風車における非定常渦流れ場(鄭 宰昊、金 起賢、岡元 均、 崔 在雄、韓

風車における非定常渦流れ場
Unsteady Vortical Flow Field in a Wind Turbine
鄭 宰昊**
金 起賢***
Jae-ho JEONG
Ki-hyun KIM
岡元 均***
Hitoshi OKAMOTO
1.緒言
近年,化石燃料の枯渇および地球温暖化問題が顕在
化している中で,化石燃料代替エネルギーとして風力
が注目されている.サムソン重工業は人類の未来に貢
献する使命感をもち,風力発電機事業を始めており,
独自で風力発電機の設計技術を確保しつつある.サム
ソン重工業の風車翼は翼素運動量理論(BEMT ; Blade
Element Momentum Theory)に基づいた設計および
性能解析を行っており,年間発電量(AEP ; Annual
Energy Production)を最大に確保するため,回転翼半
径の増大および空力性能の向上を進めている.さらに,
風車翼における空力荷重を減らすため,翼端近傍にテ
ーパ(taper)形を適用した風車翼の設計を行っている.
風車翼の大型化に伴うテーパ形の風車翼において,
BEMT で用いられる損失モデルに依存し,翼設計およ
び性能解析を行う場合,翼性能の信頼性が低下する(1).
サムソン重工業は 3 次元流れ場に支配される翼端およ
び翼ハブでの損失を考慮した正確な性能評価を行うと
共に空力音を引き起こす複雑な渦流れ構造を把握する
ため,大規模な 3 次元 RANS(Reynolds-averaged
Navier Stokes)数値解析を行っている(2).
本研究では,風車回転翼だけの 3 次元定常 RANS 数
値解析を行うものではなく,静止体であるナセルおよ
びタワーを考慮した大規模な 3 次元非定常 RANS 数値
解析を行い,風車における複雑な非定常流動現象の発
生メカニズムを明らかにする.さらに,その流動現象
が空力性能に与える影響を定量的に評価する.
2.研究対象
風車翼における設計仕様を表 1 に示す.定格出力と
回転翼直径はそれぞれ 2.5MW,90 m であり,風車翼
の設計に用いられる翼型は風車業界で最も広く用いら
れている DU と NACA 翼型である.翼のハブ近傍にお
ける翼厚比は翼の先端近傍における翼厚比に比べて大
きい.翼のハブ近傍における翼厚比が大きければ、空
力性能は低下するが,翼断面における剛性が増すため,
ブレード重量を減らせる利点がある.当社は,遺伝的
アルゴリズムを用いた最適化手法により,大きい翼厚
比をもつと共に,空力性能が最大となる翼型の設計を
行っている(3).表 2 にナセルとタワーの仕様を示す.
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
*平成
24 年 11 月 28 日第 34 回風力エネルギー利用シンポジウムにて講演
** 会員 (株)サムソン重工業
崔 在雄***
韓 聖容***
Jae-woong CHOI
Sung-yong HAN
Table 1 Design specifications of rotor blade
Rated power
2.5 MW
Rotor diameter
90 m
Number of blades
3
Rotational direction
Blade profile
clockwise
(viewed from upwind)
DU, NACA airfoils
Target wind class
class ⅡA
Target Max. Cp
Min. 0.49
Table 2 Design specifications of nacelle and tower
Nacelle length
10.6 m
Nacelle height
3.67 m
Nacelle width
4.10 m
Nacelle drag coefficient
1.20
Hub height
80.0 m
Outside diameter
on each height
Tower drag coefficient
3.32~4.20 m
0.60
3.数値解析
本 研 究 の 3 次 元 流 動 解 析 は , 汎 用 CFD
(Computational Fluid Dynamics)コードである
ANSYS 社製 CFX を用い,
非定常 RANS 解析を行う.
乱流モデルには SST(Shear Stress Transport)モデ
ルを用いる.SST モデルは,壁面近傍では逆圧力勾配
によるはく離流れをよく捉える k-ω モデルを,自由
流れでは自由流れの乱流挙動を正確に捉える k-ε モ
デルを,ブレンディング機能によってスムーズに利用
できるモデルである.図 1 に回転体(翼)および静止
体(ナセル,タワー)における計算格子を示す.回転
体と静止体の間における物理量の保存性が高いこと,
および計算負荷が小さいことを考慮し,スライディン
グメッシュ法を採用した.図 2 に計算格子の全体図お
よび回転翼近傍における計算格子の拡大図を示す.回
転翼壁面の最小格子幅は 0.05mm の構造格子であり,
y*は約 1 に近く設けた.回転領域を除いた静止領域は
非構造格子にした.流入領域には後流のような複雑な
流動現象がないため,流入境界から風車までの距離は
回転翼周りに形成される圧力場が流入境界に影響を与
えない距離にした.さらに,流入境界条件では指数法
造船海洋研究所 責任研究員
*** 非会員 (株)サムソン重工業
- 367 -
則に従うウィンドシアプロファイルをもつ流れが軸方
向に一様に流入する条件を与える.固体壁面である翼
面,ナセルおよびタワーでは滑りなし条件を与える.
翼近傍の構造格子(3.62×106 セル)およびナセルとタ
ワー近傍の非構造格子(1.52×106 セル)を含んだ全体
計算格子数は約 5.14×106 セルとした.
Rotor 1
Rotation
Tower
Outlet
Attachment line
Nacelle
Outlet
解析は定格回転数の最大周速比である 8.523 のみで行
った.BEMT による軸出力は Garrad Hassan 社製の
Bladed を用いて行った.図 3 を見ると定格回転数の最
大周速比において,BEMT と CFD との出力は±7%の
誤差範囲で一致していることがわかる.
BEMT と CFD
との軸出力にずれが生じる理由は,CFD ではウィンド
シアプロファイルおよび静止体であるタワーの影響を
正確に解析できるためである.
Un-structure mesh
Stationary frame
Structure mesh
Rotor 3
Tower
Rotor 2
Rotating frame
Inflow
Inflow
Fig. 1 Grids used in sliding mesh method and velocity
distribution
Outflow
Rotation
4.2 3 次元渦構造
図 4 に翼端近傍における瞬時の 3 次元渦構造を示す.
図 4 の流線 1 は翼負圧面前縁で翼端渦コア(vortex
core)を形成する境界層を,流線 2 は翼圧面で発達し
た境界層を,流線 3 は翼端近傍の翼後縁で発達した境
界層を示す.翼端渦は,翼圧面で発達した境界層であ
る流線 2 が,翼負圧面で発達した流線 1 の渦コアに巻
き込まれることにより形成され,下流に於いて,翼後
縁で発達する流線 3 の境界層と干渉する挙動をもつこ
とが明らかになった.
図 5 に翼ハブ近傍における瞬時の 3 次元渦構造を示
Un-structure mesh
Tip vortex
Rotor 1
Wind
Turbine
structure
Rotor 2
Structure mesh
Rotor 3
Streamline 3
Streamline 2
Inflow
Fig. 2 Computational domain
Outflow
T.E.
4.解析結果
4.1 BEMT と CFD との比較
BEMT と CFD により行った風車翼の性能(軸出力)
を図 3 に示す.図 3 の太い実線は風洞実験データを用
いた BEMT による出力を,黄色の三角形は回転翼 1
のアジマス角が 0deg の定常 CFD による出力を,ピン
ク色の四角形は回転翼 1 が 3 回転する間の非定常 CFD
による時間平均出力を示す.定常 CFD および非定常
Tip
Attachment line
Rotation
L.E.
Inflow
Streamline 1
Fig. 4 Three-dimensional flow structure of rotor tip
Hub
Re-attachment line
Streamline 1
aaacurveof Wind Turbine
Aerodynamic
Performance
Shaft
Power
Separation line
power [KW]
Shaftpower[KW]
Shaft
3000
Inflow
L.E.
2500
2000
Streamline 2
1500
1000
GH Bladed
CFX 3D(Steady, azimuth angle : 0 [deg])
500
T.E.
Rotation
CFX 3D(Time averaged unsteady)
0
0
5
10
15
Windspeed
speed[m/s]
Wind
[m/s]
Fig. 3 Shaft power of wind turbine
20
Outflow
25
Fig. 5 Three-dimensional flow structure of rotor hub
- 368 -
す.図 5 の流線 1 は翼負圧面に発達した境界層のはく
離により形成された渦構造を,流線 2 は翼圧面に発達
した境界層のはく離により形成された渦構造を示す.
図 5 を見ると翼負圧面および翼圧面に形成された大規
模な渦構造は,遠心力とコリオリ力などにより翼ハブ
から強く半径方向に発達することがわかる.当社は,3
次元渦構造を考慮した風車翼の設計を行い,空力性能
向上,空力荷重低減および空力音低減を実現した.
動による翼の疲労寿命を定量的に評価し,当社独自の
翼独立ピッチ制御を適用している.
Nacelle
Rotor 1
Rotor 3
Rotation
Tower
Rotor 2
Inflow
4.3 空力性能と非定常流動現象との関係
図 6 に翼の回転に伴う軸出力および軸方向空力荷重
の履歴を示す.図 6 を見ると翼の回転に伴い,軸出力
および軸方向空力荷重において長い周期の変動(1st
fluctuation)と短い周期の変動(2nd fluctuation)が見
られる.図 6 の回転翼 1 における軸出力および軸方向
空力荷重は,回転翼 1 のアジマス角が 0deg で最大値
を,回転翼 1 のアジマス角が 180deg で最小値を表す
ため,長い周期の変動はウィンドシアにより発生した
と考えられる.図 7 に回転翼 1 のアジマス角が 33deg
と 50deg の時における翼近傍およびタワー面上の圧力
分布を示す.図 7(a)を見ると回転翼 2 とタワーとの
圧力干渉は見られない.図 7(b)では,回転翼 2 とタ
ワーとの圧力干渉と共にブロックケージ効果が発生す
るため,図 6 の回転翼 1 のアジマス角が 50deg の時に
おける軸出力および軸方向空力荷重が短い周期で変動
したと考えられる.当社では,上記の翼通過に伴う変
Power TimePerformance
History on Each
Blade
Aerodynamic
Time
History
on Each Rotor Blade
Rotor1
BLADE1
Rotor2
BLADE2
BLADE3
Rotor3
power [W]
Shaft Power
[W]
Shaft
600000
Azimuth angle : 33 [deg]
(a) 33 deg azimuth angle
Nacelle
Rotor 1
Rotor 3
Rotation
Tower
Rotor 2
Inflow
Azimuth angle : 50 [deg]
(b) 50 deg azimuth angle
Fig. 7 Simultaneous pressure distribution
4.4 ナセル近傍における流れ特性
図 8 に回転翼後流部に相当するナセル近傍における
瞬時の速度分布および回転翼により偏向された流れ角
の履歴を示す.図 8(b)を見ると回転翼の回転に伴い,
流れ角は一定の周期で変動している.表 3 に仮想ナセ
Rotation
500000
1st fluctuation
400000
Point 4
Rotor 1
2nd fluctuation
Point 5
Point 6
Point 1
Point 2
Point 3
300000
Inflow
0
50
100
150
200
250
300
350
400
450
500
Outflow
Azimuth
angle
of rotor
1 [deg]
Azimuth
angle
of blade
[deg]
Nacelle
(a) Aerodynamic performance
Thrust Force Thrust
Time History
Each
Blade
Aerodynamic
Forceon
Time
History
on Each Rotor Blade
Rotor 2
Rotor1
BLADE1
Rotor2
BLADE2
BLADE3
Rotor3
100000
Angle Angle
Time History
InflowFlow
Deflected
Time History
on Each Point
90000
1st fluctuation
80000
2nd fluctuation
70000
0
50
100
150
200
250
300
350
400
450
500
Azimuth
angle
of blade
[deg]
Azimuth
angle
of rotor
1 [deg]
[deg]
Flow Angle
[deg]
Angle
Deflected
Thrust
[N]
Force[N]
ThrustForce
Tower
(a) Virtual nacelle anemometer position
(b) Aerodynamic thrust force
POINT2
POINT3
POINT4
POINT5
POINT6
20
- 20
15
- 15
10
- 10
- 55
00
-5
5
0
100
200
300
400
500
Azimuth
[deg][deg]
Azimuth
angleangle
of blade
Fig. 6 Aerodynamic time history on each rotor blade (an
axis of abscissas presents the azimuth angle of rotor 1)
POINT1
(b) Flow angle time history
Fig. 8 Flow angle time history on each nacelle anemometer
- 369 -
Table 3 Time averaged flow angle and turbulence
intensity on each nacelle anemometer position
Nacelle anemometer
Flow angle
Turbulence
positions
[deg]
intensity [-]
Point 1
-10.90
0.0096
Point 2
-11.10
0.0041
Point 3
-11.15
0.0035
Point 4
-11.78
0.0092
Point 5
-11.98
0.0037
Point 6
-11.67
0.0030
ル風向風速計における平均流れ角および翼先端周速度
で無次元化した乱流強度を示す.風向風速計は回転翼
から後流方向およびナセルからタワー高さ方向へ離れ
るほど,風向風速計における乱流強度は弱まるが,風
向風速計の平均流れ角と風向風速計の位置との相関関
係は見られない.
図 9 に回転翼 1 のアジマス角が 50deg と 85deg の時
におけるナセル風向風速計近傍の速度分布を示す.図
9(a)を見るとナセル風向風速計とはく離放出渦 1 と
の干渉が見られる.また,回転翼 1 近傍でははく離放
出渦 2 が形成されている.図 9(b)において,ナセル
風向風速計ははく離放出渦 2 と干渉している.また,
はく離放出渦 1 は翼の回転に伴い,下流に於いて,風
向風速計に影響を与えず拡散していく挙動を示す.
Nacelle anemometer
Rotation
Vortex
shedding
Rotor 1
Rotor 3
Inflow
風車における軸出力は軸方向と風向が一致する際に
最大になる.軸出力は軸方向と風向とのずれ角(平均
流れ角)の余弦の二乗に比例する(4).もしヨー制御を
行う際に,ナセル風向風速計における平均流れ角の補
正を行わなければ,行った場合に比較し,風車の軸出
力は約 4%減少する.当社では,ナセル風向風速計にお
ける平均流れ角および乱流強度を定量的に評価し,平
均流れ角を考慮したヨー制御,および乱流強度を考慮
した最適ナセル風向風速計の設置位置を設計に反映し,
より効率の高い風車の開発を行っている.
5.結言
本研究では回転体(翼)と静止体(ナセル,タワー)
を考慮した風車に対して,定格回転数の最大周速比で
ある 8.523 における非定常 RANS
(Reynolds-averaged
Navier Stokes)数値解析を行った.その結果,風車に
おける様々な 3 次元渦構造,空力性能と非定常流動現
象との関係およびナセル近傍の流れ特性を明らかにし
た.以下にその結果を詳細に示す.
1. 翼端近傍を支配する翼端渦は翼圧面で発達した
境界層が翼負圧面で発達した渦コアに巻き込ま
れることにより形成される.翼ハブ近傍を支配す
るはく離渦は翼負圧面および翼圧面に発達した
境界層のはく離により形成された渦構造である.
2. 軸出力および軸方向空力荷重は翼の回転に伴い,
ウィンドシアプロファイルによる長い周期の変
動,および回転体である翼と静止体であるタワー
との圧力干渉による短い周期の変動をもち,翼通
過周波数に支配される.
3. ナセル風向風速計における平均流れ角は-11.66
degである.また,乱流強度は回転翼から後流方
向およびナセルからタワー高さ方向へ離れるほ
ど,弱まる.また,ナセル風向風速計近傍の流れ
場ははく離放出渦に支配される.
Azimuth angle : 50 [deg]
(a) 50 deg azimuth angle
参考文献
1) 2004, Hansen O. L. M. and Johansen J., “Tip Studies
Nacelle anemometer
Using CFD and Comparison with Tip Loss Models”, Wind
Rotation
Vortex
shedding
Energy, vol. 7, Issue 4, pp.343-356.
2) 2011, Jeong, J. et al., “Vortical flow field analysis and tip
shape design in a wind turbine”, Japan Wind Energy
Association 33th symposium.
Rotor 1
Rotor 3
Inflow
Azimuth angle : 85 [deg]
(b) 85 deg azimuth angle
Fig. 9 Simultaneous velocity distribution
3) 2012, Jeong, J. et al., “Optimization of Wind Turbine
Airfoil with High Thickness by Genetic Algorithm”, Korea
Wind Energy Association.
4) 2003, H. A. Madson et al. “Yaw aerodynamics analyzed
with three codes in comparison with experiment”, In 41st
Aerospace Sciences Metting and Exhibit, AIAA 2003-519.
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