa
で観測することが出来る。図3に圧力設定プログラムの例を示す。この圧力チャンバーの内部にマイクロホンと
計測部を設置して圧力変化に対するマイクロホン感度レベルの変化を測定する。
恒圧チャン バー圧力設定
1040
圧力設定変更
1030
圧力設定中
圧力(hPa)
1020
1010
1000
圧力設定開始
990
圧力設定中
980
970
960
0
10
20
図3
30
40
経過時刻(分)
50
60
70
恒圧チャンバー圧力設定の例
b) マイクロホン特性測定器の試作
マイクロホン伝達特性の測定回路は,標準マイクロホンについての校正を目的として相互校正法に基づく校正
が行える構成とした。回路の基本構成を図4に示す。
マイクロホン
カプラ
マイクロホン
前置増幅器
基準静電容量
電流電圧変換
固定抵抗
減衰器
図4
マイクロホン特性測定器の主要回路
測定時には音源側マイクロホンも環境変化の影響を受けており、このため音源マイクロホンの特性変化を含め
た測定が行える回路構成とした。すなわち音源マイクロホンの駆動電流と受音マイクロホンからの出力信号電圧
を同時に測定できる。カプラ部分を図5に示す。
187
物理標準の高度化に関する研究
図5
マイクロホン特性測定器の外観
c) 計測用マイクロホンの音圧比較校正
計測用マイクロホンの校正に関しては、IEC 61094-1 で規定されるカプラを用いるよりも空間で基準用マイクロ
ホンと被校正マイクロホンを保持して比較校正を行う方法が、種々な形状のマイクロホンに対して対応の可能性
が広くなる。このため、基準用マイクロホンと被校正マイクロホンを対向して固定保持し音源(スピーカ)から
の音圧信号を受けて比較校正を行うシステムとした。音圧比較校正の概念説明を図6に示す。
図7に示す音響結合器は合成樹脂製であり,内部に基準用マイクロホンと被校正マイクロホンの間隙を設定す
る1mm の突起を設けてあり,マイクロホンの装着操作を容易に素早く行う事ができる。信号処理に FFT アナライ
ザを使用することにより基準用マイクロホン系の出力信号と被校正マイクロホン系の出力信号を短時間で比較す
ることができ、効率のよい測定が行える。
188
物理標準の高度化に関する研究
音源
被校正マイク
基準用マイク
増幅器
増幅器
出力レベル
を比較
図6
音圧比較校正概念図
図7
レーザー発光器
音圧比較校正システムの写真
参照用マイクロホン
吸音材
無響箱
スピーカ
信号処理器
マ
イ
ク
ロ
ホ
ン
駆
動
機
構
マイクロホン
び前置増幅
レーザ光
吸音材
レーザー検出
図8
無響箱を用いた音場比較校正システムの構成
基準用マイクロホンに B&K4180、被校正マイクロホンに B&4180 及び B&K4192 を使用したときの、密閉形カプ
ラを使用した場合と音響結合器を使用した場合の校正結果の比較を図9に示す。
189
カプラを基準とした校正結果の偏差(dB)
物理標準の高度化に関する研究
0.4
0.3
0.2
マイクロホン 418
0.1
0
-0.1
マイクロホン 419
-0.2
-0.3
-0.4
100
1000
10000
100000
周波数(Hz)
図9
カプラ(従来法)と試作音響結合器による校正結果の比較
B&K4180 は IEC61094-1 に準拠した標準マイクロホン、B&K4192 は IEC 61094-4 に準拠した計測用マイクロホ
ンである。B&K4192 はアダプタを使用することにより B&K4180 と同等の形状寸法になるので,密閉形カプラを使
用して校正を行うこともできる。音響結合器を使用した比較校正では通常装着されている保護グリッドを装着し
た状態で校正した。15kHz 程度までの主要周波数範囲では±0.1dB 以内の偏差であり実用上十分な精度が得られ
ている。
d) 計測用マイクロホンの音場比較校正
小形無響箱(内部寸法 1×1×1 m、吸音材 40 cm)の内部にマイクロホン及び前置増幅器取り付け用ジグ、駆動
機構、参照用マイクロホン、及びレーザー光によるマイクロホン位置検出機構を装備した音場比較校正システム
を試作した。最初に基準用マイクロホンと参照用マイクロホン間の伝達特性を測定し、次いで,基準用マイクロ
ホンを被校正マイクロホンに交換して伝達特性を測定してその比較から被校正マイクロホンの特性を求める。
無響室の結果を基準とした偏差(dB)
無響室を用いた従来のシステムと無響箱での校正結果の比較を図10に示す。
1
B&K4144
0.5
0
-0.5
B&K4192
-1
100
B&K4134
1000
10000
100000
周波数(Hz)
図10
無響室(従来法)と無響箱(本方法)での校正結果の比較
マイクロホンとして1インチの B&K4144,1/2 インチの B&K4192、B&K4134 について校正した結果の比較であ
る。マイクロホンはいずれも保護グリッドを装着した状態で校正した。基準用には B&K4180 を使用した。10kHz
以下では±0.1 dB、20kHz まで±0.2 dB 程度以内で一致しているのが確認できた。
190
物理標準の高度化に関する研究
e) マイクロホン環境特性の測定
静圧特性測定には,試作した恒圧チェンバー内にマイクロホン特性測定回路を設置して,また温度特性測定に
は既設の恒温恒湿槽にマイクロホン特性測定回路を設置して測定を行う。
1インチマイクロホン並びに1/2インチマイクロホンについて、気圧変化及び温度変化によるマイクロホン
の特性変化への影響の測定結果の例を図11及び図12に示す。図中の凡例記号番号はマイクロホンの型名を示
す。
0.06
0.04
dB/1℃
0.02
7123
4160
4145
0.00
-0.02
-0.04
-0.06
10
100
1000
周波数(Hz)
10000
100000
1インチマイクロホン
0.04
0.02
dB/1℃
0.00
4165
4180
7113
-0.02
-0.04
-0.06
-0.08
-0.10
10
100
1000
周波数(Hz)
10000
1/2インチマイクロホン
図11 温度変化の影響
191
100000
物理標準の高度化に関する研究
0.04
0.02
dB/10hPa
0.00
7123
4160
4145
-0.02
-0.04
-0.06
-0.08
-0.10
10
100
1000
周波数(Hz)
10000
100000
1インチマイクロホン
0.04
0.02
dB/10hPa
0.00
7113
4180
4133
-0.02
-0.04
-0.06
-0.08
-0.10
10
100
1000
周波数(Hz)
10000
100000
1/2インチマイクロホン
図12 気圧変化の影響
気圧変化は 10 hPa あたりの影響として、温度変化は 1 ℃あたりの影響として示す。低周波域で,気圧変化の影
響、温度変化の影響とも,大きい場合は 1 ℃当たり,また 10 hPa 当たり 0.02 dB 程度の影響がある。また共振周
波数付近ではさらに増加する。通常、これらの影響量については無視しているが、校正の目的によっては考慮の
必要がある。
考
察
計測用マイクロホンの音圧比較校正装置と音場比較校正装置を試作し,実用上十分な精度で校正できることを
確かめた。また環境の影響について測定を行い。計測用マイクロホンの気圧並びに温度に対する影響を明らかに
した。
標準マイクロホン、計測用マイクロホン、音響校正器並びにサウンドレベルメータの音響特性の校正において
活用普及させる。特に、まもなく改正が予定されている新しいサウンドレベルメータの規格に於ける型式検査で
は環境特性が主要項目に含まれるため、この検査に使用する参照用マイクロホンの環境特性の評価、サウンドレ
ベルメータの環境特性の検査において本成果を活用する。
引用文献
192
物理標準の高度化に関する研究
[1]
JIS C 5515:1981 標準マイクロホン
[2]
IEC 61094-1:2000
Measurement microphones Part 1: Specifications for laboratory standard microphones
(標準マイクロホン仕様)
[3]
IEC 61094-2:1992
Measurement microphones Part 2: Primary method for pressure calibration of
laboratory standard microphones by the reciprocity technique(音圧絶対校正)
[4]
IEC 61094-4:1995
Measurement microphones Part 4: Specifications for working standard microphones
(計測用マイクロホン仕様)
[5]
IEC 61094-5:2001
Measurement microphones Part 5: Methods for pressure calibration of working
standard microphones by comparison(比較校正)
成果の発表
3)口頭発表
イ)応募・主催講演等
1.
高橋、野村:
「計測用マイクロホンの簡易比較校正における校正精度」
、電子情報通信学会 (2000.12)
2.
高橋、野村:
「マイクロホンの環境特性測定について」
、日本音響学会 2001 年秋期研究発表会 (2001.09)
193
物理標準の高度化に関する研究
3. 音響及び振動加速度標準の高度化の研究
3.1. 音圧レベル標準のトレーサビリティ確立に関する研究
3.1.3. 標準マイクロホンの高安定化に関する研究
靜岡理工科大学情報システム学科
教授・三浦 甫、講師・野村
恵美子
物質科学科
講師・笠谷 祐史
要
約
第Ⅱ期の目標は、標準用Ⅱ形マイクロホンの開発である。新規開発に当たって、まず、マイクロホン設計の基
本方針を、Ⅰ形マイクロホンと同一とした。ただし、マイクロホン膜の張り上げ方法は、更に改良を加えること
とした。これは、マイクロホンの寸法をほぼ1/2に小形化しなければならないので、誤差が許されなくなるか
らである。一方、Ⅰ形マイクロホンに比べ、材料に要求される力学的特性は軽減されると考えられる。
以上の基本方針は、ほぼ予想された結果をもたらした。すなわち、周波数範囲20∼20,000Hz、感度
の安定性0.002dBが達成された。
研究目的
本研究では、音圧標準の精度を1桁以上高めるために、現行のⅠ形およびⅡ形マイクロホンを見直し、新しい
高精度マイクロホンを開発することである。そこで、Ⅰ形およびⅡ形マイクロホンの役割を明確に分けた。
Ⅰ形マイクロホンの周波数範囲の上限は8kHzだが、最も高い精度で校正できるものを設計・試作すること
とし、第Ⅰ期に期待通りの性能のものを実現した。これに対して、Ⅱ形は全可聴周波数範囲(20∼20,00
0Hz)をカバーするものを設計・試作の目標とした。感度の安定性の目標値は0.002dBである。この安
定性は、わが国で開発された現用のMR112の0.1dBに比べて、2桁近い性能の向上であり、音響標準で
要求されている精度の目的にも十分かなうものである。
研究方法
第Ⅰ期に確立したⅠ形マイクロホンの性能が期待通りの成果を得たので、基本的な設計方針は、Ⅰ形マイクロ
ホンの開発で得られた技術を全面的に採用した(表1,表2参照)。
項目
計測用マイクロホ
ンの基本構造の調
査
振動膜素材の検討
検討内容
10 種類のマイクロホン(外国,国産,開
発品)について,寸法、構造、材質、静
電容量等を調査
振動膜素材として、表2の材料を加工
性、非磁性、線膨張係数、対腐食性等の
面から検討
194
検討結果
材質:チタン,ニッケル,ステンレ
ス
部品点数:11∼21 点
ハウジング、振動膜共にチタン 99%
以上の材料を使用。
絶縁物は、チタンと熱膨張係数が近
物理標準の高度化に関する研究
いサファイヤガラスを使用。
振 動 膜 膜 材 料 の 圧 圧延素材及び、200℃、400℃、600℃で Ti材料の場合、400 ℃で加熱
延 加 工 に よ る 組 成 エージングしたチタン薄膜の X 線解析
すると振動膜としての特性に固有
変化と温度エージ
の変化が観測された。
ング効果の確認
振 動 膜 張 上 げ 構 造 ①振動膜をハウジングに固定し、エッジ 表3
の検討
を突き上げる方法で調整する構造。
②振動膜リングに振動膜を固定し、エッ
ジに振動膜リングをねじ込み張上げる
方法で調整する構造。
③振動膜に予め所定の張力を加え、ハウ
ジングに直接溶接する構造。
④基本構造は②と同様であるが、エッジ
に振動膜リングをねじ込む方法に代わ
り、振動膜の調整に圧入構造を用いる。
マ イ ク ロ ホ ン の 試 ①振動膜の膜リングへの固定方法(接 詳細検討は継続中
作と安定性評価
着、溶接)
②振動膜材質、膜厚の違い
③絶縁物の構造・材質の違い
④加工精度の違い
⑤振動膜張上げ構造の違い
表1
品名
膜厚
Ti
7μm
(チタン) 13μm
DAT51 (合
7μm
金)
EL3
(合金)
7μm
成分
H
O
N
Fe
Ti
N
C
H
Fe
O
Al
V
Ti
Ni
Cr
Ti
Fe
検討項目と結果の概要
含有量(%)
0.002
0.054
0.005
0.034
99.905
0.05
0.10
0.02
1.00
0.20
4.00
21.50
73.135
42.27
5.61
4.47
47.65
表2
品名
膜厚
Ni
7μm
(ニッケル) 5μm
SUS304(合
金)
7μm
成分
C
Si
Mn
Co
Cu
Fe
S
Mg
Ni
C
Si
Mn
P
S
Ni
Cr
Fe
含有量(%)
0.002
0.054
0.005
0.034
0.006
0.05
0.10
0.02
99.73
0.04
0.57
0.98
0.028
0.01
9.12
18.30
70.95
振動膜として検討した材料の成分表
材料は、Ⅰ形マイクロホンと同じTiを用いることとした。すなわち、基本設計方針は、1)サブミクロンの
加工・組立精度の実現、2)部品点数を少なくし、調整個所を最小にする、3)材料の特性を再吟味することで
ある。
サブミクロンの加工・組立精度の実現は、前期既に確立されているが、Ⅱ形マイクロホンを実現させる上での
問題点を整理した。材料の厚さをⅠ形マイクロホンとほぼ同じにした場合、円筒形マイクロホンの径が半分とな
り、強度を増加させることが期待される。したがって、Ⅰ形マイクロホンに比べて安定性も増加すると思われる。
195
物理標準の高度化に関する研究
また、Ⅱ形マイクロホンの構造はⅠ形マイクロホンと相似形として、部品点数も等しくした。主要部品の一覧を
図2に示す。
エッジ
膜リングA
背極
膜リングB
絶縁物
膜固定リング
振動膜
ダブルナット
ハウジング
ポール固定リング
196
物理標準の高度化に関する研究
図2
開発したマイクロホンの主要部品
コンデンサマイクロホンの特性は振動膜とその張り上げ方法(表3参照)で決定される。
膜張上げ方法
①振動膜を張上げエッジ
で突き上げる構造
②膜リングをエッジにね
じ込む構造
構造上の利点
振動膜とハウジングが結合さ
れる。
前か容積が設計寸法で決ま
り、カップラ容積は製品毎に
ばらつかない
③振動膜をハウジングに 全ての寸法が設計で決まり、
溶接する構造
構造上の欠点はない。
④振動膜をエッジに圧入 ②に同じ
する構造
構造上の問題点
前か容積が不定となり、カップラ容
積が製品毎にばらつく
振動膜とハウジングが結合されな
い。
振動膜の調整機構がなく、特性の調
整ができない。
膜張上げ時、ネジ構造に比較して歪
(皺)が発生しにくい
表3 市販品の振動膜張上げ構造の比較
今回は 6 µm 厚のTi膜を使用した。なお、Ⅰ形マイクロホンの振動膜は 13 µm である。振動膜の張り上げ方法
は各種試みた。特に、より薄い振動幕を用いるので、エッジ部での振動幕の組み立て方法には工夫が必要である。
振動膜の張り上げ部分でのねじれやしわ、破損しやすいなどの現象が生じる可能性が高くなる。さらに、Ⅰ形マ
イクロホンに比べてⅡ形マイクロホンは径が小さく、より高い周波数まで振動させるので、ひずみによる非同軸
振動を生み、特性を著しく損なう。すなわち、円周方向に一様な張力を加えられる方法が望ましい。振動膜の張
り上げ方法として、表3の③を除く 3 種類の方法を試みた。結果として、より破れ難い方法を選ぶこととなった。
また、Ti製振動膜の場合、多くの計測用マイクロホンで経験的な強制エージングを行っている。これまで経
験的なデータとして、様々な加熱方法が採られていた。通常は200℃で数十分加熱する。今回は、X線回折を
用いて強制エージングの効果の評価を試みた。結果は、今回用いた材料Tiの場合、400 ℃で加熱すると振動
膜としての特性に固有の変化が観測された。X線回折を用いた結晶構造の変化が観測されたと考えられる。更に
この方法の有効性について検討中である。振動膜張り上げ方法のノウハウおよびエージング方法は、特許の対象
と考えられるので詳細は別途報告する。
第Ⅱ期には、初年度にコンデンサマイクロホンの部分的な構造を含め20個を超える試作品を作成し、振動膜
の張り上げ方法、強制エージングの効果の評価方法を検討した。各マイクロホンは安定性を含め、諸特性を測定
した。この中から3種類のモデルを選択し、第2年度(最終年度)それぞれ5個ずつ試作し、現在安定性を評価
中である。これまでのところ、性能は十分満足していることを確かめた。しかし、標準用マイクロホンの場合、
長期安定性が最も重要であり、その実績で最終評価が定まる。現在のところ、目標値に対して、期待通りの短期
的安定性が得られている。
研究成果
この研究プロジェクトの第Ⅱ期の目標は、十分な安定性のあるⅡ形マイクロホンを開発することである。目的
とする周波数特性20∼20,000Hzを持ち、0.002dBの高い安定性を有するⅡ形マイクロホンを開
発することができた。この安定性は、現在標準マイクロホンとして用いられているMR112を2桁程度上回る
ものである。第Ⅰ期のⅠ形マイクロホンとともに、音響標準の用途に十分なマイクロホンを開発しただけではな
く、計測用高性能マイクロホン開発のノウハウを多数得ることができた。また、Ti振動膜のエージングに関す
る知見も得ることができた。試作したⅠ形マイクロホンおよびⅡ形マイクロホンの写真を図3,図4に示す。
197
物理標準の高度化に関する研究
図3
試作Ⅰ形マイクロホンの外観(ほぼ原寸大)
図4
考
Ⅱ形マイクロホンの外観
察
今回新たな考え方で、Ⅰ形およびⅡ形マイクロホンを開発し、ほぼ満足すべき0.002dBの安定性のある
コンデンサマイクロホンを実現することができた。この安定度は、現在標準マイクロホンに要求されている値が
0.02dB程度であるのに対して十分なものである。また、コンデンサマイクロホンの開発に、これまで経験
的に利用されてきた設計・製作・加工・組立てについての幾つかのノウハウの解明ができた。すなわち、これら
のノウハウを記述することで、計測用コンデンサマイクロホン設計の近代化を確立したといえる。
198
物理標準の高度化に関する研究
今後,多数のマイクロホンを製作し、主要各国の標準研究機関での、特に長期安定性に関する評価を得る必要
がある。
引用文献
[1]
早坂、鈴木「音響標準の誤差の検討」通研研究実用化報告、7巻 p531(1958)
[2]
鈴木、吉川「チタン合金を用いた広帯域標準コンデンサマイクロホン」音学誌、28巻p475(1972)
[3]
三浦、高橋、佐藤「1/2吋形標準マイクロホンの補正量」通信学会電気音響研究会資料EA77−41(1
976)
[4]
JIS
C5515「標準コンデンサマイクロホン」(1981)
成果の発表
研究発表:なし
特許出願等:出願予定
199
物理標準の高度化に関する研究
要求事項
手法
周 波 数 上 限 : 8k Hz
目的
安定性に優れた
高精度で校正可能
Ⅰ形標準マイクロホン
長期安定性に優れる
サブミクロン精度の加工・組立
部品点数・調整個所の低減
材料特性の再吟味
周 波 数 上 限 : 20 kH z
周波数特性に優れた
(可聴周波数域をカバー)
Ⅱ形標準マイクロホン
長期安定性に優れる
図1
研究の進め方
200
物理標準の高度化に関する研究
3. 音響及び振動加速度標準の高度化の研究
3.2. 振動加速度標準の高度化の研究
産業技術総合研究所強度振動標準研究室
臼田
要
孝、石神
民雄、大田
明博
約
振動加速度計は,工業的にひろく用いられているが,従来,わが国における振動加速度計の中∼高振動数域に
おける国家標準は存在しなかった.本研究では,わが国の振動加速度校正の国家標準に必要となる校正装置及び
周辺技術を開発した.校正法には研究開始時点では国際規格に採用予定で,世界的にも適用例の少ない正弦波近
似法を採用することで,産業界で必要とする校正範囲にいちはやく対応することができた.さらに測定の不確か
さなどを評価し,国家標準の技術的基盤を確立した.また,市販の振動加速度計の環境特性、位相特性等を評価
可能とした。これらの成果は国際比較や海外国立研の基準器校正などを通じて、その性能が世界的レベルである
ことが裏付けられている。
研究目的
本研究は振動加速度計校正の精度,信頼性ならびに校正範囲を向上させるために,必要となる振動加速度計の
校正装置および周辺技術を開発するためのものである.
振動は,地震などの自然現象において,また,航空機,鉄道,自動車,工作機械などあらゆる工業製品の運転
において頻繁に発生し,人間の生理,生活および経済活動に深い関りを持っている.例えば,高速に運転される
機械は振動を生じやすく,性能低下や故障を招き,時として労働災害や人身事故を引き起こす.今日ではさらに,
超高集積度半導体微細加工や新素材の生成などの先端技術分野で,重力加速度の百万分の一レベルの微小な振動
加速度が問題となっている.また,製品の付加価値として静粛性が重視され,民生機器でも設計や開発段階での
振動量計測技術が欠かせないものとなっている.このような振動を定量化すること,すなわち振動量計測は機械
技術の黎明期から重要な技術と位置づけられ,人間にとって快適で安全な環境を守りつつ,科学技術の恩恵を享
受するために,ますます重要なものとなってきている.
振動量計測における測定者(あるいは測定装置)は,絶対座標系において静止していなければならない.測定
者が常に絶対座標の原点に固定されているならば,測定対象の座標(位置)を計測することで振動量が計測でき
る.これは変位センサやレーザ干渉計による測定に相当する.このような測定系を構成できない場合は,図1に
示すように,ばねとおもりからなるサイズモ系を構成し,測定対象とは無関係な基準位置を作り出すことで実現
できる.
201
物理標準の高度化に関する研究
図1
サイズモ系
振動加速度計
変位,速度,加速度はそれぞれ微分・積分の関係にあるが,サイズモ系の場合,直接測定するのは測定対象物
の加速度である.そのため,変位センサやレーザ干渉計による振動量(変位または速度)計測と区別するために,
このようなサイズモ系からなる振動計測装置を振動加速度計と呼ぶ。振動加速度計は測定対象の素材や表面の特
性に関わらず測定が可能であること,レーザ干渉計などに比べ安価であることなどから,工業的にもっとも広く
用いられている.また,地震や移動機械の振動など,外部に絶対座標を求めることが困難な場合は,振動加速度
計による測定が振動量計測の唯一の手段となる.
さて,振動は長さと時間の二つの基本量から成り立つが,サイズモ系からなる振動加速度計の出力信号自体は
基本量となんら結びつきはない.このため,振動加速度計は必ず校正が必要となる.そのためには,レーザ干渉
計などの,長さの標準に対してトレーサブルな測定装置が必要となるが,これは前述したとおり,相対的な振動
量を測定する装置である.そのため,振動加速度計の校正は,
①大地の微動など,外来振動を十分遮断した校正環境において,
②絶対座標系に固定されたレーザ干渉計で振動加速度計の位置を測定し,
③同時に振動加速度計出力(通常電圧値)を測定する
ことにより実現できる.
サイズモ系からなる振動加速度計は,構造自体に固有振動数を有するため,その感度には通常図2に示すよう
な振動数特性がみられる.
202
物理標準の高度化に関する研究
図2
サイズモ系振動加速度計の振動数特性
校正にあたっては,このような感度−振動数特性を明らかにすることが最大の目的となり,DC∼数 kHz 以上に
わたる振動数特性が求められている.振動数特性は,加振機によって一定加速度(通常 1,10,ないし 100 m/s2)
の正弦状の振動を,振動数を変化させて加えることで評価できる.ここで,加速度振幅 â [m/s2],振動数 f [Hz],
および変位振幅 d̂ [m]は
aˆ = 4π 2 f 2 dˆ
(1.1)
なる関係にあるので,レーザ干渉計によって変位振幅 d̂ を測定することで印加加速度は決定できる.近年,レ
ーザ干渉計による変位測定技術の進展レーザ干渉計は著しいが,振動という動的な量を低振動数から高振動数に
わたるまで定量的に測定する技術は必ずしも確立していない.国際的に同意が得られている校正方法のひとつと
しては,ISO 5347-1 (Primary Vibration calibration by laser interferometry)[1]があげられる.同規格では
マイケルソン型干渉計を用いた計数法と零点法と呼ばれる2つの一次校正法が定められ,変位振幅にして最小 193
ˆ = 193
nm まで対応可能とされている.しかし,式(1.1)の関係から, d
nm で例えば 5 kHz の振動加速度を発生
させると,そのときの加速度は約 200 m/s2 にも達するため,測定装置自体に振動やひずみなどの相対運動が発生
する.この結果,前節に示した振動加速度計校正の要件②において,レーザ干渉計が絶対座標系に固定されてい
るという仮定が満たせず,校正の不確かさを悪化させる要因となる.このため,高振動数領域(数 kHz 以上)で
の校正は事実上困難であった.国内に目を転じると,我が国における法的な振動加速度計の一次校正は前出の ISO
5347-1 に準拠した方法[2]で,低振動数(4∼90 Hz まで,その後改正により 80 Hz まで)の公害用振動計のみを
対象に行われており[3][4],その他の分野ではユーザやメーカが独自に校正を行っていた.このため, 80 Hz 以
上の振動数領域では,測定の信頼性が法的に確保されてはおらず,ISO 9000 シリーズの取得などにあたっては各
企業で多くの努力が払われていた.特に振動加速度計は,自動車の衝突安全性評価や工場の保安管理など,人命
や安全に直結する分野で計測に用いられることから,校正の法的整備は急務の課題であった.旧計量研究所では
平成7年度から2年半に渡り,国内振動計測関連企業13社からなる「振動加速度トレーサビリティ検討委員会」
を組織し,校正ニーズの調査を行った.その結果,振動加速度校正の国家標準として,従来の 80 Hz までの振動
量に加え,振動数領域 5 kHz まで,加速度振幅 1∼100 m/s2 を緊急に立ち上げるべきであるとの合意に至った.
また,参考値として振動加速度計出力の位相遅れ(位相特性)も重要であるとの認識が得られた.
一方,国際的にも高振動数領域への対応が検討されていたことから,次期国際規格[5](1999 年に発行済み)には
変位振幅数十 nm まで対応可能で,位相特性も評価できる正弦波近似法が盛りこまれることになった.しかし,正
弦波近似法の具体的な適用条件や範囲に関する報告[6][7]は少なく,現行の校正方法(計数法,零点法)と正弦
波近似法との等価性に関する報告は見あたらない.さらに,現行の校正方法も含め,近年国際相互承認などの面
から詳細な解析が求められる不確かさ[8]に関する報告は極めて少ない.
本研究の目的は,わが国の振動加速度校正の法的な整備に必要となる校正装置および周辺技術を開発し,国際
的な整合性のもとに,振動加速度計測の精度,信頼性を向上させることにある.このため,振動加速度校正の現
状と要求に対し,下記のような目標を設定し研究を進めた.
1.ISO に準拠した振動加速度計校正装置及び必要となる信号処理法などの周辺技術を試作開発し,現行の校正方
法(計数法,零点法)と次期規格(正弦波近似法)との等価性を確認する.
2.上記装置の不確かさ要因の解析を行う.
3.振動数 1Hz∼5 kHz,加速度振幅 0.1∼100 m/s2 の範囲での振動加速度計の感度と位相遅れの校正ができるよ
うにする.また,産業界が必要とする標準供給のニーズに応えるため,市販の多種多様な振動加速度計の校正に
対応できるようにする。
4.市販振動加速度計の温度などの環境要因による振動加速度計の特性を評価できるようにする。
203
物理標準の高度化に関する研究
5.上記の経常的な標準供給を可能にし、さらに今後の産業界からの要請に応えうる校正技術を萌芽させる
研究方法
従来用いられていた計数法と零点法と呼ばれる2つの一次校正法と、正弦波近似法と呼ばれる新たな一次校正
法を同時に適用できる校正装置を試作する。それにより双方の校正法について等価性を確認する。この過程で正
弦波近似法の適用に必要となる、光波干渉計、校正アルゴリズム等を開発する。同時に不確かさを解析する。
また、正弦波近似法を適用した市販振動加速度計の特性評価を行う。
これらのことから第I期では,下記のような主な成果が得られた。
・
正弦波近似法[1]による校正装置を開発・評価し不確かさ要因を解析した。既存の校正方法(計数法、零
点法)との等価性を確認し、かつそれらの校正方法より高振動数まで適用でき、不確かさも小さいことを確認し
た。一方、現状における機器の制約(波形レコーダーの能力)などから、低周波数域では適用が困難であること
がわかった。このため、0.1Hz∼200Hz までの低域については計数法による校正が適切であるとの指針が得られた。
・
市販振動加速度計の特性評価を行い,特徴を明らかにした.特に正弦波近似法を適用して、振動加速度計の
位相特性を世界で初めて定量的に評価した。
振動加速度校正装置を開発し,振動数 0.1Hz∼5 kHz,加速度振幅 0.1∼100 m/s2 の範囲での振動加速度計の感
度と位相遅れの校正ができるようにした.
(低振動数用 0.1∼200Hz 用を図3,高振動数用 20Hz∼5kHz 用を図4に
示す。)
図3
低振動数用振動加速度校正装置
204
物理標準の高度化に関する研究
図4
高振動数用振動加速度校正装置
また,温度などの環境による振動加速度計特性を評価できるようにした.このために環境制御型校正装置(図
5)を開発した。
図5
環境制御型振動加速度校正装置
当期ではこれらの成果を踏まえ、
1.国際比較に参加し、性能を国際レベルで評価する。
205
物理標準の高度化に関する研究
2.自動化プログラムを開発し、経常的な校正に対応すると同時に、多数の測定データを自動的に取得すること
で装置の問題点を明らかにする。例えば特定の振動数での共振の問題等を明らかにする。
3.電荷感度の校正法を開発し、その不確かさを明らかにする。
などを目標として研究を進めた。
研究成果
1.
国際比較への参加
2000年∼2001年にかけて、ドイツ物理工学研究所が幹事となり、振動加速度校正の国際基幹比較(CCAUV.V-K1)
が行われた。参加機関は、日本他ドイツ、米国など主要国を含む12の国立標準研である。本比較において、参照値
とのずれが全域で全域において 0.2%程度以内であるなど、良好な成績を納めた(図6)
。本結果により、開発した装置
が世界レベルであることが改めて確認された。
Sensitivity (pC/m/s/s)
0.1295
Japan
Netherland
Germany
0.1290
0.1285
0.1280
0.5%
0.1275
0.1270
0.1265
0.1260
100
1000
Frequency (Hz)
図6 国際基幹比較結果の一例
幹事所のドイツの結果と日本の結果は全域において 0.2%程度のずれで一致している。
2.
自動化と今後の課題の評価
自動化により多数の測定をした結果、特定の振動数域において共振によると思われる精度の悪化が認められた。該当
振動数において、レーザドップラ振動計なども用いてより詳細な解析をしたところ、加振器の横ぶれなどが認められ
た。これらの知見は、今後の校正範囲の拡大に有用なデータである。
3.
電荷感度の校正法を開発し、その不確かさを明らかにする。
従来試みられなかった電荷感度の校正方法を開発、自動化を進めるなどした。これらの成果から不確かさ要因を明ら
かにし、学会発表を行った。
考
察
一連の研究開発は、国際基幹比較で質的にも認められたと考える。また、論文発表を積極的に行った結果、海
外からの利用問い合わせがあり、シンガポールの国立研究機関の基準器を校正した。
一方、特定振動数での共振は、問題点を明らかにしたものの補正方法などを見いだすまでには至らなかった。
206
物理標準の高度化に関する研究
今後の課題ととらえたい。
当期は国際会議での報告は積極的に行ったが、査読付き論文はまだ投稿するに至っていない。これは、国際比
較の結果がまだドラフト段階であり、関係者限りの情報であるという事情にもよる。今後国際比較結果の公表を
受けた段階で早急に研究成果をまとめ、論文発表を行う予定である。
引用文献
[1]
ISO 5347-1: Methods for the calibration of vibration and shock pick-ups, Part 1: Primary vibration
[2]
JIS B 0908: 振動及び衝撃ピックアップの校正法-基本概念, 日本規格協会(1991).
[3]
通商産業省機械情報産業局計量行政室編:計量関係法令例規集,第一法規出版(1967).
[4]
石神,白石:低周波領域における振動加速度計の絶対校正,精密工学会誌,57, 7(1991)1205-1210.
[5]
ISO16063-11(Methods for the calibration of vibration and shock pick-ups Part 11: Primary vibration
calibration by laser interferometry, International Organaization for Standardization(1993).
calibration by laser interferometry)
[6]
A. Link and
H. -J. von Martens: Proposed primary calibration method for amplitude and phase response
of accelerometers, ISO/TC 108/SC 3/WG 6 N59 (1995).
[7]
H. -J. von Martens: Investigations into the Uncertainties of Interferometric Measurements of Linear
and Circular Vibrations, Shock and Vibration,4, 5-6(1997)327-324.
[8]
BIPM, IEC, IFCC, ISO,IUPAC, OIML: Guide to the expression of uncertainty in measurement, International
Organization for Standardization, Geneva, Switzerland(1993).
成果の発表
2)原著論文以外による発表(レビュー等)
ア)国内誌(国内英文誌を含む)
1.
臼田孝,”振動計測技術の新展開”,エレクトロニクス,2 月号 20-22(2000)
2.
石神, 根本, 藤本, 小島, “振動レベル計の温湿度サイクル試験“, 計量研究所報告, Vol.50-1, 63-68 (2001).
3.
臼田孝,”振動標準,”計測工学ハンドブック(分担執筆), 朝倉書店, 2001, 10 月
4.
臼田孝,”マイクロセンサ,” マイクロマシン技術と応用(分担執筆), シーエムシー出版, 2002, 3 月
5.
臼田孝,”振動量と振動計測(仮題),”生体物理刺激と生体反応, フジテクノシステム, 2002 出版予定
イ)国外誌
1.
T. Usuda, E. Furuta and T. Kurosawa: Development of Laser Interferometer for Vibration and Acceleration
Pick-up Calibration,Proc. 5th Japan-France Congress of the Mechatronics '01, pp.428-431(Besaoncn, France,
9-11 October 2001)
2.
T. Usuda, E. Furuta, A. Ohta and H. Nakano:Development of laser interferometer for a Sine-approximation
method, Proc. 4th Int. Conf. on Vibration Measurements by Laser Techniques (Proc. SPIE)(2002)June, to be
published.
3.
A. Ohta, T. Usuda, T. Ishigami, and H. Nakano:Calibration of charge amplifier and evaluation of vibration
exciter for the purpose of establishment of vibration standards, Proc. the 6th International Conference on
Motion and Vibration Control (2002) August, Saitama, to be published.
4.
H-J. von Martens 他:Report on key comparison CCAUV.V-K1 Draft A, Dec(2001), (データ提供)
207
物理標準の高度化に関する研究
3)口頭発表
ア)招待講演
1.
臼田孝, “精密位置決めにおけるマイクロマシン技術,” 1998年度精密工学会秋季大会, 北海道大学,,, (1998).
イ)応募・主催講演等
1.
大田,臼田,上田,中野,黒澤:振動加速度計の校正における電荷増幅器の影響,2001 年度精密工学会秋季大会学術
講演会講演論文集,P.482,大阪大学
2.
大田,臼田,上田,中野:振動加速度計の校正における外乱要因とその補正,2002 年度精密工学会春季大会講演論文
集, P.738, 東京工業大学
208
物理標準の高度化に関する研究
4. 測光・放射標準の高度化に関する研究
産業技術総合研究所計測標準研究部門電磁波計測科光放射標準研究室
斎藤
要
輝文、小貫
英雄、齊藤
一朗、蔀
洋司、市野
善朗、座間
達也
約
アンジュレータ放射を放射源とする 90∼250nm 域の分光応答度校正用ビームラインならびに放電管等を放射源
とする検出器評価装置を完成させ、トランスファ標準検出器の評価に関する技術を開発した。校正時不確かさ要
因に関して、これまで重要視されていなかった入射するビームの角度拡がりがシリコン・フォトダイオードの応
答に及ぼす影響ならびに光電子放出電流の寄与がいずれも大きな誤差要因になることを初めて定量的に明らかに
した。その他、関連する測光・放射測定技術の高度化と整備を行い、国際比較等に積極的に参加した。
研究目的
現在空白の波長域となっている 90∼250nm 分光応答度標準の確立を中心課題とし、連接する波長域の分光応答
度標準も高度化を進め、よって関連する測光・放射標準の高度化に資することを目的とする。また計画されてい
る基幹国際比較に対処する。
具体的には、測光量の基準となる放射量、中でも分光応答度の校正・計測に関わる種々の不確かさ要因や問題
点の解明、評価に努める。
研究方法
本研究の前期においては、任意の波長での校正を可能とするために、電子蓄積リング NIJI-II 号の直線部に設
置された小貫型(偏光可変型)アンジュレータ(産総研の前身の電総研で開発[1-3]。図1)からの放射を、可視
∼真空紫外域の強力な光源として利用し、絶対放射計(ヘリウム冷却器内蔵型)を基準とした紫外・真空紫外域
(90∼300nm)の光検出器分光応答度標準を真空中及び空気中[4]で高精度に校正を行ない、安定に供給するため
のシステム(図2−3)を開発、整備を行なった。
209
物理標準の高度化に関する研究
図1
電子蓄積リング NIJI-II の直線部に挿入された偏光可変小貫型アンジュレータ
図2
アンジュレータ放射利用紫外・真空紫外域分光ビームライン
210
物理標準の高度化に関する研究
図3
アンジュレータ放射利用紫外・真空紫外域分光ビームラインに接続された He3 型極低温放射計
後期においては、検出器をアンジュレータ放射を用いずに重水素ランプ等を放射源にして、多数の検出器校正
を可能とすると同時に校正時の誤差要因を分析・評価できる(図4)を設計・製作するとともに、これまで開発
したシステムのさらなる調整・評価を行なう。
図4
トランスファ標準検出器評価装置
211
物理標準の高度化に関する研究
検出器校正時に重要な以下のような問題点を分析・評価する技術を開発する。
感度の安定性
感度の直線性
感度の均一性
感度の温度特性
測定光学系、検出器の偏光特性の影響
ビーム拡がりの影響
研究成果
1)紫外・真空紫外分光応答度装置整備関連
Ar エキシマランプ、重水素ランプ、低圧水銀ランプ、水銀キセノンランプのいずれかの放射源を切替選択して、
検出器校正を可能とするトランスファ標準検出器評価装置(図4)を設計・製作し、正常な動作をすることを確
認した。
懸案となっていた約 130nm 以下の波長域での分光光学系での低反射率によるビームパワーの低下の問題につい
てはこれまでの Al ミラーを SiC ミラーに交換することにより、使用波長下限 90nm の目標値を達成することがで
きた。
極低温放射計の動作に必要な He 回収管を整備するとともに、不具合個所等の改良を行なって動作試験を行ない
0.35K の温度到達動作を確認した(図5)。
TEMPERATURE [K]
1000
He3 stage/Charcoal pump
He3 stage
100
10
1
20:09:19
18:09:14
16:09:14
14:09:13
12:09:13
10:07:15
8:00:00
6:00:00
4:00:00
2:00:00
0:00:00
0.1
TIME [h:m:s]
図5
He3 型極低温放射計の極低温動作時の温度変化。
NIJI-II 電子蓄積リングの電子軌道を鉛直方向に振動させることでアンジュレータ放射強度が変調でき、ボロメ
ータによる測定にきわめて有用であることを確認した。
2)検出器評価技術関連
212
物理標準の高度化に関する研究
トランスファ標準検出器の校正時不確かさ要因となり得る種々の特性について、評価技術を開発した。
トランスファ標準検出器の特性として重要な感度むらの測定を行ない、同一の検出器でも吸収の強い短波長ほ
ど感度むらが大きくなりその分布形状も異なることが明らかとなった(図6)。
(a) 波長:100 nm
(b) 波長:120 nm
図6 Si フォトダイオード(IRD AXUV-100G)の受光面感度分布測定例。
検出器に入射するビームがある発散角を持つと、入射光軸が検出器に垂直であっても、斜め入射成分が存在し、
これによって検出器は異なる偏光成分に対する合成した応答を示すので、平行ビームを入射させた場合と一般に
は異なる応答を示す。前期において、この影響を実験で裏付けられた理論モデル[5-8]を用いて初めて定量的に評
価した[9]。後期においても、引き続き検出器校正・使用時に与える影響の評価の研究を詳細に行った。
さらに別の要因として、光電子放出電流の寄与が大きな誤差要因になることを初めて定量的に明らかにした。真
空紫外域の放射は、検出器表面から光電子放出を起こしうる光子エネルギーを持っている。Si フォトダイオード
のような内部光電効果を利用する検出器では、これまで、この光電子放出電流に対しては、あまり注意が払われ
ていなかったが、我々は電流測定時の接地極性の違いによって、その寄与がかなり大きい(Si フォトダイオード
で波長 120 nm 近辺で約 10%)ことを明らかにし(図7−9)、
(a) 裏面電極接地配置
(b) 表面電極接地配置
図7
電流測定の配置図。
213
物理標準の高度化に関する研究
図8
Si フォトダイオードからの光電子放出電流スペクトル。実線:直接測定(図1(a)において SW:open)
,点線: 間接測定
(図1(a)の配置での測定と図1(b) の配置での測定の差スペクトル。
図9
光電子放出電流の内部光電効果光電流に対する比スペクトル(実線)
。点線と破線はそれぞれ Si フォトダイオードの構成
材料である Si と SiO2 の吸収スペクトル。
論文を投稿した[11]。因みに NIST, PTB とも校正検出器の校正ならびに使用に際し、その極性を無視していた。
筆者が PTB を訪問した際、それを指摘して、その場で実験を行い、その重要性を認識させることができた[11]。
3)関連測光・放射測定技術の高度化と整備
表1に示した各標準の整備・高度化を実施した。さらに、表2に示した基幹国際比較に参加ないし参加予定で
ある。ちなみに分光応答度基幹国際比較 CCPR-K2.c は当初 2001 年中に実施予定であったが、パイロットラボの PTB
の判断により延期された。
物理標準名
実施(立ち上げ・
高度化)年月
光度(照度)
2001/3
光束
2001/3
分光応答度(250-1150 nm) 2002/2
具体的内容(開発/立ち上げ/高度化の区別を含
む)
高度化(標準供給)
高度化(標準供給)
高度化・立ち上げ(標準供給開始)
214
物理標準の高度化に関する研究
分光応答度(10-90 nm)
分光放射照度
分光拡散反射率
2002/3
2002/2
2002
高度化・立ち上げ(依頼試験標準供給再開予定)
高度化(黒体)
開発(依頼試験標準供給開始予定)
表1
物理標準名
分光応答度
分光応答度
分光放射照度
分光拡散反射率
国際比較 ID 番号
CCPR-K2.b
CCPR-K2.c
CCPR-K1a
CCPR-K5
表2
考
当期に整備した標準一覧
実施(測定)年月
2001/7
2003(予定)
2002/2
2002(予定)
備考
波長:300-1000 nm
波長:200-400 nm
現在 2 巡目が進行中
当期に参加ないし参加予定の基幹国際比較一覧
察
本研究により、改めて紫外・真空紫外域における高精度な測定には、様々な困難があることが明らかとなった。
そのいくつかを列挙すると以下の通りである。
•
検出器感度むらが大きく、かつ波長依存性がある。
•
検出器応答の入射ビーム広がりに対する依存性が紫外・真空紫外域で特に顕著となる。
•
検出器表面からの光電子放出によって、接地極性の違いでフォトダイオードの光電流出力に無視できない差
異を生じる。
この中で第 2、第 3 の事項については、本研究で初めて定量的に指摘したものであり、いずれも近年利用が高ま
っている半導体フォトダイオードの使用に関わるもので、極めて広範な分野でより高精度な測定を実現する上で
重要な知見である。
これをふまえると、高精度な測定のためには、以下の条件を満たすことが望ましい。
1)使用する波長において、感度むらを測定する。
2)検出器校正は、エンドユーザーと同じ角度広がりを持つビームで行う。
3)真空紫外域の検出器の光電流測定は光電子放出電流を含まないように表面側を接地する極性で行う。
研究期間全体を通じての研究目標については、電子加速器の故障による運休、極低温放射計の 2 度にわたる不具
合修理等、予測できない事情等により、新たな分光応答度標準の確立までには至っていない。一方、当該平成 12
年度および 13 年度の目標を始めとする主要な技術開発は十分達成できた。
真空紫外域分光応答度標準の確立に際しては、電子線型加速器、電子蓄積リング等大型施設の安定した動作が
不可欠であるが、老朽化(建設後 20 年余り経過)
、運転・保守要員の不足が問題となっている。
引用文献
[1]
H. Onuki, N. Saito, T. Saito and M. Habu, "Polarizing undulator with crossed and retarded magnetic
fields", Rev. Sci. Instrum. 60, 1838-1841 (1989).
[2]
H. Onuki, N. Saito and T. Saito, "Undulator generating any kind of elliptically polarized radiation",
Appl. Phys. Lett. 52, 173-175 (1988).
[3]
H. Onuki, K. Yagi, K. Awazu, T. Yamada, T. Saito, “Progress report on recent researches with polarizing
undulator”, SPIE 2873, 90-95 (1996).
[4]
T. Saito, I. Saito, T. Yamada, T. Zama and H. Onuki, "UV detector calibration based on ESR using
undulator radiation ", J. Electron and Spectroscopy and Related Phonomena 80, 397-400 (1996).
[5]
T. Saito, “A study on establishment of VUV detector standards”, Researches of the Electrotechnical
215
物理標準の高度化に関する研究
Laboratory No. 960 (Electrotechnical Laboratory, Tsukuba, 1994) in Japanese.
[6]
T. Saito, M. Yuri and H. Onuki, "Application of oblique incidence detector to vacuum ultraviolet
polarization analyzer", Rev. Sci. Instrum. 66 (2), 1570-1572 (1995).
[7]
T. Saito and H. Onuki, "Polarization characteristics of semiconductor photodiodes", Metrologia 32,
485-489 (1995/96).
[8]
T. Saito, L. R. Hughey, J. E. Proctor, and T. R. O'Brian, "Polarization characteristics of silicon
photodiodes and their dependence on oxide thickness", Rev. Sci. Instrum. (special issue in CD-ROM)
67 (9),1-3 (1996).
[9]
T. Saito and H. Onuki, ”Difference in silicon photodiode response between
collimated and divergent
beams”, Metrologia 37, 493-496 (2000).
[10] T. Saito, “Difference in photocurrent of semiconductor photodiode depending on current measurement
polarity through contribution of photoemission current”, submitted to Metrologia (2002).
[11] M. Richter, U. Kroth, A. Gottwald, Ch. Gerth, K. Tiedtke, T. Saito, I. Tassy and K. Vogler, "Metrology
of pulsed radiation for 157-nm lithography", submitted to J. Appl. Phys. (2002).
成果の発表
1)原著論文による発表
ア)国内誌(国内英文誌を含む)
発表者名:「発表題名」、発表誌名等〔誌名、掲載号、(掲載年)〕
1.
「測光・放射測定」
,齊藤一朗, 計測と制御 40 巻, 10 号, 764-769 (2001).
2.
「測光・放射の計測 測光,放射測定」
,齊藤一朗, 鈴木健一,照明学会誌 85 巻, 8B 号, 678-679 (2001).
イ)国外誌
発表者名:「発表題名」、発表誌名等〔誌名、掲載号、(掲載年)〕
1.
T. Saito, “Difference in photocurrent of semiconductor photodiode depending on current measurement polarity
through contribution of photoemission current”, submitted to Metrologia (2002).
2.
M. Richter, U. Kroth, A. Gottwald, Ch. Gerth, K. Tiedtke, T. Saito, I. Tassy and K. Vogler, "Metrology of
pulsed radiation for 157-nm lithography", submitted to J. Appl. Phys. (2002).
2)原著論文以外による発表(レビュー等)
ア)国内誌(国内英文誌を含む)
発表者名:「発表題名」、発表誌名等〔誌名、掲載号、(掲載年)〕
1.
斎藤輝文、
「第2部会「光と放射の物理測定」会議報告」
、日本照明委員会誌 17 巻 3 号 (2000).
2.
齋藤輝文, 測光放射測定諮問委員会(CCPR)報告, AIST Today 2001.8 (産業技術総合研究所), Vol. 1, No. 7, p. 28
(2001).
イ)国外誌
発表者名:「発表題名」
、発表誌名等〔誌名、掲載号、(掲載年)〕
1.
T. Saito, Metrological Applications, in Undulators, Wigglers and their Applications edited by H. Onuki and
P. Elleame (to be published by Taylor and Francis Books Ltd, 2002).
2.
H. Onuki and P. Elleame (ed.), Wigglers and their Applications, (to be published by Taylor and Francis Books
216
物理標準の高度化に関する研究
Ltd, 2002).
3)口頭発表
ア)招待講演
1.
齊藤一朗,照度計型式認証及び校正技術,台湾((社)亜太科学技術協会)(2001 年 12 月 19 日)
イ)応募・主催講演等
1.
斎藤輝文、”第2部会報告”、第 16 回日本照明委員会大会、東京 (Aug. 23, 2000).
2.
齋藤輝文, CCPR(測光放射測定諮問委員会)報告, 日本学術会議 標準研究連絡委員会(2001 年 06 月 27 日)
3.
齋藤輝文, 紫外・真空紫外検出器標準の開発, 2001 分析展 (2001 年 09 月 07 日)
4.
蔀 洋司, 変形シャープ・リトル法による高精度絶対反射率測定 (2) −誤差要因と不確かさの評価−, 平成 13 年度
照明学会全国大会(2001 年 09 月 07 日)
5.
座間達也, 紫外・真空紫外光源校正用ビームラインの現状(VI), 日本分光学会秋季講演会 (2001 年 12 月 12 日)
6.
蔀 洋司, 変形シャープ・リトル法による高精度絶対反射率測定の現状, 第 26 回国際計量研究連絡委員会 測光標準
分科会 (2002 年 02 月 13 日)
7.
齋藤輝文, 測光放射測定諮問委員会(CCPR)および関連活動報告, 第 26 回国際計量連絡委員会測光標準分科会 (2002
年 02 月 13 日)
8.
T. Saito, “Difference in photocurrent of semiconductor photodiode depending on current measurement polarity
through contribution of photoemission current”, 8th Int. Conf. on New Developments and Applications in Optical
Radiometry (NEWRAD) (May, 22, 2002)
9.
H. Shitomi, “Development of new integrating sphere with uniform reflectance for precise absolute diffuse
reflectance”, 8th Int. Conf. on New Developments and Applications in Optical Radiometry (NEWRAD) (May, 22,
2002)
10. T. Zama, “Improvements of the beamline for calibration of transfer standard in the UV and VUV regions”, ,
8th Int. Conf. on New Developments and Applications in Optical Radiometry (NEWRAD) (May, 22, 2002)
4)特許等出願等
1.
平成 14 年 1 月 24 日, 「発光素子の外部発光量子効率測定方法及び装置」, 市野善朗、齊藤一朗、蔀洋司、八瀬清志、
高田徳幸, 特願 2002-15940
2.
平成 14 年 1 月 24 日, 「光感応型発光素子の発光効率測定方法及び装置」, 市野善朗、齊藤一朗、蔀洋司、八瀬清志、
高田徳幸, 特願 2002-15941
3.
平成 14 年 1 月 24 日, 「固体試料の絶対蛍光量子効率測定方法及び装置」, 市野善朗、齊藤一朗、蔀洋司、八瀬清志、
高田徳幸, 特願 2002-15942
217
物理標準の高度化に関する研究
5. 放射能標準の高度化に関する研究
5.1. 放射能標準の高度化に関する研究
産総研量子放射科
桧野
要
良穂
約
放射能は、原子力などのエネルギー以外にも、放射性医薬品や様々なトレーサーとして広く日常生活に
入り込んでいる[1]。しかしながら、その標準は、半減期の関係から作り置きが出来ない、種類と強度範囲
が広すぎて対応困難などの理由により、トレーサビリティ体系の確立が遅れていた[2]。そこで、平成9年
度からスタートした科学技術振興調整費による知的基盤整備推進制度の「物理標準の高度化」プロジェク
トの一環として、放射能標準の供給体系を整備し、標準のトランスファとその安定性を確実に保証するた
め、放射能特定二次標準器の校正に用いられる安定した線源の開発と、標準の供給範囲の拡大、精度向上
等、放射能標準の高度化を目指し、研究を開始した[2]。研究においては、放射能線源の製造と販売、及び
測定に関する我が国の主要な関係機関である、日本原子力研究所(東海研究所)
、日本アイソトープ協会、
日本分析センターの協力の下、医療レベルから環境レベルに亘る広範囲の放射能標準と、そのトレーサビ
リティ体系の確立及び高度化を目指した。
平成9年から11年度までの前半においては、γ線核種放射能標準確立のため、加圧型電離箱システム
と基準となる長半減期核種(Ho-166m)密封線源の開発[3、5]を行い、さらに面線源からの荷電粒子放出率を
求めるため、2πマルチワイヤー比例計数管を設計・製作する等、特定二次標準機器に相応しい機器の整
備と高精度の校正を実施した。後半の12年度と13年度においては、標準の高度化と供給範囲の拡大を
目指し、環境レベル放射能標準確立のため、極微量放射能の体積線源を作成し、その一様性をイメージン
グプレートシステムで確認した。この体積線源により日本アイソトープ協会や日本分析センターの環境放
射能測定用の Ge 検出器の校正を行った。また、純α/β核種標準確立のため、産総研と日本アイソトープ
協会で共通の液体シンチレーションカウンタ解析ソフトを開発するとともに、産総研では絶対測定用TD
CR型液体シンチレーションカウンタを設計・製作し、低エネルギーβ線核種の一次標準を確立し、高精
度の校正を実施した。さらに、産総研の一次標準の国際的整合性を確認するため、Co-58、Y-88 の放射性
溶液、そして Cl-36 放射能面線源についての国際比較を、産総研がパイロットラボとなり、実施した。こ
れらの結果13年度末に、日本アイソトープ協会が放射能標準についての認定事業者として認可され、放
射能標準のトレーサビリティ体系が確立された。
研究目的
我が国の標準供給[1]において、そのトレーサビリティ確立が遅れていた放射能標準の供給体系[2]を整備
し、標準のトランスファと安定性を確実に保証するため必要な特定標準器及び特定二次標準器に適した機
器の開発・整備を行う。これとともに、Ho-166m 等の長半減期核種を用いた安定な標準線源の開発を実施
218
物理標準の高度化に関する研究
し[3,4]、一次標準から二次標準、さらには実用標準のレベルに至る標準のトランスファ技術を確立し、実際
の供給体制を整える。さらに、一次標準の値付けの確かさを確認するため、NIST、PTB 他の主要各国、及
び近隣アジア諸国との国際比較を実施し、我が国における放射能標準トレーサビリティ体系の確立を目指
す。
研究方法
必要とされている放射能標準の範囲は、環境レベルの mBq から、医療用の GBq に至るまで 12 桁以上もの
広がりがあり、また対象となる事象も、α線やβ線などの荷電粒子やX線、γ線などの光子と様々である。
従って測定機器類も多岐に亘る必要があり、計量法の告示においては、国家標準を現示する特定標準器と
して、4πβ−γ同時測定装置、4πγ加圧型電離箱、γ線スペロメータ、液体シンチレーションカウン
タ、荷電粒子測定装置、ガスカウンタなどの必要な機器類を特定標準器群として指定している[2]。図−1
に放射能標準のトレーサビリティ体系とこれを形作るために用いられる測定器機類を示した。
図−1
放射能標準のトレーサビリティ体系と対応する測定機器類
本研究においては、これらの特定標準器で値付けられた一次標準線源を用いて、特定二次標準器を校正
し、一般ユーザーまで標準をトランスファする、トレーサビリティ体系の確立と標準の高度化実現を目指
した。
平成12年度においては、放射能標準の範囲拡大のため、産総研、日本分析センター、日本アイソトー
プ協会の3所が協力して環境レベル放射能標準用体積線源の開発を実施した。また、純α/β核種放射能
標準の確立のため、液体シンチレーションカウンタの解析ソフトの共通化も行った。13年度においては、
産総研に TDCR 型液体シンチレーションカウンタを導入し、β線核種の絶対測定を行い、高精度の校正を実
施した。また、X線放出率標準の確立を目指し、2πガスフロー比例計数装置を設計・製作した。さらに、
産総研においては、これまでの成果を確認する意味から、一次標準の国際比較を実施し、良好な結果を得
219
物理標準の高度化に関する研究
た。以下、これらの研究方法に関して詳述する。
1)環境放射能標準用体積線源の開発
標準の範囲拡大の一環として、環境レベルの放射能標準や、密封小線源にも対応するため、51Cr、57Co、54Mn、
60
Co 、85Sr、 88Y、109Cd、137Cs、139Ce の9核種、及び天然の放射能核種 K-40 をアルミナの粉末に吸収・乾燥
させ、これを均質に希釈し、γ線スペクトロメータ用の標準体積線源の製作と校正法の開発を試みた。こ
れら線源は産総研と日本分析センターが、それぞれの Ge 検出器を用いて測定し、環境γ線スペクトロメー
タ用 Ge 検出器の高精度校正を試みた。また、RI 画像解析装置(イメージングプレート)を用いて、環境
レベルまで希釈したアルミナ線源内の放射能分布の一様性を確認した。
2)純α/β核種標準の確立
純α/β核種の測定は、蛍光性を持つ有機系溶剤に放射能溶液を混入し、α線やβ線のエネルギーを光
に変換して測定する液体シンチレーションカウンタが主に用いられる。しかしながらこの測定法では、使
用するシンチレータや解析手法の違いにより、放射能の算出結果に微妙な差違が存在するのが現状である。
そこで、産総研と日本アイソトープ協会で共通の液体シンチレーションカウンタシステムの導入と解析ソ
フトの共通化を実施した。
さらに、産総研においては純β核種放射能の絶対値を正確に求めるため、図−2に示す
TDCR(Triple-Double coincidence Ratio)方式の、3本の光電子増倍管を使用した特殊な液体シンチレーシ
ョンカウンタの設計と製作を行った。
図−2
TDCR式液体シンチレーションカウンタブロック図
これは、3本の光電管シグナルのいずれか2本が同時にシグナルを出した場合と3本全てが同時シグナ
ルを出した場合の比を調べることにより、直接に放射能の絶対値が得られることから、近年世界の標準研
究所で多く取り入れられているシステムである。
220
物理標準の高度化に関する研究
3)X線放出率標準の確率
X線放出率標準確率のため、55Fe 線源からの X 線放出率の絶対測定を行う為に、加圧型チェンバーを産
総研と協力して試作し、低エネルギーX 線領域における放射能標準の供給体系確立を試みた。この X 線放
出率絶対測定装置は、線源から放出された X 線を全て測定器中に充填されているガス中で相互作用させ絶
対測定をする装置である。使用するガスには希ガスのアルゴンとメタンを用いた(それぞれの割合はアル
ゴン 90%、メタン 10%である。
)。
4)一次標準の国際比較
本研究の前半において、既に Ho-166m についての国際比較[5,6]を実施したが、後半においても、Co-58 及
び Y-88 の放射能濃度測定、
Cl-36 面線源からのβ線放出率測定比較の国際比較を実施した。Co-58 及び Y-88
の放射能濃度においては、いずれも線源を産総研で調整し、アンプルに封入した上、日本アイソトープ協
会を通じて参加各国と国際度量衡局にあるγ線核種参照システム(BIPM/SIR)に送付した。Cl-36 面線源に
ついては、産総研が準備した線源を、NIST、PTB 他台湾、韓国、南アの研究所に線源を巡回して測定比較
を実施した。
研究成果
上記研究の結果、我が国におけるトレーサビリティ体系が整備され、13年度末には日本アイソトープ
協会が放射能標準の認定事業者として正式に認可されるに至った。これにより、日本アイソトープ協会を
通じて一般ユーザーに配布される線源は、全て国家標準とのトレーサビリティが保証されたものとなった。
上記テーマ毎の具体的成果は下記の通りである。
1)環境放射能標準用体積線源の開発
51Cr、57Co、54Mn、60Co 、85Sr、 88Y、109Cd、137Cs、139Ce の9核種、及び天然の放射能核種 K-40
(通常の 200 倍に同位体濃縮した線源)を産総研の大容量 Ge 検出器で値付けした。この線源をさらに放射
性同位元素としての規制値以下に希釈し、環境放射能用の体積線源が作成された。体積線源は水溶液とア
ルミナに混入したものの2通りがつくられ、それぞれの線源を用いて、日本アイソトープ協会と日本分析
センタの環境放射能測定用 Ge 検出器が校正された。
2)純α/β核種標準の確立
液体シンチレーションカウンタの効率トレーサー法・積分バイアス法・内部標準法・外部標準法の各種
演算機能を有する解析ソフトを開発し、産総研と日本アイソトープ協会のそれぞれのシステムに移植した。
このシステムを用いて、β線用放射能一次標準溶液(3H,14C-hexadecane)を相互に測定し、極めて良い一
致が得られることを確認した。また、図−3に示す TDCR 方式の液体シンチレーションカウンタが完成し、
通常の装置との比較が行われ、良好な一致が確認された。現在、この装置を用いて国際比較に参加中であ
る。
221
物理標準の高度化に関する研究
図−3
導入されたTDCRシステム。右側中央部に光電管が見える。
3)X線放出率標準の確率
X線放出率標準確率のため、液体シンチレーションカウンタにより 55Fe 放射能の絶対測定を行い、この
線源を滴下乾燥させた標準線源を作成した。この線源から2π方向に放出されるX線の測定を、試作した
チェンバーによって日本アイソトープ協会と産総研が相互に実施し、X線放出率が精度良く求められてい
ることを確認した。
4)一次標準の国際比較
Co-58 及び Y-88 の放射能濃度測定国際比較においては、BIPM 他、表−1に示した 13 の機関が参加した。
222
物理標準の高度化に関する研究
APMP-RI-K3-00
Co-58
Y- 8 8
4πβ(pc)-γ(NaI)
4πβ(pc)-γ(NaI)
--
I.C.(p)
BARC(India)*
4πβ(pc)-γ(NaI)
4πβ(pc)-γ(NaI)
CIAE(China)
4πβ(pc)-γ(NaI)
4πβ(pc)-γ(NaI)
CNEA(Argentina)
4πβ(pc)-γ(NaI)
Ge(p)
I N E R ( Ta i w a n ) *
4πβ(pc)-γ(NaI)
4πβ(pc)-γ(NaI)
KRISS (Korea)*
4πβ(ppc)-γ(NaI)
4πβ(ppc)-γ(NaI)
LNMRI (Brazil)
4πβ(pc)-γ(NaI)
4πβ(pc)-γ(NaI)
AIST (Japan)*
ANSTO (Australia)*
MINT (Malaysia)*
Ge
(s)
Ge(s)
NIM (China)*
Ge(p)
Ge(p)
NINT (China)
4πβ(pc)-γ(NaI)
4πβ(pc)-γ(NaI)
NPIC(China)
4πβ(LC)-γ(NaI)
4πβ(LC)-γ(NaI)
OAEP (Thailand)*
I.C.
(c)
Ge(s)
P3KRBiN (Indonesia)*
I.C.
(s)
Ge(s)
* =APMP member laboratories,
(p)
=calibrated using their primary source,
(s)
= c a l i b r a t e d w i t h r e f e r e n c e s o u r c e s f r o m o t h e r N M I ’s ,
表−1
Co-58 と Y-88 放射能測定国際比較参加国リスト
結果を図−4と図−5に示す。これらの結果は、Ho-166m の結果と纏めて、PTB で開催された国際会議で
報告された。
223
物理標準の高度化に関する研究
600
APMP-RI-K3-00
Co-58
590
4πβ−γ
3%
Reported Activity (kBq/g)
calibrated Ge
580
calibrated IC
570
arithmetic mean
median
560
SIR mean
(normalized)
550
AI
図−4
RC
LN
MR
I
OA
EP
MI
NT
BiN
BA
NT
P3
KR
EA
NI
ER
CN
SS
IN
AE
KR
I
CI
TL
)
(E
NP
IC
ST
NI
M
540
Co-58 放射能測定国際比結果
490
APMP-RI-K3-00
Y-88
480
calibrated Ge
470
3%
calibrated IC
460
arithmetic mean
median
SIR mean
(normalized)
450
ST
O
OA
EP
CN
EA
AI
ST
(E
TL
)
NI
M
KR
ISS
LN
MR
I
BA
RC
IN
ER
NP
IC
NI
NT
MI
NT
AN
CI
AE
RB
iN
440
P3
K
Reported Activity (kBq/g)
4πβ−γ
図−5
Y-88 放射能測定国際比結果
224
物理標準の高度化に関する研究
Cl-36 面線源からのβ線放出率国際比較は、産総研が準備した線源を、NIST、PTB 他台湾、韓国、南アの
研究所に線源を巡回して測定比較を実施し、極めて良好な一致を見た。現在、さらに線源をロシア、英国
にも巡回する予定で準備が進められている。図−6に国際比較に使用した線源を示す。
図−6
考
国際比較に使用した Cl-36 面線源と参照用の Fe-55 点線源
察
γ核種、α・β核種と言った線質の違いと、放射能の強度レベルの違いにそれぞれ適した測定システム
の開発とその校正がなされ、放射能標準の高度化と供給範囲の拡大が図られた。一方、校正作業を通じて
多くの国際比較を実施し、アジア地区の標準機関からなる APMP 基幹比較のパイロットラボとして、58Co 、
88
Y、166mHo の国際比較を行った。さらに、特定標準器校正に使用した線源をタイやインドネシアに供与する
など、アジア地区全体の放射能標準高度化にも寄与することが出来、十分に満足の出来る結果が得られた。
また、イメージングプレートを用いて環境レベルの様々な試料を測定[7,8]し、極低レベル放射能に関しても
幾つかの依頼試験を受けることが可能となった。このとき、極微量の放射性物質をインクジェットプリン
タのインクに混入し、これを用いて環境レベル放射能測定用イメージングプレートの標準線源作製を試み、
一様性と任意の濃度、パターンの面線源開発に成功した。現在この方式の面線源作製に関する特許の申請
中である。図−7に本研究で試作したインクジェットプリンタで作成した線源のイメージングプレートで
測定した放射能分布図を示す。
225
物理標準の高度化に関する研究
図−7 インクジェットプリンタのインクに、微量の Cl-36 を混入してプリントした例。ここでは、濃度を変化させる
ために、数字と同じ回数重ねてプリントをしている。このほか、カラーグラディエーションによる濃度変化も可能で、
現在製法特許の申請中である。
これらの成果をふまえ、今後さらなる放射能標準の質と供給範囲の拡大を図り、一層の高度化を目指す。
特に、近年癌治療用にγ線を出さない純β線源や、診断用に短寿命の放射性核種が多く用いられて来てお
り、これらの核種についても、より精度の高い放射能標準の確立とその供給が求められている。また、環
境レベルの放射能に関しては、今後放射性廃棄物のクリアランスの検証技術確立が急務とされており、そ
のためには、バックグラウンドレベルの1%の放射能をきちんと測定し、明確な数値が得られるシステム
の開発が必要である。今後これらの分野に必要とされる高精度の放射能標準の開発と供給を目指し、研究
を進めて行く予定である。
引用文献
[1]
河田
燕、由良
治:”放射能標準の現状と今後の課題”、電総研彙報第 47 巻第 9、10 号 797 (1983)
[2]
木村俊夫、桧野良穂:RI 等産業利用活性化のための活動−トレーサビリティ、 Radioisotopes, Vol.
46, No.10 (1998)
[3]
桧野良穂、松井
真、山田
崇、竹内紀男、他:加圧型電離箱による、γ線核種放射能二次標準の確
立、 電総研彙報、第62巻9号(1998)
[4]
Y. Hino, Y. Kawada and Nazaroh : " An improved leakage current compensation technique for a
4pg ionization chamber system", Nucl. Inst. & Methods, A 369, pp 392-396 (1996)
[5]
Y. Hino, S. Matui, T. Yamada, N. Takeuchi, K. Onoma, S. Iwamoto and H. Kogure:Absolute
measurement of
166m
Ho radioactivity and development of sealed sources for standardization of
226
物理標準の高度化に関する研究
gamma-emitting nuclides,
[6]
Int. J. Appl. Radiat. Isotopes, Vol.52, pp545-549 (2000)
A. Rytz : “The international reference system for activity measurements of gamma-ray emitting
nuclides”, Int. J. Appl. Radiation and Isotopes, vol. 34 pp1047-1056 (1983)
[7]
C. Mori et al.,”Detection of extremely low level radioactivity with imaging plate”, NIM, A339
(1994) 278-281.
[8]
C. Mori et al., “Effect of background radiation shielding on natural radioactivity distribution
measurement with imaging plate”, NIM A369 (1996) 544-546.
成果の発表
・原著論文による発表
1.
Y. Hino, S. Matui, T. Yamada, N. Takeuchi, K. Onoma, S. Iwamoto and H. Kogure,
of
166m
Ho radioactivity and development of sealed sources for standardization of
Absolute measurement
-emitting nuclides,
Int. J. Appl. Radiat. Isotopes, Vol.52, pp545-549 (2000)
2.
Y. Hino, “Traceability system of radioactivity standards in Japan”, APMP/TCRI report '2001
3.
Y. Hino, Results from APMP comparisons on radioactivity measurements of Co-58, Y-88 and Ho-166m, Int.
J. Appl. Radiat. Isotopes, Vol.56, pp421-427 (2002)
・口頭発表
1.
Y. Hino, Results from APMP comparisons on radioactivity measurements of Co-58, Y-88 and Ho-166m,
ICRM’2001, PTB, Braunschwieg, Germany
2.
桧野良穂、イメージングプレート用放射能標準線源の開発、
「放射線検出器とその応用」研究会、高エネルギ
ー物理研究機構、2002 年 2 月 8 日
・特許申請
1.
桧野良穂 「面状放射線源及びその製法」 2001 年 11 月申請、整理番号 1126
227
物理標準の高度化に関する研究
5. 放射能標準の高度化に関する研究
5.2. 純α・β核放射能標準の高度化に関する研究
日本アイソトープ協会
山田
要
崇裕、松本
幹雄、中村
吉秀
約
放射能標準のトレーサビリティ体系を確立し、実際のユーザーが手にする実用レベル標準へのトランスファと
その安定性を確実に保証するため、産総研と日本アイソトープ協会が協力し、図−1に示す体制の下、放射能標
準用特定二次標準器の整備と、その校正に用いる安定した線源の開発に関する研究を実施した。日本アイソトー
プ協会においては、産総研で値付けられた一次標準を基に、特定二次に相応しい測定器機の開発と校正手法に関
する実質的な部分を担当した。平成9年から11年までの前半においては、加圧型電離箱システムの開発[1]、2
πマルチワイヤー比例計数管の設計・製作及びこれらの機器の高精度校正を実施した。引き続き、後半の12年
度と13年度においては、純α/β核種の放射能測定に用いられる液体シンチレーションカウンタの解析ソフト
の共通化、X線放出率測定用チェンバーの設計・製作を実施し、産総研により値付けられた線源との測定比較・
校正を行った。特に平成12年度においては、産総研の特定標準器群により値付けられた一次標準線源を用いて、
加圧型電離箱、Ge 検出器、I-125 用 NaI(Tl)検出器、液体シンチレーションカウンタ、マルチワイヤーチェンバー
について特定二次標準器としての校正が実施された。これらの結果を基に、日本アイソトープ協会は放射能標準
についての認定事業者資格を申請し、13年度末に正式に認可された。これにより、日本アイソトープ協会が製
作して一般ユーザーに配布する全ての線源に対して産総研からのトレーサビリティが保証されることになった。
研究目的
我が国の標準供給[2]において、そのトレーサビリティ確立が遅れていた放射能標準の供給体系[3]を整備し、標準
のトランスファと安定性を確実に保証するため必要な特定標準器及び特定二次標準器に適した機器の開発・整備
を行う。これにより、産総研の値付けた一次標準から二次標準、さらには実用標準のレベルに至る標準のトラン
スファ技術を確立し、実際の供給体制を整える。また、これらの成果を基に、計量法における認定事業者として
の申請を行い、一般ユーザーにトレーサビリティが保証された線源の供給を開始する。
研究方法
日本アイソトープ協会が主に扱う線源は、医療用と測定器機校正用の標準γ線源、α/β核種溶液線源、α電
着線源、α・β面線源等である。これらを値付けするため、計量法の告示においては、4πγ加圧型電離箱、γ
線スペロメータ、液体シンチレーションカウンタ、荷電粒子測定装置、ガスカウンタなどの機器類が特定二次標
準器として指定されている[3]。これまでの研究において、4πγ加圧型電離箱、γ線スペロメータの整備と高精
度の校正が行われており[4,5]、本研究では引き続き、純α/β核種放射能標準の確立のための液体シンチレーショ
ンカウンタ解析ソフトの共通化、X線放出率標準の確立を目指すと共に、これらの機器を特定二次標準器として
228
物理標準の高度化に関する研究
の校正を実施した。
純α/β核種標準の確立
液体シンチレーションカウンタはα線やβ線放出核種放射能溶液を直接液体シンチレータに混入し、放射線に
よる発光現象をとらえ、放射能を測定する。測定試料自体の自己吸収がなく 4π計測が可能であるが、試料自体や
添加物、不純物などにより光を吸収する作用が働き、測定を阻害することがある。これらクエンチ度補正を行う
為、液体シンチレーションカウンタより出力されるパルス波高を用いて、効率トレーサー法・積分バイアス法・
内部標準法・外部標準法の演算機能を有する解析ソフトの開発を産総研と協力して実施した。
X線放出率標準の確率
X線放出率標準確率のため、55Fe 線源からの X 線放出率の絶対測定用の加圧型2πガスフローチェンバーを産総
研と協力して試作し、低エネルギーX 線領域における放射能標準の供給体系確立を試みた。この X 線放出率絶対測
定装置は、線源から放出された X 線を全て測定器中に充填されているガス中で相互作用させ絶対測定をする装置
である。使用するガスにはアルゴン 90%、メタン 10%の混合ガスを使用し、10 気圧まで可変でしかもガスの劣化を
防ぐために、少量ずつフロー可能な装置とした。図−1に装置の概略図、及び図−2には、実際に導入されたチ
ェンバーを示す。
図−1
放射能標準の高度化のための産総研と日本アイソトープ協会の研究体制
229
物理標準の高度化に関する研究
図−2 X線放出率絶対測定用チェンバーの概要図。
計数率が一定になるまでガス圧を上昇させ、100%内部吸収していることを確認する。
研究成果
上記研究の結果、我が国におけるトレーサビリティ体系が整備され、13年度末には日本アイソトープ協会が
放射能標準の認定事業者として正式に認可されるに至った。これにより、日本アイソトープ協会を通じて一般ユ
ーザーに配布される線源は、全て国家標準とのトレーサビリティが保証されたものとなった。その他、個々のテ
ーマ毎の具体的成果は下記の通りである。
純α/β核種標準の確立
液体シンチレーションカウンタの効率トレーサー法・積分バイアス法・内部標準法・外部標準法の各種演算機
能を有する解析ソフトを開発し、産総研と日本アイソトープ協会のそれぞれのシステムに移植した。このシステ
ムを用いて、β線用放射能一次標準溶液(3H,14C-hexadecane)を相互に測定し、極めて良い一致が得られること
を確認した。また、TDCR 方式の液体シンチレーションカウンタで絶対値を値付けた線源の供給を受け、これを基
に二次標準線源の校正を開始した。
X線放出率標準の確率
X線放出率標準確率のため、試作したチェンバーを用いて2π方向に放出されるX線の測定を試みた。線源は
産総研の液体シンチレーションカウンタにより値付けられた
55
Fe 標準線源をプラスチック容器に滴下乾燥し、上
部にX線を通す Be 窓を取り付けて作成した。この線源をチェンバーに入れ、Ⅰ気圧から7気圧程度まで圧力を変
化させて計数率の変化を調べた。その結果、約3気圧以上ではほぼ一定の計数率となり、その値は滴下した放射
能に相当するX線が2π方向に放出されるとして計算したものと良好な一致をすることを確認した。トレーサビ
リティを確保するため、測定は相似のチェンバーを用いて同一の線源について日本アイソトープ協会と産総研が
相互に実施し、いずれもX線放出率が精度良く求められていることを確認した。
考
察
γ核種、α・β核種と言った線質の違いと、放射能の強度レベルの違いにそれぞれ適した特定二次標準器の開
発とその校正がなされ、トレーサビリティのとれた放射能標準の供給体制が整備された。これらの成果を基に、
日本アイソトープ協会は放射能標準の認定事業者としての申請を行い、13年度末に正式に認可された。この結
果、一般ユーザーにトレーサビリティの保証された放射能標準を供給することが可能となった。
一方、環境レベルの体積線源作成において、産総研と協力して希釈したアルミナ線源の均一性試験をイメージ
ングプレートを用いて実施した。これにより、放射能標準の供給範囲の拡大がなされた。また、産総研が実施し
た放射能面線源からのβ線放出率測定においても、線源の均質性をイメージングプレートにより測定した。この
230
物理標準の高度化に関する研究
過程において、従来製法のエッチピットに滴下したり、ろ紙に滴下した線源では、一様性に問題があることが指
摘され、新しい面線源作成法の開発に着手した。図−4に問題が指摘された従来のエッチピット法やろ紙に滴下
した線源からのイメージ像を示す。今後、産総研と協力して、最新の印刷技術を応用した、より均質な面線源の
作成法に関する研究を行う予定である。
Ⅰ)エッチピット法(Tc-99)
2)ろ紙滴下(Pm-147)
3)ろ紙滴下(Tl-204)
図−4 問題が指摘された従来製法の放射能面線源。左より、1)エッチピット法(アルミ板の表面に微少なエッチピットを作
成し、放射能溶液を滴下乾燥させ封じ込める)。2)ろ紙滴下法(ろ紙に滴下したが、一部にスポット上の強い放射能濃度を示
す部分が生じた)。3)ろ紙滴下法(同じくろ紙にしみこませたが、濃淡のむらが生じた)
。
引用文献
[1]
桧野良穂、松井
真、山田
崇、竹内紀男、他:加圧型電離箱による、γ線核種放射能二次標準の確立、 電
総研彙報、第62巻9号(1998)
[2]
河田
燕、由良
治:”放射能標準の現状と今後の課題”、電総研彙報第 47 巻第 9、10 号 797 (1983)
[3]
木村俊夫、桧野良穂:RI 等産業利用活性化のための活動−トレーサビリティ、 Radioisotopes, Vol. 46,
No.10 (1998)
[4]
Y. Hino, S. Matui, T. Yamada, N. Takeuchi, K. Onoma, S. Iwamoto and H. Kogure:Absolute measurement
of
166m
Ho radioactivity and development of sealed sources for standardization of
nuclides,
[5]
gamma-emitting
Int. J. Appl. Radiat. Isotopes, Vol.52, pp545-549 (2000)
Y. Hino, Y. Kawada and Nazaroh : " An improved leakage current compensation technique for a 4pg
ionization chamber system", Nucl. Inst. & Methods, A 369, pp 392-396 (1996)
成果の発表
・原著論文による発表
1.
Y. Hino, S. Matui, T. Yamada, N. Takeuchi, K. Onoma, S. Iwamoto and H. Kogure,
of
166m
Ho radioactivity and development of sealed sources for standardization of
Absolute measurement
-emitting nuclides, Int.
J. Appl. Radiat. Isotopes, Vol.52, pp545-549 (2000)
2.
3.
Y. Hino, “Traceability system of radioactivity standards in Japan”, APMP/TCRI report '2001
Y. Hino, Results from APMP comparisons on radioactivity measurements of Co-58, Y-88 and Ho-166m, Int. J.
Appl. Radiat. Isotopes, Vol.56, pp421-427 (2002)
・口頭発表
1.
Y. Hino, Results from APMP comparisons on radioactivity measurements of Co-58, Y-88 and Ho-166m, ICRM’2001,
231
物理標準の高度化に関する研究
PTB, Braunschwieg, Germany
2.
桧野良穂、イメージングプレート用放射能標準線源の開発、
「放射線検出器とその応用」研究会、高エネルギー物理
研究機構、2002 年 2 月 8 日
3.
桧野良穂、山田崇裕、松本幹雄、
「イメージングプレート用標準線源の試作とその応用」
、理工学における同位元素研
究発表会、2002 年 7 月、報告予定。
図−3 実際に導入されたX線放出率絶対測定用チェンバー
全く同仕様のチェンバーを産総研と日本アイソトープ協会に設置した。
232
物理標準の高度化に関する研究
5. 放射能標準の高度化に関する研究
5.3. 環境放射能標準の高度化に関する研究
日本分析センター
佐藤
要
兼章、大橋
直之、秋山
正和、庄子
隆、吉清水
克巳
約
放射能標準の供給範囲拡大のため、環境レベル放射能標準用の体積線源の作成を産総研と日本アイソト
ープ協会が行い、日本分析センターが、それらの線源により測定器機の高精度校正を試みた。図−1にそ
の研究体制を示す。
図−1
環境レベル放射能標準高度化のための研究体制
日本分析センタ−は、これまで我が国の環境放射能測定の民間サービス機関として、文科省の委託によ
り原子力発電所や米軍の原子力艦船による環境放射能の変化を長年に亘り担当してきている。また、各県
からの試料を定期的に測定し、県レベルの測定結果の整合性を確認するための継続的な測定も実施してき
た。そこで、放射能のトレーサビリティの範囲を環境レベルにまで拡張する目的から、産総研で値付けら
れた一次標準を希釈し、環境試料と同様の体積線源を作成して、日本分析センターの Ge 検出器の校正を実
施した。これにより、放射能標準の供給範囲を環境レベルにまで広げることが出来た。
233
物理標準の高度化に関する研究
研究目的
我が国の標準供給 [1] において、そのトレーサビリティ確立が遅れていた放射能標準の供給体系 [2] を整
備・拡大し、標準のトランスファと安定性を確実に保証するため必要な特定標準器及び特定二次標準器に
適した機器の開発・整備を行う。これにより、産総研の値付けた一次標準から二次標準、さらには実用標
準のレベルに至る標準のトランスファ技術を確立し、実際の供給体制を整え、一般ユーザーにトレーサビ
リティが保証された線源の供給を開始する。
研究方法
日本分析センターが測定対象とする放射能レベルは、通常の放射能線源としての使用規制を受けないレ
ベルの、極微量な、環境レベルのおおよそ mBq/g 程度である。これまで産総研と日本アイソトープ協会が
主に扱ってきたのは医療用や通常の標準試料で kBq/g∼MBq/g と少なくとも6桁の違いがある。このため、
産総研で値付けた一次標準を、均質に大量に希釈する必要がある。溶液の場合には、比較的単純であるが、
模擬土壌線源のように、アルミナ粉末に吸着させた線源においては、均質性を確保することは容易ではな
い。そこで、産総研と日本アイソトープ協会と日本分析センターの3機関が協力して、トレーサビリティ
の保証された環境レベル測定用の体積線源を作成し、これを用いて産総研、日本アイソトープ協会、日本
分析センターのそれぞれの Ge 検出器を校正し、γ線スペクトロメトリーによる測定結果にトレーサビリテ
ィを持たせることを目指し、研究を実施した。
研究成果
産総研が特定標準器により値付けを行った 51Cr、57Co、54Mn、60Co 、85Sr、 88Y、109Cd、137Cs、139Ce の9核
種の放射能溶液を約 1000 倍に希釈し、これを基に日本アイソトープ協会で 100ml の溶液線源を作成した。
図-2に通常のポリエチレン容器に入れたタイプと U-8 容器で上部をシリコンゴムで密封した標準線源を
示す。
図−2
産総研で値付けた溶液を希釈して作成した体積線源(溶液)
234
物理標準の高度化に関する研究
一方、これらの溶液と、天然の K-40 を 200 倍に濃縮した溶液を混合し、アルミナに吸着させて模擬土壌
タイプの線源を作成した。吸着させたアルミナ粉末は乾燥後さらに適量のアルミナ粉末を加え、大型のV
ブレンダーにより十分に均質化した。この粉末を所定の容器に封入して整形する前に、アルミナの一部を
イメージングプレート上に均質に置いて約12時間放置し、その結果を読み出してその一様性を確認した。
このアルミナ線源を U-8 容器を切断して高さを変えた幾つかの容器に密封し、標準体積線源とした。これ
は、模擬土壌の試料の量により、自己吸収のため検出効率が変化することに対応するものである。図-3に
本研究で製作した体積線源を示す。
図−3
産総研で値付けた溶液をアルミナ粉末に吸着させて作成した模擬土壌線源
これらの線源を用いて産総研、日本アイソトープ協会、日本分析センターのそれぞれの Ge 検出器を校正し
た。図−4に産総研で使用した Ge 検出器を示す。
235
物理標準の高度化に関する研究
図−4
産総研で使用した Ge 検出器。今回、この測定器を高精度に校正出来たことにより、今後は随時二次標準が供給
できる。
また、図−5には、γ線のエネルギーの関数として得られた検出効率を示す。γ線のスペクトルを測定
し、特定のピークのエネルギーにおける検出効率が分かれば、測定試料内の放射能を導くことが出来る。
これにより、日本分析センターの Ge 検出器の検出効率、即ちγ線スペクトロメトリーの結果は、産総研に
トレーサブルとすることが出来た。
Efficiency
B
0.01
100
1000
Gamma-energy (keV)
図−5 Ge 検出器の検出効率。γ 線のエネルギーの関数として求められており、
この値が確定することにより、γ線スペクトルから直接放射能が導かれる。
考
察
放射能標準を環境レベルにまで拡大するため、一次標準溶液を6桁以上にも希釈し、体積線源を作成し、
測定器機の校正を実際の環境試料を測定するのと同じ条件で校正することが出来た。これにより、γ線ス
ペクトロメトリーについては、環境レベルにまでトレーサビリティを拡大することが出来た。また、イメ
ージングプレートを用いて環境レベルの様々な試料を測定し、極低レベル放射能に関しても幾つかの依頼
試験を受けることが可能となった。図−6に、イメージングプレートで測定したバナナとカボチャの結果
を示す。
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物理標準の高度化に関する研究
図−5 環境レベル放射能測定の例として、イメージングプレートを用いて測定されたバナナ(縦に 1/2 にスライス。
スライス面を密着)とカボチャ(1/4 割、切断面をイメージングプレートに密着)から得られた放射能分布の画像情報。
得られているのは、天然の放射能成分である K-40 で、カリウムの分布に比例する。バナナの場合、皮と中心の種の部分
に集中していることが読みとれる。
これは、食物に含まれるカリウムの中の K-40 の崩壊によるβ線を感じた結果で、約 0.05Bq/cm2 の放射能
[3,4]
を感じた結果である。但し、この図からだけでは、実際にこのバナナにどの程度の放射能が含まれてい
たかを決めることは出来ない。即ち、環境レベルの標準面線源が必要である。このとき、極微量の放射性
物質をインクジェットプリンタのインクに混入し、これを用いて環境レベル放射能測定用イメージングプ
レートの標準線源作製を試み、一様性と任意の濃度、パターンの面線源開発に成功した。現在この方式の
面線源作製に関する特許の申請中である。
これらの成果をふまえ、今後さらなる放射能標準の質と供給範囲の拡大を図り、一層の高度化を目指す。
特に、近年癌治療用にγ線を出さない純β線源や、診断用に短寿命の放射性核種が多く用いられて来てお
り、これらの核種についても、より精度の高い放射能標準の確立とその供給が求められている。また、環
境レベルの放射能に関しては、今後放射性廃棄物のクリアランスの検証技術確立が急務とされており、そ
のためには、バックグラウンドレベルの1%の放射能をきちんと測定し、明確な数値が得られるシステム
の開発が必要である。今後これらの分野に必要とされる高精度の放射能標準の開発と供給を目指し、研究
を進めて行く予定である。
引用文献
[1]
河田
燕、由良
治:”放射能標準の現状と今後の課題”
、電総研彙報第 47 巻第 9、10 号 797 (1983)
[2]
木村俊夫、桧野良穂:RI 等産業利用活性化のための活動−トレーサビリティ、 Radioisotopes, Vol.
237
物理標準の高度化に関する研究
46, No.10 (1998)
[3]
C. Mori et al.,”Detection of extremely low level radioactivity with imaging plate”, NIM, A339
(1994) 278-281.
[4]
C. Mori et al., “Effect of background radiation shielding on natural radioactivity distribution
measurement with imaging plate”, NIM A369 (1996) 544-546.
成果の発表
1.
吉清水克巳、他:平成12年度放射能分析確認調査結果報告、日本分析センター資料(2001)
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