野木幹男:エフェクターを使いこなす! DAW ソフト全盛時代になって大きく様変わりしたのがエフェクターまわり。手軽に多くの種類のエフェクター を使えるようになり、そのルーティンも自由自在に設定できるようになりました。ただフレキシビリティが高く なった分、使いこなすのは難しくなったと言うこともできます。複数のエフェクターをかけ合わせるにしても、 どんなエフェクターをどんな順番でかけるか、どんな音源に、どのようなプロセスでかけるのかといったことに よって、その効果は大きく異なります。1 つ 1 つのエフェクト効果やパラメーターに習熟すると同時に、その組 み合わせやかけ方に関しても詳しく考察していきましょう。 第 18 回:ブラス・サウンドのエフェクト ( 2010 年 2 月 13 日 ) ブラスはそのパワフルなサウンドで楽曲に華やかさを与えてくれる、ポップ・ミュージックでは欠かせない存在です。リ ズム的にもアクセントとなる役割を持っています。今回はそんなブラスのエフェクト・ワークについて解説しましょう。 ■生のブラスのエフェクト処理 生のブラスの場合、基本的にはいつものコンプレッサー、イコライザーという流れになります(fig.1)。ストリングスの場 合とは対照的に、ブラスでは積極的にコンプレッサーを使うことによって音の粒立ちをそろえたり、迫力を出すことがで きます。アンサンブルの場合は個々にコンプレッサーをかけてもよいですが、ドラムと同様にセクション全体をミックス したものにトータルにコンプレッサーをかけたほうがバランスよく聞こえる場合もあります。 fig.1 生ブラスのエフェクト・ワーク例 イコライザーはハイを強調してきらびやかなサウンドを作るというのが主な使い方になるでしょう。さらにエキサイター を使うことによってイコライザーとはひと味違った感じで倍音を強調することも可能です。仕上げのリバーブは無難に行 くにはホール系ですが、プレート系を使うことによって残響もきらびやかにすることができます。 アンサンブルで人数感が足りない場合は軽くコーラスを使用してもよいですが、あまりかけすぎるとせっかくの生の感じ を損ねてしまいます。同じ管楽器でもウィンド系のクラリネットやオーボエは使用目的にもよりますがイコライザー+リ バーブでややおとなしめのエフェクトにし、素材のサウンドを引き出すようにします。フルート、ピッコロなどの倍音が 少なめの木管楽器はコーラスと比較的相性よく使えます。 ■シンセ・ブラス系のエフェクト処理 シンセ系のブラスでも基本は同じですが、よりアグレッシブなエフェクトの可能性があります(fig.2)。サンプリングやシ ンセ音色の場合、コーラスやピッチシフターなどのエフェクトとも親和性があり、人数感を増やしてより厚いサウンドに 仕上げることができます。また、ソフト・ブラスのソロなどでステレオ・コーラス(多相コーラス)を使用して全体的に ソフトな雰囲気で包み込むといったアプローチがよく使われます(fig.3)。 fig.2 シンセ系ブラスのエフェクト・ワーク例 fig.3 ソフトブラスをステレオコーラスで広げる 使用できるシーンはやや限定的になりますが、フランジャーやフェーザーといった飛び道具的なエフェクトも効果的な場 合があります。フランジャーは周期をゆっくりにして「ジェットマシン」的な使い方で派手なサウンドに仕立てることが できます。フェーザーはやや癖がありますが、かえってそれを生かす方向でブラスのサウンドに溶け込ませられればおも しろく使えます。残響にはリバーブが標準的ですが、タイトなブラスの場合、ショート・ディレイも効果的です。ステレ オで広げればさらに臨場感や迫力が増すでしょう。 シンセブラスの場合、始めから5度重ねなどの音色が用意されていますが、そうでない音色を和音にするにはピッチシフ ター(ハーモナイザー)を使用します。もちろんシンセ側でエディットして作ればいいという話ですが、エフェクターに よって手軽に加工でき、雰囲気もひと味違ったものになります。 ここ数回にわたって音色別の典型的なエフェクト・ワークを解説してきましたが、このあたりでおおむね通常使用される 音色は網羅できたように思えます。そこで、次回からは音作りの仕上げとしてミキシングとマスタリング時におけるエフ ェクトについて解説することにしましょう。
© Copyright 2024 Paperzz