ファンの列

「マルチスライスCTのシステム構成と画像再構成法」
東芝メディカル(株) 技術本部 営業技術部 CT技術担当
谷口 彰
(Akira Taniguchi)
1. はじめに
1990年代初頭にヘリカルスキャン技術の出現によって、X線CTは体軸方向へ連続的に撮影可能なモダ
リティーへ進化してきた1)。しかし、シングルスライスCT(以下SSCT)では、撮影範囲の限界や体軸方向分
解能など問題点が多く残されたままであった。1998年には4列型マルチスライスCT(以下MSCT)の開発に
よって本問題点の多くは改善され、二次元診断から三次元診断、真のボリュームスキャナへの一歩を踏み
出した。そこで、本稿では、MSCTシステム概要と特に注目すべき画像再構成技術を中心に概説する。ま
た、最新型8、16列MSCTについても同様に概説する。
2. MSCTのシステム概要と特長(マルチスライス検出器)
X線CTの急速な性能向上の背景には、検出器、画像再構成法などの新規技術開発や周辺コンピュー
タの性能向上など、さまざまな要素が寄与している。このうち、MSCTの最も特長的な要素として検出器が
挙げられる。
従来のシングルスライス検出器は、検出素子を1列円弧状に配列し、これをチャンネル方向に分割した
構造であるのに対し、マルチスライス検出器は、検出器列を体軸方向にも複数配列しマトリクス状の構造を
呈している。マルチスライス検出器の仕様は、メーカーごとに特色があり東芝社製AquilionTM8、16列用検
出器では、体軸方向の中心に0.5mmスライス相当の素子を16列、その外側に1mmスライス相当の素子を各
12列配列している(fig.1)。
ここで、体軸方向の検出器素子列数が同時収集可能なスライス数を決定するわけではない。通常、スラ
イス数は検出器からのデータを収集、処理する“DAS : Data Acquisition System”の個数による。8列システ
ムは8個のDAS、16列システムは16個のDASを有しているのである。
撮影スライス厚は、検出器とDASとの間にスイッチ回路を設け、体軸方向の検出器素子列を束ねることで
制御している。したがって、薄いスライス厚の場合もSSCTのようなビームトリマを用いず、良好なスライスプロ
ファイルが得られる。
3. MSCTの画像再構成
X線CTの画像再構成は、その基本定理からスライス面における円軌道全周方向からのX線投影データ
が必要である。しかし、SSCT、MSCTを問わず、ヘリカルスキャンでは任意スライス面において全周方向の
投影データを収集できないため、必要なデータを近傍のデータから補間して求める必要がある。補間後は、
Fig 1 マルチスライス検出器構造
Fig 2 ヘリカルピッチ
ノンヘリカルスキャンと同様のフィルタ補正逆投影が行なえるため、ヘリカル生データから如何に補間して、
一回転分の生データセットを作成するかが一番のポイントとなる。MSCTではノンヘリカルスキャンも可能で
あるが、その再構成法はSSCTと同様であるため、ここではマルチスライスヘリカルスキャンについて解説す
る。
はじめに、以下の項目について定義する。
・ ヘリカルピッチ
ヘリカルピッチとは、寝台の移動速度を表す指標であり、1スライス分の検出器幅とX線管1回転あたりの
寝台移動距離との比で定義される。
IEC規格にて、ヘリカルピッチにかわる指標としてビームピッチ(正式名:CT pitch factor)を適応する動き
がある。このビームピッチは収集総スライス幅とX線管1回転あたりの寝台移動距離との比で定義され、その
値から検出器列数を予測しにくくなる一方、被写体への照射X線パスの密度を表しているため、被ばくの
指標と考えることができる(fig.2)。
・ スキャンダイヤグラム
縦軸をX線管の角度、横軸を体軸方向の位置とし、螺旋状のX線管の動きとデータ収集軌跡を平面展
開図で表したもの(fig.3)。
3-1. コーン角の影響
MSCT画像再構成法の開発において、体軸方向のX線ビームの広がり(コーン角)への取り組みは不可
欠である2)3)4)。列数の増加、Thin-slice化に伴って、コーン角の影響も増大し、アーチファクトやスライスプ
ロファイル劣化の原因となるからである。
4列システムでは、コーン角の大きい外側のスライス面においても、入射する投影データは他のスライス
面の影響をそれほど受けないため、「投影データはスライス面に対して水平に入射する」と置き換えることが
可能である。しかし、8、16列システムではコーン角の増大により、投影データは複数スライス面をまたがっ
て透過し、外側スライスの中央部分には投影データが入射しないピクセルが存在する(fig.4)。つまり、4列
システムと同様の再構成法は適用できず、コーン角を十分に考慮した新しい再構成法の開発が必須とな
る。
3-2. 4列システムの画像再構成
4列システムでは、各検出器列ごとに異なるコーン角を持った投影データが入射するため、その影響を
緩 和 す る 目 的 で 、 ヘ リ カ ル フ ィ ル タ ー 補 間 法 ( HFI 法 ま た は MUSCOT 法 : Multi-Slice Cone-beam
Tomography Reconstruction Algorithm)を採用している5)。
Fig.3に示すように、MUSCOT法は任意スライス位置を中心にして体軸方向にフィルタ幅を決定し、フィ
ルタ幅内の全ての投影データをリサンプリング処理し、生データを作成する方法である。フィルタ幅内に存
在する実データ、対向データの密度は、切り出す位置によって一定とはならないため、リサンプリング処理
によりデータ数を一定にする。これは、フィルタ幅内の実データと対向データを利用した多点補間であるた
め、画像ノイズが低減され高画質が得られる。ヘリカルピッチ3、3.5、5.5などで実データと対向データの配
Fig 3 4 列スキャンダイヤグラム(MUSCOT 法・展開図)
Fig.4 コーン角の影響
置が最適となるため(高密度サンプリングスキャン)、アーチファクトの低減効果が高い。
また、設定するフィルタ幅により、撮影スライス厚の1~5倍の範囲で任意の画像スライス厚を作成すること
ができるため、スクリーニングと精査の両立が可能となる。
3-3. 8、16列システムの画像再構成
現在の8、16列MSCTでは、各社異なる方法でコーン角に対する取り組みがなされており、基本的にはコ
ーン角を考慮しないヘリカルフィルター補間法、限定的だが一部考慮されているASSR法又はこの改良版、
コーン角に忠実に再構成するTCOT法の主な3つが採用されている。弊社はノンヘリカルスキャン時のコー
ンビーム再構成法として考案されたFeldkamp再構成法をヘリカルに応用したTCOT法 : True Cone-beam
Tomography Reconstruction Algorithmを、8、16列MSCTに実装している。
TCOT法は、はじめに各検出器列の生データに対して再構成関数をコンボリューションする。次いで、
任意スライス面内の1つのピクセルに注目すると、そのピクセルを通過した投影データが、どの検出器列の
どのチャンネルに入射するのかを計算して求める。View方向が変わるごとに同様の計算をし、1つのピクセ
ルをバックプロジェクションするのに必要なView数分の投影データを求める。さらにはこれらの計算をスライ
ス面内全てのピクセルに対して行い、個々のピクセル毎にバックプロジェクションして1枚の画像を作成する
(fig.5)。したがって、バックプロジェクションに寄与する列、チャンネルはピクセルの位置にのみ依存し、完
全にコーン角を考慮し、常に最近傍のデータを利用していると言える画期的な再構成方法である。
人体ファントムを撮影し、ヘリカルフィルター補間法(HFI+)、ASSR法、TCOT法の画像を比較してみると、
ヘリカルフィルター補間法、ASSR法は、高コントラスト部からのアーチファクトが著しい。比べて、TCOT法
においては、これらのアーチファクトが低減しているのが明瞭である(fig.6)。このアーチファクトは、コーン
角の影響で発生し、ヘリカルフィルター補間法、ASSR法で顕著であるのは、両者がコーン角を無視または
正確に考慮していない結果であると考えられる。
3次元的に再構成するTCOT法は、ファンビーム単位で逆投影を行うヘリカルフィルター補間法と比較し
て約6倍の計算処理量となり、高速な再構成装置を必要とするため最も実装が困難な方法と言える。しかし、
8、16列システムについては、TCOT法が最適であることは再構成原理、画質の点からも明白である。
4. 結語
4列マルチスライスCTは導入からわずか3年あまりで急速に普及したが、あくまでもボリュームスキャナへ
の一歩であり、更なる多列化への進化は誰もが考えることである。本稿では一般的なマルチスライスCTの
システム概要から画像再構成技術を中心に概説したが、このような技術概説が臨床使用の一助となればと
考える。
Fig.5 TCOT 再構成法の原理
Fig.6 再構成手法の違いによるファントム画像比較
<参考文献>
1)片倉俊彦,木村和衛,鈴木憲二他:CTの基礎的研究 第9報―螺旋状スキャン(ヘリカルスキャン)―の
試み.断層映像会誌,16,247-250,1989
2)Michael D.Silver, Katsuyuki Taguchi et al.: Field-of-view dependent helical pitch in multi-slice CT.
SPIE,4320,839-850,2001.
3)Kachelriess M, Schaller S, Kalender WA,: Advanced single-slice rebinning in cone-beam spiral CT.
Med Phys,27,754-772,2000.
4)Schaller S, et al.: Novel approximate approach for high-quality image reconstruction in helical cone
beam CT at arbitrary pitch. SPIE,4322,113-127,2001.
5)Taguchi K and Aradate H,: Algorithm for image reconstruction in multi-slice helical CT. Med
Phys,25,550-561,1998.