オマーンオフィオライト・フィズ岩体南部における 苦鉄質∼超苦鉄質ダイクの多様性とその起源 Diversity and origin of mafic and ultramafic dykes intruded in the southern Fizh block, the Oman ophiolite 金澤晋太郎 1・高澤栄一 2 Shintaro KANAZAWA and Eiichi TAKAZAWA 1 新潟大学理学部地質科学科 2 新潟大学自然科学系 本研究は,オマーンオフィオライト北部 Fizh 岩体のマントルセクションに貫入する苦鉄質∼超苦鉄質ダイ クの多様性と起源を明らかにすることを目的に,Fizh 岩体の地質調査,ダイクの鏡下観察および鉱物化学組 成の検討を行った. オマーンのマントルセクションに貫入する苦鉄質∼超苦鉄質ダイクは層厚数㎜∼数mで,一般に母岩のカ ンラン岩の構造に斜交する.岩石組織は,細粒等粒状,直径 2 ㎝以上の巨晶からなるペグマタイト状および マイロナイト組織からなる.母岩との境界は,凹凸のあるもの,シャープなもの,漸移的なものがある.薄 片の鏡下観察に基づき,ダイクを Pyroxenite Family,Gabbronorite Family に二分した.Gabbronorite Family は,Opx,Cpx,Pl,Ol,Amp からなる岩石で,組織はアドキュムレート組織,ペグマタイト状 組織およびマイロナイト組織をもつ.Pyroxenite Family は,Opx と Cpx を主成分とする岩石であり,ア ドキュムレート組織,ペグマタイト状組織およびカタクラスティックな変形を受けた再結晶組織を示す. Gabbronorite Family に属するダイクは剪断帯付近に集中して分布するが,Pyroxenite Family の岩石は Fizh 岩体南部全体に分布する. 鉱物化学組成から Gabbronorite Family に属するダイクは Cpx Mg# の高い未分化なグループと Mg# の 低い分化したグループに分けられることが明らかになった.前者は MORB メルトの結晶分化によって形成さ れた可能性があり,後者は H2O に富み Na に枯渇したメルトから形成したと考えられる.一方,Pyroxenite Family は,野外における貫入岩の切断関係から,前述の H2O に富み Na に枯渇したメルトよりも活動時期は 古いと考えられる.また鉱物化学組成から,島弧起源のメルトに由来する可能性が明らかになった.そのな かでも,スピネルの Cr# の高い一部の Orthopyroxenite はオマーンオフィオライトの boninitic dyke と成因 的に関係していた可能性がある. 1. はじめに al.,2000).最近では,MORB 的ならびに島弧的火 成岩類の存在から,中央海嶺における形成から初 オマーンオフィオライトはアラビア半島の東端 期島弧セッティングにおける改変に至る海洋リソ に北西―南東方向に延長約 500 km,幅約 80 km スフェアの変遷過程が注目されている. 本 研 究 地 域 で あ る Fizh 岩 体 は, オ マ ー ン オ にわたって露出している世界最大規模のオフィオ ライトである ( 図 1).西端の基底衝上断層から東 フィオライト北部に位置し,その露出規模は南北 に向かってマントルカンラン岩,ハンレイ岩類, 60 km,東西 40k m にわたる ( 図 1).Fizh 岩体 シート状岩脈群,噴出岩類が累重しており,初生 は,Miyashita et al. (2003) による地殻セクショ 的な海洋リソスフェアの構造が保存されている. ンの研究から,北方の Wadi Fizh 北部地域に海嶺 従来の研究によりオマーンオフィオライトは高 セグメントの末端部,南方の Wadi Thuqbah 地 速拡大軸で形成された海洋リソスフェアがアラビ 域に海嶺セグメントの中心部が位置すると考えら ア大陸に衝上したものと解釈されている (Ceule- れている.また,Ishikawa et al. (2005) および neer et al., 1988; Nicolas et al., 1988; Boudier 山崎 (2007MS) により Fizh 岩体の地殻セクショ et al.,1988; Nicolas et al., 1994; Nicolas et ンにボニナイトが発見され,初期島弧の火成活動 111 図 1. オマーンオフィオライト・フィズ岩体の地質概略図 . Takazawa et al. (2003) に加筆 . 赤枠は本調査範 囲を示す . 図 1. オマーンオフィオライト・フィズ岩体の地質概略図. Takazawa et al. (2003) に加筆. 赤枠は本調査範囲を示す. の存在が示唆されている.一方,Fizh 岩体北部地 域のマントルセクションの岩石組織の分類と構造 解析が岡安 (2001MS) によって行われ,その成果 は Takazawa et al. (2003) にまとめられている. それによると,マントルセクションを構成するハ ルツバージャイトは粗粒等粒状組織,ポーフィロ クラスティック∼板状等粒状組織およびマイロ ニティック組織からなる ( 岡安 , 2001MS).その 後,同地域における鉱物化学組成の分布が菅家 (2006MS) によって詳細に検討された.その結果, Wadi Zabin から北西に延びる高温剪断帯の西側に 沿ってスピネルの Cr# (=Cr/(Cr+Al) モル比 ) の高 い高枯渇ハルツバージャイトが分布することを明 らかになった.そして,oceanic thrusting の段階 でメタモルフィックソールから放出された流体が マントルセクションに流入,カンラン岩の再融解 を誘引し,高枯渇ハルツバージャイトが形成した と考えられる ( 菅家 , 2006MS). マントルセクションに貫入する苦鉄質∼超苦 鉄質ダイクについては,Python and Ceuleneer (2003) が,オマーンオフィオライト全体から約 1000 個の苦鉄質∼超苦鉄質ダイクサンプルを採 取し,詳細な分類をおこなった.その結果,シリ カ成分に富み不適合元素に枯渇したメルトに由来 する Pyroxenite Family と Gabbronorite Family,MORB メルトに由来する Troctolite Family と Olivine Gabbro Family に大きく2分される ことが明らかになった.Python and Ceuleneer 112 し,モホ不連続面を境界として上位の地殻セク ションに接する.マントルセクションには,北 西 - 南東 方向の剪 断帯が雁 行状に 4 本存 在する (Nicolas and Boudier, 2000; 岡安 , 2001MS; 菅 家 , 2006MS; 村上 , 2007MS).Fizh 岩体南部の 調査地域中央には,分水嶺である標高 1400 m に 達する Al Hajar 山脈が連続している.Al Hajar 山 脈の東側に Wadi Fizh,Wadi Bani Umar,Wadi Hayl,Wadi Ays,Wadi Thuqbah が,西側に Wadi Sada の水系が発達している. A 3. 野外の産状 オマーンオフィオライトの地質調査は,2006 年 度と 2007 年度の 2 回にわたり実施された.調査 は,Fizh,Bani Umar,Hayl,Ays,Thuqbah の 各ワジおよび西側の Wadi Sada を対象とした.オ マーンのマントルセクションには,ハルツバー ジャイトとダナイトからなるマントルカンラン岩 が広く分布している.苦鉄質∼超苦鉄質ダイクは 一般にマントルカンラン岩の構造に斜交して貫入 している ( 図 2).岩石タイプの区分は Python and B Ceuleneer (2003) に従い,ダイクを Pyroxenite Family と Gabbronorite Family の 2 つに分類し 図 2. マントルセクションのかんらん岩に貫入するダ 図 2. マントルセクションのかんらん岩に貫入するダイクの産状. た ( 表 1). イクの産状.A. Gabbronorite, B. Pyroxenite を切 A. Gabbronorite, B. Pyroxenite を切断する Gabbronorite. ダイクは Pyroxenite Family と Gabbronorite 断する Gabbronorite. Family を 問 わ ず, 層 厚 は 数 mm ∼ 数 m で, 肉 (2003) によると,本調査地域である Fizh 岩体には, 眼的に細粒なものや直径 2 ㎝以上の巨晶からなる Pyroxenite Family と Gabbronorite Family が卓 ペグマタイト状を呈するもの,剪断変形を受けた 越するとされる.これらの苦鉄質∼超苦鉄質ダイ 非対称構造を呈するものが存在する.マントルカ クはマントルを上昇するメルトから形成されたも ンラン岩との境界は,凹凸のあるものからシャー のであり,海洋リソスフェアの中央海嶺から初期 プなもの,漸移的なものがある.Gabbronorite 島弧への変遷過程を明らかにする上で重要な鍵を Family のダイクが Pyroxenite Family のダイクと 握っていると考えられる.そこで本研究は,オマー 斜交している露頭もまれに観察できる ( 図 2B). ンオフィオライト Fizh 岩体南部のマントルセク Pyroxenite Family は調査地域全体に広く分布 ションに貫入する苦鉄質∼超苦鉄質ダイクの岩石 しており,Gabbronorite Family は剪断帯上か剪 タイプ,分布および鉱物化学組成を詳しく調査し, 断帯付近に集中して分布する ( 図 3).Wadi Fizh それぞれの起源を明らかにし,オマーンオフィオ の剪断帯の縁辺部では,直径 2 ㎝以上の巨晶か ライトが中央海嶺から初期島弧へ変遷するプロセ らなるペグマタイト状を呈する層厚数 cm 規模 スを苦鉄質∼超苦鉄質ダイクを通して検証する. の Gabbronorite Family のダイクが多く,剪断帯 中央部では層厚が数 m でペグマタイト状の Gab2. 地形および地質概説 bronorite Family のダイクが一般に観察できる. それらの中には剪断変形を受けているものもある. Fizh 岩体は,南北走向のモホ不連続面が Fizh 層厚が数 mm から数 cm で,鉱物の粒径が細粒か 岩体中央部を貫き,その西側にマントルセクショ ら中粒である Pyroxenite Family と Gabbronorite ン,東側に地殻セクションが位置する ( 図 1).マ Family のダイクは,Fizh 岩体南部のマントルセク ントルセクションの直上にはモホ遷移帯が存在 ションで剪断帯の有無に関係なく一般に見られる. 113 図 3. Fizh 岩体マントルセクションにお けるダイクの岩相区分とサンプル採取地 点.赤枠は剪断帯の分布域 (Nicolas and Boudier, 2000; 村上 , 2007MS) を示す . 図 3. Fizh 岩体マントルセクションにおけるダイクの岩相区分とサンプル採取地点. 赤枠は剪断帯の分布域 (Nicolas and Boudier, 2000; 村上 , 2007MS) を示す. 図 4.苦鉄質∼超苦鉄質ダイクの面構造 図 4. 苦鉄質∼超苦鉄質ダイクの面構造. 114 図 4 および図 5 はそれぞれダイクの面構造の 分布と面構造の極のステレオ投影を示す.Pyroxenite Family はゆるく南へ傾斜するものが卓越す るが,Gabbronorite Family は,NW-SE 方向の走 行を持ち,比較的急傾斜なものが多い. 4. 岩石タイプ分類および鏡下の特徴 採取した岩石試料 99 個の薄片を作成し,偏光 顕微鏡下で観察・記載を行い,岩石タイプを分 類した.Fizh 岩体南部に分布するダイクは,Python and Ceuleneer (2003) による Pyroxenite Family と Gabbronorite Family の 2 つに分類 される ( 表 1).さらに,モード組成によって Pyroxenite Family は Clinopyroxenite,Olivine Clinopyroxenite,Orthopyroxenite,Olivine Orthopyroxenite,Websterite に,Gabbronorite Family は Gabbronorite,Olivine Gabbronorite, Gabbronorite,Amphibole-rich Gabbronorite, Norite,Amphibole-rich Norite に分けられる. また,上記以外に Hornblendite と緑泥石岩も確 認された.以下に各岩石の鏡下の特徴を記載する. 図 5. Fizh 岩体南部のマントルセクションに貫入する苦鉄質〜超苦鉄質ダイ 図 クの面構造の極のステレオ投影図. 5. Fizh 岩体南部のマントルセクションに貫入す 橙と緑の十字はそれぞれ岩石タイプ未 る苦鉄質∼超苦鉄質ダイクの面構造の極のステレオ 分類の Gabbronorite Family と Pyroxenite Family を示す. 投影図 . 橙と緑の十字はそれぞれ岩石タイプ未分類 の Gabbronorite Family と Pyroxenite Family を示 す. 4.1 Gabbronorite Family 主成分鉱物は,斜方輝石 (Opx),単斜輝石 (Cpx), 斜長石 (Pl),カンラン石 (Ol) ,角閃石 (Amp) から なる.副成分鉱物は主として赤鉄鉱,イルメナイ トからなり,少量のクロマイト,磁鉄鉱も含むが 硫化鉱物は認められない ( 図 6).マフィック鉱物 表1 苦鉄質∼超苦鉄質ダイクの岩石タイプ分類 Family Gabbronorite Rock type Num. samples Oman* Mineral assemblage Gabbronorite 8 (11.4%) 34.0% Pl > Opx ~ Cpx Amp-rich Gabbronorite 12 (17.1%) 3.5% Pl > Opx ~ Cpx > Amp Amp-rich Norite 10 (14.3%) 1.5% Pl > Opx ~ Amp Clinopyroxenite 4 (5.7%) 16.0% Cpx >> Opx Ol Gabbronorite Norite Websterite Pyroxenite Ol Clinopyroxenite Orthopyroxenite Ol Orthopyroxenite その他 Hornblendite 緑泥石岩 2 (2.8%) 1 (1.4%) 2.8% 3.7% 23 (32.9%) 20.7% 1 (1.4%) 2.2% 8 (11.4%) 1 (1.4%) 15 2 3.7% 0.9% Opx ~ Cpx ~ Ol ~ Pl Pl > Opx Opx ~ Cpx Cpx >> Ol Opx >> Cpx Opx >> Ol > Cpx Amp Chl Num. samples = サンプルの個数 ( 括弧内に%で表示 ); Oman* =Python and Ceuleneer (2003) によるオマーンオ フィオライト全体における割合. 115 4.2 Pyroxenite Family 主成分鉱物は,Opx,Cpx,Ol,Amp からなる. 副成分鉱物は主にクロマイト,硫化鉱物からなり, 赤鉄鉱,イルメナイトは少ない.Opx と Cpx が主 要造岩鉱物であり,その 2 つを端成分とする岩石 である.アドキュームレート組織,ペグマタイト 状組織,カタクラスティックな変形を受け再結晶 化した組織を示す.Opx,Cpx にキンクバンドも 見られる場合もある ( 図 7E, F). Clinopyroxenite 図 6. ダイクに含まれる不透明鉱物の種類と量比 . の中では Opx が卓越し,半自形∼自形の結晶形を 示す.このことから Opx が結晶分化作用の早期に 晶出したと考えられる.Cpx と Pl は他形∼半自形 でしばしば間隙充填鉱物として Opx の粒間に存在 する.組織は,アドキュームレート組織,ペグマ タイト状組織,マイロナイト組織に分類される ( 図 7A-D).以下の分類において,Amp は二次的に生 成したものは取り除き,初生的なもののみを記載 する. Gabbronorite Pl 30-60%,Opx 10-30%,Cpx 10-30% からな る ( 図 7C).粒度は細粒∼粗粒で,組織はアドキュー ムレート組織あるいはペグマタイト状組織を示す. Olivine Gabbronorite Ol 約 35%,Pl 約 40%,Cpx 約 15%,Opx 約 10% か ら な る ( 図 7D). 粒 径 は 各 鉱 物 と も に 1 mm 以下で細粒である.アドキュームレート組織 を示す. Amphibole-rich Gabbronorite P l 20-60%,O p x 5-30%,C p x 5-20%, Amp 20-30% から構成される ( 図 7A).粒径は Pl が 0.5-4 mm,Opx が 0.5-4 mm,Cpx が 0.4-4 mm で細粒から粗粒である.アドキュームレート 組織あるいはペグマタイト状組織を示す. Norite Pl 55-70% ,Opx 20-25% からなる.粒径は 細粒∼粗粒である.アドキュームレート組織ある いはペグマタイト状組織を示す. Amphibole-rich Norite Cpx が 90% より多く含まれ,Opx が 10% 未満 である ( 図 7F). 粒径は Opx,Cpx ともに 3 mm 以下で粗粒であ る. Olivine Clinopyroxenite Cpx 50-90%,Ol 約 40%,Opx 5% 以下からな る.粒径は Cpx が 10 mm 以下,Opx は 1 mm 以 下である. Orthopyroxenite Opx 90 % 以 上,Cpx 10 % 未 満 か ら な る ( 図 7E).粒径は Opx,が 10 mm 以下,Cpx が 7 mm で粗粒である. Olivine Orthopyroxenite Cpx 90% 以上,Ol 約 10%,Opx 10% 以下か らなる.粒径は Cpx,Ol が 3 mm 以下で Opx が 5 mm 以下である. Websterite Cpx(15-90%),Opx(10-70%) か ら 構 成 さ れ, Clinopyroxenite と Orthopyroxenite の中間的な モードをもつ.粒径は Cpx が 1-20 mm,Opx が 1-10 mm である. 4.3 Hornblendite Amp が 95%以上含まれる.Hornblendite のほ とんどは野外で層厚約 1 cm と薄い.また,元の 鉱物が一部残っている場合もあることから,熱水 作用による変質を受けた岩石と考えられる. 4.4 緑泥石岩 含まれる主要造岩鉱物のほとんどが熱水作用に より変質し,緑泥石化した岩石と考えられる.チ タナイトやスピネルを含むものもある. Pl 20-60%,Opx 10-45%,Amp 10-20% から 構成される.粒径は Pl が 0.1-4 mm,Opx が 1.5-25 mm である.アドキュームレート組織,ペグマタ 5. 鉱物化学組成 イト状組織あるいはマイロナイト状組織を示す. 剪断変形を受けている場合は,Opx はポーフィロ 苦鉄質ダイクに含まれる単斜輝石 (Cpx),斜方 クラストとして残存する ( 図 7B). 輝石 (Opx),斜長石 (Pl),カンラン石 (Ol) ,スピ 116 A B C D E F 図 7. 苦鉄質∼超苦鉄質ダイクの鏡下写真 . A. Amphibole-rich Gabbronorite (Loc. Wadi Fizh). 角閃石が斜 図 7. 苦鉄質〜超苦鉄質ダイクの鏡下写真. A. Amphibole-rich Gabbronorite (Loc. Wadi 長石をポイキリティックに包有 . B. Amphibole-rich Norite (Loc. Wadi Hayl). 剪断帯に認められる . Opx を Fizh). 角閃石が斜長石をポイキリティックに包有. B. Amphibole-rich Norite Wadi ポーフィロクラストとするマイロナイト組織が発達 . C. Gabbronorite (Loc. Wadi Hayl).(Loc. ペグマタイトが変形 を受けて再結晶が発達 . D. Olivine Gabbronorite (Loc. Wadi Bani Umar). アドキュムレート組織を示す . E. Hayl). 剪断帯に認められる. Opx をポーフィロクラストとするマイロナイト組織が発達. C. Orthopyroxenite (Loc. Wadi Sada). F. Clinopyroxenite (Wadi Hayl). 変形による再結晶化が進行 . Gabbronorite (Loc. Wadi Hayl). ペグマタイトが変形を受けて再結晶が発達. D. Olivine Gabbronorite (Loc. Wadi Bani Umar). アドキュムレート組織を示す. E. Orthopyroxenite ネル (Spl) および不透明鉱物 (Opq) の主成分化学組 し,それぞれの結晶について数点の分析をおこなっ (Loc. Wadi Sada). F. Clinopyroxenite (Wadi Hayl). 変形による再結晶化が進行. 成を新潟大学自然科学研究科の波長分散型分光器 た.以下にその特徴を述べる. (WDS) 付き EPMA (JOEL JXA8600SX) を用いて定 Opx の Mg# は,Gabbronorite Family で 15kV,試料電 量分析した.分析条件は加速電圧が 55-85,Pyroxenite Family で 70-95 である.つ 流は 1.3×10-8A,分析補正値は Oxide ZAF 法による. まり Gabbronorite Family は Pyroxenite Family 分析は 1 つの薄片試料につき数個の各鉱物を選択 よりも相対的に Mg# が低く,組成範囲が広い. 117 図 8. Cpx の酸化物ー Mg# 組成関係図 . 図 8. Cpx の酸化物ー Mg# 組成関係図. さらに,Gabbronorite Family の中では Olivine Gabbronorite,Pyroxenite Family では Olivine Orthopyroxenite と Orthopyroxenite の Mg# が 高い. Cpx の Mg# の 組 成 範 囲 は,Gabbronorite Family で 68-88,Pyroxenite Family で 80-95 で あ る ( 図 8). 全 体 的 に,Pyroxenite Family の Mg# は 高 く,Gabbronorite Family の Mg #は低い傾向がある.Cr2O3 (wt.%) の組成範囲 は,Gabbronorite Family,Pyroxenite Family ともに 0-1 である.TiO2 (wt.%) の組成範囲は, Gabbronorite Family が 0.02-0.51,Pyroxenite Family が 0-0.31 で あ る.Na2O (wt.%) の 組 成 範 囲 は,Gabbronorite Family が 0.09-0.29, Pyroxenite Family が 0 -0.25 である.Al2O3 (wt.%) は,Gabbronorite Family が 0.8-2.7,Pyroxenite Family が 0.4 -0.22 である. さらに,Gabbronorite Family は Cpx の Mg# が高いグループと低いグループに大きく二分する ことができる ( 図 8).全体的に Mg #の減少に伴 い Cr2O3 は減少するが,TiO2 ,Na2O は増加する. ス ピ ネ ル の Cr# は,Pyroxenite Family と Gabbronorite Family ともに 40-80 と広い組成 範囲を持つ ( 図 9).TiO2 (wt.%) の組成範囲は, Pyroxenite Family が 0.1-0.8,Gabbronorite Family が 0.6-1.5 である.Cr#-TiO2 (wt.%) の 組成関係図では,Pyroxenite Family は Islandarc basalt の組成域 (Uesugi and Arai, 2001) に プロットされ,一部の Orthopyroxenite はオマー ンオフィオライトの boninitic dyke の組成域 ( 山 崎 , 2007MS) に含まれる.また,Gabbronorite Family は MORB の領域にプロットされるものも ある. 図 10 は,Cpx の Mg# と斜長石 の An% の組 118 Gabbronorites Gabbronorites Ol Gabbronorites Am-rich Gabbronorites 図9.スピネルのCr#-TiO2 (wt.%) 組成関係図.MORBとIsland-arc basaltの領域は 図 9. スピネルの Cr#-TiO2 (wt.%) 組成関係図 .MORB Uesugi and Arai (2001)から引用.Boninitic dykesの領域は山崎(2007MS)から引用. と Island-arc basalt の領域は Uesugi and Arai (2001) か ら 引 用 .Boninitic dykes の 領 域 は 山 崎 (2007MS) から引用 . 成関係を示す.図中の各領域はオマーンオフィ オライトの苦鉄質ダイク組成域で,各シンボルは 海洋性ガブロのデータを示している (Python and Ceuleneer, 2003).上で述べたことと同様に,本 研究地域の Gabbronorite Family は,Mg# が低く An% が高いグループと,Mg# が高く An% が低下 するグループの 2 つに分かれる.後者は海洋性ガ ブロのトレンドと一致する. 6. 考察 6.1 Gabbronorite Family の起源 図 11 はフィズ岩体南部のダイクの Cpx Mg#Na2O(wt.% ) 組成関係を3つのワジ毎に区分した 図 10. CpxMg#- Pl An% 組成関係図 .Python and Ceuleneer (2003) に加筆 . 各領域はオマーンオフィ オライトのダイクの組成範囲を示す . 各点は海洋性 ガブロの組成を示す . まり,Cpx Mg# の高いグループは MORB メルト の結晶分化作用によって形成された可能性がある. 次に,Cpx Mg# の低いグループは斜長石 An% が高い ( 図 10).H2O に富むメルトから晶出した斜 長石は,メルトが分化しても An% が高いことが 知られている (Thy 1987).したがって,Cpx Mg# の低いグループは H2O に富み Na に枯渇したメル トから形成した可能性が考えられる. Python and Ceuleneer (2003) は,Pyroxenite Family と Gabbronorite Family がシリカ成分に富 み,不適合元素に枯渇したメルトから分化したと 主張している.本研究では Gabbronorite Family の中に MORB メルトに由来する苦鉄質ダイクがあ ることを見出した.Gabbronorite Family の起源 の異なる2つのグループのうち,Cpx Mg# の高い グループは中央海嶺において MORB メルトから形 成し,Cpx Mg# の低いグループはのちの oceanic thrusting と剪断帯の活動に伴って H2O に富み ものである.この Cpx Mg # -Na2O(wt.% ) の関 係を見ると,Cpx Mg# の異なる2つのグループが どの Wadi でも認められることがわかる.Mg# の 低いグループは,Mg# の高いグループよりも Cpx の Na2O 量が低い.一般に,結晶分化作用ではメ ルトの Mg# が減少するにつれて Na2O は上昇する ため,2 つのグループは同一のメルトから分化し て形成されたとは考えられない.つまり,2 つの グループは異なる起源を持つ可能性が考えられる. また,Cpx Mg# の高いグループのスピネルは図 9 において MORB のスピネルの組成領域に含まれ Na に枯渇したメルトから形成したと考えられる. る.このグループの Cpx Mg# と斜長石の An% は, Gabbronorite Family の多くは剪断帯付近に集中 海洋性ガブロのトレンドとも一致する ( 図 10).つ し,走向が剪断帯方向 (NW-SE) に平行なものが多 119 Na2O (wt.%) Wadi Fizh Pyroxenite Family は島弧起源のメルトに由来す る可能性が考えられる.そのなかでも,スピネル の Cr# が非常に高い Orthopyroxenite はオマーン オフィオライトの Boninitic dyke の領域 ( 山崎 , 2007MS) にプロットされるため,両者の成因関係 が考えられる.Pyroxenite Family は野外におけ る貫入岩の切断関係から,前述の H2O に富み Na に枯渇した Gabbronorite Family を形成したメル トよりも活動時期は古いと考えられる. 7. まとめ Na2O (wt.%) Wadi Bani Umar もう一方の Cpx Mg# の低い分化したグループは, Na2O (wt.%) Wadi Hayl 図 Gabbronorite Family は剪断帯付近に多く存在 し,剪断帯を上昇したメルトから形成したことが 考えられる.また,起源の異なる2つのグループ (Cpx Mg# の高い未分化なグループと Cpx Mg# の 低い分化したグループ ) に分けられることが明ら かになった.Cpx Mg# の高い未分化なグループ は MORB メルトに由来する可能性が考えられる. H2O に富み,Na に枯渇したメルトから形成した 可能性が考えられる. Pyroxenite Family は調査地域全体に分布す ることが明らかになった.また,鉱物化学組成 から,島弧起源のメルトに由来する可能性が明 らかになった.そのなかでも,Cr# の高い一部 の Orthopyroxenite とオマーンオフィオライトの boninitic dyke( 山崎 , 2007MS) に成因関係が示唆 される. 謝辞 本研究は筆頭著者の卒業研究による成果をま とめたものである.本研究をすすめるにあたって 新潟大学の宮下純夫教授には日常的に議論してい ただき,多くの貴重なご意見を承った.藤林紀枝 准教授にはセミナーにおいて有益なご助言をいた Mg# だいた.また,足立佳子博士には研究に関するご 図 11. ワジ毎に区分した Cpx Mg#-Na2O 組成関係 助言ならびに分析機器の使用方法についてご教示 図. 11. ワジ毎に区分した Cpx Mg#-Na2O 組成関係図. いただいた.山崎秀策氏にはセミナーでご意見を いことから,メルトは剪断帯を上昇してきた可能 いただいたほか,オマーンのボニナイト質ダイク 性が考えられる. のデータを使用させていただいた.村上龍太朗氏 には研究全般に渡ってアドバイスをいただき,特 6.2 Pyroxenite Family の起源 に現地調査でお世話になった.オフィオライトマ スピネルの Cr#-TiO2 (wt.%) の組成関係図 ( 図 ントルセミナーの方々には,日頃議論をしてい 9) から Pyroxenite Family は Island Arc Basalt ただいたほか,さまざまな面でご援助いただい の 組 成 範 囲 と ほ ぼ 一 致 す る. こ の こ と か ら, た.これらの方々にこの場を借りて厚く御礼申し 120 上げます.本研究は科学研究費補助金 ( 課題番号 17340162 および 19540478) および新潟大学プロ ジェクト推進経費を使用した. 引用文献 Ceuleneer, G. Nicolas, A. and Boudier, F. 1988, Mantle flow patterns at an oceanic spreading centre: The Oman peridotite record. Tectonophysics, 151, 1-26. Ishikawa, T., Fujisawa, S., Nagaishi, K., Masuda, T., 2005, Trace element characteristics of fluid liberated from Amphibolite-facies slab: Inference from the metamorphic sole beneath the Oman ophiolite and implication for boninite genesis, Earth Planet. Sci. Lett, 240, 355-377. 菅家奈未,2006MS,オマーンオフィオライト北部 Fizh 岩体の地球化学的研究 - 海洋リソスフェアマントルの 形成と進化について - 新潟大学修士課程卒業論文 , 193p. Miyashita, S., Adachi, Y., Umino, S., 2003, Along-axis magmatic systems in the northern Oman ophiolite: Implications of compositional variation of the sheeted dike complex. Geochem. Geophys. Geosys., 4(9), 8617, doi: 10.1029/2001GC000235. 村上龍太朗 , 2007MS, オマーンオフィオライト・南部フィ ズ岩体の岩石学的研究―海洋リソスフェアマントル の部分融解について . 新潟大学卒業研究課題 , p52. Nicolas, A., Boudier, F. and Ildefonse, B., 1994, Evidence from the Oman ophiolite for active mantle upwelling beneath a fast-spreading ridge. 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