32 2014 目 次 【論 文】 監査役制度の新展開�����������������������柴 田 英 樹 1 ヘルスケアサービスと医薬品流通業����������������保 田 宗 良 17 EU東方拡大とスペイン自動車産業の構造再編�����������細 矢 浩 志 27 資源確保と技術協力の間 ―日中レアアース交流会議の開催をめぐって―�����������黄 孝 春 田 中 彰 康 上 賢 淑 45 ICAOデータを利用した国際航空旅客市場特性の検討�������大 橋 忠 宏 67 公立小学校の学校図書整備の予算に関する一考察����������金 目 哲 郎 81 準市場の優劣論とイギリスの学校選択の 公平性・社会的包摂への影響(1) �����������������児 山 正 史 95 【研究ノート】 軍艦「大和」に関するノート�������������������池 田 憲 隆 111 【資 料】 沿線住民による地方鉄道の存続・利用促進運動 ―和田高枝氏ヒアリングによるえちぜん鉄道の活性化―�������恩 田 睦 小谷田 文 彦 125 【論 文】 監査役制度の新展開 柴 田 英 樹 1.はじめに 2.監査役制度の問題点 3.監査役制度の問題点の解決策 4.監査役制度の新しい課題 1.はじめに 監査役は、経営者の監視・監督を目的で、株式会社において会社の機関設計として設置されてい る会社法制度である。監査役には経営権(業務執行権)はなく、株主のために経営者の独断専行を 排除するために設けられた役職である。しかし、株式会社の中には監査役を設置しない会社も存在 しており、監査役あるいは監査役会のみが経営者の監視・監督を行っているわけではない。これら の会社は委員会設置会社と呼び、 三委員会のうち監査委員会の監査委員が経営者の監視・監督を行っ ているのである。 委員会設置会社では、監査役が存在しないために業務執行権を持たない取締役が監査委員に選任 されて監査業務が行われるのである。しかし、委員会設置会社は日本ではあまり人気がなく、大企 業のうちで50社程度ⅰしか存在しておらず、株式会社としてはほとんどが監査役設置会社だけが存 在している状況といってもよいくらいである。 ところが会社法制の整備による一環として監査役制度は最近、また法務省や商法学者などが大き く手をいれようとしていることは事実である。そこでその会社法改正の意図は何か、またそうする ことは日本の会社法制度のコーポレート・ガバナンスにとってプラスになるのかどうか検討するこ とが本論稿の目的である。 2.監査役制度の問題点 監査役は、会社の役員であり、会社組織の中に設置された会社内部の機関である。しかも、ライ ン組織には属さず、スタッフ組織に属している。つまり、ライン組織に属していないので、販売、 1 製造、購買、資材、物流、経理などの企業経営に直接的に関与することはない。 また、企業経営に直接的に関与することはない人事、総務、法務などはスタッフ組織に属してい る。経理はライン組織ではなく、スタッフ組織に属しているようにみえるが、実際はライン組織に 属している。 では何故、会社にはスタッフ組織が必要なのであろうか。 経営学には軍隊組織や軍事手法から持ってこられた用語が多い。ラインとスタッフもその典型的 な軍隊用語であった。ラインとスタッフという言葉は、元来は軍隊で生まれたモデルで、もともと 軍事上の用語である。ラインとは、前線で直接戦闘を行う部隊を示し、一方、スタッフとは、それ を支援する工兵隊などを表すスタッフ部隊と、戦略・戦術を専門に分析・検討する参謀本部(General Staff)を表している。 このような組織形態が事業経営の領域に持ち込まれ、現在では、ほぼすべての大規模企業がこの 形態を採用している。経営組織の領域では、企業の目的を遂行するのに第一義的に必要とされるも のを担当する部門、たとえば販売、製造などをライン部門と呼ぶ。 企業では、ライン組織は商品を直接製作・販売・営業する組織をいうが、購買物流、経理事務等 のサービス部門もライン組織に含まれることに留意しなければならない。一方、スタッフ組織はそ の商品の企画や、購買層の調査、それによって得られた情報アドバイス、計数管理、人事、法務、 総務等を行う組織であり、または直接的な制作の補佐、支援や助言をするものである。 会社の規模が大きくなるにつれてとスタッフ部門が必要となる。通常、スタッフ部門はライン部 門から独立しており、また、両部門の関係は本来、対等なものといえよう。企業利益を生み出すプ ロフィット部門(ライン部門)に対して、企業利益を直接的には生み出さないためノンプロフィッ ト部門(スタッフ部門)と呼ばれる。 ラインとは、業務の遂行に直接関わるメンバーで、階層化されたピラミッド型の命令系統を持つ。 ライン組織とは、企業の組織形態の1つで、最上位層(社長)から最下位層(社員)まで指示命令 系統が1つのラインで結ばれる組織形態である。組織メンバーは直属の上司からのみ命令される。 単純化すれば、1人の上司と複数の部下という構成である。 一方、スタッフは、専門家としての立場からラインの業務を補佐するが、ラインへの命令権(意 思決定権)を持たない。しかし、スタッフの存在はラインのためにもなっている。ラインのみから なる組織に比べ指揮官が過負荷になりにくく、またライン的な命令系統を保ったまま専門的な助言 を生かすことができる。 ライン組織・アンド・スタッフ組織は、ライン組織の横の連絡(コミュニケーション)が悪く、 職位上位者の負担が増大する短所を、専門的知識を元に助言や助力を行うスタッフ組織を加えるこ とにより解消することを目指したものである。 これによりライン組織の命令系統が統一されて、責任と権限の関係が明確になるという長所と、 スタッフ組織によりファンクショナル組織の専門化されて経営統制の範囲が広がる長所を同時に生 2 かすことができる。 一方、スタッフの短所としては、1つの会社に2つの組織が存在することになり、ラインとスタッ フのバランスが難しく、互いの職能への介入や対立を招きやすい問題などがある。また、スタッフ を重用し過ぎると、スタッフ部門とライン部門との対立が生じたり、スタッフ部門が大きくなり、 スタッフの人件費、業務活動費等が増加することになり、企業利益を生み出すことのない間接費が 増大するという問題も生じる。 コーポレート・ガバナンス不全の反省を受けて数度の商法改正及び会社法改正で、監査役制度は 強化が図られてきた。監査役は社外監査役の義務付け、監査役会の設置などが強化の代表例である。 ところで監査役制度の問題には、単なるスタッフ組織にはない問題点が存在している。そこで監 査役制度固有の問題点を列挙し、次節においてその問題点の改善策を順次検討してみよう。 (1) 監査役は監査の専門性を保持しているといえるのか。 (2) 監査役には業務監査権だけでなく、会計監査権も持っているが、会計監査の能力は十分とい えるものなのか。 (3) 監査役は複数の人間から構成されているが、常勤監査役と非常勤監査役との連携は十分に達 成されているのか。 (4) 監査役は社長など経営の中枢になっている経営陣から選任されることが多いが、監査役は自 分を監査役に選任してくれた経営陣の業務内容を批判的に検証することが可能なのか。 (5) 株式会社には監査役設置会社のほかに委員会設置会社が存在しているが、こうした会社形態 の違いは会社の利害関係者を混乱させないか。 (6) 監査役会の権限はどのように強化していくのか。 (7) 監査役と会計監査人の連携は十分であったか。 (8) 監査役と内部監査人との連携はどのように行うのが望ましいか。 3.監査役制度の問題点の解決策 「2.監査役制度の問題点」の⑴~⑻に記述した8つの問題点の解決策をこの節において、検討 してみたい。 (1) 監査役は監査の専門性を保持しているといえるのか。 監査役が監査の専門性を保持しているかは、いつも問題になる事項である。というのは、監査役 に選任される人は会社のライン組織に所属していた方が多いためである。 ライン組織に属していた人間が、 急にスタッフ組織の業務を行うことはそう簡単なことではない。 というのも長年に亘り、ライン組織を指揮したり、営業ないしは企業利益に少しでも貢献するよう な経営行動を会社で行ってきた経験を強く持っているためである。彼らの経営判断に企業の利益を 3 優先する体質が染み付いている状態であるといえよう。 ところが監査役の担当する業務は、そうした企業利益に直接的にプラスになるものではない。む しろ監査役の担当する業務は直接的には企業利益にならなくても、コンプライアンス(法令遵守) するためには企業を正しい経営の方向性に向かせることが必要になるのである。目先の利益に追わ れてきたライン組織から、企業が優れた経営理念・経営方針を持ち、それに基づく経営戦略を経営 者が採用しやすいように支援・助言しなければならないのである。 その意味では、スタッフ組織に所属していた人間を監査役にすることは、ライン組織から選任す るよりもメリットは多いといえよう。スタッフ組織の役割を熟知しているものが多いためである。 例えば、内部監査人の中でも全体を統括していた内部監査部長などは監査役に適任の存在であると いえよう。 (2) 監査役には業務監査権だけでなく、会計監査権も持っているが、会計監査の能力は十分とい えるものなのか。 この点は⑺の問題とも大きく関わるが、監査役に経理部長経験者や財務部長経験者が選任された のであればいざしらず、会計監査を十分に熟知している監査役を会社側が選任することは難しい。 そこで会社法はこれに対する手当てとして、 大会社には会計監査人の選任を法定しているのである。 つまり、会計監査人は会計監査の業務を行うのであるが、あくまで監査役の補助的な色彩が強いの である。 そのため会計監査人は会計監査で発見した事項を監査役に報告する義務があるのである。会計監 査人だけで会計監査をこなすことは認められていないといわなければならない。これはちょうど警 察と検察の関係に似ているともいえよう。警察に該当するのが会計監査人であり、検察に該当する のが監査役である。このように二重の監視機構を会社法は予定しているのである。 とはいえ、監査役には経理知識を十分に持っていない人も多く、会計や監査のベテランを監査役 に選任することは容易ではない。 そのように都合のよい存在が多くいるとはかぎらないからである。 したがって、監査役を選任する際には、多少とも会計学や監査論などの会計知識や監査知識を持っ ている者の中から選ぶことが望ましいといえよう。 (3) 監査役は複数の人間から構成されているが、常勤監査役と非常勤監査役との連携は十分に達 成されているのか。 監査役には常勤監査役と非常勤監査役とがいる。非常勤監査役は他の会社を経営している経営者 のほかに弁護士、公認会計士、大学教授などがいる。一般に知識人といわれる人たちである。彼ら は別に職業を持っていることが多いので、監査役をしている会社の給与に依存して生計を立ててい 4 るわけではない。つまり、監査役をしている会社に対して特別の利害関係を持っていないので、公 正に経営上の判断ができるといわれている。しかし、問題点がないわけではない。当該会社の経営 実態に関して十分に把握していないことが多いためである。 一方、常勤監査役は監査役をしている会社の給与に依存しているといえよう。だからといって、 経営上の業務意思決定に対して、なにも経営陣に逆らえないわけではなく、監査役としての監視業 務に従事しているのである。ただ非常勤監査役と比較すると、被監査会社に対する収入の依存度が 高いということはいえよう。こうしたことが経営陣と癒着に近い問題を引き起こすこともあり、非 常勤監査役の設置が行われているのである。 では常勤監査役と非常勤監査役とは連携が十分であるかといえば、なかなかそうとは言い切れな い。非常勤監査役は他に職業を持っているので、片手間にしか監査役の業務がこなせない短所が存 在しているためである。したがって、常勤監査役が十分に非常勤監査役に対してコミュニケーショ ンをとらなければ、毎月、監査役会を開催しても、議論が進展せずに無機能化してしまうことにな る。常勤監査役から積極的に非常勤監査役に適切な連絡を適時に取れるような体制を構築しなけれ ばならない。 (4) 監査役は社長など経営の中枢になっている経営陣から選任されることが多いが、監査役は自 分を監査役に選任してくれた経営陣の業務内容を批判的に検証することが可能なのか。 監査役は会社の役員である。すなわち、監査役は会社の組織の一角を占めている。経営陣が監査 役を選任する際に、経営陣に都合のよい人間を監査役に選ぶことになる傾向が強い。監査役には経 営陣から選任されたという恩義がある。問題になるのは、経営陣に対する恩義が経営陣の経営意思 決定に影響を持つか、持たないかについてである。 本来は、監査役がこうした恩義に左右されずに、監査役の独自の判断で厳正に経営陣の戦略的な 意思決定や業務決定の優劣を決めることができることが重要である。法整備上は監査役には経営者 に対する独自の判断が保証されている。しかし、監査役自身が取締役会において経営者の業務決定 を覆すことはかなり困難であるといわざるを得ない。もちろん明確な批判的な根拠があって、経営 陣の判断に反対するのであれば事情は異なってくる。だが明確な反対根拠を業務意思決定が行われ る取締役会当日までに果たして監査役は十分な情報を入手することは可能なのであろうか。実際に は、ほとんど不可能に近いと考えられる。 ここで期待されるのが監査役会での各監査役の役割である。非常勤監査役は会社の経営陣と常勤 監査役ほど特別な利害関係を持っていないので、公正に判断にあたることができる。しかし、非常 勤監査役は当該監査役をしている会社だけではなく、また別の業務(他社の業務)もそれなりに熱 心に行っている場合が多いので、常勤監査役が十分な経営情報を非常勤監査役に示してあげなけれ ば、非常勤監査役だけでは有効な手段をとったり、取締役会で経営陣の考え方に反対する発言を行 5 うことは難しいといえよう。 そこで必要になるのが、監査役スタッフである。監査役にはもともと手足となり業務を補助して くれる会社側の人間が少なく、十分な経営情報を入手することもままならないことが多い。監査役 スタッフが充実すれば、事前にある程度の情報を入手することが可能となり、監査役は自己の判断 をする際に冷静沈着でいられることができよう。 (5) 株式会社には監査役設置会社のほかに委員会設置会社が存在しているが、こうした会社形態 の違いは会社の利害関係者を混乱させないか。 会社法は大会社ⅱかつ公開会社ⅲに対して、監査役会設置会社か委員会設置会社の採用を定めて いる。 公開会社でありかつ大会社であり、委員会設置会社ではない株式会社は、3人以上の監査役で構 成される監査役を設置しなければならない(会社法338条1項)。監査役、監査役会を設置している 会社をそれぞれ監査役設置会社、監査役会設置会社という(会社法2条9号、10号)。 一方、委員会設置会社とは、コーポレート・ガバナンスを強化し、経営の透明性を高めるために、 経営の監督機能と、業務執行機能を分離した会社である。2003年4月施行の商法特例法改正により、 委員会等設置会社が導入され、2006年5月施行の会社法により委員会設置会社に名称変更された。 もともとはアメリカ会社法で整備されている委員会設置会社を株式会社機構に導入したいという 意向が法務省にはあったと考えられる。しかし、明治時代から監査役制度が存在しており、すでに 定着した制度になっているために、監査役制度をなくして新たな監査委員会制度を構築することに は経済界の猛反発があった。そこで日本の得意な折衷案が考案されたのである。ドイツ型の監査役 制度とアメリカ型の委員会設置会社を両方の中から会社が、会社の組織形態として優れていると考 える会社形態を自由に選択することが認められることにした。 もちろん両者の考え方は大きく制度的な背景が異なっている。ドイツ型の監査役制度では、監査 役が会社の役員として設置され、経営陣が問題のある業務意思決定を行う際には、監査役は取締役 会で異議を申し立てることができる。また、ドイツでは、取締役を選任・解任する強大な権限さえ 持っているといわれる。一方、日本に導入されたアメリカ型の委員会設置会社は社外取締役の多く が監査委員会、指名委員会、報酬委員会という三委員会を組織し、特に監査委員会で選任された監 査委員は、経営陣の業務意思決定を監視・監督することが可能になった。 日本にはこうした委員会設置会社に何らかの抵抗感が経済界にはあるのかと思われる。というの も委員会設置会社を選択している会社は、ソニー、日立、東芝などいわゆる大規模なグループ経営 を行っている会社が多く、全体でも50社弱しかないからである。つまり、ほとんどの株式会社は監 査役設置会社制度を選択したことになる。つまり、ほとんどは監査役会設置会社として、半数以上 の社外監査役を含む3人以上の監査役を選任している。委員会設置会社を選択した会社はグローバ 6 ルな経営を実行しており、日本独自の監査役制度よりも委員会設置会社の方が世界的な組織機構と しては優れていると考えたのであろう。 このようにせっかく法制度を改正しても、委員会設置会社が増加傾向にないことは法務省にとっ て好ましい事態とはなっていない。そのため法務省では会社組織の形態を変更することにより、監 査委員会設置会社を増加させたい意向であると伝えられている。日本に導入されたアメリカ型の委 員会設置会社は、使い勝手があまりよくないと考えられているためである。というのは、三委員会 を全部設置することはなかなか大変なことであり、それだけ多くの社外取締役を見つけてこなけれ ば成らない。そこで監査委員会設置会社だけをおく会社形態はうまく機能するのかという議論が進 行している。 (6) 監査役会の権限はどのように強化していくのか。 監査役会の権限は強化する方向にある。一つには会計監査人の選任権である。従来は、会計監査 人の同意権のみであったが、より監査役の権限を強化する方策として会社法の改正案で考案されて いるのが、この会計監査人の選任権である。さらに会計監査人の報酬の金額の決定権も監査役に持 たせることになる。 これまで会計監査人と監査役との連携は余り緊密ではなかったが、今回改正されようとしている 会社法でこうした会計監査人の選任権や会計監査人の監査報酬決定権が付与されれば、両者のコ ミュニケーションはより盛んになると考えられる。 ただ監査役の業務を強化することで、本当に企業の粉飾が減少することになるかといえばなかな かそうなるとはいえない。最近においてもIT企業で粉飾決算が発覚したが、循環取引による架空 仕入、架空売上を繰り返しており、監査役は粉飾発見・防止に有効に機能しているとはいえない状 況にあることも事実である。循環取引は、複数企業で架空取引を繰り返すことにより、売上や利益 を水増ししていたのである。 こうした粉飾決算はなかなか監査役だけでみつけられるものではなく、会計監査人の協力が不可 欠である。監査役と会計監査人の連携は十分であったかについては、(7)で論述することにしたい。 (7) 監査役と会計監査人の連携は十分であったか。 会計監査人である監査法人は監査役と十分なコミュニケーションを取っていない。監査法人は、 監査役に対して会計監査の状況を十分に説明してこなかった可能性がある。このことは監査役と会 計監査人との連携に大きな障害をもたらしているといえよう。 これには大きな誤解が存在している。会計監査人は確かに会計監査を行う専門家であるが、会社 法で会計監査を要請しているのはあくまで監査役に対してである。会計監査人は監査役の会計監査 7 を援助・支援することが彼らの職務である。 会計監査人は、その職務を行うに際して、取締役または執行役の職務の執行に関して不正の行為 または法令定款に違反する重大な事実があることを発見したときは、遅滞なく、これを監査役・監 査役会・監査委員会に報告しなければならない(会社法397条1項、3項、4項)。このように会計 監査人に報告義務があるのは、監査役等との連携により、不正を防止し、または是正措置が講じら れる途を開くためであるⅳ。 ところが監査役は、会計知識を持っていない場合が少ないため会計監査が得意でない人が多く、 会計監査の業務は会計監査人に全面的に任せてしまうことがほとんどであった。最近は会計監査人 であった監査法人を引退した公認会計士が会社の監査役になるケースが多くなってきた。監査法人 出身の公認会計士が会計監査を行う場合には、会計監査に関しては詳しいことはいうまでもない。 しかし、業務監査が十分にできるかといえば、その点に関しては問題がある監査役が少なくない。 業務監査を行うためには、当該企業の実態をかなりの程度把握していることが必要だからである。 そこで監査役は会計監査人との連携を重視することが必要になる。会社の会計監査を担当してい る監査法人は、以前においては会計監査だけを中心に行っていればよかったのであるが、最近では 上場会社などに経営者が作成した内部統制報告書を検証することが義務付けられるようになったこ とから、業務監査に関してもある程度理解していなければ会計監査業務自体ができなくなってきた ためである。 図表1 監査役と会計監査人 監査人の種類 監査役 会計監査人 会社の内部者か 会社の役員 会社の外部者 監査目的 経営者の誠実性の検証 ①計算書類等の会計監査 (取締役の職務の執行を監査 ②内部統制報告書の監査 する機関で、 取締役に対する事 業報告請求や会社業務・財産状 況調査などの権限を有する) 独立性 経営者に対しても、 会社の従業 被監査会社に対して独立性を 員に対しても独立性を保持し 保持している。 ている。 監査の種類 ①業務監査(実態の監査) ①計算書類等の会計監査 (情報 の監査) ②会計監査(情報の監査) ②内部統制報告書の監査 (情報 の監査) 監査人の選任・解任権 8 株主総会 株主総会 (8) 監査役と内部監査人との連携はどのように行うのが望ましいか。 監査役の業務は経営陣の監視・監督であるのに対し、内部監査人の業務は経営者の直接的指揮命 令系統のもとでコンブライアンス、 従業員不正の防止・発見、及び業務効率の改善を行うことである。 内部監査人が経営陣の指揮命令系統にあることから、監査役の業務と対立する可能性もあるが、 監査役の業務と内部監査人の業務とはダブルところが多いので、相互に連携することには意味があ ると思われる。監査役が内部監査人に監査業務の一部の補助・支援を依頼することも少なくない。 内部監査人は本来的には経営者の指揮命令に沿って業務活動をおこなっているのではあるが、監査 役が支援を求めてきた業務が内部監査人の業務と重なる場合には、積極的に監査役の業務をサポー トしてくれることがある。 例えば、監査役は年間監査計画を内部監査人に見せ、監査役の業務内容を理解してもらうことが できる。また、内部監査人からも彼らの内部監査計画を取り寄せることによって、監査役の業務上 のダブリを事前に知ることができる。 図表2 監査役と内部監査人 監査人の種類 監査役 会社の職位 会社の役員 内部監査人 会社の従業員 v 上司 特にいない(独任制 ) 。 経営者に直属している。 監査目的 経営者の行為の誠実性の検証 ①業務効率の向上 ②コンプライアンス ③従業員不正の発見と防止 ライン組織かスタッフ組織か 直接的に企業利益の増大に貢 スタッフ組織の一員 献するわけではないので、 スタ ッフ機能的側面を持っている。 内部監査か外部監査か 会社内部の監査機構ではある 会社内部の監査機構 が、 経営者の誠実性を検証する ため外部監査的な側面も持っ ている。 独立性 経営者に対しても、 会社の従業 自分の所属部署以外では独立 員に対しても独立性を保持し 性を保持している。 ている。 ただし、 経営者に対しては独立 性を保持していない。 監査の種類 監査人の選任・解任権 ①業務監査(実態の監査) ①会計監査(情報の監査) ②会計監査(情報の監査) ②業務監査(実態の監査) 株主総会 経営者 9 さらに、支店や子会社の往査日程にあわせて、監査役も内部監査人に同行し、監査業務の状況を 視察したり、あるいは自ら会社の担当者に質問することが可能である。また、内部監査人の監査計 画を閲覧すると、本年度は何を中心課題として内部監査を実行しようとしているかがわかり、監査 役が本年度において行おうとしていた事項と重なる場合には、相互に協力がし合える関係を構築す ることも可能となろう。 4.監査役制度の新しい課題 監査役制度に関する新しい会社法の改正案とは、次のようなものである。監査委員会制度の創設 により、もっと監査委員会制度を一般社会に定着することに狙いがある。これまでも委員会設置制 度はあつたが、三つの委員会制度が混在することは会社の会社形態の活動範囲を固定してしまい、 余り人気がないためである。しかし、委員会設置制度は悪いことばかりではない。例えば、委員会 設置会社の場合、社外取締役が過半数の指名委員会があり、取締役の選任時点に牽制機能が働くこ とになる。 確かに制度として委員会設置会社が多くなれば、その組織形態にふさわしい存在も現在よりも もっと存在しても不思議ではない。それが監査役制度に集中しすぎている点は問題かもしれない。 そこで委員会設置会社制度をもっと容易に選択することができるようにすることは、重要な試み であると考える。だからといってせっかく長い期間において定着してきた監査役制度を廃止するこ とは得策とはいえないだろう。 筆者の試案は、上場会社の機関設計がこうした隘路に入った状況から、考えられたのが監査役設 置制度と委員会設置会社制度とは別に、新たな新制度を創設することである。新たな新制度は監査 委員会制度であり、指名委員会や報酬委員会は設置しなくともよいという制度である。ちょうど監 査役設置会社と委員会設置会社制度との間を取り持つのが、この監査委員会設置制度である。 監査委員会設置制度には監査役は存在しない。その意味では委員会設置会社に近い制度といえよ う。そして現行法の委員会設置会社のように三つもの委員会制度を設置する必要がない点では、監 査役設置会社制度に近いともいえよう。 では監査役と監査委員との違いは何であろうか。その違いは、監査役は会社の機関上では役員で はあるが、取締役ではない。一方、監査委員は会社の機関であり、また取締役である点が挙げられ よう。監査委員は取締役の中から適任者が選任されてなる役職なのである。では何故、監査役は必 要ないのであろうか。監査委員は取締役の業務意思決定を監視・監督することになるので、監査役 の業務と業務内容が完全にダブルことになる。このように業務内容がダブった業務を会社は必要と していないのである。そこで従来のような監査役は不要になってしまうことになる。 国際的に会社法を比較したら、監査委員会設置会社の方に有効性の強度が強いといえよう。アン グロ・サクソン型の会社法では早くから監査委員会設置会社を導入しており、それほど支障は出て いない。しかし、だからといって、監査委員会設置会社が監査役設置会社よりも優れているという 10 ことはできない。監査委員会設置制度が構築されていても、エンロン事件での取締役会において監 査委員会が有効に機能して、特別目的会社の問題のある利用を阻止できなかったことはエンロン事 件以後に何回も監査委員会の存在に問題はないのかと指摘されたことを認識する必要がある。 委員会設置会社では取締役は業務執行を原則として行わない。そして取締役会が選任した執行役 が業務執行を行い、取締役は業務執行の監督のみを行う。このため、取締役から選任された監査委 員が監査役と同様の職務執行の監査を行うことになる。そのため委員会設置会社では監査役は設置 されない。 執行役等の職務執行の監査および監査報告の作成(会社法404条2項1号)、株主総会に提出する 会計監査人の選任・解任および会計監査人を選任しないことに関する議案の内容を決定する(会社 法404条2項2号)権限がある。監査委員会における監査報告の作成は、監査役設置会社における 監査役や監査役会設置会社における監査役会と共通する。しかし、現行法制下の会社法では、会計 監査人の選任等の決定は監査役設置会社における監査役にはない。あるのは監査役が請求権や同意 権のみ有している。つまり、 会計監査人の選任等の決定は委員会設置会社独自のものである。また、 執行役等の職務執行の監査の権限も委員会設置会社独自のものである。 監査委員会は3人以上の委員で組織され(会社法400条1項)、監査委員の過半数は社外取締役で なければならない(会社法400条3項) 。この点は指名委員会、報酬委員会と同様であり、監査委員 会の監査委員のみ委員会設置会社の執行役、業務執行取締役または子会社の執行役、業務執行取締 役、会計参与、支配人その他の使用人を兼任できない(会社法400条4項)。 我が国における相次ぐ、企業の粉飾事件(カネボウ事件、ライブドア事件など)が発覚した。こ うした企業の不祥事を防止するために、法整備が行なわれ、監査役の機能強化や、社外取締役の選 任、執行役員制度の導入などが導入された。さらに法的にも実務的にも経営のチェック機能を向上 させるコーポレート・ガバナンスを実行する努力がされてきた。委員会設置会社はその一環である。 一方、監査役設置会社はドイツ商法や共同決定法に根拠があり、我が国では長く定着してきた制 度である。監査役の業務が十分に果たされているかに関しては議論があるものの、社会的な認知度 は高く、また監査役の法制度が強化されてきていることもあり、従来以上に監査機能も改善されて、 よい方向性に向かいつつある。 こうした状況の下で監査役制度を改善する必要があるのであろうか。筆者は監査役制度を維持す ることは重要であると考えている。つまり、監査役制度を無理やり縮小したり、廃止したりする必 要はないと考えている。 その理由としては、監査役制度は日本に根ざした法制度になっており、一般社会にも広く認知さ れている点である。確かに世界標準(グローバル・スタンダード)から見ると、監査役制度を導入 している国々はそう多くないかもしれない。しかし、これだけ長期間において定着した制度を廃止 したり、縮小することは日本の会社法にとっても好ましいものではないと考える。 11 図表3 監査役(監査役会)設置会社(現行法)、委員会設置会社(会社法改正により実現を目指 す筆者の試案)及び監査委員会設置会社(現行法) 監査役(監査役会)設 監査委員会設置会社 委員会設置会社 置会社 経営者(取締役)の職 監査役 監査委員会 務執行を監視・監督 監査委員会 指名委員会 報酬委員会 会社の職位 監査役は会社の役員 監査委員は会社の監 監査委員は会社の取 であるが、取締役では 査役 締役 ない。 会計監査人の選任権 会計監査人の同意権 会計監査人の選任権 会計監査人の選任権 (選任権を会社法の あり あり 改正案では規定され ることになる) 会計監査人の解任 取締役会は、監査役会 会計監査人の解任権 会計監査人の解任権 の同意を得た上で会 あり あり 計監査人の解任を株 主総会の目的事項に することができる 会計監査人との連携 必要 必要 必要 会計監査人の報酬決 監査役・監査役会の同 報酬決定権あり 監査委員会の同意が 定権 必要 意が必要(報酬決定権 を会社法の改正案で は規定されることに なる) 内部監査人との連携 必要 必要 執行役の有無 なし あり(業務執行を行な あり(業務執行を行な う) う) 監視・監督取締役 なし あり(監査委員) あり(監査委員) 独任制か合議制か 独任制 合議制 合議制 独任制のリスク あり 独任制のリスクから 独任制のリスクから 逃れられる。 必要 逃れられる。 そこで「5.結びとして」において、上場会社の機関設計における監査役設置会社と監査委員会 設置会社とを統合した筆者の監査役制度の新制度をまとめてみたい。 12 5.結びとして 監査役と監査委員会との大きな相違は、たとえ1人であっても監査業務行動できる監査役が独任 制なのに対して、監査委員会は合議制である点である。つまり、監査役は1人でも株主役会の決議 に反対すると、議案を承認することができないのに対して、監査委員会は議案に反対の監査委員が いても他の監査委員が多数決で採択すれば議案を承認することができるのである。 この点に関しては独任制のリスクがあるといえようⅶ。つまり、監査役が独走してしまう可能性 があるからである。しかし、独任制は経営に緊張感が生まれるメリットが存在していることに留意 すべきである。 三様監査という言い方があるが、監査役監査、会計監査人監査及び内部監査人監査の3つの監査 の総称が三様監査である。まさに三様監査という用語は、三種類の監査を表すうってつけの言葉で ある。監査役監査の目的、会計監査人監査及び内部監査人の監査目的は重層的に関連付けられてお り、財務報告の信頼性を確保するためやコーポレート・コンプライアンスを維持するために不可欠 なものである。つまり、三様監査のそれぞれの目的は、監査役は取締役の職務執行を監督する(経 営者の誠実性の監査) 、内部監査人は事業の業務効率の向上、法令遵守及び従業員不正の防止・発 見を図ることである。さらに会計監査人の監査目的は財務報告(計算書類、財務諸表)の信頼性を 保証することである。 図表4 三様監査 会社 経営者の 外部 誠実性の 経営者 監査 監査 会計監査人 監査役 財務諸表 内部監査人 結果報告 監査報告書 内部監査 外部利害 会社の内部組織 関係者 13 さらに内部統制の有効性を向上させるためには、三様監査が相互に連携を強化し、積極的なコミュ ニケーションが必要となる。特に、内部監査人が果たす役割は、従業員の業務に対する社内規程と の準拠性への判断だけではなく、社内規程自体の評価や改訂、また業務におけるリスクの予見や対 応策の実施など高度な経営支援業務が要求される。 では最終的に筆者が考える会社の監視・監督機関を図表5に示してみたい。監査役はそのまま維 持・存続する。監査委員は監査役から選任する。従来、委員会設置会社では監査委員は社外取締役 であり、取締役から監査委員を選任するようにしていたが、筆者の案では取締役が監査委員になる のではなく、監査役が監査委員に選任されるようにすることにより、監査役制度は維持されること になる。また、監査役は監査の専門家であるから、社外取締役から監査に未経験な人から選任する よりも有用な結果を期待することができる。 何も監査に未経験な人から監査委員を選択するよりも、監査役を監査委員に選んだ方がよほど効 率的ではなかろうか。また、会社機関の形態が複雑になりすぎている感がある現行会社法を改正す るよい機会になると考えられる。 図表5 監査役設置会社及び監査委員会設置会社の統合案 監査役設置会社及び監査委員会設置会社との統合案 経営者の監視・監督 監査役を監査委員として選任する。 取締役からは監査委員は選任しない。 会社の職位 監査役は会社の役員であるが、取締役ではない。 役割としては監視・監督取締役と同様である。 会計監査人の選任権 会計監査人の選任権を付与する。 会計監査人との連携 必要 会計監査人の報酬決定権 報酬決定権を付与する。 内部監査人との連携 必要 独任制か合議制か ⅴ 監査役設置会社の場合の独任制 から合議制に変更する。 独任制のリスク なし 監査役の選任 株主総会の普通決議 (なお、改正案では監査委員は取締役を兼務するとしているⅵ) 14 【参考文献】 北村ほか[2008] :北村雅史、柴田和史、山田純子『現代会社法入門〔第2版〕』有斐閣、2008年9月。 武井ほか[2011] :武井一浩、五味廣文、柳川範之、阿部泰久、冨山和産、中山信弘『企業法制改 革論 日本経済活性化に向けた提言』中央経済社,2011年12月25日。 USL 新日本有限監査法人ナレッジセンター・リサーチ「【一覧】委員会設置会社 2013.06.24」『企業会 計ナビ』 (http://www.shinnihon.or.jp/corporate-accounting/case-study/2013/2013-06-24.html)(閲 覧日:2014年6月5日) ⅰ 新日本有限監査法人ナレッジセンター・リサーチ「【一覧】委員会設置会社 2013.06.24」 『企業会計ナビ』 ⅱ 資本金5億円以上または負債総額200億円以上の株式会社 ⅲ 発行する株式の全部または一部に譲渡制限を設けていない株式会社 ⅳ 北村ほか[2008]:192頁。 ⅴ 独任制(どくにんせい)とは、行政機関などが一人の人で構成される制度である。これに対して複数 の人で構成される機関を合議制という。換言すれば「たったひとりの監査役が、取締役を株主総会で 責めたり、司法に訴えたりできる」ということを意味する。 ⅵ 武井ほか[2011]:210頁。 ⅶ 独任制が大きくクローズアップされたのが、2008年6月に開催された荏原の株主総会で、計算書類の 承認が求められたケースである。本来、計算書類は株主総会での報告事項であるが、同社の社外監査 役が事業報告を承認しなかった。そこで、会社側は事業報告の承認を株主総会の決議事項として承認 する必要があると判断した。 日本経済新聞(2008年7月21日付)においては、荏原で起こったケースは、コーポレート・ガバナ ンスが機能した結果として評価する声が少なくない。しかし、その一方で、1人の監査役が事業報告 の不承認としただけで、株主総会の決議事項にしなければならないのかといった不満も存在している。 15 【論 文】 ヘルスケアサービスと医薬品流通業 保 田 宗 良 Ⅰ はじめに 社会科学の視点による医療の研究は、多くの方法論により展開されている。筆者が関心を有する のは、 先行研究で論究が不十分な、 医薬品流通を包括した総合的な考察である。医療機関が、医療サー ビスの質的向上を図るためには、医師や看護師のチーム力の強化が基本であるが、医薬品卸、調剤 薬局のサポートが不可欠であり、ドラッグストアとの協力体制があれば尚、望ましい。ドラッグス トアで扱っている第1類医薬品で対処できれば医療機関に行かなくても治療がかなう。医療の現場 が、地域医療の実態を把握するのは容易ではなく、関係業者から情報を提供してもらう方が、効率 的となる。医薬品は、他の商品と異なり誰でも扱えるものではない。専門家である薬剤師、登録販 売者が伴い正確な服用ができる。医薬分業のパッシングが実在するが、医療費抑制が叶わないとい う理由が先行しており、十分な議論がなされているとは言い難い。 医療マーケティング研究の究極の目的は、地域医療の質的向上に置かれている。患者満足度が高 まり、国民医療費が抑制されれば理想的であるが、医療サービス、看護サービスを核とした健康サー ビスの構築がなかなかなされないのが実情である。医薬連携の進展、在宅医療にドラッグストアが 参画する等、ヘルスケアの現場は、めまぐるしい変革を続けている。 医療は、情報の非対称性が大きい分野である。国民全員が関わるが、情報分析が可能なのは一部 の専門家にすぎない。ようやく中学生に医薬品の教育が始まったが、遅いという印象が否めない。 本稿では、ヘルスケアサービスの核になる項目を洞察し、今後の検討課題を明確にすることを試み る。 Ⅱ 先行研究 本稿の内容に関連する先行研究で、主要なものは以下のものである。 ① 平田雄一郎(2005) 「医薬品流通 新時代のMS像」医薬経済社 医薬品卸が提案型営業を進めるべきであるとし、その方策を模索している。医薬品卸は4大グルー プに集約されているが、営業力が無ければそれらのグループに加入できない。 17 ② 真野俊樹(2005) 「健康マーケティング」日本評論社 真野氏は、医療マーケティングと健康マーケティングの相違に言及している。健康マーケティン グは医療マーケティングに比べてプロセス志向が強いとしており、OTC(一般用医薬品)の方向 にも言及している。筆者は、 ヘルスケアサービスを健康マーケティングの枠組みで考えているので、 真野氏の研究は大変興味深い。 ③ 秋葉保次、中村健、西川隆、渡辺徹(2012) 「医薬分業の歴史 証言で綴る日本の医薬分業史」 薬事日報社 ヘルスケアサービスと医薬品流通を検討する際には、医薬分業の歴史的考察が不可避である。医 薬分業が実践されるまで長期間を有したが、その根本的な原因を歴史的にトレースすることは、極 めて重要な考察である。門前薬局が多いので、理想的な面分業を進めるための先進地域の取り組み は、大変参考になる事例である。 Ⅲ 検討課題 ① 医薬品卸の実態把握 ヘルスケアの重要な担い手として医薬品卸があげられる。医薬品卸の聞き取り調査を進めると、 医療機関の患者満足度向上への指導が不可避となっている。無償が前提であり、協働ではなく一方 的な取引関係が求められる。担当部署が患者のアンケートを請け負い、分析した結果から医療機関 の経営戦略を提言している1)。地域医療の実情を要約したレポートも配布しており、医師が他の医 療機関の動向を知る際の参考にしている。こうした種々の便宜を図っても納入価格に変化は無く、 薬価引下げの際は納入価格の未妥結が続き、医薬品は納入するが、代金は後ほど回収するという状 態が続いた。契約は口約束であり、曖昧な部分が散見される。製薬会社のMR(医薬情報担当者) と医療機関の事務長クラスの要望に応えるために、多大な苦労を重ねており、医薬品卸の1人負け という表現をする幹部職員が少なからずいた。 かつては、医薬品卸にマーケティングの思考は必要なかった。メーカーのMRが価格を決定し、 医薬品のみを配送する御用聞きの性質を有していた。メーカー系列の医薬品卸は、メーカーの営業 所の方針に従っていればよかった。こうした状況が医薬品卸の淘汰を進めたともいえる。 医薬品は、需要予測が困難で、使用には緊急を要する商品である。医薬品流通の実務は、品質や 有効性、安全性を確保し、専門的知識、能力が求められる。医薬品情報を収集・提供することが不 可欠であり、迅速、的確に供給することが求められる。薬事制度や医療保険制度の制約下に置かれ ている2)。 上述の背景が、医薬品卸のマーケティング戦略の特質を規定している。医薬品は需要予測が難し い。ほとんど患者がいない希少性の高い医薬品でも常備していなければならない。専門的知識・能 18 力が求められるので、薬剤師が常在している。医薬品情報の収集・供給が使命であり、取引先のメー カーの情報は言うに及ばす、医療機関から問い合わせがあれば取引をしていないメーカーに確認す ることがありうる。 納入価格の未妥結の問題は、医薬品は緊急性を要するので、必要とする患者がいる限り納入する ことは回避できず、薬価引下げがあると価格決定は後回しという事由による。 医薬品卸業界は、流通改革が急務の業界である。日本医薬品卸業連合会は、流通改革の推進を意 識して、以下のような声明を出した3)。 「・経済合理性に立った取引を推進するため、取引の対象となる製品の受渡しが行われる前に、 契約条件を明示した覚書を締結する。 ・覚書の有効期間は、6月以内の期間とし、有効期間を更新する際に、必要に応じ、市場の変化 等を踏まえて契約条件を見直す。 ・取引価格の交渉に時間を要する場合は、仮価格について覚書を締結し、取引価格の決定後に速 やかに精算を行い、 本来の覚書を締結する。 この本来の覚書の締結をもって、価格交渉の妥結とする。 ・なお、覚書の有効期間経過後に、当該期間の価格を修正することは、薬価調査の正確性・信頼 性を損なうとともに契約条件の事前明示の趣旨にそぐわないものであることに留意する。」 引用が長くなったが、連合会は覚書を締結し、取引を明確にすることを試みている。日本の流通 の商慣行は曖昧なものであった。口約束が主流で融通が利くのが良い点であったが、例外が認めら れるとルールがずさんなものとなった。 将来医薬品卸は、医薬品の流通業者でありながら、他のサービス提供が主流になるとさえ見られ ている。医薬品卸は東日本大震災の際に、そのSCMが評価されたが、平時においては注目度が高 いとはいえない。パンデミックの際には、医薬品卸の従業員は広義の医療従事者でありながらワク チンの優先接種が受けられなかった。アルフレッサ社長 鹿目広行氏が、著書の中でそうした不合 理を述べて注目を集めている。医薬品卸の従業員は医療従事者であるが、地域医療の構成メンバー とは見なされにくい。営業はMS(マーケティングスペシャリスト)という名称を有しているが、 スペシャリスト(専門家)にふさわしい評価がなされているかは、疑問が残る。自社と取引してい る医薬品の効能・効果、副作用には熟知しており、定期的にメーカーのMRと勉強会を実施してい るので、専門家にふさわしい活躍が期待される。 ジェネリック医薬品(後発医薬品)は、薬価が先発品の6掛収載なので慢性疾患の患者には重宝 なものであるが、流通体制が不十分であると見なされてきた。専門卸への聞き取り調査によれば、 そうした状態は改善されつつある。インセンティブがあると医師もコスト意識を有し、処方を前向 きに考えるようになった4)。しかしながら調剤薬局の薬剤師の意識が問題視され、薬剤師の指導の あり方が問われている。在庫がないので処方箋は持参して欲しくないという発言があり、医薬品卸 の配送体制に疑問を有する経営者が散見される。 19 ② 調剤薬局の役割の確認 調剤薬局は、医療供給施設である。常駐の薬剤師が医薬品の服用の指導をするが、「お薬手帳」 にもとづいた、かかりつけ薬剤師となることが、地域医療の質的向上に直結する。調剤薬局は、医 薬分業とセットで考える施設である。何のために診療所ではなく調剤薬局で医薬品を調剤するのか を考えなければならない。医薬品の専門家は薬剤師であり、専門家の知見が必要であることを失念 してはならない。患者の服薬状況を聞き取り、サプリメントや院内処方の医薬品との併用について も指導しなければならない。 処方箋に条件が無ければ先発品をジェネリック医薬品に変更することが可能で、薬剤師のアドバ イスが決め手となる。従って、チェーン組織であればジェネリック医薬品を共同備蓄する工夫等が 望ましい。ジェネリック医薬品と先発品は、同じ薬効ではないという議論が継続している。薬学の 専門家の知見により意見が分かれるが、ほぼ同じ効能・効果を有すると考えられ、うまく使えば医 療費抑制に大きく寄与する。日本では国民皆保険により医薬品に対するコスト意識が低い。3割負 担では新薬との薬価差が少ないので切り替えを希望しない患者が多いが、長期服用の慢性疾患にな ると年間数千円程度の差額が生じる。 医薬分業は、調剤薬局の薬剤師が質の高い健康指導を促進することを、目標としてきた。しかし ながら、薬価差益の減少を意図した医薬分業は、医療費を押し上げているという批判があり、医薬 分業パッシングが発生した。高齢社会が進み、医薬品の処方量は増加する可能性を有し、生活習慣 病の予防が急務となっているが、調剤薬局の薬剤師がその責任を果たせるかが問われている。 「医薬分業は、昭和49年を境に進み出した。薬局、病院の薬剤師の仕事が大きく変わるものとなっ た。 薬局は医療供給施設としの役割を担い、 病院の薬剤師は病棟活動と医薬品安全対策が任務となっ た。平成20年の医療費は34.1兆円であるが、そのうち調剤医療費は5.4兆円で医療費全体の15.8%を 占めている。処方箋枚数は7.2億枚で1枚当たりの技術料を電算処理分の1,984円で計算すると技術 料の総額は1.4兆円になり、調剤、薬局、薬剤師が医療費全体に影響を及ぼす存在となっている。 医薬分業のメリットを患者、住民が実感できるためには体制の整備はもちろんのこと、一人一人の 薬剤師が患者中心の医薬分業の実現に向け、日常業務を通じて地域におけるチーム医療へ積極的に 参画することが必要である。 」5) 大阪府薬剤師会乾氏の文章を筆者なりに要約したが、平成20年の段階で調剤医療費はそれなりの 位置付けを占め、医薬分業のメリットを明解にする必要がある。 ③ ドラッグストアの健康マーケティング 簡単な疾病は、医療機関に行かずに対応する方策をセルフメディケーションというが、この用語 の認知度は低い。疾病は平素から健康作りを意識し、未然に防げれば好都合である。医療機関の混 雑も緩和できる。筆者はこうした健康作りを進めるマーケティングを、健康マーケティングと考え ている。 20 ドラッグストアの実態調査を継続すると、街のヘルスステーションとしての自覚が求められ、健 康マーケティングを促進することが、生き残りの決め手であると把握できる。一般用医薬品の流通 機関であるが、できるだけ医薬品を使わない健康づくりの指導を無料で実施しており、また一般用 医薬品の範疇を超え、疾病が重篤な場合は医療機関の受診を進めている。その時は利益にならない が「信用」という財産を得ることに傾注している。 ドラッグストアは、 規制の変化に動かされてきた。規制緩和によりドリンク剤が医薬部外品になっ たときは、コンビニエンスストアやキオスクと一部競合するようになり、登録販売者の制度が新設 されると、ホームセンター等と競合するようになった。登録販売者がいれば第2類、第3類の一般 用医薬品はどこでも販売可能なので、更に競合する範囲が拡大すると考えられる。もともとドラッ グストアは、食品、雑貨、日用品等も充実していたので食品スーパーの様相があったが、本業の医 薬品ステーションとしての役割が、他の業態との差別化につながる。 ドラッグストアは、薬剤師不在問題が論点となり、それが一般用医薬品インターネット通販の論 争の際に持ち出された。薬剤師不在で大きな薬害、副作用事件はほとんど無く、通販で書面で指導 すれば問題は生じないという流れである。ルールを守らないことが持ち出され、それに比べれば確 実であるという消極的な意見にも見えるが、顧客の満足度を総合的に高め、地域医療の質的向上を 目的とした姿勢が求められる。 現場の実務家の意見によると、対面販売のドラッグストアは強いアドバンテージがあるとしてい る。鎮痛作用を緩和するためには一刻も早い服用が必要となり、店頭での購入が不可欠となる。通 販は補助的なものにすぎないという意見が大勢を占めていた。栄養管理者、ヘルスケアアドバイザー 6) 、漢方アドバイザーといった有資格者が店舗にいるので、迅速に顧客の総合的な相談に対応でき るのが強みとしている。 ④ インターネット通販の解禁 最高裁で一般用医薬品のインターネット通販が認可され、安全性を担保することを前提に利便性 を図ることになった。2009年6月1日施行の改定薬事法は、一般用医薬品は対面販売にすることを 意図していたので、インターネット通販は改定薬事法の見直しを要するものとなり、薬事法改正が、 2013年12月13日に公布された。日本再興戦略をふまえ、施行は6ヶ月以内となっている。自治体な どとも十分な調整が必要とされ、登録販売者、薬剤師の位置付けが変革することが想定される。 伊藤暁子氏の先行研究が、この分野の基本論考となっている。伊藤氏は「処方箋医薬品を含め、 医薬品のインターネット通販が認められている諸外国では、安全性を確保するための認証システム や販売にあたっての諸条件が設けられている。利用者が安全かつ便利に医薬品を入手できるような 販売制度を構築するための議論が望まれる。 」7)としているが、諸外国の事情を考慮すると、いず れ医療用医薬品がインターネット販売の議論の対象となることが想定される。 従前から、インターネットによる個人輸入は行われていた。日本で承認されていない医薬品を個 21 人の責任で取り寄せるという形式であるが、副作用の事故が起きても医療機関は資料を保有してお らず対応が困難であった8)。インターネット通販が進展すると医薬品の位置付けがコモディテイ化 し、安易な商品という認識がなされうる。こうした個人輸入が増大し、不適格な服用がなされる危 惧がある。 インターネット通販が日常化すれば、店舗勤務の登録販売者、薬剤師の位置付けは大きく変革す る。調剤薬局を有しないドラッグストアは地域医療の構成メンバーとは見なされていないが、今後 はそうした体制を変革し、地域医療体制のメンバーであることを顧客に示すため、先に論じたよう に薬剤師、登録販売者、栄養管理士、ヘルスケアアドバイザー、漢方アドバイザーといった店舗に 常駐しているスタッフが、研鑽を極め質の高い指導をしなければならない。 インターネット通販により利便性が増大し、一般用医薬品の売上げが増加するという主張が実在 する。医薬品は必要な場合に服用するもので、経路が複数になっても総額が増えるとは思えない。 国民医療費の抑制に貢献するというロジックは、いささか無理があると考えられる。継続している 医療用医薬品は、文章で問診をしっかり行えばインターネット通販でも可能という意見があるが、 医療を対面でなく進める方向になりかねない。安全性の担保を意図した慎重な議論が望まれる。 Ⅳ おわりに 医療の質的向上は、医療機関の組織論の変革、組織内の協働作業の効率化の議論に重きが置かれ るが、地域内の協働作業が不可欠である。調剤薬局が面分業の役割を果たし、ドラッグストアの登 録販売者の資質が高まれば、健康サービスの質は確実に向上する。ヘルスケアサービスは、調剤薬 局を有し、一般用医薬品、健康食品を扱っているドラッグストアが重責を担っている。聞き取り調 査を進めると、登録販売者の指導力が不足しており、より効率的な教育プログラムが必要であるこ とが把握できた。資格取得後、薬剤師の指導の下でより高い専門知識を習得することがサービスの 向上に直結する。資格手当が低額なので、責任が伴う第2類医薬品、指定第2類医薬品を扱うより、 一般消費財の売場の方が気楽であるという意見があった。一般用医薬品は、かならず有資格者が扱 うというのが2009年の改定薬事法の趣旨であったが、登録販売者の指導力が向上しなければ、その 趣旨は生かされない。 医薬品の流通は、医薬品に関する正確な情報が伴わなければならない。患者の体質によって注意 点が異なるので、専門家が、じっくり時間を掛けて正確に指導することが不可欠である。かつての 薬剤師は調剤のみで対応できたが、現在は藥歴管理指導が任務となっている。医薬分業は医師と薬 剤師が協働で患者の治療にあたるというシステムである。少数ではあるが不適格な医薬品が処方さ れる事例があり、薬剤師の疑義照会が活用されている。 2025年問題が重要視されている。団塊の世代が後期高齢者になり医療機関の対応が困難となり、 国民医療費が著しく高騰することが不可避となっている。地域包括ケアシステムを充実させ、在宅 医療を進めることが模索されているが、それのみでは対応できない。現在、家庭医で治療が可能な 22 プライマリケアが8割を占めているが、根本的な仕組みの変更が求められている。医療の質的向上 は、医療費を抑制し、限られた資源を有効活用することが基本である。そのために、ヘルスケアサー ビスを充実させる研究を進展させなければならない。 サービスの範囲の確定は困難を極める。医療サービス、看護サービス、介護サービス、医療関連 サービス、健康サービスという用語が用いられるが、識者によりその理解は異なる。医療サービス は、医療保険に使われる傾向があり、時には医療ツーリズムにも使われている。医療機関で検査入 院している場合に使われるのは分かるが、関連のツアーにも適用されるか否かは、理解が困難であ る。調剤薬局は医療供給施設であるから、そこで行われるサービスは医療サービスであるが、薬剤 師のサービスは医療機関の従事者とは異なり、サービスの範囲の整理は難しい。 健康サービスは、フィットネスクラブや鍼灸等が含まれる広範囲なサービスであるが、その中で 医薬品流通業者がどのような役割を担うかを明確にすることは、流通研究者にとって大きな意義が ある。流通業者は生活者の生活水準向上に寄与することが社会的責任であるが、医療関連の流通業 者は地域医療の質的向上に対する責を担っている。地域住民のヘルスケアにどのように関わるのか、 先行研究が不十分な状況なので今後も深い考察を継続しなければならない。 第14回JAPANドラッグストアショー 9)では、閣議決定されたセルフメディケーション推進やド ラッグストアの成長戦略等、ドラッグストア業界が明確にすべき背景やなすべきことが、分かり易 く示された。 ・規制緩和への対応 ・超高齢社会への対応 ・セルフメディケーション推進への対応 ・ネット販売時代への対応 ドラッグストアショーで示されたこの4つのテーマは、今後ドラッグストアが取り組むべき重点 課題である。ドラッグストア研究を進める際には基本的な命題となる。 ヘルスケアサービスの範囲は、広範囲に及ぶ。消費生活センターに寄せられるクレームは多くの 業態に至る。健康に関心を有する消費者は、専門知識が不十分であるが高額商品を費消することが あり、場合によってはむしろ体調を崩すことがある。すべての範囲を網羅することは困難ゆえに、 医薬品流通システムの範囲から問題の所在を明確にしたいというのが、本稿を執筆した主目的であ る。 Ⅴ 今後の検討課題 今までの論考をふまえて、今後の検討課題と接近アプローチを明示したい。 ① ドラッグストアのドメインの策定 高齢社会が進展し、医療と介護は連結したものとなっている。在宅医療を希望する高齢患者が少 23 なくない。在宅医療に対応したシステムを考案している大手チェーンが増えつつある。薬剤師は店 舗に訪れる顧客のみならず在宅の顧客の薬剤に目配りする状況である。現在より更にドメインが拡 大することが想定されるが、その範囲をある程度定めることは、医薬品流通業を研究する者には不 可欠の作業である。 ② 患者満足度を高めるための方策 医療機関の患者満足度に関する研究は、蓄積されつつある。苦情に対しては書面で迅速に対応し たり、専門のスタッフを配置する等、改善がなされている。医療ソーシャルワーカーが医師に言え ない苦情を徴集している。 しかしながら、ドラッグストア、調剤薬局の顧客満足度を高める研究は不十分であり、後者は医 薬分業の存続意味に直結するものである。登録販売者の教育と顧客満足は大きな関連があると考え られる。登録販売者は医療用医薬品に対する知識が乏しい。薬学的背景が無いので医薬品の危険性 に対する意識が希薄な場合がある。薬剤師がきめ細かく教育していれば良いが、彼らはそこまでが 自分の職務とは考えにくい。 医療用医薬品と一般用医薬品、一般用医薬品どおしの顧客への併用指導は、かなりの研鑽をつま ないと不可能であり、顧客が高血圧や糖尿病を有している事例等を考慮すると、人材育成の効果的 な方法の考案も研究の対象となる。地域密着型、在宅医療を念頭に置いた、調剤薬局の顧客満足の あり方も検討課題となる。 注 1) 医療機関のコンサルタント部門の部署を有していれば、所定の料金で質の高い戦略を提供することが通 常であるが、容易な調査、地域医療の情報をまとめた機関誌の様なものは無償で提供している。開業前 の相談はケースバイケースである。 2) (社)日本医薬品卸売業連合会HP http://www.jpwa.or.jp/ を2014年5月2日に閲覧。 3) 同上HP流通改革の推進について2014年5月2日に閲覧。 4) ジェネリック医薬品卸である、榎本薬品(株)での聞き取り調査による。 5) 乾 英夫(2010)「医薬分業推進啓発ツールについて」『大阪府薬雑誌 Vol.61, No. 4』大阪府薬剤師会、 pp. 2-3。 6) 日本チェーンドラッグストア協会が実施する資格制度である。栄養、食事、運動といった生活全般につ いての知識を有し、疾病の予防、改善のためのアドバイスができる専門家と見なされている。生活習慣 病を予防し、健康を手助けできる人材であるが、この資格制度の認知度は低いのが実情である。 7) 伊藤暁子(2011) 「医薬品のインターネット販売をめぐる動向」 『調査と情報 第727号』国立国会図書館、 2011年、p. 1。 8) 海外で服用していた医療用医薬品が日本で認可されておらず、個人の責任で輸入するという特殊な事例 のためにある制度であるが、現実はダイエット等、個人の快楽の実現のために行われている事例がある。 説明書が添付されておらず、あっても英語による専門的な説明なので自己責任で対応することはほぼ不 24 可能である。 9) 日本チェーンドラッグストア協会主催、2014年3月14日-16日、於 幕張メッセ、ドラッグストアに関 する基礎研究を進めるには最適なイベントである。 参考文献 邦文 櫻井秀彦、今野広崇、島森美広、杉山祐之、古町晶子、河野弘之、後藤輝明、早瀬幸俊(2009)「薬 局における患者と薬剤師の医療サービスに対する意識に関する研究」『YAKUGAKU ZASSHI』日 本藥学会、pp.557-568。 (社)青森県薬剤師会(1986) 『青森県薬剤師会60年史』 西村周三監修、国立社会保障・人口問題研究所編(2013)『地域包括ケアシステム -「住み慣れ た地域で老いる」社会をめざして』慶應義塾大学出版会、pp.217-239。 二木立(2014) 『安倍政権の医療・社会保障改革』勁草書房、pp.175-206。 細田満和子(2012) 『 「チーム医療」とは何か 医療とケアに生かす社会学からのアプローチ』日本 看護協会出版会、pp.32-68。 英文 Daniel Korschun, C.B. Bhattacharya,&Scott D. Swain(2014)Corporate Social Responsibility, Costomer Orientation, and the Job Performance of Frontline Employees, Journal of Marketing, Vol.78, Num.3,AMA. pp.20-37 . 業界新聞 「調剤薬局ジャーナル」 2013年12月20日 「日刊ドラッグストア」 2014年2月24日 「薬局新聞」 2014年3月5日 「薬事日報」 2014年3月7日 「薬粧流通タイムズ」 2014年3月15日 聞き取り調査 高知県医薬品登録販売者協会会長 杉本雄一氏 榎本薬品(株)代表取締役社長 榎本時一氏 (株)バイタルネット 人事部次長 山内豊氏 (株)大心中井薬品取締役 中井浩二氏 (株)小田島 管理本部総務人事部課長 豊川雅子氏 (株)丸大サクラヰ薬局 人事アシスタント 木下鑑孝氏 25 (株)クリエイトエス・ディー 人事本部採用教育部 マネジャー 今村秀一氏 7氏から聴いた話を総合すると以下のようになる。 登録販売者の教育、賃金は不十分なものが多く、店舗販売に対する信頼の欠如に結びついている。 インターネット通販の解禁によって、その位置付けは大きく変わる。教育プログラムの進展が望ま れる。ヘルスケアアドバイザー、サプリメントアドバイザーは位置付けの認定が難しく、待遇も定 まっていない。 医薬品卸は、調剤薬局との取引にウエイトを置いているが、まだ診療所で医薬品を出していると ころがあるので、2方面に目配りをしている。診療所の動向も把握できないと経営に支障を来す。 MSの育成は、 重点項目である。 調剤薬局と自分のところで医薬品を処方する医療機関があるので、 それぞれのニーズに合うサービスの提供が必要である。 医療機関の医師は、インセンティブによりジェネリック医薬品を処方することが分かった。医師 がコスト意識を高めつつある。流通網が未整備であると指摘されていたが、MR、MSの配置は整 備されつつある。 インターネット通販と配置薬は棲み分けができる。配置薬は家庭を訪問し健康指導が伴うのでそ れが強みとなる。双方を分けて考えるのではなく、双方の組み合わせが今後の戦略となる。 ※ 聞き取り調査では、現場の実務家から貴重な示唆を頂いた。誤解があるとすればすべて筆者 の責任である。本稿は、2014年5月31日に脱稿している。公表される時には、インターネッ ト通販に新たな動きが生じていると推測される。 謝辞:本研究はJSPS科研費23530533の助成を受けたものです。 26 【論 文】 EU東方拡大とスペイン自動車産業の構造再編 細 矢 浩 志* 1 はじめに(問題設定) 21世紀に入って本格化した欧州連合(EU)の拡大と深化は、欧州の社会・経済環境にさまざまな 変化をもたらしている。とりわけ2004年に実現した中・東欧諸国をはじめとする10カ国のEUへの 一挙同時加盟(EU東方拡大)は、ヨーロッパの産業地図を大きく塗り替えるきっかけとなった。 製造業の分野では、日米欧の有力多国籍企業による中・東欧への積極的な投資活動が繰り広げられ、 製造拠点の創設・拡充が相次いだからである。こうした欧州の地殻変動を象徴する産業部門のひと つが自動車産業である。現在、ヨーロッパの自動車産業では、大手多国籍企業による中・東欧地域 の自動車産業の再編・整備と西欧地域の既存拠点との連携の模索、これらを踏まえたヨーロッパ全 域をカバーする生産分業ネットワークの形成・拡充が進展しつつある。 本稿は、EU東方拡大後のヨーロッパにおける自動車生産ネットワークの分業構造と動態を解明 する研究の一環に位置する1)。本稿で取りあげる問題は、EUの東方拡大にともなう域内分業構造の ヨーロッパ規模の広域化によってネットワーク内の分業態勢がどのように変化したのか、という視 点である。のちに指摘するように、ヨーロッパの自動車生産ネットワークは、ドイツやフランス等 の西欧先進諸国の伝統的な産業集積地帯(コア地域)を筆頭に、EU東方拡大以前にネットワーク に編入されたスペイン等の西欧周辺諸国(旧ペリフェリ域)、それ以降に編入される中・東欧諸国 の新しい周辺地域(新ペリフェリ域)など複数の有力な産業集積ノード(産業空間としての地域的 産業集積地帯)で構成される。したがって新旧ペリフェリ地域間対比を軸に地域・企業間国際分業 態勢の変容を明らかにすることをつうじて、生産ネットワークを構成する有力な産業集積ノードが どのような役割を担う(ようになった)のかという課題の追究が可能となる2)。 * 弘前大学人文学部教授 :e-mail;[email protected] 1) これまで筆者は欧州における自動車産業の国際分業の展開のありようを生産ネットワークの形成とい う視点から実証的な研究に取り組んできた。本稿に関わる限りにおいて、その特徴としてさしあたり 以下の諸点を指摘しておきたい。①EU東方拡大を契機に中東欧では西欧主要メーカー主導による製造 拠点の形成が相次ぎ現地自動車産業は根本的に再編された、②中東欧拠点は欧米自動車多国籍企業の 生産分業体制の一翼を担う重要な拠点となっている、③欧州自動車産業の再編は生産(分業)ネット ワークへの統合を軸に展開されている。拙稿(2009)(2012)等を参照。 2) 厳密に言えば、新ペリフェリ域内の競合すなわち中東欧とトルコそれぞれが担う役割は何かという視 点も考慮に値する。 27 EU東方拡大というEU市場圏の拡張は、これまで労働集約的機能を担ってきたイベリア半島諸 国(旧ペリフェリ域)が、中・東欧諸国やトルコ(新ペリフェリ域)との熾烈な競争に晒されるこ とを意味する。西側多国籍企業による新ペリフェリ域での事業拠点の創設は現地の安価な労働力の 活用を柱とするヨリいっそうの低コスト化の追究と企業内分業ネットワークへの組み込みを目的と しているからである。コスト競争力の観点から理論的に考えれば、EUの東方拡大が進展するにし たがって、旧ペリフェリ域での生産はコスト上の比較優位を失い分業ネットワークから脱落するこ とが予想されるが、のちに見るように、実際にはスペインでの車両生産は劇的な落ち込みに見舞わ れなかったばかりか、同国自動車産業は国民経済において重要な基幹産業の地位を占め続けている ようにみえる。EU東方拡大後のスペイン自動車産業の現実は、広域化した生産ネットワークにお いてもその重要性を喪失していないと考えられるのである。そうであれば、EU東方拡大によって 従来の比較優位性を喪失した旧ペリフェリ域は、何らかの構造的な再編・転換を経て、その結果広 域化した新しい生産分業ネットワークにおいては従来とは異なる役割を担うようになると同時に、 EU東方拡大後のヨーロッパ自動車産業の生産ネットワークは新たな分業パターンを組成したと想 定することができる (図1-1) 。旧ペリフェリ域の構造再編とは何か?それはどんな意味を持つのか? そしてそれはどのようにして遂行されたのか?本稿ではこれらの諸問題の解明を行いつつ生産ネッ トワーク形成による分業パターンの変遷に関する仮説の検証に取り組む。 図1-1 生産ネットワーク形成による分業パターンの変遷仮説 出所:筆者作成 28 以上の視点から、本稿では、ネットワーク構造解明に取り組む作業の一環として旧ペリフェリ域 を代表するスペイン自動車産業の構造転換について分析する。はじめにヨーロッパにおける自動車 生産ネットワークの基本的性格を概観し、次いでスペイン自動車産業の展開動向を整理する。それ らをふまえたうえで産業再編の性格を明らかにし、スペインの欧州生産ネットワークにおける分業 構造上の位置づけについて検討してみたい。 2 汎欧州自動車生産ネットワークの基本構造 2.1 ネットワーク形成史 はじめに、ヨーロッパにおける自動車生産ネットワークの形成過程とその構造的特徴を提示・確 認しておこう3)。 ヨーロッパでは、自動車生産分業ネットワークは主に二つのステップを踏んで形成されてきたと 考えられる。第一のステップは欧州共同体(EC)が1980年代に取り組んだ「市場統合」の時代である。 それまでヨーロッパの辺境地域と見做されていたスペイン、ポルトガルでは、1986年のEC加盟以降、 ドイツやフランス等西欧諸国の大手資本による現地進出が活発になり製造事業拠点の創設が進展し た。西欧を舞台にした生産ネットワークの形成である。単一市場の形成は、さまざまな規制により 各国毎に調達・製造・販売・アフターサービス等の体制構築を強いられてきた企業にヨリ効果的な 拠点配置を追求する道を開いた。クロスボーダー投資のハードルは低くなり、海外直接投資(FDI) の主体たる多国籍企業は、各国の要素賦存状況と内部化されたバリューチェーンにおける企業特殊 な優位性とに応じた投資意志決定を行うことで、効率的な事業体制の構築に向かったのである。 第二のステップはEU東方拡大が始動する1990年代に現れる。1989年の「ベルリンの壁」崩壊に 起因する国際社会の激動=いわゆる「冷戦崩壊」を契機にして、低賃金・熟練労働・潜在的市場等 の魅力に富む新経済空間=中・東欧地域の生産ネットワークへの組込みが始動する。欧州単一市場 の東方拡大はヨリ効率的な分業体制構築の動きを加速した。主力市場の西欧と将来市場として有望 なロシアとの双方に近接する立地条件と低賃金とに恵まれた中・東欧地域が単一市場に加わり、さ らにトルコやウクライナなど拡大EU周辺諸国との経済関係の強化に支えられることによって、生 産ネットワークは地理(空間)的にも機能的にも拡大・発展する。西欧生産ネットワークは、EU 東方拡大を転機にヨリ広域化した汎欧州生産ネットワークの形成へと跳躍していったのである。 ヨーロッパの自動車産業では中・東欧を編入した生産ネットワーク戦略を縦横に活用する企業が 相次いだ。たとえば独フォルクスワーゲン(VW)は、中・東欧の市場開拓とEU向け輸出拠点化 を推進すると同時に、各生産拠点の役割分担の明確化に積極的に取り組んだ代表的な企業グループ である。同グループは、完成車組立事業、エンジン・部品製造事業ともに中・東欧工場ごとの事業 集約を大胆かつ急ピッチに進め、各生産拠点を特定車種・パーツの製造拠点として位置づける戦略 3) 詳細は拙稿(2012)を参照。 29 図2-1 VWグループの中東欧からのパワートレイン供給体制 出所:FOURIN(2007) 、37頁 をより明確に打ち出している(図2-1) 。 FDIによって生まれ変わった中・東欧の事業拠点は、多国籍企業戦略のもとで西欧・世界の拠点 と密接に結びつけられ、グローバル展開をも射程に入れた汎欧州生産ネットワークに組み込まれる こととなった。EU東方拡大以降、欧州全域を舞台に繰り広げられているドラスティックな産業再 編は、効率的な生産分業ネットワークの形成を軸に展開されているのである。 2.2 欧州自動車生産ネットワークの構造的特質 広域化した今日の汎欧州自動車生産ネットワークの構造的な特徴は、概ね以下の諸点に要約する ことができる4)。 第一に、同ネットワークは三つの産業集積地で重層的に構成される。すなわち、①コア地域= 西・南欧の伝統的な産業集積地域(ドイツ、フランス等)、②旧ペリフェリ域=EU東方拡大(2004 年)以前の周辺地域(スペイン等イベリア半島諸国、アイルランド)、③新ペリフェリ域=EU東方 拡大以降の拠点新設の進む新EU加盟国ならびにEU外縁地域(中・東欧諸国、トルコ、北アフリカ・ 地中海沿岸諸国等)がそれである。ヨーロッパの広い範囲をカバーすることに成功した自動車生産 ネットワークは、2007年以降、一定の変容を見せていると考えられる。すなわち、ルーマニアとブ ルガリアが新たにEUに加盟した2007年(第二次東方拡大)を起点に、製造事業拠点形成はさらに 東方に拡がった。その結果、ネットワークを構成する産業集積ノードは地理的空間的に拡大すると ともに、質的にも一定の変容をみせている。新たにネットワークに包摂されたルーマニアとブルガ リア、クロアチア(さらにその周辺に位置するバルカン半島諸国一帯)は第一次EU東方拡大(2004 年)時に編入されたポーランドやチェコ、ハンガリー等とは別のペリフェリ域を形成する。これら 4) 本節は拙稿(2012)の要点を整理・摘記したものである。 30 今日的な変化をふまえ、本稿では新しいペリフェリ域を「新ペリフェリ域」(=中・東欧諸国なら びにトルコ等2004年前後にネットワークに編入されたエリア)と、「新・新ペリフェリ域」(=ルー マニア、ブルガリア、バルカン半島諸国)とに区別して標記することとする。 第二に、ネットワークを構成する主要な地理的空間の事業特性は、地域全体を統括する多国籍企 業グループの経営戦略によって巧みにコントロールされている。その効率性は車種・部品等の製造 事業の「棲み分け」に象徴される。中・東欧地域(=大衆乗用車)⇔イベリア半島(スペイン=高 品質小型車、多目的車両等)といった新旧ペリフェリ域間での棲み分けにとどまらず、新ペリフェ リ域でも中・東欧地域(=大衆乗用車)⇔拡大EU外縁諸国(トルコ=小型商用車)の棲み分けが 追究されていることを確認できる。また、新ペリフェリ域のうち中欧諸国(ポーランド、チェコ、 ハンガリー)では製造事業に加えてR&D事業の拠点設立が相次ぐなど事業機能上の高度化が進展 している5)。それぞれの集積地が自動車製造事業のバリューチェーンにおいて独自の事業機能を担 いつつ有機的に連携するネットワークが組織されているのである。 3 スペイン自動車産業の変貌 3.1 新ペリフェリ域への転化 第二次世界大戦後のスペイン経済は、当初採用された輸入代替工業化戦略から1970年代半ばに輸 出志向工業化戦略へと経済政策を転換したことで近代化の道を歩み始めたとされている6)。スペイ ンがヨーロッパ有数の自動車生産大国として発展・台頭するきっかけは、1980年代央の欧州共同体 (EC)加盟に求めることができる。当時ECのペリフェリ地域であったスペインを含むイベリア半 島諸国の製造拠点は、低賃金活用型・労働集約財(部品・小型大衆車等)の生産拠点として西欧ネッ トワークに編入されることで着実に発展する機会を与えられた。スペインでは、西欧完成車メーカー が西欧市場向け生産拠点として現地生産を強化したのと並行して、部品製造業の集積も進んだ。と りわけ1970年代後半以降、外資系部品メーカーによる技術供与がすすむことで国内製造部品の競争 力が向上し、外国からの部品輸入の代替および国内部品産業の成長が促された。現在、スペイン国 内には1次部品サプライヤーが約200社、2次・3次サプライヤーを含めると約1000社が事業を展開 7) し、そのすそ野は広い(2008年時) 。 サプライヤーの多くは完成車メーカーと連動し、多国籍企業の車両組立工場を中核として地域的 な集積クラスターを形成している。スペインの主要なクラスターは、(1)セアト、日産が拠点を置 くバルセロナ周辺地域=カタルーニャ州、 (2)独VW、ダイムラーの拠点であるバスク=ナバーラ州、 (3)仏PSA(プジョー・シトロエン・グループ) 、商用トラックIvecoが拠点を置くマドリッド州等 5) 詳細は拙稿(2012)を参照。 6) Fuchs(2008)を参照。スペイン経済を分析した専門研究は意外に多くない。さしあたり楠(2011) は必読文献である。 7) 日本貿易振興機構(2008)、20頁。 31 であり、そのなかでもとくにカタルーニャ州が自動車部門出荷額全体の3割弱を占めている8)。 ところがEUの東方拡大に向けた取組みが本格化する1990年代以降、西欧大手製造業を中心に低 賃金活用型・労働集約財生産拠点の東方移転が加速することで、西欧ネットワークにおけるスペイ ン自動車産業の役割は見直しを余儀なくされる。西欧ネットワークの汎欧州ネットワークへの変貌 が進行するなかで、スペインの自動車産業は衰退もしくは「空洞化」の懸念が高まることになる。 EU東方拡大による中・東欧製造拠点の相次ぐ構築は、それまでスペインが保持していた低賃金と いうコスト面での比較優位性の崩壊を意味するからである。 だがそうした懸念はその後の事態の進展と現実によって杞憂であることが判明する。21世紀今日 表3-1 欧州主要国の自動車生産台数の推移 出所:日刊自動車新聞社、日本自動車会議所(2012) 、FOURIN(2011a)より作成 8) カタルーニャ州、ナバーラ州、マドリッド州の比率はそれぞれ27%、15%、11%となっている。なお自 動車部品の国内調達率は、完成車で53%、部品で57%と報じられている。日本貿易振興機構(2008)、 20頁。 32 のスペイン自動車産業について事業特性を中心に簡単な見取り図を提示しよう。 第一に、スペインはヨーロッパで有力な自動車生産大国の地位を保持している(表3-1)。1990年 代まで順調に拡大を続けた乗用車生産は、2000年代以降横ばいに転じるとはいえ比較的堅調に推移 し続けた。西欧外資による「東方ラッシュ」が顕著な2000年代初には、ネットワークのコア地域を 代表するフランスが漸減傾向を示すようになるが、スペインの堅調さはそれとは対照的である9)。 2009年、スペインはフランスを抜いてドイツに次ぐ欧州第2位の自動車生産大国(世界第9位)に 躍り出る。 第二に、スペインは自動車輸出大国である。自動車関連財は、スペイン経済を支える重要な貿易 財である。輸出入ともに自動車産業部門の占める割合は大きい。1980年代以降の輸出入・貿易動向 が示すように、スペイン国内で製造される車両の輸出比率は乗用車、商用車ともに徐々に高まり、 今日では製造車両の9割近くが輸出に回されるまでになっている(表3-2)。その推移を振り返るな らば、スペインがECに加盟する時期(1980年から90年にかけて)大幅に増伸し(商用車について はほぼ倍増) 、EUによる東方拡大への取組みが本格化する2000年代以降は乗用・商用車ともに8割 を越え、 第二次東方拡大(2007年)以降もその勢いに衰えはない。その変貌ぶりは明らかにヨーロッ パの地域統合の進展と結びついている。自動車産業はスペインの基幹的な産業部門として同国経済 の屋台骨を支えるまでに変貌した。その原動力は、EU(EC)の拡大と深化にある。 表3-2 スペイン自動車貿易動向 出所:日刊自動車新聞社、日本自動車会議所(2012) 、160頁より作成 スペインはEU東方拡大後の現在も欧州で有力な自動車生産拠点としての地位を保持している。 欧州第二の生産大国であり製造車両の9割近くが輸出向けであるという事実は、中・東欧への自動 車生産空間の拡張によってその地位が脅かされると考えられた旧ペリフェリ域が、環境変化に適応 し生産ネットワークに不可欠の環として再編されたことを物語る。かつてEU東方拡大による自国 産業の衰退(空洞化)が予想されたペリフェリ域がその地位を保持し続けているのは何故か?次に この点を考えてみよう。 9) スペインの自動車生産は、2000年代初頭に商用車も加えると300万台を突破していた。 33 3.2 スペイン自動車産業の事業特性 中・東欧諸国=新ペリフェリ域への自動車生産空間の拡張によってその地位が脅かされると考え られてきたイベリア半島=旧ペリフェリ域が今日でも有力な自動車生産地域を占め続けている理由 を考える材料として、21世紀初頭現在のスペイン自動車産業の事業特性を二点に整理・指摘してお こう。 第一に、スペインで製造される車両は主に次の二つに大別できる。すなわち①非量産10)・高機能 高品質・小型乗用車と②商用車・多目的車両(SUV、ミニバン等)である。前者の代表的なモデ ルはVWのPolo A05、ルノーのClioⅢ等「スタンダードカー」「上級コンパクトカー」である。ス ペインはAセグメント(廉価大量生産小型車)よりワンランク上のB、Cセグメント乗用車の生産 を得意とする11)。後者については、現在スペインは欧州におけるSUV・ミニバン等の多目的車両の 第一の生産国である。スペインには同車両の有力な製造拠点が多数点在する。ルノー(バリャド リッドValladolid工場/Palencia) 、PSA(マドリッド工場、ヴィーゴVigo工場)、VW(パンプロー ナPamplona工場/ナバーラ州Navarra) 、セアト(Martorell工場/バルセロナ州Barcelona)等EUを 代表する有力企業グループの多くがこれら車両製造に係わる事業の充実につとめている(表3-3)。 第二の特徴は、設計・エンジニアリング機能をはじめとする研究開発(R&D)機能の強化が推 進されている点にある。たとえばVWグループのセアト社・Martorell工場はその典型例である。 VWはスペインを西欧生産ネットワークに組込んだのちに、バルセロナ近郊の同工場を主にセアト・ ブランドモデルの製造拠点と位置づけ、能力拡張と近代化に取り組んできた。2000年代以降は商用 車・多目的車両の分野での取組みを強化し、その結果、Audi Q3(SUV)の製造を手がけるなど、 今日ではVWグループの商用・多目的車の製造を担う欧州を代表する一大製造拠点に変貌しつつあ る。近年は車両生産に加えて、VWグループのスポーツカー(セアト、Audi)の設計を受託するな ど設計・エンジニアリング等の開発機能の強化にも乗り出している12)。 EU東方拡大以降、スペインの部品業界では中・東欧や北アフリカに一部生産を移転させる動き が見られるようになった。たとえば、米リアはR&D部門・シート製造部門をスペインに残す一方で、 ワイヤーハーネス部門をポーランドとモロッコに移転した。また米デルファイはベアリング、ステ アリング部門についてはスペイン国内の事業は閉鎖しモロッコへ移転するとともに成型プラ部門と ワイヤーハーネス部門も縮小した。デルファイのスペイン拠点はコモンレール式ディーゼルポンプ など高付加価値・技術集約的部門に特化する方向で再編を進めている(2007年)13)。 部品サプライヤーの動向に共通するのは、ワイヤーハーネスに代表される低付加価値・労働集約 10) ここでは、いわゆる小型廉価乗用車のように「大量生産」される対象ではないが、高級車のように「少 量生産」される対象でもない、その中間的な規模の製造対象という意味で用いている。 11) 本 稿では乗用車の分類概念として主に欧州で使用される分類概念であるセグメント区分を用いる。 分類には車両サイズや全長、価格など複数の要因が考慮されるといわれるが明確な基準は示されて いない。 34 表3-3 大手メーカー・在スペイン工場での主要製造モデル(2010年) 䝝䝑䝏䝞䝑䜽䠄㻴㻮䠅 䝁䞁䝟䜽䝖䜹䞊䠄㻯㻯䠅 㻴㻮㻛䝇䝔䞊䝅䝵䞁䝽䝂䞁䠄㻿㼃䠅 出所:FOURIN(2011b) 、7-9頁より筆者作成 的事業については撤退もしくは規模縮小、R&D部門等の高付加価値・技術集約的事業の規模拡張・ 機能強化に乗り出しているという点である。 旧ペリフェリ域の代表格・スペインは、EUの東方拡大が進行するなかで、商用車・多目的車両 の製造拠点としての役割ばかりでなく、研究開発機能を有する事業拠点としての役割を強化しつつ さらなる発展を遂げようとしている。自動車生産大国としての地位を保持する理由は、欧州自動車 生産ネットワークにおいてスペインが果たす独自の機能に求めるべきであろう。 12) Lung(2004),p.146. 13) 日本貿易振興機構(2008)、21頁。 35 4 スペイン自動車産業の高度化 4.1 VWナバーラ工場の再編 本節では、旧ペリフェリ域のスペインが欧州生産ネットワークの不可欠の環として再編された歴 史的経緯を辿りつつ、スペイン自動車産業の再編を導いた要因とその全体的な展開の構図を明らか にしてみたい。 分析対象としてナバーラ州パンプローナに位置するVWの組立工場(VWナバーラ工場)の事例 を取り上げる。VWナバーラ工場はスペインを代表する車輌製造拠点である。1960年代半ばに操業 した同工場は、英Austin、Britishi Layland、現地資本SEAT等との提携を経て、80年代に独VWと の提携をきっかけに飛躍的な発展の軌道をつかんだ(表4-1)。 表4-1 VW・ナバーラ工場の歴史 出所:Fuchs(2008) , p.220 VWナバーラ工場再編の歴史的・構造的意義は、欧州市場におけるスペインの地位の変化とVW のグローバル戦略を明らかにすることで解明される。EU東方拡大による中・東欧拠点のネットワー クへの編入が進展するなかでスペイン車両組立工場はさまざまな試練に晒された。VWナバーラ工 場が直面した課題は以下の三つに大別できる14)。 14) 以下,VWナバーラ工場の歴史的変遷については主にFuchs(2008)に依拠した。 36 表4-2 VWグループ全生産に占めるナバーラ工場のシェア(Polo A02) 出所:Kamp(2007) , p.91 図4-1 VWナバーラ工場の従業員数・生産台数、ナバーラ地方の自動車部門労働者数 従業員数 台数︵単位 VW全従業員数(2005年6月) ナバーラ工場従業員数 生産台数(2005年は計画) 千台︶ 出所:Fuchs(2008) , p.221 第一の課題は、単一モデルPoloへの特化戦略である。操業以来、ナバーラ工場ではSEATブラン ド等多種多様な車輌製造が行われてきたが、 1982/83年に独VWが子会社化に着手(1994年完全取得) して以降、徐々に小型乗用車モデルPoloの製造・組立に特化していった(表4-2)。Polo製造特化戦 略は、PoloA02生産(1984年)を皮切りに新型PoloA05の生産開始(2005年)の今日に至るまで連 綿と続けられてきた15)。これを契機に同工場は成長軌道を歩んできたといってよい(図4-1)。VW ナバーラ工場は、Vigoに進出した仏PSAとともに、1980年以降スペイン自動車産業を牽引しナバー ラ地方の地域振興と雇用創出に多大な貢献を成してきた。 15) ナバーラ工場のPolo単一モデル製造への特化に関する分析はKamp(2007)に詳しい。 37 転機は1990年代に訪れた。第一に中・東欧地域の台頭である。スペインはこれまで得意とした小 型大量生産車をめぐる熾烈な競争に晒される。1980年代、スペインは1.5㍑以下エンジン車におい てもっとも重要な市場であり主要な輸出国であった。89年には同国生産車両輸出の88%が小型車両 だったが、99年にはその比率は48%に激減する16)。中・東欧の製造拠点化が小型車両生産における スペインの優位性を置き換えたのであった。さらにモジュール生産方式の浸透が変化に拍車をかけ る。VW工場では、2000年代初のPoloA4への製造モデル移行以後広範囲の個別パーツに替わり複雑 なモジュールが導入された結果、主力部品の輸入が増え二次サプライヤー数は減少に転じたといわ れる。かつて競争優位確保のために追究した単一モデル集中戦略は、ナバーラ工場の発展を制約す る深刻な足かせ要因となっていた。 第二は、同一セグメント内での熾烈な競争によりPoloへの集中がヨリ不安定な経営状態をもたら したことである。VWグループ内にはPoloと似通った他ブランド車両としてIbiza(SEAT)、Fabia (Skoda)が存在する。とくにIbizaはバルセロナMartorell工場でも生産されていた最も身近な競合 車であった。これらは異なるブランド間の競争とはいえ、VWグループ構成工場間の競合でありブ ランド間の「共食い、つぶし合い」の危険を孕んでいた。 第三に工場内労使関係の厳しい対立である。スペインでは、伝統的に職場に複数の有力労働組合 が存在し、組合同士で熾烈な主導権争いが繰り広げられていた。ドイツのような「従業員代表委員 会」は存在せず、労使関係の調整には多大な負担と労力がともない産業の発展に少なからぬ影響を 及ぼしていた。EU東方拡大にともなう生産縮小と賃金低下圧力が高まるなかで、職場の労使関係 はしばしば深刻な対立を生むようになっていた。そしてそれはナバーラ工場にあっても例外ではな かったのである。 こうして単一モデル特化戦略の弱点を露呈したVWナバーラ工場は、これまでの発展軌道の修正 の必要性に迫られたのである。 以上の課題を認識したVWグループがナバーラ工場の再編に着手するのは、2000年代初のことで あった。 第一にVWグループ全体のグローバル戦略を見直すなかで欧州ペリフェリ域の役割が再検討され た。すなわちEU東方拡大で編入された中・東欧諸国=新ペリフェリ域に「大量生産廉価小型車」 の製造を割り振り、 「非量産高品質小型車」をスペインに割り振る、いわば「製造モデルの棲み分け」 戦略を鮮明に打ち出したのである。これによりVWナバーラ工場では高品質・高級感に優れるモデ ルPoloの製造事業を強化すると同時に、同ブランド力保持に資する設計・デザイン機能の強化に取 り組んだのである。 第二に、新しい労使関係づくりに着手した。その際モデルとして活用されたのが2001年に設立さ れた独Auto5000GmbHにおいて締結された「5000×5000協約」17) の経験である。同協約は、製造 16) Fuchs(2008),p.225. 38 目標(ノルマ)達成に雇用者による自己責任制を導入し労働時間の弾力的設定を可能にすることを つうじて、賃金抑制(低労働コスト)と柔軟な労働編成の実現を図ると同時に、持続可能な雇用の 創出(確保)を目指したものである。いわゆるVW「5000×5000」協約は、ドイツの自動車業界に おける製造コストをチェコやポルトガルと同等の水準に押え、国際競争力に耐えうる企業立地条件 の改善を図る役割を果たしたと言われている。基本構想は「工場をヨリ柔軟にヨリ競争力あるもの にする」という点にある。VW経営陣は同協約モデルをスペインに導入することによって、労働の 硬直性を打破し工場の柔軟性を確保すると同時に新たな雇用の創出と競争力の確保を企てたのであ る。厳しい事業環境のなかで労働者・労働組合にとって新協約に合意することは工場と雇用を守る ための唯一の方法であった。ナバーラ工場では、2004-05年にかけて経営陣と労働組合との間で労 働時間の短縮と賃金の抑制を盛り込んだ新しい労使協定の締結に合意した。 4.2 小括:VWナバーラ工場再編の構図 VWナバーラ工場の事例から旧ペリフェリ域における産業再編の特徴として以下の諸点を指摘で きる。 第一に、ネットワークを構成する産業集積地域における事業再編は、自動車多国籍企業グループ による現地展開の経緯、進出事情等を考慮して遂行されている。再編は基本的に多国籍企業グルー プのネットワーク戦略に規定されるといえるが、中・東欧の登場によってコスト面での優位性が後 退したという理由だけで撤退や規模縮小に向かったわけではない。ナバーラ工場の再編事例でいえ ば工場開設にともなう雇用創出や産業振興など地域経済の発展への貢献度、現地生産車の販売等を つうじて培われてきたブランドや企業への信頼性の獲得・維持・向上など「地域への定着度」が考 慮されている。モジュール化の台頭によるサプライヤー構造の変化はあるものの、事業の継続・発 展にともなう地元部品サプライヤーの成長・集積が進展した結果、工場の閉鎖や移転にともなうダ メージは企業・地元双方で大きいと予想され18)、移転・規模縮小、スペイン地元市場向けモデルの 17) VW 「5000×5000」 協約とは、VW経営陣と産別労組IGメタル間で2001年8月に合意された新しい労使 協約である。「5000×5000」という名称は、協約内容が失業者5000人を一律に月収5000マルクの賃金 で雇用するという協約内容に由来する。すなわちVW社が新たに設立する子会社Auto5000GmbHにお いて、資格付与のための職業訓練教育を継続的に施しつつ新モデル車両製造のために失業者5000人を 一律に5000マルク/月賃金で雇用するという独自の賃金協約である。具体的には、製造については受 注関係で決定される製造台数等の目標を定め、その達成については雇用者による自己責任の原則が取 り入れられている。同原則により、雇用者の労働時間については通常の賃金協約とは異なる弾力性を 持たせることが可能となる。目標製造台数の不達成あるいは製品の欠陥についても雇用者の自己責 任で土曜労働を含む超過労働による労働時間の増加を認め、場合によっては法定労働時間(週60時間) の範囲内で時間増加を認めて目標達成を図ることとした。http://www.jil.go.jp/kaigaitopic/2001_12/ germanyP01.html 18) Aller et al.(2004)によれば、VWがナバーラ生産を他の地域に振り向けることを決定した場合、現 地雇用の2/3が失われ残り1/3は部品サプライヤーで働くことになるだろうと試算している。 39 輸入代替が困難になっていた事情は無視できなかった。さらにVW(経営陣)が現地での作業編成 や職業訓練などペリフェリ域で制度的に適応するための方法・体制について学んだことも戦略策定 を左右したと考えられる19)。長い操業の歴史に由来するこうした「経路依存性」を見据えることも ネットワーク内の産業集積地域の再編動向を理解するうえで必要不可欠な視点である。 第二に、ナバーラ工場の変貌は、生産ネットワークの再編に際して産業集積地域では事業機能 上の一段のレベルアップ、すなわち「高度化」が進展していることを示している。EU東方拡大後、 スペインでは高機能小型車や多目的車等の分野での生産特化や研究開発の強化という、いわば製品 面での「高度化」を軸にした事業再編を推進することでネットワークにおける独自の役割を見いだ そうとした。非量産・高機能高品質・小型乗用車の製造拠点として、そして商用車・多目的車両の 一大開発・製造拠点としての機能を追究することにより、汎欧州自動車生産ネットワークに有機的 に連結され必要不可欠な環として再編された。それが欧州第二の生産大国の地位の確保につながっ たと理解することができるのである。 EU東方拡大以前の西欧ネットワークにおいて低コスト生産拠点として比較優位にあったスペイ ンでは、東方拡大後(中・東欧地域が低コスト拠点として比較優位に立った後)は、非量産小型車・ 商用車・多目的車両の一大開発・製造拠点としての役割を強化し、製造事業に関する高度化が進展 している。高付加価値事業への特化を軸とする「高度化」(機能アップグレード)を追究する動き は、21世紀以降さまざまな事例によって裏付けることが可能である。たとえば日産バルセロナ工場 では、2003年から商用バンの製造事業が始動し、ルノーとの提携を強化するなかで、その後SUV・ ピックアップトラックの生産強化が進行している。また、欧州GMは、小型車製造事業については ポルトガル工場を閉鎖しスペイン工場への集約・強化に乗り出している。フォードもまた、マツダ との共同開発で誕生した小型車両の生産を日本に移転し、スペインでは商用バンベースの独自モデ ルの製造への特化を進めている20)。リーマン・ショックに起因する世界的経済・金融危機からの 回復が鮮明になりつつある今日でも、スペインでは柔軟化・弾力化を軸とする新しい労使関係の構 築をともないつつ事業拡張に向けた投資・雇用計画が相次いで打ち出されている(表4-3)。事業機 能上の「高度化」により進化を遂げたスペイン自動車産業は、EU東方拡大以降に形成された汎欧 州自動車生産ネットワークの不可欠な環として組み込まれ、着実な発展を歩もうとしているのであ る。 19) 「現地適応」に関する学習効果は新ペリフェリ域の中・東欧での製造事業展開に役立てられていると 考えられる。その意味でも旧ペリフェリ域での経験は経営に生かされる。 20) 大手組立メーカーのスペイン事業の動向については、日本貿易振興機構(2008)を参照。 40 表4-3 2012年以降に発表された自動車部門の投資計画・労使間合意 出所:日本貿易振興機構海外調査部(2013) 、125頁 5 むすびにかえて 欧州自動車生産ネットワークと国際分業体制の展開・変容に関する諸問題の解明に際して本稿の 分析が示唆する論点を指摘してむすびとする。 スペインが製品面の「高度化」をつうじて欧州第2の生産大国の地位を築くことに成功したよう に、 ネットワーク内の各産業集積地域は製品の多様化や新事業の分担等それぞれの事情に応じた「高 度化」を推進することによって競争上の優位を模索していると考えられる。これまでの知見を誤解 を恐れず敢えて図式的に言い換えるならば、廉価小型乗用車の大量生産とならんで、高級車の少量 生産とR&D機能を事業の中核として整備・拡充する動きが進む中・東欧の場合、「高度化」は機能 面を軸に推進されているとみることができる。ヨーロッパにおける自動車生産ネットワーク再編の キーワードとして注目すべきは産業集積地域の「高度化」である。 また、旧ペリフェリ域の拠点再編は、立地に関わる比較優位性を見直す取組みとして理解できる。 スペインの場合、EU東方拡大に起因する地殻変動は、大手自動車多国籍企業をしてコスト面での 優位性を高品質製品の製造やブランド力といった産業集積にもとづく立地面での優位性に置き換え る営みを追究させたのである。現在もEU市場圏の拡張が続くヨーロッパは、比較優位性の絶えざ 41 る変化が生じている空間と理解できる。欧州自動車生産ネットワークの構造と展開を明らかにする ことは国際分業理解の基軸ツールである比較優位性概念のいっそうの発展を要請している。 欧州自動車生産ネットワークのダイナミズムの特質は、ネットワーク内での空間的再配置をつう じた機能再編と地域・企業間分業再編ならびにネットワーク構成各地域の「高度化」の進展にある。 産業集積地の高度化は、 同地域のネットワークへの連結とその内部でのグレードアップ(地位改善) が指向されることによって進展し、高度化をつうじた機能・地域間相互補完のありようが生産ネッ トワークの競争力を規定する21)。欧州自動車生産ネットワークは産業集積地域の「高度化」をつう じて絶えず変容・進化する国際分業モデルとして捉える必要がある。 不断に進化する柔軟で強靱な欧州自動車生産ネットワークは、ヨーロッパの地域統合の進展にと もないさらなる進化を遂げる可能性を秘めている。2010年代に入りルーマニア、セルビア(新・新 ペリフェリ域)で自動車事業の躍進が始まるなど、EUを軸にした地域間の経済的結びつきは、東 はロシア、南は北アフリカ・地中海沿岸諸国にまで及ぶからである。 以上をふまえつつも、本稿の射程を超える問題として下記のような点に留意する必要がある。第 一に、 生産ネットワークを構成する各産業集積地域の産業特性の時系列的変化に関する疑問である。 ヨーロッパでは「製造モデルの棲み分け」による分業が追究されている点を指摘したが、事業を取 り巻く環境が変化した時(加盟国数の増大)に従来の安定的な分業パターンはどのような変化を示 すのかという問題が未解明のままである。第二に、EU東方拡大で低賃金活用型拠点として中・東 欧と競合したスペイン(旧ペリフェリ域)は、地域特性を生かした「高度化」を追究することで空 洞化を免れ生産水準を保持しネットワークに不可欠の環として再編されたが、ネットワーク化がさ らに進展し同様の機能が他の地域で担われるようになった場合、スペインはどう対応するのだろう か(分業パターンB(図1-1)の分析) 。さしあたり自動車関連事業の拡充が見込まれるルーマニア 等の新・新ペリフェリ域が台頭することで、スペインは次にどのような役割を担うことになるのだ ろうか。またその場合、どのようなプロセスを経て産業再編を遂行し分業機能の役割変化を遂げる のだろうか。産業集積地のありようは基本的に自動車多国籍企業のネットワーク戦略に規定される とはいえ、現地の産業事情や政府の振興策などいわゆる「経路依存性」にも影響されることはスペ インの事例から明らかである。よって現地展開の歴史が長くなればなるほど産業再編もヨリ複雑に なることが予想されるが、ネットワークの進化・発展にともなう分業再編の困難はどのようにして 調整・克服されるのだろうか。これらについては別途検討する機会を持ちたい。 21) た とえば独フォルクスワーゲンは中東欧進出先発組のメリットを最大限に活かした大胆な拠点構築 を展開し、欧州全体を見据えた広範な分業ネットワークの形成を着実に推進している。仏ルノーも またルーマニア(Dacia、ロガン)を新興国対応=世界戦略車モデルの展開拠点と位置づける戦略を 本格化している。ヨーロッパの有力メーカーは各社独自の広域生産ネットワークの形成・活用を梃 子にグローバルな競争力の強化に取り組もうとしている。この点については、拙稿(2014)を参照。 42 (附記)本稿は科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金(基盤研究(C):課題番号 23530263)の助成を受けた研究成果の一部である。 参考文献 Aller, A., R. 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の輸入確保と技術協力をめぐる日中双方の思惑を多面的に検討しながら、競争と補完という多層的 性格をもつ日中経済関係の実態を明らかにしたい。 本稿の構成は次のとおりである。まず第1節では日中レアアース交流会議開催前の業界状況、と くに日中レアアース産業の交流実態について概観する。次に第2節では資源確保と技術協力の引き 換え構想に対する日本側業界の態度について検証する。続いて第3節では日本側の技術協力に対す る中国側の期待と日中双方の思惑のずれについて分析する。最後にこれまでの研究内容をまとめ、 若干の結論を引き出したい。 一 日中レアアース交流会議開催前の業界状況 1 1980年代世界レアアースの需給構造 周知のようにレアアースとは周期律表のランタノイド系列に属する15元素にイットリウム、スカ ンジウムを加えた17元素の総称である。これらの元素は便宜的に軽希土、中希土、重希土に区分さ れる場合がある。第1図は採鉱から金属・合金までの希土類製造の流れを示している。まず採掘し た原鉱石を選鉱するが、レアアースを含む鉱石は主にモナザイト、バストネサイト、ゼノタイムと イオン吸着型鉱の4種類である。次に酸分解、アルカリ分解などの鉱石処理によって得られる精鉱 として粗塩化希土、イットリウム精鉱、混合希土酸化物(イオン吸着精鉱)がある。それを簡単に 45 分離した粗分離中間体として軽希土精鉱、Sm-Eu-Gd(サマリウム・ユウロピウム・ガドリニウム) 精鉱、中重希土精鉱がある。次に液液抽出やイオン交換樹脂などによって単一希土の分離精製が行 われ、分離希土酸化物が得られる。レアアース元素の化学的性質がよく似ているため、その相互分 離と高純度化に高度な技術が必要で、D2EHPA、PC88Aなどの高性能溶媒抽出剤やEPTAのよう な錯化剤が開発された。なお、経済性を考慮せずにこれらの方法によって分離操作を繰り返して行 えば、さらに純度の高いものを調整することが可能という1。 第1図 採鉱から金属・合金までの希土類製造の流れ 採鉱 原鉱石 選鉱 モナザイト、バストネサイト、ゼノタイム、イオン吸着型鉱など希土鉱石 精鉱 塩化希土、イオン精鉱(混合希土酸化物)、イットリウム精鉱 粗分離中間体 軽希土精鉱、Sm-Eu-Gd精鉱、中重希土精鉱 分離・精製 分離希土酸化物、その他塩類 金属・合金 分離希土金属、合金 出所)中村繁夫「レアアース」 『工業レアメタル』No.94、1988年、25ページより作成。 第1表は1980年代における世界レアアース鉱石の生産量推移を示している。 モナザイトはその生産量の半分前後を占めるオーストラリアのほかにブラジル、インド、マレー シアとアメリカが主な生産国であった。オーストラリアの西部で生産された鉱石は主にフランスの レアアースメーカーであるローヌ・プーラン社に供給していた。インドのモナザイトは主としてヨー ロッパ、一部は日本に輸入されていた。 バストネサイトは、アメリカと中国がそれをほぼ独占的に生産していた。アメリカでは、マウン テンパス鉱山を所有するモリコープ社がバストネサイト精鉱、セリウム濃縮物などを生産し、国内 と海外の両方に供給していた。一方、中国では、包頭鋼鉄公司が白雲鄂博(バヤンオボ)で産出さ れる鉄鉱石の副産物としてレアアースの原料と中間生産物を生産し、中国国内消費のほか、海外へ の輸出を行っていた。 軽希土を多く含有するモナザイトとバストネサイトとは異なり、ゼノタイムは中重希土の組成比 1 長谷川良祐「レア・アースの高純度化」『金属』1988年1月号、52-53ページ参照。 46 第1表 世界のレアアース鉱石の生産量 単位:トン 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 計 20,986 18,047 27,686 31,284 36,838 34,341 27,003 豪州 13,282 9,562 15,113 16,260 18,735 14,822 12,127 計 33,820 39,203 38,495 55,545 39,059 38,270 53,020 バストネサイト 米国 28,470 29,180 28,470 42,190 22,380 18,490 27,850 中国 5,300 10,000 10,000 13,330 16,670 19,770 25,170 計 121 128 72 478 1,328 214 74 合計 54,927 57,378 66,253 87,307 77,225 72,825 80,147 鉱石別 モナザイト ゼノタイム 注)1987年の合計にはウラン鉱石の50トンが含まれている。 出所)社団法人新金属協会編『レア・アース』新版、1989年、54-55ページより作成。 率が高い。マレーシアとオーストラリアが主な供給源であったが、生産量は少なかった。なお1980 年代に中国江西省南部でイオン吸着鉱が発見された。中重希土を多く含有するため、ゼノタイムを 代替する鉱山として大いに注目されたが、当時それに関連する情報は少なかった。 このように1980年代においてはアメリカ、中国のほか、オーストラリア、ブラジル、インドがレ アアース鉱石の主要供給先であった。 他方、レアアースは単体または混合物で、また化合物あるいは金属として使用され、用途は金属 工業、ガラス、電子工業、触媒などの多分野にわたる。レアアース製品の主な消費市場はアメリカ、 ヨーロッパと日本などの先進国であった。 アメリカの年間消費量(1981-87年)はそれぞれ20,000トン、17,100トン、19,600トン、21,400ト ン、12,100トン、11,800トン、9,400トンで、1984年をピークに減少していた。それは最大の需要であっ た石油触媒が1984年12,626トンから翌年に5,566トンに大幅に減少したことによる2。 ヨーロッパではレアアース資源を持たないため、業界最大手のローヌ・プーラン社がオーストラ リアなどで原料を確保しながら、フランス、アメリカ、オーストラリアと日本に工場を持ち、世界 的規模でレアアースの生産販売を行っていた。各地域の需要構成に応じて、軽希土を欧米で売り、 中重希土を日本に優先的に供給した。 2 日本のレアアース産業 1988年10月現在、日本の主要レアアースメーカー9社が新金属協会希土類部会に所属していた。 三徳のようなレアアース専門メーカーもあれば、信越化学工業や新日本金属化学、東北金属化学の ようにレアアースをその事業の一部とする化学メーカーもある。また日本イットリウム(三井金属 2 社団法人新金属協会編『レア・アース』新版、1989年、314-315ページ。 47 工業) 、日本レア・アース(住友金属鉱業) 、日産稀元素化学(三菱化学)、セイミケミカル(旭硝子) のように大手メーカーの子会社として設置されるものが多い。 日本は戦後レアアース産業の需要拡大の研究開発をリードしてきた。最初はレアアース各元素の 単一分離が比較的難しく、アークカーボン用フッ化希土、鉄鋼添加あるいはライター石の原料とし てのミッシュメタルなど混合物としての用途に限られていた。1960年代以降、単体分離の技術が進 み、主としてガラス産業用途に軽希土(研磨材に酸化セリウム、光学ガラスに酸化ランタン、ガラ スの消色に酸化ネオジムなど) 、カラーTVやランプの蛍光体に中重希土(酸化イットリウム、酸 化ユウロピウム)がそれぞれ用いられ、さらに希土類磁石としてサマリウム・コバルト系、次いで ネオジム・鉄・ボロン系と新しい用途が次々発見された。 第2表が示すように日本のレアアース需要は1980年の2,152トンから1988年の5,041トンへと2倍 以上に増加している。そのうち、酸化セリウムへの需要が最大で、例えば、1988年は3,100トンに 達していた。また酸化イットリウム、酸化ユウロピウム、酸化サマリウム、その他希土類のように 中重希土が多く含まれていた。欧米の需要に比べて日本市場の需要は日本の電子機器・電子部品の 伸びに支えられ、磁性材料や蛍光体材料に代表される中重希土を中心とするエレメントに偏重して いるためである。 第2表 日本レアアース需要の推移 単位:トン 1980 年 1982 年 1984 年 1986 年 1988 年 酸化イットリウム 120 100 210 230 270 酸化ユウロピウム 2 2 8 9 11 酸化ランタン 300 180 280 350 400 酸化セリウム 1,300 1,640 2,200 3,150 3,100 430 330 290 300 230 酸化サマリウム 250 350 370 その他希土類 200 410 660 3,438 4,799 5,041 ミッシュメタル 合 計 2,152 2,252 注) 「その他希土類」にはフッ化希土、酸化ネオジム、酸化プラセオジム、酸化ガドリニウ ムなどの数量を含む。 出所)金属鉱業事業団資源情報センター『レアアースデータブック』1988年10月15日、48ページ。 なお、1988年のデータは日中レアアース交流会議の提出資料により作成。 と こ ろ が、 日 本 に レ ア ア ー ス 資 源 は な く、 ほ ぼ す べ て 輸 入 に 依 存 し て い た。 日 本 の レ ア ア ー ス 輸 入 は バ ス ト ネ サ イ ト、 粗 塩 化 希 土、 イ オ ン 吸 着 型 精 鉱、 サ マ リ ウ ム・ ユ ウ ロ ピ ウ ム・ガドリニウム濃縮物、その他軽希土濃縮物などから国内で分離精製される粗原料と、分離希土 48 として輸入されるものに大別される。 第2図は1986年の日本レアアース産業のフローを示したものである。それによると、日本はレア アース原料(中間原料を含む)について鉱石2,000トン、粗塩化希土4,554トン、希土化合物2,972ト ンをそれぞれ輸入している。その輸入先について鉱石はアメリカ、粗塩化希土は中国、アメリカ、 インド、ブラジル、希土化合物はアメリカ、中国、フランス、インドとなっている。希土化合物は 中国から639トンでアメリカより少ないが、サマリウム、ユウロピウム、イットリウムの高含有原 料など中重希土濃縮物が多く含まれている。 第2図 レアアースフロー図(1986年ベース) 原料 鉱石 バストネサイト 輸入 2000MT 中間原料 粗塩化稀土 輸入 4554MT 中国 2899MT インド 990MT アメリカ 457MT ブラジル 200MT 稀土化合物 輸入 2972MT アメリカ 1411MT 中国 639MT フランス 611MT インド 177MT 中間製品 主要製品 金属稀土 輸入 132MT 中国 83MT ブラジル 33MT ミッシュメタル 300MT 酸化稀土 輸入 1062MT 酸化イットリウム 輸入 448MT 中国 393MT フランス 40MT 酸化セリウム 輸入 411MT アメリカ 341MT イギリス 38MT フランス 31MT 酸化ランタン 輸入 203MT フランス 190MT 酸化ネオジム 輸入 181MT フランス 155MT アメリカ 26MT 酸化サマリウム 輸入 134MT フランス 98MT アメリカ 19MT 中国 11MT 酸化ガドリニウム 輸入 20MT 酸化ユウロピウム 輸入 7MT 蛍光体 200MT セラミック 300MT 研磨材 1500MT 光学ガラス 触媒 300MT 磁石 150MT 注) 原料、中間原料、中間製品の数量はマテリアル量、主要製品の数量は純分推定量 出所) (社)新金属協会発行 メタルフローチャート 一方、分離希土製品について酸化ネオジム、酸化サマリウム、酸化セリウム、酸化ランタンなど はフランス、アメリカからの輸入が多い。ただし、酸化サマリウムは中国から11トンの輸入実績が あった。他方、酸化イットリウム(含濃縮物)についてはその輸入の448トンのうち、393トンが中 国産である。また金属希土(ミッシュメタルが中心)は中国から83トンを輸入していた。全体とし て分離製品の輸入比率は年々増加傾向にあった。中国からの分離希土製品の輸入は品質のばらつき 49 があり、まだ本格化していない。 このように日本は原料または中間原料の輸入が圧倒的に多い。輸入先の多様化を図ろうとしてい るが、 中国への依存度が高まっている。そして酸化物の輸入について中国からは酸化イットリウム、 アメリカからは酸化セリウム、フランスからは酸化ランタンにそれぞれ特定している傾向がみられ る。 3 中国のレアアース産業 中国のレアアース産業は1950年代にはじまり、本格的に世界市場に参入してきたのは1978年の改 革開放政策導入以降のことである。当時の同国レアアース鉱石は三つに大別される。一つ目は包頭 白雲鄂博鉱山の鉄鉱石の副産物として産出されるバストネサイトである。包頭鋼鉄公司、甘粛稀土 公司ではバストネサイトを主原料として、粗塩化希土、各種分離希土、各種レアアース合金を生産 していた。二つ目は広東省、湖南省で産出されるモナザイトである。広東省の陽江、湖南省の桃江 などには希土精製工場があり、粗塩化希土、各種分離希土を生産していた。比較的小規模な鉱山で サマリウム等の中重希土の比率が高い。三つ目は江西省に集中するイオン吸着型鉱である。イット リウムリッチの龍南タイプと、ユウロピウムリッチの尋烏タイプに大別される。昌隆稀土公司や九 江冶錬廠など、同鉱石を原料とする数多くの分離希土工場が高純度酸化イットリウムほか多くの分 離希土中間製品を生産していた。 なお、大規模希土精製工場としては上記以外に上海躍龍化工廠、珠江冶煉廠があり、各種原料を 使用して高純度分離製品を生産していた3。 これらの工場は有色金属工業総公司か冶金工業部の所轄であった4。内閣にあたる国務院に稀土 領導小組が設けられ、その執行機関として稀土開発応用指導小組弁公室が設置している。 ところで、中国のレアアース生産は1983-87年の4年間だけで3.8倍に増え、レアアース酸化物 換算で1987年に15,000トンに達し、世界一の生産国になった。一方、同時期における国内消費は1.9 倍の増加にとどまっていた。それが輸出依存と在庫累増を招いたといわれる。また国内消費は冶金 用66%というように付加価値の低い品種が圧倒的に多く、日本とは全く逆の市場パターンであった。 ともあれ、このように急成長してきた中国のレアアース産業は世界のレアアース産業に影響を及 ぼした。自前の鉱山を持つモリコープ社はコスト高で減産を余儀なくされ、またローヌ・プーラン 社は独自の分離精製技術を用いて中国への進出を計画し、他方、中重希土の供給をローヌ・プーラ ン社に依存してきた日本のレアアースメーカーはイオン吸着鉱が発見された中国に供給ソースを求 めるようになった。 3 同上、334ページ。 4 もともとレアメタル関係の行政機関は冶金工業部であったが、1983年に有色金属工業総公司が同部から 分離独立したため、冶金工業部は鉄鋼生産のみ所管することになった。ただ、傘下に包頭鋼鉄公司があ るため、希土類の生産も一部所管している。 50 4 強まる中国側の対日攻勢 中国と日本のレアアース分野での付き合いは1970年代前半より始まり、イオン吸着型鉱が紹介さ れた80年代に入って三井金属、三徳金属、信越化学などはそれぞれ鉱山元と契約を結び、原料ソー スの確保に奔走していた。レアアースはバランス産業と呼ばれ、鉱石中に各元素がほぼ一定の組成 で含まれ、ある特定の元素に対する需要が増えても、その他の元素が有効に利用されないとコスト 高となるため、レアアースメーカーとしても多量に安定して供給する体制が取りにくいという問題 がある。つまり、需要の多いイットリウムなどの中重希土を供給するためにより多くの軽希土を産 出せざるをえなかったのである。この希土産業のアンバランスの穴を埋めたのは中国のイオン吸着 型鉱である。 中国のレアメタル輸出は有色金属進出口総公司(有色金属工業総公司系統)、冶金進出口総公司 (冶金工業部系統) 、五金鉱産進出口総公司(対外経済貿易部系統)の3公司が主に取り扱ったが、 1984年あたりから地方分権化の流れに伴い、地方の希土公司が設立され、地方の希土工場の製品輸 出に乗り出した。 第3表が示すように中国からの輸入数量は年によって大きな変動がみられる。また中国からの塩 化希土の精鉱輸入は年々減少し、かわって「その他レアアース」、すなわち中重希土濃縮物を含む 中間品は飛躍的に増加していた。そして中国産分離希土は数量的にはまだ少ないが、日本への輸出 が少しずつ増えてきた。 第3表 中国からのレアアース輸入数量推移 単位:トン 1984 年 1985 年 1986 年 1987 年 1988 年 2,272 4,557 2,899 1,497 1,548 183 428 393 330 593 酸化セリウム・酸化ランタン 2 0 0 1.7 40 希土金属 4 7.8 83 213 371 54 150 639 1,346 3,179 2,520 5,143 4,014 3,388 5,731 塩化希土 酸化イットリウム その他レアアース(含濃縮物) 合 計 出所) 『工業レアメタル』No.97、1989年、92ページより作成。 このような対日輸出商品構成の変化は中国側の供給事情と産業政策を反映している。中国のレア アース生産は包頭では比較的に集中しているが、江西省南部では、イオン吸着鉱の特徴もあって分 散していた。その乱掘が生産の拡大と供給過剰をもたらし、やがて輸出の安値攻勢につながった として輸出数量の制限や、最低輸出価格の導入、輸出窓口の集約などの措置が導入された5。また 1987年の春季広州交易会においてイットリウムの新規契約が一時停止の措置をとられるなど、不安 51 定な供給事情があった。 他方、中国は原料輸出を抑え、極力付加価値の高い製品を輸出することを国策とし、増大するカ ラーテレビや電子機器用ハイテク材料の国内需要にも対応していくため、上流の鉱山開発・選鉱・ 製錬は自力でやり、遅れている中・下流の精製・加工・利用についての技術、設備を海外から導入 する方針を打ち出している。 当時の中国は貴重な資源であるレアアースを輸出して外貨を稼ぐことが急務であったが、最大の 購入先である日本への安定供給を行うかわりに日本から技術協力を引き出し、輸出製品の高付加価 値化、ひいては産業構造の高度化を図りたい方針であった。 たとえば1985年9月に中国初の「レアアースの開発・応用国際会議」が開催され、レアアースを 国家戦略の柱の一つに育てようという中国側の期待が強かった。そこで「原料は欲しいが、技術は 出したくない」という日本側に対して、中国側は「原料が欲しいなら技術をもっとオープンにすべ きだ」と牽制した6。他方、日本側は「中国はレアアースの原料よりも加工度を上げた製品を輸出 する方針だが、輸出の80%以上は原料、または中間品という現状は、今後2、3年は大きな変化は ないし、また高純度品を輸出するようになっても中国は資源が豊富なので原料輸出は続く」として いた7。 また日本側では日中貿易のインバランス解消のため日本の中国産品輸入拡大を主目的として1986 年9月に日中貿易拡大協議会を設置し、その金属鉱産品部会が中国のレアアース輸出政策を確かめ るために87年11月に希土訪中団を派遣した。そこで中国側は「日本のレアアース総輸入量のうち中 国産のシェアはまだ低い。中国産品の購入をもっと増やしてほしい」と長期の対日安定供給を表明 する一方、これまでの鉱石輸出から製品輸出へと極力付加価値を高めたいとしており、製品高度化 のための日本の技術協力を求めていた8。 政府ベースで中国と資源関係の技術協力を最初に実施したのは安慶銅山の立坑掘削に伴う精密探 鉱調査に関わる技術協力(1981年度)であった。また1980年5月28日に日中両国政府によって締結 された「科学技術分野における協力に関する日中協定」に基づき、科学技術庁金属材料技術研究所 は中国研究機関との間で鉄鉱石に含有するレアメタル元素の有効回収利用に関する共同研究を実施 していた。 また1987年北京有色金属研究総院が再三にわたり、提案してきた超電導材料などレアアー スの共同研究に対して金属材料技術研究所が日中科学技術協定によるレアアースの高純度化、応用 加工の技術研究を共同で進めることに原則的に合意したという9。 そして「中国から日本に、 合弁によるレアアース一貫工場建設の商談が相次いで寄せられている。 5 1987年7月13日対外経済貿易部と国家経済計画委員会「関于稀土出口問題的通知」。 6 『レアメタルニュース』1985年9月24日、1ページ。 7 同上、1985年11月24日、8ページ、中国有色金属進出口公司担当者の発言。 8 同上、1987年12月8日、1ページ。 9 『工業レアメタル』No.94、1988年を参照。 52 いずれも日本に資金と高純度品の精製技術の供与を求めている」。「数年前から交渉が続いている合 弁計画もあるが、ほとんど最近になって日本に持ち込まれているもので、……免減税などの合弁・ 合作優遇措置が取られている経済開放都市(14の省・市)のほぼ全部からレアアース合弁計画が日 本の商社、メーカーに持ち込まれているという」10。 このように中国の政府、研究所、産業界から日本に対する技術協力の要請が押し寄せてきたので ある。世界のレアアース資源埋蔵量の80%を占めるとされる中国と、レアアース応用の先端を走り、 最大の顧客である日本は単なる売り買いではなく、それを超えた安定的な関係の構築を意識する段 階に突入したのである。 二 日中レアアース交流会議の開催に向けた日本国内の合意形成 1 通産省による資源と技術の引き換え構想 レアアース産業は日本のお家芸とされ、レアアースの用途に関する研究開発が進むにつれ、その 原料の安定輸入が課題であった。とくに1980年代に日本では新素材が注目され、中重希土の需要が 高まり、それに拍車をかけたのは折からの超電導ブームであった。「1986年11月頃から始まった超 電導フィーバーはまさに産業革命前夜といった様相で、その興奮ぶりは狂乱に近い状況であった」 11 。ランタン系からイットリウム系に代わり、超電導材料への中重希土の利用が急速に開発された ため、中重希土の供給不足が懸念された。たまたまその前に中重希土の組成比率が高いイオン吸着 型鉱が中国で発見されたので、中国からの安定的輸入が緊急的課題とされた。 他方、その中国が1986年度に複数地域でのレアメタル資源調査に対する日本の協力を要請してき た。通産省としても中国レアメタル資源の有望性が高いこと、およびレアメタル資源開発への期待 が日中双方に強いことから、 「資源を持たないわが国としては、技術協力ベースなどで相手国の要 請に応え、友好関係を深めることが重要である」12との認識を持ったのも自然の流れであった。 そこで、1987年8月通産省鉱業審議会鉱山部会はレアメタル総合対策の中で新規事業として超電 導用レアアース資源確保策を打ち出した。レアアース資源に関する情報交換を行うために中国との 連絡協議会の設置(1千万円)と、 中国とレアアース共同開発(選鉱、分離回収、精製などの技術協力、 試験設備設置も、2千万円) 、国内鉱床からの回収技術開発(1億円)、世界の賦存状況の実態把握(1 千万円)の4項目を実施するとした。それを受け、通産省は同年末1988年度新素材予算請求を行い、 その結果、若干の減額で発電機用超電導材開発の予算(超電導レアアース技術開発1.37億円)が認 められた。 10 同上、1988年4月16日、1-2ページ。 11 前掲『レア・アース』298ページ。 12 通産省の中国メタル対策、前掲『工業レアメタル』No.94、6ページ。 53 2 日中レアアース交流会議の提案をめぐる業界内の賛否両論 このような通産省の方針について業界誌『レアメタルニュース』は1988年1月1日新年号に特集「日 中のレアメタルでのつき合い方」を組み、座談会という形で業界関係者の意見を紹介した13。 日中レアアース交流会議の開催に賛成する側は日本側の技術協力にも前向きであった。たとえば、 中川龍一(科学技術庁金属材料技術研究所長)は「日本は中国から資源をもらい、かわりに中国が 必要とする技術を出す。双方ともに利益を得ることが友好関係を長く維持するのに大事なことだ。 資源や技術もやはりギブアンドテークが必要だ」 。「日本が技術協力をしなければ欧米諸国が出すだ ろう。ただ、最先端の技術はどの国も出さない。互いのにらみ合いが続く難しい問題だ」と付け加 えている。 また金子秀夫(東海大学教授)は「鉱石が減って中間品や完成品が増えるのは発展途上にある国 では当然の成り行きだ。それを抑えることはできないし、世界全体にとってもよくない」。「川上だ ろうと川下だろうと日本が出すべき技術は出して中国の発展に協力する姿勢が必要だ」。ただ「日 本の技術は中国よりさらに先へ進んでいることが必要で、そうすれば中国と競合しなくなる」とも 説いている。 それに対して企業側からは、日中レアアース交流会議の開催目的が「超電導材用原料確保という が、不確実性が高い。超電導は夢のある技術だが、まだ開発に着手したばかりの技術で、原料も確 定したわけではないのだから、資源対策を急ぐのは少し早すぎる」と慎重な意見が多かった。また 中国側が要求する日本の技術は需要家と共同開発した特殊技術であり、それを出すということは「お 客をそっくり差し上げるのと同じことで、その技術を絶対に売るわけにはいかない」と技術協力に 反対している。あるいは「技術協力は探査、採鉱、選鉱、そして中間物をつくる製錬までが限度で はないか。精製、加工は限定的に出すことはあるだろうが、全面的に出した場合には、直ぐにいい ものを生産できる自信がない」と中国側の技術消化能力の不足を指摘する声が多かった。 3 超電導用レアアースの施策内容説明会の開催 業界の意向を察知したのか、通産省資源エネルギー庁鉱業課は1988年2月に業界の理解と協力を 得るために1988年度超電導用レアアースの施策内容説明会を行った。その時に説明した施策内容と 予算額は以下のような内容になっていた。1.超電導用レアアースの供給可能性調査(1600万円)、2. 日中レアアース連絡協議会(900万円) 、3.国内鉱石からレアアース回収の技術開発(9500万円)、 4.レアアースの高効率回収技術の日中共同開発(1800万円)。各事業は金属鉱業事業団に委託し、 各民間企業と共同で実施することになる。 この施策内容は1987年8月に通産省鉱業審議会鉱山部会が提案したレアメタル総合対策に比べ、 各事業の金額に変更があったほか、最大の修正点は中国とのレアアース共同開発(選鉱、分離回収、 13 ここの内容は前掲『レアメタルニュース』1988年1月1日より引用。 54 精製などの技術協力、試験設備設置も)の提案文言がレアアースの高効率回収技術の日中共同開発 に切り変わったことである。具体的には「中国のレアアース鉱物の代表的なものとしてはバストネ サイト及びイオン吸着型鉱などがあり、これら鉱物からのレアアース回収方法については酸または アルカリに溶解しやすい性質を生かした一応の回収技術が確立されているが、まだ改善の余地があ るものと考えられる。また中国で産出するレアアース鉱物の性状分析および回収技術の現状を把握 することである」14とあるように通産省は焦点となっている技術協力の内容について当初の提案を 大幅に修正したのである。 なお、その直前の1月に科学技術庁金属材料技術研究所がビスマス系を発表し、超電導材料の研 究はイットリウム系からビスマス系に移ったといわれた。しかし通産省は「レアアースが現在は高 温超電導用材料の主流と考えているので、計画通りに対策を進める」15とした。 そしてその後日中双方の折衝をへて日中レアアース交流会議の開催が決まった段階で通産省は再 度業者説明会を開いた。そこで「中国が要請している日本の技術協力については、日本側がこの会 議で情報を提供するが、具体的に決めることはない。政府は仲介しない。企業が個別に決めること だ」16との方針を明確に示した。 交流会議の開催決定を受けて業界誌『レアメタルニュース』は「日中交流会議に日本はどう対応 するか」をテーマに再度座談会を開いた。通産省は数年前まではレアメタルは政策になじまないと していたのに、なぜこの時期に数あるレアメタルの中でレアアースだけを単独に取り上げ、中国と の交流会議を設けたのかとの質問に対して通産省の担当者は次のように回答していた17。 (1)レアアースを取り上げたのは確かに超電導材料の資源対策もあるが、レアアースはハイテ ク材として広い分野で重要性が増しているし、今後さらに重要度が高まる。 (2)日本のレアアース原料対策は中国一辺倒ではいけない。通産省は中国原料問題でコミット することは全く考えていない。通産省は世界レアアース資源の業界の共同調査実施に予算 を計上し、レアアース供給の一極集中の回避、資源各国との交流を通じて対中交渉のバー ゲンニングパワーの強化をはかることにしている。 (3)交流会議は議論の内容はもちろん重要だが、中国とのレアアースに関する情報のパイプを 太く、しっかりさせようというのが通産省一番の目的である。中国のレアアース産業は群 小工場が乱立し、また流通経路も混乱して中国のレアアース鉱石、製品価格の暴落と品質 の不安定を招いた。イオン吸着鉱、イットリウム濃縮物の輸出総量規制、輸出窓口の一本 化による価格協定などの情報が流れたが、実態がよくわからないブラックボックス的な部 14 前掲『工業レアメタル』No.94、8ページ。 15 前掲『レアメタルニュース』1988年2月16日、6ページ。 16 同上、1988年7月8日、1ページ。出席者から「資源確保に必要な技術協力に政府の支援はあるか」との 質問に鉱業課松田憲和課長は「協力の内容によって対応したい」との態度を示した。 17 ここの内容は同上、「日中交流会議に日本はどう対応するか(座談会)」1988年7月16日を参照。 55 分が多い。レアアースは重要なハイテク素材であり、大きな変動があった場合、中国のど こに話をすればいいのかがわからないのでは困る。フランスのように輸出制限すれば明ら かにガット違反になるからガットに提訴することができるが、中国はガットに加盟してい ないから文句を言うところはない。 以上のような説明からわかるように通産省は交流会議の軸足を情報の交換と人脈の形成へ置くよ うにしている。これは当初の資源確保と技術協力の引き換え構想から大幅に後退したといわざるを 得ない。 ただ日本の業界は通産省の説明に完全に納得したわけではない18。第1回の交流会議が開催され たあとでもその開催の意義に疑問を呈する意見が多かった。たとえば以下の通りである19。 (1)政府間での情報交換は意義があるかもしれないが、通産省が特定商品を取り上げても実務 に介入できないので限界があるし、問題解決を困難にする恐れがある。中国の突然の値上 げや輸出課税などに対しては交流会議の効果は疑問だ。 (2)当初の設立目的の超電導材用原料確保という意義はその後ビスマスなどの出現もあり薄れ た。通産省は面子にとらわれず協議会を解散するのが最善。 (3)すでに中国とレアアース輸入問題を協議している組織に日中貿易拡大協議会金属鉱産品部 会があるので、政府ベースの会合は不要である。 4 新金属協会希土類部会の「三原則」 とはいえ、交流会議の開催が決まり、相手の中国が技術協力を求めている以上、通産省としては それに何らかの形で回答しなければならない。しかし技術を持つ企業側の意思を無視するわけには いかない。そこで、1988年4月11日に開催された希土類部会に通産省の関係者が出席し、交流会議 開催に関わる趣旨、構想、スケジュール等の原案を示し、部会としての意見を求めたのである。以 降、希土類部会の内部で6カ月に及ぶ調整作業が開始された20。 希土類部会は通産省の構想は理解できるものの、「近未来の糧を考える業界としては、各社資材 部門の購入政策も慮り、最初の中は、出来ればご免蒙りたいとするのが本音だった」という。 その後の希土類部会の会議では交流会議の開催をめぐる論議は白熱し、部会としての見解とりま とめは難航を極めた。やっと9月27日にこれまでの論点を整理し、10月5日鎌田資源エネルギー庁 長官が同席の下、中国の技術協力要請に対する新金属協会希土類部会の基本方針を確定した。 18 たとえば、「日中交流会議に日本はどう対応するか(座談会)」において次の発言があった。「当社の中 国との付き合いは従来通り続け、是々非々で行こうと思っています。中国側とはこれまでも原料はも ちろん技術上のことなども話しており、いまさらあらためて新しい人たちと話し合う必要は感じてい ない」、1988年7月16日3ページ。 19 同上、1988年11月1日、4ページ。 20 ここでの説明は宮林昭夫「第1回日中レアース交流会議のことなど希土類部会の思い出」 『新金属工業』 2002年秋号を参照した。 56 (1)レアアース精製分離は需要地精製主義 (2)資源国との関係は縦の国際分業 (3)分離精製技術の移転は行わない。但し、中間原料等の効率生産技術はこの限りではない。 以上が三原則と呼ばれる基本方針の骨子である。それをさらに敷衍した説明は次の通りである。 (1)レアアースは需要家との共同研究・共同開発によって作り上げていくもので、需要家ごと に発注スペックが異なっているうえ、技術革新によって品質高度化が速いテンポで進んで いる。需要家の要求を素早くかつ先取りし、即応していく必要がある。また指定日(時) 納品が要求されることなどから消費地精製が最も望ましい姿と考える。 (2) 中国はレアアース埋蔵量の80%を占める大資源国だから、上流の中間品までの生産にとど め、精製品の生産は需要地の国に譲るという国際分業に徹してほしい。レアアースは高純 度化といっても5N-6Nの高純度品がすなわち汎用品であり、少し努力すればどの国で も作ることができる。中国が本格的に精製品まで進出してくれば精製品のメーカーはつぶ れてしまう。中国は日本にレアアース原料としての鉱石や中間濃縮物を供給し、日本は需 要家の数多いニーズに合わせて分離精製するという役割分担が大切と考える。 (3)このタテの関係を維持するために、中国側に分離精製技術は出せない。これは需要家の厳 しい品質要求に応じるために、製造工場だけでなく研究開発部門も加わって需要家と共同 で開発した技術であること、また製品を分析評価する技術も開発しており、これらが1セッ ト揃わないと実用の分離精製技術とならない。このような1セットの技術は中国に出せな い。ただし、イットリウムコンセントレートとか、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニ ウムコンセントレートなどの粗精製までの技術協力は要求があれば応じたい。 三 日中レアアース交流会議の開催合意とそれに対する中国側の期待 1 中国側との事前折衝 ところで、通産省鉱業課長は1988年2月10日の政策説明会を踏まえて3月に訪中し、日本の計画 を説明した。レアアースの情報交流については基本的に合意しているが、技術交流、資源開発につ いてはまだ日中双方に意見のずれが大きく、日中レアアース交流会議を開催した場合に日本側が中 国に期待する資源確保と、中国が日本に期待する技術・資金協力の要求をどのような形で取り上げ るかが最大のポイントとされた。 そして交流会議の内容を最終的に詰めるため、浜岡平一資源エネルギー庁長官が5月3日に訪中 し、国務院稀土領導小組組長葉青と会談した。 「レアアースの流通、利用、技術発展等の分野にお いて交流と協力を強化するため、定期的に日中レアアース交流会議を開催」し、会議は日中双方の 官民合同会議とし、以下の点について交流することに最終合意した。 (1)レアアースの流通・貿易状況 (2)レアアースの需要動向、分離・精製・加工状況 57 (3)レアアースに関する技術開発動向 (4)レアアースの資源の賦存状況、生産状況 (5)レアアースの開発と利用に関する日中協力 (6)その他双方の関心事項 双方はここに掲げる(1)-(4)の項目についてまったく異存はなかったが、(5)の「レアアー スの開発と利用に関する日中協力」 の具体的内容と展開について意見の食い違いが明らかであった。 日本側代表団の一人、植田正明新金属協会理事長が中国側に原料供給の役割継続を要請したのに 対して、全国稀土開発応用指導小組弁公室白潔主任は「日本の事情は理解できる。しかし中国は原 料輸出ではなく付加価値を高めて輸出したい。下流製品を目指す方針である。そのため日本の援助 を希望する」と答えた。 「中国が政府ベースの交渉で、公式に日本に対しレアアース精製技術の協 力要請を行ったことが明らかにされたのは初めて。またこれは日本側の現状の役割維持(中国は原 料供給、日本は加工)の要請に対し、それに応じる考えはない方針を明確にしたもの」という21。 ただ、中国側は求める技術協力の中身を明らかにせず、「せっかく交流会議を設けたのだから、 そこで具体的な提案をしたい。それについて日本側の考えを教えてほしい」ということにとどまっ ていた。それについて浜岡長官は「それも断ると交流にならないので、協力できるものがあるかも しれないが、それは交流会議で話し合ってほしい」、「この交流会議は卵のふ化器のようなものだ」 と答えてその場をしのいだ。 ともあれ双方は交流会議の開催を優先させ、肝心な技術協力の中身を先送りしたのである。 2 日本の技術協力に対する中国側の基本立場とその具体的内容 以上のように長い準備期間を経て、第1回日中レアアース交流会議は1988年10月予定通り東京で 開催された22。 初日(10月17日)の代表者会合において中国側は予想通り、日本側の技術協力を改めて要請した。 「ただ資源を売るということだけではなくて、ほかの国との間で技術の協力と資源の取引を同時に 進め」 、その協力は情報の交換や、研究者の学術交流以外に新しい用途や応用技術の共同開発、資 金や経営の協力などさまざまな形やレベルがありうることを強調した。それに対して日本側は情報 交換の重要性を指摘し、そして植田正明新金属協会理事長が業界を代表して前述の三原則を披露し たうえで、中国側の輸出規制を取り上げ、牽制した。全くかみ合わない双方の発言に鎌田吉郎資源 エネルギー庁長官は「日本のレアアース業界の中に、中国との合弁なり技術協力を積極的に考えて いる企業がある可能性があるということまで否定している発言ではない」とわざわざ植田理事長の 発言を注釈するほどであった。 21 前掲『レアメタルニュース』1988年5月24日、8ページ。 22 ここでの内容は「第1回日中レアアース交流会議」資料を参照している。 58 翌日の全体会合において希土類部会宮林明生会長は「レアアースの需給動向」という講演の中で 再度「三原則」をより詳しく説明した。それに対して、李東生(中国稀土学会副理事長)はレアアー スの技術協力に関する中国側の基本方針を次のように提示した。 (1)レアアース資源の開発と利用について。資源の量に問題はない。新しい資源の探査は切迫 した仕事ではない。いかに合理的にレアアースを利用するかに重点を置くべきだ。 (2)レアアースの生産技術について。採鉱、選鉱、分解、分離、抽出技術など基本的な方法は 確立されてきている。ただし高品質に対する需要者の要求やどういったところにレアアー スが使われていくのかといったことによる品種、種類の問題、コストの引き下げ、またこ れらについて工業技術面の設備等の改善、検査の手段、方法等の改良、また中国国内外の 固定的な大型ユーザーの要求へのフィードバックと改善に取り組む余地がある。 (3)レアアース製品の生産と応用について。レアアース新素材はとても広範な可能性を持って いる。今後日中双方の協力していく重要な領域がここにある。 (4)レアアースの科学技術面における協力について。高純度のレアアース元素の精錬、その検 査方法、それに関連する計測機器等の設備、また各元素の物理化学性能、新しい機能と新 しい応用用途に関する長期的な協力研究が必要である。 この基本方針に基づき、中国の地方または業界の参加者から具体的な技術協力の分野を提案して いる。 谷力軍(江西省稀土弁公室主任)は日本側との協力分野について次の四つを挙げている23。 (1)三原色カラーライト粉、照明具の生産 (2)磁性材料及びその製品の生産 (3)人造宝石の熔錬 (4)研磨特殊な陶磁器製品の生産 また王嫻群(中国有色金属工業総公司副処長)は日本側との協力分野について次の三つを希望し ている24。 (1)レアアースの輸送部門、まず自動車産業分野での応用についての共同開発 (2)レアアースの建築産業分野での応用についての共同開発 (3)日本側の資金・技術・設備利用による共同研究システムの設立、レアアースの非鉄金属分野、 まずアルミニウム及びその合金分野での作用原理についての詳細な研究 このように中国側の提案はレアアースの応用分野に集中している。それに対して日本側は中国の 原料供給(第1図の粗分離中間体まで)のために必要な技術協力を行う、というように双方の考え はまったく一致しない。また交流会議において日本側は情報交換の重要性を強調し、中国側の輸出 23 谷力軍「江西省のレアアース開発応用の概況」を参照。 24 王嫻群「中国のレアアースの非鉄金属材料分野での応用と発展」を参照。 59 規制などを指摘して改善を求めた。一方、中国側はレアアースの輸出数量規制はしない。安定供給 するが、 付加価値を高めて輸出したい。そのための技術交流を深めたいと自分の立場を繰り返した。 結局、交流会議は「日中間にそれ以上の意見交換はなく、また来年秋に北京で開く予定の第2回会 議まで具体的な交流計画はない」25まま終了した。 3 中国側の分離精製技術の水準 上述のように新金属協会希土類部会は中国に分離精製の技術を出さないとの原則を示しているの に対して、中国側は日本側に分離精製の技術協力を求めなかった。それはなぜか。一体、当時中国 のレアアース分離精製技術はどの水準にあったのか。 レアアースの分離精製は最初、分別結晶法、分別沈殿法等の化学的分離法が採用された。その後 イオン交換膜クロマトグラフィ法(IX法) 、多段向流連続溶媒抽出法(SX法)の技術確立により、 このよく類似した元素を個々に分離精製し、それぞれの元素の特性を活かした用途が開発されるに いたった。 SX法では、当時「隣接元素間の分離係数が小さいので、高純度精製には30-60段あるいはそれ 以上のミキサーセトラーを必要とする精製に必要なミキサーセトラーの理論段数をコンピューター により計算で求める試みもあるが、統一した方式は完成していない」26。 中国ではレアアースの産地は分散し、しかもメーカーの数が多く、採用している分離技術とその 技術レベルが異なっていたといわれる。ただ、一部の高純度メーカーはSX法を採用し、その分離 精製技術が相当なレベルまでに達していたと考えられる。たとえば第4表が示すように1985年に中 国産研磨用酸化セリウムのテストは新日本金属化学に依頼し、また1986年に松中通商は上海躍龍化 工廠からイットリウム500kgを1kg2万円以下で輸入し、また同年上海躍龍化工廠、包頭鋼鉄公司が 酸化ネオジム、酸化ジスプロシウムを供給可能と伝えられた。 ただレアアースの抽出分離に使われる抽出剤PC-88Aは日本からの輸入に依存していた。「大八化 学工業所は高純度製品の独占的メーカーで中国は所要量の約80%を大八化学から輸入している」。 「1984年に中国向け輸出量が100トン以上とされるが、85年は外貨不足の影響で抽出剤の不足が深刻 化していた。中国では抽出剤の国産化を進めているが、量的に不足なうえ国産品は純度が低いとさ れる」27。しかし、その後国内の生産技術が向上し、1988年の段階になると、品質はPC-88A相当品 を開発し、年産800トンの規模に達したとの報告があった28。 25 前掲『レアメタルニュース』1984年10月24日、1ページ。 26 森孝夫「レアアース事業の概念とその特徴」『水曜会誌』第21巻第6号、406ページ。 27 前掲「レアメタルニュース」1985年11月24日、8ページ。 28 同上、1988年5月16日、2ページ。ちなみにその相当品を開発したのは中国科学院上海有機化学研究 所で、1986年5月に特許が認められたという。同誌、7月1日、3ページ。 29 ここの内容の出所は明示したものを除き、脚注17と同じ。 60 第4表 中国レアアース分離精製技術に関する報道抜粋 年別 報 道 内 容 1985 年 中国産研磨用酸化セリウムのテストは新日本金属化学に依頼 1985 年 大八化学工業所の抽出剤 PC-88A が中国高純度メーカーに大量輸出 1985 年 希土開発応用国際会議が北京で開催。日本側参加者のコメントによると、中国の 基礎研究は日本に少なくとも 20 年遅れているという。 1986 年 松中通商は上海躍龍からイットリウム 500kg を 1kg2 万円以下で輸入 1986 年 上海躍龍、包頭が酸化ネオジム、酸化ジスプロシウムを供給可能 1987 年 1987 年 中国湿式法によるレアアース製造は 13 工場、 Ba-Y-Cu-O など酸化物超電導、 Ne-Fe-B 磁石などの開発に成功 江西省昌隆稀土冶煉廠が重希土量産、蛍光体や磁石用程度の高純度分離希土の量 産技術は自力または一部海外技術の導入によってほぼ確立 1987 年 包頭稀土研究所はネオジム酸化物から純度99%の金属をダイレクトに回収 1988 年 中国は抽出剤 PC-88A 相当品を開発 1988 年 ネオジム磁石、中国の技術はすでに西側諸国のレベルに達しており、課題は再現 性のある磁石を製造する量産化技術の確立にある 出所) 『レアメタルニュース』各号より作成。 ところで、日本の業界関係者は中国の分離精製技術をどのように評価していたのか29。そのいく つかを紹介しよう。 ・上海躍龍化工廠は1960年に設立し、800段の抽出漕を有し、バストネサイト、モナザイトとイ オン吸着鉱からレアアースを分離精製する能力を持つ。1987年末現在、従業員1800人、製品は 300種類に達し、国内で使う蛍光塗料を独占生産している。「上海躍龍化工廠の分離精製技術は 世界でもトップクラスで製品の品質は日本でも高く評価していた」30。 ・中国のレアアースの技術はまだ不十分であるにしても上海躍龍化工廠が蛍光体用のイットリウ ム、ユウロピウムを日本やアメリカに輸出していることからみても溶媒抽出法などによる高純 度品の分離技術は確立しているといえる。 ・一般論で言えば日本ができる技術を中国でできないわけがない、時間をかければ一定の技術水 準に到達する。イットリウムも4、5年前はある種の不純物を中国では除去できなかった。日 本で再生成してやっと蛍光体に使える製品としていた。いまは再精製しなくてもそのまま使え る製品ができるようになった。ただそれがコンスタントではない。品質にばらつきが多い。こ 30 前掲『レア・アース』335ページ。 61 れは品質管理、工程管理に問題があるためではないかとみている。 ・中国はある程度の技術力は持っている。ただ日本と同じように一定の純度の精製品を安定して かつ経済的に生産する技術がどの程度あるか、情報はないのでわからない。 たしかに分離精製品の日本輸入がまだ僅少で、また中国側の情報が少なく、もっぱらサンプルか らの推測であったため、評価に個人差があった。ただ中国の分離精製の技術はかなりのレベルに来 ているが、日本に追い付くにはまだ数年先というのは当時業界の共通認識であった31。 一方、 中国側の自己評価はどうであったか。1987年に成立した18名の希土専門家グループが資源、 技術、産業と対外貿易の4分野にわたって行った政策提案の中で中国の希土産業は非常に優れた面 を持っている一方で、製品の品質が安定でないことのほか、価格が非合理、化工原料の供給に問題 がある点を指摘していた。またある中国の希土専門家によると、中国では希土分離工場は1980年代 初期の10社足らずから1988年に40社近く増えた。そして単一レアアースの生産量は1981年の20トン から、1987年の768トンに急増し、2300トンの生産能力を持っている。その溶媒抽出分離技術は先 進的なものである反面、設備の自動制御や「在線分析」の面において比較的遅れているという32。 また第1回日中レアアース交流会議の中国参加者の報告によると、中国では湿式精錬法で生産して いる工場は20数社、レアアース生産の能力は1987年に2万トンを超え、単一レアアースを分離する 能力は3500トンあるという。上海躍龍化工廠は大量な輸出を行い、中でも蛍光剤の酸化イットリウ ムについては国際的な評価も極めて高いものがある33。またすでに述べたように李東生中国稀土学 会副会長は中国で「採鉱、選鉱、分解、分離、抽出技術など基本的な方法は確立されてきている」 という興味深い見方を示している。 実は中国の分離精製技術はちょうどそのころ一つの転換点に差し掛かっていた。一つは抽出剤の 開発と、いま一つは効率的なレアアース分離精製の技術開発である。 抽出剤については中国科学院上海有機化学研究所によるP507の開発成果が顕著で、袁承業研究 員の貢献が大とされる。その結果1980年代後半にP507がレアアースの分離にもっとも使われる抽 出剤になった。他方、効率的なレアアース分離精製の技術開発(少ない段数のミキサーセトラーで 目的の純度が得られる)については北京大学化学学部の徐光憲教授の創造的研究成果に負うところ が大きいとされる。徐教授はレアアースの「串級萃取理論」(多段階抽出理論)と最適化媒介変数 の計算方法を提示し、その研究成果を『北京大学学報』1978年第1期に発表した。その後、同研究 グループは各地の分離工場と提携して串級萃取理論の応用に取り組み、その技術の普及に手がけた34。 31 2013年8月27日、今井康弘新金属協会事務局長への取材による。 32 馬鵬起「我国的稀土分離技術的発展」『稀土報告文集』冶金工業出版社、2012年、382-383ページ。こ この「在線分析」とは生産ラインにおいて分離中のレアアースの純度などを計測する装置を用いて品 質を改善していくことと考えられる。 33 曾天元「中国のレアアース産業の概況と発展」、第1回日中レアアース交流会議提出資料。 34 前掲「我国的稀土分離技術的発展」380ページ。 62 なお1988年、徐光憲教授と袁承業研究員の共著『稀土的溶剤萃取』が出版され、その研究成果の集 大成を見る35。 4 川下技術協力の要請に対する日本側の本音 通産省は資源確保と技術協力の引き換え構想を打ち出したものの、業者の反対に遭遇し、軌道修 正せざるを得なかったが、実は同省の中にさらに一歩を踏み込んだ考えがあった。すなわち最大の 応用市場である日本と、最大の原料供給先である中国というレアアース事業の構造について、中国 は原料、日本は精製という、希土類部会が主張する単純な分業で決めつけていいものか。「その水 平分業論は10年前ぐらいの、手あかのついた議論という感じで現在は300億円の市場規模でも今後 の発展を考えてもう一つ先の段階も読んだ対応の方法を考える必要」36がある。 つまり上流ばかりでなく、 下流からも中国との関係をどうするかをよく見て定めることが大切だ。 精製技術では両国に格差があり、 協力できるものとできないものがある。日本市場ばかりではなく、 たとえば中国市場を前提とした合弁とか、提携という形での対応と協力が不可欠となるという。 通産省がこのような考えを持っていたのに対して、日本の業界の立場は実際のところどうであっ たか。対中技術協力について希土類部会は業界の方針を示したが、その集約過程が難航したことが 示唆するように、会員の意見は一枚岩ではなかった。円高が進んで資源確保と、市場対策としての 海外シフトや国際分業の動きがレアメタルでも表面化し、従来の単純買鉱に拘ってきた日本のレア メタルメーカーは新たな対応を迫られてきた。 レアアースメーカー、とくに後発とされるメーカーの中には「第2段の拡張は中国」でという構 想があった。その背景にはデバイスメーカーの現地生産に伴う技術移転が挙げられる37。たとえば 化成オプトニクスが1988年4月に中国と蛍光体の技術の輸出契約を結んだ。レアアースなどを使う 蛍光体の技術供与は中国のレアアース生産技術を引き上げる効果がある。もちろん、カラーブラウ ン管用蛍光体といっても品質にはかなりの幅があるが、デバイス側が、どのレベルの技術を、どの 時期に出すかによって国内レアアースメーカーの需要に大きな影響を及ぼすことになりかねない。 「最近日本の蛍光体メーカーが少量だが安値のイットリウム、ユウロピウムなどを購入する動きが 出ているが、これは国内のレアアースメーカー間の価格競争を激化し、その経営体質を弱める方向 に作用し」ている。さらに、レアアース磁石でも日本からの技術供与による日中合弁の企業生産が 計画されていた。 35 『中国稀土発展紀実』2008年。なお徐光憲教授は「串級萃取理論」により、2008年中国国家最高科学技 術賞が授与された。 36 ここの内容の出所は脚注17と同じ。 37 レアアース蛍光粉の生産技術の中国移転はすでに認められたため、第1回日中レアアース交流会議の 工場見学施設に東芝堀川町工場のレアアース蛍光粉生産ラインが選ばれた。 63 しかし、日本のレアアースメーカーは資源大国であり、分離精製技術の向上が目覚ましい中国の ことを本能的に警戒していた。中国が日本に求めているのは日本のユーザー・ニーズ、つまり日本 のメーカーが需要者と協力して作り上げたマーケットノウハウと、日本で売れる製品をつくる技術 である。その供与は日本レアアース産業の自滅につながる道であるという38。 「資源国が川下を志向するのは当然の趨勢だが、その実現の時期と内容いかんでは我々に大きな 影響が出てくる。中国が日本市場に我々と同じ製品を持ち込んで競争することになると非常に困る わけで、中国が輸出第一で川下を志向するのではなく、国内市場を満たすのであれば問題はない。 日本に輸出することを第一の目的として技術を教えよというのは困る。それはできない。技術とマー ケットの両方をよこせということ」だ。 「中国が下流を目指すのが自然の流れで技術協力もするが、何から何までいっぺんにといわれて は困る。日本も変化に対応できる時間がほしい」 。「現時点では中国の形態が原料輸出型になってい るし、中国が今後製品市場の拡大とか精製加工の技術向上を図るといってもどこをどういうように するのか、中国の政策が少しもわからないのでは我々もあたらしい対応策を打ち出すことができな い」 。 現地生産は絶対にないということはない。中国が国内向けの製品をつくる新工場建設に日本の技 術協力を求めてきたらそれに応じる考えはありうる。ただ中国が工場を動かしたときに国内だけに 出荷先を限定するかどうかはわからない。だからレアアース業界が海外戦略をどうするかという全 体の基本方針、枠組みをしっかり決めておかないといけない。 また需要地生産から海外にシフトする産業は生産・売上高の規模がかなり大きくないと成立しな い。海外(原料立地あるいは低賃金、低エネルギー費など低コスト立地)での生産が有利であるか を検討するにしてもそれにはまず需要の見通しがそうなるかが先決である。 実際、円高の影響で中国から輸入するミッシュメタルやライター石が安くなり、国産品は被害を 受けている。ミッシュメタルでは鋳物用合金に使われているものの大部分が中国のレアアースシリ サイドに置き換わりつつある。ライター石に使われる中国品は性能が低いもので低級品分野は中国 品のシェアが高くなり、国産の高級品にも影響が出ている。 このように日本レアアースメーカーは相当な苦悩と葛藤を抱えていた。中国側が求める技術協力 の分野はすべての分野にわたる全方位的なもので日本側に脅威を感じさせ、日本側との棲み分けを 考えた戦略的なものではなかったし、また当時中国への現地生産にリスクが大きかったことも指摘 される。他方、中国のレアアース生産が過剰気味で、とくにハイテク分野において国内需要が少な いため、日本などへの輸出に依存せざるを得ない。中国の分離精製技術が向上しているが、全体水 38 第1回日中レアアース交流会議の歓迎レセプションにおける私的会話の中で、ある日本のレアアース 企業の責任者が「中国にレアアースの分離精製技術を譲渡すれば、日本のレアアース企業は倒産する」 と言ったという。馬鵬起「日本稀土工業的動態」『稀土報告文集』冶金工業出版社、2012年、517ページ。 64 準が日本に追いつくまでまだ数年かかると判断した日本レアアースメーカーは日本ユーザーへの製 品供給と国内市場の死守を至上命題とし、中国に分離精製技術を出さないという強気な選択をあえ てとったと考えられる。 結び レアアースは日本の新素材産業にとって不可欠な資源だが、日本国内で産出せず、海外からの輸 入に頼ってきた。1980年代中頃、これまで心配してきた中重希土の供給が中国の新規参入で増えた 半面、レアアース資源の中国依存が高まった。 その対策として資源輸入先の多元化を図りながら、資源保有国の技術移転要請に対処するのが一 般的なやり方である。1987年の超電導ブームに対応するために、通産省は資源確保のため中国との レアアース連絡協議会の設置と共同開発、つまり中国からの資源安定確保の代わりに中国が求める 技術協力に対応する、という構想を打ち出した。日本のレアアース事業の存続を前提にしながら段 階的に技術協力を実施していくというものであったと考えられる。 しかし、日本レアアース業界を代表する新金属協会希土類部会は中国側との意見交換に協力する ものの、中国への技術協力には反対の意思を明確にした。結局、交流会議において情報交換と人脈 の形成にとどまり、技術協力にまったく進展はなかったのである。 ところが、中国レアアース分離精製技術は予想以上の速さで世界水準に達し、中国産レアアース の世界市場独占が現実になった。その結果、中国からのレアアース輸入品はその後、単一元素の製 品、しかも高純度のものが急速に伸び、中国への依存度がさらに高まった。その影響を受けて日本 のレアアースメーカーは国内での分離精製をやめ、輸入品をもとに最終製品の製造に特化すること になった。また一部のレアアースメーカーは資源確保のために中国への進出に踏み切った。 一方、中国国内のレアアース需要が2000年前後から急増し、2005年に初めて輸出を上回った。そ の需要分野も多様化し、高度化していった。それに対応する形で中国のレアアース政策は輸出促進 から輸出制限へ方向転換したのである。そして2010年尖閣事件を機に日本にとって資源確保の不安 が頂点を迎えたのは周知のとおりである。 1990年代以降のレアアース産業の歴史に照らしてみて、日中レアアース交流会議の開催をめぐる 交渉とそこから生まれた基本方針についてどのように評価すべきであろうか。さらに双方の自己利 益優先によるミスマッチの克服、互恵的利益に基づく取引システムの創出はほんとうに不可能で あったのであろうか。これを今後の課題にしたい。 (本研究はJSPS科研費23402029の助成を受けたものである。) 65 【論 文】 ICAOデータを利用した国際航空旅客市場特性の検討 大 橋 忠 宏 要 旨 本研究では、日本発着ODに関する国際航空市場を対象として、個々の空港や路線の特 徴を考慮しうる枠組みの下で、当該市場特性を応用計量経済学的手法により検討した。国 際航空市場に関するOD交通量に関するデータにはICAOによるOFOD(On Flight Origin and Destination)と国土交通省による航空旅客動態調査の2種類のデータが利用可能である。今 回は日本発着ODに関する国際航空市場を対象に空港や路線レベルでの市場特性を検討する ため、都市/空港間ODトリップデータが唯一入手できるICAOのOFODを利用して検討を行っ た。その分析の結果、日本発着ODに関する国際航空市場特性としての輸送密度の経済性は 統計的に有意では無いことが明らかにされる。さらに、航空運賃データとしてPEX運賃と割 引運賃の2種類について検討したところ、実勢運賃とは乖離の大きいと考えられるPEX運賃 を利用するモデルの方が現況再現性の高いことが示される。 1.はじめに 本研究の目的は、個々の空港や路線の特徴を考慮しうる枠組みの下で、国際航空旅客市場の特性 を応用計量経済学的手法により検討することにある。 最近の国際航空市場においては、米国やEU、近隣の東アジア諸国でオープンスカイ協定締結に よる参入等の自由化が進んでいる。首都圏空港将来像検討調査委員会(2010)によると、全世界での オープンスカイ協定締結数は2008年には約500の地域間に達し、旅客数の半分以上の規模である。 同委員会では、オープンスカイ推進によるLCC(Low Cost Career)の新規参入等が容易となり運航 頻度の増加や運賃の低下などによる旅客数増加への対応などが課題とされている。この他、松永他 (2013)は日本におけるLCCの調査等を通じて国際航空輸送への検討の必要性を指摘している。 国際航空輸送に関する先行研究としては、たとえば、国際航空市場でのオープンスカイ推 進に関連して、米国籍キャリアの米国発着国際航空路線を対象とするBrueckner et al.(2011)や Brueckner(2003)、Wharen(2007)、 大 西 洋 横 断 の 国 際 航 空 路 線 を 対 象 と す るBilotkach(2007)で は 67 運賃関数の推定を通じて、コードシェアリングが運賃を低下させる可能性や独占禁止法適用除 外(ATI:antitrust immunity)が運賃を低下させる可能性などが指摘されている。内田他(2013)は、 Brueckner(2003)らを参考に国際航空運賃の推定を通じて、日本を対象とした国際航空路線について Brueckner(2003)と同様にATI適用が運賃低下をもたらすことを指摘している。ただし、これらでは 費用等の市場特性については言及されていない。コードシェアの拡大やATI適用は実質的には寡占 化を促進すると考えられる。したがって、伝統的な議論に基づけば、コードシェア拡大やATI適用 により航空会社の市場支配力が高まり、運賃は上昇する可能性がある。しかしながら、先行研究の 結果は従来の寡占化に関する考え方とは異なる。すなわち、先行研究の結果は、コードシェア拡大 やATI適用による市場支配力の上昇による影響より輸送密度の経済性による費用低下効果の方が卓 越的である可能性を示唆している。 この他、LCCの市場への影響については、たとえば、Oliveira and Huse(2009)はブラジル国内市場 を対象とした運賃関数推定を元にLCCとFSC(Full Service Career)に関する議論を行っているが、費 用特性等に関する言及はなされていない。Murakami(2011)はアメリカ国内を対象に受給関数の同時 推定を通じてLCCとFSCの比較検討を行っているが、限界費用や需要関数での輸送密度の経済性な どの市場特性についての言及はされていない。Pels et al.(2009)は複数空港が立地する地域の主要空 港でFSCが路線展開をしている中でのLCCの空港選択行動を元にFSCとLCC間の競争について議論 しているが、市場特性については明示的な言及はされていない。 以上のように市場環境が変化する中で、日本の空港政策として、羽田や成田等の主要空港の整備 や首都圏や近畿圏での空港機能分担などに関する議論が活発に行われている。空港の機能分担やハ ブ空港に関する議論を行うためには、個々の空港や路線の特徴を考慮しうる枠組みの下で市場特性 を十分に検討した上での分析・評価が不可欠であると言えよう。しかし、日本を中心とする国際航 空市場に関する市場特性の検討などの実証分析の蓄積は十分であるとは言えないと考える。 航空旅客市場に関する理論研究では、市場特性としての輸送密度の経済性が考慮されることが多 い。Brueckner and Spiller(1994)で輸送密度の経済性とは、路線需要の増加に対して追加的費用が低 下する特性であると定義される。彼らによると、米国国内航空市場では、輸送密度の経済性がハブ・ スポーク・ネットワーク形成を促進し、規制緩和後に新規参入は促進されたが、結果的に緩和前よ り寡占化が進行したと指摘している。 日本でも国内航空市場の規制緩和後には新規参入があったが、 路線再編やJAL・JAS統合があり、米国との共通点もみられる。日本の航空市場の規制緩和は国内 市場が先行して行われているが、輸送密度の経済性の存在は今後の市場動向を評価する上で重要な 要因であると考えられる。国際線で前述のようにオープンスカイ推進によるLCC等の参入等が継続 する可能性や寡占化の可能性、政策効果の評価等を行う上で、国際航空においても当該経済性を考 慮した分析を元に議論する必要があると考える。 以上を背景として、本稿では、大橋(2011a)などを元に国内航空市場に関する枠組みを国際航空 市場に拡張したモデルを使って、 日本の国際航空旅客市場の特性を実証的に検討する。具体的には、 68 2.で大橋(2011a)を元にした実証モデルについて説明し、3.でモデルの特定化並びにデータ作成につ いて説明する。4.で推定結果を元にして、日本発着ODの国際航空旅客市場特性について考察し、5.で 研究結果を総括し今後の課題について説明する。 2.モデル 航空旅客市場をBrueckner and Spiller(1994)や大橋(2011a)などと同様に次のように仮定しよう。 まず、ODペア毎に航空旅客市場が存在するものとする。各市場に参入する航空会社は同質的な 財を生産しているものとし1、簡単のため各市場は独立であると仮定する。このとき、逆需要関数 を以下のように定義する。 (1) mは旅客市場(OD)、qmは市場mでの航空需要量、Emは市場mの市場規模、tmは運賃以外の旅客の費 用(所要時間、スケジュールコストなど)とする2。 航空会社の費用については、簡単のため運航に係る費用は路線ごとに独立であると仮定する。こ のとき、ネットワーク全体での運航費用は路線での費用の和として定義される。航空会社 i の路線 j での限界費用を次のように仮定する。 (2) Qijは航空会社 i の路線 j での需要量、Distancejは路線 j の時間距離、AirportDumは都市/空港ダミー 変数とする。航空旅客市場は路線ごとではなくODペア毎に存在するから、市場mで集計した限界 費用は以下のように書くことができるものとする。 (3) qimは航空会社 i の市場mでの航空需要量であり、Imを市場mで運航する航空会社 i からなる集合とし て、 とする。Simは輸送密度の経済性を表現するものでQijあるいはFREQjの関数とする。 Distancemは市場mの時間距離とする。 航空旅客市場の競争について、Brueckner and Spiller(1994)など多くの先行研究で仮定されている ように、クールノーの寡占競争を仮定すると均衡では次の式が成立する。 (4) ただし、一般に航空会社の個別の需要に関する情報は入手し難いので、両辺に航空会社数を掛けて 1 現実には、FSCやLCCなど同じ市場で同質的ではないサービスが供給される。ただし、本研究の分析対 象である国際航空旅客市場については、航空会社毎のサービスレベルに関するすべてのデータが入手で きるわけではなく、路線毎に平均化した議論しか行えない。 2 国内航空旅客市場では代替交通機関の影響が無視できないので、Yamaguchi(2007)、大橋(2011a)、(2011b)、 大橋(2012)では、航空シェアを導入することで、代替交通機関の影響を考慮されている。他方、今回は 国際航空旅客市場と対象としており、近距離では船舶輸送との競合がないわけではないが、殆どの場合、 他の代替交通機関の影響は無視できると考える。 69 平均化して考える。すなわち、 (5) ここで、nmは 都市間市場mでの参入企業数とする。 3.関数の特定化と利用データ 3.1 関数の特定化 実証分析のための、逆需要関数及び限界費用関数等のモデル特定化について説明する。 逆需要関数は大橋(2011a)などと同様に次のように仮定する3。 (6) ここで、逆需要関数の切片amを以下のように特定化する 。 4 (7) ここで、POPmは市場mの外国側到着国人口5、FREQjは路線 jの運航頻度、aa とし、L(m) は与えられたmの旅客が利用する路線からなる集合とする 。逆需要関数(式(6))の傾き b の符号 6 は負を想定している。次に、逆需要関数の切片(式(7))の符号について、a1はプラスを想定してい る。その理由は、外国側到着国人口の上昇は、市場の潜在的規模を表すと考え、当該変数の増加は 潜在的需要量を大きくすると考えるからである。a2の符号は、市場の潜在的規模やスケジュールコ ストに関連する係数であり、プラスを想定している。a3の符号については、旅客にとって費用に相 当すると考えられるためマイナスを想定している。 限界収入MRは、式(6)から次のように書くことができる。 (8) 限界費用は、Brueckner and Spiller(1994)や大橋(2011a)などと同様に次のように特定化する。 ここで、 (9) は航空会社 i 、市場mでの限界費用のうち、輸送密度の経済性以外に関する要因(路線 3 Brueckner and Spiller(1994)では、需要関数の傾きとして市場毎に異なるbmが設定されているが、本研究 では、大橋(2011a)と同様に、簡単化のため式(6)のような特定化を行った。 4 AirportDumとして推定結果に利用しているのは、外国都市(PEK, SHA, HEL, GUM, HKG, SIN, BKK, HNL, HAN, SGN)及び日本(TKO, KIX)であるが、データ作成段階では、入手可能なすべての都市/空港につ いての都市/空港ダミー変数を作成して検討している。 5 標準的には、ODの人口の積などを使って市場の潜在的需要を表現することが殆どである。このとき、 各都市/空港の後背地人口を考慮すべきであるが、データ入手可能性の観点から国人口を利用している。 その結果、日本の人口はすべてのODで共通のため考慮していない。 6 式(7)に含まれる路線運航頻度FREQjは、厳密にはqmの関数である。しかし、今回はモデル展開およびデー タ処理を簡単化するため、Brueckner and Spiller(1994)と同様にqmとは独立な変数として、すなわち、外 生変数として扱う。 70 距離や空港特性など)とする。 本研究では、先行研究と同様に均衡ではクールノーの寡占競争を仮定する。すなわち、限界収入 と限界費用が等しいという以下の式が得られる。 (10) なお、今回は需要に関して航空会社毎のデータは入手できないので、航空会社については市場毎に 平均化して問題を考える。すなわち、両辺に参入企業数nmを乗じて整理すると、 限界費用の切片 (11) は、都市/空港ダミー変数(TKO, KIX)7や、時間、頻度からなる関数として次の ように特定化する。 ここで、主要空港ダミー変数の係数( (12) )については、プラスの符号を想定している。日本の 国内航空旅客輸送を対象とする場合、今回の主要空港として想定しているのは基本的には国管理空 港であり、地方管理空港に比べて、路線や運航頻度などが相対的に集中しているため、滑走路等で の遅延が発生しやすいと考えられる。ラインホール時間の係数 の符号としては、ラインホール時 間の増加は燃料費の増加を意味すると考えられるのでプラスを想定している。 供給サイドに関する輸送密度の経済性を表現する は、路線運航頻度8を使って次のように特定 化する。 式(13)は、輸送密度の経済性が卓越している場合 なる。他方、混雑効果が卓越している場合( (13) にはFREQjに関して減少関数と 、すなわち、輸送密度の不経済性が 働いている場合)にはFREQjに関して増加関数となることを想定している。 3.2 データ (1)国際航空旅客輸送に関する純流動データ 日本を起終点とする入手可能な国際航空旅客輸送に関する純流動データとして、国際連合の下 部組織であるICAO(International Civil Aviation Organization)が作成するOFOD(On Flight Origin and 7 データ作成段階では、東京(TKO、成田と羽田の両方を含む。)と関西国際空港(KIX)以外についても都市 /空港ダミー変数を作成して推定作業を行った。しかし、多重共線性が疑われるケースや係数の t 値が低 いなど、符号条件や統計的有意性の観点から良好な結果は得られなかった。 8 Brueckner and Spiller(1994)や大橋(2011a)などでは、輸送密度の経済性を表現する場合、路線需要を使っ て表現することが多い。本稿でも当初は路線需要を使った輸送密度の経済性を利用することを試みたが、 路線需要のデータであるTFS(Traffic by Flight Stage)の欠損がOFOD以上に多く、結果的に路線の運航頻度 を代理変数として利用することにした。 71 Destination)9と国土交通省が作成する国際航空旅客動態調査の2種類が存在する。 OFODと国際航空旅客動態調査の違いについて表1を元に説明しよう。 まず各データの発地と着地に関して見ていこう。OFODの発地と着地は日本側/外国側双方とも に最初の出発空港と到着空港のある都市(あるいは空港)である。したがって、たとえば出発地が 日本の場合、どこの都道府県を出発した旅客なのかは特定できないことになる。トリップ費用には 航空便を利用するための運賃や時間費用以外に、出発空港まで(から)のアクセス(イグレス)に 要する時間や金銭的費用を考慮する必要があるが、真の出発地(都道府県)がわからないことはア クセス・イグレスの費用を把握あるいは設定できないことを意味する。日本の国際線の多くは成田 /羽田、関空を発着地としており、OFODデータを利用することは、旅客のトリップ費用データに 関してアクセスやイグレスに要する費用を考慮できないという点で問題がある。他方、国際航空旅 客動態調査での日本側起終点は都道府県であり、 出発空港との厳密な対応関係は不明であるものの、 最寄りの空港の就航路線を元にして出発空港を推測することが可能である。しかしながら、海外側 の起終点は世界全体を20方面別に集約されており、日本近隣の国を除いて路線等は集約されている 点で、市場の費用特性等を検討する場合には問題がある。 データの欠損については、OFODは欠損が多い。特に、LCCについては日本発着のすべてのデー タが欠損している。一方、 国際航空旅客動態調査では調査データを基に統一的な推定手順を経てデー タは作成されており、データ欠損はない。さらに、双方とも航空会社の区別はできない。 旅客区分については、OFODはデータ区分がないため、目的別あるいは国籍別に区別することは できない。他方、国際航空旅客動態調査は日本人/外国人/乗り換えの3区分毎にデータは整備さ れている。ただし、日本人以外は発地と着地を明確に識別できるような形でのデータは整備されて いないので、実質的に利用可能なのは日本を出発する日本人のODトリップデータのみとなる。 さらに、ODトリップデータとしての信頼性に関しては、OFODはチケットの発券ベースのデー タであり、一つのトリップで別会社の航空便を利用すると別ODとして計上されるため信頼性に欠 ける面があり、さらに経由先も不明である。他方、国際航空旅客動態調査については国土交通省に よる一体的な処理が行われており、OFODに比べるとデータの信頼性は高いと考えられる。 最後に、データの入手方法については、OFODはデータアクセス権を有償で購入の上でのみ利用 可能であり、非常に高価である。一方、国際航空旅客動態調査は無料でwebからのダウンロードで 入手できる。 本研究の目的の一つは、大橋(2011a)などで検討した輸送密度の経済性が日本発着の国際航空旅 客市場いても観察されるかどうかである。そこで、データの欠損や信頼性等の面で問題はあるもの のOFODを利用して以下では検討を行う。 9 ICAOでは、旅客データとしてはOFODの他にTFS(Traffuc by Flight Stage)が入手可能である。OFODは発 券ベースのトリップデータであり、TFSは路線の利用者データである。OFODはどちらかと言えば純流 動データに相当し、TFSは総流動データに相当する。 72 表1 OFOD(ICAO)と国際航空旅客動態調査(国土交通省)の比較 OFOD(On Flight Origin and Destination) 国際航空旅客動態調査 作成主体 ICAO 国土交通省 日本側起終点 都市(空港)(出発地の都道府県は不明) 都道府県 海外起終点 都市(空港) 方面別(世界全体を 20 方面に集約) データ欠損 多い(LCC関係はほぼ欠落) なし 航空会社区別 不可 不可 旅客区分 区分無し 日本人/外国人/乗り換え データ信頼性 航空会社を跨がる利用については別 OD 国土交通省による一体的処理.乗り継ぎ等につ として計上(総流動的性質も含む) いてはある程度把握可能. アクセス権購入・高価 web から無料ダウンロード.pdf でのみ入手可 データ入手 能. (2)利用データ 今回の推定に利用したデータの一覧を表2に示す。 OD交通量(qm)は、OFODのトリップデータの往復の平均である。航空路線需要は、推定結果 に示すリストにはないが、検討段階で利用しており。当該データはTFSから得られる路線需要量の 往復の平均である。OFODからOD交通量が入手可能な日本発着ODペアを表3に示す。表3によると、 OFODが入手可能なODペアは64であり、LCCが就航している韓国発着ODや中国発着ODの一部など がまったく入手できていない。さらに、右肩に“*”のあるODペアについては、OFODは入手でき るもののTFSに欠損がある。また、OFODからは出発あるいは到着の都市/空港の情報は入手できる ものの経由先に関する情報は入手できない。今回のODペアについては、すべてについて直行便が 運行されており、データは直行便であることを想定して作成している。 海外人口(POPm)はODペアmの外国側起終点の国人口であり、World BankのWorld Development Indicatorsのデータを利用している。 運賃や運航頻度、所要時間、HHIのデータは、OAGあるいはJTB時刻表及びOFCタリフシリーズ から作成している。HHIは供給便数に関するハーフィンダール・ハーシュマン指数であり、1/HHI を平均化した市場での参入企業数(nm)として利用している。運賃(pm)にはPEXあるいは3 ヶ月 前割引運賃を利用している。ラインホール時間(LTIME)は一般に往路(時刻表左欄)と復路(時 刻表右欄)では異なるが、簡単のため、往路で最も運航頻度の多い航空会社の値を利用している。 4.推定結果 式(6)、(11)を三段階最小二乗法により推定した結果を表4に示す。4種類の推定結果を掲載してい 73 表2 利用データ一覧 変数 データ出所 備考 OD 交通量(人) OFOD 全世界収録. 路線需要量(人) TFS 全世界収録 海外人口(人) World Bank: World Development Indicators 全世界国別 運航頻度(便/週) OAG/JTB 時刻表 全世界収録 所要時間(分) OAG/JTB 時刻表 全世界収録 運賃(円) OFC タリフシリーズ PEX,割引運賃(日本発着のみ) 都市・空港ダミー 当該都市/空港なら 1,それ以外 0 の値をとる. 表3 OFODからOD交通量が入手可能な日本発着OD AUS BNE NRT DEU FRA KIX GBR LHR NRT * AUS SYD NRT DEU FRA NRT USA ORD NRT CHN PEK NGO GUM GUM NGO USA DFW NRT CHN PEK KIX GUM GUM KIX USA HNL NGO CHN PEK NRT GUM GUM NRT USA HNL KIX * CHN DLC FUK HKG HKG FUK USA HNL NRT CHN DLC NRT* HKG HKG NGO* USA LAX NRT CHN CAN KIX HKG HKG KIX* USA JFK NRT* CHN CAN NRT* HKG HKG NRT* * USA PDX NRT * CHN TAO KIX INDIA DEL KIX USA SFO KIX CHN SHA FUK MYS KUL NRT USA SFO NRT* CHN SHA NGO NLD AMS NRT* USA SEA NRT CHN SHA OKA PHL MNL KIX USA IAD NRT* CHN SHA KIX PHL MNL NRT VNM HAN FUK CHN SHA HND KOR PUS NRT VNM HAN NGO CHN SHE KIX SGP SIN KIX VNM HAN KIX * CHN SHE NRT SGP SIN NRT VNM HAN NRT FIN HEL NGO THA BKK OKA VNM SGN FUK FIN HEL KIX THA BKK KIX VNM SGN KIX FIN HEL NRT THA BKK NRT VNM SGN NRT* FRA CDG KIX ARB DXB KIX* FRA CDG NRT ARB DXB NRT* ※“*”は,OFOD からの旅客数データは入手可能であるが,TFS からの路線利用者データは欠損していることを示す. 74 表4 三段階最小二乗法による推定結果 式(6) PEX1 PEX2 割引運賃1 割引運賃2 Coefficient(p値) Coefficient(p値) Coefficient(p値) Coefficient(p値) 定数項 OFOD 外国人口 -17498.24 (0.729) -0.492538 (0.342) - 14745.85 (0.747) -0.159192 (0.858) - 24997.42 (0.064) -0.151587 (0.247) - 22488.10 (0.088) -0.339485 (0.137) - 所要時間 637.4174 (0.000) 610.8048 (0.000) 69.87642 (0.000) 75.25799 (0.000) 運航頻度 PEK 24.27598 (0.987) 19847.87 (0.605) -687.9021 (0.802) 10232.36 (0.825) 18.25410 (0.959) 9731.816 (0.284) 653.403 0(0.361) 65.29859 (0.997) SHA HEL 46911.71 (0.382) 136381.7 (0.000) 12578.39 (0.782) 131319.2 (0.000) 21793.37 (0.117) 10711.53 (0.184) 24618.98 (0.091) 9916.276 (0.426) GUM HKG SIN BKK 3263.915 (0.947) 69960.60 (0.453) -6576.398 (0.884) -21837.81 (0.639) 8642.938 (0.943) -22571.81 (0.605) 4387.847 (0.717) 35765.82 (0.145) -2324.338 (0.830) 3442.599 (0.823) 57935.45 (0.081) -5692.04 0(0.710) HNL HAN 66573.87 (0.373) 57864.95 (0.457) 19346.65 (0.564) 8006.125 (0.937) - 20295.91 (0.311) 19667.22 (0.334) 5804.528 (0.474) 33907.86 (0.221) - SGN TKO 5726.348 (0.874) 62252.51 (0.284) 26342.47 (0.687) 4811.337 (0.579) 12891.31 (0.403) 21212.00 (0.240) KIX 44595.15 (0.211) 28301.98 (0.431) 19669.03 (0.043) 22368.83 (0.039) 0.701 0.728 0.157 0.012 Adj.R2 式(11) 定数項 PEX1 PEX2 Coefficient(p値) 60101.31 (0.154) 割引運賃1 Coefficient(p値) 54414.54 (0.196) 割引運賃2 Coefficient(p値) 45886.64 (0.000) Coefficient(p値) 44334.50 (0.000) 平均需要(-b) 0.492538 (0.342) 0.159192 (0.858) 0.151587 (0.247) 0.339485 (0.137) 所要時間 TKO 620.6877 (0.000) 17223.61 (0.677) 628.1478 (0.000) 18370 .00(0.669) 53.51665 (0.001) -4125.515 (0.679) KIX 運航頻度 頻度×頻度 13851.4 0(0.705) -6956.834 (0.062) 74.99102 (0.143) 16502.83 (0.657) -5492.417 (0.113) 58.57027 (0.219) 9838.066 (0.270) -1263.953 (0.138) 11.94919 (0.295) 48.79234 (0.006) -6980.793 (0.522) 8208.167 (0.376) 0.673 0.677 0.233 Adj.R2 -1436.949 (0.118) 11.40706 (0.384) 0.182 ※括弧内は p 値. ※推定には EViews 7 を利用している. るが、これらはそれぞれ運賃をPEXとする場合と割引運賃とする場合について符号条件をある程度 満たしてt値等が比較的良好なものである。 式(6)の推定結果を見ると、需要関数の傾き(OFODの係数)bの符号は想定通りマイナスである。 ただし、需要関数の傾きについての統計的検定結果は有意では無い。所要時間の係数については、 さまざまな変数の組み合わせで推定を行ったが、いずれの場合もプラスの符号であり、統計的には 75 1%未満で有意であった。当該係数の符号がプラスということは、所要時間の増加が需要を増加さ せる効果をもつことを意味するが、日本から遠い都市ほど魅力が高いと解釈される。一般には、所 要時間の増加は一般化費用の増加を意味するため、需要関数の傾きと同様にマイナスの符号が想定 されることとは異なる結果であり、モデルの精査等が今後必要となろう10。市場の潜在的な需要規 模については、当初は海外側起終点の国の人口を説明変数に加えて推定を行ったが、潜在的な需要 規模として想定されるプラスの符号が得られる結果がなく、その代理変数として航空運航頻度を説 明変数とするモデルについて検討を行った。その結果、運航頻度の係数の符号は想定通りプラスの ものも得られたが、表4に示すように、すべての推定結果で想定通りの符号が得られているわけで はなく、モデルPEX2のようにマイナスの値を示すものもあった。なお、運航頻度の係数の統計的 有意性についてp値は非常に高く、統計的には有意では無い。都市/空港ダミー変数については、1 国に複数の路線が就航している都市/空港や相対的にOD交通量の多い都市/空港を中心に検討を行っ た。PEX1, PEX2でのHELや割引運賃1,割引運賃2でのKIXなど統計的に有意な結果は一部であり、 それ以外は統計的に有意な結果ではない。 次に、式(11)の推定結果についてみていこう。 限界費用関数の構成要素の内で、輸送密度の経済性に関連しない変数の係数について見ると、所 要時間の係数は想定通りのプラスの符号であり、 統計的には1%未満で有意である。都市/空港ダミー 変数については、KIXの係数は総じてどのモデルでもプラスである。TKOについてはPEX1, PEX2 ではプラスであるが、割引運賃1、割引運賃2ではマイナスである。ただし、TKO, KIXの係数は共 に統計的には有意では無い。 次に、供給側にとっての輸送密度の経済性に関する部分について見ていこう。Brueckner and Spiller(1994)の定義では、輸送密度の経済性とは路線需要の増加に伴う限界費用が低下することで ある。ただし、本研究では路線需要(TFS)のデータが著しく欠損しているため、路線需要の代理変 数として運航頻度を使って輸送密度の経済性について検討している。検討の結果、推定結果には掲 載していないが、運航頻度の項のみを考慮したモデルでは統計的に有意な結果は得られなかった。 運航頻度の二乗の項まで検討した結果は表4に示すが、運航頻度の項と二乗の項の係数が共に統計 的に有意になる結果は得られていない。このことは、日本発着の国際航空輸送において、輸送密度 の経済性は観察されないことを意味していると解釈される。 なお、日本の国内航空輸送における輸送密度の経済性について検討した大橋(2011a)、(2011b)な どでは、国内航空輸送に関しては輸送密度の経済性が統計的に有意な結果として指摘されており、 今回の結果とは異なる。結果の違いが国内航空市場と国際航空市場の違いなのか、モデルや利用変 たとえば、国内航空輸送に関する大橋(2011a)でも需要関数の所要時間の係数の符号についてはプラス という結果が得られている。ただし、国内航空輸送においては、需要関数での所要時間の係数がプラ スであるということは、新幹線等の他の交通機関との関係から航空機関は長距離ほど時間費用で有利 に働くので、所要時間が長いほど相対的に航空機関への需要が高まると解釈できる。 10 76 数によるものなのか等については今後の検討課題である。国際航空市場において輸送密度の経済性 の存在を否定する結果が得られたことは、米国に始まるオープンスカイ政策が日本発着の国際航空 市場においても拡大しているものの、その効果が十分でない可能性が考えられる。 最後に、モデルの再現性については、運賃としてPEXを採用する場合と割引運賃を採用する場合 とを比較すると、PEXを採用するモデルの方が自由度修正済み決定係数は高いという結果が得られ ている。国際航空を利用する場合、殆どはPEX運賃を利用することはなく、何らかの割引運賃を利 用していると考えられるが、一方でどのような割引運賃を実質的に利用しているかについてデータ 入手は不可能である。そこで、運賃について2つのケースで検討を行ったが、実勢運賃とはほど遠 いと考えられるPEX運賃を利用する推定結果の方が自由度修正済み決定係数の値は高く、興味深い 結果であると考える。なお、割引運賃を利用した推定結果の自由度修正済み決定係数は総じて非常 に小さく、データ作成上の問題や利用データ等の問題等に起因していることが予想される。モデル の再現性向上については今後の課題としたい。 5.おわりに 本稿では、日本発着ODを対象に国際航空旅客市場において、従来から指摘されることの多い輸 送密度の経済性等を明示的に考慮しうる枠組みの下で需給関数の同時推定を行い、市場特性につい て検討した。主要な結果は次のように要約される。 (1) 日本発着の国際航空市場において輸送密度の経済性は統計的に有意では無い。 (2) 運賃データについてはPEXの方が割引運賃よりも再現性の高い推定結果を与える。 (1)については、国内航空市場での輸送密度の経済性の存在について検討した大橋(2011a)、(2011b) とは異なる結果である。ただし、本稿では輸送密度の経済性を検討する際に、データ制約のため、 路線需要ではなく路線の運航頻度を代理変数として検討を行った。路線が異なればロードファクタ や機材容量などが異なるため、路線運航頻度は必ずしも路線需要を完全に代理できるわけではない ことには留意する必要があるが、国際航空市場において輸送密度の経済性が統計的には有意ではな いという結果は興味深い。国際航空市場において輸送密度のこの一つの理由としては、オープンス カイ等の市場の規制緩和が十分ではないこと、日本の成田や羽田等の国際空港の容量不足により競 争が十分に行えていないこと、などが考えられるが、その可能性の検討については今後の課題であ る。(2)については、利用者は利用の際に支払う運賃として何らかの割引運賃を利用している場合 が多いと考えられるため、分析するまでは割引運賃の推定結果の方が自由度修正済み決定係数は高 いことを予想していた。しかし、分析の結果、実勢運賃とはほど遠いと考えられるPEXでの推定結 果の方が自由度調整済み決定係数は高い値を示した。この理由は割引運賃には非常に多くの種類が あり、かつ、航空会社でも大きく異なる。さらに、今回はLCCに関するデータは得られなかったが、 国際航空市場におけるLCCのシェアは非常に高まっている。以上のことから、割引運賃データ作成 の際の恣意性が当てはまりの悪さにつながっている可能性があり、今後の課題としたい。 77 なお、分析については、幾つかの問題点も指摘される。 一つは、利用データに関するものである。上述したように運賃については実勢運賃が入手できな かったため、割引運賃データ作成における恣意性に関する課題があり、実勢にあった運賃データ作 成が必要となる。さらに、今回の分析では輸送密度の経済性の存在についての検討を一つの目標に していたので、起終点の設定方法やデータ欠損など問題はあるがICAOのOFODを利用した。ただし、 今後は国際航空市場について政策分析にも耐えうる再現性も必要と考えるため、OFOD以外の国際 航空旅客動態調査データを活用した実証研究が必要であると考える。 二 つ 目 は 関 数 の 特 定 化 及 び モ デ ル 選 択 に つ い て で あ る。 今 回 の 分 析 で はBrueckner and Spiller(1994)や大橋(2011a)などに倣って線形の関数に特定化したが、関数が線形の場合には、どう しても運賃や需要量を再現した際にマイナスになる可能性がある。政策効果を定量的に評価するた めには、この点についても改善する必要がある。 謝辞:本研究は、JSPS科研費24530288の助成を受けている。熊本大学政策創造研究教育センター 主催の都市政策研究会では、安藤朝夫教授(東北大学) 、柿本竜治教授(熊本大学) 、宅間文夫准教 授(明海大学)から今後の課題等に関して多くの有益なコメントを得た。ここに記して感謝の意を 表するものである。本稿に関するあらゆる誤りや責任は筆者に帰属するものである。 参考文献 Bilotkach, V.: Price effects of airline consolidation: evidence from a sample of transatlantic markets, Empirical Economics, Vol.33, pp.427-448, 2007. 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Yamaguchi, K.: Inter-regional air transport accessibility and macro-economic performance in Japan, Transportation Research Part E, Vol.43, pp.247—258, 2007. 79 【論 文】 公立小学校の学校図書整備の予算に関する一考察 金 目 哲 郎 【目次】 1.課題の設定 2.義務教育財政における国庫負担と交付税措置の概要 (1)義務教育財政の負担原則 (2)交付税措置のしくみ 3.青森県内市町村の学校図書整備状況と予算措置 (1)最近の調査結果の概観 (2)交付税措置に対する予算化率の推計 (3)大鰐町の小学校図書館の事例 (4)まとめ 4.むすびにかえて 1.課題の設定 本稿の課題は、公立小学校1における学校図書整備について、青森県内市町村の状況を事例にして、 その予算化の現状を考察し、今後の課題の一側面を提示することにある。 この四半世紀ほどをみると、義務教育に対する国庫負担は1980年代半ばと2000年代に大きな転機 を経験している。1980年設置の第二次臨時行政調査会に主導された行政改革の下、国庫負担の対象 であった旅費や教材費が1985年に一般財源化されたほか、それ以降も各種費用につき一般財源化へ の移行が進んだ2。2004 ~ 2006年の三位一体改革では教員の人件費に対する国庫負担割合が2分の 1から3分の1へと引き下げられ、2004年度には「総額裁量制」が導入されるなどの改革が具体化 している。さらに「義務教育完全35人学級化3」の課題も挙げられている。 1 公立学校とは学校教育法第2条第2項による「地方公共団体の設置する学校」であり、本稿では市町村 立の小学校を分析対象とし、国立と私立の小学校は含めていない。 2 学校図書等教材の一般財源化に至る経過や学校図書館の政策動向の歴史的変遷については拙稿(2013) で整理している。 3 例えば、2013年4月24日付け毎日新聞「文科省 35人学級化を再検討 学力テストで効果分析」など。 81 こうしてみると近年では、義務教育の人的環境にかかる改革論議はきわめて活発である。しかし 一方、1980年代に一般財源化された学校図書等の教材整備をはじめとする物的環境に関しては、そ の問題の深刻さにもかかわらず衆目を集めてきたとはいいがたい。図1には小・中学校の1校当た り図書費の都道府県別の予算状況を示した。平成21年度文部科学白書によれば、小・中学校の教 材費や学校図書館図書費において地域間で差異が生じている。1校当たりの学校図書館図書費は、 2009年度予算の全国平均52万円に対して、青森県は全国最下位の26万円であり、これは最も高い愛 知県83万円の3分の1程度にとどまる。このことは、地域によって児童の義務教育環境に相違が生 じている可能性を示している。 図1 小・中学校の1校当たり図書費 (出所)文部科学省(2010)の図表1-2-29より引用。原典は「文部科学省調べ」による。 この義務教育環境の地域間での相違は、 日本国憲法第26条で保障されている「教育を受ける権利」 との齟齬4を生じかねない。とりわけ初等教育5としての小学校は、児童の学習のスタートラインで 4 例えば横山(2012)216-220頁は、財政状況が厳しくなるなかで児童の教育充実に必要な市町村教育費 (学校配当予算)が削減されれば「教育を受ける権利」を阻害しかねないと指摘する。 5 中央教育審議会初等中等教育分科会教育行財政部会教育条件整備に関する作業部会「義務教育費に係る 経費負担の在り方について(中間報告)」(2004年5月25日)では、義務教育は、財源保障の必要性が極 めて高い分野であり、経費負担を受益者負担に求めることができる「高等学校教育」とは、教育財政上 の位置づけが全く異なると指摘する。文部科学省ホームページhttp://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/ chukyo/chukyo3/gijiroku/04053101/002.htm、2014年5月29日閲覧。 82 あり、児童が「誰でも、いつでも、どこでも、ただで6」手の届く範囲のなかに教育環境一式が整 えられることが教育の機会均等の前提である。 本稿では、児童を取り巻く教育環境をつくる一要素として学校図書に注目する。物的条件には理 科、体育、情報処理、図工等の設備備品などを含め様々な教材があるが、なかでも学校図書は、児 童の思考力や創造性を育むうえで重要な役割が期待されており、「学校教育において欠くことので きない基礎的な設備7」といわれる。こうした問題意識を踏まえ、本稿では「すべての児童が、居 所や生年にかかわりなく、等しく学校図書等の教材にアクセスできる機会を保障する」ことに注目 し、これを物的条件からみた義務教育のナショナル・ミニマムと呼んでおく8。これが達せられる ためには、各市町村において標準的な図書水準を充足できる予算が確保されるという「予算の十分 性」とともに、 どこの市町村の学校でも学校図書にアクセス可能とするためには地域間における「予 算の均等性」が普遍的必要に応えるための財政上の前提となる。 以下、青森県の市町村別の学校図書整備の状況をみていく。学校図書等の教材等の整備は市町村 の自治事務であり、その実態は県内で一様ではないので個々の市町村レベルで検討する。全国的に みても特に財政状況が厳しい青森県内市町村の財政分析から得られる政策的含意は、全国市町村の 9割以上を占める「交付団体」が抱える共通課題でもある。 2.義務教育財政における国庫負担と交付税措置の概要 (1)義務教育財政の負担原則 日本での政府間事務配分は行政責任の分担による相互協力関係が形成されており、義務教育はそ の典型である。具体的には表1のとおりで、簡潔にいえば市町村が公立小中学校の敷地を用意し校 舎を建ててそれを管理運営し、都道府県及び政令市が学校教員の採用試験の実施や給与の支払いを 担い、国が子どもたちに何を教えるかを決定している。 経費の政府間負担配分では、市町村が公立小学校の設置・管理を行うことから原則としては、「地 方団体全額負担の原則9」 (地方財政法第9条)や「設置者負担主義」(学校教育法第5条)により、 設置者たる市町村が学校経費を負担するとされる。しかし、現実の負担配分では、市町村の脆弱な 財政基盤や市町村間の財政力格差といった問題に対処する必要がある。そこで、設置者負担主義の 例外として、公立小学校の基幹的教職員の給料等の人件費は都道府県の負担としたうえで、全国的 な義務教育水準の確保と教育の機会均等を保障するため都道府県の負担経費の3分の1は国が負担 6 神野(2007)137-141頁を参照されたい。社会の共同作業としての学校教育への参加保障は「誰でも、 いつでも、どこでも、ただで」を原則とするとし、そのうえで学校教育への対価原則の導入について批 判的検討を行っている。 7 学校図書館法第1条(この法律の目的)より。 8 一般に「ナショナル・ミニマム」は多義的に用いられる概念であり、客観的・絶対的な指標を設定する ことは難しいが、本稿ではさしあたり「学校図書館図書標準」が充足された状態を指す。 9 国と地方の経費負担区分の具体的説明は矢野(2003)21-23頁を参照されたい。 83 表1 教育行政の事務配分 区分 役割 市区町村 義務教育学校の就学事務、設置・管理、教職員の服務監督 主な関連法令 学校教育法 (第 5 条、 第 38 条) 、 地方財政法(第 9 条) 市区町村が担えない広域的行政事業(高等学校・養護学校等 都道府県 の設置・管理) 、域内の広域調整(教職員の採用・任免や交 市町村立学校職員給与負担法 流人事等) 、市区町村への支援・援助 国 日本国憲法(第 26 条) 、教育 国の教育・研究機関の設置・運営、教育の最低保障(ナショ 基本法(第 4 条、第 5 条、第 ナル・ミニマム)と水準向上の責任(義務教育学校教職員給 16 条、第 17 条) 、義務教育費 与 1/3 負担、学校建築費 1/2~1/3 負担、就学援助等の財政負 国庫負担法、地方財政法(第 担、教育課程の基準設置等) 10 条) (出所)小川(2010)49-50頁、矢野(2003)19-21頁等を参考にして作成。 義務を負っている。 一方で、基幹的教職員の人件費以外の経費は、基本的には学校の設置者すなわち市町村が負担す る10。学校全体で使用する学校図書を含む教材、設備、備品の購入費といった学校運営に必要な経 常的経費は、市町村一般財源が充てられる。このように物的条件の整備において市町村の役割は大 きい。 続いて、学校図書にかかる現行の経費負担に至る経過を簡単に敷衍しておこう。1958年の法改正 により、学校図書館法による国庫負担が行われないこととされた公立小・中学校の学校図書館の学 校図書について、義務教育費国庫負担法による教材費の国庫負担によって2分の1の国庫負担が行 われることとなった11。しかし、その後に大きな転機が訪れる。第二次臨時行政調査会による行政 改革「増税なき財政再建」の一環として、1985年の法改正に伴い、図書費を含む教材費の国庫負担 制度が廃止され、地方の一般財源で措置されることとなった。これにより、教材費について「地方 交付税措置を通じて所要の財政措置」が講じられ、「各地方公共団体が従来と同様な水準の教材の 整備を進めるために財政上支障が生じないようにしているところである」として、所要の教材費の 確保が求められた12。その根拠法令として学校図書館法では「学校図書館の整備及び充実のため必 要と認められる措置を講ずること」 (同法第7条)が国の任務であると規定する。また、2001年施 行の子どもの読書活動の推進に関する法律では国と地方団体が図書施策に必要な財政上の措置(同 10 ただし、基幹的な教職員の人件費、旅費、研修経費以外の経費のうち、学校施設の整備については、 義務教育諸学校施設費国庫負担法等に基づき、国が経費の2分の1ないし3分の1を負担する。 11 昭和33年5月23日付け文初財第321号の各都道府県教育委員会・各都道府県知事あて、文部事務次官通 達「義務教育費国庫負担法等の一部改正およびこれに伴う政令、省令の制定、改正について」より抜粋・ 引用した。 12 昭和60年5月31日付け文教財第122号の各都道府県教育委員会あて、文部省教育助成局長通知「公立義 務教育諸学校の教材費の地方一般財源化について」より引用・抜粋した。 84 法第11条)を講ずるべき旨の規定があり、これを受けるかたちで、地方団体の学校図書購入の予算 化に向けた国(文部科学省)による働きかけ13が地方に対して行われている。 (2)交付税措置のしくみ まず、学校図書に関する国の基本的指針をみておこう。上述のように、学校の設置者たる市町村 が学校図書館の整備と充実を行い、そのために国は財政上の必要な措置として地方交付税措置を 講じている。その際の指針となっているのが、1993年に公立義務教育諸学校の学校図書館に整備す べき蔵書の標準として定められた表2の「学校図書館図書標準」である。図書標準を達成すべく、 1993年度から「学校図書館図書整備5か年計画」がスタートした。その後、2002 ~ 2006年度の5 か年計画を経て、再び2007 ~ 2011年度の5か年計画では毎年度約200億円、総額約1,000億円の地 方財政措置が講じられたものの同標準を達成した学校の割合は2009年度末で小学校50.6%、中学校 42.7%にとどまった14。そのため、2012年度からの5か年計画では毎年度約200億円、総額約1,000億 円の地方財政措置が講じられている15。 次に、具体的に地方財政措置がどう行われているのかを整理したい。ただし、これを理解するた めに、かつ、後述する地方財政措置の課題点を明らかにするためには、地方交付税制度の基本的な しくみや性格を踏まえておく必要がある。一般に地方交付税とは「地方公共団体間の財源の不均衡 表2 公立小学校が整備すべき蔵書冊数の標準 学級数 蔵書冊数 学級数 蔵書冊数 1 2,400 13~18 7,960+400×(学級数-12) 2 3,000 19~30 10,360+200×(学級数-18) 3~ 6 3,000+520×(学級数- 2) 31~ 12,760+120×(学級数-30) 7~12 5,080+480×(学級数- 6) (出所)平成5年3月29日付け文初小第209号の各都道府県教育委員会教育長あて、文部 科学省初等中等教育局長通知「 『学校図書館図書標準』の設定について」のうち別紙「ア 小学校」より引用。 13 例えば、平成14年4月15日付け発児生第2号の各都道府県教育委員会教育長あて、文部科学省初等中 等教育局児童生徒課長通知「公立義務教育諸学校の学校図書館の図書の購入に要する経費の地方財源 措置について(通知)」では市区町村教育委員会における図書整備が図られるよう都道府県による指導・ 助言を要請している。 14 文部科学省による「平成22年度『学校図書館の現状に関する調査』」より。なお、2013年3月公表の「平 成24年度」同調査では2011年度末での達成率は小学校56.8%、中学校47.5%であり、対2009年度で両学 校ともに概ね5ポイント程度上昇した。 15 文部科学省ホームページ掲載「平成24年度からの学校図書館関係の地方財政措置における考え方につ いて」より。http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/dokusho/link/1318154.htm、2014年5月29日閲覧。 85 を調整し、どの地域においても一定の行政サービスを提供できるよう財源を保障するための地方の 固有財源」であり、財政調整と財源保障を通じて「地方自治の本旨の実現に資するとともに、地方 公共団体の独立性を強化する」目的を有するといわれる16。各地方団体への交付金額は、基準財政 需要額が基準財政収入額を超える額すなわち当該団体の「財源不足額」が交付基準額となる。この うち基準財政収入額は標準税収入の75%に地方譲与税等を加算したものであり、基準財政需要額は 消防費、土木費、教育費といった行政項目ごとに算定される標準行政所要一般財源17である。 続いて、学校図書の経費がどのように地方交付税のしくみに組み込まれているのか詳しくみてみ たい。それは、基準財政需要額の行政項目のうち教育費、小学校費の「学級経費」を測定単位とす るものに需用費等として積算されている。表3には2012年度における市町村分の小学校費の一般財 源所要額が示してあり、このうち学級経費のみ積算内容の内訳を掲載しておいた。 表3 2012年度の公立小学校にかかる交付税措置 (単位 千円) 測定単位 児童数 細目 1.児童経費 1.学級経費 需用費等 10,796 学級数 学校数 総額 計 31,218 計 16,454 給与費 5,280 2.活性化推進事業費 1.学校経費 2.活性化推進事業費 委託料 189 計 189 計 9,221 計 247 積算内容 (省略) 事務職員数 1 人 5,280 建物等維持修繕費 3,270 特別分維持修繕費 258 教材用図書及び備品 3,175 学校図書館図書 693 新聞配備経費 63 教育用コンピュータ等 3,337 施設設備保守点検料 189 (省略) (省略) (省略) 特定財源 323 0 0 一般財源 30,895 16,454 5,280 0 10,796 0 0 27 0 189 189 9,194 247 (出所)地方交付税制度研究会編(2012)170-173頁より作成。 これは、 市町村の標準的な学校1校 (児童数690人、学級数18学級)を想定した所要一般財源である。 先述の文部科学省による地方財政措置とは、同表の学校図書館図書693千円を指している。交付税 算定上の理論値では、市町村に対する措置額は1学級当たり学校図書38,500円に当該市町村の学級 数(及び補正係数)を乗じた金額となる。しかしながら、地方交付税が財源不足額の補てんである 以上、学校図書として算定されている基準財政需要額と同額がただちに地方交付税として市町村に 交付されるものではないことは注意しておく必要がある。 16 総務省編(2013)49頁より。なお、本稿では地方交付税という場合、普通交付税を指している。 17 市町村分では消防費、土木費、教育費、厚生費、産業経済費、総務費、地域経済・雇用対策費、公債 費の8区分から成る個別算定経費と、人口と面積で算定される包括算定経費とによって計算されている。 86 3.青森県内市町村の学校図書整備状況と予算措置 (1)最近の調査結果の概観 まず、表4で学校図書の整備状況を概観しておく。2013年3月に発表された全国の公立小学校 を対象とした「学校図書館の現状に関する調査」によれば、2011年度末で「学校図書館図書標準」 の75%以上を達成している学校数の全学校数に占める比率は86.3%(100%達成済56.8%)、達成率 が50%未満の同比率は2.4%である。青森県内の市町村全体での同比率をそれぞれみると、達成率 75%以上は61.4%(100%達成済31.8%) 、達成率50%未満が10.3%である。 また、県内の市町村間においても整備状況の違いがみられる。同調査によると県内の1町2村で は域内の全小学校が図書標準を満たしている一方で、5町1村では域内の小学校のうち3割超の小 学校は同標準の50%を満たしていない。このように、全国平均との比較において青森県が全体的に 低い整備状況にとどまり、県内にあっても市町村間で差異が著しいことが読み取れる18。 次に予算措置の状況を概観してみよう。全国学校図書館協議会による「学校図書館整備施策の実 施状況」によれば、2012年度当初予算における小学校「1校当たり」の平均図書費は、全国平均で 表4 青森県内市町村の公立小学校の学校図書館図書標準の達成状況(2011年度末) 75~100% 青森県内の各市町 村において、標準達 成学校数が当該市 市 町 村 1市 3 町 1 村 町村の全学校数に の数 占める比率 全学校数に対する 標準達成状況別の 青森県 学校数の比率 全国 50~75%未満 4町2村 75~100%以上 50~75%未満 197 校(61.4%) 91 校(28.3%) 17,845 校(86.3%) 2,337 校 (11.3%) 25~50%未満 4市9町2村 25~50%未満 29 校(9.0%) 396 校(1.9%) 25%未満 5市7町2村 25%未満 4 校(1.2%) 98 校(0.5%) (注1)表の下段、全学校に対する標準達成状況別の学校数の比率のカッコ内は構成比。 (注2)表の見方は次のとおり。上段は、例えばT市では全小学校(20校)のうち図書標準を100%達成している小学 校数(18校)が90%を占めるので75 ~ 100%の区分に該当。A市では全小学校(47校)のうち図書標準を100% 達成している小学校数(11校)が23.4%を占めるので25%未満の区分に該当。下段は、青森県内の全小学校321 校のうち、図書標準を75%以上達成している小学校数は197校、同標準の25%未満の小学校は4校である。 (注3)本稿は県内の市町村の予算化の相違を検討するので、特に具体的な市町村の名称は記していない。表5も同様。 (出所)文部科学省「平成24年度学校図書館の現状に関する調査結果」に基づき作成。 18 2011年度末の標準達成率が2007年度末での達成率に比して50ポイント以上の伸びを示した7市町村(1 市2町4村)もあった点も興味深い。なお、この期間、2010年度の国の補正予算による地域活性化交 付金のなかの「住民生活に光をそそぐ交付金」を図書購入費に充てた市町村も多い。同交付金に関して、 2010年10月26日の片山善博総務大臣閣議後記者会見において「地域の振興を図るときに、(中略)少し 忘れられていたような知的社会を、知に基づく地域づくりをしていただく基礎となります試験研究の 分野でありますとか、 (中略)それから、図書館とかですね。そういうところにも使えるということで、 弱者とか、声の小さい方々のための施策」に活用するよう説明されている。同交付金の市町村での予 算化の詳細は2011年度の「学校図書館図書整備費の実施状況」調査結果として『学校図書館』 (通巻730号) 2011年8月号46-54頁に掲載あり。 87 383千円、青森県平均(回答のあった31市町村分)では194千円となっている。市町村別では、2村 が600千円前後を図書購入費として予算計上し、2市2町で300千円前後が計上される一方、4町で は100千円に満たない。 むろん、2012年度当初で予算措置の少ない市町村のなかには2011年度予算で大幅に増額計上した 市町村もあるほか、補正予算や費目間流用で対応する場合もある。よって、一会計年度の当初予算 をもって検討することは一定の留保を要する。 そのうえで、2012年度と2011年度の2か年平均19での「1学級当たり」図書購入予算額を計算し たところ、1学級当たり4万円程度を計上する市町村がある一方、同1万円未満の市町村もあるよ うに、県内において市町村間による予算措置の違いが見受けられる。 (2)交付税措置に対する予算化率の推計 上記の文部科学省及び全国学校図書館協議会の調査結果を用いて、市町村の予算水準について交 付税措置に注目して検証する。以下では、 児童1人ひとりを取り巻く教育条件の確保が必要なため、 かつ、学校図書は複数児童の閲覧に供されるため、学校単位や児童単位ではなく1学級当たり予算 20 を用いた。 さしあたって文部科学省が示す図書標準の充足をもって、学校図書整備のナショナル・ミニマム が達せられた状態として捉え、この図書標準を保障するための交付税措置に対する予算化率21を市 町村ごとに推計した。表5に、推計結果が示してある。 これによると、交付税算定上の理論値たる交付税措置の9割以上の額を当初予算に計上したのは 5市町村のみである。その一方、県内の過半数の市町村が交付税措置の5割未満の予算計上にとど まっていることがみてとれる。図書購入費の予算化は市町村の判断に拠るものではあるが、図書標 準を充足していない現状において、交付税措置に満たない予算措置の市町村が数多くあることは留 意しておきたい。 (3)大鰐町の小学校図書館の事例 では、青森県南津軽郡大鰐町の公立小学校における学校図書館運営を事例にして、図書整備や予 算化の現状と課題を検討してみたい22。 19 複数年度にわたる予算を用いた分析が望ましいが、全国学校図書館協議会のアンケート回答結果に依 拠したデータにつき欠損値が散見された。 20 『学校図書館』(通巻第745号)2012年8月号などの公表データは、小学校1校当たり予算である。1学 級当たり図書購入予算額は、1学校当たり平均図書購入予算額に当該市町村の学校数を乗じ、これを 当該市町村の学級数で除すことにより筆者が試算したもの。 21 交付税措置は地方固有の一般財源であり、推計した予算化率が100%を満たすか否かは各市町村の対応 に任される問題ではある。一方、教育機会の均等の視点からは図書標準を満たすための予算化が求め られる。この点は財源保障の改革課題の1つである。 88 表5 青森県内市町村の交付税措置に対する予算化率(推計) 90%以上 予算化率 市町村数 50%~89% 1市1町3村 2市5町 30%~49% 30%未満 3市5町2村 3市5町 市町村平均 48.8% (注1)全国学校図書館協議会「平成24年度学校図書館整備施策の実施状況」調査において2012年12月末時点で未 回答の9市町村及び2012年度図書購入予算が著増したS村の計10市町村は含まない。 (注2)交付税措置の予算化率は筆者の試算による。2012年度当初の各市町村の図書購入費予算額を、2012年度単 位費用の積算内容のうち学校図書館図書購入費の1学級当たり購入費に当該市町村の学級数を乗じて得た推 計上の交付税措置の金額で除した。 (出所)地方交付税制度研究会編(2012) 、文部科学省「平成24年度学校基本調査」、全国学校図 書館協議会「平成24年度学校図書館整備施策の実施状況」に基づき作成。 周知のとおり、大鰐町は地方公共団体の財政の健全化に関する法律」に基づき早期財政健全化計 画を策定し、財政健全化計画の実施状況の報告を行った団体23である。きわめて厳しい財政状況下 にある同町は、2012年度当初の1学級当たり図書購入予算や、交付税措置に対する予算化率が青森 県内で最上位であった。財政健全化団体でありながらも学校図書館の積極的かつ継続的な事業展開 で知られている24。 ①学校図書館運営 学校図書館の運営面においても大鰐町の取り組みは注目される。全国誌『学校図書館』の掲載記 事「いきいき学校図書館」25には大鰐町立長峰小学校の学校図書館が紹介されている。同小学校で は学校図書館を常に児童に開放し、毎日「朝読書タイム」が設定されるなど豊かな読書活動に向け た継続的かつ積極的な事業展開が行われ、2012年度には「子どもの読書活動優秀実践校」(文部科 学省所管)に選ばれている。 これ以外の小学校でも学校図書館が積極的に活用されている。例えば、大鰐小学校では、 「多読賞」 の授与や「おすすめの本の紹介」 、 「教員による読み聞かせ」のほか、 「鰐っ子暗唱詩集」(低・中・高・ 達人コースの4種類につき、教員が選んだ詩が各10編まとめられた詩集)を用いて、児童の「脳の 22 本節は2013年9月に実施した大鰐町教育委員会に対するヒアリングに基づく。学務生涯学習課の御担 当者をはじめ関係部課の皆様に回答の協力をいただいた。ここに記して謝意を表したい。 23 第三セクターが経営するスキーリゾートに対する経営支援により財政難に陥り、2008年度決算による 健全化判断比率のうち「将来負担比率」が早期健全化基準の350%を超えた。2013年11月29日付け総務 省報道資料「平成24年度決算に基づく健全化判断比率・資金不足比率の概要(確報)」によると、同町 は2012 年度決算における健全化判断比率が早期健全化基準未満となったが、引き続き財政の健全化に 取り組むこととして2013年度は完了報告を行っていない。 24 大鰐町立長峰小学校の学校図書館運営は『学校図書館』(通巻743号)2012年9月号、 「いきいき図書館」 でも紹介された。2012年度には「子どもの読書活動優秀実践校」 (文部科学省所管)にも選ばれている。 財政状況が厳しいながらも学校現場の熱意や創意工夫を示す事例といえる。 25 『学校図書館』(通巻743号)2012年9月号、92頁より。 89 活性化」が図られている。一方、図書整備にあっては「町内小学校統合を見据え、2000年以前の購 入図書は、 廃棄の手続きをしている」 など、 「統合後のことも考慮し、図書の管理方法を検討している」 ところである。 図書の選定は、各学校ともに基本的には教職員が行っている。蔵館小学校を例にみると、図書室 に書店の巡回見本が展示され、各学級担任が希望する図書を選ぶ。選定図書に優先順位をつけて予 算の範囲内において購入予定図書リストを作成し発注する。選定基準は「全国学校図書館協議会図 書選定基準」 (2008年4月改定)にしたがい、 そのうえで同小学校では選定の際に「全校児童の興味・ 関心にこたえる図書」 、 「授業や学校行事に役立つ図書」、「同校で推進しているキャリア教育に関連 した図書」 、 「蔵書構成を整えるため図書館運営上必要な図書」、「郷土に関する図書(俳句)」とい う点に特に考慮しているとのことである。このように、大鰐町は、財政状況が厳しいながらも学校 現場の創意工夫で積極的な運営を試みている好事例といえる。 ②図書整備計画と予算 青森県内の多くの市町村では図書整備を推進するための計画が策定済または策定を検討してい る。青森県では2010年度から5年間の子どもの読書活動推進の基本的方向を示す「青森県子ども読 書活動推進計画 (第二次) 」 が実施されている26。このなかで、計画内容の進捗状況を把握するために、 数値目標が設定されており、学校図書館の蔵書整備については、小学校分の「年度別新規購入・受 入図書」を2007年度50,772冊から2014年度60,000冊へと伸ばすことが示されている。ただし、同計 画をみると「数値目標は取り組みの目安として掲げるものであり、市町村に対し、その達成を義務 付けるものではない」とされている。これに関して、大鰐町教育委員会によれば、青森県による大 鰐町の学校図書館への関与や働きかけは「特になし」とのことである。 一方、大鰐町では2010年4月に「大鰐町子ども読書活動推進計画」が策定されている。「読書を 通じて、 町民みんなで子どもたちの健やかな成長を応援しよう」というスローガンのもと、地域社会、 家庭、保育園・幼稚園、小学校・中学校のそれぞれについて現状と課題がまとめられている。この なかで、小学校・中学校の「読書環境作り」の取り組みとして蔵書整備の改善や標準冊数の整備と 有効活用が挙げられている。大鰐町独自の蔵書整備目標というかたちでの具体的な数値は示されて おらず、予算面については「本計画に関する具体的な施策のために必要な、できうる範囲での財政 上の措置を講じるよう努める」と記述されている。 予算過程は、学校現場と教育委員会との間で予算要求案が検討された後、毎年11月頃に総務課財 26 子どもの読書活動の推進に関する法律第9条第2項に、都道府県と市町村が「子ども読書活動推進計画」 を策定するよう努める規定に基づき、全国的に策定が広がっている。2013年3月時点での市町村子ど も読書活動推進計画の策定率は、青森県は策定済みが70%にのぼり、全国平均の59.8%を大きく上回る (青森県ホームページ「市町村子ども読書活動推進計画策定状況」より。http://www.pref.aomori.lg.jp/ soshiki/kyoiku/e-shogai/files/13shichousonndata-dokusyo.pdf、2014年5月29日閲覧)。 90 政係に予算要求される。財政係査定及び町長査定を経た予算案が町議会で審議・可決されて、各小 学校単位で予算執行されている。学校図書館図書の予算や決算をみると、2013年度予算は830千円 であり、2011年度決算1,097千円や2012年度決算1,090千円に対して減額計上されている。充当財源 をみると、2011、2012年度決算は、一般財源がそれぞれ827千円、820千円で、特定財源として国の 地域活性化交付金270千円が両年度ともに充当されていたが、2013年度予算の充当財源は一般財源 のみである。つまり、 この3か年度の学校図書館図書は一般財源ベースでの予算計上となっている。 教育委員会へのヒアリング回答においても、学校図書予算の根拠は「前年度並み」による計上との ことであり、上記の推進計画が学校図書館の蔵書整備の予算計上の段階で必ずしも十分には活用さ れていないようである27。 (4)まとめ 以上の青森県内市町村におけるデータや事例の検討結果を簡潔にまとめると次のとおりである。 第1に、物的条件からみた義務教育のナショナル・ミニマムを確保するための予算の十分性及び 均等性の視点からみると、図書標準を充足しない整備状況下で交付税措置に対する予算化率は県内 市町村平均で約5割にとどまっているほか、1学級当たりの予算措置には市町村間で大きな違いが ある。これは、図書購入予算の十分性とともに均等性が満たされていないことを示している。社会 経済条件が比較的に均質であろう同一県内で観察される予算化の相違の実態をみれば、全国の市町 村間ではさらなる予算化の違いの存在が推察される。 第2に、大鰐町の事例のように、厳しい財政状況にあって、学校現場の創意工夫で積極的な事業 展開を試みている市町村があることは注目される。 第3に、市町村の予算化にあっては、国、青森県、大鰐町による図書整備計画は各市町村の予算 計上において実効性をもっているとはいいがたい。この点、全国学校図書館協議会「平成24年度学 校図書館整備施策の実施状況」でのアンケート調査結果によれば、青森県内の市町村の7割の団体 が2012年度当初予算の学校図書館図書費を「地方財政措置に関係なく独自に予算化」したと回答し ており、一方、 「新学校図書館図書整備5か年計画」に伴う地方財政措置に基づき予算化したと回 答したのは2町のみである28。このように、学校図書の予算計上の際に図書整備計画や整備状況が 必ずしも十分には考慮されていないのが現状である。 4.むすびにかえて 以上、青森県内の事例分析から現行の地方財政措置の留意点や課題を述べた。全国でみれば教育 27 大鰐町教育委員会へのヒアリング回答に基づく。 28 地方財政措置に基づき予算化と回答した団体は県内で2町、補正予算対応と回答した団体は1市1村 のみ。また、同アンケートによれば、全国の市町村にあっても「『学校図書館図書整備5か年計画』に よる地方財政措置に関係なく独自に図書費を予算化している」と回答した団体は66.9%にのぼる。 91 条件及びその予算化の違いは一層大きく、市町村を取り巻く財政状況もこの数十年間で大きく変化 している。今後は、本稿の考察結果を手がかりに、全都道府県の状況と、政策動向及び地方財源措 置の歴史的変容を視野に入れた分析によって、児童を取り巻く義務教育環境の財源保障のあり方 を包括的に検討する必要がある。その際、国庫負担の部分的な再導入も選択肢の一つとして視野に 入れてもよいかもしれない。市町村や学校現場が義務教育環境を充実化する取り組みに対して、本 稿で明らかにしてきた市町村間ないしは学校間での学校図書の整備状況や予算化の相違を踏まえる と、今後とも国が財政面で支援していくことが期待される。 むろん、本稿で扱った公立小学校の学校図書は、義務教育の条件整備の一例にすぎない。しかし、 これらの事例から見出される財政面の課題は、人々がその「必要」に応じて「誰でも、いつでも、 どこでも、ただで」手に入れることのできる教育や社会保障といった、ナショナル・ミニマム的な 性格をもつ行政サービスに対する財源保障システム全体の改革のあり方にも示唆を与えうるもので ある。 【参考文献】 小川正人(2010) , 『現代の教育改革と教育行政』財団法人放送大学教育振興会。 遠藤安彦(1996) , 『地方交付税法逐条解説第3版』ぎょうせい。 白石裕(2009) 「教育機会の平等と財政保障」 ,平原春好編『概説 教育行政学』東京大学出版会, 113-131頁。 神野直彦(2007) , 『教育再生の条件 経済学的考察』岩波書店。 ――――(2013) , 『税金 常識のウソ』文春新書。 末冨芳(2010) , 『教育費の政治経済学』勁草書房。 金目哲郎(2013) , 「公立小学校の教育条件整備の地域間格差と地方財政措置:教材整備の事例分析 を中心に」 ,日本財政学会第70回大会報告論文,2013年10月5日発表(於慶應義塾大学)。 全国学校図書館協議会『学校図書館』 (通巻743号)2012年9月ほか各号。 総務省編(2013) , 『平成25年版地方財政白書』日経印刷。 地方交付税制度研究会編(2012) , 『平成24年版地方交付税制度解説(単位費用篇)』地方財務協会。 日本教育行政学会編(2010) , 『日本教育行政学会年報36 変動期の教育費・教育行政』教育開発研 究所。 三輪定宣(2012) , 「義務教育費国庫負担法の歴史、現状と課題」,日本教育法学会編『教育の国家 責任とナショナル・ミニマム』日本教育法学会年報第41号,5-20頁。 矢野浩一郎(2003) , 『地方公務員 新研修選書13 地方税財政制度 第7次改訂版』学陽書房。 松本直樹(2011) , 「学校図書館図書費の負担変更にともなう影響に関する研究」日本教育情報学会 年会論文集27,106-109頁。 文部科学省(2010) , 『平成21年度版文部科学白書 我が国の教育水準と教育費』佐伯印刷。 92 山本裕詞(2008) , 「地方分権化の『教育の機会均等』に関する国家の責任―地方財政措置による地 方教育予算の実態に注目して」 , 『東北大学大学院教育学研究科研究年報』第57集第1号,429- 442頁。 横山純一(2012) , 『地方自治体と高齢者福祉・教育福祉の政策課題―日本とフィンランド』同文舘 出版。 93 【論 文】 準市場の優劣論とイギリスの学校選択の 公平性・社会的包摂への影響(1) 児 山 正 史 目次 1.はじめに 2.利用者の行為主体性 3.条件の充足 (以上、本号) 4.良いサービスの提供 5.おわりに 1.はじめに 本稿は、準市場(quasi-market)の優位というルグラン(Julian Le Grand)の主張に沿って、イギリス(1) の学校選択の公平性・社会的包摂への影響に関する実証的な調査・研究を整理し、それに基づいて、 準市場が他の方式と比べて公平性・社会的包摂を損うといえるかどうかを考察する。 準市場とは、サービスの費用を利用者ではなく政府が負担する( 「準」 )一方で、当事者間に交換 関係がある(「市場」 )方式である。準市場にはいくつかの類型があるが、日本では、学校選択制や 介護保険制度など、利用者が供給者を選択する型を指すことが多い。(児山2004) 準市場の代表的な研究者であるルグランによると、準市場は、供給者に誘引を与え、利用者を活 動的な行為主体として扱うことなどにより、競争・情報・いいとこ取りなどに関する条件が満たさ れるならば、質・効率性・応答性・公平性の点で良い公共サービスを提供する可能性が他の方式よ りも高い(児山2011a)。また、ルグランは、教育に特有の目的として、社会的包摂を付け加えている (児山2011b:44)。なお、ルグランのいう公平性とは、社会経済的地位などのニーズと無関係な違い に関わらずサービスを利用できることであり(児山2011a:28)、社会的包摂とは、学校が社会の溶融 炉の役割を果たし、社会的分断・紛争を生み出しかねない文化的分裂を融解するという考え方であ る(児山2011b:44)。 しかし、準市場は、公平性や社会的包摂を損う可能性がある。準市場は利用者を活動的な行為主 体として扱うが、医療に関しては、高齢者や教育水準の低い人は治療に関する決定への参加を望ま ないことを示す研究がある。また、競争という条件についても、個人的な交通手段を持つ人の方が 95 遠くに移動しやすいと指摘されている。さらに、情報の不足やいいとこ取り(費用のかかる利用者 に対する差別)によって公平性が損なわれたり、階層間で選択の基準が異なる(例えば、中間層は 教育の水準に関心を持ち、労働者層は子供が楽しいかどうかに関心を持つ)ことによって不公平 や社会的分裂が生じる可能性もある。これらに対して、ルグランは、さまざまな政策手段を提案す るとともに、準市場以外の方式でも転居などによって同様の問題が生じると指摘している。(児山 2011a) ルグランは、医療と教育を中心に自らの主張を詳しく述べているが、日本では、医療の準市場(患 者が病院を選択する制度)は定着しており、教育の準市場(学校選択制)の是非が議論されている (児山2011b) 。日本の学校選択の効果・影響やイギリスの学校選択の質・応答性への効果については 既に研究を行ったので(児山2012a; 20012b; 2014)、本稿では、イギリスの学校選択の公平性・社会的 包摂への影響を検討する。 イギリスでは、1988年の教育改革法によって学校選択制が拡大された後、公平性・社会的包摂へ の影響について、1990年代には少数の事例を対象とした調査・研究が行われていたが、2000年以降 になると全国的な調査やそのようなデータを用いた研究も行われるようになった。これらの調査・ 研究を紹介した文献は多いが(Levačić 1998; Gorard 1999; Croft 2004; Glatter et al. 2004; Williams and Rossiter 2004; Burgess et al. 2005; Tough and Brooks 2007; 児山1999など) 、時期が比較的古く、扱われている調査・研究が限 られている。 以下では、利用者の行為主体性や競争・情報という条件が階層などによって異なるかどうか、い いとこ取りが行われているかどうか、公平性や社会的包摂が損なわれているかどうかに関する実証 的な調査・研究を整理する。 2.利用者の行為主体性 準市場では利用者が供給者を選択するが、高い階層の生徒・親の方が学校を積極的に選択すれば、 そのような生徒が良い学校に通ったり、階層間で通う学校が異なったりする可能性がある。1990年 代の代表的な質的研究によると、選択の強い意欲・能力を持つ特権的・熟練的な選択者は圧倒的に 中間層であり、選択の強い意欲を持つが能力は限られている半熟練的な選択者は階層が混合し、選 択の意欲を持たない局外の選択者は圧倒的に労働者層だった(Gewirtz et al. 1995: 24-5, 40, 45)。本節では、 学校を積極的に選択する生徒・親の割合が階層・民族によって異なるかどうかに関する量的な調査・ 研究を整理する(2)。 第1に、一部の地方教育当局を対象とした分析としては、まず、4つの地方教育当局の中学校 への1984年度入学者(3)(約2千7百人)の親への質問紙調査の結果の分析によると、父母の職業・ 教育の水準が高いほど、最も近い学校に通う割合が小さい傾向があった(Stillman and Maychell 1986: 78, 90-1)。また、ロンドンの中学校への1994年度入学者(約120人)の家族への聞き取り調査の結果 の分析によると、通学距離の平均値は中間層が5㎞、労働者層が3㎞だった(Noden et al. 1998: 222, 96 230) 。 他方、3つの地方教育当局の8つの中学校への1995年度入学者のデータの分析によると、地元の 学校に通う生徒と地元以外の学校に通う生徒の居住地の特徴(所得、職業、住居、民族)に統計的 に有意な違いはほとんどなかった。また、上記の3つを含む8つの地方教育当局の約2百の中学校 への1995年度入学者(約3万4千人)のデータの分析でも、地元の学校に通う生徒と地元以外の学 校に通う生徒の居住地の特徴にはほとんど違いがなかった。なお、上記のうち5つの地方教育当局 のデータの分析によると、 (5分位中)最も遠い学校に通う生徒の居住地は、最も近い学校に通う 生徒の居住地と比べて、高所得、ホワイトカラー、持ち家の地域という特徴が強かった。ただし、 これら5つのうち2つの地方教育当局では、最も遠い学校に通う生徒の居住地の方が低所得の地域 という特徴が強く、4つの地方教育当局ではブルーカラー、2つでは賃貸住宅、3つでは少数民族 の地域という特徴が強かった。(Taylor 2002: 5, 121, 136-43, 208-15) 第2に、全国的なデータを用いた分析としては、まず、全国の中学校への1999・2000年度入学者 (約2千2百人)の親への聞き取り調査の結果の分析によると、最も近い学校に申し込まない可能 性は、母親の学歴が高いほど高かったが、住居や母親の階層・民族による違いはなかった(Flatley et al. 2001: 73, 142-3)。次に、全国の中学校への2006年度入学者(約2千2百人)の親への聞き取り調査 の結果の分析によると、最も近い学校に申し込まなかった親とそれ以外の親との間には、所得、職 業、住居、学歴、民族の点で統計的に有意な違いはなかった(Coldron et al. 2008: 17, 87-88, 133-4)。最後 に、全国の中学校への2001年度入学者(約37万人)のデータの分析によると、最も近い学校に通う 可能性は、無料学校給食の受給資格者(4)や特別な教育ニーズを持つ生徒の方が高かったが、白人 よりも黒人の方が低かった(Burgess et al. 2006: 5, 10, 27)。 以上のように、学校を積極的に選択する生徒・親の階層・民族については、多様な結果が示され ている。全国的なデータを用いた分析の結果も一致しておらず、家庭の所得が低い方が近くの学校 に通う可能性が高いことや、母親の学歴が高い方が近くの学校に申し込まない可能性が高いことを 示す分析がある一方で、近くの学校に申し込まなかった親とそれ以外の親との間には所得・職業・ 住居・学歴・民族の点で違いがないことを示す分析もあった。 3.条件の充足 (1)競争 準市場では利用者が供給者を選択するが、高い階層の生徒・親の方が多くの学校や良い学校の中 から選択することができれば、そのような生徒・親の方が選択の結果に満足したり、良い学校に通っ たりする可能性がある。ここでは、選択できる学校の数や質が階層によって異なるかどうかに関す る実証的な調査・研究を整理する(5)。 第1に、選択できる学校の数については、4つの地方教育当局の中学校への1984年度入学者(約 2千7百人)の親への質問紙調査の結果の分析によると、学校の選択を提供されたと感じる割合 97 は、職業・教育の水準が最も高い親と最も低い親がともに大きいという傾向があった。(Stillman and Maychell 1986: 90-1) 第2に、選択できる学校の質については、全国的なデータが分析されている。まず、全国の小学 校への2005年度入学者(約4千2百人)のデータの分析によると、 親の社会経済的地位(所得・職業・ 住居から測定したもの)が上位20%の生徒に選択可能な学校(6)は、下位20%の生徒に選択可能な 学校よりも、小学校最終学年の試験で高い成績を取った生徒の割合が大きく、無料学校給食の受給 資格者の割合が小さかった。また、親の学歴が大卒以上の生徒に選択可能な学校と同じく義務教育 だけの生徒に選択可能な学校との間にも、同様の違いがあった(Burgess et al. 2009a: 13, 15, 20-1, 41, 60)。 次に、全国の小学校への2005年度入学者(約1万2千人)のデータの分析によると、親の社会経済 的地位や学歴が上位20%の生徒に選択可能な学校は、下位20%の生徒に選択可能な学校よりも、小 学校最終学年の試験で高い成績を取った生徒や白人の生徒の割合が大きく、無料学校給食の受給資 格者や英語が母語でない生徒の割合が小さかった(Burgess et al. 2009b: 6, 13, 28, 34; Burgess et al. 2011: 533, 540-1, 546) 。また、同じデータの分析では、親の社会経済的地位が上位20%の生徒は、下位20%の 生徒と比較して、小学校最終学年の試験で高い成績を取った生徒の割合が大きい学校や、無料学校 給食の受給資格者の割合が小さい学校が近くにあった(ibid. 537-8)。 以上のように、選択できる学校の数は階層による一貫した違いがなかったが、選択できる学校の 質は階層によって異なり、親の所得・職業・住居や教育の水準が最も高い生徒に選択可能な学校は、 最も低い生徒に選択可能な学校よりも、生徒の成績や家庭の所得が高いなどの違いがあった。ただ し、生徒・親が学校を選択せずに近くの学校に割り振られる方式の下でも、近くの学校の質が階層 によって異なり、その結果、通う学校の質が異なる可能性もある(7)。 (2)情報 高い階層の生徒・親の方が学校に関する情報をうまく入手・活用したり、学校の質を重視して選 択したりすれば、そのような生徒の方が質の高い学校に通ったり、階層間で通う学校が異なったり する可能性がある。ここでは、利用した情報源や重視した側面が階層によって異なるかどうかに関 する実証的な調査・研究を整理する(8)。 ①情報源 利用した情報源と階層との関係については、1990年代までは一部の地方教育当局を対象に、2000 年以降は全国的なデータを用いて分析が行われてきた。 第1に、一部の地方教育当局を対象としたものとしては、まず、4つの地方教育当局の中学校へ の1984年度入学者(約2千7百人)の親への質問紙調査の結果の分析によると、職業・教育の水準 が高い親ほど、利用した情報の数(訪問した学校、見た冊子や試験の結果の数)が多い傾向があっ た(Stillman and Maychell 1986: 86, 88-9)。また、ロンドンの中学校への1994年度入学者(約120人)の家 98 族への聞き取り調査の結果の分析によると、訪問した学校数の平均値は中間層が4.2校、労働者層 が3.3校だった(Noden et al. 1998: 231)。 他方、3つの地方教育当局の中学校への1993 ~ 95年度入学者(約6千人)の親への質問紙調査 の結果の分析によると、1つの地方教育当局では中間層の親の方が学校の成績順位表に注目すると いう傾向が顕著に見られたが、すべての地方教育当局で一貫していたわけではなかった。また、有 用だった情報については中間層と労働者層でおおむね同じ傾向だった。(Woods et al. 1998: 8, 119-20) 第2に、全国的なデータを用いたものとしては、まず、全国の中学校への1999・2000年度入学者 (約2千2百人)の親への聞き取り調査の結果の分析によると、学校の成績順位表を利用する可能 性は、母親の職業・教育の水準が高く、公営の賃貸住宅よりも持ち家や民間の賃貸住宅に住む方が 高かった。なお、入学許可の基準についての知識があると回答する可能性は、母親の職業・教育の 水準が高く、母親が白人で、賃貸住宅よりも持ち家に住む方が高かった(Flatley et al. 2001: 80-1, 92-4)。 次に、全国の中学校への2006年度入学者(約2千2百人)の親への聞き取り調査の結果の分析によ ると、学校の成績を利用する可能性は、母親の教育の水準が高く、賃貸住宅よりも持ち家に住む方 が高かったが、母親が白人以外の方が高く、職業による違いはなかった(Coldron et al. 2008: 88, 97)。 以上のように、全国的なデータを用いた分析では、情報源として学校の成績を利用した家庭は、 母親の学歴が高く、持ち家に住むという傾向があった。ただし、利用した情報源と職業・民族や民 間の賃貸住宅への居住との関係については、分析の結果は一致していなかった。 ②重視した側面 生徒・親が学校を選択する際に重視した側面については、選択した理由や選択した学校の特徴が 階層間で異なるかどうかが分析されている。これらの点に関しても、1990年代までは一部の地方教 育当局を対象に、2000年以降は全国的なデータを用いて分析が行われてきた。 (a)選択の理由 第1に、一部の地方教育当局を対象としたものとしては、3つの地方教育当局の中学校への1993 ~ 95年度入学者(約6千人)の親に選択の理由を尋ねた計9回(3つの地方教育当局で3年間) の調査結果の分析によると、学力中心の要因(学力の水準、試験の結果、進学コースの設置)を挙 げた親の割合は、5回は中間層、4回は労働者層の方が大きく、子供中心の要因(子供の希望、子 供の幸福、子供の友人が通学、生徒への面倒見)を挙げた親の割合は、5回は中間層、4回は労働 者層の方が大きかった。(Woods et al. 1998: 124, 126, 130, 244) 第2に、全国的なデータを用いたものとしては、 まず、 全国の中学校への1999・2000年度入学者(約 2千2百人)の親への聞き取り調査の結果の分析によると、希望した学校(申し込んだ学校のうち 最も子供を入学させたかった学校)を選択した理由として学業の成果を挙げる可能性は、母親の職 業の水準が高く、公営住宅よりも持ち家に住む方が高かったが、 母親が白人以外の方が高かった(母 99 親の学歴による違いはなかった) 。他方、通学の利便性を挙げる可能性は、持ち家よりも公営の賃 貸住宅に住む方が高かったが、母親の職業・学歴・民族による違いはなかった(Flatley et al. 2001: 112, 131-2, 135-6) 。次に、全国の小学校への2005年度入学者(約1万2千人)のデータの分析によると、 希望した学校(地方教育当局の申込書で第1希望に挙げた学校)を選択する際に最も重要だった要 因として、学力の水準や一般的な良い印象を挙げた割合は、社会経済的地位(所得・職業・住居か ら測定したもの)が上位20%の親の方が下位20%の親よりも大きく、大卒以上の親の方が義務教育 だけの親よりも大きかった。逆に、通学の距離・容易さを挙げた割合は、社会経済的地位や学歴が 低い親の方が大きかった(Burgess et al. 2009b: 8-9, 26-7)。 以上のように、全国的なデータの分析では、学校を選択した理由や重要だった要因として学力を 挙げた親は所得・職業・住居の水準が高く、通学の利便性を挙げた親は所得・住居の水準が低いと いう傾向があった。ただし、これらと学歴との関係や、通学の利便性を挙げることと職業との関係 については、分析の結果は一致していなかった。また、学力を挙げる可能性は白人以外の方が高く、 通学の利便性を挙げる可能性は民族による違いがなかった。 (b)選択した学校 学校を選択した理由だけでなく、実際に選択した学校の特徴が階層間で異なるかどうかも分析さ れている。 第1に、ロンドンの中学校への1994年度入学者(約120人)の家族への聞き取り調査の結果の分 析によると、第1希望の学校の成績は、中間層の方が労働者層よりも高かったが、試験で選抜する 学校かどうかを統制すれば、階層間で統計的に有意な違いはなかった。(Noden et al. 1998: 229) 第2に、全国の中学校への1999・2000年度入学者(約2千2百人)の親への聞き取り調査の結果 の分析によると、最終学年の試験の成績が地方教育当局の平均以上の学校を希望する可能性は、母 親の職業や教育の水準が高く、公営の賃貸住宅よりも持ち家に住み方が高かった(民族による違い (Flatley et al. 2001: 139-40) はなかった) 。次に、 全国の小学校への2005年度入学者(約4千2百人)のデー タの分析によると、最終学年の試験の成績が高い学校や無料学校給食の受給資格者の割合が小さい 学校を希望する可能性は、 社会経済的地位 (所得・職業・住居から測定) や学歴が高い親ほど高かった。 ただし、無料学校給食の受給資格者の割合が選択可能な学校の平均よりも小さい学校のうち、成 績(最終学年の試験で高い成績を取った生徒の割合)の高い1つ遠くの学校を希望するために必要 な成績の差は、社会経済的地位による一貫した違いがなかった(9)(Burgess et al. 2009a: 22, 31, 44-5, 56)。 最後に、全国の小学校への2005年度入学者(約1万2千人)のデータの分析によると、選択可能な 学校のうち希望した(地方教育当局の申込書で第1希望に挙げた)学校は、社会経済的地位が上位 20%の親の方が下位20%の親よりも、最終学年の試験の成績が高く、無料学校給食の受給資格者の 割合が小さかった(10)。ただし、この点については、成績が高く生徒の家庭が豊かな学校は、低所 得の家庭にとって、選択可能な学校の中でも遠いという解釈も示されている。実際、希望した学校 100 までの距離の順位は、階層による一貫した違いがなかった(11)(Burgess et al. 2009b: 13-15, 29-31)。 以上のように、全国的なデータの分析では、生徒の成績や家庭の所得の高い学校を希望した親は、 所得・職業・住居や教育の水準が高かった。ただし、成績の高い1つ遠くの学校を希望する程度は、 階層による一貫した違いがなかった。また、階層の高い家庭の方が、生徒の成績や家庭の所得の高 い学校が近くにあるという解釈や、それを裏づけるデータもあった。 (3)いいとこ取り 生徒・親が学校を選択しても、人気のある学校が生徒を選抜すれば、成績や階層の高い生徒が優 先的に受け入れられたり、学校間で生徒の成績や階層の違いが拡大したりする可能性がある。1990 年代の代表的な質的研究によると、学校は、望ましい生徒と望ましくない生徒を区別し、公式・非 公式の選抜を試みていた(Gewirtz et al. 1995: 139-43, 158-61)。以下では、入学許可の権限・基準やいい とこ取りの防止策に関する量的な調査・研究を整理する(12)。 ①入学許可の権限・基準 入学許可の権限・基準については、権限の所在、学校が用いた基準、それらが生徒の構成に与え た影響を見ていく。 (a)権限 イギリスの学校は、入学許可の権限を地方教育当局が持つものと、学校自身が持つものとに分か れている。前者は、公立学校、規制を受ける民間の (Voluntary Controlled) 学校であり、後者は、助 成を受ける民間の(Voluntary Aided)学校、財団の(Foundation)学校などである(13)。これらはいずれも 公費によって維持される学校であり、授業料を徴収する私立学校とは区別される。2006年度には、 中学生の92%が公費による学校に通い、これらの中学校のうち公立学校が62%、規制を受ける民間 の学校が3%、助成を受ける民間の学校と財団の学校がそれぞれ17%などだった(Coldron et al. 2008: 20-3)。このように、中学校の約3分の1は学校自身が入学許可の権限を持っていた。 (b)基準 入学許可の基準については、能力・適性による選抜を行った学校の割合と、定員超過の場合の基 準を見ていく。 第1に、選抜を行った学校の割合については、全国の中学校(約3千校)への2006年度(一部は 2007年度)入学者用冊子の調査によると、 入学者全員を試験の成績で選抜した学校(グラマースクー ル(14))は5%、入学者の一部を一般的な能力で選抜した学校は1%、同じく適性で選抜した学校 は4%だった。それぞれの方法で選抜を行った学校のうち、財団の学校が半分程度、助成を受ける 民間の学校が2~4割を占めていた(15)。なお、適性による選抜を行った専門分野としては、音楽、 101 技術、芸術、スポーツなどが多かった。(Coldron et al. 2008: 16, 44-51) 第2に、定員超過の場合の基準については、上記の2006年度入学者用冊子の調査と全国の中学 校(グラマースクールを除く約3千校)への2001・08年度入学者用冊子の調査によると、兄姉の在 学(2001年度96%、06年度91%、08年度97%) 、距離(各86%、61%、93%) 、通学区域(61、65、 61%)、医療上または社会的な必要(73、53、59%) 、配慮が必要な子供(2、76、99%) 、特別な 教育ニーズ(39、52、53%)などが多かった(ibid. : 74-8; West et al. 2011: 9)。基準は学校の種類によっ て異なり、2006年度入学者用冊子の調査によると、医療上または社会的な必要を挙げた学校の割合 は、公立学校は62%だったが、財団の学校は47%、助成を受ける民間の学校は22%だった。同様に、 配慮が必要な子供を挙げた学校はそれぞれ86、63、52%、特別な教育ニーズは64、32、21%だった (Coldron et al. 2008: 75-6)。 以上のように、能力または適性によって生徒を選抜した中学校は約1割であり、定員超過の場合 の基準は、兄姉の在学、距離・通学区域、生徒の特別な事情などが多かった。また、入学許可の権 限を持つ学校は、選抜を行った学校の大半を占め、定員超過の場合の基準として生徒の特別な事情 を挙げる割合が小さかった。 (c)生徒の構成への影響 入学許可の権限の所在や基準が生徒の構成に与えた影響については、ロンドンの中学校の分析や 全国的なデータを用いた分析が行われている。 第1に、ロンドンのグラマースクールのある地方教育当局の2004年度のデータの分析によると、 グラマースクール(19校)はそれ以外の中学校(89校)よりも、生徒の入学前の成績が高く、無料 学校給食の受給資格者や特別な教育ニーズを持つ生徒の割合が小さく、黒人が少なく、インド人・ 中国人などが多かった(West and Hind 2007 : 508-11)。また、ロンドンのグラマースクール以外の中学 校(4百校近く)の2001年度のデータの分析によると、入学許可の権限を持たない学校はそれ以外 の学校よりも、特別な教育ニーズを持つ生徒の割合が大きかった(中学校最終学年の試験で5科目 (West and Hind 2006 : 151-2) 以上で高い成績を取った生徒の割合は小さかった) 。同様に、 2004年度のデー タの分析でも、入学許可の権限を持たない学校の方が、生徒の入学前の成績が低く、無料学校給食 の受給資格者や特別な教育ニーズを持つ生徒の割合が大きかった。なお、入学許可の権限を持つ学 校を選抜的な学校(16)と選抜的でない学校に区別すると、選抜的な学校の方が生徒の入学前の成績 は高かったが、無料学校給食の受給資格者や特別な教育ニーズを持つ生徒の割合は統計的に有意な 違いがなかった(West and Hind 2007 : 512-6)。次に、ロンドンの中学校(4百校近く)への2008年度入 学者のデータの分析によると、グラマースクールや宗教系の学校(大部分は助成を受ける民間の学 校(17))は、小学校最終学年の試験の成績が高く、無料学校給食の受給資格者の割合が小さかった (Harris 2012: 677, 680-1; Harris 2013: 256, 262)。最後に、ロンドンのグラマースクール以外の中学校(4百 校近く)の2005年度卒業者のデータの分析によると、宗教系の学校は非宗教系の学校よりも、無料 102 学校給食の受給資格者や小学校最終学年の試験の成績が下位4分の1の生徒の割合が小さく、同じ く上位4分の1の生徒の割合が大きかった (学校周辺の生徒の構成と比較しても同様だった) 。 また、 宗教系の学校(99校)の大多数を占める2つの宗派の学校(各67校、25校)のうち、無料学校給食 の受給資格者の割合が最小だった各5校は、生徒・親を面接しており、これらの学校の近くに住み ながら同じ宗派の別の学校に通う生徒は、これらの学校の生徒よりも、無料学校給食の受給資格者 や小学校最終学年の試験の成績が下位4分の1の生徒の割合が大きかった(Allen and West 2009: 476-9, 483-4, 486-8)。 第2に、全国の中学校(約3千校)への2002年度入学者のデータの分析によると、 グラマースクー ルや入学許可の権限を持つ学校は、選抜的でない公立学校と比較して、小学校最終学年の試験の成 績の高い生徒を多く受け入れていた(Gibbons and Telhaj 2007: 1287-8, 1296-7)。次に、全国のグラマース クール以外の中学校(約3千校)の2005年度卒業者のデータの分析によると、宗教系の学校は非宗 教系の学校よりも、無料学校給食の受給資格者や小学校最終学年の試験の成績が下位4分の1の生 徒の割合が小さく、同じく上位4分の1の生徒の割合が大きかった(学校周辺の生徒の構成と比較 しても同様だった)(Allen and West 2011: 696-9, 702)。最後に、ほぼ同じデータの分析によると、公立学 校は、入学許可の権限を持つ学校(非宗教系の財団の学校、宗教系の助成を受ける民間の学校)よ りも、無料学校給食の受給資格者や小学校最終学年の試験の成績が下位4分の1の生徒の割合が大 きく、同じく上位4分の1の生徒の割合が小さかった(特に、宗教系の助成を受ける民間の学校と の違いが大きかった) (学校周辺の生徒の構成と比較しても同様だった) 。ただし、選抜的な入学許 可の基準(宗教、生徒・親の面接、校風、能力・適性など)を用いない学校だけを比較すると、公 立学校と入学許可の権限を持つ学校との間で、無料学校給食の受給資格者や小学校最終学年の試験 の成績が上位4分の1の生徒の割合に違いはなかった(Allen 2007: 97-9, 108-11)。 以上のように、入学許可の権限を持つ学校や入学者を学力で選抜する学校の方が、生徒の入学前 の成績や家庭の所得が高く、特別な教育ニーズを持つ生徒が少なかった。 ②防止策 成績・階層の低い生徒や費用のかかる生徒を受け入れさせるために、国による規制やそのような 生徒への追加的な予算配分が行われてきた。 (a)規制 まず、国による規制の経緯を概観した上で、規制を強化した効果を見ていく。 1979年からの保守党政権下で学校選択制が拡大された後、能力・適性による明示的な選抜や社会 的・黙示的な選抜が関心を集めた。1997年に労働党政権が発足すると、1998年の学校水準・枠組法 と1999年の入学許可行為準則に基づき、 学力による選抜の新たな導入が禁止された(以前から能力・ 適性による選抜を実施していた学校には継続が認められた)。他方で、専門分野を持つ学校に対し 103 ては、生徒の10%を上限に、適性による選抜を新たに導入することが認められた。2003年には入学 許可行為準則が改定され、配慮が必要な子供を優先的に受け入れるよう指導された。また、2006年 の教育・監査法と2007年の入学許可行為準則に基づき、入学許可の過程で面接を行うことが禁止さ れた。(West et al. 2011: 2-6; Coldron et al. 2008: 25-8) 2003年と2007年の入学許可行為準則によって入学許可の基準に対する規制が強化された効果が 分析されている。全国の中学校(約3千校)への2001 ~ 09年度入学者のデータの分析によると、 2003年の準則によって認められなくなった基準(教職員等の家族の優先、信仰心を判断するための 面接、小学校での成績や兄姉の成績)を2001年度に用いていた学校は、この準則の実施後、他の学 校と比べて、小学校最終学年の試験の成績の低い生徒や少数民族の生徒の割合が増加し、成績上位 の生徒の割合が減少した。しかし、これらの効果はかなり小さく(例えば、成績の低い生徒の割合 は0.5%ポイント増加した) 、無料学校給食の受給資格者の割合には変化がなかった。また、2007年 の準則によって認められなくなった基準(第1希望者の優先、配慮が必要な子供を優先しない、学 校・教育への親の関与の証拠を求めるなど)を2006年度に用いていた学校についても、同様の結果 が示されている(Allen et al. 2010: 8-10, 15-6)。このように、入学許可の基準に対する規制が強化された 効果は小さかった。 (b)予算配分 次に、学校への予算配分の制度を概観した上で、家庭の所得の低い生徒や費用のかかる生徒への 追加的な予算配分の実態を見ていく。 1988年の教育改革法とそれに続く通知によって、地方教育当局から学校に委譲される予算の80% 以上は生徒の数と年齢に従って配分されなければならなくなった。ただし、このうち5%までは、 生徒の特別な教育ニーズなどの定量的な指標によって配分することができた。また、学校に委譲さ れる予算の最大20%は、特別なニーズや学校の規模などの客観的な要因によって配分することがで きた(Levačić 1995: 8; Bullock and Thomas 1997 : 12)。2002年度からは、生徒の数と年齢に従って配分され なければならない予算の割合が75%に引き下げられ、 2006年度からはこのような規制が廃止された。 また、2002年度には、地方教育当局から学校に予算を配分する際の計算式に社会的剥奪の要因を含 めることが義務づけられたが、この要因に基づいて配分されるべき予算の割合の下限は定められな かった(West 2009 : 168)。このように、特別な教育ニーズを持つ生徒などに追加的な予算を配分する ことは可能であり、2002年度以降はそのように配分することのできる割合が引き上げられた。 追加的な予算配分の実態については、1990年代には一部の地方教育当局を対象に、2000年以降は 全国的なデータを用いて分析が行われてきた。 第1に、13の地方教育当局の学校(約2千8百校)の1990年度予算の分析によると、計算式に 従って学校に配分された予算のうち、追加的な教育ニーズのために配分された割合は0~ 20%超 まで多様だったが、0~2%が半数余りだった(Bullock and Thomas 1997 : 174, 179)。また、6つの地方 104 教育当局の約3百の中学校の1990 ~ 95年度予算の分析によると、無料学校給食の受給資格者の割 合の変化と学校の予算の変化(いずれも年平均)との間にはおおむね負の関係があった(Levačić and Hardman 1998 : 305, 308, 316) 。 第2に、全国の小中学校の2003 ~ 06年度のデータの分析によると、各年度における不利な生徒 の数と学校の予算との間には正の関係があった。例えば、小学校の2006年度のデータに基づく推計 によると、学校には、 (不利でない)生徒1人当たり2,141ポンドが配分され、さらに、無料学校給 食の受給資格者には1,531ポンド、英語が母語でない生徒には283ポンド、特別な教育ニーズを持つ 生徒には9,711ポンドが追加的に配分された。他方で、不利な生徒の数の変化と学校の予算の変化 との間には、短期的には必ずしも正の関係がなかった。例えば、小学校の2005 ~ 06年度のデータ に基づく推計によると、生徒が1人増加した学校は予算が1,843ポンド増加し、英語が母語でない 生徒なら640ポンド、特別な教育ニーズを持つ生徒なら1,824ポンドがさらに増加したが、無料学校 給食の受給資格者の増加と予算の増加との間に統計的に有意な関係はなかった。同様に、中学校の 同年度のデータに基づく推計によると、生徒が1人増加した学校は予算が2,474ポンド増加し、英 語が母語でない生徒なら488ポンドがさらに増加したが、他の点で不利な生徒の増加と予算の増加 との間に統計的に有意な関係はなかった。2種類の推計結果の違いに対する1つの説明としては、 学校の状況の中長期的な傾向はその財源に影響を与えるが、短期的な剥奪は直接的な影響を与えな いことが挙げられている。(Sibieta et al. 2008 : 39, 49-50) 以上のように、全国的なデータの分析によると、家庭の所得の低い生徒や費用のかかる生徒を受 け入れた学校には追加的な予算が配分されていたが、短期的には、これらの生徒を増やした学校の 予算は必ずしも増えなかった。 注 (1) 主にイングランドを対象とするが、同様の制度をとるウェールズのデータが含まれている場合はそ れも対象とする。 (2) なお、ルグランは、恵まれない人の方が選択を好むと主張しており(児山2011a:22)、バウチャー (voucher)型の改革(政府が親に学校の利用券を与え、親がそれを使って希望する学校で子供の教育を 購入する方式)への賛否と階層との関係が分析されている。全国の成人(親以外も含む約2千2百人) への2010年の聞き取り調査の結果の分析によると、バウチャー型の改革に反対する可能性は、専門職・ 管理職の方が定型的・半定型的職業の従事者よりも高かったが、所得が最も低い層の方がその上の層 よりも高かった(所得が最も高い層との間には違いがなく、学歴による違いもなかった)(Exley 2014: 31, 36-8) 。 (3) 1988年の教育改革法以前にも、親が子供の通う学校について希望を表明することができた。ただし、 地方教育当局は親の希望を拒否する裁量を持っていた。(Maclure 1992: 34-5) (4) 無料学校給食の受給資格は、所得補助や失業手当の受給に基づいており、家庭の貧困の指標として 105 用いられる。(Burgess et al. 2006: 3) (5) なお、ルグランは、特に貧しい人々のための交通手段や交通費の支援を提案しており(児山2011a: 24)、通学距離や特別なニーズに応じて無料の交通手段を提供する制度があるが(Gov. UK)、その実施 状況や効果の分析は見られない。 (6) 選択可能な学校とは、その学校の前年度入学者の8割が通う範囲内に住居があり、住居と同じ地 方教育当局にあり、住居から20㎞以内にある学校である。(Burgess et al. 2009a: 18; Burgess et al. 2009b: 12; Burgess et al. 2011: 535) (7) 学校の成績と住宅価格との間に関係があることが示されている。(Rosenthal 2003; Gibbons and Machin 2003; Gibbons and Machin 2006) (8) なお、ルグランは、利用者の選択を支援するアドバイザーを提案しており(児山2011a:24)、2006年 度から学校の選択アドバイザーが活動しているが(Stiell et al. 2008)、その効果の分析は見られない。 (9) 社会経済的地位が(5分位中)低い方から、24、13、28、23、20%ポイントであると推定されている。 (Burgess et al. 2009a: 56) (10) 例えば、選択可能な学校が5校ある場合、社会経済的地位が上位20%の親は、成績が上から2.69番目、 無料学校給食の受給資格者の割合が下から2.62番目の学校を希望したのに対し、下位20%の親はそれ ぞれ3.45番目、3.51番目の学校を希望した。選択可能な学校が8校、10校の場合も同様だった。(Burgess et al. 2009b: 29-30) (11) いずれの階層も、選択可能な学校が5、8、10校の場合、それぞれ2~3、3~4、3~6番目に 近い学校を選択し、距離の順位と階層との間に一貫した関係はなかった。(Burgess et al. 2009b: 31) (12) なお、 小中学校の退学者の数は、1990年度は約3千人だったが、94年度(約1万2千人)まで急増した。 その後、1997年度まで横ばいで、99年度(約8千人)まで急減し、2003年度(約1万人)まで再び増加し、 10年度(約5千人)まで再び減少し、11年度は横ばいだった。(Parsons 1996: 178; DfEE 2000: 1; DfE 2013) (13) 公立学校は、地方教育当局が土地・建物を所有し、教職員を雇用する。規制を受ける民間の学校 は、 (大部分は宗教系の)慈善財団が土地・建物を所有し、地方教育当局が教職員を雇用する。助成 を受ける民間の学校と財団の学校は、慈善財団や学校の理事会が土地・建物を所有し、理事会が教職 員を雇用する(前者の大部分は宗教系である)。1944年の教育法によって中学校が義務教育化された 際、教会の学校が助成を受ける民間の学校や規制を受ける民間の学校に移行することができるように なった。また、1959年の教育法により、政府から資本費用の財政支援を受けて教会の中学校を新設す ることも可能になった。その後、1988年の教育改革法に基づき、国庫補助学校とCTC(City Technology Colledge)が創設された。国庫補助学校は、地方教育当局の統制を離れて中央政府から直接資金を受け 取る学校であり、CTCは、産業・商業界の財政支援を受ける無償の学校である(これらは学校自身が 入学許可の権限を持っていた)。しかし、国庫補助学校は労働党政権下で廃止されて財団の学校に移行 し、CTCの多くもアカデミーに移行した(CTCは15校設立され、2006年度には4校存在した)。財団の 学校は2001年から、アカデミーは2002年から設立可能になった。アカデミーは、企業や宗教・慈善団 106 体と中央政府が出資する学校であり、学校自身が入学許可の権限を持つ(2006年度には50校存在した)。 (Coldron et al. 2008: 21-2; Allen and West 2011: 693-4; Wallace ed. 2009: 2, 54, 107, 123) (14) グラマー (grammar)スクールは、元来、古典(特にラテン語・ギリシャ語の文法)の教育に焦点を絞っ た学校だったが、1944年の教育法に基づく三分岐制の下で、最も学力の高い生徒のための選抜的な中 学校にこの名称が付されるようになった。生徒は小学校の最終学年の試験で選抜され、グラマースクー ルに受け入れられなかった生徒はモダンスクールやテクニカルスクールに入学した。大部分の地域で は1970 ~ 80年代に選抜的な制度から非選抜的な総合制に移行したが、いくつかの地方教育当局では 1990年代以降もグラマースクールが存続した。(Wallace ed. 2009: 122-3) (15) グラマースクール(164校)のうち、財団の学校が85校、公立学校が35校、助成を受ける民間の学校 が32校、規制を受ける民間の学校が12校だった。また、入学者の一部を適性で選抜した学校(129校) のうち、財団の学校が68校、助成を受ける民間の学校が35校、公立学校が15校、アカデミーが11校だっ た。(Coldron et al. 2008: 45, 49) (16) ここでいう選抜的な学校とは、一部の生徒を能力・適性や面接で選抜する学校、教職員・理事・卒 業生の子供を優先する学校、小学校からの報告や校長からの推薦、兄姉の成績で選抜する学校などを 指す。(West and Hind 2007 : 512) (17) 全国の中学校(3,106校)の2005年度のデータによると、グラマースクール(164校)を除く2,942校 のうち、宗教系の学校は511校あり、そのうち、助成を受ける民間の学校が463校、規制を受ける民間 の学校が36校、財団の学校が8校、アカデミーが4校だった(Allen and West 2011: 697)。なお、ロンド ンのデータは見られなかった。 参照文献 児山正史(1999)「イギリスの学校選択:公共サービスにおける利用者の選択」、 『法政論集』(名古屋大学 法学部) 、180号、167-210頁。 ――(2004)「準市場の概念」、『年報行政研究』、39号、129-146頁。 ――(2011a) 「イギリスにおける準市場の優劣論:ルグランの主張と批判・応答」、 『季刊行政管理研究』、133号、 17-31頁。 ――(2011b)「準市場の優劣論と日本の学校選択論:議論の整理」、『人文社会論叢(社会科学篇)』 、26号、 31-54頁。 ――(2012a)「準市場の優劣論と日本の学校選択(1):実証的調査・研究の整理」、『人文社会論叢(社会 科学篇) 』、27号、103-123頁。 ――(2012b)「準市場の優劣論と日本の学校選択(2・完) :実証的調査・研究の整理」、 『人文社会論叢(社 会科学篇)』 、28号、39-62頁。 ――(2014) 「準市場の優劣論とイギリスの学校選択の質・応答性への効果」、 『人文社会論叢(社会科学篇)』 、 31号、67-91頁。 107 Allen, Rebecca (2008) Choice-Based Secondary School Admissions in England: Social Stratification and the Distribution of Educational Outcomes (PhD Thesis). 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(Routledge). 110 【研究ノート】 軍艦「大和」に関するノート 池 田 憲 隆 はじめに 1.神戸鉄工所の船舶建造実績をめぐって 2. 「大和」の発注経緯 3. 「大和」の製造契約 おわりに はじめに 小稿が対象とする「大和」とは、有名な戦艦「大和」(二代)ではなく、初代の「大和」である。 同艦は1883(明治16)年2月23日に建造を開始し、1887(明治20)年11月6日に竣工している1。現 在からすると、 「大和」という名称が格別の意味合いを持っていたかのように感じられるかもしれ ないが、この時期に地名を艦船名とするのは一般的であり、かつ「大和」という地名が特別視され た様子は窺いえない。にもかかわらず、ここで同艦を検討の対象とするのは建造をめぐって興味深 い論点が存在しており、筆者の予てからの研究テーマとも密接に関係しているからである。 「大和」は日本海軍が初めて建造した鉄骨木皮艦「葛城」(1,480トン、横須賀造船所建造)の姉 妹艦であるが、海軍内ではなく初めて民間の神戸鉄工所2に発注された。鉄骨木皮とは船体の「主 1 海軍大臣官房[1934]の「艦船年表」(以下において記載する艦船の起工・竣工時期や排水量のデータ は基本的に本表による)を参照。同年表では初代「大和」の種別を「巡洋艦」としているが、これは 後年に至ってからの認定であり、建造当時には正式の種別規定はなかった。「戦艦」や「巡洋艦」など という艦種に関する規定が明確化されるのは、1898年3月21日付「軍艦及水雷艇類別等級標準」以降の ことである。海軍有終会[1974]には、「明治維新海軍建制の初め、艦船を類別する概ね外国語(Sloop ,Schooner,Gunvessel,Despatch-boat,Corvette,Frigate)等の儘之を称呼し、或は往々甲鉄艦・鉄甲船等の 字を用ひたるものありて、之に関し我国用語の一定せるものはない。明治十六年に至り巡洋艦(当時は 巡航艦とも謂へり)の成語出で、次で砲艦・報知艦(後ち通報艦と改む)・海防艦等の称呼現はれ、同 三十一年に及び艦艇類別の標準を制定せられた」(p.238)とある。なお、日本海軍は自らが所有・使用 する船舶を総称して「艦船」、その内の戦闘を目的とした船舶を「艦艇」、さらにそのなかの主要なもの を「軍艦」と呼んでいるようであり(pp.237-240)、筆者の用語法もそれに従っている。なお、以下で言 及する「大和」とは、すべて初代艦のことをさす。 2 (神戸)小野浜造船所、あるいは経営者の名を冠してキルビー商会造船所ともいわれる。 111 要部なる龍骨・肋材・梁・支水隔壁・縦通材等に鉄材を用ひ、之を堅牢にし、座礁擱岸の危険、若 くは海水による腐食等を防がんため、外板・甲板等に木材を用ひ、かくて此の二者の長所を採択混 用する」3という観点から採用された建造方式といわれるが、事実上は鉄船あるいは鋼船への過渡 的なものにすぎなかった4。とはいえ、 「日本における西洋型船の建造は、まず木造帆船の建造技術 の習得過程としてなされた」5のであり、鉄あるいは鋼を船体の主要な構造材とするためには、新 たにその加工・建造技術の習得が必要とされたという点で、鉄骨木皮艦の登場は近代日本造船技術 史においてひとつの画期であったことはいうまでもない。 では、この「大和」が当時の日本における唯一の軍艦建造所であった海軍省横須賀造船所ではな く、また西洋型船舶に関する建造実績をかなり有していた工部省の長崎造船所や神戸造船所でもな く、一民間造船所たる神戸鉄工所に発注されたのか。それを同所の建造能力や技術によって説明す る見解はいくつもある。 近代日本造船業の生成過程における外国人経営者の役割に注目した鈴木淳は、E・C・キルビー (Kirby)自身は造船技術をもっていなかったが、彼の経営する神戸鉄工所は10名の外国人技術者 を抱え、建造船は高い評価を得ていたため、 「大和」を受注することができたとしている6。しかし ながら、同所が建造してきた船舶と軍艦「大和」とでは規模や仕様において大きく異なるため、そ れだけでは十分な説得力をもっていない。 また、小野塚知二は「大和」を「機帆船国産化の到達点」といい、「イギリス人技師を擁する造 船所が木から鉄・鋼への転換の過程で先行し」 、海軍横須賀造船所は遅れをとっていたと主張して いる7が、 「大和」は横須賀で先に着工されていた「葛城」の設計図を基にした、いわば2番艦であっ たことを無視しており、いかなる意味で「到達点」なのかはまったく不明である。しかも、神戸鉄 工所の経営者キルビーは「大和」受注後、資金繰りに苦しんで1年も経たない1883年12月に自殺し ている。そのため、 海軍が同所を接収して小野浜造船所を設立し、 「大和」の建造を続けることとなっ た。つまり、初の民間造船所による軍艦建造は中途で挫折し、海軍の下でようやく完成することが できたのである。この後、海軍による国内民間造船所への軍艦発注は、1886年の「鳥海」(614トン、 石川島造船所)を唯一の例外として、日露戦時期まで途絶えてしまう。軍拡予算を追い風として外 国企業への発注が急増する一方で、 海軍内の造船事業もまた質量ともに拡大していったためである。 鈴木 [1996] ・小野塚[2003]の視点を継承しながら、 神戸鉄工所から海軍小野浜造船所への技 3 造船協会[1911]p.296。 4 ジョージ・ネイシュによれば、「この方式は茶運搬用クリッパー船や、イギリス海軍のスループ型軍艦 や砲艦などの小型船の構造に用いられたものであ」り、「鉄の肋骨上に木の外板を張ると、船底を銅で つつむことができ、底を十分にきれいに保って船の帆走中の大きな妨げをふせぐことができるという利 点があった」(シンガー[1979]p.499)。 5 山本[1994]p.88。 6 鈴木[1996]pp.61-65。 7 小野塚[2003]p.23。 112 術者・労働者や機械設備の継承関係を重視した千田武志は、海軍による神戸鉄工所の買収について 外国人経営企業からの技術移転をねらったもの8とし、同所が「横須賀造船所などをさしおいて日 本の鉄骨木皮艦、鉄製艦、鋼製艦の建造において先導的役割」9を果したと述べている。だが、そ の「先導的役割」の内容は小野塚[2003]と同様に明確ではなく、横須賀によりも先行していたと いう点に関する実証はほとんどなされていない。また、神戸鉄工所から海軍小野浜造船所への移行 をそのまま単純に前者から後者への技術的移転とみる視点には疑問が残る。 近代日本の産業技術形成について魅力的な見取図を提示した中岡哲郎も神戸鉄工所に注目し、 「鉄 船への最初の技術跳躍と挫折」の主役を振り当てている10。中岡[2006]は海軍における外国から の技術導入過程について一定の検討をおこなっており、先行して「葛城」を建造した横須賀造船所 の役割についても無視していないが、 「大和」建造以後の海軍造船事業にはあまり関心を示してい ない。そのためか、 「大和」受注から建造にいたる過程に関する把握にはいささか疑問点がある。 すなわち、前述した諸研究と同様に外国人経営企業からの技術移転という観点に収斂させてしまっ ているきらいがある。 このような研究史上の問題点について、以下では論点の所在をもう少し具体的に明らかにしなが ら、旧知の資料に若干の新資料を加えて検討してみたい。 1.神戸鉄工所の船舶建造実績をめぐって キルビーは1877(明治10)年に共同経営者として神戸鉄工所に参加した後、80年には「キルビー 商会単独の所有」として同所の経営権を把握し、10名の外国人技術者を抱えて、同所の建造船は高 い評価を得ていた、と鈴木[1996]は述べている11。その例証として、大阪商船会社設立時におけ る所有船舶評価額において神戸鉄工所製は工部省の長崎造船所や神戸造船所のそれをはるかに凌い でいたことと、1893(明治26)年に同社の老朽船が整理された際にも同所製はほとんどが現役に留 まったことをあげている12。これらの点に関する評価は、同所製船舶のデータが提示されておらず 検証できないので小稿では保留したい。 ただし、 「大和」受注にとくに関係するのは、 神戸鉄工所が琵琶湖の大津-長浜間鉄道連絡船(「太 湖丸」516トン、 「第二太湖丸」498トン)2隻を建造した実績13であろう。これらが日本において 8 千田[2004]p.16。 9 千田[2004]p.29。千田[2014]は神戸鉄工所設立から「大和」建造期、さらには海軍小野浜造船所期 までを広くフォローした論考であるが、視角は前稿と変わっていない。 10 中岡[2006]pp.354-361。 11 鈴木[1996]pp.61-65。 12 官営造船所の前者が114円、後者が97円であったのに対して、神戸鉄工所は168円であったと鈴木は述 べているが、注記された資料である大阪商船株式会社[1934](pp.357-362)からそれらの点を確認す ることはできなかった。というのも、同社史にはこれらの船舶の建造所データが記載されていないか らである。 13 太湖汽船株式会社[1937]pp.11-12。 113 初めて建造された鉄製汽船といわれている14からである。ところが、この鉄船建造についてもほと んど詳細は分っていない。この2船について具体的に記述された資料は、中西洋が発掘した長崎造 船所技手佐立二郎の報告15だけであるように思われる。 中西[1983]によると、佐立は渡辺造船局長から「神戸大阪地方諸工場巡覧」を命ぜられ、1883 年 9月に約1ヶ月をかけて調査をおこない、10月に報告書を提出している。以下、当該2船に関す る記述を引用する16。 「先頃神戸キルベー会社ノ製造ニ係ル鉄船」 〇船体 船長凡27間、巾凡25呎、水入(船尾ニテ)6呎 〇機械 「聯製ニテ二組・・・・・・即チ「ツヰンスクルー」ナリ・・・・・・一ハ英国ヨリ購ヒ(第 二太湖丸)一ハ該会社ノ製作ナリ 機械ノ大体ハ同一ナレトモ英国製ノ方軽便 ニシテ従テ船ノ水入モ六呎程浅シ」。汽筒径18吋オヨビ36吋、撞動ノ長サ24吋 〇汽鑵 「楕円形ニテ弐筒」 以上から船体が鉄製であるだけでなく、船長が約49メートル、船幅は約7.6メートルあったこと がわかり、従来の琵琶湖水運小汽船に比すればかなりの大型であった17ことは間違いない。しかも、 機械が「聯製」と書かれているので、機関は2段膨張式と推定される。これらの点から、神戸鉄工 所が当時において相対的に高い技術をもっていたといってよいと思われるが、実際にこの2船をみ た佐立は「其粗製なるに愕きたり」18という感想を残している。就航後における当該2船の機能に 問題があったという記録は残っていないようなので、実用上差し支えないレベルであったというし かないが、国産最初の鉄船という点でその出来は必ずしも芳しくはなかったのかもしれない19。 2段膨張式機関とは、蒸気機関の圧力を高圧にすることが可能になり、シリンダーに残った蒸気 を再度利用できるようにした技術である。これが技術史的に画期的な意味を持つのは、1850年代ま でにスクリュー・プロぺラ、鉄製船体、表面凝縮器が標準的になりつつあったことを前提にして、 1860年代において帆船と競合する蒸気船の地位を決定的に向上させたと考えられるからである。つ まり、この機関を導入することによって石炭消費量は急激に低下し、運航コスト面においても蒸気 14 造船協会[1911]p.765。 15 中西[1983]pp.623-630。ただし、この原史料を閲覧しえたのは著者本人だけのようである。 16 中西[1983]p.625。 17 大津市[1982](p.341、表25)には、太湖汽船会社の創立時(1882年)に他会社等から購入した15隻の 船舶がリストアップされているが、いずれも100トン未満である。 18 中西[1983]p.628。これは、世評の高さに比してという留保が必要かもしれない。 19 中岡[2006]は、「こうした佐立の証言は太湖丸の仕上がりが、同業者の目から見れば各所に欠点をは らんだものであったことを示すものですが、未経験の一段技術的に高い領域に挑戦するときにはそれ は当然のことです」(p.359)と述べている。 114 船は帆船に取って替わることができるようになった20のである。 この2段膨張式機関が国産船舶に初めて採用されたのは、横須賀造船所が建造した軍艦「清輝」 (1876年竣工、木製897トン)であるといわれている21。「清輝」は先に起工した「迅鯨」とともに当 時の首長ウェルニー自らが設計した22ものであり、同所が初めて竣工させた軍艦であった。同艦は 外車ではなくスクリュー・プロペラを採用し、720実馬力2段膨張式機関を装備していたというこ とと、国産軍艦として初めて欧州への巡航を果たしたという点で、近代日本造船史の一時期を画す る存在であった23といえよう。 しかし、先取例にありがちな欠点は同艦においても免れておらず、その先進的な機関は故障がち だったようである。竣工後、機関の修復を繰り返しており24、1879 ~ 82年度の1トン当り修理費 は年平均で15.9円とされ、艦齢の若い軍艦のなかでは最も高いものとなっている25。ただし、 「清輝」 に続いて英国企業で建造され回航された「扶桑」 (1878年竣工、鉄製鉄帯3,717トン)、 「金剛」(1878 年竣工、鉄骨木皮2,248トン) 、 「比叡」 (1878年竣工、鉄骨木皮2,248トン)の3艦は排水量が大きい ため、1トン当り修理費はそれほどでもないが、 「金剛」以外の2艦修理費額自体は「清輝」より もかなり高額である。その点で、修理の内容をさらに追求する必要があるが、横須賀造船所の製造 技術が未熟であったことだけを唯一の原因とすることはできないようである。ともあれ、その後の 同所における建造軍艦がすべて2段膨張式機関となったということは、「清輝」建造の意義を示す 20 これらの点については、ヘンドリック[1989]pp.167-177、ヘンドリック[2005]pp.20-22、および中岡[2006] pp.329-332を参照。それに関連して、「造船史・海軍史」の時期区分について帆船から汽船へと2段階 で把握するのではなく、その間に機帆船時代があったことを重視する見解を小野塚[2003](pp.20-21) が主張しているが、そこでは製造技術面と戦術や運用面における変化が混同されているように思われ る。純汽船へと移行しえた技術的ターニングポイントは先のヘンドリックの主張に説得力があり、構 造材の変化を基礎にしつつ機関製造技術の変革の結果が主因となって機帆船時代を終焉させたという べきであろう。ただし、商船と軍艦とでは機能面で大きな相違があり、後者の純汽船化は前者に遅れ て鋼製船体と3段膨張式機関の導入によって完成すると考えられる。 21 造船協会[1911]p.365。 22 横須賀海軍工廠[1973]p.227およびp.248。ところが、「その製図は予の計画に基づいて、上田寅吉が 引いたもので...<中略>...全く此の四隻は西洋人の手を借らず、日本人のみの手で出来上がった」 (赤 松則良[1918]p. 8)という証言があり、当時のフランス人と日本人技師の役割分担は必ずしも明らか ではない。赤松はウエルニー罷免後に横須賀造船所長となり、後に主船局長等を歴任した技術官であっ た。上田は、幕末期に沈没したロシア使節船ディアナ号の代船(ヘダ号)が伊豆の戸田村で建造され た際に船大工として参加し、その後幕府から赤松たちとともにオランダに派遣されて造船技術を研修 し、明治維新後は横須賀造船所の技術官となっている。ヘダ号建造に関する造船史・労働史的考察を おこなったものとして、山本[1994](第1章)があり、幕末時のオランダ造船研修に関する記録とし ては、赤松範一[1976]がある。 23 日本船舶機関史編集委員会[1975]は「主機械ヲ邦人職工ノ手ニ依リ製造セシコトハ異常ノ進歩」 (p.328) と評している。 24 日本船舶機関史編集委員会[1975]、pp.154-158。 25 室山[1984]pp.108-109、第20表。 115 表1 横須賀造船所創立以来の建造艦船(1869-84年起工) (単位:ノット、トン、千円) 1トン当たり 艦船名 船材 蒼龍丸 第一利根丸 第二利根丸 函容丸 迅鯨 清輝 天城 磐城 海門 木 木 木 木 木 木 木 木 木 天龍 葛城 武蔵 起工年月 進水年月 竣工年月 速力 排水量 1869/11 1870/12 1871/ 5 1871/ 9 1873/ 9 1873/11 1875/ 9 1877/ 2 1877/ 9 1872 /5 1872/ 3 1873/12 1873/10 1876/ 9 1875/ 3 1877/ 3 1878/ 7 1882/ 8 機関 製造費 製造費 1872/8 1873/12 1874/12 1875/21 1881/ 8 1876/ 6 1878/ 4 1880/ 7 1884/ 3 ? ? ? ? 12 9 10 10 12 198 170 109 450 1,450 897 936 656 1,358 単式 単式 単式 単式 単式 2段膨張 2段膨張 2段膨張 2段膨張 ? ? ? ? 716 202 241 267 619 ? ? ? ? 0.49 0.23 0.26 0.41 0.46 木 1878/ 2 1883/ 8 1885/ 3 鉄骨木皮 1882/12 1885/ 3 1887/11 鉄骨木皮 1884/10 1886/ 3 1888/ 2 11 13 13 1,547 1,480 1,480 2段膨張 2段膨張 2段膨張 698 918 796 0.45 0.62 0.54 (出典)海軍大臣官房[1934]より、製造費については海軍大臣官房[1966]および室山[1984] pp.108-109(第20表) 、機関については日本船舶機関史編集委員会[1975]による。 (注)この間、英国製造、横須賀組立の水雷艇4隻がある。 ものであろう。 普通船舶では、工部省兵庫工作局が1880年5月に製造した「浦安丸」の2段膨張式機関が嚆矢と され、同所では続いて「謙譲丸」の機関も同年6月に製造している26。「工部省沿革報告」に収録 された同所の「船舶製造表」27に前者はなく、 記載のある後者は排水量が366トン、120公称馬力であっ た。前者は機関のみを受注し、後者は船舶全体を受注したものと思われる。「清輝」に比べると小 さい機関ではあるが、運航コストをシビアに考える必要がある普通船舶の分野において、同所が2 段膨張式機関製造で先行していたことは見逃せない事実であろう。 それに対して、神戸鉄工所は「太湖丸」2隻建造以前に2段膨張式機関を製造した実績はないよ うである28。その意味で、この機関をいかにして製造したのかという点が重要であろう。先の引用 史料から、両船の機関は1台を英国から購入し、それを手本にしてもう1台を神戸鉄工所が製作し たと解釈できる。この点について、中岡[2006]は「輸入機関の方がずっと軽く、輸入品を載せた 第二太湖丸のほうが吃水が相当浅かったと佐立は観察して」おり、「吃水に影響を与えるほど重い というのは相当なもの」29という評価を下している。他方で、2段膨張式機関はすでに国内で製造 26 造船協会[1911]p.675。 27 大蔵省[1889]pp.319-321。 28 中岡[2006]p.363(表七-4)。 116 されているので、 「製造技術は大きな飛躍ではなかった」30とも述べており、この2つの評価には 矛盾する面がある。 そこで、同所の技術者や設備のあり方について検討しよう。鉄船建造に際して「キルビーは、内 務省駅逓寮・農商務省で五年にわたって海員司験官・汽船検査官をしていたJ.エラートンを技師と したほか、新たに五名の外国人を雇い入れた」31と鈴木は述べている。エラートンについては後に 大阪鉄工所の鋼船建造を指導したこと32を指摘し、鉄製・鋼製船体の建造技術者であったことを示 唆しているが、その役割は不明な点が多い。 また、千田[2004]は『コマーシャルレポート』33に基づきながら同所の設備について「海岸に 面した埠頭に重量物を揚陸する二又クレーンをそなえているので、吃水一八フィートの船舶が接岸 して重量機械、ボイラー、その他の物資を揚陸し搭載することができる」という点や、太湖丸に関 する若干の記述を紹介したが、機関については公称90馬力という以外の新たな情報を提示していな い34。 以上の点から、神戸鉄工所の技術や設備に関する資料が極めて少ないことが分る。それゆえ、現 在において同所の鉄船建造および2段膨張式機関製造に関しては明らかではない点が多く、同所に 関する評価についてはもう少し慎重であるべきであろう。さらに「大和」受注との関連でいえば、 両船の進水が1883年9月であったことにも微妙な問題を含んでいる。というのは、鉄船を建造中で あったという点は確かに実績となるものであったが、大津-長浜間鉄道連絡船が本格的に運航を始 めたのは84年5月35であり、本当の意味で両船の真価が問われるのはこの時期以降になってからで ある。つまり、 「大和」受注時においては建造途中であり、その時点では神戸鉄工所の鉄船建造に 関する評価は必ずしも定まっていたものではなかったのである。 29 中岡[2006]p.359。 30 中岡[2006]p.366。 31 鈴木[1996]p.63。 32 鈴木[1996]p.67。 33 これについては洲脇[1993]が「各開港場のイギリス領事からの商業報告」という紹介をしたが、千 田[2004] が 出 典 を 明 確 に し て い る。 正 確 に は、Commercial Report by Her Majesty's Consuls in Japan である。 34 千田[2004]pp.8-10。 35 太湖汽船株式会社[1937]p.12。これらの連絡船は1889年 7月に大津-長浜鉄道が開通することによって、 わずか5年あまりで実働を終える。その後の両船について、同社史は「湖上より姿を消し大阪に搬出、 再び組立てられて同一船名の下に、後日日清戦争に際し陸軍省の御用船として活躍した」(p.14)と述 べるだけである。 117 2. 「大和」の発注経緯 神戸鉄工所による「大和」受注という論点についても、重要な史料発掘とともに先鞭を付けたの が鈴木であった36。鈴木[1996]は、キルビーによる川村純義海軍卿宛の2つの書簡(1882年2月 と83年9月)を紹介し、後者に 2,000トンまでの鉄製艦が建造できるとあったことが受注を得るため に効果的であったとしている。だが、 前述のように「太湖丸」の実績結果が未だ出ておらず、また2,000 トンクラスの軍艦を建造できる根拠(とくに技術と規模)をキルビーが十分に提示していたとはい えないので、その指摘は必ずしも説得力をもっていない。 その後、新たな論点を付け加えたものに池田[2002]があり、海軍内で鉄艦建造の準備が進行し ていたことを指摘したうえで、海軍が神戸鉄工所に発注することになった理由を海軍側の史料に基 づいて①横須賀造船所の建造余力が乏しかったこと、②神戸鉄工所が鉄船の建造実績を持っていた こと、③職工の大半が日本人であり、材料も国内製が多いこと、④回航費がほとんどかからず、監 督も容易であること、と要約した37。その後、千田[2004]もほぼ同様の指摘おこなっている38。 千田[2004]のオリジナルな論点は、海軍側の理由付けはキルビーの書簡に依拠しているが、そ れはキルビーに対して「海軍卿に近い人物からの情報提供や指導があった」ためではないかと指摘 したところにある39。そうであるとすれば、海軍の筋書き通りに進行したという主張に帰結する。 だが、なぜ海軍側がそういう行動を取ったのかという点は追求されていない。また、上記③の材料 について池田[2002]は「疑問なしとはいえない」という留保をつけていたが、千田[2004]はキ ルビーおよび海軍の説明をそのまま肯定的に受取っている。しかしながら、船体の主要構造材が鉄 であるということは、この時点ではそれらの大半を輸入に頼らざるをえない40のであり、完成した 軍艦を丸ごと輸入するより外貨節約になるとはいえ、それがどの程度のメリットになるかについて は検討を要する点であろう。 また、中岡[2006]はキルビーの最初の書簡と2回目の書簡を比較して、後者に対する海軍の対 応が正反対であったことを問題にしている。後者に対して海軍の反応が良かったのは、国内で建造 されることによって外貨の流出が防止されることと、鉄船の建造実績があるというキルビーの主張 を受けたうえで、 「鉄骨木皮海防艦三隻の、第一艦葛城の設計が終り、建造の検討がはじまったあ たりで手紙がとどいた」という点から説明される41。これもキルビーの主張を鵜呑みにしている点 に疑問が残るものの、海軍側の姿勢変化を考慮したという点が注目される。 36 鈴木[1996]pp.63-65。海軍省『公文備考別輯 新艦製造部 葛城艦・大和艦』という史料はここで初め て紹介されたと思われるが、立ち入った検討はなされていない。 37 池田[2002]p.24。 38 千田[2004]pp.12-13。 ただし、後者については推測にすぎず、史料的な裏付けはなされていない。 39 40 受注契約(後述)によれば代金の支払が銀貨でなされることになっていることや、後に「大和」建造 が遅延した理由としてキルビーが鉄材輸入の遅れを挙げて釈明していることからも明らかである。 41 中岡[2006]pp.359-360。 118 従来、 「葛城」の建造経過を明らかにした研究は皆無であるように思われるが、確認できる史料 に基づいてそれを辿ってみると、81年9月に造船局が「新艦製造図」の作成に着手し42、82年5月 に完成させた43ことがわかる。それに基づいて横須賀造船所が「入費概算書」と「模型」を同年6 月~7月に作成し44、それを受けて海軍省は8月12日付けで同所に対して着工命令を出している45 が、実際に起工したのはその年の12月のことであった46。この経過からすると、中岡の推測とはや や違い、着工命令が出た後に2回目のキルビー書簡が届いている。ただし、実際の起工が遅れたこ とに同書簡の影響をみることができるかもしれない。 以上のように、 キルビー書簡が海軍側に対して一定の影響を与えたことは疑いえないところだが、 それだけでは海軍の艦船建造に関する態度がなぜ大きく変化したのかという点を説明できないし、 海軍がなぜ「大和」を外注したのかという真相は解明できないであろう47。1882(明治15)年度の 海軍省予算は約340万円であり、この内の艦船建造費はわずかに約29万円48でしかなかった。だが、 「大和」のモデルとなった「葛城」の建造費は約92万円49である。ほぼ3年分の艦船建造費を叩か なければ、 「葛城」1艦の建造はできない。つまり、82年度以前には「葛城」1艦建造が精一杯で あり、それ以上の建艦計画は夢想のようなものにすぎなかったのである。それゆえ、キルビー最初 の書簡は「一般広告ニ類似ノモノ」として黙殺された。 ところが、同年7月に朝鮮国で突如勃発した壬午事変をめぐって対清関係が急激に緊張していっ た。当初、外務卿井上馨をはじめとする政府首脳は事件の収拾について楽観的な見通しをもってい たが、8月9日に清国政府から朝鮮への派兵通告を受けて日本政府の緊張は一気に高まった50。下関 にて朝鮮政府に対する交渉の指揮をおこなっていた井上は、外務大輔吉田清成に対して「我海軍ニ 三四隻ノガンボートヲ加フルコトニツキ太政大臣右大臣山県松方ニ通知スベキ」と訓電した。その 理由は「今若シ非常ノ場合ニ至ラハ仮令我陸軍ハ可ナリト雖トモ海軍ハ充分ナラス」51というもの 42 1881年9月14日付海軍卿川村純義宛主船局長赤松則良「新艦製造図調整方着手之義御届」(史料[1])。 43 1882年5月10日付海軍卿川村純義宛主船局長赤松則良「新艦製造図進呈ノ義上申」(史料[2])。 44 1882年7月11日付海軍卿川村純義宛造船所次長渡辺忻三「新艦製造入費概算并ニ模型進達之申出」(史 料[3])。 45 横須賀海軍工廠[1973]p.206。 46 横須賀海軍工廠[1973]p.249。 47 池田[2002]は以下で述べる諸点をほぼ踏まえていたが、ここでは行論の都合上、それらには触れない。 中岡も新著([2013]pp.124-126)ではそれらに言及している。 48 室山[1984]p.100(第16表)。ちなみに81年度は約12万円、80年度は約24万円である。 49 池田[2002]p.21(表1)。 50 高橋[1995]によれば、「清と朝鮮間には伝統的な宗属関係が存在していたが、日本はこれを認めず、 江華条約で朝鮮を独立国と規定したのである。しかし、こうした打撃にもかかわらず、清は対日自 重方針をとり積極的に対抗しようとはせず、朝鮮問題についても日本と直接争おうとはしなかった」 (p.35)。ところが、本「事件発生後ただちに兵船を送るという清の従来とは異なる機敏な対応は、日本 側にとって大きな驚きであった」(p.37)のである。 51 1882年8月10日付外務卿井上馨外務大輔吉田清成宛訓電(史料[4])。 119 であった。これに従って、 8月10日閣議はこの「ガンボート」の緊急購入策(3 ~ 4隻、100万円程度) を決定し、欧州留学中の伊藤博文と駐独公使青木周蔵にその旨を打電した52。 8月15日には山県が「陸海軍拡張に関する財政上申」53を建議し、清に対する軍備拡張方針の策 定が閣議で議論された模様である。これによると、山県は海軍については「我邦ト直接附近ナル列 国ト比較シテ之ヲ論セハ少クトモ軍艦四十八艘ヲ備」えることを強く主張し、陸軍については当面 の目標である常備兵4万人体制以上の拡張を求めていた。後者については徴兵令制定段階の軍備基 準に基づく要求であり、それほど大きな軍拡とはいえないが、前者については従来の例を見ないよ うな大軍拡であり、しかも清国を想定敵国としたものであった。 井上の「ガンボート」購入案と山県上申はほぼ同時期に出されたため、同一線上に捉えられがち であるが、清国に対する戦争準備策という点でじつは両者に明らかな相違があった。前者は有事即 応的戦術であるが、後者は中長期的な戦略である。前者だけが実行されたならば、「大和」発注は ありえなかったはずである。 ところが、8月の下旬になると早期開戦の可能性は薄れていき、8月26日には清軍が大院君を天 津に連行して旧政権を復活させ、清国政府に助言を受けた朝鮮政府は30日に日本側に全面的に譲歩 した済物捕条約を締結した。こうして、壬午事変はあっけなく終息し、有事即応的戦術の必要性は 薄れたが、海軍軍拡を中心とした対清中長期的戦略の必要性に関する政府内合意はその後も継続し ていった54。ここに来て、海軍はようやく通常の予算以外に多額の軍拡費を手に入れる可能性を感 じ、新たな建艦計画を構想することになるのである55。これが、キルビー書簡に対する海軍側の姿 勢を根本的に変化させた理由であった。 3. 「大和」の製造契約 海軍が軍拡費に基づく軍拡計画を構想しうるようになったとしても、それだけで神戸鉄工所への 発注が決定されたとはいえない。画期的な2段膨張式機関付鉄骨木皮軍艦の建造を神戸鉄工所に委 ねるだけの十分な根拠を海軍がもっていたとはいいがたいからである。そのため、海軍側の発注理 由を探るためには、受注契約を再度検討することがまず必要であろう。 受注契約については、池田[2002]が①請負代価は銀貨39万9千円で6回に分割されて支払われ ること、②製造期限は84(明治17)年9月(製造期間20 ヵ月)であり、1 ヵ月遅延するごとに請負 代価の1%を減ずること、③製造中の軍艦および製造所(鉄工所)設備、さらには貯蔵物品を前金 52 伊藤博文関係文書研究会[1979a]p.107.。この後、青木は伊藤に「些と狼狽様にも相見候得共、畢竟我 政府之真意は備不虞之外無之様被察申候」 (伊藤博文関係文書研究会[1979b]p.55)と書き送っている。 53 大山[1966]pp.118-120。 54 室山[1984]pp.117-121、高橋[1995]pp.81-88。この時期について筆者は再度考察した論考を用意している。 55 室山・高橋の研究を踏まえつつも、池田[2001](pp.42-49)は海軍軍拡計画の変化をより具体的に検 討している。 120 の抵当とすること、という4点を紹介している56が、それらが「かなり厳しい条件」という一般的 評価を下しただけでさらなる考察をおこなっていない。千田[2004]も契約に触れているが、立ち 入った検討はおこなっていない57。 まず、代価が銀貨39万9千円を通貨に換算すると約60万円となる。この金額をいかに評価すべき かについては、 「葛城」および「武蔵」 (大和に次いで横須賀で起工された3番艦)の製造予算が判 明しない現状では保留せざるをえない。ただし、表1によれば「武蔵」の製造費は結果的に約80万 円であり、この金額には搭載兵器を含んでいるため、契約代価は妥当な契約額であったといえるか もしれない。だが、 銀貨支払ということは外国企業に発注することと変わらなくなるので、キルビー および海軍側があげていたメリットをそのまま受取ることはできない。とはいえ、日本人職工等へ の賃金支払いや国内における資材調達は当然通貨でおこなわれ、それらは国内に還流するので、外 国企業に軍艦を発注したとは異なる結果となろう。 他方で中岡[2006]は、この契約に神戸鉄工所の経営危機とキルビーの自殺を「予測したような 項目があるのは、この種の契約の当然の項目なのか、それとも海軍がキルビー商会の財務状態を熟 知した上で入れた項目なのかも謎です」58と述べているが、さらなる追求を断念している。そこで、 これに関係する契約条項を以下に引用59しておこう。 請負者ニハ此約定ヲ固守シ其工ヲ竣スル勿論ナレ共、何等無止事故アリ製造中万一此製造 請負ヲ断リ度望ムコトアル時ハ、毎期渡済ニ対スル金額エ一割ノ利子(即百円ニ付十円) ヲ添ヘ返還シ、且日本海軍省ノ最必要ヲ欠キシ償トシテ外ニ銀貨三万九千九百円(請負代 価金額ノ一割)ヲ注文者ニ差出スヘキコト(第15条) 製造中ナル本艦及ヒ請負者ノ所有ナル製造所及ヒ貯品其他ノ諸品ハ注文者ヨリ請負者ヘ払 フタル前金ノ抵当物ト見做スヘシ、故ニ請負者於テハ此製造ノ約定ヲ果タサヽルノ間ハ、 注文者ノ認可ヲ経ルニ非レハ己ガ所有物ヲ以テ他ニ抵当ト為スヲ得ザルコトトス(第16条) 注文ノ軍艦製造中請負者ニ於テ万一非常意外ナル損害ヲ被リ、為メニ神戸ノ製造所モ維持 56 池田[2002]p.24。 57 千田[2004] (p.13)は、契約条件として排水量と速力を付け加えて紹介している。池田[2002]については、 「かなり厳しい条件を課していた」という文面だけを引用している。千田[2014](p.9-10)は契約につ いて条文を引用して従前より詳しく紹介しているが、ここでも「この契約内容については、神戸鉄工 所に対して『かなり厳しい条件を課していた』と述べられている」というだけで、その内容を検討し たとはいいがたい。 58 中岡[2006]p.361。後(pp.370-371)では条文が引用されているが、ほぼ同じ内容である。 59 1883年3月3日付海軍卿川村純義宛主船局長海軍少将赤松則良「軍艦一艘製造方ニ付『キルビー』ト 条約済之義御届」(史料[5])。 121 為シ難ク軍艦製造ノ成功ヲ了ル能ワズ、且毎期渡シ済金額ノ全員返還スル道ヲ得サルガ如 キコトアル時ハ、該金額ニ比較算当シテ着手半途ノ軍艦ヲ以テ之レニ換エ其儘注文者ヘ引 継クベシ、 而ルモ猶幾分歟ノ不足アラバ製造所ノ諸器械器具ヲ以テ弁償スルコト(第17条) 中岡のいう「この種の契約」というのは軍艦外注のことを指しているのか、それよりも広義で政 府が民間企業に対して発注する大型工事全般のことをいうのかが不明であるが、前者についてはこ れ以前に海軍が外部に発注した事例は前述の「扶桑」、「金剛」、「比叡」の3艦しかなく、一般化で きるものではない。そこで、後者についてすこし検討しておきたい。 政府による民間への支払は原則的に後払いである60が、軍艦については前払いが認められていた ようである。後の時期であるが、大日本帝国憲法と同時期に制定された会計法第25条には「軍艦兵 器弾薬ヲ除ク外工事製造又ハ物件買入ノ為ニ前金払イヲ為スコトヲ得ス」61とある。つまり、軍艦 を発注する際には前払いが認められていたのであり、実際に当該契約では契約締結後に最初の支払 が始まり、以後軍艦受領完了まで6回の支払をおこなうこと(第12条)とされている。 だが、こうした大型工事(製造)の場合、不首尾に終わる可能性も考慮する必要がある。そのた め、会計法制定後すぐに出された「会計規則」 (勅令60号)第69条は「工事又ハ物品ノ競争ニ加ハ ラントシ若クハ其契約ヲ結ハントスル者ハ現金又ハ公債証書ヲ以テ保証金ヲ納ムヘシ」とし、第70 条では「契約ヲ結ハントスル者ハ其事項ノ代金ノ百分ノ十以上」(以上の下線-引用者)と規定し ている62。 「大和」発注の際に結ばれた契約は保証金の代わりとして軍艦および製造所(鉄工所)設備、さ らには貯蔵物品を抵当として設定したものと思われる。前払い額の全額に相当する抵当を設定する 点と、返金において利子と違約金が課せられている点等では、この契約が「かなり厳しい条件」で あったといえるであろうが、逆に受注側からすれば契約時に保証金を納める必要はないのであるか ら、資金繰りの面からみて好都合なものであったにちがいない。 以上の点から、 「大和」の契約条件は海軍側・神戸鉄工所の双方にとってそれなりに合理的で妥 当なものであったと考えられるが、海軍側が神戸鉄工所の艦船建造能力を額面どおりに受取ってい たかどうかは判断しがたい。もちろん、軍拡(艦船整備)計画の実施を急いでいた海軍は、この決 断が成功することを願っていたにちがいないが、目論見通りにいかなかった場合に最低限度以上の “保険”をかけていたといえるであろう。 60 1884年7月5日「経費金支出条規」(太政官第61号達)第6~8条(大蔵省[1926]p.764)を参照。 61 大蔵省[1926]p.828。 62 大蔵省[1926]p.846。これらの成文化された規則は、小稿が対象とする事例よりも後に制定されたも のであるが、このような点について原始会計法(1881年4月28日太政官達第33号)以降、政府内で合 意されつつあったとみてよいであろう。 122 おわりに 「大和」の発注をめぐるいくつかの問題について、研究史にやや立ち入りつつ、資料紹介も含め て考察してきた。その結果として、従来の研究が神戸鉄工所に下してきた評価について、再検討さ れるべき部分が多いことは明らかになったように考えられる。 今後の課題として資料的制約は大きいものの、 「大和」建造過程とその結果を具体的に分析する ことがまず必要である。その際、海軍に神戸鉄工所が接収される前後における区別(設備、技術、 人員、等)が必要であり、その結果として成立した小野浜造船所が神戸鉄工所の何を継承したのか、 あるいはしなかったのか、という点についての考察が重要になるであろう。 【参考文献(刊行) 】 赤松則良「欧式海軍創設時代の追憶(下) 」 『同方會史』第48、1918年 赤松範一編『赤松則良半生談』平凡社、1976年 池田憲隆「松方財政前半期における海軍軍備拡張の展開-1881-83年」弘前大学人文学部『人文社 会論叢』 (社会科学篇)第6号、2001年 池田憲隆「1883年海軍軍拡前後期の艦船整備と横須賀造船所」弘前大学人文学部『人文社会論叢』 (社 会科学篇)第7号、2002年 伊藤博文関係文書研究会編『伊藤博文関係文書』7(塙書房、1979年a) 伊藤博文関係文書研究会編『伊藤博文関係文書』1(塙書房、1979年b) 大津市『新修大津市史』5、1982年 大蔵省内明治財政史編纂会編『明治財政史』第1巻、1926年 大阪商船株式会社『大阪商船株式会社五十年史』 、1934年 大山梓編『山県有朋意見書』原書房、1966年 小野塚知二「イギリス民間企業の艦艇輸出と日本」(奈倉文二・横井勝彦・小野塚知二『日英兵器 産業とジーメンス事件』日本経済評論社、2003年) 海軍大臣官房編『海軍軍備沿革』附録、巌南堂、1934年 海軍有終会編『近世海軍帝国史要』原書房、1974年(復刻版、原本1938年) 洲脇一郎「神戸における外資系製造業の起源」神戸都市問題研究所『都市政策』(73)、1993年 鈴木淳『明治の機械工業』ミネルヴァ書房、1996年 造船協会編『日本近世造船史』弘道館、1911年 太湖汽船株式会社『太湖汽船の五十年』 、1937年 高橋秀直『日清戦争への道』 (東京創元社、1995年) 千田武志「官営軍需工場の技術移転に果たした外国人経営企業の役割」『政治經濟史学』第458号、 2004年 千田武志「小野浜造船所の海軍造艦技術の発展と呉海軍工廠の果たした役割」『呉市海事歴史科学 123 館(大和ミュージアム)研究紀要』第8号、2014年 中岡哲郎『日本近代技術の形成』朝日新聞社、2006年 中岡哲郎『近代技術の日本的展開』朝日新聞出版、2013年 中西洋『日本近代化の基礎過程』 (中)東京大学出版会、1983年 日本船舶機関史編集委員会編『帝国海軍機関史』 (上)原書房、1975年 室山義正『近代日本の軍事と財政』 (東京大学出版会、1984年) 山本潔『日本における職場の技術・労働史』東京大学出版会、1994年 横須賀海軍工廠編『横須賀海軍船廠史』第1巻(原書房、1973年復刻版、原本1915年) C.シンガー、E.J.ホームヤード、A.R.ホール、T.I.ウイリアムズ編『技術の歴史8』(邦訳、筑摩書房、 1979年) D.R.ヘンドリック『帝国の手先』 (邦訳、日本経済評論社、1989年、原著1981年) D.R.ヘンドリック『進歩の触手』 (邦訳、日本経済評論社、2005年、原著1988年) 【未公刊史料】 [1]海軍省『川村伯爵より還納文書』5(防衛省防衛研究所、所蔵) [2]海軍省『公文類纂』明治15年続編巻3(防衛省防衛研究所、所蔵) [3]海軍省『公文番号連及書』5巻(防衛省防衛研究所、所蔵) [4]外務省『明治十五年朝鮮事件(抄) 』 (宮内庁宮内公文書館、所蔵) [5]海軍省『公文備考 別輯 新艦製造部 葛城艦 大和艦』(防衛省防衛研究所、所蔵) 124 【資 料】 沿線住民による地方鉄道の存続・利用促進運動 ――和田高枝氏ヒアリングによるえちぜん鉄道の活性化―― 恩 田 睦 小 谷 田 文 彦 1.解題 本資料は、沿線住民の主体的な存続運動、乗車運動の取り組みが、地域公共交通の活性化に影響 を与えたことを明らかにする研究の一環として行われた、和田高枝氏のヒアリングの全文である。 えちぜん鉄道の勝山永平寺線の沿線に住む和田氏は、沿線住民の有志で立ち上げられた永平寺町え ちぜん鉄道サポート会の会長、えちぜん鉄道沿線サポート団体連絡会の会長として、住民による存 続・利用促進運動を盛り上げてきた。また、2000年11月から2003年4月まで、吉田郡選出の県議会 議員(自由民主党会派)として福井県政を担ってきた人物としても知られている。 京福電気鉄道の路線のうち、勝山永平寺線(旧越前本線)と三国芦原線を継承して2002年9月17 日に設立されたえちぜん鉄道株式会社(以下、えちぜん鉄道と略)は、沿線自治体と企業、さらに 沿線住民の出資による第三セクター鉄道である(路線図)1。2007年度に年間利用者数は300万人を 突破し、他方で営業経費を圧縮し収支の改善を図ることで良好な経営を続けている2。 もっとも、えちぜん鉄道の設立は既定されたものではなかった。それどころか、2000年12月17日 と2001年6月24日に正面衝突事故をおこした京福電気鉄道(以下、京福電鉄と略)は、2001年6月25 日に国土交通省と中部運輸局福井運輸支局から全線の運行停止とバス代行輸送を命じられると、経 営状況の悪化を理由に同年10月に鉄道事業の廃止届けを提出した。つまり、鉄道の廃止が現実のも のになろうとしていたのである。 先行研究が指摘してきたように、えちぜん鉄道の設立とその後の良好な経営の要因には、鉄道事 業者の経営努力、沿線自治体による財政および利用促進策などの支援に加えて、沿線住民の積極的 なコミットメントが重要であった3。 しかし、先行研究では、えちぜん鉄道において沿線住民が活発に存続・利用促進運動を実行でき 1 2001年6月24日当時の京福電鉄の路線には越前本線(福井-勝山間)、三国芦原線(福井口-三国港間)、 永平寺線(東古市-永平寺間)があった。このうち永平寺線だけはえちぜん鉄道に継承されることなく、 2002年10月21日付けで廃止・バス転換となった。 2 福井市・勝山市・あわら市・坂井市・永平寺町『えちぜん鉄道公共交通活性化総合連携計画』2012年3月、 15 ~ 17頁。 125 路線図 えちぜん鉄道とその周辺図 至 金沢 凡例 ∴ 東尋坊 三国港 金津IC あわら湯のまち えちぜん鉄道 JR線(北陸本線) 芦原温泉 その他の私鉄(福井鉄道) 高速道路(北陸自動車道) 三 国 芦 原 線 福井港 主な国道 丸岡 西長田 丸岡IC 2000年12月17日:正面衝突事故(東古市-志比堺間) 2001年6月24日:正面衝突事故(保田-発坂間) 永平寺口(元・東古市) 観音町 田原町 福井 2km 至 敦賀 福井北IC 福井口 勝山永平寺線 永平寺線(廃止) 永平寺 小舟渡 越前竹原 永平寺 勝山 た理由について、電車の運行停止による沿線地域の交通の混乱、いわゆる負の社会実験が強調され る一方で、必ずしも人的な要因にまで掘り下げていないように思われる。和田氏は、京福電鉄によ る2度の事故直後から住民運動を主導し、 今日に至るまでえちぜん鉄道の利用者数を増加させる種々 の施策に関わっているため、上記の点を明らかにするうえで、大いに参考になる。また、和田氏の ヒアリングは、今日における地方鉄道と沿線住民の関係のあり方を考えるうえで有益な情報になる と思われる。 聞き取りは、2014年1月25日に和田氏の自宅で行われた。多忙な時間を割いて聞き取りに応じて くださった和田氏に感謝申し上げる。なお、 本資料は、2013年度弘前大学人文学部学部戦略経費チー ム研究「公共交通を活用した中弘南黒地域活性化の研究」(代表者:保田宗良教授)の研究成果の 3 浅沼美忠「地方中小鉄道と連携――えちぜん鉄道を例として」『福井県立大学経済経営研究』第15巻、 49 ~ 62頁、2005年3月、堀井茂毅「鉄道の運転休止・再開による沿線住民の交通行動及び意識の変化に 関する研究――福井地域における地方鉄道を対象として」『土木計画学研究・論文集』第22巻3号、677 ~ 684頁、2005年、川上洋司「都市・地域交通政策の現場から(3)えちぜん鉄道としての再生後10年 の総括と今後の展望」『運輸と経済』運輸調査局、第72巻11号、72 ~ 81頁、2012年11月、小谷田文彦・ 恩田睦・ビクター・カーペンター「えちぜん鉄道に対する沿線自治体の支援」研究推進・評価委員会編 『人文社会論叢』(社会科学篇)弘前大学人文学部、第31号、2014年2月、143 ~ 154頁。恩田睦「えちぜ ん鉄道の経営と地域社会」『公共交通を活用した中弘南黒地域活性化の研究』(2013年度弘前大学人文学 部 学部戦略経費チーム研究報告書)2014年3月、68 ~ 82頁。 126 一部である。 2.和田高枝氏ヒアリング記録 ①京福電鉄による2度の事故後に電車の必要性を実感 恩田 本日はお忙しいところ、ヒアリングにご協力いただきありがとうございます。私どもは、地 方鉄道の活性化のあり方を研究しておりまして、鉄道会社の経営とそれを取り巻く沿線自治体と沿 線住民の考えや行動といったことについて具体例を調査しております。近年の地方私鉄や第三セク ター鉄道の経営環境はどこも厳しいと伝えられていますが、一方で、えちぜん鉄道のように利用者 数を増やして活性化へとつなげているところもございます。こうした一定の成果をあげている鉄道 に関わっている方々からお話しを伺うことが、私どもの研究プロジェクトの主旨でございます。 昨年12月に福井を訪れて、えちぜん鉄道の担当者から地域住民による電車存続運動の中心的な役 割を果たした方として和田様をご紹介いただき、是非ともお話しをお伺いしたいと思っておりまし た。本日は、和田様が、えちぜん鉄道や沿線自治体、さらに地域住民の方々とどのように関わって きたのかについてお話しを伺えたらと思っております。また、私どもの地元である青森県弘前市に は弘南鉄道株式会社という地方私鉄がございますが、2路線あるうちの1路線が利用者の低迷に直面 しており、昨年6月に一度、廃止の話が出ております。そこで、弘南鉄道活性化の糸口について、 沿線住民のお立場から助言をいただけたらと思っております。それでは宜しくお願いいたします。 永平寺町には京福電鉄の路線のうち、唯一、2002年10月21日付で廃止になった永平寺線がありま した。永平寺線廃止に際して反対運動はおこらなかったのでしょうか。 和田 えちぜん鉄道が設立されたときに、欠損補助金(負担金)と出資金は、各自治体から支払お うということになったのですが、各自治体を通る距離が長ければ長いほど、負担額が多くなる計算 でした。永平寺線は、永平寺口駅(注:当時は東古市駅)から永平寺の門前までの路線ですが、全 区間が永平寺町内に入っていました。なので、比較的利用者が少ない――観光バスが直接門前に入 る――のでこの路線も維持することになると非常に負担金が増すことになり、町長は苦渋の末、廃 線やむなしになったのです。残念ですけど。 小谷田 反対運動だけでなく距離の問題もあったのですね。 和田 当時はまだ合併していなかったものですから。かつて吉田郡には2町1村ありまして、ここが 松岡町、隣が永平寺町、さらに隣が上志比村でした。永平寺町の区間を走る距離が長く負担金が出 せないということでした。結局、永平寺町長の決断で永平寺線は廃止になりました。 観光地に向かう鉄道ですから、 永平寺線にかかる負担金は福井県が出せばいいと思っていました。 知事も、永平寺観光を宣伝している割に、このような話になると配慮がなく、私たちは何度も説得 しようとしました。 「永平寺に観光客を呼び込むのに、永平寺に向かう鉄道は地元で支えろという のは酷じゃありませんか」と。でも、覆すことはできなかった…。元々、利用者は少なかったかも しれませんね。 (注:2006年2月13日に松岡町、永平寺町、上志比村が合併し名称を永平寺町として 127 発足) 京福電鉄の路線は、本当に廃線になるところだったんです。2度も事故が起きましたから。それ までも京福電鉄の越前本線、三国芦原線は赤字だったんです。少子高齢化もあり段々と赤字が増え てきて、それをどう克服しようかと考えて、各市町村が負担金を出していたんですけど。でも京福 電鉄自体がもう鉄道を廃止にしたかったということはあると思いますね。2度の事故をきっかけに、 ということはあったかもしれませんね。 このままでは、ますます過疎化してしまうと言ったのが勝山市です。勝山市は終点ですから、お 客さんも減ってしまうし、誰も勝山に来てくれなくなってしまうと。市長と住民代表が何度も県議 会や知事のもとに足を運んだんです。でも、県議会ではほとんどと言っていいほど運行再開に反対 でした。県議会の自民党会派が二十数人いたんですけど、賛成は5、6人だったかな。 恩田 それは事故直後のことですか。 和田 事故直後です。県議会でも議論になったわけですが、元々負担金をたくさん出しているし、 既に電車が廃止になった路線もあったんです。 恩田 福井鉄道の路線ですね。 (注:福井鉄道鯖浦線、1973年9月廃止) 和田 そう、福井鉄道の路線の一部ね。そこの人たちは、「とっくの昔に鉄道は廃止になったけれ ども何も不都合はない」 と。県議会でも電車は要らないという雰囲気になっていました。それで困っ たのは、私たち勝山永平寺線(注:京福電鉄時代の越前本線)沿線に住む人です。三国のある海岸 あたりは風が吹くので雪は少ないんです。一番困るのが勝山永平寺線です。ここは――今年は異常 なくらい少雪ですけど――雪はもう毎年すごくたくさん降るんです。高校生は、みんな福井の方に 向かって行きますからね。勝山市には勝山高校がありますが、永平寺町には高校はありませんので、 みんな福井に向かっていくんですね。 恩田 永平寺町から勝山に通学する高校生はいないのでしょうか。 和田 勝山へは、この辺からは少数です。永平寺町の人はほとんど福井の方に行くんです。 恩田 学区とかはないのでしょうか。 和田 学区はありません。少なくとも永平寺町の高校生が勝山方面に向かうことはありません。福 井市に色々な学校がありますから。進学校がいくつもあります。職業校もあります。ですから、こ の辺の高校生は、ほとんど福井の方に向かって行くんです。 電車が2年間止まっていましたから、毎朝、親が学校まで朝早く送っていきます。そうすると、 除雪が行き届かないので、次から次へと雪が降りますと、もう路面が固くなって、ボコボコになっ て、福井駅の2つ手前の福井口駅に行くだけでもう渋滞で、学校に1時間ほど遅刻するんです。親が 送っていっても1時間ほどは遅れてしまうんですね。それほど酷かったんです。代替バスも、同じ 道路を走るわけですから遅れますよね。バス停で待っていてもなかなかバスが来ない。親は乗せて いってしまう。親も、会社への出勤が遅れてしまって大変でした。 高齢者は、病院に行くのにバス停で寒いのに待っていないといけないし、電車は絶対に欲しいと 128 いう声が多くて、われわれも絶対止めてはいけないと思いました。早くなんとか行動を起さなけれ ばと思いました。そして私が各種団体を集めて、婦人会とか女性をね。福井市の婦人会、吉田郡2 町1村の婦人会、勝山市の婦人会…各市町の婦人会の長に2,3人ずつ集まってもらって数回会議を したんです。どうやって運動しようかと。ここから存続活動が始まったんです。 ②住民を中心とした存続運動の盛り上がり 恩田 福井市も含めて沿線の婦人会の長は全員鉄道を残すことで一致していたのですか。 和田 福井市だっていくつか駅はありますよね。観音町駅の隣の越前島橋駅から福井駅までは7つ くらい駅がありますから。その沿線の人たちはみんな賛成ですから、みんな集まってくれたんです。 女性が25人くらい集まったかな。私はそれまでに案を1つ考えていたんです。すでに署名運動は始 まっていました。勝山市では存続のため数千人程度の署名運動をして県に提出すると。でも、どこ でも署名活動にはもう慣れていますよね。だから私はこれだけではインパクトがないと思ったんで す。これは体で行動しないと訴える力にはならないだろうと。そこで、アイディアが浮かんできた のが、電車の線路をみんなで…永平寺町と勝山市の境にあるのが小舟渡駅だから、小舟渡駅の住民 は小舟渡駅に集合する。隣の地区の人は竹原駅(注:越前竹原駅)に集合する。そこからみんなで バトンリレーをしようと考えたんです。バトンを1つ作って、胸と背中にはゼッケンをつけて。お 金を出すところはないから、みんな個人負担で「電車を残して」と印刷したゼッケンを用意しまし た。横断幕もその町の住民同士でお金を出し合って作って、そして次の駅までは歩こうと。元気な 人はお年寄りから子どもまで歩こうということで、11駅歩くんですね。バトンをもらうと次の駅ま で歩く。こうしたバトンリレーをしようと。そしてシュプレヒコールをしながら横断幕を持ちなが ら、大きな声でそれぞれが「電車を残して!」と言いながら歩こうねという案を出したんです。 でも勝山から歩くわけにはいかないよね。遠いから。勝山の人は直接、福井市役所の後ろに中央公 園というのがあるので、 そこに全員集結して決起集会をしようということにしました。私たちはずっ と歩いて、最終的には中央公園に集まろうと。福井市の人も中央公園に集まろうと。最終的に1,000 人くらい集まったんです。永平寺町だけで600人くらい出ました。バトンは筒だったんですけど、 松岡小学校の親と子どもたちに「電車が欲しい」という作文を書いてもらって筒の中に何十枚か入 れました。それをずっとリレーして、中央公園の集会場に持って行って当時の副知事だった西川さ ん(注:西川一誠は、2001年10月当時の福井県副知事)に子どもが渡して、そこで決起集会をした んです。それが凄く評判になって、各新聞は大きく報じてくれたんです。県議会でもこれはすごい と。住民は鉄道が欲しいんだなということを認めてくれて、一応電車存続の決議は採択されたんで す。県議会で反対だった人も住民が必要だというなら、ということで採択してくれたんです。 採択された後、1年近く進展しなかったのは、いろいろな問題が出てきてなかなか先に進まなかっ たからです。県議会も、やはり止めようかという雰囲気になったものだから、第2弾の行動を考え なければいけなくなった。そこで考えたのはサポート会を作るというものでした。これは行政から 129 言われて作るのではなくて、住民主体で作ったのです。これは各種団体で集まってもらって作った んです。そうしたら、また新聞で取り上げてもらえましたから、段々と盛り上がってきて最初は反 対していた商工会議所も、住民が非常に熱心だということで賛成にまわってくれました。 恩田 反対していたのは福井市の商工会議所ですか。 和田 そうです。それが段々支援に向かってきて、それでは出資しようと。第三セクター鉄道を作 ろうと盛り上がってきまして、出資活動に繋がっていったんです。 恩田 福井市、永平寺町、勝山市といった京福電鉄越前本線の沿線地域住民の鉄道への関心の高さ は理解できたのですが、一方で三国芦原線沿線の方々の反応はどうだったのでしょうか。 和田 最初、三国芦原線沿線の人たちの関心は薄かったと思います。 恩田 では、バトンリレーに参加することもなかったと。 和田 決起集会には三国からも結構な人数が来ました。でも、その前は、向こうにはJRがあるん ですよ。並行して。だから丸岡町などは別に電車は要らない、今でも関心は薄いです。三国の人も 当初は関心が薄かったけれど、やはり高校生は福井市内に通っていますから、三国町も親に言われ るようになってから、段々と盛り上がってきたんです。こうした経緯で、決起集会には参加してい ました。そして出資金を集めて、第三セクター鉄道ができたわけです。 恩田 こうしたサポート組織は、吉田郡だけの取り組みだったのでしょうか。 和田 もちろん吉田郡だけ。ただ、危機感を覚えていた勝山市では行政が主体となって、以前から 活動していました。行政が補助金を出して自治会や各種団体の人たちに活動してくださいといった 取り組みです。でも、私たちは住民主体ですので、どこからもお金をもらっていない。お茶も自分 たちで用意して持ってきたんです。私たちも、えちぜん鉄道の出資金を集めたんですよ。自治会を 通じて集めました。この資料をみてください。 恩田 寄附金となっていますが、この項目が出資金ということですか。 和田 そうです。このときにはサポート会として320万円ほど集めました。まだ合併する前ですか ら松岡町だけです。永平寺町と、上志比村にも吉田郡としてサポート組織は作りましたけれども、 そのときのリーダーがさほど熱心でなかったのかもしれません。松岡町では、私が自治会を通じて、 町内各地区の区長さんにお願いして出資金を集めました。 恩田 出資の際には各自治体で割り振ることで出資金を募ったと伺っていたのですが。 和田 そうです、沿線の行政はもちろん出資しています。それとは別に民間で、サポート会でこれ だけ集めたということです。 ③住民主体の活動を長続きさせるためのポイント 和田 今でも行政から一切の金銭的な支援を受けていない点で珍しい組織だと思います。メンバー も、各種団体の役員だからということではなく、本当に電車を愛していて、電車を絶対に存続させ なければならないという気持ちの人ばかりです。各種団体というのは1年か2年で役職が替ってしま 130 うでしょう。そうなると次第に関心がなくなってしまうんです。この会は、いま20数名おりますが、 メンバーはずっと変わりません。電車を存続させて、利用者増につながる計画を立てようというこ とで、毎年の春と秋には80人ずつ募集して電車に乗って芦原温泉に行く計画を立てていますが、参 加者はすぐに集まります。また夏になるとビア電を走らせて4、とにかく電車を利用するというこ とを目標にしています。電車が残ったから、もう乗らないということではいけません。 恩田 サポート会に、新しいメンバーは加わらないのですか。 和田 新しいメンバーも加えています。永平寺町えちぜん鉄道サポート会は、今年で11年目になる のですが、10年も経つと当初70歳だった人は80歳になるわけで、辞めた人もいますし、若い人に参 加してもらっています。 恩田 名簿を拝見すると、現在の役員は26名ですね。 和田 行政から金銭的な支援は受けていませんが、人的な支援を受けています。永平寺町役場の総 務課に、公共交通対策室が設けられています。各市町の首長が、第三セクター鉄道の取締役に就い ていますので、行政としても電車利用を推進したい立場にあるわけですね。ですので、私たちのサ ポート活動の事務局は公共交通対策室のなかに置かせてもらい、通知の発送などの事務作業を担当 してもらっています。こうした人的な支援を受けているので、私たちもやりやすい。永平寺町えち ぜん鉄道サポート会では毎月1回会議をして、次の行事などについて話し合っています。 恩田 サポート組織を11年間続けてこられて、何か問題になったことはありませんでしたか。 和田 特にありません。全員ボランティアだったのが良かったのでしょう。お金は関係なく、みん なが当初の「乗って残す」ことに責任を持たなければならないということで。こうした会報を毎年 1回出しているんです。必ず、 「沿線住民みんなでサポート 乗って残そうえちぜん鉄道」というタ イトルでね。永平寺町の全戸に配布しています。開通前を忘れないでおこうと念を押すためです。 それから、えちぜん鉄道本社でお聞きになったかと思いますけど、「えち鉄サポーターズクラブ」 というのがありまして、永平寺町では約1,000人が加入しています。これに入る際には、1人につき 1,000円の年会費が必要です。そのうち800円が事業費として、私たちに返ってきます。家族で入る と、自分ともう1人で1,500円の会費になりますが、家族の500円のうち300円が返ってきます。だか ら、2人で入ると、事業費としては1,100円になります。約1,000人おりますので、永平寺町では毎年 数十万円になるわけで、これが収入になっています。これはどの沿線自治体よりも多い金額です。 毎年総会も開いているのですが、当然、電車に乗ってきてくださいと案内します。最初の参加者は 50人くらいでしたが、今は200人くらい集まります。 小谷田 なかには言うことを聞いてくれない人もいるのではないですか。 和田 いえ、いません。みんな、電車を残してくれてありがとうと言ってくれます。だいたい、今 4 ビア電は、2013年8月4日の夜に運行された永平寺町えちぜん鉄道サポート会主催のイベント列車で、車 内ではビールなど飲み放題でおつまみがつく。同年7月10日受け付け開始で先着35名、料金は1人当たり 3,000円(運賃込み)で、運行経路は永平寺口→福井→勝山→永平寺口であった。 131 はみんな車を持っているでしょう。私も毎日車で移動するのですが、あえて1週間に1回は、何にも 用事が無くても電車で福井まで行くのです。自分が乗らないと、他人に乗ってとは言えないですか らね。高齢者、とくに80歳を過ぎると免許証を返納しますよね、そうするとやはり電車がないと困 るでしょう。永平寺町では、みんなが、ありがとうと言ってくれます。 小谷田 最初からそうでしたか。 和田 そうです。 小谷田 それは心強かったですね。 和田 いや、なかには役場から結構な額の負担金がえちぜん鉄道本社に出ていることを知ると、電 車は要らないと言っていた人もいましたけれども、今では電車が残って良かったと言ってくれてい ます。その負担金も、乗客が増えてきたので減ってきました。 小谷田 えちぜん鉄道では、負担金の減少額は億単位だと伺いました。 ④和田高枝氏の経歴――福井市役所勤務を経て県議会議員へ 恩田 ここで和田様のご経歴を教えていただきたいのですが。ご出身はどちらでしょうか。 和田 ここ(注:旧松岡町)の出身です。京福電鉄の2度の事故があったときの県会議員でした。 それ以前、福井市役所に40年間勤めていました。私がいた頃の福井市役所では男女間で昇進などの 点で格差がありました。私は、格差を無くそうと何度も市長と掛け合ったところ10名の女性課長を 登用することができました。その後、国際交流課長を経て市民生活部の次長になりました。市民生 活部では交通担当もしました。そして、福祉公社常務理事のとき、定年の1年前です。つまり59歳 のとき県議会議員になったのです。女性議員が1人もいないというのが動機でした。 恩田 交通担当だった期間はどのくらいですか。 和田 1年半から2年くらいです。 恩田 そのときに市内の公共交通の現状や課題といったことは把握されたということですか。 和田 そうです。そのときすでに各市町村は京福電鉄に負担金を出していましたので、電車を不要 と考える議員からは不満の声が多くありました。 恩田 それはなぜでしょうか。 和田 ずっと赤字だったからです。福井市は多額の負担金を京福電鉄に支払わなければなりません が、メリットに見合わないと考えられていたのでしょう。今もなお、福井市の人たちのサポート活 動は低調で、住民によるサポート活動はありません。 私が県会議員だったことが良かったのだと思っています。県議会での議論の雰囲気から、存続運 動をおこすタイミングが分かりました。実際、県議会での議論で廃線が近くなってきたなと感じた ため、住民を動かさないといけないと思いバトンリレーの案を考え出したのです。 恩田 先ほど県会議員になった動機として女性議員がいなかったことをあげられていましたが、公 共交通のあり方を考えよう、または良くしようといった考えはなかったのですか。 132 和田 そんなことまでは考えていませんでした。でも、県会議員になった途端に京福電鉄の2度の 事故がありました。一度目が2000年12月17日の松岡町志比堺駅付近での正面衝突、その翌年の2001 年6月24日に2度目になる保田駅付近で正面衝突がありました。このため、電車を存続させるために いた議員のようになったのですが、私にとっても都合が良かった。電車の運行再開に反対する議員 は多かったので、各議員に頭を下げて電車を存続させて欲しいと言ってまわりました。私の地元は 雪がとても多くて子どもたちが大変な目にあっている。なんとか電車を存続してほしいと議員一人 一人に頭を下げてまわりました。私は自民党会派に属していたのですが、議員全員に頭を下げまし た。 恩田 大部分の県議が電車の運行再開に反対していたのですね。 和田 そうです。重鎮とされる議員にも頼み込みました。そうしたら、仕方ない、いいだろうとい うことになりまして、電車の存続が採択されたのです。 恩田 県会議員だった期間を教えてください。 和田 2年半です (注:2000年11月から2003年4月まで)。私は、県会議員になろうとは思ってなかった。 福井市役所で60歳の定年を迎えようと思っていました。もっとも、仕事が大好きでしたから、定年 など考えて仕事をしたことはありませんでした。そこに、たまたま吉田郡選出の県会議員が選挙違 反をして辞職したため、 補欠選挙がありました。最初、私は「補選があるんだな」くらいにしか思っ ていなかった。 実は、以前から私に県会議員に立候補してみないかという誘いはありました。それまでは関心が なかったので断ってきたのですが、福井県議に女性議員が1人もいなかったことと、男女格差をな くすためにたたかってきたことなどが頭をよぎり、夫と食事をしているときに冗談半分で立候補し てみようかなと言ったのです。すると、夫は、お前ならできると言うのです。私もその気になって、 福井市役所の仕事も道筋を付けたと考えて、市長に辞めますと挨拶したのです。市長は、すでに察 していて補選に立候補するのかと。そのうえで、金はかかるし日数も限られているから、すぐに退 職金を出してやろうと言ってくれました。市長から退職辞令をもらうと、次の日から選挙運動をし ました。あまりにも急なことだったので、同僚に挨拶すらできませんでした。 当時の県会議員は重鎮ばかりでした。でも私も市役所の部長でしたから、市議会や市議とのつき あいに慣れていましたので全くの素人というわけではありませんでした。だから、県会議員になっ てすぐに各議員に頭を下げて電車存続をお願いすることができたのだと思います。 先ほど、バトンリレーの話のときに、沿線の女性に集まってもらったと言いましたが、行動力の 点では男性よりも女性の方が優れていると思います。女性に呼びかけると必ず参加してくれます。 しかも、地域のリーダー的な女性です。一方のサポート会を立ち上げるときには、まだえちぜん鉄 道が設立されていませんので、吉田郡第三セクター電車サポート会設立総会というのを最初に催し ました。 これには各種団体をはじめ多くの住民が参加してくれました。サポート会の役員のメンバー は各種団体の長で構成していましたが、毎年役員が替わることもあり、1、2年後には役職を持つ人 133 にとらわれず、電車を真に残そうと強い思いを持つ人に入ってもらって11年間続けることができま した。 少子高齢化の進行で通学者が減ると、通学定期券の販売額も減ってきます。その代替になる収入 源として高齢者に電車を利用して遊びに行ってもらうことを考えました。ありとあらゆる利用者増 のアイディアを考えていかないと現状維持は難しくなると思います。いつ廃線になるか分かりませ んから、常に危機感をもつ必要があります。一人ひとりが去年より1回は多く電車に乗ってくれれ ば利用者数は2倍になります。 ⑤弘南鉄道(大鰐線)沿線住民への助言 和田 そちらの鉄道はどうなのですか。廃線になろうとしているわけではないのでしょう。 恩田 弘前には、弘南鉄道という鉄道会社があります。2つの路線があるのですが、それぞれの線 路が接続していません。そのうちの1つの路線ですが、利用者数の減少と将来的に増加する見込み が立たないということで、昨年の夏に3年後を目処に廃止するという趣旨のことを同社の株主総会 の場で社長が談話というかたちで発表しました。その後、1 ヶ月くらいで撤回することにはなった のですが、廃止の話が全く立ち消えになったわけではなく、今後も利用者数が増えない限り問題の 解決にはならないと思います。私たちは、地元の鉄道活性化の役に立ちたいと考えて、全国の地方 鉄道の経営の現状を勉強しました。そのなかでも良好な経営を続けている、えちぜん鉄道とそこに 関係する方からお話しを伺えればと思ったのです。 小谷田 弘南鉄道の2路線は、弘前市を中心に東西に走る1路線と南北に走る1路線があって、歴史 的な経緯からそれぞれの線路は繋がっていません。このうち、前者の路線が黒字、後者の路線が赤 字経営になっており、弘南鉄道は、赤字の方の路線を廃止しようとしています。 和田 利用者が少ないということですか。 小谷田 赤字である南北に走る路線には、並行してJRが走っています。 和田 三国芦原線と一緒ですね。 小谷田 だから廃止したいということになるわけです。 和田 そうでしょうね。 恩田 赤字路線の方は、路線の距離も短いのです。黒字路線の方が長いです。 和田 でも、沿線としては鉄道がないと不便なのでしょう。 小谷田 はい。沿線に高校や大学があります。 恩田 しかし、多くの高校ではスクールバスを走らせていて、電車を利用しなくても学校に通える ようにしています。また、JRを利用して通学する高校生もいると聞いています。住宅地も通りま すので並行して路線バスも走っています。 和田 えちぜん鉄道の沿線以外にも住宅地が拡がっていますし、永平寺もあるので路線バスは走っ ています。こうした人たちは日常的に自動車を使いますが、子どもたち――高校生が駅まで自転車 134 で行き、電車を使って学校に行く。だから、電車はなくてはならないのです。大人はあまり乗らな いけど、子どもにとっては大事な鉄道です。駅前には自転車がたくさん停めてあります。 小谷田 私の授業でも、電車がなくなると通学が不便になるという学生がいます。 和田 電車に乗るのに、自転車に乗ってくる人がとても多いです。 恩田 永平寺町の人たちの電車に乗ろうという意識は、えちぜん鉄道になって芽生えたのでしょう か。 和田 京福電鉄のときにもありましたが、少子高齢化と車社会の進展でだんだんと電車に乗る人が 少なくなってきました。私も40歳過ぎると電車を使わずに車を使うようになりましたから、利用者 が減るのも当然です。今は、パーク・アンド・ライドといって駅前に駐車場を作って、自動車と電 車を乗り継いでもらうことで利用者を増やしています。車社会の地方で電車に乗ってもらうための 工夫です。2年ほど前に観音町駅前にも駐車場を作りました。 小谷田 駐車場があるのですか。 和田 あります。駅の斜め前にありまして満車になることも多いです。観音町駅前に家がたくさん 建ったのは、電車の便が良くて福井市内の学校に通うのにちょうど良いためです。 小谷田 弘南鉄道は沿線自治体に負担をかけたくないという考えなのだと思います。 和田 鉄道会社はそれでいいのかもしれませんが、沿線住民の人たちがどれだけ残して欲しいと言 うかでしょう。 小谷田 残念ながらあまり盛り上がっていません。 和田 盛り上がらないことには…。福井でも県知事が、知事としては残したいけれども、住民の熱 意がどれだけあるのか、つまり存続した場合にこれからも電車に乗ってくれるのかということを住 民がどう考えているかです、と県議会で発言していましたよ。私たちは、知事を裏切ってはいけな い、電車を残してほしいと言ったからには、ずっと続けなければなりません。乗らなかったら、ま た廃線になるということなんです。 実際、 みんなで努力して年間利用者数は329万人まで増えました。 でも、少子高齢化が進んでいますので、何らかの努力はしなければなりません。私たちは、サポー ト会での会議で高齢者をターゲットにした行事を増やそうかと話し合っています。やはり、盛り上 げる人がいないといけません。知恵のある人がいるかどうかで違いが出てきますよ。弘前でも、いっ ぺん誰かが盛り上げてみたらいいと思います。 恩田 そうですね。でも、そういう人がいるでしょうか…。 和田 意気投合する人が何人かいれば、段々と活気づいてくる。私たちはよく似た考えをもつ友達 を呼び込むのです。女性だけでなく男性にも入ってもらっています。今の役員には男性も多くいま す。みんなが「やってみよう」と言う人ばかりです。 恩田 理想像のようです。 和田 何人か―― 4、5人程度いればいいのです。ただ、リーダーシップを取る人がいないといけま せん。きっと、誰かがやってくれれば賛成するという人も住民のなかにはいるのではないでしょうか。 135 恩田 おそらく大部分がそうだと思います。 和田 そうでしょう。ただ、音頭を取る人にはなりたくないという人が多いだけだと思います。 小谷田 弘南鉄道の赤字路線――大鰐線というのですが、終端部にある大鰐町の財政はとても厳し い様です。鉄道への出資は現実的では無いかも知れません。 恩田 大鰐町にもJRの駅がありますので、仮に大鰐線が廃止になったとしても町として公共交通 がなくなるというわけでもありません。 小谷田 国道も通っていて路線バスも走っています。 和田 なかなか難しいですね。 恩田 今は、大鰐線の赤字を、もう1路線の黒字で補っているわけですが、その黒字も少子高齢化 の影響で、いつまで続くか分かりません。ただ、この問題は、えちぜん鉄道においても同様ではな いでしょうか。 和田 えちぜん鉄道も同じです。しかし、みんな熱心にサポート活動をしたことで、昨年、えちぜ ん鉄道活性化連携協議会において、えちぜん鉄道は「生活関連社会資本」であると位置づけられた んです。つまり、赤字だから廃止にすることはしないと。一般の道路と同じように、補修などが必 要になったら、県や沿線自治体が財政負担することになったんです。私たちも10年間頑張ってきた 甲斐があったなと思いました。でも、ここで安心すると元に戻ってしまうので、常に危機感を持つ ようにしています。努力してでも乗ろうとする住民の熱意が大切です。 恩田 2年間電車が止まった、いわゆる「負の社会実験」に加えて、和田様など音頭を取る人たち が一生懸命になって乗る運動を盛り上げたことが、みなさんの意識を少しずつ変えていったので しょう。恐らく、ただ電車の運行を止めるだけでは不十分であって、「乗ろうよ!」と言ってくれ る人がいたことが、うまくいった秘訣なのかもしれませんね。 和田 そうそう、それが一番大事。毎年春と秋に温泉に行くのですが、チラシを永平寺町の全戸に 配布しています。夏にはビア電もあって福井から勝山まで2時間くらいで往復しますが、参加者か らは好評です。ビア電にのせるテーブルはビールがこぼれないように加工するなどの工夫をしてい ます。また、 「えちぜん鉄道に乗って芦原温泉に行こう」の日帰りツアーは、中学生以上3,000円の 料金で美味しい食事をして、舞台上でカラオケを歌ってもらいます。募集人数は80名で、役員を入 れると100名になります。役員は全員参加です。電車は2両を貸切にします。いつも同じ人が集まる ようになりますから、みんなが友達みたいになっていきますよ。 ⑥沿線住民からみたえちぜん鉄道活性化の秘訣 和田 やる気のある人がいないと無理だと思います。住民が必要とするなら、住民が活動しなけれ ばなりません。 小谷田 例えば、えちぜん鉄道の三国芦原線と勝山永平寺線の線路が繋がっていない状況で、仮に 三国芦原線の方だけが廃線という話になったら、三国の人たちは存続運動を盛り上げたと思いますか。 136 和田 それは分かりません。でも、三国には三国高校がありますが、福井市内の高校にも通います ので、親が頑張るでしょう。三国芦原線の途中に西長田駅がありますが、当初はそこまでで廃止 にするような話もありました。そうしたら三国町の親たちが子どもを高校に通わせられなくなると 怒ったのです。福井市内に高校や大学が集中しています。ただし、丸岡の人たちにはJRがありま すから、今でも関心が低いです。 小谷田 なるほど。弘前も市内に高校や大学が集中しているので同じです。地方の私鉄で復活した 事例は指折り数えるほどしかありません。これほどうまく連携ができているというのはとても珍し いと思います。 和田 行政と住民と会社の3者がそれぞれの役割を真剣に考えてきました。そしてみんなで頑張っ てきました。 サポート会は、 行政や会社への要望はしません。私たちの役割は、乗って残すことであっ て、提言することではありません。とてもシンプルな考えだと思います。えちぜん鉄道沿線サポー ト団体連絡会というのが毎月1回えちぜん鉄道本社で開かれていまして、みんなが一堂に会します。 なかには、会社に対して要望をする場であると勘違いをする人もいましたが、あくまでもサポート 団体の役割は「乗って残すこと」 、そのための利用策を検討する場所であると認識し合っています。 あくまで、個々のサポート団体が各市町において活動したことを持ち寄ることで刺激し合うことが 大切なのです。 小谷田・恩田 今日は長時間にわたりありがとうございました。大変勉強になりました。 137 研究活動報告 (2013年4月~ 2014年3月) 凡 例 ⑴ 現在の研究テーマ ⑵ 著書・論文、その他 ⑶ 研究発表・講演など ⑷ 学外集中講義など ⑸ 海外出張・研修、そのほかの海外での活動など ⑹ 科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ⑺ 共同研究、受託研究など ⑻ 弘前大学人文学部主催または共催の学会・研究会・講演会など 139 ○文化財論講座 諸 岡 道比古 ⑴現在の研究テーマ ・ドイツ観念論思想における宗教思想の研究 須 藤 弘 敏 ⑴現在の研究テーマ ・仏教絵画史、近世の地方彫刻、文化政策 ⑵著書・論文、その他 [その他] ・須藤弘敏「平尾魯仙の絵画」青森県立郷土館編『平尾魯仙 青森のダ・ヴィンチ』pp.7- 8、青森県立郷土館、 2013年9月10日 ・須藤弘敏「鳳凰堂扉絵、阿弥陀聖衆来迎図、平家納経」ほか8点作品解説『日本美術全集第5巻』小学館、2014 年3月 ⑶研究発表・講演など ・つがる市公開講座「青森の仏像 つがる市の仏像」2013年10月5日 ⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動など ・2013年12月4日∼ 9日、アメリカ合衆国、Metropolitan Museum of Art, New York、鎌倉時代仏画および近世仏像調 査のため ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など (研究代表者)2011 ∼ 13年度 ・基盤研究(C)「知恩院蔵阿弥陀二十五菩薩来迎図の研究」 ・基盤研究(B)「在欧日本仏教美術の基礎的調査・研究とデータベース化による日本仏教美術の情報発信」(研究 分担者)2013 ∼ 15年度 杉 山 祐 子 ⑴現在の研究テーマ ・アフリカ地方農村の変化を農民によるイノベーション過程として見る、アフリカ農耕民社会におけるグローバル 化の進展と「現金の社会化」・ジェンダー、青森県における「近代化」、在来知の研究 ⑵著書・論文、その他 ・Sugiyama, Yuko 2014 Agrarian Innovation Process and Moral Economy: Embedding Money into the Local Sharing System, Opening Accessibility to Resources、Sugimura(ed.)Proceedings of 6 th International Conference on African Moral Economy, Rural Development and Moral Economy in Globalizing Africa: from Comparative Perspectives, Fukui Prefectural University, 査読無 ・Sugiyama, Yuko 2013 Local Innovation, Communal Resource Management and a Modern Aspect of Moral Economy , Sugimura(ed.)Proceedings of 5th International Conference on African Moral Economy:Endogenous Development and Moral Economy in Agro-pastoral Communities in Central Tanzania, Fukui Prefectural University pp.72-76, 査読無 ・Sugiyama, Yuko 2013 "The Small Village of 'We, the Bemba':The reference Phase that Connects the Daily Life Practice in a Residential Group to the Chiefdom", Kaori Kawai(ed.)Groups, Kyoto University Press.pp.239-260, 査読有 ・杉山祐子「『感情』という制度」河合香吏編『制度』京都大学学術出版会、pp.349-370、査読有、2013年 ⑶研究発表・講演など ・Sugiyama, Yuko 2013 Wanna learn Gogo Music? Just do it : Modern Sound Practices in the Gogo Villages, Tanzania. In the 44th Annual conference of Japan Music Education Society Symposium :Weaving Non-European Sound Practices into Music Education in Japan, 弘前大学(招待) ・Sugiyama, Yuko 2013 Embedding / Re-embedding Cash into the Local Community: Cash economy as a default condition, livelihood strategies and moral economy in Rural Africa, in the 6th International Conference on African Moral Economy, Rural Development and Moral Economy in Globalizing Africa from Comparative Perspectives, ドドマ大 学 140 ⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動など ・2013年8月 タンザニア ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・基盤研究(B)「グローバル化するアフリカ農村と現金をめぐる人類学的研究」(研究代表者) ・基盤研究(A)「アフリカ・モラル・エコノミーを基調とする農村発展に関する比較研究」(研究分担者) ⑺共同研究、受託研究など ・東京外国語大学 「人類社会の進化史的基盤研究⑶」 ⑻弘前大学人文学部主催または共催の学会・研究会・講演会など ・日本アフリカ学会創立50周年記念公開セミナー (弘前大学人文学部社会行動コースと共催) 。 講演者:亀井伸孝氏 (愛 知県立大学外国語学部・准教授)2014年2月12日(水)「コートジボワールにおけるろう者・手話言語研究の振興: JICA研修と文化人類学的フィールドワークのコラボレーション」 ・日本アフリカ学会創立50周年記念公開セミナー/東北支部会2013年度第1回例会(弘前大学人文学部共催)。2013 年6月21日(金) 講演者:Mark Auslander博士(セントラルワシントン大学)、Associate Professor of Anthropology and Museum Studies and Director, Museum of Culture and Environment,Central Washington University 演 題: Remembering Slavery in the American South:Art, Architecture, and Contested Narratives 宮 坂 朋 ⑴現在の研究テーマ ・古代末期の地中海文化遺産、カタコンベ、初期キリスト教美術 ⑵著書・論文、その他 [著書] ・宮坂朋『イタリアの世界遺産を歩く』共著、2013年10月、同成社 [論文] ・宮坂朋「キリスト教考古学から古代末期考古学へ」『西洋中世研究』第5号、pp.5-28、単著、2013年12月 ⑷学外集中講義など ・2013年度面接授業「古代ローマの暮らしと美術」放送大学、10月26 ∼ 27日 山 田 厳 子 ⑴現在の研究テーマ ・唱導文化、民俗信仰の再文脈化、潜在的な宗教者、オシラ神信仰の「現在」 ⑵著書・論文、その他 ・山田厳子「仏教唱導と〈口承〉文化」入間田憲夫・菊地和博編『講座東北の歴史 信仰と芸能』pp.131-154、単著、 2014年2月、清文堂 ・山田厳子監修、民俗学実習履修学生編『新郷村の民俗誌―青森県三戸郡新郷村―』弘前大学民俗学実習調査報告 書Ⅳ、全234頁、共著 2013年10月 弘前大学人文学部民俗学研究室 ・山田厳子編『弘前大学人文学部文化財論講座調査報告書Ⅱ 弘前市鬼沢 鬼神社の信仰と民俗』全98頁、共著、 2014年3月、弘前大学人文学部文化財論講座 ・山田厳子編『映像解説 オシラ神信仰の「現在」』全11頁、共著、2014年3月 ・山田厳子編『弘前大学人文学部民俗信仰資料叢書1オシラ神資料集1』全116頁、共著、2014年3月、弘前大学人 文学部民俗学研究室 ・山田厳子「交通・交易」青森県史編さん民俗部会編『青森県史 民俗編 資料 津軽』pp.88-99、 単著 青森県、 2014年3月 ・山田厳子「昔話研究のよき入門書 佐々木達司著「あおもりの風土と民話」」『東奥日報』第43892号、2013年9月 21日、11面(文化欄)書評 ⑶研究発表・講演など ・山田厳子「『授かるオシラサマ』と〈文脈〉―〈信仰〉が生起する〈場〉をめぐってー」日本民俗学会発表、新潟大学、 2013年10月13日 ・山田厳子「ことわざの『動き』を捉える−『新語』の発想から−」日本ことわざ文化学会招待講演、明治大学駿 河台校舎、2013年5月31日 141 ・山田厳子「授かる神々―津軽におけるオシラ神の奇瑞と霊験―」日本昔話学会大会招待講演、関西外国語大学、 2013年7月6日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・基盤研究(C)「民俗信仰の再文脈化をめぐるダイナミズム」(研究代表者)2011 ∼ 13年度 関 根 達 人 ⑴現在の研究テーマ ・日本考古学、物質文化研究、石造物研究 ⑵著書・論文、その他 [著書] ・関根達人ほか『岩木山を科学する』共著、2014年1月、北方新社 [論文] ・関根達人「近世石造物からみた蝦夷地の内国化」『日本考古学』36号、pp.59-84、単著、2013年10月、日本考古 学協会 ・関根達人「権力の象徴としての大名墓」『季刊考古学』(別冊)20号、pp.4-33、単著、2013年10月、雄山閣 ・関根達人「シベチャリから出土した遺物」『北海道考古学』50号、pp.167-174、単著、2014年3月、北海道考古学 会 ・О.А.Шубина, И.А.Самарин, Т.Сэкинэ, Предметы японского производства XVII - XIX вв.в археологических коллекциях Сахалинского oбластного краеведческого музея. Вестник Сахалинского Музея 20, pp. 99-118.共著、2013 年9月、サハリン州立郷土誌博物館 [研究ノート、報告書、その他] ・関根達人「松前藩主松前家墓所」『事典 墓の考古学』p.455、吉川弘文館、単著、2013年6月 ・関根達人編『函館・江差の近世墓標と石造物』平成22 ∼ 25年度科学研究費補助金基盤研究A(課題番号 22242024)研究成果報告書、共著、2013年6月、弘前大学人文学部文化財論研究室 ・関根達人編『中近世北方交易と蝦夷地の内国化』平成22 ∼ 25年度科学研究費補助金基盤研究A(課題番号 22242024)研究成果報告書、共著、2014年2月 ⑶研究発表・講演など ・関根達人「津軽の縄文時代−亀ヶ岡文化を中心に−」日本第四紀学会2013年度大会、単独、弘前大学、2013年8 月24日 ・柴正敏・関根達人「胎土分析から見た亀ヶ岡式土器の製作地−土器胎土に含まれる火山ガラスの帰属について−」 日本文化材科学会第30回大会、共同、弘前大学、2013年7月6日 ・関根達人「サハリン出土の日本製品」公開シンポジウム「中近世北方交易と蝦夷地の内国化」単独、北海道大学、 2013年10月6日 ・津軽新報社主催津軽情報文化懇話会講演「津軽・松前の飢饉」グリーンパレス松安閣、2013年6月24日 ・弘前大学公開講座「考古学からみた本州アイヌの生業と文化」むつ市立図書館、2013年6月30日 ・弘前市教育委員会主催堀越城跡歴史講座「考古学からみた堀越城」堀越児童館、2013年9月21日 ・日本放射線影響学会第56回大会ランチョンセミナー「縄文文化の実像」ホテルクラウンパレス青森、2013年10月 18日 ⑷学外集中講義など ・弘前大学シニアサマーカレッジ「北の縄文人」弘前大学、2013年9月8日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・基盤研究(A)一般「中近世北方交易と蝦夷地の内国化」(研究代表者)平成22 ∼ 25年度 ・基盤研究(C)一般「近世日本国家領域境界域における物資流通の比較考古学的研究」(研究分担者)平成24 ∼ 26年度 ・基盤研究(C)一般「北海道・東北を中心とする北方交易圏の理論的枠組み構築のための総合的研究」 (研究分担者) 平成25 ∼ 27年度 ⑺共同研究、受託研究など ・弘前大学「冷温帯地域の遺跡資源の保存活用促進プロジェクト」平成23 ∼ 27年度 ⑻弘前大学人文学部主催または共催の学会・研究会・講演会など 142 ・ミニ特別展「八郎潟の縄文から弥生」弘前大学人文学部附属亀ヶ岡文化研究センター、2013年10月25日∼ 11月 24日 足 達 薫 ⑴現在の研究テーマ ・イタリア美術史 ⑵著書・論文、その他 ・足達薫「記憶術師としての美術家 イタリア・ルネサンスにおける記憶・観念・手法」『西洋美術研究』No.13、 pp.50-66、2013年 ・足達薫「パルミジャニーノの《キリストの埋葬》 マニエリストの二つのヴィジョン」幸福輝責任編集、新藤淳、 保井亜弓、青野純子、渡辺晋輔、足達薫、廣川暁生、小針由紀隆『版画の写像学 デューラーからレンブラント へ』pp.151-218、共著、2013年12月15日、ありな書房 ⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動など ・イタリアでの文献資料調査(2013年9月) ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・基盤研究(C)「マニエリスムの「時代の眼」:ジュリオ・カミッロの美術論の再構成に基づく」(研究代表者) 2010 ∼ 14年度 上 條 信 彦 ⑴現在の研究テーマ ・先史時代北日本における生業・流通・技術の研究 ⑵著書・論文、その他 ・上條信彦「使用痕観察、残存デンプン分析からみた根茎類敲砕用の台石」『物質文化』第93号、物質文化研究会、 pp.87-98、2013年 ・上條信彦「アイヌ民族の竪臼と竪杵、桶、手杵−形態・使用痕観察と残存デンプン粒分析から−」『東アジア古 文化論攷』pp.82-100、2014年 ・上條信彦「縄文時代石皿・台石類、磨石・敲石類の検討」『人文社会論叢―人文科学篇』31号、pp.15-39、2014 年 ・上條信彦「サハリン州立博物館所蔵およびサハリン大学考古学・民族誌研究所蔵の玉類(ガラス製品)について」 『中近世北方交易と蝦夷地の内国化に関する研究』、pp34-61、2014年 ⑶研究発表・講演など ・田中克典、石川隆二、上條信彦、杉野森淳子「青森県の遺跡で出土したイネ種子遺存体における形態および DNA分析」日本文化財科学会第30回大会、日本文化財科学会、2013年 ・片岡太郎、上條信彦、柴正敏他「青森県板柳町土井1号遺跡出土籃胎漆器の保存科学的研究と素材同定・技術研 究の試み」日本文化財科学会第30回大会、2013年 ・氏家良博、川村啓一郎、安田創、上條信彦「石油地質学からみた遺跡出土アスファルトの原産地」日本文化財科 学会第30回大会、2013年 ・堀内晶子、大木伽耶子、宮田佳樹、上條信彦「不備無遺跡から出土した土器はどのように使われたのか:科学の 視点から」日本文化財科学会第30回大会、2013年 ・Tanaka.K, Kamijo.N「The transition of agricultural crops in East Asia based on morpphological and DNA」The 5th Wor ld Conference of the Society of East Asian Archaeology、2013年 ・上條信彦、田中克典「イネ種子遺存体の形態分析および史実に基づいたイネの北進の再検討」日本考古学協会 2013年度総会、2013年 ・上條信彦「脱穀・粉砕具の地域的受容」第3回中日韓朝言語文化比較研究国際シンポジウム、中国:延辺大学、 2013年 ・上條信彦「サハリン州立博物館所蔵およびサハリン大学考古学・民族誌研究所蔵の玉類(ガラス製品)について」 公開シンポジウム『中近世北方交易と蝦夷地の内国化』北海道大学 ・上條信彦「亀ヶ岡文化の生業」青森県考古学会大会、五所川原市市浦コミュニティホール、2013年 143 ・上條信彦・佐々木由香・バンダリスダルジャン・松田隆二・杉山真二「白神山地の自然環境の歴史的変遷」シン ポジウム『白神山地を学びなおす』弘前大学白神自然環境研究所、2013年 ・Kamijo Nobuhiko「Stone tools for removing Horse chestnuts(Aesculus turbinate)shells and pounding rhizomes: Usewear」The 20th Congress of the Indo-Pacific Prehistory Association(IPPA).Siem Reap, Kingdom of Cambodia、2014年 ・上條信彦「中山遺跡の発掘調査」第9回 九州古代種子研究会久留米大会、九州古代種子研究会、久留米市市民会館、 2014年 ・上條信彦「土偶研究事始」土偶研究会八戸大会、八戸市是川縄文館、2014年 ⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動など ・中国延辺大学、カンボジアでの国際学会における研究発表 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・若手研究(B)「先史時代東日本における食料加工技術の研究」(研究代表者)2012 ∼ 14年度 ・基盤研究(B)「北海道噴火湾沿岸の縄文文化の基礎的研究」(研究分担者)2014 ∼ 16年度 ⑺共同研究、受託研究など ・古環境研究所・大阪府立弥生文化博物館 ・弘前大学「冷温帯地域の遺跡資源の保存活用促進プロジェクト」平成23 ∼ 27年度 ⑻弘前大学人文学部主催または共催の学会・研究会・講演会など ・第30回日本文化財科学会(センター) ・日本第四紀学会(センター) ・青森県考古学会(センター) ○思想文化講座 植 木 久 行 ⑴現在の研究テーマ ・中国古典文学、詩跡研究 ⑵著書・論文、その他 [論文] 『中国詩文論叢』32集、pp.77-104、単著、 ・植木久行「恵山寺と恵山泉―江蘇・無錫の詩跡考(南朝・唐代を中心に)―」 2013年12月 ・植木久行「唐都長安楽遊原詩考―楽遊原的位置及其意象―」 (羅珮瑄訳) 『生活園林‥中国園林書写与日常生活』 (劉 苑如主編、中央研究院中国文哲研究所)、pp.127-158、単著、2013年12月 ⑶研究発表・講演など ・植木久行「恵山寺と恵山泉―江蘇・無錫の詩跡考―」科学研究費研究会、弘前大学総合教育棟424教室、2013年9 月4日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・基盤研究(B)「中国文学研究における新たな可能性―詩跡の淵源・江南研究の構築―」(研究代表者)平成22 ∼ 25年度 田 中 岩 男 ⑴現在の研究テーマ ・ゲーテ『ファウスト』研究 ⑵著書・論文、その他 [その他(エッセイ)] ・田中岩男「己が或る「刹那」に」「Laterne」111号、pp.2-5、単著、2014年2月 144 李 梁 ⑴現在の研究テーマ ・近世東アジアの新知識体系の研究、書院・詩跡研究、地域研究 ⑵著書・論文、その他 [論文] ・李梁「前川國男とモダニズム建築」『人文社会論叢―人文科学篇』第30号、pp.51-69、単著、2013年8月 [その他(翻訳)] ・佐々木力著・李梁訳「恩格斯《自然弁証法》構思辯析」中国自然科学院『自然弁証法通訊』第35巻第4期、 pp.108-119、単訳、2013年10月 ⑶研究発表・講演など ・李梁「近世東アジアの伝統「知」とその変容について−比較文化史の視野から−」国立台湾大学人文社会高等研 究院主催国際シンポジウム「近代化における東アジアの伝統と新潮流への転換」単独、台湾大学、2013年4月12 日∼ 14日 ・李梁「服部宇之吉:一位鮮為人知的中国近代教育的功労者」(中国語による発表)、北京大学哲学系、台湾中央研 究院近代史研究所共催「2013厳復:中国与世界国際会議」単独、北京大学、2013年10月11日∼ 14日、 ・李梁「詩跡としての白鹿洞書院」基盤研究(B)「中国文学研究における新たな可能性―詩跡の淵源・江南研究 の構築―」研究会、弘前大学、2013年8月29日 ・李梁「洪大容の科学理解とその実践について」科研研究会「東アジアにおける科学思想の展開に関する思想史的 再検討」単独、弘前大学、2014年2月12日∼ 14日 ⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動など ・台湾大学、国際学会参加、研究発表、2013年4月11日∼ 16日 ・中国江西省景徳鎮、三清山三清宮、陶磁器、道観に関する調査(基盤研究(A)「東アジア域内100年間の紛争・ 協調の軌跡を非文字資料から読み解く」(代表貴志俊彦、京大地域研究統合情報センター教授)による研究協力 のための依頼出張、2013年9月9日∼ 13日 ・大韓民国ソウル、慶尚北道安東市、研究調査及び文献資料蒐集、2013年9月22日∼ 30日 ・中国北京大学、国際学会参加、研究発表、2013年10月10日∼ 13日 ・中国北京、江西省、研究調査および文献資料蒐集、2013年10月14日∼ 21日 ・中国江西省、江蘇省南京、陝西省西安、陶磁器など関係調査、2014年2月25日∼ 3月8日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・基盤研究(C)「近世東アジアにおける新知識体系とその構築に関する思想文化史的研究」(研究代表者)平成23 ∼ 26年度 ・基盤研究(B)「中国文学研究における新たな可能性―詩跡の淵源・江南研究の構築―」(研究分担者)平成23 ∼ 25年度 ⑺共同研究、受託研究など ・人間文化研究機構・国際日本文化研究センター共同研究会「「心身」/身心」と「環境」の哲学−東アジアの伝 統的概念の再検討とその普遍化の試み−」共同研究員、平成24 ∼ 26年度 ⑻弘前大学人文学部主催または共催の学会・研究会・講演会など [公開講演](主催、司会および通訳) ・戸川芳郎「漢学・シナ学の沿革とその問題点―漢文指導の基礎知識―」弘前大学、2013年6月20日 ・劉愛軍「20世紀の中国哲学とグローバル問題」、「儒学の伝統とその現代社会における位置づけ」弘前大学、2013 年11月27日∼ 28日 今 井 正 浩 ⑴現在の研究テーマ ・西洋古典学、ヨーロッパ古典文化論、西洋古典古代の医学と同時代の哲学との間の影響関係の解明 ⑵著書・論文、その他 [論文] ・Masahiro IMAI: Psychological Arguments in the Hippocratic Treatises On the Sacred Disease and Airs, Waters, Places, Japan Studies in Classical Antiquity[=JASCA], Vol.2, pp. 47-66, March 2014. 145 ⑶研究発表・講演 ・今井正浩「クリュシッポスと初期アレクサンドリアの医学者たち―人体の中枢器官をめぐる論争史の一端―」単 独、日本科学史学会・第60回年総会、日本大学商学部、2013年5月25日∼ 26日 ⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動など ・イギリス ケンブリッジ大学古典学部 大英図書館(ロンドン)、文献資料調査・専門研究者との意見交換等、 2013年9月21日∼ 28日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・基盤研究(C)「人体の中枢器官をめぐる論争史をとおしてみた西洋古典古代の人間観の展開に関する実証研究」 (研究代表者)平成25 ∼ 27年度 木 村 純 二 ⑴現在の研究テーマ ・日本倫理思想史の通史的研究、伊藤仁斎の倫理思想、和辻哲郎の倫理思想 ⑵著書・論文、その他 [論文] ・木村純二「恋の起源―『古事記』イザナミ神話の意味するもの」『人文社会論叢―人文科学篇』第30号、pp.123、2013年8月 ⑶研究発表・講演など ・「伊藤仁斎における「性」について ―「四端の心」を中心に―」基盤研究(A)「東アジアにおける朝鮮儒教に 位相に関する研究」研究報告会、都留文科大学、2013年8月30日 ・「伊藤仁斎の「愛」の思想 ―他者と共に生きる―」弘前大学人文学部国際公開講座「日本を知り、世界を知る」 弘前大学、2013年10月26日 ・「和辻哲郎の構想力をめぐって」基盤研究(C)「和辻哲郎による日本倫理思想史および日本文化史研究の総合的 再検討」研究報告会、東京大学、2014年3月26日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・基盤研究(C)「和辻哲郎による日本倫理思想史および日本文化史研究の総合的再検討」(研究代表者) ・基盤研究(A)「東アジアにおける朝鮮儒教に位相に関する研究」(研究分担者、代表:島根県立大学・井上厚史) 泉 谷 安 規 ⑴現在の研究テーマ ・ジョルジュ・バタイユ、シュルレアリスム、19世紀から20世紀における精神医学とフランス文学との関係 ⑵著書・論文、その他 [翻訳] ・ニコラ・アブラハム、マリア・トローク『表皮と核』共訳、2014年3月、松籟社 ⑷学外集中講義など ・弘前大学ドリーム講座「フランス語を楽しもう」青森県立青森南高等学校、2013年11月8日 山 口 徹 ⑴現在の研究テーマ ・日本近現代文学、大正期ロマン主義文学についての修辞的研究、1910年代日欧文化情報伝達の調査研究 ⑵著書・論文、その他 [研究ノート、報告書、その他] ・日本近代文学会東北支部『東北近代文学事典』(「内田百閒」(p.72) 「森鷗外」(pp.506-507)の項を執筆)、共著、 勉誠書店、2013年6月 ・オンライン版『日本近代文学館所蔵太宰治自筆資料集』解題(旧制中学校・高等学校時代の資料を担当)、共著、 雄松堂書店、2014年4月 ⑶研究発表・講演など 146 ・山口徹「鴎外の伝えたアート・シーン ドキュメンテーションとしての「椋鳥通信」及び全人名索引」第80回研 究会アート・ドキュメンテーション学会、単独、文京区立森鴎外記念館、2013年10月27日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・基盤研究(C)「森鴎外の訳業を媒体とした1910年代日欧文化情報伝達の調査と分析」(研究代表者)2013 ∼ 15 年度 横 地 徳 廣 土 井 雅 之 ⑴現在の研究テーマ ・イギリス文学・文化、シェイクスピアとその時代 ⑶研究発表・講演など ・土井雅之「『エドワード三世』におけるドラマツルギー」第52回シェイクスピア学会、単独、鹿児島大学、2013 年10月5日 〇コミュニケーション講座 山 本 秀 樹 ⑴現在の研究テーマ ・地理情報システム(GIS)による世界諸言語の言語類型地理論的研究、世界諸言語の言語構造地図の作製および 分析、言語類型論と言語普遍性研究、人類と言語の系統に関する研究 ⑵著書・論文、その他 [論文] ・山本秀樹「現生人類単一起源説と言語の系統について」http://www.l.chiba-u.ac.jp/download/1055/file.pdf、pp.1-14、 単著、2013年12月 ⑶研究発表・講演など ・山本秀樹「現生人類単一起源説と言語の系統について」千葉大学文学部講演会、千葉大学、2013年11月21日 ・山本秀樹「日本人にとっての外国語教育∼言語学の立場から∼」複言語・複文化教育プロジェクト、弘前大学み ちのくホール、2013年12月12日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・基盤研究(C)「地理情報システムによる世界諸言語の格標示体系の言語類型地理論的研究」(研究代表者)平成 25 ∼ 27年度 木 村 宣 美 ⑴現在の研究テーマ ・英語学・言語学(統語論・意味論) ・右方移動現象の分析に基づく併合と線形化のメカニズムの解明 ⑵著書・論文、その他 [論文] ・木村宣美「右方転移と談話機能」『人文社会論叢―人文科学篇』第30号、pp.1-13、単著、平成25 (2013) 年8月 ・木村宣美「右方転移文の派生と情報構造」『人文社会論叢―人文科学篇』第31号、pp.1-13、単著、平成26 (2014) 年2月 ⑷学外集中講義など ・平成25年度(2013年度)第2学期面接授業「談話の文法で読み解く英語の語順」放送大学青森学習センター、平 成25(2013)年12月21日∼ 22日 147 田 中 一 隆 ⑴現在の研究テーマ ・英国初期近代演劇研究、概念史研究、日英比較文学・文化研究 ⑵著書・論文、その他 [論文] ・Kazutaka Tanaka, "The Multiple Plot Structure of Robert Greene's Friar Bacon and Friar Bungay: A New Perspective," Shakespeare Studies, 51号, pp.1-20, The Shakespeare Society of Japan, 単著, 2014年3月 ⑶研究発表・講演など ・田中一隆「Henry MedwallのFulgens and Lucres―劇構造の観点から」第85回日本英文学会全国大会、単独、東北大学、 2013年5月26日 ・田中一隆「Shakespeareにおけるastrology概念とその翻訳―演劇言語の翻訳について」日本比較文学会第3回北海 道支部東北支部共催比較文学研究会、単独、北海道大学、2015年3月29日 ・田中一隆、「Shakespeareにおけるastrology概念の概念史的意義について」第15回エリザベス朝研究会、単独、慶 應義塾大学、2015年3月8日 ⑷学外集中講義など ・「シェイクスピアと英語文化の伝統」旭川北高等学校、2013年8月27日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・基盤研究(C)一般「英国中世・初期近代・近代の文献に現れた占星術概念の歴史的変遷に関する概念史的研究」 (研究代表者)平成25 ∼ 27年度 ・基盤研究(B)一般「デジタルアーカイヴズと英国初期近代演劇研究―劇場、役者、印刷所を繋ぐネットワーク」 (研究分担者)平成23 ∼ 26年度 渡 辺 麻里子 ⑴現在の研究テーマ ・日本古典文学、中世仏教説話、文献資料学 ⑵著書・論文、その他 [論文] ・渡辺麻里子「天台仏教と古典文学」『天台学探尋――日本の文化・思想の核心を探る――』単著、pp.273-305、 2014年3月 [その他] ・渡辺麻里子「伝忠尋撰『七百科條鈔』の研究」『天台宗報』296号、pp.56-92、2014年3月 ⑶ 研究発表・講演など ・渡辺麻里子「弘前藩の藩校資料――お殿様の学問と教養――」弘前大学人文学部国際公開講座2013「日本を知り、 世界を知る」単独、弘前大学、2013年10月26日 ⑷学外集中講義など ・放送大学集中講義、11月 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・基盤研究(B)「宮内庁書陵部所蔵道蔵を中心とする明版道蔵の研究」(研究分担者・東京大学)平成23 ∼ 25年 度 ⑻弘前大学人文学部主催または共催の学会・研究会・講演会など ・弘前大学人文学部国際公開講座2013「日本を知り、世界を知る」弘前大学、2013年10月26日 上 松 一 ⑴現在の研究テーマ ・SLA ⑶研究発表・講演など ・ Approach and Methods of Teaching English in English 青森教育のつどい2013、単独、プラザホテルむつ、2013年11 月3日 148 奈 蔵 正 之 熊 野 真規子 ⑴現在の研究テーマ ・フランス語教育、映像研究 ⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動など ・ソウル大学(大韓民国ソウル市)COLLOQUE INTERNATIONAL CONJOINT、SCELLF-SDJF2013参加、2013年10 月17日∼ 21日 ⑹科学研究費助成事業 ・基盤研究(B)「異文化間能力養成のための教材と評価基準の開発およびその有効性の検証」(連携研究者、代表: 大木充(京都大学名誉教授))平成25 ∼ 27年度 ⑻弘前大学人文学部主催または共催の学会・研究会・講演会など ・複言語・複文化教育プロジェクト・トークセッション:慶應義塾大学教授 國枝孝弘講演:弘前大学、2013年11 月22日 ・複言語・複文化教育プロジェクトシンポジウム: 「これでいいのか、大学の外国語教育!」森住衛(桜美林大学教授)、 大木充(京都大学名誉教授)、西山教行(京都大学大学院教授)、弘前大学、2013年12月12日 小野寺 進 ⑴現在の研究テーマ ・イギリス文学(小説、物語構造)、イギリス文化 ⑵著書・論文、その他 [その他] ・小野寺進「学問の行方を考える」『弘前』第415号、p.45、2014年2月 ⑷学外集中講義など ・北里大学獣医学部非常勤講師、放送大学客員准教授 ジャンソン・ミッシェル ⑷学外集中講義など ・「基本フランス語 I」秋田大学・教育文化部、2013年7月31日∼ 8月3日 ・「フランス語会話・作文(上級)」山形大学・人文学部、2013年8月5日∼ 8日 ・「基本フランス語 II」秋田大学・教育文化部、2014年2月12日∼ 14日 ⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動など ・フランス国・ボルドー市、逝去した学生の遺灰を受け取るため、新しい協定書の内容の打ち合わせ、その他、 2013年12月4日∼ 11日 楊 天 曦 川 瀬 卓 ⑴現在の研究テーマ ・日本語史(語彙史・文法史)、副詞の歴史的研究 ⑵著書・論文、その他 [論文] ・川瀬卓「日本語副詞の歴史的研究」学位論文、全185頁、単著、2013年8月(2013年8月31日付で九州大学より博士(文 学)を授与。なお、同論文により2014年3月25日付で平成25年度九州大学大学院人文科学府長賞(大賞)を受賞。) ⑶研究発表・講演など 149 ・川瀬卓「副詞「どうも」の史的変遷」日本語文法学会第14回大会、単独、早稲田大学、2013年12月1日 ⑷学外集中講義など ・弘前大学ドリーム講座「方言にみることばの変化―東北方言サの謎―」青森県立八戸西高等学校、2013年10月9 日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・研究活動スタート支援「不定語と助詞によって構成される副詞の歴史的研究」(研究代表者)平成24 ∼ 25年度 ・基盤研究(C)一般「地方議会議事録の社会言語学的研究―バリエーション研究の事例として―」(研究分担者) 平成25 ∼ 27年度 堀 智 弘 ⑴現在の研究テーマ ・十九世紀アメリカ文学、奴隷制文学 ⑵著書・論文、その他 ・堀智弘『アメリカン・ヴァイオレンス−見える暴力・見えない暴力』共著、2013年05月、彩流社 ・堀智弘「フレデリック・ダグラスとジョサイア・ヘンソン―十九世紀中葉の「反抗的な奴隷」像に関する一考察 ―」『人文社会論叢―人文科学篇』30号、pp.15-27、単著、2013年8月 〇国際社会講座 CARPENTER, Victor Lee ⑵著書・論文,その他 [その他] ・神田健策・黄孝春・CARPENTER, Victor「農産物の知財マネジメントとりんご生産販売システムの新動向:ピン クレディーの事例を中心に」『2013年度日本農業経済学会報告論文集』日本農業経済学会、pp. 118-124、共著、 2013年 PHILIPS, John Edward ⑵著書・論文,その他 [その他] ・John Edward PHILIPS, Japan s deficit in visionary thinking. The Japan Times, 8 Apr. 2013, 単著,2013年4月(http://www. japantimes.co.jp/opinion/2013/04/08/ commentary/japans-deficit-in-visionary-thinking/) 齋 藤 義 彦 ⑴現在の研究テーマ ・ドイツ論 ⑵著書・論文,その他 [その他] ・齋藤義彦「キプロス危機とドイツ政治」『青森法政論叢』第14号、pp. 134-146、単著、2013年8月 ・齋藤義彦(翻訳)「鉱業,化学,エネルギー産業労働組合第5回定期総会でのアンゲラ・メルケル連邦首相の講演 (ハノーファー、2013年10月16日)」『人文社会論叢―社会科学篇』第31号、pp. 131-142,単著、2014年2月 城 本 る み 150 荷 見 守 義 ⑴現在の研究テーマ ・中国明代史・東アジア地域史 ⑵著書・論文,その他 [論文] ・荷見守義 「明朝档案を通じて見た明末中朝辺界」『人文研紀要』第77号、中央大学人文科学研究所、pp.77-108、単著、 2013年9月 ・荷見守義「「宗藩の海」と被虜人」弘末雅士(編)『越境者の歴史学:奴隷・移住者・混血者』春風社、pp.127144、単著、2013年12月 ⑶研究発表・講演など ・荷見守義「倭寇と海防:中華王朝にとって海とはなにか」弘前大学人文学部国際公開講座2013「日本を知り、世 界を知る:資料から読み解くアジアの人・心・歴史」 単独、2013年10月26日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・基盤研究(C)「明朝遼東鎮をめぐる官僚人事・政策形成・朝鮮関係の解明」(研究代表者) ⑺共同研究,受託研究など ・中央大学人文科学研究所「档案の世界」研究チーム ⑻弘前大学人文学部主催または共催の学会・研究会・講演会など ・⑶に同じ 松 井 太 ⑴現在の研究テーマ ・内陸アジア史、古代ウイグル語・モンゴル語文献の歴史学的研究 ⑵著書・論文,その他 [論文] ・Dai MATSUI, Uigur käzig and the Origin of Taxation Systems in the Uigur Kingdom of Qo o. In: M. Ölmez (ed.), Festschrift in Honor of Talat Tekin (Türk Dilleri Araştırmaları 18)[2008], stanbul: Yıldız Teknik Üniversitesi, pp. 229242, 単著, 2013年 ・松井太「敦煌諸石窟のウイグル語題記銘文に関する箚記」『人文社会論叢―人文科学篇』第30号、pp. 29-50、単著、 2013年8月 ・Dai MATSUI, Ürümçi ve Eski Uygurca Yürüngçın üzerine. In: H. irin User & B. Gül (eds.), Yalım Kaya Bitigi: Osman Fikri Sertkaya Armağanı, Ankara: Türk Kültürünü Ara tırma Enstitüsü, pp. 427-432, 単著,2013年12月 ・Dai MATSUI, Old Uigur Toponyms of the Turfan Oases. In: E. Ragagnin & J. Wilkens (eds.), Kutadgu Nom Bitig, Wiesbaden: Harrassowitz, 印刷中, 単著, 2014年 [その他] ・松井太「モンゴル時代の東西交易」岡本隆司(編)『中国経済史』名古屋大学出版会、pp. 175-176、単著、2013 年11月 ⑶研究発表・講演など ・松井太「敦煌諸石窟のウイグル語題記銘文」第50回日本アルタイ学会(野尻湖クリルタイ)、単独、野尻湖藤屋旅館、 2013年7月13日 ・松井太「古代ウイグル語の行政文書:税役関係文書を中心に」国際ワークショップ「ユーラシア東部地域におけ る公文書の史的展開:胡漢文書の相互関係を視野に入れて」(基盤研究(A)「シルクロード東部の文字資料と遺 跡の調査」研究班・中央ユーラシア学研究会)、単独、大阪大学、2013年9月22日 ・Dai MATSUI, Dating of the Old Uigur Administrative Orders from Turfan. The 8th International Congress of Turcology, 単 独, Istanbul University (Turkey), 2013年10月1日 ・松井太「ウイグル文献とモンゴル文献」文理融合型東洋写本・版本学講習会「東洋のコディコロジー:非漢字文 献」単独、(財)東洋文庫、2013年10月19日 ・松井太「敦煌莫高窟・楡林窟的回鶻文・蒙古文題記銘文続考」蘭州大学敦煌文献講座、単独、蘭州大学(中華人 民共和国)、2013年12月21日 ⑷学外集中講義など 151 ・北東北三大学単位互換集中講義「歴史学の基礎(B)」岩手大学、2013年8月27日∼ 8月30日 ⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動など ・トルコ共和国(イスタンブル)、研究発表・資料調査、2013年9月30日∼ 10月12日 ・中華人民共和国(蘭州、敦煌)、講演・資料調査、2013年12月18日∼ 12月25日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・基盤研究(C)「中央アジア出土古代ウイグル語帳簿資料の基礎的研究」(研究代表者)平成22 ∼ 25年度 ・三菱財団人文科学研究助成「敦煌石窟の供養人像と諸言語銘文の歴史学・文献学的総合研究」(研究代表者) 2011年10月∼ 2013年8月 ・基盤研究(A)「シルクロード東部の文字資料と遺跡の調査:新たな歴史像と出土史料学の構築に向けて」(研究 分担者)平成22 ∼ 25年度 ⑺共同研究、受託研究など ・(財)東洋文庫・内陸アジア研究部門・中央アジア研究班「サンクトペテルブルグ所蔵古文献の研究:ウイグル 文を中心として」研究班員(代表:梅村坦) ・(財)トヨタ財団アジア隣人プログラム研究助成プロジェクト「イラン・中国・日本共同によるアルダビール文 書を中心としたモンゴル帝国期多言語複合官文書の史料集成」共同研究者(代表:四日市康博、財団助成期間終 了、継続中) ⑻弘前大学人文学部主催または共催の学会・研究会・講演会など ・松井太「シルクロードの仏教巡礼:敦煌の通行手形と落書きから」弘前大学人文学部国際公開講座2013「日本を 知り、世界を知る:資料から読み解くアジアの人・心・歴史」単独、弘前大学、2013年10月26日 林 明 ⑴現在の研究テーマ ・ガンディーの思想及び歴史的再評価、ガンディーの思想の継承、スリランカの民族問題 ⑵著書・論文、その他 [著書] ・林明・佐藤博美『インド人はなぜ頭が良いのか』colors BOOKS、共著、2014年1月 [論文] ・林明「【スリランカ】世界遺産がひしめく美しい島に静かに眠る人々の苦しみ」『地域研究』Vol. 13、No. 2、京都 大学地域研究統合情報センター、pp. 368-374、単著、2013年 ⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動など ・インド(デリー、アラーハーバード他)、資料調査、2013年8月20日∼ 9月6日 ・スリランカ(コロンボ、ジャフナ他)、資料調査、2014年3月22日∼ 4月6日 ⑺共同研究、受託研究など ・ガンディーと日本の関係についてのThomas Weber氏との共同研究 澤 田 真 一 ⑴現在の研究テーマ ・ニュージーランド文学、マオリ文学、ポストコロニアル文学 ⑵著書・論文、その他 [論文] ・澤田真一「イヒマエラとマンスフィールドによる文学的対話:パール・ボタンの誘拐をめぐるふたつの物語」『南 半球評論』29号、pp. 33-45、単著、2013年12月 ⑶研究発表・講演など ・澤田真一「イヒマエラとマンスフィールドによる文学的対話」Katherine Mansfield没後90周年記念大会、単独、 日本女子大学、2013年11月9日 ・澤田真一「ニュージーランド文学におけるポストコロニアル・アイデンティティの形成」日本ニュージーランド 学会第68回研究会、単独、東京外国語大学、2014年3月1日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など 152 ・基盤研究(C)「ニュージーランド文学におけるポストコロニアル・アイデンティティの形成」(研究代表者)平 成23 ∼ 25年度 FURHT, Volker Michael 中 村 武 司 ⑴現在の研究テーマ ・西洋史、イギリス史・イギリス帝国史、近代ヨーロッパ史 ⑵著書・論文、その他 [論文] ・中村武司「18世紀のイギリス帝国と「旧き腐敗」:植民地利害の再検討」秋田茂・桃木至朗(編)『グローバルヒ ストリーと帝国』大阪大学出版会、pp. 135-157、単著、2013年4月 [その他] ・キース・ロビンズ(翻訳:中村武司)「イギリス的やり方と目的」、キース・ロビンズ(編)『オックスフォード ブリテン諸島の歴史10:20世紀 1901 ∼ 1951年』(日本語版監修:鶴島博和;監訳:秋田茂)、慶應義塾大学出版会、 pp. 84-121、単著、2013年8月 ・パトリック・カール・オブライエン(翻訳:中村武司) 「グローバル市民のためのグローバルヒストリー」秋田茂(編) 『アジアからみたグローバルヒストリー:「長期の18世紀」から「東アジアの経済的再興」へ』ミネルヴァ書房、 pp. 309-332、単著、2013年11月 ⑶研究発表・講演など ・中村武司「「近世」の世界システムをどう考えるのか」全国歴史教育研究協議会・第54回研究大会、単独、ワー クピア横浜、2013年7月31日 ⑷学外集中講義など ・出張講義「ヨーロッパとは何か」青森県立青森南高等学校、2013年9月27日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・基盤研究(A)「最新の研究成果にもとづく大学教養課程用世界史教科書の作成」(研究分担者)平成23 ∼ 25年 度 武 井 紀 子 ⑴現在の研究テーマ ・古代日本地方制度研究、出土文字資料研究、日唐律令制比較研究 ⑵著書・論文、その他 [その他] ・平川南・武井紀子「古代出土文字の画像公開を目指して」『歴博』第180号、国立歴史民俗博物館、pp. 20-23、共 著、2013年9月 ・平川南(編)『古代日本と古代朝鮮の文字文化交流』大修館書店、編集協力、2014年3月 ⑷学外集中講義など ・2013年度前期非常勤講師「歴史学」国際医療福祉大学、2013年4月∼ 9月 ⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動など ・韓国慶州市・ソウル市、出土文字資料調査、2013年9月3日∼ 9月7日 ・中国西安市・北京市、資料調査、2013年11月22日∼ 11月27日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・基盤研究(B)「律令制的人民支配の総合的研究:日唐宋令の比較を中心に」(研究協力者)平成25 ∼ 28年度 ・基盤研究(A)「古代における文字文化形成過程の総合的研究」(研究協力者)平成22 ∼ 27年度 ⑺共同研究、受託研究など ・国立歴史民俗博物館・展示プロジェクト「文字がつなぐ:古代の日本列島と朝鮮半島」 ・国際日本文化研究センター・共同研究「日本的時空間の形成」(代表:吉川真司)、平成25年4月∼ 26年3月、共 153 同研究員 ・国文学研究資料館・共同研究「藤原道長の総合的研究:王朝文化の展開を見据えて」(代表:大津透)、平成23年 4月∼ 25年3月、共同研究員 〇 情報行動講座 奥 野 浩 子 ⑴現在の研究テーマ ・日本語、英語、韓国語の比較対照、小学校での外国語教育法/学習法の開発 ⑵著書・論文、その他 [その他] ・奥野浩子・青森グローバル教育研究会『青森県の小学生への韓国語学習導入の可能性をさぐる』科研費等報告書、 共著、2014年2月 ⑶研究発表・講演など ・多田恵実、奥野浩子「小学校児童の2 ヶ国語を使った英語教育 −ソウル日本人学校と東京韓国学校の児童アン ケート調査報告」第13回小学校英語教育学会沖縄大会、共同、琉球大学、2013年7月14日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・挑戦的萌芽研究「青森県の小学校に二つの外国語を導入するための予備的調査研究」(研究代表者)平成23 ∼ 25 年度 ⑻弘前大学人文学部主催または共催の学会・研究会・講演会など ・科研費公開研究会「小学生からの外国語学習を効果的にするには?」弘前大学創立50周年記念会館・岩木ホール、 2013年6月22日 佐 藤 和 之 ⑴現在の研究テーマ ・日本語方言の研究 ⑵著書・論文、その他 ・『社会言語科学会論文集「ことば」と「考え方」の変化研究:社会言語学の源流を追って』社会言語科学会 ⑶研究発表・講演など ・社会言語学がwelfare linguisticsであることの理由ー鶴岡調査の根拠と貢献」『社会言語科学会論文集「ことば」と 「考え方」の変化研究:社会言語学の源流を追って』 作 道 信 介 曽 我 亨 ⑴現在の研究テーマ ・東アフリカ牧畜社会の脆弱化する生業基盤と人々の対応 ⑵著書・論文、その他 [論文] ・曽我亨「生業」松田素二編『アフリカ社会を学ぶ人のために』世界思想社、pp.56-69、2014年、査読無 ・曽我亨「制度が成立するとき」河合香吏編『制度』京都大学学術出版会、pp.1-18、2013年、査読有 ・Soga, T.,: Perceivable Unity : Between Visible Group and Invisible Category. In K. Kawai ed. Groups, Kyoto University Press, 2013, pp.219-238、査読無 ⑶研究発表・講演など ・Soga, T.,: Pastoral Identities in East Africa for Surviving Neoliberal Era. A paper presented at the 112th Annual Meeting of 154 the American Anthropological Association, November 20-24, 2013, Chicago, USA、査読有 ・曽我亨.「難民の生存を可能にする新たな経済活動⑵:南エチオピアにおけるラクダ交易の変化」日本アフリカ 学会第50回学術大会、東京大学、2013年5月25日∼ 26日、査読有 ⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動など ・2013年8月18日∼ 9月19日 エチオピア民主連邦共和国(現地調査) ・2014年2月15日∼ 23日 ケニア共和国(JICA「アフリカの角干ばつ対応事業現地視察」 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・基盤研究(C)「難民となった牧畜民の生存にかかわる経済活動の人類学的研究」(研究代表者)2010 ∼ 13年度 ・基盤研究(A)「アフリカ在来知の生成と共有の場における実践的地域研究」(研究分担者)2011 ∼ 16年度 ⑺共同研究、受託研究など [共同研究] ・東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究「人類社会の進化史的基盤研究」 [受託研究] ・青森県(西北地域県民局)「津軽半島北西部における伝統技術の復元に関する調査研究」 内 海 淳 ⑴現在の研究テーマ ・ICT利用教育、文書処理 ⑶研究発表・講演など ・内海淳「全学統一オンライン試験の実施 その展望と課題」2013PCカンファレンス、単独、東京大学、2013年8月 5日 ・内海淳「コンピュータを用いたTOEIC模擬試験の実施」教育改革ICT戦略大会、単独、アルカディア市ヶ谷、 2013年9月5日 ⑷学外集中講義など ・弘前大学ドリーム講座「英語の単語のしくみ」青森県立弘前中央高等学校、2013年8月22日 大 橋 忠 宏 ⑴現在の研究テーマ ・空港や路線の特性を考慮した国内及び国際航空市場特性の検討、弘前市を含む津軽地方における持続可能な公共 交通サービスの設計 ⑶研究発表・講演など ・大橋忠宏、工藤亮磨「弘前市の公共交通の現状と市内の環状バス利用促進の可能性:城東環状100円バスの場合」 2013年度公益事業学会北海道・東北部会、弘前大学、青森県、2013年9月7日 ・大橋忠宏、工藤亮磨「弘前市の都市内公共交通サービスの現状とバスサービスの改善案:弘前市城東環状100円 バスの場合」日本都市学会第60回大会、サンポート高松、香川県、2013年10月26日∼ 27日 ⑷学外集中講義など ・青森公立大学「地域と情報ネットワーク」 ・弘前大学ドリーム講座「都市の形成を経済学で考える」青森県立三本木高等学校、2013年7月3日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・基盤研究(C)「空港・路線の特性を考慮した国内及び国際航空市場の政策評価に関する実証研究」(研究代表者) 平成24 ∼ 27(2012 ∼ 15)年度 羽 渕 一 代 ⑴現在の研究テーマ ・情報化にともなう親密性の変容 ⑵著書・論文、その他 ・羽渕一代「現代日本の若者の性的被害と恋人からの暴力」 『「若者の性」白書―第7回青少年の性行動全国調査報告』、 155 小学館 ・羽渕一代「メディア利用にみる恋愛・ネットワーク・家族形成」『ケータイの2000年代―成熟するモバイル社会』、 東京大学出版会 ⑶研究発表・講演など ・ Mobile Phone in Turkana, Kenya: Deepening Individualization or Reformulating Complexity of Human Relations? In The 43rd annual conference of the Canadian Association of African Studies. ⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動など ・ボストン大学(米国:2013年5月) ・トゥルカナ調査(ケニア共和国:2014年2月∼ 3月) ⑻弘前大学人文学部主催または共催の学会・研究会・講演会など ・アクティブラーニング報告会「地域の祭や芸能を継承するとはどういうことか―新郷村と佐井村から学ぶ」2014 年2月8日 増 山 篤 日比野 愛 子 ⑴現在の研究テーマ ・科学知・テクノロジーのグループ・ダイナミックス ⑵著書・論文、その他 [論文] ・日比野愛子「心理学のアナロジーで見る数値評価の問題」『科学技術社会論研究』第10号、pp.41-51、単著、2013 年7月 [研究ノート、報告書、その他] ・日比野愛子、山口恵子、塩田朋陽「野田村の声を探る:自由回答分析より」『北リアスにおけるQOLを重視し た災害復興政策研究 野田村のみなさまの暮らしとお仕事に関するアンケート調査報告書』pp.103-122、共著、 2013年9月 ⑶研究発表・講演 ・Aiko Hibino, Masato Fukushima「Habitat Segregation of Research Technologies : A Case of Atomic Force Microscopy in Biology」、Asia-Pacific Science, Technology & Society Network Biennial Conference 2013、共同、National University of Singapore,(Singapore)、2013年7月15日 ・日比野愛子「プロトセルの「生命らしさ」知覚に影響を与える要因」細胞を創る研究会、単独(ポスター発表)、 慶應義塾大学鶴岡タウンキャンパス、2013年11月14日 ・日比野愛子「実験室の中で<象>と出会う」質的心理学会質的心理学フォーラム編集委員会企画シンポジウム「社 会のなかで〈社会〉と向き合う」単独、立命館大学、2013年9月 ⑷学外集中講義 ・弘前大学ドリーム講座「ゲームで体験する社会心理学」青森県立野辺地高等学校、2013年8月28日 ⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動 ・シンガポール、Asia-Pacific Science, Technology & Society Network Biennial Conference 2013参加、2013年7月14日∼ 17日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・若手研究(B)「生命観を彫刻する細胞デザインに関する研究」(研究代表者)平成25 ∼ 26年度 ・基盤研究(A) 「北リアスにおけるQOLを重視した災害復興政策研究−社会・経済・法的アプローチ」 (研究分担者) 平成24 ∼ 26年度 ⑺共同研究、受託研究など ・平成25年度弘前大学と弘前市との連携調査研究委託モデル事業「弘前市における若年層の地域移動」 (研究代表者) 平成25年度 ・平成25年度青森県西北地域県民局受託研究「津軽半島北西部における伝統技術の復元における調査研究」(研究 分担者)平成25年度 156 栗 原 由紀子 ⑴現在の研究テーマ ・統計的マッチングに関する研究、企業の判断情報に関する研究、政府統計ミクロデータの推定精度に関する研究 ⑵著書・論文、その他 [論文] ・坂田幸繁・栗原由紀子「法人企業統計のデータ・リンケージとその有効性の検証」『中央大学経済研究所年報』 第44号、pp.271-306、共著、2013年9月 ・栗原由紀子「統計的マッチングにおける推定精度とキー変数選択の効果−法人企業統計調査ミクロデータを対象 として−」一橋大学ディスカッションペーパー、Series A No.595、pp.1-20、単著、2013年10月 ・栗原由紀子・坂田幸繁「ミクロデータ分析における調査ウェイトの補正効果−社会生活基本調査・匿名データの 利用に向けて−」『人文社会論業―社会科学篇』第31号、pp.93-113、共著、2014年2月 ⑶研究発表・講演など ・栗原由紀子「Multiple Imputation による統計的マッチングの利用可能性について」平成25年度 一橋大学経済研究 所 共同利用共同研究拠点事業プロジェクト研究・研究集会、単独、一橋大学、2013年7月20日 ・栗原由紀子「法人企業統計調査による統計的マッチングの精度検証」2013年度統計関連学会連合大会、単独、大 阪大学、2013年9月9日 ・栗原由紀子「ミクロデータ分析における調査ウェイトの補正効果について」第57回経済統計学会全国研究大会、 単独、静岡市産学交流センター、2013年9月14日 ・栗原由紀子「企業の判断情報における予測パフォーマンスと予想誤差について」研究集会「ミクロデータから見 た我が国の社会・経済の実像」、単独、一橋大学、2014年3月8日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・一橋大学経済研究所共同利用共同研究拠点事業プロジェクト研究「景気変動を踏まえた就業行動と企業の生産性 および賃金構造の動態変化に関する計量分析」(共同研究者、代表:中央大学・坂田幸繁)平成25年度 〇ビジネスマネジメント講座 柴 田 英 樹 ⑴現在の研究テーマ ・粉飾決算研究、国際会計学、近代会計史 ⑵著書・論文、その他 [論文] ・柴田英樹「粉飾経理発見の実証研究」『人文社会論叢―社会科学篇』第31号、pp.1-9、単著、2014年2月 ・柴田英樹「青柳会計学から見た粉飾」『人文社会論叢―社会科学篇』第30号、pp.75-91、単著、2013年8月 ・柴田英樹「統合報告の行方」『弘前大学経済研究』第36号、pp.74-85、単著、2013年12月 ・柴田英樹「統合報告に関する一考察」『産業経理』第73巻第4号、pp.4-15、単著、2014年1月 ⑶研究発表・講演など ・柴田英樹「粉飾の発見・防止を総括する」日本会計学研究学会第72回全国研究大会、単独、中部大学春日井キャ ンパス、2013年9月6日 ⑻弘前大学人文学部主催または共催の学会・研究会・講演会など ・弘前大学オープンキャンパス「ディズニーランドはなぜ成長し続けることができるのか」弘前大学総合教育棟キャ ンパス、2013年8月9日 保 田 宗 良 ⑴現在の研究テーマ ・健康マーケティングシステム、医薬品流通システム ⑵著書・論文、その他 [論文] 157 ・保田宗良「健康マーケティングと医薬品流通業の関わりについての若干の考察」『人文社会論叢―社会科学篇』 第30号、pp.127-136、単著、2013年8月 ・保田宗良「地域医療の質的向上と健康マーケティングに関する考察」『消費経済研究』第2号、pp.130-141、単著、 2013年10月 ・保田宗良「地域貢献を意図したアクティブ・ラーニングについての一考察 −顧客満足の追求−」『21世紀教育 フォーラム』第9号、pp.19-26、単著、2014年3月 [研究ノート、報告書、その他] ・保田宗良「課題解決型学習 −顧客満足の追求−」『公共交通を活用した中弘南黒地域活性化の研究』学部戦略 経費報告書、pp.53-61、単著、2014年3月 ⑶研究発表・講演など ・保田宗良「健康マーケティングと医薬品流通に関する考察」日本消費経済学会東日本大会、単独、日本大学、 2013年6月1日 ・保田宗良「一般用医薬品のインターネット通販についての考察」地域文化教育学会全国大会、単独、青森公立大 学、2013年10月19日 ・保田宗良「医療サービスの質的向上と医薬品流通体制」日本消費経済学会全国大会、単独、中央学院大学、2013 年10月27日 ・保田宗良「医療マーケティングと医薬分業」日本消費経済学会北海道・東北部会研究報告会、単独、北星学園大 学、2014年3月29日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・基盤研究(C)一般「地域医療の質的向上を意図した医薬品流通システムの構築」(研究代表者)平成23 ∼ 25年 度 ⑻弘前大学人文学部主催または共催の学会・研究会・講演会など ・シンポジウム「公共交通を活用した中弘南黒地域の活性化」弘前商工会議所会館、2014年2月11日 森 樹 男 ⑴現在の研究テーマ ・日系多国籍企業の地域統括本社制、北欧の地域活性化モデルと青森県、同人マンガの電子書籍化と海外展開 ⑵著書・論文、その他 [研究ノート、報告書、その他] ・森樹男編『若者の感性を活かした産学官連携ビジネスモデルの構築事業実施報告書』弘前大学人文学部・教育学 部、共著、2014年2月 ・森樹男編『課題解決型学習と学生の主体的な学び−大学生のチャレンジ2013−報告書』弘前大学人文学部・農学 生命科学部、共著、2014年2月 ・森樹男編『地域企業と実践する課題解決型学習による主体的な学びプログラムの構築 平成25年度事業実施報告 書』弘前大学、共著、2014年3月 ⑶研究発表・講演など ・森樹男「グローバル時代の企業経営について」ものづくり経営革新塾(ひろさき産学官連携フォーラム)、弘前市、 土手町コミュニケーションプラザ、2013年11月27日 ⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動など ・スウェーデン、インタビュー調査、2013年9月2日∼ 8日 ・シンガポール、インタビュー調査、2014年3月3日∼ 7日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・文部科学省GP「産業界のニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業」(事業実施代表者)平成24 ∼ 26年度 ⑺共同研究、受託研究など ・青森県産業技術センター弘前地域研究所「若者の感性を活かした産学官連携ビジネスモデルの構築事業」2013年 10月∼ 2014年2月 ⑻弘前大学人文学部主催または共催の学会・研究会・講演会など ・弘前大学講演会「課題解決型学習の実践と課題」弘前大学、2013年10月18日 ・弘前大学フォーラム「課題解決型学習と学生の主体的な学びⅡ」ベストウェスタンホテルニューシティ弘前、 158 2013年12月6日 加 藤 惠 吉 ⑴現在の研究テーマ ・国際税務会計、無形資産会計、租税制度 ⑵著書・論文、その他 [論文] ・加藤恵吉・齊籐孝平「試験研究への税額控除制度に対する資本市場の反応」 『人文社会論叢―社会科学編』第30号、 pp.29-51、共著、2013年8月 [研究ノート、報告書、その他] ・H.Ohnuma and K.Kato Empirical Examination of Market Reaction to Transfer Pricing Taxation Proceedings of 25th AsianPacific Conference on International Accounting Issues , p.22, Joint work, 2013(November) ⑶研究発表・講演など ・H.Ohnuma and K.Kato Empirical Examination of Market Reaction to Transfer Pricing Taxation TWENTY-FIFTH ASIANPACIFIC CONFERENCE ON INTERNATIONAL ACCOUNTING , Joint Work, GRAND HYATT BALI, INDONESIA, NOVEMBER 12, 2013 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・基盤研究(C)一般「多国籍企業における国際課税要因が資本市場に与える影響について」(研究分担者)平成 23 ∼ 26年度 岩 田 一 哲 ⑴現在の研究テーマ ・過労死・過労自殺を導く心理的要因の考察、産業クラスターコーディネーターに必要な能力の考察 ⑵著書・論文、その他 [論文] ・岩田一哲「過労自殺のプロセスに関する分析枠組みの提示−ストレス研究との関係から−」『人文社会論叢―社 会科学篇』第30号、pp.1-27、単著、2013年8月 ・岩田一哲「中間管理職における過労自殺の先行要因に関する実証的研究−ストレス研究との関係から−」『日本 労務学会誌』第14巻第2号、pp.52-70、単著、2013年8月 ・金藤正直・岩田一哲「食料産業クラスターを対象としたバランス・スコアカードの適用可能性」『企業会計』平 成25年10月号、pp.125-131、共著、2013年10月 ⑶研究発表・講演など ・岩田一哲「属性別にみた過労自殺とストレスの関係」2013年度日本経営学会第87回大会、単独、関西学院大学、 2013年9月5日 ⑷学外集中講義など ・平成25年度東北地区国立大学法人等補佐研修「職場におけるモチベージョンと管理」弘前大学、2013年10月7日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・基盤研究(C)一般「曖昧で突発的な仕事状況に置かれた従業員のストレス並びにその軽減についての解明」(研 究代表者)平成24 ∼ 26年度 ・基盤研究(C)一般「職位間比較による起業家能力の解明」(研究分担者)平成23 ∼ 25年度 ⑺共同研究、受託研究など ・地域経営政策研究会(産業クラスター研究) 高 島 克 史 ⑴現在の研究テーマ ・企業家の認識プロセス、実践としての経営戦略 ⑵著書・論文、その他 159 [論文] ・高島克史「企業家行動と新しさゆえの脆弱性」『人文社会論叢―社会科学篇』第31号、pp.11-25、単著、2014年2 月 ⑶研究発表・講演など ・高島克史「弘前大学の地域人材育成への取組」第2回インキュベーション・マネージャーネットワーク協議会、 弘前市、土手町コミュニティパーク、2013年11月22日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・若手研究(B)「企業家の認識・解釈プロセスをふまえたベンチャー企業事業化プロセスの体系化研究」(研究代 表者)平成25 ∼ 27年度 内 藤 周 子 ⑴現在の研究テーマ ・会計学、財務会計論、国際財務報告論 ⑵著書・論文、その他 [著書] ・内藤周子『財務会計』共著、2014年2月、新世社 [論文] ・内藤周子「地域伝統食品の統制と保護∼フランスにおけるAOC/AOPの取組み∼」 『れぢおん青森』第35巻第419号、 pp.15-19、共著、2013年10月 ・内藤周子「Edwards & Bell学説における利益構成要素の分解」『弘前大学経済研究』第36号、pp.39-49、単著、 2013年12月 ⑶研究発表・講演など ・コメンテーター「会計主体論からみた新株予約権」(平野智久・福島大学)、日本会計研究学会第84回東北部会、 弘前大学、2013年7月27日 ⑷学外集中講義など ・弘前大学ドリーム講座「会計上のルールの国際的統一について考える−世界でひとつの会計ルールは正しいか? −」青森県立弘前中央高等学校、2013年8月22日 ・弘前大学ドリーム講座「企業の業績について考える」青森県立野辺地高等学校、2013年8月28日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・青森学術文化振興財団事業「青森県における六次産業化の取組に関する調査研究」(研究代表者)平成25年度 ⑻弘前大学人文学部主催または共催の学会・研究会・講演会など ・日本会計研究学会第84回東北部会、弘前大学、2013年7月27日 大 倉 邦 夫 ⑴現在の研究テーマ ・企業の社会的責任、ソーシャル・ビジネス、戦略的提携 ⑵著書・論文、その他 [論文] ・大倉邦夫「社会的協働に関する研究の動向」『人文社会論叢―社会科学篇』第31号、pp.27-49、単著、2014年2月 [研究ノート、報告書、その他] ・大倉邦夫「ソーシャル・ビジネスによる社会的課題の解決」『青い森しんきん経済レポート』No.420、p.1、単著、 2013年11月 ・森樹男編『若者の感性を活かした産学官連携ビジネスモデルの構築事業実施報告書』弘前大学人文学部・教育学 部、共著、2014年2月 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・研究活動スタート支援「社会的協働の創出プロセス−繊維産業におけるリサイクル事業を事例として−」(研究 代表者)平成24 ∼ 25年度 160 恩 田 睦 ⑴現在の研究テーマ ・経営史、日本経済史、鉄道史 ⑵著書・論文、その他 [著書] ・篠崎尚夫編著『鉄道と地域の社会経済史』共著、2013年5月、日本経済評論社(第1章: 「国鉄明知線の第3セクター 転換:モータリゼーションの進展と住民の認識」(小緑一平との共著)、第3章: 「遊覧地・長瀞の形成と秩父鉄道」) [論文] ・恩田睦「戦前期弘南鉄道の経営展開と資金問題:昭和初期における鉄道経営」『弘前大学経済研究』第36号、 pp.16-38、単著、2013年12月 ・恩田睦「上武鉄道の設立活動と鉄道実務者」『人文社会論叢―社会科学篇』第31号、pp.115-129、単著、2014年2 月 [研究ノート、報告書、その他] ・小谷田文彦・恩田睦・ビクター・カーペンター「えちぜん鉄道に対する沿線自治体の支援」『人文社会論叢―社 会科学篇』第31号、pp.143-154、共著、2014年2月 ・恩田睦「調査報告」『2013年度 弘前大学人文学部 学部戦略経費チーム研究報告書』pp.62-67、単著、2014年3月 ・恩田睦「えちぜん鉄道と経営と地域社会」『2013年度 弘前大学人文学部 学部戦略経費チーム研究報告書』pp.6882、単著、2014年3月 ⑶研究発表・講演など ・恩田睦「戦前期秩父鉄道にみる乗合自動車問題」第7回経営史学会東北ワークショップ、東北学院大学、単独、 2013年9月14日 ・恩田睦「弘南鉄道の経営展開と菊池武憲」弘前大学経済学会第38回大会、弘前大学、単独、2013年10月25日 ⑻弘前大学人文学部主催または共催の学会・研究会・講演会など ・シンポジウム「公共交通を活用した中弘南黒地域の活性化」弘前商工会議所会館、2014年2月11日 〇経済システム講座 鈴 木 和 雄 ⑴現在の研究テーマ ・接客サービス労働過程の研究、大量生産体制成立期の資本蓄積様式と消費様式の変化 ⑵著書・論文、その他 [書評] ・鈴木和雄「武田信照著『近代経済思想再考―経済学史点描―』(ロゴス、2013年)」季報『唯物論研究』123号、 pp.142-145、単著、2013年5月 [その他] ・鈴木和雄「経済理論学会第60回大会(愛媛大学、2012年10月6日∼ 7日) ・第2分科会「労働と搾取」報告」『季刊・ 経済理論』50巻1号、p.89、2013年4月 ⑶研究発表・講演など ・鈴木和雄「接客労働における3極関係と派生効果」「アジアの新興/成熟経済社会とジェンダー―金融・生産・再 生産領域のグローバル化―」プロジェクト、単独、お茶の水女子大学ジェンダー研究センター、2013年6月2日 ・鈴木和雄「ホックシールド以後の感情労働論」SGCIME夏季研究会、単独、東京八王子セミナーハウス、2013年 8月9日 ・鈴木和雄「労働過程研究と接客サービス労働研究」日本労働社会学会プレ・シンポジウム、単独、専修大学神田 キャンパス、2013年9月7日 ・鈴木和雄「サービス労働論の理論的課題―労働過程研究と接客労働研究―」シンポジウム「サービス労働の分析」 日本労働社会学会第25回大会、単独、東北福祉大学、2013年11月17日 ⑻弘前大学人文学部主催または共催の学会・研究会・講演会など ・第38回弘前大学経済学会大会、弘前大学、2013年10月25日 161 北 島 誓 子 池 田 憲 隆 ⑴現在の研究テーマ ・日本経済史 ⑵著書・論文、その他 [書評] ・池田憲 「書評・横井勝彦・小野塚知二編著『軍拡と武器移転の世界史−兵器はなぜ容易に広まったのか』」『経 営史学』484号、pp.86-88、単著、2014年3月 細 矢 浩 志 ⑴現在の研究テーマ ・EU経済、産業発展論 ⑵著書・論文、その他 [論文] ・細矢浩志「スペイン自動車産業の再編と欧州生産ネットワーク」 『東北経済学会誌2013年度版』67巻、pp.4-12、単著、 2013年12月 ⑶研究発表・講演など ・細矢浩志「スペイン自動車産業の再編と欧州生産ネットワーク」東北経済学会第67回大会、単独、東北大学、 2013年9月28日 ・細矢浩志「欧州自動車産業の生産ネットワークの進化とグローバル競争力の構築」経済理論学会第61回大会、単 独、専修大学、2013年10月6日 ⑷学外集中講義など ・2013年度前期集中講義「経済政策論(前期)」山形大学、2013年8月1日∼ 6日 ・2013年度後期集中講義「経済政策論(後期)」山形大学、2013年12月24日∼ 27日 ・弘前大学ドリーム講座「経済学でアベノミクスを考える」八戸西高等学校、2013年10月9日 ⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動など ・チェコ共和国、工場見学、企業・団体ヒアリング調査、2014年2月23日∼ 26日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・基盤研究(C)一般「欧州自動車産業の生産ネットワークの形成と展開に関する実証的研究」(研究代表者)平 成23 ∼ 25年度 ⑻弘前大学人文学部主催または共催の学会・研究会・講演会など ・弘前大学経済学会第38回大会、弘前大学、2013年10月25日 黄 孝 春 ⑴現在の研究テーマ ・りんご産業、資源経済(レアアース、鉄鉱石など) ⑵著書・論文、その他 [報告書] ・神田健策・黄孝春・Carpenter, Victor「農産物の知財マネジメントとりんご生産販売システムの新動向−ピンクレ ディーの事例を中心に−」『2013年度日本農業経済学会報告論文集』pp.118-124、共著、2013年12月 ⑶研究発表・講演など ・黄孝春・田中彰・康上賢淑「中国レアアース輸出政策の推移とその帰結」中国経済学会全国大会、共同、京都大 学、2013年6月23日 ・黄孝春・田中彰・康上賢淑「日中レアアース会議の開催に至った経緯について」日本経営史学会全国大会、共同、 龍谷大学、2013年10月26日 162 ・康上賢淑・黄孝春・田中彰「アジアのレアアース問題と日中協力」国際アジア共同体学会第7回学術研究大会、共同、 福井県立大学、2013年11月2日 ・田中彰・黄孝春・康上賢淑「レアアース産業と総合商社」経営史学会中部ワークショップ、共同、愛知大学、 2013年12月14日 ・田中彰・黄孝春・康上賢淑「レアアースをめぐる中国の政策と日本の対策」政治経済学・経済史学会近畿部会例 会、共同、京都大学、2014年3月29日 ・黄孝春「中国の生活文化と経済」平成26年度公開講演会(放送大学青森学習センター)、平川市文化会館、2013 年9月21日 ⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動など ・中国包頭・かん州など、レアアース調査、2013年8月5日∼ 21日 ・タイ・マレーシア、りんご市場調査、2013年11月24日∼ 30日 ・中国北京・武漢・上海、鉄鉱石貿易調査、2014年2月10日∼ 3月2日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・基盤研究(B)海外学術調査「中国レアアース産業の政策転換とその実施状況に関する調査研究」(研究代表者) 平成23 ∼ 25年度 ・基盤研究(C)一般「資源争奪戦時代におけるトランスナショナル企業の比較経営史研究:鉄鉱石の事例」(研 究分担者)平成25 ∼ 27年度 李 永 俊 ⑴現在の研究テーマ ・QOLを重視した災害復興政策、人口減少社会の中で持続可能な地域づくり ⑵著書・論文、その他 [著書] ・李永俊・渥美公秀(監修)、作道信介(編)『東日本大震災からの復興⑴想いを支えに−聴き書き、岩手県九戸郡 野田村の震災の記録』2014年2月、弘前大学出版会 ・李永俊他『チヨクチョンヨン、ウェトナヌンガ(地域の若者たち、なぜ移動するのか)(韓国語)』共著・翻訳、 2014年3月、パクヨンシャ [論文] ・Young-Jun Lee, Local Employment Development Policies and Practices; Case Studies from Aomori, Japan , Strategy and Challenges of Regional Job Creation - Focused on the Advanced Countries, pp.39-53,2013年06月 [報告書] ・李永俊『野田村のみなさまの暮らしとお仕事に関するアンケート調査報告書』弘前大学人文学部、単著、2013年 9月 ⑶研究発表・講演など ・李永俊「チーム・オール弘前の原動力とその可能性:外部支援が移動性向に与える影響について」日本グループ ダイナミックス学会第60回年次大会、単独、北星学園大学、2013年7月14日 ・李永俊「小地域のQOLを重視した復興政策の課題:村民アンケート調査から」日本災害復興学会2013年度大阪大会、 単独、関西大学、2013年10月12日 ・Lee Young-Jun & Hiroaki Sugiura, Empirical research for the reconstruction plan that considers QOL from the Great East Japan Earthquake; A case study of Team All Hirosaki , Dealing with Disasters (DwD) with the 4th Conference of the Integrated Disaster Risk Management, Northumbria University, UK, 5 September 2013. ・Atsumi Tomohide & Young-Jun Lee, Survivors centered approach toward long-term recovery after the 3.11 earthquake and tsunami: A case of team North Rias , California Sociological Association 24th Annual Meeting Social Change: Local and Global , Barkley Marina, California, USA, 8 November 2013. ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・基盤研究(A)一般「北リアスにおけるQOLを重視した災害復興政策研究−社会・経済・法的アプローチ」(研 究代表者)平成24 ∼ 26年度 ⑻弘前大学人文学部主催または共催の学会・研究会・講演会など ・「東日本大震災からの地域復興を考える−先行事例から考える地域復興」弘前市市民文化交流館ホール、2014年3 163 月10日 ・第11回雇用政策研究センター国際フォーラム「先行事例から持続可能な地域づくりを学ぶ」弘前大学、2014年2 月7日 ・「学生発未来への挑戦フォーラム」青森市アウガ、2013年12月25日 飯 島 裕 胤 ⑴現在の研究テーマ ・企業の経済学、とくに企業買収の経済分析 ⑶研究発表・講演など ・飯島裕胤「企業買収価格と法制度:幾何的理解とその利用」法と経済学研究会、単独、弘前大学、2014年3月17 日 山 本 康 裕 ⑴現在の研究テーマ ・長期性資金が経済成長に与える影響について、銀行の産業組織が金融政策及びマクロ経済に与える影響について ⑵著書・論文、その他 [その他] ・山本康裕「銀行業の寡占化が金融政策に与える影響」『季刊個人金融』8号⑵、pp.73-80、単著、2013年8月 小谷田 文 彦 ⑴現在の研究テーマ ・産業組織論 ⑵著書・論文、その他 [研究ノート] ・小谷田文彦・恩田睦・ビクター・カーペンター「えちぜん鉄道に対する沿線自治体の支援」『人文社会論叢―社 会科学篇』31号、pp.143-154、共著、2014年2月 ⑷学外集中講義など ・2013年度放送大学面接授業「初歩からの経済学」放送大学青森学習センター、2013年5月11日∼ 12日 ⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動など ・フィンランド共和国、研究打合せ、2014年3月21日∼ 30日 福 田 進 治 ⑴現在の研究テーマ ・リカードの経済理論 ⑵著書・論文、その他 [著書] ・大坪正一・宮永崇史(編)『環境・地域・エネルギーと原子力開発―青森県の未来を考える―』(第5章「青森県 の経済と核燃マネー」担当)、共著、2013年10月、弘前大学出版会 [論文] ・下平裕之・福田進治「古典派経済学の普及過程に関するテキストマイニング分析―リカード、ミル、マーティノー を中心に―」『人文社会論叢―社会科学篇』31号、pp.51-66、共著、2014年2月 ・福田進治「日本のリカード研究―労働価値理論を中心に―」『マルサス学会年報』23号、pp.1-33、単著、2014年 3月 [書評] ・福田進治「佐藤滋正『リカードウ価格論の展開』日本評論社、2012年」『経済学史研究』55巻2号、pp.128-129、 2014年1月 164 ⑶研究発表・講演など ・福田進治「日本のリカード研究―労働価値理論を中心に―」第23回マルサス学会大会、単独、北海学園大学、 2013年6月29日 ・Shinji Fukuda, Ricardo Studies in Japan: On the Labour Theory of Value , International Ricardo Conference - New Developments on Ricardo and the Ricardian Traditions, Centre Jean Bosco, Lyon, France, 11 September 2013. ・Hiroyuki Shimodaira & Shinji Fukuda, Popularization of Classical Economics: A Text-mining Analysis on David Ricardo, James Mill and Harriet Martineau , Sendai History of Economic Thought Workshop, Tohoku University, 30 March 2014. [討論] ・小峯敦「『雇用政策』白書(1944)の成立∼経済助言の役割」第42回経済思想研究会、山形大学、2013年4月21日 ・久松太郎「マルサス『人口論』初版における人口動学メカニズム」経済学史学会第77回大会、関西大学、2013年 5月26日 ・中澤信彦「反革命思想と経済学―マルサス『食糧高価論』に関する一考察―」第43回経済思想研究会、東北大学、 2013年8月8日 ・Masatomi Fujimoto, J.S.Mill s Demand-Analysis and International Trade , International Ricardo Conference, Meiji University, 18 September 2013. ・古谷豊「Steuart on Xenophon s Way and Means」第44回経済思想研究会、東北大学、2013年11月3日 ・Shunsuke Moroizumi, J.S.Mill s Ideas on Minimum Rate of Wages and Standard of Confort , International Ricardo Conference, Meiji University, 27 March 2014. ⑷学外集中講義など ・青森県消費者問題研究会2013年6月定例会「マクロ経済政策の課題―アベノミクスの考察―」県民福祉プラザ、 2013年6月22日 ・消費者教育モデル講座「消費者問題とマクロ経済政策」青森大学、2014年1月29日 ・消費者教育モデル講座「消費者市民社会の理論と実践」問屋町ビジネススクール、2014年2月12日 ⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動など ・フランス・リヨン市、研究発表他、2013年9月5日∼ 16日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・基盤研究(A)一般「リカードウが経済学に与えた影響とその現代的意義の総合的研究」(研究分担者)平成22 ∼ 26年度 ・基盤研究(B)一般「経済思想の受容・浸透過程に関する実証研究:人々は経済学をどのように受け入れたか」(研 究分担者)平成22 ∼ 26年度 ・基盤研究(C)一般「日本のリカード研究と欧米のリカード研究の比較検討」(研究代表者)平成22 ∼ 26年度 金 目 哲 郎 ⑴現在の研究テーマ ・政府間財政関係、地方財源保障、財政民主主義とナショナルミニマム ⑶研究発表・講演など ・金目哲郎「公立小学校の教育条件整備の地域間格差と地方財政措置」日本財政学会第70回大会、単独、慶應義塾 大学、2013年10月5日 ・金目哲郎「公共施設の老朽化問題:財政面からみた論点提示」津軽地域づくり研究会、弘前大学八甲田ホール、 2014年1月17日 〇公共政策講座 児 山 正 史 ⑴現在の研究テーマ ・地方自治体の予算編成・行政評価・総合計画、公共サービスの市場(準市場)としての学校選択の効果・影響 ⑵著書・論文、その他 165 [論文] ・児山正史「愛知県4市のまちづくり指標と行政評価・予算編成(2・完) :自治体行政における社会指標型ベンチマー キングの活用」『人文社会論叢―社会科学篇』30号、pp.53-66、単著、2013年8月 ・児山正史「岡山県倉敷市のまちづくり指標と総合計画策定:自治体行政における社会指標型ベンチマーキングの 活用」『人文社会論叢―社会科学篇』30号、pp.67-73、単著、2013年8月 ・児山正史「準市場の優劣論とイギリスの学校選択の質・応答性への効果」『人文社会論叢―社会科学篇』31号、 pp.67-91、単著、2014年2月 平 野 潔 ⑴現在の研究テーマ ・刑事過失論、裁判員制度、法教育 ⑵著書・論文、その他 [研究ノート、報告書、その他] ・市民の裁判員制度めざす会『裁判員経験者の視点を取り入れた刑罰の再考』2013年 ⑶研究発表・講演など ・宮崎秀一・平野潔「裁判員教育の実践」2013年度日本法社会学会学術大会ミニシンポジウム②「裁判員裁判と市 民社会」共同、青山学院大学、2013年5月11日 ・平野潔・宮崎秀一・飯考行「弘前大学の裁判員制度に関する教育と活動」、シンポジウム「裁判員制度の市民的基盤」 共同、弘前大学、2013年4月6日 ・平野潔「企画趣旨と裁判員裁判後の(元)被告人」シンポジウム「受刑者の権利保障と社会復帰に向けて」単独、 弘前大学、2013年12月14日 ⑷学外集中講義など ・平成25年度放送大学面接授業「裁判員制度と刑事法」放送大学青森学習センター、2013年6月8日∼ 9日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・挑戦的萌芽「市民・裁判員の視点から見た裁判員制度の検証」(研究分担者)平成23 ∼ 25年度 ⑻弘前大学人文学部主催または共催の学会・研究会・講演会など ・シンポジウム「裁判員制度の市民的基盤」弘前大学、2013年4月6日 ・シンポジウム「裁判員裁判へのアクセス―より裁判員を務めやすい環境整備に向けて」弘前大学、2013年11月3 日 ・シンポジウム「受刑者の権利保障と社会復帰に向けて」弘前大学、2013年12月16日 長谷河 亜希子 ⑴現在の研究テーマ ・独占禁止法、フランチャイズ・システムの法規制 ⑵著書・論文、その他 ・長谷河亜希子「CPRC研究報告書 カルテル事件における立証手法の検討−状況証拠の活用について−」http:// www.jftc.go.jp/cprc/reports/index.files/cr-0213.pdf、共著、2013年6月 ・長谷河亜希子「韓国フランチャイズ調査報告と日本のあるべきフランチャイズ法制」消費者法ニュース96号、 pp.268-270、単著、2013年7月 ・長谷河亜希子意見書「米国セブン−イレブンの加盟者らによる労働法の適用を訴える訴訟について」https:// www.facebook.com/permalink.php?id=1397876703781536&story_fbid=1427027260866480、単著、2013年8月(12月に 修正版を提出) ・長谷河亜希子「米国のフランチャイズ規制とその課題」自由と正義65号、pp.54-58、単著、2014年3月 ⑶研究発表・講演など ・長谷河亜希子「TPP問題」民主主義科学者協会法律部会2013年度学術総会ミニシンポ「Constitutional Changeの 現在」単独、神奈川大学(横浜キャンパス)、2013年11月30日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・基盤研究(C)「日米におけるフランチャイズ契約規制に関する研究」(研究代表者)平成25 ∼ 27年度 166 吉 村 顕 真 ⑴現在の研究テーマ ・日米不法行為法の研究、日米救済法の研究、日米相続法の研究 ⑵著書・論文、その他 ・「アメリカ不法行為法における親の民事責任の概況――過失責任原則と被害者救済の関係に着目して――」『青森 法政論叢』14号、pp.58-86、単著 ⑷学外集中講義など ・出張講義、秋田県立中央高校、2013年7月11日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・基盤研究(A)一般「北リアスにおけるQOLを重視した災害復興政策研究――社会・経済・法的アプローチ」(研 究分担者)平成24 ∼ 26年度 成 田 史 子 ⑴現在の研究テーマ ・ドイツ労働法、日本労働法 ⑵著書・論文、その他 [論文] ・成田史子「ドイツにおける会社分割時の労働関係の承継ルール」山川隆一編『環境変化の中での労働政策の役割 と手法』(労働問題リサーチセンター)pp.59-75、単著、2013年5月 ・成田史子「企業組織再編 事業(営業)譲渡・会社分割時の労働契約の帰趨を中心に」季刊労働法242号pp.200216、単著、2013年9月 ・成田史子「企業組織再編と労働関係の帰趨」日本労働法学会誌122号pp.137-150、単著、2013年10月 ・成田史子「会社分割と労働契約の承継」土田道夫・山川隆一編Jurist増刊『労働法の争点〔第4版〕』有斐閣、 pp.148-149、単著、2014年3月 [書評] ・成田史子「毛塚勝利編『事業再構築における労働法の役割』を読んで」季刊労働法243号pp.1103-1105、単著、 2013年12月 ⑶研究発表・講演など ・成田史子「企業組織再編と労働関係の帰趨」東北大学社会法研究会、単独、東北大学、2013年4月20日 ・成田史子「学会事前報告―企業組織再編と労働関係の帰趨」東京大学労働判例研究会、単独、東京大学、2013年 5月10日 ・成田史子「企業組織再編と労働関係の帰趨-ドイツ法における実体規制・手続規制の分析-」日本労働法学会、単独、 鹿児島大学、2013年5月19日 ・成田史子「ドイツにおける事業譲渡時の労働関係自動移転ルールの形成過程(仮)」労働問題リサーチセンター 研究会、単独、東京大学、2013年10月13日 ・成田史子「ドイツにおける企業組織再編と雇用保障」青森中央学院大学地域マネジメント研究所ビジネスセミ ナー、単独、青森中央学院大学、2013年11月8日 ・成田史子「淀川海運事件・東京高判平成25・4・25(労経速2177号16頁)」東京大学労働判例研究会、単独、東京 大学、2014年1月10日 ⑷学外集中講義など ・弘前大学ドリーム講座「大学で学ぶ法律学-労働時間規制について」東奥義塾高校、8月2日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・若手研究(B)「企業組織再編時の労働者保護を目的とした法規範の構築方法」(研究代表者)平成25 ∼ 27年度 ・基盤研究(A)一般「北リアスにおけるQOLを重視した災害復興政策研究」(研究分担者)平成24 ∼ 26年度 ⑺共同研究、受託研究など ・労働問題リサーチセンター委託研究「企業行動の変化と労働法政策の課題」(東京大学(主査:山川隆一(東京 大学法学部教授)2013年7月∼ 2014年3月) 167 河 合 正 雄 ⑴現在の研究テーマ ・受刑者の権利 ⑵著書・論文、その他 [著書] ・河合正雄「受刑者の社会復帰」宿谷晃弘・宇田川光弘・河合正雄編著『人権Q&Aシリーズ2 ケアと人権』 pp.97-102、共著、2013年10月10日、成文堂 ・河合正雄「受刑者の権利保障―国際人権の可能性」憲法理論研究会編『憲法理論叢書21 変動する社会と憲法』 pp.197-208、共著、2013年10月15日、敬文堂 [その他] ・河合正雄「日本における国際人権訴訟主要判例一覧⑾」国際人権24号、pp.167-175、単著、2013年10月30日 ⑶研究発表・講演など ・河合正雄「Dickson v UK」ヨーロッパ人権裁判所判例研究会、単独、2013年7月22日 ・河合正雄「受刑者選挙権訴訟について―ヨーロッパ人権裁判所の判例法理の視点を中心に」青森法学会、単独、 青森県立保健大学、2013年11月10日 ・河合正雄「「受刑者選挙権訴訟について」のコメント―ヨーロッパ人権裁判所の判例法理の視点から」国際人権 法学会、単独、名古屋大学、2013年11月24日 ・河合正雄「受刑者の権利保障の現状」シンポジウム「受刑者の権利保障と社会復帰に向けて」単独、弘前大学、 2013年12月14日 ・河合正雄「受刑者選挙権訴訟(大阪高判2013年9月27日判例集未搭載)」東北公法判例研究会、単独、東北大学、 2013年12月21日 ・河合正雄「Ezeh and Connors v UK」ヨーロッパ人権裁判所判例研究会、単独、中央大学、2014年3月3日 ⑷学外集中講義など ・2013年度夏季集中講義「教育と憲法(日本国憲法)」電気通信大学、2014年9月2 ∼ 4日、17日 ・弘前大学ドリーム講座「あなた守る大切な権利―人身の自由」青森南高校、11月8日 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・若手研究(B)「国際人権法の視点を採り入れた受刑者の実効的な権利保障に向けて」(研究代表者)平成26 ∼ 27年度 白 石 壮一郎 ⑴現在の研究テーマ ・農村の社会規範の変化、移住・移動者とホーム(故郷)、場所と共同性/公共性、地域社会の再想像、フィールドワー ク(社会調査)など ⑵著書・論文、その他 [その他] ・白石壮一郎「学振ナイロビ近況 ̶「存続の危機」以降の展開」『アフリカ研究』第82号、pp.35-39、2013年、査読 なし ⑷学外集中講義など ・神戸大学大学院国際協力研究科「開発社会文化論」、2014年2月 ⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動など ・日本学術振興会ナイロビ研究連絡センター(前職)業務;ケニア共和国、南アフリカ共和国など東部および南部 アフリカ地域各国における海外事業広報、Global Research Council年次会議(2015年5月、東京)の開催準備会合 など ・科研費(下記)による出張;ウガンダ共和国農村からケニア共和国開拓農村への移住者への聞き取り調査を実施 ⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など ・若手研究(B) 「東アフリカにおける非自発的移民のネットワークと新たな地域開発」 (研究協力者、代表:内藤直樹) 2013 ∼ 15年度 168 弘前大学人文学部紀要『人文社会論叢』の刊行及び編集要項 平成23年1月19日教授会承認 平成26年5月21日最終改正 この要項は,弘前大学人文学部紀要『人文社会論叢』(以下「紀要」という。)の刊行及び編集に 関して定めるものである。 1 紀要は,弘前大学人文学部(以下「本学部」という。)で行われた研究の成果を公表すること を目的に刊行する。 2 発行は原則として,各年度の8月及び2月の年2 回とする。 3 原稿の著者には,原則として,本学部の常勤教員が含まれていなければならない。 4 掲載順序など編集に関することは,すべて研究推進・評価委員会が決定する。 5 紀要本体の表紙,裏表紙,目次,奥付,別刷りの表紙,研究活動報告については,様式を研究 推進・評価委員会が決定する。また,これらの内容を研究推進・評価委員会が変更することがある。 6 投稿者は, 研究推進・評価委員会が告知する「原稿募集のお知らせ」に記された執筆要領に従っ て原稿を作成し,投稿しなければならない。 「原稿募集のお知らせ」の細目は研究推進・評価委 員会が決定する。 7 論文等の校正は著者が行い,3校までとし,誤字及び脱字の修正に留める。 8 別刷りを希望する場合は,投稿の際に必要部数を申し出なければならない。なお,経費は著者 の負担とする。 9 紀要に掲載された論文等の著作権はその著者に帰属する。ただし,研究推進・評価委員会は, 掲載された論文等を電子データ化し,本学部ホームページ等で公開することができるものとする。 10 紀要本体及び別刷りに関して,この要項に定められていない事項については,著者が原稿を投 稿する前に研究推進・評価委員会に申し出て,協議すること。 附 記 この要項は,平成23年1月19日から実施する。 附 記 この要項は,平成23年4月20日から実施し,改正後の規定は,平成23年4月1日から適用する。 附 記 この要項は,平成24年2月22日から実施する。 附 記 この要項は,平成26年5月21日から実施する。 執筆者紹介 柴 田 英 樹(ビジネスマネジメント講座/会計監査論) 保 田 宗 良(ビジネスマネジメント講座/マーケティング) 細 矢 浩 志(経済システム講座/経済政策) 黄 孝 春(経済システム講座/日本経済論) 田 中 彰(京都大学経済学研究科/現代日本経営史) 康 上 賢 淑(鹿児島国際大学経済学科/アジア経営、中国経営) 大 橋 忠 宏(情報行動講座/地域科学) 金 目 哲 郎(経済システム講座/財政学、地方財政論) 児 山 正 史(公共政策講座/行政学) 池 田 憲 隆(経済システム講座/日本経済史) 小谷田 文 彦(経済システム講座/産業組織論) 恩 田 睦(ビジネスマネジメント講座/経営史) 編集委員(五十音順) ◎委員長 足 達 薫 飯 島 裕 胤 大 倉 邦 夫 奥 野 浩 子 河 合 正 雄 須 藤 弘 敏 福 田 進 治 松 井 太 ◎保 田 宗 良 李 良 渡 辺 麻里子 人文社会論叢 (社会科学篇) 第32号 2014年8月29日 編 集 研究推進・評価委員会 発 行 弘前大学人文学部 036-8560 弘前市文京町一番地 http://human.cc.hirosaki-u.ac.jp/ 印 刷 青森コロニー印刷 030-0943 青森市幸畑字松元62-3 Studies in the Humanities SOCIAL SCIENCES Number32 SHIBATA Hideki ………… New Development of Statutory Auditor System����������� 1 YASUDA Muneyoshi …… Health Care Service and Drug Distribution Industry��������� 17 HOSOYA Hiroshi… ……… Structure reorganization of the automotive industry in Spain associated with Enlargement of European Union����������� 27 Huang Xiao Chun … …… Between Securing Natural Resources and Technical Cooperation TANAKA Akira …………… -Concerning the Opening of a Sino-Japanese Rare Earth Kojo Shion ………………… Exchange Meeting-���������������������� 45 OHASHI Tadahiro … …… A Study on characteristics of Japanese international aviation markets using ICAO's OFOD������������������ 67 KANAME Tetsuro … …… A Study on Budget for Primary School Library����������� 81 KOYAMA Tadashi … …… Quasi-Market and School Choice in England(1): The Effect on the Equity and Social Inclusiveness���������� 95 IKEDA Noritaka … ……… Notes for the YAMATO��������������������� 111 ONDA Mutsumi … ……… KOYATA Fumihiko The Activity for Continuance and Promotion of the Local Railroad by the Community along the Line: An Interview with Ms. Takae WADA, Concerning the Revitalization of Echizen Railway��������������� 125 Faculty of Humanities Hirosaki University Hirosaki,Japan ISSN 1345-0255
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