Otol Jpn 25 ( 4 ) : 411 , 2015 1 Petrosquamosal sinus 損傷により術中多量出血が生じた一例 石野 岳志、竹野 幸夫、呉 奎真、平川 勝洋 広島大学 医学部 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 【症例】 65 歳女性 【主訴】 重度感音性難聴 【現病歴】 16 歳・19 歳時に左真珠腫性中耳炎に対して手術施行。左耳は以後難聴となる。44 才頃、横断 歩道歩行中の交通事故による、意識不明あり。覚醒後より右難聴を自覚する様になった。45 才 で右難聴進行しHA装用開始。その後、難聴が徐々に進行。63才頃から家族との会話にも支障を 来し、人工内耳手術希望あり、当科紹介受診。 【既往歴】 HT 【検査所見】 標準純音聴力検査で両側重度感音性難聴の所見を呈した。 【画像所見】 右側頭骨単純 CT では、乳突蜂巣発育はやや不良。錐体骨の上面から乳突蜂巣上方を走行する 溝および管腔状構造を認めた。一部蜂巣内粘膜の腫脹も疑われた。内耳奇形、中耳奇形は認め なかった。 【経過】 右耳後部を切開して、乳突削開を行った。乳突洞口を確認するために乳突洞天蓋方向を 4.0mm カッティングバーにて削開中、大量出血が生じた。出血は静脈性であったが、サージセ ルなどを使用した圧迫止血では止血できず、4.0mm ダイヤモンドバーにて止血が可能であっ た。その後、後鼓室解放を行い、蝸牛開窓を行って人工内耳電極の挿入を行った。術中出血は 268ml であった。術後経過は問題なく、1 週間で退院した。現在は外来で経過観察中である。術 後、CT を再確認したところ、錐体骨上面を走行する管状構造を損傷したことが出血の原因と想 定され、この管状構造は petrosquamosal sinus(PSS)であったと診断した。 【考察】 PSS は遺残性静脈洞であり、正常側頭骨内でも約 20%に認められるとの報告もあるが、耳科手 術の教本においてその危険性について記述されていることは少ない。本血管は横静脈洞から分 岐し外頸静脈に流入するが、その走行は錐体骨の上面を錐体鱗裂に沿って後方から前方に向か って走行し、中硬膜静脈や深側頭静脈へ流入する。このため天蓋方向の骨削開を行う際には損 傷の危険性が高いと想定される。PSSは手術の際に損傷した場合、本症例のように術中に大量出 血をきたすことが想定されるため、術前の CT で PSS が想定された場合は、損傷を回避するよう な手術プランを検討する必要がある。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 412 , 2015 2 鎖耳における正円窓へのアプローチルートとしての Subfacial air tract 松田 圭二、中西 悠、長井 慎成、平原 信哉、山田 悠祐、東野 哲也 宮崎大学 医学部 耳鼻咽喉・頭頸部外科 【はじめに】 先天性外耳道閉鎖症(鎖耳)において安定した術後聴力を得るために Vibrant Soundbeidge (VSB)は、従来の外耳道鼓室形成術に代わる最も信頼性の高い治療法の一つである。顔面神経 が ア ブ ミ 骨 上 を 走 行 す る 頻 度 が 高 い 鎖 耳 で は 、振 動 子 で あ る Floating Mass Transducer (FMT)の正円窓設置がしばしば必要とされる。正円窓へは、通常の側頭骨であれば後鼓室開 放術からの Facial recess approach(FRA)が一般的である。鎖耳では、顔面神経前下方偏位の ため FRA 困難例が存在し、その場合も顔面神経後方に形成された Subfacial air tract(SFAT) 経由に正円窓に到達できる例がある(subfacial approach; SFA)。しかし、SFAT に関する報告 は少なく、その頻度や解剖学的な詳細は明らかではない。本研究では、鎖耳におけるSFATの有 無などを検討し、最適な正円窓アプローチの術前評価法を確立することを目的とした。 【対象と方法】 当科で耳介形成や外耳道鼓室形成術を行った鎖耳 23 耳 18 人(両側5人)を対象とした。23 耳の 耳介奇形の内訳は、Marx I 6耳、Marx II 1 耳、Marx III 16 耳で、骨部外耳道の完全閉鎖が 18 耳、狭窄が5耳だった。側頭骨 CT 軸位断の観察で、顔面神経から後半規管に垂線を引き、そこ を横切る含気スペースをSubfacial air tract(SFAT)と定義した。23耳についてSFAT有り群、 無し群、分類不能の3群に分けた。各耳は、さらにJahrsdoerfer grading scale(JGS) (文献1)、 active middle ear index(aMEI) (文献2)に従って点数をつけた。SFAT 有無と JGS、aMEI の 関係について評価した。 【結果】 SFAT は全体の 74%に存在した(17/23)。SFAT 無しが 22%(5/23)、分類不能が 4%(1/23)で あった。JGS スコアの分布は、1点が1耳、5点が1耳、6点が3耳、7点が4耳、8点が8 耳、9点が6耳であった。これに CT による SFAT 検討結果を重ねると、JGS1点の1耳は分類 不能、JGS5点から8点の16耳では SFAT あり、JGS9点の6耳のうち5耳で SFAT なし、1 耳でSFATがありと判断した。SFATが存在するかどうかの境界は、JGSスコア8から9点にあっ た。JGS パラメーターの検討から、外耳道残基の有無、顔面神経走行異常の有無が SFAT の発現 に深く関与していることが推察された。23耳のaMEIスコア分布は、0-4 high riskに1耳、5-8 difficultに4耳、9-12 moderateに10耳、13-16 easyに8耳となった。JGS8点以上の14耳は、aMEIで は moderate か easy に分類され、JGS が高得点であれば aMEI も高得点になる傾向がみられた。 CT で顔面神経がアブミ骨上を走行する所見は SFAT 有り群にのみ見られ、SFAT 有り群の 65% (11/17)、全体の48%(11/23)を占めた。この11例のaMEIスコアはdificultが4耳、moderateが 5 耳、easy が 2 耳であった。 【考察】 鎖耳で外耳道残基が無い例では、顔面神経が前下方を走行し通常の側頭骨では見られないSFAT が形成される。今回の検討でその出現頻度は 74%と高率で、SFAT 経由の FMT 正円窓設置は、 予想より多くの症例で適合する可能性がある。 1)Jahrsdoerfer RA, et al. Am J Otol 13(1): 6-12, 1992 2)Frenzel H, et al. Neuroradiology 55(7): 895-911, 2013 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 413 , 2015 3 鼓室形成術における細胞シート移植法の検討 森野常太郎 1,2、山本 和央 1,2、谷口雄一郎 3、小島 博己 1 1 東京慈恵会医科大学 耳鼻咽喉科学教室、2 東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 3 聖マリアンナ医科大学 耳鼻咽喉科学教室 【はじめに】 中耳真珠腫や癒着性中耳炎術後の露出した骨面上に早期に粘膜が再生されれば、術後鼓膜の再 癒着や再形成性真珠腫の予防が可能と考えられ、我々は中耳粘膜の再生を目的とし研究を行っ てきた。これまでに我々は温度応答性培養皿を用いて家兎の鼻粘膜上皮細胞シートを作製し、 この細胞シートを用いて中耳粘膜障害モデルへの移植実験を行い、中耳腔粘膜を再生させ良好 な結果を得た。さらに本技術をヒトへ臨床応用することができるよう厚生労働省に申請を行 い、ヒトにおける鼻粘膜上皮細胞シートの作製および真珠腫性中耳炎患者における移植を 5 例行 ってきた。目的とする患部に移植を行うためには、シートを培養皿より剥離した後、容器から 取り出し、病変部位まで移送し、その患部に貼付するという一連の操作が必要となる。現在の 方法は、剥離したシートをシリコンプレートあるいは先端が鈍のカテーテルに吸引して患部へ 移送し、その後患部を中心にシートを伸ばして貼付し移植を行っている。上皮細胞のみで構成 されている鼻粘膜細胞シートは非常に薄く、弾力がないため、シートを目的部位に移送し、適 度な緊張を持って貼付するにはある程度の技術を要する。そこで今回、より簡便で、確実かつ 円滑に、シートの回収および移送し患部へ貼付できる新しい移植法に関して検討したので報告 する。 【対象および方法】 内視鏡下鼻内手術で採取した組織をメスで可及的に上皮下組織を削除し、ディスパーゼに 37 度 で 2-4 時間浸漬する。粘膜上皮層と下層に剥離し、上層を回収する。回収した上皮層を細分し 単離した上皮細胞に対して組織片培養を行う。培地交換は 1-3 日毎に行う。十分量の上皮細胞 が培養された後、温度応答性培養皿へ継代培養を行う。温度応答性培養皿に上皮細胞播種後、 培地交換を繰り返し、鼻粘膜細胞シートを回収する。側頭骨手術モデルを使用し、回収した細 胞シートを乳突腔、鼓室へ移植操作を行う。移植方法は、シートを剥離する前に支持体を載 せ、支持体ごとシートを剥離した後、移植を行うことができるかどうか検討した。 【結果および考察】 従来の方法ではシートを移送し目的の場所まで確実に貼付するにはかなりの技術を要したが、 今回シートと支持体を重ねて剥離することで比較的容易に移植操作を行うことができた。シー トに支持体を重ねることで、シートの把持が可能となり移送や貼付が容易になると同時に、シ ート自体が縮んでしまうことや裏表が分かりにくくなることを防ぐことが可能となった。今後 さらなる検討を行い、簡便、かつ確実に細胞シートを患部へ移送できる新しい方法を確立して いくことを目標としていく。将来、一般的な医療として多くの患者を治療できるよう、細胞シ ートを取り扱うツールをさらに用意する必要があり、工学のエンジニアと連携しツールの検討 を行っていく。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 414 , 2015 4 細胞シート移植を併用した鼓室形成術の検討 山本 和央 1,2、森野常太郎 1,2、小森 学 1、三浦 正寛 1、 近澤 仁志1,3、谷口雄一郎3、鴻 信義1、小島 博己1 1 東京慈恵会医科大学 耳鼻咽喉科学教室、2 東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 3 聖マリアンナ医科大学 耳鼻咽喉科学教室 【はじめに】 癒着性中耳炎や中耳真珠腫の術後の粘膜が欠損した骨面上に早期に中耳粘膜が再生されれ ば、術後の鼓膜の再癒着や真珠腫の再形成の予防が可能と考え、我々は中耳粘膜の再生を目的 に研究を行ってきた。外耳道後壁保存型鼓室形成術では、術後生理的な外耳道形態を保持でき る利点があるものの、真珠腫の再発が問題となる。このうち、遺残性再発については内視鏡の 導入により以前に比べ抑えられてきているが、しかしながら再形成性再発については今でも確 実に防止する方法はなく、また、鼓膜の再癒着を確実に防止する方法も未だ確立されていな い。これらの問題を解決するために、われわれは外耳道後壁保存型鼓室形成術の際に、自己の 培養上皮細胞シートの移植を併用するという新たな術式を開発した。これまでの基礎研究で、 我々は家兎において培養鼻腔粘膜上皮細胞シートの移植が中耳粘膜の再生を促進することを示 し、また、ヒトでの鼻腔粘膜上皮細胞シートの作製にも成功した。これら前臨床試験の良好な 結果を踏まえ、大学倫理委員会と厚生労働省の承認のもと、我々はこの新規治療のヒト臨床研 究を開始している。 【対象および方法】 中耳真珠腫もしくは癒着性中耳炎の患者に対して、外来にて内視鏡下に約10×10mm大のヒト 鼻粘膜組織を採取し、自己血清含有 KCM(Keratinocyte Culture Medium)培地を用いて、あ らかじめ作製した製造指図・製造記録書に沿って、東京慈恵会医科大学の GMP(Good Manufacturing Practice)対応施設である細胞培養センター(CPC: Cell Processing Center)での無菌 操作により約 26 日間の培養期間を経て、自己鼻腔粘膜上皮細胞シートを作製した。外耳道後壁 保存型鼓室形成術施行時に、上鼓室や乳突腔の中耳粘膜が欠損し露出した骨面や、鼓膜の癒着 を防止する目的でアブミ骨周囲や軟骨による形成鼓膜の裏面に細胞シートの移植を施行した。 【結果】 現在までに弛緩部型中耳真珠腫2例、緊張部型中耳真珠腫2例、癒着性中耳炎1例の患者に対し て、自己鼻腔粘膜上皮細胞シート移植を併用した鼓室形成術を施行した。作製した自己の培養 上皮細胞シートはいずれも設定された品質基準を満たし、中耳手術の際に安全に移植すること に成功した。狭い上鼓室の骨面やアブミ骨周囲に対しては移植用デバイスを用いることで細胞 シートを移植することが可能であった。移植後 6 ヶ月以上経過し CT を施行した弛緩部型中耳真 珠腫症例では、細胞シートの移植した部位に一致して中耳腔、乳突腔の含気化が始まり、CT 所 見で非常に良好な中耳腔、乳突腔の含気化が確認され、理想的な術後形態が得られた。現在ま でのところ、すべての症例で鼓膜の再陥凹や再癒着はなく、真珠腫の再発も認めておらず、術 後聴力成績判定基準においても成功耳となっている。また、細胞シート移植による有害事象や 合併症も認めていない。 【考察】 本臨床研究の開始により中耳手術における新たな治療法の可能性が示唆された。本臨床研究 は、外耳道保存型鼓室形成術という形態的に正常に近い外耳道形態を残しながら、鼓膜の再癒 着・再陥凹や真珠腫の再発を確実に予防できる新しい手術法として期待できる。今後、本臨床 研究を継続し、この新規治療の安全性と有効性を検証し、中耳手術において細胞シートを併用 する新たな術式として確立していきたい。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 415 , 2015 5 アパセラムによる乳突充填後、充填材料の露出と難治性肉芽腫を生じ 再手術を施行した 1 例 根本 俊光 成田赤十字病院 耳鼻咽喉科 【はじめに】今回、弛緩部型真珠腫に対しアパセラムによる乳突充填術を施行された症例におい て、充填材料の露出と難治性肉芽腫形成に対して再手術を行う機会を得た。若干の文献的考察 を加えて発表する。 【症例提示】患者は50歳代女性。既往歴として13歳で口蓋裂の手術歴あり。家族歴に特記すべき ことなし。右弛緩部型真珠腫に対して 1997 年 9 月に右鼓室形成術および乳突削開術を施行され た。再発性再発に対して 1998 年当科にて再手術を施行、後壁削除型鼓室形成術および乳突腔の 清掃を行い、乳突腔はアパセラムで充填、非乳突開放型とし、上鼓室には薄切軟骨を層状に重 ねて充填と scutum plasty を兼ねた。術後経過は良好であったが、2003 年頃から外耳道後壁の 欠損が生じ、徐々にアパセラムが露出した。2010 年には外耳道後壁から突出する肉芽腫(図 1、 図 2)が出現し耳漏を繰り返したため、2011 年外耳道腫瘍切除と薄切軟骨による後壁再建を行っ た。しかしながら術後も外耳道の肉芽腫は再発を繰り返し保存的治療に抵抗性であったため、 2015 年 5 月右乳突削開術を施行、乳突腔のアパセラムを可及的に削除し、所謂 open cavity を作 成した。現在まで肉芽腫の再発なく経過は良好である。 【考察】中江らは 207 耳の乳突充填症例中、予後不良で再手術を要したものは 12 例で、その内訳 は頭蓋内合併症例2耳、炎症再燃例4耳、真珠腫再発6耳であり、炎症再燃例は病的肉芽を伴った と述べている。松田らはアパセラムブロックによる乳突充填術後症例で、アパセラムの露出と 感染性肉芽腫を伴った症例に関する再手術(段階手術)を報告している。本症例は中頭蓋底の 骨欠損や真珠腫再発がなく、鼓室も含気しており聴力も比較的良好であった。当初は経外耳道 的な肉芽除去と薄切軟骨による後壁再建で病態の改善を期待したが、最終的には乳突削開術に て可及的にアパセラムを削除し乳突開放することで反応性肉芽腫をコントロールした。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 416 , 2015 6 側頭骨手術研修における 3D モデルの有用性と限界 高橋 邦行、森田 由香、山本 裕、大島 伸介、窪田 和、泉 修司、堀井 新 新潟大学 医学部 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 【はじめに】 側頭骨手術は骨という硬組織の中に入っている神経、血管を損傷せずに、骨組織を削開、病変を除去 しなくてはならない。骨削開時にはハイスピードドリルを用いることから、重要組織に接触すると重篤 な合併症を生じることがある。そのため、正確な解剖の把握、手術手技の習得が必須である。これまで 側頭骨手術手技の習得は、熟練術者の指導のもと実際の患者を対象に行うか、Cadaver Dissection によ る手術研修に頼っていた。Cadaver は手術研修の最も優れた対象であるが、海外での研修コースは高額 であり、日本では倫理的な問題がいまだ整備中である。近年 3D データ作成ソフト、3D プリンターの発 展、普及により、比較的簡単に 3D モデルを作成することができるようになった。われわれは本機を用 いて側頭骨 3D モデルを作成し、第 24 回日本耳科学会ハンズオンセミナーで使用した。そこでハンズオ ンセミナー参加者から得られたアンケートをもとに、側頭骨手術研修における 3D モデルの有用性と限 界について報告する。 【3D モデルの作成】 被検者から得られたCTデータを元に、側頭骨3Dモデルを作成した。データ処理は3Dデータ作成ソフ トZedViewを用い、モデル造形はフルカラー3DプリンターProjet460 Plusを用いた。本プリンターは石 膏粉末を 0.1mm 厚で積層することでモデルを造形するため、特別な処理をしなければ乳突蜂巣のような 含気腔には石膏粉末が詰まった状態となる。それの除去のために 3D データ上で乳突蜂巣内に小トンネ ルを作成、さらに乳突外側面、中頭蓋窩面、後頭蓋窩面、頭蓋底下面に 2〜3mm の複数の小孔を開け た。解剖学的な孔に加え、人為的に作成した小孔から、エアブローにて可能な限り石膏粉末を除去し、 含気腔を再現した。人為的に作成した小孔は最終段階で石膏粉末にて閉鎖した。また 3D データ上で耳 小骨は緑色、顔面神経は橙色、前庭・半規管・蝸牛は紫色、内頸静脈は赤色、S 状静脈洞-内頸静脈は青 色に着色した。3D モデルの硬化には瞬間硬化性溶浸剤である ColorBond を使用した。 【検討方法】 ハンズオンセミナー参加者にアンケートを送付し、耳鼻咽喉科経験年数、耳科手術経験年数の記載 と、3D モデルの再現性について評価してもらった。評価は、側頭骨モデルの硬さ・削り感、各部位 (耳小骨、鼓室、上鼓室、乳突洞、乳突蜂巣、顔面神経、半規管、蝸牛、内頸動脈、S状静脈洞)の形状 について 5 点満点で採点してもらった。また自由意見も記載してもらった。 【結果】 ハンズオンセミナー参加者23人中20人より回答を得た。耳鼻咽喉科経験年数は0.5年〜24年(平均8.5 年)、耳科手術経験年数は 0 年〜18 年(平均 3.3 年)であった。側頭骨モデルの硬さ・削り感の評価は平 均4.4点であった。各部位の形状の再現性の評価は、ツチ骨4.3、キヌタ骨4.3、アブミ骨3.9、鼓室3.8、上 鼓室4.2、乳突洞4.0、乳突蜂巣3.7、顔面神経4.5、半規管4.5、S状静脈洞4.3であった。蝸牛、内頸動脈は 実習中に確認できなかったという意見が多くを占めた。 【考察】 今回使用した 3D モデルは、材質が石膏であり、溶浸剤の使用により強度が増すことから、耳科手術 年数の経験にかかわらず硬さ・削り感の満足度の評価は高かった。また部位別に着色を行ったこともあ り、ツチ骨、キヌタ骨、顔面神経、半規管の形状には比較的高い点数が得られた。すなわち本調査によ り側頭骨 3D モデルは手術研修で用いるにはある程度の満足度が得られるレベルにまで達していること がわかった。一方、アブミ骨、乳突蜂巣などの微小構造の再現性が悪いなどの課題もみられた。3D プ リンターの特性上、乳突蜂巣のような含気腔を完全に再現することはできない。そのため乳突蜂巣内に 小トンネルを、表面に小孔を作成し、内部に堆積した石膏粉末の除去を試みたが、結果的に蜂巣構造が 不自然になったと思われた。乳突蜂巣内の粉末除去に対する対策として側頭骨モデルを一度分割、石膏 粉末を除去後、再度貼り合わせることによってモデルを完成させるという報告もある。しかし、いずれ の方法を用いても蜂巣構造が完全に自然な形となることはなく、含気腔をどのように再現するかが今後 の課題と考えられた。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 417 , 2015 7 鼓室形成術における2-オクチルシアノアクリレートの有用性 蓮 琢也 1、海邊 昭子 1、穴澤卯太郎 1、多田 剛志 1、 深美 悟2、春名 眞一2、田中 康広1 1 獨協医科大学 越谷病院 耳鼻咽喉科、2 獨協医科大学病院 <はじめに> 近年、全ての手術操作を内視鏡下に行う経外耳道的内視鏡下耳科手術をはじめ とした低侵襲手術が注目されている。また、そのほかにも入院期間の短縮や患者、医療者双方 のストレスのない術後処置も求められてきており、医療の在り方も変革されつつある。それに 対応すべく私どもは手術操作や術後管理を改善するためにいくつかの方法を試案し、実施して いる。これまで当科では創の処理は皮下と皮膚の縫合後、カラヤヘッシブⓇまたはテガダームⓇ といったドレッシング剤を貼付し抜糸までの期間、汚染された場合のみ適宜交換を行ってき た。しかしながら、処置時の創部観察が困難であることやドレッシング剤の剥離により頻回の 交換を要する事例があること、シャワー浴可能となるまでの期間が長いこと、術後すぐに眼鏡 を使用できないこと、などの問題点が見受けられる。そこで今回、この問題点の解決を目的と して、耳後切開を行う鼓室形成術症例に対し2-オクチルシアノアクリレート(2-OCA:ダ ーマボンドⓇアドバンスド)を閉創時に使用し、その有用性について検討した。具体的には従来 より行われていた術後処置や入院生活の制限をどのように改善出来うるのか、またその安全性 についての比較を行った。2-OCA はホルムアルデヒドとシアノアセテートからなる化合物で その単量体が水分に反応し重合体を形成することにより固定し接着能を有する。ひとたび硬化 すればマイクロバリアを形成し創内部との交通を遮断するため細菌等の物理的侵入リスクが低 減される。また、その強度は 4‐0 縫合糸と同等であると報告され、術後早期のシャワー浴や眼 鏡の着用、術後処置におけるストレスの軽減などが期待できる。 <対象および方法> 対象は獨協医科大学越谷病院にて 2015 年 2 月から 2015 年 5 月までに耳後切 開で行った鼓室形成術症例で慢性穿孔性中耳炎8耳、先天性耳小骨奇形4耳、外リンパ瘻疑い1耳 とした。その内訳は男性7耳、女性6耳、年齢は12歳から74歳(平均43.5歳)、患側は右10耳、左 3 耳であった。耳前部切開や筋膜採取のみの目的で耳後部に切開を置いた場合は除外した。鼓室 形成術は通常の耳後切開でアプローチしたのち外耳道皮膚を拳上し、鼓室内操作を行った。そ の後、慢性穿孔性中耳炎の症例に対しては側頭筋膜を underlay にて挿入して鼓膜を形成した。 創閉鎖は全例同術者が行い、創の完全止血を得た状態を確認後、吸収糸を用いて丁寧に皮下縫 合を行い、2-OCA を一層塗布し約 60 秒間保持した。術後は第1病日から 30 病日までの創観察 を行い、術後処置や入院生活の制限をどのように改善出来うるのか、またその安全性について の比較を行った。 <結果および考察> 手術後早期の洗髪が可能となり、術直後より眼鏡を着用できるといった 入院生活上の改善が得られた。2-OCA を使用した場合、創部のドレッシングは不要で、かつ 透明なため創を常時観察可能となり、患者および医療者双方の処置時のストレスが軽減され た。 鼓室形成術は中耳を対象とした感染巣を対象とすることが多いため CDC ガイドラインの 手術清潔度分類ではClass2:準清潔、時にClass3:不潔の扱いが妥当かと思われる。中耳手術 の SSI の発生頻度は全体で 1%から 10%程度とされ、頭頸部領域での他部位手術に比較し低い が、鼓室形成術に対する2―OCA 使用時の感染に対する安全性についての報告は少ない。当院 においては13例中13例がCDCガイドラインで術創はClass2であり、SSI発生頻度は0%(0/13) であった。SSI 発生頻度は患者背景や手術時間に影響されるが今回の検討では患者背景としての 年齢や基礎疾患に関してSSI発生頻度の相関は、認めなかった。患者のQOL向上と低侵襲手術な らびに術後管理の簡便性の追求において、自験例から2-OCA の使用の安全性について文献的 考察を加え再評価し、利点および欠点について報告する。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 418 , 2015 8 鼓室形成術習熟への取り組み 比野平恭之 1、小林 斉 2、伊藤 彩子 3、小林 一女 4 1 昭和大学 江東豊洲病院 耳鼻咽喉科、2 昭和大学 藤が丘病院 耳鼻咽喉科、 3 昭和大学 横浜市北部病院 耳鼻咽喉科、4 昭和大学 医学部 耳鼻咽喉科 【はじめに】 近年、国内外で手術解剖実習が広く行われるようになり、耳科領域においても手術手技の習 熟が容易となってきている。しかし実際の臨床の場でどのように手術トレーニングを行うかは 各施設の環境によるところが大きく、統一されたスケジュールは未だ定まっていない。 耳科手術、中でも最も頻度の高い鼓室形成術の習熟について当科における取り組みを述べ る。 【鼓室形成術トレーニング】 Step 1 全麻下手術において耳後切開から側頭骨皮質の露出、外耳道の剥離挙上。顕微鏡下での視野 と操作性の確保。止血と剥離の仕方、頭位と顕微鏡の角度に注意させる。外耳道皮膚の温存を 徹底させる。 Step 2 鼓膜輪の確認と鼓膜中間層での鼓膜剥離。鼓膜輪の温存と鼓膜全象限での視野と操作性確 保。必要に応じての骨部外耳道の削除。鼓索神経の温存と耳小骨連鎖の愛護的操作。 Step 3 キヌタ・アブミ関節、アブミ骨上部構造の確認。必要に応じての外耳道後壁削除。乳突削開 から乳突蜂巣の開放。乳突腔からのキヌタ骨の確認。 Step 4 正常キヌタ・アブミ関節の離断。耳小骨周囲病変の処理。耳小骨連鎖の再建。後鼓室開放の 基本。 以上の step で内視鏡を併用し、顕微鏡下手術との違いを理解する。その他、年に 1 回行ってい る昭和大学側頭骨手術解剖実習で、上記の Step 1〜4の反復練習を行う。他施設の手術解剖実 習への出席と手術見学を行う。 【おわりに】 当科においては経験年次毎の step ではなく、機会があれば年次に関係なく上記の要領でトレ ーニングを行っている。またこれ以上の step については各人の努力に任せている。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 419 , 2015 9 耳後切開を用いない鼓室形成術について 物部 寛子、山田智佳子、滝沢 克巳、岡田 和也 日本赤十字社医療センター 慢性中耳炎(単純穿孔性中耳炎)に対する鼓室形成術(特に鼓膜形成術)は耳科手術の基本 的な手技であるが,アプローチ法(耳内法もしくは耳後法),接着法の採用、および移植 材料の 選択(筋膜や結合織,軟骨膜またはコラーゲンなどの人工素材)、epidermal growth factor (EGF)を用いた鼓膜再生など手術法にはいくつか選択肢が存在する。また、鼓室形成術におい ても minimally invasive surgery として内視鏡下耳科手術が広がりつつあり、視野が良好である 点、術後圧迫が不要である点、耳後部に大きな創を作らない点などその利点は広く知られると ころであるが、慣れた顕微鏡視野と異なるため、learnig curve を有し、相応のトレーニングが 必要である。我々は 2014 年より慢性中耳炎症例に対し従来の顕微鏡下手術にて完全耳内法と し、また耳珠軟骨膜を移植材料として採取することにより、術後ケアを最小限とした内視鏡下 耳科手術と同様の minimally invasive surgery を施行しているのでこの手技について検討し報告 する。対象は2014年7月から2015年4月までの10か月間に当院にて鼓室形成術を施行した慢性中 耳炎症例16例、緊張部型真珠腫症例stage Ib1例の計17例、年齢は5歳から82歳まで平均52歳、 男性 6 例、女性 11 例である。疾患の内訳は慢性中耳炎 12 例(70%)鼓膜換気チューブ留置後 5 例 (29.4%)であった。鼓膜穿孔の大きさは吉川らの分類により GradeI 1 例(5.9%)、GradeII 4 例 (23.5%) 、GradeIII9 例(52.9%)、GradeIV3 例(17.6%)であった。なお、MRSA 感染耳が 2 例含 まれた。手術は局所麻酔または全身麻酔にて耳珠軟骨膜を採取し、耳鏡下に輪状切開を施行、 前下壁の突出する症例は視野を確保するために外耳道を削開した上で、鼓膜を全層剥離,翻転 した。鼓膜穿孔縁を新鮮化し,軟骨膜を underlay 法にて鼓膜を形成した。鼓膜の石灰化部 位 や肉芽は除去した。2 例を除く 15 例でフィブリン糊を使用した。今回検討した症例では耳小骨連 鎖の障害された症例はなく、全例で鼓室形成術 I 型となっていた。鼓膜穿孔閉鎖は 15/17 例 (88.2%)であった。症例数が限られるため穿孔残存の原因としての統計学的評価は困難だが、 筋膜や結合織に比較し軟骨膜は伸縮せず、穿孔の大きさがgradeIII以上では余裕をもって穿孔を 覆えない症例、特に小児症例では採取できる軟骨膜が小さく、この傾向がある印象があった。 手技としては慣れた手技で minimally invasive surgery を施行できるため、試みてもよい方法と 考える。 参考文献 1)吉川兼人,瀧本勲,石神寛通,他:外傷性鼓膜穿孔症例の検:討.耳鼻臨床,78:1293-1301,1985. Otol Jpn 25 ( 4 ) : 420 , 2015 10 これまでに経験した耳手術症例と今後について 中村有加里、平場 友子、鈴鹿 有子、宮澤 徹、三輪 高喜 金沢医科大学 耳鼻咽喉科 【はじめに】医師国家試験における耳鼻咽喉科領域の出題数は全 500 問題中 20 題、4.0%である中 でも耳に特化した出題数は 10 題と更に限られている(第 107 回 2013 年実施)。ということで学 生時代に得た耳科領域への知識は決して多くはない。そのような状態で後期研修医となり耳科 領域の手術を実際に経験した。今回、これまでに経験した耳手術症例を振り返って、将来耳鼻 科医を志す研修医や医学生のために、また指導者へのメッセージとして我々の感じたこと、経 験を残すことに意味を感じてここに報告する。 【経験症例】2015年5月現在までで担当した入院、全身麻酔下の手術症例は真珠腫性中耳炎3例、 鼓室硬化症(慢性中耳炎合併)1例、顔面神経麻痺2例、滲出性中耳炎5例であった。経験した耳 手術症例数は鼓室形成術4例、顔面神経減荷術2例、鼓膜チューブ留置術5例の計11例であった。 まず、これまでに経験した手術症例から得た感想は以下の通りである。耳鏡により十分な視野 の確保が難しい。内視鏡での所見とは大きく違い、すべてを一度に見ることはできない。顕微 鏡のセッティング、左手の吸引、右手の鉗子操作が落ち着くまでかなりの時間を消耗する。4 例 は自身で鼓膜切開を施行した。鼓膜切開では適切な切開の大きさや切開刀を入れる深さの感覚 がわからない。切開が小さすぎて 3 回繰り返したこともあった。また吸引時に多量の滲出液が引 けたときは手応えを感じた。鼓膜チューブによって得手、不得手が徐々にはっきりしてくると 同時に、これならできる自信もあるので、始めから終りまで一人でやれる機会が早くほしい。 鼓室形成術は助手として手術に参加している。役割は鈎で牽引したり注水したりがほとんどで あるので、術者とは緊張感が明らかに違う。術者の手技をモニターで見ているが、実際何をや っているのかわからない所も多いし、毎回違うことをしているような印象がある。耳の手術は 難しいと聞いてはいるが、微細でかつ危険箇所が多く、一人ですべてをしなければならないと 思うと何年かかるかわからない。術者も術中に CT を見直すこともあるが、頭の中で3Dを構築 し、すぐ削開に反映するのは我々にはとうてい無理である。今回経験した症例はわずかで、実 際自分がやったことはさらに限られているが、耳科手術特有の印象は感じられた。 【考察】教科書で見る解剖と実際の解剖とではかなり相違があり、また手術手技においても指導 書との違いがありすぎる。症例ごとに違うのでイメージはあるが、上級医の指導がなければ立 ち止まってしまう。現在は日本耳鼻咽喉科学会の専門医制度専門医研修にあたっての行動目標 の指針は立てられているが、具体的な順序立った指針ではない。側頭骨実習はもう少し立体的 な解剖が身についてからの参加が望ましいと言われている。練習ができるわけでもなく、いつ でも本番という現実で、数をこなせばできるようになるのかが一番の不安である。我々にあっ た段階を経た行動目標スケールの作成が必要と感じる。耳科学を目指す限りは手術の習得は必 須で、できるようになること、さらにうまくできるように上達することが義務付けられる。再 発、聴力の低下、顔面神経麻痺や術後のめまい、耳鳴の出現、味覚障害など何かあったら怖い という恐怖感は大きいし、微細でかつ個人技の差が出るというのも耳科手術の特徴である。 我々のみならず、今後耳科手術を志す若手医師のために手術を通して、経験を共有して耳科学 をより身近に感じられるようになりたいと願う。 【おわりに】 抄録作成時点では後期研修開始 2 か月の経験での感想であるが、発表時には更に 4 か月経験が増えており、その時点での感想も加えて報告したい。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 421 , 2015 11 当科における全中耳再建術症例 松澤 真吾 1、民井 智 1、江洲 欣彦 1、長谷川雅世 1、原 真理子 1、新鍋 晶浩 1、 吉田 尚弘1、飯野ゆき子2、金沢 弘美3、山本 大喜3 1 自治医科大学附属さいたま医療センター 耳鼻咽喉科、2 東京北医療センター 3 さいたま市民医療センター Open 法の中耳手術後により発生する cavity problem の解消ならびに聴力改善のために、当科 は全中耳再建術を施行している。側頭骨 CT で構造を確認し、術後含気化が見込めるか耳管通気 を行うなどして、適応の是非を検討している。耳漏が継続している症例に対しては手術数日前 に入院のうえ、連日の抗菌薬投与および入念な耳洗浄を行い手術に臨んでいる。手術方法は耳 後部切開にて外耳道上皮を挙上し、耳珠軟骨や耳介軟骨を用いて解放されている上鼓室、乳突 腔を形成する。またその際に可能であれば軟骨コルメラを用いて伝音再建も行っている。挙上 した上皮は血行が悪いものは一部切除し、筋膜 flap、骨膜 flap も用いて骨露出部を覆う。術後は 創部が上皮化するまで頻回の局所処置を行い、感染を制御している。2009 年から 2015 年までの 間に当科で施行した全中耳再建術21例21耳について主訴(治療目的)、術式、治療効果(聴力の推 移、上皮化の是非)等についてまとめた。年齢は 26 歳から 81 歳までの平均 56 歳で、前回手術か ら全中耳再建術に至るまでの期間は約2年から約60年までの平均約33年であった。主訴(治療目 的)としては耳漏のみが 16 例、耳漏および難聴が 4 例、難聴のみが 1 例であった。他施設におけ る前回最終手術の推察される術式はWO が 17 例、3 型が 3 例、1 型が 1 例で、当科の全中耳再建術 の術式は3型が16例、4型が4例、1型が1例となった。術前聴力と術後聴力を比較すると3分法で 45dB 以上改善した例から不変であった症例まで、平均 18.5dB(3 分法)の改善をみとめ、その うち主訴(治療目的)に難聴が含まれていた症例では平均13.5dB(3分法)の改善が得られた。 術後に創部が完全に上皮化して耳漏が停止するまでの期間は、約 2 カ月から約 1 年までの平均約 5.0 カ月であった。 【考察】術後数カ月程度はかかるものの、手術を施行した全例で耳漏停止にいたり、耳漏停止を 目的とした症例に対しては良好な結果を得られている。術後聴力については改善に乏しい症例 もあったが平均的には改善した。全中耳再建術の施行の是非や術式については様々議論の余地 はあるが、過去の報告と比較して当科で経験した症例について検討する。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 422 , 2015 12 open method における薄切軟骨の有用性 白馬 伸洋、林 裕史、室伏 利久 帝京大学医学部附属溝口病院 【はじめに】 open methodにて鼓室形成術を行った場合、外耳道後壁が無いため、筋膜のみで鼓膜形成を行 った場合、残った耳小骨や新たに耳小骨再建のために挿入したコルメラ周囲の筋膜が、特に facial ridge との間で段差を生じ、部分的に深く陥凹することで難聴や耳閉感の原因となる。演者 は残った耳小骨や挿入したコルメラ周囲の筋膜に深い陥凹が生じないための工夫として、筋膜 とともに薄切軟骨を鼓膜再建材料として用いている。耳小骨やコルメラを薄切軟骨で大きく被 覆することにより、鼓膜の補強と同時に耳小骨やコルメラと facial ridge との間の段差を無くし ている。また薄切軟骨は薄切軟骨単独あるいは結合組織付きの薄切軟骨を用いている。今回、 open method における薄切軟骨を用いる手技の紹介およびその有用性について報告する。 【対象】 演者が平成 21 年 6 月より平成 27 年 5 月までに愛媛大学附属病院および帝京大学医学部附属溝口 病院において行った鼓室形成術 943 例中、open method は 103 例(10.9%)であった。open method 103 例中、真珠腫新生例は 42 例であり、術後性中耳炎や真珠腫再発例は 61 例であった。 術後性中耳炎や真珠腫再発例は全て前回の手術が radical ope.を含む open method により外耳道 後壁が既に無い症例であった。 【結果】 耳小骨の再建法としては、I型5例、III型65例(III型1例、IIIc型61例、IIIi型3例)、IV型31例 (IV型2例、IVc型29例)、段階的手術で再建なしにw.o.が2例であった。再建材料では、IIIc型61 例中、人工耳小骨が39例、自家骨16例、軟骨5例、皮質骨1例であり、IIIi型3例中、人工耳小骨 が 1 例、自家骨 1 例、軟骨 1 例であり、IVc 型 29 例では人工耳小骨が 25 例、自家骨 2 例、軟骨 2 例 であった。1 年以上の経過観察を行えた症例の術後聴力については、聴力成績判定基準 2010 年案 に基づいた成功例は、全体では 60 例中 38 例(63.3%)、I 型 2 例中 2 例(100%)III 型 40 例中 28 例 (70%) 、IV型18例中8例(44.4%)であった。IV型の不成功10例であるが、蝸牛ろう孔を合併し た真珠腫新鮮例1例以外は全て術後性中耳炎の症例であり、13年〜69年前にradical ope.を受けた 症例であった。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 423 , 2015 13 明らかな鼓膜穿孔・陥凹のない伝音難聴症例 田邉 牧人、山本 悦生、老木 浩之 老木医院 山本中耳サージセンター 【はじめに】 日常診療で、鼓膜の穿孔や陥凹を認めない伝音難聴症例に遭遇することがある。それぞれの症 例の病態は、病歴、ティンパノグラム(以下 TG)、アブミ骨筋反射(以下 SR)から推測出来る こともあるが、側頭骨 CT によって、より詳細に推測することが可能である。 今回は、明らかな鼓膜の穿孔・陥凹のない伝音難聴症例の病態と、各検査所見との関連につい て報告する。 【対象】 対象は当院外来を受診した伝音難聴症例のうち、明らかな鼓膜穿孔や陥凹を認めず、側頭骨 CT あるいは術中所見で診断のついたと思われる症例である。 TGのA型群は-100から+100daPaとし、その中でコンプライアンスが0.2ml以下をAs型、1.0ml以 上を Ad 型、0.2 から 1.0ml を A 型とした。SR は音刺激時に少しでも反射の反応があれば陽性とし た。 【症例】 症例1、12歳女性。数年前より両側難聴を自覚。鼓膜は正常。右耳48.3dB、左耳40dBの伝音難聴 を認め、TG は両耳 A 型、SR は両耳とも陽性であった。側頭骨 CT 上、中耳腔に軟部組織陰影無 く、耳小骨の形態に異常を認めなかった。右耳の術中所見では、耳小骨連鎖は正常だったがア ブミ骨の固着を認め、アブミ骨底開窓術を施行した結果、術後聴力は 26.7dB まで改善した。 症例 2、53 歳女性。以前より右側難聴を自覚。鼓膜は正常。右耳 45dB の伝音難聴を認め、TG は 両耳ともAd型であった。側頭骨CT上、中耳腔に軟部組織陰影無く、右耳キヌタ骨長脚が描出さ れず、耳小骨離断と診断した。術中所見では、術前診断通りキヌタ骨長脚が欠損し、アブミ骨 脚も細かったため鼓室形成術 IViM とした。術後聴力は 25dB まで改善した。 症例3、8歳女性。当院初診の1週間ほど前から、右難聴を自覚。鼓膜は正常。右耳30dBの伝音難 聴を認め、TG は両耳 A 型、SR は両耳とも陽性であった。側頭骨 CT 上、右耳アブミ骨上部構造 の描出が不明瞭であり、軟部組織陰影の様にも見え、耳小骨奇形、先天性真珠腫、腫瘍性病変 などの可能性が考えられた。右耳の術中所見では、アブミ骨上部構造が欠損し、同部位に open 型の真珠腫塊を認め、これを清掃後鼓室形成術 IViM とした。術後聴力は 1.7dB まで改善した。 症例 4、74 歳女性。以前より中耳炎の反復あり、両側難聴を自覚。鼓膜は穿孔や陥凹は認めない ものの、一部に石灰化を認めた。右耳100dB、左耳56.7dBの混合難聴を認め、TGは両耳B型であ った。側頭骨 CT 上、両耳ともアブミ骨周囲に硬化像を伴う軟部組織陰影を認め、右耳は鼓膜そ のものも硬化像を認め。鼓室硬化症と診断した。右耳の術中所見では、側頭骨 CT どおりにアブ ミ骨周囲の骨化した病変のため、耳小骨は固着していた。また、鼓膜も骨化しており固着して いた。耳小骨周囲の骨化病変を除去し、鼓膜は骨化部分を中心に切除し、鼓室形成術 IIIc とし た。術後聴力は 78.3dB まで改善した。 【考察】 鼓膜に明らかな穿孔・陥凹を認めない伝音難聴症例は、症例 2、症例 4 のように経過と所見から 病態を推測可能な症例もあるが、症例1、3のようにTGやSRが正常反応で、それだけでは推測困 難な症例も多い。可能なら側頭骨 CT などで病態を把握して、治療の可能性も含めて患者に説明 できるように心がけるべきと思われた。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 424 , 2015 14 突発性難聴の重症度分類と治療成績 吉田 恵 1、櫟原 崇宏 1、萩森 伸一 1、金沢 敦子 1、 大村 修士1、河田 了1、森 京子2、西角 章3 1 大阪医科大学 耳鼻咽喉科頭頸部外科、2 市立ひらかた病院 耳鼻咽喉科、 3 洛和会音羽病院 耳鼻咽喉科頭頸部外科 【はじめに】突発性難聴は、突然発症する原因不明の高度感音難聴である。発症から 2 週間を経 過すると治療効果が小さく、したがって発症後 2 週以内に十分な治療を行うことが肝要である。 治療はステロイド投与が行われるが、高齢者、めまい合併、高度難聴例では予後は一般的に不 良である。そこで今回、当科で突発性難聴と診断した症例について、臨床症状・所見と予後と の関連について検討したので報告する。 【対象と方法】平成22年1月から平成27年3月の間に当院で初回治療を行った突発性難聴170例を 対象とした。発症時年齢は 9 歳から 85 歳、中央値は 65 歳であった。内訳は男性 86 例、女性 84 例 で、患側は右 77 例、左 93 例であった。厚生労働省研究班による重症度分類および聴力回復の判 定基準を用いて評価した。治療は、8 日間によるプレドニゾロンを点滴または内服にて漸減投与 (年齢や全身状態を考慮し総量520mg/body〜200mg/body)を行った。糖尿病合併例については 全例入院のうえ、インスリン投与を併用して通常量のプレドニゾロンを投与した。高度難聴例 や治療効果が乏しい例に対しては、リポ PGE1 製剤の点滴静脈注射を 5 日間追加した。効果判定 は治癒となった例ではその時点で、治癒に至らない場合は発症後半年以上経過した後に行い、 治療後に治癒または著明回復となった症例を有効とした。発症時の年齢、めまいの有無、難聴 の程度と治療後の聴力につき検討を行った。統計学的検討はχ2 検定を用い、p<0.05 にて有意な 差を認めるとした。 【結果】1.年齢 70歳台が最も多く60歳台、50歳台と続き、この年代において127例(74.7%)を 占めた。治癒率は60歳未満で38.3%、60歳以上で21.8%(p=0.03)、有効率は60歳未満で60.0%、 60 歳以上で 42.7%であり (p=0.04)、60 歳以上で治療成績は不良であった。2.めまい めまいあり が 38 例で、内訳は Grade 1a が 3 例(15%) 、Grade 2a が 8 例(38%) 、Grade 3a が 8 例(12%) 、 Grade 4aが19例(54%)であった。めまいなしが132例であった。治癒率においてめまいあり群 は 18.4%(7 例)、めまいなし群は 30.3%(40 例)であり、有意差を認めなかった(p=0.21)。有効率 においてめまいあり群は 47.4%(18 例) 、めまいなし群 42.8%(65 例)であり、有意差を認めな かった(p=0.98)。3.難聴の程度 難聴の程度についてはGrade 1が20例、Grade 2が47例、Grade 3が68例、Grade 4が35例であった。Grade 1は治癒率が50%、有効率が50%であり、Grade 2は 治癒率が31.9%、有効率が34.0%、Grade 3は治癒率が29.4%、有効率が51.5%、Grade 4は治癒率 が 5.7%、有効率が 62.9%であった。 【考察】突発性難聴の予後について発症時の年齢やめまいの有無、難聴の程度が重要な因子であ るといわれている。突発性難聴の発症年齢は 50〜60 歳台に多いとする報告が多い。自験例では 中央値が 65 歳であり、70 歳台が最も多く 60 歳台、50 歳台と続き、この年代において 127 例 (74.7%)を占めやや高齢化を認めた。これは近年の人口の高齢化を反映しているものと考え る。60 歳以上の治療効果は 60 歳未満と比べると有意な差を持って治癒率および有効率が低かっ たことは、従来の報告どおりであった。めまいはGradeが上がるにつれて割合が増加するが、め まいの有無による予後に有意差を認めることはなかった。当科では強いめまいを訴える例につ いては CTP 検出による外リンパ瘻の除外診断を行っており、外リンパ瘻例が含まれなかったこ とが影響した可能性も考えられる。難聴の程度に関してはGradeが上がるにつれて、治癒率は低 下した。一方、著明回復以上の有効率は Grade 2 が最も低かった。Grade 2 は 40〜60dB の聴力レ ベルであり、この中にはメニエール病などの突発性難聴と同様の症状を呈する疾患が混在して いた可能性があり、これがステロイドを中心とする治療の成績に影響したとも考えられる。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 425 , 2015 15 初期治療に抵抗を示した急性低音障害型感音難聴の検討 森田 真也、藤原 圭志、中丸 裕爾、福田 篤、福田 諭 北海道大学大学院医学研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野 【はじめに】急性低音障害型感音難聴に対する初期治療として、イソソルビドおよびステロイド 全身投与が施行されることが多く、一般的には予後良好であると報告されている。しかしなが ら、これらの初期治療に抵抗を示す症例、長期経過で反復・再発・メニエール病移行を示す症 例も認められ、その治療に難渋することも少なくない。突発性難聴難治例に対しては、サルベ ージ治療として鼓室内ステロイド注入療法の有効性が報告され、American Academy of Otolaryngology-Head and Neck Surgery(AAO-HNS)が提唱した診療ガイドライン(2012 年)で は、 「Recommendation」となっている。一方で、急性低音障害型感音難聴に対するサルベージ 治療については文献上報告が少ない。今回、初期治療に抵抗を示した急性低音障害型感音難聴 に関して、短期的および長期的な経過に基づいて検討を行ったので報告する。 【対象と方法】2000年1月から2013年12月までの期間に、初期治療開始後2〜4週間の時点で治療 効果不変または悪化と判定された急性低音障害型感音難聴症例を対象とした。初期治療抵抗例 に対して鼓室内ステロイド注入療法を、Dexamethasone 注射液 1 回 2mg(0.5ml)、1 週間おきに 効果が認められるまで最大4回施行した症例は36例であった(ITS群)。鼓室内ステロイド注入療 法を希望せず、イソソルビド内服開始または初期治療からの継続とした症例は 55 例であった (Diuretics 群)。また、どちらの治療も施行しなかった症例は 36 例であった(Control 群)。観察 後 1〜2 ヵ月の時点で、厚生労働省特定疾患急性高度難聴調査研究班による判定基準案を用いて 治療効果判定を行った。また、12 ヵ月以上観察して再発率およびメニエール病移行率に関して 評価を行った。 【結果】改善率に関しては、ITS群75.0%、Diuretics群50.9%、Control群36.1%であり、鼓室内ス テロイド注入療法の治療効果が有意に良好であった。再発率およびメニエール病移行率に関し ては、5 年の観察期間で ITS 群は 32.1%、11.3%、Diuretics 群は 35.2%、15.2%、Control 群は 43.2%、9.0%であり、それぞれ有意差を認めなかった。 【考察】初期治療に抵抗を示した急性低音障害型感音難聴に対するサルベージ治療として、鼓室 内ステロイド注入療法の短期的な有効性が示唆された。長期的な経過では再発およびメニエー ル病移行の制御に寄与しなかったが、繰り返し鼓室内ステロイド注入療法を施行することは治 療の選択肢になりうると考えられた。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 426 , 2015 16 急性感音難聴患者におけるムンプス IgM 抗体陽性率の検討 福田 篤、森田 真也、藤原 圭志、中丸 裕爾、福田 諭 北海道大学大学院医学研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野 【背景】急性感音難聴患者においては,5-7%の症例でムンプス IgM 抗体の上昇が認められ,ムン プス不顕性感染による難聴の可能性が高いと考えられている.しかし,従来の抗体検出試薬で は,半年以上の長期にわたってIgM抗体が検出される例や健常成人においてもIgM抗体が非特異 的に検出される例が報告されたため,ムンプス不顕性感染による難聴と診断されていた症例の 中に,ムンプス偽陽性,すなわち非ムンプス難聴症例が含まれていたのではないかという疑念 が生じていた.2009 年 12 月より新しいムンプス酵素免疫法(EIA)-IgM 抗体検出試薬が導入さ れた.新しい試薬は改良前と比較して,特異度の向上,すなわち偽陽性率の低下が認められ, 臨床経過と IgM 抗体推移の相関がより良好であることが確認された.今回われわれは,新しい 試薬の導入以降での急性感音難聴患者のムンプス IgM 抗体の陽性率を検討した.また,改良前 の試薬を用いて過去に当科で検討した急性感音難聴患者群との間でムンプス IgM 抗体陽性率の 比較検討を行った. 【対象と方法】対象は,2010 年 1 月から 2015 年 4 月までの間に当科を受診した急性感音難聴患者 で,ムンプス IgM 抗体を測定した 31 例である.ムンプス IgM 抗体はデンカ生研のムンプス EIAIgM抗体検出試薬を用いて測定した.比較対象は,1992年2月から1999年12月までの間に当科を 受診した急性感音難聴患者 69 例である.これらの群と今回の群の間で,ムンプス IgM 抗体陽性 率の比較を Fisher の正確確率検定を用いて行った(p 値が 0.05 未満を有意水準とした). 【結果】男性15例,女性16例,平均年齢は54.3歳(14-79歳,中央値57歳)であった.難聴発症か ら血清採取までの期間は,1-54 日(平均 10.7 日)であった.全 31 例の平均聴力レベル(0.5,1, 2,4 kHzの4周波数平均)は71.0dB(軽度;-40 dB:5例,中等度;41-60 dB:7例,高度;61-80 dB:5 例,重度;80- dB:14 例)であった.ムンプス IgM 抗体陽性例は全 31 例中,2 例であった (6.5%) .2例はいずれもムンプスIgG抗体が陽性であった.比較対象とした過去69例のうち,5例 (7.2%)が初診時にムンプス IgM 抗体陽性であった.全 69 例の平均聴力レベルは 74.4dB であっ た .今 回 と 過 去 の 抗 体 陽 性 率 の 比 較 検 討 で は ,統 計 学 的 な 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た (p=0.626). 【考察】今回の検討では,急性感音難聴患者 31 例中,2 例(6.5%)にムンプス IgM 抗体陽性が認 められ,これらの症例はムンプス不顕性感染によるムンプス難聴と考えられる.症例数が少な いものの,急性感音難聴におけるムンプス IgM 抗体の陽性率は,従来の報告と同程度である可 能性がある.また,新しい試薬を用いて検討した健常者でのムンプス IgM 抗体陽性率は 0.3%で あったとする報告を参考にすると,ムンプス不顕性感染によるムンプス難聴は一定の割合で存 在していることが示唆される.今後さらに症例を増やして,不顕性感染によるムンプス難聴の 検討を重ねる必要があると考える. Otol Jpn 25 ( 4 ) : 427 , 2015 17 睡眠障害に起因すると考えられた感音難聴症例 ─突発性難聴との鑑別についての考察 陣内 自治 1,2、川田 育二 1、武田 憲昭 2 1 阿南共栄病院 耳鼻咽喉科、2 徳島大学耳鼻咽喉科 【緒言】 突発性難聴の治療に関して本邦では一般的にステロイドを使用しているのが現状であると思われる。 突発性難聴に対するステロイドの有効性をはじめて報告したWilson の論文が書かれた時代にくらべる と、突発性難聴にステロイド治療が有効であったという報告よりステロイド治療は自然治癒と有意差が なかったという報告の方が次第に多く見られるようになり、近年では条件を選べば有効性があるとの報 告が見られるように変わってきた。このような現状を鑑みて森満保先生は第52回聴覚医学会で突難に対 するステロイドの有効性についての総論を発表された。要約するとステロイドの有効性をより正確に評 価するには、ステロイドが有効であろう難聴を早期鑑別することが重要で、自然治癒例を除外していく 必要があると述べられた 1)。また北海道大学の中村らのレジメを紹介され自然回復例をスクリーニング する方法を強く推奨された。北大方式のプロトコール:初診日は聴力検査のみとし、連日検査して改善 が認められる間は無治療を継続する。2日目以降に改善がないか、途中で回復が停止したら投薬開始す るという方法である 2)。北大方式では突発性難聴の自然治癒例を可及的に区別できる優れた治療方針で あると述べられている。他方、小川は H6 年度の厚生省特定疾患急性高度難聴研究班の臨床試験の問題 点として、治療法や服薬状況の不確実性などの他に、安静度の条件の差などを挙げている 3) 。 当院では難聴を訴えて受診した症例に対しては、できる限り生活習慣を詳しく聴取して難聴の原因を 推測する作業のなかで、睡眠習慣が影響を及ぼしていると考えられる症例に対しては、まず睡眠衛生指 導を行う方針をとっている。今回我々は、睡眠障害を修正することによってステロイドの使用なしに難 聴が改善した例を経験したので本会で報告し、突発性難聴として扱った場合、統計上は突発性難聴の自 然治癒例と解釈される可能性のある疾患群について考察したので報告する。本症例は、感音難聴の自然 経過へどのように対応するかという問題に示唆を与える症例であったと考えられた。詳細は口演予定で ある。 【考察】 我々は睡眠外来を開設し睡眠障害のある患者に対応しているが、その患者のほとんどが「自分の睡眠 に問題がある」という自覚が欠如している。当科では、難聴患者に対しても一般外来で細かな問診聴取 ができるように質問票を作成し、細やかな睡眠指導を行っている。睡眠と耳症状の関連についての報告 は少ないが、数少ない報告の中で荒尾はメラトニン受容体拮抗薬で睡眠障害を改善することによって、 耳鳴が改善すると報告している。突発性難聴として治療される感音難聴のなかには、自覚のない睡眠障 害症例が一定数含まれていると考えられる。しかし難聴が高度の場合はステロイドの早期投与を倫理的 に行わざるを得ないという臨床医としてのジレンマも禁じえない。睡眠障害はホルモン環境を変化させ ることは知られているが、どのような機序で難聴、耳鳴を生じているかは未だ不明である。しかし、状 況証拠として睡眠を正常化すると難聴が回復するという事例を積み重ねることが臨床的には最も重要と 思われ、突発性難聴に安静が必要であることに支持的なデータとなると考えられる。 【結語】 難聴や耳鳴を訴える患者で感音難聴が疑われる場合、睡眠障害の有無を詳しく聴取することは突発性 難聴の鑑別に非常に重要であると考えられた。今後、 「突発性難聴の自然治癒」と解釈されうるケースを 集積し、ある程度難聴の原因を推測できるような algorithm を構築していくことが、突発性難聴の治療 効果のバイアスを下げるのではないかと考えられた。 『参考文献』 1)森満保:突発性難聴の治療的診断改善への提言.耳鼻 55.89-96,2009 2)中村興治他:突発性難聴の自然治癒例と治療例との比較.日耳鼻 84:983-998,1981 3)池田勝久他:EBM 耳鼻咽喉科・頭頸部外科の治療 2010-2011.P149-154.中外医学社,2010.東京 4)荒尾はるみ:耳鳴症例に対するメラトニン受容体アゴニスト(ラメルテオン)の効果.耳鼻臨 105.2:167-176,2012 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 428 , 2015 18 蝸牛内出血が原因と考えられた進行型急性感音難聴の一例 宝上 竜也、野村 直孝、中原 啓、硲田 猛真、榎本 雅夫 りんくう総合医療センター 耳鼻咽喉科 【はじめに】突発性難聴は原因が何であるか、意見の分かれるところであるが、今回われわれ は、右突発性難聴として加療中に急激に難聴が悪化し、精査にて蝸牛出血が起こっていた症例 に遭遇したのでこれを報告する。 【症例】59 歳男性。5 年ほど前に左突発性難聴の診断で加療され、その後左には難聴が残存し た。今回は右の聞こえも悪くなったと近医受診し、右の聴力も低下を認めたため当院に右突発 性難聴にて紹介となった。 【経過】聴力検査にて両側の感音難聴認め、SISI テストは両側とも陽性で、前医で右の難聴はな かったとのことなので、右突発性難聴の診断にて、当院のプロトコールに従いステロイドの漸 減療法開始とした。加療開始日の聴力検査図は別資料で添付する。加療開始第6日目の聴力検 査において、右難聴が悪化しスケールアウトとなる。聴力検査図は別資料で添付する。急性進 行型の難聴として、聴神経鞘腫が鑑別に上がると考え、加療第 22 日目に頭部 MRI 撮影を行った ところ、右蝸牛内に3D-FLAIR で高信号を認め、蝸牛内出血を疑うとの報告を得た。別資料 画像参照。その後は難聴以外に随伴症状なく、外来にてメコバラミンおよびアデノシン三リン 酸二ナトリウム水和物処方にてフォローをおこなった。加療開始より 1 か月経過時点で聴力は経 度の改善を認め、およそ半年後には聴力は加療開始時と同程度にまで回復した。加療開始後 3 か 月の MRI においては、右蝸牛内に3D-FLAIR で高信号を認める状況は変わらなかった。しか し、初回の MRI で T2 強調画像において蝸牛近位部が細く見えていたが、それは消失しており、 蝸牛内に不均一に見えていた低信号領域も消失していた。当患者は現在も当科にてフォロー中 である。 【まとめ】今回われわれは蝸牛内出血もしくは蝸牛内の炎症が原因と考えられる急性進行型感音 難聴に出会った。われわれの調べた限りでは、急性の感音難聴で蝸牛内に出血があったという 症例の報告はなかった。定まった治療方針のない疾患であったが、加療中の聴力変化の様子、 また詳細な MRI 画像を併せて発表する。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 429 , 2015 19 突発性難聴における聴力改善の経過と内耳機能検査の検討 永井 賀子 1、萩原 晃 2、小川 恭生 3、鈴木 衞 1、稲垣 太郎 1、 清水 重敬1、河口 幸江4、河野 淳1 1 3 東京医科大学 耳鼻咽喉科学分野、2 耳鼻咽喉科 萩原医院、 東京医科大学八王子医療センター 耳鼻咽喉科・頭頸部外科、4 厚生中央病院 耳鼻咽喉科 【はじめに】突発性難聴の予後に関する報告は多く、当科では入院加療を行ったGrade3以上の突 発性難聴について検討し、60 歳以上例、めまい随伴例、Grade4 例が有意差を持って予後が悪い と報告した。また、突発性難聴 121 例の治療開始後の聴力改善経過と改善率について検討した結 果、治療開始後7日以内に20dB以上の聴力改善がみられる例では聴力予後は良好であり、治療開 始後 14 日以内に 20dB 以上の聴力改善がみられない例では聴力予後は不良であった。また、以前 我々は、突発性難聴例の内耳機能検査を検討し、突発性難聴では初診時の聴力は oVEMP の異常 と相関はなかったが、聴力予後が悪い方が oVEMP 異常は有意に多い結果であった。今回我々 は、突発性難聴における聴力経過とその改善率について内耳機能検査の結果を検討したので報 告する。 【方法】2010年1月から2014年9月に東京医科大学病院耳鼻咽喉科外来を受診した突発性難聴と診 断され入院加療を行った72例を対象とした。性別は男性41例、女性31例で、年齢は17歳から82 歳で、平均年齢は50.3歳であった。診断後、可能な限り早期にoVEMP、cVEMPを測定し、聴力 予後との検討を行った。難聴の重症度分類は 1998 年厚生省高度難聴調査研究班に従った。重症 度は Grade2 が 13 例、Grade3 が 28 例、Grade4 が 31 例であった。治療の効果判定は、厚生省特定 疾患急性高度難聴調査研究班(1984 年)の判定基準を用いた。また治療開始後、7 日以内に 5 周 波数の平均聴力が20dB以上改善した例を早期改善群、8日以上14日以内に改善した例を中期改善 群、14 日以内に改善がみられない例を改善なし群の 3 群に分けて検討した。繰り返す感音難聴 例、両側難聴例は除外した。 【結果】全症例の治療効果は治癒が15例、著明回復が24例、回復が15例、不変が18例であった。 Grade別の治療効果はGrade2(N=13)で治癒が3例、回復が7例、不変3例で、Grade3(N=28) で治癒が11、著明回復が11例、回復が2例、不変が4例で、Grade4(N=31)で治癒が1例、著明回復 が13例、回復が6例、不変が11例であった。早期改善群は24例、中期改善群は6例、改善なし群 は 42 例であった。早期改善群は Grade2:5 例、Grade3:16、Grade4:3、中期改善群は Grade2:2 例、 Grade3:3例、Grade4:1例 、改善なし群はGrade2:6例、Grade3:9例、 Grade4:27例であった。早 期改善群ではcVEMP正常が17例(70.8%)、異常が7例(29.2%)、oVEMP正常が22例(91.7%)、 異 常 が 2 例 (8.3% )で あ っ た 。中 期 改 善 群 は 、cVEMP 正 常 が 5 例 (83.3% )、異 常 が 1 例 (16.7%)、oVEMP は全例正常であった。改善なし群では、cVEMP 正常が 19 例(45.2%) 、異常 が23例(54.8%)、oVEMP正常が31例(73.8%)、異常が11例(26.2%)であった。改善なし群で は有意に VEMP の異常率が高い結果であった。改善なし群では有意に VEMP の異常率が高い結 果であった。 【考察】突発性難聴治療開始後の聴力回復過程については、治療開始後 7 日以内、遅くとも 14 日 以内に聴力の回復傾向の有無で、ある程度聴力予後予測が可能と考えられている。今回我々 は、突発性難聴例に対し可能な限り発症早期に VEMP を行い、その聴力改善の経過について検 討した。14 日以内に聴力改善がみられない群では VEMP が異常を示す割合は有意に高くなり、 VEMP は突発性難聴の聴力予後を発症早期に予測できる一つの手段となる可能性がある。ま た、当科では突発性難聴では 7 日間ステロイドの全身投与を行った後に追治療を患者に選択して もらっているが、追治療選択の説明時などにも VEMP の結果は有用であると考えた。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 430 , 2015 20 後天性真珠腫の臨床検討 吉田 尚生、平塚 康之、山田光一郎、草野 純子 大阪赤十字病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科 1.はじめに:真珠腫性中耳炎に対する術式は施設によって様々であるが、当科では,外耳道 後壁保存鼓室形成術を基本術式としている。真珠腫母膜の連続性を保ち、病的粘膜も含めた enblocな摘出を目標としている。連続性が破綻した場合や開放型真珠腫に対しては、段階的鼓室形 成術を行っている。鼓室洞病変に対しては,posterior tympanotomy や耳内視鏡を併用すること で遺残に留意している。今回は、当科における後天性真珠腫の臨床像、治療方法、治療成績に ついて検討したので報告する。 2.対象と方法:2013 年 1 月から 2014 年 7 月までの期間に大阪赤十字病院耳鼻咽喉科・頭頸部外 科にて初回治療を施行した後天性真珠腫例は 80 名 81 耳であった。性差は、男性:45 名女性:35 名 で、年齢は中央値45歳であった。術後観察期間は、2013年1月から2015年5月までとした。疾患 は、弛緩部型真珠腫:65耳、緊張部型真珠腫12耳,二次性真珠腫4耳であった。一期的手術は54 耳、段階的鼓室形成術は27耳であった。CWU:52耳、CWD:14耳、TCA:14耳、中耳根本術:1耳。 一期的手術で行った再建方法は、I 型:8 耳、IIIc 型:27 耳、IIIi-M 型:10 耳、IIIr 型:1 耳、IVc 型:7 耳であった。真珠腫の進展に関して、日本耳科学会の中耳真珠腫進展度分類 2010 改訂案に基づ き、副分類である進展部位の区分(PTAM 区分)とアブミ骨病変の程度(S0-3)は術中所見か ら判断し、乳突部の蜂巣発育程度と含気状態(MC0-3)は、術中所見及び術前CT所見で判断した。 また、治療成績は、日本耳科学会の術後聴力判定基準 2010 年度版で成績を判定した。 3.結果:弛緩部型は:Stage Ia:3耳、Stage Ib:12耳、Stage II:44耳(PTAM:5耳、TAM:15耳、 PAM:2耳、PTA:1耳、AM:16耳、AT:4耳、PA:1耳)StageIII:6耳(PTAM:3耳、TAM:2耳、AM:2 耳/LF:4 耳、CW+AE:1 耳、CW:1 耳)であった。緊張部型:Stage Ia:3 耳、Stage Ib:3 耳、Stage II:1 耳(PTA:1 耳)、StageIII:5 耳(PTAM:2 耳、PTA:耳、PT:1 耳、T:1 耳/AE:5 耳)であった。 MC分類では、MC0:6耳、MC1:32耳、MC1a:5耳、MC2:19耳、MC2a:12耳、MC3:4耳、MC3a:3耳 であった。S 分類では、S0:28 耳、S1:31 耳、S2:15 耳、S3:1 耳、SN:6 耳であった。一期的手術のう ち術後1年以上のフォローが可能であったものは、31 耳であった。そのうち、術後気骨導差 15dB 以内は 18 耳(58.1%)、聴力改善 15dB 以上は 9 耳(29.0%)、聴力レベル 30dB 以内は 12 耳 (38.7%) 、成功例は 67.4%であった。術後気骨導差 10dB 以内は 12 耳、20dB 以内は 10 耳、30dB 以 内は 8 耳 31dB 以上は 1 耳であった。 4.考察:一期的手術のうち、4 耳に再形成性再発、1 耳に鼓膜穿孔、1 耳にコルメラ露出を認 め、段階手術のうち、1 耳に再形成再発、5 耳に遺残性再発を認めた。術前の真珠腫進展度や乳 突蜂巣の発育や含気などの臨床像から術後成績を検討する。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 431 , 2015 中耳真珠腫 Second look operation の術後聴力の検討 21 鴫原俊太郎 1、野村 泰之 1、浅川 剛志 1、増田 毅 1、友松 裕貴 2、平井 良治 3、 岸野 明洋1、木村 優介1、池田 稔1、大島 猛史1 1 日本大学 医学部 耳鼻咽喉・頭頸部外科分野、2 国立病院機構 埼玉病院 耳鼻咽喉科 3 都立広尾病院 耳鼻咽喉科 はじめに 今回われわれは当科において行われた Second look operation(以下 Second look と省略)の内 容・聴力成績について検討した。 対象 2000年から2015年までに日本大学医学部板橋病院で行われた118例の真珠腫症例のSecond look operation (以下 Second look と省略)について検討した。両側例 1 例、複数回行われた例が 5 例 存在した。施行時平均年齢は 30.6 歳、性別は男性 70 例、女性は 48 例で、右 72 耳左 46 耳。初回手 術とSecond lookの間隔は平均431.0日中央値391日であり、最小225日最大952日であった。平均 経過観察期間は 1625 日であった。 結果 472例の真珠腫症例のうち75%に一期的手術が行われ、25%にSecond lookが行われた。Second lookは有意に低年齢に多く、術者間で行われる比率に違いがみられていた。患側・性差はみられ なかった。また真珠腫の進展度には関連はなかったが、アブミ骨病変または蜂巣発達により施 行の有無に有意差がみられた。 術式については上鼓室再建を行っていた症例のうち 33%が充填となり、0 型となっていた症例 はほぼ 3 型4型半数ずつとなった。Second look で再発が見られたのは 54例45.8%であり、内訳は 遺残性再発のみは39例33.1%、遺残および再形成5例4.2%、再形成10例8.5%であった。真珠腫の 残存は上鼓室にもっとも多く、天蓋、アブミ骨上、上鼓室前方にみられた。年齢患側性差術者 による残存率の違いはみられなかった。さらに合併症の有無により差はなかったが、進展度が 限局していない場合有意に遺残が多かった。乳突蜂巣の発達アブミ骨病変によっても差はみら れなかった。Second look 後には 12.8%に再発がみられており、充填されていない例で有意に多 くみられた。聴力については69.5%が成功の判定であり、連鎖別には1型80.0%、3型85.0%、4型 45.0%の成績であった。1 期目の手術に連鎖の再建を行っている場合としていない場合との比較 では特に差はみられなかった。 考察 今回の検討では Second look 時には遺残性再発は 37.3%にみられており、Second look は施行す る必要があると考えられたが、伝音連鎖の再建の有無により、Second look 後の聴力に差はな く、真珠腫がアブミ骨周辺に再発する可能性が高い例を除けば伝音連鎖は再建した方が良いと 考えた。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 432 , 2015 22 当科における緊張部型真珠腫症例の治療成績 染川 幸裕 1、長島 勉 1、正木 智之 1、矢島 諒人 2、氷見 徹夫 2 1 JR 札幌病院耳鼻咽喉科、2 札幌医科大学医学部耳鼻咽喉科 【目的】 緊張部型真珠腫は中鼓室病変が主体となるため、後鼓室や鼓室洞など視野を取りにく い部位での操作に加え、アブミ骨やその周囲および正円窓などの危険箇所での真珠腫処理も必 要となる。また、早期の stage でも高度なアブミ骨病変を伴う場合があり、4型伝音再建を要す る症例の頻度は弛緩部型より多く、加えて鼓膜全形成を要する症例も存在する。このため、緊 張部型の成績は弛緩部型に比べて不良のように思われる。そこで当科における緊張部型真珠腫 の治療成績を検討した。 【対象】 1990年1月から2014年3月までに(元帝京大学鈴木淳一教授により提唱された基本術式 である)外耳道後壁削除・再建型鼓室形成術を施行した stage1b 以上の緊張部型真珠腫 129 耳を 対象とした。対象の年齢は2歳から82歳の分布で、平均46歳、中央値49歳であり、経過観察期間 は平均5年6ヶ月、中央値4年2ヶ月であった。基本分類はstage 1b: 20耳(15.5%)、stage 2: 68耳 (52.7%) 、stage 3: 41 耳(31.8%)であり、stage 3 の内訳は AE 27 耳、AE/CW 2耳、AE/FP 1 耳、AE/LF 5 耳、AE/CW/FP 1 耳、AE/LD/LF 2 耳、LD 1 耳、LF 2 耳であった。真珠腫占拠 PTAM副分類は、T 22耳(17%)、TA 54耳(41.9%)、TAM 29耳(22.5%)、PTA 10耳(7.8%)、 PTAM 14 耳(10.9%)であった。アブミ骨病変の程度は、S0:0 耳、S1: 60 耳、S2:69 耳、であっ た。対象に対する鼓室形成術は一期手術 92 耳、段階手術 27 耳、点検手術 10 耳であった。また、 初回治療後1年以上経過し、聴力評価が可能であった症例は 117 耳であった。これらの伝音再建 形式は、1型2耳、2型1耳、3r型2耳、3i-I型2耳、3i-M型13耳、3c型40耳、4i-M型3耳、4c型54 耳であった。コルメラには全例自家軟骨を使用した。 【方法】 一期手術終了および段階二次手術や点検手術施行時を初回治療終了時点と定めた。術 後経過観察は、初回治療から2年までは6ヶ月以内の間隔で行ない、遺残性再発の有無を点検 する目的の CT 撮影は2年経過時点までに施行することを原則とした。この時点で問題を認めな かった症例は1年毎の経過観察とした。また、以後の CT 検査は、鼓膜の陥凹所見や再建した外 耳道上壁・後壁の膨隆などの所見や術後聴力の変動などを踏まえ必要に応じて施行した。 治 療成績の評価は、真珠腫再発による再手術や術後の不備による修正手術の累積発生率、さら に、これら手術を施行することなく「良好な術後聴力」を維持している症例(経過良好例)の 累積頻度により行った。なお、 「良好な術後聴力」は、日本耳科学会指針(2010)に従い、 (a)術 前骨導を使用した従来の判定基準成功例(以後基準a)、あるいは(b)術後骨導を用いた4分 法(0.5,1,2,3kHz、但し 3kHz は 2kHz と 4kHz の平均値で代用)による、慢性中耳疾患に対する鼓 室形成術としての気導骨導差 20dB 以内の症例(以後基準b)と定義した。 【成績および結論】 再形成性再発 7 耳、遺残性再発 6 耳に再手術を施行し、8 耳に修正手術を施 行した。遺残性再発部位は、アブミ骨と顔面神経の間(2 耳)、アブミ骨底板上(1)、鼓室洞 (1)、下鼓室(1) 、上鼓室前方の鼓索神経周囲(1)であり、6 耳中 5 耳が中鼓室であった。修正 手術を施行した問題点は、鼓膜癒着(2 耳)、コルメラ修正(5)、術後鼓膜穿孔(1)であった。 再形成性再発に対する再手術の累積発生率は、初回治療後1年0.8%、2年2.6%、5年6.1%、10〜15 年 10.4%であった。同様に遺残性再発の累積発生率は 1 年 0.9%、2 年 1.9%、5 年 4.1%、10〜15 年 6.3%であった。また、修正手術は1年0.9%、2年2.7%、5〜15年9.5%であった。さらに、聴力成績 を加えた総合評価である「経過良好例」の術後経過における累積頻度を、 (使用聴力評価基準a又 は b:緊張部型全体(%)/3 型全体(%)/4 型全体(%))の形式で記載すると、初回治療後 1 年 (a:85.0/89.3/79.6) (b:88.7/94.6/82.2)、2 年(a:77.3/81.7/71.2) (b:81.2/88.9/72.2)、5 年(a: 62.2/66.5/55.2) ( b:59.8/70.5/44.5)、10 年(a:49.8/53.7/42.1) ( b:53.0/58.3/44.6)、15 年(a: 49.8/53.7/42.1) (b:53.0/58.3/44.5)であった。 そこで、今回の成績の背景も検討し報告したい。 【参考文献】神田善伸:EZR でやさしく学ぶ統計学.中外医学社 2012 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 433 , 2015 23 上鼓室前方に限局した弛緩部型真珠腫症例に対する手術法とその術後成績 湯浅 有、桝谷 将偉、湯浅 涼 仙台・中耳サージセンター 【緒言】 当院では、上鼓室に限局した真珠腫症例に対しては、原則として経外耳道的に上鼓室外側壁 から外耳道後壁を削除し、真珠腫を摘出後、軟組織にて後壁形成を施行している。真珠腫がツ チ骨やキヌタ骨に浸潤している場合には、ツチ骨頭およびキヌタ骨を摘出し耳小骨連鎖を再建 する。一方上鼓室前方に限局した弛緩部型真珠腫では、多くの症例で耳小骨連鎖に異常がなく 術前の気骨導差も小さい。しかし真珠腫のツチ骨頭や上鼓室前壁への癒着が高度な症例では、 耳小骨連鎖を保存したまま真珠腫を完全に摘出することが時に困難である。当院では、このよ うな限局性の弛緩部型真珠腫症例に対し、上鼓室前方の真珠腫癒着部を残存したまま同部を外 耳道に開放し耳小骨連鎖を保存する方法を選択する場合がある(Semi-open 法)。今回我々は、 この Semi-open 法を用いた症例の術後経過について検討したので報告する。 【手術方法】 経外耳道的なアプローチで外耳道皮膚を剥離したのち、上鼓室外側壁をノミにて削除し上鼓 室を開放する。上鼓室前方に癒着した真珠腫が同部に限局し、耳小骨連鎖が異常ないことを確 認したのち、癒着真珠腫部位は放置し外耳道に開放し、乳突蜂巣削開はせず上鼓室後方は軟組 織にて外側壁を形成する。 【対象】 対象は、1994 年 10 月から 2014 年 5 月までに当院で本法を施行された弛緩部型真珠腫症例 94 例 中、術後 1 年以上経過観察しえた 57 例 58 耳について、術後の真珠腫再発を含めた陥凹部位の状 態、術後聴力に関して検討した。性別は、男性28例28耳、女性29例30耳、年齢は11歳〜84歳で 中央値は 38 歳であった。平均観察期間は 59 か月であった。 【結果】 開放した上鼓室前方が乾燥状態を保ち処置不要であった症例が 48 耳(82.8%) 、同部に痂皮や 角化物が堆積し清掃が必要な症例が 5 耳(8.6%) 、上鼓室外側壁全域が陥凹し再陥凹性再発のた めに再手術を要した症例が 3 耳(5.2%) 、乳突蜂巣のコレステリン結晶液貯留のために再手術を 要した症例が1耳(1.7%)、軟組織にて形成した上鼓室外側壁に換気チューブを留置した症例が1 耳(1.7%)であった。聴力に関しては、術後気骨導差 15dB 以下が 51 耳(87.9%) 、術後利得 15 dB以上が6耳(10.3%)、術後気導閾値30 dB以下が33耳(56.9%)であり、日本耳科学会2010年 案による聴力改善成功例は 51 耳(87.9%)であった。術後 15dB 以上聴力悪化を認めた例が 3 耳 (5.2%)あり、内 2 耳は耳小骨連鎖再形成例であった。 【考察】 本法の利点は、耳小骨連鎖を保存可能であるため術後聴力悪化の可能性が低い点にある。原 則的に良聴耳や唯一聴耳症例など聴力保存が強く望まれる症例、または聴力がほぼ正常範囲内 で患者本人が聴力温存を強く希望する症例においては、本法が適応となると考えられる。また 本法を応用し、耳小骨を摘出した症例であっても、上鼓室における真珠腫の完全摘出が不確定 である場合には、段階手術にせず本法を適応することも可能である。問題点の一つは、上鼓室 前方の換気経路の遮断が術後も継続される点である。この場合中鼓室から上鼓室への換気経路 は、Tympanic isthmus 後方のみとなる。術後もし同部が遮断されると上鼓室や乳突蜂巣の含気 が消失する可能性が高い。しかし一方で、本法の適応となる症例の多くは乳突蜂巣粘膜が正常 であり、術後 Tympanic isthmus が閉鎖していると考えられる症例であっても乳突蜂巣の含気が 良好な症例が存在するため、蜂巣粘膜のガス交換による蜂巣含気化の可能性が示唆される。本 検討においては、術後の蜂巣換気不全から生じたコレステリン結晶液貯留による問題発生例は 再手術例を含め 2 例のみであった。再発に関しては、真珠腫部位の外耳道への開放により遺残性 再発の可能性は極めて低いため、真珠腫部位の後方への陥凹進展による再陥凹性再発が問題と なる。本検討での再陥凹性再発は 3 例存在したが、いずれも残存した外耳道後壁の内側に真珠腫 が進展した例であり、本法を施行するにあたり一旦外耳道後壁削除後、上鼓室前方以外の外耳 道後壁を軟組織にて再建し術後の陥凹に対応することを考慮すべきと考えられる。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 434 , 2015 24 弛緩部型真珠腫 Stage I の手術成績と問題点 三代 康雄、桂 弘和、池畑 美樹、美内 慎也、大田 重人、阪上 雅史 兵庫医科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 病期分類は悪性腫瘍の TNM 分類のように治療法の選択や予後を反映すべきものである。我々 は日本耳科学会の弛緩部型真珠腫の病期進展分類に基づき、その長期予後を報告した1)が、弛 緩部型真珠腫Stage Iの成績は10年の長期成績でも累積無再発率は100%(累積再発率は0%)であ った。 Stage I に対する手術は大半が一期的手術で1)経外耳道的上鼓室削開+上鼓室側壁再建また は2)外耳道後壁保存型鼓室形成術で行われていた。1)では 1.最小限の骨削開で手術が行える が、聴力・耳小骨連鎖も正常の症例が多く、2)に比べると手技的にやや熟練を要すこと、2.後 鼓室開放術が行えないこと、3.ツチ骨頭より前方の操作が2)に比べやや困難なこと、4.真珠腫 が予想以上に進展している場合や病的な乳突腔粘膜がある場合には外耳道後壁削除の形になる ことなどが問題である。一方2)では大半正常な乳突腔を削開することが問題である。 また長期成績から Stage I のできるだけ早期に手術を行うべきか?という問題が生じるが、唯 一良聴耳に生じた Stage I の弛緩部型真珠腫で 20 年以上外来で経過観察を続けている症例もあれ ば、炎症を繰り返し、聴力も低下し、Stage IIとなり、手術を施行した症例もある。Stage Iの手 術の適応や術式の問題点などについて報告する。 参考文献 1)Hashimoto-Ikehara M, et al.: The 10-year disease-free rate of attic cholesteatoma based on a new staging system. Int Adv Otol 7: 289-291, 2011. Otol Jpn 25 ( 4 ) : 435 , 2015 25 真珠腫性中耳炎に伴う内耳瘻孔例の検討 鈴木 宏明、工 穣、宇佐美真一 信州大学 医学部 耳鼻咽喉科 【はじめに】 真珠腫性中耳炎により内耳瘻孔が生じる事はそれほどまれではなく5-10%の頻 度で認められると報告されている。内耳瘻孔による内耳障害によりしばし緊急手術を必要とす る点で重要であるが、術後に骨導聴力の低下、平衡機能の悪化をきたす可能性があり術中慎重 な対応が必要である。今回当科で経験した真珠腫性中耳炎に伴う内耳瘻孔症例につき検討を行 った。 【対象と方法】 2005年7月から2014年10月までに当科で真珠腫性中耳炎に対して手術が施行さ れた 207 症例中、内耳瘻孔が確認された 17 症例(8.2%) 、17 耳である。臨床症状、眼振の有無、 術中所見、手術方法、術後経過につき検討した。 【結果】 当科初診時平均年齢は 57.0 歳であった。しかし当科受診までに患側耳における何らか の症状に対する罹患期間は3ヶ月〜70 年(平均:21.8 年)と長期にわたる症例が多く認められ た。初診時臨床症状としては14症例(82.4%)においてめまいの訴えが認められ、疼痛、発熱と いった急性炎症症状、または耳漏の再燃といった急性増悪症状を示す症例が11症例(64.7%)に 認められた。まためまいが訴えのある14症例中12症例(85.7%)で眼振が認められたが、めまい を 自 覚 し な い 1 症 例 に お い て も 眼 振 が 認 め ら れ た 。術 前 聴 力 の 平 均 は 気 導 83.3dB(55〜 110dB) 、骨導 61.2dB(30〜110dB)であり高度難聴の症例は8症例(47%)と半数近くに認め られた。術中所見より弛緩部型真珠腫が原因と考えられる症例が9症例(53%) 、緊張部型真珠 腫が原因と考えられる症例が5症例(30%)であった。また瘻孔部位は外側半規管単独 12 症例 (70.1%)で最多であり続いて上半規管単独3症例、外側半規管と上半規管両者が1症例、蝸牛 瘻孔が1症例であった。瘻孔の進達度はDornhofferとMilewski の分類(1995)に従うとIが2症 例 IIa が 12 症例、III が3症例であたった。瘻孔の閉鎖は全ての症例で1期的に施行し 10 症例 (58.8%)で骨片、骨粉、フィブリン糊による被覆とした。伝音再建を施行した症例は9症例で あり術前の平均聴力は気導(62.8dB)、骨導(33.4dB)、術後は気導(41.9dB)、骨導(20.7dB) であった。術後骨導聴力の改善を 4 症例で認め、低下した症例は認められなかった。術後、眼振 を伴うめまいの持続が1例において認められた。術後の前庭機能検査ではカロリック検査で患 側中等度 CP、VEMP は反応が認められなかった。 【考察】 発症年齢においては平均 57 歳と過去の報告と同程度だったが患側耳の罹患期間は平均 21 年でありこの間に手術加療により内耳瘻孔を回避できる機会はあったと考えられる。めまい といった急性症状により初めて手術加療が行われる症例が多く存在していると考えられる。そ の結果として高度難聴を示す症例が多かったと考えられた。当科の治療において、残存骨導聴 力のある症例に対しては骨導聴力が保存されかつ改善を認めた。真珠腫性中耳炎により内耳瘻 孔が生じた症例においても適切な処置、治療を施行すれば改善が期待できると考えられた。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 436 , 2015 人工内耳埋込術を施行した PTPRQ 遺伝子変異による両側感音難聴の 1 例 26 佐久間直子 1、茂木 英明 3、高橋 優宏 2、宮川麻衣子 3、荒井 康裕 2、西尾 信哉 3、 井上 真規1、吉田 高史4、折舘 伸彦2、宇佐美真一3 1 2 神奈川県立こども医療センター 耳鼻咽喉科、 横浜市立大学 医学部 耳鼻咽喉科・頭頸部外科、3 信州大学 医学部 耳鼻咽喉科学教室、 4 耳鼻咽喉科 吉田クリニック 【はじめに】先天性難聴のうち約 50%は遺伝子変異が関与しているとされており、原因遺伝子は 80 種類程度が報告されている。PTPRQ 遺伝子は、劣性遺伝形式をとる非症候群性先天性感音難 聴の原因遺伝子の一つとして報告されている。近年、遺伝子変異を原因とする症例での人工内 耳の装用効果について報告されてきているが、現在までに、PTPRQ 遺伝子変異による難聴例で の人工内耳埋込術を施行した報告はない。今回我々は、人工内耳埋術を施行した、 PTPRQ 遺伝 子変異による難聴の 1 例を経験したので報告する。 【症例】症例は 20 歳男性。3 歳時検診で言語発達の遅れを指摘されたため横浜市立大学耳鼻咽喉 科を受診。精査の結果、両側中等度感音難聴と診断され、補聴器の両耳装用を開始した。その 後徐々に聴力低下を認め、17 歳時には高音漸減型の重度難聴となった。鼓膜所見は正常。側頭 骨 CT、頭部 MRI では中耳と内耳にあきらかな奇形は認めなかった。めまい症状の自覚はなかっ たが、カロリックテストでは右側は眼振の解発を認めるが弱く、左側は眼振の解発は認めなか った。VEMP でも左側は反応を認めなかった。血縁者の難聴や血族婚の家族歴は認めなかっ た。遺伝子検査では、次世代シーケンサー、Ion PGM システム(life technologies)による解析 で、PTPRQ 遺伝子変異のホモ接合体が同定された。他の家族はヘテロ接合体であったことと、 同定された変異はナンセンス変異であったことから、難聴の原因と考えられた。19 歳時、補聴 器装用効果が不十分となったため、右人工内耳埋込術を施行した。低音域の聴力は術後も温存 され、装用閾値も 40dB 程度と経過は良好であった。 【まとめ】PTPRQ 遺伝子変異での人工内耳装用は良好な効果が得られる可能性があり、補聴器 での効果が不十分である高度難聴例に対して適切な治療法になり得ると考えられた。遺伝子解 析により、難聴の原因が明らかになることで、その発症のメカニズムが理解できる。これによ り、人工内耳の効果を予測する上で非常に有用な情報を得られる可能性がある。今後、難聴の 原因と人工内耳の効果の関連性を比較するために、多くの症例での検討が必要と思われる。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 437 , 2015 27 人工内耳埋込術を施行した CHARGE 症候群の 2 症例 阿部 康範、羽藤 直人、山田 啓之 愛媛大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 CHARGE 症候群とは、虹彩欠損、心疾患、後鼻孔閉鎖、成長障害と精神遅滞、性器の低形 成、耳介の奇形と難聴の頭文字を主症状とする症候群である。発生頻度は 2 万出生に 1 例程度と 稀な疾患であるが、後鼻孔閉鎖や難聴、中内耳奇形を有することが多いため、耳鼻咽喉科日常 診療において遭遇する可能性がある。その病態や程度は症例によって様々であるが、生後 2 年間 は高頻度に循環器・呼吸器という生命維持に必須な臓器障害のため医療的ケアを要する症例が 多い。呼吸状態が改善して生命維持の危機を脱すると、生涯に渡ってコミュニケーションの課 題が続く。CHARGE 症候群の 90%以上に難聴を伴うとされている。そのため外界の探索や環境 と関わりが妨げられ、コミュニケーション障害の一因となっているとの報告もある。幼少期は 生命維持に必須な臓器障害の治療のため難聴への介入は遷延してしまうが、児のコミュニケー ションの発達を援助する観点から、補聴器装用や人工内耳埋込術による介入は必須である。今 回我々は内耳奇形を伴った CHARGE 症候群2例に人工内耳埋込術を行ったので若干の文献的考 察を加え報告する。 【症例 1】虹彩欠損、動脈管開存症、後鼻孔閉鎖、発達遅滞、停留精巣、耳介奇形および両側難 聴を合併しており、CHARGE 症候群と診断され、0 歳時に動脈管結紮術、1 歳時に停留精巣固定 術、3 歳時に気切孔形成術・後鼻孔形成術を施行された。受診時、純音聴力検査にて両耳 100dB 以上の難聴、骨導ABRにて両耳105dB無反応、骨導CORも無反応で、耳小骨CT検査では両側半 規管無形成、乳突蜂巣発育不全を認めた(図 1)。2 歳時より補聴器および骨導補聴器を開始した が、装用効果なく6歳時に右人工内耳埋込術を施行した。現在術後2年8ケ月であり、経過問題な くリハビリテーションを継続している。 【症例 2】虹彩欠損、動脈管開存、小顎症に伴う上気道狭窄、成長障害、小陰茎、耳介低位およ び両側難聴、顔面神経麻痺を合併し、CHARGE 症候群と診断され、0 歳時に動脈管結紮術、2 歳 時に気管切開術施行された。受診時、ABRにて両耳105dB無反応、DPOAEにて全周波数で無反 応であった。耳小骨 CT 検査では両側半規管無形成、乳突蜂巣発育不全を認めた(図 2)。2 歳時 より骨導補聴器を試してみたが、装用効果なく 4 歳時に左人工内耳埋込術を施行した。現在術後 1 ケ月であり、経過問題なくリハビリテーションを継続している。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 438 , 2015 28 小児内耳奇形に顔面神経奇形を合併した人工内耳の1例 羽藤 直人、山田 啓之、岡田 昌浩 愛媛大学 医学系研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 内耳奇形を伴った高度感音難聴児への人工内耳埋め込み術は増加傾向にあるが、顔面神経走 行異常の合併例に関する報告は少ない。我々は内耳奇形に顔面神経奇形を合併した幼児に対し 人工内耳埋め込み術を行い、重篤な合併症なく良好な術後経過が得られたので報告する。 症例は1歳、男児で、他院での新生児聴覚スクリーニング検査でreferとなり、他院耳鼻科を経 由して 1 歳 5 ヶ月時に人工内耳手術を目的として当科紹介受診となった。ASSR は右 500Hz、 110dB で反応認めるも他の周波数や左耳は反応なく、ABR では両側 105dB で無反応であった。 CT にて両側内耳に Mondini 奇形(前庭と半規管が嚢状に拡張、外側半規管の低形成、蝸牛回転 の不足)を認め、更に両慢性副鼻腔炎、両滲出性中耳炎を認めた。近医耳鼻科で副鼻腔炎と滲 出性中耳炎の加療を開始し、1 歳 10 ヶ月で中耳炎の改善を認めたため、1 歳 11 ヶ月時に、左人工 内耳埋め込み術を施行した。 手術は全身麻酔下に左耳後切開の経乳突法にて行った。乳突蜂巣の発育は不良で、鼓室は一 部含気化していたが、乳突洞には肉芽が充満していた。後鼓室開放を施行しつつ、顔面神経刺 激装置(NIM)を用いて顔面神経を同定した。顔面神経は乳突部で 2 本に分岐し、1 本は通常走 行に近い部位、もう 1 本はアブミ骨より前方を走行していた。ツチ骨およびキヌタ骨はほぼ正常 であったが、アブミ骨は低形成で底板は確認できず前庭窓は閉鎖していた。蝸牛窓も同定でき なかったため、前方を走行する顔面神経より更に前方の鼓室岬部で 0.8mm の蝸牛開窓を行っ た。gusherは認めなかった。人工内耳インプラントはMed-El、CONCERTOのCompressed電極 を用いた。電極は全て挿入でき、ART の反応も良好であった。術後一過性の患側下口唇麻痺を 来たしたが、その他重篤な合併症は認めなかった。現在術後 1 年以内であり言語発達は明らかで ないが、音に対する反応は良好で、ハビリテーションを継続中である。 症例の術中 VTR を中心に、考察を加え報告する。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 439 , 2015 29 脳表ヘモジデリン沈着症による難聴に対して人工内耳埋め込み術を 施行した一例 北田 有史、金丸 眞一、金井 理絵、西田 明子、吉田 季来、古田 一郎 公益財団法人 田附興風会 医学研究所 北野病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 脳表ヘモジデリン沈着症にて両聾となった症例に対し、人工内耳埋め込み術を行い良好な結 果を得たため報告する。 症例は 75 歳女性。2010 年に近医耳鼻咽喉科をふらつきで受診し、左の軽度難聴を指摘され た。その後難聴が徐々に進行し、2011 年に左聾となり、2014 年 1 月には右も失聴した。2 月に当 科を受診している。 術前の純音聴力検査では、左は全音域で scale out であり、右は 500Hz 以下でのみ残聴を認め た。最高語音明瞭度は右が100dBで0%、左が70dBで25%。DPOAEでは左右とも反応なし。ABR では左右とも 105dB で反応が消失していた。MRI の T2 強調画像では、大脳、小脳の表面に、脳 実質よりも低信号の領域がわずかに縁どられるように存在しており、脳表ヘモジデリン沈着症 と診断。 2014年6月に左にMED-EL社のCONCERTO FLEX28の埋め込みを施行した。 Round window approach にて全ての電極を挿入。全電極にて ART 反応有り、インピーダンスは正常であった。 術後 8 日目に音入れを施行し、良好な聞き取りを得ている。術後 11 ヶ月目の時点では、単語の 1 回提示で 84%、文章の 1 回提示で 90%の聞き取りが可能となっている。また、自由音場閾値検査 では、全ての周波数にて 50dB 以上の聴力レベルを記録している。現時点では、聴力成績の低下 は認めていない。 脳表ヘモジデリン沈着症は、脳実質、脊髄、脳神経などの中枢神経系に広範なヘモジデリン 沈着を来し、感音難聴、小脳失調、錐体路徴候などを来す疾患である。ヘモジデリンは中枢性 ミエリンにより沈着しやすい性質があり、聴神経は中枢性ミエリンに覆われる距離が長いため に、聴神経障害を来しやすいと考えられている。病理学的には、ラセン靭帯、血管条などへの ヘモジデリン沈着が見られ、コルチ器の変性も認めていることから、蝸牛の障害による内耳性 難聴も示唆されている。 今回我々が経験した症例は、罹病期間が約 4 年と短いことが良好な初期の成績につながった一 つの要因と考えられる。疾患の初期の段階では、蝸牛障害による内耳性難聴が主で、聴神経障 害による後迷路性難聴の程度は軽度であるために、人工内耳の効果が得られるのかもしれな い。期間を経て人工内耳の聞き取りが低下する症例も報告されているため、今後の長期のフォ ローアップが必要と考えられる。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 440 , 2015 30 一側性高度感音難聴に対して人工内耳埋め込み術を施行した2症例 〜術後経過と使用状況の関連性について 鬼頭 良輔 1、茂木 英明 1、宇佐美真一 1、岩崎 聡 2 1 信州大学 医学部 耳鼻咽喉科、2 国際医療福祉大学 三田病院 耳鼻咽喉科 【はじめに】 一側性難聴患者の音声聴取における問題としては、患側からの音声聴取、音源定位、さらには騒音環 境での聴取についての障害が挙げられている。また耳鳴についても患者のQOLに大きく影響を与える要 素と考えられている。現在、信州大学・慶応大学・済生会宇都宮病院・国際医療福祉大学三田病院の共 同臨床研究として、 『同側に耳鳴を伴う、一側高度または重度感音難聴に対する人工内耳の装用に関する 研究』を開始しており、2症例の手術を経験した。今回は我々が経験した症例の術前評価、術後評価の 結果とともに、その術後経過の違いについて検討を行ったので報告する。 【症例】 症例1:65 歳 女性 2009年8月、右耳で107dBと重度感音難聴を認め、鼓室試験開放と内耳窓閉鎖術を施行(発症3日目) されたが改善せず、右耳の聴力は 92dB と回復は軽度にとどまり、難聴・耳鳴などの症状が残存した状 態で近医にて経過観察されていた。2013年9月(難聴発症後4年1ヶ月) 、右人工内耳埋め込み術を実施。 インプラント/電極は MED-EL CONCERTO/FLEX28 を用いた。術後合併症無く、同年 10 月に音入れ となった。 症例2:26 歳 女性 2013 年 4 月、左突発性難聴の診断で、ステロイド全身投与・鼓室内投与を実施。加療後も聴力の改善 は認めず、111dBの重度感音難聴の状態であった。 2014年5月(難聴発症後1年1ヶ月) 、左人工内耳埋め 込み術を実施(インプラント/電極は 1 例目と同様) 。術後合併症無く、7 月に音入れとなった。 【評価項目について】 主として以下の 3 項目について検討を行った。 1)騒音下語音聴取:67-S 単音節(提示音圧 65dBSPL) 、CI-2004 単語・文章(提示音圧 70dBSPL) 。 それぞれ雑音提示については SN+10、SN+5、SN±0 で検査を実施した。 2)音源定位検査:半径 1m の半円上に 9 つのスピーカーを配置した。提示音には CCITT と呼ばれる speech shaped noiseを使用し、60、70、80dB SPLをスピーカー・音圧ともにランダムで合計135回(各 スピーカーについて15回ずつ)提示した。評価は提示したスピーカーと回答したスピーカーの乖離角度 の平均を算出(deviation)、また左右の方向を考慮して平均を算出した(bias) 。 3)耳鳴評価:THI(Tinnitus Handicap Inventory) 【術後検査結果について】 騒音下語音明瞭度検査については、症例1では術後6ヶ月以降に改善を認めた。症例2ではいったん1ヶ 月で改善傾向と思われたが、3∼6 ヶ月でむしろ結果は悪化した。 音源定位能はそれぞれd値について、症例1では61.3から20.8、症例2では61.0から19.6へと改善を認め た。また耳鳴についてもTHI scoreで症例1で94から2へ、症例2では54から22へ、いずれも改善を認め る結果であった。 【考察】 一側性高度難聴では騒音下聴取能・音源定位能が障害されると報告されており、我々の症例の術前検 査においてもその傾向が認められた。このような患者に対する人工内耳については、欧州を中心にそれ ぞれ少数例ながら報告があり、耳鳴・騒音下聴取能・音源定位能の改善(Van de Heyning P et al. 2008、Susan A et al. 2011 他)について示されている。 しかしながら、特に騒音下語音検査では 2 症例ではあるが経過に違いが認められた。この原因につい て、症例 2 では装用日記の記録から、装用時間の減少と非使用日数の増加が明らかになった。 特に一側性高度難聴患者における人工内耳装用では、健聴側と人工内耳側の聞き取りの統合のため、 トレーニングが必要となることが考えられ、施設によってはハビリテーションの工夫がされてきている (Nawaz S et al. 2014、Tavora D et al. 2015) 。 今後、一側性高度難聴に対する人工内耳装用においては、症例の経過をふまえ、ハビリテーションの 方法についても検討が必要と考えられた。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 441 , 2015 31 好酸球性中耳炎の聾症例に対する人工内耳埋め込み術 杉本 寿史、波多野 都、吉崎 智一 金沢大学附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 松谷氏らは 2004 年、好酸球性中耳炎を合併している成人喘息患者を対象に疫学調査を実施 し、確実例とされた患者の約 5 割に聴力低下が認められ、そのうち約 6%が聾になっていること を明らかにしている。難聴が進んだ症例に対しては補聴器の装着が適応となるが、聾となり補 聴効果が不良である場合人工内耳埋め込み術が治療の選択肢の一つとなる。しかし好酸球性中 耳炎の聾の患者に対する人工内耳埋め込み術の報告は少なく、またその手術法のコンセプトは まちまちである。今回我々は好酸球性中耳炎の聾の2症例にたいして人工内耳埋め込み術をお こなった。手術法として、1,Blind sac closure にて外耳道を閉鎖、2,耳管を閉鎖、3, Subtotal petrosectomy、4,人工内耳の挿入、5、腹部脂肪により死腔を充填、以上の手技を 選択した。好酸球性中耳炎の病態は中耳粘膜への好酸球の浸潤が主体であり、炎症の増悪を繰 り返す特徴をもつ。したがって通常の人工内耳埋め込み術を行った場合、炎症の増悪時に重篤 な合併症を引き起こす危険性がある。我々は上記の手術方法により好酸球性中耳炎に罹患して いる患者に対して人工内耳埋め込み術を安全に行えると考えている。我々の、好酸球性中耳炎 の聾患者に対する人工内耳埋め込み術のコンセプトは、1, Subtotal petrosectomy により、好 酸球が浸潤する中耳粘膜と mastoid の粘膜を徹底的に摘出する。これにより好酸球が浸潤する場 所をなくす。2, 耳管と外耳道を閉鎖する。外来と完全に遮断することにより、好酸球浸潤の 原因となる異物や刺激の侵入をふせぐ。3, 術前にステロイドパルスをおこなうことで手術を 容易にそして安全にする。術後に腹部脂肪を充填することで死腔をなくし、合併症を抑える。 以上の3点である。手術を段階的に行うか一期的に行うかについては議論の分かれるところで あるが、上記の3点を確実に行えば一期的手術で問題ないと考えている。今回症例のビデオを 供覧し、好酸球性中耳に対する人工内耳埋め込み術の手術法について考察する。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 442 , 2015 32 一側性と両側性メニエール病における内リンパ水腫の検討 森本 京子 1、吉田 忠雄 1、曾根三千彦 1、寺西 正明 1、 杉浦 彩子2、加藤 健1、中島 務2 1 名古屋大学大学院医学系研究科 頭頚部・感覚器外科学 耳鼻咽喉科 2 国立長寿医療研究センター 目的:片側メニエール病と両側メニエール病の患者の両側内リンパを評価し、内リンパ水腫の 観点から両側メニエール病へと進行する要因を探った。 研究デザイン:大学病院での医療記録のレトロスペクティブレビュー 方法:AAOHNS の基準を満たす片側 definite MD29 人と両側 definite MD12 人が参加した。ガド リニウム静注4時間後および、または鼓室内注入24時間後、3テスラMRIを使用して内リンパ腔 を評価した。読影医には臨床症状を知らせず、前庭と蝸牛の内リンパ水腫を3つの段階、水腫 なし、軽度、著明に分類した。 結果:片側MDの29人では、蝸牛か前庭どちらかに水腫を認めた。著明な水腫を蝸牛で24耳、前 庭で 20 耳に認めた。健側耳では、著明な水腫は蝸牛で4耳、前庭では6耳で認めた。健側耳 29 耳で、蝸牛にも前庭にも水腫をみとめなかったものは 8 耳であった。両側 MD の 12 人では、蝸牛 か前庭に著明な水腫を認めた。 結論:Definite MD の 53 耳すべてで、蝸牛か前庭に水腫を認めた。MRI は片側 MD が両側 MD へ 進行する有用な情報をもたらすかもしれない。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 443 , 2015 33 メニエール病およびその類縁疾患における内リンパ水腫推定検査としての グリセロール cVEMP の判定法の検討 室伏 利久、林 裕史 帝京大学 溝口病院 耳鼻咽喉科 はじめに メニエール病は、その基礎に内耳における内リンパ水腫をもつ原因不明の難治性疾患であり、その診 断にあたっては、内耳の内リンパ水腫を証明することが望ましい。内リンパ水腫推定の検査法として は、グリセロールテスト、フロセミドテスト、蝸電図が報告されてきた。基本的には、グリセロールテ ストと蝸電図が蝸牛、フロセミドテストが半規管の内リンパ水腫を推定するものである。したがって、 病理学的に内リンパ水腫の頻度が高いとされる耳石器における内リンパ水腫推定には検査法の開発ある いは改良が必要であった。これまでの検査法の改良による方法として、グリセロール負荷に際して、純 音聴力検査に加えて cVEMP 検査を行い、その反応の変化を観察することにより内リンパ水腫を推定す る方法が考案されてきた 1)2)。しかし、その判定法を含め、検査法は必ずしも標準化されていない。 今回我々は、グリセロール cVEMP 法標準化にむけた試案を作成し、さらに、その試案に基づいて、メ ニエール病およびその類縁疾患症例において検討を行った。その結果について報告する。 対象と方法 対象は、メニエール病あるいは遅発性内リンパ水腫と診断された症例であった。cVEMP 検査は、通 常の検査方法で行った。ただし、刺激音には、500Hzに加えて1000Hzのショートトーンバーストを使用 した。音圧は、いずれも 125dBSPL であった。刺激頻度は 5Hz で、1 回の測定の加算回数は 100 回とし、 再現性の確認のため、2 回ずつ測定した。測定した反応 p13-n23 の振幅は、刺激音提示直前の 20msec に おける整流波形から算出した背景筋活動により補正した。また、500HzSTB と 1000HzSTB から cVEMP の tuning を推定するため、以下の公式により 500-1000Hz cVEMP slope を算出した 3)。500-1000Hz cVEMP slope = 100(CA500-CA1000)/(CA500+CA1000) た だ し 、CA500(1000)は 、500 (1000)Hz刺激時のp13-n23補正振幅値である。グリセロール負荷は、10%glycerol 500mlを2時間かけて 点滴静注投与し、投与前と 2 時間後に cVEMP を測定した。次の基準(1)または(2)を満たすものを 水腫陽性と判定した。 (1)グリセロール負荷前と負荷後の500Hzにおける振幅を比較し、cVEMP 振幅の 有意な増大を認めたもの、すなわち、次式で cVEMP improvement を算定し、cVEMP improvement = 100(CApost-CApre)/(CApost+CApre)ただし、CApre(post)は、グリセロール負荷前(後)の p13-n23補正振幅値、cVEMP improvent>21.8 の場合、陽性と判定した。この基準は、Shojaku et al.2) のデータから算出した。 (2)グリセロール負荷前に 500-1000Hz cVEMP slope が、負荷前に<-19.6(tuning の 1000Hz 側への有意なシフトを意味する)であり、かつ負荷後に>-19.6 に変化しまものこの基準値 は Murofushi et al.1)4)によった。結果対象耳のうち、 (1)の基準のみの場合、陽性率は、50%程度で あったが、 (2)の基準を加えることで、陽性率は 60%以上に上昇した。 まとめ (1)耳石器における内リンパ水腫推定法として、静注法により、負荷前と2時間後にcVEMPを測定する 方法を標準化に向けた試案として暫定的に採用し、実際の症例において検討した。 (2)判定のパラメー タとしては、補正振幅値に加えて、tuning の変化についても検討することによって陽性率が向上する可 能性が示唆された。 参考文献 1)Murofushi T et al. Glycerol affects vestibular evoked myogenic potentials in Meniere's disease. Auris Nasus Larynx 28:205-208,2001. 2)Shojaku H et al. Clinical usefulness of glycerol vestibular-evoked myogenic potentials: preliminary report. Acta Otolaryngol Suppl 545:65-68,2001. 3)Murofushi T et al. Does migraine-associated vertigo share a common pathophysiology with Meniere's disease? Study with vestibular evoked myogenic potential. Cephalalgia 29:1259-1266,2009. 4)Murofushi T et al. Frequency preference in cervical vestibular evoked myogenic potential of idiopathic otolithic vertigo. Does it reflect otolithic endolymphatic hydrops? Acta Otolaryngol in press. Otol Jpn 25 ( 4 ) : 444 , 2015 34 メニエール病と非耳疾患症例の内リンパ腔画像評価 吉田 忠雄、大竹 宏直、寺西 正明、曾根三千彦 名古屋大学大学院医学系研究科 頭頸部・感覚器外科学講座 耳鼻咽喉科 はじめに:近年、MRI による内リンパ腔の画像評価によりメニエール病やその周辺疾患につい て症状や検査所見の比較等の報告がされている。しかし、健常内耳での MRI 評価は現在までに まとまった報告がない。疾患群での内リンパ腔をより正確に評価するため、対照群としての検 査所見の集積は非常に重要であると考える。 対象と方法:AAO-HNS の診断基準に基づいてメニエール病と診断した症例をメニエール病群 (304 例)、蝸牛および前庭症状の全くない耳鼻咽喉科良性疾患(良性耳下腺腫瘍、慢性副鼻腔炎 等)例(17 例)を対照群とした。平均年齢はメニエール病群で 52.9 歳、対照群で 55.9 歳であっ た。MRIは過去に当科で報告した手法を用い、ガドリニウム鼓室内注入24時間後または静注4時 間後に撮影を行った。内リンパ水腫の評価方法は蝸牛前庭それぞれについて水腫なし、軽度、 著明の三段階で評価を行った。 結果:蝸牛について軽度以上の内リンパ水腫を認めたのはメニエール病群では 7 割以上、対照群 では 4 割程度の症例であった。著明な蝸牛内リンパ水腫を認めたのは、メニエール病群では 5 割 程度、対照群では 1 割程度であった。前庭については軽度以上の内リンパ水腫はメニエール病群 で 8 割以上、対照群では 1 割以下であった。著明な前庭内リンパ水腫を認めたのは、メニエール 病群で5割以上、対照群では1例もなかった。AAO-HNSの診断基準でDefinite Meniere’s disease に該当する症例については全例に蝸牛あるいは前庭に内リンパ水腫を認めた。蝸牛では 8 割程度 に著明水腫、9割以上に軽度水腫以上を認め、前庭でも8割程度に著明水腫、9割以上に著明水腫 を認めた。Definite Meniere’s diseaseを真のメニエール病であると仮定した場合の本検査の感度 特異度は蝸牛軽度水腫以上で感度93.0%、特異度58.8%、著明水腫で感度79.1%、特異度88.2%、 前庭軽度水腫以上で感度96.5%、特異度91.2%、著明水腫で感度80.7%、特異度100%であった。 考察:メニエール病は難聴、耳鳴、めまいを三主徴とする疾患である。我々は、難聴あるいは めまいのみといった単一症状を呈する非定型メニエール病であっても内リンパ水腫を認める症 例をすでに報告しており、健常耳であっても症状のない内リンパ水腫が存在する可能性がある と推測された。今回の結果では対照群の蝸牛ではやや内リンパ水腫の割合が高かったが、前庭 では低かった。側頭骨病理において蝸牛の頂回転では健常耳でも内リンパ水腫を認めたという 報告があり、画像所見との相関性を認めた。我々の内リンパ水腫の評価基準では、蝸牛におい て、なし、軽度、著明の3段階としており、最も水腫が大きいところでの判断である。この基 準も蝸牛水腫が多かった要因の一つであった可能性がある。検査の信頼性の観点からすると、 Definite Meniere’s diseaseに対する我々の基準では、軽度前庭内リンパ水腫の有無が感度、特異 度ともに最も高くメニエール病の画像診断に有用であると考えられた。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 445 , 2015 35 患者体験に学ぶ ─めまい・メニエール病診療の問題点 高橋 正紘 横浜中央クリニック めまいメニエール病センター 【目的】めまい診療に特化すると、現在のめまいやメニエール病診療の問題点を痛感する。問題 点を明らかにし、患者ニーズに応えるには、何をすべきかを報告する。 【対象と方法】当施設では過去 9 年間、全例のデータベスを作成し、2015 年 5 月中旬現在、新患 7,364 名、メ病 1,100 名近くに達する。集計結果を元に、BPPV では有害な生活習慣の有無を、メ 病では発症誘因の多忙や心労を質し、前者では再発予防の生活指導、後者ではストレス対策と 有酸素運動を実施し、無投薬で良好な成績を得ている。今回は、1)患者が当施設を訪れた経 緯、2)前施設の診断名、3)前施設の治療内容、4)投薬その他の効果の有無・副作用、5)患 者満足度などから、診療の問題点を明らかにした。 【問題点と背景】多数例の患者体験から、次の事実が判明してきた。1)BPPV 患者の 52%が何ら かの耳症状(耳閉塞感、音が不快・割れる・響く、耳鳴、聞き辛い、耳痛など)を伴うが、耳 鼻科医の多くが無知、2)耳症状の訴えや軽度〜中等度の感音難聴があると、特発性難聴やメニ エール病と診断する。3)めまいに無効な薬物治療が中心。4)耳症状のみを問診し、患者の日 常の過ごし方や生活習慣に無関心、5)めまいの多くが生活習慣病であるが、生活指導が実施さ れていない、6)鎮静薬が頻用され、高齢者では倦怠、意欲低下、昼間眠気の原因になってい る。最大の問題点は、患者の病気体験から学ぶ姿勢が、医師に欠落している点である。 【対策】報告者は 2015 年 6 月ある研究会で、複数の患者に体験を語ってもらい、医師が患者体験 に学ぶ企画を計画中である。患者体験には、不適切な医療を医師に反省してもらうばかりでな く、数々の貴重な科学的な事実が埋もれている。この企画の成果を合わせて報告する予定であ る。 【考察と結論】過去 8 年間に様々な学会、研究会で、メニエール病に対するストレス対策と有酸 素運動の効果、浸透圧利尿剤の無効、手術やゲンタマイシンの鼓室内投与は不要で有害無益で あることを報告してきた。また、BPPV で高率に耳症状が発現し、特発性難聴やメニエール病と 誤診され、不適切な投薬を受けている現状を報告してきた。しかし、学会や医師の反応は鈍 く、もっとも敏感に反応したのが、病気を体験してきた患者群であった。 「患者体験に学ぶ」は 医療の原点であるが、これに立ち帰り、盲目的、習慣的な診断・治療を捨て、学会主導で現状 を直視し、科学的に治療を再評価する、真の「治験」を実施すべきであろう。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 446 , 2015 36 高位頸静脈球を有するメニエール病の治療経験 黒川 友哉、晝間 清、柳 嘉典、留守 卓也 都立駒込病院 【はじめに】 メニエール病は1861年にフランスのメニエールによって1例報告がなされて以降、臨床報告や 研究の積み重ねにより現在ではストレスや様々なホルモンバランス異常も関与した内リンパ水 腫がその病態であることが分かってきている。しかし現在もなお確立した治療法は見つかって おらず難治化する症例も多く認める。今回の症例もステロイド、浸透圧利尿薬による薬物治療 に抵抗性を示し高位頸静脈球もその背景として示唆されたメニエール病の治療経験を持ったの で報告する。 【症例】 症例は特に既往のない 38 歳女性で受診当日からの耳閉感を主訴に当科受診された。職業は看 護師で夜勤明けの申し送りの際に突然の耳閉感を自覚されている。 中耳炎や外傷の既往はなく、初診時の鼓膜・鼻咽腔所見・脳神経学的異常は認めなかった。 純音聴力検査にて左低音域での混合性難聴を認めた。初診時点ではめまい症状を認めず急性低 音障害型感音難聴の診断にて内耳循環改善薬、Vit.B12、浸透圧利尿薬に加え PSL30mg からの漸 減内服治療を開始した。第 5 病日再診時点で聴力改善なく緊急入院の上、大量ステロイド静注療 法に切り替え治療を継続したが効果は乏しく CT/MRI 撮影を施行したところ患側高位頸静脈球 と前庭水管への接触を認めた。その後浸透圧利尿薬の増量にて聴力軽快を認め退院されたが、 発症から 2.5 ヶ月後にめまい発作を伴う再度の低音閾値上昇を認めメニエール病への移行が疑わ れた。その後詳細な問診にて本人のストレス背景を確認し、徹底した生活指導を週 3 回以上の有 酸素運動を指導したところ 2 ヶ月後には聴力の著明改善を認め 1 年経過した時点でもめまい発 作、聴力低下の再燃を認めていない。 【考察】 今回の病態については確定的なことは云えないが、ステロイド治療抵抗性の急性低音障害型 感音難聴からメニエール病(疑い例)へと移行したものと考えられる。 高位頸静脈球とメニエール病との関与に関しては Redfern らの報告ではメニエール病確実例の 57%に患側あるいは健側の高位頸静脈球を認めており発生過程で内リンパ嚢、前庭水管、蝸牛 水管への浸食が水腫形成になんらかの影響を及ぼしている可能性が示唆されている。本症例で はめまい発症後に生活指導と有酸素運動の徹底により良好な聴力改善が得られており、このよ うな解剖学的異常を背景に有する症例であっても生活改善と有酸素運動によって病態改善を得 られる症例も存在すると考えられた。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 447 , 2015 37 メニエール病における遺伝子多型の検討 寺西 正明 1、内田 育恵 2、加藤 健 5、大竹 宏直 1、吉田 忠雄 1、西尾 直樹 1、 曾根三千彦1、杉浦 彩子3、中島 務4 1 名古屋大学大学院医学系研究科 頭頸部・感覚器外科学耳鼻咽喉科、2 愛知医科大学耳鼻咽喉科 3 国立長寿医療センター耳鼻咽喉科、4 一宮医療療育センター 5 あいち小児保健医療総合センター耳鼻咽喉科 [目的]メニエール病の原因および発症のメカニズムは不明であるが、遺伝要因と環境要因で発 症する多因子疾患であると考えられている。内耳 MRI において、患側耳で内耳血管透過性の亢 進を疑わせるメニエール病症例もあり、炎症との関連も示唆される。今回メニエール病患者と 「国立長寿医療センター研究所-老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」での地域住民と の間で、酸化ストレスや炎症関連の遺伝子多型とメニエール病のリスクについて検討した。 [方法]対象は、名古屋大学病院を受診したメニエール病患者とコントロールとして、NILSLSA第一次調査(1997年11月〜2000年4月)に参加した地域住民である。glutathione peroxidase (GPX)1 (rs1050450), paraoxonase(PON) 1(rs662, rs854560) , PON2(rs7493) , superoxide dismutase(SOD) 2(rs4880), methionine synthase(MTR) (rs1805087) , methionine-synthase reductase(MTRR) (rs1801394) , NOS 3(rs1799983) , caveolin(Cav) 1(rs3840634) , melatonin receptor(MTNR) 1B(rs1387153) , NADPH/NADPHp22phox(rs4673) , mitochondria(MT) 5178(rs28357984)の遺伝子多型について解析した。それぞれの遺伝子多型を説明変数として、 メニエール病の有無を目的変数、年齢、性別を調整変数とした、多重ロジステイック回帰分析 を行い統計学的に検討を行った。 [結果]caveolin(Cav) 1(rs3840634)多型については、年齢、性別を調整後のモデルでは、 相加モデルでのオッズ比は1.849(95%信頼区間:1.033-3.310)であった。また他の遺伝子多型は有 意差を認めず、メニエール病のリスクにはならなかった。 [結論]今回の結果より、caveolin(Cav) 1(rs3840634)多型がメニエール病のリスクになる ことが考えられた。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 448 , 2015 メニエール病における内リンパ嚢の CT 評価と手術アプローチ 38 山中 敏彰 1、阪上 雅治 1、山下 哲範 1、西村 忠己 1、松村八千代 1、 成尾 一彦1、藤田 信哉2、北原 糺1 1 奈良県立医科大学 耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座、2 奈良県総合医療センター 【目的】 メニエール病で、発作を繰り返して難聴の進行する難治症例のなかには、外科的治療を考慮 すべきケースが存在する。手術治療の第 1 選択として内リンパ嚢開放術が行われているが、当手 術においては、内リンパ嚢の位置がわかれば極力縮小した範囲でのアクセスが可能と考えられ る。一方、内リンパ嚢の位置は、側頭骨 CT により前庭水管の走行から評価されているが、正確 に同定することは困難なことも多い。今回、内リンパ嚢の同定に CT が有用であるか否かを確か めるために、CT で予測された内リンパ嚢(管)の位置が、実際の位置とどれくらい合致あるい は相違するかを調べ、さらに、想定された位置によってターゲットを絞った手術アプローチが 可能かどうか検討したので報告する。また、実際に、術前 CT での内リンパ嚢/管の位置関係の 評価により、術野を縮小して内リンパ嚢へアクセスすることができた手術症例を VTR で併せて 供覧する。 【対象と方法】 内リンパ嚢開放術を施行したメニエール病37例(男性18例,女性19例,平均年齢59.6歳)を 対象にした。側頭骨ターゲット CT(1 mm スライス)を用いて、前庭水管の陰影から内リンパ 嚢/管の位置を推定し、外側半規管延長線(Donaldson's line: D-line)と内リンパ嚢(Endolymphatic sac: ELS)の距離を 1 mm 単位のスケールで計測した。全身麻酔下に標準的乳突削開を手 術用顕微鏡下に行って、外側半規管、後半規管、および後頭蓋窩硬膜を露出し内リンパ嚢にア プローチした。術中に剖出された D-line と ELS との距離を微細キャリパスで計測した。 【成績】 CT 所見で、ELS の位置は 37 例中 29 例の 78.4 %で評価することができた。D-line と ELS の距離 (29例)は、4例(13.8 %)で1 mm以内、5例(17.2 %)で1-2 mm、3例(10.3 %)で2-3 mm、5 例(17.2 %)で3-4 mm、3例(10.3 %)で4-5 mm、9例(31.0 %)で5 mm以上と推測された。一 方、手術における実測値(37 例)では、D-line と ELS の距離の平均は、4.1±3.0 mm であった。 CTで評価できた29例についてCT推測値と手術実測値との誤差を調べると、1 mm以内であった のは18例(62.1%)、2 mm以内は22例(75.9 %)、2 mm以上であったのは7例(24.0%)に認めら れた。一方、CT で ELS を確定できなかった症例(8 例)や誤差の大きい症例(3 例)も認められ た。 【結論】 CT で内リンパ嚢/管の位置が推定できた場合には、小さな誤差で内リンパ嚢に到達できるケ ースが多く、CT 計測の有用性が示唆される。CT で内リンパ嚢/管の位置を正確に評価すること により、後頭蓋窩硬膜をほとんど露出させずに、より低侵襲的に内リンパ嚢へアプローチでき る可能性が示唆される。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 449 , 2015 Pathologic third window lesion 症例の MRI 内リンパ水腫評価 39 曾根三千彦 1、吉田 忠雄 1、寺西 正明 1、中島 務 2 1 名古屋大学大学院医学系研究科 頭頸部・感覚器外科学 耳鼻咽喉科、2 一宮医療療育センター (はじめに)上半規管列隙症候群や前庭水管拡大症に代表される pathologic third window lesion は、骨導閾値の低下を伴った低音域の気骨導差や音圧に誘発されるめまい症状などを生じるこ とが特徴である。Merchant らは third window のシャントによる音伝導への影響から気骨導差の 生じるメカニズムを推定している。一方、Pathologic third window の存在が外リンパ圧に影響 を及ぼし、その結果生じた内リンパ水腫が内耳障害に関与している可能性もある。近年、ガド リニウム静注の MRI 検査により内リンパ水腫の存在が明瞭に確認できるようになった。我々 は、Pathologic third window lesion症例の内耳病態を探るために、MRIによる内リンパ水腫評価 を行った。 (対象と方法)臨床所見や CT 所見から上半規管列隙症候群と診断した 3 症例 5 耳(13〜59 歳)と 前庭水管拡大症6症例12耳(15〜45歳)を対象のpathologic third window lesion症例とした。上 半規管列隙症候群 3 例中 1 例は一側性であり、前庭水管拡大症 6 例中 3 例は Pendred 症候群であっ た。蝸牛および前庭の内リンパ水腫の有無は、ガドリニウム静注4時間後の3T MRI撮影にて3段 階評価した。画像所見を急性感音難聴の既往や前庭症状の有無および聴力検査所見と比較検討 した。 (結果)若年の上半規管列隙症候群例1例 2 耳で骨導閾値上昇のない気骨導差だったが、その他 の症例は骨導閾値の上昇を伴った低音域の気骨導差を示した。上半規管列隙症候群では、急性 感音難聴やめまい症状の既往はなかったが、1 例で強大音による頭部振動の自覚があった。前庭 水管拡大症 6 例中 5 例で急性感音難聴またはめまい症状の既往があった。上半規管列隙症候群の MRIは、5耳中4耳に著明な蝸牛内リンパ水腫を、2耳に軽度な前庭内リンパ水腫を認めた。一側 性の上半規管列隙症候群例に内リンパ水腫は見られなかった。一方、すべての前庭水管拡大症 例の蝸牛および前庭に軽度から著明な内リンパ水腫が確認された。 (考察)上半規管列隙症候群や前庭水管拡大症の側頭骨病理の報告は限られているが、内リンパ 水腫の存在は指摘されていない。本検討では、MRI で高頻度に内リンパ水腫の存在が確認され た。蝸電図 SP/AP 比高値はメニエール病例で認められるが、上半規管列隙症候群の SP/AP 比が 外科的治療にて低下することが報告されている。また、メニエール病に対する内リンパ嚢開放 術後に低音域の気骨導差が増大する傾向も指摘されている。今回の検討から、上半規管列隙症 候群や前庭水管拡大症に代表されるpathologic third window lesion例において内リンパ水腫が存 在し、臨床症状発現に関与していることが示唆された。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 450 , 2015 40 上半規管裂隙が疑われた 5 症例の検討 高浪 太郎、田村 裕也、鈴木 光也 東邦大学耳鼻咽喉科学講座(佐倉) 【はじめに】上半規管裂隙症候群(Superior Canal Dehiscence syndrome)は、上半規管を被っ ている中頭蓋窩天蓋や上錐体洞近傍の上半規管周囲に骨欠損を生じ、瘻孔症状、Tullio 現象、難 聴など様々な臨床症状を来す疾患単位である。病態機序は、音刺激や圧刺激などの外的刺激に よって、上半規管上部の骨迷路の中頭蓋底部分の裂隙を介して頭蓋内に放散され、その際に内 リンパ流が生じることによる。上半規管刺激によって特徴的な眼球偏倚がみられ、時計回りま たは反時計回りの回旋成分を含んだ垂直性の動きであり、上半規管が正に刺激されると上方に, 負に刺激されると下方に眼球が偏倚すると考えられている。難聴は伝音難聴も感音難聴も生じ うる。その他、前庭誘発筋電位(Vestibular evoked myogenic potential)検査において振幅の 増大がみられることが報告されている。画像診断とは一般に軸位断および冠状断の側頭骨 HRCT(high resolution CT)検査が行われている。 【対象および方法】今回我々は2009年4月〜2015年4月までの6年間で当科にて施行された側頭骨 HRCT 検査において上半規管裂隙が疑われた 5 症例を対象に、神経耳科学検査を施行し画像診断 の結果と比較・検討した。 【結果】5 症例とも CT 所見上で上半規管裂隙を認めていた。症状の内訳は、臨床症状としての瘻 孔症状およびTullio現象を呈したのは3症例、自発的眩暈症状が見られたのは2症例、感音難聴を 認めたのは2症例であった。冠状断CT において5症例中4症例は両側性、1症例は片側性に裂隙は 確認された。瘻孔症状および Tullio 現象を訴えていた 3 症例とも、ENG 記録において圧刺激や音 刺激下に垂直性眼振を認めなかった。しかしこれら3症例中2症例ではc-VEMPで明らかな片側の 振幅増大が認められた。この 2 症例は冠状断 CT で両側の上半規管に裂隙を認めていたが、上半 規管の面で平行にスライスした再構成 CT においては一側のみに上半規管に裂隙がみられ、対側 は薄い骨壁で被覆されていた。またこの裂隙はc-VEMPの振幅が明らかに増大していた側と一致 していた。 【考察】当科で経験した5症例の内3症例は臨床所見・神経耳科学検査およびHRCT検査から上半 規管裂隙症候群と考えるが、確定診断を得るためにはさらに詳細な他覚的検査法が求められ る。上半規管の面に平行にスライスされた CT 再構成による評価法は、c-VEMP の振幅が明らか に増大していた側と一致しており、共に診断に対する有用性が示唆された。過去に報告された 上半規管裂隙症候群の文献学的考察をもとに、診断や治療に関する留意点に関して検討する。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 451 , 2015 41 ラバー負荷重心動揺検査におけるめまい診断の検討 河口 幸江 1,2、許斐 氏元 1,2、庄司 祐介 1,2、鈴木 衞 2 1 厚生中央病院 耳鼻咽喉科、2 東京医科大学 耳鼻咽喉科学分野 【目的】ラバー負荷検査は通常の重心動揺計の検査台の上に柔らかいフォームラバーを敷いて検 査を行う検査で、前庭障害をより反映する負荷検査として実用化されている。アニマ社の重心 動揺計ではラバー負荷下の開閉眼比(ラバーロンベルグ率)および閉眼下でのラバーあり・な し比(閉眼ラバー比)をもとに前庭障害であるかの可能性について Aa(前庭障害を有する可能 性が非常に高い)、Ab(前庭障害を有する可能性が高い)、B(前庭障害の可能性がある)、C (前庭障害がめまい平衡障害の主因である可能性は少ない)の 4 段階評価での結果が出される。 この評価と実際の臨床上の診断と照らし合わせて、実用度がどの程度のものであるかを検討す る。 【対象・方法】2015 年 4 月から 5 月の 2 か月間に当科外来にてめまい精査目的にラバー負荷検査を 実施した 51 例について検討した。年齢は 22 歳〜93 歳、平均 55.1 歳。男性 16 例、女性 35 例であっ た。めまいを主訴とし、精査目的および経過評価のために検査を実施された症例が 47 例、耳科 手術後のめまいの評価および経過評価のために実施された症例は 3 例である。症例全体において 4 段階評価された結果とその他の検査にて診断による検討、および前庭障害群および非前庭障害 群にわけて比較検討した。 【結果】めまい精査のために検査を実施された症例のうち問診・重心動揺検査以外の検査で診断 された結果(疑い例も含む)は、良性発作性頭位めまい症 9 例、メニエール病 3 例、めまいを伴 う突発性難聴3例、脳循環不全3例、前庭神経炎2例、起立性調節障害2例、心因性めまい2例、片 頭痛関連めまい 2 例、遅発性内リンパ水腫 1 例、急性前庭障害 1 例、内耳炎 1 例、内耳性めまい 1 例、ハント症候群 1 例、頭部外傷後 1 例であった。残りの 16 例は現時点で有意な異常所見などな く診断不能であった。この診断結果から前庭障害群(良性発作性頭位めまい症、メニエール 病、遅発性内リンパ水腫、めまいを伴う突発性難聴、前庭神経炎、急性前庭障害、内耳炎、内 耳性めまい、ハント症候群)22 例と非前庭障害群(脳循環不全、起立性調節障害、心因性めま い、片頭痛関連めまい、頭部外傷後)10 例に分けた。ラバー負荷検査の結果は、Aa:13 例、 Ab:19 例、B:15 例、C:3 例、であった。このうち Aa+Ab(32 例)では前庭障害が 18 例 (56.3%) 、非前庭障害が 6 例(18.8%)診断未確定 8 例(25%)であった。また B+C(18 例)のう ち、前庭障害が 7 例(38.9%)、非前庭障害が 4 例(22.2%)診断未確定 7 例(38.9%)であり、 Aa+Ab の方が、前庭障害と診断された割合は多かった。次に前庭障害群および非前庭障害群に おける結果を示す。前庭障害群の結果は Aa:7 例、Ab:8 例、B:6 例、C:1 例であった。この うち B 判定 4 例および C 判定 1 例が良性発作性頭位めまいで、B 判定の 2 例はメニエール病または 反復性の内耳性めまいの非発作期に施行されていた。非前庭障害群の結果は Aa:3 例、Ab:3 例、B:4 例であった。 【結論】今回の対象において、前庭障害によるめまいと診断されたケースの大半が Aa または Ab 判定であった。良性発作性頭位めまい症では B または C 判定になることが多く、良性発作性頭位 めまい症の診断の補助にはなりにくいと考える。またメニエール病の非発作期 B または C になっ ていたため、めまい症状を有する時期でないと診断の補助としてはあまり有用ではない可能性 があるため、反復性のめまいの場合は検査時期に注意し、複数回実施したうえでの判断が望ま れる。よって良性発作性頭位めまい症以外の前庭障害急性期では高率にAaまたはAb判定となっ た。しかし Aa 判定においても非前庭障害の診断に至っている症例もいるため、他の検査にて前 庭障害によるめまいと確定しない場合には前庭障害以外の検査も実施していく必要がある。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 452 , 2015 42 温度刺激検査とラバー負荷重心動揺検査を複数回施行した 前庭神経炎症例の検討 藤本 千里、岩崎 真一、鴨頭 輝、木下 淳、鈴木さやか、 江上 直也、牛尾 宗貴、山岨 達也 東京大学 医学部 耳鼻咽喉科 【目的】 前庭神経炎罹患後の体平衡機能の改善には、前庭代償や障害された末梢前庭機能そのものの 改善が重要と考えられている。我々は過去に、ラバー負荷重心動揺検査(ラバー負荷検査)を 用いた解析により、前庭神経炎患者の体平衡機能は、急性期を過ぎると、年齢や温度刺激検査 の Canal paresis(CP)の大きさの影響を受けることを示した。今回我々は、前庭神経炎の経過 中、末梢前庭機能の評価とラバー負荷検査による体平衡機能評価を複数回施行して、その変化 を追った症例の検討を行うことを目的とした。 【方法】 2010年2月から2014年12月に東京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科めまい外来を受診した前庭神 経炎 42 症例のうち、温度刺激検査とラバー負荷検査を複数回施行し、両検査を同じ日に行った 14症例(男性10 症例、女性4症例、初回検査時の年齢の平均(±SD)58.0(±14.2)歳、年齢幅 36-81 歳)を対象とする、後ろ向きカルテ調査を行った。 ラバー負荷検査の評価項目は、 (1)身体動揺所見の評価として、閉眼・ラバー負荷条件におけ る速度と外周面積、 (2)視覚依存性の評価として、ラバーロンベルグ率の速度と外周面積、 (3) (1)〜(3)の各項目 体性感覚依存性の評価として、閉眼ラバー比の速度と外周面積を用いた。 において、最終検査時が初回検査時に比べ、速度と外周面積のいずれの数値も低下を認めた症 例を「改善」、一方のみ低下した症例は「不変」、いずれの数値も上昇を認めた症例を「増悪」 とした。 温度刺激検査の CP の評価は、20%以下になった症例および 30%以上の改善を認めた症例を改 善症例とした。 【結果】 14症例中1症例(7%)は、発症後1年9ヶ月時において、両側温度刺激検査の低下を認め、特発 性両側末梢前庭機能低下症に移行したと考えられた。残りの 13 症例においては、身体動揺所見 については 12 症例(92%)が改善、1 症例(8%)が不変であった。視覚依存性については、9 症 例(69%)が改善、3 症例(23%)が不変、1 症例(8%)が増悪であった。体性感覚依存性につ いては、10 症例(77%)が改善、3 症例(23%)が不変であった。 CP が改善した 5 症例は、すべて発症後 30 日以内に初回検査が行われ、4 症例(80%)で身体動 揺所見の改善、3 症例(60%)で視覚依存性の改善、全症例で(100%)で体性感覚依存性の改善 を認めた。一方、CP が改善しなかった 8 症例は、6 症例(75%)において発症後 41 日以上に初回 検査が行われたが、全症例(100%)で身体動揺所見の改善、6 症例(75%)で視覚依存性の改 善、5 症例(63%)で体性感覚依存性の改善を認めた。 【考察】 前庭神経炎患者の身体動揺所見は、急性期を過ぎた後に末梢前庭機能の改善が認められなく とも、改善して行く症例が多く、前庭代償の関与が示唆された。今後症例を増やしてさらに検 討を行う予定である。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 453 , 2015 43 vHIT を用いた垂直半規管機能検査における留意点とその対応 新藤 晋 1,2、杉崎 一樹 1,2、井上 智恵 1、関根 達朗 1、伊藤 彰紀 2、 柴崎 修2、水野 正浩2、池園 哲郎1 1 埼玉医科大学 医学部 耳鼻咽喉科、2 埼玉医科大学 医学部 神経耳科 video Head Impulse Test(vHIT)は、生理的な刺激条件で半規管機能が評価できる優れた診 療ツールである。我々は ICS impulse を用いて 2012 年 11 月から 2015 年 5 月までに 441 名の患者に 水平半規管の vHIT(以下 horizontal vHIT)を施行しており、そのうち 237 名に垂直半規管刺激 による vHIT(以下 vertical vHIT)を併施している。vHIT の評価項目は VOR gain と catch up saccade(CUS)の二つからなる。CUS は定量的な評価は難しいものの、VOR gain に比べアー チファクトの影響を受けにくく、軽度であればノイズや slip の影響があっても評価が可能であ る。VOR gain は半規管機能を定量的に評価できる利点を有するが、様々なアーチファクト(ノ イズ、slip など)によってその数値が変化し、誤った評価をしてしまう可能性がある。特に vertical vHIT は horizontal vHIT と比較して検査手技が難しいだけでなく、ノイズやアーチファク トが生じやすい。さらに vertical vHIT は、horizontal vHIT における温度刺激検査のように検査 結果を比較するモダリティを持たない。以上の理由から vertical vHIT における VOR gain の解 釈は慎重に行う必要があると考えている。 当科では 2013 年から vertical vHIT を行なっている が、導入直後は検査が遂行できない症例が多く、仮に検査ができたとしてもアーチファクトが 多く判定に苦慮していた。最近ようやく安定して vertical vHIT が施行できるようになり、現在 は耳鼻科経験3年目(めまい外来1年目)の若手医師も vertical vHIT を習得しつつある。 今 回は、我々が vertical vHIT を施行・評価する上で重要と考えている留意点と当科における対 応、そして今までに得られた知見について報告する。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 454 , 2015 vHIT を用いた内耳奇形患者の半規管機能評価 44 関根 達朗 1、新藤 晋 1,2、杉崎 一樹 1,2、井上 智恵 1、松田 帆 1、 伊藤 彰紀2、柴崎 修2、水野 正浩2、池園 哲郎1 1 埼玉医科大学病院 耳鼻咽喉科、2 埼玉医科大学病院 神経耳科 以前、内耳奇形は剖検で判明することが多く、内耳奇形と内耳機能との関係はほとんど分か っていなかった。近年、画像技術の進歩によって内耳の形態異常が見つかるようになり、内耳 奇形の臨床像が少しずつ明らかになってきている。Westerhof らは、感音難聴を認めた内耳奇形 を有する患児の 88%に半規管の奇形を、62%に耳石器の奇形を認め、蝸牛の奇形は 48%と少な かったと報告している。一方、形態異常の頻度とは逆に内耳奇形と機能の関連については蝸牛 機能についての報告が多く、前庭機能と内耳奇形の関連については報告が少ない。これは前庭 系の奇形があってもめまいや平衡障害等の症状に乏しく発見されづらいことや、前半規管や後 半規管の奇形は、従来の前庭機能検査では評価できないことが関係しているかもしれない。 2009 年に、高角速度刺激を与えることにより回転検査でありながら canal paresis(CP)の患側 が分かり、すべての半規管が評価可能なvideo Head Impulse Test(vHIT)が発表された。今回 われわれは画像検査により明らかとなった嚢状半規管、前庭水管拡大、内耳無形成、蝸牛神経 無形成などの各種内耳奇形患者に対し、vHIT を中心とした各種内耳機能検査を行なった。その 結果、いくつかの興味深い検査結果を得ることができたので報告する。図は両側嚢状半規管患 者の vHIT の検査結果を示したものである。外側半規管刺激において両側とも VOR gain の低下 と CUS を認めるが、前半規管、後半規管刺激刺激では VOR gain は正常で、CUS も認められな い。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 455 , 2015 45 いわゆる light cupula 型頭位眼振の発生機序に関する検討 ─とくに VEMP による検討─ 瀬尾 徹、白石 功、小林 孝光、土井 勝美 近畿大学 医学部 耳鼻咽喉科 はじめに 方向交代性頭位性眼振は、良性発作性頭位めまい症の外側半規管型バリアントとして知られ る。このうち、方向交代性下向行眼振を示すものは持続時間が数十秒以内であり、その発症機 序として外側半規管内結石症が考えられている。また方向交代性上向性眼振を示すものは、持 続時間が数分以上と長く外側半規管のクプラ結石症がその原因であると考えられている。一方 で、少数ながら方向交代性下向性眼振が数分以上持続する症例に遭遇することがある。このよ うな症例は、仰臥位においても眼振を有し、仰臥位より側方に 30 度程度傾斜した頭位で眼振が 消失する(neutral point)という特徴をもつ。このような眼振は、外側半規管のクプラの反重力 方への偏移(light cupula)で説明できる。本研究の目的はこのようないわゆるlight cupula型頭 位眼振(positional nystagmus of light cupula type: PNLC)の発症機序を探るために耳石機能検 査について検討したので報告する。 対象と方法 対象は、10例のPNLCである。これらについて、耳石器機能検査としてcVEMPおよびoVEMP を施行した。以下の仮の診断基準に合致するものを PNLC と判断した。 (1)方向交代性下向性頭 位性眼振。 (2)仰臥位で眼振が存在し、左右いずれかに30度から45度傾斜した頭位で眼振が消失 する頭位が存在する。 (3)正面位で眼振は存在しない。 (4)小脳症状や頭部 MRI によって異常を 認めない。 結果 oVEMP の異常は 6 例に、cVEMP の異常は 2 例に認めた。 考察 本研究に結果、PNLC と oVEMP の異常、すなわち卵形嚢の異常が関連することが明らかとな った。これまでに我々はPNLCの原因として、クプラに付着する内リンパよりも比重の軽いデブ リの存在を示唆してきた。この軽いデブリの発生に卵形嚢の異常が関与していると考えた。た だし、本研究の結果は卵形嚢自体の障害で眼振が生じている可能性も示唆するが、詳細な眼振 の性状の研究によって、これは否定的であると考える。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 456 , 2015 46 慢性中耳炎における聴覚コミュニケーション障害についての アンケート調査 石田 克紀、峯川 明、喜多村 健、坂井 真 茅ケ崎中央病院 耳鼻咽喉科 【目的】 慢性中耳炎は、中耳、乳突腔などを主体として慢性の炎症を起こし、耳漏、難聴、耳閉感などの聴覚 障害やふらつき・めまいなどの平衡障害が生じる。その結果、聴覚コミュニケーション障害を生じ、社 会生活上のトラブルや不安などの心理的影響を及ぼすことが推測されるが、その程度については十分明 らかになっていない。そこで、今回慢性中耳炎による聴覚コミュニケーション障害の程度や社会的・心 理的影響などの項目についてアンケート調査を行い、慢性中耳炎患者のQOLを明らかにし、視覚化する ことを目的とした。 【対象と方法】 対象は2014年11月から2015年5月までの間に当科を受診した慢性中耳炎患者に対してアンケート調査 を実施した。尚、患者をA群)保存治療対象者または手術前患者(術前)28名(男性14名、女性14名、年 齢 9-88 歳;平均 51.9 歳)と B 群)当科にて中耳手術を受け、6 ヵ月以上経過観察しえた術後患者(術 後)70 名(男性 32 名、女性 38 名、年齢 7-84 歳;平均 56.5 歳)の 2 群に分けてアンケート調査を実施し た。そして慢性中耳炎による聴覚コミュニケーション障害の程度、社会的・心理的影響、また手術治療 による改善度について検討・解析した。尚、本研究については院内の臨時倫理員会の承認を得、研究協 力の任意性と撤回の自由、個人情報の保護などにつき院内に告示する方法を取り、同意の得られた患者 にのみ実施した。 【結果】 A 群) 50%以上が人との会話やテレビ聞き取り、電話中の呼びかけなどに不自由を感じており、特に自分が 難聴だと自覚している人の割合は 74%と高かった。男性は難聴が軽度と感じている人が多く、女性は中 等度くらいだと感じている人が多かった。風呂で普通に耳を濡らせると回答した人は 36%で、半数の人 が濡らせないと回答した。水泳が楽しめない人が 79%であった。6 ヵ月以内に耳だれが出た人は 21 名お り、その程度は男女とも中等度くらいが多かった。 社会的な問題では聴覚障害の、進学や仕事へ影響については 90%前後の人がなかったと回答したが、 将来への不安については約 40%の人があると回答した。心理的な問題の中では聞き返しが多く相手に悪 いと感じている人の割合が 67%と高かった。 B 群) 術後に人との会話、テレビ聞き取り、電話中の呼びかけなどで不自由がないと答えた割合は 64〜69% であった。術後に難聴だと感じる人は 45%であったが、その程度は多くが軽度〜中等度であった。風呂 で普通に耳を濡らせると回答した人と濡らせないと回答した人は同数であった。水泳については術後で も楽しんでいないと回答した人が 77%であった。また 6 ヵ月以内に耳だれが出た人は 10 名 14%いたが、 ひどく出たと回答した人はいなかった。 社会的・心理的問題の多くの項目で「あり」と回答した人の割合が減少したが、将来への不安ありと 回答した人、聞き返しが多く相手に悪いと感じている人はそれぞれ 15%、38%と A 群と比較して大きく 減少した。 術後でも補聴器の使い勝手が良くなった、人と話をする際の不安や緊張が少なくなった、学業、仕事 の効率が向上した人と回答した人は3割以下であったが、日常生活の中での自信や勇気が回復した、性 格が明るくなったなどの心理面での改善ありと回答した人は 40%、47%と高かった。 【考察】 慢性中耳炎患者の多くは日常生活の中で難聴を自覚する機会が多く、自分が難聴者であると自覚して いる割合が高かった。実際の学業や仕事での影響を経験した人は少なかったが、将来への不安は強く、 聞き返しが多く相手に悪いと感じている人の割合は高かった。 手術後の場合も患者の半数以上は耳に水が入らないように注意し、社会的問題では中にはその恩恵が 感じられない人もいたが、心理面では自信や勇気の回復、明るい性格への変化を自覚しており、中耳手 術が慢性中耳炎患者の QOL の向上に役立っているものと考えられた。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 457 , 2015 47 認知症難聴患者における治療の試み 清水 謙祐 1,2、松田 圭二 2、鳥原 康治 2、東野 哲也 2 1 医)建悠会 吉田病院 精神科、2 宮崎大学 医学部 耳鼻咽喉科 【はじめに】日本の高齢者人口は 3296 万人、総人口に占める割合 25.9%、8人に1人が 75 歳以上 となっている。認知症患者数は増加し、2012 年には 462 万人と推定される。認知症患者に合併す る「老年症候群」第一位は難聴(40%)と言われる。認知症患者に聴力検査は不能と考える医 師も少なくないため、実際の当院認知症患者の聴力について検討した。 【対象と方法】当院を受診した認知症患者 68例(男18例、女50例、61〜93歳、平均79.8歳)の長 谷川式認知症検査(HDS-R)30 点満点と純音聴力検査(3分法)を評価した。当院は 307 床の精 神科単科病院であるが、平成6年より73歳の耳鼻咽喉科専門医が勤務しており、耳鼻科診療も行 われていた。平成 17 年から筆頭演者が耳鼻科診療を開始した。認知症の種類はアルツハイマー 型45例(66.2%)、血管型8例(11.8%)、混合型2例(2.9%)、レビー小体型5例(7.4%)、前頭側 頭型 7 例(10.3%)、その他 1 例(1.5%)であった。 【結 果 】HDS-R は 29 点 -3 点 、平 均 17.6 点 で あ り 、29-21 点 が 24 例 (35.3%)、20-16 点 が 20 例 (29.4%) 、15-11 点が 14 例(20.1%)、10-3 点が 10 例(14.7%)であった。聴力検査は平均右 53.6dB 左 56.4dB、右耳は正常(-25dB)3 例、軽度難聴(26-40dB)14 例(20.6%)、中等度難聴(4170dB) 41 例(60.3%)、高度難聴(71dB-)10 例で、左耳は正常 4 例、軽度難聴 17 例(25%)、中 等度難聴 30 例(44.1%)、高度難聴 17 例であった。よって正常 1 例(1.5%)、右難聴 2 例(2.9%)、 左難聴 3 例(4.4%)、両難聴 62 例(91.2%)であり、難聴者は 67/68(98.5%)であった。 当院における補聴器装用例を呈示する。 【考察】これまで認知症患者に対してルーチンの聴力評価・鼓膜観察は行っていなかったが、難 聴は認知症 risk factor の一つであり、難聴の認知症患者は幻聴発現・認知障害進行の risk がある ため、適切な介入が必要と思われる。認知症は治療困難な疾患であり、聴覚からの脳刺激・補 聴器装用という点からも耳鼻咽喉科専門医の果たす役割は大きいと期待する。認知症患者のほ ぼ全員が難聴という事実から早急な対応が望まれる。認知症(進行予防)対策の点からもエビ デンスはまだない状態であるが、一刻も早い補聴器装用が望まれる。 【文献】 Frank R. Lin, MD, PHD. Hearing Loss and Cognitive Decline in Older Adults. JAMA Internal Medicine. 173(NO. 4), FEB 25, 2013 森田由香:認知障害と加齢性難聴との関係についてー疫学調査プロジェクト(PROST)デー タからー 日耳鼻予稿集 118-612、2015 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 458 , 2015 48 幼児期に発語が消失し難聴の疑いで当科を受診し原因疾患が判明した 4症例の検討 有本友季子 1、仲野 敦子 1、松島 可奈 1、工藤 典代 2 1 千葉県こども病院 耳鼻咽喉科、2 千葉県立保健医療大学 健康科学部 【はじめに】 新生児聴覚スクリーニング(NHS)が普及し、先天性難聴では早期に診断や対応開始が 可能な症例が増えている。一方で後天性発症や進行性難聴の症例では、言語表出が十分に可能と思える 時期に入ってから、発語の消失や発語が進まないこと等を理由に聴覚評価目的で耳鼻咽喉科を受診する ことが少なくない。幼児期に発語が消失し、難聴の疑いで精査を行い原因疾患が判明した4症例につい て検討し報告する。 【症例】 1.当科初診時 3 歳 5 ヵ月 男児 1 歳半頃、マンマ、どうぞ、等の発語を認めたが、徐々に発語が消失し、3 歳 5 ヵ月で近医小児科から 当院神経科へ紹介となった。軽度の自閉傾向を指摘されたが、聴覚評価目的に当科受診となった。COR では両耳聴で低音部 60〜70dB、高音部 80〜90dB の高音漸傾型を示し、ABR では V 波閾値 右 75dBnHL、左 55dBnHL の結果であった。難聴の家族歴は認めず、NHS も未施行であった。補聴器調整 等、当科にて経過観察を行っていたが、16 歳時に右聴力の悪化があり、難聴原因検索を施行した。側頭 骨 CT にて両側の前庭水管拡大を認め、難聴遺伝子検査にて SLC26A4 遺伝子の複合ヘテロ変異が確認さ れた。本児は普通高校から現在、大学に進学している。 2.当科初診時 3 歳 5 ヵ月 女児 1 歳半頃、ママ、パパ、バーバ等有意語の発語を認めた。20 語程度の発語があったが、徐々に消失 し、聴力精査目的に3歳5ヵ月時に当科初診となった。CORでは75〜95dBの反応で、ABRではV波閾値 右 90dBnHL、左は 105dBnHL でも V 波は同定できず、両高度難聴の診断となった。難聴の家族歴はな く、側頭骨CTにて両側前庭水管拡大を認め、難聴遺伝子検査でSLC26A4遺伝子の複合ヘテロ変異が確 認された。NHSは未施行で、難聴の発症時期は不明であるが、経過から難聴の進行が推測された。両側 前庭水管拡大症例であることから、2 歳頃に転落や転倒で頭部打撲の既往が、難聴進行の契機となった 可能性も否定はできない。現在は補聴器装用を行い、聾学校幼稚部にて教育を受け発語の増加を認めて いる。 3.当科初診時 3 歳 0 ヵ月 男児 1 歳過ぎに始語があり、1歳半頃おかあさん等の発語を認めていた。2 歳頃には 3 語文で会話していた が、2歳半頃から発語が徐々に消失した。2歳11ヵ月時感冒に罹患し小児科受診の際、発語がみられず、 難聴の疑いで当科紹介となった。COR 90〜100dB、ABRではV波閾値右90dBnHL、左100dBnHLの結果 であった。難聴の家族歴はなく、NHS も未施行であった。乾燥臍帯によるサイトメガロウイルス (CMV)DNA測定を行ったところ、先天性CMV感染症の診断となった。3歳6ヵ月時に他院にて人工内 耳挿入となり、現在は普通小学校に進学している。 4.当科初診時 4 歳 11 ヵ月 女児 1歳前に始語、2歳には二語文の発語があり、音読してもらった絵本を暗誦する等、言語発達は良好な 印象であった。4 歳 8 ヵ月頃から有意語の発語が消失し、ジャーゴン様の発話が出現し、難聴の疑いで 4 歳 11 ヵ月時に当科初診となった。難聴の家族歴はなく、NHS は未施行であった。初診時、COR で 70〜 80dB 、ABRでは両耳とも90dBnHLでIV波以降の消失を認めたが、両耳ともにI波のみ40dBnHLまで明 瞭に認めた。後迷路性難聴の疑いで当院神経科に相談の上、更に精査を進めた。頭部MRIでは異常を認 めず、脳波検査では睡眠下で多焦点に棘波の頻発を認め、脳波異常を伴う小児後天性失語症として知ら れる Landau-Kleffner 症候群(LKS)の診断に到った。現在は聾学校にて主に視覚的言語の習得に努め ている。 (本症例の詳細は本年の小児耳鼻咽喉科学会にて報告した。 ) 【まとめ】 幼児期に発語が消失した今回の4症例は、両側前庭水管拡大による難聴 2 例、先天性 CMV 感染症による両側難聴 1 例、稀な疾患である LKS1例であった。幼児期に発語が消失した場合、鑑別疾 患として主に後天性発症や進行性の難聴を呈する疾患が考えられるが、中にはLKSのような稀な疾患に 遭遇することもあり、原因究明にあたっては他科との連携も重要と思われた。また全例 NHS 未施行だ が、NHS施行により難聴発症時期の明確化や、難聴の早期発見が行えたケースが存在した可能性は否定 できず、NHS は有用と思われた。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 459 , 2015 成人期になり診断した Auditory Processing Disorder の1症例 49 中 希久子 1、假谷 伸 2、片岡 祐子 2、前田 幸英 2、菅谷 明子 2、西崎 和則 2 1 福山市民病院、2 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 耳鼻咽喉・頭頸部外科 純音聴力検査では聴力正常であるが、聴覚障害と同様な聞き取りの問題を抱え、かつその問 題が聴覚モダリティに限定される場合には聴覚情報処理障害(Auditory Processing Disorder: APD)と称され、ASHA(The American Speech-Language-Hearing Association)においては、 伝音難聴、感音難聴と並んで、聴覚障害の1タイプと考えられている。ASHAによると、APDを 有する小児は、音源定位、側性化、聴覚識別、聴覚パターンの認知、音の時間処理、競合刺激 の処理、歪んだ語の聴知覚などの聴覚処理過程に問題を生じ、聴力低下がみられないにも関わ らず、聞き取りに困難さを示すとし、ASHA ではこれらのうち1〜2項目以上に問題がみられ た場合を APD と定義している。APD は児童にのみ存在するものではなく、中年男性や閉経後の 女性など成人にもみられる。成人例においては、小児の場合とは異なり、言語発達上の問題は みられないが、学校や職場で不適応を起こすなど精神的な問題が絡むことがある。今回、成人 期になり診断した APD 症例を経験したので報告する。 症例は 26 歳男性。18 歳頃から言葉の聞き取りにくさがあり、何とか過ごしていたが、就職 後、徐々に仕事などでの会話に支障を来すようになったため受診した。健診などで難聴を指摘 されたことはなし。難聴の家族歴なし。純音聴力検査では4分法、右20.0dB、左22.5dB、ABRで は両側とも 30dB まで反応認め、頭部 MRI でも難聴の原因となるような病変は認めなかった。さ らなる精査のため、高次病院紹介となり、DPOAE は左右とも正常反応、語音聴力検査で最高明 瞭度は右30dBで95%、左50dBで95%。APD検査として、両耳分離聴検査、圧縮語音聴力検査、 両耳交互聴検査、雑音下の語音聴力検査、ギャップ検出閾値検査を施行し、APD との診断に至 った。 APD に対する対策として、環境調整、聴能を中心とした機能訓練、機能的再編成のための代 償機能の強化などが挙げられる。しかし根治的治療法は確立されておらず、個別の症状にあわ せた支援方法の構築などが望まれる。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 460 , 2015 50 側頭骨線維性骨異形成症による外耳道狭窄例 島田 茉莉 1、塚本 裕司 1、中村 謙一 1、深美 悟 3、伊藤 真人 2 1 自治医科大学 耳鼻咽喉科、2 自治医科大学 小児耳鼻咽喉科 3 獨協医科大学 耳鼻咽喉・頭頸部外科 【はじめに】 側頭骨の線維性骨異形成症は稀な疾患であり、外耳道狭窄のために伝音難聴と 2 次性の外耳道真珠腫の形成がしばしばみられる。これらの臨床症状や合併症がみられる時には 外科的治療の適応であるが、術後に病変の再増殖のために外耳道の再狭窄がおきやすい。さら に、手術の時期や手術法についてのコンセンサスは得られていないのが現状である。今回我々 は青年期までに複数回の外耳道形成術を受けた後もゆっくりと外耳道狭窄が進行し、40 歳で外 耳道の完全閉塞に至ったために再手術を行った症例を経験したので報告する。 【症例】 患者は 40 歳の女性で、外耳道狭窄による伝音難聴と外耳道真珠腫を認めた。左外耳道 軟骨部はかろうじて開存しているが、骨部は狭窄のため完全閉鎖していた。左側頭部を中心に 全体に骨の膨隆があり、顔面非対称であったが、顔面運動に左右差はみられなかった。CT では 左側頭骨を中心にスリガラス様陰影を呈し、左骨部外耳道の外側 2/3 は閉鎖していた。外耳道深 部は開存していたが、内部に軟部組織陰影が充満していた。外耳道閉鎖の解除と聴力改善目的 に全身麻酔下に左外耳道形成術・後壁削除型乳突削開術を施行した。外耳道をバーにて削開 し、大きく拡大しながら後壁削除型乳突削開術を施行し、深部で上鼓室腔、乳突洞口が開放さ れるまで、通常の外耳道直径の 3〜4 倍の大きさに外耳道を拡大した。大きく拡大した外耳道は 同側の正常骨部から採取した骨パテ板と側頭筋膜で被覆した。術後骨パテ板を被覆した側頭筋 膜の生着は良好で、上皮化も約2か月で完了した。術後6か月目の聴力検査では、3分法平均聴力 18.3dB と良好で、再狭窄の所見はない。 【考察】 側頭骨線維性骨異形成症はゆっくりと進行する良性疾患であるので、病変の完全切除 は必要ないが、病変が中耳や乳突蜂巣に浸潤している場合には後壁削除型の乳突削開術+外耳 道再建術が必要である。外科的治療をいつ行なうべきかについては、病変の進行度と合併症(2 次性真珠腫形成、顔面神経麻痺、感音難聴など)の状態によって決定すべきであろう。本症例 では過去に4回の外耳道形成術を受けており、21 歳時に受けた 4 回目の手術後も徐々に外耳道の 狭窄が進行したが、40 歳までは良好な聴力が維持されていた。しかし、外耳道の狭窄が進み耳 垢清掃が困難となってから数か月で骨部外耳道深部に耳垢が堆積し外耳道真珠腫が形成されて おり、外耳道の完全閉塞にいたった症例では早期の手術加療が必要である。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 461 , 2015 51 外耳道狭窄を呈した孤発性 Schwannomatosis の 1 例 松崎佐栄子、大石 直樹、若林 聡子、神崎 晶、藤岡 正人、渡部 高久、 平賀 良彦、鈴木 法臣、細谷 誠、小川 郁 慶應義塾大学 耳鼻咽喉科学教室 【はじめに】 多発性神経線維腫症として神経線維腫症1型(neurofibromatosis type 1, 以下 NF1),および 2 型(NF2)はよく知られているが,近年,第 3 の多発性神経線維腫症として schwannomatosisという疾患概念が提唱されている。 「両側聴神経腫瘍を伴わない多発神経鞘腫」 を特徴とし,NF1の発生率が出生約3000人に1人,NF2が出生25000-60000人に1人であるのに対 し,schwannomatosis は出生172.4万人に1人と極めて稀な疾患である。1997年頃より診断基準が 提唱され始め,2011 年のワークショップにて新たな診断基準が提案されている。その中では、 分子生物学的診断(molecular diagnosis)および臨床的診断(clinical diagnosis)の基準が示さ れ、責任遺伝子が明らかになってきているとともに、臨床的には以下の3つの診断基準が提唱 された。すなわち,1. 「2 つ以上の皮内ではない神経鞘腫を認め,少なくとも一つは病理学的に 神経鞘腫の診断がついており,MRI にて両側聴神経腫瘍を認めない(若年の NF2 症例ではこの 基準に当てはまる場合があること,また,Schwannomatosis 症例で片側性聴神経腫瘍や多発す る髄膜腫が見られることがあることに留意する) 」,2. 「病理学的に診断された神経鞘腫または 頭蓋内髄膜腫を認め一親等以内の直系親族に同様の症状を認める場合」,3. 「2 つ以上の非皮内 腫瘤が見られるが病理学的に神経鞘腫の診断がついていない場合,腫瘍と関連する慢性疼痛が あれば schwannomatosis の可能性が高まる」とされている。NF2 の診断基準を満たす症例は、 schwannomatosisの概念に含まれない。この診断基準にあるように,一側性聴神経腫瘍例が存在 することから耳鼻咽喉科医が診療を担当する機会もあることが予想されるが,渉猟し得た限り では国内外から耳鼻咽喉科領域からのschwannomatosisに関する症例報告は未だ見られない。今 回我々は、孤発性のschwannomatosisと考えられる症例で,外耳道皮下腫瘤のため伝音難聴を来 した症例を経験した。疾患概念の紹介とともに,症例に対する考察を加え報告する。 【症例】49 歳女性。10 代より耳後部の小腫瘤を自覚していた。34 歳頃,近医形成外科にて右耳後 部,右頸部腫瘤摘出術が施行された。その後しばらく無症状であったが,頸部痛を契機に頸髄 神経鞘腫と診断された。46 歳になり,当院形成外科にて頸髄神経鞘腫摘出術が施行された。そ の翌年,増大する右外耳道内腫瘤のため当科紹介受診となった。初診時,右外耳道内に無痛性 の腫瘤を認め,外耳道はほぼ閉塞されていた。純音聴力検査(4 分法)にて右 38.8dBHL, 左 12.5dBHL の右伝音難聴を認めた。また,右耳介周囲に圧痛を伴う複数個の腫瘤を認めた。造影 MRIにて右外耳道内に径19mmの腫瘤性病変を認め,さらに右耳介上方,後方,下方,と複数部 位に境界明瞭な腫瘤を認めた。T2 強調画像で高吸収,部分的に造影効果がみられた。また,左 内耳道内に限局する小さな聴神経腫瘍を認めた。カフェオレ斑は認めず,聴神経腫瘍は片側性 で,NF2の診断基準は満たさず、schwannomatosisと考えられた。伝音難聴を来していること, 対側の聴神経腫瘍により将来的な感音難聴発症の可能性があること,外耳道内腫瘤の増大によ り開口時痛などの顎関節症状の出現も考えられたことから全身麻酔下に右外耳道腫瘤,右耳周 囲皮下腫瘤摘出術を施行した。病理組織検査の結果,腫瘤はすべて神経鞘腫であり,悪性所見 は認めなかった。術後,右気骨導差は消失し耳介周囲の疼痛も消失した。 【考察】本症例では希望により遺伝子検査は施行していないが,臨床的に schwannomatosis と診 断された一例である。内耳道内腫瘤の取り扱いは慎重であるべきなのに対し,伝音難聴の原因 となる外耳道内腫瘤および疼痛の原因となり得る皮下腫瘤の摘出は積極的に考慮してよいと考 えられた。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 462 , 2015 52 難聴を主訴に受診した耳垢腺腫の 1 例 石井 賢治、神尾 友信 神尾記念病院 【はじめに】耳垢腺腫(ceruminal adenoma)は外耳道に発生する稀な疾患である。耳掃除の際 などに外耳道の腫瘤に気付き受診することが多い。今回我々は、難聴を主訴とした高齢者に発 生したを経験したので、若干の文献的考察を加えてこれを報告する。 【症例】86 歳男性。数年前から難聴を自覚し、最近になり特に左が悪化したため当院を受診し た。左外耳道を閉塞する腫瘤が認められた。腫瘤表面は正常の外耳道皮膚で覆われていた。聴 力は右 48.75dB(気骨導差 5dB)、左 77.5dB(気骨導差 28dB)であった。左難聴の悪化は外耳道 閉塞によるものと考えられた。初診より 2 ヶ月後、局所麻酔下に切除術を施行した。腫瘍から 2mm 程の皮膚マージンを付けて皮切を行い、外耳道骨から剥離し一塊にして切除摘出した。骨 破壊は認められなかった。腫瘍の大きさは 1.3×1.0×1.0cm で弾性硬、表面平滑で充実性の腫瘍 であった。皮膚欠損部はキチン膜で被覆した。病理組織診断は耳垢腺腫で、切除断端はnegative であった。術後 2 週間で欠損部は上皮化した。聴力は 56.3dB(気骨導差 8.8dB)に改善した。術 後 1 年以上が経過し、再発は認められていない。 【考察】耳垢腺腫は 1894 年に Haug らにより報告された疾患で、渉猟し得た範囲で本邦での報告 例は 24 例と稀な疾患である。中耳に進展することもあり、注意すべき疾患である。鑑別診断と して多形腺腫が挙げられるが、筋上皮の増生や軟骨基質の産生有無などで鑑別は可能である。 完全摘出が唯一の治療法であるが、再発もあり得るため注意深い経過観察が必要である。本症 例は難聴のみを主訴として受診しており、耳鼻咽喉科医が診察しなければ加齢による難聴とし て見過ごされた可能性がある。稀に本疾患のような腫瘍性病変が存在するため、念頭に置くべ きと考えられた。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 463 , 2015 53 限局性の外耳道腫瘍として発現した副咽頭神経鞘腫の一例 相原 隆一 市立宇和島病院 耳鼻いんこう科 【はじめに】 神経鞘腫は、末梢神経シュワン細胞由来の良性腫瘍で 20〜50 歳代に好発する。耳鼻咽喉 科領域に比較的多く、前庭神経・三叉神経・顔面神経・舌下神経・迷走神経などを起源とするが、外耳 道に発生することは非常に稀である。今回我々は、限局性の外耳道腫瘍として発現した副咽頭神経鞘腫 の一例を経験したので報告する。 【症例提示】 症例は55歳女性、主訴は左耳閉感。2014年某月より左耳閉感を自覚し、4カ月後に近医耳 鼻科を受診したところ、左外耳道後上壁の腫脹を認めた。CT で腫瘍性病変が疑われたため、精査加療 目的に当科を紹介受診した。 初診時所見:左外耳道後上壁に腫脹を認め、鼓膜および鼻咽喉頭は正常であった。CT では骨部外耳 道後壁に軟部腫瘤影を認め、MRIでは外耳道後上壁にT1WIで等信号、T2WIで高信号を呈する10 x 6 x 6mm 大の腫瘤を認めた。 良性の外耳道皮下腫瘍として類表皮嚢腫、皮様嚢腫、耳垢腺腫などを鑑別診断とし、手術を考慮した が、MRI の別のスライスで、左耳下腺深葉に接し、内頸動脈を後内側方向に圧排するようなかたちで、 左副咽頭間隙に 25 x 18 x 16mm の腫瘤影を認めた。信号強度は外耳道腫瘤とほぼ同じパターンであっ た。 副咽頭腫瘤の精査目的で後日施行した造影 CT では、造影効果の乏しい腫瘤が副咽頭間隙に認められ た。しかし右乳房A領域に不均一に造影される結節影を認めたため外科をコンサルトしたところ、頭頸 部領域のものとは無関係な良性腫瘍と診断された。 画像所見を再評価したところ、副咽頭腫瘤から外耳道腫瘤に伸びるようなテールサイン様の所見を呈 しており、副咽頭腫瘤と連続もしくは関連した外耳道腫瘤と診断した。 以上より、外耳道単独の良性腫瘍ではなく、多形腺腫や神経鞘腫を鑑別診断として、まずは診断およ び耳閉改善目的に局所麻酔下に外耳道の腫瘤摘出術を施行した。この際、患者には腫瘤が深部まで連続 している場合、全摘せずに手術を終えること、場合によっては追加治療が必要になることなどを説明し た。 手術所見:手術は耳後切開とし、耳介軟骨膜に沿って腫瘤へアプローチした。皮下結合組織に表面平 滑で白色の腫瘤を認め、その外耳道皮膚側に神経と思われる索状物を認めた。索状物と腫瘤は一部癒着 しており、周囲の剥離をすすめると腫瘤は深部まで連続しており、可能な限りの摘出とした。 病理組織所見:腫瘤は紡錘細胞の密な増生を認める Antoni A 型の神経鞘腫で、核の大小は多少認め るが、悪性を示唆する所見はなかった。 【考 察】 外耳道神経鞘腫の起源神経に着目すると、外耳道の知覚神経支配領域は上前壁が耳介側 頭神経の枝、下壁は大耳介神経、後壁が迷走神経の耳介枝であり、自験例は後上壁に発現していること から迷走神経耳介枝が起源神経である可能性が高い。副咽頭腫瘤においても、画像所見、解剖学的な神 経走行から、迷走神経を起源とする腫瘤に矛盾しないと考えられる。 迷走神経耳介枝の走行については、2014 年に清川ら 1)が献体を用いて詳細な観察を行っている。それ によると、“迷走神経耳介枝は迷走神経上神経節より分岐し、乳突小管を走行し、必ず顔面神経管を通過 した。その後は錐体骨の小管にふたたび入り、鼓室乳突裂で骨外へ出て外耳道、耳介に分布していた。 その経過において顔面神経ならびに舌咽神経、耳介側頭神経とも交通していた。これらの神経は互いに 交通している部分もあり、このような多彩な経過を示すのは、発生の段階で耳の生じる部位周辺に多く の鰓弓神経が存在することによると推察された。 ”としている。 以上のことから、自験例の副咽頭および外耳道腫瘍はいずれも迷走神経を起源とする神経鞘腫と考え て矛盾しない。 副咽頭腫瘍については病理組織診断を行っていないこと、顔面神経管の近傍にも腫瘍が存在している 可能性が高く、将来顔面神経麻痺を生じる可能性もあると考え、wait &scan の方針で経過観察中であ る。 【参考文献】1)Kiyokawa J, et al.: Origin, course and distribution of the nerves to the posterosuperior wall of the external acoustic meatus. Anat Sci Int 2014; 89: 238-245. Otol Jpn 25 ( 4 ) : 464 , 2015 54 化学放射線治療後に難治性の両側外耳道狭窄を発症した上咽頭癌の一症例 留守 卓也、晝間 清、柳 嘉典、黒川 友哉 がん・感染症センター 都立駒込病院 耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍科 近年、上咽頭癌の治療成績は劇的に向上し、放射線治療を中心とした治療が第一選択となっ ている。しかし、一方で長期有害事象の発症も報告されており、特に耳科領域は照射範囲に含 まれてしまうため、感音難聴などの種々の有害事象が知られている。今回、我々は 10 年間の当 院での上咽頭癌の治療経験の中で、難治性の両側外耳道狭窄を発症した症例を一例経験したの で、ここに報告する。 症例:58 歳男性 診断:上咽頭癌 Stage I(T1N0M0) 既往歴・生活歴・家族歴:特記すべきことなし。 現 病 歴 :上 記 診 断 に て 、2006 年 12 月 25 日 か ら 30 日 ま で 化 学 療 法 (NDP:180mg/ 5-FU: 1000mg×5days)を施行した後に、2007年1月22日から3月5日まで放射線治療(72Gy/60days) を行った。治療効果は CR で完全治癒の判定で、その後は経過観察となっていた。 治療経過:放射線治療終了後 1 年半を経過した頃から、両外耳道の狭窄を認めるようになった。 2008 年 9 月 30 日に、右外耳道形成術を施行した。しかし、外耳道形成後 3 年ほど経過したところ で、再度の外耳道狭窄を生じたため、2012年7月27日に再び、右外耳道形成術を施行した。しか し、術後 1 年ほどで再度の外耳道狭窄を来したため、現在は補聴器の両耳装用にて経過観察中で ある。なお、この観察期間中に腫瘍の再発は認めていない。 考察:当院では、10 年間で 34 例の上咽頭癌の治療経験を得たが、同様の有害事象を認めた症例 はなかった。文献的にも同様の症状を来す報告は見られず、治療に難渋しているのが現状であ る。上咽頭癌の治療成績を劇的に改善させた放射線治療の有用性については、議論を待たない が、本症例のような難治性の長期有害事象が生じうることも、留意する必要があると思われ る。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 465 , 2015 外耳道腺様嚢胞癌の 3 症例 55 神前 英明 1、立石 碧 2、清水 猛史 1 1 滋賀医科大学 医学部 耳鼻咽喉科、2 公立甲賀病院 耳鼻咽喉科 (はじめに)外耳道癌は頭頸部悪性腫瘍のなかでは発生頻度が少なく、外耳炎として加療され、 診断に至るまでに時間がかかる例も散見される。今回、比較的まれな外耳道腺様嚢胞癌の 3 症例 を経験したので文献的考察を加えて報告する。 (症例提示)症例1は 50 歳男性、主訴は左耳痛と耳介後部腫瘤。2010 年 4 月頃から左耳後部から 後頭部にかけての痛みを自覚、近医を受診したが異常所見がみられず経過観察されていた。 2011 年 4 月に左耳介後部に皮下腫瘤を指摘され、当科を紹介受診した。左後部に 1cm の弾性硬の 可動性に乏しい腫瘤が認められた。左外耳道内には明らかな病変は認められなかった。MRI で は左外耳道直下に T1 で低信号、T2 では正常耳下腺と連続した、線上構造が確認されたが、明ら かな腫瘤は確認できなかった。2011 年 5 月に耳後部腫瘤に対して生検をかねた切除術を行った。 腫瘤は一部外耳道皮膚と連続していたため、外耳道軟骨とともに切除した。病理検査は腺様嚢 胞癌で、神経周囲浸潤がみられた。Arriaga の分類で T4N0M0 と診断した。そこで、同年 6 月に 外耳道下壁を中心に外耳道部分切除、耳下腺部分切除術を施行した。2012 年 5 月に左外耳道深部 下壁に腺様嚢胞癌の再発がみられたため、同年 6 月に外耳道全摘術を施行した。さらに 2013 年 5 月に切除部下方に局所再発と左頸部リンパ節転移、肺転移が認められた。同年 6 月に左頸部郭清 術、7 月に局所再発に対して粒子線治療 70.4Gy を施行した。現在、局所と頸部は再発を認めない が、肺に多発性転移があり、担癌生存中である。症例 2 は 69 歳男性、主訴は右耳出血。2013 年 4 月頃から耳掃除の際に出血があり、近医に通院していた。右耳内の肉芽腫様病変が徐々に増大 したため、11 月に当科を紹介受診した。外耳道入口部から後上壁に腫瘍性病変があり、生検で 腺様嚢胞癌と診断された。CT では外耳道の軟部組織肥厚のみで骨破壊は認められなかった。ま た、造影 MRI で外耳道外への進展は見られず、PET-CT でも明らかな集積像はなかった。Arriagaの分類でT1N0M0と診断し、2014年1月に右外耳道全摘術を行った。病理検査では腫瘍は外 耳道軟部組織に限局し、骨浸潤は認められなかった。現在、再発なく経過観察中である。症例 3 は72歳女性、主訴は左耳漏、耳痛。2014年初旬から左耳漏を繰り返していた。9月頃に左耳痛が 出現し、10 月末に近医を受診した。外耳道下壁の易出血性の腫脹部位からの生検で耳垢腺腫と 診断され、2015 年 1 月に当科を紹介受診した。外耳道入口部下壁に境界不明瞭な隆起性病変があ り、当科の再生検で腺様嚢胞癌と診断された。造影 CT, MRI では左外耳道の腫瘍が、耳下腺深 葉内を外頸動脈に沿って進展し、前方は顎動脈に沿って、外側翼突筋内側まで浸潤していた。 PET-CTでも同部位に集積像が認められた。Arriagaの分類でT4N0M0と診断し、2015年2月から 粒子線治療 70.4Gy を施行した。外耳道局所の腫瘍は消失し、現在、経過観察中である。 (考察)外耳道癌の組織型では扁平上皮癌が最多で、その次に多いのが腺様嚢胞癌である。当科 における外耳道癌は、過去20例のうち扁平上皮癌16例(80%)、腺様嚢胞癌3例(15%)、悪性黒 色腫1例(5%)であった。腺様嚢胞癌は腫瘍自体の発育は緩徐であるが、局所浸潤傾向が強く、 神経周囲リンパ腔浸潤を伴いやすいため、外耳道に発生した場合は耳痛を伴うことが多い。画 像診断では早期癌では周囲組織への浸潤の有無が分からないことが多いが、腫瘍像をとらえる ためには、造影 CT や MRI での検査が望ましい。症例 1 は外耳道内の病変が認められなかったた め、切除術を行うまで腺様嚢胞癌の診断がつかなかったこと、診断確定後に拡大切除を行った が、初発病変が小さかったため局所の切除にとどめたことが反省点である。症例 2 は外耳道全摘 術により現在のところ経過良好である。症例 3 は局所の病変に比べて予想以上に深部進展が認め られた症例である。初発症状が出現してから当科に紹介されるまで、症例1が12カ月、症例2が7 カ月、症例3が12カ月と、いずれの症例も診断が確定し治療を行うまでの期間が長い点に問題が ある。こうした症例があることを念頭に置いて、外耳道病変を診断することが重要である。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 466 , 2015 妊娠中に緊急手術を行った耳かき外傷の 1 例 56 有木 雅彦 1、福島 典之 1、平位 知久 1、宮原 伸之 1、 三好 綾子1、長嶺 尚代2、益田 慎2 1 県立広島病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科、2 県立広島病院 小児感覚器科 耳かきによる鼓膜穿孔は、しばしば遭遇する疾患であり、保存的治療により穿孔閉鎖が得ら れることも多い。一般的に日本人の外耳道は S 状に彎曲しているため耳かきによる鼓膜穿孔は鼓 膜前部に生じやすく、耳小骨連鎖障害や外リンパ瘻を生じる可能性は少ないとされる。今回 我々は妊娠中に外リンパ瘻を生じて緊急手術が必要となった耳かき外傷を経験したので報告す る。 【症例】31歳女性(妊娠12週) X年10月30日耳かき中に子供が接触して左耳を損傷、左難聴、 めまいがあり救急車で当院搬送となった。左後上象限に穿孔あり、アブミ骨が岬角側に倒れて いた。明らかな眼振は認めなかったが頭位変換で嘔気、嘔吐を認めた。純音聴力検査を行い 4 分 法で左は 73.8dB で混合性難聴を認めた。外傷性耳小骨離断、外リンパ瘻疑いとして緊急入院と した。10月31日めまい、難聴の持続有り、純音聴力検査施行した。4分法で87.5dB、左混合性難 聴の増悪を認めた。ステロイド投与や全身麻酔下の手術適応について産婦人科に相談、ステロ イド等の薬剤投与、全身麻酔下の手術も可能との返事であったため PSL50mg より漸減投与開始 した。本人に病状を説明したところ手術希望があり同日鼓室観察、加療目的に手術とした。全 身麻酔下に左外耳道後壁を削開、鼓室内を観察した。ツチ骨は異常なし、キヌタ骨長脚は後部 へ偏位、アブミ骨は後下方へ陥凹しており、後脚の周囲から外リンパ液の流出を認めた。鼓索 神経、顔面神経、半規管の損傷はなかった。偏位したキヌタ骨は摘出した。アブミ骨陥凹を戻 すことは困難であり、アブミ骨も摘出した。側頭筋膜で前庭窓を閉創して摘出したキヌタ骨を 用いて4c 型の伝音再建を行った。キヌタ骨周囲にケナコルト付きスポンゼルを留置、鼓膜穿孔 部は遊離骨膜を用いて underlay で閉鎖した。閉創前の鼓室内観察では外リンパ液の漏出は認め なかった。術後しばらくめまい、右向き水平回旋混合性眼振を認めたが徐々に改善し11月7日退 院とした。退院後軽度のふらつきはあるも改善傾向であったが 11 月 19 日よりふらつきあり、眼 振や聴力低下は認めなかったが安静、経過観察目的に入院とした。投薬なし、安静で経過を見 ていたが徐々に症状改善したため11月25日退院とした。その後は経過良好で術後7か月後の純音 聴力検査では 4 分法で右 15dB、左 20dB と左右差は認めなかった。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 467 , 2015 57 溶接火花による鼓膜穿孔・中耳異物症例 近江 永豪、石川 和夫 秋田大学大学院 医学系研究科 耳鼻咽喉科 頭頸部外科学講座 【はじめに】近年労働作業安全対策によって、溶接作業中に火花が中耳に入ることが少なくなっ た。 難治性の鼓膜穿孔を来すことは知られているが、溶接火花が中耳腔内に入り、異物として 停滞することは稀である。今回我々は、溶接火花が中耳異物となり, 鼓室内の遷延性炎症と鼓膜 穿孔のため、伝音性難聴を来した症例を経験した。 この症例に対し外科的に異物を摘出し、鼓 室形成術を施行し、術後経過が良好の結果を得たので、若干の考察を加えてここに報告する。 【症例】患者は 57 歳、男性。H26.7.29 鉄鋼溶接作業中に火花が右耳に入ったため、翌日近医を受 診加療していたが、外傷性鼓膜穿孔と診断され、保存的加療を施行されたが、耳漏が持続し、 遷延性に鼓膜穿孔が増悪したため、H26.10.31当科紹介受診となった。初診時、右耳に41dBの 伝音難聴を認め、内視鏡所見では、鼓膜の大穿孔性を認めた。初回CTでは、中鼓室前方に鼓 膜に接して、約 5mm の楕円形金属性異物が認められ、その金属片の直上に軟部陰影が認められ た。耳小骨連鎖異常は認められなかった。H26.12.5 手術加療目的で入院となった。 【治療経過と手術所見】H26.12.8 中耳異物摘出術と鼓室形成術 I 型を施行した。鼓室内の耳小骨連 鎖は保たれ、鼓索神経も温存可能であった。しかし、耳管室口に炭化した粘膜組織と思われる 黒色の物質が粘膜に周囲の肉芽増生を伴って強固に付着していた。周囲の固い肉芽を可及的に 除 去 後 に 異 物 を 摘 出 し た 。耳 介 軟 骨 を 用 い て 鼓 膜 形 成 術 を 施 行 し た 。術 後 経 過 良 好 に て H26.1217 退院し、現在通院経過観察中である。 【考察】中耳異物における問題点は主に中耳の遷延する炎症、鼓膜穿孔の自然閉鎖困難と、難聴 である。異物の大きさによっては視診では確認できず、しばしば適切の治療に至るまで時間が かかってしまう例もある。罹患期間が長くなると、異物反応による肉芽や線維結合組織が増生 し、異物をその部位に固定してしまう可能性がある。また、熱傷による血行不良で、創傷治癒 が遷延化するため、中耳病変を呈する外傷性鼓膜穿孔の場合、受傷転機によっては中耳内の異 物の存在も考慮し、早期に画像検査を行うことが重要であると考える。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 468 , 2015 鼓膜裏面に生じた open 型先天性真珠腫の部に 鼓膜穿孔を来したと考えられる3症例 58 奥田 匠 1、中島 崇博 2、東野 哲也 2、高木 実 1、花牟禮 豊 1 1 鹿児島市立病院 耳鼻咽喉科、2 宮崎大学 医学部 耳鼻咽喉・頭頸部外科 (はじめに)鼓室の先天性真珠腫には嚢胞状を呈する closed 型と、鼓室粘膜の代わりに重層扁平 上皮が島状に存在する open 型の二つの型がある。一方、鼓膜弛緩部に陥凹を伴わず緊張部に穿 孔を有した症例で、穿孔縁の上皮が鼓膜裏面に侵入して真珠腫形成に至ったと考えられる二次 性真珠腫と呼称される病態がある。その特徴として鼓膜に大穿孔があり、ツチ骨柄付近より表 皮が鼓膜裏面へ侵入していること、患者の年齢が高いこと、穿孔性中耳炎としての経過が長い こと、乳突腔の気胞化が抑制されていることなどが言われている。しかし、穿孔縁の裏面に上 皮を認めるものの穿孔が小さく、ツチ骨柄とは離れた位置にあり、年齢も比較的若年で、穿孔 原因が不明で、乳突蜂巣の発育含気が良好という、異なった病態を想定する必要のある症例を 3 例経験した。何れも初診時には穿孔を認めず、鼓膜の大半が白色調であった状態が確認されて おり、鼓膜裏面に生じた open 型先天性真珠腫に穿孔を来したものと考えられた。 (症例提示)症例 1 は 34 歳女性。2007 年頃から断続的に左耳閉感や難聴があり、近医で滲出性中 耳炎や耳管狭窄症として保存的治療を受けていた。2011 年 7 月に他医を受診して左鼓膜の混濁を 指摘されたが、ふらつきがあるためメニエル病疑いとされた。同年 11 月にウイルス性髄膜炎で 当院内科に入院し当科紹介となった際、左鼓膜は全体的に白色で、CT では両側乳突蜂巣の発育 含気良好で、耳小骨連鎖に異常を認めなかったが、左鼓膜肥厚像を認めた。聴力正常で経過観 察の方針となった。2013 年 7 月に受診した別の医院で、左鼓膜の痂皮を除去すると穿孔を認め、 鼓膜裏面にデブリが認められ、二次性真珠腫疑いで再度紹介となった。左鼓膜は白色で辺縁性 小穿孔と同部の鼓膜裏面にデブリを認めた。純音聴力検査は左に気骨導差を認め、耳管機能検 査音響法は両側良好。CT では左ツチ骨周囲に軟部組織陰影を認めるものの、前回撮影時に比べ 縮小していた。2014年7月に手術を施行。鼓膜裏面にopen型の真珠腫を認め、ツチ骨柄とともに 鼓膜を全摘出し I 型で再建。病理では過角化上皮を認めた。 症例 2 は 25 歳女性。中耳炎既往なし。2012 年 5 月に誘引なく左耳漏出現し近医を受診。左鼓膜 は全体的に白色であったが糜爛のみで穿孔は認めず、耳痛はなかったが急性中耳炎として保存 的治療が開始された。一週間後の同院再診時に左鼓膜下象限に小穿孔と耳痛が出現し、処置に 難渋するようになったため、同年 6 月当科紹介。純音聴力検査は左に気骨導差を認め、CT では 両側乳突蜂巣の発育含気良好で、左は中鼓室に軟部組織陰影を認めたが耳小骨連鎖は保たれて いた。2013 年 1 月に手術を施行。鼓膜裏面に真珠腫母膜を認めたがツチ骨には及んでおらず I 型 で再建。病理は症例 1 と同様であった。 症例 3 は 9 歳女児。乳幼児期に急性中耳炎で鼓膜切開歴あり。近医では以前から右鼓膜下象限 に石灰化病変を指摘されていた。2011 年 4 月に感冒で同医を受診し、この石灰化部分に穿孔の出 現と鼓膜裏面にデブリを認め、同年 5 月に当科紹介。右鼓膜下象限裏面に白色塊が透見され、同 部に辺縁性小穿孔を認めた。純音聴力検査は右に気骨導差を認め、耳管機能検査音響法は両側 やや不良。CT では両側乳突蜂巣の発育含気良好で、耳小骨連鎖に異常を認めず、右鼓膜下方に 肥厚像を認めた。2011 年 7 月に手術を施行。鼓膜裏面は穿孔縁を中心に真珠腫母膜を認めたがツ チ骨とは剥離可能で I 型で再建。病理では石灰化は認められず、症例 1、2 と同様の所見であっ た。 (考察)何れの症例も二次性真珠腫の如く穿孔縁上皮が鼓膜裏面の炎症に乗じて侵入した可能性 よりも、open 型先天性真珠腫など、元来鼓膜裏面に重層扁平上皮が存在し、何らかの原因で同 部に穿孔を来したものと考えられ、鑑別を要する。症例 3 では明らかな鼓膜切開歴があり、それ による鼓膜裏面への移植性真珠腫の可能性も否定はできない。いずれにせよこれらのような症 例は、滲出性中耳炎や急性中耳炎、鼓膜石灰化病変として日常診療で看過される危険があり注 意を要する。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 469 , 2015 59 外科的治療を要した鼓膜炎の1例 畑 裕子 1、奥野 妙子 1、竹内 成夫 1、吉田 亜由 1、松本 有 2、山崎 葉子 3 1 三井記念病院 耳鼻咽喉科、2 東京大学 耳鼻咽喉科、3 三井記念病院 検査部 鼓膜炎は日常診療でよく遭遇する疾患である。耳掃除などの機械的な刺激が誘因になり、し ばしば感染を伴うことで発症すると考える。大半が保存的な治療で制御可能であるが、今回 我々の経験した症例は、保存的な治療に抵抗し、視診上腫瘍性病変も疑われたため手術に踏み 切った例である。 症例は34歳の女性で主訴は左耳痛。既往歴として5歳時にアデノド切除術を受けており、また 幼少時中耳炎を反復し鼓膜切開も頻回に施行されていた。前医受診 5 年前より左耳掻痒感が出現 し耳痛を伴うようになり、このため前医初診した。左鼓膜の陥凹と肉芽を認め鼓膜炎の診断で 局所処置とステロイド軟膏投薬するも改善なく当科紹介で初診となった。初診時鼓膜所見は前 下象限の菲薄化と中心部から後上象限及び一部外耳道皮膚にかけて多数の粒状の膨隆を認め た。また軽度の自発痛も伴っていた。CT では、ツチ骨柄から鼓膜の膨隆を認めるが耳小骨の変 化はないとのことであった。純音聴力検査の結果は、平均聴力で右 10dB に対し左は 15dB の軽 度伝音難聴を示した。保存的な治療に抵抗する上に、鼓膜の膨隆の所見から腫瘍性の病変を否 定する目的で手術を施行した。経外耳道的に皮弁をおこし鼓室内にはいると、ツチ骨柄の内側 にも肉芽の膨隆が認められた。可及的に病的な鼓膜を切除し、側頭筋膜を用いて鼓膜形成を行 った。病理検査の結果は異型性のない角化型重層扁平上皮に覆われたリンパ濾胞との診断で、 免疫染色も行ったが濾胞構造を形成する腫瘍性病変は否定された。おそらく掻痒感のため、鼓 膜に綿棒などによる刺激が加えられたことが原因と考えられた。その後鼓膜はきれいに再生し 症状も軽快した。症例を呈示する。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 470 , 2015 60 喉頭ファイバースコープを用いた簡便な耳内視鏡検査法 小崎 寛子 潤恵会敬仁病院 耳鼻咽喉科 小規模な診療所、クリニックでは、使用できるリソースに限りがあることが多い。 我々は 喉頭ファイバーを用いて簡便な耳内視鏡検査を行い、良好な結果を得ているのでここに紹介す る。 実際には喉頭ファイバーを外耳道入口部より挿入し、外耳道の屈曲にあわせ、喉頭ファ イバーの flexibility を利用しながら角度を変えながら内側へ挿入していく。 当科では小児用喉 頭ファイバースコープを用いて観察している。外径3、5mm のファイバースコープで幼児も 観察している。 進行した真珠腫や乳突洞削開術後のような、外耳道入口部より内部が拡大し ている例では、ファイバースコープの flexibility を利用して、様々な角度から観察が可能である ことは利点の一つである。 画像のゆがみも、鼓膜をできるだけ中央におくことで小さくでき る。 欠点としては、ファイバースコープの操作に両手が必要であるため、処置に用いるのが 困難であることである。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 471 , 2015 61 鼓膜形成術の検討 小田桐恭子、浜田 昌史、塚原 桃子、関根 基樹、山本 光、金田 将治、飯田 政弘 東海大学 医学部 専門診療学系 耳鼻咽喉科 【はじめに】鼓膜形成術は侵襲性が低く、クリニックでも施行可能な手術である。当院では、耳 後部結合織を採取し、穿孔縁を新鮮化した後にフィブリン糊で固定するいわゆる接着法で行っ ている。今回、当院で施行した鼓膜形成術について後ろ向きに検討した。 【対象と方法】2009 年 4 月〜2014 年 3 月までに当院で鼓膜形成術を施行し、1 年以上経過観察が可 能であった44例を対象とした。当院の手術適応は、鼓膜の2象限までに限局した穿孔で耳漏の反 復がなく、パッチテストで聴力改善が確認できること、聴器 CT で中耳に陰影を認めず、耳小骨 連鎖に異常がないことである。穿孔の原因、術後再穿孔の有無、再穿孔例の穿孔時期、再手術 の有無とあればその術中所見を検討した。 【結果】年齢は 4〜82 歳(平均 32 歳)で、成人例は 21 例(いずれも局所麻酔下)、小児例が 23 例 (いずれも全身麻酔下)あった。原因疾患は、慢性穿孔性中耳炎(以下 OMC)が 25 例、鼓膜チ ューブ挿入後(以下チューブ後)が 15 例、ステロイド鼓室内注入後が 2 例、外傷性 2 例であっ た。術後再穿孔は44例中12例(27.2%)に認めた。内訳は、OMCが5例、チューブ後が6例、外 傷後が1例であった。再穿孔時期は、術後6か月以内が9例、1年以内が3例で、術後6か月以内が 多かった。再穿孔後の経過は、再手術が3例、自然閉鎖が2例(いずれもチューブ後例)、経過観 察が 7 例であった。選択した再手術の術式は、すべて鼓室形成術 1 型であった。外傷例では再手 術後に真珠腫形成を来し、再々手術を行った。この外傷例を除き、再手術時に確認した鼓室内 所見では耳小骨周囲、鼓室洞に多く肉芽が認められた。 【考察】術前 CT で鼓室内陰影を認めなくても、鼓膜形成時に鼓室内肉芽に遭遇する場合があ り、穿孔からの盲目的清掃には限界がある。実際、再穿孔例の再手術時所見では耳小骨周囲に 肉芽が充満する所見を多く認め、再穿孔の要因と考えられた。反復する中耳炎は鼓膜硬化を招 くが、鼓膜チューブ留置はこれを促進する。今回の検討ではチューブ後例で多く再穿孔をきた しており、鼓室内肉芽に加えて鼓膜の高度な硬化病変が再穿孔のリスクをより高めている可能 性がある。鼓膜形成術は侵襲性が低く、手技的にも比較的容易な手術であり、適切な症例選択 を行えば、良好な結果が期待でき、積極的に行うべき手術と考える。一方で、この適応症例の 決定には今後とも慎重な検討が求められる。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 472 , 2015 62 軟骨膜付き耳珠軟骨厚板を用いた鼓膜形成術 足立 直子 1、渡邉 大樹 1、中江 進 2 1 松下記念病院 耳鼻咽喉科、2 ベルランド総合病院 鼓膜形成に軟骨を用いる利点としては、鼓室腔が保たれること、確実に穿孔閉鎖できること が挙げられる。従来は一枚の薄切軟骨板や、数枚の軟骨片を用いた報告が多かった。しかし autograft としての軟骨は薄切すると微妙にカーブし鼓膜形成に適さない場合もある。軟骨を薄切 せず全層で用いるとカーブすることはない。厚い軟骨板では聴力改善が妨げられる不安がある が現実にはそうではなく、全層の軟骨を使用しても十分な聴力改善が得られると報告されてい る。Dornhoffer ら(1)は、再穿孔を来たしやすいハイリスク症例として、鼓膜穿孔閉鎖後の再穿 孔、鼓膜輪前方の穿孔、感染耳、鼓膜50%以上の大穿孔、両耳穿孔、耳管機能の悪い小児等を挙 げている。これらの症例 1000 例に島状の軟骨膜付き全層耳珠軟骨を用いて underlay 法で鼓膜形 成術を行い、穿孔閉鎖率(96%)・術後聴力ともに良好な成績を報告している。我々は 10 例に薄 切しない軟骨膜付耳珠軟骨を用いて鼓室形成術を施行した。その内訳は浅在化鼓膜 1 例、癒着性 中耳炎1例、小児の慢性中耳炎2例、鼓膜大穿孔を伴う慢性中耳炎4例、鼓膜癒着があり鼓膜輪し か残せなかった真珠腫 2 例であった。片側に軟骨膜を付けた耳珠軟骨を採取後、軟骨膜をつけた まま鼓膜大の軟骨全層を島状に残し、軟骨のツチ骨柄にあたる部位を楔状に切除して軟骨膜付 軟骨 flap を作成した。これを翻転して軟骨膜側を上にして overlay 法で置いた。術型は 1 型 4 例、 3 型 5 例、4 型 1 例で、厚い軟骨に接着することによりコルメラもより安定すると思われた。全例 で聴力改善を得た。軟骨膜付き全層耳珠軟骨を用いた鼓膜形成術は、大穿孔や鼓室確保が困難 と予想される癒着性中耳炎、耳管機能の悪い小児慢性中耳炎に対する術式選択枝になり得ると 考えた。浅在化鼓膜については筋膜よりも軟骨膜付き鼓膜が前壁皮膚に牽引されにくいと考え たが今後の長期観察が必要である。 1)Dornhoffer J: Cartilage tympanoplasty: Indications, techniques, and outcomes in a 1,000-patients series. Laryngoscope 113:1844-1856, 2003. Otol Jpn 25 ( 4 ) : 473 , 2015 63 1/3 薄切軟骨板を使用した鼓室形成術が有効であった 高度鼓膜石灰化の1症例 本多 伸光 1、高木 太郎 1、中村光子郎 1、白馬 伸洋 2 1 愛媛県立中央病院 耳鼻咽喉科 頭頸部外科 2 帝京大学医学部付属溝口病院 耳鼻咽喉科 鼓室形成術において再建・補強用の自家組織として耳介軟骨の有用性は多くの施設から報告 されている。具体的な使用法としては真珠腫症例での外耳道欠損部の補強や、鼓膜穿孔閉鎖や 鼓膜陥凹予防のための鼓膜再建であり、本学会でも多くの術者から術式の工夫が報告されてき た。演者らは昨年の本学会において、1/3 薄切耳介軟骨(filleted cartilage、FC)の有用性を報 告した。今回、FC を使用した鼓室形成術が有効であった高度鼓膜石灰化の症例を報告するとと もに、FCの作成方法の詳細をVTRで供覧する。症例は10歳女児で、主訴は左難聴である。既往 歴はピエールロバン症候群、口蓋裂、菊池病、脊柱側弯症がある。幼少期より両側滲出性中耳 炎を繰り返し、これまでに複数回の鼓膜切開術、鼓室チューブ挿入術を施行されてきた。4 歳頃 より両鼓膜の石灰化病変を指摘されていたが経過観察を行っていた。2010 年 8 月頃(7 歳)に左 難聴の増悪を自覚してきた。側頭骨 CT 検査では、両耳ともに明らかな鼓室内病変はなく、真珠 腫を疑わせる病変や耳小骨や蝸牛・前庭の形態異常は認めなかった。鼓膜には肥厚した石灰化 病変が認められ、1 年前の CT 検査と比較すると石灰化病変の増大が確認された。確定診断およ び聴力改善の目的にて、2010 年 11 月 18 日左鼓室形成術(3r)を施行した。鼓膜の石灰化病変は ツチ骨と接して連続しており、IS ジョイントをいったん離断したのち石灰化病変を鼓膜と一塊 に摘出した。鼓室内病変や耳小骨固着のないことを確認した後に、IS を reposition して側頭筋膜 をインレイに挿入して鼓膜形成を行って手術を終了した。術後感染はなく経過したが、筋膜の 生着は不良で術後 3 週目に再穿孔が生じ、再穿孔はさらに増大して石灰化病変の再発も認めた。 しばらく外来での経過観察を続けた後、初回手術より3年10ヶ月経過した2014年8月6日、石灰化 病変の除去と聴力改善目的にて左鼓室形成術を施行した。キヌタ骨、アブミ骨周囲の石灰化病 変の進展は認めなかったが、ツチ骨はほぼ全体に石灰化病変が沈着していた。ツチ骨柄、キヌ タ骨は石灰化病変とともに全て摘出除去したのちに自家キヌタ骨をコルメラにして 3c 再建を行 った。前回の術後経過を教訓にして、鼓膜再建材料は1/3 薄切耳介軟骨(filleted cartilage、 FC)と筋膜の併用を用いた。術後経過は良好で、術後3か月で左耳は4分法で22.5dBの気道聴力 の改善を認めた。現在、術後 9 か月経過して鼓膜再穿孔や石灰化病変の再発を認めていない。今 後、外来にて厳重に経過観察を行いながら聴力の推移を確認しつつ、必要時には右耳の石灰化 病変に対しても、同様の鼓室形成術を検討していく予定である。 Otol Jpn 25 ( 4 ) : 474 , 2015 64 鼓膜形成に際して複数枚の移植弁を使用した症例に対する術後経過の検討 桝谷 将偉、湯浅 有、湯浅 涼 仙台中耳サージセンター 将監耳鼻咽喉科 【はじめに】 当院では鼓膜形成術に際しては接着法を適応しているが、鼓室形成術に関しても 接着法を応用した耳鏡内操作による低侵襲性手術を施行している。耳鏡内操作では、耳後法よ りも術野が狭く術中処置にいくつかの工夫が必要となる。一般的に鼓膜穿孔閉鎖には一枚の移 植弁を使用するが、耳鏡内操作では一枚の大きな移植弁それ自体が視野や術操作の妨げとなる 場合がある。特に、大穿孔例や外耳道湾曲症例においては、その傾向が顕著となる。このよう な場合に複数枚の移植弁を使用することにより、穿孔閉鎖処置時の視野が十分に確保され、処 置が容易になる。今回我々は、複数枚の移植弁を使用した症例に関し術後経過を検討したので 報告する。 【対象と方法】 2012年1月から2013年12月に当科で慢性穿孔性中耳炎に対して鼓室形成術I型を 施行した379例424耳のうち、術後1年以上経過観察しえた284例328耳を対象とした。年齢は4- 87歳(中央値:59歳)、男性123例、女性161例、右耳162耳、左耳166耳であった。当院では術後 穿孔を認めた場合、初回手術時に採取した凍結保存しておいた自家結合組織を用いて、外来で 接着法に準じて穿孔閉鎖処置を施行している。経過中に再穿孔を一度も認めなかった症例の割 合を初回穿孔閉鎖率とし、再穿孔に対する外来での穿孔閉鎖術施行例を含め術後 1 年の時点で再 穿孔を認めなかった症例の割合を最終穿孔閉鎖率として検討した。 【結果】移植弁枚数における症例の内訳は、�
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