アジアクラブ通信

2015 年 9 月配信 【第 45 号】
名銀「アジアビジネスクラブ」
アジアクラブ通信
― CONTENTS (第 45 号) ―
○ トピックス
「南部経済回廊について」
○ 次号のトピックス予告
次回は、中国・上海市からの現地情報をご紹介する予定です
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≪南部経済回廊について
ホーチミン~プノンペン≫
現在、タイのバンコクは ASEAN の産業中心地となっています。域内の産業集積地であるバン
コクを中心に、ベトナムのホーチミン~カンボジアのプノンペン~タイのバンコク~ミャンマ
ーのダウェーまで、「南部経済回廊」という物流ルートが確立されつつあります。
今回、ホーチミンからプノンペンまで長距離越境バスに乗り視察を行いました。今年末には、
ASEAN 加盟 10 カ国により「アジア経済共同体:AEC」が発足する予定です。
今回は、AEC の発足を含め今後域内の確固たる物流ルートとして期待が寄せられている、この
「南部経済回廊」についてご紹介いたします。
<南部経済回廊の地図>
<視察行程>
⇒
進行方法
ベトナム
ホーチミン
モクバイ
80km
所要 2.5 時間
カンボジア
バベット
国境ゲート
プノンペン
175km
所要 5 時間超
2015 年 4 月、カンボジア内のベトナムとの国境の町バベットからプノンペンまでの南部経済
回廊の中で、それまで陸送物流ルートの課題だったメコン川流域部分にネアックルン橋(つば
さ橋)という橋が完成しました。従来は陸送でホーチミン・プノンペン間の輸送を行う際、こ
のメコン川の部分だけはフェリーによって対岸まで渡らなければならず、10 時間近くの時間を
要することもありました。その後、橋の完成により時間的なロスが大幅に削減されたと聞きま
した。日本も同様かもしれませんが、既に現在はベトナムやカンボジアのような新興国も、他
国との貿易なしには経済発展は遂げられません。将来、域内の大動脈となるかもしれない経済
回廊を直接見たいと思い、今回の視察を実施しました。
当日は、ホーチミン市内中心部にある民間の長距離バス会社の事務所から早朝朝 6 時に出発
し、午後 2 時前後にプノンペン市内中心部に到着するという行程でした。ツアーではなく、自
分自身でバスチケットを 14 ドル(相当ベトナムドン)で事前に購入し、国境でイミグレーショ
ンを通過する際に支払うアライバルビザ発給用の 35 ドル(こちらはドルキャッシュが必要です)
をあらかじめ用意しておきました。事前の情報では、日本人や欧米人、韓国等の駐在員も出張
の際に利用する事があり、乗客は外国人が多いと聞いていましたが、当日は土曜日だったため
か、日本人 4~5 名と、韓国人 2 名、他 10 数名は全てベトナム人でした。ベトナムにしては珍
しく、定刻通りの出発となり少し安心できました。バスは韓国製で、内装は古めであるものの
シートは日本の新幹線くらいの広さで、無料 Wi-Fi も利用できました。なお、乗車時にバス運
行会社のスタッフに、パスポートとベトナムの居住者カード、入国ビザ発給代を要求されて手
渡しました。国境で手続き完了後、手元に返ってくるのか少し不安になりました。
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ベトナム内の移動はホーチミンからカンボジアとの国境の町モクバイまで 2 時間強。道中、
最後までホーチミン市内や近郊地区とほとんど変わらない風景が並び、道路も片側 2 車線で舗
装もしっかり施されていました。ホーチミン市内は常時渋滞が激しいため、市内を通り抜ける
までに 1 時間ほど掛かりましたが、その後徐々に渋滞は和らぎ、1 時間足らずで国境に到着し
ました。ホーチミンからモクバイまでの距離は 80km 程度であり、あらためて隣国カンボジア
が近いことを実感させられました。
国境に到着した後は、一旦バスから降りて出入国の手続きを行いました。大勢の人で混雑し
ていたため、自分のパスポートの行方だけを心配していました。ベトナムへ渡航経験がある方
はご存知かもしれませんが、ベトナムのイミグレーションは手続きにとても長い時間が掛かり
ます。今回も、出入国の手続きはベトナム側で待ち時間を合わせて 1 時間以上、カンボジア側
は 10 分程度となりました。無事カンボジアへの入国手続きを完了した後、別ゲートを通過した
バスに再び乗り込みました。
カンボジア側の国境の町バベットには、中華系の工業団地や、カジノが建ち並んでいました。
ベトナム人は自国でカジノに入れないため、富裕層はこのバベットのカジノまで遊びに行くと
いう話を聞いたことがあります。カジノやホテル、工業団地入口の門も漢字表記が目立ってお
り、「中国資本によって成り立っている国」と実体験でも再認識させられました。
バベットを抜けると、ひたすらプノンペンを目指して内部経済回廊を走りました。ネアック
ルン橋まで約 3 時間、そこからさらにプノンペン市内まで 2 時間弱を要しました。この区間の
紹介をさせていただきます。
<道中の光景>
・ ほとんどの地域が湿地帯。道路は盛り地となっており、冠水しないようにしている。
・ 1 階部分が浸水するためなのか、道路沿線の民家は高床式家屋。ほとんどが 1 フロア。
・ 道路は片側 1 車線。トレーラーが通過するには少し細め。
・ 稀に豪邸があり、中華系の工業団地が点在している。
・ 坂、カーブはほとんど無い。また、プノンペン市内に入るまで信号は一切無い。
・ ガソリンスタンドも少ない。日本の高速道路くらいの間隔(50~100km に 1 箇所程度)
しか設置されていない。
・ 経済回廊から伸びる脇道はほぼ全て未舗装。回廊道路のみ舗装。
・ 電柱、電線ともに細く、ほとんど看板らしき物が無い。
・ バイク、車輌ともに日本製が多いが相当古い。プノンペン市内は高級車を含め最近の車
種が沢山走っており、ホーチミン市内より車が多く感じられる。
・ 全体的に交通量は少ない。
・ ネアックルン橋(つばさ橋)の周辺のみ綺麗な舗装が施してあり、幅員も広め。橋から
プノンペン市内の地域からは急激に民家や家屋が増え、大きな寺院等も建ち並んでいる。
・ 速度は時速 60km 制限の道路標識がたまにあるものの、ベトナムでよく見られるような
交通警察らしき姿はかなり少ない。ネアックルン橋上で検問を行う係員がいたくらい。
プノンペン市内に入っても、公安関係者らしき人物はあまり見かけない。
・ バイクの運転手はヘルメット未着用が多く、交通ルールもかなり緩い。
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~道中の風景~
国境でバスを降りて出入国手続き
カジノは中華系が経営
国境ゲートからベトナム側の景色
工業団地の門も中華系の表記
ネアックルン橋(つばさ橋)日系ゼネコンにより建設
国境からカンボジア側の景色
回廊の両側は湿地帯で道路は盛り地
プノンペン市内目前では大きな建物が出現
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国境を出発して約 5 時間、プノンペン市内に到着し、道路も片側 2 車線になりました。市内
に入ると道路の舗装がされていない部分が多くなり、一部はバスが大きく揺れるほどの路面状
態で土埃が舞っていました。バイクや自動車、トゥクトゥクで渋滞しており、走行速度は一気
に落ちて、時には完全に停車する事もありました。
市街地に入ってしばらくすると、ベトナム人等の一部の他の乗客達は運転手に指示を出して
バス停ではない場所で停車させ、次々に降りていきました。
その後またしばらくして、バス運行会社のプノンペン事業所で終点だと言われ、バスから降
りました。午後 2 時を過ぎた頃でした。土日を利用しての 1 泊 2 日の視察でしたが、往路の全
行程だけで約 8 時間掛かりました。翌日、復路は飛行機で帰りました。
現在、日系でも大手物流企業や製造企業が既にカンボジアに進出しています。過去、ポル・
ポト政権による知識層の虐殺があり、一部では 45 歳以上の識字率が低く、労働集約型製造業の
工場では工員の半数が小学校卒業未満の学歴というところもあります。ところが、市街地を探
索すると意外に英語が通じます。ベトナムのホーチミンも中心部であれば比較的英語は通じ易
いですが、識字率が 95%程度のベトナムよりカンボジアは明らかに教育水準が劣ると聞いてい
たため、とても驚きました。ベトナムが「チャイナ+1」として注目を浴び始めたのと同じく、
カンボジアを「タイ+1」と考える企業は少なくありません。ASEAN 周辺諸国の中では比較的法
規制が緩やかという特徴も持っています。ただし実際に現地に赴いた身としては、ベトナムと
比べてもかなり発展状況は遅れており、多くの外資企業が事業活動を展開するにはまだかなり
の時間を要すると感じました。
それでも、タイが ASEAN の一大工業生産地域となった今、その背中を追いかけて工業国化を
目指すベトナムとの間に位置しているカンボジアは、今回ご紹介した南部経済回廊を含めてこ
の地域で重要なファクターとなる可能性は大いにあります。
既に海外進出された方や、これから進出をご検討される方におかれましても、進出する国だ
けでなく、その国の歴史や文化の成り立ちや現在のルール、特徴、周辺諸国との繋がり、貿易
関係、金融面、法整備面、物流面、人材等、あらゆる情報を集め、進出後、将来的にどのよう
な姿(もしくはゴール)を目指すのかを描いていただき、実際にご自身の目で現地に赴いた上
でご判断されることをお勧めいたします。国境までわずか 100km 足らずの短い旅路でしたが、
ベトナム側とカンボジア側の景色は全く違っていました。百聞は一見に如かずであると痛感い
たしました。
最後に、タイ・カンボジア・ベトナムそれぞれの地域間で、物資の輸送を陸路で行う際に南
部経済回廊を利用するのにあたって、目安となる情報をご紹介いたします。
ベトナムの南部ホーチミンとその周辺は、比較的規模が小さい外資企業の進出が多い地域で
す。この地域で外資企業の参入が多い業種は、製造業等の第二次産業や、小売・流通、物流、
建設、不動産、サービス業等の第三次産業など多岐に渡ります。そして、工業製品の部品を生
産している企業は、ASEAN 域内でタイやマレーシアに納品している例も少なくありません。今
後 AEC により関税撤廃が進む中、将来的には工業分野において、セットメーカーが集まるタイ
との連携が強まる可能性があります。そこで注目されるのが南部経済回廊です。
そのような中、人口 1,500 万人、1 人当たり GDP が年間 1,000 ドル強と経済発展が遅れてい
るカンボジアは、タイやベトナムの工業レベルに追いつくには厳しい状況となっています。そ
こで、自国の国土が他国同士の貿易における陸上輸送の通過点になるだけという状態を避ける
ため、自国内に出入りする外国の物流車輌を制限しています。具体的には、2 カ国間の輸送移
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動が可能なダブルライセンス車を原則的に認めず、下記の通り「ポイペト」および「バベット」
のそれぞれの国境において、輸送物資の積み替えを行っています。
<南部経済回廊の物流:タイ~カンボジア~ベトナム)※ミャンマー部分は道路未整備にて省略
タイ
カンボジア
ベトナム
アランヤ
バンコク
プラテート
ポイペト
国境
税関
国境
税関
タイ車輌
積
替
場
所
――――――→
タイ車輌
←――――――
プノンペン
カンボジア車輌
――――――→
カンボジア車輌
バベット
モクバイ
国境
税関
国境
税関
積
替
場
所
←――――――
ホーチミン
ベトナム車輌
――――――→
ベトナム車輌
←――――――
距離
250km
400km
175km
80km
時間
4時間
7時間
5時間
2.5時間
※一部、ポイペト国境より 20km 圏内のみ「簡易通関」制度を利用する事により、タイ籍車輌のまま通関が可能。
(税関にて船積書類のコピー提出のみで可、積み替えの必要なし)
上記の表の時間はあくまでも走行中のみの目安です。通関手続きは積み替えも合わせて相当
な時間を要します。積み替えは輸送コストの押し上げにもなりますが、現段階では時間的なコ
ストの発生が大きな課題となっています。ご参考までに、上記ルート内の大まかな物流リード
タイムを紹介いたします。
バンコク⇔プノンペン
リードタイム
プノンペン⇔ホーチミン
バンコク⇔ホーチミン
陸上輸送
海上輸送
陸上輸送
海上輸送
(メコン川経由)
陸上輸送
海上輸送
2~3 日
10~14 日
1~2 日
2~3 日
(週 2 便)
3~5 日
2~3 日
ASEAN 地域にご進出の際は、是非こういった点もご参考にしていただけると幸甚に存じます。
名古屋銀行
法人営業部 ベトナム駐在
岩井 真介
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