SF小説 「不思議な枕」第4部:ナザレのイーサー 著者:角茂谷 36章 繁 (かくもだに・しげる) イスラエール民族の成立 35章で記載したように、私は大友猿若君の悩みを聞いてあげた。彼は不思議な 枕で眠ると、いつも変な夢を見るそうである。夢の世界では、彼は古代エジプトの ラムセス2世の時代に移動し、ヘブル人の神官・モースになっているそうである。 向こうの世界では、神官・モースはヘブル人を指導する上で多くの難題を抱えてい た。そこで、私は彼に色々と助言を与えた。 その夜、大友猿若君は不思議な枕で眠って、夢の世界に旅立って行った。私も彼 の隣で眠りについた。私の夢の中では、神Bが久しぶりに現れて、次のように言っ た。 神B「わては、神Bや。角茂谷君に会うのは、えっとぶりや。紀元301年の大地 震直前に、眉山で君が見た夢の中でわてが現れて以来やんか。(著者の注:27章 に詳細が記載されている。)それから、紀元310年の今日まで、君は色々な体験 をして、おもろかったやろう。」 私「はい。紀元301年の大地震には驚きました。しかし、その後でヤマト族や猿 又族の人達に会って、大震災の復興事業や日本国の建国事業に参加して、大変おも しろかったです。」 神B「君は参加とゆうたけど、大震災の復興や日本国の建国は君が主導してやった んとちゃうか。」 私「まあ、そうですけど。本当は、あなたが私を操ってやらせたのでしょう。」 神B「それは、どっちゃでもええやんか。ここは、二人の共同作業にしておこか。 それはそうと、夕べは大友猿若君からおもろい話を聞いたなあ。わても、彼と一緒 にエジプトでひと暴れしまひょうか。」 私「それは、あなたの自由ですが、私はどうなりますか。私は4世紀の日本で、1 0年も過ごしてしまいました。21世紀に早く帰って、妻の静香に会いたい。」 神B「君は4世紀の日本で10年も過ごしたさかい、こっちゃの世界の生活や言葉 に慣れたやろ。わてがおらんでも、君はこっちゃで大丈夫や。そのうち、21世紀 の鳴門に帰してやるさかい、ここでもうちょっと辛抱してや。明日、猿若君におう たら、わても古代エジプトに一緒に行くさかい、と言っといて。」 私「どうやって、あなたは猿若君と古代エジプトに行くのですか。」 神B「わては、猿若君の幻覚になって行きまひょう。彼だけがわての姿を見たりわ ての話を聞いたりできるようにしとくさかい、彼は神の啓示を受けるふりをして、 わての指示に従えばええんや。」 1 私「分かりました。猿若君に、そのように伝えます。」 翌朝、私は早めに目が覚めた。横で寝ている猿若君は、せわしげに体を動かして、 ブツブツと寝言を言っていた。彼は遅くなってから、目が覚めた。朝食を食べなが ら、私は彼の夢の世界の出来事を聞いた。以下に、彼の報告内容を記載する。 大友猿若君(夢の世界では、ヘブル人の神官・モース)の報告内容 私(ヘブル人の神官・モース)は昨夜の夢の中で、初めて神がお現れになり、私 に啓示をお与えになられた、と感じた。朝になって目覚めた直後に、ヘブル人の長 老達を緊急に招集し、この喜ばしい体験を報告した。 私「皆の衆。今朝は、大変喜ばしい報告があります。それ故、皆の衆に緊急に集ま っていただきました。私の昨夜の夢の中に、神がとうとうお現れになられました。 そして、私は神から有難い啓示をいただきました。故に、天地を創造された唯一神 が我が民族をお守りになられていることが、確認できました。」 長老A「モース様。それは、それは、おめでとう御座います。これで、我々が奴隷 の苦役から解放されて、故郷のカナンに帰るとの悲願がやっと達成できそうです ね。」 私「神は、そう簡単には達成できない、と仰せられたが・・・。」 長老B「ちょっと、待って下さい。約百年前にアブラムーシ様が一神教に改宗され て以来、神の啓示は今まで我が民族には降りなかったじゃないですか。昨夜になっ て突然、神がモース様の夢にお現れになったとは、俄かには信じられません。その 徴(しるし)を見せて下さい。」 私「どんな徴を示せばよいのじゃ」 長老B「神がモース様にお力をお与えになられたのなら、モース様は杖を蛇に変え るとか、眼の見えぬ人を見えるようにするなどの奇跡を起こせるはずです。我々に 奇跡を見せて下さい。」 私「長老Bよ、神を試してはならない。見ずに信ずる者こそ幸いなれ。汝は、私が 神の啓示を受けたことを、信じるのか、信じないのか。」 長老B「申し訳ありませんでした。私が不信心でした。モース様のお言葉を心から 信じます。」 私「他の者は、どうじゃ。」 他の全員「我々も、モース様のお言葉を心から信じます。」 私「それで、よいのだ。我らに、神の祝福と平安あれ。」 長老A「モース様。神は我が民族の悲願をそう簡単には叶えて下さらない、とモー ス様は申されました。では、我らがどうすれば叶えて下さるのでしょうか。」 私「神はこのように仰せれた。お前達の信仰には欠点が多い。それで、余が見るに 見かねて、お前に啓示を与えることとした。一つ。お前達のヘブルと言う名前は極 めて卑しい。ヘブルとかハベルは、河の向こうから来た盗賊団の意味である。余は そんな卑しい民族を支援しない。民族名を、イスラエールに変えなさい。神が支配 2 するという意味だ。二つ。余に祈願するだけでは、お前達の悲願は達成できない。 余はお前達の使い走りではない。もっと、もっと、自助努力をすべきである。余は、 自らを助ける者を助けるのである。三つ。アブラムーシが制定した十戒には不満が ある。お前達がよく相談して、訂正版を持ってこい。」 長老Γ「なるほど。そのような理由で、神は今まで我が民族に降臨されなかったの ですか。特に、我が民族名がそんなに卑しいとは、思いもよりませんでした。」 私「その通りだ。先ず、民族名は神の仰せの通り、イスラエールに変えたいと思う。 皆の衆も、同意するか。」 全員「我々は、モース様のご提案に心から賛同します。」 私「それでは、皆の衆の満場一致でそのように決定する。我らイスラエール人に、 神の祝福と平安あれ。」 全員「我らイスラエール人に、神の祝福と平安あれ。」 私「次に、神が仰せになられた第二の点だが。今日、私は役人と交渉して、王に我 らの要求を直接伝えようと思う。皆の衆、それでよろしいか。」 全員「モース様、よろしくお願いします。モース様に、神の祝福と平安あれ。」 私「神が仰せになられた第三の点だが。皆の衆から意見を聞きたい。それらを参考 にして、私が神のお考えを伺うことにしよう。(著者の注:アブラムーシが制定し た十戒は、35章に記載されている。)」 長老Δ「十戒の二番目は、エホバ神の像を作って、崇拝することですが、私はこれ では不十分だと思います。ヒクソス時代には我が民族は支配階級で、大変豊かでし た。そこで、我らの先祖は雷神・エホバのために豪華な神殿を建て、金でメッキし た青銅の子牛像を作って崇拝したと聞いています。しかし、我が民族がエジプト王 の捕虜になり、奴隷にされた時に神殿は燃やされ、子牛像は熔かされて公衆の便器 にされてしまいました。アマルナ時代にアブラムーシ様が一神教に改宗されました が、我が民族には神殿はなく、泥で作った神像しかありません。それでは貧相で、 信仰心の証にはならない、と思います。」 私「汝は、豪華な神殿と子牛の像を作るべき、と申すのか。今は、我が民族は奴隷 なので、そのような財力はない。」 長老Δ「私は、今とは申しません。我が民族がカナンに帰還できれば、出来る限り 早期に豪華な神殿と子牛の純金像を作ります、と神に約束されては如何でしょう か。」 私「なるほど、それは名案だ。汝に、神の祝福と平安あれ。他に意見はあるか。」 長老Ε「十戒の七番目は、姦淫をしてはいけないことですが、アブラムーシ様は堅 物過ぎるのでこんな厳しい戒律を作った、と私は思います。ヒクソス時代には我が 民族は、カナンから移住して来た他の民族と同様に、神像の前で飲めや歌へのドン チャン騒ぎをした、と聞いています。神様も男性なので、神像の前で性の饗宴を 華々しく行うことを、神は本音では好まれるのではないでしょうか。」 私「なるほど、神の本音を伺ってみましょう。」 3 長老Ζ「十戒の七番目は、安息日を守ることですが、我々は今は奴隷なので休暇は ありません。それ故、この戒律は守れません。これは、アマルナ時代に自由民であ った時の戒律です。奴隷から解放された時にも、次のような疑問があります。安息 日には何もせずに寝ていなければいけないのでしょうか。誰かが食事を作らないと、 家族中がお腹を空かせます。急病人がでても、治療や看病をしてはいけないのでし ょうか。もし安息日に敵が攻めて来ても、無抵抗を貫いて殺されても仕方ないので しょうか。」 私「なるほど、王に安息日を要求し、安息日の過ごし方を神に伺ってみましょ う。」 長老Η「十戒の六番目は、殺人をしてはいけないことですが、正当防衛でも殺人は だめなのでしょうか。正当な裁判で、死刑に処することも禁止ですか。あるいは、 異教徒なら殺してもよいのでしょうか。」 私「なるほど、不明瞭ですね。この点も、神に伺ってみましょう。」 長老Θ「十戒の三番目は、エホバ神の名を唱えて祈願することですが、先ほどのモ ース様のお話では、神は自助努力を要求されておられます。エホバ神が我が民族の 祈願を叶えて下さらないのなら、他の神に乗り換える方がよいと思います。」 長老A「どうやって、他の神を見つけるの。もし見つからなかったら、我々は神に 見捨てられた民族になる恐れがあります。モース様、今はエホバ神と交渉して契約 を結んでは如何でしょうか。神と我が民族が、義務と権利を明確化して、それ以外 は自由であるとしては如何でしょうか。」 私「私は長老Aの意見に賛成である。そのように神に交渉してみましょう。」 全員「モース様、よろしくお願いします。モース様に、神の祝福と平安あれ。」 長老Ι「十戒の五番目は、父母を敬うことですが、親がボケてしまって無理難題を 言っても、子供は親に従うべきなのでしょうか。親子にも相互契約が必要で、老い ては子に従え、との条文を追加すべきだと思います。」 私「なるほど、それは名案だ。汝に、神の祝福と平安あれ。」 長老Κ「十戒の十番目は、隣人の家をむさぼってはいけないことですが、我が民族 内に貧富の格差が広がれば、貧民は面白くないですねえ。我が民族は、今は奴隷だ から神に感謝する祭りさえ開けないのが辛い。早く自由になって、カナンに帰りた い。そうなれば、金持ちから多額の寄付を取って盛大な祭りを開催したい。」 私「なるほど、それでは十戒の十番目に、但し豊かな者は祭りの寄付を多く出すべ し、と追加することを神に提案してみましょう。」 長老Λ「十戒の九番目は、偽証してはいけないことですが、知っていても記憶に御 座いませんと惚けることは構わないのでしょうか。また、黙秘権はあるのでしょう か。そのように真実を言わないことは、けしからんと思います。故に、容疑者を尋 問する場合には、拷問を行っても真実を白状させるべきです。だから、口を閉ざす 者には拷問すべし、と追加しては如何でしょう。」 私「なるほど、それは名案だ。汝に、神の祝福と平安あれ。」 4 長老Μ「十戒の八番目は、盗んではいけないことですが、アブラムーシ様が一神教 に改宗されたことも、エホバ信仰の十戒を作られたことも、アクエアテン王のアマ ルナ改革の模倣ではないですか。そもそも、エホバ信仰はエジプト文明からのパク リなのですから、十戒の八番目は白々しいと思います。」 私「なるほど、そのような不都合な真実が、我がエホバ信仰にあっては困る。故に、 アブラムーシ様は我らがエジプトに移住する以前にお生まれになった民族の開祖で ある、との神話を創作しよう。さすれば、エホバ信仰は世界最初の一神教だ、と主 張できよう。アブラムーシ様に、神の祝福と平安あれ。」 長老B「昨日までのモース様は茫洋とされておられた。だが、今朝のモース様は毅 然とされておられる。昨夜、神がモース様にお力をお与えになられた、と私は改め て信じます。」 私「これで、イスラエール民族の12支族(Α,Β,Γ,Δ,Ε,Ζ,Η,Θ,Ι,Κ,Λ, Μ)の全長老から意見を聞いた。他に意見はあるか。」 (著者の注:ギリシャ文字の読み方は、Aアルファ、Βベータ、Γガンマ、Δデル タ、Εイプシロン、Ζゼータ、Ηイータ、Θシータ、Ιイオタ、Κカッパ、Λラム ダ、Μミューです。) 全員「モース様、他に意見はございません。」 私「皆の衆。ご苦労であった。今朝の会議を参考にして、私が十戒の訂正版を作成 して、神のご決済を仰ごう。イスラエール民族に、神の祝福と平安あれ。」 全員「イスラエール民族に、神の祝福と平安あれ。」 私「皆の衆。これで、今朝の長老会を閉会する。私はこれから、役人と交渉して、 王に我らの要求を直接伝えようと思う。」 全員「モース様、よろしくお願いします。モース様に、神の祝福と平安あれ。」 以上の大友猿若君(夢の世界では、ヘブル人の神官・モース)の報告を聞いて、 私(著者の角茂谷繁)は彼と次のような討論を行った。 私「それで、向こうの世界で君は神官・モースとして、十戒の訂正版をどのように 決めたの。」 猿若「はい、先生。私は次のように訂正しました。 1. 我らイスラエール民族の開祖・アブラムーシはエジプトに移住する前に、唯 一神・エホバに改宗したので、我が民族はエホバ信仰を堅持すること 2. 我が民族がカナンに帰還した暁には、エホバ神のために豪華な神殿を建設し、 子牛の純金像を出来る限り早期に作ること 3. 我が民族はエホバ神と契約を結び、双方は契約を誠実に履行すること 4. 我が民族が奴隷から解放された暁には、安息日を設定し、神の定めた行為の みを行うこと 5 5. 我が民族は父母を敬うが、父母は老いては子に従うこと 6. 我が民族は、神が許される以外の殺人をしてはいけないこと 7. 我が民族は、神殿以外では姦淫をしてはいけないこと 8. 我が民族は、民族の内外から盗んではいけないこと 9. 我が民族は偽証してはいけないので、口を閉ざす者には拷問すること 10.我が民族は隣人の家をむさぼってはいけないが、富める者はあらゆる機会に 寄付をすること 以上です。」 私「なるほど、以前より具体的になったが、まだまだ問題が多いよ。実は、昨夜の 私の夢にも神Bが現れて、今後は君と行動を共にして君を助ける、と言っていたよ。 だから、十戒の訂正に関しては、神Bの教えに従いなさい。」 猿若「それは、有難いです。神Bはどのようにして、私を助けて呉れるのでしょう か。」 私「神Bは次のように言っていたよ。猿若君の幻覚になって古代エジプトに行きま ひょう。彼だけがわての姿を見たりわての話を聞いたりできるようにしとくさかい、 彼は神の啓示を受けるふりをして、わての指示に従えばええんや。」 猿若「それは、心強いです。向こうの世界で、神官・モースとして大胆に行動でき そうです。」 私「向こうの世界で、役人との交渉はどうだった。」 猿若「いや、いや。全く上手く行きませんでした。これから、交渉状況をご報告い たしますので、今後どうすればよいかお教え下さい。」 大友猿若君(夢の世界では、ヘブル人の神官・モース)の報告内容 私(ヘブル人の神官・モース)は朝の長老会議の後、奴隷を管理する役所に行っ て、ヘブル担当の役人・ケトンに面会した。 私「ケトン様に神の祝福と平安あれ。ヘブル人のモースでございます。本日は、お 願いがあってまいりました。」 ケトン「モースか、なんの用じゃ。」 私「最初に、我が民族の名前をヘブルよりイスラエールに変更したいと思いま す。」 ケトン「お前らが己の民族名を変えるのは勝手じゃが、役所としては従来の名前を 変えないぞ。」 私「はい、ケトン様。ご了承下されば幸いです。我らイスラエール民族は前々から、 奴隷から解放していただき故郷のカナンに返して下さい、とお願いして参りました。 陛下のご意向をお聞かせ下さい。」 6 ケトン「お前らはヒクソス時代とアマルナ時代に、時流に便乗して我らエジプト人 に敵対行動を取りおった。故に、そのツケをたっぷりとに支払うのが運命じゃ。そ れに、お前らの神はお前らをちっとも助けないじゃないか。」 私「昔の我らの行動には、衷心から反省いたしております。しかし、我が民族は陛 下のために勤勉実直に働いて参りました。もうそろそろ、自由にして下さい。昨夜、 私の夢に我が神が現れ、陛下にお目にかかって直接にお願いせよ、との啓示をいた だきました。ケトン様におかれましては、陛下にお取次ぎをお願い申し上げま す。」 ケトン「陛下は、ヒッタイトとの戦いの準備で今は大変ご多忙じゃ。そのうちに、 取り次いでやるから、今日はこれで帰れ。」 私「はい。なにとぞ、よろしくお願い申し上げます。ケトン様に神の祝福と平安あ れ。」 以上の大友猿若君(夢の世界では、ヘブル人の神官・モース)の報告を聞いて、 私(著者の角茂谷繁)は彼と次のような討論を行った。 私「役人のケトンとやらは、なかなかの曲者ではないか。これでは、君らの民族の 悲願はなかなか叶えられないぞ。」 猿若「左様でございます。ケトンめは、いつも暖簾に腕押しで、埒があきません。 どうすればラムセス2世に会えるでしょうか。先生のお教えをいただきたく存じま す。」 私「今日、私から徐福に頼んでおくので、日本国の金庫から純金を五粒とガラスの 大玉を五個、貰ってきなさい。今晩は、それらを身に付けて夢の世界に行きなさい。 ケトンとやらは小役人なので、金粒とガラス玉を賄賂として与えれば、ラムセス2 世に会わせて貰えるよ。ラムセス2世には秘密会談を持ちかけて、次のような神の 啓示があったと告げなさい。エジプトとヒッタイトは、カデシュで決戦になるだろ う。ヒッタイト人はアーリア人種なので、非常に狡猾である。このままでは、ラム セス2世はヒッタイトの姦計に陥って、戦死するだろう。ラムセス2世が勝利する ための唯一の方策は、モースを司令官とするカナン人の傭兵部隊を編成して、別働 隊として従軍させることだ。ラムセス2世がカナン人傭兵部隊の力で勝利すれば、 イスラエール民族を解放してカナンに帰すであろう。」 猿若「角茂谷先生も、お人がお悪いですね。」 私「どうして。」 猿若「だって、カナン人傭兵部隊としては、エジプト側でもヒッタイト側でも勝ち そうな方に味方すれば、よいのでしょう。」 私「私はそこまでは、思い到らなかった。君も、なかなかの悪知恵が働くようにな ったねえ。」 猿若「はい、先生のご指導の賜物です。今日は、先生から奇想天外な作戦とご親切 なご配慮をいただき、誠に有難くぞんじました。」 私「今晩からは神Bが君を助けるから、神Bの指示に従っておれば大丈夫だよ。」 猿若「お陰様で、今夜は安心して眠れます。先生に神の祝福と平安あれ。いや、失 礼しました。向こうの口癖が出てしまいました。」 7 図 36.1 エジプト新王国とヒッタイト帝国との勢力図。 図 36.2 カデシュの戦い(紀元 前 1274 年頃) エジプトのラムセス2 世(ラメセスとも呼ば れる)の軍は、カデシ ュの町を占領していた ヒッタイトのムワタリ 王の軍を攻撃した。 ムワタリ王の計略に陥 り、ラムセス2世の軍 は壊滅寸前になった。 そこにカナン人の傭兵 部隊が到着したので、 ラムセス2世は窮地を 脱して、戦いを痛み分 けに持ち込むことが出 来た。 8 以上のような経緯で、大友猿若君は今晩も不思議な枕で眠りに着き、夢の世界に 旅たって行った。次の37章では、猿若君が向こうの世界(古代エジプトのラムセ ス2世の時代)でイスラエール人の神官・モースとしての更なる活躍の様子をご紹 介いたします。しばらく、お待ち下さい。 (36章は、2013年2月19日に執筆完了。) 9
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