高周波可聴音をスマートフォンで受信する方式による屋内

高周波可聴音をスマートフォンで受信する方式による
屋内測位のための検討
Study of the Indoor Positioning Method that a Smartphone Receive High-Frequency Audible Sound
岩崎改
田中 博
五百蔵重典
Kai Iwasaki
Hiroshi Tanaka Shigenori Ioroi
神奈川工科大学 情報工学科
Information and Computer Sciences, Kanagawa Institute of Technology
1.はじめに
音波を用いる測位方法は,音波の伝搬速度の遅さから,
電波を使った測位方式に比べて高精度で測位できる利点
がある.筆者らは(超)音波を発信する機構をクライアン
トに持たせ,天井に設置したマイクでその音を受信し,
その受信時刻の差から位置を検出する屋内測位システム
を開発している[1].この方法は,機構が簡単であるが,複
数測位したい場合は,更なる工夫が必要となる.そこで,
我々は,天井にスピーカを設置し,そのスピーカから異
なる音を発音し,クライアント側に備えられたマイクで
音を受信する方法で,測位する方法を提案し,実現可能
性について議論する.
2.基本原理
2.1
音波を使った屋内測位
音波を使った測位の基本原理は,GPS と同じであり,
音波の到達時間の差を用いる.クライアントが音を発信
するか,受信するかで,システムの特徴が異なる.
表1:音波を使った屋内測位システムの特徴
クライアントが音を
発信
受信
発信する音
同じ
異なる
複数クライアントの区別
難しい
容易
広域化
容易
難しい
それぞれ,長所短所があるが,本論文ではクライアン
トが音を受信する方式での屋内測位の可能性を探る.
2.2
クライアントが音を受信する測位方法
本測位方法では,複数のスピーカから同時刻に正確に
発音する機構が必要である.そのため,発音機を組み込
みシステムで作成する.作成した機器は,発音開始時間
と発音終了時間を同期信号で同期しており,発音時間の
誤差は 5us 以内で,この誤差は距離にすると 1.71mm であ
る.また,発音周波数の指定ができる.
スマートフォンで録音したデータは,4 音が重なり合っ
た状態であるため,この音を分けるために FFT を行う.
しかし,マイコンや音波が環境変化の影響を受けるため,
受信する音の周波数には誤差がある.そのため,固定の
指定周波数成分を解析するのではなく,スペクトルから
頂点を抽出し,指定周波数に最も近い頂点の周波数帯の
成分を,指定周波数の値として利用する.
また,測位するためには,各周波数の受音時刻を知る
必要がある.FFT を連続的に適用することにより,特定の
周波数の発音開始時刻を調べる.このとき,受信音量に
差があるため,固定閾値を使えない.そこで,バースト
波を FFT 解析した結果が台形に近い形になる特徴を利用
する.しかし,この台形のエッジは,形が崩れている.
そこで,固定長の区間で閾値以上の傾きがある点を抽出
し,抽出した点集合から直線で近似推定し,X 軸との交点
を立ち上がりの開始時刻とする.また,立ち下がりも同
様に受音時刻の推測に用いる.そして,1 回の録音で複数
のエッジが得られるため,複数の開始時刻を推測し,そ
の平均値を求めることで精度を高めている.
3. 測距実験
3.1
2音の到達時間差による距離の推定
異なる周波数の音を出力する 2 個のスピーカを向い合
せに設置し,これらを結ぶ直線上にスマートフォンを設
置する.音の到達時間の差で,スマートフォンと各スピ
ーカとの距離の差を求める.
スピーカとの距離の差を 200mm から 1000m まで,200mm
間 隔 で 測 距 実 験 を し た 結 果 , 平 均 誤 差 48mm 標 準 偏 差
44.9mm で測距できることを確認した.
3.2
5 音による到達時間差の確認
異なる周波数の音を出力する 5 個のスピーカを 1000mm
×2000mm の範囲内に配置し,スマートフォンをそのほぼ
中心に,1720mm の高さに取り付けて実験を行う.
音量が小さいと受信音の立ち上がりが鈍くなり,本来
の開始時刻より到達が遅い判定になる.そのため,現状
では受信音量を揃えて実験している.
5 個のスピーカからの距離を求める実験では,平均誤差
45.5mm 標準偏差 54.9mm となった,
4.まとめ
2 音を使った場合での距離推定は,平均誤差 48mm で測
距できることを確認した.5 音の場合,正確に測距するに
はいくつかの制約条件が必要である.これらの条件下で
は、誤差 500mm 程度の精度で測位可能であると類推して
いる.
今後は,音量と波形の関係,発音特性および受音特性
を調査する必要があると思われる.また,マイクおよび
スピーカの指向性の改善が必要であると思われる.また,
異常値が含まれる問題があるため,過去の測距履歴から,
異常値を検出して排除したり,平均を求めて測位精度を
高めたりするなどの工夫が必要だと考えている.
謝辞
本研究は文部科学省科学技術研究費基盤(C)課題番号 24500219
の補助を得て行った.
参考文献
[1] 秋山他,"超音波センサを用いた広域屋内測位システムの構成
と検証実験",測位航法学会論文誌, Vol.3, No.1, pp.1-8(2012).