(107)歴史的建造物を改装した“隠れ家”へ:ホテルABaC

武藤聖一の欧州「最新建築」撮り歩記
(107)歴史的建造物を改装した“隠れ家”へ:ホテルABaC
ス ペ イ ン ・バ ル セ ロ ナ
2 00 9 / 05 / 26
カタ ル ー ニ ャ の 州 都 バ ル セ ロ ナ は 、 1 992年 夏 季 オ リ ン ピ ッ ク の 開 催 前 の 建 設 ラ ッシ ュ 時 に デ ザ イ ン 取 材 の き っ か け を 作
り 、 以 後 、私 が 最 も リ ピ ー ト 訪 問 し て い る 都 市 の 一 つ で あ る 。
ヨ ー ロ ッ パ に い る と E U( 欧 州 連 合 ) と い う 政 治 ・ 経 済 の 包 括 的 な 視 野 か ら な の か、 ス ペ イン の 動 向 に 関 す る ニ ュ ー ス は、 日
本にいるときよりもはるかに多く耳に入ってくる。金融危機以後の最近の情報はポシティブではないようだが、バルセロナの
街 に は相 変 わ ら ず の 活 気 と セ ン ス あ る 都 市 デ ザ イ ン の 魅 力 が 感 じ ら れ る 。
A B a C ( ア バ ッ ク ) は 市 の 中 心 で あ る カ タ ル ー ニ ャ広 場 か ら 地 下 鉄 で10 数 分 ほ ど の、 高 台 の 高 級 住 宅 地 と し て 知 ら れ る テ
ィ ビ ダ ボ 地 区 に オ ー プ ン し た ブ テ ィ ッ ク ホ テ ル で あ る 。 駅 の エ レ ベ ー タ ー を 上 が っ た と こ ろ の ケ ネ デ ィ・ ス ク エ ア に 面 し て い る。
シェフのシャビエル・ペリサー(Xavier Pellicer)が腕をふるう、ミシュラン二つ星を獲得したレストランがあり、いわばオー
ベルジュといった感じだ。
庭から見る正面のホテル棟と右のレストラン (写真:武藤 聖一)
ホ テ ル と い っ て も 一 般 の ホ テ ル と は違 い 、 セ キ ュ リ テ ィ が し っ か り 管 理 さ れ て い る た め 、 出 入 り は チ ェ ッ ク さ れ て い る 。
19 20 年 代 に 建 造 さ れ た こ の タ ウ ン ハ ウ ス に は、16 ミ リ 映 画 の 制 作 と 自 演 で ス ペ イ ン で は 著 名 な マ ド ロ ニ ー タ ・ ア ン ド リ ュ
ー (M a dr o n i t a A n d re u 、 1 895-198 2 ) と そ の フ ァ ミ リ ー が 住 ん で い た。 歴 史 的 建 造 物 に 指 定さ れ て い る た め 、 旧 ハ ウ ス
は 全 面 改 装 し 、 庭 園 に は新 た に レ ス ト ラ ン 棟 が 建 築 さ れ た 。 両 者 は ガ ラ ス 張 り の回 廊 で ジ ョ イ ン ト さ れ て い る 。 敷 地 に 高 低 差
があるため、エントランスを入ると緩やかな下りのスロープでUタウンしてレセプションにアプローチする。ゆとりの演出は見
事だ。
スロープでUターンしてレセプションへと続くアプローチ (写真:武藤 聖一)
エントランスロビーから見るレセプション (写真:武藤 聖一)
客室のロビー。ブルーとブラウンでパステル風にコーディネートした窓際のソファ (写真:武藤 聖一)
ロビーのソファに近接 (写真:武藤 聖一)
スーペリアは白やクリーム色がベース
客 室 は ト ー タ ル で15 室 。 ス イ ー ト ル ー ム を 紹 介 し た い と こ ろ だ っ た が 、 こ の 日 は 満 室 に 近 か っ た た め 、 空 い て い た ス ー ペ リ
ア (Sup er i o r ) を 見 て み る こ と に し た 。 部 屋 は エ ン ト ラ ン ス の応 接 と 寝 室 、 バ ス ル ー ム の3ス ペ ー スに 区 切 ら れ て い て 、 新 築
の ホ テ ル ル ー ム と さ し て 変 わ ら な い。 白 や ク リ ー ム 色 を ベ ー ス に 、 シ ッ ク で 大 人 っ ぽ く 、 家 具 や 調 度 品 が コ ー デ ィ ネ ー ト さ れ
ている。白いライムストーンとコーリアンでシンプルにまとまったバスルーム。アメニティーとしてエルメスの化粧品などもデ
ザインに組み込まれている。
オフホワイトとベージュをベースにコーディネートしたベッド (写真:武藤 聖一)
ベッドを正面から見る (写真:武藤 聖一)
枕元の紫色がアクセントになっている (写真:武藤 聖一)
白色のライムストーンとコーリアン(人造大理石)を使用したバス、シャワースペース (写真:武藤 聖一)
シンプルなコスメティックボード。アメニティーの要素としてエルメスの化粧品を使用 (写真:武藤 聖一)
バング&オロフセンの大型テレビや白木のワーキングデスクはどれも高級品ばかりだ (写真:武藤 聖一)
レストランにはGCA独自デザインのスポット照明
新 築 さ れ た ガ ラ ス 張 り の レ ス ト ラ ン 棟 の フ ァ サ ー ド は、 日 よ け を 兼 ね た 木 製 の 格 子 で 覆 わ れ て い る 。 庭 園 の 静 け さ と 調 和 し
て い る 感 じ だ 。 豊 富 な 食 材 を 使 っ た カ タ ル ー ニャ 料 理 の シ ェ フ 、 シ ャ ビ エ ル ・ ペ リ サ ー さ ん の 創 作 料 理 の 見 せ 場 と も な る 舞 台
表 で あ る 。 ド レ ー プ で 間 仕 切 り さ れ た 奥 行 き あ る レ ス ト ラ ン に は 楕 円 ( だ え ん) 形 の 14 個 の テ ー ブ ル が あ り 、 プ レ ー ト は ヴ ェ
ル サ ー チ 製 を 使 用 し て い る 。 各 テ ー ブ ル の上 部 に は GCA の 独 自 デ ザ イ ン で あ る ス ポ ッ ト 照 明 が 下 が っ て い る 。 高 さ 調 節 も 可
能 で空 間 の バ ラ ン ス を 取 る か の よ う に 配 置 さ れ て い る 。
エントランスから左に降りて新棟のレストランへアプローチ (写真:武藤 聖一)
間仕切りにドレープを配したメーンレストラン (写真:武藤 聖一)
スポットライトをテーブルごとにバランスよく設置している (写真:武藤 聖一)
ヴェルサーチのプレートが彩るテーブル (写真:武藤 聖一)
テーブルに近接 (写真:武藤 聖一)
テーブルを別の角度から見る (写真:武藤 聖一)
テーブルのスポットライトは高さが調節できる (写真:武藤 聖一)
スポットライトのディテール。ブラス(真ちゅう)の棒の先端にコッパー(銅)のプレートを上下から挟むように取り付け、シルク
状の布を巻いてある (写真:武藤 聖一)
地下のラウンジはLED照明を効果的に使用
ラウ ン ジ は 地 下 に あ る 。 照 明 な ど設 備 関 係 の 制 約 が あ り 、22 5m 2あ る ス ペ ー ス の 幾 何 学 的 な 天 井 ア ー チ は 全 面 再 構 築
さ れ た 。奥 の レ ン ガ造 り の ス ペ ー ス に は 多 少 の 自 然 光 が 入 り 、 フ ロ ー リ ン グ と の 調 和 も 考 慮 さ れ て い る 。 変 化 す る L ED照 明
で 全 体 の ム ー ド が 盛 り 上 が り 、 時 代 の 雰 囲 気 が しの ば れ る 。 営 業 は 午 後1時 か ら 夜 の 2 時 半 ま で 。 ロ ケ ー シ ョ ン の 良 さ も あ
リ、まさに都心の隠れ家的存在といえよう。
LED照明をフロアランプにも使用しているラウンジのカウンター (写真:武藤 聖一)
アーチ形の天井(ヴォールト)が歴史を感じさせる (写真:武藤 聖一)
ライトのカラーと照度がコントロールされ、様々なムードの演出が可能 (写真:武藤 聖一)
ラウンジのカウンターを別角度から見る (写真:武藤 聖一)
自然光が少し入るラウンジの奥。れんがをベースにライムストーンのフローリングが映える (写真:武藤 聖一)
名 称 : H o t e l A Ba C B a r c e l o n a
設 計 : A nt on i d e M o r a g as ( 建 築 )
GC A Ar q u itec tes As so c i ats ( イ ンテ リア )
住 所 : A v. Ti b i d a bo 1 , 0 8 0 2 2 B a rc e l o n a, Sp a i n
武 藤 聖 一 = フ ォ ト ジ ャ ー ナ リ ス ト [ ケ ン プ ラ ッ ツ]
© 1 9 9 9- 2 0 1 0 Ni k ke i Bu s in e s s Pu b li c at i o ns , I nc . Al l R ig h ts R e s e r ve d .
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