Cardozo School of Law, Yeshiva University

米国ADR実態調査⑥
【日時】
平成 14 年2月 15 日(金)16:10〜17:00
【場所】
Benjamin N. Cardozo School of Law, Yeshiva University, 12th st. and 5th
【先方】
ave.
New York
LELA
P.
LOVE,
Esq.,
Professor of Law and Director, Kukin Program for
Conflict Resolution and the Cardozo Mediation Clinic, Benjamin N. Cardozo
School of Law, Yeshiva University
【当方】
レビン小林久子 九州大学大学院法学研究院助教授、
藤井
【概要】
(調停人のトレーニング方法)
・
調停人と仲裁人とでは、トレーニングの方法が異なっている。
・
調停人については、州ごとに異なる法律によって規律されているため、そのトレー
ニングの方法も、州ごとに異なっている。
・
トレーニングの所要時間については、24 時間とされている州もあれば、50 時間と
されている州もある。
・
クラスルームでの講義のほかに、先輩調停人と組ませて調停の実習を行わせる州が
あるが、その場合でも、これを2回しか行わない州もあれば、ニューヨーク州のよう
に 12 回も行う州もある。
・
調停人が独力で調停を行えるようになるまで、先輩調停人がその面倒を見ることも
ある。
・
毎年少なくとも6時間のトレーニングを要することとしている州もある。弁護士に
ついては、資格取得後も、少しずつ新しい知識を得ることが可能となっているが、調
停人についても、ロースクール、エデュケーションスクール又はソーシャルスクール
で、毎年、継続的にトレーニングを受けることが望ましい。
・
私(リーラ・P・ラブ教授)自身も調停を行っている。
・
州によっては、カリキュラムまで決めている州もあり、そのほとんどは、講義だけ
でなく、シミュレーション又はロールプレーイングの方法を採用している。
(調停人と仲裁人とのトレーニング方法の相違点)
・
仲裁人の場合は、良き判断者として、適切な決定をすることが求められるので、そ
のトレーニングに際しては、仲裁手続に関するルールに従い、証拠を基づいて、どの
ような決定をすべきかを教えている。また、仲裁人の犯しがちなエラーに関しても、
トレーニングを行っている。さらに、個別の事件にどの法律をどのようにして適用す
るかということも教えている。
・
これに対し、調停人の場合は、当事者間にカンバーセーションをしやすい状況を作
り出すトレーニングを行っている。その際、争点が何かをはっきりさせ、さらには、
-1 -
当事者間の文化、性別、価値観等の相違を際立たせることで、当事者間での話合いを
進めていくことを教えている。
・
調停人は、一方当事者とプライベートに面談することが可能であるが、仲裁人につ
いては、一方当事者のみとプライベートに面談を行うことは許されていない。仲裁人
の職務は、裁判官の職務と類似している。
・
米国では、仲裁人の業務については、比較的よく知られているが、調停人の業務に
ついては、デリケートな部分が多いので、あまり知られていない。
(異なる文化圏に属する当事者間の紛争での調停の有効性)
・
確かに、両当事者が同一の文化圏に属していれば、調停を行うのも容易であるが、
そもそも、調停は、当事者間の文化、価値観等の相違について理解を深めることを可
能とする紛争解決手段であり、その重要性も高まってきている。異なる文化圏に属す
る当事者間の紛争においては、調停による解決が有益なのではないか。
・
調停は、異なる法律又は慣習を相互に認め合うものである。また、調停は、両当事
者間の相互理解を可能とする唯一の方法であり、仲裁では、そのようなことは不可能
である。
・
ニューヨーク州では、他の州と同様、調停が裁判所のシステムの中に位置付けられ
たが、このことにより、調停が仲裁化していくのではないかとの懸念が生じている。
そこで、この懸念を払拭するため、調停人の方でも努力しているところである。
(日本人に対する調停人としてのトレーニングの機会)
・
教育の効果は、受け手がどういう目標を持っているかにかかっている。
・
必ずしも大学でなくても調停に関する教育を行うことはできる。
・
もし裁判所の意識を変革したいのであれば、裁判官及び弁護士に対する教育が必要
となる。たとえ受講したすべての弁護士が良き調停人にならなくても、調停に関する
知識が広まるだけでも有益なのではないか。
・
日本で調停人のトレーニングを行う教育者を育成していきたいということであれば、
該当者に米国のロースクールでトレーニングを受けさせてはどうか。
・
米国弁護士協会(ABA)にも、調停人及び仲裁人の養成のためのプログラムがあ
り、海外向けに紹介もされている。
・
ハンガリーのブダペストにあるセントラル・ユーロピアン・ユニバーシティ
(Central European University)において、毎年夏に、2週間コースで、調停人及び
仲裁人のトレーニングを行っている。なお、受講可能人数には限りがあるが、同大学
の特別なファウンデーションにより受講費は無料となっている。講義も発言も英語の
みではあるが、場所がブダペストで、費用が安上がりというのが魅力的である(宿泊
費も無料である。
)
。
・
米国の各ロースクール、米国弁護士協会(ABA)及び米国仲裁協会(AAA)で
は、トレーニングに要する費用が非常に高額になっている。
-2 -
・
ダニエル・M・ワイツ氏のADRオフィスでは、トレーニングの程度は悪くないが、
受講費が無料となっていることから、その分、ボランティアでお礼奉公をしなければ
ならない。そのため、日本からトレーニングを受けに行くのは難しいかもしれない。
・
日本の大学教官を米国に留学させて、調停人のトレーニングを受けてもらうのもよ
いのではないか。トレーニングの期間は1学期間だけでもいい。また、複数の大学で
トレーニングを受け比べてもらうのもよい。
・
ビジネス関係の調停であれ、個人間関係の調停であれ、何であれ、基礎的なトレー
ニングについては共通となっており、その相違点は、ロールプレーイングの材料だけ
である。もし必要があれば、夏季又は学期の合間を利用して、いくつか集中講座に参
加してみるのもよいのではないか。
・
エレメンタリー・スクール用、ジュニア・ハイスクール用、ハイスクール用と、そ
れぞれにカリキュラムができているので、日本でもそれを翻訳してトレーニングを
行ってはどうか。
・
当 校 の サ イ ト に 「 Center for Professional Development 」 又 は 「 A D R
Program」のページがあるので、参照願いたい。
(裁判官及び弁護士に対する教育の必要性)
・
日本では、裁判官及び弁護士が「調停について最もよく知っているのは自分であ
る。」と思っているとのことであるが、その状況は米国でも全く同様である。ただ、同
じ調停といっても、裁判官及び弁護士が知っているのは、かなり仲裁に類似したもの
である。
(ビジネス・パーソンから見た調停の利点)
・
調停は、人間が考え得る最良の紛争解決方法である。調停は、クリエーティブな紛
争解決手段なので、ビジネス・パーソンにとっても、その手法を活用して最良の解決
を図ることが可能である。
・
仲裁でも裁判でも、両当事者に勝敗を付けるので、相互の信頼を失わせるなど、感
情的に欠落したところがある。これに対し、調停は、当事者双方が協力して問題を解
決していくものである。
・
仲裁でも裁判でも誰が判断するのかが問題である。裁判であれば負けても社内で説
明しやすいとの考え方はあり得るが、第三者に何でも任せてしまうのは、あまりに怠
惰である。人は、「自分のやることは正しい。だから、他人からも正しいと言っても
らいたい。
」と思って、裁判に訴えているのではないか。
・
調停の場合でも、当事者としては、「調停人にはこう言ってもらいたい。」、「自分
たちは悪くないので、そのことを調停人から言ってもらいたい。」などという思いを抱
くことがあるが、調停の利点は、当事者間のギャップを埋めて、相互に良好な関係を
築けるところにある。ビジネス・パーソンとしても、調停を体験することにより、良
い交渉技術を修得することができるかもしれない。そのことを証明する調査もある。
-3 -
一旦裁判になれば、すべての争点について次々と裁判で争うことになるが、最初の争
点で調停が奏功すれば、その後に生じた問題についても、調停で良好な解決が得られ
ることが多い。
(上級者向けトレーニングの提供)
・
基礎的なトレーニングの後は、カテゴリー別に、複雑困難な調停手続(例えば、通
訳、証人及びセラピー等の専門家を要する調停等)に関するトレーニングを受けるこ
とが可能となっている。
-4 -