イギリスおよびドイツにおける法曹養成制度の調査記録(暫定簡略版) 法科大学院等専門職大学院形成支援経費プログラム「実務基礎教育の在り方に関する調 査研究」プロジェクトでは、法科大学院協会加盟校の教育の充実に活かされることをめざ し、平成 17 年(2005 年)8 月 18 日から 9 月 4 日まで、イギリスおよびドイツにおける 法曹養成の実情について調査を実施した。 本記録は、暫定的な簡略版であり、後日より詳細な報告書を作成、公表する予定である。 1.調査参加者 ・プロジェクト業務推進担当者 田口守一(早稲田大学法学部・大学院法務研究科教授) 〔平成 17 年 8 月 22 日∼9 月 4 日〕 ・業務推進協力者 遠藤賢治(早稲田大学大学院法務研究科教授) 〔平成 17 年 8 月 18 日∼26 日〕 なお、プロジェクト外の協力者として、今井猛嘉 氏(法政大学教授)に調査の一部 に参加していただいた。 2 日程及び訪問先 イギリス 8 月 19 日 Brick Court Chambers 法律事務所(ロンドン)訪問 8 月 22 日 Field Fisher Waterhouse 法律事務所(ロンドン)訪問 8 月 23 日 College of Law, Legal Advice Center(ロンドン)訪問 Herbert Smith 法律事務所(ロンドン)訪問 8 月 24 日 University College London(ロンドン)訪問 8 月 25 日 Law Society, College of Law(ロンドン)訪問 8 月 26 日 City University(ロンドン)訪問 College of Law(ロンドン)再訪問 ドイツ 8 月 31 日 Bucerius Law School(ハンブルグ)訪問 9 月 1 日 ハンブルグ地方裁判所参観 3 調査事項及び感想 (1) Brick Court Chambers 法律事務所訪問 1)訪問日時:2005 年 8 月 19 日 2)訪問者:遠藤賢治 3)応対者:Barister Aidan Robertson 4)調査事項:バリスターに関する調査(Bar Vocational Cource(BVC)における職業教 育、BVC の教育内容・方法、BVC の Clinic への取り組み、BVC の職業倫理教育) 5)感想:バリスターの養成教育は、知識よりも技能を重視しており、修了試験におい 1 ても技能の比重が全体の約8割を占めているが、その技能は、教員によって準備された教 材を使用して、起案、ロール・プレイ及びビデオ復習といった方法によるもので、判例や 生の事件記録の分析とか事実認定の訓練が重視されているものではない。また、生きた事 件にかかわる臨床教育として、学生がプロボノ活動を通じて紛争の当事者に接することが あるが、補助的なカリキュラムとなっている。 (2) Field Fisher Waterhouse 法律事務所訪問 1)訪問日時:2005 年 8 月 22 日 2)訪問者:遠藤賢治 3) 応対者:Soliciter Graeme Payne 4)調査事項:ソリシターに関する調査(Legal Practice Course(LPC)における職業 教育、LPC の教育内容・方法、LPC の Clinic への取組み、LPC の職業倫理教育) 5)感想:ソリスターの養成教育は、バリスターに比べて知識の獲得に力を入れており、 修了試験においても知識科目の比重が全体の半分を占めている。Clinic による臨床教育に ついては、2年間の実務修習に委ねれば足りるというのがインタビューにおける相手方の 意見であった。2年間という比較的長期の実務修習及び資格取得後のイギリスの継続教育 に期待されるところは大きいという印象を持った。 (3) College of Law, Legal Advice Center 訪問 1)訪問日時:2005 年 8 月 23 日 2)訪問者:田口守一、遠藤賢治、今井猛嘉 4) 応対者:Sally Gill, Office Manager & Trainee Soliciter 3)調査事項:College of Law における臨床教育の状況 4)感想:2004 年度には約 1,100 人の学生が参加し、学生に人気がある。LPC, BVC の 教育課程に完全に定着しているようである。主に消費者問題、住宅問題、隣人間紛争、家 庭問題、雇用問題についての法律問題を扱い、書面による助言を与えている。法律家の監 督に服している。刑事事件は原則として扱っていない。注目すべきことは、ここでの臨床 教育は ProBono 活動であって、学生に単位を与えることは考えられていない点である。事 件にはそれぞれ個性があるので、成績評価にはなじまないということであった。 (4) Herbert Smith 法律事務所訪問 1)訪問日時:2005 年 8 月 23 日 2)訪問者:田口守一、遠藤賢治 3)応対者:Dvid Laurence, Patner Herbert Smith; Bella Marshall, Head of Professional Development 4)調査事項:法律実務家から見た実務教育のあり方、臨床教育の意義、理論教育と実 務教育の関係 5)感想:大法律事務所のため、新人の法曹に対する教育も行われており、その責任者 の見解を聞くことができた。それによると、LPC では、商法、会社法、契約法が重要で、 ビジネス・ローヤーとして、Herbert Smith の長い契約書を読ませたりしている。また、 裁判手続(Procedure Law)が中心である。Case Study としては、 「生の事件」ではなく、 実際の事案をシンプルにしたものを用いている。法律相談(interviewing and advising) や 2 交渉(negotiation)でも、学生同士でロール・プレイを行っている。俳優を呼ぶこともあ る。もっとも、ProBono 活動としての臨床教育には教育効果は高い。印象的であったのは、 理論教育と実務教育とのバランスについて、現在のバランスがいいとし、専門的知識がな いと、実務を処理することはできないことが強調されたことである。 (5) University College London 法学部長訪問 1)訪問日時:2005 年 8 月 24 日 2)訪問者:田口守一、遠藤賢治、今井猛嘉 3)応対者:Prof. Ian Dennis, Professor of English Law and Head of Department of Laws 4)調査事項:学部段階における法曹教育のあり方 5)感想:法学部段階における臨床教育を行っている大学も 10∼15 大学ある。しかし、 学部段階においては、法律に関わるための基礎を学ぶことが重要である。例えば、「資本 主義」とか「経済」とかの知識が重要である。法律学の学習には Case Method が用いら れている。大学では「生の事件 (real case)」は扱わない。しかし、法律事務所 と関係 して、実務 (legal practice)を学んでいる。印象的な発言として、理論と実務は両方が 必要であり、両者のバランスが重要である、そして、これはイギリスでも問題であり、常 に両極の主張者がいるとの感想を漏らされたことである。 (6) Law Society, College of Law 訪問 1)訪問日時:2005 年 8 月 25 日 2)訪問者:田口守一 3)応対者:Robert Leeder,Law Society, International Policy Executive( North East Asia);Adam Ireland, Director of Operations, College of Law 4)調査事項:College of Law における法曹教育課程 5)感想:Law Society が管轄している最大の法曹養成機関である College of Law の教 育課程を概観することができた。College of Law で使用されている教材の多くは手続の解 説に徹底されており、学説への言及はほぼ皆無であることが印象的であった。また、ソリ シターを養成する LPC にせよ、バリスターを養成する BVC にせよ、すべて教師は弁護士 であり、大学教員がこれらの実務教育を担当することはないし、そのような議論もないと の点も印象的であった。ただ、弁護士にとって負担加重となっているとの指摘もあった。 (7) City University 訪問 1)訪問日時:2005 年 8 月 26 日 2)訪問者:田口守一、今井猛嘉 3) 応対者:Gray Scanlan, Reader in Law, City University; Chizu Nakajima, Director of Center for Financial Regulation and Crime 4)調査事項:学部段階における法曹教育のあり方 5)感想:①全国で法学部は 140 校ほどあるが、適正数は約半分ではないか。法学部の 質の低下を心配している。②今後は、刑法、刑事訴訟法の割合を減らし、財産法、会社法、 証券法、手続法を重視すべきだ。それが、市場の要求である。③大学法学部では、主要科 目(core subjects)についての詳細な知識を提供している。それには法的技能(skills)も 3 伴っている。④City を地盤とする大学のせいであろうか、(訪問者が刑事法専攻者であっ たにもかかわらず)民事法重視の見解を披露されたのが印象的であった。 (8) 〔ドイツ・ハンブルグ〕ブセリウス・ロースクール(Bucerius Law School) 訪問 1)訪問日時:2005 年 8 月 31 日 2)訪問者:田口守一 3)応対者:Professor Dr. Thomas Rönnau 4)調査事項:ドイツ最初のロースクールの実情、カリキュラムの内容、国家試験との 関係、学生の就職先 5)感想:①2000 年開学であるが、2005 年度の志願者は 500 人から 600 人であり、100 人が合格したが、合格者の平均 Abitur ポイントは 1.4 であり、非常に優秀な学生が集まっ ている。②私学であるが、予算の 60%は Zeit-Stiftung が負担している。授業料は、1年 3,000 ユーロである。③BLS は、法律の単科大学であって、大学院レベルのロースクール ではない。④1年3学期制であるが、そのうち1学期は外国で学ぶ。⑤法律科目中心のカ リキュラムであり、国家試験に強い大学となっている。⑥実務修習は、夏期休暇中に、10 週間の実務修習が義務づけられているが、弁護士事務所へのエクスターンシップであり、 法律相談のような臨床教育は行われていない。 (9) 総合的感想 1)学部から法律学を学ぶという法曹養成の基本枠組みを変更するという可能性はない。 また、法曹養成期間として、イギリスでも原則として実務修習を入れて6年を要し、ドイ ツでも実務修習を入れて6年を必要としており、これを抜本的に変更するという議論もな い。ただし、イギリスでは、法学部出身者以外の者のための1年間の法律資格コース(GDL) があり、これにより共通資格試験(CPE)に合格すれば、LPC 又は BVC に進むことがで きるので、この場合には2年間短縮されることになる。知的財産法関係など法律学以外の 素養を必要とする分野では、このコースの出身者が評価されているようである。 2)学部からの法律学にせよ、職業教育としての法曹養成教育にせよ、理論だけではな く、実務(とくに弁護士実務)を意識した法曹教育の傾向が強まっている。それは一方に おいて、教育科目における実務科目の重視、例えば LPC、BVC での面接や交渉技法等の 科目の設置に表れ、他方において、LPC や BVC のみならず GDL においても、臨床教育 などの実務教育(Law in Action)が重視される傾向に表れている。 以上 4
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