『決定の本質−キューバ・ミサイル危機の分析』 グレアム・T・アリソン (中央

『決定の本質−キューバ・ミサイル危機の分析』
グレアム・T・アリソン (中央公論新社、1977)
2001/7/4
第五章
環境班:清水、古野、明刕
第三モデル−政府内政治
政府の行為=指導者グループの政治という名のゲームの結果
<特徴>
① 行為者は単一ではない
② プレーヤーは一つの戦略的問題に焦点をあてているのではない
③ プレーヤーは首尾一貫した戦略目的を持って行動しているわけではない
④ プレーヤーは押し合い・引き合いによって政府の決定を作成する
一
政府内政治モデルの例証
● ニュースタット:政府の行為を政治の結果として分析
①『大統領の権力』②「スカイボルト報告」
● アーモンド&リンドブロム:官僚政治分析の理論的基礎を構築
● シリング:予算決定の政治過程の分析
● ハンティントン:アメリカの防衛政策と軍事力体制を分析−『共同防衛』
● ヒルズマン:政策作成過程の分析
● ハモンド:対外政策の決定に関するケース・スタディ
二
政府内(官僚)政治のパラダイム
I.分析の基本単位…政治的な派生結果としての政府行動
II.整理概念
A プレーするのはだれか…地位を有するプレーヤー
B 各プレーヤーの立場を決定するのは何か
(1)偏狭な優先順位と認知(2)目標と利益(3)利害関係と立場(4)最終期限と問題の様相
C 各プレーヤーが結果にどういうインパクトを与えるかを決めるのは何か…力
D ゲームとは何か
(政府の決定と行動に対する効果的な影響力)←
(1) 行為経路
(2) ゲームのルール
(3) 政治的派生結果としての行為
III.支配的推理パターン
→第3モデルの説明力は、派生結果として当該の行為を生み出したゲームを展開することで得られる
IV.一般的命題
1
A 政治的な派生結果…行政的ゲームを構成する多数の要因が「問題」と派生結果の間に介入する
B 行為と意図…政府の行為は、ある個人・グループの意図したものであることは稀である
C 問題と解決策…①プレーヤーと戦略分析者のあてる焦点とのギャップは大きいことが多い
②政府の行為の実質的変更を要求する決定は、解決策を求めるチーフと問題を求めるインディアン
D
プレーヤーの立場は地位に依拠する
E チーフとインディアン…政策作成において問題は、
①上から見ると選択
②横から見るとコミットメント
③下から見ると自信
F
51 対 49 の原則…プレーヤーは、短時間で選択してその選択を強い自信を持って論じなくてはならない
G
国際・国内関係…国際目的を達成しようとするプレーヤーは同様の目的を唱導する第二国のプレーヤーが利
するように努めねば成らない
H
地位によって問題の様相は異なる
I 誤認
J
誤った期待…優先順位の低いゲームでは、他の誰かが行動をしてくれるだろうという期待することが生じる
K
ミスコミュニケーション…時間の制約、雑音の高い環境が正確なコミュニケーションを困難にする
L
寡黙…プレーヤーは複数のゲームに関わっているために、寡黙の利点は絶大だと思われる
M
プレーのスタイル…(1)文官、軍人を含む職業官僚、
(2)横滑り組 (3)政治的任命者では行動には
相違があり、委託条件によっても影響される
V.具体的命題
A 核危機
B 軍事行為
VI.証拠
公文書、参画者とのインタビュー、参画者を身近に観察した人々の討議を用いて、入手しうる断片的な資料
をつなぎ合わせることで研究を進める
三
政府内政治モデルの応用
命題…政策問題は権力争いと密接に絡み合っている
●核戦略
1. 攻撃の決定を下せるのはどのプレーヤーか
2−1.攻撃によって自らの問題を解決し得たメンバーが政府にいたか
2−2.どのような決定の流れが攻撃に導く恐れがあるのか
2−3.いかにして五人と混乱が、攻撃という結果をうみだすようなファール・アップを引き起こすのか
3.中心的指導者の認知と優先順位における、ありうべき相違点
2
第六章
一
第三モデルによるキューバ危機の分析
アメリカによる封鎖
1.発見の政治
キューバへのミサイル配備の発見までの過程、政府内のかけひきを説明する。
'61.4 ピッグス湾作戦(第一次キューバ事件)
'62 共和党、政府の対キューバ政策を批判。何らかの行動(侵攻・封鎖)を要求。
'62.8- 政府による反撃キャンペーン。キューバの軍備は防御用であることを主張。
'62.8.22 マコーン、大統領らに対しキューバが攻撃用ミサイル導入を準備している疑いがあることを報告。
'62.9.10 空中偵察委員会(COMOR)、U2 型機のキューバ西端への飛行取り止め。
'62.9.13 大統領、キューバに攻撃用ミサイルが配備された時は行動を起こすことを表明。
'62.9.19 合衆国情報委員会(USIB)、キューバにおけるソ連の攻撃用ミサイルの予測を承認。
'62.10.4 COMOR、U2 型機のキューバ西端上空の飛行を指示。
'62.10.14 U2 型機、ミサイル確認。
2.問題の政治 キューバ・ミサイル危機に対する各プレーヤーの最初の態度、様々な問題の提起を説明する。
軍事行動支持
ジョン・F・ケネディ
政権の危機
統合参謀
西半球からカストロの共産主義を除去する好機
アチソン・ニッツ・ジロン・マコーン
1. アメリカの安全保証
2. 西半球・西欧におけるアメリカの指導的地位の確保
外交的措置支持
マクナマラ
1. 今回の事態はミサイル・ギャップを埋めるための不可避な出来事。
2. この事態による影響は小さい。
バンディ
1. 軍事行動による核戦争の恐れ。
2. 外交以外の手段は外交手段を失わせる。
3. 外交的措置は、他の選択肢の道を閉ざさない。
ロバート・ケネディ
1. 核戦争の危険性
2. アメリカの伝統と道義的立場
その他
3
ソレンセン
大統領への報告者としての立場から、一つの選択肢を指示しないように心がけた。
3.選択の政治
外交的活動、封鎖、空爆という選択肢を巡るかけひき
コラージュとしての政府の封鎖決定
非軍事的な選択 … 大統領の意向により放棄
空爆が斥けられた要因
1. マクナマラ、ロバート・ケネディ、ソレンセンが強く反対した。
2. 空爆を主張した人間と大統領が緊密でなかった。
3. 不正確な情報により、空爆が不確実なものであると印象づけられた。
二. ソ連によるキューバからのミサイル撤去
1.大統領と議長 二人の指導者のパートナーシップの影響
米大統領とソ連議長、責任と結果に対する全地球的な考え方を共有。
1. 各指導者とその周辺の人々とを遊離させた。
2. 二人の指導者を互いに結びつけた。
1. 各指導者に自国の政府内で「パートナー」の視座と問題を擁護する立場を取らしめる圧力。
2. 「君主」が自国政府内のゲームを制御し、管理する必要性。
2.封鎖から撤去へ
大統領・議長が自国内のゲームを制御しようとしたことの例証。
1. 決定に当たって、公式の機関を避けて一時的グループを用いたこと。
2. 封鎖の運用とその試し方に、慎重さがうかがえること。
3. 両指導者は私的な「ホット・ライン」を確立し、それを通じて理解を得るべきことを繰り返し強調したこと。
4. 「ホワイト・ハウスにおける恐慌」という言葉に表されるような、ホワイト・ハウスの内と外との相違。
3.「取引き」
フルシチョフの書簡(10/26)
取引きの申し入れ
1. ソ連はキューバからミサイルを撤去する。
2. アメリカは封鎖を解除し、キューバに侵攻しないことを誓約する。
フルシチョフの書簡(10/27)
条件のつり上げ
1. ソ連はキューバからミサイルを撤去する。
4
2. アメリカはトルコからミサイルを撤去する。
3つのニュース(10/27)
1. 検疫水域外のソ連船のうちの一隻がキューバに向かっている。
2. 昼夜兼行でミサイル基地の建設を行っている。
3. キューバ上空で U2 型機が撃墜された。
⇒緊張感が高まる。
アメリカの対応。
1. 報復攻撃は一日延期。
2. 26 日の書簡の条件で取引き。
3. トルコのミサイルの信管を外す。
三. ソ連のミサイル配備
1.アメリカの警告とソ連の決定
ソ連政府の状況認識
1. キューバはアメリカの死活的利益にとって、軍事的行動によって守らなければならない程重要なものではない。
2. ソ連がキューバにミサイル基地を建設しても、アメリカにとって大きな危険はない。
3. アメリカにミサイルの面で、著しく優位に立たれた。
4. 今までもキューバに対するソ連の軍事装備の輸送は行われており、それに対しアメリカは何らの行動も取らな
かった。
5. アメリカのキューバに対するソ連の軍事装備の輸送についての発言は、非常に控え目であった。
アメリカの国内政策を刺激しないように慎重にミサイル基地を建設すれば、アメリカは抗議はしても行動はしな
いだろう。
キューバへのミサイル配備の決定
一度決定し、実施に移した以上、不確実なアメリカの警告を理由に決定
が覆されることは容易なことではない。
2.アメリカの警告はどれだけ明確であったか
ソ連政府が、アメリカ政府の警告に疑問を抱くに足る理由があった。
1. ケネディ政権はキューバ問題を控え目に扱おうとした。
2. 攻撃用兵器と防御用兵器という区別は、国内の批判をかわすためのも
のであった。
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3. ケネディ政権はキューバにソ連兵が存在することを懸命に否定した。
4. ケネディ政権はキューバにおけるソ連の攻撃用兵器の存在を容認する
ように見えた。
3.多くの問題、一つの解決策
次のような異なった問題に関するソ連の各プレーヤーのさまざまな認知が、ある過程を経て今回の解決策を生み
出した。
1. キューバ問題
2. 戦略問題
3. ベルリン問題
4. 経済問題
5. 国内的争い
第七章
結論
三つの分析は全く異なった要因を強調する
ミサイル危機の三つの断面は、モデルの複雑さと分析上の相違を立証している
一
要約 ――解釈上の相違
第一モデルの記述と第二および第三モデルの記述の論述のレベルには明白な矛盾がある
第一モデル−戦略的選択という立場
←事実に反している(第二・第三モデルによると)
第一モデルの戦略的要約と第二、第三モデルによる組織的あるいは政治過程に関する詳細な分析において、
最も目立つ対立
→事実を探索するために各モデルが作り出す誘引を反映している
第一モデル−説明は計算を構築することによる
→計算の構築には事実による裏づけが必要
→通常入手しうる事実だけで事足りる
⇒第二、第三モデルの記述が重視する情報を看過している
●三点
(p288)
三つの解釈(ソ連のミサイル撤去に関して)第一モデル/第二モデル/第三モデル
(p288)
第二モデルと第三モデルには、強調のしかたと解釈のうえでいくつかの相違点
二
要約 ――解答が異なるのか、あるいは質問が異なるのか
(なぜアメリカはキューバを封鎖したのか?)
〈第一モデル〉封鎖を戦略問題に対する解決策として説明
〈第二モデル〉
(どの組織のどの出力がこの封鎖をもたらしたか?)が謎
〈第三モデル〉
「なぜ」は関連するプレイヤーが認知したさまざまな問題と封鎖を生み出したプレイヤー間の押し
合い・引合いに対する疑問
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〈第一モデル〉
「封鎖」は総合的な行為
〈第二モデル〉
(ミサイルはいつ発見されたか?)など、細かい問題に焦点を当てる
〈第三モデル〉最高執行会議における封鎖決定の出現と実施のさまざまな側面の両方に焦点を当てる
三つのモデルはひとつのレベルでは同じ出来事について異なった説明を構築する
but, 第二のレベルでは全く異なった出来事について異なった説明を構築
⇒これこそが筆者の主張したいこと
レンズは他の要因よりもある特定の諸要因を拡大するもの
異なった説明を構築するだけではなく、
(何が妥当し)(何が重要であるか)ということに関する判断も異なる
三
将来への展望
ここ数年(1970 年代前半)
、対外問題に関するアメリカの学者と専門家の思考は行き詰っている
(われわれは,これからどこへ進むべきなのだろうか)
本書で提示した解答は不完全でまとまりのないもの
それでも暗黙裡に示した暫定的な解答は明示しておくべき
〔第一モデル〕
第一モデルによる分析はそれ自体、事件の完全な分析または説明をなすものではなく、それだけで成り立ちうる
ものではない。
(われわれは、第一モデルの分析が言及するのは何か)
(それが捉えるのは問題のどの部分なのか)
(その証拠の利用法をどう修正すべきか)などについてもっと明確に理解する必要がある
☆今後の課題の一つは、第一モデルを意識的で明示的な分析法の一つに発展せしめることである
われわれは(国家による行為の選択を説明しうるのはどういう目標か)ということではなく、
(どのような要因がアウトカムを決定するか)ということを問題にしなければならない
第二モデルと第三モデルは、二組のカテゴリーと前提、二つの明確に区別しうる論理的パターンを要約している
(第一モデルの提起する質問)
(1)問題は何か
(2)選択肢は何か
(3)各選択肢に伴う戦略的コストと利得は何か
(4)国家(政府)の価値および共通の原理の、目立つパターンは何か
(5)「国際的戦略市場」における圧力は何か
(第二モデル∼)
(1)政府はどういう組織(と組織構成要素)から成り立っているか
(2)従来はこの種の問題について行為するのはどの組織か。その組織の相対的影響力はどうか。
(3)これらの組織は、政府のさまざまな決定の時点において当面の問題に関する情報を提供するのにどういうレパ
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ートリー、プログラム、SOP(以下順に R、P、S)を持ち合わせているか
(4)これらの組織は、この種の問題について選択肢を生み出すのにどういう R、P、S を持ち合わせているか
(5)これらの組織は、選択的行為路線を執行するのにどういう R、P、S を持ち合わせているか
(第三モデル∼)
(1)この種の問題に関して行為を生み出すための行為回路には現在どういうものがあるか
(2)中枢のプレーヤーは誰か。それはどういう地位を占めているか
(3)この問題に関して、職務や過去の姿勢、パーソナリティの諸圧力は中枢のプレーヤーにいかに影響するか
(4)そのような最終期限が問題の解決を強要するか
(5)ファールアップ(混乱)が生じそうなのはどこか
第一モデルは、一方では問題と脈絡を重視し、他方では国家(or 政府)の価値と原理を強調する
第二モデルと第三モデルは相互補完的なもの
第二モデルは、情報や選択肢や行為者を生み出す組織的ルーティンを明らかにする
第三モデルは、政府の個々の指導者と、主要な政府の選択を決定する指導者間の政治のより細かい分析に焦点
対外政策の最もすぐれた分析というのは、三つの概念モデルの諸要素を説明にうまく織り込んだもの
しかし、相互補完的な点と、意味するものが相矛盾する点とをより慎重に検討する必要が有る
三つのモデルの力点のおきかたにみられる相違の重要性について、キューバ危機から導き出す教訓をあげる
(第一モデル)
危機について先見の明に欠けた行為が考慮され、全く必要のないところで慎重さが助言された
(第二モデル)
危機における最も重要な問題は大きな組織の制御と調整である
(第三モデル)
グループのパーソナリティ、影響力および気質は、再び核対決への道を歩み始める前にもっと理解しておくべき
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