日本の不動産投資マーケットの現状 - 東京海上アセットマネジメント株式

日本の不動産投資マーケットの現状
2013 年第 2 四半期
投資に係るリスク、手数料等に関しては最終ページの「リスク等のご説明」をご確認ください。
日本の不動産投資マーケットの現状
(2013 年第 2 四半期)
東京海上不動産投資顧問株式会社
海外投資運用部 森園 義史1
1.はじめに
グローバル金融危機以降、大きな低迷を余儀なくされていたグローバル経済にもようやく、
緩やかではあるが、堅調な成長の兆しが見え始めている。米国の財政問題や欧州経済の不
透明感等の不安要素も残っているにも拘らず、直近の市場のセンチメントは全般的に良好
であり、グローバル規模でリスクオンへの転換が進んでいる。この状況は日本においても
例外ではない。政権交代後の"アベノミクス"の発動、並びに新たに発足した黒田日銀体制
によるこれまでにない大胆な金融緩和推進の表明は、日本経済のデフレ脱却とその復活を
目指す強い決意を市場に示しており、市場のセンチメント改善に充分な成果を上げている。
実際に、アベノミクス発動以降にもたらされた円安傾向は日本の輸出産業に競争力を与え、
それに牽引される形で株式市場も危機前の水準を回復した。あわせて、東証 REIT 指数も株
式の動きと連動して急激に上昇しており、日本の金融市場は明らかにこれまでと相違する
力強い推移を見せている。
しかしながら、J-REIT 以外の私募不動産ファンド(以下、
「私募ファンド」という。)の市
場には未だに停滞感が感じられる。私募不動産ファンドの市場規模の推移は、2008 年以降
はほぼ横ばいではあるものの、直近では REIT の大規模な増資とあわせて、私募ファンドか
ら REIT へ物件が売却されているため、足元の私募ファンド市場は J-REIT の成長とトレー
ドオフのような形で縮小していると考えられる。私募ファンドの停滞感の原因としては、
金融危機以降改めて、あるいは新たに認識された、不動産投資市場に内在する下記の問題
点による、投資家の不動産への投資意欲の減退が影響している。
(1) ファイナンスリスク顕在化時において著しく流動性が欠如し、機動的な出口戦略が
実行できないこと。
(2) 市場低迷時の損失規模が多大となり、大きな財務インパクトを与えてしまうこと。
(3) 優良投資案件が慢性的に不足していること。
これらの問題への対応として、私募ファンド運用会社の戦略にも変化が見られる。特に、
大手デベロッパー系の私募ファンド運用会社は、これまでの主要な商品であった有期のク
1
森園 義史(もりぞの よしふみ)
東京海上不動産投資顧問㈱ 海外投資運用部 マネジャー
J-REIT の IPO やアクイジション業務の経験を経た後、2007 年よりミレア・リアルエステイトリスク・マ
ネジメント㈱(現東京海上不動産投資顧問㈱)にて、機関投資家向け不動産私募ファンドのファンド・マ
ネジメント業務に従事。2012 年より現職にて、マーケットリサーチ業務並びに国内年金基金及び金融機関
向け海外不動産投資プラットフォームの設立等に携わる。
2
ローズドエンド型のファンド運営から、私募 REIT の運営へと軸足を移している。私募 REIT
は、低レバレッジによるファイナンスリスクの低減とともにオープンエンド方式による流
動性の向上を図り、また、スポンサーからのパイプラインによる投資適格案件のソーシン
グを実現することで、上記に挙げた問題に一定の解決を与えることができた。私募 REIT 市
場は順調に拡大しており、2013 年に入り三菱地所・三井不動産系列の私募 REIT の資産残高
はいずれも 1,000 億円を突破した。
本稿では、まずは日本の不動産をめぐる金融市場の現状について概観し、次に不動産売買
市場及び賃貸市場について個別状況を確認した。その上で、今後の不動産投資市場におけ
る投資機会について考察したところ、以下の結論が得られた。
(1) 現在の日本の不動産投資市場のファンダメンタルズは全般的に良好もしくは回復傾
向にあり、不動産投資の開始にはよいタイミングである。
(2) 既に競争の激しい分かりやすいコア物件を避け、バリューアド戦略によりアルファ
の獲得を狙うことに実効性がある。
(3) 各セクターの投資機会は下記の通りとなる。
セクター
投資機会
オフィス
開発案件、好立地の築古・低スペック物件のリノベーション、地方都市等の
地域ナンバーワンビル、自社ビル等
住宅
小規模開発案件
商業
飲食店舗
物流
開発案件(E コマース対応 BTS 等)
2.不動産金融市場の動向
2-1.金融市場
(1)デットの状況
① CMBS
CMBS 発行額は 2007 年から極端に落ち込み、以降は極めて低い水準で推移している。CMBS
のメインの買手は邦銀等の金融機関であったが、金融危機後は困難な債権回収局面を経験
することとなった。その教訓から、現在金融機関には、有事の際に思うように案件のコン
トロールができず、かつスプレッドも低くならざるを得ない CMBS を保有するよりも、自
らが不動産ノンリコースローン融資を行う方が好ましいとの判断があると考えられる。し
たがって、CMBS 市場がかつての盛り上がりを取り戻す可能性は低いと思われる。
3
2,500
(10 億円)
2,427
2,000
1,433 1,466
1,500
902
1,000
569
566
568
640
500
241
124
0
185
0
98
99
00
01
02
03
04
05
06
07
08
09
37
25
14
0
10
11
12
13
資料:1998-2003 年 Morgan Stanley、2004 年- 日本証券業協会より東京海上不動産投資顧問作成
図 2-1-1
CMBS 発行額
② ノンリコースローン
邦銀の不動産投資にかかるノンリコースローン提供に対する意欲は、総じて旺盛といえる。
その理由はそれぞれの経営方針、戦略によって多少の思惑の相違はあれど、共通して言え
ることは、特に国内において、新規貸出先が限定されているということである。邦銀がよ
り強い利益体質の実現を目指すに際して、現在の融資残高を維持し、またさらなる残高の
積み増しを行うと考えた時に、ある程度まとまった規模を拠出でき、スプレッドも一定程
度享受できる不動産ノンリコースローンは魅力的であり、かつ不可避な収益源の一つとな
っていると考えられる。
既存の不動産ファンド案件は、最悪期のリファイナンスを乗り越えて一定のリストラクチ
ャリングが進んでいるため、今後のリファイナンス時に大幅な LTV の引き下げが不可避な
案件は減っている。図 2-1-2 を見ると、2012 年からは不動産業への貸出残高が緩やかに
増加しており、今後もその傾向は継続すると思われる。しかし、優良な物件の取引は限定
され、既存ローンのアモチゼーションも進んでいく中で、個々の銀行にとって残高維持・
増加は容易ではない。競争は既に熾烈を極めており、特にメガバンクはほぼ 0 に近い資金
調達コストを背景に破格のスプレッド提示を展開しているため、スプレッド水準の低下は
これ以上望めない水準にあり、優良案件はメガバンク主体に LTV の深化が進んでいくであ
ろう。一方、メガバンク以外の信託銀行やその他のレンダーは、それぞれの得意とする分
野において LTV の深化や、介護施設など、従前とは異なるアセットクラスへの取り組みを
進めていくことにより、メガバンクとの競合を回避していくものと思われる。借主となる
不動産ファンドにとっては、歴史的な低金利の環境ともあいまって、極めて良好なデット
ファイナンス環境がしばらく継続すると考えられる。
4
(兆円)
70
残高(Outstanding loans)
15.0%
割合(Percentage)
65
14.5%
60
14.0%
Dec. 2012
55
13.5%
60.3兆円
14.2%
50
13.0%
12.5%
45
40
12.0%
Dec. 2003
48.2兆円
35
11.5%
11.8%
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
11.0%
1997
30
資料:日本銀行「貸出先別貸出金」
図 2-1-2
国内銀行の不動産業への貸出残高と全貸出に占める割合
邦銀の預貸比率は、リーマンショック後の 2008 年 12 月(80%)をピークに、その後の企業
の資金ニーズの減退を受けて減少傾向である。直近では 66%程度で下げ止まって推移して
いるが、キャッシュは余剰状態にあると言える(図 2-1-3)。バーゼルⅢの対応等を踏ま
えると、邦銀が大幅にリスク量を増加させていくことは考えにくいが、一方で日銀による
大胆な金融緩和により日本国債の利回りは歴史的低水準にあり、安全資産のみでの運用で
は利益確保が難しい状況にある。今後も金融緩和政策が継続される中、邦銀がノンリコー
スローンへの取組を強化することは納得感がある。
(兆円)
資料:全国銀行協会「全国銀行 預金貸出金速報」
図 2-1-3
都市銀行の総預金及び貸出金並びに預貸比率の推移
5
(2) エクイティの状況
① J-REIT
J-REIT 市場は、昨年末の政権交代以降、アベノミクスをきっかけとして急速な回復を示
している。株式市場の上昇と連動して J-REIT の時価総額も右肩上がりとなっており、
J-REIT のエクイティ・ファイナンスと物件取得は飛躍的に進捗している(図 2-1-4)。一
般社団法人不動産証券化協会によると、2012 年度の J-REIT 投資口の新規発行増資は 24
回、その規模は 7,714 億円にも上る。また、東証 REIT 指数は 2013 年 4 月 15 日時点で
1,598.57 となり、2012 年末(1,114.68)からわずか 3 ヶ月強の期間に 1.4 倍まで上昇す
る等、J-REIT 市場は活況を呈している(図 2-1-5)。
12
(兆円)
時価総額 (Total Market Value)
総資産 (Total Asset Value)
9.73
10
8
5.70
6
4
2
Sep-12
Mar-12
Mar-11
Sep-11
Sep-10
Mar-10
Mar-09
Sep-09
Mar-08
Sep-08
Sep-07
Mar-07
Mar-06
Sep-06
Mar-05
Sep-05
Sep-04
Mar-04
Sep-03
Mar-03
Mar-02
Sep-02
Sep-01
0
資料:不動産証券化協会、投資信託協会
図 2-1-4
J-REIT の時価総額と総資産額の推移
3,500
TOPIX
東証REIT指数(TSE REIT index)
3,000
2,500
2,000
1,500
1,323
976
1,000
500
資料:Bloomberg
図 2-1-5
TOPIX 及び東証 REIT 指数の推移
6
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
0
2012 年度は 6 つの IPO が行われたが(表 2-1-1)
、IPO は 2007 年以来のことである。トピ
ックスとしては、物流を投資対象とする REIT が 3 つ上場を果たし、J-REIT 市場における
物流セクターの存在感が大きく増した点である。日本の不動産投資市場においては後発で
あった物流セクターにおける私募ファンドの組成・運営は、これまで主に外資系ファンド
がメインプレーヤーとして行ってきたが、金融危機以降、高いクレジットのテナントの長
期リース形態のような安定性を強みとする物件を中心に、国内投資家においても注目を集
めるようになった。今般の物流 REIT の上場は、物流セクターがここ数年で国内不動産投
資市場において確固たる地位を築き上げたことを示すとともに、さらなる認知度の上昇に
貢献したといえる。但し、オフィスと物流施設に投資家が求める期待利回りの差は概ね
2%強で推移してきたが、直近では 2%を下回り、さらに物流 REIT の取得時鑑定の利回りは
投資家期待利回りを下回っていることから(図 2-1-6)、既に物流案件の取得競争は激化
しており、価格はピークに近いものと考えられる。
表 2-1-1
J-REIT の 2012 年度 IPO 銘柄
時
期
2012 年
銘柄
規模(億円) 投資対象
4月
ケネディクス・レジデンシャル
146
住宅
6月
アクティビア・プロパティーズ
986
商業・事務所
11 月
大和ハウスリート
539
商業・物流
12 月
GLP
2013 年
2月
コンフォリア・レジデンシャル
2月
日本プロロジスリート
合計
1,109
物流
273
住宅
1,053
物流
4,106
資料:一般社団法人不動産証券化協会「ARES J-REIT REPORT」より東京海上不動産投資顧問作成
7.5%
期待利回り:オフィス - 東京(丸の内、大手町)
7.0%
期待利回り:物流 - 東京(江東地区)
REIT取得時鑑定Cap Rate(関東圏平均)
6.5%
6.0%
5.9%
5.5%
5.5%
物流REIT
取得レンジ
5.0%
5.3%
4.5%
4.2%
4.0%
3.5%
3.5%
2012/12/01
2012/07/01
2012/02/01
2011/09/01
2011/04/01
2010/11/01
2010/06/01
2010/01/01
2009/08/01
2009/03/01
2008/10/01
2008/05/01
2007/12/01
2007/07/01
2007/02/01
2006/09/01
2006/04/01
2005/11/01
2005/06/01
2005/01/01
2004/08/01
2004/03/01
2003/10/01
3.0%
資料:日本不動産研究所、GLP 投資法人並びに日本プロロジスリート投資法人プレスリリースより東京海
上不動産投資顧問作成
図 2-1-6
オフィスと物流施設の期待利回りの推移と REIT の取得時鑑定利回り
7
② 外資系私募ファンド
外資系私募ファンドの日本の不動産への投資意欲は高い。資金力のある海外投資家は、不
動産投資においてもポートフォリオの分散を図ってグローバルに不動産投資を行ってい
るため、アジアについても一定程度のエクスポージャーを組み込むことが常である。アジ
アの不動産市場を考えたとき、日本の不動産市場はその市場規模、法制度の安定性、透明
性から無視できない存在である。
金融危機後は、主に米国の機関投資家の資金をベースとするファンドが、オポチュニステ
ィック・ディストレスト案件を狙って投資機会を窺ってきたが、図 2-1-7 をみると、銀行
の不良債権の処分は危機以降も大きくは進んでおらず、不良債権比率が横ばいで推移して
いることがわかる。この時、不動産ファンドにおいては、損失の実現を回避したい投資家
意向と、邦銀を中心とする既存レンダーのサポートもあり、リファイナンスの難易度が高
い案件であっても市場で売却となる案件は多くはなく、結果として、IRR20%を要求するよ
うなオポチュニスティックファンドは十分な投資機会には恵まれなかった。
しかし、直近における日本経済のセンチメント改善と資産価格の力強い推移は、ファンド
マネジャーが日本の不動産市場の今後の回復シナリオを描くのに十分な説明材料となる。
レンダーへのヒアリングにおいても、今後の賃料上昇やキャップレートのさらなる収縮を
前提とした、強気の価格提示がなされ始めているとの話もあり、今後もその積極的な姿勢
が強まっていくものと思われる。
16
(兆円)
不良債権処分損 (Total losses on disposal of NPLs)
14
10%
不良債権比率 (NPLs ratio)
9%
8.4%
13.6
8%
12
7%
10
6%
5%
8
4%
6
2.4%
4
3%
2%
2
1%
0.15
0
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
1992
0%
資料:金融庁(※2012 年は 2012 年 9 月期のデータ)
図 2-1-7
全国銀行の不良債権処分損の推移
③ 国内系私募ファンド
金融危機後の国内私募ファンドは、投資家の投資意欲の減退と困難な出口戦略の対応に追
われ、忍耐の時期を過ごしてきたが、大手デベロッパー系の国内私募ファンド運用会社を
中心に、オープンエンド型私募 REIT の設立の動きが広がっている。私募 REIT は、低レバ
レッジによるファイナンスリスクの低減とともにオープンエンド方式による流動性の向
8
上を図り、また、スポンサーからのパイプラインによる投資適格案件のソーシングを実現
することで、冒頭に記載した現在の不動産投資市場における問題点に一定の解決を与える
ことができた。私募 REIT 市場は、運用先に苦慮する地銀を含む機関投資家等の投資ニー
ズの取り込みにも成功して順調に拡大しており、今後も国内系私募ファンド市場の成長は
私募 REIT 市場が牽引していくことになるであろう。
但し、私募 REIT も市場の万能薬ではない。より流動性を高める償還条件の設定や、スポ
ンサーのデベロッパー並びに系列会社との間の利益相反を統制する規律正しい運営等、今
後の運営を通じて具体的な修正すべき問題が出てくるであろう。今後の国内系私募ファン
ドの成長には、現在の不動産投資市場の問題に新たな解決を与え、投資家の要求に応える
商品の提供と、規律正しい成長戦略・運営を継続的に実行する運用会社の努力が必要とさ
れよう。
2-2.不動産市場
(1) 売買市場
売買事例件数の対前年同月比は、2012 年後半から前年を上回って推移しており、直近の売
買活動は活性化している。金融危機以降の売買マーケットは、事業会社及び個人が存在感
を示していたが、直近の取得者層はデベロッパーも含めて、全体的に厚みを増している。
大規模な取得事例は J-REIT が増資と絡めた案件が中心となるが、大型の優良物件の取引は
限定的であり、私募ファンドの取得は B クラス物件がメインとなっている。
(件)
200
売買事例件数 (Number of transactions)
100%
対前年同月比 (Year-on-year % change)
180
80%
160
60%
140
40%
120
20%
100
0%
80
-20%
60
-40%
40
Dec-12
Jun-12
Sep-12
Mar-12
Dec-11
Jun-11
Sep-11
Mar-11
Dec-10
Sep-10
Jun-10
Mar-10
Dec-09
Jun-09
Sep-09
Mar-09
Dec-08
Jun-08
-80%
Sep-08
0
Mar-08
-60%
Dec-07
20
資料:日経不動産マーケット情報をもとに東京海上不動産投資顧問作成
図 2-2-1
売買事例件数の推移
(2) 賃貸市場
① オフィス
東京主要 5 区の空室率は 2007 年以降上昇傾向にあったが、2010 年以降はほぼ横ばいで推
移している。平均賃料もほぼ横ばいに推移しているが、空室率は 7%超と未だ高い水準で
あり、東京主要 5 区のオフィス賃貸市場は低位安定している(図 2-2-2)。稼働の高い A
9
クラスビルについては、募集賃料が上昇する例も見られるようになっており、A クラスビ
ルについては空室率の下落とともに、賃料上昇の気配が感じられる。名古屋市については
空室率に改善が見られるが、平均賃料は横ばいで推移している(図 2-2-3)。大阪につい
ては直近において空室率の改善が見られるが(図 2-2-4)、北ヤードや阿倍野での大規模
な新規供給が予定されており、空室率は再度上昇すると予想される。新規空室の消化には
時間を要するため、既存ビルの賃料反転はまだ先の話となると思われる。
20,000
(円/坪)
9%
平均募集賃料 (Average asking rent)
18,000
空室率 (Vacancy rate)
8%
16,000
7%
14,000
6%
12,000
5%
10,000
4%
8,000
3%
6,000
2%
4,000
1%
2,000
0%
0
95
96
97
98
99
00
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
資料:CBRE
図 2-2-2
14,000
東京主要 5 区
平均募集賃料と空室率
(円/坪)
16%
平均募集賃料 (Average asking rent)
空室率 (Vacancy rate)
12,000
14%
12%
10,000
10%
8,000
8%
6,000
6%
4,000
4%
2,000
2%
0
0%
資料:CBRE
図 2-2-3
名古屋市
平均募集賃料と空室率
10
(円/坪)
12%
14,000
平均募集賃料 (Average asking rent)
空室率 (Vacancy rate)
12,000
10%
10,000
8%
8,000
6%
6,000
4%
4,000
2%
2,000
0
0%
95
96
97
98
99
00
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
資料:CBRE
図 2-2-4
大阪市
平均募集賃料と空室率
都心 5 区の新築ビルと全体の空室率を見ると、新築ビルの空室率が改善傾向にある。また、
今後数年は新規供給も平均以下となるため、徐々に全体の空室率も改善していくものと考
えられる(図 2-2-5)。
45%
10%
空室率 - 新築 : 左軸 (Vacancy rate - New buildings : LHS)
40%
9%
空室率 - 全体 : 右軸 (Vacancy rate - Overall average : RHS)
8%
35%
7%
30%
6%
25%
5%
20%
4%
15%
3%
10%
2%
資料:三鬼商事
図 2-2-5
Jul-12
Jan-13
Jul-11
Jan-12
Jul-10
Jan-11
Jul-09
Jan-10
Jul-08
Jan-09
Jul-07
Jan-08
Jul-06
Jan-07
Jul-05
Jan-06
Jul-04
Jan-05
Jul-03
Jan-04
0%
Jul-02
0%
Jan-03
1%
Jan-02
5%
オフィスデータ
都心 5 区
新築ビルの空室率と全体の空室率の関係
② 住宅
東京の賃貸住宅全般の賃料の推移をみると、直近においても安定して推移しており、オフ
ィス賃料とのボラティリティの差は歴然としている(図 2-2-6)。投資家に対しても住宅
の安定性は広く認知されるところとなっており、引き続き年金基金等の投資対象として注
目されている。一方で、賃料上昇のためには家計の所得増大による賃料負担能力の上昇が
求められるが、賃金上昇は企業業績の上昇に遅行するため、短期的将来での賃料上昇は望
みにくいと考えられる。
11
120
(2000 年 12 月=100)
115
110
105
100
95
90
住宅賃料 - 東京23区マンション (Housing Rent - Condominiums in Tokyo 23 wards)
85
オフィス賃料 - 東京ビジネス地区 (Office Rent - Tokyo central 5 wards)
80
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
資料:Bloomberg、CBRE「OFFICE MARKET REPORT」
図 2-2-6
住宅賃料とオフィス賃料の推移の比較
③ 商業
2012 年第 4 四半期以降の商業販売額の前年同期比をみると、小売業は 0%をはさんで横ば
いで推移、卸売業もマイナスで推移していることから、目立った改善は見られない(図
2-2-7)。しかしながら、年明け以降は消費者マインドは前向きとなっているニュースも見
られるようになっている。総務省は 2 月の家計調査を受けて基調判断を「持ち直している」
に上方修正した。また、百貨店では高額品の売れ行きが好調であり、全国百貨店売上は
2013 年 3 月で 3 ヶ月連続の前年同月比プラスを達成した。加えて、年末以降のユニクロ
とユナイテッドアローズの国内既存店売上高は 1 月のユニクロの売上高を除けば前年対
比プラスで推移しており、2013 年 3 月についてはいずれも 20%程度の大幅な増加となって
いる(図 2-2-8)。これらのことから、全体的な消費の底上げが実体経済にも反映されつ
つあるといえよう。
都心型の商業施設等の賃料構成は、これまでの消費低迷期において売上歩合による変動賃
料部分が増加していると考えられる。したがって、そういった施設については、今後の消
費の回復により、歩合賃料による賃料増額が見込まれるであろう。
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資料:経済産業省「商業販売統計」
図 2-2-7
商業販売額前年同期比増減率
35%
ユニクロ(既存店)
ユナイテッドアローズ(全社)
25%
23.1%
15.2%
15%
13.0%
11.3%
6.5%
6.6%
19.1%
9.6%
13.7%
4.5%
5%
7.9%
Mar-13
-5.5%
Feb-13
Jan-13
Dec-12
-2.2%
Nov-12
Oct-12
-5%
Sep-12
-2.4%
-15%
-25%
-35%
資料:ファーストリテイリング IR 資料、ユナイテッドアローズ IR 情報より東京海上不動産投資顧問作成
図 2-2-8
ユニクロとユナイテッドアローズの売上高前年同期比増減率
④ 物流
首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率は、2009 年 9 月の 20%をピークに改善
傾向であり、直近では 5%程度で安定している(図 2-2-9)。物流セクターは、長期リース
契約による安定したインカムパフォーマンスを背景に、ここ数年で日本の不動産投資市場
において確固たる地位を築いており、三菱地所や三井不動産といった大手デベロッパーの
相次ぐ参入表明や、2012 年末以降の複数の物流を投資対象とする REIT の新規上場など、
業界としても注目度が高い。
日本においては最新設備を備えた A クラス施設が不足していることから、前述の新規参入
した大手デベロッパー等によるそれらの需要を満たす開発案件の供給が今後も物流市場
の成長を牽引するであろう。前段で触れたとおり、今後の消費活動の堅調な推移に加え、
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E コマースの普及も後押しとなり、しばらくは物流セクターの賃貸需給はタイトな状況が
継続すると考えられる。
20.0%
平均空室率 (Overall)
18.0%
既存物件空室率 (More than one year old)
16.0%
14.0%
12.0%
10.0%
8.0%
6.0%
4.0%
2.0%
Mar-04
Jun-04
Sep-04
Dec-04
Mar-05
Jun-05
Sep-05
Dec-05
Mar-06
Jun-06
Sep-06
Dec-06
Mar-07
Jun-07
Sep-07
Dec-07
Mar-08
Jun-08
Sep-08
Dec-08
Mar-09
Jun-09
Sep-09
Dec-09
Mar-10
Jun-10
Sep-10
Dec-10
Mar-11
Jun-11
Sep-11
Dec-11
Mar-12
Jun-12
0.0%
資料:CBRE「INDUSTRIAL MARKET REPORT」
図 2-2-9
首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率
3.今後の不動産投資戦略
3-1.不動産投資市場の回復と投資戦略
以上、日本の不動産をめぐる金融市場や不動産売買・賃貸市場について概観したが、日本
における不動産投資市場のファンダメンタルズは全般的に良好もしくは回復傾向にあると
言える。特にデットファイナンス環境は非常に良好であり、レンダー間における経済条件
の熾烈な競争が行われているにもかかわらず、物件の見極めが疎かにされることもなく、
LTV 水準も適正な範囲内で取引が行われている。また、歴史的な低金利環境の中で、不動産
は相対的に高いイールドを狙える資産クラスであり、インフレ政策を推し進める日本にお
いて、インフレヘッジ性のある不動産への投資は合理性がある。これらを総合的に考える
と、不動産投資の開始にはよいタイミングと考える。
但し、実際に充分な投資機会を獲得することは容易ではない。直近のセンチメントの改善
により、不動産の取得競合先は増加するであろう。現在の不動産投資市場のメインプレイ
ヤーである J-REIT は、投資口価格の上昇によって配当利回りが 3%前半まで低下している。
これは、現在の配当利回りの維持を可能とする新規取得物件の利回りのハードルを下げる
こととなることから、J-REIT は高い価格提示が可能な状況にある。今後の急激な投資口価
格上昇は考えにくいものの、年間 300 億円の J-REIT 買入を掲げる日銀の姿勢も市場に安心
感を与えており、引き続き J-REIT の高い取得競争力は維持されていくものと思われる。し
たがって、J-REIT の得意とするような都心立地、築浅、大規模といったような分かりやす
いコア物件を適正な価格で取得できる機会を得られる可能性は低い。また、市場回復局面
においては、ディストレスト案件の投資機会も少ないと思われるため、投資機会の観点か
らはノンコアアセットを取得し、バリューアド戦略によるアルファの獲得を狙うことに実
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効性があると考えられる。
不動産のバリューは、マーケットの回復による Cap Rate の収縮と不動産の生み出す NOI に
よって決定されることになる。ここで、Cap Rate はマーケット環境によって決定されるア
ンコントローラブルな変数であるため、バリューアド戦略ではファンドマネジャーの手腕
によって一定程度コントローラブルである NOI の成長可能性に着目することとし、次節に
おいて各セクター毎に現在のマーケットにおける投資機会を考察することとする。
不動産バリューアップ
Cap Rate 収縮
Capital Market
図 3-1
NOI 成長
×
賃料上昇
×
稼働率上昇
×
コスト削減
不動産のバリューアップの要因分解
3-2.セクター別の投資機会
(1)オフィス
前述の通り、大都市圏の主要ビジネス街では稼働率の改善が見られ、経済の回復に伴って、
今後は立地の良い物件から順に賃料が上昇していくと想定される。よって、オフィス需要
の堅いエリアにおける開発案件や、築年数が古く、スペックが低いために現時点で低稼働
となっている物件へのリノベーションを前提とした投資により、NOI の成長機会が得られ
ると考える。但し、好立地の築古の物件はスクラップアンドビルドを前提としたデベロッ
パーとの競争が激しいため、投資機会は限定されると思われる。また、今後各者の投資エ
リアが拡大していくと思われ、地方都市等であっても地域の需要を集める地域ナンバーワ
ンの優良ビルも投資機会となりうる。また、コスト削減の視点からは、不動産会社やファ
ンドの保有する案件は一定のコスト削減がなされているため難しいが、個人や事業法人の
持つ自社ビル等においては、管理費用の見直し等による NOI 成長の可能性がある。
(2)住宅
住宅の賃料の推移は、オフィスに比べて安定しているものの緩やかな下落傾向である。今
後も既存案件においては賃料上昇は見込みにくく、管理コストも差がつきにくいため、住
宅案件の NOI 成長は稼働率の上昇に求められる。リーシングによってバリューアップを達
成する分かりやすい例としては開発案件の取得が考えられる。但し、REIT との競合を避け
る必要があるため、REIT の取り組みづらいエリアや、小規模開発案件に投資機会がある。
稼働の安定性を確保するために、都心に限らずとも、将来にわたり底堅い需要を見込める
エリアを発掘する選択眼がファンドマネジャーには求められるであろう。
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(3)商業
商業施設の賃料は、景気回復とともに上昇していくと考えられるが、その上昇スピードは
施設によって様々である。比較的、賃料上昇スピードが速いと思われるランドマーク的な
大規模物件や、既稼働の都心型商業施設については取得が難しいが、飲食店舗ビルについ
ては比較的競争は少ないと考えられる。また、売上不振施設のコンセプトの再構築を考え、
店舗入替え等によってリニューアルする戦略も考えられるが、高額なリニューアルコスト
の投資に対して十分な将来の売上見通しがたつかどうかの予測は難しく、当該戦略はやや
リスクが高い。したがって、リスク対比リターンの観点から当該戦略において魅力的な投
資機会は極めて希少であると思われる。
(4)物流
物流不動産市場は、最新設備を備えた A クラス施設が不足していることから、新規参入し
た大手デベロッパー等による開発案件の供給が今後も市場の成長を牽引すると考えられ
る。一方、A クラス施設の増加と同時に、B クラス施設は淘汰されていくと思われる。ま
た、物流施設は他用途への転用がきかない立地にあるものも多く、他のセクターと比して
代替性の確認には留意が必要であるため、ノウハウを持つプレイヤーと組んだ開発案件へ
の取り組みを通じて、将来の A クラス施設への投資を行うことが中長期的視点にたつと望
ましい。また、現時点では E コマース事業の拡充ニーズをもつ企業が多いため、大規模な
マルチテナント型の投資に限らず、E コマースに対応する BTS(Build to Suit)等の小型
ニーズへの対応も投資機会となる。また、現在物流拡大路線を敷いている企業が、将来的
には物流効率化に目を向けるようになり、3PL(Third-party Logistics)等の物流のアウ
トソーシングが浸透していくと考えられ、次のステップの潜在的な投資機会としては物流
会社のオフバランス案件への投資が考えられるが、それはもう少し先の話となるであろう。
4.おわりに
以上、今後の不動産投資市場の概観を踏まえて投資機会の考察をしてきたが、以下の結論
が得られた。
(1) 現在の日本の不動産投資市場のファンダメンタルズは全般的に良好もしくは回復傾
向にあり、不動産投資の開始にはよいタイミングである。
(2) 既に競争の激しい分かりやすいコア物件を避け、バリューアド戦略によりアルファ
の獲得を狙うことに実効性がある。
(3) 各セクターの投資機会は下記の通り。
表 4-1
各セクターの投資機会
セクター
投資機会
オフィス
開発案件、好立地の築古・低スペック物件のリノベーション、地方都市等の
地域ナンバーワンビル、自社ビル等
住宅
小規模開発案件
商業
飲食店舗
物流
開発案件(E コマース対応 BTS 等)
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不動産の他の資産との違いはその厚いインカムである。インカム重視の長期投資にこそ不
動産投資の醍醐味があり、不動産のリターンはアンコントローラブルな期待利回り(キャ
ップレート)の低下ではなく、NOI の成長に求められるべきである。限られる投資機会につ
いて NOI の成長可能性に実体を伴った根拠があるかをよく確認し、納得感が得られる物件
やファンドにのみ投資実行すべきであり、逆に、根拠が薄いものについては投資してはな
らない。投資機会は日々移ろっていくものであり、市場の好転が期待される現在とはいえ、
根拠のない目先のセンチメント改善にかけるのみではそれは投資ではなく、投機となるで
あろう。
以上
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東京海上不動産投資顧問株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第 1096 号
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