19 世紀前半の合衆国における国内市場統合に関する分析

19 世紀前半の合衆国における国内市場統合に関する分析
――小麦粉価格の共和分分析を中心として――
角 井 正 幸
は じ め に
19 世紀の合衆国は,
「西方への外縁的拡大」
(西漸運動)の時代,
「農業の飛躍的発展」期,
「工業部門の勃興」期などさまざまな特徴で描かれるが,
「輸送革命」の時代とも形容され
る.もちろんこの「輸送革命」は単に輸送そのものの発展というだけでなく,たとえば鉄道
がレールや貨車などの需要によって鉄鋼産業を発展させ,農産物や畜産物,農産物加工品の
輸送手段として機能した(小澤,1990,286 ページ,第 4 表参照)ことに鑑みると,19 世紀合
衆国の経済成長を下支えした存在としての意義を強調しておかなければならない1.そして,
「輸送革命」が遠隔地市場の統合を通じて「市場の効率性」をもたらしたことによっても経
済成長の基礎となったと考えれば,市場の形成者としての「輸送革命」の意義が浮かび上が
る.
さて,19 世紀を「輸送革命」の時代と位置づけるとき,南北戦争を挟む 2 つの時期に区
分することができる.南北戦争以前を「19 世紀前半」,南北戦争以降を「19 世紀後半」と
呼ぶとすれば,19 世紀後半には,1869 年の大陸横断鉄道の開通とスエズ運河の開通に象徴
されるように,
「初期グローバル期」2として国際的な市場への統合が進展した時期といって
よい.一方の 19 世紀前半においても,合衆国の生産物は国際市場とつながっていたことは
明らかであるが,西方へ拡張しつつある合衆国において,国際市場とつながる沿岸地域と内
陸地域の接続は必要不可欠であった.その意味で,19 世紀前半における市場統合の分析は,
合衆国国内の交通網の発達を通じた内陸と沿岸地域の市場統合を対象とすべきなのである.
そのため本稿は,19 世紀前半の国内輸送のネットワーク形成を,小麦粉の例を用いて,
市場統合という側面から明らかにすることを目的としている3.小麦粉は,工業部門の生産
1
2
3
その意味では,フォーゲルが,鉄道の発展が合衆国の経済成長に与えた影響はそれほど大きくな
いことを示し,大きな議論を巻き起こしたことは初期の計量経済史分析における一大成果であるこ
とは間違いないものの(フォーゲル(田口・渋谷訳),1977,第 7 講・第 8 講),その分析対象が
制限されていたことも記憶しておくべきであろう.
Williamson (1996)は,19 世紀後半は 20 世紀末のグローバリゼーションと同様の「収束」が見ら
れるとしている(p.277).ここでは,現在のグローバリゼーションに対して,この 19 世紀後半の
グローバリゼーションの時代を「初期グローバル期」と呼称している.
19 世紀後半(分析期間は 1867 年~1897 年)の国際的な市場統合分析として,角井(2000)は,
イギリス(ロンドン)を中心市場に据えた上で,ニューヨークからシカゴを経由してミズーリへと
つながる合衆国の生産地までの統合と,カルカッタに代表されるインド市場との統合を対象とした
分析を行っている.そこでは,合衆国とイギリスとの間には生産地(ミズーリ)までつながる市場
統合が成立していた一方で,インド(カルカッタ)とイギリス(ロンドン)との間では,インドに
1
物でありながら農業部門と密接に関連していることから,第一次産業と第二次産業の双方
を包括する品目として捉えることができる.さらに,第 1 章で詳述するように,19 世紀前
半の開発の最前線であったオハイオバレーを起点とする国内市場網において,小麦粉が主
力品目として揺るぎない地位を有していた.その意味において小麦粉を市場統合分析の対
象品目とすることは極めて妥当である.
以上の問題意識のもとに本稿は,第 1 章において 19 世紀前半の輸送手段の発達とシンシ
ナティなど分析対象となる都市の発展を概観した上で,第 2 章において本稿で用いるデー
タを整理するとともに分析手法を明示する.そして,第 3 章において実証分析の結果を示
し,その経済史的意味について考察を行う.
1
国内市場形成
1.1 輸送革命の時代
本稿の分析対象期間が 1816-1860 年であることからすると,1825 年のエリー運河の開通
が最大のエポックメイキングな要素であると考えられる.実際,この出来事をふまえて,合
衆国経済史における輸送手段の発展は,1810 年代までの有料道路の時代(turnpike era),
1820 年代・1830 年代の運河の時代(canal age),1840 年代・1850 年代の鉄道の時代(railroad
age)に区分される(鈴木,1972,261 ページ)
.
とはいえ,この時代区分についてはいくつかの留保が必要である.第 1 に,中西部地域か
らの生産物輸送は,元来ダウン・リヴァ・トレイドといわれる河川輸送を中心としていた点
である.19 世紀前半の比較的早い時期(1820 年)には,フロンティアラインはオハイオ州
南部やインディアナ州南部あたりを通過しており(Cochrane, 1979, p.49),オハイオ川流域
周辺の地域(オハイオバレー)を中心とするオハイオ州,インディアナ州,ケンタッキー州
が人口増大,農業生産などの中心であった(Berry, 1943, pp.3-4).この地域では,シンシナ
ティがオハイオ川に面しており,物流の結節点として成長していった4.オハイオ川はミシ
シッピ川の支流であり,水運によってニューオリンズへとつながるルートが形成されてい
たのである.19 世紀後半にはフロンティアラインが西漸し,中西部の農業生産の中心がよ
り西方に移動し,西部開発の中心がインディアナ州からイリノイ州に進むにしたがって,イ
リノイ川およびミシシッピ川を利用する輸送手段も利用可能になった5.このようなダウン・
リヴァ・トレイドによる貨物輸送量(額)は 1860 年にいたるまで増加の一途を辿っており
(鈴木,1972,274 ページ,第 38 表「ニューオリンズのリヴァ・トレイド(1813-1860 年)),エリ
4
5
おける度重なる飢饉の発生によって,合衆国-イギリス間に比べて統合関係が脆弱であったことを
実証している.
オハイオ川の流域において発展した都市には,その他にルイヴィル(ケンタッキー州),ピッツバ
ーグ(ペンシルヴァニア州)がある(鈴木,1972,276 ページ)
.
ミシシッピ川沿いで輸送の結節点として発展した都市にはセントルイス(イリノイ州)がある
(鈴木,1972,276 ページ).
2
ー運河開通の 1825 年前後においても,その増加は止まっていない.その意味で,19 世紀前
半の輸送革命期において,エリー運河の開通や鉄道による東西直結といった画期を経たと
しても,必ずしもそれ以前の輸送手段が直ちに駆逐されていったとの認識は妥当ではない6.
なお,本稿の分析対象である小麦粉輸送に限ってみると,ニューオリンズを経由する割合が
1839 年には 53%,1844-57 年でも 30%前後である(小澤,1990,282 ページ,第 1 表).ま
た,シンシナティからの小麦粉の送り出しは,1851 年には南部向けが 97%であったが7,
1850 年代後半にようやくその比率が逆転した8.
第 2 に,1810 年代の有料道路の時代の画期は 1818 年のカンバーランド道路9の開通であ
るが,本稿の分析期間の最初期にあたることや,前段に述べたように,シンシナティからの
水運が極めて重要な役割を果たしていたことから,本稿においては考慮の対象外としても
問題がないということを指摘しておこう.
第 3 に,1840 年代以降が鉄道の時代と規定されるが,本稿の分析対象であるシンシナテ
ィに限っていえば,1840 年の段階で鉄道は開通していない(鈴木,1972,268 ページ,第 12
図 A の右図)
.1850 年にはシンシナティと五大湖を結ぶ鉄道が開通しているが,その時点で
は東部と直接はつながっていない(鈴木,1972,268 ページ,第 12 図 A の左図)10.それより
もいち早く,マイアミ運河の建設が開始されるが,この運河はシンシナティから北上して建
設されたため,1845 年にエリー湖と接続するまではオハイオ州周辺の内陸部からシンシナ
ティへの物流に資し,南部(ニューオリンズ)経由の輸送のために建設されたという性格が
強かった(Berry, 1943, pp.11-12).
以上のような留保事項を総合すると,本節冒頭に示したような合衆国経済史における輸
送革命の時代区分は,本稿の分析対象であるシンシナティ(中西部)-ニューオリンズ(南
部)-フィラデルフィア(東部)間の小麦粉輸送に関しては,その画期に劇的な取引構造の
変化は生じておらず,その一方で,輸送手段は着実に発展しており,市場間での統合は順次
進展していたことが予想される.
6
中西部における生産物の仕向け先として東部大西洋岸諸州向けの額が南部(ニューオリンズ)向
けを上回るのは 1850 年代半ばであった(鈴木,1972,283 ページ,第 13 図)
.また,19 世紀後
半(1870-1895 年)にいたっても,シカゴ-東部間輸送において湖上輸送(五大湖-エリー運河
-ハドソン川)の割合は 7 割以上であり,鉄道よりも圧倒的なシェアを占めていた(小澤,
1990,286 ページ,第 45 表).
7 南部向けは,鈴木(1972)282 ページ,第 40 表の「ニューオリンズ行」
「ニューオリンズ以外の
下流諸河港行」「フラットボートによるもの」の合計(473,429 バレル)
,北部向けは同表の「上流
諸河港行」「運河および鉄道経由」の合計(12,587 バレル)として計算している.
8 1857 年:南部向けが 27%,北部向けが 73%,1858 年:南部向けが 3%,北部向けが 97%,
1859 年:南部向けが 19%,北部向けが 81%.
(鈴木,1972,282 ページ,第 41 表)
9 1811 年着工.東部メリーランド州のボルティモアからペンシルヴァニア州,オハイオ州,インデ
ィアナ州を経てイリノイ州ヴァンデイリアを結んだ.ヴァンデイリアまでの開通は 1838 年.
(ギ
ルバート(池田訳),2003,55 ページ,地図 47)
10 1860 年にはシンシナティ周辺には鉄道網が整備され,東部とも鉄道で接続している(鈴木,
1972,269 ページ,第 12 図 B).
3
1.2 小麦粉輸送の結節点
前節でみたように,19 世紀前半の小麦粉輸送に関しては,オハイオバレーの産品が集中
するシンシナティから,ニューオリンズを経由するか,もしくは直接に東部消費市場へとつ
ながっていたことが想定される.
ニューオリンズは,いうまでもなくダウン・リヴァ・トレイドに不可欠な都市であり,こ
の街を分析に含むことは必然である.前節でみたとおり,ダウン・リヴァ・トレイドは 19
世紀前半を通じて拡大しており,その存在を無視することはできない.ただしここでは,前
節で指摘したダウン・リヴァ・トレイドの増大が,かならずしも小麦粉輸送の増大であるか
は判然としないという点だけを指摘しておこう11.
次に,東部の市場であるが,本稿ではフィラデルフィアを対象としている.1825 年のエ
リー運河開通後に運河の時代を迎えた背景には,それまで市場として孤立していたニュー
ヨーク州が一躍東部市場の中心として確立した(鈴木,1972,278 ページ)ことに対して他地
域が対抗するために計画されたものである(鈴木,1972,265 ページ)という点があった.ま
た,1840 年代以降のニューイングランド地域の鉄道網の整備は,
「エリー運河によって西部
通商の支配権を確立したニュー・ヨークにたいするボストン資本の挑戦」
(鈴木,1972,280
ページ)であった.これらの点に鑑みると,本来であれば東部の市場としてニューヨークを
選択するべきである.しかし,次章で示すとおり,データの完全性の問題から,ニューヨー
クは分析から除外せざるをなかった.
最後に,シンシナティは,これまでもみてきたように,19 世紀前半における中西部農業
生産の中心であるオハイオバレーを擁し,19 世紀後半にその主導的役割をより西部のシカ
ゴに譲るまで(小澤,1990,287 ページ)小麦粉輸送の結節点としての役割を担った最大の都
市である.実はシンシナティは,製粉業の拠点としては失敗するのであるが(Berry, 1943,
pp.160-164)
,1856-1860 年においても(5 年間平均で)550,100 バレルの小麦粉を受け取り
(Berry, 1943, p.166, Table 12).これ
(imports),515,100 バレルを送り出している(export)
らの値が,10 年前(1846-1850 年の 5 年間平均)の 1.8 倍~2.0 倍にまで増大していることか
らも,19 世紀前半の西部の小麦粉市場の代表としてシンシナティが妥当であることは間違
いない.
2
データの整理と分析方法
2.1 データの整理
本稿では,Cole (1938) に掲載されている 1816-1860 年の小麦粉価格を分析対象とする.
Cole (1938) は 18 世紀から 1861 年までの卸売物価指数を導出することを目的としたもの
11
鈴木(1972)は,運河や鉄道が東部と接続した後もニューオリンズのリヴァ・トレイドの受け取
りが増大しているが,それはミシシッピ川沿いの南部諸州における綿花輸送の増大であると指摘し
ている(238 ページ).
4
であるが,その基礎となる多様な製品の月次データをすべて『統計補遺』に掲載している.
データの出所は極めて多様であるのでここにすべてを紹介することは避けるが,Cole
(1938) には各都市に関するデータの出所を一覧表として掲載している12.Cole が分析対象
とした都市は,フィラデルフィア,ニューヨーク,ボストン,チャールストン,ニューオリ
ンズ,シンシナティの 6 か所であり,食品,酒類,工業用原材料,工業製品について全 45
品目の価格データを利用している.
小麦粉の価格データに関しては,フィラデルフィアは 1700-1861 年,ニューヨークは
1748-1861 年,ボストンは 1752-1795 年,チャールストンは 1762-1860 年,ニューオリン
ズは 1800-1860 年,シンシナティは 1816-1860 年の期間のデータが掲載されているが
(Cole,1938, ‘NOTES’),当然のことながら欠損値も多く存在する.このような状況を勘案す
ると分析に耐えうる期間は 1816-1860 年となるので,必然的にボストンは分析から省かざ
るを得ない.さらに,この分析期間内において,ニューヨークの価格データには少数ながら
欠損が生じている.ニューヨーク価格の欠損はそれほど多くないので,前後の年の価格動向
から欠損を埋める方法を模索したが,欠損月の前後年同月の価格動向に明確な傾向が見ら
れず,ニューヨークを分析から省かざるを得なかった.チャールストンに関しては,分析期
間内に欠損値はみられないが,掲載されている小麦粉の品質(もしくは品種)が頻繁に変更
されている.そのため,チャールストンも分析から除外した.
このような整理を行った結果,分析対象は 1816-1860 年のフィラデルフィア,ニューオ
リンズ,シンシナティの 3 都市(市場)ということになるが,これら 3 系列に関しては,す
べて品質が superfine,単位は 1 バレルあたりのドルで統一されている13.したがって,価
格時系列をそのまま用いることができる.
以上の 3 市場の価格時系列を示したものが,第 1 図である14.この図だけでは価格動向の
詳細までは読み取れないが,1810 年代後半,1830 年代後半,1850 年代半ばに高価格の時
「1796-1797 年,1814-1819
期があることがわかる.この点は Berry (1943) が指摘しており,
年,1836-1839 年,1855-1857 年の 4 期間の(農産物全般の)価格は,ほぼ同水準にある.
最初のもの(1796-1797 年)のみが『ピーク』を示しており,また第 3 のもの(1836-1839 年)
(後略)」15と記述している.ここ
以外は戦争によってもたらされたもの(価格上昇)である.
フィラデルフィアに関しては pp.26-36 の Table 13, Table 14, Table 15, Table 18,ニューオリン
ズに関しては pp.66-67 の Table 27,シンシナティに関しては pp.78-79 の Table 29 と Table 30.
13 それ以前の期間(とくに植民地期)に関しては,シリング/ハンドレッドウェイトや,シリング
/バレルなどの単位が用いられているため,分析期間を延ばす場合には単位の変換をする必要があ
る(Cole, 1938, p.ix).
14 本稿では,フィラデルフィア価格を Phil (その価格変数を ( Phil ) )
,ニューオリンズ価格を NO
12
(その価格変数を ( NO ) ),シンシナティ価格を Cin (その価格変数を (Cin) )と表記する.また,
第 3 章の分析に用いる対数化した階差変数は,それぞれ  ln( Phil ) ,  ln( NO) ,  ln(Cin) と表
15
す.
Berry (1943) p.176.(
)内は角井が補足した.この文章は農産物全般の価格動向に関する記
述であるが,第 1 図にあるように,小麦粉価格の動向も後 3 者の期間に 6 ドル以上まで上昇して
いることから同様の状況にあると考えてよいであろう.
5
での最初の期間(1796-1797 年)は本稿の分析対象外であるので詳しく考察しないが,18141819 年の期間と 1855-1857 年の期間に影響をもたらした戦争は,1812 年戦争16とクリミ
ア戦争である.また,1830 年代後半の価格上昇は投機ブームによるものであると Berry
(1943) は分析している(p.198).
20
18
Phil
NO
Cin
1855/4, 19.25
16
14
12
10
8
6
4
2
1816/1
1817/1
1818/1
1819/1
1820/1
1821/1
1822/1
1823/1
1824/1
1825/1
1826/1
1827/1
1828/1
1829/1
1830/1
1831/1
1832/1
1833/1
1834/1
1835/1
1836/1
1837/1
1838/1
1839/1
1840/1
1841/1
1842/1
1843/1
1844/1
1845/1
1846/1
1847/1
1848/1
1849/1
1850/1
1851/1
1852/1
1853/1
1854/1
1855/1
1856/1
1857/1
1858/1
1859/1
1860/1
0
第 1 図 3 市場の小麦粉価格の動向(1816 年 1 月~1860 年 12 月)
(出所)Cole (1938)より作成
(単位)ドル/バレル
16
1812 年戦争は 1814 年末に終了するので,「1815 年初頭には市況は崩壊し,(1814 年末にはシン
シナティで 9 ドル/バレルに達していた)小麦粉価格は 6.5 ドル/バレルまで下落した」(Berry,
1943, p.160)が,
「1818 年にはニューオリンズが莫大な量(236,000 バレル)の取引が行われ,
シンシナティを通った量が 130,000 バレルに達した」(Berry, 1943, p.160)とされていることか
ら,この時期に市場が活況を取り戻したことが推察される.
6
ところで,第 1 図によると 1855 年 4 月のフィ
ラデルフィア価格のみが極端に高くなっている.
そこで,1855 年の価格時系列のみを取り出して第
1 表に示すと,この値がミスによる異常値である
ことが推測される.そのため,以下の分析では,
1855 年 4 月のフィラデルフィア価格を 10.25 ドル
として分析を行うこととする.もちろん,この価格
が 10.25 ドルである保証はない.また,ほかにも
ミスによる異常値が存在するかもしれない.その
意味では,この値のみを修正することは妥当では
ないかもしれない.しかし,この価格を元のデータ
のまま(19.25 ドル)で単位根検定を行うと,この
第1表
1855 年の小麦粉の月次価格
年/⽉
1855年1⽉
1855年2⽉
1855年3⽉
1855年4⽉
1855年5⽉
1855年6⽉
1855年7⽉
1855年8⽉
1855年9⽉
1855年10⽉
1855年11⽉
1855年12⽉
Phil
9.19
8.94
9.06
19.25
10.75
10.52
9.31
8.81
7.47
8.37
9.31
8.84
NO
8.00
11.50
10.88
10.25
9.88
9.50
9.00
7.12
6.62
8.25
8.60
8.50
Cin
7.65
8.20
8.20
9.85
9.52
9.45
8.45
7.05
6.62
7.40
7.95
8.05
(出所)Cole (1938)より作成
(単位)ドル/バレル
データを含む期間でフィラデルフィア価格が I(0)
変数となるケースが散見されるようになる.そのため,分析の都合上,上記の通りこの値を
修正した形で分析を行う.17
さて,先述の通り第 1 図は価格動向の詳細を見るには煩雑に過ぎるので,15 年ごとに区
切った図を作成した.それぞれ,第 2 図が 1816-1830 年,第 3 図が 1831-1845 年,第 4 図
が 1846-1860 年の 3 市場の価格動向を表している(これら 3 図では,縦軸のスケールを統一し
ている)
.これらの図から明らかなことは,後年になるにつれて 3 市場の価格がより収束し
ていることであるが,この点は第 3 章の市場統合の分析に譲ることにする.それよりもこ
こで指摘しておかなければならないことは,ニューオリンズ価格に季節変動らしきものが
みられることである.とくに第 2 図(1816-1830 年)では,9 月~11 月のニューオリンズに
おいて高価格を示す年が頻出する.そこで,価格時系列に季節調整を施す必要があるか否か
を検討してみよう.もし,ある市場(ニューオリンズ)の価格に季節変動が生じており,他
の市場(フィラデルフィア,シンシナティ)で季節変動がみられない場合,通常はこれらの市
場間の統合がみられない,もしくは統合関係が弱いと判断することになるであろう.その意
味において,本稿では価格時系列に季節調整を行わず,原系列をそのまま利用することが妥
当であろう(ただし,分析には対数化した値を用いる).
17
ちなみに,全期間(1816-1860 年)を対象として単位根検定を行うと,有意水準を 1%とした場
合,フィラデルフィア価格は I(1)変数,ニューオリンズ価格とシンシナティ価格は I(0)変数であ
る.
(有意水準が 5%であればフィラデルフィア価格も I(0)変数となる.
)
7
1831/1
1831/7
1832/1
1832/7
1833/1
1833/7
1834/1
1834/7
1835/1
1835/7
1836/1
1836/7
1837/1
1837/7
1838/1
1838/7
1839/1
1839/7
1840/1
1840/7
1841/1
1841/7
1842/1
1842/7
1843/1
1843/7
1844/1
1844/7
1845/1
1845/7
1816/1
1816/7
1817/1
1817/7
1818/1
1818/7
1819/1
1819/7
1820/1
1820/7
1821/1
1821/7
1822/1
1822/7
1823/1
1823/7
1824/1
1824/7
1825/1
1825/7
1826/1
1826/7
1827/1
1827/7
1828/1
1828/7
1829/1
1829/7
1830/1
1830/7
14
1817/3
1819/10
Phil
10
1823/7
(出所)Cole (1938)より作成
(単位)第 1 図に同じ
8
NO
1824/10
1829/3
8
Phil
第 3 図 3 市場の小麦粉価格の動向(1831 年 1 月~1845 年 12 月)
NO
Cin
12
1821/11
1829/10
1826/9
1830/10
6
4
2
0
第 2 図 3 市場の小麦粉価格の動向(1816 年 1 月~1830 年 12 月)
(出所)Cole (1938)より作成
(単位)第 1 図に同じ
14
Cin
12
10
8
6
4
2
0
14
Phil
NO
Cin
12
10
8
6
4
2
1860/7
1860/1
1859/7
1859/1
1858/7
1858/1
1857/7
1857/1
1856/7
1856/1
1855/7
1855/1
1854/7
1854/1
1853/7
1853/1
1852/7
1852/1
1851/7
1851/1
1850/7
1850/1
1849/7
1849/1
1848/7
1848/1
1847/7
1847/1
1846/7
1846/1
0
第 4 図 3 市場の小麦粉価格の動向(1846 年 1 月~1860 年 12 月)
(出所)Cole (1938)より作成
(単位)第 1 図に同じ
2.2 分析手法
近年の市場統合分析は,多地域の価格の変動係数(もしくは分散・標準偏差)が時間ととも
に低下していくことを計測する方法と,共和分分析(ベクトル誤差修正モデル(VECM))を用
いる方法が主流である(Burnt and Cannon, 2014, p.111).前者の方法は分析が容易であり,
対象地域が多数にわたる場合に有効である.しかし本稿では,分析対象地域は 3 市場のみ
であり,長期均衡の存在と均衡への収束速度が計測可能である後者の方法を用いる.
ただし,本稿では単純に 3 市場の小麦粉価格時系列に VECM を適用するのではない.当
然,VECM を適用するために,単位根検定,最適ラグの確定,共和分ランクの検定,VECM
の推定の手順を踏むが,分析対象期間を 5 年ごとに区切って逐次的に分析を行う.たとえ
ば最初の 5 年間は 1816 年 1 月~1820 年 12 月の 60 か月であり,この 5 年間を「1816-1820
年の 5 年区間」と呼ぶことにする.まず,最初の「5 年区間」
(1816-1820 年)について VECM
の推定までのすべての分析を行い,つづいて 5 年区間を 1 年ずらして,「1817-1821 年の 5
年区間」についても同様の分析を行う.これを繰り返し,最後の「1856-1860 年の 5 年区間
まで,41 回の VECM の推定(と共和分分析)を行うのである.
このような分析手法には,以下の 2 つの利点がある.第 1 に,各分析期間が 5 年である
ので,長期の時系列分析において障害となる分析期間内の構造変化の問題をある程度回避
できることである.もちろん,第 1 章で既述の通り,1825 年にはエリー運河が開通し,大
9
きな構造変化が生じたと考えられる時期を分析期間に含む場合が出てくる.しかし,ある 5
年区間と次の 5 年区間を比較すると,3 年分の期間がオーバーラップしているために変化の
現れ方が緩やかとなる.そして,この点は次の第二の利点に関係するのであるが,本当に急
激な市場統合関係の変化が生じた際には,その期間を含む 5 年区間において調整係数(誤差
修正速度)や共和分関係に顕著な動きが見られるはずである.次に第 2 の利点は,5 年区間
を順次オーバーラップさせながら分析を進めていくことによって,調整係数による市場統
合関係の在り方の「推移」が考察できることである.
分析には価格時系列の対数値を用い,VECM の推定は 3 市場を同時に行う.ただし,よ
り上流の市場において共和分ベクトルが 1 となるようにモデルを設定している.具体的に
は,小麦粉の輸送がシンシナティからニューオリンズ,そしてフィラデルフィアへとつなが
っていることを想定し,価格の統合関係が ln(Cin)    1 ln( NO )   2 ln( Phil ) となるように
設定しているのである.これは,角井(1999)や角井(2000)において想定したように,よ
り下流の市場(消費地に近い市場)が中心市場であり,中心市場の価格が周辺市場の価格を
決定するという構造を想定したものである.これら先行研究においては,自由度確保の観点
から中心市場を独立変数に,周辺市場を従属変数に据えた一方向の誤差修正モデル(と共和
分関係)を推定するにとどまったが,本稿においても価格決定の方向は同様の構造を想定し
たうえで,双方向の VECM を用いる.
ただし,VECM で推計された調整係数に関しては次のように考える.本稿の分析はあく
までも市場統合の在り方を対象としているので,均衡からの逸脱に対する修正はどちらの
方向から生じるかは自明ではない.市場が統合していることを示す調整係数は負であるこ
と(通常は-1~0)が期待されるが,変数の組み合わせ方によっては正の値で現れる場合が
ある18.そこで,必要に応じて変数の順序を入れ替えて調整係数を導出する.
3
推計結果の考察
3.1 単位根検定
単位根検定は,まずディッキー=フラーGLS(DF-GLS)検定で行う.分析には Stata 13.1
を利用し,トレンドを考慮したモデル(定数項を含む)を用いて検定を行っている.最大ラ
グ次数は 12 期に設定しており19,検定結果は最小の検定統計量を示したラグ次数について
のみ表記する20.有意水準は 1%とし,導出された検定統計量が臨界値を下回った場合には
「単位根がある」という帰無仮説を棄却する(I(0)変数であるとする).逆にいえば,検定統計
18
正の調整係数は,共和分関係を表す変数の順序に依存しているだけであるから,そのままでも分
析上は問題ない.しかし,均衡への収束速度を明示するためには変数の順序を入れ替えて表した方
がわかりやすい.
19 最大ラグ次数を 12 期と設定しているので,たとえば,
「1817-1821 年の 5 年区間」では 1816 年
1 月のデータから利用し,サンプル数は 72 である.ただし,最初の 5 年区間(1816-1820 年)に
ついてのみ,利用するデータは 1816 年 1 月~1820 年 12 月の 60 サンプルである.
20 複数のラグ次数で有意水準を下回った場合でも,最小の検定統計量のみを表中に示す.
10
量が帰無仮説を棄却しない場合,原系列(の対数値)には単位根が存在することになる21.
なお,この検定で導出される MAIC(Modified AIC)が選択する最適ラグを,次のフィリッ
プス=ペロン(PP)検定のラグ次数として利用する.
DF-GLS 検定の結果をまとめたものが,第 2 表~第 4 表であり,それぞれフィラデルフ
ィア価格,ニューオリンズ価格,シンシナティ価格に関する結果である.第 2 表~第 4 表
には検定統計量を示し,
「1%有意」欄に***印が付いている 5 年区間の価格時系列は定常で
ある22.ニューオリンズでは 5 つの 5 年区間で定常となっており(第 3 表),フィラデルフ
ィアおよびシンシナティでは 1 つの 5 年区間の価格時系列が定常である(第 2 表・第 4 表).
これらの I(0)変数となる 5 年区間は,第 3 章での分析から省く必要ある.また,結果は示し
ていないが,1 階階差変数の単位根検定の結果はほぼすべて定常であった.ただし,フィラ
デルフィア価格の「1832-1836 年の 5 年区間」のみ,一階階差変数においても定常とはなら
なかったので,この価格時系列は I(2)以上の次数を持つ変数である.したがって,この 5 年
区間についても分析から省く.
第 2 表 フィラデルフィアの小麦粉価格の DF-GLS 単位根検定
5年区間
1816-1820
1817-1821
1818-1822
1819-1823
1820-1824
1821-1825
1822-1826
1823-1827
1824-1828
1825-1829
1826-1830
1827-1831
1828-1832
1829-1833
1830-1834
1831-1835
1832-1836
1833-1837
1834-1838
1835-1839
1836-1840
検定統 1%
ラグ
計量 有意
-1.932
3
-2.150
3
-1.783
11
-1.881
11
-2.022
12
-2.407
12
-1.541
8
-2.011
3
-1.535
3
-2.948
3
-3.226
4
-2.938
3
-3.223
3
-3.896 ***
10
-2.792
2
-3.316
2
-1.031
2
-1.902
2
-2.118
11
-1.360
11
-1.321
11
5年区間
1837-1841
1838-1842
1839-1843
1840-1844
1841-1845
1842-1846
1843-1847
1844-1848
1845-1849
1846-1850
1847-1851
1848-1852
1849-1853
1850-1854
1851-1855
1852-1856
1853-1857
1854-1858
1855-1859
1856-1860
検定統 1%
ラグ
計量 有意
-2.288
1
-2.280
11
-2.503
11
-2.219
2
-2.444
12
-3.369
2
-2.228
2
-2.989
7
-2.506
2
-2.164
4
-2.625
8
-2.544
12
-1.653
12
-1.414
12
-1.941
12
-2.171
11
-1.279
11
-1.521
11
-2.535
1
-2.304
1
(出所)Cole (1938)より筆者推定
21
22
これらの分析については,筒井他(2007)110-117 ページを参考にした.
第 2 表~第 4 表に示される「ラグ」欄には,DF-GLS 検定で最小の検定統計量を示したラグ次数
を表示している.
11
第 3 表 ニューオリンズの小麦粉価格の DF-GLS 単位根検定
5年区間
1816-1820
1817-1821
1818-1822
1819-1823
1820-1824
1821-1825
1822-1826
1823-1827
1824-1828
1825-1829
1826-1830
1827-1831
1828-1832
1829-1833
1830-1834
1831-1835
1832-1836
1833-1837
1834-1838
1835-1839
1836-1840
検定統 1%
ラグ
計量 有意
-2.509
4
-2.628
4
-2.874
2
-2.447
1
-2.462
1
-3.265
1
-2.770
1
-3.966 ***
2
-3.364
2
-2.669
4
-3.418
4
-2.888
3
-2.797
3
-3.136
3
-3.164
3
-3.284
3
-2.866
3
-2.371
2
-3.364
1
-2.585
1
-2.371
1
5年区間
1837-1841
1838-1842
1839-1843
1840-1844
1841-1845
1842-1846
1843-1847
1844-1848
1845-1849
1846-1850
1847-1851
1848-1852
1849-1853
1850-1854
1851-1855
1852-1856
1853-1857
1854-1858
1855-1859
1856-1860
検定統
計量
-3.682
-3.354
-3.455
-2.971
-2.932
-4.181
-2.996
-4.296
-4.156
-3.910
-3.341
-3.188
-1.829
-1.618
-1.472
-1.907
-1.179
-1.482
-2.594
-2.477
1%
ラグ
有意
1
1
1
1
1
***
1
1
***
4
***
4
***
4
1
1
11
11
1
3
1
1
1
1
(出所)Cole (1938)より筆者推定
第 4 表 シンシナティの小麦粉価格の DF-GLS 単位根検定
5年区間
1816-1820
1817-1821
1818-1822
1819-1823
1820-1824
1821-1825
1822-1826
1823-1827
1824-1828
1825-1829
1826-1830
1827-1831
1828-1832
1829-1833
1830-1834
1831-1835
1832-1836
1833-1837
1834-1838
1835-1839
1836-1840
検定統 1%
ラグ
計量 有意
-1.503
10
-1.728
6
-2.362
12
-1.803
12
-1.638
10
-1.909
12
-1.877
4
-2.299
2
-2.226
2
-2.592
2
-2.994
2
-2.772
3
-3.004
3
-3.253
3
-2.240
12
-1.889
12
-2.069
2
-1.625
2
-2.187
1
-1.653
1
-1.603
1
5年区間
1837-1841
1838-1842
1839-1843
1840-1844
1841-1845
1842-1846
1843-1847
1844-1848
1845-1849
1846-1850
1847-1851
1848-1852
1849-1853
1850-1854
1851-1855
1852-1856
1853-1857
1854-1858
1855-1859
1856-1860
検定統 1%
ラグ
計量 有意
-2.584
12
-3.177
12
-3.097
6
-2.450
6
-3.001
7
-3.969 ***
11
-2.675
1
-3.289
1
-3.261
1
-2.968
1
-2.457
2
-2.863
11
-2.049
11
-2.079
10
-1.532
12
-2.106
12
-1.174
10
-1.723
10
-2.523
10
-2.332
10
(出所)Cole (1938)より筆者推定
12
つづいて,PP 検定でも単位根を確認しておく.このとき,先述したとおり,DF-GLS 検
定においてトレンドを考慮したモデルを用いたので,PP 検定においてもトレンド項を含め
た検定を行う.なお,先述の通り,PP 検定でのラグ次数は DF-GLS 検定の際に導出された
MAIC を基準としている.検定結果をまとめた第 5 表~第 7 表では,原系列(の対数値)に
ついての PP 検定の P 値(MacKinnon approximate p-value)を記載している.こちらも階差
変数の PP 検定の結果を記載していないが,すべての場合において有意水準 1%で帰無仮説
が棄却される(階差変数はすべて定常である).したがって,第 5 表~第 7 表に示された検定
結果において帰無仮説を棄却できない場合,その価格時系列は I(1)変数である.
第 5 表~第 7 表でも,有意水準 1%で帰無仮説を棄却する場合に***印を付けており,ニ
ューオリンズの価格時系列で I(0)となる 5 年区間が 6 つあるが,フィラデルフィアとシン
シナティの価格時系列はすべての 5 年区間で I(1)変数である.
第 5 表 フィラデルフィアの小麦粉価格の PP 単位根検定
5年区間
P値
1816-1820
1817-1821
1818-1822
1819-1823
1820-1824
1821-1825
1822-1826
1823-1827
1824-1828
1825-1829
1826-1830
1827-1831
1828-1832
1829-1833
1830-1834
1831-1835
1832-1836
1833-1837
1834-1838
1835-1839
1836-1840
0.5874
0.9824
0.9765
0.4933
0.8957
0.8338
0.4026
0.6351
0.9738
0.6756
0.7274
0.6184
0.6004
0.3006
0.2689
0.2248
0.9926
0.3822
0.6539
0.9197
0.4162
1%
ラグ
有意
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
2
1
1
5年区間
P値
1837-1841
1838-1842
1839-1843
1840-1844
1841-1845
1842-1846
1843-1847
1844-1848
1845-1849
1846-1850
1847-1851
1848-1852
1849-1853
1850-1854
1851-1855
1852-1856
1853-1857
1854-1858
1855-1859
1856-1860
0.8069
0.5446
0.5524
0.4487
0.8001
0.1282
0.0972
0.2051
0.3614
0.3352
0.0169
0.6205
0.9652
0.9422
0.3301
0.9620
0.8923
0.1653
0.4817
0.3183
(出所)Cole (1938)より筆者推定
13
1%
ラグ
有意
2
1
1
1
1
1
5
1
1
1
1
1
1
3
1
1
1
2
3
2
第 6 表 ニューオリンズの小麦粉価格の PP 単位根検定
5年区間
P値
1816-1820
1817-1821
1818-1822
1819-1823
1820-1824
1821-1825
1822-1826
1823-1827
1824-1828
1825-1829
1826-1830
1827-1831
1828-1832
1829-1833
1830-1834
1831-1835
1832-1836
1833-1837
1834-1838
1835-1839
1836-1840
0.1367
0.3379
0.2389
0.2821
0.0592
0.1171
0.0144
0.0034
0.0038
0.0399
0.1286
0.2386
0.1628
0.0601
0.0284
0.0281
0.0501
0.0320
0.0064
0.1433
0.0999
1%
ラグ
有意
1
1
1
1
1
1
9
***
1
***
1
1
1
1
1
1
9
1
6
9
***
9
3
7
5年区間
P値
1837-1841
1838-1842
1839-1843
1840-1844
1841-1845
1842-1846
1843-1847
1844-1848
1845-1849
1846-1850
1847-1851
1848-1852
1849-1853
1850-1854
1851-1855
1852-1856
1853-1857
1854-1858
1855-1859
1856-1860
0.0340
0.0509
0.1142
0.0156
0.4467
0.0258
0.0105
0.0151
0.0247
0.0111
0.0006
0.0011
0.4841
0.6565
0.1706
0.7987
0.7350
0.3248
0.2246
0.3425
1%
ラグ
有意
7
2
2
7
2
1
1
1
1
***
1
***
2
***
3
2
2
2
1
1
2
3
3
(出所)Cole (1938)より筆者推定
第 7 表 シンシナティの小麦粉価格の PP 単位根検定
5年区間
P値
1816-1820
1817-1821
1818-1822
1819-1823
1820-1824
1821-1825
1822-1826
1823-1827
1824-1828
1825-1829
1826-1830
1827-1831
1828-1832
1829-1833
1830-1834
1831-1835
1832-1836
1833-1837
1834-1838
1835-1839
1836-1840
0.7232
0.1714
0.5066
0.7685
0.1510
0.2606
0.1103
0.3946
0.9129
0.1070
0.4976
0.6871
0.5996
0.6014
0.3988
0.9819
0.7524
0.2842
0.4894
0.5006
0.1571
1%
ラグ
有意
1
1
1
1
1
1
6
1
1
4
4
1
1
1
4
1
5
1
3
1
2
5年区間
P値
1837-1841
1838-1842
1839-1843
1840-1844
1841-1845
1842-1846
1843-1847
1844-1848
1845-1849
1846-1850
1847-1851
1848-1852
1849-1853
1850-1854
1851-1855
1852-1856
1853-1857
1854-1858
1855-1859
1856-1860
0.7459
0.5902
0.5145
0.4099
0.5482
0.0598
0.0366
0.0371
0.0362
0.0785
0.0326
0.2075
0.7810
0.8947
0.4224
0.9660
0.9363
0.1381
0.5082
0.1824
(出所)Cole (1938)より筆者推定
14
1%
ラグ
有意
2
1
1
1
1
1
1
1
1
1
5
3
1
1
1
1
1
1
1
1
ここで,DF-GLS 検定と PP 検定を比較すると,(対数)小麦粉価格時系列が定常となる
5 年区間に若干の差がみられる.そこで,双方の検定結果から和分の次数を整理し,第 8 表
にまとめた(I(0)変数および I(2)以上の変数は網掛けによって示している).本稿では DF-GLS 検
定の結果を優先するが,PP 検定において I(0)変数と判断された場合には,今後の分析にお
いてその旨,明示する.
第 8 表 DF-GLS 検定と PP 検定による和分の次数
フィラデルフィア ニューオリンズ
5年区間
1816-1820
1817-1821
1818-1822
1819-1823
1820-1824
1821-1825
1822-1826
1823-1827
1824-1828
1825-1829
1826-1830
1827-1831
1828-1832
1829-1833
1830-1834
1831-1835
1832-1836
1833-1837
1834-1838
1835-1839
1836-1840
DFGLS
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(0)
I(1)
I(1)
I(2)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
PP
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
DFGLS
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(0)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
PP
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(0)
I(0)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(0)
I(1)
I(1)
シンシナティ
DFGLS
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
PP
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
フィラデルフィア ニューオリンズ
5年区間
1837-1841
1838-1842
1839-1843
1840-1844
1841-1845
1842-1846
1843-1847
1844-1848
1845-1849
1846-1850
1847-1851
1848-1852
1849-1853
1850-1854
1851-1855
1852-1856
1853-1857
1854-1858
1855-1859
1856-1860
DFGLS
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
PP
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
DFGLS
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(0)
I(1)
I(0)
I(0)
I(0)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
PP
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(0)
I(0)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
シンシナティ
DFGLS
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(0)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
PP
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
(出所)第 2 表~第 7 表より作成
3.2 ベクトル誤差修正モデルにおける最適ラグの次数
次節で行う VECM の最適ラグ次数を決定するために,以下の手順を行う.まず,2.1 節
で述べたように,共和分関係は従属変数扱いとなる変数により上流の市場価格を,独立変数
扱いとなる変数により下流の市場価格を用い, ln(Cin)    1 ln( NO )   2 ln( Phil ) となる共
和分関係を想定している.そのため,Stata の varsoc コマンドにおいて,シンシナティ価
格( ln(Cin) ),ニューオリンズ価格( ln( NO) ),フィラデルフィア価格( ln( Phil ) )の順に変
数を配置して実行している.
Stata 13.1 の varsoc コマンドでは 5 つの基準23が表示されるが,本稿では以下の手順に
23
尤度比(LR),最終予測誤差(FPE),赤池情報基準(AIC)
,ハナン=クイン情報基準
(HQIC),スチュワート=ベイズ情報基準(SBIC)
.
15
従って最適ラグ次数を決定する.
①AIC と SBIC が同じラグ次数を選択する場合,そのラグ次数を採用する
②AIC と SBIC が異なるラグ次数を選択する場合,上記の 5 つの基準で最も多くの基
準が選択するラグ次数を採用する
③ただし,②で採用されるべきラグ次数が AIC でも SBIC でもない場合,AIC と SBIC
のうちより長いラグ次数を選択する方を採用する
④AIC と SBIC が選択するラグ次数が異なる場合で,最多の基準が同数になる場合,
AIC と SBIC のうちより長いラグ次数を選択する方を採用する24
以上の基準を適用した場合,ほとんどの場合において AIC による最適ラグ次数が採用さ
れるが,この基準では 4 つの 5 年区間で SBIC が示すラグ次数を採用すべきとなり,ほと
んどのラグ次数が 1~3 となる(第 9 表参照.上記の基準で採択されるべきラグ次数は網掛けで示
している)25.ただし,
「1836-1840 年の 5 年区間」に限って 11 期という長いラグ次数をと
ることになる.これが,3.4 節における VECM の分析で調整係数をぶれさせることにつな
がるのであるが,その点についてはその際に詳述することにする.
第 9 表 VECM に用いるラグ次数
5年区間
AIC SBIC LR FPE HQIC
1816-1820
3
1
11
3
1
1817-1821
1
1
12
1
1
1818-1822
1
1
12
1
1
1819-1823
1
1
12
1
1
1820-1824
1
1
12
1
1
1821-1825
1
1
12
1
1
1822-1826
1
1
12
1
1
1823-1827
1
1
12
1
1
1824-1828
1
1
11
1
1
1825-1829
1
1
11
1
1
1826-1830
1
1
9
1
1
1827-1831
2
1
11
2
1
1828-1832
2
1
12
2
1
1829-1833
2
1
12
2
1
1830-1834
1
1
12
1
1
1831-1835
1
1
11
1
1
1832-1836
1
1
12
1
1
1833-1837
2
1
11
2
1
1834-1838
5
1
11
4
1
1835-1839
2
1
12
2
2
1836-1840
11
1
11
2
2
5年区間
AIC SBIC LR FPE HQIC
1837-1841
8
2
11
2
2
1838-1842
2
1
12
2
2
1839-1843
1
1
10
1
1
1840-1844
3
1
12
3
1
1841-1845
3
1
12
3
2
1842-1846
1
1
12
1
1
1843-1847
1
1
10
1
1
1844-1848
1
1
7
1
1
1845-1849
1
1
7
1
1
1846-1850
2
1
5
2
1
1847-1851
2
1
7
2
2
1848-1852
2
2
11
2
2
1849-1853
4
2
12
2
2
1850-1854
2
2
9
2
2
1851-1855
2
1
12
2
1
1852-1856
2
1
12
2
1
1853-1857
10
1
12
2
1
1854-1858
2
1
10
2
1
1855-1859
2
1
11
2
1
1856-1860
2
1
12
2
1
(出所)Cole (1938)より筆者推定
通常,AIC と SBIC とでは AIC がより長いラグを選択するので,③と④の場合は AIC が採用さ
れることになる.
25 VECM では,このラグ数から 1 を引いたものがラグ項として用いられる.
24
16
3.3 ヨハンセンの共和分トレース検定
第 10 表
前節ですべての 5 年区間についての VECM
ヨハンセンの共和分トレース検定に
よる共和分ベクトルの数
の最適ラグ次数が決まったので,共和分関係の
有無を検定するためにヨハンセンの共和分ト
レース検定を行う.ここでは,各 5 年区間から
ラグ次数に合わせてさかのぼった時点までの
データを利用している.たとえば,
「1817-1821
年の 5 年区間」では最適ラグ次数が 1 期なの
で,1816 年 12 月~1821 年 12 月のデータを用
いている26.ただし,ここでも,最初の「18161820 年の 5 年区間」についてはデータをさか
のぼることができないので,1816 年 1 月~
1820 年 12 月のデータで 3 期のラグ次数を取
り,分析期間は(VECM で)1816 年 5 月~1820
年 12 月となっている.
共和分トレース検定の結果は,第 10 表に示
したとおりである.共和分トレース検定では,
「少なくとも 0 個の共和分ベクトルが存在す
る(共和分ベクトルの数が 0 個である)」という帰
5年区間
1816-1820
1817-1821
1818-1822
1819-1823
1820-1824
1821-1825
1822-1826
1823-1827
1824-1828
1825-1829
1826-1830
1827-1831
1828-1832
1829-1833
1830-1834
1831-1835
1832-1836
1833-1837
1834-1838
1835-1839
1836-1840
共和分ベク
トルの数
1
1
1
1
1
1
1
1
1
2
2
0
0
0
2
1
1
0
1
1
2
5年区間
共和分ベク
トルの数
1837-1841
1838-1842
1839-1843
1840-1844
1841-1845
1842-1846
1843-1847
1844-1848
1845-1849
1846-1850
1847-1851
1848-1852
1849-1853
1850-1854
1851-1855
1852-1856
1853-1857
1854-1858
1855-1859
1856-1860
1
1
2
0
1
2
2
2
1
1
1
0
1
1
1
1
1
0
1
0
(出所)Cole (1938)より筆者推定
無仮説が棄却されない場合には,共和分関係が
ないとされる.したがって,第 10 表で「0」と表記されている 5 年区間は,共和分関係と
しての市場統合を示すことができない.一方で,
「共和分ベクトルの数が 0 個」とする帰無
仮説が棄却される場合,少なくとも 1 個以上の共和分ベクトルによって共和分関係の存在
が示される.
3.1 節から本節までの分析をまとめると,3 市場間に共和分関係が存在する 5 年期間は第
11 表の通りとなる.この表では,3 市場の価格時系列がすべて I(1)変数であり,共和分ラ
ンクの数が 1 以上である場合に「共和分関係あり」としている.3 市場に共和分関係がある
ということは,この 3 市場が統合していることの基礎をなす.第 11 表の結果からすると,
いくつかの 5 年区間において共和分関係が見られない.とくに,1830 年前後(「1827-1831
年の 5 年区間」~「1829-1833 年の 5 年区間」)と 1840 年代後半(「1844-1848 年の 5 年区間」~
「1846-1850 年の 5 年区間」)は,連続して共和分関係が存在していない.しかし,分析期間
を通してみると,共和分関係がなかった時代から共和分関係が成立する時代へと変化した
のではないので,次節の VECM の分析を通じて統合の在り方の「推移」を検証できる基礎
が整っているといえる.
26
共和分分析におけるサンプル期間はラグ次数に合わせて 61 か月となり,VECM ではラグ次数が
1 減ることによってサンプル期間が 60 か月(5 年)になる.
17
第 11 表
各 5 年区間の共和分関係
DF-GLS
5年区間
1816-1820
1817-1821
1818-1822
1819-1823
1820-1824
1821-1825
1822-1826
1823-1827
1824-1828
1825-1829
1826-1830
1827-1831
1828-1832
1829-1833
1830-1834
1831-1835
1832-1836
1833-1837
1834-1838
1835-1839
1836-1840
Phil
NO
Cin
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(0)
I(1)
I(1)
I(2)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(0)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
共和
分ベ
クトル
の数
1
1
1
1
1
1
1
1
1
2
2
0
0
0
2
1
1
0
1
1
2
共和
分関
係
あり
あり
あり
あり
あり
あり
あり
あり
あり
あり
あり
あり
あり
あり
あり
DF-GLS
5年区間
1837-1841
1838-1842
1839-1843
1840-1844
1841-1845
1842-1846
1843-1847
1844-1848
1845-1849
1846-1850
1847-1851
1848-1852
1849-1853
1850-1854
1851-1855
1852-1856
1853-1857
1854-1858
1855-1859
1856-1860
Phil
NO
Cin
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(0)
I(1)
I(0)
I(0)
I(0)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(0)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
I(1)
共和
分ベ
クトル
の数
1
1
2
0
1
2
2
2
1
1
1
0
1
1
1
1
1
0
1
0
共和
分関
係
あり
あり
あり
あり
あり
あり
あり
あり
あり
あり
あり
あり
(出所)第 8 表および第 10 表より作成
(注)共和分関係がない場合,「共和分関係」欄は空白
3.4 ベクトル誤差修正モデル
前節において共和分関係が存在する 5 年期間が確定したので,本節では VECM を用いて
市場統合の在り方を見ていこう.VECM の推定結果のうち,調整係数の推定値を第 5 図と
してまとめた27.なお,ここでは図を見やすくするため,フィラデルフィア価格(の階差変
数)を従属変数とする VECM のみ図を分けて表記している.また,この 2 図では縦軸のス
ケールを統一している28.
繰り返しになるが,いくつかの 5 年区間の推定では I(1)変数でないものが含まれるため,
VECM が作成できない部分がある.また,共和分ベクトルの数が 0 個のため共和分関係が
存在しないとされる 5 年区間もある.その点を明示するため,第 5 図では以下の記号を用
いて図示することとする.
①いずれかの価格時系列が DF-GLS 検定で I(1)変数ではないとされた変数を含む場合
は図に表示しない.
②いずれかの価格時系列が PP 検定で I(1)変数ではないとされた変数を含む場合には△
推定結果を表にまとめたものは付表 1 に示している.ただし,付表 1 には I(1)変数でない価格時
系列を用いている場合や,共和分ベクトルの数が 0 個の場合など,統計的に有効でないものが含
まれている.
28 そのため,一部の結果が図中に表示されていない.
27
18
で示す29
③共和分ベクトルの数が 0 個である場合は✕で示す
④共和分ベクトルの数が 1 個であり,かつ検定結果が有意水準 1%で有意である場合は
●で示す.
⑤共和分ベクトルの数が 1 個であり,かつ検定結果が有意水準 1%で有意でない場合は
○で示す.
したがって,以下の図において調整係数について考察する際には,②④⑤に関する部分
(記号「●」「○」「▲」「△」)についてのみが対象となる.
第 5 図に示された結果からは,一部の例外を除いてフィラデルフィア価格が調整される
ことはほとんどなく,長期均衡からの乖離はシンシナティ価格もしくはニューオリンズ価
格が動くことによって調整されることが示される.
第 5 図 VECM における調整係数(従属変数は  ln( NO) および  ln(Cin) )
1.0
Δln(NO)
Δln(Cin)
0.5
0.0
-0.5
-1.0
-1.5
29
ただし,共和分ベクトルの数が 1 個以上で検定結果が有意水準 1%で有意である場合は▲で示す
(検定結果が 1%有意でない場合は△).
19
第 5 図(つづき)
VECM における調整係数(従属変数は  ln( Phil ) )
1.0
0.5
0.0
-0.5
-1.0
-1.5
(出所)Cole (1938)より筆者推定
(注)マーカーの定義は以下の通り
●:共和分関係あり・調整係数は 1%有意
○:共和分関係あり・調整係数は 1%有意ではない
▲:共和分関係あり(PP 検定では I(0)変数を含む)
・調整係数は 1%有意
△:共和分関係あり(PP 検定では I(0)変数を含む)
・調整係数は 1%有意ではない
✕:共和分関係なし
空白:DF-GLS 検定で I(1)変数でない変数を含む
凡例には VECM において従属変数となる変数を示している
さらにこの第 5 図を詳細にみると,極めて興味深い事実が浮かび上がる.調整係数は 1810
年代後半から 1820 年代にかけて(「1817-1821 年の 5 年区間」~「1826-1830 年の 5 年区間」)
は主にシンシナティ価格において負で有意である30.そして,1830 年代から 1840 年代末ま
で(「1830-1834 年の 5 年区間」~「1849-1853 年の 5 年区間」)は,安定してニューオリンズ価
格における調整係数が正で有意である.すなわち,1830 年頃を境に価格の最終調整役を担
う市場が変化したのである.そしてさらに,1850 年代前半(「1851-1855 年の 5 年区間」~
「1853-1857 年の 5 年区間」)
にはふたたびシンシナティ価格の調整係数が負で有意となり31,
ニューオリンズ価格の調整係数は有意ではなくなる.すなわち,ここでふたたび価格の最終
調整役がニューオリンズからシンシナティへと変化しているのである.
30
31
この期間のシンシナティ価格の調整係数の値が-0.2~-0.5 程度であることに注目しておこう.
この期間のシンシナティ価格の調整係数の値は,-0.7~-1.1 である.
20
ここで重要なことは,分析期間の中盤にあたる 1830 年代から 1840 年代末まで(「18301834 年の 5 年区間」~「1849-1853 年の 5 年区間」)において,当初想定したようなより下流の
市場の価格がより上流の市場の価格を規定するというモデルが妥当ではないことが示され
たことである.市場統合の成立には,もし価格が長期均衡から乖離した場合,その均衡への
収束が行われることが必要とされる.その意味で,1830 年代~1840 年代の価格調整がニュ
ーオリンズにおいて行われているにもかかわらずその値が正で有意となっていることは,
分析の再考を必要とする.そこで,次節においてシンシナティ価格とニューオリンズ価格の
順序を入れ替えて VECM の再推計を行う.具体的には,先ほどのシンシナティにかかる共
和分ベクトルを 1 としていたモデル(シンシナティ価格を従属変数のように扱う
ln(Cin)    1 ln( NO )   2 ln( Phil ) なるモデル)の共和分関係の推定から,ニューオリンズに
かかる共和分ベクトルを 1 とする, ln( NO )    1 ln(Cin)   2 ln( Phil ) という共和分関係の
推定へと分析を進めるのである32.
3.5 ニューオリンズ価格にかかる共和分ベクトルを 1 とする VECM
変数の順序を入れ替えたとしても,VECM はそもそもすべての変数(の階差変数)を従属
変数として推計しているのであるから,ラグ項にかかる係数や定数項の値は変化しない.た
だし,共和分関係の在り方(共和分ベクトルの現れ方)が変化するので,調整係数のみが異な
る値として導出される.なお,変数の順序を入れ替えた場合でも,共和分ランクの数や最適
ラグの次数に変化はないので,単純に 3.4 節と同様の分析を行えば良い.
さて,ln( NO )    1 ln(Cin)   2 ln( Phil ) という共和分関係を想定した上での VECM の結
果は,第 6 図に示したとおりである33.第 6 図に示した結果は,1830 年代~1840 年代のニ
ューオリンズ価格の調整係数が-0.5~-1.0 程度で推移していることを示している.これ
は,ニューオリンズの価格が長期均衡から乖離したとしても,1 か月でその半分から 8 割を
修正することを意味しており,この時期の市場が極めて効率的に統合されていたことを示
している.3.4 節で導いた 1820 年代のシンシナティ価格の調整係数(-0.2~-0.5 程度.脚
注 30 参照)とこの値を比較すると,その調整測度が速まっていることがわかる.すなわち,
統合された市場の効率性が高まっているのである.さらに,1850 年代前半のシンシナティ
価格の調整係数は 1 か月でほぼすべての乖離が調整されるほどにまで上昇していることも
3.4 節で示した(脚注 31 参照).この点からも,価格決定の方向が変化するとはいえ,19 世
紀前半においてすでに東部(フィラデルフィア),南部(ニューオリンズ),中西部(シンシナテ
ィ)の 3 市場が統合しつつ,その市場がより効率的になっていく過程が示されている.
32
フィラデルフィア価格はほぼ調整されないので,従属変数扱いとなるように順序を入れ替える必
要はない.
33 第 6 図の縦軸のスケールは,第 5 図と統一している.また,VECM の推定結果をまとめたものを
付表 2 に,共和分ベクトルの推定結果をまとめたものを付表 3 に示している.
21
第 6 図 VECM の調整係数(再推計)(従属変数は  ln( NO) および  ln(Cin) )
1.0
lnΔ(NO)
lnΔ(Cin)
0.5
0.0
-0.5
-1.0
-1.5
(注)凡例には VECM において従属変数となる変数を示している
第 6 図(つづき)
VECM の調整係数(再推計)(従属変数は  ln( Phil ) )
1.0
0.5
0.0
-0.5
-1.0
-1.5
(出所)Cole (1938)より筆者推定
(注)マーカーの定義は第 5 図に同じ
22
なお,付表 2 によると,
「1836-1840 年の 5 年区間」のニューオリンズ価格の調整係数が
突出して小さな値(-2.9965)を取っている(第 6 図では図中に表示されていない).この結果
は,この 5 年区間に限って調整測度が急激に上昇したことを意味するのであろうか.実は,
第 9 表で示したとおり,この 5 年区間に限って選択されたラグ次数が 11 期(VECM では 10
期)と,他の 5 年区間とはまったく異なっている.そこで,試みにこの 5 年区間のラグ次数
を前後と同じ 2 期 34 として VECM 35 を作成すると,  ln( NO) の調整係数が-0.9639,
 ln(Cin) の調整係数が-0.3326,  ln( Phil ) の調整係数が-0.0495 となり36,全体の結果に
より整合的である.37
3.6 価格の最終調整役の変化
前節において,東部(フィラデルフィア),南部(ニューオリンズ),中西部(シンシナティ)
の 3 市場は 19 世紀前半においてすでに統合しており,この間に市場の効率性が高まったこ
とが明らかにされた.
次に問題となるのは,価格の最終調整役の変化である.これも前節で見たとおり,1810
年代後半から 1820 年代にかけて(「1817-1821 年の 5 年区間」~「1826-1830 年の 5 年区間」)
の価格の最終調整役はシンシナティ市場であり,1830 年代から 1840 年代末まで(「18301834 年の 5 年区間」~「1849-1853 年の 5 年区間」)はニューオリンズ市場がその地位を担うこ
とになる.そしてさらに,1850 年代前半(「1851-1855 年の 5 年区間」~「1853-1857 年の 5 年
区間」
)にはふたたびシンシナティ市場が価格の最終調整役へと変化している.
伝統的な誤差修正モデルによる市場統合分析の考え方を用いれば,1810 年代~1820 年
代(分析期間の最初の 15 年間)と 1850 年代(分析期間の最後の 10 年間)の構造は容易に理解
できる.前者は,中西部(シンシナティ)-南部(ニューオリンズ)-東部(フィラデルフィア)
とつながる市場の最上流(シンシナティ)において価格が調整されており,後者は,東部フ
ィラデルフィア市場と中西部シンシナティ市場が鉄道によって直結したことによって,中
心市場たるフィラデルフィアの価格が直接シンシナティ価格に影響を及ぼすようになった
と考えることができるからである.
そこで次に,1830 年頃に価格の最終調整役がシンシナティからニューオリンズに移行し
この 5 年区間について,最終予測誤差(FPE)とハナン=クイン情報基準(HQIC)では 2 期のラ
グ次数を選択している(第 9 表参照).
35 したがって,VEMC のラグ次数は 1 期.
36  ln( NO ) と  ln(Cin) の調整係数は 1%有意,  ln( Phil ) の調整係数は有意ではない.
34
37
ラグ次数の取り方によって調整係数の値(実際には「半減期(half life)
」が大きく変わること
は,Burnt and Cannon (2014) でも指摘されている(p.125)
.ここでいう「半減期」とは,長期
均衡から乖離した場合,その半分が収束するまでの期間のことであり,
HL 
ln(0.5)
ln(1   i   j )
 i ,  j は,それぞれ地域 i および地域 j の調整係数
で表される(p.118).Burnt and Cannon (2014) において,ラグ次数の取り方によって「半減
期」が大きく動くことは,ラグ次数が変化することによって調整係数が大きく動くことに起因して
いる.
23
たことについて考えてみよう.この構造変化は,1825 年のエリー運河の開通による市場統
合関係の変化を想起させる.しかし,1.1 節でみたように,この時期の小麦の物流がダウン・
リヴァ・トレイドから東部へ直結する形に変化していなかったことを思い出さなければな
らない.すなわち,この間(1810 年代~1840 年代)の小麦粉の物流はダウン・リヴァ・トレ
イドを主流とする形で変化していないにもかかわらず,価格の最終調整役が移動したので
ある.この変化は,下流市場の価格が上流市場の価格を支配するという想定では説明がつか
ない.そこで,この期間の価格変動に関するいくつかの記述について整理しておこう.
Berry (1943) には,「(シンシナティにおける小麦粉価格と小麦粉受取量を)プロットす
れば,生産のピークの 3~4 年後に価格のピークが生じ,低価格の年にも同様の事態が観察
される」
(Berry, 1943, p.200)と記述されている.この記述は,農家が価格に反応して生産を
増減させるのに数年のラグが生じることを主張するためのものであるが(Berry, 1943, p.200),
そこで彼が列挙しているシンシナティ市場における小麦粉価格のピークとボトム,および
シンシナティ市場の小麦粉受取量のピークとボトムを整理すると,第 12 表の通りとなる.
これによると,1830 年代および 1840 年代では,シンシナティ市場における小麦粉受取量
のピークと価格のボトムの年が一致し,逆に小麦粉受取量のボトムと価格のピークの年が
一致している.すなわち,この時期にはシンシナティ市場における価格決定が,市場を通過
する小麦粉の物量に依存するようになっているのである.これは当然のことのように思わ
れるが,この事実は,シンシナティ価格がフィラデルフィア価格に依存するばかりではなく,
自市場の需給関係によって決まるようになっていることを意味する.それに加えて,2.1 節
で紹介したように,1830 年代の価格のピークが「投機ブーム」によるものであるとされて
いる(Berry, 1943, p.198).
以上を総合すると,1830 年代・1840 年代には,シンシナティ市場の価格決定力が強まる
一方で,「投機ブーム」による価格の変動がアメリカ国内の小麦粉価格を変動させるように
なっていることになる.このとき,国際市場への窓口であるニューオリンズ市場は,国際価
格の影響を最も強く受けるはずであるから,ニューオリンズ市場の価格の決定力が弱まっ
ていると考えられる.そして,先述の通り,1850 年代になって中西部(シンシナティ)と東
部(フィラデルフィア)が直結したとき,ふたたびシンシナティ価格はフィラデルフィア価
格の強い影響を受けるようになったと考えられる.
このように,19 世紀前半の中西部(シンシナティ),南部(ニューオリンズ),東部(フィラ
デルフィア)の 3 市場は,フィラデルフィアを中心市場としつつ,価格決定力の弱い市場が
価格の最終調整役を担うことを通じて統合していたのである.
24
第 12 表
year
1827
1828
1829
1830
1831
1832
1833
1834
1835
1836
1837
1838
1839
1840
1841
1842
1843
1844
1845
1846
1847
1848
1849
1850
1851
1852
1853
1854
1855
1856
1857
1858
1859
1860
シンシナティ市場における小麦粉価格・小麦粉受取量のピークとボトム
price
receipt
peak
bottom peak
bottom
peak
bottom
bottom peak
peak
bottom
bottom peak
peak
peak
peak
bottom
bottom peak
bottom
peak
bottom
peak
bottom
bottom
peak
(出所)Berry (1943) p.200 より作成
お わ り に
本稿では,19 世紀前半(1816 年~1860 年)の「輸送革命」の時代において,合衆国の主
要 3 都市を対象とした市場統合の在り方を明らかにすることを目的として,共和分分析を
行ってきた.対象とした品目は,当時の主力産品である小麦粉であるが,これまでの分析に
よって明らかになった点は,以下の 3 点である.
1 点目は,19 世紀前半においてすでに,共和分関係の成立という形で中西部(シンシナテ
ィ)
,南部(ニューオリンズ),東部(フィラデルフィア)の 3 市場がほぼ統合関係にあったこ
とである.
25
2 点目は,この市場統合関係が一方向に固定されていたのではなく,分析期間内において
その方向が変化していたことである.価格の最終調整役は 1820 年代まではシンシナティで
あったが,1830 年代~1840 年代にはニューオリンズにその役割を移したことが VECM の
推定によって明らかとなった.また,1850 年代にはふたたび価格の最終調整役がシンシナ
ティへと移っていることも同様の分析から示された.その一方で,フィラデルフィア価格は
全期間を通してほとんど調整係数が 0 であることから,消費地としての東部(フィラデルフ
ィア)において小麦粉価格が決定され,統合された市場において,その均衡を保つためにシ
ンシナティもしくはニューオリンズの市場において価格が調整される構造が明らかとなっ
たわけである.
そして 3 点目は,誤差修正速度が時間とともに速まることである.価格の最終調整役が
変化するとはいえ,1820 年代において-0.2~0.5 程度(シンシナティ価格)であった調整係
数は,1830 年代~1840 年代に-0.5~0.8 程度(ニューオリンズ価格)へと速まり,1850 年
代には-1 程度(シンシナティ価格)まで速まっている.これは,極めて明確により効率的な
市場が形成されていく様子を表している.
以上の通り,本稿では 19 世紀前半の合衆国における市場統合の在り方を明示したわけで
あるが,これら 3 市場における価格伝播の方向について明らかにすることが残された課題
である.VECM の調整係数によって価格の最終調整役は明らかとなり,フィラデルフィア
価格が小麦粉価格の決定を支配していることは実証されているが,価格伝播の方向を明確
にするためには因果性テストを通じた価格決定の方向の分析が必要不可欠である.
26
VECM における調整係数
付表 1
Δln(Cin)
従属変数
Δln(NO)
Δln(Phil)
Coeffcie 1% Coeffcie 1% Coeffcie 1%
nt of EC 有意 nt of EC 有意 nt of EC 有意
5年区間
1816-1820
1817-1821
1818-1822
1819-1823
1820-1824
1821-1825
1822-1826
1823-1827
1824-1828
1825-1829
1826-1830
1827-1831
1828-1832
1829-1833
1830-1834
1831-1835
1832-1836
1833-1837
1834-1838
1835-1839
1836-1840
-0.1490
-0.2195
-0.1879
-0.1778
-0.3166
-0.4468
-0.0134
-0.0780
-0.0426
-0.3849
-0.5022
-0.1931
-0.1041
-0.0090
-0.0458
-0.0389
-0.0979
0.0383
-0.0662
0.0793
0.1081
***
***
***
***
***
***
***
***
1.3482
0.1077
0.1555
0.1269
-0.1481
-0.0513
-0.1135
0.3670
0.2442
0.1882
-0.2213
0.2808
-0.2205
0.1548
0.3544
0.3051
0.4241
0.3107
0.4283
0.2712
1.2544
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
0.0314
-0.0708
-0.0604
-0.0658 ***
-0.0996 ***
-0.1016
-0.0082
0.0059
0.0047
-0.0313
-0.0699
0.0944
0.0348
0.0523
0.0142
-0.0458
-0.0203
0.0189
-0.0449
0.0050
0.0821
従属変数
Δln(NO)
Δln(Cin)
5年区間
1837-1841
1838-1842
1839-1843
1840-1844
1841-1845
1842-1846
1843-1847
1844-1848
1845-1849
1846-1850
1847-1851
1848-1852
1849-1853
1850-1854
1851-1855
1852-1856
1853-1857
1854-1858
1855-1859
1856-1860
Δln(Phil)
Coeffcie 1% Coeffcie 1% Coeffcie 1%
nt of EC 有意 nt of EC 有意 nt of EC 有意
-0.0345
-0.0586
0.0013
0.0672
-0.1000
-0.0935
-0.0037
-0.8931
0.0477
0.1135
0.1161
-0.0433
-0.0225
-0.1471
-0.9183
-1.1427
-0.7113
-0.6218
-0.1916
-0.0585
***
***
***
***
***
-0.0744
-0.1591
0.0043
0.1470
0.2888
0.3233
0.3144
-0.7226
0.2094
0.2812
0.3471
0.3758
0.1925
0.3238
-0.0182
-0.0182
0.0548
-0.6361
-0.4564
0.1521
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
**
-0.0046
0.0144
-0.0004
0.0177
-0.0067
-0.0666
-0.0140
-0.3550 ***
0.0160
0.0503
0.0069
0.0679
-0.1143 ***
-0.1443
-0.1299
-0.1934
0.1830
-0.0617
-0.0361
-0.0412
(出所)Cole (1938)より筆者推定
(注)統計的に有効でないものが含まれている
VECM のラグ項および定数項に関する結果は掲載を省略している
共和分ベクトルはシンシナティ価格にかかる係数を 1 としている
( ln(Cin )    1 ln( NO )   2 ln( Phil ) となる共和分関係をもとに推定)
付表 2
VECM の調整係数(再推計)
Δln(NO)
5年区間
1816-1820
1817-1821
1818-1822
1819-1823
1820-1824
1821-1825
1822-1826
1823-1827
1824-1828
1825-1829
1826-1830
1827-1831
1828-1832
1829-1833
1830-1834
1831-1835
1832-1836
1833-1837
1834-1838
1835-1839
1836-1840
従属変数
Δln(Cin)
Coeffcie 1% Coeffcie 1% Coeffcie 1%
nt of EC 有意 nt of EC 有意 nt of EC 有意
-0.8043
-0.0719
-0.1050
-0.0766
0.0242
0.0071
-0.4865
-0.5007
-0.5532
-0.0985
0.0520
-0.1447
-0.1728
-0.3135
-0.6087
-0.6570
-0.8236
-0.8854
-0.7006
-0.9544
-2.9965
***
***
***
***
***
**
***
***
***
***
***
***
***
0.0889
0.1466
0.1268
0.1073
0.0518
0.0619
-0.0574
0.1064
0.0964
0.2016
0.1181
0.0995
-0.0816
0.0181
0.0787
0.0838
0.1901
-0.1091
0.1082
-0.2791
-0.2582
***
***
***
***
***
***
***
***
Δln(NO)
Δln(Phil)
-0.0187
0.0472
0.0408
0.0397 ***
0.0163 ***
0.0141
-0.0352
-0.0080
-0.0106
0.0164
0.0164
-0.0487
0.0273
-0.1060
-0.0244
0.0985
0.0394
-0.0539
0.0734
-0.0174
-0.1960
5年区間
1837-1841
1838-1842
1839-1843
1840-1844
1841-1845
1842-1846
1843-1847
1844-1848
1845-1849
1846-1850
1847-1851
1848-1852
1849-1853
1850-1854
1851-1855
1852-1856
1853-1857
1854-1858
1855-1859
1856-1860
(出所)Cole (1938)より筆者推定
(注)統計的に有効でないものが含まれている
27
従属変数
Δln(Cin)
Δln(Phil)
Coeffcie 1% Coeffcie 1% Coeffcie 1%
nt of EC 有意 nt of EC 有意 nt of EC 有意
-0.7775
-0.6315
-0.6413
-0.6586
-0.5890
-0.6432
-0.5837
0.1161
-0.6213
-0.6876
-0.7070
-0.5188
-0.4980
-0.4046
0.0051
0.0117
-0.0083
-0.1029
-0.5959
-0.3362
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
-0.3605
-0.2324
-0.1903
-0.3009
0.2040
0.1860
0.0069
0.1435
-0.1416
-0.2774
-0.2365
0.0598
0.0581
0.1838
0.2588
0.2841
0.1072
-0.1006
-0.2502
0.1293
***
***
***
***
***
-0.0476
0.0573
0.0543
-0.0793
0.0138
0.1325
0.0260
0.0570 ***
-0.0474
-0.1231
-0.0141
-0.0937
0.2956 ***
0.1804
0.0366
0.0481
-0.0276
-0.0100
-0.0472
0.0910
VECM のラグ項および定数項に関する結果は掲載を省略している
共和分ベクトルはニューオリンズ価格にかかる係数を 1 としている
( ln( NO )    1 ln(Cin )   2 ln( Phil ) となる共和分関係をもとに推定)
付表 3
共和分ベクトル
(NO)=α+β1(Cin)+β2(Phil)
β1 of ln(Cin)
β2 of ln(Phil)
alpha
5年区間
1816-1820
1817-1821
1818-1822
1819-1823
1820-1824
1821-1825
1822-1826
1823-1827
1824-1828
1825-1829
1826-1830
1827-1831
1828-1832
1829-1833
1830-1834
1831-1835
1832-1836
1833-1837
1834-1838
1835-1839
1836-1840
Coeffcient
-1.6762
-1.4980
-1.4814
-1.6570
-6.1128
-7.2158
0.2333
-0.7330
-0.4415
-1.9096
-4.2511
-1.9405
1.2763
-0.4937
-0.5822
-0.4644
-0.5149
-0.3509
-0.6114
-0.2841
-0.4186
1%
1%
Coeffcient
Coeffcient
有意
有意
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
0.3127
0.4641
0.4346
0.0992
3.7066
5.9861
-0.6302
-0.1197
-0.1302
1.7426
4.7539
1.8073
-3.0569
0.2006
-0.4720
-0.8096
-0.4889
-0.6052
-0.3868
-0.5905
-0.5970
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
0.1531
-0.6252
-0.6021
0.1153
-1.3418
-4.2434
-0.7866
-0.5731
-0.8537
-2.1996
-4.1949
-2.1586
1.7505
-1.3739
-0.0535
0.3660
-0.1332
-0.1427
-0.1567
-0.2969
-0.0512
5年区間
1837-1841
1838-1842
1839-1843
1840-1844
1841-1845
1842-1846
1843-1847
1844-1848
1845-1849
1846-1850
1847-1851
1848-1852
1849-1853
1850-1854
1851-1855
1852-1856
1853-1857
1854-1858
1855-1859
1856-1860
(NO)=α+β1(Cin)+β2(Phil)
β1 of ln(Cin) β2 of ln(Phil)
alpha
Coeffcie 1% Coeffcie 1% Coeffcie
有意
有意
nt
nt
nt
0.0957
-1.1132 ***
0.1361
0.2519
-1.4125 ***
0.4614
-0.0067
-1.0942 ***
0.2944
-0.2233
-0.6049
-0.2338
-0.4904 *** -0.4971 *** -0.0373
-0.5026 *** -0.5287 ***
0.0250
-0.5387 *** -0.3037
-0.2863
-6.2242 ***
4.1330 ***
0.1948
-0.3370
-0.5003 *** -0.2305
-0.4090 *** -0.1629
-0.7083
-0.4909 *** -0.1594
-0.5844
-0.7245 *** -0.1509
-0.2717
-0.3866 *** -0.6725 ***
0.0751
-0.8003 ***
0.0924
-0.5627
-3.5479 ***
3.1717 *** -1.7433
-4.0217 ***
3.7331 *** -2.0174
-6.6322 ***
6.9423 *** -3.6776
6.1833 *** -7.6465 ***
2.0291
0.7659
-1.8192 ***
0.2660
-0.4523
-0.6316
0.1122
(出所)Cole (1938)より筆者推定
(注)統計的に有効でないものが含まれている
共和分ベクトルはニューオリンズ価格にかかる係数を 1 としている
( ln( NO )    1 ln(Cin )   2 ln( Phil ) となる共和分関係をもとに推定)
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【参考文献】
Berry, T. (1943) Western Prices before 1861: A Study of the Cincinnati Market, Harvard University
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Burnt, L., and E. Cannon (2014) “Measuring Integration in the English Wheat Market, 1770-1820:
New Methods, New Answers, Explorations in Economic History, Vol.52, pp.111-130.
Cochrane, W. W. (1979) The Development of American Agriculture: A Historical Analysis,
University of Minnesota Press.
Cole, A. H. (1938) Wholesale Commodity Prices in the United States 1700-1861, Harvard
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Williamson, J. G. (1996) “Globalization, Convergence, and History,” The Journal of Economic
History, Vol.56, No.2, pp.277-306.
フォーゲル,W.(1977)
(田口・渋谷訳)
『アメリカ経済発展の再考察-ニュー・エコノミック・ヒス
トリー十講-』南雲堂.
ギルバート・M(池田智訳)(2003)『アメリカ歴史地図』明石書店.
小澤健二(1990)
『アメリカ農業の形成と農民運動-19 世紀後半の中西部を中心として-』日本経済
評論社.
鈴木圭介編(1972)『アメリカ経済史』東京大学出版会.
角井正幸(1999)「南北戦争後の空間的市場統合に関する分析-共和分アプローチによる合衆国豚市
場の実証研究-」『社会科学』(同志社大学)第 61 巻,111-138 ページ.
角井正幸(2000)「小麦価格比較による市場統合分析-初期グローバル期の合衆国・イギリス・イン
ド間比較-」『経済学論叢』(同志社大学)第 51 巻第 4 号,58-90 ページ.
筒井淳也,平井裕久,水落正明,秋吉美都,坂本和靖,福田亘孝(2007)
『Stata で計量経済学入門』
(第 2 版)ミネルヴァ書房.
29