(JESRA X-0093)の紹介 - 一般社団法人 日本画像医療システム工業会

contribution
c o n t r i b u t i o n
寄稿
医用画像表示用モニタの
品質管理に関するガイドライン
(JESRA X-0093)
の紹介
安田 哲也 Tetsuya Yasuda
株式会社ナナオ(一般社団法人日本画像医療システム工業会
医用画像システム部会 モニタ診断システム委員会)
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1. はじめに
2. QA ガイドライン紹介
05
2003 年当時,モニター診断が徐々に普及しつつあ
2-1 目的と適用範囲
ったが,実際にモニターを管理する方法が不明確であ
目的は医用モニターの品質管理活動を通じて,読
ったので,モニター診断に悪影響を及ぼすことが懸念
影精度の維持,向上を図ることである.適用範囲は,
された.欧米にも AAPM などのガイドラインがあっ
モノクロ画像を表示するカラーおよびモノクロ医用
たが,国内の実情には合わなかった.そのため JIRA
モニターである.また表示システムの特性(いわゆ
モニタ診断システム委員会が主体となり,日本医学放
る一般にγ特性などと呼ばれる階調特性のこと)が
射線学会(JRS)および日本放射線技術学会(JSRT)
DICOM PS3.14 で規定している GSDF(Grayscale
Standard Display Function:DICOM カ ー ブ と
の協力を得て,国内向けにガイドラインを作成するこ
とにした.2005 年に“医用画像表示用モニタの品質
も呼ばれる)である必要がある.人間の明るさの感
管理に関するガイドライン JESRA X-0093-2005”
(QA
じ方は輝度と線形ではない.輝度が 2 倍になっても,
ガイドライン)を発行し,普及活動を行ってきた.普
人間は 2 倍の明るさには感じない.GSDF はこの感
及活動の際にいただいた要望を反映させるために改定
じ方を識別能という単位(JND:Just Noticeable
を行い,2010 年に“JESRA X-0093*A
Difference)で階調ごとに適切な輝度を割り振るこ
”を発行
-2010
した.
とで,輝度差が人間の知覚に線形になるように作られ
多くの方の協力のおかげで,学会や団体などに趣旨
ている.つまり同じ階調差であれば,輝度が異なる階
を理解いただき,規格・指針などに QA ガイドライン
調であっても同じような差に感じるということであ
が引用されている.例えば“放射線業務の安全の質管
る.こうすることで,輝度の最大値が異なるモニター
理マニュアル Version1”において,医用画像表示装
であっても,似たような見え方にすることも可能で
置の点検管理方法は JESRA X-0093 による管理が必
ある.GSDF はモノクロ画像のみが対象であるため,
QA ガイドラインの適用範囲もモノクロ画像である.
要であるとの記載がある.
本稿では医用画像表示用モニターの品質管理を行
うためのガイドライン“JESRA X-0093*A
”
(QA
-2010
なおカラーモニターであってもモノクロ画像は表示で
きるため,前述のような適用範囲となる.
ガイドライン)の概要を紹介する.QA ガイドライン
注意点として,読影にどのようなモニターを使用す
は本会 HP からダウンロードできるので,詳細はダウ
るか,どのような基準値に設定するかの判断は,医療
ンロードして確認していただきたい.
機関自身が医師と相談して決める必要があり,QA ガ
URL : http://www.jart.jp/download/pdf/
JESRAX-0093-2010.pdf
イドラインは,決めたモニターや設定を管理していく
方法を提供しているのである.
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寄 稿 ◆
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2-2 運用体制とモニター品質管理者
理グレード 2 の区分がある.測定評価における判定基
適切な品質管理を実施していくためには,まず管理
準値以外の定義はないが,他の規格・指針では,診断
するグループや責任者,実行者などを明確にし,運用
用は管理グレード 1 を推奨していることが多い.
体制を確立することが望ましい.
試験は表 1 に示すように受入試験,不変性試験の 2
医療機関の長の委託により,医療機関の中に品質維
種類があり,不変性試験は試験の時期(導入早期,使
持活動全般の業務を行う品質保証委員会(仮称)を設
用日ごと,定期的)によって分けられる.またこれら
置し,
品質管理に関する業務は品質保証委員会(仮称)
の試験は目視評価と測定評価から成り立っている.主
の権限,責任で実施することが望ましい.品質保証委
観的な評価,客観的な評価の相互関係(簡便さ,数値
員会(仮称)はモニター品質管理者を任命する.
の比較)により,精度を保つことできるからである.
モニター品質管理者は,品質維持に関する手順の作
これらの試験結果は医用モニターが稼働している間,
成,受入試験・不変性試験の設定値の決定(特に最大
保存しておくことが望ましい.
輝度の設定値の決定)
,試験実施者への訓練,受入試
試験で不合格になった場合,再度同じ試験を行う.
験と不変性試験の実施,結果に対する評価と対策,試
それでも判定基準を満たさない場合は,キャリブレー
験履歴となる記録の保管,モニターの修理,更新など
ションを実施後,再度試験を行う.それでも不合格と
を行う.試験に精通していることが望ましく,業務の
なる場合は,モニター品質管理者に連絡し,しかるべ
一部を外部委託することも可能である.
き処置(修理や更新など)をしなければならない.不
合格の原因が,設置時に決めた最大輝度の基準値に達
2-3 試験方法と判定基準
しない場合には,その医用モニターの更新時期と判断
管理の判定基準の違いにより,管理グレード 1,管
することが妥当である.
表1 受入試験と不変性試験の概要
試 験
受入試験
時 期
導入時
再現性がある場合,納入メーカーの「出荷試験報告書」で代用可能.基本的に
は周囲光を含まず評価.
最終設置後,できるだ
け早い時期
初期値を測定し,出荷試験データや設定値と比較,グレードを確認した上で,
(基準値作成)
不変性試験
内 容
使用日ごと
定期的
不変性試験の基準値を決定する.基本的に測定値は周囲光を含まない.
モニター品質管理者の指名した使用者が,実際の読影照明下において,目視で
全体評価を行う.
基準値作成の時とできるだけ同じ環境下で行う.基本的に測定値は周囲光を含
まない.目視は実際の読影照明下で行う.試験間隔は少なくともCRTで3カ月
ごと,LCDで6カ月ごと.ただし,LCDは輝度安定化回路を装備していれば,1
年とすることができる.
※明室での使用を考慮する方法もある.QAガイドラインの付属書4参照
2-4 目視評価について
病院で判定用の臨床画像を準備できない場合は,
目視評価は,決められたテストパターンと,医用
JIRA が提供する図 3 の基準臨床画像を使ってもよい.
モニターの用途に応じた判定用臨床画像とを用いる.
基準臨床画像には模擬結節が埋め込まれており,識別
使用するテストパターンを図 1,図 2 に示す.図 1 の
可能かを判定する.
TG18-QC テストパターンにはさまざまな要素を見る
図 1∼図 3 などのパターンを使用して,表 2 に示す
パターンが描かれており,評価時には適切な箇所を確
目視評価を行う.表 3 以外にも TG18-QC と基準臨床
認する必要がある.図 2 は 204 階調(8bit 時)のベタ
画像を合成した“JIRA CHEST-QC”パターンなど
パターンでもよい.
代替パターンも提供しているので,詳細は QA ガイド
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日本診療放射線技師会誌 2012. vol.60 no.723
寄 稿 ◆ 医用画像表示用モニタの品質管理に関するガイドライン(JESRA
X-0093)の紹介
クロストーク要素
ビデオ特性要素
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16段階輝度パッチ
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グレースケール要素
5%95%輝度パッチ
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図1 JIRA TG18-QC テストパターン
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図2 JIRA TG18-UNL80
図3 基準臨床画像(矢印▼の箇所を判定)
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表2 目視評価 内容(代替パターン,CRT評価は割愛する)
分類
テストパターン
仕様
判定用臨床画像または
基準臨床画像
輝度
均一性
16段階のパッチの輝度差が明瞭に判別でき
なければならない.5%95%パッチが見え
受入試験
○
不変性試験
定期
使用日
−
−
10
11
○
○
○
判定用臨床画像または基準臨床画像の判
定箇所が問題なく見えなければならない.
○
○
○
滑らかな単調連続表示である.
○
○
−
○
○
−
○
○
−
−
○
−
なければならない.
全体評価
アーチファクト
グレード2
解像度≧1k 1k
JIRA TG18-QC
グレースケール
判定基準
グレード1
JIRA TG18-QC
JIRA TG18-UNL80
JIRA TG18-QC
JIRA TG18-UNL80
アーチファクトが確認できない.
著しい非一様性がない.
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0∼255 階調特性を 15 階調とびで 18 点測定し,2
ラインを参照願いたい.
点間のコントラストの応答を理想の GSDF と比較し,
2-5 測定評価について
理想の GSDF に近いかどうかを判定する.判定基準
測定は輝度計,色度計などの測定器を使用し,セン
値以内であることを確認する.計算が複雑なため計算
ター部にウインドーパターンを表示した TG18-LN,
ツールやアプリを使うとよい.
または JIRA BN パターンを測定する.ウインドーは
0,15,30…240,255 階 調(8Bit) の 計 18 種 類 あ
る.BN パターンは背景が 0 階調であるが,LN パタ
ーンは背景が浮いている(例 153 階調:8bit 時)ので,
望遠型の輝度計で測定する場合に影響がある.LCD
では BN パターンを使用することを推奨する.図 2 の
TG18-UNL80 パターンは輝度均一性や色度差の測定
●最大輝度:
を確認する.
にも使用する.パターンに描かれている正方形の枠の
●輝度比:
中心を測定する.
255 階調(8bit 時)の輝度(Lmax)と,
0 階調(8bit
正しいモニター管理を行うために,測定器も正しい
時)の輝度(Lmin)との比.Lmax/Lmin が判定基
管理が必要である.測定器は種類によって,精度や使
準以上であることを確認する.
用方法などそれぞれ特徴があるので,メーカーやベン
●色度差:
ダーと相談しながら運用する必要がある.
センターと周辺の 5 カ所の色度を測定し,u ,v を
表 3 に測定評価内容を示す.各項目について簡単に
求める.一般的に色度計は色度座標 x, y で表示され
説明する.
るため,変換式を使う[変換式:u = 4x/
(−2x+
●輝度均一性:
12y+3),v =9y/(−2x+12y+3)].①画面内の色
度均一性は 5 点のあらゆる 2 点の組み合わせから最大
2
2 1/2
となる⊿ u v(=
{
(u1 − u2 )
+
(v1 −v2 )
} )を求め,
0.010 以下であることを確認する.②マルチ医用モニ
ターにおいては,モニターごとに 5 カ所の測定値を平
均し,それぞれのモニターとの⊿ u v を求め,最大値
255 階調(8bit 時)の測定値(Lmax)
.①判定基
準の輝度以上を満たしていることを確認する.②導入
早期に作成した基準値とのズレが 10% 以内であるこ
とを確認する.③マルチ医用モニターにおいてそれぞ
れのモニターの最大輝度の差が 10% 以内であること
センターと周辺の 5 カ所の輝度を測定し,最大値
(Lmax)と最小値(Lmin)から均一性を求め,30%
以内であることを確認する.
(Lmax − Lmin)
(
/ Lmax
+ Lmin)× 200(%)
●コントラスト応答:
表3 測定評価 内容
分類
テストパターン
輝度
均一性
JIRA TG18-UNL80
コントラスト
応答
最大輝度
JIRA TG18-LNまたは
JIRA BN
輝度比
色度差
4(000)◆
JIRA TG18-UNL80
判定基準
グレード1
グレード2
≦30(%)
受入試験
不変性試験
定期
○
−
≦±15(%)
≦±30(%)
○
○
≧170(cd/m2)
≧100(cd/m2)
○
○
マルチ医用モニター間≦±10(%)
○
○
輝度偏差≦±10(%)
−
○
≧250
≧100
○
○
画面内≦0.01
−
○
−
マルチ医用モニター間
≦0.01
−
○
−
日本診療放射線技師会誌 2012. vol.60 no.723
寄 稿 ◆ 医用画像表示用モニタの品質管理に関するガイドライン(JESRA
が 0.010 以下であることを確認する.
X-0093)の紹介
は,モニターは単独では医療機器に分類されてはいな
いが,
撮影された画像の表示を担う重要な機器であり,
3. おわりに
医療機器のシステムの一部でもあることから,保守管
理の対象であることは明らかである.
医用画像表示用モニターにとって,従来の高精細と
JIRA モニタ診断システム委員会では,実際に画像
いう単純なくくりが適切でなくなり,医療機器である
を見る医師,技師の方に安心して安全にモニターを
フィルムやシャウカステンの代わりとして発展してき
使ってもらえるように,適切なモニターを選択し,精
た医用モニター(GSDF 対応)と,情報用機器の端
度を維持するための品質管理を実現しやすくする仕組
末として普及してきた一般用モニターとが,区別なく
みを,さまざまな視点から検討していきたいと考えて
使用される状況となってきている.薬事法下において
いる.
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アンケートご協力のお願い
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1 月号と同時に“モニタ品質管理に関する実態調査”のアンケートを同封しておりますので,回答
のご協力をお願いします.モニター品質管理の実態を調査し,QA ガイドラインのさらなる改善や普
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及活動,診療報酬への反映も含めた検討材料としたいと考えております.QA ガイドラインに対する
要望などありましたら,アンケートへご記入ください.
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また JIRA 医用画像システム部会の HP の“4. モニタ診断システム委員会提供情報”で,ガイドライ
ンだけでなく,運用上の注意事項,テストツール,啓発活動などを紹介しておりますので,ご参考にして
ください.
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ご協力のほど,よろしくお願い致します.
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