1 パソコンの拡張スロットに差し込んで使うボードを設計したい 標準拡張バス/ スロット仕様のいろいろ 桑野 雅彦 / 熊谷 あき 一般的なデスクトップ・パソコン用,ノート・パソコン用,産業システム用など,さまざまな拡張バス仕様が存在する.ま たパソコンの処理性能の向上に合わせ,拡張バスもデータ転送性能を向上させた仕様に進化している.ここでは標準的に使 われている拡張バスや拡張スロットについて,その特徴や概要について解説する. (編集部) 1.拡張バスの必要性 2 .ISA バス パソコンは,ソフトウェアを入れ替えればさまざまな処 ● ISA バスの概要 理をこなせる汎用システムです.汎用性を高める一つの方 CPU に 80286 を採用した PC/AT は,その前身である 向は,拡張性にあるといえます.ある処理を実現するの PC/XT の 8 ビット幅の拡張スロットである XT バスと上 に,そのパソコンに標準で装備されている機能で足りない 位互換性を持たせながら 16 ビット幅に拡張した,いわゆ 場合,必要な機能を追加して拡張できるしくみが必要で る AT バスになります.そしてこれを標準化したのが ISA す.そのしくみの中で最も基本的な手法が,拡張バスと呼 (Industrial Standard Architecture)バスと呼ばれるもので ばれるものです(図 1). す.PC/XT から拡張したため,ISA バスのコネクタは XT 最近では USB が広く普及し,これまでは拡張バスでし 互換の 8 ビット・バス部分である P1 コネクタと,16 ビッ か接続できなかったような周辺機器でも,USB で接続で ト拡張部分の P2 コネクタに分かれています.写真 1 に ISA きるタイプが登場してきており,拡張バスを使わなくても バス・コネクタと ISA バス・ボードの外観を示します. 充分な拡張性が確保できるようになってきました.しかし PC/XT と PC/AT 共に,マザーボードには必要最小限 それでもデータ転送性能を考えると,USB は拡張バスには のものしか搭載されておらず,ビデオ・カードや,シリア かないません.拡張バスが必要とされる分野はまだまだ ル/パラレル・カードなどはもちろんのこと,メモリの拡 残っています. 張もすべて拡張バスにメモリ・カードを挿入するという方 法をとっていました. このような事情から,AT バスの基本タイミングは 8 ビッ ト・アクセスの 8088 風のバス・タイミングです.通常は 8 機能Aを使用す るドライバ&ア プリケーション をインストール パソコン本体には ない機能Aをもつ 拡張カード ビット・タイミングで,16 ビット・アクセスのときにはア クセス動作開始時に IOCS16/MEMCS16 信号(後述)を 使って 16 ビット・アクセス動作に切り替えるという仕様 になっています. また困ったことに AT バスのタイミング規定は,もとも とそれほどはっきりしたものがありません.互換機メーカ 機能Aを処理できるようになる してみたり,性能向上のためにバスの動作クロックを引き 図 1 拡張バスの必要性 40 が PC/AT の実機を調べて,似たようなタイミングを作成 KEYWORD ―― ISA,PC/104,C バス,PCI,PCI-X,PCI Express,AGP,PICMG,VME,CompactPCI,PCMCIA, CardBus,ExpressCard Feb. 2009 第1章 標準拡張バス/スロット仕様のいろいろ Pro 1 2 (b)ISA バス・カード (a)マザーボード ISA バス・コネクタ 3 写真では白色だが,一般的には黒色のコネクタが多い. 写真 1 ISA バスの外観 4 表 1 ISA バスと E-ISA バスの比較 上げたものが出てくるなどもありました.いわゆる「相性 問題」が多発したこともうなずけます. ● ISA バスの標準規格 その後,AT バスの仕様としてある程度きちんとドキュ ISA バス・クロック(最大) I/O アクセス動作時のアドレス SYSCLK バス・クロック 8MHz 10 ビット注 1 (SA0 ∼ SA9) 非同期 5 E-ISA 8.33MHz 16 ビット (SA0 ∼ SA15) 7 メント化されたものが二つあります.IEEE-P996 として標 準化された ISA バスと,AT バスを拡張して 32 ビット化 拡張カードが ISA バスを直接操作できるというものです. を図った EISA バス仕様の中の 8/16 ビット・バス部分(E- DMA を使うよりも高速なデータ転送が行えます. ISA)です. ● メモリ・アクセス・サイクル 両者ともほぼ同一の仕様であり,多くの互換性があり ますが,微妙な差異もあるので,設計に当たっては注意 が必要です 注1 .表 1 に ISA バスと E-ISA バスの比較を示 します. 最も基本的なメモリ・アクセスで利用される信号には, 次のようなものがあります. ¡アドレス SA0 ∼ SA19(P1)および LA17 ∼ LA23(P2) ● データ転送動作 ISA バス(E-ISA も同じ)の基本データ転送サイクルは, (1)8 ビット・メモリ・アクセス (2)16 ビット・メモリ・アクセス ¡コマンド -SMEMR/-SMEMW(P1)-MEMR/-MEMW(P2) BALE(P1) ¡同期など(パソコン側への入力) (3)8 ビット I/O アクセス -0WS(P1 :ゼロ・ウェイト・ステート) (4)16 ビット I/O アクセス IOCHRDY(P1 : I/O チャネル・レディ) (5)DMA サイクル -MEMCS16(P2) (6)リフレッシュ・サイクル -SBHE(P2 :バイト・ハイ・イネーブル) (7)バス・アービトレーション・サイクル 基本動作は,リード/ライトしたいアドレスが出力され, の 7 種類です.リフレッシュ・サイクルは,ISA バス上に コマンドでリード/ライトを行い,-0WS があればアクセ DRAM カードを差し込んだときのためにありましたが,現 ス・タイミングが通常より短くなり,IOCHRDY をネゲー 在ではまず利用されることはありません.バス・アービト ト( “H”レベルに戻す)すると再びアサートされるまでウェ レーションは DMA サイクルの拡張のようなものです. DMA リクエスト,DMA アクノリッジが出た後で -MASTER 信号をアサートすると,ISA バスが開放されて Feb. 2009 6 同期 注 1 :80286 などの I/O アドレス空間は 16 ビットある.しかし,PC/AT で はアドレス・デコーダを節約するため下位 10 ビットのみデコードして いる. 41 App
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