太陽光発電と粉体技術の展開 - Hosokawa Micron Group

特集/電池性能向上の鍵を握る粉体技術
太陽光発電と粉体技術の展開
Photovoltaic Power Generation
and Powder Technology
宇佐美 章
Akira USAMI
㈶電力中央研究所
Central Research Institute of Electric Power Industry
バータ機能を備えたパワーコンディショナーを介し
1.太陽エネルギー利用と太陽光発電の概要
て,配電線からの配線と家庭内で並列に接続される。
太陽光発電システムから供給される電力は日射強度な
どに依存して増減するため,家庭内での電力需要にあ
1.1 太陽エネルギーと太陽光発電
太陽の表面温度は5700K で3.8×10 kW のエネルギ
わせて発電できるわけではない。そのため,一般に
ーを放射している。太陽から1億5000万 km 離れた地
は,太陽光発電システムの発電電力に余剰分が生じた
球には,そのうち,1.8×10 kW のエネルギーが到達
場合には配電線に逆潮流することにより,この余剰分
する。これは,大気圏外で太陽に向けた1m 四方の
を電力会社に買い取ってもらう。また,逆に,太陽光
面で約1.4kW に相当する。地上には,快晴日に太陽高
発電システムの発電電力が家庭内の電力需要に対して
度が高い時に約1.0kW/m2のエネルギーが到達してい
不足している場合には,配電線から不足分を購入す
る。この太陽光のエネルギーを直接電気エネルギーに
る。電力会社に電力を売るときの値段と買う時の値段
変換するのが太陽光発電である。
は長らく同額を維持してきたが,昨年の11月1日よ
太陽光のエネルギーを電力に変換する素子が太陽電
り,新たな電力買取制度が始まり,従来のほぼ倍の48
池である。太陽電池の発電電力は直流であるため,家
円 /kWh で10年間電力会社に買い取ってもらえるよ
庭内の機器で使用する際に直流を交流に変換する必要
うになった1)。
23
14
がある。このため,太陽光発電システムは,このイン
4
配電線への逆潮流
(電力会社への売電)
電力
3
1kWhあたり約23円→48円へ
(ドイツなど:約70円(20年間など)
固定価格買い取り制度FIT)
配電線からの受電
(電力会社からの買電)
2
1
0
0
6
12
18
24
時刻
図1 系統連系システムの例(負荷は秋季の住宅地区を想定)
─8─
粉 砕 No. 54(2011)
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図2 太陽電池の種類と特性
1.2 太陽光発電の利点と欠点
地域や年によって異なるが,1kW の太陽光発電シス
太陽光発電の主な利点と欠点は以下のようなものが
テムの日本での発電実績はおおよそ年間1000kWh 程
挙げられる。
度であり,設備利用率は10%強程度である。
利点
・太陽光は無尽蔵なエネルギー源:資源の偏在性,価
格変動リスクが少ない
・環境にやさしい:CO2排出,エネルギー・ペイバッ
ク・タイム
2.太陽電池の種類と特性
太陽電池は構造面からは単接合と多接合に分類され
る。多接合は分光特性の異なる太陽電池を複数重ねて
その他の利点:雇用の創出,電力需要ピークカット
効果など
性能を高めたものを指す。一般に,多接合は単接合に
比べて高効率化が可能とされており,単接合の理論的
欠点
な変換効率の限界値が30%程度とされているのに対し
・発電コストが高い
て,集光した多接合の太陽電池では40%を超える変換
・システム利用率が低い
効率も報告されている3)。
・発電が天気次第
太陽電池の使用材料面からの分類を図2に示す。効
その他の欠点:シリコン原料不足,外観・デザイン
率面では,GaAs を始めとする III-V 族半導体や単結
など
晶シリコンを用いた太陽電池が性能が高く,セルレベ
環境面の利点は,発電時の CO2排出が無いために,化
ルの世界最高で25%程度の効率がある。一方,コスト
石燃料を用いた発電方式と比較して,CO2排出量が10
面では,現在開発中である有機系太陽電池が有利とさ
分の1程度以下に抑えることが出来るとされている。
れている。しかし,その効率は,現状では,セルレベ
さらに,太陽電池は製造のために消費したエネルギー
ルの世界最高で,良くて10%前後である。この中間に
を2年前後で回収できる(エネルギー・ペイバック・
CIS 系等の薄膜太陽電池があり,例えば CIS 系のセル
タイム)と試算されており ,仮に20年以上に亘って
レベルの世界最高で20%前後の効率となっている。
2)
使用するとした場合,製造のために使ったエネルギー
の10倍以上のエネルギーを生み出すことが出来る。
欠点としては,太陽光発電の発電コストは現在おお
3.太陽電池と粉体
よそ46円 /kWh と試算されており,他の発電システム
太陽電池での粉体利用は,色素増感太陽電池でのナ
の倍以上の発電コストが掛かるとされている。また,
ノ微粒子の利用4),量子ナノドットによる超高効率化
─9─
●特集/電池性能向上の鍵を握る粉体技術
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図3 色素増感太陽電池の構造例
の可能性5)などが挙げられる。
程度が限界とされている。これは,太陽光中のエネル
色素増感太陽電池は,半導体と電解液界面で電荷分
ギーの大きい紫外光を有効に使用すると高い電圧が得
離をおこなう湿式太陽電池に起源を発する。ここでは
られるものの,紫外光しか電流に変換できないために
光吸収は半導体で行われていたが,電解液界面が安定
電流値が小さくなり,逆に,電流値を増やすために近
な半導体は禁止帯が広い酸化物に限られているため,
赤外のエネルギーの低い光まで吸収すると,電圧が下
太陽光のうちの紫外光しか利用できずに効率が低かっ
がることによる。すなわち,通常の太陽電池では,1
た。そこで,酸化物の安定性を利用しつつ,より長波
個のフォトンから1個の電子しか生成しないために,
長の可視光まで光吸収領域を広げるために,色素を半
紫外光の高いエネルギーの多くを熱に変えてしまうこ
導体表面に吸着させて,この色素により光吸収を補う
とによる。このエネルギーの余剰分を使って更に別の
ことが考案された。歴史的には,1972年に酸化亜鉛を
電子を生成できれば,前記の限界効率を大きく上回る
クロロフィルで増感した太陽電池が作られている。そ
太陽電池を作ることが可能とされている。近年,この
の後,酸化亜鉛をローズベンガル等で増感することに
フォトンによる多電子の励起を,一部の化合物半導体
より,効率1∼2.5%程度のものが発表されている。
のナノ微粒子で効率よく行うことが出来ることが確認
この色素増感太陽電池の半導体に,酸化チタンの微結
されている6)。
晶粉末を利用することにより,色素吸着面積を大幅に
増加させたのが,スイスのローザンヌ連邦工科大のグ
参考文献
レッチェルらのグループであった。1990年代初めに7
1)資源エネルギー庁太陽光発電買取制度室:太陽光
∼10%の効率の太陽電池を発表している。この酸化チ
発電の新たな買取制度ポータルサイト
タン微結晶には,主要な光吸収材である色素を表面に
http://www.enecho.meti.go.jp/kaitori/index.html
吸着させる役割と,色素の光吸収によって高い負の電
2)みずほ情報総研株式会社,NEDO技術開発機構「新
位に励起された電子を色素から受け取り,太陽電池の
エネルギー技術研究開発太陽光発電システム共通
負極に伝導させる役割があり,酸化チタン微結晶が電
基盤技術研究開発太陽光発電のライフサイクル評
池性能に与える影響は大きい。このため,酸化チタン
価に関する調査研究」平成19年度分中間年報.
微結晶に関する研究報告は多数有り,電子が負極に到
3)R.R.King et al.,“40% efficient metamorphic
達するときに通らなければならない微結晶粒界を減ら
GaInP/GaInAs/Ge multijunction solar
すことを目的に,ナノ微粒子をナノチューブに代える
cells”,Appl.Phys.Lett.90,183516(2007)
.
ことなどが考えられている。
4)M.Grätzel,“Photoelectrochemical cells”
,Nature
また,量子ナノドットを利用することにより,極め
て効率の高い太陽電池が製作できる可能性があること
414,338-344(2001).
5)A.J.Nozik,“Quantum dot solar cells”
,Physica E
が指摘されている。単接合の太陽電池では,効率30%
─ 10 ─
14,115-120(2002)
.
粉 砕 No. 54(2011)
6)R.D.Schaller and V.I.Klimov,“High Efficiency
Carrier Multiplication in PbSe Nano- crystals:
Implications for Solar Energy Conversion”
, Phys.
Rev.Lett. 92,186601(2004)
.
Captions
Fig. 1 Daily power production and load curves of a
grid-connected PV system
Fig. 2 A classification and characteristics of solar
cells
Fig. 3 A structure of dye-sensitized solar cells
─ 11 ─